(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6149103
(24)【登録日】2017年5月26日
(45)【発行日】2017年6月14日
(54)【発明の名称】光電変換素子用化合物半導体単結晶インゴット、光電変換素子、および光電変換素子用化合物半導体単結晶インゴットの製造方法
(51)【国際特許分類】
C30B 29/48 20060101AFI20170607BHJP
H01L 31/18 20060101ALI20170607BHJP
H01L 31/073 20120101ALI20170607BHJP
【FI】
C30B29/48
H01L31/04 440
H01L31/06 420
【請求項の数】12
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-508251(P2015-508251)
(86)(22)【出願日】2014年3月11日
(86)【国際出願番号】JP2014056230
(87)【国際公開番号】WO2014156597
(87)【国際公開日】20141002
【審査請求日】2016年8月2日
(31)【優先権主張番号】特願2013-72838(P2013-72838)
(32)【優先日】2013年3月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(72)【発明者】
【氏名】野田 朗
(72)【発明者】
【氏名】平野 立一
【審査官】
今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】
特開平11−228299(JP,A)
【文献】
O.VIGIL-GALAN ET AL.,Physical properties of Bi doped CdTe thin films grown by the CSVT method,SOLAR ENERGY MATERIALS & SOLAR CELLS,Elsevier,2006年 5月11日,Vol.90,2228 - 2234
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/48
H01L 31/073
H01L 31/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
テルル化カドミウムまたはテルル化亜鉛カドミウムからなり、
1A族元素を不純物として含有し、
正孔濃度が4×1015cm−3以上1×1018cm−3以下であることを特徴とする光電変換素子用化合物半導体単結晶インゴット。
【請求項2】
前記1A族元素にはナトリウムが含まれ、
前記ナトリウムの濃度が2×1015cm−3以上1×1020cm−3以下であることを特徴とする請求項1に記載の光電変換素子用化合物半導体単結晶インゴット。
【請求項3】
前記1A族元素にはナトリウムおよびリチウムが含まれ、
前記リチウムの濃度が2×1015cm−3以上1×1020cm−3以下であることを特徴とする請求項2に記載の光電変換素子用化合物半導体単結晶インゴット。
【請求項4】
前記1A族元素にはリチウムが含まれ、
前記リチウムの濃度が2×1015cm−3以上1×1020cm−3以下であることを特徴とする請求項1に記載の光電変換素子用化合物半導体単結晶インゴット。
【請求項6】
請求項1から4の何れか一項に記載の光電変換素子用化合物半導体単結晶インゴットから切り出されたp型半導体基板と、
前記p型半導体基板の第1の主面に形成されたn型半導体層と、
前記n型半導体層の表面に形成された第1電極と、
前記p型半導体基板の第2の主面に形成された第2電極と、を備えることを特徴とする光電変換素子。
【請求項7】
テルル化カドミウムまたはテルル化亜鉛カドミウムからなり、
1A族元素を不純物として含有する光電変換素子用化合物半導体単結晶インゴットの製造方法において、
耐熱性の容器に原料と前記原料の一部と化合させた1A族元素とを充填し、
前記容器を加熱することにより、前記原料を融解させ融液にするとともに、解離した前記1A族元素を前記融液中に拡散させ、
前記融液から、正孔濃度が4×1015cm−3以上1×1018cm−3以下の単結晶を育成することを特徴とする光電変換素子用化合物半導体単結晶インゴットの製造方法。
【請求項8】
前記1A族元素をナトリウムとし、
前記容器に前記原料と共にテルル化ナトリウムを充填することを特徴とする請求項7に記載の光電変換素子用化合物半導体単結晶インゴットの製造方法。
