(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照して、本発明による一実施の形態について説明する。
図1は、本発明の一実施の形態による視線検出装置1の構成を説明する図である。
図1において視線検出装置1は、眼鏡2を装用した被験者3の視線を検出する。
【0009】
視線検出装置1は、第1の前方視野用カメラ10a、第2の前方視野用カメラ10b、眼球用カメラ11、赤外LED12、ダイクロイックミラー13、ヘッドバンド14、画像記録装置15、パーソナルコンピュータ(以下、PCと記載する)16、画像処理装置17、較正演算装置18、モニター19、プリンタ20および不図示のPC用入力装置を含む。
図1において、画像記録装置15はPC16と接続されているが、画像記録装置15をPC16から切り離して被験者3が携帯して持ち歩くことも可能である。また、画像処理装置17および較正演算装置18は、PCIボードとしてPC16のスロットに装着されている。
【0010】
ヘッドバンド14には、第1の前方視野用カメラ10a、第2の前方視野用カメラ10b、眼球用カメラ11、赤外LED12、およびダイクロイックミラー13が取り付けられている。眼鏡2を装用した被験者3の頭部にヘッドバンド14を装着すると、ダイクロイックミラー13が眼鏡2の前方に配置され、第1の前方視野用カメラ10a、第2の前方視野用カメラ10b、眼球用カメラ11および赤外LED12が眼鏡2の上方に配置される。
【0011】
ダイクロイックミラー13は、赤外光を反射し、可視光を透過する。ゆえに被験者3は、ヘッドバンド14を装着した状態であっても、眼鏡2およびダイクロイックミラー13を通して前方の視界を自由に見ることができる。
【0012】
被験者3がヘッドバンド14を頭部に装着して固定した状態において、第1の前方視野用カメラ10aおよび第2の前方視野用カメラ10bは、被験者3の前方を向いて固定され、被験者3の前方の動画像を撮影する。これら第1の前方視野用カメラ10aおよび第2の前方視野用カメラ10bは、被験者3の注視点を撮影するためのカメラである。なお、第1の前方視野用カメラ10a、および第2の前方視野用カメラ10bについて、詳しくは後述する。第1の前方視野用カメラ10a、および第2の前方視野用カメラ10bにより撮影された動画像は、それぞれ画像記録装置15に記録される。
【0013】
赤外LED12から照射された赤外光は、ダイクロイックミラー13で反射されて被験者3の眼球を照明する。眼球用カメラ11は、ダイクロイックミラー13を介して上記眼球の瞳孔にピントを合わせた状態で、上記赤外光で照明された眼球の動画像を撮影する。眼球用カメラ11により撮影された動画像は、画像記録装置15に記録される。なお、眼球用カメラ11は、左目および右目のそれぞれに対して設けられ、左目の動画像および右目の動画像を別々に撮影する。そして、左目の動画像と右目の動画像とが別々に画像記録装置15に記録される。
【0014】
画像記録装置15に一旦記録された前方の撮影画像と眼球の撮影画像とは、再生されて画像処理装置17に出力される。画像処理装置17は、画像記録装置15から入力された眼球の撮影画像に対して演算処理を行い、左目および右目のそれぞれについて、眼球の撮影画像における瞳孔中心の座標や角膜反射の中心座標などを眼球運動データとして時系列で出力する。
【0015】
較正演算装置18は、予め行われた較正の為の測定で得られた較正用のデータを用いて、画像処理装置17から出力された眼球運動データに対して演算処理を行い、注視位置データとして出力する。具体的には、被験者3から一定の距離だけ離れた平面上に注視点があり、第1の前方視野用カメラ10aおよび第2の前方視野用カメラ10bはその平面を撮影していると仮定して、第1の前方視野用カメラ10aおよび第2の前方視野用カメラ10bにより撮影された2つの撮影画像それぞれにおける仮の注視点の座標を算出する。算出した右目と左目の仮の注視点の座標は、実際の注視点がその平面上にある場合を除き、右目と左目の視差のために一致しない。この右目と左目の仮の注視点の位置関係と較正用のデータから、被験者3から注視点までの実際の距離を算出する。そしてさらに、求めた距離と較正用のデータから、第1の前方視野用カメラ10aおよび第2の前方視野用カメラ10bにより撮影された2つの撮影画像それぞれにおける実際の注視点の座標を算出し、被験者3から注視点までの距離情報と合わせて、注視位置データとして出力する。すなわち、較正演算装置18は、第1の前方視野用カメラ10aおよび第2の前方視野用カメラ10bのそれぞれの視野の範囲で注視点を検出し、その座標と被験者3からの距離を、注視位置データとして出力する。
