特許第6150286号(P6150286)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6150286微生物燃料電池および微生物燃料電池用電極
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6150286
(24)【登録日】2017年6月2日
(45)【発行日】2017年6月21日
(54)【発明の名称】微生物燃料電池および微生物燃料電池用電極
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/16 20060101AFI20170612BHJP
   H01M 4/90 20060101ALI20170612BHJP
   H01M 4/96 20060101ALI20170612BHJP
【FI】
   H01M8/16
   H01M4/90 M
   H01M4/90 X
   H01M4/96 M
【請求項の数】6
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2013-163057(P2013-163057)
(22)【出願日】2013年8月6日
(65)【公開番号】特開2015-32536(P2015-32536A)
(43)【公開日】2015年2月16日
【審査請求日】2016年5月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100105050
【弁理士】
【氏名又は名称】鷲田 公一
(72)【発明者】
【氏名】山下 恭広
(72)【発明者】
【氏名】横山 浩
(72)【発明者】
【氏名】石田 三佳
【審査官】 藤原 敬士
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−085911(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0092237(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/16
H01M 4/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解槽と、
前記電解槽内に収容され、少なくともその一部が1種または2種以上の電子供与微生物を含む電解質溶液と、
前記電解質溶液に接触するように配置されたアノードと、
前記電解質溶液に接触するように、またはカチオン透過性の隔膜を挟んで前記電解質溶液と隣接するように配置されたカソードと、
を有し、
前記アノードは、タングステンを含み、
前記アノードの表面から深さ100nmまでの表層における前記タングステンの質量比は、3〜100質量%の範囲内である、
微生物燃料電池。
【請求項2】
電解槽と、
前記電解槽内に収容され、少なくともその一部が1種または2種以上の電子供与微生物を含む電解質溶液と、
前記電解質溶液に接触するように配置されたアノードと、
前記電解質溶液に接触するように、またはカチオン透過性の隔膜を挟んで前記電解質溶液と隣接するように配置されたカソードと、
を有し、
前記アノードは、炭素からなる電極本体と、前記電極本体の表面に配置された、タングステンおよび/または酸化タングステンを合計3〜100質量%含む触媒層と、を有
前記アノードの表面から深さ100nmまでの表層における前記タングステンおよび前記酸化タングステンの合計質量比は、3〜100質量%の範囲内である、
生物燃料電池。
【請求項3】
前記電解槽は、前記電子供与微生物を含む前記電解質溶液を収容するアノード槽と、前記アノード槽に対してカチオン透過性の隔膜を挟んで配置され、前記電解質溶液を収容するカソード槽とを含み、
前記アノードは、前記アノード槽内の前記電解質溶液に接触するように配置され、
前記カソードは、前記カソード槽内の前記電解質溶液に接触するように配置されている、
請求項1または請求項2に記載の微生物燃料電池。
【請求項4】
電解槽と、
前記電解槽内に収容され、少なくともその一部が1種または2種以上の電子供与微生物を含む電解質溶液と、
前記電解質溶液に接触するように配置されたアノードと、
ガス透過性を有し、かつカチオン透過性の隔膜を挟んで前記電解質溶液と隣接するように配置されたカソードと、
を有し、
前記アノードは、タングステンまたは酸化タングステンを含み、
前記アノードの表面から深さ100nmまでの表層における前記タングステンおよび前記酸化タングステンの合計質量比は、3〜100質量%の範囲内である、
微生物燃料電池。
【請求項5】
電解槽と、
前記電解槽内に収容され、少なくともその一部が1種または2種以上の電子供与微生物を含む電解質溶液と、
液体透過性を有し、かつ前記電解質溶液に接触するように配置されたアノードと、
前記アノードを挟んで前記電解質溶液と隣接するように配置されたカチオン透過性の隔膜と、
ガス透過性を有し、かつ前記アノードおよび前記隔膜を挟んで前記電解質溶液と隣接するように配置されたカソードと、
を有し、
前記アノードは、タングステンまたは酸化タングステンを含み、