【請求項9】
前記1A族元素をナトリウムおよびリチウムとし、
前記容器に、前記原料および前記テルル化ナトリウムと共に、テルル化リチウムを充填することを特徴とする請求項8に記載の光電変換素子用化合物半導体単結晶インゴットの製造方法。
【請求項10】
前記1A族元素をリチウムとし、
前記容器に、前記原料と共にテルル化リチウムを充填することを特徴とする請求項7に記載の光電変換素子用化合物半導体単結晶インゴットの製造方法。
【請求項12】
前記容器を窒化ホウ素で製造されたものを用いることを特徴とする請求項7に記載の光電変換素子用化合物半導体単結晶インゴットの製造方法。
【請求項13】
前記容器を石英で製造されたものを用いることを特徴とする請求項7に記載の光電変換素子用化合物半導体単結晶インゴットの製造方法。
【請求項14】
前記融液を垂直温度勾配凝固法で凝固させることを特徴とする請求項7に記載の光電変換素子用化合物半導体単結晶インゴットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池の光電変換素子に用いるための化合物半導体単結晶インゴット、この化合物半導体単結晶インゴットから切り出した基板を用いた光電変換素子、およびこの化合物半導体単結晶インゴットを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
放射線検出素子や赤外線検出素子の基板を形成する半導体材料の一つとして、II−VI族化合物半導体であるテルル化カドミウム(CdTe)やテルル化亜鉛カドミウム(CdZnTe)が知られている。CdTeやCdZnTe(以下Cd(Zn)Te)の結晶は、不純物を添加しない(アンドープの)状態、或いはナトリウム(Na)やリチウム(Li)等の1A族元素が添加された状態ではp型の電気特性を示す。つまり、p型のCd(Zn)Te結晶は、不純物としてNaやLiを適量添加することで得ることができる。
【0003】
NaやLiは、結晶の製造時に用いるるつぼを形成する石英に微量に含まれており、Cd(Zn)Te結晶を製造すると、製造者の意図に拘らず混入してしまうものであった。しかし、放射線検出素子用のCd(Zn)Te結晶を製造する場合には、これらの濃度を低く抑える必要があるので、Cd(Zn)Te結晶を育成する際、その固化率を制限する、具体的には、融液を途中まで凝固させた時点で結晶成長を終わらせることにより、Na,Liを融液中に留める、といったことが行われていた(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−228299号公報
【特許文献2】特開平05−347425号公報
【特許文献3】特開平09−074210号公報
【特許文献4】国際公開第2012−114803号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方で、Cd(Zn)Te結晶は、太陽電池のセル(光電変換素子)の基板材料としても用いられている。Cd(Zn)Te結晶を用いた光電変換素子においては、Cd(Zn)Te結晶からなるp型半導体層、硫化カドミウム(CdS)等からなるn型半導体層、前面電極、背面電極等で構成された素子構造が提案され、開発が進行している(特許文献2,3参照)。Cd(Zn)Te結晶を基板とする光電変換素子は、シリコン(Si)等の他の材料を用いた素子に比べて製造プロセスが簡素で大幅な低コスト化が可能であるため、今後の市場拡大が期待されている。
【0006】
光電変換素子用のCd(Zn)Te結晶は、放射線検出素子のように高電圧を印加して使用するものとは異なり、抵抗率を低く抑えることが求められる。抵抗率を下げるには結晶中のキャリア濃度を高めればよいことが知られており、キャリア濃度が高くなることは、変換効率の向上にも繋がる。このため、Na,Liを含有する光電変換素子用のCd(Zn)Te結晶を製造する場合には、るつぼからのNaやLiの拡散を制限しないようにすることで、結晶中のNaやLiの濃度を高めるようにしていた。
しかしながら、このような方法でNa,Liを添加した場合、正孔濃度は1×10
15cm
−3程度で頭打ちとなる。この濃度では、Si等他の半導体結晶を用いた光電変換素子よりも変換効率が劣ってしまうことになる。
【0007】
また、アクセプタ濃度が1×10
17cm
−3以上1×10
18cm