【0016】
PC16は、画像処理装置17から出力された前方の撮影画像、眼球の撮影画像および眼球運動データや、較正演算装置18から出力された注視位置データなどを全て取り込むことができる。
【0017】
そして、PC16は、取り込んだ眼球運動データや注視位置データなどを、モニター19に表示したり、不図示のHD(ハードディスク)などの記録媒体に記録したり、プリンタ20に出力したりすることができる。
【0018】
またPC16は、第1の前方視野用カメラ10aおよび第2の前方視野用カメラ10bにより撮影された2つの前方視野の画像上に注視点の位置を示す印を重ねた画像や、注視点の累積頻度マップなどを、モニター19に表示したり、不図示のHDなどの記録媒体に記録したり、プリンタ20に出力したりすることができる。
【0019】
プリンタ20は、PC16から入力された各種データや画像を紙面に印刷する。
【0020】
なお、上述では、眼球用カメラ11で撮影された眼球の画像は画像記録装置15に一旦記録され、これを再生して画像処理装置17に送られると説明したが、画像記録装置15に記録するのと同時に画像処理装置17に送られるようにしてもよい。こうすることにより、視線の測定と同時に注視位置データを求めることも可能である。
【0021】
ところで、従来の視線検出装置では、前方視野用カメラが1台のみであったため、以下のような問題があった。視線検出装置は、前方視野用カメラの撮影画像上に注視点の位置を表示するため、注視点を検出できる範囲は、前方視野用カメラのレンズの画角と、前方視野用カメラと眼の視差のために生じる死角により制限を受ける。そのため、広い視野角の視線に対応するためには、前方視野用カメラのレンズの焦点距離を短くして画角を大きくする必要がある。しかし、その場合、撮影倍率が小さくなるために特に被写体が遠いほど高解像の画像を得ることが難しい。さらに画角の広いレンズで軸外収差を良く補正するためにはレンズ構成を複雑にする必要があり大型化する。被験者への負担を考慮すると、そのような大型のレンズをもつカメラを視線検出装置に搭載することは難しい。そのため、視線検出装置に使用できるような大きさのレンズでは大きな画角で高精細な画像を得ることが難しい。
【0022】
また、前方視野用カメラは被験者の注視点を撮影するためのカメラであり、動いている被験者の注視点に常にピントを合わせる必要があるが、視線の速い動きに合わせてピントを遅延すること無く調節し続けることはできない。そのため、前方視野用カメラのレンズにはピント調節機構を省略した固定焦点のレンズが使われている。ピントの合う範囲は無限遠方から明視の距離25cm程度までは必要であるが、この広い範囲でピントのずれによる画像のボケが問題にならないようにするためには、レンズのF値を大きくするか焦点距離を短くしてピントの合う範囲を広くする必要がある。しかし、レンズのF値を大きくすると暗くなるので、十分な明るさの無い測定環境では高フレームレートでノイズの少ない画像を得ることができない。またレンズの焦点距離を短くすることは前述の問題がある。
【0023】
これらの理由のため、従来の視線検出装置の前方視野用カメラは、本来必要な広い視野範囲(画角と奥行の両方)の全てにおいて高品質の撮影画像を得ることはできず、限定された視野範囲でしか視線を検出することができなかった。
【0024】
また、視線検出装置を使って、累進眼鏡レンズの性能を評価して設計に活用する場合、累進眼鏡レンズの上方の遠用部から下方の近用部までの広い範囲での視線の評価をする必要がある。特にレンズ下方の側方では収差が大きくなっていくため、近用部の水平方向への視線の分布の程度を測定したり、また遠用部と近用部を結ぶ累進部での視線移動の様子を観察したりすることは、重要である。しかし、前述の問題により、視線検出装置を使って評価できる累進眼鏡レンズの領域は限られていた。
【0025】
以上のような問題をふまえ、本実施形態の視線検出装置1では、広い視野範囲で高品質な撮影画像を得ることができるように、2台の前方視野用カメラ(第1の前方視野用カメラ10aおよび第2の前方視野用カメラ10b)が設けられている。以下、第1の前方視野用カメラ10aおよび第2の前方視野用カメラ10bについて、具体的に説明する。まず、第1の前方視野用カメラ10aおよび第2の前方視野用カメラ10bの詳細な数値データを、表1に示す。なお、第1の前方視野用カメラ10aおよび第2の前方視野用カメラ10bは、両方とも固定焦点カメラである。
