(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記電磁波発生半導体層が、前記ベース基板に近い側に位置する第1界面と、前記ベース基板から遠い側に位置する第2界面と、前記第1界面および前記第2界面の何れの界面とも平行でない第1側面および第2側面とを有し、
前記第1側面および前記第2側面が、前記LOフォノンに起因する電磁波に対する第1共振器を構成する
請求項4から請求項8の何れか一項に記載の複合基板。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
コヒーレントLOフォノンから発生するテラヘルツ光を分子分光等の光源として利用する場合、テラヘルツ光の強度はより大きいことが好ましく、また、制御できることが好ましい。本発明の目的は、コヒーレントLOフォノンから発生するテラヘルツ光の強度を大きくし、制御できる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様においては、ベース基板上に、励起光の照射によって位相の揃ったコヒーレントLOフォノンに起因する電磁波を発生する電磁波発生半導体層を有し、前記電磁波発生半導体層が、前記励起光の照射の前または照射とともにバイアス電圧が印加されるものであり、前記バイアス電圧により、前記電磁波発生半導体層の内部電界Eを制御し、前記内部電界Eにより、前記LOフォノンの初期分極Pを制御する複合基板を提供する。
【0008】
本発明の第2の態様においては、電磁波発生半導体層に励起光を照射することで、LOフォノンに起因する電磁波を発生する電磁波発生方法であって、前記励起光の照射の前または照射とともに、前記電磁波発生半導体層にバイアス電圧を印加することで、前記バイアス電圧により、前記電磁波発生半導体層の内部電界Eを制御し、前記内部電界Eにより、前記LOフォノンの初期分極Pを制御する電磁波発生方法を提供する。
【0009】
本発明の第3の態様においては、励起光の照射によってLOフォノンに起因する電磁波を発生する電磁波発生半導体層と、バイアス電圧を印加するバイアス電圧印加手段と、を有し、前記電磁波発生半導体層が、前記励起光の照射の前または照射とともに、前記バイアス電圧印加手段により前記バイアス電圧が印加されるものであり、前記バイアス電圧により、前記電磁波発生半導体層の内部電界Eを制御し、前記内部電界Eにより、前記LOフォノンの初期分極Pを制御する電磁波発生装置を提供する。
【0010】
前記内部電界Eは、P=χ
(1)E+χ
(2)E
2(数1)に示す二次関数でモデル化された関係に基づき前記初期分極Pを制御してもよい。ただし、χ
(1)およびχ
(2)は電気感受率を示し、χ
(1)はEの一次項係数である一次の電気感受率、χ
(2)はEの二次項係数である二次の電気感受率を示す。前記内部電界Eが、χ
(2)E>χ
(1)(数2)の条件を満足するよう前記電磁波発生半導体層に前記バイアス電圧を印加してもよい。
【0011】
前記ベース基板上に、第1電気伝導層と、第2電気伝導層と、をさらに有してもよく、この場合、前記ベース基板、前記第1電気伝導層、前記第2電気伝導層および前記電磁波発生半導体層が、前記ベース基板、前記第1電気伝導層、前記電磁波発生半導体層、前記第2電気伝導層の順に位置し、前記第1電気伝導層と前記第2電気伝導層との間に、前記バイアス電圧を印加してもよい。前記第1電気伝導層として、p型またはn型の第1半導体層を挙げることができ、前記第2電気伝導層として、前記第1半導体層とは電気伝導型が逆の第2半導体層を挙げることができ、この場合、前記第1半導体層、前記電磁波発生半導体層および前記第2半導体層が、前記第1半導体層と前記電磁波発生半導体層との間、および、前記電磁波発生半導体層と前記第2半導体層との間でキャリアが相互拡散できる程度に近接して配置されていてもよい。前記第2半導体層がp型半導体層であってもよく、この場合、前記p型半導体層に含まれるドーパントが炭素であることが好ましい。前記第2半導体層の中性領域の厚さは、0.28nm以上50nm以下であることが好ましい。
【0012】