前記アノードの表面から深さ100nmまでの表層における前記タングステンおよび前記酸化タングステンの合計質量比は、3〜100質量%の範囲内である、
微生物燃料電池。
【請求項6】
微生物燃料電池においてアノードとして使用される電極であって、
炭素からなる電極本体と、
前記電極本体の表面に配置された、タングステンおよび/または酸化タングステンを合計3〜100質量%含む触媒層と、
を有し、
その表面から深さ100nmまでの表層における前記タングステンおよび前記酸化タングステンの合計質量比は、3〜100質量%の範囲内である、
微生物燃料電池用電極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物燃料電池、および前記微生物燃料電池においてアノードとして使用される電極に関する。
【背景技術】
【0002】
畜産農家にとって、畜舎から出る廃水の処理は、多大なコストおよび労力を要するため、大きな負担となっている。一方、微生物燃料電池は、微生物による有機物の酸化によって電気エネルギーを生産できるだけでなく、有機廃棄物の分解処理も同時に行うことができる。このため、微生物燃料電池は、畜舎における廃水処理などの様々な用途において有用な新技術として期待されている。
【0003】
一般的に、微生物燃料電池は、電解槽と、電解槽内に収容された電子供与微生物を含む電解質溶液と、電解質溶液に接触するように配置されたアノードおよびカソードと、を有する。アノードとしては、通常、グラファイトやカーボンクロス、カーボンフェルトなどの、特別な表面処理がなされていない炭素電極が使用される(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】K. P. Nevin, et al., "Power output and columbic efficiencies from biofilms of Geobacter sulfurreducens comparable to mixed community microbial fuel cells", Environmental Microbiology, Vol. 10, pp. 2505-2514.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の微生物燃料電池には、出力電流密度が低いという問題があり、実用化のためには出力電流密度の向上が必要である。一般的に、微生物燃料電池における出力電流密度は、微生物からアノードへの電荷移動効率に依存する。前述のとおり、従来の微生物燃料電池では、特別な表面処理がなされていない炭素電極がアノードとして使用されていた。このため、出力電流密度向上の観点からは、アノードに改善の余地があると期待される。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、特別な表面処理がなされていない炭素電極をアノードとして有する従来の微生物燃料電池よりも出力電流密度に優れる微生物燃料電池、およびそれに用いられる電極を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、アノードとして用いる電極の表面にタングステンまたは酸化タングステンを存在させることで上記課題を解決できることを見出し、さらに検討を加えて本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の微生物燃料電池に関する。
【0009】
[1]電解槽と、前記電解槽内に収容され、少なくともその一部が1種または2種以上の電子供与微生物を含む電解質溶液と、前記電解質溶液に接触するように配置されたアノードと、前記電解質溶液に接触するように、またはカチオン透過性の隔膜を挟んで前記電解質溶液と隣接するように配置されたカソードと、を有し、前記アノードは、タングステンまたは酸化タングステンを含み、前記アノードの表面から深さ100nmまでの表層における前記タングステンおよび前記酸化タングステンの合計質量比は、3〜100質量%の範囲内である、微生物燃料電池。
[2]前記アノードは、導電体からなる電極本体と、前記電極本体の表面に配置された、タングステンおよび/または酸化タングステンを合計3〜100質量%含む触媒層と、を有する、[1]に記載の微生物燃料電池。
[3]前記アノードは、タングステンを含む、[1]または[2]に記載の微生物燃料電池。
[4]前記アノードは、酸化タングステンを含む、[1]または[2]に記載の微生物燃料電池。
[5]前記導電体は、炭素である、[2]に記載の微生物燃料電池。
[6]前記電解槽は、前記電子供与微生物を含む前記電解質溶液を収容するアノード槽と、前記アノード槽に対してカチオン透過性の隔膜を挟んで配置され、前記電解質溶液を収容するカソード槽とを含み、前記アノードは、前記アノード槽内の前記電解質溶液に接触するように配置され、前記カソードは、前記カソード槽内の前記電解質溶液に接触するように配置されている、[1]〜[5]のいずれか一項に記載の微生物燃料電池。
[7]前記電解槽は、前記電子供与微生物を含む前記電解質溶液を収容し、前記アノードは、前記電解質溶液に接触するように配置され、前記カソードは、ガス透過性を有し、かつ前記隔膜を挟んで前記電解質溶液と隣接するように配置されている、[1]〜[5]のいずれか一項に記載の微生物燃料電池。
