【文献】
Benedikt Weber, et al.,"Improved iterative regularization for vibration-based damage detection",Proceedings of SPIE,2005年,Vol. 5767,pp.132-142
【文献】
I. Loris, et al.,"Nonlinear regularization techniques for seismic tomography",arXiv [Physics.geo-ph],2010年 8月18日,0808.3472v3
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
少なくとも2つの実マニピュレータ(M1、M2、M3)が、少なくとも2つの異なる光学要素(L1からL6)の光学特性を変更するように構成されることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の方法。
前記少なくとも2つの異なる光学要素(L1からL6)は、前記装置の作動中に投影光が入射する湾曲面を有する少なくとも1つの更に別の光学要素によって互いから分離されることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【背景技術】
【0002】
マイクロリソグラフィ(フォトリソグラフィ又は簡易的にリソグラフィとも呼ばれる)は、集積回路、液晶ディスプレイ、及びその他のマイクロ構造デバイスの加工に向けた技術である。マイクロリソグラフィ工程は、エッチング工程との併用で、基板、例えばシリコンウェーハ上に形成された薄膜積層体内に特徴部をパターン付けする目的で用いられる。加工の各層において、まずウェーハが、深紫外(DUV)光、真空紫外(VUV)光、又は極紫外(EUV)光等の放射線に対して感度を有する材料であるフォトレジストで被覆される。次に、フォトレジストを上に有するウェーハが、投影露光装置内にあるマスクを通して投影光に露光される。マスクは、フォトレジスト上に投影すべき回路パターンを含む。露光の後に、フォトレジストが現像され、マスク内に含まれる回路パターンに対応する像が生成される。続いてエッチング工程が、この回路パターンをウェーハ上の薄膜積層体内に転写する。最後にフォトレジストが除去される。異なるマスクを用いてのこの工程の繰り返しによって、多層マイクロ構造化構成要素がもたらされる。
【0003】
一般的に投影露光装置は、照明系と、マスクを位置合わせするためのマスクアラインメント台と、投影対物系と、フォトレジストで被覆されたウェーハを位置合わせするためのウェーハアラインメント台とを含む。照明系は、例えば矩形スリット又は幅狭のリングセグメントの形状を有することができる視野をマスク上に照明する。
【0004】
現在の投影露光装置では、2つの異なるタイプの装置の間で区別をつけることができる。一方のタイプでは、ウェーハ上の各ターゲット部分は、その上にマスクパターン全体を一回で露光することによって照射され、かかる装置は、一般的にウェーハステッパと呼ばれる。一般的に逐次走査装置又は簡易的にスキャナと呼ばれるもう一方のタイプの装置では、各ターゲット部分は、投影光ビームの下で与えられた基準方向にマスクパターンを漸進的に走査し、それと同時にこの方向に対して平行又は反平行に基板を同期して走査することによって照射される。ウェーハの速度とマスクの速度との比は、投影レンズの拡大倍率βに等しい。拡大倍率に対する典型的な値は、β=±1/4である。
【0005】
「マスク」(又はレチクル)という用語は、パターン付け手段として広義に解釈すべきものと理解されたい。一般的に用いられるマスクは、透過性又は反射性のパターンを含み、例えば、バイナリマスク型、交互位相シフトマスク型、減衰位相シフトマスク型、又は様々な混成マスク型のものとすることができる。
【0006】
投影露光装置の開発における主要目的の1つは、益々小さい寸法を有する構造をウェーハ上にリソグラフィによって生成することができることである。小さい構造は高い集積密度を生じ、この高い集積密度は、一般的に、かかる装置を用いて作製されるマイクロ構造化構成要素の性能に対して好ましい効果を有する。更に、単一のウェーハ上により多くのデバイスを作製することができる程、装置のスループットはより高い。
【0007】
生成することができる構造のサイズは、主として使用投影対物系の分解能に依存する。投影対物系の分解能は、投影レンズの波長に反比例することから、分解能を高める1つの手法は、益々短い波長を有する投影光を用いることである。現在用いられている最も短い波長は、248nm、193nm、及び13.5nmであり、従ってそれぞれ深紫外(DUV)、真空紫外(VUV)、及び極紫外(及び極紫外)のスペクトル範囲内にある。将来の装置は、6.9nm程度の短さの波長を有する光(軟x線)を用いる可能性がある。
【0008】
非常に高い分解能を有する投影対物系では、像誤差(本明細書ではこの用語を収差に対する同義語として用いる)の補正が益々重要になってきている。通常、異なるタイプの像誤差は、異なる補正措置を必要とする。
【0009】
回転対称像誤差の補正は比較的容易である。像誤差が光学系の回転に対して不変量である場合には、この像誤差を、回転対称であると言う。回転対称像誤差は、例えば、個々の光学要素を光軸に沿って移動させることによって少なくとも部分的に補正することができる。
【0010】
回転対称ではない像誤差の補正はより困難である。かかる像誤差は、例えば、レンズ及びその他の光学要素が回転非対称に高温になることに起因して発生する。この種の1つの像誤差は非点収差である。
【0011】
回転非対称像誤差についての主要原因は、一般的にスキャナ型の投影露光装置において遭遇するようなマスクの回転非対称、特にスリット形の照明である。スリット形照明視野は、視野平面の近位に配置された光学要素の不均一加熱を引き起こす。この加熱は、光学要素の変形を生じ、レンズ及びその他の屈折型要素の場合には屈折率の変化を生じる。更に、屈折光学要素の材料が高エネルギー投影光に繰り返し露光される場合には、永続的な材料変化が見られる。例えば、時によっては、投影光に露光された材料の収縮が発生し、この収縮は、屈折率の局所的かつ永続的な変化を生じる。
【0012】
熱誘起変形、屈折率変化、及びコーティング損傷は、光学要素の特性を変更し、それによって像誤差を引き起こす。熱誘起像誤差は、時によっては光軸に関する2回対称性を有する。しかし、他の対称性、例えば3回又は5回を有する像誤差も、投影対物系では頻繁に見られる。
【0013】
回転非対称像誤差についてのもう1つの主要原因は、照明系の瞳平面が回転非対称方式で照明されるある特定の非対称照明設定である。かかる設定についての重要な例は、瞳平面内で2つの極しか照明されない二重極設定である。かかる二重極設定を用いると、投影対物系内の瞳平面は、強く照明される2つの領域を含む。その結果、これらの瞳平面内又はその近位に配置されたレンズ又はミラーは、回転非対称像誤差を生じさせる回転非対称強度分布に曝される。四重極設定も、二重極設定よりも程度は弱いが、しばしば回転非対称像誤差を生成する。
【0014】
像誤差を補正するために、ほとんどの投影対物系は、その内部に含まれる少なくとも1つの光学要素の光学特性を変更する補正デバイスを含む。以下では、幾つかの従来技術の補正デバイスを簡単に説明することにする。
【0015】
回転非対称像誤差を補正するために、US 6,338,823 B1は、レンズを変形する補正デバイスを提案している。この目的を達成するために、この補正デバイスは、レンズの円周に沿って配置された複数のアクチュエータを含む。レンズの変形は、熱誘起像誤差が少なくとも部分的に補正されるように決定される。更に複雑なタイプのかかる補正デバイスは、US 2010/0128367 A1及びUS 7,830,611 B2に開示されている。
【0016】
アクチュエータを用いた光学要素の変形は、幾つかの欠点も有する。アクチュエータがプレート又はレンズの円周に沿って配置される場合には、アクチュエータを用いても限られたタイプの変形しか生成することができない。このことは、アクチュエータの個数と配置との両方が固定されていることに起因する。特に、Z
