【文献】
Yu-Jin Kim,Jae-Hwan Choi,Improvement of desalination efficiency in capacitive deionization using a carbon electrode coated wi,WATER RESEARCH,英国,2010年 2月,Vol.44,Page.990-996
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の電極は、集電体層、多孔質電極層及びイオン交換層がこの順番に配置され、前記イオン交換層が、イオン性基を有する単量体を0.1〜50モル%共重合させてなるビニルアルコール共重合体(P)を含有し、前記多孔質電極層が炭素材料を含有するものである。
【0023】
本発明の電極は、イオンの吸着及び脱着を効率よく行うことができる。本発明の電極によるイオンの吸着及び脱着は、多孔質電極層において行われる。イオンの吸着及び脱着には、電極に電圧を印加して多孔質電極層に電荷を与えることにより生じる、当該多孔質電極層とイオンとの間の静電力が利用される。
【0024】
前記多孔質電極層の一面は、集電体層と対向し、多孔質電極層と集電体層は電気的に接続される。前記電極と外部電源の接続は、通常、集電体層の一部と外部電源とを電気的に接続することにより行われる。このように前記電極を外部電源に接続することにより、多孔質電極層に電荷を与えることができる。
【0025】
前記多孔質電極層の他面は、イオン交換層と対向する。本発明の電極を用いてイオンの吸着や脱着を行う場合、多孔質電極層と電極外部の間のイオンの移動が、概ね当該イオン交換層を介して行われる。当該イオン交換層はビニルアルコール共重合体(P)のイオン性基に由来する固定電荷を有するため、当該イオン性基の電荷とは反対符号の電荷を有するイオンを選択的に透過させる。このようなイオン選択透過性を有するイオン交換層を介してイオンの移動が行われることにより、イオンの吸着と脱着を繰り返し行った場合における、吸着及び脱着効率の低下が抑制される。
【0026】
本発明の電極は、多孔質電極層に対して配置されるイオン交換層として、イオン性基を有する単量体を0.1〜50モル%共重合させてなるビニルアルコール共重合体(P)を含有するイオン交換層を用いる。当該イオン交換層は、膜抵抗が小さいうえに、イオンが透過し易く、イオン選択透過性にも優れる。さらに、当該イオン交換層は優れた膜強度と耐有機汚染性を有する。このようなイオン交換層を用いることにより、本発明の電極は、効率よく、かつ長期間に渡って安定に、イオンの吸着及び脱着を行うことができる。
【0027】
ビニルアルコール共重合体(P)は、共重合させるイオン性基を有する単量体がカチオン性基を有する単量体であるかアニオン性基を有する単量体であるかの違いにより2種類に分けられる。ビニルアルコール共重合体(P)は、カチオン性基を有する単量体を共重合させてなるビニルアルコール共重合体(P1)、又は、アニオン性基を有する単量体を共重合させてなるビニルアルコール共重合体(P2)である。イオン交換層のイオン選択透過性は、ビニルアルコール共重合体(P)中のイオン性基に由来する固定電荷によってもたらされる。カチオン性基を有する単量体を共重合させてなるビニルアルコール共重合体(P1)を含有するイオン交換層は、アニオンを選択的に透過するアニオン交換層であり、アニオン性基を有する単量体を共重合させてなるビニルアルコール共重合体(P2)を含有するイオン交換層は、カチオンを選択的に透過するカチオン交換層である。
【0028】
ビニルアルコール共重合体(P1)におけるカチオン性基を有する繰り返し単位は特に限定されないが、下記一般式(1)〜(6)で表される繰り返し単位が挙げられる。
【0029】
【化1】
(式中、R
1は水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表し、R
2、R
3、R
4はそれぞれ独立に、水素原子、または、置換基を有していてもよい炭素数1〜18のアルキル基、アリール基若しくはアラルキル基を表わす。R
2、R
3、R
4は、相互に連結して飽和若しくは不飽和環状構造を形成していてもよい。Zは、−O−または−NH−を表す。Y
1は、複素原子を介していてもよい炭素数1〜8の二価の連結基を表す。X
−は、陰イオンを表す。)
【0030】
一般式(1)中の陰イオンX
−としては、ハロゲン化物イオン、水酸化物イオン、リン酸イオン、カルボン酸イオン、スルホン酸イオンなどが例示される。
【0032】
(式中、R
5は水素原子またはメチル基を表わす。R
2、R
3、R
4、X
−は上記一般式(1)と同義である。)
【0034】
(式中、R
2、R
3、X
−は上記一般式(1)と同義である。)
【0036】
(式中、nは0または1を表わし、R
2、R
3、R
4、X
−は上記一般式(1)と同義である。)
【0037】
上記一般式(1)で表される繰り返し単位を有するビニルアルコール共重合体(P1)の合成に用いられるカチオン性基を有する単量体としては、N,N−ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート(例えばN,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリレートなど)や、N,N−ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミド(例えばN,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドなど)のアルキルハライド(例えばメチルクロライド、エチルクロライド、メチルブロマイド、エチルブロマイド、メチルアイオダイド若しくはエチルアイオダイド)による4級化物、または該4級化物のアニオンを置換したスルホン酸塩、アルキルスルホン酸塩、酢酸塩若しくはアルキルカルボン酸塩等が挙げられる。
【0038】
上記一般式(2)で表される繰り返し単位を有するビニルアルコール共重合体(P1)の合成に用いられるカチオン性基を有する単量体としては、例えば、トリメチル−p−ビニルベンジルアンモニウムクロライド、トリメチル−m−ビニルベンジルアンモニウムクロライド、トリエチル−p−ビニルベンジルアンモニウムクロライド、トリエチル−m−ビニルベンジルアンモニウムクロライド、N,N−ジメチル−N−エチル−N−p−ビニルベンジルアンモニウムクロライド、N,N−ジエチル−N−メチル−N−p−ビニルベンジルアンモニウムクロライド、N,N−ジメチル−N−n−プロピル−N−p−ビニルベンジルアンモニウムクロライド、N,N−ジメチル−N−n−オクチル−N−p−ビニルベンジルアンモニウムクロライド、N,N−ジメチル−N−ベンジル−N−p−ビニルベンジルアンモニウムクロライド、N,N−ジエチル−N−ベンジル−N−p−ビニルベンジルアンモニウムクロライド、N,N−ジメチル−N−(4−メチル)ベンジル−N−p−ビニルベンジルアンモニウムクロライド、N,N−ジメチル−N−フェニル−N−p−ビニルベンジルアンモニウムクロライド、トリメチル−p−ビニルベンジルアンモニウムブロマイド、トリメチル−m−ビニルベンジルアンモニウムブロマイド、トリメチル−p−ビニルベンジルアンモニウムスルホネート、トリメチル−m−ビニルベンジルアンモニウムスルホネート、トリメチル−p−ビニルベンジルアンモニウムアセテート、トリメチル−m−ビニルベンジルアンモニウムアセテートが挙げられる。
【0039】
さらに、ビニルアルコール共重合体(P1)の合成に用いられるカチオン性基を有する単量体として、例えば、ジメチルジアリルアンモニウムクロライド、ジメチルジアリルアンモニウムクロライド、トリメチル−2−(メタクリロイルオキシ)エチルアンモニウムクロライド、トリエチル−2−(メタクリロイルオキシ)エチルアンモニウムクロライド、トリメチル−2−(アクリロイルオキシ)エチルアンモニウムクロライド、トリエチル−2−(アクリロイルオキシ)エチルアンモニウムクロライド、トリメチル−3−(メタクリロイルオキシ)プロピルアンモニウムクロライド、トリエチル−3−(メタクリロイルオキシ)プロピルアンモニウムクロライド、トリメチル−2−(メタクリロイルアミノ)エチルアンモニウムクロライド、トリエチル−2−(メタクリロイルアミノ)エチルアンモニウムクロライド、トリメチル−2−(アクリロイルアミノ)エチルアンモニウムクロライド、トリエチル−2−(アクリロイルアミノ)エチルアンモニウムクロライド、トリメチル−3−(メタクリロイルアミノ)プロピルアンモニウムクロライド、トリエチル−3−(メタクリロイルアミノ)プロピルアンモニウムクロライド、トリメチル−3−(アクリロイルアミノ)プロピルアンモニウムクロライド、トリエチル−3−(アクリロイルアミノ)プロピルアンモニウムクロライド、N,N−ジメチル−N−エチル−2−(メタクリロイルオキシ)エチルアンモニウムクロライド、N,N−ジエチル−N−メチル−2−(メタクリロイルオキシ)エチルアンモニウムクロライド、N,N−ジメチル−N−エチル−3−(アクリロイルアミノ)プロピルアンモニウムクロライド、トリメチル−2−(メタクリロイルオキシ)エチルアンモニウムブロマイド、トリメチル−3−(アクリロイルアミノ)プロピルアンモニウムブロマイド、トリメチル−2−(メタクリロイルオキシ)エチルアンモニウムスルホネート、トリメチル−3−(アクリロイルアミノ)プロピルアンモニウムアセテート等を挙げることができる。その他、共重合可能なモノマーとして、N−ビニルイミダゾール、N−ビニル−2−メチルイミダゾール等も挙げられる。
