(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項6記載のアルミナ含有樹脂バインダー分散液を、微多孔質樹脂フィルムの表面に塗布することにより形成された無機粒子層を有することを特徴とするリチウムイオン二次電池用セパレータ。
【背景技術】
【0002】
アルミナは、絶縁性、耐熱性、耐食性等に優れ、特に平均粒子径が5μm以下の微細なアルミナ粉末は焼結体材料、樹脂の耐熱フィラー用途、リチウム二次電池用セパレータの耐熱粒子として用いられている。近年リチウムイオン二次電池におけるセパレータ(以下、単に「セパレータ」ともいう)は、高機能化、特に安全性向上の為に、耐熱性が求められており、セパレータの基材である多孔性樹脂フィルムの表面に形成する無機粒子層を形成した構造が採用されつつある。上記無機粒子層を形成するための無機粒子として、耐熱性、絶縁性に優れたアルミナを使用することが注目されている。即ち、アルミナのような化学的に安定な無機粒子層をセパレータ表面に積層させることにより、高温異常時にセパレータの破膜を防ぎ、両極の短絡を防ぐ効果を得ることができる。ところが、セパレータ上に積層させる無機粒子層の厚さを増加させることは、短絡の問題には効果がみられる一方、電池中でのセパレータの占有体積が増加するため、電池の高容量化という観点からは不利となる。また、無機粒子層の厚さを増加させると、電解液の浸透性が低下し、電池自体の性能を低下させるという問題が生じる。
【0003】
そこで、電池性能を低下させることなく耐熱性、絶縁性の効果を発揮させるためには、無機粒子層の厚さを薄くする必要があり、このためには充填性の良い球状かつ粗粒が少なく、分散性の良いアルミナ微粒子が求められている(特許文献1、2参照)。
【0004】
しかし、現在用いられているアルミナ粒子は湿式法で製造されたものが多く、かかるアルミナ微粒子は、アルミナ中に水分が残存し易く、また粒子形状が不定形のものであった。上記のように、水分量が多いアルミナを使用した場合、電池中で電解液と反応しフッ化水素が発生し、電池自体を劣化させる恐れがある。また、アルミナ粒子は摩耗性が高く、特に、不定形の粒子形状では電池の製造工程で、角部が摩耗により破壊され、電池中に金属不純物として混入し、電池内で反応し発熱の原因となることが考えられ、電池自体の安全性を低下させる恐れがある。
【0005】
従って、上述したリチウムイオン二次電池セパレータ用の耐熱粒子における問題を克服するために、かかる用途に使用されるアルミナ微粒子には次の特徴が求められる。
【0006】
(a)形状が球状であること。
【0007】
(b)数μm以上の粗大粒子を含まないこと。
【0008】
(c)粒度分布がシャープであること。
【0009】
(d)粒子に付着した水分量が少ないこと。
【0010】
(e)摩耗性が小さいこと。
【0011】
(f)バインダー中への充填性が高く、また分散性が高いこと。
【0012】
一方、球状アルミナ微粒子の製造方法も種々提案されており、代表的な製造方法として以下の方法が知られている。
【0013】
(1)ゾルゲル法(特許文献3参照)
(2)塩化アルミニウムの火炎加水分解法(特許文献4参照)
(3)アルミニウム粉末の燃焼法(特許文献5参照)
(4)アルミナもしくはアルミナ水酸化物粉末の溶融法(特許文献6参照)。
【0014】
前記(1)のゾルゲル法の場合、単分散の粒子が得られるので粒子径や粒度分布は制御し易いものの、アルミナ中に含まれる水分を除去するための乾燥及び焼成段階で粒子同士が固く凝集し、粗大粒子が発生するという問題がある。
【0015】
また、前記(2)の塩化アルミニウムの火炎加水分解法の場合には、通常実施されている条件によれば、微小な一次粒子同士が融着した凝集性の強い粒子が生成し易く、比表面積が大きいアルミナ微粒子が得られるため、取扱中に雰囲気中の水分を吸収し易く、その結果、電池中に水分を持ち込み易くなるという問題がある。
【0016】
更に、前記(3)のアルミニウム粉末の燃焼法や、前記(4)のアルミナもしくはアルミナ水酸化物粉末の溶融法では、原料に固体を用いることから、ガス中での原料濃度が不均一となり、粒子径が均一になりにくく、粗粒が生成し易くなる。また数μmサイズのアルミナ微粒子に関しては、分級により粒度分布の制御を行うことが困難である為、粗粒が残存し易いという問題がある。
【0017】
従って、前述した(a)〜(f)の特性を有する乾式アルミナ微粒子を得る方法として(1)〜(4)の方法によっては、前記目的を十分達成するアルミナ微粒子が得られるに至っていないのが現状である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