−3以下のCdTeの粉末から、近接昇華(CSS)法によって、CdTe多結晶薄膜を製造することが従来行われている(特許文献4)。
しかしながら、ここにはアクセプタをアンチモンとした実施例しか開示されておらずNa,Liを不純物とした場合にも所望のアクセプタ濃度が得られるかは定かではない。更に、この方法では多結晶の薄膜しか製造することができない。多結晶の場合、結晶内に多数の結晶粒界が存在し、光励起によって生成されたキャリアが散乱しやすく、キャリアの寿命が短くなり、単結晶の太陽電池に比べて高い変換効率を得ることは困難である。
【0008】
近年、Cd(Zn)Teを用いた光電変換素子において、変換効率の更なる向上が求められているが、現状では、上記特許文献1に記載されているるつぼからのNa,Liの拡散を利用する以外に、単結晶中にNa,Liを効率よく添加する方法は開発されていないのが実情である。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、1A族元素を不純物として含有する化合物半導体単結晶インゴットから切り出された基板を用いた光電変換素子の変換効率を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、光電変換素子用化合物半導体単結晶インゴットであって、テルル化カドミウムまたはテルル化亜鉛カドミウムからなり、1A族元素を不純物として含有し、正孔濃度が4×10
15cm
−3以上1×10
18cm
−3以下であることを特徴としている。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の光電変換素子用化合物半導体単結晶インゴットであって、前記1A族元素にはナトリウムが含まれ、前記ナトリウムの濃度が2×10
15cm
−3以上1×10
20cm
−3以下であることを特徴としている。
【0012】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の光電変換素子用化合物半導体単結晶インゴットであって、前記1A族元素にはナトリウムおよびリチウムが含まれ、前記リチウムの濃度が2×10
15cm
−3以上1×10
20cm
−3以下であることを特徴としている。
【0013】
請求項4に記載の発明は、請求項1に記載の光電変換素子用化合物半導体単結晶インゴットであって、前記1A族元素にはリチウムが含まれ、前記リチウムの濃度が2×10
15cm
−3以上1×10
20cm
−3以下であることを特徴としている。
【0015】
請求項6に記載の発明は、光電変換素子であって、請求項1から4の何れか一項に記載の光電変換素子用化合物半導体単結晶インゴットから切り出されたp型半導体基板と、前記p型半導体基板の第1の主面に形成されたn型半導体層と、前記n型半導体層の表面に形成された第2電極と、前記p型半導体基板の第2の主面に形成された第1電極とを備えることを特徴としている。
【0016】
請求項7に記載の発明は、テルル化カドミウムまたはテルル化亜鉛カドミウムからなり、1A族元素を不純物として含有する光電変換素子用化合物半導体単結晶インゴットの製造方法において、耐熱性の容器に原料と前記原料の一部と化合させた1A族元素とを充填し、前記容器を加熱することにより、前記原料を融解させ融液にするとともに、解離した前記1A族元素を前記融液中に拡散させ、前記融液から、正孔濃度が4×10
15cm
−3以上1×10
18cm
−3以下の単結晶を育成することを特徴としている。
【0017】
請求項8に記載の発明は、請求項7に記載の光電変換素子用化合物半導体単結晶インゴットの製造方法において、前記1A族元素をナトリウムとし、前記容器に前記原料と共にテルル化ナトリウムを充填することを特徴としている。
【0018】
請求項9に記載の発明は、請求項8に記載の光電変換素子用化合物半導体単結晶インゴットの製造方法において、前記1A族元素をナトリウムおよびリチウムとし、前記容器に、前記原料および前記テルル化ナトリウムと共に、テルル化リチウムを充填することを特徴としている。
【0019】
請求項10に記載の発明は、請求項7に記載の光電変換素子用化合物半導体単結晶インゴットの製造方法において、前記1A族元素をリチウムとし、前記容器に、前記原料と共にテルル化リチウムを充填することを特徴としている。
【0021】
請求項12に記載の発明は、請求項7に記載の光電変換素子用化合物半導体単結晶インゴットの製造方法において、前記容器を窒化ホウ素で製造されたものを用いることを特徴としている。
【0022】
