特許第6149571号(P6149571)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6149571
(24)【登録日】2017年6月2日
(45)【発行日】2017年6月21日
(54)【発明の名称】ガラス粉末の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03B 19/10 20060101AFI20170612BHJP
   C01B 33/12 20060101ALI20170612BHJP
   C01B 33/18 20060101ALI20170612BHJP
【FI】
   C03B19/10 Z
   C01B33/12 A
   C01B33/18 Z
【請求項の数】9
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-153801(P2013-153801)
(22)【出願日】2013年7月24日
(65)【公開番号】特開2014-198659(P2014-198659A)
(43)【公開日】2014年10月23日
【審査請求日】2016年2月17日
(31)【優先権主張番号】特願2012-168964(P2012-168964)
(32)【優先日】2012年7月30日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2013-52234(P2013-52234)
(32)【優先日】2013年3月14日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】旭硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】特許業務法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】笹倉 英史
(72)【発明者】
【氏名】谷田 正道
(72)【発明者】
【氏名】森 勇介
(72)【発明者】
【氏名】西條 佳孝
【審査官】 吉川 潤
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−104712(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0162382(US,A1)
【文献】 特開平07−010525(JP,A)
【文献】 特開平08−310836(JP,A)
【文献】 特開平08−091874(JP,A)
【文献】 特開2002−012428(JP,A)
【文献】 特開平05−246726(JP,A)
【文献】 特開2003−034521(JP,A)
【文献】 特開2001−089130(JP,A)
【文献】 特開昭60−226415(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 19/10
C03B 8/04
C03C 12/00
C01B 33/113 − 33/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のガラス構成元素を含むガラス原料化合物を溶媒に完全溶解して、前記ガラス原料化合物の濃度が、酸化物換算量の総量として2〜20質量%となる液体原料を調製する工程と、
前記液体原料を火炎または熱風とともに、反応空間に噴出させ、熱分解した後、急冷する工程と
を含むことを特徴とするガラス粉末の製造方法。
【請求項2】
前記火炎または熱風の温度が1500℃以上である請求項1に記載のガラス粉末の製造方法。
【請求項3】
前記液体原料と前記火炎または熱風は、共通のバーナから前記反応空間に噴出される請求項1または2に記載のガラス粉末の製造方法。
【請求項4】
前記液体原料は、さらに、酸化性ガスとともに前記反応空間に噴出される請求項1〜3のいずれか1項に記載のガラス粉末の製造方法。
【請求項5】
前記液体原料、前記火炎または熱風、および前記酸化性ガスは、共通のバーナから前記反応空間に噴出される請求項4に記載のガラス粉末の製造方法。
【請求項6】
前記反応空間の周囲に冷却手段が設けられている請求項1〜5のいずれか1項に記載のガラス粉末の製造方法。
【請求項7】