10、Z
36、Z
40、又はZ
64等の高次のゼルニケ多項式によって表すことができる変形を生成するのは通常は困難又は不可能でさえある。
【0017】
US 2010/0201958 A1及びUS 2009/0257032 A1は、液体によって互いから分離された2つの透過性光学要素を含む補正デバイスを開示している。これらの光学要素の屈折率を局所的に変化させることによって光学波面補正が生成される。この目的を果たすために、面全体にわたって延び、個々に制御することができる加熱ワイヤを有する1つの光学要素を設けることができる。液体は、光学要素の平均温度が一定に保たれることを確実にする。様々な像誤差を非常に良好に補正することができる。
【0018】
WO 2011/116792 A1は、投影露光装置の作動中に出口開口から流出する複数の流体流れが、投影光が通って伝播する空間に流入する補正デバイスを開示している。各流体流れに対して個々に、温度コントローラが流体流れ温度を設定する。温度分布は、それによって引き起こされる光学経路長の差が像誤差を補正するように決定される。
【0019】
US 6,504,597 B2及びWO 2013/044936 A1は、加熱光がレンズ又はプレート内にその周縁面を介して、すなわち、円周上で結合される補正デバイスを提案している。単一の光源によって生成された加熱光を光学要素の周囲に沿って分散された様々な場所に導くために、光ファイバを用いることができる。
【0020】
上記に説明した補正デバイスは、これらのデバイスの自由度に関して異なっている。補正デバイスの自由度は、個々に変えることができるパラメータの個数である。多くの場合、自由度は、個々に制御することができるアクチュエータの個数に関係付けられる。例えば、補正デバイスが、レンズを光軸に沿って変位させるように構成された1つのアクチュエータを含む場合には、自由度は1である。2又は3以上のアクチュエータを含む補正デバイスでは、同じ制御信号を3つ全てのアクチュエータに印加することによってアクチュエータを制御することしかできない場合には、同じ自由度1が当てはまる。
【0021】
光学要素を湾曲させる補正デバイスでは、自由度は、多くの場合1よりも高い。可変温度分布を生成する補正デバイスでは、更に高い自由度を見つけることができる。例えば、上述のUS 2010/0201958 Aに開示されている補正デバイスでは、各加熱ワイヤが1つの自由度を表す。従って、補正デバイスが例えば200本の加熱ワイヤを含む場合には、自由度は200である。
【0022】
以下では、補正デバイスの各自由度をマニピュレータと呼ぶことにする。この用語は、レンズ及びその他の光学要素の位置をマイクロメートルねじを用いて手動で調節することができる初期の従来技術方式に由来する。この場合、各ねじが1つの自由度を表す。一方、マニピュレータという用語は、マニピュレータに印加される制御信号に応答して、少なくとも1つの光学要素の光学特性を変更するように構成されたいずれかの構成要素をより一般的に表すために当該技術分野において幅広く用いられている。
【0023】
投影対物系が、各々が1と数十との間の範囲内にある合計自由度を有する幾つかの補正デバイスを含む場合には、投影対物系内の合計自由度は、非常に大きいものである場合があり、例えば100を超えることが可能である。そうなると、測定された又は補完によって予測された像誤差が完全に補正される又は少なくとも許容可能限度まで低減されるように各マニピュレータを制御するのは困難な作業である。
【0024】
この困難の理由は多岐にわたる。1つの理由は、各マニピュレータによって生成される光学効果が通常は複雑なことである。多くの場合、光学効果は、対物系の像平面内の点に関係付けられる光学波面に関連して表される。収差不在の投影対物系では、光学波面は球面形状を有する。像誤差の存在下では、光学波面は理想的な球面形状から偏倚する。かかる波面変形は、例えば対物系の像平面内の干渉計を用いて測定することができる。代替として、対物系の光学特性が正確に既知であるか又はシミュレーションプログラムを用いて確実に予測することができる場合には、波面変形を計算することができる。
【0025】
波面変形を表す上での光学系技術分野における1つの十分に確立された方法は、この変形をゼルニケ多項式へと展開することである。極座標を表す(ρ,φ)を用いたこれらの多項式Z
j(ρ,φ)は、2つの変数に依存するいずれか任意の関数をこれらの多項式へと分解することができるような正規化かつ直交完全関数を形成する。ゼルニケ多項式は、そのうちの多くのものが馴染み深い3次の収差を表すことから幅広く用いられている。従って、多くの場合ゼルニケ係数と呼ばれる展開係数は、これらの像誤差に直接に関係付けることができる。
【0026】
残念ながら、1つのゼルニケ係数にしか影響を与えないマニピュレータはほとんど存在しない。通常、各マニピュレータは、複数のゼルニケ係数に影響を与える。各々が幾つかのゼルニケ係数に影響を与えるマニピュレータが数百個存在する場合には、像誤差を低減するのに必要とされる補正効果を得るためにマニピュレータをどのように制御しなければならないかを決定するのが困難である。
【0027】
マニピュレータがある特定の制約条件の下にあることによって更なる複雑さが加えられる。とりわけ、マニピュレータは、限られた範囲及び限られた応答時間を有する。例えば、マニピュレータを用いた光軸に沿ったレンズの変位は、数マイクロメートルの範囲又は数百マイクロメートルの範囲に制限される場合があり、レンズを全体の範囲にわたって変位させるのに必要とされる応答時間は、1秒である場合がある。他のマニピュレータは、数ミリ秒程度の応答時間を有し、更に他のマニピュレータは、数秒又は更には数分程度の応答時間を有する。従って像誤差が突然増大し、素早い応答時間が必要とされる場合には、第1の段階で低速なマニピュレータを完全に無視しなければならない場合がある。その一方で、波面変形に対して高速マニピュレータによって得られる光学効果は、幾つかの場合には過度に弱い場合がある。従って高度な投影対物系内には、通常は高速マニピュレータと低速マニピュレータとの組み合わせが設けられる。
【0028】
マニピュレータに与えられた制御信号セットが印加される場合に、マニピュレータによって生成される光学効果を決定するのは比較的容易である。この決定は、各マニピュレータの効果を個々に計算し、続いてこれらの効果を重ね合わせることによって解くことができる順問題である。
【0029】
しかし、マニピュレータが、波面変形に対して望ましい補正効果を共通して生成するようにマニピュレータをどのように制御しなければならないかを決定するのは、いわゆる逆問題である。大抵の場合はそうであるが、逆問題に対して正確な解が存在しない場合には、この問題は、当該技術分野で不良設定問題と呼ばれる。かかる不良設定問題は、多くの場合、正則化アルゴリズムを適用することによって十分に解くことができる。
【0030】
US 2012/0188524 A1は、逆問題の数値的安定化が、特異値分解(SVD)又はチコノフ正則化を実施することによって達成される投影対物系のマニピュレータを制御する方法を開示している。チコノフ正則化に対する重みγの決定は、好ましくはL字曲線法を用いることによって得られる。安定化した逆問題は最小化問題へと変換され、この最小化問題は、それに対する境界条件を決定した後に、シンプレックス法又はその他の方法等の数値的方法、例えば、線形計画法、二次計画法、又は擬似焼きなまし法を用いることによって解くことができる。
【0031】
非公開ドイツ特許出願DE 10 2012 212 758は、低速に変化する像誤差と高速に変化する像誤差とが異なる時間スケール上で互いに個々に補正される投影対物系のマニピュレータに対する制御スキームを開示している。
【0032】