請求項13に記載の発明は、請求項7に記載の光電変換素子用化合物半導体単結晶インゴットの製造方法において、前記容器を石英で製造されたものを用いることを特徴としている。
【0023】
請求項14に記載の発明は、請求項7に記載の光電変換素子用化合物半導体単結晶インゴットの製造方法において、前記融液を垂直温度勾配凝固法で凝固させることを特徴としている。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、原料の一部と反応させた安定的な状態の1A族元素を用いるため、任意の量の1A族元素を容易に単結晶中に拡散させることができる。このため、テルル化カドミウムまたはテルル化亜鉛カドミウムからなる光電変換素子用化合物半導体単結晶インゴット中の正孔濃度を従来の石英から拡散させる方法では実現できなかった4×10
15cm
−3以上1×10
18cm
−3以下にまで高めることができる。
従って、テルル化カドミウムまたはテルル化亜鉛カドミウムからなり、1A族元素を不純物として含有する化合物半導体単結晶インゴットから切り出された基板を用いた光電変換素子の変換効率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の実施形態に係る光電変換素子の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
<第1実施形態>
以下、本発明の第1実施形態について詳細に説明する。
【0027】
〔光電変換素子の構成〕
まず、本実施形態の光電変換素子の概略構成について説明する。
図1は、本実施形態の光電変換素子10の縦断面の模式図である。以下、各層について、
図1の上方向(太陽sの方)を向く面を前面、下方向を向く面を背面として説明する。
本実施形態の光電変換素子10は、本実施形態の光電変換素子用化合物半導体単結晶から切り出されたp型半導体基板(以下p型基板2)と、p型基板2の前面(第1の主面2a)に形成されたn型半導体層(以下n型層3)と、n型層3の前面に形成された前面電極4(第1電極)、基板2の背面(第2の主面2b)に形成された背面電極5(第2電極)等から構成されている。
【0028】
本実施形態のp型基板2は、II−VI族化合物半導体であるテルル化カドミウム(CdTe)またはテルル化亜鉛カドミウム(CdZnTe)の単結晶で板状に形成されている。また、ここで用いられるCdTe単結晶やCdZnTe単結晶は、1A族元素、具体的には、ナトリウム(Na)またはリチウム(Li)をドーパント(不純物)としており、その正孔濃度は4×10
15cm
−3以上1×10
18cm
−3以下となっている。以下、CdTeとCdZnTeを区別しない場合には、Cd(Zn)Teと表記する。
n型層3は、例えば硫化カドミウム(以下CdS)の単結晶で薄膜状に形成されている。
前面電極4は、例えば酸化インジウム錫(ITO)等の透明導電性材料で薄膜状に形成されている。
背面電極5は、例えばグラファイト等で板状に形成されている。
【0029】
〔光電変換素子用化合物半導体結晶の製造方法〕
次に、上記のCd(Zn)Te単結晶1の製造方法について説明する。Cd(Zn)Te単結晶の製造方法は、準備工程、加熱工程、単結晶育成工程からなる。
【0030】
初めの準備工程では、耐熱性の容器である石英製のるつぼ(以下るつぼ)に、Cd(Zn)Te単結晶の原料(CdおよびTe、またはCd,TeおよびZn)を充填し、さらに、テルル化ナトリウム(Na
2Te)またはテルル化リチウム(Li
2Te)を充填する。このNa
2Teに含まれるNaまたはLi
2Teに含まれるLiは、後にCd(Zn)Te単結晶のドーパントとなる。単体のNaは酸素と反応して表面が酸化されてしまうが、このようにNa,Liをテルル化物とした状態(原料の一部と反応させた状態)にして充填することで、Na,Liの酸化を防ぐことができる。特に、単体のLiは、酸素と激しく反応するため取り扱いが困難であるが、この方法を用いることで、充填作業を安全に行うことができる。そして、このるつぼを石英製のアンプル(以下アンプル)内に設置する。この後、アンプル内を真空引きし、石英アンプルの開口を溶融封止する。その後、アンプルを単結晶育成炉に設置する。
【0031】
アンプルを設置し終えた後は、加熱工程に移る。加熱工程では、アンプルを加熱して原料を溶融させる。本実施形態ではVGF法によってCd(Zn)Te単結晶の育成を行うため、単結晶育成炉としてVGF炉を用いる。アンプルを設置し、VGF炉を密封した後は、VGF炉内の昇温を開始し、原料であるCd,TeまたはCd,Te,Znを融解させCd(Zn)Te融液(以下融液)とする。このとき、るつぼに充填されたNa