[8]前記電解槽は、前記電子供与微生物を含む前記電解質溶液を収容し、前記アノードは、液体透過性を有し、かつ前記電解質溶液に接触するように配置され、前記隔膜は、前記アノードを挟んで前記電解質溶液と隣接するように配置されており、前記カソードは、ガス透過性を有し、かつ前記アノードおよび前記隔膜を挟んで前記電解質溶液と隣接するように配置されている、[1]〜[5]のいずれか一項に記載の微生物燃料電池。
【0010】
また、本発明は、以下の微生物燃料電池用電極に関する。
【0011】
[9]微生物燃料電池においてアノードとして使用される電極であって、タングステンまたは酸化タングステンを含み、その表面から深さ100nmまでの表層における前記タングステンおよび前記酸化タングステンの合計質量比は、3〜100質量%の範囲内である、微生物燃料電池用電極。
[10]導電体からなる電極本体と、前記電極本体の表面に配置された、タングステンおよび/または酸化タングステンを合計3〜100質量%含む触媒層と、を有する、[9]に記載の微生物燃料電池用電極。
[11]前記導電体は、炭素である、[10]に記載の微生物燃料電池用電極。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、従来の微生物燃料電池よりも出力電流密度に優れる微生物燃料電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施の形態1に係る微生物燃料電池の構成を示す模式図である。
図2】実施の形態2に係る微生物燃料電池の構成を示す模式図である。
図3】実施の形態3に係る微生物燃料電池の構成を示す模式図である。
図4】実施例1における電圧測定の結果を示すグラフである。
図5】実施例1における電圧測定の結果を示すグラフである。
図6図6A,Bは、実施例2で使用したガラス瓶(電解槽)の構成を示す模式図である。
図7】実施例2における電圧測定の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0015】
[実施の形態1]
実施の形態1では、2槽方式の微生物燃料電池について説明する。
【0016】
図1は、実施の形態1に係る微生物燃料電池100の構成を示す模式図である。図1に示されるように、微生物燃料電池100は、電解槽110、電解質溶液120、電子供与微生物130、隔膜140、アノード150およびカソード160を有する。本実施の形態に係る微生物燃料電池100では、電解槽110は、カチオン透過性の隔膜140によりアノード槽112とカソード槽114とに分けられている。
【0017】
電解槽110は、微生物燃料電池100の本体部を構成し、電解質溶液120を収容する。前述のとおり、電解槽110は、アノード槽112およびカソード槽114を含む。アノード槽112およびカソード槽114は、カチオン透過性の隔膜140を挟んで互いに隣接して配置されている。また、カソード槽114は、酸素を含む空気を電解質溶液120に供給できるように構成されている。
【0018】
電解質溶液120は、1種または2種以上の電解質を含有する水溶液である。電解質の種類は、水中で電離可能な物質であれば特に限定されない。電解質の例には、NaHPO/NaHPO、KHPO/KHPO、NaCO/NaHCO、NaCl、KCl、NHClなどが含まれる。
【0019】
アノード槽112に収容される電解質溶液120には、電子供与微生物130、および燃料となる有機物も添加される。また、アノード槽112に収容される電解質溶液120には、さらに必要に応じて電子メディエータや導電性微粒子などの電子伝達性介在物質を添加してもよい。一方、カソード槽114に収容される電解質溶液120には、フェリシアン化カリウム(鉄化合物イオン)や酸素、鉄イオン、硝酸イオン、硫酸イオンなどの電子を受容可能な物質が添加される。
【0020】
電子供与微生物130の種類は、1種であってもよいし、2種以上であってもよい。有機廃水や汚泥などを燃料として使用する場合は、外部から電子供与微生物を加えなくとも、それらに生息する電子供与微生物をそのまま利用することができる。たとえば、シュードモナスやジオバクターは、土壌や淡水、海水などの自然環境の至るところに生息しているため、有機廃水や汚泥などを燃料とすれば、外部から添加することなく利用できる。
【0021】
燃料となる有機物の種類は、電子供与微生物130が代謝可能であれば、特に限定されない。燃料となる有機物としては、アルコールや単糖類、多糖類などの有用資源だけでなく、農産業廃棄物や有機廃液、し尿、汚泥、食物残渣などの未利用資源(有機性廃棄物)も使用することができる。燃料となる有機物は、アノード槽112における電子供与微生物130の維持および増殖のため、また微生物燃料電池100を連続して稼働させるため、必要に応じて追加される。
【0022】