先に述べたWO 2013/044936 A1は、レンズ又はプレートの周縁面上に導かれる加熱光ビームの強度を上述のUS 2012/0188524 A1に説明されているものと同様の方式で制御することができることを説明している。一実施形態では、特定の屈折率分布を生成するのに必要とされる加熱光ビームの強度がオフラインで決定される。これらの特定の分布は、例えば、波面変形を表す上でも用いられるある特定のゼルニケ多項式によって表すことができる。投影露光装置の作動中には、レンズ又はプレート内の望ましい屈折率分布は、オフラインで加熱光ビームの必要強度が決定された特定の(ゼルニケ)分布の線形重畳へと分解される。この場合、個々の加熱光ビームに対して結果として生じる強度は、特定の分布に関係付けられる強度の和であるが、重畳係数によって重み付けされたものである。特定のゼルニケ分布の個数は、加熱光ビームの個数よりもかなり小さいことから、この手法は最終的に自由度の減少を生じ、従って個々の加熱光ビームの必要強度をかなり素早く決定することを可能にする。
【0033】
一般的に、投影対物系内での従来技術のマニピュレータ制御は、一方では極めて高速な実時間制御を与えるが、それにも関わらずもう一方で像誤差の良好な補正を達成する能力の不足に悩まされる。この能力不足によって、作製すべき電子構成要素内に欠陥が生じるか、又は像誤差が再度許容限度の範囲内にくるまで投影露光装置の作動を中断しなければならないことから低いスループットが生じる可能性がある。
【0034】
追記すると、上記の陳述内容は、マスク検査装置にも同様に当てはまる。これらの装置は、マスクが欠陥を含んでいないことを確実にするためにマスクを検査する上で用いられる。マスク検査装置は、主にフォトレジストで被覆されたウェーハが電子像センサによって置き換えられる点で投影露光装置とは異なる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0037】
本発明は、多数のマニピュレータを極めて高速に制御することを可能にするが、それにも関わらずその一方で像誤差の良好な補正を達成するマイクロリソグラフィ投影装置を作動させる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0038】
本発明によると、上記の目的は、
a)投影光経路に沿って配置された複数の光学要素と、各実マニピュレータが、それぞれの実マニピュレータに印加される最終制御信号に応答して光学要素のうちの少なくとも1つの光学特性を変更するように構成された複数の実マニピュレータとを含む投影対物系を与える段階と、b)仮想マニピュレータに印加される第1の仮想制御信号に応答して、予め決められた制御スキームに従って実マニピュレータのうちの少なくとも2つに対する予備制御信号を生成するように構成された仮想マニピュレータを定義する段階と、c)装置の作動中に、投影対物系の実像誤差を決定する段階、実像誤差に依存する望ましい補正効果を決定する段階、及び望ましい補正効果に依存して、仮想マニピュレータに対する第1の仮想制御信号と実マニピュレータの各々に対する第2の仮想制御信号とを決定する段階と、d)第1の仮想制御信号及び第2の仮想制御信号の関数である実マニピュレータに対する最終制御信号を決定する段階と、e)少なくとも1つの光学要素の光学特性が、実像誤差の修正、特に少なくとも部分的な補正を生じる方式で変更されるように、段階d)において決定された最終制御信号を実マニピュレータに印加する段階と、f)投影対物系の物体平面内に配置されたマスクの少なくとも一部分を投影光で照明する段階と、g)投影対物系の像平面内にマスクの像を形成する段階とを含む方法によって達成される。
【0039】
本発明は、仮想マニピュレータの設計構想が、一方で低速であるが非常に正確な制御アルゴリズムの利点をマニピュレータの高速実時間制御に適するそれ程正確ではないアルゴリズムと組み合わせることを可能にするという認識に基づいている。従来技術の手法とは対照的に、本発明は、1又は2以上の仮想マニピュレータを追加することによって自由度を意図的に増大させる。従来技術の方策において、いずれかのタイプの仮想マニピュレータを形成するためにある特定の実マニピュレータが組み合わせられる場合には、この組み合わせは、常に自由度、従って問題の複雑さを低減する目的で行われる。しかし、本発明によると、1又は2以上の仮想マニピュレータが追加されるが、それは最終制御信号を個々に計算しなければならない実マニピュレータの個数を低減することなく追加される。従って自由度及び複雑さは確かに増大するが、投影露光装置又はマスク検査装置内の像誤差の優れた補正という利点を伴い、かつマニピュレータを実時間条件の下で制御する能力を損なわずに増大する。
【0040】
実施形態において、段階b)は、b1)投影対物系の
仮説の像誤差を決定する更に別の段階と、b2)実マニピュレータの各々の制御範囲を決定する段階であって、特定の実マニピュレータの制御範囲が、特定の実マニピュレータに印加することができる最終制御信号の許容値を定義する上記決定する更に別の段階と、b3)仮説の第1の仮想制御信号に応答して仮想マニピュレータによって生成される
仮説の予備制御信号だけが実マニピュレータに印加された場合に、実マニピュレータが、光学要素のうちの少なくとも1つの光学特性を
仮説の像誤差の修正、特に少なくとも部分的な補正を生じる方式で変更するように、かつ
仮説の予備制御信号が、段階b2)において決定された制御範囲の範囲内にあるように制御スキームを決定する更に別の段階とを含む。
【0041】
従って、仮想マニピュレータは、投影対物系の
仮説の像誤差を非常に効果的に補正するように適合される。特に、この
仮説の像誤差が、装置の作動中に既に観測済みであるか、又は発生することが予測される実像誤差と同一又は非常に類似である場合には、
仮説の予備制御信号は、低速ではあるが非常に正確なアルゴリズムを用いてオフラインで計算することができることから、この
仮説の像誤差は、仮想マニピュレータを用いて非常に高速かつ効果的に補正することができる。
【0042】
例えば、装置の作動中に既に発生済みであるか又は発生することが予測される6つの異なる実像誤差が存在する場合には、各々が6つの
仮説の像誤差のうちの1つを補正するように特定的に適合された対応する個数である6つの仮想マニピュレータを設けることを構想することができる。装置の作動中に実像誤差が6つの
仮説の像誤差の間で単純に入れ替わる場合には、投影対物系内でその時点で観測される像誤差に関係付けられた仮想マニピュレータを作動させることしか必要ではない。この場合、この仮想マニピュレータは、前もってオフラインで計算済みの方式で実マニピュレータを制御する。
【0043】
しかし、通常、実像誤差は、
仮説の像誤差と同一にはならない。従って、仮想マニピュレータの間で単純に入れ替えを行うという設計構想は、複雑な実像誤差を補正するのに十分とはならない。しかし、実像誤差が、例えば、2つの
仮説の像誤差の組み合わせに仮想マニピュレータを利用することができない更なる像誤差成分が加えられたものとして表わされる可能性がある場合であっても、本発明は、かかる像誤差の補正に関して顕著な改善を可能にする。この場合、2つの仮想マニピュレータが強度に作動されることになり、幾つかの他の実マニピュレータが、これら2つの仮想マニピュレータとの組み合わせで更なる像誤差成分を補正することになる。
【0044】
一般的に、少なくとも1つの仮想マニピュレータの導入によって得られる利点は、実像誤差が、少なくとも1つの仮想マニピュレータが定義された
仮説の像誤差に可能な限り似ている場合に最も大きい。現実の装置には、特定のタイプの像誤差(例えば、二重極照明設定又は光学要素の非対称加熱に起因する様々なタイプの非点収差)を生じる典型的なコンステレーションが常に存在することから、少なくとも1つの仮想マニピュレータの導入によって得られる利点は、通常は非常に顕著である。
【0045】
段階b3)による制御スキームの決定は、好ましくはオフラインで実施されることから、仮説の第1の仮想制御信号に応答して仮想マニピュレータによって生成される
仮説の予備制御信号だけが実マニピュレータに印加された場合に、実マニピュレータが、段階b3)における光学要素のうちの少なくとも1つの光学特性を像誤差を評価するために用いられる事前定義された基準に従って
