(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用正極材、それを用いたリチウムイオン二次電池用正極及びリチウムイオン二次電池、並びにリチウムイオン二次電池用正極材の製造方法
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
さらに、前記層状構造を有するリチウム金属複合酸化物とは異なる結晶構造を有するリチウム金属複合酸化物の一次粒子が含まれることを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用正極材。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材、それを用いたリチウムイオン二次電池用正極及びリチウムイオン二次電池、並びにリチウムイオン二次電池用正極材の製造方法について詳細に説明する。なお、共通する構成については、同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0017】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材(以下、正極材ということがある。)は、層状構造を有するリチウム金属複合酸化物(以下、層状酸化物ということがある。)の一次粒子が凝集した二次粒子を含んでなる。すなわち、正極材は、二次粒子の集合(集合体に相当する。)からなり、その集合を構成する二次粒子は、少なくとも層状酸化物の一次粒子を含む一次粒子の集合が凝集することによって形成される。本実施形態に係る正極材は、導電材、結着剤等と共にリチウムイオン二次電池用正極における正極合材層を形成するものであり、二次粒子の集合が、空隙率が相対的に高い大径の二次粒子(以下、大粒子ということがある。)と、空隙率が相対的に低い小径の二次粒子(以下、小粒子ということがある。)とを含むように構成されている点に特徴を有している。なお、二次粒子の集合は、集合同士が凝集した凝集体を形成してもよいし、集合同士が結着剤などによって不特定形状に結着した複合体を形成していてもよいし、集合同士が加圧成形された成形体を形成していてもよい。
【0018】
層状酸化物は、詳細には、以下の組成式(I)のように表される。
Li
1+xM1
1−x−yM2
yO
2・・・(I)
[式中、xは−0.1≦x≦0.3を満たす数であり、yは0≦y≦0.1を満たす数であり、M1はNi、Co、Mnからなる群より選択される少なくとも1種の元素であり、M2はMg、Al、Ti、Zr、Mo、Nb、Fe、Bからなる群より選択される少なくとも1種の元素である。]
【0019】
組成式(I)で表わされる層状酸化物は、電極反応に伴ってリチウムイオンの挿入及び脱離をすることができる正極活物質であって、主としてα−NaFeO
2型の層状の結晶構造を有し、X線回折法による回折ピークは、空間群R3−m(「−」は、「3」の上付バーである。)に帰属され得るパターンを示すリチウム金属複合酸化物である。なお、組成式(I)では酸素の組成比は2と規定しているが、分析条件、焼成条件等によって量論組成から多少ずれることが知られている。よって、上記の結晶構造を維持しながら、酸素の組成比の値が5%程度前後するのは本発明の趣旨から外れるものではない。
【0020】
組成式(I)において、xは−0.1≦x≦0.3を満たす数であり、リチウム(Li)の組成比は0.9以上1.3以下とされる。すなわち、層状酸化物は、リチウムがα−NaFeO
2型の結晶構造における3aサイトのみに配置される酸化物に限られず、リチウムが化学量論比より過剰である所謂層状固溶体酸化物(Li(Li
pM
1−p)O
2(0<p<1)、Li
2MO
3−LiMO
2等と表される。)であってもよい。層状酸化物におけるリチウムの組成比をこのような範囲とすることによって、高い放電容量を確保することができる。
【0021】
M1は、Ni、Mn、Coからなる群より選択される少なくとも1種の元素であり、Niの組成比をa、Mnの組成比をb、Coの組成比をcとしたとき、0≦a≦1−x−y、0≦b≦1−x−y、0≦c≦1−x−y、a+b+c=1−x−yを満たす範囲で、単一元素又は複数元素からなる任意の組成とすることができる。M1元素は、好ましくはNi、Mnからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含み、より好ましくはNiを含み、さらに好ましくはCoを含まない組成からなる。すなわち、層状酸化物の好ましい形態は、以下の組成式(II)
Li
1+xNi
aMn
bCo
cM2
yO
2・・・(II)
[式中、xは−0.1≦x≦0.3を満たす数であり、a、b及びcは0<a≦1−x−y、0≦b<1−x−y、0≦c<1−x−y、a+b+c=1−x−y、a>b、a>cをそれぞれ満たす数であり、yは0≦y≦0.1を満たす数であり、M2はMg、Al、Ti、Zr、Mo、Nb、Fe、Bからなる群より選択される少なくとも1種の元素である。]で表され、好ましくはcが0である。このようなNiを高い比率で含有する組成とすることによって、安価でありながら高容量の正極活物質が得易くなる。
【0022】
M2は、Mg、Al、Ti、Zr、Mo、Nb、Fe、Bからなる群より選択される少なくとも1種の元素であり、M2元素の組成比は0以上0.1以下とされる。すなわち、0≦y≦0.1を満たす範囲で、Mg、Al、Ti、Zr、Mo、Nb、Fe若しくはBのいずれかの単一元素又はこれらから選択される複数元素によってM1元素を置換させることができる。このような元素によってM1元素の一部を置換させると、充放電サイクル特性の向上、レート特性の向上、抵抗低減等の作用を得ることが可能である。
【0023】
正極材を構成する二次粒子は、レーザ回折/散乱式粒度分布測定による体積基準の篩下積算粒子径分布の10%に対応した粒子径(以下、D10ということがある。)が0.5μm以上10μm以下、且つ、レーザ回折/散乱式粒度分布測定による体積基準の篩下積算粒子径分布の90%に対応した粒子径(以下、D90ということがある。)が10μmを超え50μm以下、好ましくは20μm以上50μm以下となるように構成される。正極材を構成する二次粒子の集合をこのような粒子径分布を有するものとすると、粒子径が大きい大粒子が高密度で充填されると共に、その大粒子同士の間の空隙に粒子径が小さい小粒子が充填されることによって、電極中の正極活物質の充填密度を高密度にすることが可能である。なお、レーザ回折/散乱式粒度分布測定は、二次粒子を水等の分散媒に分散させた状態で測定すればよく、二次粒子は、球形化された粒子及び球形化されていない粒子のいずれの状態で測定されてもよい。