隔膜140は、カチオンを選択的に透過させうる膜であり、アノード槽112とカソード槽114との間に配置されている。隔膜140の種類は、カチオンを選択的に透過させることができれば、特に限定されない。隔膜140の例には、プロトン交換膜が含まれる。プロトン交換膜は、プロトン伝導性のイオン交換高分子電解質からなる膜である。プロトン交換膜の素材の例には、パーフルオロスルホン酸系のフッ素イオン交換樹脂、有機/無機複合化合物が含まれる。パーフルオロスルホン酸系のフッ素イオン交換樹脂は、例えば、スルホ基および/またはカルボキシル基を有するパーフルオロビニルエーテルを基礎とする重合単位と、テトラフルオロエチレンを基礎とする重合単位とを含む共重合体を含む。そのようなフッ素イオン交換樹脂としては、ナフィオン(登録商標)が知られている。また、有機/無機複合化合物は、炭化水素系高分子(例えばポリビニルアルコール)および無機化合物(例えばタングステン酸)が複合化した化合物からなる物質である。これらの素材からなる膜は、市販されている。
【0023】
アノード150は、少なくともその一部がアノード槽112内の電解質溶液120に接触するように配置される。たとえば、アノード150は、電解質溶液120に浸漬されてもよいし、アノード槽112の内壁の一部を構成するように配置されてもよい。アノード150の形状は、特に限定されない。たとえば、アノード150は、クロスなどの平面形状であってもよいし、ブラシ状や棒状などの立体形状であってもよい。
【0024】
本実施の形態に係る微生物燃料電池100は、アノード150の表面にタングステンまたは酸化タングステンが存在することを一つの特徴とする。アノード150は、タングステンおよび酸化タングステンの一方のみを含んでいてもよいし、両方を含んでいてもよい。このようにアノード150の表面にタングステンまたは酸化タングステンを存在させることで、特別な表面処理がなされていない炭素電極よりも出力電流密度を向上させることができる(実施例参照)。出力密度が向上する原理は不明であるが、電子伝達の中間体(例えば、水素やギ酸、シトクロム、リボフラビン、ナノワイヤ、メタノール、エタノールなど)とタングステンまたは酸化タングステンとが高親和性を示して、電子を受け渡ししやすくしているためと推察される(原理がこれに限定されるものではない)。
【0025】
アノード150の表層(例えば表面から深さ100nmまでの部分)におけるタングステンおよび酸化タングステンの合計質量比は、3〜100%の範囲内が好ましく、10〜100%の範囲内がより好ましく、25〜100%の範囲内がさらに好ましく、50〜100%の範囲内が特に好ましい。アノード150の表面粗さが大きい場合は、より厚い部分(例えば表面から深さ1μm、10μmまたは100μmまでの部分)におけるタングステンおよび酸化タングステンの合計質量比を算出してもよい。
【0026】
アノード150の構成は、特に限定されない。たとえば、アノード150は、タングステンおよび/または酸化タングステン(合計100質量%)を成形することで作製されてもよいし、タングステンおよび/または酸化タングステンを合計3質量%以上100質量%未満含む組成物を成形することで作製されてもよい。また、アノード150は、他の導電性材料からなる電極本体の表面に、タングステンおよび/または酸化タングステンを合計3〜100質量%含む触媒層を形成することで作製されてもよい。
【0027】
タングステンおよび/または酸化タングステンを成形することでアノード150を作製する場合は、例えばタングステンまたは酸化タングステンを棒状または板状に成形すればよい。
【0028】
また、タングステンおよび/または酸化タングステンを合計3〜100質量%含む組成物を成形することでアノード150を作製する場合は、例えばタングステン粉末および/または酸化タングステン粉末を含む組成物を成形すればよい。タングステン粉末または酸化タングステン粉末を用いてアノード150を作製する場合、タングステン粉末および酸化タングステン粉末の平均粒径は、特に限定されないが、例えば10〜500nm程度であればよい。平均粒径が小さい粉末を使用することは、アノード150の表面積の増大に繋がるため好ましいが、製造コストの増大にも繋がる。したがって、現実的には、平均粒径が10〜500nm程度の粉末を使用すればよい。
【0029】
また、タングステン粉末および/または酸化タングステン粉末を含む組成物を用いてアノード150を作製する場合は、他の物質としては導電性の高い物質を使用することが好ましい。たとえば、炭素は、自然界に豊富に存在し、かつ安価であり、かつ微生物が付着しやすいことから、タングステンおよび/または酸化タングステンと組み合わせる物質として好ましい。たとえば、炭素粉末を使用する場合、炭素粉末の平均粒径は、特に限定されないが、例えば1〜40nm程度であればよい。平均粒径が小さい粉末を使用することは、アノード150の表面積の増大に繋がるため好ましいが、製造コストの増大にも繋がる。したがって、現実的には、平均粒径が1〜40nm程度の粉末を使用すればよい。
【0030】
また、タングステン粉末および/または酸化タングステン粉末を含む組成物の成形を容易にする観点からは、樹脂バインダーを添加することが好ましい。樹脂バインダーの種類は、特に限定されないが、水素イオン伝導性を有する樹脂が好ましい。そのような樹脂の例には、ナフィオン(登録商標)が含まれる。たとえば、遊星ボールミルや乳鉢などを用いて、タングステン(または酸化タングステン)粉末と、炭素粉末と、イオン伝導性ポリマー溶液との混合物を調製し、得られた混合物を棒状または板状のキャビティを有する成形型に導入し、加熱することで、アノード150を作製することができる。