【0040】
ビニルアルコール共重合体(P2)における、アニオン性基を有する繰り返し単位は特に限定されないが、下記一般式(7)又は(8)で表される繰り返し単位があげられる。
【0042】
(式中、R
5は上記一般式(2)と同義であり、Y
2はメチル基で置換されていてもよいフェニレン基又はナフチレン基を表し、Y
3はスルホニルオキシ基(−SO
3−)、ホスホニルオキシ基(−PO
3H−)又はカルボニルオキシ基(−CO
2−)を表し、Mは水素原子、アンモニウムイオン又はアルカリ金属イオンを表す。)
【0043】
上記一般式(7)及び(8)におけるY
3は、より高い荷電密度を与えるスルホニルオキシ基又はホスホニルオキシ基であることが好ましい。また、Mの定義におけるアルカリ金属イオンとしては、ナトリウムイオン、カリウムイオン、リチウムイオン等が挙げられる。
【0044】
ビニルアルコール共重合体(P2)の合成に用いられるアニオン性基を有する単量体のうち、得られる重合体において、上述の一般式(7)で表される繰り返し単位を構成する単量体としては、例えば、p−スチレンスルホン酸又はそのアルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩、p−スチレンホスホン酸又はそのアルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩、p−スチレンカルボン酸又はそのアルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩、α−メチル−p−スチレンスルホン酸又はそのアルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩、α−メチル−p−スチレンホスホン酸又はそのアルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩、α−メチル−p−スチレンカルボン酸又はそのアルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩、2−ビニルナフタレンスルホン酸又はそのアルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩、2−ビニルナフタレンホスホン酸又はそのアルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩、2−ビニルナフタレンカルボン酸又はそのアルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩などが挙げられる。
【0045】
ビニルアルコール共重合体(P2)の合成に用いられるアニオン性基を有する単量体のうち、得られる重合体において、上述の一般式(8)で表される繰り返し単位を構成する単量体としては、例えば、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸又はそのアルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンホスホン酸又はそのアルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンカルボン酸又はそのアルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩などが挙げられる。
【0046】
本発明において用いられるビニルアルコール共重合体(P)は、イオン性基を有する単量体を共重合させてなるビニルアルコール共重合体である。当該ビニルアルコール共重合体(P)として、ビニルアルコール重合体成分とイオン性基を有する単量体を重合してなる重合体成分とを含有する、ブロック共重合体(P’)及びグラフト共重合体、並びにイオン性基を有する単量体とビニルエステル単量体とを共重合させた後けん化させてなるランダム共重合体(P”)等が挙げられる。
【0047】
本発明において用いられるビニルアルコール共重合体(P)は、イオン性基を有する単量体を0.1〜50モル%共重合させてなるビニルアルコール共重合体である。すなわち、ビニルアルコール共重合体(P)中の、単量体単位の総数(モル数)に対するイオン性基を有する単量体単位(イオン性単量体単位)の数(モル数)の割合が、0.1〜50モル%である。イオン性単量体単位の含有量が0.1モル%未満である場合には、得られる電極の電気抵抗が大きくなる。また、イオン交換層の荷電密度が低下し、イオン選択透過性が低下する。イオン性単量体単位の含有量が0.3モル%以上であることが好ましく、1モル%以上であることがより好ましい。また、イオン性単量体単位の含有量は50モル%以下である。含有量が50モル%を超えると、得られるイオン交換層の膨潤度が高くなり、膜強度が不足する。イオン性単量体単位の含有量が30モル%以下であることが好ましく、20モル%以下であることがより好ましい。
【0048】
イオン交換層により高いイオン透過性を付与する観点からは、ビニルアルコール共重合体(P)は、イオン性基を有する単量体単位、ビニルアルコール単量体単位及びビニルエスエステル単量体単位のみから構成されることが望ましいが、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、その他の単量体単位を含んでいてもよい。このような単量体単位を構成する単量体としては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン、1−ヘキセン等のα−オレフィン;アクリル酸もしくはその塩;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル等のアクリル酸エステル;メタクリル酸もしくはその塩;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル等のメタクリル酸エステル;アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド等のアクリルアミド誘導体;メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド等のメタクリルアミド誘導体;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル;エチレングリコールビニルエーテル、1,3−プロパンジオールビニルエーテル、1,4−ブタンジオールビニルエーテル等のヒドロキシル基含有ビニルエーテル;アリルアセテート、プロピルアリルエーテル、ブチルアリルエーテル、ヘキシルアリルエーテル等のアリルエーテル;オキシアルキレン基を有する単量体;酢酸イソプロペニル、3−ブテン−1−オール、4−ペンテン−1−オール、5−ヘキセン−1−オール、7−オクテン−1−オール、9−デセン−1−オール、3−メチル−3−ブテン−1−オール等のヒドロキシル基含有α−オレフィン;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン等のシリル基を有する単量体などが挙げられる。ビニルアルコール共重合体(P)中の単量体単位の総数に対する、イオン性基を有する単量体単位、ビニルアルコール単量体単位及びビニルエスエステル単量体単位以外の単量体単位の割合は25モル%以下が好ましく、20モル%以下がより好ましく、特に10モル%以下であることが好ましい。
【0049】
ビニルアルコール共重合体(P)の水溶液の粘度は特に限定されないが、20℃である、ビニルアルコール共重合体(P)の4重量%水溶液を、ロータ回転数が60rpmの条件でB型粘度計により測定したときの粘度が5〜150mPa・sであることが好ましい。
【0050】
膜強度をより向上させる観点や電流抵抗をより低減させる観点からは、ビニルアルコール共重合体(P)が、ビニルアルコール重合体ブロック(A)及びイオン性基を有する重合体ブロック(B)を構成成分とするブロック共重合体(P’)であることが好適である。ブロック共重合体(P’)は、ビニルアルコール重合体ブロック(A)及びイオン性基を有する重合体ブロック(B)を構成成分とするものである。ブロック共重合体(P’)において、単量体単位がそれぞれブロック状に配置されていることにより、得られるイオン交換層の溶媒による膨潤がさらに抑制されるため、膜強度がさらに向上する。
【0051】
ブロック共重合体(P’)は、重合体ブロック(B)中のイオン性基がカチオン性基であるかアニオン性基であるかの違いにより2種類に分けられる。ブロック共重合体(P’)は、ビニルアルコール重合体ブロック(A)及びカチオン性基を有する重合体ブロック(B1)を構成成分とするカチオン性ブロック共重合体(P1’)、又は、ビニルアルコール重合体ブロック(A)及びアニオン性基を有する重合体ブロック(B2)を構成成分とするアニオン性ブロック共重合体(P2’)である。
【0052】
カチオン性ブロック共重合体(P1’)におけるカチオン性基を有する重合体ブロック(B1)を構成する繰り返し単位は特に限定されないが、上記一般式(1)〜(6)で表される繰り返し単位が挙げられる。