前記溶媒は、水、アルコール、カルボン酸および炭化水素からなる群より選択される少なくとも1種を含む請求項1〜6のいずれか1項に記載のガラス粉末の製造方法。
【請求項8】
前記ガラス粉末の平均粒径が、500nm以下である請求項1〜7のいずれか1項に記載のガラス粉末の製造方法。
【請求項9】
前記ガラス粉末の平均真球度が0.7以上である請求項1〜8のいずれか1項に記載のガラス粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス粉末の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近時、基板や基材粒子などの表面に、薄く、かつ均質なガラス被膜を形成するため、ナノオーダーの微細で真球度(球形度)が高いガラス粉末を容易に製造する技術が求められている。例えば、モータ、アクチュエータ、磁気センサなどの磁心用材料として、鉄粉末などの軟磁性粒子を低融点ガラス粉末とともに混合し、圧密後に熱処理することによって、軟磁性粒子を低融点ガラスをバインダー層として結合してなる軟磁性複合材が知られている。このような軟磁性複合材において、低融点ガラス粉末として、上記のような微細で真球度が高いガラス粉末を使用することができれば、より高品質で高性能な軟磁性複合材を得ることができる。
【0003】
微細な球形状のガラス粉末を製造する技術はこれまでにも種々提案されている。例えば、特許文献1には、火炎雰囲気中に液滴を噴霧し、熱分解して球形状のガラス粉末を製造する方法が記載されている。また、特許文献2には、液滴を連結管を通じて火炎部に導入し、火炎部の外部の温度でガラス化してガラス粒子とする方法が開示されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、得られるガラス粉末の平均粒径は1μm程度であり、それ以下の微細なガラス粉末を得ることはできない。また、液滴と火炎との距離にばらつきがあるため、熱履歴が不均一となり、均質なガラス粒子が得られないという問題がある。一方、特許文献2に記載の方法でも、液滴が火炎部に到達する前に凝集するため、ナノオーダーの平均粒径を持つガラス粉末を得ることは困難である。また、火炎部の外部の熱を利用するため、火炎部を通過する際の液滴と火炎との距離にばらつきが生じ、上記方法と同様、熱履歴が不均一になり、ガラス粒子の均質性に問題を生じる。さらに、この方法では、得られるガラス粉末の形状にばらつきがあり、かつ真球度も低い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−91874号公報
【特許文献2】特開2004−339046号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、薄く、かつ均質なガラス被膜の形成に有用な、微細で真球度の高いガラス粉末を容易に安定して製造することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係るガラス粉末の製造方法は、複数のガラス構成元素を含むガラス原料化合物を溶媒に完全溶解して、前記ガラス原料化合物の濃度が、酸化物換算量の総量として2〜20質量%となる液体原料を調製する工程と、前記液体原料を火炎または熱風とともに、反応空間に噴出させ、熱分解した後、急冷する工程とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、薄く、かつ均質なガラス被膜の形成に有用な、微細で真球度の高いガラス粉末を容易に安定して製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態のガラス粉末の製造方法のプロセスフローを示す図である。
図2】本発明の一実施形態に使用される装置の要部構成を概略的に示す図である。
図3】実施例1の透過型電子顕微鏡(TEM)による撮像写真である。
図4】実施例2の透過型電子顕微鏡(TEM)による撮像写真である。
図5】実施例3の透過型電子顕微鏡(TEM)による撮像写真である。
図6】実施例4の透過型電子顕微鏡(TEM)による撮像写真である。
図7】実施例5の透過型電子顕微鏡(TEM)による撮像写真である。
図8】実施例6の透過型電子顕微鏡(TEM)による撮像写真である。
図9】実施例7の透過型電子顕微鏡(TEM)による撮像写真である。