【0031】
他の導電性材料からなる電極本体の表面に、タングステンまたは酸化タングステンを3〜100質量%含む触媒層を形成することでアノード150を作製する場合、電極本体の形状は、特に限定されない。電極本体の形状の例には、クロス形状、棒状、ブラシ状が含まれる。また、電極本体の素材も、特に限定されない。前述のとおり、炭素は、自然界に豊富に存在し、かつ安価であることから、電極本体の素材としても好ましい。たとえば、遊星ボールミルや乳鉢などを用いて、タングステン(または酸化タングステン)粉末と、炭素粉末と、イオン伝導性ポリマー溶液との混合物を調製し、得られた混合物をインクジェット装置やバーコーターなどを用いて電極本体の表面に塗布し、加熱することで、アノード150を作製することができる。混合物に含まれる各成分は、上述のものを使用すればよい。たとえば、ホットプレス機を用いて加熱(圧着)する場合は、120〜150℃で10分〜1時間、10〜100kgf/cmの圧力で圧着すればよい。
【0032】
カソード160は、少なくともその一部がカソード槽114内の電解質溶液120に接触するように配置される。たとえば、カソード160は、電解質溶液120に浸漬されてもよいし、カソード槽114の内壁の一部を構成するように配置されてもよい。カソード160の素材は、導電性を有していれば特に限定されない。カソード160の素材の例には、プラチナや二酸化鉛、コバルト、コバルト化合物、酸化マンガン、金紅石、鉄、鉄化合物、フタロシアニン化合物などが含まれる。カソード160の形状も、特に限定されない。たとえば、カソード160は、クロスなどの平面形状であってもよいし、ブラシ状や棒状などの立体形状であってもよい。
【0033】
図1に示されるように、本実施の形態に係る微生物燃料電池100では、アノード槽112内において、電子供与微生物130により酢酸が二酸化炭素に分解される際に、水素イオンと電子が生成される。酢酸は、燃料として供給された有機物に由来するものである。ここでは酢酸を例として説明しているが、燃料として供給された有機物は、電子供与微生物130により低分子糖類に分解される。また、低分子糖類は、電子供与微生物130により酢酸に分解される。これらの過程においても、水素イオンと電子が生成される。
【0034】
有機物の分解により生成された水素イオンは、隔膜140を透過してアノード槽112からカソード槽114に移動する。一方、有機物の分解により生成された電子は、アノード150で回収されて、外部回路を経由してカソード160に移動する。カソード槽114内では、アノード槽112から移動してきた水素イオンおよび電子が酸素と反応することで、水が生成される。
【0035】
アノード槽112に有機物を供給し、カソード槽114に酸素を供給することで、上記サイクルを維持して、外部回路に電力を連続して供給することができる。
【0036】
以上のように、本実施の形態に係る微生物燃料電池100は、アノード150の表面にタングステンまたは酸化タングステンが存在しているため、特別な表面処理がなされていない炭素電極をアノードとして有する従来の微生物燃料電池よりも出力電流密度に優れている(実施例参照)。たとえば、燃料として有機廃液を使用した場合、本実施の形態に係る微生物燃料電池100は、有機廃液から電気エネルギーを回収するだけでなく、有機廃液の浄化処理も行うことができる。
【0037】
[実施の形態2]
実施の形態2では、単槽方式(エア・カソード方式)の微生物燃料電池について説明する。
【0038】
図2は、実施の形態2に係る微生物燃料電池200の構成を示す模式図である。図2に示されるように、微生物燃料電池200は、電解槽210、電解質溶液120、電子供与微生物130、隔膜140、アノード150およびカソード220を有する。隔膜140およびカソード220は、互いに接合されており、膜・電極接合体(MEA)230を構成する。
【0039】
実施の形態2に係る微生物燃料電池200は、電解槽210がアノード槽のみからなる点で、実施の形態1に係る微生物燃料電池100と異なる。そこで、実施の形態1に係る微生物燃料電池100と同じ構成要素については同一の符号を付し、説明を省略する。
【0040】
電解槽210は、微生物燃料電池100の本体部を構成し、電解質溶液120を収容する。電解槽210に収容される電解質溶液120には、電子供与微生物130、および燃料となる有機物も添加される。また、電解槽210に収容される電解質溶液120には、さらに必要に応じて電子メディエータや導電性微粒子などの電子伝達性介在物質を添加してもよい。
【0041】
膜・電極接合体(MEA)230は、隔膜140およびガス透過性を有するカソード220を含む。隔膜140およびカソード220は、互いに接合されている。MEA230は、隔膜140が電解質溶液120に接触し、カソード220が外気に接触するように配置される。カソード220は、隔膜140を挟んで電解質溶液120と隣接するように配置されている。たとえば、MEA230は、電解槽210の壁面の一部を構成するように配置されてもよい。カソード220の種類は、ガス透過性および導電性を有するものであれば特に限定されない。カソード220の例には、カーボンペーパーやカーボンクロス、白金粒子を担持したカーボンクロスなどが含まれる。