【0053】
アニオン性ブロック共重合体(P2’)における、アニオン性基を有する重合体ブロック(B2)を構成する繰り返し単位は特に限定されないが、上記一般式(7)又は(8)で表される繰り返し単位が挙げられる。
【0054】
ブロック共重合体(P’)は、イオン性基を有する少なくとも1種の単量体と他の単量体を用いて製造される。当該方法は、ビニルアルコール重合体ブロック(A)とイオン性基を有する重合体ブロック(B)の各成分の種類や量を容易に制御できる点、及び、工業的な製造が容易である点から好ましい。中でも、末端にメルカプト基を含有するビニルアルコール重合体に、イオン性基を含有する少なくとも1種の単量体をラジカル重合させることによりブロック共重合体(P’)を製造する方法がより好ましい。
【0055】
以下、本発明において好ましく用いられる、イオン性基を有する少なくとも1種の単量体と他の単量体を用いて所望のブロック共重合体(P’)を製造する方法について説明する。
【0056】
末端にメルカプト基を含有するビニルアルコール重合体は、例えば、特許文献5などに記載されている方法により得ることができる。すなわち、チオール酸の存在下にビニルエステル単量体、例えば酢酸ビニルをラジカル重合して得られるビニルエステル系重合体をけん化する方法が挙げられる。
【0057】
末端にメルカプト基を含有するビニルアルコール重合体のけん化度は特に限定されないが、40〜99.9モル%であることが好ましい。けん化度が40モル%未満である場合には、ビニルアルコール重合体ブロック(A)の結晶性が低下し、イオン交換層の強度が不足するおそれがある。けん化度が60モル%以上であることがより好ましく、80モル%以上であることがさらに好ましい。また、末端にメルカプト基を含有するビニルアルコール重合体のけん化度は、通常99.9モル%以下である。ビニルアルコール重合体のけん化度は、JIS K6726に準じて測定した値である。
【0058】
末端にメルカプト基を含有するビニルアルコール重合体の重合度は、100以上3500以下が好ましく、200以上3000以下がより好ましく、250以上2500以下がさらに好ましい。重合度が100に満たない場合には、最終的に得られるブロック共重合体(P’)を含有するイオン交換層の膜強度が不足する可能性がある。一方、重合度が3500を超える場合には、当該ビニルアルコール重合体に導入されるメルカプト基が不足し、効率的にブロック重合体(P’)を得ることができなくなる可能性がある。なお、ビニルアルコール重合体の粘度平均重合度は、JIS K6726に準じて測定した値である。
【0059】
このようにして得られる末端にメルカプト基を含有するビニルアルコール重合体と、イオン性基を含有する単量体とを用いてブロック共重合体(P’)を得る方法としては、例えば、特許文献6などに記載された方法が挙げられる。
【0060】
すなわち、例えば特許文献6に記載されているように、末端にメルカプト基を有するビニルアルコール重合体の存在下にイオン性基を有する単量体をラジカル重合させることによりブロック共重合体(P’)を得ることができる。このラジカル重合は公知の方法、例えばバルク重合、溶液重合、パール重合、乳化重合などによって行うことができる。当該重合は、末端にメルカプト基を含有するビニルアルコール重合体を溶解し得る溶剤、例えば水やジメチルスルホキシドを主成分とする媒体中で行うのが好ましい。また、重合プロセスとしては、回分法、半回分法、連続法のいずれをも採用することができる。
【0061】
上記ラジカル重合は、通常のラジカル重合開始剤、例えば2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシカーボネート、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の中から重合系に適したものを使用して行うことができる。水系での重合の場合、ビニルアルコール重合体末端のメルカプト基と臭素酸カリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素等の酸化剤によるレドックス反応によって重合を開始することも可能である。
【0062】
末端にメルカプト基を有するビニルアルコール重合体の存在下にイオン性基を有する単量体をラジカル重合させるに際し、重合系が酸性であることが望ましい。これは、塩基性下においては、メルカプト基が単量体の二重結合へイオン的に付加して、消失する速度が大きくなるため、重合効率が著しく低下するためである。水系で重合を行う場合には、すべての重合操作をpH4以下で実施することが好ましい。
【0063】
イオン交換層により高いイオン透過性を付与する観点からは、イオン性基を有する重合体ブロック(B)は、イオン性基を有する単量体単位のみから構成されることが望ましいが、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、イオン性基を有さない単量体単位を含んでいてもよい。ブロック共重合体(P’)の合成に用いる単量体のうち、そのようなイオン性基を有さない単量体単位を構成する単量体としては、ビニルアルコール共重合体(P)の合成に用いられる、イオン性基を有する単量体単位、ビニルアルコール単量体単位及びビニルエスエステル単量体単位以外の単量体単位を構成する単量体として上述したものが挙げられる。イオン性基を有する重合体ブロック(B)中の単量体単位の総数に対するイオン性基を有する単量体単位の割合は80モル%以上が好ましく、特に90モル%以上であることが好ましい。
【0064】
上記ラジカル重合の反応温度については特に制限はないが、通常0〜200℃が適当である。重合の経過は各種クロマトグラフィー、NMRスペクトル等による残存モノマーの定量で追跡して重合反応の停止を判断することで、重合体ブロック(A)と重合体ブロック(B)の比を所望の値に調整することができる。重合反応の停止は、公知の手法、例えば重合系の冷却により行う。
【0065】
ビニルアルコール共重合体(P)として、イオン性基を有する単量体とビニルエステル単量体とを共重合させた後けん化させてなるランダム共重合体(P”)も好適に用いられる。
【0066】
ランダム共重合体(P”)の重合度は、100〜10000が好ましく、200〜9000がより好ましく、250〜8000がさらに好ましい。重合度が100に満たない場合には、最終的に得られるランダム共重合体(P”)を含有するイオン交換層の膜強度が不足する可能性がある。なお、ランダム共重合体(P”)の粘度平均重合度は、JIS K6726に準じて測定した値である。
【0067】
ランダム共重合体(P”)のけん化度は特に限定されないが、40〜99.9モル%であることが好ましい。けん化度が40モル%未満である場合には、ランダム共重合体(P”)の結晶性が低下し、イオン交換層の強度が不足するおそれがある。けん化度が60モル%以上であることがより好ましく、80モル%以上であることがさらに好ましい。ランダム共重合体(P”)のけん化度は、JIS K6726に準じて測定した値である。
【0068】
ランダム共重合体(P”)の原料として用いられるビニルエステル単量体としては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル、ラウリル酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、オレイン酸ビニル、安息香酸ビニルなどが挙げられるが、中でも酢酸ビニルが最も好ましい。
【0069】
ランダム共重合体(P”)の製造方法は、イオン性基を有する単量体とビニルエステル単量体とを共重合させた後、けん化することにより得られる。具体的には、イオン性基を有する単量体とビニルエステル単量体との共重合をアルコール系溶媒中または無溶媒で行い、得られた共重合体をけん化する方法が好ましい。共重合を行う際に採用される温度は0〜200℃が好ましく、30〜140℃がより好ましい。共重合を行う温度が0℃より低い場合は、十分な重合速度が得られないため好ましくない。また、重合を行う温度が200℃より高い場合、目的とする共重合体を得ることが困難になるため好ましくない。
【0070】
イオン性基を有する単量体とビニルエステル単量体との共重合を行うのに用いられる重合方式としては、回分重合、半回分重合、連続重合、半連続重合のいずれでもよい。重合方法としては、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法など公知の任意の方法を用いることができる。その中でも、無溶媒またはアルコール系溶媒中で重合を行う塊状重合法や溶液重合法が好適に採用され、高重合度の共重合物の製造を目的とする場合は乳化重合法が採用される。アルコール系溶媒としては、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコールなどを用いることができるが、これらに限定されるものではない。またこれらの溶媒は2種類またはそれ以上の種類を混合して用いることができる。
【0071】
