特許第6147258号(P6147258)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6147258蓄熱材組成物、それを用いた補助熱源および熱供給方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6147258
(24)【登録日】2017年5月26日
(45)【発行日】2017年6月14日
(54)【発明の名称】蓄熱材組成物、それを用いた補助熱源および熱供給方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 5/06 20060101AFI20170607BHJP
   F28D 20/02 20060101ALI20170607BHJP
   F28F 23/02 20060101ALI20170607BHJP
【FI】
   C09K5/06 D
   F28D20/02 D
   F28F23/02 D
【請求項の数】9
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-529510(P2014-529510)
(86)(22)【出願日】2013年8月6日
(86)【国際出願番号】JP2013071259
(87)【国際公開番号】WO2014024883
(87)【国際公開日】20140213
【審査請求日】2016年5月26日
(31)【優先権主張番号】特願2012-176537(P2012-176537)
(32)【優先日】2012年8月8日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100131288
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 尚祐
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 修一
(72)【発明者】
【氏名】志村 隆広
(72)【発明者】
【氏名】池田 匡視
(72)【発明者】
【氏名】中村 敏明
(72)【発明者】
【氏名】都築 秀和
(72)【発明者】
【氏名】南 達哉
【審査官】 林 建二
(56)【参考文献】
【文献】 特開平02−092986(JP,A)
【文献】 特開昭59−137790(JP,A)
【文献】 特開昭45−027083(JP,A)
【文献】 特開昭59−232045(JP,A)
【文献】 特開昭62−205184(JP,A)
【文献】 特開昭61−014283(JP,A)
【文献】 特開昭58−079081(JP,A)
【文献】 特開昭57−149380(JP,A)
【文献】 特開2000−345147(JP,A)
【文献】 特開2002−088352(JP,A)
【文献】 特開2002−161183(JP,A)
【文献】 特開2001−139939(JP,A)
【文献】 特開2001−031956(JP,A)
【文献】 特開2007−112865(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第101519582(CN,A)
【文献】 中国特許出願公開第1731070(CN,A)
【文献】 特許第0043022(JP,C1)
【文献】 米国特許出願公開第2002/0177886(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 5/06
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、エタノール、エチレングリコール、プロピレングリコールおよび酢酸から選択される有機化合物の少なくとも1種、酢酸ナトリウムおよび水を含有し、該水の含有量が、該酢酸ナトリウム100質量部に対して72.4〜100質量部であり、
前記有機化合物の含有量が、前記酢酸ナトリウム100質量部に対して、前記エタノールの場合、9.6〜77.9質量部、前記エチレングリコールの場合、5.6〜45.5質量部、プロピレングリコールの場合、9.6〜45.5質量部、前記酢酸の場合、9.6〜38.6質量部であることを特徴とする蓄熱材組成物。
【請求項2】