【0026】
(表1)
第1の前方視野用カメラ10a 第2の前方視野用カメラ10b
焦点距離 3.8mm 2.5mm
F値 2.0 2.0
受光面の大きさ 4.8mm×3.6mm 4.8mm×3.6mm
画素数 640×480 640×480
1画素の大きさ 7.5μm×7.5μm 7.5μm×7.5μm
水平画角 約65度 約88度
垂直画角 約51度 約72度
ピントが合う範囲 無限遠方から50cm 3.2mから20cm
【0027】
なお、表1において、ピントが合う範囲については、それぞれの前方視野用カメラからの距離を示している。また、それぞれの前方視野用カメラでは、受光面での最小錯乱円の許容大きさを1画素の大きさより僅かに小さい7.4μmとした場合に、表1で示すピントが合う範囲内の被写体にピントが合うように、ピントが調節されて固定されている。
【0028】
また、表1に示すように、第1の前方視野用カメラ10aおよび第2の前方視野用カメラ10bは、焦点距離、水平画角、垂直画角、およびピントが合う範囲が互いに異なっている。第1の前方視野用カメラ10aは、第2の前方視野用カメラ10bよりも、画角が狭く撮影倍率の大きいカメラであり、且つピントの合う範囲が遠方に調節されているため、遠方の撮影に適している。一方、第2の前方視野用カメラ10bは、第1の前方視野用カメラ10aよりも、画角が広く撮影倍率の小さいカメラであり、且つピントの合う範囲が近方に調節されているため、近方の撮影に適している。
【0029】
図2は、第1の前方視野用カメラ10aおよび第2の前方視野用カメラ10bの視野(撮像範囲)を説明する図である。なお、
図2は、被験者3の前方における垂直断面を表している。
図2において、正面を向いた状態の被験者3における垂直方向の視野は、実線21と実線22とで囲まれた領域である。被験者3がヘッドバンド14を装着した状態において、第1の前方視野用カメラ10aは、その視野の中心の方向が被験者3の正面方向よりも若干下の方向となるように固定されている。第1の前方視野用カメラ10aの垂直方向の視野は、
図2において破線23と破線24とで囲まれた領域であり、そのうちのピントが合う範囲は斜線で囲まれた領域25である。第2の前方視野用カメラ10bは、その視野の中心の方向が第1の前方視野用カメラ10aよりもさらに下方を向いて固定されている。第2の前方視野用カメラ10bの垂直方向の視野は、
図2において二点鎖線26と二点鎖線27とで囲まれた領域であり、そのうちのピントが合う範囲は格子線で囲まれた領域28である。
【0030】
図2に示すように、第1の前方視野用カメラ10aおよび第2の前方視野用カメラ10bの視野において、二点鎖線26と破線24とで囲まれた領域は、互いに重なっている。しかしながら、第1の前方視野用カメラ10aの視野のうち、破線23と二点鎖線26とで囲まれた領域は、第2の前方視野用カメラ10bの視野と重なっていない。また、第2の前方視野用カメラ10bの視野のうち、破線24と二点鎖線27とで囲まれた領域は、第1の前方視野用カメラ10aの視野と重なっていない。このように、第1の前方視野用カメラ10aおよび第2の前方視野用カメラ10bの視野は、それぞれ、互いに異なる領域を有している。これにより、視線検出装置1は、前方視野用カメラを1台だけ設ける場合よりも、広い視野角を撮影することができる。
【0031】
また、視線検出装置1では、第1の前方視野用カメラ10aおよび第2の前方視野用カメラ10bのそれぞれの視野の全範囲が、注視点を検出可能な範囲となっている。したがって、視線検出装置1では、第1の前方視野用カメラ10aおよび第2の前方視野用カメラ10bのそれぞれの視野における注視点を検出可能な範囲が、互いに異なる領域を有している。これにより、視線検出装置1は、前方視野用カメラを1台だけ設ける場合よりも、注視点を検出可能な領域を広くすることができる。
【0032】
また、
図2に示すように、第1の前方視野用カメラ10aの視野は、被験者3の視野の上側部分を含んでおり、第2の前方視野用カメラ10bの視野は、被験者3の視野の下側部分を含んでいる。これにより、視線検出装置1は、被験者3の視野のほとんど全てを網羅した領域を撮影することができ、且つその領域において注視点を検出することができる。
【0033】