【0024】
図1は、本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材の断面構造を模式的に示す概念図である。なお、以下の概念図では、正極材を構成する二次粒子を二粒度で充填させたときの粒子形態、分散状態を模式的に示している。
【0025】
図1に示すように、正極材1は、層状酸化物10の一次粒子のみが凝集して形成された大径の二次粒子(大粒子)と、層状酸化物10の一次粒子のみが凝集して形成された小径の二次粒子(小粒子)とを含むように構成することができる。このような二粒度に類する粒子集合を充填させることによって、二次粒子全体における粒子径分布が所定の粒径範囲を有するように簡便に制御することが可能であり、充填密度を高密度化させ易くすることができる。
【0026】
大粒子50は、例えば、10μmを超え50μm以下の範囲に一山型の粒子径分布を有する二次粒子の集合とし、互いに密接して最密充填に準じた高密度で充填させる。このようにすることによって、正極材を構成する二次粒子全体における、レーザ回折/散乱式粒度分布測定による体積基準の篩下積算粒子径分布の90%に対応した粒子径(D90)が、10μmを超え50μm以下となるようにすることができる。大粒子50の粒子径分布の範囲を10μmを超え50μm以下の範囲とすると、粒子の塗工性や取り扱い性が確保できると共に、電極における正極活物質の充填密度を高い水準にすることができる点で有利である。
【0027】
一方で、小粒子60は、例えば、0.5μm以上10μm以下の範囲に一山型の粒子径分布を有する二次粒子の集合とし、大粒子50同士の間の空隙に充填させる。このようにすることによって、正極材を構成する二次粒子全体における、レーザ回折/散乱式粒度分布測定による体積基準の篩下積算粒子径分布の10%に対応した粒子径(D10)が、0.5μm以上10μm以下となるようにすることができる。小粒子60の粒子径分布の範囲を0.5μm以上10μm以下の範囲とすると、大粒子50との粒子径比が二粒度最密充填のモデルに近似した比となると共に、小粒子60同士の凝集による塗工性の低下を生じ難くすることができる。
【0028】
図1に示すように、各二次粒子は、大粒子50における空隙率が小粒子60における空隙率よりも高くなるように二次粒子が形成される。具体的には、粒子径が10μmを超え50μm以下、好ましくは20μm以上50μm以下である二次粒子における平均空隙率が、粒子径が0.5μm以上10μm以下である二次粒子における平均空隙率よりも高い状態とされる。
【0029】
一般には、空隙率が低い二次粒子のみから構成される正極材では、電解液が粒子の深部に浸透し難くなるため、特に粒子径が大きい二次粒子でイオン伝導性が低下し、レート特性が悪化することになる。また、充放電に伴う体積変化に二次粒子が追従することができなくなるため、二次粒子の割れや二次粒子同士の乖離が生じることによって、電気化学的活性を奏することができない粒子が多数発生し、充放電サイクル特性や体積エネルギー密度が悪化することになる。その一方で、空隙率が高い二次粒子のみから構成される正極材では、正極材の体積エネルギー密度を高い水準に維持することは難しくなる。
【0030】
そこで、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材では、空隙率が相対的に高い大径の二次粒子と空隙率が相対的に低い小径の二次粒子とを組み合わせることによって、正極活物質の充填密度を高密度化させつつ、主として空隙率が高い大粒子の作用によって、電解液の粒子深部への浸透を確保すると共に、正極活物質の充放電に伴う体積変化に起因する応力を緩和させることができるようにしている。そして、高いイオン伝導性を確保し、充放電に伴う体積変化に起因する割れの発生を防止することで、良好なレート特性と充放電サイクル特性との両立を図っている。
【0031】
粒子径が10μmを超え50μm以下、好ましくは20μm以上50μm以下である二次粒子における平均空隙率は、5%以上70%以下とすることが好ましく、5%以上45%以下とすることがより好ましい。このような大径の大粒子における空隙率を5%以上70%以下とすると、大粒子の粒子内部に電解液が浸透し易くなり、リチウムイオンの拡散距離が比較的長くなる大粒子の中心付近にもリチウムイオンが十分に供給されることになるため、高いレート特性を確保することができるようになる。また、存在体積比が大きい大粒子が、充放電に伴う体積変化に追従することができるようになることによって、二次粒子全体において割れや粒子同士の乖離が生じ難くなり、充放電サイクル特性をより向上させることができる。さらには、このような大粒子における空隙率を5%以上45%以下とすると、充放電に伴う正極活物質の体積変化を緩和させる作用を得つつ、体積エネルギー密度をより高い水準にすることが可能となる。
【0032】
粒子径が0.5μm以上10μm以下である二次粒子における平均空隙率は、5%以下とすることが好ましい。このような小径の小粒子における空隙率を5%以下とすると、大粒子同士の間に生じる空隙の充填率をより向上させることができる。そして、空隙率が高い大粒子による作用を確保しつつ、体積エネルギー密度をより向上させることが可能になる。
【0033】
二次粒子における空隙率は、水銀圧入法等の液浸法、ガス置換法(ガス吸着法ともいう。)等の適宜の測定方法や、電子顕微鏡による直接観察によって測定することができる。例えば、水銀圧入法による場合は、二次粒子の集合である粉体に高圧で水銀を圧入し、圧力を変えて水銀の圧入量を測定していくことで細孔体積(ないし細孔分布)を求めることができる。そして、空隙率(平均空隙率に相当する。)を、以下の数式1によって算出することができる。
空隙率=細孔体積/粒子体積×100・・・(数式1)
なお、二次粒子の集合の粒子体積は、レーザ回折/散乱式粒度分布測定によって求められる平均体積を用いればよい。また、空隙率は、直径0.9μm以下の細孔分布に基いて算出すればよく、厳密な測定では、水銀圧入法におけるWashburnの式において水銀接触角を130°、水銀の表面張力を485dyne/cm(485×10
−5N/cm)として算出すればよい。