前記ベース基板が導電性であり、前記ベース基板上に、第2電気伝導層をさらに有してもよく、この場合、前記ベース基板、前記第2電気伝導層および前記電磁波発生半導体層が、前記ベース基板、前記電磁波発生半導体層、前記第2電気伝導層の順に位置し、前記ベース基板と前記第2電気伝導層との間に、前記バイアス電圧を印加してもよい。
【0013】
前記電磁波発生半導体層が、前記ベース基板に近い側に位置する第1界面と、前記ベース基板から遠い側に位置する第2界面と、前記第1界面および前記第2界面の何れの界面とも平行でない第1側面および第2側面とを有してもよく、この場合、前記第1側面および前記第2側面が、前記LOフォノンに起因する電磁波に対する第1共振器を構成してもよい。前記電磁波発生半導体層が、前記第1界面、前記第2界面、前記第1側面および前記第2側面の何れの面とも平行でない第3側面および第4側面を有してもよく、この場合、前記第3側面および前記第4側面が、前記第1共振器とは別の、前記LOフォノンに起因する電磁波に対する第2共振器を構成してもよい。
【0014】
前記ベース基板上に、第1スペーサ層および第2スペーサ層をさらに有してもよく、この場合、前記ベース基板、前記第1スペーサ層、前記第2スペーサ層および前記電磁波発生半導体層が、前記ベース基板、前記第1スペーサ層、前記電磁波発生半導体層、前記第2スペーサ層の順に位置し、前記第1スペーサ層の前記ベース基板に近い側の第3界面、および、前記第2スペーサ層の前記ベース基板から遠い側の第4界面が、前記LOフォノンに起因する電磁波に対する第3共振器を構成してもよい。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(実施形態1)
図1は、複合基板100を示した断面図である。複合基板100は、ベース基板102と、第1半導体層104と、電磁波発生半導体層106と、第2半導体層108とを有する。
【0017】
電磁波発生半導体層106は、ベース基板102上に形成され、励起光130の照射によって位相の揃ったコヒーレントLOフォノンに起因する電磁波140(テラヘルツ光)を発生する。励起光130は、LOフォノンの振動周期よりも短いパルス幅を有するレーザー光である。また、電磁波発生半導体層106は、励起光130の照射の前または照射とともにバイアス電圧が印加され、当該バイアス電圧により、電磁波発生半導体層106の内部電界Eが制御され、内部電界Eにより、LOフォノンの初期分極Pが制御される。LOフォノンの初期分極の大きさにより、テラヘルツ光の強度が変化するので、バイアス電圧によりテラヘルツ光の強度が制御できることになる。なお、バイアス電圧は、第2半導体層108に接する表面電極110とベース基板102に接する裏面電極112との間に印加できる。
【0018】
内部電界Eは、数1に示す二次関数でモデル化された関係に基づき初期分極Pを制御する。
(数1) P=χ
(1)E+χ
(2)E
2(ただし、χ
(1)およびχ
(2)は電気感受率を示し、χ
(1)はEの一次項係数である一次の電気感受率、χ
(2)はEの二次項係数である二次の電気感受率を示す。)
【0019】
また、内部電界Eは、数2の条件を満足するよう電磁波発生半導体層106にバイアス電圧を印加する。
(数2) χ
(2)E>χ
(1)
【0020】
以上のような、バイアス電圧による内部電界Eの制御、内部電界EによるLOフォノンの初期分極Pの制御が可能なことは、本発明者らの実験検討により明らかとなったものであり、本発明はそれら実験検討により得られた知見に基づく。
【0021】
電磁波発生半導体層106として、InP、InAs、InSb、GaAs、GaP、GaN、AlGaAs、InGaAs、AlGaN、InGaN、InGaP、およびInGaAsPなどのIII-V族化合物族半導体を挙げることができる。また、電磁波発生半導体層106として、ZnS、ZnSe、ZnTe、CdTe、ZnOなどのII−VI族化合物半導体、CuInGaSe、CuInGaSなどのカルコパイライト化合物半導体、Si、Ge、C(ダイヤモンド)、SiGe、SiCなどのIV族半導体を例示することもできる。
【0022】