仮説の像誤差の可能な最良の補正を生じる方式で変えるように制御スキームを決定することができる。
【0046】
像誤差を評価する上で、事前定義された異なる基準を用いることができる。1つの基準によると、
仮説の像誤差の補正の後に留まる残留波面変形がゼルニケ多項式へと展開される。この場合、
仮説の像誤差の補正は、この展開の全てのゼルニケ係数の中の最大絶対値が、可能な最良の補正によって補正されない
仮説の像誤差の補正の後に留まる残留波面誤差が展開された場合に得られる全てのゼルニケ係数の中で対応する最大絶対値よりも小さい場合に可能な最良の補正と見なされる。
【0047】
かかる可能な最良の補正は、段階b3)において、制御スキームが、凸計画法アルゴリズム、特に逐次二次計画法アルゴリズム、更に特定的には二次計画法アルゴリズムを用いて最小化問題を解くことによって決定される場合に得ることができる。かかる凸計画法アルゴリズムは比較的低速であり、従って一般的に実時間条件下で実施されるのには適さない。しかし、段階b3)における制御スキームのオフライン決定では、凸計画法アルゴリズムは、上述した基準に対して可能な最良の結果を生成する。
【0048】
一実施形態では、仮説の仮想予備制御信号と仮説の第1の仮想制御信号との間の関数依存性が制御スキームを構成する。制御スキームが投影対物系の
仮説の像誤差に基づいて決定されない場合には、他の一般的に任意の関数依存性が制御スキームを決定することができる。
【0049】
一実施形態では、実マニピュレータのうちの1つに関係付けられる制御範囲は、実マニピュレータのうちの別のものに供給される第1及び/又は第2の仮想制御信号に依存する。言い換えれば、制御範囲は固定値ではなく、それ自体が、実マニピュレータのうちの別のものに供給される仮想制御信号に依存する可能性がある。この依存性は、例えば、空間制限に起因して、非常に密接して配置された2つのレンズは、各マニピュレータの最大範囲を用いることによってレンズの衝突が生じる可能性があることから投影対物系内で互いに向かう方向に変位させることができないということを考慮することが可能である。
【0050】
一実施形態では、本方法は、各実マニピュレータに対して、最終制御信号がそれぞれの実マニピュレータに適用された場合に投影対物系を通過する光学波面がどのように影響を受けるかを決定する段階を含む。通常かかる決定は、望ましい補正効果を得るようにするには実マニピュレータをどのように制御しなければならないかを予測するために必要である。
【0051】
一実施形態では、仮想マニピュレータに対する第1の仮想制御信号と、実マニピュレータの各々に対する第2の仮想制御信号とは、段階c)において最小化問題を解くことによって決定される。通常かかる最小化問題は、かかる問題が不良設定のものである場合に発生する。最小化問題を解くために、正則化アルゴリズム、好ましくはチコノフ正則化アルゴリズム、又は閾値処理による特異値分解(SVI)を用いることができる。
【0052】
一実施形態では、仮想マニピュレータが予備制御信号を生成する対象である少なくとも2つの実マニピュレータは、少なくとも2つの異なる光学要素の光学特性を変更するように構成される。この場合、仮想マニピュレータは、単純に、同じ光学要素に対して作用する複数のアクチュエータを同時に制御するマニピュレータではなく、少なくとも2つの異なる光学要素の光学特性に同時に影響を与えるより高い制御レベルを受け持つ。
【0053】
特に、少なくとも2つの異なる光学要素は、装置の作動中に投影光が入射する湾曲面を有する少なくとも1つの更なる光学要素によって互いから分離することができる。このことも、仮想マニピュレータが完全に異なる実マニピュレータを制御するという構想を表す。
【0054】
更に、本発明の主題は、コンピュータ上で実行された場合に、a)仮想マニピュレータに印加される仮想制御信号に応答して少なくとも2つの実マニピュレータに対する予備制御信号を予め決められた制御スキームに従って生成する仮想マニピュレータを定義する段階であって、実マニピュレータが、投影光経路に沿って配置された複数の光学要素を含むマイクロリソグラフィ投影装置の投影対物系内に含まれ、各実マニピュレータが、それぞれの実マニピュレータに印加される最終制御信号に応答して光学要素のうちの少なくとも1つの光学特性を変更するように構成される上記定義する段階と、b)装置の作動中に、実像誤差に依存する望ましい補正効果を決定し、望ましい補正効果に依存して、仮想マニピュレータに対する第1の仮想制御信号と、実マニピュレータの各々に対する第2の仮想制御信号とを決定する段階と、c)第1の仮想制御信号及び第2の仮想制御信号の関数である実マニピュレータに対する最終制御信号を決定する段階であって、段階d)で決定された最終制御信号が実マニピュレータに印加された場合に、少なくとも1つの光学要素の光学特性が、実像誤差の修正、特に少なくとも部分的な補正を生じる方式で変更される上記決定する段階とをコンピュータに実施させるように構成されたコンピュータプログラムである。
【0055】
かかるプログラムは、異なるコンピュータ上で実行される幾つかの個々のプログラムで構成することもできる。例えば、第1の個々のプログラムは、段階a)を実施することができ、第2の個々のプログラムは、段階b)及びc)を実施することができる。
【0056】
更に、本発明の主題は、かかるコンピュータプログラムが格納されるデータ担体、及びかかるコンピュータプログラムがインストールされるコンピュータである。
【0057】
更に、本発明の主題は、a)複数の実マニピュレータを含む投影対物系を与える段階と、b)実マニピュレータのうちの少なくとも2つに対する予備制御信号を生成するように構成された仮想マニピュレータを定義する段階と、c)投影対物系の実像誤差を決定する段階と、d)望ましい補正効果を決定する段階と、e)仮想マニピュレータに対する第1の仮想制御信号を決定する段階と、f)実マニピュレータに対する第2の仮想制御信号を決定する段階と、g)実マニピュレータに対する最終制御信号を第1及び第2の仮想制御信号の関数として決定する段階と、h)最終制御信号を実マニピュレータに印加する段階とを含むマイクロリソグラフィ投影装置を作動させる方法である。
【0058】
定義
「光」という用語は、いずれかの電磁放射線、特に可視光、UV光、DUV光、VUV光、及びEUV光を表す。
【0059】
本明細書では、線によって表すことができる伝播経路を有する光を表す上で「光線」という用語を用いる。
【0060】
本明細書では、軸外物体点から射出する光束の中心子午光線を表す上で「主光線」という用語を用いる。
【0061】
本明細書では、物体点から光軸に対して可能な最も大きい角度で射出する光線を表す上で「周縁光線」という用語を用いる。
【0062】
本明細書では、複数の実質的に平行な光線を表す上で「光ビーム」という用語を用いる。通常、光ビームは、その直径を横断して実質的に連続的な強度プロファイルを有する。
【0063】
本明細書では、2つの点又は2つの面の間の結像関係を表す上で「光学的に共役」という用語を用いる。結像関係は、ある点から射出した光束が光学的に共役な点に収束することを意味する。
【0064】
本明細書では、マスク平面又はマスク平面に対して光学的に共役な平面を表す上で「視野平面」という用語を用いる。
【0065】
本明細書では、マスク平面又は別の視野平面内の異なる点を通過する周縁光線が交わる平面を表す上で「瞳平面」という用語を用いる。この平面内では、全ての主光線が光軸と交わる。当該技術分野で通例であるように、瞳平面が数学的な意味において実際には平面ではなく若干湾曲しており、従って厳密な意味では瞳面と呼ぶべき場合であっても「瞳平面」という用語を用いる。
【0066】
本明細書では、波面変形を表すゼルニケ係数に基づいて定義されるより小さい残留像誤差を生じる像誤差の修正を表す上で「像誤差の補正」という用語を用いる。残留像誤差は、残留像誤差のRMS(二乗平均平方根)又は小さい方の最大値ノルムのどちらかが減少する場合により小さいと見なされる。
【0067】