図10】実施例8の透過型電子顕微鏡(TEM)による撮像写真である。
図11】実施例9の透過型電子顕微鏡(TEM)による撮像写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、説明は図面に基づいて行うが、それらの図面は図解のために提供されるものであり、本発明はそれらの図面に何ら限定されるものではない。
【0011】
図1は、本発明の一実施形態のガラス粉末の製造方法のプロセスフローを示す図である。
【0012】
図1に示すように、本実施形態のガラス粉末の製造方法は、ガラス原料化合物および溶媒を含む液体原料を、火炎または熱風とともに、反応空間に噴出させ、熱分解した後、急冷するものである。工程は、次の3工程:液体原料を調製する工程(101)、液体原料を熱処理する工程(102)、ガラス粉末を捕集・回収する工程(103)からなる。
【0013】
[液体原料の調製工程]
本実施形態においては、液体原料として、ガラス原料化合物を溶媒に溶解または分散させた溶液が使用される。
【0014】
ガラス原料化合物は、ガラスを構成する元素を含む化合物であり、例えば、ガラスを構成する各元素の塩化物、窒化物、水和物、有機酸塩(例えば、酢酸塩、蟻酸塩など)、有機化合物、オキソ酸塩、配位化合物、酸、硝酸塩、硫酸塩などが挙げられる。ガラス原料化合物は混合する溶媒によって選択することが好ましく、例えば、溶媒に水を用いる場合には、水溶性の化合物、例えば、塩化物、有機酸塩、硝酸塩などが使用される。また、酸化物や炭酸塩などの水に不溶なものであっても、酸などに溶解させて用いることができる。
【0015】
ガラスを構成する元素としては、例えば、Si、B、P、Zn、Li、Na、K、Bi、Mg、Ca、Sr、Ba、Al、Sn、Zr、Nb、W、Ga、La、Ti、Ce、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni,Cuなどが挙げられる。
【0016】
また、上記ガラス原料化合物を溶解または分散させる溶媒としては、水、アルコール(例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ペンチルアルコール、2−メトキシアルコールなど)、蟻酸、酢酸、プロピオン酸などの高極性溶媒;ミネラルスピリット、ミネラルシンナー、ペトロリウムスピリット、ホワイトスピリット、ミネラルターペン、灯油(ケロシン)、n−ヘキサン、ヘキサン酸、2−エチルヘキサン酸、シクロヘキサン、イソヘプタン、トルエン、ベンゼン、キシレンなどの低極性溶媒が挙げられる。
【0017】
ここで、高極性溶媒に好適なガラス原料化合物の具体例としては、例えば、ケイ酸ナトリウム、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ホウ酸、リン酸、硝酸亜鉛、酢酸亜鉛、塩化亜鉛、硝酸リチウム、酢酸リチウム、塩化リチウム、硝酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、硝酸カリウム、酢酸カリウム、塩化カリウム、硝酸ビスマス、硝酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、塩化マグネシウム、硝酸カルシウム、酢酸カルシウム、塩化カルシウム、硝酸ストロンチウム、硝酸バリウム、酢酸バリウム、塩化バリウム、硝酸アルミニウム、塩化アルミニウム、硝酸ジルコニア、硝酸ニオブ、硝酸セリウム、塩化セリウム、硝酸マンガン、酢酸マンガン、塩化マンガン、硝酸鉄、酢酸鉄、塩化鉄、酢酸コバルト、塩化コバルト、硝酸ニッケル、酢酸コバルト、塩化ニッケル、硝酸銅、塩化銅などが挙げられる。
【0018】