ベース基板102は、例えば、GaAs単結晶基板である。また、ベース基板102は、InP単結晶基板、Si単結晶基板、GaN単結晶基板、SiC単結晶基板、およびサファイア基板などであってもよい。
【0023】
第1半導体層104は、p型またはn型の半導体層であり、第2半導体層108は、第1半導体層104とは電気伝導型が逆の半導体層である。そして、第1半導体層104、電磁波発生半導体層106および第2半導体層108が、第1半導体層104と電磁波発生半導体層106との間、および、電磁波発生半導体層106と第2半導体層108との間でキャリアが相互拡散できる程度に近接して配置されている。表面電極110および裏面電極112は、たとえば金属で構成でき、それぞれ、第2半導体層108およびベース基板102とオーミック接続されるものとすることができる。
【0024】
電磁波発生半導体層106が第1半導体層104と第2半導体層108に挟まれて位置し、第1半導体層104および第2半導体層108との間でキャリアが相互拡散できる程度に近接するため、電磁波発生半導体層106に内部には空乏領域が形成され、当該空乏領域には、内部ポテンシャルあるいは外部からの電圧印加により、内部電界が存在する。この内部電界はLOフォノンの初期分極を生じ、初期分極がある状態で、LOフォノンの振動周期より短いパルス幅のパルスレーザー光(励起光130)が入射すると、当該レーザー光の入射がトリガーになって、位相の揃ったLOフォノンの振動が発生する。この結果、コヒーレントLOフォノンに起因するテラヘルツ光が発生する。
【0025】
第2半導体層108がp型半導体層である場合、p型半導体層に含まれるドーパントが炭素であることが好ましい。ドーパントが炭素原子である場合、ドーパントが拡散し難く、ドーパントの拡散による電磁波発生半導体層106への悪影響を小さくすることができる。なお、ドーパントが拡散しやすい原子である場合(たとえばZn原子)、第2半導体層108(または第1半導体層104)と電磁波発生半導体層106との間に拡散防止層を形成してもよい。
【0026】
また、第2半導体層108の中性領域の厚さは、0.28nm以上50nm以下であることが好ましい。第2半導体層108の中性領域が薄すぎると、第2半導体層108の横方向の導電性が確保できず、第2半導体層108の中性領域が厚すぎると、励起光130が吸収され、好ましくない。また、、第2半導体層108の中性領域が厚すぎると、発生したテラヘルツ光が外部に取り出されるまでに吸収され、好ましくない。
【0027】
上記のように電磁波発生半導体層106には空乏領域が発生すれば良いので、電磁波発生半導体層106を挟む層は第1半導体層104および第2半導体層108である必要はなく、たとえば、電磁波発生半導体層106とショットキ接続される金属層、すなわち、第1電気伝導層および第2電気伝導層であってもよい。この場合、複合基板100の構成は、ベース基板102上に、第1電気伝導層と、第2電気伝導層と、をさらに有し、ベース基板102、第1電気伝導層、第2電気伝導層および電磁波発生半導体層106が、ベース基板102、第1電気伝導層、電磁波発生半導体層106、第2電気伝導層の順に位置し、第1電気伝導層と第2電気伝導層との間に、バイアス電圧を印加するものとなる。
【0028】
また、第1半導体層104の機能をベース基板102が有してもよい。この場合、第1半導体層104は必要でない。すなわち、複合基板100は、ベース基板102が導電性であり、ベース基板102上に、第2電気伝導層(第2半導体層108)をさらに有し、ベース基板102、第2電気伝導層および電磁波発生半導体層106が、ベース基板102、電磁波発生半導体層106、第2電気伝導層の順に位置し、ベース基板102と第2電気伝導層との間に、バイアス電圧を印加するものであってもよい。
【0029】
上記した複合基板100によれば、バイアス電圧を印加してLOフォノンの初期分極を大きくすることができ、コヒーレントLOフォノンに起因するテラヘルツ光(電磁波140)の強度を大きくすることができる。
【0030】
(実施形態2)