従って、本発明の目的は、付着水分量が少なく、樹脂バインダーへの分散性に優れ、樹脂バインダーへ分散してセパレータの基材である微多孔質樹脂フィルム表面に積層して形成される無機粒子層の特性を向上させることが可能な乾式アルミナ微粒子及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者等は、上記技術課題を解決すべく、得られる乾式アルミナ微粒子のリチウムイオン二次電池セパレータ用耐熱粒子としての性能との関係について鋭意検討を行った結果、該アルミニウム化合物として、気体状のアルミニウム化合物を使用し、その燃焼条件を特定の範囲に調整することにより、前記目的を達成した乾式アルミナ微粒子を得ることに成功し、本発明を完成するに至った。
【0021】
本発明によれば、粒子表面に存在するOH基数が20個/nm
2以下、BET比表面積が10〜50m
2/gであり、且つ、濃度0.2重量%の水懸濁液としたとき、波長700nmの光に対する吸光度τが下記式(1)を満足していることを特徴とするアルミナ微粒子が提供される。
【0022】
τ≦170S
−1.4−0.1(1)
(式中、Sは、アルミナ微粒子のBET比表面積(m
2/g)である)
本発明の乾式アルミナ微粒子においては、
(1)画像解析法により求めた体積換算粒子径分布において、1μm以上のアルミナ粒子の割合が5容量%以下であること、
(2)アルミナ粒子の平均円形度が0.85以上であること、
が好ましく、
また、本発明の乾式アルミナ微粒子の保存は、製造直後に、25℃における酸素透過度が10L/m
2・day・atm以下、透湿度が50g/m
2・24hr以下のシートよりなる包装袋に収納することが好ましい。
【0023】
更に、多孔質樹脂フィルムの表面に、前記乾式アルミナ微粒子を含む無機粒子層を積層したものは、リチウムイオン二次電池用セパレータとして有用であり、安定した性能を有する電池を構成することができる。
【0024】
更にまた、本発明の乾式アルミナ微粒子は、気体状のアルミニウム化合物と酸素と可燃性ガスにより形成される火炎中で、前記アルミニウム化合物から球状のアルミナ微粒子を生成せしめる方法において、
中心管および中心管から同心円状に広がる複数の環状管より構成される多重管バーナを使用して拡散火炎又は予混合火炎を形成し、且つ、以下の条件を満足する方法によって得ることができる。
【0025】
(1)断熱火炎温度が2500K以上である。
【0026】
(2)原料が気体状のアルミニウム化合物である。
【0027】
(3)バーナから供給される可燃性ガスの和と原料となるアルミニウム化合物が完全に反応するために必要な可燃性ガス量の比が、下記式(2)を満足している。
【0028】
S
H/R
H≧5 (2)
(式中、S
Hは供給された可燃性ガス量の和(mol/h)、R
Hは供給した原料が完全に反応するために必要な可燃性ガス量(mol/h))
(4)最外環状管導入ガスが
酸素又は酸素と窒素等の不活性ガスの混合ガスであり、生成するアルミナ1kgあたりの最外環状管導入ガス量が下記式(3)を満たす値である。
【0029】
1.0<G
out/P
Al<5.0 (3)
G
out:最外環状管導入ガス量(Nm
3/H)
P
Al:生成するアルミナ重量(kg/H)
【発明の効果】
【0030】
上記本発明によれば、前記特定の製造方法を採用することにより、球状で、単分散性に優れ、しかも、粒子表面に存在するOH基数が極めて少ない乾式アルミナ微粒子を提供することができ、かかる乾式アルミナ微粒子は、その特性により、バインダーへの分散性に優れ、例えばバインダーに多量分散配合した場合に粘度の上昇を抑えることができる。そのため、セパレータを構成する無機粒子層として多孔質フィルム上に塗布した際、十分な強度と耐熱性を付与することができる。
【0031】
また、かかる乾式アルミナ微粒子は粗大な粒子の含有量が極めて少なく、この結果、前記特性を維持したまま、無機粒子層を薄層化させることが可能となり、これにより、良好な電解液浸透性を示し、その結果、セパレータとして高い信頼性を発揮することができる。
【0032】
従って、本発明の乾式アルミナ微粒子は、リチウムイオン二次電池セパレータにおける無機粒子層の形成に使用する用途に極めて有用である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
<乾式アルミナ微粒子>