【0034】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材は、層状構造を有するリチウム金属複合酸化物(層状酸化物)を複数種類含むようにしてもよい。すなわち、二次粒子の集合は、前記の組成式(I)で表わされる範囲で元素の種類や組成比が異なる複数種類の層状酸化物を組み合わせて構成することができる。具体的には、複数種類の層状酸化物の一次粒子が凝集した二次粒子の集合、同種の層状酸化物の一次粒子が凝集した二次粒子の複数種類の集合、又は、複数種類の層状酸化物の一次粒子が凝集した二次粒子と、同種の層状酸化物の一次粒子が凝集した二次粒子との集合のいずれかよりなるものとしてもよい。
【0035】
一般に、組成の異なる正極活物質は、作動電位範囲内での充放電に伴う膨張収縮量に差異がある。そのため、複数種類の層状酸化物のうちで膨張収縮量が相対的に大きい層状酸化物を上述の大粒子とし、膨張収縮量が相対的に小さい化合物を上述の小粒子としてもよい。例えば、ニッケル量が相対的に多い層状酸化物を大粒子とし、ニッケル量が相対的に少ない層状酸化物を小粒子とする等である。このようにすると、充放電に伴う膨張収縮を細孔によって有効に逃がすことができ、正極活物質の充填性を確保しながらも、膨張収縮に伴う二次粒子の割れや二次粒子同士の乖離を抑制することが可能になる。或いは、複数種類の層状酸化物のうちで導電性が相対的に高い層状酸化物を上述の大粒子とし、導電性が相対的に低い層状酸化物を上述の小粒子としてもよい。このようにすると、充放電に伴う膨張収縮を細孔によって有効に逃がしつつ、正極材全体における導電性を高めることが可能になる。また、導電性が相対的に高い種類の層状酸化物の一次粒子が各二次粒子に含まれるようにしてもよい。
【0036】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材は、正極活物質として、層状構造を有するリチウム金属複合酸化物(層状酸化物)とは異なる結晶構造を有するリチウム金属複合酸化物(以下、非層状酸化物ということがある。)の一次粒子を含むようにしてもよい。すなわち、層状構造を有するリチウム金属複合酸化物の一次粒子10のみが凝集した二次粒子50,60の集合からなる
図1の形態に代えて、層状構造を有するリチウム金属複合酸化物の一次粒子及びそれとは異なる結晶構造を有するリチウム金属複合酸化物の一次粒子が凝集した二次粒子(
図2参照)、層状構造を有するリチウム金属複合酸化物の一次粒子が凝集した二次粒子と、それとは異なる結晶構造を有するリチウム金属複合酸化物の一次粒子が凝集した二次粒子との組合せ(
図3参照)、又は、層状構造を有するリチウム金属複合酸化物の一次粒子が凝集した二次粒子と、それとは異なる結晶構造を有するリチウム金属複合酸化物の一次粒子が凝集した二次粒子と、層状構造を有するリチウム金属複合酸化物の一次粒子及びそれとは異なる結晶構造を有するリチウム金属複合酸化物の一次粒子が凝集した二次粒子との組合せ(
図4参照)のいずれかよりなるものとしてもよい。なお、非層状酸化物の一次粒子を含有する正極材における粒子径と空隙率の関係は、層状酸化物の一次粒子のみを含有する正極材についてと同様である。
【0037】
非層状酸化物としては、リチウムイオン二次電池用の正極活物質として用いることが可能な、層状酸化物以外のリチウム金属複合酸化物を用いることができる。具体的には、例えば、LiFePO
4、LiNiPO
4、LiMnPO
4、LiFeMnPO
4等のオリビン型複合酸化物や、LiMnO
4、LiMn
2O
4、LiNi
0.5Mn
0.5O
4等のスピネル型複合酸化物や、LiFeBO
3、LiNiBO
3、LiMnBO
3、Li
2FeSO
4、Li
2NiSO
4、Li
2MnSO
4等のポリアニオン型複合酸化物等の従来知られている正極活物質が挙げられる。非層状酸化物としては、これらの一種を単独で用いてよく、複数種を組み合わせて用いてもよい。例えば、複数種を互いに別体の二次粒子として用いることも可能である。非層状酸化物としては、これらの中でも、充放電に伴う体積変化が小さいオリビン型複合酸化物等がより好ましい。
【0038】
図2は、本発明の他の実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材の断面構造を模式的に示す概念図である。
【0039】
図2に示す他の実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材2は、正極材1と同様に、空隙率が相対的に高い大径の二次粒子(大粒子)と、空隙率が相対的に低い小径の二次粒子(小粒子)との組み合わせによって構成されたものであって、層状構造を有するリチウム金属複合酸化物の一次粒子及びそれとは異なる結晶構造を有するリチウム金属複合酸化物の一次粒子が凝集した二次粒子からなるものである。
図2に示すように、正極材2を構成する二次粒子の集合は、層状酸化物の一次粒子10及び非層状酸化物の一次粒子20が凝集して形成された大径の二次粒子(大粒子)50Aと、層状酸化物の一次粒子10及び非層状酸化物の一次粒子20が凝集して形成された小径の二次粒子(小粒子)60Aとからなるように構成することができる。
【0040】
図2に示す正極材2では、大粒子50Aにおける空隙率が小粒子60Aにおける空隙率よりも高くされているため、層状酸化物の一次粒子10を含有している大粒子50Aが、充放電に伴う体積変化が顕著である層状酸化物(10)の体積変化に追従し易い状態となる。すなわち、層状酸化物(10)の存在体積が大きい大粒子50Aにおいて、層状酸化物(10)の体積変化が空隙によって有効に緩和されることになり、体積変化に起因する大粒子50Aや小粒子60Aの割れや、大粒子50A及び小粒子60Aの各二次粒子間の乖離がより抑制されるようになる。他方、大粒子50A及び小粒子60Aを、層状酸化物の一次粒子10と非層状酸化物の一次粒子20との組み合わせで構成されるようにすることで、大粒子50A及び小粒子60Aにおける層状酸化物(10)による体積変化の総和を減少させることができる。また、大粒子50Aと小粒子60Aとが、同種類の粒子構成を有しているため、大粒子50Aと小粒子60Aの空隙率の関係を製造上制御し易いという利点を有している。
【0041】
図3は、本発明の他の実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材の断面構造を模式的に示す概念図である。
【0042】