図2は、複合基板200を示した斜視図である。複合基板200における電磁波発生半導体層106は、ベース基板102に近い側に位置する第1界面106aと、ベース基板102から遠い側に位置する第2界面106bと、第1界面106aおよび第2界面106bの何れの界面とも平行でない第1側面106cおよび第2側面106dとを有し、第1側面106cおよび第2側面106dが、LOフォノンに起因する電磁波140に対する第1共振器を構成する。
【0031】
第1側面106cおよび第2側面106dが電磁波140(テラヘルツ光)に対する第1共振器を構成するため、電磁波140(テラヘルツ光)をレーザ発振と同様にコヒーレント光として、第1共振器(第1側面106cおよび第2側面106d)と垂直な方向に取り出すことができる。
【0032】
また、複合基板200における電磁波発生半導体層106は、第1界面106a、第2界面106b、第1側面106cおよび第2側面106dの何れの面とも平行でない第3側面106eおよび第4側面106fを有し、第3側面106eおよび第4側面106fが、第1共振器とは別の、LOフォノンに起因する電磁波140に対する第2共振器を構成することも可能である。
【0033】
第3側面106eおよび第4側面106fが、第1共振器とは別の第2共振器を構成するため、電磁波140(テラヘルツ光)をコヒーレント光として、第2共振器(第3側面106eおよび第4側面106f)と垂直な方向にも取り出すことができる。
【0034】
(実施形態3)
図3は、複合基板300を示した断面図である。複合基板300は、ベース基板102上に、第1スペーサ層302および第2スペーサ層304をさらに有し、ベース基板102、第1スペーサ層302、第2スペーサ層304および電磁波発生半導体層106が、ベース基板102、第1スペーサ層302、電磁波発生半導体層106、第2スペーサ層304の順に位置し、第1スペーサ層302のベース基板102に近い側の第3界面306、および、第2スペーサ層304のベース基板102から遠い側の第4界面308が、LOフォノンに起因する電磁波140に対する第3共振器を構成する。
【0035】
複合基板300によれば、第3界面306および第4界面308が第3共振器を構成するため、VCSEL(Vertical Cavity Surface Emitting LASER)と同様に、厚さ方向(ベース基板102の表面と垂直な方向)に電磁波140(テラヘルツ光)を取り出すことができる。
【0036】
(実施例)
ベース基板102として面方位(001)のn型GaAs基板を用いた。n型GaAs基板の上に、第1半導体層104としてn型GaAa層を3000nmの厚さで形成し、n型GaAa層の上に、電磁波発生半導体層106としてi型GaAa層を500nmの厚さで形成し、さらにi型GaAa層の上に、第2半導体層108としてp型GaAa層を50nmの厚さで形成した。n型GaAa層、i型GaAa層およびp型GaAa層は、MOVPE(Metal-Organic Vapor Phase Epitaxy)法を用いて形成した。n型GaAa層へのドーピング濃度は、3×10
18cm
−3とし、p型GaAa層へのドーピング濃度は、1×10
18cm
−3とした。また、p型ドーパントとして炭素原子を用いた。このようにして実施例の複合基板100を作製した。
【0037】
また、複合基板100のn型GaAs基板(ベース基板102)の裏面およびp型GaAa層(第2半導体層108)の表面のそれぞれに、裏面電極および表面電極を形成し、i型GaAa層(電磁波発生半導体層106)にバイアス電圧が印加できるようにした。裏面電極として、蒸着法を用いてAu/Ni/AuGe層を形成し、表面電極として、蒸着法を用いてAu/AuZn層を形成した後、オーミックコンタクトとなるよう加熱処理を施した。表面電極は、励起光が入射するようリング形状とした。
【0038】