本発明の様々な特徴及び利点は、以下に続く詳細説明を添付図面と関連付けて参照することでより容易に理解することができる。
【発明を実施するための形態】
【0069】
I.投影露光装置の一般的構成
図1は、本発明による投影露光装置10の非常に簡略化した斜視図である。装置10は、投影光を生成する照明系12を含む。照明系12は、微細特徴部19のパターン18を含むマスク16上に視野14を照明する。この実施形態では、照明視野14は矩形形状を有する。しかし、照明視野14の他の形状、例えばリングセグメントも想定される。
【0070】
光軸OAを有し、複数のレンズL1からL6を含む投影対物系20は、照明視野14の範囲内にあるパターン18を基板24によって支持された感光層22、例えばフォトレジスト上に結像する。シリコンウェーハによって形成することができる基板24は、ウェーハ台(図示していない)上に、感光層22の上面が投影対物系20の像平面内に正確に設置されるように配置される。マスク16は、マスク台(図示していない)を用いて投影対物系20の物体平面内に位置決めされる。投影対物系20は、|β|<1である拡大倍率βを有することから、照明視野14の範囲内にあるパターン18の縮小像18’が感光層22上に投影される。
【0071】
投影中に、マスク16と基板24は、
図1に示しているY方向に対応する走査方向に沿って移動する。この場合、照明視野14は、それよりも大きいパターン付き区域を連続的に結像することができるようにマスク16にわたって走査を行う。基板24の速度とマスク16の速度との間の比は、投影対物系20の拡大倍率βに等しい。投影対物系20が像を反転させない場合(β>0)には、マスク16と基板24とは、
図1に矢印A1とA2とで示しているように同じ方向に沿って移動する。しかし、本発明は、変形物体視野及び変形像視野を有する反射屈折結像投影対物系20とともに用いることもでき、更にマスクの投影中にマスク16と基板24とが移動しないステッパ型の装置においてもこともできる。
【0072】
図2は、
図1に示している装置10を通る略子午断面図である。更にこの断面内には、マスク16を投影対物系20の物体平面28内に支持するマスク台26と、基板24を投影対物系20の像平面30内に支持するウェーハ台32とが示されている。
【0073】
この実施形態では、投影対物系20は、中間像平面34と、物体平面28と中間像平面34との間に配置された第1の瞳平面36とを有する。中間像平面34と投影対物系20の像平面30との間には第2の瞳平面38が配置される。瞳平面36、38内では、マスク平面又は別の視野平面内の異なる点を通過する周縁光線が交わる。更に瞳平面36、38内では、破線として示している光線40等の主光線が光軸OAと交わる。
【0074】
II.補正デバイス
投影対物系20は、その像誤差を補正するように構成された第1の補正デバイスCOR1と、第2の補正デバイスCOR2と、第3の補正デバイスCOR3とを含む。
【0075】
第1の補正デバイスCOR1は、第2のレンズL2をX方向に沿って変位させるように構成される。かかるマニピュレータの機械的構成は当該技術分野でそれ自体公知であり、従って更に詳細には説明しないことにする。第2のレンズL2は、第1の瞳平面36の非常に近くに設置されることから、第2のレンズL2の変位によって生成される光学効果は、少なくとも近似的に視野非依存である。このことは、変位が、像平面30内の任意の視野点に関係付けられる光学波面に実質的に同一な方式で影響を与えることを意味する。この状況では、全ての視野点に関係付けられる光学波面が瞳平面内で完全に重なり合うことを思い出されたい。
【0076】
図3aは、第1のマニピュレータM1が作用する第2のレンズL2上の略上面図である。破線の円は、適切な制御信号を印加した後にマニピュレータM1を作動させた場合の第2のレンズL2の変位位置を表している。
【0077】
第2の補正デバイスCOR2は、第1の補正デバイスCOR1と基本的に同じ構成を有する。第2の補正デバイスCOR2は、第3のレンズL3をX方向に沿って変位させるように構成された第2のマニピュレータM2を含む。従って第2のマニピュレータM2が作用する第3のレンズL3上の
図3bの上面図は、
図3aの上面図と同一である。第3のレンズL3も第1の瞳平面36の近くに設置されることから、第2のマニピュレータM2によって生成される光学効果は、前と同様に実質的に視野非依存である。
【0078】
第3の補正デバイスCOR3は、ウェーハ台32内に統合される。
図3cの上面図において最も明快にわかるように、第3のマニピュレータM3は、基板24をX方向と5°の角度をなす変位方向40に沿って変位させるように構成される。走査サイクル中に第3のマニピュレータM3を作動させた場合には、ウェーハ24のこの斜角側方変位は、Y方向に沿う基板24の連続的な走査移動の上に重ね合わせられる。
【0079】
第3のマニピュレータは、ウェーハ台32が、基板24をXY平面内の任意の方向に沿って変位させることができる従来のXYウェーハ台である場合には、更なるハードウェア構成要素を必要としないことが可能である。この場合、第3のマニピュレータM3は、露光作動中に像誤差を補正するために基板24の規則的な逐次走査変位を必要に応じて微修正する単なるソフトウェアモジュールである。
【0080】
基板24は像平面30内に配置され、基板24が変位された場合には全ての視野点が同じ方式で影響を受けることから、第3のマニピュレータM3の効果は前と同様に視野非依存である。
【0081】
補正デバイスCOR1、COR2、及びCOR3の3つのマニピュレータM1、M2、M3はそれぞれ、これらのマニピュレータに電気信号を供給する制御ユニット42に接続される。制御ユニット42は、次に、制御ユニット42と、台26、32と、照明系12とに制御信号を与える全体システム制御器44に接続される。
【0082】
更に装置10は、露光作動の中断の間に投影対物系20の下にある像平面30内に挿入することができる光学波面センサ46を含む。この測定位置では、光学波面センサ46は、像平面30内の特定の視野点に関係付けられる光学波面を測定することができる。この目的を達成するために、光学波面センサ46は、当該技術分野においてそれ自体公知であるような干渉計を含むことができる。
【0083】
光学波面センサ46を用いた光学波面の測定は、通常は像平面30内の複数の視野点において実施される。
図4は、像平面30内のスリット形像14’上の照明視野14の上面図である。小点は、光学波面の測定が実施される測定点48の位置を示している。この実施形態では、スリット形像14’にわたって分散された3×13個の測定点48が存在する。光学波面を測定するために、基板24は、通常は光学波面センサ46で置き換えられ、光学波面センサ46を1つの測定点48から次のものへと素早く変位させるためにウェーハ台32が用いられる。この方式で、複数の測定点48における光学波面の測定を非常に素早く実施することができる。
【0084】
投影対物系は更に、それ自体及びその内部に含まれる光学要素の様々な特性を測定する複数の他のセンサを含む。かかる特性は、とりわけ、投影対物系20の内側のガス圧、様々な場所における温度、ミラー基板内の機械的応力、及び同様のものを含む。
図2には、投影対物系20の様々な特性を監視するために用いられるセンサの全てを代表するものとする唯一の更なるセンサ50が示されている。全てのセンサ50は、その測定データをシステム制御器44に送信する。
【0085】
システム制御器44は更に照明系12に接続され、その作動を制御する。従ってシステム制御器44は、物体平面28内の角度光分布(照明設定)を把握する。
【0086】
III.マニピュレータの制御
a)像誤差の決定