また、視線検出装置1は、被験者3の手元や足元など視野空間のうち被験者3に近い領域については、比較的画角が広く且つ近方にピントが合っている第2の前方視野用カメラ10bにより撮影する。一方、被験者3から遠い領域については、比較的画角は狭いが撮影倍率が大きく且つ遠方にピントが合っている第1の前方視野用カメラ10aにより撮影する。これにより、注視点が被験者3から遠くても近くても、注視点をピントの合った高精細な画像で撮影することができる。特に、被験者3が遠近両用の眼鏡を使用している場合、被験者3は近方を見るときには視野の下方を使い、遠方を見るときには視野の上方を使うため、近方の注視点は視野の下方の領域に含まれ、遠方の注視点は視野の上方の領域に含まれることとなる。したがって、視野の下方を近方用の第2の前方視野用カメラ10bで撮影し、視野の上方を遠方用の第1の前方視野用カメラ10aで撮影することは、被験者3の注視点を高精細に撮影するのに好都合である。また、前方視野の撮影画像を解析して注視点を判定したり、特定パターンのマーカを解析の補助に使ったりする場合などにも、注視点やマーカを適度な撮影倍率で高精細に撮影することができるので、解析の精度を高めることができる。
【0034】
−前方視野の撮影画像の表示−
次に、第1の前方視野用カメラ10aおよび第2の前方視野用カメラ10bの撮影画像と、検出した注視点の位置とをモニター19に表示する方法を説明する。視線検出装置1では、この表示方法として、以下に説明する第1の表示方法および第2の表示方法のうちどちらかを選択して用いる。
【0035】
図3は、第1の表示方法の一例を説明する図である。第1の表示方法では、PC16は、モニター19に、第1の前方視野用カメラ10aで撮影した第1の撮影画像31と、第2の前方視野用カメラ10bで撮影した第2の撮影画像32とを並べて表示する。なお、第1の前方視野用カメラ10aが視野の上方を撮影し、第2の前方視野用カメラ10bが視野の下方を撮影しているので、PC16は、第1の撮影画像31を上側に、第2の撮影画像32を下側に表示する。また、PC16は、第1の撮影画像31および第2の撮影画像32を、それぞれの視野の範囲(撮影範囲)に比例した大きさで表示する。すなわち、PC16は、第一の前方視野用カメラ10aと第二の前方視野用カメラ10bで撮影された同じ被写体が、モニター19に表示される第1の撮影画像31および第2の撮影画像32において、ほぼ同じ大きさとなるように表示する。さらに、PC16は、第1の撮影画像31および第2の撮影画像32のうち、注視点を含む撮影画像については、注視点の位置を示す印を、撮影画像に重ねて表示する。
図3では、第1の撮影画像31および第2の撮影画像32の両方に注視点が含まれているため、第1の撮影画像31および第2の撮影画像32上に、それぞれ注視点の位置を表す第1の印33および第2の印34が重ねて表示されている。
【0036】
図4は、第2の表示方法の一例を説明する図である。第2の表示方法では、PC16は、モニター19に、第1の前方視野用カメラ10aで撮影した第1の撮影画像31と、第2の前方視野用カメラ10bで撮影した第2の撮影画像32とを、一部重ねて表示する。具体的に、PC16は、第1の撮影画像31および第2の撮影画像32を、それぞれの視野の範囲に比例した大きさとし、且つ、それぞれの視野が重複する領域を重ねて表示する。このとき、それぞれの前方視野用カメラのレンズの歪曲収差による画像の歪みを画像処理により補正して表示すると、第1の撮影画像31と第2の撮影画像32が、その重複領域36の境界で滑らかにつながるので、より望ましい。また、PC16は、第1の撮影画像31および第2の撮影画像32のうち、注視点を含む撮影画像については、注視点の位置を示す印を、撮影画像に重ねて表示する。
図4では、第1の撮影画像31および第2の撮影画像32の両方に注視点が含まれているため、第1の撮影画像31と第2の撮影画像32の重複領域36上に、注視点の位置を表す印35が重ねて表示されている。
【0037】
この第2の表示方法において、PC16は、第1の撮影画像31と第2の撮影画像32の重複領域36については、どちらかの撮影画像だけを常に表示してもよいし、両方の撮影画像を画像処理により合成して表示しても良い。画像処理による合成は、表示するピクセルごとに両方の画像信号を平均したり、合算したり、輝度の高いほうの信号を選択する、などの方法を使うことができる。しかし、より望ましくは、注視点の情報から判断して、第1の撮影画像31および第2の撮影画像32のうち、どちらか一方のより適した撮影画像を選択して表示する。たとえば、PC16は、注視点が第1の撮影画像31のみに含まれている場合は、重複領域36に第1の撮影画像31を表示し、注視点が第2の撮影画像32のみに含まれている場合は、重複領域36に第2の撮影画像32を表示する。