【0042】
図2に示されるように、本実施の形態に係る微生物燃料電池200では、電解槽210内において、電子供与微生物130により有機物(酢酸)が二酸化炭素に分解される際に、水素イオンと電子が生成される。有機物の分解により生成された水素イオンは、隔膜140を透過してカソード220表面に移動する。一方、有機物の分解により生成された電子は、アノード150で回収されて、外部回路を経由してカソード220に移動する。また、カソード220は通気性を有するため、カソード220表面には酸素も存在する。このような状況において、カソード220表面では、水素イオンおよび電子が酸素と反応することで、水が生成される。
【0043】
実施の形態1に係る微生物燃料電池100と同様に、電解槽210に有機物を供給することで、上記サイクルを維持して、外部回路に電力を連続して供給することができる。
【0044】
本実施の形態に係る微生物燃料電池200は、実施の形態1に係る微生物燃料電池100と同様の効果を有する(実施例参照)。
【0045】
なお、上記の説明では、隔膜140を有する微生物燃料電池200について説明したが、単槽方式(エア・カソード方式)の微生物燃料電池では、隔膜140は必須の構成要件ではない。しかしながら、電池の実用性を考慮した場合は、隔膜140はあることが好ましい。
【0046】
[実施の形態3]
実施の形態3では、単槽方式(両極MEA方式)の微生物燃料電池について説明する。
【0047】
図3は、実施の形態3に係る微生物燃料電池300の構成を示す模式図である。図3に示されるように、微生物燃料電池300は、電解槽210、電解質溶液120、電子供与微生物130、隔膜140、アノード310およびカソード220を有する。アノード310、隔膜140およびカソード220は、接合されており、膜・電極接合体(MEA)320を構成する。
【0048】
実施の形態3に係る微生物燃料電池300は、膜・電極接合体(MEA)320がアノード310およびカソード220の両方を有する点で、実施の形態2に係る微生物燃料電池200と異なる。そこで、実施の形態1,2に係る微生物燃料電池100,200と同じ構成要素については同一の符号を付し、説明を省略する。
【0049】
膜・電極接合体(MEA)320は、液体透過性を有するアノード310、隔膜140およびガス透過性を有するカソード220を含む。これらは、アノード310とカソード220との間に隔膜140が位置するように積層され、互いに接合されている。MEA320は、アノード310が電解質溶液120に接触し、カソード220が外気に接触するように配置される。カソード220は、アノード310および隔膜140を挟んで電解質溶液120と隣接するように配置されているが、アノード310が液体透過性を有することから、カソード220は、隔膜140を挟んで電解質溶液120と隣接するように配置されているともいえる。たとえば、MEA320は、電解槽210の壁面の一部を構成するように配置されてもよい。
【0050】
図3に示されるように、本実施の形態に係る微生物燃料電池300では、電解槽210内において、電子供与微生物130により有機物(酢酸)が二酸化炭素に分解される際に、水素イオンと電子が生成される。有機物の分解により生成された水素イオンは、アノード310および隔膜140を透過してカソード220表面に移動する。一方、有機物の分解により生成された電子は、アノード310で回収されて、外部回路を経由してカソード220に移動する。また、カソード220は通気性を有するため、カソード220表面には酸素も存在する。このような状況において、カソード220表面では、水素イオンおよび電子が酸素と反応することで、水が生成される。
【0051】
実施の形態1,2に係る微生物燃料電池100,200と同様に、電解槽210に有機物を供給することで、上記サイクルを維持して、外部回路に電力を連続して供給することができる。
【0052】
本実施の形態に係る微生物燃料電池300は、実施の形態1,2に係る微生物燃料電池100,200と同様の効果を有する。
【0053】
以下、実施例を参照して本発明についてより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されない。
【実施例】
【0054】
[実施例1]
本実施例では、実施の形態2に係るエア・カソード方式の微生物燃料電池(図2参照)を作製した。
【0055】
1.アノードの作製
(1)タングステン粉末を含む触媒層を有するアノード
粒子径30〜40nmの導電性カーボン粉末(Vulcan XC-72;CABOT社)225mg、粒子径500〜600nmのタングステン粉末(A20;株式会社アライドマテリアル)25mg、イオン伝導性ポリマー溶液(ナフィオン(登録商標)を5質量%含む溶液)2.5mLを混合して、ペーストを作製した。得られたペーストをカーボンクロス(5×10cm)の一方の面上に均一に塗布し、大気中でホットプレス機を用いてプレス(150℃、10分間、圧力60kgf/cm)して触媒層(厚み約100μm)を形成した。触媒層におけるタングステン粉末の質量比は、6.7質量%である。触媒層におけるタングステン粉末の密度は0.5mg/cmであり、導電性カーボン粉末の密度は4.5mg/cmである。触媒層の表面におけるタングステン粉末の面積比は、0.1%である。