本発明の乾式アルミナ微粒子において、粒子表面に存在するOH基数は、20個/nm
2以下、好ましくは18個/nm
2以下の範囲にあることに特徴を有する。上記粒子表面に存在するOH基数が20個を超える場合には、粒子に付着した水分量が多くなり、電池中への持ち込み水分量が増加し、電解液と反応しフッ化水素が発生する為好ましくない。上記粒子表面に存在するOH基数は、湿式法においては達成できない特性である。
【0034】
また、本発明の乾式アルミナ微粒子は、BET比表面積が10〜50m
2/g、好ましくは10〜30m
2/gの範囲にある。比表面積が50m
2/gを超える場合には、1次粒子径が小さくなりセパレータの細孔部分に入り込み、セパレータへの電解液の浸透性を悪化させる原因となる。比表面積が10m
2/gより小さい場合には、同時に1μm以上の粗大な粒子が合成され易くなり、粗大な粒子に起因して耐熱無機粒子層中の粒子間の隙間が不均一となり、電解液浸透性の悪化が生じやすくなる。また、粗大な粒子による摩耗等が顕著となり、電池の製造工程で摩耗により金属不純物が混入し易くなり、安全性を低下させる恐れがある。
【0035】
本発明の乾式アルミナ微粒子は、これを0.2重量%の濃度で水に分散させて懸濁液を調製したとき、該懸濁液の波長700nmの光に対する吸光度τが下記式(1)を満足していることが極めて重要である。
【0036】
τ≦170S
−1.4−0.1(1)
(式中、Sは、乾式アルミナ微粒子のBET比表面積(m
2/g)である)
一般に、水懸濁物中のアルミナの1次粒子径が小さくなるほど、即ち、高比表面積のアルミナほど、吸光度τが小さくなる傾向にある。しかし、ヒュームドアルミナのように、一次粒子の数個〜数十個が比較的強く結合した集団(2次粒子)を形成し、それらが更に他の2次粒子と結合した凝集構造をとる場合には、吸光度τは大きな値をとる。
【0037】
従って、同じ比表面積のアルミナにおいて、吸光度τの値が小さいということは、1次粒子そのものが小さく且つ融着した2次粒子を形成しておらず、独立した小径の一次粒子として存在していることを示し、さらには、粒子が凝集構造をとらず、粗大粒子を含んでおらず、1次粒子の粒度分布が狭い(シャープな粒度分布を示す)ことを意味している。つまり、同じ比表面積で比較した場合、吸光度τの値が小さいアルミナ微粒子ほど、樹脂に対して本質的に分散性能が良い特性を持ったアルミナ粒子であると言える。なお、上記吸光度τの測定法は後述実施例で詳細に説明する。
【0038】
本発明の乾式アルミナ微粒子は、前記特定の比表面積を有していると同時に、吸光度τが式(1)の条件を満足しているため、1次粒子の融着による2次粒子をほとんど有しておらず、凝集構造を有しておらず、また、粗大粒子を含まず、シャープな粒度分布を有している。そして、このような粒子特性を有していることから、樹脂やバインダー液に対する分散性が極めて良好である。即ち、前記吸光度τの値が式(1)の条件を満足しない場合、バインダー液中への分散性が悪く、耐熱無機粒子層中の粒子間の隙間が不均一となり、セパレータの無機粒子層として使用した際の電解液浸透性の悪化が生じ易くなる。
【0039】
本発明の乾式アルミナ微粒子は、画像解析法により求めた体積換算粒子径分布において、1μm以上の乾式アルミナ微粒子の割合が5容量%以下であるであることが好ましく、3容量%以下であることがさらに好ましい。このような画像解析法により求めた体積換算粒子径分布において、1μm以上の乾式アルミナ微粒子の割合が5容量%を超えるときには、粗大な粒子に起因して耐熱無機粒子層中の粒子間の隙間が不均一となり、電解液浸透性の悪化が生じやすくなる。また、粗大な粒子による摩耗等が顕著となり、電池の製造工程で摩耗により金属不純物が混入し易くなり、安全性を低下させる恐れがある。
【0040】
また、本発明の乾式アルミナ微粒子の平均円形度は0.85以上であることが好ましく、0.90以上であることがより好ましい。平均円形度が0.85よりも小さい場合には不定形の粒子の割合が多くなり、電池の製造工程で摩耗により金属不純物が混入し易くなる。
【0041】
<乾式アルミナ微粒子の製造>
本発明の乾式アルミナ微粒子の製造方法は特に制限されないが、以下の方法が好適に採用される。
【0042】
即ち、気体状のアルミニウム化合物と酸素と可燃性ガスにより形成される火炎中で、前記アルミニウム化合物から球状のアルミナ微粒子を生成せしめる方法において、以下の条件を満足する乾式アルミナ微粒子の製造方法であることが好ましい。
【0043】
(1)断熱火炎温度が2500K以上である。