イオン性基を有する単量体とビニルエステル単量体との共重合に使用される開始剤としては、重合方法に応じて従来公知のアゾ系開始剤、過酸化物系開始剤、レドックス系開始剤などが適宜選ばれる。アゾ系開始剤としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)などが挙げられ、過酸化物系開始剤としては、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジエトキシエチルパーオキシジカーボネートなどのパーカーボネート化合物;t−ブチルパーオキシネオデカネート、α−クミルパーオキシネオデカネート、t−ブチルパーオキシデカネートなどのパーエステル化合物;アセチルシクロヘキシルスルホニルパーオキシド;2,4,4−トリメチルペンチル−2−パーオキシフェノキシアセテートなどが挙げられる。さらには、上記開始剤に過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素などを組み合わせて開始剤とすることもできる。また、レドックス系開始剤としては、上記の過酸化物と亜硫酸水素ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、酒石酸、L−アスコルビン酸、ロンガリットなどの還元剤とを組み合わせたものが挙げられる。
【0072】
イオン性基を有する単量体とビニルエステル単量体とを共重合して得られたビニルエステル共重合体のけん化反応には、従来公知の水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメトキシドなどの塩基性触媒またはp−トルエンスルホン酸などの酸性触媒を用いた加アルコール分解反応ないし加水分解反応を適用することができる。この反応に使用しうる溶媒としては、メタノール、エタノールなどのアルコール類;酢酸メチル、酢酸エチルなどのエステル類;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類:ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素などが挙げられ、これらは単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。中でもメタノールまたはメタノール/酢酸メチル混合溶液を溶媒とし、水酸化ナトリウムを触媒に用いてけん化反応を行うのが簡便であり好ましい。
【0073】
イオン交換層中のビニルアルコール共重合体(P)の含有量は、50重量%以上が好ましく、60重量%以上がより好ましく、70重量%以上がさらに好ましい。イオン交換層は、複数種類のビニルアルコール共重合体(P)を含有しても構わないが、カチオン性基を有する単量体を共重合させてなるビニルアルコール共重合体(P1)とアニオン性基を有する単量体を共重合させてなるビニルアルコール共重合体(P2)のうち、どちらか一方を含有することが好ましい。
【0074】
イオン交換層は、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、ビニルアルコール共重合体(P)以外の重合体や各種添加剤を含有してもよい。このような重合体としては、イオン性基を有さないビニルアルコール重合体、ポリアクリルアミド等が挙げられる。イオン交換層に含有される添加剤としては、消泡剤、低級アルコール等が挙げられる。イオン交換層中のビニルアルコール共重合体(P)以外の重合体や添加剤の含有量は、50重量%以下が好ましく、40重量%以下がより好ましく、30重量%以下がさらに好ましい。
【0075】
通液型コンデンサ用の電極として使用する際に、十分なイオン選択透過性を発現するためには、イオン交換層の荷電密度は0.3mol・dm
−3以上であることが好ましく、0.5mol・dm
−3以上であることがより好ましく、0.7mol・dm
−3以上であることがさらに好ましい。荷電密度が0.3mol・dm
−3未満であるとイオン交換層のイオン選択透過性が不足するおそれがある。イオン交換層の荷電密度は、3mol・dm
−3以下であることが好ましく、2.7mol・dm
−3以下であることがより好ましく、2.5mol・dm
−3以下であることがさらに好ましい。荷電密度が3mol・dm
−3を超えた場合、親水性が高くなり過ぎることにより膨潤度の抑制が困難となり、膜強度が低下するおそれがある。
【0076】
本発明の電極中のイオン交換層に含有されるビニルアルコール共重合体(P)は、ビニルアルコール単量体単位とイオン性基を有する単量体単位とを含む。ビニルアルコール単量体単位は、イオン交換層の膜強度の向上、膨潤度の抑制、形状保持に寄与し、イオン性基を有する単量体単位は、イオンの選択透過性の発現に寄与する。このように、役割を分担することで、イオン交換層の膨潤度の抑制、優れた膜強度及び優れた形状保持性と、高いイオン選択透過性を両立することに成功した。このような効果にさらに優れる観点から、ビニルアルコール共重合体(P)としてブロック共重合体(P’)を用いることが好ましい。上述のように、ブロック共重合体(P’)は、ビニルアルコール重合体ブロック(A)と、イオン性基を有する重合体ブロック(B)とから構成される。結晶性高分子であるビニルアルコール重合体ブロック(A)はイオン交換層の膜強度の向上、膨潤度の抑制、形状保持に寄与し、イオン性基を有する重合体ブロック(B)は、イオンの選択透過性の発現に寄与する。このように、重合体ブロック(A)と重合体ブロック(B)が役割を分担することで、イオン交換層の膨潤度の抑制、優れた膜強度及び優れた形状保持性と、高いイオン選択透過性とをさらに高いレベルで両立することに成功した。
【0077】
また、ビニルアルコール共重合体(P)を含有するイオン交換層は、膜抵抗が小さいため、本発明の電極は抵抗が小さい。さらに、ビニルアルコール共重合体(P)を含有するイオン交換層は高い親水性を有するため、耐有機汚染性が高い。
【0078】
多孔質電極層に含有される炭素材料としては、活性炭、カーボンブラックなどが用いられ、特に、活性炭が好んで用いられる。活性炭の形状は、任意の形状を選択でき、粉末状、粒状、繊維状等が挙げられる。活性炭の中でもイオンの吸着量が多い点からは、高比表面積活性炭が好んで用いられる。前記高比表面積活性炭のBET比表面積は、700m
2/g以上が好ましく、1000m
2/g以上がより好ましく、1500m
2/g以上がさらに好ましい。
【0079】
多孔質電極層中の炭素材料の含有量は、70重量%以上が好ましく、80重量%以上がより好ましい。炭素材料の含有量が70重量%未満の場合には、イオンの吸着量が不十分になるおそれがある。
【0080】
本発明の効果を阻害しない範囲であれば、多孔質電極層は、各種添加剤を含有してもよい。このような添加剤としては、バインダー、導電剤、分散剤、増粘剤などが挙げられる。多孔質電極層中の前記添加剤の含有量は、30重量%以下が好ましく、20重量%以下がより好ましい。
【0081】
多孔質電極層の電気伝導性は、電極の用途により、適宜調整すればよく、前記炭素材料として、電気伝導性を有する炭素材料を用いることや、導電剤を含有させること等により調整できる。
【0082】
本発明の電極に用いられる集電体層は、電気伝導性及び耐腐食性が高いものであれば特に限定されず、黒鉛シートや、チタン、金、白金又はこれらの複合材料等の金属箔等が挙げられる。なかでも、耐腐食性と導電性のバランスに優れる点から黒鉛シートが好ましい。集電体層の厚みは特に限定されないが、5〜5000μmが好ましく、10〜3000μmがより好ましい。
【0083】
本発明の電極において、集電体層、多孔質電極層及びイオン交換層がこの順番に配置される。ここで、多孔質電極層とイオン交換層が、集電体層の片側にのみ配置されていてもよいし、両側にそれぞれ配置されていてもよい。多孔質電極層とイオン交換層が、集電体層の両側にそれぞれ配置された電極において、両側のイオン交換層は同符号の固定電荷を有するものであってもよいし、異符号の固定電荷を有するものであってもよいが、前者が好ましい。
【0084】
集電体層と多孔質電極層の間で電荷の授受が効率よく行われ、多孔質電極層と電極外部の間のイオンの移動が概ねイオン交換層を介して行われ、かつ多孔質電極層が、所定量のイオンを吸着できる表面積を有していれば、各層の大きさは特に限定されず、電極の用途によって適宜調整すればよい。また、本発明の電極は、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、集電体層、多孔質電極層及びイオン交換層以外の層を有していても構わない。
【0085】
本発明の電極は、集電体層の表面に直接多孔質電極層が形成され、多孔質電極層の表面に直接イオン交換層が形成されたものであることが好ましい。ビニルアルコール共重合体(P)は多孔質電極層に対して高い親和性を有するため、イオン交換層と多孔質電極層とは、高い密着性を有する。したがって、イオン交換層と多孔質電極層の間の界面抵抗が低下するうえに、イオン交換層が剥離しにくい。ビニルアルコール重合体ブロック(A)は多孔質電極層に対して特に高い親和性を有するため、ブロック共重合体(P’)を含有するイオン交換層と多孔質電極層とは、特に高い密着性を有する。
【0086】
耐有機汚染性に優れる観点からは、本発明の電極において、表面にイオン交換層が配置されていることが好ましい。
【0087】