図4は、テラヘルツ光の測定システム400の概要を示した図である。測定システム400は、ビームスプリッター402、ミラー404、ミラー406、ミラー408、パラボラミラー410、パラボラミラー412、測定部414、ミラー416、ミラー418、およびミラー420を備える。励起光源430でパルスレーザー光を生成し、当該パルスレーザー光を複合基板100に入射して、コヒーレントLOフォノンに起因するテラヘルツ光を発生させた。励起光源430として、フェムト秒パルスモード同期方式のチタンサファイアレーザ(パルス幅:70fs、中心波長790nm)を用いた。また、バイアス電源440で生成したバイアス電圧を裏面電極および表面電極の間に印加した。
【0039】
測定部414は、分子線エピタキシー(MBE)法により結晶成長させた低温GaAsエピタキシャル層上に形成したダイポールアンテナ(光伝導アンテナ)を有する。測定部414は、励起光源430が出力するパルスレーザー光に応じて複合基板100が出力するテラヘルツ光を光ゲート方式光伝導ダイポールアンテナで受信する。測定部414は、受信したテラヘルツ光の振動に応じて流れる電流を増幅して、電流波形を記録する。
【0040】
励起光源430が出力するパルスレーザー光は、ビームスプリッター402、ミラー404、ミラー406、およびミラー408を経由して、複合基板100に印加される。複合基板100が発生したテラヘルツ光は、パラボラミラー410およびパラボラミラー412を経由して、測定部414に入力される。
【0041】
励起光源430が出力したパルスレーザー光の一部は、ビームスプリッター402によって反射されて、ミラー416、ミラー418、およびミラー420を経由して、ゲート光として測定部414に入力される。測定部414は、ゲート光が入力されたタイミングで、受信したテラヘルツ光に応じて流れる電流値を測定する。
【0042】
測定システム400は、ミラー416およびミラー418を順次移動させることによってゲート光の遅延時間を変化する。測定システム400は、ゲート光の遅延時間を順次変化させることにより、遅延時間に応じて変化する電流値を測定する。ゲート光を用いて測定の遅延時間を規定する光ゲーティング法を用いることにより、励起光の入射タイミングを基準として規定された遅延時間におけるテラヘルツ光を検出することができるので、暗ノイズが影響しない高精度の測定が可能になる。
【0043】
図5および
図6は、タイムドメインにおけるテラヘルツ光の信号強度を示した図である。
図5は励起強度が30mWの場合を、
図6は励起強度が80mWの場合を示す。
図5および
図6において、バイアス電圧を0〜−8Vの範囲で変化させた場合の各バイアス電圧におけるデータを重ねて表示している。
【0044】
何れの励起強度においても、バイアス電圧の値が負に大きく(逆バイアス電圧が大きく)なるに従い、1ps以降の信号振幅が大きくなっていることがわかる。ここで、励起光(パルスレーザー光)を照射した直後の0〜1ps程度までの信号は、パルスレーザー光により発生したキャリアのドリフト電流に起因する信号であり、1ps以降の信号はコヒーレントLOフォノンに起因する信号である。
【0045】
図7は、
図5のタイムドメイン信号をフーリエ変換したテラヘルツ光スペクトルを示した図であり、
図8は、
図6のタイムドメイン信号をフーリエ変換したテラヘルツ光スペクトルを示した図である。
図7および
図8において、バイアス電圧を0〜−8Vの範囲で変化させた場合の各バイアス電圧におけるデータを重ねて表示している。
【0046】
図7および
図8において、−1V以上の逆バイアスをかけた場合に、約8.7THzのテラヘルツバンドが発生している。約8.7THzがGaAs結晶のLOフォノン振動数に一致することから、当該テラヘルツバンドは、LOフォノンがコヒーレントに(位相が揃った状態で)振動することに起因して発生しているといえる。
図7および
図8において、何れの励起強度においても、バイアス電圧の値が負に大きく(逆バイアス電圧が大きく)なるに従い、約8.7THzのテラヘルツ光、すなわちコヒーレントLOフォノンに起因するテラヘルツ光の強度が増加していることがわかる。
【0047】
図9および
図10は、コヒーレントLOフォノンのテラヘルツバンド強度の逆バイアス電圧依存性を示したグラフである。
図9は励起強度が30mWの場合を、