前記有機化合物の含有量が、前記酢酸ナトリウム100質量部に対して、前記エタノールの場合、20.2〜77.9質量部、前記エチレングリコールの場合、5.6〜45.5質量部、プロピレングリコールの場合、9.6〜45.5質量部、前記酢酸の場合、9.6〜26.0質量部であることを特徴とする請求項1に記載の蓄熱材組成物。
【請求項3】
前記水の含有量が、前記酢酸ナトリウム100質量部に対して、78.6〜85.2質量部であることを特徴とする請求項1または2に記載の蓄熱材組成物。
【請求項4】
前記蓄熱材組成物が、前記有機化合物、前記酢酸ナトリウムおよび前記水のみからなることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の蓄熱材組成物。
【請求項5】
前記蓄熱材組成物が、前記有機化合物が、エタノール、エチレングリコール、プロピレングリコールおよび酢酸から選択される有機化合物のいずれか1種のみであることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の蓄熱材組成物。
【請求項6】
請求項1〜のいずれか1項に記載の蓄熱材組成物から得られてなることを特徴とする補助熱源。
【請求項7】
請求項1〜のいずれか1項に記載の蓄熱材組成物を使用することを特徴とする熱供給方法。
【請求項8】
結晶化促進手段を組み合わせることを特徴とする請求項に記載の熱供給方法。
【請求項9】
前記結晶化促進手段が、金属板トリガーであることを特徴とする請求項に記載の熱供給方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄熱材組成物、特に過冷却型蓄熱材組成物、それを用いた補助熱源および熱供給方法に関する。さらに詳しくは、酢酸ナトリウムを主成分とする過冷却型蓄熱材組成物、それを用いた補助熱源および熱供給方法に関する。
【背景技術】
【0002】
蓄熱材、特に過冷却型の潜熱蓄熱材は融解と凝固の過程で、一定の温度において大量の潜熱を吸熱および放熱する熱を利用するものである。主原料が酢酸ナトリウム3水和物では中温度域での暖房・温熱用として、主原料が硫酸ナトリウム10水和物では低温領域での冷房・冷却用に使用される。
【0003】
しかしながら、主原料に酢酸ナトリウム3水和物単体を使用した場合、熱エネルギー貯蔵安定性が悪くなる。これは、蓄熱材として機能しない酢酸ナトリウムの無水物(無水和物)の沈殿が生じることが原因であり、繰り返し使用することで、この無水物の影響がさらに大きくなる。そのため、この沈殿防止が種々検討されてきた。
例えば、多糖類の1種であるキタンサンガムの添加で蓄熱材をゲル状にする方法(特許文献1参照)、水の添加(特許文献2、3参照)などが提案されている。しかしながら、−20℃よりさらに低温での使用、例えば自動車用途では−30℃近辺での過冷却状態を維持し、熱エネルギー貯蔵安定性を保つことが要求されるようになると、これらの方法では、必ずしも十分ではなかった。キタンサンガムの添加では、結晶化温度がそれほど低下せず、水の添加では、添加量が少ないと結晶化温度が高く、逆に添加量が多いと放熱量が少なくなる問題点があった。また、低温において過冷却状態を維持する手段としてはチオ硫酸ナトリウム5水和物を添加する方法(特許文献4参照)も提案されているが、結晶化速度が遅いという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭60−144380号公報
【特許文献2】特開昭53−14173号公報
【特許文献3】特開平4−324092号公報
【特許文献4】特開昭63−137982号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の問題点を克服し、−20℃近辺でも熱エネルギー貯蔵安定性が高く、室温でも過冷却状態による潜熱分のエネルギーを保持し、任意のタイミングで熱利用を直ちに可能な蓄熱材組成物、それを用いた補助熱源および熱供給方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、過冷却型蓄熱材を、自動車用途の補助熱源に使用することを考慮して検討を重ねた。その結果、少なくとも−25℃近辺以下でも過冷却状態を維持させるために、自発的開始温度を低くし、任意のタイミングで利用可能とするために、速く昇温できる、すなわち結晶化速度を速くし、かつ放熱量を大きくすることを実現するために蓄熱材組成物を種々検討した。