【0044】
(2)原料が気体状のアルミニウム化合物である。
【0045】
(3)バーナから供給される可燃性ガスの和と原料となるアルミニウム化合物が完全に反応するために必要な可燃性ガス量の比が、下記式(2)を満足している。
【0046】
S
H/R
H≧5 (2)
(式中、S
Hは供給された可燃性ガス量の和(mol/h)、R
Hは供給した原料が完全に反応するために必要な可燃性ガス量(mol/h))
(4)最外環状管導入ガスが酸素と窒素等の不活性ガスの混合ガスであり、生成するアルミナ1kgあたりの最外環状管導入ガス量が下記式(3)を満たす値である。
【0047】
1.0<G
out/P
Al<5.0 (3)
G
out:最外環状管導入ガス量(Nm
3/H)
P
Al:生成するアルミナ重量(kg/H)。
【0048】
上記気体状のアルミニウム化合物の火炎加水分解反応において、燃焼火炎は、生成する乾式アルミナ微粒子が分散性に優れ、分散粒子の粒度分布が狭い特性を達成できるよう広い粒子成長領域を有することが必要である。即ち、燃焼火炎の温度を2500K以上とし、かつ燃焼火炎の冷却を抑止する条件を採用することにより、本発明の乾式アルミナ微粒子を得ることができる。
【0049】
前記本発明のアルミナ微粒子の製造方法において、気体状のアルミニウム化合物による火炎は、多重管バーナを用いて形成することが好ましい。多重管バーナは、中心管および中心管から同心円状に広がる複数の環状管より構成されることが好ましい。例えば、中心管および2本の環状管から構成される3重管バーナが挙げられる。また、火炎については可燃性ガスと支燃性ガスをそれぞれ別のノズルから供給する拡散火炎と、可燃性ガスと支燃性ガスをあらかじめ混合した後にノズルへ供給する予混合火炎のいずれでも良いが、安定的に火炎を形成させること、かつ断熱火炎温度を高くすることが可能な拡散火炎を用いることが好ましい。予混合火炎である場合には、火炎温度の調整は火炎の逆火、吹き飛びの虞がない範囲で実施する必要がある。このため、中心管のガス流速は、10〜200Nm/sの範囲が好ましく、20〜180Nm/sの範囲であることがより好ましい。なお、流速の単位であるNm/sは、温度273K、大気圧で換算した場合の流速である。
【0050】
また、前記可燃性ガスは水素、又はメタン、プロパン、ブタン等の炭化水素ガスのいずれでもよいが、生成したアルミナに炭素が残存しないこと、また環境負荷の観点から水素を用いることが好ましい。
【0051】
アルミナ粒子の原料としては気体状のアルミニウム化合物を用いる。原料に固体を用いると、ガス中での原料濃度が不均一となり、粒子径が均一になりにくく粗粒が生成し易くなる為好ましくない。好ましい気体状のアルミニウム化合物はハロゲン化アルミニウム等の安価な化合物であり、特に気化させて水素と容易に混合できる塩化アルミニウム、AlCl
3がより好ましい。気体状のアルミニウム化合物は、高純度なアルミナが得られるよう、鉄、ナトリウム、カリウムなど不純物の含有量が少ないものを使用するとよい。
【0052】
混合する可燃性ガスは、気体状のアルミニウム化合物の加水分解反応に要する当量以上の量を混合することが必須である。この際、酸素等の支燃性ガスを混合しても良く、さらには窒素などの不活性ガスを混合しても良い。
【0053】
本発明のアルミナ微粒子を得るために、バーナから供給される可燃性ガスの和と原料となるアルミニウム化合物が完全に反応するために必要な可燃性ガス量の比が、下記式(2)を満足することが好ましい
S
H/R
H≧5(2)
(式中、S
Hは供給された可燃性ガス量の和(mol/h)、R
Hは供給した原料が完全に反応するために必要な可燃性ガス量(mol/h))
上記式(2)の値が5よりも小さい場合には、高い火炎温度を維持できず、一次粒子が強く凝集し、分散性の良い球状粒子を得ることが困難である。
【0054】
中心管の外側にある第1環状管には、燃焼補助火炎形成のため水素や炭化水素などの可燃性ガスを導入する。このとき、窒素などの不活性ガス、および/または酸素などの支燃性ガスを混合してもよい。
【0055】
多重管バーナの最も外側にある最外環状管には、火炎冷却および火炎燃焼安定化のため酸素などの支燃性ガスを導入する。このとき、窒素などの不活性ガスを混合しても良い。
【0056】
本発明の乾式アルミナ微粒子の製造方法において、断熱火炎温度は2500Kから4000Kであることが好ましく、2800Kから3500Kであることがさらに好ましい。断熱火炎温度が2500K未満の場合、火炎温度が低すぎる結果、生成するアルミナ微粒子のBET比表面積が50m