また、低極性希釈溶剤に好適なガラス原料化合物の具体例としては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、ポリジメチルシロキサン、ホウ素化トリブチル、トリフェニルホスフィン、トリフェニルホスフィンオキシド、2−エチルヘキサン酸亜鉛、2−エチルヘキサン酸リチウム、ナフテン酸リチウム、2−エチルヘキサン酸ナトリウム、2−エチルヘキサン酸カリウム、2−エチルヘキサン酸ビスマス、2−エチルヘキサン酸マグネシウム、2−エチルヘキサン酸カルシウム、2−エチルヘキサン酸ストロンチウム、2−エチルヘキサン酸バリウム、トリス(エチルアセトアセタト)アルミニウム、アルミニウム−sec−ブトキシド、アルミニウム モノ−n−ブトキシジエチルアセト酢酸エステル、エチルアセトアセテートアルミニウム ジノルマルブチレート、オクチル酸錫(II)、ジブチル錫ジラウレート、2−エチルヘキサン酸ジルコニア、2−エチルヘキサン酸ニオブ、ニオブエトキシド、ニオブブトキシド、2−エチルヘキサン酸ビスマス、タングステン(IV)エトキシド、タングステン(IV)イソプロポキシド、2−エチルヘキサン酸ランタン、2−エチルヘキサン酸イットリウム、2−エチルヘキサン酸ガドリニウム、テトライソプロポキシチタン、テトラ−n−ブトキシチタン、テトラ(2−エチルヘキシル)チタネート、2−エチルヘキサン酸セリウム、2−エチルヘキサン酸クロム、2−エチルヘキサン酸マンガン、2−エチルヘキサン酸鉄、ナフテン酸銅、2−エチルヘキサン酸コバルト、2−エチルヘキサン酸ニッケルなどが挙げられる
【0019】
液体原料中のガラス原料化合物の濃度は、ガラス原料化合物の酸化物換算量の総量として1〜30質量%となる範囲が好ましく、2〜20質量%となる範囲がより好ましい。ガラス原料化合物の濃度が1質量%未満では、必要溶媒量が多くなり環境負荷が大きくなる。一方、30質量%を超えると、微細なガラス粉体を得にくくなる。また均一な濃度溶液の調製が困難になり、得られるガラス粉末の組成が不均一になるおそれがある。
【0020】
[液体原料の熱処理工程]
液体原料の熱処理は、火炎または熱風とともに、上記液体原料を反応空間に噴出させることによって行われる。火炎または熱風とともに噴出された液体原料は、噴出と同時に多数の微細な液滴が形成され、これらの液滴はすべて、火炎または熱風の熱で瞬時に、かつ均一に加熱される。このため、液滴は凝集することなく微細な液滴のまま、溶媒が揮発し、この液滴に溶解または分散していたガラス原料化合物が均一に熱分解してガラス化し、微細で均質なガラス粒子が形成される。そして、これらの微細なガラス粒子は、その後の急冷によって、微細で均質な粒子のまま固化する。したがって、微細で真球度(球形度)が高いガラス粉末を安定して得ることができる。
【0021】
火炎の発生には、水素ガス、プロパンガス、都市ガス、アセチレンガスなどの可燃性ガスと、酸素ガスなどの支燃性ガスの混合ガスを使用することができる。混合ガスの流量は、使用するガスの種類により異なり、例えば、プロパンガスと酸素ガスの組み合わせでは、プロパンガスの流量は、0.7〜1.3NL(ノルマルリットル)/分の範囲が好ましく、0.8〜1.2NL/分の範囲がより好ましく、酸素ガスの流量は、3〜6NL/分の範囲が好ましく、4〜6NL/分の範囲がより好ましい。
【0022】
本発明においては、火炎を使用する場合、さらに、酸素ガス、空気などの酸化性ガスを反応空間に供給することが好ましい。酸化性ガスを供給することによって、可燃性ガスと支燃性ガスの反応場(反応空間)をより高温にでき、より瞬時に原料を熱分解し微細粒子の核生成させることが可能となり、より真球度の高い微細なガラス粒子を合成できる。酸化性ガスの流量は、6〜18NL/分の範囲が好ましく、7〜15NL/分の範囲がより好ましい。
【0023】
また、熱風は、例えば、空気、窒素ガスなどを用いることができる。熱風の流量は10〜28NL/分の範囲が好ましく、12〜26NL/分の範囲がより好ましい。
【0024】
火炎および熱風の温度、すなわち液体原料の熱処理温度は、1500℃以上であることが好ましい。熱処理温度が1500℃未満では、ガラス原料化合物の熱分解反応が十分に行われず、ガラス化しないか、またはガラス化が不十分となるおそれがある。但し、温度があまり高過ぎると、原子量の小さな元素が揮散するおそれがある。したがって、熱処理温度は、より好ましくは1600〜2500℃であり、1700〜2500℃であるとより一層好ましい。
【0025】
[ガラス粉末の捕集・回収工程]
液体原料の熱処理工程によって生成されたガラス粒子は、バグフィルタなどの捕集装置を用いて捕集し、回収する。
【0026】
上記液体原料の熱処理工程およびガラス粉末の捕集・回収工程は、例えば、図2に示すような装置を用いて行うことができる。
【0027】