【0056】
(2)酸化タングステン粉末を含む触媒層を有するアノード
タングステン粉末(A20)の代わりに粒子径500〜1200nmの三酸化タングステン粉末(F−WO;株式会社アライドマテリアル)25mgを使用する以外は、上記と同じ手順で、カーボンクロスの上に触媒層(厚み約100μm)を形成した。触媒層における三酸化タングステン粉末の質量比は、6.7質量%である。
【0057】
(3)プラチナ粉末を含む触媒層を有するアノード
前述の導電性カーボン粉末25mg、粒子径2〜3nmのプラチナ粉末(田中貴金属工業株式会社)25mg、前述のイオン伝導性ポリマー溶液0.5mLを混合して、ペーストを作製した。得られたペーストをカーボンクロスの一方の面上に均一に塗布し、前述の条件でプレスして触媒層(厚み約100μm)を形成した。触媒層におけるプラチナ粉末の質量比は、33質量%である。
【0058】
(4)触媒粉末を含まない触媒層を有するアノード
前述の導電性カーボン粉末250mg、前述のイオン伝導性ポリマー溶液2.5mLを混合して、ペーストを作製した。得られたペーストをカーボンクロスの一方の面上に均一に塗布し、前述の条件でプレスして触媒層(厚み約100μm)を形成した。触媒層における導電性カーボン粉末の密度は5.0mg/cmである。
【0059】
2.カソード(MEA)の作製
前述の導電性カーボン25mg、プラチナ粉末25mg、前述のイオン伝導性ポリマー溶液0.5mLを混合して、ペーストを作製した。得られたペーストをカーボンクロス(5×10cm)の一方の面上に均一に塗布し、前述の条件でプレスして触媒層を形成した。
【0060】
得られた積層体の触媒層の上に、前述のイオン伝導性ポリマー溶液を厚さが数μmとなるように塗布した。さらにその上に、プロトン交換膜(Nafion-117;6.5cm×6.5cm)を載せ、前述の条件でプレスして圧着した。最終的なプラチナ触媒の密度は、0.5mg/cm相当量である。また、プロトン交換膜の変形を防ぐために、プロトン交換膜の他方の面(カソード側ではない面)上に、前述のイオン伝導性ポリマー溶液を塗布されたカーボンクロス(5cm×5cm)を載せ、前述の条件でプレスして圧着した。
【0061】
3.培地の調製
以下の表に示される添加物を蒸留水に加えて、2種類の培地(電解質溶液)を調製した。
【表1】
【表2】
【0062】
4.微生物燃料電池の作製
電解槽として、樹脂製の角筒を準備した。角筒の内部空間の大きさは、5cm×5cm×5cmである。角筒の1つの側壁には、培地などを導入するための貫通孔(導入口)が形成されている。
【0063】
角筒の一方の開口部に、アノード用内部パッキン(5cm×5cmの貫通孔が形成されている)、アノード、導電用ステンレス鋼金網、アノード用外部パッキン(貫通孔が形成されていない)およびアノード側カバーを積層し、取り付けボルトを用いて角筒に固定した。このとき、アノードの触媒層が角筒の内部空間に露出するようにアノードを配置した。
【0064】
同様に、角筒の他方の開口部に、MEA用内部パッキン(5cm×5cmの貫通孔が形成されている)、MEA、導電用ステンレス鋼金網、MEA用外部パッキン(5cm×5cmの貫通孔が形成されている)およびMEA側カバー(直径1.5cmの貫通孔が4つ形成されている)を積層し、取り付けボルトを用いて角筒に固定した。このとき、プロトン交換膜が触媒層よりも角筒の内部空間側に位置するようにMEAを配置した。
【0065】
5.微生物燃料電池の電圧特性の測定
(1)測定1
電解質溶液としての培地1(表1)と、電子供与微生物および燃料としての10%牛糞スラリーを同量混合した。得られた混合液を、導入口から電解槽の内部に導入した。内部を撹拌しながら室温で試験を開始し、1分ごとに電圧を測定した。外部抵抗は、1800Ωとした。
【0066】
図4は、タングステン粉末を含む触媒層を有するアノードを用いた場合、酸化タングステン粉末を含む触媒層を有するアノードを用いた場合、および触媒粉末を含まない(導電性カーボン粉末のみを含む)触媒層を有するアノードを用いた場合の、電圧の経時的変化を示すグラフである。なお、このグラフは、運転開始から5日経過後に槽内液を3/4置換した後の電圧の経時的変化を示している。
【0067】
このグラフから、タングステン粉末を含む触媒層を有するアノードを用いた場合、および酸化タングステン粉末を含む触媒層を有するアノードを用いた場合は、導電性カーボン粉末のみを含む触媒層を有するアノードを用いた場合よりも、顕著に出力が向上していることがわかる。
【0068】
(2)測定2
電解質溶液としての培地2(表2)と、電子供与微生物および燃料としての10%牛糞スラリーを同量混合した。得られた混合液を、導入口から電解槽の内部に導入した。内部を撹拌しながら室温で試験を開始し、1分ごとに電圧を測定した。外部抵抗は、470Ωとした。
【0069】