上記課題は以下の手段により達成された。
(1)少なくとも、エタノール、エチレングリコール、プロピレングリコールおよび酢酸から選択される有機化合物の少なくとも1種、酢酸ナトリウムおよび水を含有し、該水の含有量が、該酢酸ナトリウム100質量部に対して72.4〜100質量部であり、
前記有機化合物の含有量が、前記酢酸ナトリウム100質量部に対して、前記エタノールの場合、9.6〜77.9質量部、前記エチレングリコールの場合、5.6〜45.5質量部、プロピレングリコールの場合、9.6〜45.5質量部、前記酢酸の場合、9.6〜38.6質量部であることを特徴とする蓄熱材組成物。
)前記有機化合物の含有量が、前記酢酸ナトリウム100質量部に対して、前記エタノールの場合、20.2〜77.9質量部、前記エチレングリコールの場合、5.6〜45.5質量部、プロピレングリコールの場合、9.6〜45.5質量部、前記酢酸の場合、9.6〜26.0質量部であることを特徴とする(1)に記載の蓄熱材組成物。
)前記水の含有量が、前記酢酸ナトリウム100質量部に対して、78.6〜85.2質量部であることを特徴とする(1)または(2)に記載の蓄熱材組成物。
)前記蓄熱材組成物が、前記有機化合物、前記酢酸ナトリウムおよび前記水のみからなることを特徴とする(1)〜()のいずれか1項に記載の蓄熱材組成物。
)前記蓄熱材組成物が、前記有機化合物が、エタノール、エチレングリコール、プロピレングリコールおよび酢酸から選択される有機化合物のいずれか1種のみであることを特徴とする(1)〜()のいずれか1項に記載の蓄熱材組成物。
)前記(1)〜()のいずれか1項に記載の蓄熱材組成物から得られてなることを特徴とする補助熱源。
)前記(1)〜()のいずれか1項に記載の蓄熱材組成物を使用することを特徴とする熱供給方法。
)結晶化促進手段を組み合わせることを特徴とする()に記載の熱供給方法。
)前記結晶化促進手段が、金属板トリガーであることを特徴とする()に記載の熱供給方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、少なくとも−20℃近辺でも熱エネルギー貯蔵安定性が高く、室温でも過冷却状態による潜熱分のエネルギーを保持し、任意のタイミングで熱利用を直ちに可能な蓄熱材組成物、それを用いた補助熱源および熱供給方法が提供できる。
【0008】
本発明の上記及び他の特徴及び利点は、適宜添付の図面を参照して、下記の記載からより明らかになるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明の蓄熱材組成物、それを用いた補助熱源および熱供給方法を説明する。なお、本発明において、A〜B質量部とは、A質量部以上、B質量部以下の範囲を意味し、たとえば72.4〜100質量部とは72.4質量部以上100質量部以下ということを示す。
【0010】
<<蓄熱材組成物>>
本発明の蓄熱材組成物は、少なくとも、エタノール、エチレングリコール、プロピレングリコールおよび酢酸から選択される有機化合物の少なくとも1種、酢酸ナトリウムおよび水を含有し、該水の含有量が、該酢酸ナトリウム100質量部に対して72.4〜100質量部である。
上記組成物を得るための方法として、1)エタノール、エチレングリコール、プロピレングリコールおよび酢酸から選択される有機化合物の少なくとも1種、酢酸ナトリウム3水和物、水を混合する方法、2)エタノール、エチレングリコール、プロピレングリコールおよび酢酸から選択される有機化合物の少なくとも1種、無水酢酸ナトリウム、水を混合する方法の2通りがあるが、いずれの方法でもよい。1)の場合は酢酸ナトリウム3水和物の酢酸ナトリウム部分を100質量部としたとき、水と酢酸ナトリウム3水和物の水部分の和で定義して水が72.4〜100質量部含有していればよい。好ましくは酢酸ナトリウム3水和物を用いる1)の方法がよい。また、蓄熱材の特性(自発的結晶化開始温度、結晶化速度、放熱量)を著しく損なわない範囲であれば、目的に応じて公知の添加材を添加してもよい。例えば、増粘材を本発明の組成物に添加し、蓄熱材の粘性を調整してもよく、ゲル状になるまで粘性を高めてもよい。