本発明の電極の製造方法は特に限定されないが、集電体層の表面に、炭素材料を含有するスラリーとビニルアルコール共重合体(P)を含有する溶液とを塗布した後、塗膜を乾燥させることにより、多孔質電極層とイオン交換層とを形成する方法が好ましい。このような方法により、集電体層、多孔質電極層及びイオン交換層が一体化された電極が得られる。前記製造方法では、塗布された前記スラリーと前記溶液とを同時に乾燥させるため、形成されるイオン交換層の欠陥が少ないうえに、多孔質電極層とイオン交換層との接着性がさらに向上する。
【0088】
前記スラリーにおける分散媒は、炭素材料等の多孔質電極層の原料を分散させることができるものであれば特に限定されず、水、有機溶媒又はそれらの混合物などが挙げられる。分散質の組成は、形成される多孔質電極層の組成に合わせて適宜調整すればよい。前記スラリー中の分散質の含有量は特に限定されないが、通常、10〜60重量%である。
【0089】
前記製造方法に用いられる、ビニルアルコール共重合体(P)を含有する溶液における溶媒は、ビニルアルコール共重合体(P)を溶解できるものであれば特に限定されず、水、有機溶媒又はそれらの混合物などが挙げられる。溶質の組成は、形成されるイオン交換層の組成に合わせて適宜調整すればよい。前記溶液中の溶質の濃度は特に限定されないが、通常、5〜30重量%である。
【0090】
前記製造方法における前記スラリーと前記溶液を塗布する順番に関しては、集電体層の表面に、炭素材料を含有するスラリーとビニルアルコール共重合体(P)を含有する溶液とを同時に塗布するか、集電体層の表面に、炭素材料を含有するスラリーを塗布した後に、該スラリーの表面にビニルアルコール共重合体(P)を含有する溶液を塗布するのが好ましく、得られるイオン交換層中の欠陥がより低減する観点から、前者がより好ましい。
【0091】
前記スラリーと前記溶液を同時塗布する場合に用いられる塗布装置は特に限定されず、公知の塗布装置を用いることができる。例えば、カーテン型塗布装置、エクストルージョン型塗布装置、スライド型塗布装置が挙げられる。前記スラリーと前記溶液を同時塗布する場合、一度の塗布操作によって前記スラリーと前記溶液が塗布されればよく、前記スラリーと前記溶液が予め合わさった後に、集電体層の表面に塗布されてもよいし、前記スラリーが集電体層の表面に塗布された直後に、塗布されたスラリーの表面に前記溶液が塗布されてもよいが、前者が好ましい。前記スラリーを塗布した後に、前記溶液を塗布する場合に用いられる塗布装置は特に限定されず、公知の塗布装置を用いることができる。例えば、エクストルージョン型塗布装置、ロールコータ、コンマコータ、キスコータ、グラビアコータ、スライドビードコータが挙げられる。
【0092】
通液型コンデンサ用の電極として用いた場合に必要なイオンの吸着量、塗膜強度、その他の性能や、ハンドリング性等を確保する観点から、本発明の電極における、炭素素材を含有する多孔質電極層の厚みは、50〜1000μmであることが好ましい。多孔質電極層の厚みが50μm未満である場合には、イオンの吸着容量が不十分となるおそれある。逆に、多孔質電極層の厚みが1000μmを超える場合には、多孔質電極層が脆くなり、ひび割れ等の欠陥が発生しやすくなるおそれがある。多孔質電極層の厚みは、より好ましくは100〜800μmであり、さらに好ましくは150〜500μmである。なお、多孔質電極層の厚みは、乾燥した多孔質電極層の厚みである。
【0093】
通液型コンデンサ用の電極として用いた場合に必要な、イオン透過性、その他の性能や、表面被覆性等を確保する観点から、本発明の電極のイオン交換層の厚みは、1〜100μmであることが好ましい。厚みが1μm未満である場合には、イオン交換層による多孔質電極層表面の被覆が不十分になるおそれがある。一方、厚みが100μmを超える場合には、イオン透過抵抗が高くなるおそれがある。イオン交換層の厚みはより好ましくは3〜80μmであり、更に好ましくは5〜50μmである。なお、イオン交換層の厚みは、乾燥したイオン交換層の厚みである。
【0094】
前記製造方法において、塗膜を乾燥させた後に、さらに熱処理することが好ましい。塗膜を熱処理することによって、ビニルアルコール共重合体(P)において物理的な架橋が生じ、イオン交換層の機械的強度がさらに増大する。また、ビニルアルコール共重合体(P)としてブロック共重合体(P’)を用いた場合に、ブロック共重合体(P’)中のブロック成分のミクロ相分離が進み易くなり、イオン透過チャネルがより形成されやすくなる。熱処理の方法は特に限定されず、熱風乾燥機などが一般に用いられる。熱処理の温度は、特に限定されないが、100〜250℃であることが好ましい。熱処理の温度が100℃未満である場合、機械的強度を向上させたり、ミクロ相分離構造の形成を促進したりする効果が得られないおそれがある。熱処理温度が110℃以上であることがより好ましく、120℃以上であることがさらに好ましい。熱処理の温度が250℃を超える場合、ビニルアルコール共重合体(P)が融解するおそれがある。熱処理温度が230℃以下であることがより好ましく、200℃以下であることがさらに好ましい。
【0095】
前記製造方法において、塗膜を乾燥させた後に、さらに架橋処理することも好ましい。架橋処理を施すことによって、得られるイオン交換層の機械的強度がさらに増大する。架橋処理の方法は、重合体の分子鎖同士を化学結合によって結合できる方法であればよく、特に限定されない。通常、架橋処理剤を含む溶液に集電体層の表面に前記スラリーを乾燥してなる層と、前記ビニルアルコール共重合体(P)を含有する溶液を乾燥してなる層とが形成されたものを浸漬する方法などが用いられる。架橋処理剤としては、グルタルアルデヒド、ホルムアルデヒド、グリオキザールなどが例示される。前記架橋処理剤の濃度は、通常、溶液に対する架橋処理剤の体積濃度が0.01〜10体積%である。
【0096】
本発明の電極を製造する際には、熱処理と架橋処理の両方を行ってもよいし、一方のみを行ってもよい。熱処理と架橋処理を両方行う場合、熱処理を行った後に架橋処理を行ってもよいし、架橋処理を行った後に熱処理を行ってもよいし、両者を同時に行ってもよい。熱処理の後に架橋処理を行うことが、得られるイオン交換層の膨潤度の抑制の面から好ましい。
【0097】
上述のように本発明の電極は、イオンの吸着と脱着とを、長期間にわたって、効率よくかつ安定に行うことができる。したがって、当該電極は、通液型コンデンサ用の電極等として好適に用いられる。
【0098】
以下、本発明の電極の好適な実施態様である、当該電極を用いた通液型コンデンサを例にとって、当該電極によるイオンの吸着及び脱着について説明する。
図1は、本発明の電極2および電極3を用いた通液型コンデンサ1がイオンを吸着する様子の一例を示す模式図である。
【0099】
電極2は、イオン交換層として、カチオン性基を有する単量体を共重合させてなる共重合体(P1)を含有するアニオン交換層4を有し、集電体層6、多孔質電極層5及びアニオン交換層4がこの順に配置されてなる。電極3は、イオン交換層として、アニオン性基を有する単量体を共重合させてなる共重合体(P2)を含有するカチオン交換層7を有し、集電体層9、多孔質電極層8及びカチオン交換層7がこの順に配置されてなる。通液型コンデンサ1は、電極2および電極3の間に流路部10が配置され、アニオン交換層4とカチオン交換層7とが流路部10を介して対向するように配置されてなる。
【0100】
通液型コンデンサ1において、流路部10は、アニオン交換層4とカチオン交換層7の間にセパレータ層を配置する方法などにより形成できる。流路部10の形成に用いられるセパレータ層の材料は、電気絶縁性であり、なおかつ液体の通過が容易であるものであれば特に限定されず、紙、織布、不織布などの繊維シート、樹脂発泡シート、樹脂ネットなどが挙げられる。流路部10の厚みによって設定される電極間距離は、通常、50〜1000μmである。
【0101】
通液型コンデンサ1において、アニオン交換層4とカチオン交換層7とが流路部10を介して対向しているため、多孔質電極層5と流路部10の間のアニオン11の移動は、概ねアニオン交換層4を介して行われ、多孔質電極層8と流路部10の間のカチオン12の移動は、概ねカチオン交換層7を介して行われる。
【0102】
流路部10内に供給された液体中のイオンの吸着を行う場合には、各電極中のイオン交換層の固定電荷と多孔質電極層に与えられる電荷とが同符号となるように、電極2および電極3の間に電圧を印加する。すなわち、多孔質電極層5には正電荷を、多孔質電極層8には負電荷をそれぞれ与える。流路部10内のアニオン11は、アニオン交換層4を透過して、電極2内に移動し、正電荷を有する多孔質電極層5に吸着される。一方、流路部10内のカチオン12は、カチオン交換層7を透過して、電極3内に移動し、負電荷を有する多孔質電極層8に吸着される。
【0103】
イオンの吸着を行う際に、電極2の多孔質電極層5内にカチオン13が存在していたとしても、当該カチオン13は、アニオン交換層4を透過することが困難であるため、流路部10に漏れ出すことがほとんどない。また、電極3の多孔質電極層8内にアニオン14が存在していたとしても、当該アニオン14は、カチオン交換層7を透過することが困難であるため、流路部10に漏れ出すことがほとんどない。したがって、電極2および電極3の内部のイオンが流路部10内に漏れ出すことにより、電流効率が低下することがほとんどない。
【0104】