装置10の作動中には、投影対物系20の像誤差が繰り返し決定される。通常この決定には、上記に説明したように、光学波面センサ46が測定点48において光学波面を測定する段階を伴うことになる。しかし、かかる測定に向けて露光作動を中断しなければならないことから、これらの測定段階は、比較的希にしか、例えば数分毎にしか実施されない。像誤差は、かなり短い時間スケール、例えば数秒又はそれよりも更に短い時間スケールで変化する可能性があることから、像誤差は、多くの場合、測定値の間の補完によって決定される。この目的を達成するために、システム制御器44は、一方で光学波面測定の直近の結果に基づき、もう一方で更なるセンサ50によって供給される信号に基づいて像誤差を決定することができるシミュレーションプログラムを実施することができる。従って投影対物系26の像誤差は、測定をシミュレーションと組み合わせることによって、数秒又は僅か数ミリ秒しか続かない周期で決定される。
【0087】
装置10は、この方式で決定された像誤差を可能な限り時間を空けずに補正しようと試る。小さい像誤差であっても補正される場合にのみ、投影対物系20の像品質に対する厳しい仕様を超える程には像誤差が増大しないことを確実にすることができる。このことは、マニピュレータM1からM3が、周期的に決定される像誤差に依存して素早く制御されることを必要とする。マニピュレータM1からM3の制御に対する周期は、像誤差の決定周期に等しいものとすることができ、従って数秒又は僅か数ミリ秒の時間スケールにあるものとすることができる。
【0088】
マニピュレータM1からM3にある特定の制御信号が供給された場合に像誤差がどのように影響を受けるかを決定することは、通常は容易な作業である。各マニピュレータM1からM3が光学波面にどのように影響を与えるかが既知である場合には、マニピュレータM1からM3にある特定の制御信号を印加することによって生成される光学波面に対する効果を容易に計算することができる。その理由は、各マニピュレータによって個々に生成される効果は、少なくとも近似的に線形に重ね合わせることができることにある。しかし、望ましい補正効果を生成するマニピュレータM1からM3に対する制御信号を見つける段階は、当該技術分野で逆問題と呼ばれる求解を伴うことからかなり複雑な作業である。以下では、この作業を簡単な例を用いてより細部に説明することにする。
【0089】
b)ゼルニケ多項式への分解
光学系内の像誤差は、多くの場合、理想的な球面光学波面からの光学波面の偏倚に関して表される。波面変形は、(ρ,φ)が極瞳座標である場合にスカラーの2次元関数ω
i(ρ,φ)である。この場合、視野点iに関係付けられる波面変形ω
i(ρ,φ)は、次式に従うゼルニケ多項式Z
jへと展開することができる。
【数1】
(1)
【0090】
式(1)では、Z
jは、非標準の単一インデックススキームを用いるゼルニケ多項式であり、展開係数a
ijは、通常はゼルニケ係数と呼ばれる。
【0091】
c)感度の決定
装置10の作動が始まる前に、マニピュレータM1からM3が作動された場合に投影対物系20の光学特性がどのように変わるかを決定しなければならない。この決定は、各マニピュレータM1からM3に対して、ある特定の制御信号を印加することによって、例えばx=1を1つのマニピュレータだけに印加し、その一方で残りのマニピュレータには制御信号を印加しないことによって別々に行われる。この場合、この1つのマニピュレータは、それに関係付けられた少なくとも1つの光学要素の光学特性の変化を生成する。
【0092】
図2に示している実施形態に当てはめると、上記のことは、信号x
1=1が第1のマニピュレータM1に印加され、信号x
2=0及びx
3=0がその他の2つのマニピュレータM2、M3に印加されることを意味する。続いて光学波面が、像平面30内で、例えば波面センサ46を用いて測定される。通常、この測定は、複数の視野点、例えば、
図4を参照しながら上記に説明した測定点48において実施しなければならない。
図2に示している簡単な実施形態では、全てのマニピュレータM1からM3が視野非依存の効果を有し、従って像平面30内の1つの点においてのみ光学波面を測定するだけで十分である。
【0093】
像平面30内で光学波面を測定する代わりに、Code V、ZEMAX、又はOslo等の光学設計プログラムを用いて光学波面を計算することができる。これらの設計プログラムは、通常は光線追跡アルゴリズムに基づいて光学波面を計算する。
【0094】
マニピュレータM
kによって引き起こされる光学効果(すなわち波面変形)は、通常はマニピュレータM
kの感度m
kと呼ばれる。以下では、第1のマニピュレータM1に関係付けられる感度m
1が、式(1)に示しているゼルニケ多項式における波面変形の展開を用いて次式で与えられると仮定する。
【数2】
(2)
言い換えれば、第2のレンズL2をX方向に沿って制御信号x
1=1に対応する距離だけ変位させる段階は、式(1)による展開における2つのゼルニケ項Z
2及びZ
7のみによって表すことができる効果を光学波面に対して有する。ゼルニケ多項式Z
2、Z
3、及びZ
7に対するゼルニケ係数は、それぞれa
12=1、a
13=0、及びa
17=0.1である。
【0095】
図5から
図7は、前と同様に非標準の単一インデックススキームを用いた2次元ゼルニケ多項式Z
2、Z
3、及びZ
7を例示している。ゼルニケ多項式Z
2がX方向に沿った傾斜に対応し、ゼルニケ多項式Z
3がY方向に沿った傾斜に対応し、ゼルニケ多項式Z
7がコマ収差に対応することがわかる。
【0096】
従って式(2)による感度m
1は、X方向に沿った第2のレンズL2の変位が、基本的に、x方向に沿った光学波面の傾斜を誘導することを表す。このことは、像平面30内の視野点がX方向に沿ってゼルニケ係数a
12=1に比例する量だけ変位されることを示唆する。X方向に沿った第2のレンズL2の変位は、式(2)が、ゼルニケ多項式Z
7に対する小さい係数a
17=0.1も含むことから小さいコマ収差も誘導する。従ってマニピュレータM1によって引き起こされる第2のレンズL2の変位は、光学波面内に強い傾斜(
図5)と弱いコマ収差(
図7)との重畳を生じる。
【0097】
かかる感度決定は、他の2つのマニピュレータM2及びM3についても個々に実施される。ここで、感度m
2及びm
7が次式によって与えられると仮定する。
【数3】
(3)
【0098】
3つの感度m
1、m
2、及びm
3は、ベクトル形式で次式(4)のように書くことができ、
【数4】
(4)
又は式(5)の感度行列Sを形成するように結合することができる。
【数5】
(5)
【0099】
例えば、マニピュレータM1からM3に印加される制御信号が、x
1=1、x
2=0、及びx
3=2であるか、又はベクトル形式
【数6】
(6)
で書かれる場合には、光学波面に対する効果を式(7)によって表すことができ、
【数7】
(7)
又は一般的に式(8)として書くことができる。
【数8】
(8)
【0100】
d)制御信号の決定
上述したように、制御信号をマニピュレータM1からM3に供給した時の光学波面に対する光学効果の計算は、式(8)を非常に素早く解くことができることから容易な作業である。しかし、投影対物系20内の波面誤差を補正するためには、逆問題を解かなければならない。言い換えれば、望ましい補正効果
が得られるようにするには制御信号
をどのように選択しなければならないかという問題を解かなければならない。数学的には、この逆問題は、次式によって表すことができる。
【数9】
(9)
【0101】
式(9)は、式(8)からそれに逆行列S
-1を乗じることによって得られる。逆行列は、Eが単位行列である時に次式の特性を有する。
【数10】
(10)
感度行列Sが可逆である場合には、逆行列S
-1は、当該技術分野で公知のアルゴリズムを用いて計算することができる。それによって、望ましい補正効果
が変化する度に式(9)も素早く解くことができる。
【0102】
しかし、通常は感度行列Sは可逆ではない。感度行列Sを形成する3つの感度は線形独立であり、すなわち、感度m
1、m
2、及びm
3のうちのいずれもが他の2つの線形結合ではないが、マニピュレータM1からM3に対する許容範囲が物理的境界によって明らかに制限されることから、これらの感度は、投影装置を作動させるための要件を満たさない。例えば、レンズL2及びL3は、X方向に沿って数マイクロメートルの距離だけしか変位させることができない。同じことが、基板24を若干傾いた変位方向40に沿って変位させる第3のマニピュレータM3にも当てはまる。