図10は励起強度が80mWの場合を示す。何れの励起強度においても、コヒーレントLOフォノンのテラヘルツバンドの積分強度は、逆バイアス電圧の小さい領域で逆バイアス電圧にほぼ比例し、逆バイアス電圧の大きい領域で逆バイアス電圧の2.6〜2.7乗に比例する。コヒーレントLOフォノンに起因するテラヘルツ光の発生が、逆バイアス電圧の大きい領域と小さい領域で異なった態様になっていると推察できる。そこで、内部電界の実効強度を、電場変調反射(Electroreflectance)スペクトルで観測されるFranz-Keldysh振動の測定から見積り、コヒーレントLOフォノンからのテラヘルツ光積分強度の内部電界依存性を調べた。
【0048】
図11〜
図13は、コヒーレントLOフォノンのテラヘルツバンド強度の内部電界依存性を示したグラフである。
図11は励起強度が30mWの場合を、
図12は励起強度が50mWの場合を、
図13は励起強度が80mWの場合を示す。内部電界の実効強度は、電場変調反射スペクトルの測定から見積もった。表1は、バイアス電圧に対する実効内部電界強度の値を示している。
【表1】
【0049】
図11〜
図13から、何れの励起強度においても、コヒーレントLOフォノンのテラヘルツバンドの積分強度は、50kV/cm付近の内部電界において変極点を有し、50kV/cm以下では内部電界Eの約2乗に比例し、50kV/cm以上では内部電界Eの約4乗に比例することがわかった。コヒーレントLOフォノンのテラヘルツバンドの積分強度I
LOは初期分極Pの2乗に比例すると考えられるので、内部電界が50kV/cm以下の小さい領域では、コヒーレントLOフォノンからのテラヘルツ光(I
LO)は初期分極P(内部電界Eの2乗)に比例し、内部電界が50kV/cmを超える大きな領域では、非線形分極における2次の非線形感受率が効くようになり、コヒーレントLOフォノンからのテラヘルツ光(I
LO)は初期分極Pの2乗(内部電界Eの4乗)に比例するようになると考えられる。
【0050】
χ
(1)を内部電界Eの一次の電気感受率とし、χ
(2)を内部電界Eの二次の電気感受率とすると、初期分極Pは、P=χ
(1)E+χ
(2)E
2(数1)と表すことができ、コヒーレントLOフォノンのテラヘルツバンドの積分強度I
LOは、I
LO=AE
2+BE
3+CE
4、の式でモデル化することが可能である。A、B、Cをフィッティングパラメータとし、コヒーレントLOフォノンのテラヘルツバンドの積分強度を内部電界Eの関数としてフィッティングした結果を
図14〜
図16に示す。
図14〜
図16は、コヒーレントLOフォノンのテラヘルツバンド強度の内部電界依存性をフィッティング曲線とともに示したグラフである。
図14は励起強度が30mWの場合を、
図15は励起強度が50mWの場合を、
図16は励起強度が80mWの場合を示す。
【0051】
フィッティング曲線は実測値と良く一致している。表2に、フィッティングパラメータA、Cを示す。なお、フィッティングパラメータBは、概ね、B=2×(A×C)
1/2の関係を満たしていた。
【表2】
【0052】
上記した実施例によれば、χ
(2)E>χ
(1)(数2)の条件を満足するように電磁波発生半導体層106にバイアス電圧を印加することで、無バイアスの場合と比較して大きな強度のテラヘルツ光を得ることができる。すなわち、χ
(2)Eがχ
(1)を大きく超えるバイアス(たとえば内部電界Eが140kV/cm程度、逆バイアス電圧が8V程度のバイアス)を印加した場合には、無バイアスの場合と比較して200倍の強度のテラヘルツ光を得ることができる。χ
(2)Eがχ
(1)を僅かに超える程度のバイアス(内部電界Eが50kV/cm程度、逆バイアス電圧が2V程度)を印加した場合であっても、無バイアスの場合より数倍以上の強度のテラヘルツ光を得ることができる。
【0053】