図2は、本発明の電極2および電極3を用いた通液型コンデンサ1がイオンを脱着する様子の一例を示す模式図である。多孔質電極層5および多孔質電極層8に吸着されたイオンの脱着は、吸着の場合とは反対符号の電荷を多孔質電極層5および多孔質電極層8に与えることにより行うことができる。このとき、多孔質電極層5が脱着したアニオン11は、アニオン交換層4を透過して流路部10に移動するが、カチオン交換層7が配置された電極3に移動して多孔質電極層8に再吸着されることはほとんどない。また、多孔質電極層8が脱着したカチオン12は、カチオン交換層7を透過して流路部10に移動するが、アニオン交換層4が配置された電極2内に移動して多孔質電極層5に再吸着されることはほとんどない。したがって、次回、イオンの吸着を行う際にも、再吸着されたイオンによる吸着効率の低下がほとんど生じない。
【0105】
本発明の通液型コンデンサ1は、アニオン交換層4を有する電極2とカチオン交換層7を有する電極3の間に流路部10が配置されてなるコンデンサユニットを複数有していてもよい。すなわち、本発明の通液型コンデンサは、複数の前記コンデンサユニットが積層されたものであってもよい。前記コンデンサユニットを積層させる場合、イオン交換層の固定電荷が同符号である電極の集電体層同士を対向させて積層することが好ましい。また、複数の前記コンデンサユニットが積層されてなる通液型コンデンサは、上述した、多孔質電極層とイオン交換層が集電体層の両側にそれぞれ配置されてなる電極を流路部を介して積層することによっても製造できる。
【0106】
上述のように、本発明の電極は、イオンの吸着と脱着とを、長期間にわたって、効率よくかつ安定に行うことができる。したがって、前記電極を用いた通液型コンデンサによれば、長期間にわたって、効率よくかつ安定に、脱塩やイオン性物質と非イオン性物質の分離などを行うことができる。
【0107】
図3は、本発明の通液型コンデンサ1を有する脱塩装置15の一例の模式図であり、
図4は、脱塩装置15中の通液型コンデンサ1の分解斜視図である。脱塩装置15は、通液型コンデンサ1、それを収容する容器16及び直流電源17を有し、前記直流電源17が、正極と負極を交換可能に、電極2および電極3にそれぞれ接続され、前記容器16が、通液型コンデンサ1による脱塩に供されるイオン性物質を含有する液体の供給口18と、脱塩された液体の排出口19とを有するものである。
【0108】
脱塩装置15中の通液型コンデンサ1は、アニオン交換層4を有する電極2とカチオン交換層7を有する電極3の間に流路部10が配置されてなるコンデンサユニット20が積層されてなる。このとき、電極2の集電体層5同士が対向し、電極3の集電体層8同士が対向するように積層することが好ましい。
【0109】
通液型コンデンサ1において、供給口18側の末端の電極以外の電極及び流路部10の中央付近には、貫通孔21が形成され、最も排出口19側の貫通孔21が排出口19に接続されている。供給口18から容器16内に供給された液体は、流路部10の周縁から流路部10内に導入され、流路部10内において脱塩された後、貫通孔21を通過して、排出口19から排出される。
図3及び4中の矢印は、液体の流れ方向を示す。
図3に示す脱塩装置15においては、供給された液体は、流路部10を一度通過した後に排出されるが、複数の流路部10を通過した後に排出されるように、脱塩装置15を形成することもできる。
【0110】
各電極と直流電源17との接続は、集電体層の一部にリードを設置することなどにより行うことができる。直流電源17の接続方向は、正極と負極とが交換可能である必要がある。
図3に示す脱塩装置15においては、直流電源17の正極を電極2に接続し、負極を電極3に接続した場合を示している。
【0111】
脱塩装置15を用いた脱塩方法について説明する。脱塩装置15を用いて脱塩を行う場合、アニオン交換層4を有する電極2を正極、カチオン交換層7を有する電極3を負極として、直流電源17により各電極に電圧を印加し、電圧が印加された電極2及び電極3間の流路部10にイオン性物質を含有する液体を供給して、該液体中のイオンを多孔質電極層5及び多孔質電極層8に吸着させた後、該液体を排出して回収する第1工程と、流路部10に液体を供給し、アニオン交換層4を有する電極2を負極、カチオン交換層7を有する電極3を正極として、直流電源17により電極2及び電極3に電圧を印加することにより、第1工程で多孔質電極層5及び多孔質電極層8に吸着されたイオンを脱着させ、脱着されたイオンを含む液体を排出する第2工程を有する方法により行うことが好ましい。
【0112】
第1工程においては、イオン性物質を含有する液体の脱塩と、脱塩された液体の回収を行う。電極2を直流電源17の正極に接続し、電極3を直流電源17の負極に接続する。脱塩に供されるイオン性物質を含有する液体は、供給口18に供給する。供給した後、当該液体は、流路部10に導入され、電圧が印加された電極2および電極3中の多孔質電極層5及び多孔質電極層8に当該液体中のイオン性物質に由来するイオンが吸着される。このときの吸着時間は、目標とするイオン性物質の濃度などにより適宜調整する。電極2及び電極3間に印加する電圧は、特に限定されないが、0.5〜3Vが好ましい。脱塩された液体は、排出口19から回収する。
【0113】
第2工程においては、第1工程において多孔質電極層5及び多孔質電極層8に吸着されたイオンの脱着を行うことにより、電極2及び電極3の洗浄を行う。流路部10に洗浄液を供給し、直流電源17の負極に電極2を接続し、正極に電極3を接続することにより、吸着されたイオンの脱着を行う。電極2及び電極3間に印加する電圧及び脱着時間は特に限定されない。電極2及び電極3間に印加する電圧は、通常、0.5〜3Vである。脱着されたイオンは、流路部10の液体中に移動する。脱着されたイオンを含む洗浄液は排出口19から排出される。こうして電極2及び電極3が洗浄された脱塩装置15は、再び、脱塩(第1工程)に用いられる。長期間に渡り脱塩を行うこと等により、電極が汚れた場合には、アルカリ性の洗浄液などを用いて、電極の洗浄を行っても構わない。本発明の電極中のイオン交換層は、アルカリ耐性に優れるため、このような洗浄を行っても電極への悪影響がほとんどない。このような脱塩装置15を用いた脱塩方法によれば、脱塩された液体を容易に回収できる。
【実施例】
【0114】
以下、実施例を用いて本発明を更に詳細に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例中、特に断りのない限り「%」および「部」は重量基準である。
【0115】
作製した電極の特性は、以下の方法により測定した。
【0116】
(1)電極抵抗の測定
図5は、実施例における、電極抵抗の測定方法を示す模式図である。
図5に示すように、直径20mm、高さ10mmの円柱状のチタン電極22間に直径12mmの円形にカットした電極23、直径16mmの円形にカットしたセパレータ24(日本特殊織物株式会社製「LS60」、厚み90μm)、直径12mmの円形にカットした電極23の順に配置した。このとき2枚の電極は何れも集電体層がチタン電極22側に、イオン交換層がセパレータ24側に向くように配置した。上下の円柱状のチタン電極22を1〜2kg/cm
2の圧力にて押えつけた状態でBioLogic社製ポテンショスタット/ガルバノスタットVSPを用いて周波数8mHz〜1MHzの範囲で交流インピーダンスを測定し、周波数1Hzにおける実部抵抗をインピーダンス抵抗とし、当該インピーダンス抵抗を電極抵抗とした。
【0117】
(2)イオン交換層と多孔質電極層間の界面接着性試験
電極の表面に付着している水をろ紙でふき取った後、イオン交換層の表面に、ニチバン株式会社製セロハンテープ(No.405、24mm幅)を貼り、指でイオン交換層とテープの間の空気を抜いた。次いで、前記セロハンテープの端部をつまみ、イオン交換層の表面に対して垂直方向に急速に引き上げて剥離した。下述の判定方法にて界面接着性の評価を行った。
A:セロハンテープが貼られていた部分のイオン交換層の剥離が生じなかった。
B:セロハンテープが貼られていた部分のイオン交換層の一部が剥離した。
C:セロハンテープが貼られていた部分のイオン交換層の大部分が剥離した。
【0118】
(3)耐アルカリ性試験
電極を濃度5%の水酸化ナトリウム水溶液に180時間浸漬(温度25℃)した後、イオン交換水で十分置換した。次いで、上述の方法で、電極抵抗を測定した。
以下の式により、電極抵抗の増加率を算出した。
【0119】
(4)電極表面の目視観察
得られた電極の表面を目視観察して、イオン交換層の発泡による欠陥ついて観察した。
発泡による欠陥発生の程度は、下述の3段階で評価した。
A:イオン交換層の表面に、泡による欠陥が観察されなかった。
B:イオン交換層の表面に部分的に、泡による欠陥が観察された。
C:イオン交換層の表面全体に泡による欠陥が観察された。
【0120】
(分子末端にメルカプト基を有するポリビニルアルコール重合体の合成)
特開昭59−187003号広報に記載された方法によって、表1に示す分子末端にメルカプト基を有するポリビニルアルコール(PVA−1)を合成した。PVA−1の重合度、けん化度を表1に示す。
【0121】
【表1】
【0122】
アニオン交換層として機能するカチオン性ブロック共重合体(P1’):P−1〜P−5、及び、カチオン交換樹脂として機能するアニオン性ブロック共重合体(P2’):P−6〜P−9を以下のとおり合成した。