図3に示す他の実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材3は、正極材1と同様に、空隙率が相対的に高い大径の二次粒子(大粒子)と、空隙率が相対的に低い小径の二次粒子(小粒子)との組み合わせによって構成されたものであって、層状構造を有するリチウム金属複合酸化物の一次粒子が凝集した二次粒子と、それとは異なる結晶構造を有するリチウム金属複合酸化物の一次粒子が凝集した二次粒子とが混合したものである。一般に、層状酸化物(10)よりも非層状酸化物(20)の方が、充放電に伴う体積変化が小さい。そのため、
図3に示すように、正極材3を構成する二次粒子の集合は、正極活物質として層状酸化物の一次粒子10のみが凝集した二次粒子(大粒子)50Bと非層状酸化物の一次粒子20のみが凝集した二次粒子(小粒子)60Bとの組合せからなるように構成することが好ましい形態である。
【0043】
図3に示す正極材3では、大粒子50Bにおける空隙率が小粒子60Bにおける空隙率よりも高くされているため、層状酸化物の一次粒子10を含有している大粒子50Bが、充放電に伴う体積変化が顕著である層状酸化物(10)の体積変化に追従し易い状態となる。すなわち、層状酸化物(10)の存在体積が大きい大粒子50Bにおいて、層状酸化物(10)の体積変化が空隙によって有効に緩和されることになり、体積変化に起因する大粒子50Bの割れや、大粒子50B及び小粒子60Bの各二次粒子間の乖離がより抑制されるようになる。他方、小粒子60Bを、非層状酸化物の一次粒子20で形成することで、小粒子60Bにおける体積変化が減少し、小粒子60Bの割れが低減するようになる。また、非層状酸化物(20)として、充放電に伴う体積変化が小さい正極活物質を特に適用することによって、充放電に伴う二次粒子間の乖離が抑え易くなるという利点を有している。
【0044】
図4は、本発明の他の実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材の断面構造を模式的に示す概念図である。
【0045】
図4に示す他の実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材4は、正極材1と同様に、空隙率が相対的に高い大径の二次粒子(大粒子)と、空隙率が相対的に低い小径の二次粒子(小粒子)との組み合わせによって構成されたものである。
図4に示すように、正極材4を構成する二次粒子の集合は、正極活物質として層状酸化物の一次粒子10のみが凝集した二次粒子(大粒子)50C1と、正極活物質として非層状酸化物の一次粒子20のみが凝集した二次粒子(小粒子)60C1と、層状酸化物の一次粒子10及び非層状酸化物の一次粒子20が凝集した二次粒子(大粒子50C2,小粒子60C2)との組合せからなるように構成することができる。
【0046】
図4に示す正極材4では、大粒子50C1,50C2における空隙率が小粒子60C1,60C2における空隙率よりも高くされているため、層状酸化物の一次粒子10を含有している大粒子50C1,50C2が、充放電に伴う体積変化が顕著である層状酸化物(10)の体積変化に追従し易い状態となる。すなわち、層状酸化物(10)の存在体積が大きい大粒子50C1,50C2において、層状酸化物(10)の体積変化が空隙によって有効に緩和されることになり、体積変化に起因する大粒子50C1,50C2や小粒子60C1,60C2の割れや、大粒子50C1,50C2及び小粒子60C1,60C2の各二次粒子間の乖離がより抑制されるようになる。他方、大粒子50C2及び小粒子60C1,60C2を、非層状酸化物(20)を含むように形成することで、正極材4全体における層状酸化物(10)の体積変化の総和を減少させつつ、層状酸化物の一次粒子10のみを含有している大粒子50C1の体積比を大きく採れるようにすることができる。また、正極活物質全体の充填密度をより高密度化させることが可能となる。
【0047】
次に、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材の製造方法について説明する。
【0048】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材は、異なる粒子径範囲を有する単分散の二次粒子の集合を複数群あらかじめ調製した後、正極材を構成する二次粒子全体における、レーザ回折/散乱式粒度分布測定による体積基準の篩下積算粒子径分布の10%に対応した粒子径(D10)が、0.5μm以上10μm以下、且つ、体積基準の篩下積算粒子径分布の90%に対応した粒子径(D90)が、10μmを超え50μm以下、好ましくは20μm以上50μm以下となるように、調製した二次粒子の集合を適宜組み合わせて混合することで製造することができる。この製造方法は、二次粒子調製工程と、二次粒子混合工程を含んでなる。
【0049】
二次粒子調製工程では、組成式(I)で表される層状構造を有するリチウム金属複合酸化物の一次粒子が凝集した二次粒子を含む二次粒子の集合を複数群調製する。なお、二次粒子の集合としては、正極材を構成する二次粒子全体における粒子径分布が所定の条件になるように、少なくとも、10μmを超え50μm以下、好ましくは20μm以上50μm以下の範囲に粒子径分布を有する二次粒子の集合と、0.5μm以上10μm以下の範囲に粒子径分布を有する二次粒子の集合とを含む複数群を調製することが好ましい。必要に応じて、非層状酸化物の一次粒子については、層状酸化物の一次粒子と並行して形成させてもよい。
【0050】
一次粒子は、一般的なリチウムイオン二次電池用正極活物質の調製方法に準じて形成させることができる。調製方法としては、具体的には、固相法、共沈法、ゾルゲル法、水熱法等のいずれを利用することも可能である。例えば、固相法による場合には、原料のリチウム含有化合物とM1元素含有化合物とを、リチウムやM1元素が所定のモル濃度比となるように粉砕混合した後、得られた原料粉末を焼成することによって一次粒子を形成させることができる。
【0051】
原料のリチウム含有化合物としては、例えば、酢酸リチウム、硝酸リチウム、炭酸リチウム、水酸化リチウム、塩化リチウム、硫酸リチウム等を用いることができる。原料のリチウム含有化合物は、好ましくは炭酸リチウム、水酸化リチウムである。このような化合物を用いると、不純物をガスとして脱離させて、比較的低温で結晶粒子化させることが可能である。
【0052】
また、原料のM1元素含有化合物としては、例えば、酢酸塩、硝酸塩、炭酸塩、硫酸塩、酸化物、水酸化物等を用いることができる。原料のM1元素含有化合物は、好ましくは炭酸塩、酸化物、水酸化物である。このような化合物を用いると、不純物をガスとして脱離させて、比較的低温で結晶粒子化させることが可能である。
【0053】