【0011】
水は純水が好ましく、水の含有量は該酢酸ナトリウム100質量部に対して72.4〜100質量部が好ましく、78.6〜85.2質量部がより好ましく、81.8質量部が特に好ましい。
【0012】
エタノールの含有量は、該酢酸ナトリウム100質量部に対して9.6〜77.9質量部が好ましく、20.2〜77.9質量部がより好ましい。
エチレングリコール、プロピレングリコールの含有量は、該酢酸ナトリウム100質量部に対して5.6〜45.5質量部が好ましく、9.6〜45.5質量部がより好ましい。
【0013】
酢酸の含有量は、該酢酸ナトリウム100質量部に対して9.6〜38.6質量部が好ましく、9.6〜26.0質量部がより好ましく、14.7質量部が特に好ましい。
【0014】
本発明の蓄熱材組成物は、酢酸ナトリウム、水および上記有機化合物のみからなることが好ましく、また、有機化合物はエタノール、エチレングリコール、プロピレングリコールおよび酢酸から選択される有機化合物のいずれか1種のみであることがより好ましい。
【0015】
本発明の蓄熱組成物は、自発的結晶化開始温度が−20℃以下であり、−25℃以下が好ましく、−28℃以下がより好ましく、−30℃以下がさらに好ましく、−40℃以下が特に好ましい。
また、結晶化速度は、0.6mm/s以上が好ましく、1.4mm/s以上がより好ましく、2.0mm/s以上がさらに好ましい。結晶化速度の上限は特に限定されるものではないが、7.0mm/s以下が現実的である。
また、放熱量は、130kJ/kg以上が好ましく、140kJ/kg以上がより好ましく、150kJ/kg以上がさらに好ましい。なお、放熱量の上限は、酢酸ナトリウム3水和物自身の264kJ/kgを越えることはなく、この値が上限となる。
【0016】
ここで、自発的結晶化開始温度、結晶化速度、放熱量は、以下のようにして求められる。
【0017】
(自発的結晶化開始温度の測定)
4gの各試料(蓄熱材)を密閉容器に封入し、80℃で融解した後、室温まで冷却して過冷却状態にする。その後、熱電対を取り付けた上で恒温槽内に設置し、雰囲気の温度を、例えば約0.7℃/分の速度で下げ、−40℃まで冷却する。熱電対で蓄熱材の温度変化を観測し、結晶化による急激な温度上昇が発生する温度を自発的結晶化開始温度として求めることができる。
【0018】
(結晶化速度の測定)
60mm×160mm×3mmの密閉容器に22mlの蓄熱材と金属板トリガー(小さな裂け目が刻まれたステンレス板)を封入し、−10℃で放置する。トリガーをかけて複数点で蓄熱材の試料の温度推移を熱電対で測定し、温度上昇し始めた時刻で各測定点における結晶化開始時刻を定義し、100mmの距離の間における、結晶化開始時刻の時間差から結晶化進行時間を求め、結晶化の進行距離/結晶化進行時間を算出して、これを結晶化速度(mm/s)としたものである。
【0019】
(放熱量の測定)
結晶化速度の測定で使用した、60mm×160mm×3mmの密閉容器に22mlの蓄熱材と金属板トリガーを封入した試料を、周囲を断熱した水槽に25℃の水を加え、上記の試料を水中に設置し、この水中内でトリガーをかけ、水温の温度上昇を複数本の熱電対、例えば12本で測定する。各測定点での水温が均一になるよう水槽を揺らして水温が均一になるようにし、さらに12点の平均値でもって温度上昇値を求める。水の密度1g/cm、比熱4.2J/g・℃とし、各測定毎の、水の質量、温度上昇値から、水が受け取った熱量を算出し、蓄熱材試料の質量を割った値を単位質量あたりで蓄熱材の放熱量(kJ/kg)として求める。
【0020】
本発明における蓄熱材組成物では、過冷却液中の水分子が、酢酸ナトリウムの分子に取り込まれて結晶化し、この結果、酢酸ナトリウムの結晶格子に水分子が取り込まれる。このように結晶化することで潜熱が放出される。しかし低温では水分子が取り込まれやすい状態であるため、エタノール等の極性有機化合物の分子は、水素結合を介して水分子を引き付けることで、酢酸ナトリウム3水和物の結晶化を抑制しているものと思われる。
本発明においては、上記有機化合物を加えることで、前述のチオ硫酸ナトリウム5水和物添加の公知技術よりも結晶化速度が速くなり、しかも前述の水添加の公知技術よりも放熱量が多くなる。