【0103】
これらの境界が式(9)に対する解を見つける能力にどのように影響を与えるかは、以下の例から明らかになる。望ましい補正効果
が次式によって与えられると仮定する。
【数11】
(11)
更に各マニピュレータM
kの制御範囲は|x
k|<3によって制限される。この例では感度行列Sは確かに可逆であるが、式(9)の解は次式の制御信号を生じる。
【数12】
(12)
【0104】
容易にわかるように、制御信号x
1=−89及びx
2=90は、許容範囲制限|x
k|<3を大幅に超える。
【0105】
大抵の場合はそうであるが、感度行列Sが可逆ではない場合には、(12)で与えられる
のような式(9)の厳密解は存在しない。この場合、次式の最小化問題を解くことが当該技術分野で公知である(特にUS 2012/0188524 A1を参照されたい)。
【数13】
(13)
式中の記号
はユークリッドノルムである。式(13)は、望ましい補正効果
からの可能な最小の偏倚しか持たない光学効果
を生成する制御信号
を見つけるべき問題を表す。当該技術分野では、かかる最小化問題を解くための様々な手法が公知である。1つの公知の方法は、問題(13)の代わりに次式の問題を解くことを模索するチコノフ正則化である。
【数14】
(14)
式中のγはチコノフの重みを表す。チコノフ正則化に関する詳細については、A.Rieder著「Keine Probleme mit inversen Problemen」、Vieweg、2003年を参照されたい(特に、70〜71ページの例3.3.11、80ページの例3.5.3、及び93〜105ページの第4章、特に102ページ及び103ページの
図4.1及び
図4.2を参照されたい)。
【0106】
この方法を式(11)によって与えられる補正要求を有する問題(13)に適用し、チコノフの重みγ=0.001を仮定する場合には、次式の制御信号が導き出される。
【数15】
(15)
【0107】
この例では、全ての制御信号は、許容範囲制限|x
k|<3を満たすが、一般的にこのことは、チコノフ正則化が適用される場合には保証されない。
がベクトルの最大値ノルムである時に、次式によって定義される絶対残留誤差Δは、この場合、0.63である。
【数16】
(16)
最大値ノルムは、通常はそのように高いRMS(二乗平均平方根)ではなく、像品質に最も悪い影響を与える最大ゼルニケ係数であることから、多くの場合、残留誤差に対する基準として用いられる。
【0108】
チコノフ正則化は、式(14)によって定義される最小化問題に対して高速でかなり正確な結果を与える。最小化問題(13)の理論的に可能な最良の解は、二次計画法を用いて得ることができることを示すことができる。二次計画法は、境界条件が満たされることも保証する。二次計画法が最小化問題(13)に適用される場合は、次式の制御信号を生じ、僅か0.54の絶対残留誤差Δしか伴わない。
【数17】
(17)
この場合、制御信号は、最大範囲制限|x
k|<3を満たし、このことは偶然ではなく、二次計画法自体によって保証される。しかし、二次計画法は過度に低速であることから、マニピュレータM1からM3の実時間制御下では実施することができない。二次計画法をどのように適用することができるかについての詳細は、US 2012/0188524 A1及びW.Alt著「Nichtlineare Optimierung」、Vieweg、2002年に見出すことができる。
【0109】
e)仮想マニピュレータ
一方で二次計画法アルゴリズム(又は別の凸計画法アルゴリズム)を用いて可能な最良のオフライン最小化からの利益を得て、それと同時にチコノフ正則化を用いて素早い実時間解を得るために、少なくとも1つの仮想マニピュレータM
vの定義を伴う混合手法を提案する。仮想マニピュレータM
vは、それに印加される仮想制御信号に応答して、実マニピュレータM1からM3のうちの少なくとも2つに対する予備制御信号を予め決められた制御スキームに従って生成するように構成される。この制御スキームは、好ましくは以下の方式で決定される。
【0110】
最初に、
仮説の像誤差が定義される。この
仮説の像誤差は、装置の作動中に典型的な作動条件の結果として発生することが予測される実像誤差に密に対応するものとすることができる。例えば、
仮説の像誤差は、マスクがX二重極照明設定を用いて照明される場合に、レンズL1からL5内で定常的な温度分布が優勢になるように装置10を少なくとも1時間作動させた後に観測することができる予測(又は測定)像誤差とすることができる。
【0111】
第2の段階において、マニピュレータM1からM3に対する制御信号は、これらの制御信号がこれらの実マニピュレータM1からM3に印加されたとした場合に、これらのマニピュレータが
仮説の像誤差の補正を生じるような方式でレンズL2又はL3及び基板24を変位させることになるように計算される。好ましくはこの補正は、制御範囲に関する境界条件が満たされる場合に可能な最良の補正である。従ってこの計算は、好ましくは、比較的低速の二次計画法アルゴリズムを用いてオフラインで行われる。二次最適化問題の適切な定式化は、上述したUS 2012/0188524 A1に見出すことができる。
【0112】
これらの制御信号は、仮想マニピュレータM
vの感度m
vを表し、以下では、仮説の第1の仮想制御信号に応答して仮想マニピュレータM
vによって生成される
仮説の制御信号と呼ぶ。これらの
仮説の制御信号と仮説の第1の仮想制御信号との間の関数依存性は、仮想マニピュレータM
vの制御スキームをなす。
【0113】
この場合、装置10の作動中には、制御信号の実時間決定が、上記に説明したものと同じ方式で実施される。従って実像誤差が決定され、この実像誤差に基づいて望ましい補正効果が計算され、マニピュレータに対する制御信号が決定される。唯一の相違点は、この場合には3つのマニピュレータM1からM3だけではなく、4つのマニピュレータM1からM3及びM
vが存在する点である。式(14)がチコノフ正則化を用いて解かれ、それによって、仮想マニピュレータM
vに対する第1の仮想制御信号と、実マニピュレータM1からM3の各々に対する第2の仮想制御信号とが生じる。
【0114】
これらの第1及び第2の仮想制御信号から、3つの実マニピュレータに対する最終制御信号が計算される。最終制御信号は、第1及び第2の仮想制御信号の関数である。最も簡単な場合には、特定の実マニピュレータに対する最終制御信号は、単純に、第1の仮想制御信号に対応する仮想マニピュレータ感度を乗じたものと第2の仮想制御信号との和である。最終制御信号は、装置10の作動中に発生する実像誤差を補正するために、最終的に実マニピュレータM1からM3に印加される。
【0115】
以下では、仮想マニピュレータM
vの導入は、前と同様ではあるが、今度は特定の例を参照しながら説明することにする。
【0116】
仮想マニピュレータM
vを定義するために、簡略化の目的で、
仮説の像誤差が前と同様に次式で与えられると仮定することにする(式(11)を参照されたい)。
【数18】
(18)
【0117】
今度は、より厳しい範囲制限|x
k|<2.82を満たす式(13)の可能な最良の解が、二次計画法アルゴリズムを用いてオフラインで計算される。最大範囲制限|x
k|<3ではなくより厳しい範囲制限が適用される理由は、後に明らかになろう。
【0118】
より厳しい範囲制限は、前と同様に(式(17)に関して上記に解説した)3つの実マニピュレータM1からM3に対する制御信号に対する次式の解
を生じる。
【数19】
(19)
【0119】
これらの制御信号は、上述の
仮説の制御信号である。解
を用いて、仮想マニピュレータM
vに対する感度ベクトル
が次式として定義される。
【数20】
(20)
【0120】
従って、仮説の第1の仮想信号がx
v=1である場合に、仮想マニピュレータM
vは、
仮説の像誤差の最適な補正を導き出す
仮説の制御信号
と同じ効果を生成する。
【0121】
仮想マニピュレータM
vの更なる感度
を用いると、式(13)は次式になる。
【数21】
(21)
式中のx