原料化合物の粉砕混合は、乾式粉砕及び湿式粉砕のいずれの方式によって行ってもよい。粉砕混合には、例えば、ボールミル、ビーズミル、遊星型ボールミル、ジェットミル等の各種の粉砕機を用いることができる。
【0054】
粉砕混合された原料化合物は、例えば、400℃以上700℃以下の温度で仮焼することによって原料化合物を熱分解させた後、700℃以上1100℃以下、好ましくは800℃以上1000℃以下の温度で本焼成することが好ましい。このような温度範囲であれば、分解や成分の揮発を避けつつ、一次粒子の結晶性を良好に向上させることができる。なお、仮焼の処理時間は、2時間以上24時間以下、好ましくは4時間以上16時間以下であり、本焼成の処理時間は、2時間以上24時間以下、好ましくは4時間以上16時間以下である。焼成は、複数回を繰り返し行ってもよい。
【0055】
焼成の雰囲気は、不活性ガス雰囲気及び酸化性ガス雰囲気のいずれとしてもよいが、酸素、空気等の酸化性ガス雰囲気とすることが好ましい。酸化性ガス雰囲気で焼成を行うことによって、原料化合物の不完全な熱分解によって不純物が混入するのを避けることができ、一次粒子の結晶性を向上させることができる。また、例えば、Niを高い比率で含有する層状酸化物の場合、仮焼の雰囲気は、不活性ガス雰囲気及び酸化性ガス雰囲気のいずれでもよいが、本焼成の雰囲気は、酸化性ガス雰囲気が好ましく、特に空気よりも高い酸素濃度の雰囲気とすることが好ましい。なお、焼成された一次粒子は、空気中又は不活性ガス中で徐冷してよく、或いは液体窒素等で急冷してもよい。
【0056】
形成される層状酸化物の一次粒子の平均粒子径は、0.1μm以上2μm以下とすることが好ましい。一次粒子の平均粒子径を2μm以下とすると、層状酸化物の充填性が改善され、高いエネルギー密度を確保することができるようになる。また、一次粒子の平均粒子径が0.1μm以上であれば、一次粒子の取り扱い性が大きく損なわれることがなく、一次粒子の過度な凝集を避けることができる。
【0057】
層状酸化物の一次粒子は、M2元素が、一次粒子の結晶中に略均一に置換されたものであっても、一次粒子の表面に被着されたものであってもよい。M2元素が結晶中に略均一に置換された一次粒子は、原料のM2元素含有化合物をリチウム含有化合物やM1元素含有化合物とあらかじめ混合して一次粒子化させることで調製することができる。また、表面に被着された一次粒子は、メカノケミカル法、ゾルゲル法等の公知の表面処理法を利用して調製することができる。
【0058】
二次粒子の造粒方法としては、乾式造粒及び湿式造粒のいずれも適用可能であり、転動造粒、流動層造粒、圧縮造粒、噴霧造粒等の適宜の造粒方法を利用することができる。造粒操作は、原料粉末や焼成される一次粒子の凝集状態に応じて、焼成前の原料粉末に対して行っても、焼成して得られる焼成体に対して行ってもよい。特に好ましい造粒方法は、湿式造粒である。例えば、焼成前の原料粉末の混合粉砕を湿式粉砕とし、分散媒に分散した原料粉末に結着剤を添加する等して凝集性を向上させておくと、焼成体が二次粒子化された状態となり易い点で有利である。また、スプレードライヤ等の造粒機を利用した噴霧造粒によると、空隙率が異なる数μm〜数十μmの二次粒子を簡易に造粒することができる。
【0059】
二次粒子の空隙率や粒子径は、造粒操作における各種条件、例えば、湿式造粒における、原料粉末又は焼成体を分散させたスラリーの濃度、スラリーの粘度、スラリーの供給量、スラリーにおける分散度(ないし凝集度)や、乾式造粒における圧縮荷重や、湿式造粒後の噴霧造粒(ないし噴霧乾燥)における噴霧温度、噴霧圧力、送風速度等を調節することによって制御することができる。例えば、空隙率が高い二次粒子は、スラリーの粘度が高く、分散度が低い凝集性の原料粉末を噴霧乾燥させた後に焼成したり、噴霧圧力や噴霧温度を高くし乾燥速度を速めて噴霧乾燥を行った後に焼成することで調製可能である。その一方で、空隙率が低い二次粒子は、スラリーにおける分散度が高い非凝集性の原料粉末を焼成したり、噴霧圧力や噴霧温度を低くし乾燥速度を遅くして噴霧乾燥を行った後に焼成することで調製可能である。
【0060】
二次粒子混合工程では、調製された複数群の二次粒子の集合を混合することによって、正極材を構成する二次粒子全体における、レーザ回折/散乱式粒度分布測定による体積基準の篩下積算粒子径分布の10%に対応した粒子径(D10)が、0.5μm以上10μm以下、且つ、体積基準の篩下積算粒子径分布の90%に対応した粒子径(D90)が、10μmを超え50μm以下となるリチウムイオン二次電池用正極材を調製する。二次粒子の集合は、個々の集合の粒子径分布に応じて、複数群を適宜の体積比で混合することができるが、正極活物質の充填密度を適化させる観点からは、粒子径分布が正規分布に準じた大粒子の集合と小粒子の集合の2群を所定体積比となるように混合することが好ましい。混合する大粒子:小粒子の体積比は、大粒子と小粒子との粒子径比にもよるが、好ましくは3.5:1〜6.0:1、より好ましくは4.0:1〜5.0:1である。
【0061】
次に、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極について説明する。
【0062】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極は、前記のリチウムイオン二次電池用正極材と、導電材と、結着剤とを含んでなる正極合材層と、正極合材層が主面上に形成された正極集電体とを備えている。
【0063】
導電材としては、一般的なリチウムイオン二次電池用正極に使用されている導電材を用いることができる。具体的には、例えば、黒鉛粉末、アセチレンブラック、ファーネスブラック、サーマルブラック、チャンネルブラック等の炭素粒子や、ピッチ系炭素繊維、ポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維等の炭素繊維等が挙げられる。導電材は、例えば、正極合材全体の質量に対して3質量%以上10質量%以下となる量を用いればよい。なお、導電材は、二次粒子と混合されてよいし、二次粒子を造粒する際に一次粒子と混合されてもよい。
【0064】
結着剤としては、一般的なリチウムイオン二次電池用正極に使用されている結着剤を用いることができる。具体的には、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、スチレン−ブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリロニトリル、変性ポリアクリロニトリル等が挙げられる。結着剤は、例えば、正極合材全体の質量に対して2質量%以上10質量%以下となる量を用いればよい。