【0021】
<<補助熱源>>
本発明の蓄熱材組成物は、蓄熱システムの補助熱源として使用することができる。
このような蓄熱システムとしては、ヒートポンプ式給湯機、太陽熱給湯機、電気自動車(EV)や自動車、床暖房が挙げられる。
ヒートポンプ式給湯機では、深夜電力で蓄熱し、翌日利用可能となる。また、高い蓄熱密度で蓄熱できるため、貯湯タンクの小型化が可能となる。
太陽熱給湯機では、昼間に太陽熱を蓄熱し、夜間に給湯が利用できる。
電気自動車(EV)や自動車では、エンジン、モーター、駐車後の暖房水等の排熱を蓄熱したり、充電用電源からヒーター通電により暖房、バッテリー保温、エンジン暖機、潤滑油の保温、ウォシャー液の保温に利用できる。
床暖房では、深夜電力での蓄熱が可能となる。
【0022】
また、蓄熱材入りパッケージ単体としても使用してもよい。
例えば、熱電池、非常用熱源、カイロが挙げられる。
熱電池では、工場、データセンター、店舗等で生じた排熱をパッケージ化し、熱源と離れた場所でトリガーをかけて利用することができる。
非常用熱源、カイロとしては、手動操作可能なトリガーと組み合わせることで、電力がない状態、場所での熱源として利用できる。
【0023】
<<熱供給方法>>
本発明の蓄熱材組成物を使用して、上記のような蓄熱システムや蓄熱材入りパッケージ単体として、熱供給方法を提供することができる。
特に、任意のタイミングで熱利用を直ちに供給するためには、結晶促進化手段(過冷却解除手段、トリガー機構)と組み合わせることが好ましい。
結晶促進化手段としては、例えば、種結晶、金属板(金属板反転)、電圧印加、局所冷却、振動付与等が挙げられ、例えば、特開2011−75050号公報に記載の手段が挙げられ、本発明においても好ましい。これらのうち、種結晶や金属板(金属板反転)を使用するのが好ましく、金属板(金属板反転)が特に好ましい。このような金属板は、具体的には、直径20mm厚さ0.2mmのステンレス製の円盤に長さ3mmの亀裂を12か所設け、高さ1mm程度になるよう中央部を湾曲させたものである。金属板はこの形状に限定されるものではなく、例えば、米国特許第4,379,448号明細書に記載のものでも良い。
熱供給装置としては、例えば、特開2011−75050号公報、特開2010−196508号公報、特開2009−264155号公報、特開2009−236433号公報、特開昭63−105219号公報、特開昭63−68418号公報、特開昭62−172190号公報、特開昭61−22194号公報、特願2012−061476号、特願2012−061477号等に記載の装置に適用される。
【実施例】
【0024】
以下、本発明について実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0025】
実施例1
下記表1の蓄熱材組成物で蓄熱材総量4gの各蓄熱材試料を作製した。
これらの各試料の以下の項目を測定した。
【0026】
(自発的結晶化開始温度の測定)
4gの各試料(蓄熱材)を密閉容器に封入し、80℃で融解した後、室温まで冷却して過冷却状態にした。その後、熱電対を取り付けた上で恒温槽内に設置し、雰囲気の温度を約0.7℃/分の速度で下げ、−40℃まで冷却した。熱電対で蓄熱材の温度変化を観測し、結晶化による急激な温度上昇が発生する温度を自発的結晶化開始温度とした。
【0027】
(結晶化速度の測定)
60mm×160mm×3mmの密閉容器に22mlの蓄熱材と金属板トリガー(直径20mm厚さ0.2mmのステンレス製の円盤に長さ3mmの亀裂を12か所設け、高さ1mm程度になるよう中央部を湾曲させたもの)を封入し、−10℃で放置した。トリガーをかけて複数点で蓄熱材の試料の温度推移を熱電対で測定し、温度上昇し始めた時刻で各測定点における結晶化開始時刻を定義し、100mmの距離の間における、結晶化開始時刻の時間差から結晶化進行時間を求め、結晶化の進行距離/結晶化進行時間を算出して、これを結晶化速度(mm/s)とした。
【0028】
(放熱量の測定)