【0038】
また、PC16は、注視点が第1の撮影画像31および第2の撮影画像32の両方に含まれている、すなわち重複領域36に含まれている場合は、以下の通り、上記選択を行う。まず、PC16は、較正演算装置18により算出された、被験者から注視点までの距離情報に基づいて、注視点が、第1の前方視野用カメラ10aのピントが合う範囲および第2の前方視野用カメラ10bのピントが合う範囲のどちらに含まれるかを判断する。注視点が、第1の前方視野用カメラ10aのピントが合う範囲に含まれる場合には、第1の撮影画像31において注視点にピントが合っているので、PC16は、重複領域36に第1の撮影画像31を表示する。一方、注視点が、第2の前方視野用カメラ10bのピントが合う範囲に含まれる場合には、第2の撮影画像32において注視点にピントが合っているので、PC16は、重複領域36に第2の撮影画像32を表示する。このように、PC16は、第1の撮影画像31および第2の撮影画像32のうち、注視点によりピントが合っている方の撮影画像を選択して、重複領域36に表示する。
【0039】
以上のような表示方法により、視線検出装置1は、第1の前方視野用カメラ10aおよび第2の前方視野用カメラ10bで撮影した広い視野範囲の撮影画像の情報を損なわずに、当該撮影画像上に注視点の位置を示す印を重ねて表示することができる。
【0040】
−累進眼鏡レンズの設計−
上述したように本実施形態の視線検出装置1は、広い視野の範囲で視線を検出できる。そのため、この視線検出装置1を用いて累進眼鏡レンズを装用した被験者の視線を検出することで、累進眼鏡レンズの広い領域で性能を評価することができ、この評価結果を累進眼鏡レンズの設計・製造や選択などに活用することができる。このような場合、視線検出装置1を用いて、注視点を検出するのに加え、眼鏡レンズ上を被験者の視線が透過する点(以下、透過点と記載する)を検出しておくことが望ましい。透過点の検出方法としては、たとえば、特表2008−521027号公報に記載されている方法など、公知の方法を用いればよい。
【0041】
図5は、新しい累進眼鏡レンズの設計の手順を説明するフローチャートである。ステップS11において、被験者に基準となる眼鏡レンズを装用させた状態で特定の環境下に置き、このときの被験者の視線情報(注視点および透過点)を視線検出装置1により測定する。ここで、基準となる眼鏡レンズとは、新しい累進眼鏡レンズを設計する上で基準とする眼鏡レンズであり、例えば試作品などである。特定の環境下とは、新しい累進眼鏡レンズを装用するであろう環境のうちの一つであり、例えばPCを操作する環境などが挙げられる。視線検出装置1は、上述した較正方法で較正されているため、精度よく注視点および透過点を測定することができる。
【0042】
ステップS12において、上記ステップS11で測定した視線情報を評価する。例えば、被験者がPCを操作している状態で、被験者の注視点がモニターに位置するときの透過点の分布を解析する。これにより、被験者がモニターを注視するときには眼鏡レンズ上のどの領域を使用しているか、モニターを注視するときには眼球からモニターまでの距離をどの程度にしているか、眼球からモニターまでの距離と透過点での加入度の関係、注視しているモニターに表示された文字の大きさと透過点の非点収差量の関係などを評価する。同様にして、キーボードやPCの操作中に使う資料などを注視しているときの視線情報の評価もそれぞれ行う。
【0043】
ステップS13において、ステップS12での評価の結果に基づいて新しい累進眼鏡レンズの設計を行う。例えば、PCの操作により適した新しい累進眼鏡レンズを設計するという課題があるとする。この場合に、ステップS12での評価により、被験者はモニターに表示された文字を見るときには眼鏡レンズ上の領域のうち非点収差量が0.5D以下の領域のみを使うが、キーボードを見るときには非点収差量がより大きい1.5Dまでの領域も使うという結果が得られたとする。そこで、モニターまでの距離に対応する加入度の領域は非点収差量を0.5D以下に抑え、キーボードまでの距離に対応する加入度の領域は非点収差量を1.5Dまで許容する、という設計目標をたてて、新しい累進眼鏡レンズを設計することができる。