【0123】
(P−1の合成)
還流冷却管、攪拌翼を備え付けた5L四つ口セパラブルフラスコに、水を2730g、末端にメルカプト基を有するビニルアルコール重合体PVA−1を344g仕込み、攪拌下95℃まで加熱して該ビニルアルコール重合体を溶解した後、室温まで冷却した。得られた水溶液に1/2規定の硫酸を添加してpHを3.0に調整した。別に、メタクリル酸アミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライド190gを水220gに溶解し、これを先に調製した水溶液に攪拌下添加した。この水溶液を70℃まで加温した後、当該水溶液中に窒素をバブリングしながら30分間フラスコ内を窒素置換した。窒素置換後、上記水溶液に過硫酸カリウムの2.5%水溶液121mLを1.5時間かけて逐次的に添加してブロック共重合を開始、進行させた後、反応液の温度を75℃に1時間維持して重合をさらに進行させた。ついで反応液を冷却して、固形分濃度15%のビニルアルコール−(b)−p−メタクリル酸アミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライドブロック共重合体水溶液を得た。得られた水溶液の一部を乾燥した後、重水に溶解し、400MHzでの1H−NMR測定に付した結果、得られた重合体中における、p−メタクリル酸アミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライド単位の含有量は10モル%であった。P−1の4重量%水溶液を、20℃において、ロータ回転数が60rpmの条件でB型粘度計により測定したときの粘度は、16mPa・sであった。
【0124】
(P−2〜P−9の合成)
イオン性基含有単量体の種類と仕込み量、重合開始剤の使用量などの重合条件を表2および3に示すように変更した以外はP−1と同様の方法によりP−2〜P−9を得た。得られたポリマーの物性を、表2および3に示す。
【0125】
【表2】
【0126】
【表3】
【0127】
カチオン性基を有するランダム共重合体P−10、及び、アニオン性基を有するランダム共重合体P−11を以下のとおり合成した。
【0128】
(P−10の合成)
攪拌機、温度センサー、滴下漏斗及び還流冷却管を備え付けた6Lセパラブルフラスコに、酢酸ビニル1960g、メタノール(MeOH)820g、及びメタクリル酸アミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライドを30重量%含有するメタノール溶液23gを仕込み、攪拌下にフラスコ内を窒素置換した後、内温を60℃まで上げた。この反応液に2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を0.4g含有するメタノール20gを添加し、重合反応を開始した。重合開始時点よりメタクリル酸アミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライドを30重量%含有するメタノール溶液(合計300g)を反応液に逐次添加しながら、4時間重合反応を行った後、重合反応を停止した。重合反応を停止した時点における反応液の固形分濃度、すなわち、重合反応スラリー全体に対する固形分の含有率は22.3重量%であった。ついで、反応液にメタノール蒸気を導入することにより、未反応の酢酸ビニル単量体を追い出し、ビニルエステル共重合体を55重量%含有するメタノール溶液を得た。
【0129】
このビニルエステル共重合体を55重量%含有するメタノール溶液に、当該共重合体中の酢酸ビニル単位に対する水酸化ナトリウムのモル比が0.025、ビニルエステル共重合体の固形分濃度が30重量%となるように、メタノール、及び水酸化ナトリウムを10重量%含有するメタノール溶液をこの順序で撹拌下に加え、40℃でけん化反応を開始した。
【0130】
けん化反応の進行に伴ってゲル化物が生成した直後にこれを反応系から取り出して粉砕し、ついで、ゲル化物が生成してから1時間が経過した時点で、この粉砕物に酢酸メチルを添加することにより中和を行い、膨潤状態のポリ(ビニルアルコール−メタクリル酸アミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライド)のカチオン性重合体(ランダム共重合体)を得た。この膨潤したカチオン性重合体に対して重量基準で6倍量(浴比6倍)のメタノールを加え、還流下に1時間洗浄し、該重合体をろ取した。該重合体を65℃で16時間乾燥した。得られたポリマーを重水に溶解し、400MHzでの
1H−NMR測定に付した結果、メタクリル酸アミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライド単位の含有量は5モル%であった。また、重合度は1500、けん化度は98.5モル%であった。得られたカチオン基を有するランダム共重合体の物性を表4に示す。
【0131】
(P−11の合成)
酢酸ビニル(VAc)及びメタノール(MeOH)の仕込み量、イオン性基含有単量体の種類と仕込み量、重合開始剤の使用量、イオン性基を有する単量体の逐次添加条件などの重合条件、けん化反応の条件を表4に示すように変化させた以外はP−10と同様の方法により、P−11を得た。得られたアニオン性基を有するランダム共重合体の物性を表4に示す。
【0132】
【表4】
【0133】
実施例1
電極−1の作製
(イオン性ブロック共重合体水溶液の調整)
カチオン性ブロック共重合体(P1’):P−1に脱イオン水を必要量加えて濃度10%の水溶液を調整した。得られた水溶液の25℃での粘度をB型粘度計(株式会社トキメック製)で測定したところ、650mPa・sであった。
【0134】
(炭素材料を含有するスラリーの調整)
活性炭(BET吸着面積:1800m
2/g)、導電性カーボンブラック、カルボキシメチルセルロース、水を100:5:1.5:140の重量比で混合した後に混練した。得られた塊状混練物100重量部に対して20重量部の水と15重量部の水系SBRエマルジョンバインダー(固形分率40重量%)を添加し、混練することで固形分率36%の活性炭スラリーを得た。得られたスラリーの温度25度での粘度をB型粘度計(株式会社トキメック製)で測定したところ、3000mPa・sであった。
【0135】
(イオン交換層一体型電極の作製)
集電体層であるメルセン・エフエムエー株式会社製膨張黒鉛シート(厚み:250μm)の上に、コーティングテスター株式会社製二連式マイクロフィルムアプリケーター(塗布幅:9cm)を用いて、上述の炭素材料を含有するスラリーを下層側に、上述のP−1水溶液を上層側にセットして当該スラリーと当該水溶液とを同時塗布した。なお、前記スラリーと前記水溶液とを接触させてから、前記黒鉛シート上に塗布した。その後、熱風乾燥機「DKM400」(YAMATO製)にて温度90℃、10分間乾燥した。得られた積層体の断面を走査型電子顕微鏡「S−3000」(日立製作所製)にて観察した結果、炭素材料を含有する電極多孔質電極層の厚みは280μm、カチオン性ブロック共重合体(P1’):P−1層の厚みは10μmであった。このときの多孔質電極層25およびカチオン性ブロック共重合体(P1’)層26の断面の電子顕微鏡写真を
図6に示す。
【0136】
得られた積層体を、160℃で30分間熱処理し、物理的な架橋を行った。ついで、積層体を2mol/Lの硫酸ナトリウムの水溶液に24時間浸漬させた。該水溶液にそのpHが1になるように濃硫酸を加えた後、0.5体積%グルタルアルデヒド水溶液に前記積層体を浸漬し、50℃で1時間スターラーを用いて撹拌し、架橋処理を行った。ここで、グルタルアルデヒド水溶液としては、石津製薬株式会社製「グルタルアルデヒド」(25体積%)を水で希釈したものを用いた。架橋処理の後、前記積層体を脱イオン水に浸漬し、途中数回脱イオン水を交換しながら、カチオン性ブロック共重合体(P1’):P−1層が膨潤平衡に達するまで浸漬させ、イオン交換層一体型電極である電極−1を作製した。得られたイオン交換層一体型電極の表面を目視観察したところ、発泡による欠陥は観察されなかった。
【0137】
(イオン交換層一体型電極の評価)
このようにして作製した電極−1を、所望の大きさに裁断し、測定試料を作製した。得られた測定試料を用い、上述の方法にしたがって、電極の抵抗測定及び界面接着性試験を行った。得られた結果を表5に示す。
【0138】
実施例2〜9、11〜19及び21並びに比較例1
電極−2〜9、11、12、13〜20及び22の作製
ビニルアルコール共重合体の種類とイオン交換層の厚み、炭素材料を含有するスラリーに用いられる活性炭のBET吸着表面積と厚み、及び熱処理温度を表5、6に示す内容に変更した以外は、実施例1と同様にして電極を作製した。得られた各電極の表面を目視観察した。次いで上述の方法にしたがって、電極抵抗の測定、耐アルカリ性試験及び界面接着性試験を行った。これらの結果を表5、表6に示す。
【0139】
実施例10
電極−10の作製
(イオン性ブロック共重合体水溶液及び炭素材料を含有する電極層スラリーの調整)
実施例3と同様にして、カチオン性ブロック共重合体(P1’):P−3の水溶液及び炭素材料を含有するスラリーを調整した。
【0140】
(イオン交換層一体型電極の作製)