2TeまたはLi
2Teが解離し、NaまたはLiが融液中へと拡散する。また、るつぼの石英に含有されるNa,Liも融液中へと拡散する。
【0032】
Na,Liを融液中に十分に拡散させた後は、単結晶育成工程に移る。単結晶育成工程では、VGF炉のヒータを調節し、炉内に設置されたるつぼの上部が低温、るつぼの下部が高温となるように、炉内の温度分布に勾配を付ける。そして、温度分布に勾配をつけながら徐々に融液の温度を下げていき、Cd(Zn)Te単結晶を融液の液面から下方に向かって育成する。
以上の工程を経ることにより、NaまたはLiを不純物として含有し、正孔濃度が4×10
15cm
−3以上1×10
18cm
−3以下と高く、光電変換素子の基板に適した本実施形態のCd(Zn)Te単結晶のインゴット(以下インゴット)が製造される。
【0033】
〔光電変換素子の製造方法〕
次に、上記Cd(Zn)Te単結晶をp型基板2とする本実施形態の光電変換素子10の製造方法について説明する。光電変換素子10の製造方法は、切断工程、ラッピング工程、n型層形成工程、前面電極形成工程、背面電極形成工程、ダイシング工程からなる。
【0034】
初めの切断工程では、インゴットの上下両端部を切除し、残った中央部(直胴部)の表面を削ることにより、インゴットの形状を円柱状に整える。そして、インゴットを、単結晶の成長方向に対して垂直に(インゴット両端の円形の面と平行に)切断し、複数の円盤状のCd(Zn)Teウエハ(以下ウエハ1)を切り出す。
ウエハ1を切り出した後は、ラッピング工程に移る。ラッピング工程では、切り出したウエハ1の切断面をラッピング用の研磨材で研磨して凹凸を取り除く。
切断面を平坦化した後は、鏡面研磨工程に移る。鏡面研磨工程では、ウエハ1の研磨面を鏡面研磨用の研磨材で研磨して鏡面に仕上げる。
【0035】
ウエハ1の研磨を終えた後は、n型層形成工程に移る。n型層形成工程では、気相成長装置にウエハ1およびn型層3の原料であるCd,Sをセットする。そして、ウエハ1の表面にCdSの薄膜をエピタキシャル成長させていく。こうして、薄膜が所定の厚さまで成長したものがn型層3となる。
n型層3を形成した後は、前面電極形成工程に移る。前面電極形成工程では、n型層3の表面にITOの薄膜で前面電極4を形成する。形成方法は従来どおりでよく、スパッタリングや、フィルム蒸着、イオンアシスト等を使った真空蒸着など、PVD(物理的気相法)を用いた方法の他、CVD(化学的気相法)、塗布、スピンコート、スプレー法など何でも良い。
前面電極4を形成した後は、背面電極形成工程に移る。背面電極形成工程では、ウエハ1の表面にグラファイトの薄膜で背面電極5を形成する。形成方法は従来どおりでよく、塗布や蒸着など何でも良い。
【0036】
裏面電極5を形成した後は、ダイシング工程に移る。ダイシング工程では、主面1a,1bにn型層3、前面電極4、背面電極5が形成されたウエハ1の端部を切り取ることにより、1枚の光電変換素子10を切り出す、或いは、ウエハ1を複数の基板1,1・・に分割することにより、複数の光電変換素子10を切り出す。
以上の各工程を経ることにより、本実施形態の光電変換素子10が製造される。この光電変換素子10は、正孔濃度が4×10
15cm
−3以上1×10
18cm
−3以下と高いため、従来に比べ変換効率が高い。
【0037】
〔具体例〕
次に、上記製造方法を用いて実際に製造したCdTe単結晶について説明する。
まず、原料であるCdTe多結晶を3900g、Na
2Teを1mg、それぞれ石英製のるつぼに充填し、そのるつぼをアンプルに設置した。そして、アンプルをVGF炉に入れ、原料を融解させ、融液に温度勾配をつけ、融液の上端部から下方に向かって単結晶を成長させた。
【0038】
製造したCdTe単結晶の表面を観察したところ、析出物は確認されなかった。また、CdTe単結晶中のNa濃度およびLi濃度を測定したところ、それぞれ1E+16cm
−3、2E+15cm
−3であった。このことは、本実施形態のようにしてCdTe単結晶を製造すれば、不純物の濃度が高くなり過ぎないことを示している。
また、製造したCdTe単結晶の正孔濃度をホール測定装置で測定したところ、高い部位で1×10
18cm
−3程度、濃度の低い部位でも4×10
15cm
−3程度であった。
【0039】