v’は、第1の仮想制御信号であり、x
r1’からx
r3’は、第2の仮想制御信号である。
【0122】
ここで次式として定義される最小化問題に対して適切なチコノフの重みγを用いてチコノフ正則化が実施される。
【数22】
(22)
大域的な重みγの代わりに個別の重みγ
r1、γ
r2、γ
r3、γ
vを用いることができ、次式の修正チコノフ正則化問題が解かれる。
【数23】
(23)
【0123】
γ
r1=γ
r2=γ
r3=10及びγ
v=1である場合の問題(23)の結果は、次式によって与えられる。
【数24】
(24)
【0124】
言い換えれば、第1の仮想制御信号x
v’は0.94であり、第2の仮想制御信号x
r1’からx
r3’は、それぞれ−0.05、0.01、及び−0.35である。
【0125】
実マニピュレータM1からM3に供給される最終制御信号は、式(20)を用いて
から導出することができる。これは、
【数25】
(25)
又は一般的に
【数26】
(26)
に従う最終制御信号x
iをもたらす。
【0126】
ここで、仮想マニピュレータM
vに対する感度ベクトル
を定義するために二次計画法アルゴリズムを用いて式(13)を解く際に、何故、より厳しい範囲制限|x
k|<2.82と最大範囲制限|x
k|<3とを適用したかが明らかになる。最大範囲|x
k|<3が仮想マニピュレータによって完全には用いられない場合には、式(25)によって得られる最終制御信号x
r1からx
r3、x
vがなおも最大範囲制限|x
k|<3を満たすように仮想制御信号x
r1’からx
r3’、x
v’を重ね合わせることができる。
【0127】
この場合、絶対残留誤差Δが0.57であり、これは二次計画法を用いて得られる理論上の最良の結果(Δ=0.54)よりも大きいが、仮想マニピュレータの仮定なしにチコノフ正則化を用いて得られた残留誤差(Δ=0.63)よりもかなり小さいことを示すことができる。
【0128】
表1は、チコノフ正則化だけを用いて得られた結果と、二次計画法を用いて得られた結果と、仮想マニピュレータの仮定を用いて得られた結果とを比較している。
【表1】
表1:異なる計算の間の比較
【0129】
f)考察
更なる仮想マニピュレータM
vが備わったチコノフ正則化は、仮想マニピュレータM
vを用いない場合よりも優れた最小化(すなわち小さい残留誤差Δ)を得ることを可能にすることがわかる。実像誤差が
仮説の像誤差から偏倚する程、残留誤差Δに関する改善は若干低下する。しかし、仮想マニピュレータM
vを含むことで、残留誤差は、仮想マニピュレータM
vを用いない場合よりも決して大きくならないことを示すことができる。従って残留誤差に関して決して劣化することなく、多少なりとも顕著な改善が常に存在する。
【0130】
IV.代替実施形態
前節IIIでは、3つだけの実マニピュレータM1からM3と、3つのゼルニケ係数と、1つだけの仮想マニピュレータM
vとが存在すると仮定した。現実では、実マニピュレータの個数は通常は2よりもかなり大きく、例えば数百程度であり、異なる境界条件が各実マニピュレータに適用され、考慮されるゼルニケ係数の個数もかなり大きく、例えば49又は100である場合がある。更に、1個よりも多くの仮想マニピュレータ、例えば、5個よりも多く、10個よりも多く、又は50個よりも多くの仮想マニピュレータが存在する場合がある。
【0131】
考慮される視野点の合計数がPであり、考慮されるゼルニケ係数の合計数がZであり、各マニピュレータについての視野点別のゼルニケ特定のマニピュレータ依存性の合計数がN=P・Zであり、実マニピュレータの合計数がMであり、仮想マニピュレータの合計数がKである場合には、式(13)及び式(20)は、次式の式(27)となり、
【数27】
(27)
かつチコノフ正則化に対して式(28)となる。
【数28】
(28)
式中のGは、適切な重み行列、好ましくは対角成分として異なる重みを有する対角行列である。この場合、m
ri,jは、ゼルニケ係数jに対する実マニピュレータiの感度であり、m
vi,jは、ゼルニケ係数jに対する仮想マニピュレータiの感度であり、x
vi’は、仮想マニピュレータiに対する第1の仮想制御信号であり、x
ri’は、実マニピュレータiに対する第2の仮想制御信号であり、b
jは、望ましい補正効果を表すゼルニケ係数である。
【0132】
通常、波面変形は視野依存である。従って最適化問題(27)及び(28)は、P個の異なる視野点、例えば
図4に示している3×13個の測定点48における波面変形を考慮する。
【0133】
第1及び第2の仮想制御信号に基づいて最終制御信号を決定する上で、式(23)による関数の代わりに別の関数
を用いることができる。例えば、第1及び第2の仮想制御信号x
ri’及びx
rj’それぞれの寄与を重み付けする更なる重み付け因子を与えることができる。
【0134】
図8は、別の実施形態による投影露光装置10’を通る略子午断面図である。装置10’は、投影対物系26内に含まれる補正システムに関してのみ
図1及び
図2に示している装置10と異なる。
【0135】
この場合、第1の補正システムCOR1は、第1のレンズL1に対して作用し、第1のレンズL1を光軸OAに沿う方向に変位させるように構成されたマニピュレータM1を含む。
【0136】
マニピュレータM2を含む第2の補正システムCOR2は、
図2に示している第2の補正システムCOR2に同一である。従ってマニピュレータM2は、第3のレンズL3に対して作用し、第3のレンズL3をX方向に沿って変位させるように構成される。
【0137】
マニピュレータM3を含む第3の補正システムCOR3も、
図2に示している第3の補正システムCOR3に同一である。従ってマニピュレータM3は基板24に対して作用し、それを斜角変位方向40(
図3cを参照されたい)に沿って変位させるように構成される。
【0138】
第4の補正システムCOR4は、2つの平行平面プレート54、56内に統合されるか又はその上に加えられた複数の加熱ワイヤ52を含むより複雑なデバイスである。これらのプレート54、56は、冷却ガスを通して案内する間隙58によって互いから離隔される。第4の補正システムCOR4に関する更なる詳細は、両方ともに冒頭で述べたUS 2010/0201958 A1及びUS 2009/0257032 A1から得ることができる。
【0139】
各加熱ワイヤは、1つのマニピュレータM4からM
Lを形成する。異なる光学要素L1、L3、24、及び54、56に対してそれぞれ作用する4つの補正デバイスCOR1からCOR4しか存在しないが、実マニピュレータの個数Nは著しく大きく、例えば300又はそれよりも大きい。
図1及び
図2に示している実施形態においてもそうであったが、好ましくは、各仮想マニピュレータは、異なる補正デバイスCOR1からCOR4の実マニピュレータM1からM
Lに対して同時に作用する。
【0140】
V.本発明の重要な態様の要約
図9に示している流れ図は、本発明による方法の重要な態様を要約している。
【0141】
第1の段階S1において、複数の実マニピュレータを含む投影対物系が与えられる。
【0142】
第2の段階S2において、実マニピュレータのうちの少なくとも2つに対する予備制御信号を生成するように構成された仮想マニピュレータが定義される。
【0143】
第3の段階S3において、投影対物系の実像誤差が決定される。
【0144】
第4の段階S4において、望ましい補正効果が決定される。
【0145】
第5の段階S5において、仮想マニピュレータに対する第1の仮想制御信号が決定される。
【0146】
第6の段階S6において、実マニピュレータに対する第2の仮想制御信号が決定される。
【0147】
第7の段階S7において、第1及び第2の仮想制御信号の関数として実マニピュレータに対する最終制御信号が決定される。
【0148】
第8の段階S8において、最終制御信号が実マニピュレータに印加される。
【0149】
図9に破線で示しているように、段階S1及びS2は、通常、装置10の露光作動が始まる前に実施される。残りの段階S3からS8までは、露光作動中又は露光作動の短い中断中に実施される。