以上、本発明を主に複合基板として説明したが、本発明は、電磁波発生方法、あるいは電磁波発生装置としても把握することが可能である。すなわち、電磁波発生半導体層106に励起光130を照射することで、LOフォノンに起因する電磁波140を発生する電磁波140発生方法であって、励起光130の照射の前または照射とともに、電磁波発生半導体層106にバイアス電圧を印加することで、バイアス電圧により、電磁波発生半導体層106の内部電界Eを制御し、内部電界Eにより、LOフォノンの初期分極Pを制御する電磁波発生方法として把握できる。また、励起光130の照射によってLOフォノンに起因する電磁波140を発生する電磁波発生半導体層106と、バイアス電圧を印加するバイアス電圧印加手段と、を有し、電磁波発生半導体層106が、励起光130の照射の前または照射とともに、バイアス電圧印加手段によりバイアス電圧が印加されるものであり、バイアス電圧により、電磁波発生半導体層106の内部電界Eを制御し、内部電界Eにより、LOフォノンの初期分極Pを制御する電磁波発生装置として把握することができる。
【0054】
これら電磁波発生方法あるいは電磁波発生装置の場合であっても、内部電界Eは、P=χ
(1)E+χ
(2)E
2(数1)に示す二次関数でモデル化された関係に基づき初期分極Pを制御してもよい。ただし、χ
(1)およびχ
(2)は電気感受率を示し、χ
(1)はEの一次項係数である一次の電気感受率、χ
(2)はEの二次項係数である二次の電気感受率を示す。内部電界Eが、χ
(2)E>χ
(1)(数2)の条件を満足するよう電磁波発生半導体層106にバイアス電圧を印加してもよい。
【0055】
これら電磁波発生方法あるいは電磁波発生装置の場合であっても、ベース基板102上に、第1電気伝導層と、第2電気伝導層と、をさらに有してもよく、この場合、ベース基板102、第1電気伝導層、第2電気伝導層および電磁波発生半導体層106が、ベース基板102、第1電気伝導層、電磁波発生半導体層106、第2電気伝導層の順に位置し、第1電気伝導層と第2電気伝導層との間に、バイアス電圧を印加してもよい。第1電気伝導層として、p型またはn型の第1半導体層104を挙げることができ、第2電気伝導層として、第1半導体層とは電気伝導型が逆の第2半導体層108を挙げることができ、この場合、第1半導体層104、電磁波発生半導体層106および第2半導体層108が、第1半導体層104と電磁波発生半導体層106との間、および、電磁波発生半導体層106と第2半導体層108との間でキャリアが相互拡散できる程度に近接して配置されていてもよい。第2半導体層108がp型半導体層であってもよく、この場合、p型半導体層に含まれるドーパントが炭素であることが好ましい。第2半導体層108の中性領域の厚さは、0.28nm以上50nm以下であることが好ましい。
【0056】
ベース基板102が導電性であり、ベース基板102上に、第2電気伝導層をさらに有してもよく、この場合、ベース基板102、第2電気伝導層および電磁波発生半導体層106が、ベース基板102、電磁波発生半導体層106、第2電気伝導層の順に位置し、ベース基板102と第2電気伝導層との間に、バイアス電圧を印加してもよい。
【0057】
電磁波発生半導体層106が、ベース基板102に近い側に位置する第1界面106aと、ベース基板102から遠い側に位置する第2界面106bと、第1界面106aおよび第2界面106bの何れの界面とも平行でない第1側面106cおよび第2側面106dとを有してもよく、この場合、第1側面106cおよび第2側面106dが、LOフォノンに起因する電磁波に対する第1共振器を構成してもよい。電磁波発生半導体層106が、第1界面106a、第2界面106b、第1側面106cおよび第2側面106dの何れの面とも平行でない第3側面106eおよび第4側面106fを有してもよく、この場合、第3側面106eおよび第4側面106fが、第1共振器とは別の、LOフォノンに起因する電磁波に対する第2共振器を構成してもよい。
【0058】
ベース基板102上に、第1スペーサ層302および第2スペーサ層304をさらに有してもよく、この場合、ベース基板102、第1スペーサ層302、第2スペーサ層304および電磁波発生半導体層106が、ベース基板102、第1スペーサ層302、電磁波発生半導体層106、第2スペーサ層304の順に位置し、第1スペーサ層302のベース基板に近い側の第3界面306、および、第2スペーサ層304のベース基板から遠い側の第4界面308が、LOフォノンに起因する電磁波に対する第3共振器を構成してもよい。