2/g以上となるか、50m
2/g未満であっても、アルミナ微粒子の溶融時間が短いため、アルミナ粒子同士の化学結合で形成された融着大粒子・粗大粒子や分散不可能であるほど物理的に強固に凝集した大粒子・粗大粒子が消失せず、残留する。一方、4000Kを超えると、燃焼火炎中でアルミナ微粒子の溶融時間が長いため、成長時間が長くなり1次粒子径が1μmを超える粗大粒子が生成し易くなる。
【0057】
本発明における断熱火炎温度は、燃焼反応における反応熱を燃焼によって得られた熱量により生成する成分、もしくは残存する成分の各々の熱容量に対して均等に分配する時の反応系の温度と定義付けられる。例えば、原料として塩化アルミニウムを用いた場合に、燃焼反応により生成、副生、残存する塩化アルミニウム(AlCl
3)、アルミナ(Al
2O
3)、水蒸気(H
2O)、塩化水素(HCl)酸素(O
2)、窒素(N
2)の時間当たりの量をN
AlCl3、N
Al2O3、N
H2O、N
HCl、N
O2、N
N2(mol/h)、
生成熱をΔH
AlCl3、ΔH
Al2O3、ΔH
H2O、ΔH
HCl(J/mol)、熱容量をCp
Al2O3、Cp
HCl、Cp
H2O、Cp
O2、Cp
N2(J/mol・K)とすると、断熱火炎温度をT(K)としたときに以下の式で表すことができる。
【0058】
T=(ΔH
Al2O3N
Al2O3+ΔH
H2ON
H2O+ΔH
HClN
HCl−ΔH
AlCl3N
AlCl3)/(N
Al2O3Cp
Al2O3+N
H2OCp
H2O+N
HClCp
HCl+N
O2Cp
O2+N
N2Cp
N2)
なお、前記熱容量Cp(J/mol・K)の値はJANAF熱化学表により得ることが可能であり、今回は一律に3000Kにおける値を使用している。
【0059】
本発明の乾式アルミナ微粒子を得るには、燃焼安定性に支障のない範囲で、燃焼火炎の冷却を抑止することが特に重要である。すなわち、燃焼火炎の冷却を抑止するために、以下の二つの要素が満足されることが必要である。
【0060】
第一の要素は、高温であるため溶融状態のアルミナ融液の粘度が十分に低くなり、アルミナ微粒子の形状転換が容易となることである。第二の要素は、形状転換が容易になる領域を広くとれることである。この二つ要素が満足される場合、アルミナ粒子同士の化学結合で形成された融着大粒子・粗大粒子と分散不可能な物理的に強固に凝集した大粒子・粗大粒子に対し、生成の抑止あるいは形状転換による消失促進が起こる。その結果、該乾式アルミナ微粒子は分散性に優れた特性、分散粒子粒度分布が狭い特性、分散粒子粒度分布が特に大きい粒子側にロングテイルを引かない特性、を発揮することが可能である。
【0061】
具体的には、上記燃焼火炎の冷却は、気体状のアルミニウム化合物の火炎加水分解反応によって生成するアルミナ量に合わせて、多重管バーナの最も外側にある最外環状管に導入するガス量を調整することでなされる。詳述すると、生成するアルミナ1kgあたりの最外環状管導入ガス量が下記式(3)を満たすように調整する。
【0062】
1.0<G
out/P
Al<5.0(3)
G
out:最外環状管導入ガス量(Nm
3/H)
P
Al:生成するアルミナ重量(kg/H)。
【0063】
上記G
out/P
Alが1.0(Nm
3/kg)以下であると、高温燃焼ガスの浮力がガス流れを乱し、生成したアルミナ微粒子が火炎に再度舞い戻る結果、大粒子あるいは極端に大きな粗大粒子、ならびに、一次粒子の化学結合あるいは強固な物理結合で形成された大きな凝集体が生成する。またバーナノズル本体が火炎と接触し損傷させる可能性がある。
【0064】
一方、上記G
out/P
Alが5.0(Nm
3/kg)以上であると、燃焼火炎が急速に冷却される結果、数十nmの微小粒子が発生する問題と溶融状態のアルミナ融液の粘度が高い領域が増え形状転換が困難になる問題が生じ、一次粒子の化学結合あるいは強固な物理結合で形成された凝集体が生成する。加えて、乾式アルミナ微粒子の比表面積が50m
2/g以上になり易い問題も生じる。
【0065】
本発明の乾式アルミナ微粒子は火炎中および火炎近傍で生成・成長・凝集させることで得られるが、その回収は金属フィルター、セラミックフィルター、バックフィルター等によるフィルター分離やサイクロン等による遠心分離で燃焼ガスと分離させて、回収することでなされる。
【0066】
回収後のアルミナ微粒子はアルミナ表面中に残留する酸性ガスを大気雰囲気化もしくは、窒素雰囲気化で加熱又は水蒸気処理等を行って除去する。また酸性ガス除去後にアルミナ表面に付着した水分を熱処理により除去しても構わない。