図5は、酸化タングステン粉末を含む触媒層を有するアノードを用いた場合、プラチナ粉末を含む触媒層を有するアノードを用いた場合、および触媒粉末を含まない(導電性カーボン粉末のみを含む)触媒層を有するアノードを用いた場合の、電圧の経時的変化を示すグラフである。なお、このグラフは、運転開始から23日経過後に槽内液を3/4置換した後の電圧の経時的変化を示している。
【0070】
このグラフから、酸化タングステン粉末を含む触媒層を有するアノードを用いた場合は、プラチナ粉末を含む触媒層を有するアノードを用いた場合、および導電性カーボン粉末のみを含む触媒層を有するアノードを用いた場合よりも、顕著に出力が向上していることがわかる。
【0071】
測定1および測定2の結果から、タングステン粉末または酸化タングステン粉末を含む触媒層を有するアノードを用いた場合は、プラチナ粉末を含む触媒層を有するアノードを用いた場合、および導電性カーボン粉末のみを含む触媒層を有するアノードを用いた場合よりも、顕著に出力が向上していることがわかる。一般的に、微生物燃料電池では、アノードの表面積を増やすことで出力が高くなると言われている。しかしながら、本実験では、粒子径30〜40nmの導電性カーボン粉末のみを用いた場合よりも、さらには粒子径2〜3nmのプラチナ粉末を配合した場合よりも、粒子径500nm以上のタングステン粉末または酸化タングステン粉末を配合した場合の方が、出力が高くなっていた。このことから、タングステン粉末および酸化タングステン粉末による出力増大効果は、アノードの表面積の増大によるものではなく、別の原理によるものだと考えられる。
【0072】
[実施例2]
本実施例では、実施の形態1に係る2槽方式の微生物燃料電池(図1参照)を作製した。
【0073】
1.アノードおよびカソードの準備
カーボンクロスのサイズを5×5cmとした以外は、実施例1と同じ手順で、タングステン粉末を含む触媒層を有するカーボンクロス(5×5cm)、および触媒粉末を含まない触媒層を有するカーボンクロス(5×5cm)を作製した。これらのカーボンクロスを炭素棒に巻きつけて固定することで、アノードを作製した。一方、カソードとしては、炭素棒をそのまま使用した。
【0074】
2.電解質溶液の調製
以下の表に示される添加物を蒸留水に加えて、2種類の電解質溶液を調製した。
【表3】
【表4】
【0075】
3.微生物燃料電池の作製
アノード槽およびカソード槽として、図6Aに示される特注のガラス瓶(容量500mL)を2つ準備した。図6Aに示されるように、これらのガラス瓶の側面には、内部空間と連通する内径40mmの円筒部が設けられている。また、円筒部の端部には、幅15mm、厚さ7mmのフランジが設けられている。図6Bに示されるように、フランジの間に円環形状のパッキンを挟んで2つのガラス瓶を接続することで、電解槽(アノード槽およびカソード槽)を構成することができる。
【0076】
2つのフランジの間に円環形状の第1のパッキン、プロトン交換膜(セレミオンHSF)、円環形状の第2のパッキンを挟んだ状態で、クランプで2つのフランジを固定することで、プロトン交換膜により隔てられたアノード槽およびカソード槽を構成した。
【0077】
アノード槽となるガラス瓶の中には、電解質溶液を導入した時に電解質溶液に浸漬される位置に前述のアノード(触媒層を有するカーボンクロスを巻きつけた炭素棒)を配置した。同様に、カソード槽となるガラス瓶の中には、電解質溶液を導入した時に電解質溶液に浸漬される位置に前述のカソード(炭素棒)を配置した。
【0078】
4.微生物燃料電池の電圧特性の測定
アノード槽用の電解質溶液1(表3)と、電子供与微生物および燃料としての10%牛糞スラリーを同量混合した。得られた混合液400mLをアノード槽に導入した。一方、カソード槽用の電解質溶液2(表4)400mLをカソード槽に導入した。アノード槽のみ内部の電解質溶液を撹拌しながら室温で試験を開始し、1分ごとに電圧を測定した。外部抵抗は、360Ωとした。
【0079】
図7は、タングステン粉末を含む触媒層を有するアノードを用いた場合、および触媒粉末を含まない(導電性カーボン粉末のみを含む)触媒層を有するアノードを用いた場合の、電圧の経時的変化を示すグラフである。なお、このグラフは、運転開始から8日経過後に槽内液を3/4置換した後の電圧の経時的変化を示している。
【0080】
このグラフから、タングステン粉末を含む触媒層を有するアノードを用いた場合は、導電性カーボン粉末のみを含む触媒層を有するアノードを用いた場合よりも、顕著に出力が向上していることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明に係る微生物燃料電池は、例えば畜舎における廃水処理や、都市部における下水処理などにおいて有用である。
【符号の説明】
【0082】
100,200,300 微生物燃料電池
110,210 電解槽
112 アノード槽
114 カソード槽
120 電解質溶液
130 電子供与微生物
140 隔膜
150,310 アノード
160,220 カソード
230,320 膜・電極接合体(MEA)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7