この装置は、図2に示すように、反応空間を形成する反応筒1と、反応筒1の一端側の壁に着脱自在に装着されたバーナ2と、反応筒1の他端側に接続され、反応筒1で生成されたガラス粒子を捕集するバグフィルタ3を有する回収装置4を備える。反応筒1の周囲には、冷却手段として、内部に冷却水が流れる冷却管5が配設されている。また、バーナ2には、液体原料と、可燃性ガスと支燃性ガスの混合ガスと、酸化性ガスとが供給されるようになっている。さらに、回収装置4の下流側には、排気口(図示なし)が開口しており、この排気口にはエジェクタなどの排気装置6が接続されている。
【0028】
図2に示す装置において、バーナ2から、液体原料と、可燃性ガスと支燃性ガスの混合ガスと、酸化性ガスが反応筒1内に噴出される。その際、混合ガスを燃焼させて火炎を形成させる。これにより、液体原料と酸化性ガスは、混合ガスを燃焼させて形成された火炎とともに反応筒1内に噴出される。反応筒1内に噴出された液体原料は液滴となるが、火炎の熱で瞬時に加熱されて、熱分解反応が起こる。反応筒1の周囲には冷却管5が配置されており、熱分解物は火炎から出ると急速に冷却されてガラス化する。このように液滴が次々とガラス化することによって、ガラス粉末が生成される。生成されたガラス粉末は、バグフィルタ3を有する回収装置4により捕集回収される。
【0029】
このようにして、反応筒1内に噴出された液体原料により、噴出と同時に多数の微細な液滴が形成され、これらの液滴はすべて、火炎の熱で瞬時に加熱され、火炎を出たところで急速に冷却される。このため、液滴は凝集することなく微細な液滴のまま均一に熱分解されてガラス化し、微細で均質なガラス粒子が形成される。また、バーナ2から、液体原料とともに、酸化性ガスが噴出されるため、反応場をより高温にでき、より瞬時に原料を分解し微細粒子の核を生成させることが可能となる。したがって、微細で真球度(球形度)が高いガラス粉末を安定して得ることができる。
【0030】
なお、図2に示す装置は、液体原料を火炎とともに反応空間内に噴出させるものであるが、バーナ2に代えて、反応空間(反応筒1)内に熱風および液体原料を噴出させる装置を装着するとともに、液滴となった液体原料が、熱風の熱で熱分解された後、急速に冷却されるように構成することもできる。
【0031】
この装置では、反応筒1内に噴出された液体原料により、噴出と同時に多数の微細な液滴が形成され、これらの液滴はすべて、熱風で瞬時に加熱され、その後、急冷される。このため、液滴は凝集することなく微細な液滴のまま均一に熱分解されてガラス化し、微細で均質なガラス粒子が形成される。したがって、微細で真球度が高いガラス粉末を安定して得ることができる。
【0032】
本発明のガラス粉末の製造方法によれば、平均粒径が500nm以下の微細で、かつ平均真球度が0.7以上という高い真球度を有するガラス粒子が得られる。
【0033】
ここで、ガラス粒子の平均粒径は、透過型電子顕微鏡、走査型電子顕微鏡などの微細な構造を観測できる装置で得られた画像を解析することによって得ることができる。また、レーザ回折式粒度分布測定装置を用いて測定することも可能である。
【0034】
本発明により得られるガラス粒子は、平均粒径が400nm以下であることが好ましく、300nm以下であることがより好ましい。
【0035】
また、ガラス粉末の真球度は、ガラス粉末の透過電子顕微鏡写真において測定される、ガラス粉末の重心を通る最小直径Dminと、ガラス粉末の重心を通る最大直径Dmaxとの比Dmin/Dmaxで定義されるもので、平均真球度は、透過電子顕微鏡写真から任意に選択した50〜100個のガラス粉末について測定した真球度の平均値である。真球度は、Dmin/Dmaxの値が1に近づくほど真球度が高いことを示している
【0036】
本発明により得られるガラス粒子は、平均真球度が0.7以上であることが好ましい。
【0037】
本発明は、以上説明した実施の形態の記載内容に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能であることはいうまでもない。
【実施例】
【0038】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0039】
(実施例1)