【0067】
本発明の乾式アルミナ微粒子は、従来の火炎燃焼法によって得られる乾式アルミナ微粒子に比べて微細な粒子は極めて少ないため、特に、取扱時における水分の吸収による問題は起こり難いが、保存中、取扱時等における水分の吸収を極力防止するため、25℃における酸素透過度が10L/m
2・day・atm以下、透湿度が50g/m
2・24hr以下のシートよりなる包装袋に、製造直後、好ましくは、製造後10時間以内、好ましくは、2時間以内、特に好ましくは、1時間以内に、収納することが好ましい。
【0068】
本発明は、前記乾式アルミナ微粒子を、樹脂バインダー分散液中に、体積容量が30容量%を超える割合で含有し、測定温度は25℃、せん断速度は10s
−1で測定した時の粘度が20Pa・s以下であることを特徴とするアルミナ含有樹脂バインダー分散液をも提供する。
【0069】
前記アルミナ含有樹脂バインダー分散液は、本発明の乾式アルミナ微粒子と樹脂バインダーとを溶媒に分散させることより得られるが、本発明の乾式アルミナ微粒子は、前記特性により、樹脂バインダーを含有する溶媒中に、極めて高濃度まで分散させても粘度の上昇が極めて少ない為、高濃度まで充填することが可能である。その為従来の耐熱無機粒子層よりも厚みを薄くしても機械的強度を維持することが可能であり、耐熱無機粒子層用の塗工液として極めて有用である。
【0070】
上記樹脂バインダーとしては、例えば、スチレン−ブタジエン共重合体およびその水素化物、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体およびその水素化物、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体およびその水素化物、メタクリル酸エステル−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−アクリル酸エステル共重合体、アクリロニトリル−アクリル酸エステル共重合体、エチレンプロピレンラバー、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニルなどのゴム類、ポリフッ化ビニリデンやポリテトラフルオロエチレンなどの含フッ素樹脂、ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリアミド、ポリエステルなどの樹脂が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を併用することも可能である。これらのバインダー樹脂の中で、特に、ポリビニルアルコールが好適である。
【0071】
前記溶媒としては、樹脂バインダーが均一かつ安定に溶解可能であり、また、乾式アルミナ微粒子が良好に分散可能な溶媒を用いることが好ましい。このような溶媒としては、例えば、N−メチルピロリドンやN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、水、エタノール、トルエン、キシレン、ヘキサンなどが挙げられる。これらの溶媒の内、前記ポリビニルアルコールを樹脂バインダーとして使用する場合、水またはN−メチルピロリドンが好ましい。
【0072】
本発明の乾式アルミナ微粒子を使用することにより、30容量%を超える、特に、35容量%以上の高い濃度で該乾式アルミナ微粒子を分散液中に分散させることが可能である。
【0073】
かかる高濃度の乾式アルミナ微粒子を分散しながら、20Pa・s以下という、乾式アルミナ微粒子の濃度に対して極めて低粘度のアルミナ含有樹脂バインダー分散液が提供される。前記アルミナ含有樹脂バインダー分散液の粘度は塗工性の良さから20Pa・s以下であることが好ましく、15Pa・s以下であることがより好ましく、10Pa・s以下であることが特に好ましい。
【0074】
尚、前記乾式アルミナ微粒子の濃度の上限は、上記粘度を超えない範囲であれば特に制限されない。
【0075】
また、本発明において、前記乾式アルミナ微粒子の容積割合を求める際の乾式アルミナ微粒子の容量は、常温における乾式アルミナ微粒子の重量とアルミナの真密度とより求めた値である。
【0076】
本発明のアルミナ含有樹脂分散液には、分散液の安定化、あるいは多孔質樹脂膜への塗工性の向上の為に、界面活性剤等の分散剤、増粘剤、湿潤剤、消泡剤、酸やアルカリを含むpH調製剤、等の各種添加剤を加えてもよい。
【0077】