このように、実施形態では、Teの一部と反応させた安定的な状態のNaまたはLiを用いるため、任意の量のNaまたはLiを容易に単結晶中に拡散させることができる。このため、光電変換素子用化合物半導体結晶中の正孔濃度を従来の石英から拡散させる方法では実現できなかった4×10
15cm
−3以上1×10
18cm
−3以下にまで高めることができる。特に、本実施形態では、石英製のるつぼを用いているので、るつぼを加熱したときに、石英からもNaおよびLI融液中に拡散する。このため、光電変換素子用化合物半導体結晶中の正孔濃度を更に高めることができる。
従って、NaおよびLiを不純物として含有するCd(Zn)Te単結晶を用いた光電変換素子10において、変換効率を高めることができる。
【0040】
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態について説明する。なお、第1実施形態と同様の箇所についてはその説明を省略する。
【0041】
第2実施形態は、原料等を充填するためのるつぼに、pBN(高純度窒化ホウ素)製のものを用いる点が第1実施形態と異なる。
このため、るつぼに原料等を充填してからVGF炉を密封するまでの工程を終えた後、VGF炉内の昇温を開始し、原料を融液にすると、るつぼに充填されたNa
2LiまたはLi
2Teが解離し、NaまたはLiが融液中へと拡散する。なお、本実施形態では、pBN製のるつぼを用いるため、るつぼからのNa,Li拡散はない。
【0042】
このように、第2実施形態では、pBN製のるつぼを用いたので、第1実施形態と同様に、光電変換素子用化合物半導体結晶中の正孔濃度を4×10
15cm
−3以上1×10
18cm
−3以下にまで高めることができるだけではなく、るつぼからNa,Li以外の元素が拡散するのを防ぐことができる。
特に、Liは電気的活性化率がNaに比べて高いので、Li
2Teを用いれば少ない量で正孔濃度を高めることができ、高濃度になりすぎた不純物が析出するのを防ぐことができる。
【0043】
<第3実施形態>
次に、本発明の第3実施形態について説明する。なお、第1,第2実施形態と同様の箇所についてはその説明を省略する。
【0044】
第3実施形態は、原料の一部と反応させた1A族元素にNa
2LiとLi
2Teの両方を用い、原料等を充填するためのるつぼの材質を限定しない点が第1,第2実施形態と異なる。
このため、るつぼに原料等を充填してからVGF炉を密封するまでの工程を終えた後、VGF炉内の昇温を開始し、原料を融液にすると、るつぼに充填されたNa
2LiおよびLi
2Teが解離し、NaおよびLiが融液中へと拡散する。
【0045】
このように、第3実施形態では、Na
2LiとLi
2Teの両方を用いたので、光電変換素子用化合物半導体結晶中の正孔濃度を、第1,第2実施形態よりも容易に4×10
15cm
−3以上1×10
18cm
−3以下にまで高めることができる。
【0046】
以上、本発明者によってなされた発明を実施形態に基づいて具体的に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で変更可能である。
【0047】
例えば、実施形態では、CdTe単結晶またはCdZnTe単結晶を製造する方法について説明したが、本発明は、CdTe多結晶、CdZnTe多結晶は勿論、テルル化亜鉛(ZnTe)単結晶等、1A族元素をドーパントとする光電変換素子用化合物半導体結晶全ての製造に適用することができる。
また、実施形態の光電変換素子10は、板状のCd(Zn)Te単結晶の主面に薄膜状のn型層3を形成したものとしたが、ガラス基板等の表面にCd(Zn)Te薄膜層を形成し、その表面にn型層3を形成したものとしてもよい。その場合、本実施形態の製造方法でCd(Zn)Te多結晶を製造し、その多結晶から近接昇華法等によって薄膜を形成することができる。
また、実施形態では前面電極にITOを用いたが、透明かつ導電性を有する材料であれば他の材料でも良い。また、背面電極にグラファイトを用いたが、金属等でも良い。
【0048】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、太陽電池のセル等に利用することができる。
【符号の説明】
【0050】
10 光電変換素子
2 p型半導体基板(光電変換素子用化合物半導体単結晶、Cd(Zn)Te単結晶)
2a 第1の主面
2b 第2の主面
3 n型半導体層
4 前面電極(第1電極)
5 背面電極(第2電極)