酸化物基準の質量%表記で、B22.0%、ZnO60.8%、SiO11.8%、Al0.5%、MgO4.9%、およびCeO0.1%のガラス組成となるように、ホウ素化トリブチル、2−エチルヘキサン酸亜鉛 ミネラルスピリッツ溶液(亜鉛含量:15.0質量%)、オクタメチルシクロテトラシロキサン、トリス(エチルアセトアセタト)アルミニウム、2−エチルヘキサン酸マグネシウム トルエン溶液(マグネシウム含量:2.3質量%)、2−エチルヘキサン酸セリウム(III) 2−エチルヘキサン酸溶液(セリウム含量:12.0%)を秤量分取した後、溶媒としてミネラルスピリッツ162mlを加え、15時間攪拌して完全に溶解させ、酸化物濃度で4質量%の透明で淡黄色の液体原料を調製した。
【0040】
次いで、得られた液体原料を、図2に示す装置に供給し、バーナから火炎とともに反応筒に噴出させ、熱分解反応を起こさせた後、急冷して、ガラス粉末を生成した。すなわち、バーナに、支燃性ガスとして酸素ガスを5NL/分、可燃性ガスとしてプロパンガスを1NL/分で供給し、バーナ先端で着火し、火炎(約1800℃)を発生させた。このバーナを反応筒内に挿入した後、液体原料を2.5g/分、酸化性ガスとして酸素ガスを9NL/分で、火炎が噴出しているバーナの中心部から噴出させた。なお、反応中、少なくとも反応筒の出口が低温に保たれるように、反応筒を囲繞するように配置された冷却用配管に、常時、冷却水を流した。その後、生成されたガラス粉末を捕集装置より回収した。
【0041】
(実施例2)
酸化物基準の質量%表記で、B23.0%、ZnO57.0%、SnO1.0%、SiO8.0%、Al4.0%、LiO1.0%、CaO1.0%、およびBaO5.0%のガラス組成となるように、ホウ素化トリブチル、2−エチルヘキサン酸亜鉛 ミネラルスピリッツ溶液(亜鉛含量:15.0質量%)、オクチル酸錫(II)、オクタメチルシクロテトラシロキサン、トリス(エチルアセトアセタト)アルミニウム、ナフテン酸リチウム ミネラルスピリッツ溶液(リチウム含量:1.16質量%)、2−エチルヘキサン酸カルシウム 2−エチルヘキサン酸溶液(カルシウム含量:4.9質量%)、および2−エチルヘキサン酸バリウム トルエン溶液(バリウム含量:8.0質量%)を秤量分取した後、溶媒としてミネラルスピリッツ144mlを加え、15時間攪拌して完全に溶解させ、酸化物濃度で4質量%の透明で淡黄色の液体原料を調製した。
【0042】
上記液体原料を図2に示す装置を用いて実施例1と同様にしてガラス粉末を生成し、捕集装置より回収した。
【0043】
(実施例3)
酸化物基準の質量%表記で、B23.0%、ZnO49.0%、SnO1.0%、SiO10.0%、Al2.0%、NaO3.0%、KO4.0%、CaO3.%、およびBaO5.0%のガラス組成となるように、ホウ素化トリブチル、2−エチルヘキサン酸亜鉛 ミネラルスピリッツ溶液(亜鉛含量:15.0質量%)、オクチル酸錫(II)、オクタメチルシクロテトラシロキサン、トリス(エチルアセトアセタト)アルミニウム、2−エチルヘキサン酸ナトリウム、2−エチルヘキサン酸カリウム、2−エチルヘキサン酸カルシウム 2−エチルヘキサン酸溶液(カルシウム含量:4.9質量%)、および2−エチルヘキサン酸バリウム トルエン溶液(バリウム含量:8.0質量%)を秤量分取した後、溶媒としてミネラルスピリッツ149mlを加え、15時間攪拌して完全に溶解させ、酸化物濃度で5質量%の透明で淡黄色の液体原料を調製した。
【0044】
上記液体原料を図2に示す装置を用いて実施例1と同様にしてガラス粉末を生成し、捕集装置より回収した。
【0045】
(実施例4)
酸化物基準の質量%表記で、B4.7%、ZnO9.6%、P18.4%、Bi39.5%、LiO0.8%、ZrO3.3%、およびNb23.7%のガラス組成となるように、ホウ素化トリブチル、2−エチルヘキサン酸亜鉛 ミネラルスピリッツ溶液(亜鉛含量:15.0質量%)、トリフェニルホスフィン、2−エチルヘキサン酸ビスマス 2−エチルヘキサン酸溶液(ビスマス含量:25.1質量%)、ナフテン酸リチウム ミネラルスピリッツ溶液(リチウム含量:1.16質量%)、2−エチルヘキサン酸ジルコニア ミネラルスピリッツ溶液(ジルコニア含量:6.00質量%)およびニオブブトキシド n−ブタノール溶液(ニオブ含量:5.01質量%)を秤量分取した後、溶媒としてミネラルスピリッツ107mlを加え、15時間攪拌して完全に溶解させ、酸化物濃度で4質量%の透明で淡黄色の液体原料を調製した。