【0065】
正極集電体としては、アルミニウム製又はアルミニウム合金製の箔、エキスパンドメタル、パンチングメタル等を用いることができる。箔については、例えば、8μm以上20μm以下の厚さとすればよい。
【0066】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極は、前記のリチウムイオン二次電池用正極活物質を用いて、一般的なリチウムイオン二次電池用正極の製造方法に準じて製造することができる。例えば、正極合材調製工程、正極合材塗工工程、成形工程を経て製造することができる。
【0067】
正極合材調製工程では、材料の正極材と、導電材と、結着剤とが溶媒中で混合されたスラリー状の正極合材を調製する。溶媒としては、結着剤の種類に応じて、例えば、N−メチルピロリドン、水、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン等を用いることができる。また、材料の混合には、例えば、プラネタリーミキサ、ディスパーミキサ、自転・公転ミキサ等を用いることができる。
【0068】
正極合材塗工工程では、調製されたスラリー状の正極合材を正極集電体の主面上に塗布した後、乾燥させることによって正極合材層を形成する。正極合材の塗布には、例えば、バーコーター、ドクターブレード、ロール転写機等を用いることができる。
【0069】
成形工程では、乾燥させた正極合材層を加圧成形し、必要に応じて正極集電体と共に裁断することによって、所望の形状のリチウムイオン二次電池用正極とする。正極集電体上に形成される正極合材層の厚さは、例えば、50μm以上300μm以下程度とすればよい。また、加圧成形における圧力、圧縮荷重は、所望の電極密度に応じて適宜調節することができるが、各二次粒子の空隙率が維持される程度とすることが好ましい。
【0070】
次に、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池について説明する。
【0071】
図5は、実施形態に係るリチウムイオン二次電池の一例を示す断面模式図である。
【0072】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池100は、主に、前記の正極(リチウムイオン二次電池用正極)101と、負極102と、セパレータ103と、不図示の非水電解液とを備えている。リチウムイオン二次電池100は、円筒型のリチウムイオン二次電池であって、非水電解液は、有底円筒形状の電池缶104に収容されている。なお、リチウムイオン二次電池100としては、角型、ボタン型、ラミネートシート型等の形態であってもよい。
【0073】
リチウムイオン二次電池100において、正極集電体の主面に正極合材層が形成された正極101と、負極集電体の主面に負極合材層が形成された負極102とは、正極101及び負極102の間に介装されたセパレータ103を介して捲回されて、積層された電極群を形成している。また、正極101は、正極リード片107を介して密閉蓋106と電気的に接続されており、負極102は、負極リード片105を介して電池缶104と電気的に接続されている。
【0074】
正極リード片107及び負極リード片105は、それぞれ正極集電体、負極集電体と同様の材質からなる電流引き出し用の部材となっており、正極集電体、負極集電体とそれぞれ溶接されている。また、正極リード片107と負極102の間及び負極リード片105と正極101の間には、それぞれ絶縁板109が配設されて電気的に絶縁されている。電池缶104は、電極群等と共に非水電解液を収容し、シール材108を介して密閉蓋106で封止されている。
【0075】
負極102は、負極活物質と、負極活物質と電気的に接続された負極集電体とを備えている。なお、負極102には、リチウムイオン二次電池用正極において用いられる結着剤や、導電材と同様のものを用いることもできる。結着剤は、例えば、負極活物質の質量に対して5質量%程度となる量を用いればよい。
【0076】
負極活物質としては、一般的なリチウムイオン二次電池用負極に使用されている負極活物質を用いることができる。具体的には、例えば、炭素材料、金属材料、金属酸化物材料等の一種以上を用いることができる。炭素材料としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛類や、コークス、ピッチ等の炭化物類や、非晶質炭素や、炭素繊維等を用いることができる。また、金属材料としては、例えば、リチウム、シリコン、スズ、アルミニウム、インジウム、ガリウム、マグネシウム等の金属やこれらの合金、金属酸化物材料としては、スズ、ケイ素等を含有する金属酸化物を用いることができる。
【0077】
負極集電体としては、銅製又はニッケル製の箔、エキスパンドメタル、パンチングメタル等を用いることができる。箔については、例えば、5μm以上20μm以下の厚さとすればよい。
【0078】
リチウムイオン二次電池用負極は、リチウムイオン二次電池用正極と同様に、負極活物質と結着剤とが混合された負極合材を負極集電体の主面上に塗布した後、乾燥させることによって負極合材層を形成し、その負極合材層を加圧成形し、必要に応じて負極集電体と共に裁断することによって製造することができる。負極集電体上に形成される負極合材層の厚さは、例えば、20μm以上150μm以下とすればよい。
【0079】
セパレータ104としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン−ポリプロピレン共重合体等のポリオレフィン系樹脂、ポリアミド樹脂、アラミド樹脂等の微孔性フィルムや不織布等を用いることができる。
【0080】
非水電解液としては、LiClO
4、LiPF
6、LiBF
4、LiAsF
6、LiSbF
6、LiCF
3SO
3、LiC
4F
9SO
3、LiCF
3CO
2、Li
2C
2F
4(SO
3)
2、LiN(CF
3SO
2)
2、LiC(CF
3SO
2)
3等のリチウム塩を非水溶媒に溶解させた溶液を用いることができる。非水電解液におけるリチウム塩の濃度は、0.7M以上1.5M以下とすることが好ましい。
【0081】