結晶化速度の測定で使用した、60mm×160mm×3mmの密閉容器に22mlの蓄熱材と金属板トリガーを封入した試料を、周囲を断熱した水槽に25℃の水を加え、上記の試料を水中に設置し、この水中内でトリガーをかけ、水温の温度上昇を12本の熱電対で測定した。各測定点での水温が均一になるよう水槽を揺らして水温が均一になるようにし、さらに12点の平均値でもって温度上昇値を求めた。水の密度1g/cm、比熱4.2J/g・℃とし、各測定毎の、水の質量、温度上昇値から、水が受け取った熱量を算出し、蓄熱材試料の質量を割った値を単位質量あたりで蓄熱材の放熱量(kJ/kg)とした。
【0029】
ここで、試料1〜3は比較例であり、このうち試料2は特開平4−324092号公報に記載の試料である。
得られた結果をまとめて表1に示す。
【0030】
【表1】
【0031】
上記表1から、比較例として示した、従来技術である試料1〜3において、試料1では結晶化速度は速く、放熱量は満足できるレベルであるが、自発的結晶化開始温度が−14℃と、−20℃より高い。試料2では自発的結晶化開始温度が−40℃以下で、結晶化速度は満足できるレベルであるが、放熱量が94kJ/kgと少ない。また、試料3では、自発的結晶化開始温度が−40℃以下であるが、放熱量も140kJ/kgとそれほど小さくはないが、結晶化速度は0.30mm/sであった。
これに対し、本発明の試料4〜7は、自発的結晶化開始温度も約−20℃以下であって、いずれも低く、結晶化速度、放熱量もともに満足できるレベルであった。
比較例の試料8,9では、自発的結晶化開始温度が−20℃より高かった。
【0032】
実施例2
エタノールの添加量依存性を評価した。
得られた結果を表2に示す。
【0033】
【表2】
【0034】
なお、試料105は、表1の試料4と同じ試料である。
ここで、試料102、104、105の結晶化速度は、順に2.9mm/s、1.6mm/s、1.4mm/sであった。
試料102〜107は、自発的結晶化開始温度は−25℃以下であった。
試料101〜106では、結晶化速度が0.6mm/sec以上であり、放熱量は130kJ/kg以上であった。
試料107は、結晶化速度が0.6mm/sec未満であり、放熱量は130kJ/kg未満であった。
【0035】
実施例3
エチレングリコールの場合の添加量依存性を実施例2と同様にして評価した。
得られた結果を表3に示す。
【0036】
【表3】
【0037】
試料202〜208とも、自発的結晶化開始温度は−25℃以下であった。試料201は、自発的結晶化開始温度は−25℃より高かった。
試料201〜207では、結晶化速度が0.6mm/sec以上であった。試料208は、結晶化速度が0.6mm/sec未満であった。
試料201〜208は放熱量は130kJ/kg以上であった。
【0038】
実施例4
プロピレングリコールの場合の添加量依存性を実施例2と同様にして評価した。
得られた結果を表4に示す。
【0039】
【表4】
【0040】
試料303〜308は、自発的結晶化開始温度は−25℃以下であった。
試料301〜307では、結晶化速度が0.6mm/sec以上であった。試料308は、結晶化速度が0.6mm/sec未満であった。
試料301〜308は放熱量は130kJ/kg以上であった。
【0041】
実施例5
酢酸の場合の添加量依存性を実施例2と同様にして評価した。
得られた結果を表5に示す。
【0042】
【表5】
【0043】
試料402〜405は、自発的結晶化開始温度は−25℃以下であった。試料401と406は、自発的結晶化開始温度は−25℃より高かった。
【0044】
以上のように、本発明により、少なくとも−20℃近辺でも熱エネルギー貯蔵安定性が高く、室温でも過冷却状態による潜熱分のエネルギーを保持し、任意のタイミングで熱利用を直ちに可能な蓄熱材組成物を得ることができ、これによって蓄熱材組成物を用いた補助熱源および熱供給方法を提供することが可能となった。
【0045】
本発明をその実施態様とともに説明したが、我々は特に指定しない限り我々の発明を説明のどの細部においても限定しようとするものではなく、添付の請求の範囲に示した発明の精神と範囲に反することなく幅広く解釈されるべきであると考える。
【0046】
本願は、2012年8月8日に日本国で特許出願された特願2012−176537に基づく優先権を主張するものであり、これはここに参照してその内容を本明細書の記載の一部として取り込む。