【0046】
上記液体原料を図2に示す装置を用いて実施例1と同様にしてガラス粉末を生成し、捕集装置より回収した。
【0047】
(実施例5)
酸化物基準の質量%表記で、B5.9%、ZnO10.6%、Al0.5%、Bi82.5%、CeO0.2%、Fe0.2%、およびCuO0.1%のガラス組成となるように、ホウ素化トリブチル、2−エチルヘキサン酸亜鉛 ミネラルスピリッツ溶液(亜鉛含量:15.0質量%)、エチルアセトアセテートアルミニウム ジノルマルブチレートとアルミニウム モノ−n−ブトキシジエチルアセト酢酸エステルのミネラルスピリッツ溶液(アルミニウム含量:5.9質量%;ホープ製薬(株)製 商品名 ケロープ(S)−30MT)、2−エチルヘキサン酸ビスマス 2−エチルヘキサン酸溶液(ビスマス含量:25.1質量%)、2−エチルヘキサン酸セリウム 2−エチルヘキサン酸溶液(セリウム含量:12質量%)、2−エチルヘキサン酸鉄 ミネラルスピリッツ溶液(鉄含量:8.0質量%)、2−エチルヘキサン酸銅 ミネラルスピリッツ溶液(銅含量:8.0質量%)を秤量分取した後、溶媒としてミネラルスピリッツ349mlを加え、15時間攪拌させ完全に溶解させ、酸化物濃度で4質量%の透明で黒紫色の液体原料を調製した。
【0048】
上記液体原料を図2に示す装置を用いて実施例1と同様にしてガラス粉末を生成し、捕集装置より回収した。
【0049】
(実施例6)
酸化物基準の質量%表記で、B23.1%、ZnO49.2%、CoO0.5%、SiO10.1%、Al2.0%、NaO3.0%、KO4.1%、CaO3.0%、およびBaO5.0%のガラス組成となるように、ほう酸、酢酸亜鉛二水和物、硝酸アルムニウム九水和物、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、硝酸カルシウム四水和物、硝酸バリウム、酢酸コバルト(II)を秤量分取した後、溶媒として精製水113mlを加え、1時間攪拌させ完全に溶解させた。その後メチルトリエトキシシランを秤量採取した後、前記水溶液に加え均一になるまで1時間攪拌した。さらにエタノール56mlを加えて30分間攪拌し、酸化物濃度で4質量%の透明で淡桃色の液体原料を調製した。
【0050】
上記液体原料を図2に示す装置を用いて実施例1と同様にしてガラス粉末を生成し、捕集装置より回収した。
【0051】
(実施例7)
酸化物基準の質量%表記で、P46.4%、Al5.3%、BaO47.5%、およびCoO0.8%のガラス組成となるように、トリフェニルホスフィン、ケロープ(S)−30MT、2−エチルヘキサン酸バリウム トルエン溶液(バリウム含量:8.0質量%)、2−エチルヘキサン酸コバルト(コバルト含量:12.0質量%)を秤量分取した後、溶媒としてミネラルスピリッツ146mlとトルエン36mLを加え、15時間攪拌させ完全に溶解させ、酸化物濃度で5質量%の透明で黒紫色の液体原料を調製した。
【0052】
上記液体原料を図2に示す装置を用いて実施例1と同様にしてガラス粉末を生成し、捕集装置より回収した。
【0053】
(実施例8)
酸化物基準の質量%表記で、B20.1%、ZnO42.7%、SnO0.9%、SiO8.7%、Al1.8%、NaO2.6%、KO3.5%、CaO2.6%、BaO4.4%、およびFe12.7%のガラス組成となるように、ホウ素化トリブチル、2−エチルヘキサン酸亜鉛 ミネラルスピリッツ溶液(亜鉛含量:15.0質量%)、オクチル酸錫(II)、オクタメチルシクロテトラシロキサン、ケロープ(S)−30MT、2−エチルヘキサン酸ナトリウム、2−エチルヘキサン酸カリウム、2−エチルヘキサン酸カルシウム ミネラルスピリッツ溶液(カルシウム含量:4.1質量%)、および2−エチルヘキサン酸バリウム ミネラルスピリッツ溶液(バリウム含量:15.0質量%)、2−エチルヘキサン酸鉄 ミネラルスピリッツ溶液(鉄含量:8.0質量%)を秤量分取した後、溶媒としてミネラルスピリッツ437mlを加え、15時間攪拌させ完全に溶解させ、酸化物濃度で5質量%の黒紫色の液体原料を調製した。
【0054】
上記液体原料を図2に示す装置を用いて実施例1と同様にしてガラス粉末を生成し、捕集装置より回収した。
【0055】
(実施例9)