集電体層であるメルセン・エフエムエー株式会社製膨張黒鉛シート(厚み:250μm)の上に、アプリケーターバー(塗布幅:10cm)を用いて、炭素材料を含有するスラリーを塗布した。次いで、乾燥工程を経ていない前記スラリー層の上に、P−3水溶液をアプリケーターバー(塗布幅:14cm)を用いて塗布した。その後、熱風乾燥機「DKM400」(YAMATO製)にて温度90℃、10分間乾燥した。得られた積層体の断面を走査型電子顕微鏡「S−3000」(日立製作所製)にて観察した結果、炭素材料を含有する多孔質電極層の厚みは280μm、カチオン性ブロック共重合体P−3層の厚みは10μmであった。
【0141】
得られた積層体の熱処理、架橋処理及び脱イオン水による積層体の膨潤を実施例1と同様にして行うことにより電極−10を作製した。このときの各処理条件を表5にも示す。得られた電極−10の表面を目視観察したところ、発泡による欠陥が部分的に観察された。さらに、上述の方法にしたがって、電極抵抗の測定及び界面接着性試験を行った。各試験の結果を表5に示す。
【0142】
実施例20
電極−21の作製
イオン性ブロック共重合体(P’)としてアニオン性ブロック共重合体(P2’):P−7を用いたこと以外は、実施例10と同様にして電極−21を作製した。次いで上述の方法にしたがって、得られた電極の表面観察、電極抵抗の測定、耐アルカリ性試験及び界面接着性試験を行った。得られた測定結果を表6に示す。
【0143】
比較例2
電極−23の作製
(ビニルアルコール重合体水溶液:P−12の調整)
還流冷却管、攪拌翼を備え付けた1L四つ口セパラブルフラスコに、水528g、株式会社クラレ製未変性ビニルアルコール重合体「PVA117」(粘度平均重合度1700、けん化度98.5mol%)を72g仕込み、攪拌下95℃まで加熱して該ビニルアルコール重合体を溶解した後、室温まで冷却した。次いで、スルホコハク酸水溶液(濃度70%:アルドリッチ社製)を69.4g加えて攪拌し、均一に混合した(スルホコハク酸のモル数/ビニルアルコール重合体のOH基のモル数=0.15)。得られた水溶液P−12の粘度をB型粘度計(株式会社トキメック製)で測定したところ、960mPa・sであった。
【0144】
(炭素材料を含有する電極層スラリーの調整)
実施例1と同様にして炭素材料を含有するスラリーを調整した。
(イオン交換層一体型電極の作製)
イオン性ブロック共重合体水溶液の代わりに上述のP−12水溶液を用いたこと以外は実施例1と同様にして膨張黒鉛シートの上に、前記スラリーとP−12水溶液とを塗布した後、乾燥させた。得られた積層体の断面を走査型電子顕微鏡「S−3000」(日立製作所製)にて観察した結果、炭素材料を含有する多孔質電極層の厚みは280μm、ビニルアルコール重合体P−12層の厚みは10μmであった。
【0145】
得られた積層体を、130℃で1時間熱処理し、スルホコハク酸とPVAの化学架橋を行った。架橋処理の後、積層体を脱イオン水に浸漬し、途中数回脱イオン水を交換しながら、ビニルアルコール重合体層が膨潤平衡に達するまで浸漬させ、イオン交換層一体型電極を作製した。得られたイオン交換層一体型電極の表面を目視観察したところ、発泡による欠陥は観察されなかった。さらに、上述の方法にしたがって、電極抵抗の測定、耐アルカリ性試験及び界面接着性試験を行った。得られた測定結果を表6に示す。
【0146】
【表5】
【0147】
【表6】
【0148】
実施例22
アニオン交換層4を有する電極2として、電極−1、カチオン交換層7を有する電極3として、電極−13を用いて、
図1に示すコンデンサユニットを組んだ。ここで、電極−1と電極−13の間にセパレータ(日本特殊織物株式会社製「LS60」、厚み90μm)を介装することにより流路部10を設置した。このコンデンサユニットを10組重ね合わせ通液型コンデンサを作製した。ここで、イオン交換層の固定電荷が同符号である電極の集電体層同士が対向するようにコンデンサユニットを重ね合わせた。電極の有効寸法は6cm×6cmである。得られた通液型コンデンサを用いたこと以外は、
図3に示す脱塩装置15と同様の構成である脱塩装置を作製した。定電圧(1.5V)DC電源の正極に電極−1に、負極に電極−13を接続して電極間に電圧を印加した。脱イオン水にNaClを溶解させて調整したイオン濃度が500ppmである水溶液を脱塩装置に供給した。180秒間前記水溶液中のイオンの吸着を行った後、当該液体を回収した。
【0149】
回収した液体のイオン濃度を測定して電極に吸着したイオンの量を求めた。さらに、以下の式により電流効率を算出した。
この時の電流効率は95%であった。
【0150】
イオンの吸着に使用した電極の洗浄を以下のとおり行った。脱塩装置にNaCl水溶液(イオン濃度500ppm)を供給した。定電圧(1.5V)DC電源の負極を電極−1に、正極を電極−13に接続して電極間に電圧を印加した。60秒間イオンの脱着を行った後、脱着されたイオン性物質を含有する水溶液を排出した。こうして電極を洗浄した後、脱塩装置を再度イオンの吸着に用いた。イオンの吸着と脱着とを10サイクル繰り返しても電流効率に有意な変化は見られなかった。
【0151】
実施例23〜32
アニオン交換層を有する電極とカチオン交換層を有する電極を表7に示す組み合わせに変更した以外は、実施例22と同様にして脱塩装置を作製し、その電流効率を測定した。得られた測定結果を表7に示す。実施例22と同様にして、イオンの吸着と脱着とを10サイクル繰り返した。全ての例において、1サイクル目と10サイクル目における電流効率の有意な差は見られなかった。
【0152】
比較例3
アニオン交換層を有する電極とカチオン交換層を有する電極を表7に示す組み合わせに変更した以外は、実施例22と同様にして脱塩装置を作製し、その電流効率を測定した。得られた測定結果を表7に示す。
【0153】
【表7】
【0154】
表5の結果から、カチオン性基を有する単量体を共重合させてなるビニルアルコール共重合体(P1)を含有するアニオン交換層を有するアニオン交換層一体型電極は、アニオン交換層中に発泡による欠陥が少なく、電極抵抗が低く、かつイオン交換層と多孔質電極層の界面接着性に優れることが分かる(実施例1〜11)。特に、カチオン性基を有する単量体単位の含有量が5mol%以上であるカチオン性ブロック共重合体(P1’)を用いた場合に、電極抵抗が低いことが分かる(実施例1〜4、実施例6〜10)。さらに、炭素材料を含有するスラリーと、カチオン性ブロック共重合体(P1’)の水溶液とを同時塗布して多孔質電極層とイオン交換層を形成した場合に、発泡によるイオン交換層の欠陥がより少なくなることが分かる(実施例1〜4、6〜9)。さらには、アニオン交換層の厚みが50μm以下の場合は、電極の抵抗がより低いことがわかる(実施例1〜4、実施例6、実施例8〜9)。一方、イオン性基を有しないポリビニルアルコール(PVA−1)の水溶液を塗布後、熱処理を行うことで架橋を行ったアニオン交換層一体型電極は、電気抵抗が高かった(比較例1)。
【0155】
表6の結果から、アニオン性基を有する単量体を共重合させてなるビニルアルコール共重合体(P2)を含有するカチオン交換層を有するカチオン交換層一体型電極は、カチオン交換層中に発泡による欠陥が少なく、電極の抵抗が低く、耐アルカリ性に優れ、かつイオン交換層と多孔質電極層の界面接着性に優れることが分かる(実施例12〜21)。特に、アニオン基変性量が5mol%以上であるアニオン性ブロック共重合体(P2’)を用いた電極の抵抗がより低いことが分かる(実施例12〜14、16〜20)。さらに、同時塗布方法でイオン交換層を設けることで、発泡による欠陥がより少なくなることが分かる(実施例12〜14、16〜19)。さらには、カチオン交換層の厚みが50μm以下の場合は、電極の抵抗がより低いことが分かる(実施例12〜14、16、18、19)。一方、ポリビニルアルコールとスルホコハク酸の混合液を塗布後、熱処理を行うことでアニオン基の導入と架橋を行ったカチオン交換層一体型電極は、架橋構造がエステル結合である為に耐アルカリ性に劣っていた(比較例2)。
【0156】
表7の結果から、イオン性基を有する単量体を共重合させてなるビニルアルコール共重合体(P)を含有するイオン交換層を有するカチオン交換層一体型電極とアニオン交換層一体型電極を用いた通液型コンデンサは、電流効率が高いことがわかる(実施例22〜32)。特に、ビニルアルコール重合体ブロック及びイオン性基を有する重合体ブロックを構成成分とし、イオン性単量体単位の含有量が5mol%以上であるブロック共重合体(P’)を含有するイオン交換層を有するカチオン交換層一体型電極とアニオン交換層一体型電極とを用いた通液型コンデンサが高電流効率であることがわかる(実施例22〜25、27〜31)。さらには、活性炭のBET吸着面積が1500m
2/g以上であり、イオン交換層の厚みが50μm未満であり、炭素材料を含む多孔質電極層の厚みが150μm以上であり、熱処理温度が120℃以上であり、かつ炭素材料を含有するスラリーとイオン性共重合体の水溶液とを同時塗布することにより得られた一体型電極を用いた場合は、特に高電流効率であることがわかる(実施例22〜24)。一方、イオン性基を有しないイオン交換層を有するカチオン交換層一体型電極とアニオン交換層一体型電極を用いた通液型コンデンサは、電流効率が低いことがわかる(比較例3)。