非水溶媒としては、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、メチルアセテート、ジメトキシエタン等を用いることができる。また、非水電解液には、電解液の酸化分解及び還元分解の抑制、金属元素の析出防止、イオン伝導性の向上、難燃性の向上等を目的として、各種の添加剤を添加することができる。このような添加剤としては、例えば、電解液の分解を抑制する1,3−プロパンサルトン、1,4−ブタンサルトン等や、電解液の保存性を向上させる不溶性ポリアジピン酸無水物、ヘキサヒドロ無水フタル酸等や、難燃性を向上させるフッ素置換アルキルホウ素等がある。
【0082】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池は、例えば、スマートフォン、タブレット等の携帯電子機器の電源、家庭用電気機器の電源、電力貯蔵装置、無停電電源装置、電力平準化装置等の定置用電源、船舶、鉄道、ハイブリット自動車、電気自動車等の駆動電源として好適である。
【0083】
リチウムイオン二次電池が備える正極に含まれる二次粒子の組成、粒子径、空隙率等は、リチウムイオン二次電池をグローブボックス内等で分解して正極を分離し、正極合材層を構成する組成物を回収して機器分析に供することによって確認することが可能である。例えば、回収した正極合材層の組成物を、不活性ガス雰囲気において300℃〜400℃程度で熱処理することによって、組成物として含まれ得る炭素系導電材や結着剤のみをガス化させて除去したり、適宜の有機溶剤を添加することによって、結着剤を溶解除去する。そして、残留した組成物を走査型電子顕微鏡や透過型電子顕微鏡を使用して観察することで、二次粒子の粒子径分布や空隙率を確認することができる。二次粒子同士が凝集又は結着して高次構造を形成している場合には、空隙率は、例えば、二次粒子の局所観察を行い二次粒子と空隙との面積比、これらを球体や円柱体の体積に換算した体積比等を比較することによって把握することが可能である。また、粒子径分布の確認と並行して、粗解砕した二次粒子の集合の分級を行い、確認された粒子径分布における大粒子や小粒子に対応する粒子径の二次粒子の集合について細孔分布測定を行うことで空隙率を確認することもできる。
【実施例】
【0084】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれに限定されるものではない。
【0085】
実施例1〜11として、空隙率が相対的に高い大径の二次粒子(大粒子)と、空隙率が相対的に低い小径の二次粒子(小粒子)との組み合わせによって構成されているリチウムイオン二次電池用正極材を調製し、それらの正極材を用いたリチウムイオン二次電池を製造して、レート特性及び充放電サイクル特性の評価を行った。また、比較例1〜5として、大粒子と小粒子との空隙率の大小関係が実施例に対して反転している正極材を調製し、それらの正極材を用いたリチウムイオン二次電池の評価を併せて行った。
【0086】
層状酸化物LiNi
0.8Co
0.1Mn
0.1O
2の一次粒子が凝集した二次粒子の集合は、以下の手順にしたがって複数群調製した。まず、焼成時にリチウム源が700℃付近で蒸発し、配合比に比してリチウム比が低くなるため、原料混合の段階で配合比を調整し、原料の炭酸リチウム、炭酸ニッケル、炭酸コバルト、炭酸マンガンを、Li:Ni:Co:Mnが、モル濃度比で、1.03:0.80:0.10:0.10となるように秤量した。これらの原料を、少量の造粒剤を添加した水による湿式粉砕で粉砕混合した後、スプレードライヤを使用して噴霧乾燥させることで凝集性の原料粉末を得た。続いて、得られた原料粉末を、高純度アルミナ容器に投入し、酸素気流下において650℃で12時間の仮焼を行った。次いで、得られた仮焼体を、空冷及び解砕した後、再び高純度アルミナ容器に投入して、酸素気流下において850℃で8時間の本焼成を行った。そして、得られた二次粒子の集合を空冷し、解砕した後に分級した。
【0087】
なお、各群の二次粒子の粒子径と二次粒子の空隙率は、原料粉末の湿式粉砕の条件、噴霧乾燥の条件を適宜変更することによって調整した。粒径は噴霧の条件に大きく依存する。噴霧乾燥の装置の規模によっても異なるが、噴霧圧力が高く、スラリー供給量が多いと大粒径、噴霧圧力が低く、スラリー供給が少ないと小粒径となる。空隙率は、スラリー粘度、濃度の影響が大きく、高粘度のスラリーとすることで高空隙率、低粘度のスラリーとすることで低空隙率の粒子が得られる。本実施例では、噴霧乾燥時のスラリー供給量を約2kg/hrに設定の上、上記のパラメータ調整により粒子の制御を行い、スラリー粘度は100rpmで5mPa・S〜30mPa・S、スラリーの濃度は10%〜70%の範囲とするとともに、噴霧圧力を0.05MPa〜0.5MPaとした。
【0088】
本焼成によって得られた正極活物質は、組成比Li:Ni:Co:Mn=1.00:0.80:0.10:0.10であった。この正極活物質について、結晶構造の分析を行った。分析には、X線回折装置「RINTIII」(株式会社リガク製)を使用し、CuKα線を用いた。その結果、得られた正極活物質について、空間群R3−mに帰属されるピークが確認され、層状構造を有することが確認された。
【0089】
調製した各二次粒子の集合の粒度分布は、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置「LA−920」(株式会社堀場製作所製)を使用して測定した。なお、超音波の印加時間は5minとした。
【0090】
また、調製した各二次粒子の空隙率は、細孔分布測定装置「オートポアIV9520」(株式会社島津製作所製)を使用し、水銀圧入法によって測定した。具体的には、条件を変更して調製した各二次粒子の粉末0.3gを容量5ccの粉体用セルに投入し、初期圧20kPaから測定を開始して、細孔直径が60μm以上3nm以下に相当する範囲の条件で細孔体積を測定した。なお、水銀の接触角は130°、水銀の表面張力は485dyne/cm(485×10
−5N/cm)とし、空隙率は、細孔直径が0.9μm以下の範囲を二次粒子の内部に存在する空隙であると見做して前記の数式1に基いて算出した。
【0091】
粒度分布と空隙率とを測定した各二次粒子は、実施例1〜11については、空隙率が相対的に高い大径の二次粒子(大粒子)と、空隙率が相対的に低い小径の二次粒子(小粒子)との組み合わせによって構成されるように、大粒子と小粒子との2種を混合して調製した。また、比較例1〜5については、空隙率が相対的に低い大径の二次粒子(大粒子)と、空隙率が相対的に高い小径の二次粒子(小粒子)との組み合わせによって構成されるように、大粒子と小粒子との2種を混合して調製した。なお、混合した大粒子と小粒子の体積比及び空隙率、並びに、得られた実施例1〜11に係る正極材と比較例1〜5に係る正極材について測定した粒度分布を表1に示す。