酸化物基準の質量%表記で、SiO29.2%、KO11.5%、CaO20.5%、およびFe38.8%のガラス組成となるように、オクタメチルシクロテトラシロキサン、2−エチルヘキサン酸カリウム、2−エチルヘキサン酸カルシウム ミネラルスピリッツ溶液(カルシウム含量:4.1質量%)、2−エチルヘキサン酸鉄 ミネラルスピリッツ溶液(鉄含量:8.0質量%)を秤量分取した後、溶媒としてミネラルスピリッツ105mLを加え、15時間攪拌させ完全に溶解させ、酸化物濃度で5質量%の黒紫色の液体原料を調製した。
【0056】
上記液体原料を図2に示す装置を用いて実施例1と同様にしてガラス粉末を生成し、捕集装置より回収した。
【0057】
上記各実施例で得られたガラス粉末の形態を、透過型電子顕微鏡(TEM、日本電子(株)製、JEM−1230)により観察するとともに、ガラス転移点Tg(℃)、ガラス軟化点Ts(℃)、結晶化ピーク温度Tc(℃)、50〜300℃における平均線膨張係数α(/℃)、および結晶ピークの有無を測定した。また、TEM写真を画像解析ソフトウエアで解析し、平均粒子径と平均真球度を求めた。測定方法および算出方法を以下に示す。
【0058】
[ガラス転移点Tg]
示差熱分析装置((株)リガク製 TG8110)を用いて、約20mgのガラス粒子を5℃/minの昇温速度で、室温から800℃まで昇温して測定した。
[ガラス軟化点Ts]
ガラス粒子約20mgを白金パンに入れ、熱重量測定・示唆熱分析装置((株)リガク製 TG8110)によって昇温速度を10℃/minとして測定し、ガラス転移点Tgよりも高温側に現れる軟化流動に伴うDTA曲線の屈曲点における温度をガラス軟化点Tsとした。
[結晶化ピーク温度Tc]
ガラス粒子約20mgを白金パンに入れ、熱重量測定・示唆熱分析装置((株)リガク製 TG8110)によって昇温速度10℃/minとして測定し、結晶化に伴うDTA曲線の発熱ピークの温度を結晶化ピーク温度Tcとした。結晶化ピークがないか、またはピークが小さく検知できないときは「−」と表記した。
[平均線膨張係数α]
焼結したガラスを切削加工して約5mmφ×20mmの試料ガラスを得、この試料ガラスについて、熱膨張計((株)リガク製 TMA8310)を用いて、昇温速度5℃/minで測定した。50℃における試料の長さL50と300℃における試料の長さL300を測定し、次式より50℃〜300℃における平均線膨張係数αを求めた。
α={(L300/L50)−1}/(300−50)
[結晶ピークの有無]
X線回折装置(リガク(株)製 TTR−III)を用いてX線回折分析(XRD)を行い、結晶に起因するピークの有無を調べた。
【0059】
[平均粒子径]
画像解析ソフトウエア(三谷商事(株)製 WinRoof)を用いて、TEMで撮像した写真の任意の50個の粒子について、2値化処理した後、2値化面積と同じ面積の等価円の直径を粒子径(Li)として求め、下記の式より平均粒子径(L)を算出した。
【数1】
(n:測定数(=50))
【0060】
[平均真球度]
画像解析ソフトウエア(三谷商事(株)製 WinRoof)を用いて、TEMで撮像した写真の任意の50個の粒子について、各粒子を明度で2値化処理した後、2値化図形の重心を通る最大直径(Dmaxi)と最小直径(Dmini)を求め、下記の式より真球度(Di)および平均真球度(D)を算出した。
【数2】
(n:測定数(=50))
【0061】
上記測定結果をガラスの組成とともに表1に示す。また、各実施例のガラス粉末の透過型電子顕微鏡による撮像写真を図3図11に示す。なお、表1の組成欄の空欄は含有量が0%であったことを示す。
【0062】
【表1】
【0063】
図3乃至図11からも明らかなように、各実施例で得られたガラス粉末はいずれも、微細で真球度の高いガラス粉末が得られている。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明のガラス粉末の製造方法によれば、微細で真球度の高いガラス粉末を容易に安定して製造することができる。したがって、基板や基材粒子などの表面に薄く、かつ均質なガラス被膜を形成する材料として用いるガラス粉末の製造方法として有用である。
【符号の説明】
【0065】
1…反応筒、2…バーナ、3…バグフィルタ、4…ガラス粉末回収装置、5…冷却管。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11