また、本発明は、上記アルミナ含有樹脂バインダー分散液を、微多孔質樹脂フィルムの表面に塗布することにより形成された耐熱無機粒子層を有することを特徴とするリチウムイオン二次電池用セパレータをも提供する。
【0078】
即ち、前記本発明の乾式アルミナ微粒子、樹脂バインダー、溶媒を含むアルミナ含有樹脂バインダー分散液を微多孔質樹脂フィルム膜上に塗布することにより、耐熱無機粒子層の厚みを薄くした場合にも緻密な無機粒子層を形成することができ、高い耐熱性と強度を有するリチウムイオン二次電池用セパレータとして機能する。
【0079】
具体的には、前記アルミナ含有樹脂バインダー分散液を、前記微多孔質樹脂フィルム膜の片面もしくは両面に塗布した後、溶媒を除去することにより微多孔質樹脂膜の表面に耐熱層として機能する無機粒子層を形成したリチウムイオン二次電池用セパレータを得ることができる。上記リチウムイオン二次電池用セパレータの機械的強度は、突刺し試験で測定することが可能であり、前記アルミナ含有樹脂バインダー分散液を塗布して形成された無機粒子層により、本発明のリチウムイオン二次電池用セパレータは、3N以上、特に、3.5N以上の突き差し強度を達成することができる。
【0080】
本発明のリチウムイオン二次電池用セパレータにおいて、基材を構成する微多孔質樹脂膜は、かかる用途に使用される特性を有するものが特に制限無く使用される。例えば、樹脂の材質としては、ポリオレフィン、とりわけ、ポリエチレンが一般的である。また、微多孔質樹脂膜の厚みは、1〜50μm程度が一般的である。
【0081】
また、前記無機粒子層の厚みは、本発明のアルミナ含有樹脂バインダー分散液を用いることにより、0.5〜10μm、より好ましくは0.5〜5μm、特に好ましくは0.5〜3μmとなるように前記アルミナ含有樹脂バインダー分散液を塗布することが好ましい。
【0082】
上記アルミナ含有樹脂バインダー分散液を微多孔質樹脂膜に塗布する方法については、必要とする層厚や塗布面積を実現できる方法であれば特に限定はない。例えば、グラビアコーター法、リバースロールコーター法、トランスファロールコーター法、キスコーター法、ディップコーター法、ナイフコーター法、エアドクタコーター法、ブレードコーター法、ロッドコーター法、キャストコーター法、スクイズコーター法、ダイコーター法等などの方法が挙げられる。中でも、均一な多孔膜が得られる点でグラビアコーター法が好ましい。
【0083】
本発明の乾式アルミナ微粒子は、前述したリチウムイオン二次電池セパレータ用の無機粒子層を構成する耐熱粒子としての用途に好適に使用されるが、かかる用途に限定されるものでなく、単独で或いは他の粒子と組み合わせて、その他の用途に使用することも可能である。例えば、半導体用途、焼結体材料、樹脂の耐熱フィラー用途、CMP等の研磨材、窒化アルミニウム等のアルミニウム化合物原料、単結晶用原料、耐摩耗用充填剤、ガス等の分離膜、化粧品、精密樹脂成形品充填材、歯科材用充填材、トナー外添材、金属・セラミックス等への被膜材等の用途にも好適に使用することができる。
【0084】
<実施例>
本発明を具体的に説明するために実施例及び比較例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
なお、以下の実施例及び比較例における各種の物性測定等は以下の方法による。
実施例1〜4、比較例1〜4
乾式アルミナ微粒子合成
気体状の塩化アルミニウムを同心円3重管バーナで燃焼させ乾式アルミナ微粒子を製造した。
【0085】
実施例1〜3、比較例1〜3においては、加熱気化させた原料と水素を混合した後、バーナ中心管に導入した。また、窒素を中心管の外周に配置した第1環状管に導入し、酸素を第1環状管の外周に配置した第2環状管に導入し、乾式アルミナ微粒子を得た。第2環状管が本バーナにおける最外環状管となる。
また実施例4、比較例4においては、加熱気化させた原料と水素、窒素、酸素を混合した後、バーナ中心管に導入した。また、水素、窒素を中心管の外周に配置した第1環状管に導入し、酸素を第1環状管の外周に配置した第2環状管に導入し乾式アルミナ微粒子を得た。
【0086】
得られた乾式アルミナ微粒子はバグフィルターで回収後、空気、水蒸気を用いて脱酸を行いアルミナ微粒子に付着したCl分を除去した。この脱酸後の乾式アルミナ微粒子のBET比表面積、吸光度、粒子表面のOH基数、画像解析法により求める体積頻度、平均円形度を測定した。
【0087】
(1)比表面積測定:
BET比表面積は日本ベル製のBELSORP−max(商品名)により窒素吸着BET法により測定した。
【0088】
(2)吸光度測定:
日本分光社製分光光度計(V−530)を用いて、波長700nmの光に対するアルミナ濃度0.2重量%の水懸濁物の吸光度τを測定した。
測定試料セルとしては、東京硝子器械社製合成石英セル(5面透明、10×10×45H)を用いた。
【0089】
アルミナ濃度0.2重量%の水懸濁物は、以下のように調製した。
【0090】
アルミナ微粒子0.04gと蒸留水20mlをガラス製のサンプル管瓶(アズワン社製、内容量30ml、外径約28mm)に入れ、超音波細胞破砕器(BRANSON社製SonifierIIModel250D、プローブ:1/4インチ)のプローブチップ下面が水面下15mmになるようにセットし、出力24W、分散時間5分の条件でアルミナ微粒子を蒸留水に分散した。
【0091】
(3)画像解析法により求める体積頻度測定:
日立ハイテクノロジーズ製電界放射型走査電子顕微鏡S−5500で粒子5000個を2次電子像で任意に撮影し、撮影した画像を画像解析装置(旭エンジニアリング社製、IP−1000C 商品名)で粒子径解析を行い、体積頻度を算出し、1μm以上の頻度の和を求めた。
【0092】
(4)平均円形度測定:
得られた乾式アルミナ微粒子5000個の円形度を画像解析装置(旭エンジニアリング社製IP−1000C)により算出し、平均値を算出した。
【0093】
(5)粒子表面のOH基数測定方法:
本発明における粒子表面のOH基数の定量はカールフィッシャー法を用いて行った。カールフィッシャー水分計は、京都電子製電量式カールフィッシャー水分計MKC−610に鉱石用水分気化装置ADP−512を接続したものを使用した。水分気化装置には加熱炉が設置されており、気化した水分を乾燥窒素で水分計に導入し、水分量の測定を行った。設定温度は100℃から200℃に昇温させたとき、200℃から500℃に昇温させたとき、500℃から900℃に昇温させたときの3段階で測定を行い、その合計の水分量を算出した。なお、カールフィッシャー法において検出された水分量は、OH基2個が縮合して1個の水分子になると考え、次式により求めた。
OH基数(個/nm
2)=0.0662×水分量(ppm)/乾式アルミナ微粒子の比表面積(m
2/g)
表1に実施例1〜4の製造条件とアルミナ特性を、表2に比較例1〜3の製造条件とアルミナ特性をそれぞれ示す。
【0096】
注:S
Hは供給された可燃性ガス量の和(mol/h)、R
Hは供給した原料が完全に反応するために必要な可燃性ガス量(mol/h)、
F(S)=170S
−1.4−0.1、
G
out:最外環状管導入ガス量(Nm
3/H)、
P
Al:生成するアルミナ重量(kg/H)
実施例5〜8、比較例5〜7
耐熱無機粒子層形成
アルミナを、PVA(重合度1700、ケン化度98%以上)濃度が3質量%の分散液に添加し、ホモジナイザーで分散させ、アルミナ含有樹脂バインダー分散液を調製した。実施例では上記実施例1により得られた乾式アルミナ微粒子を用い、比較例では他社アルミナ製品を用いた。比較例5では住友化学株式会社製、商品名:AKP−3000を用いた。また実施例5・6、比較例5・6では溶媒として水を、実施例7・8、比較例7では溶媒としてN−メチルピロリドンを用いた。上記アルミナ含有樹脂分散液中のアルミナの体積容量については、実施例5〜8、比較例6・7においては表3に記載の濃度で調製した。
【0097】
上記分散液の粘度を測定した。粘度はレオメーター(AR2000EX、TA Instruments社製 商品名)を用い、測定温度は25℃、せん断速度は10s
−1とした。
【0098】
次いで、前記アルミナ含有樹脂分散液を、グラビアコーターを用いて市販のポリエチレン微多孔膜に塗布し、60℃で乾燥させることで溶媒を除去し、無機粒子層を形成した。厚みは表3に記載した厚みで塗工した。かかる無機粒子層を形成したポリエチレン微多孔膜に対して、突刺し強度試験を行い、膜の突刺し強度を測定した。突刺し強度は、ハンディー圧縮試験器「KES−G5」(カトーテック製、商品名)を用いて、針先端の曲率半径は0.5mm、突刺速度は2mm/secの条件で突刺し試験を行うことにより求めた。得られた最大突刺荷重を突刺強度とした。結果を表3に示す。
表3に調製したアルミナ含有樹脂分散液の粘度、突刺し強度の測定結果を示す。
表3より、アルミナ含有樹脂バインダー分散液中のアルミナの体積容量が30容量%を超える場合にアルミナ含有樹脂分散液粘度と突刺し強度の値が特に好適な範囲となることが理解される。また比較例5のように分散性の異なるアルミナを用いた場合にはアルミナの体積容量が30容量%を超えるまでアルミナを充填することが困難である。