【0092】
次に、得られたリチウムイオン二次電池用正極材を用いて、以下の手順で、リチウムイオン二次電池を製造した。なお、リチウムイオン二次電池は、直径18mm×高さ650mmの円筒型の18650電池とした。
【0093】
正極については、90質量部の正極材と、6質量部の導電材と、4質量部の結着剤とを溶媒中で混合し、プラネタリーミキサを用いて3時間撹拌して正極合材を調製した。なお、導電材としては、炭素粒子の粉末、結着剤としては、ポリフッ化ビニリデン、溶媒としては、N−メチルピロリドンを用いた。そして、得られた正極合材をロール転写機を用いて、厚さ20μmのアルミニウム製の箔である正極集電体の両面に塗布し、ロールプレスを用いて、電極密度が3.0g/cm
3前後となるように加圧した後、裁断して正極とした。得られた実施例1〜11に係る正極と比較例1〜5に係る正極における電極密度を表1に示す。
【0094】
負極については、95質量部の負極活物質と、5質量部の結着剤とを溶媒中で混合し、スラリーミキサを用いて30分間撹拌して負極合材を調製した。なお、負極活物質としては、黒鉛、結着剤としては、ポリフッ化ビニリデン、溶媒としては、N−メチルピロリドンを用いた。そして、得られた負極合材をロール転写機を用いて、厚さ10μmの銅製の箔である負極集電体の両面に塗布し、ロールプレスを用いて加圧した後、裁断して負極とした。
【0095】
得られた正極及び負極は、それぞれ正極リード片、負極リード片を超音波溶接によって接合した後、セパレータとして多孔性ポリエチレンフィルムを電極間に挟んで円筒状に捲回して電池缶に収容した。そして、正極リード片及び負極リード片を電池缶、密閉蓋とそれぞれ接続した後、電池缶と密閉蓋とをレーザ溶接により接合して封止した。その後、注液口から電池缶内部に非水電解液を注入して、リチウムイオン二次電池とした。なお、非水電解液としては、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとを体積比1:2で混合した混合溶媒に、LiPF
6を1.0mol/Lの濃度で溶解させたものを用いた。
【0096】
次に、実施例1〜11に係る正極材と比較例1〜5に係る正極材のそれぞれを用いて製造したリチウムイオン二次電池について、充放電試験を行い、レート特性及び充放電サイクル特性を評価した。なお、充放電試験は、25℃の環境温度下で行った。
【0097】
各レートにおける放電容量については、以下の手順で求めた。まず、0.2C相当の電流で上限電圧4.5Vまで定電流低電圧充電を行い、30分間休止した後、0.2C相当の定電流で下限電圧3.0Vまで放電を行った。続いて、この充放電を1サイクルとして、計2サイクルの充放電を繰り返した。そして、この2サイクル目において求めた正極材あたりの放電容量密度の値を、0.2Cにおける放電容量(Ah/kg)とした。次に、0.2Cにおける放電容量を測定した後、0.2C相当の電流で上限電圧4.5Vまで定電流低電圧充電を行い、10分間休止した後、5.0C相当の定電流で下限電圧3.0Vまで放電を行った。そして、このとき求めた正極材あたりの放電容量密度の値を、5.0Cにおける放電容量(Ah/kg)とした。その後、測定された5.0Cにおける放電容量の0.2Cにおける放電容量に対する分率をレート容量維持率(%)として算出した。これらの結果を表1に示す。
【0098】
充放電サイクルにおける容量維持率については、以下の手順で求めた。5.0Cにおける放電容量を測定した後、0.2C相当の電流で上限電圧4.5Vまで定電流低電圧充電を行い、30分間休止した後、0.2C相当の定電流で下限電圧3.0Vまで放電を行った。このとき求めた放電容量の値を、充放電サイクル前の放電容量とした。続いて、1.0C相当の電流で上限電圧4.5Vまで定電流低電圧充電を行い、10分間休止した後、1.0C相当の定電流で下限電圧3.0Vまで放電を行った。続いて、この充放電を1サイクルとして、計99サイクルの充放電を繰り返した。そして、0.2C相当の電流で上限電圧4.5Vまで定電流低電圧充電を行い、30分間休止した後、0.2C相当の定電流で下限電圧3.0Vまで放電を行った。その後、この100サイクル目において求めた放電容量の、充放電サイクル前の放電容量に対する分率を容量維持率(%)として算出した。その結果を表1に示す。
【0099】
【表1】
【0100】
表1に示すように、実施例1〜11に係るリチウムイオン二次電池では、体積基準の積算粒子径分布の10%に対応した粒子径(D10)が0.5μm以上10μm以下、且つ、体積基準の積算粒子径分布の90%に対応した粒子径(D90)が10μmを超え50μm以下の範囲にある。また、粒子径が10μmを超え50μm以下の範囲にある二次粒子における平均空隙率が、粒子径が0.5μm以上10μm以下の範囲にある二次粒子における平均空隙率よりも高くなっており、粒子径が10μmを超え50μm以下である二次粒子における平均空隙率が5%を超え70%以下、粒子径が0.5μm以上10μm以下である二次粒子における平均空隙率が5%以下となっている。
【0101】
これに対して、比較例1〜5に係るリチウムイオン二次電池では、体積基準の積算粒子径分布の10%に対応した粒子径(D10)が0.5μm以上10μm以下、且つ、体積基準の積算粒子径分布の90%に対応した粒子径(D90)が10μmを超え50μm以下の範囲にあるものの、粒子径が10μmを超え50μm以下の範囲にある二次粒子における平均空隙率が、粒子径が0.5μm以上10μm以下の範囲にある二次粒子における平均空隙率よりも低くなっている。
【0102】
これらの比較例1〜5に係るリチウムイオン二次電池では、レート容量維持率は、概ね60%台後半となり、サイクル容量維持率は、86%〜87%程度以下となっている。これに対して、実施例1〜11に係るリチウムイオン二次電池では、レート容量維持率は、概ね72%程度を超え、75%〜76%前後を達成しており、良好なレート特性が実現されていることが確認された。以上の結果より、粒子径が10μmを超え50μm以下の範囲にある二次粒子における平均空隙率が、粒子径が0.5μm以上10μm以下の範囲にある二次粒子における平均空隙率よりも高いことにより、レート容量維持率及及びサイクル容量維持率を向上できる。また、実施例1〜11に係るリチウムイオン二次電池では、サイクル容量維持率は、88%を超え、90%前後を達成しており、良好な充放電サイクル特性が実現されていることが確認された。