【0044】
なお、以上説明した設計方法は一例であり、上述した設計方法に限らない。例えば、被験者の人数を増やしたり測定環境を増やしたりすることで、より汎用的な設計目標を立てて設計することもできる。
【0045】
このように、本実施形態の視線検出装置1によって得られた広い視野の範囲の注視点および透過点を解析して、当該解析結果に基づいて眼鏡のレンズを設計することで、広い視野の範囲で快適な装用感を得られる眼鏡のレンズを設計することができる。
【0046】
−累進眼鏡レンズの製造および販売−
次に、このように視線検出装置1の測定結果を用いて設計した新しい累進眼鏡レンズを製造して製品として販売するまでの手順を、
図6に示すフローチャートを用いて説明する。
【0047】
図6において、ステップS21〜S23における被験者の視線情報を測定して評価し、評価結果を用いて累進眼鏡レンズを設計する手順は、上述した
図5のステップS11〜S13までの手順と同様であるため、説明を省略する。
【0048】
そして、ステップS24において、ステップS23で設計した新しい累進眼鏡レンズを製造し、ステップS25では被験者はステップS24で製造した新しい累進眼鏡レンズを装用してステップS21と同様に視線情報を再び測定し、ステップS26において再び評価する。そしてステップS27において新しい累進眼鏡レンズが製品として完成しているかどうかを、予め定めた目標性能と照らし合わせるなどして判定し、完成している場合はステップS28に進み、完成していない場合はステップS23に戻る。
【0049】
この戻ったステップS23では、ステップS26で評価した結果を考慮して直前のステップS23での設計を修正して再設計する。そして再度ステップS24〜S26を繰り返し、ステップS27で再判定をする。このステップS23〜S27の手順を何度か繰り返して、新しい累進眼鏡レンズの完成度を高める。そして新しい累進眼鏡レンズの完成度が所定以上となると、ステップS27を肯定判定してステップS28に進み、新しい累進眼鏡レンズを製品として販売する。
【0050】
このように、本実施形態の視線検出装置1によって得られた広い視野の範囲の注視点および透過点を解析して、当該解析結果に基づいて眼鏡のレンズを製造することで、広い視野の範囲で快適な装用感を得られる眼鏡のレンズを製造することができる。
【0051】
−累進眼鏡レンズの選択−
また、視線検出装置1の測定結果は、特性の異なる複数の累進眼鏡レンズの中から被験者にとって最適な累進眼鏡レンズを選択する際にも活用することができる。
図7は、このような最適な累進眼鏡レンズを選択する手順を説明するフローチャートである。
【0052】
ステップS31において、選択肢とする累進眼鏡レンズを複数(例えば3つ)用意し、被験者に、それぞれの累進眼鏡レンズを装用させた状態で、それぞれの累進眼鏡レンズでの視線情報を視線検出装置1により測定する。この3つの累進眼鏡レンズとは、互いに特性が異なるレンズであり、例えば、1つは被験者が現在使用中の累進眼鏡レンズであり、他の2つは別の累進眼鏡レンズである。視線情報の測定は、上述した
図9のステップS11の測定と同様に行う。また、被験者が測定時に置かれる環境は、全ての測定で同じとする。
【0053】
ステップS32において、ステップS31で測定した視線情報を評価する。例えば、上記3つの累進眼鏡レンズのうち、どの累進眼鏡レンズにおいて、最も透過点が広く分布しているかなどを評価する。被験者は、上記3つの累進眼鏡レンズでの測定結果を比較して評価することで、上記3つの累進眼鏡レンズを使用したときの適正を客観的に評価することができる。
【0054】
ステップS33において、ステップS32での評価の結果に基づいて、上記3つの累進眼鏡レンズの中から1つの累進眼鏡レンズを選択する。例えば、仮に、最も広く累進眼鏡レンズの領域を使うことができる累進眼鏡レンズを最適とする場合には、上記3つの累進眼鏡レンズの中から、透過点が最も広く分布しているものを選択すればよい。
【0055】
このように、本実施形態の視線検出装置1によって得られた広い視野の範囲の注視点および透過点を解析して、当該解析結果に基づいて眼鏡のレンズを選択することで、広い視野の範囲で快適な装用感を得られる眼鏡のレンズを選択することができる。
【0056】
以上説明した実施の形態によれば、次の作用効果が得られる。
(1)視線検出装置1において、第1の前方視野用カメラ10aおよび第2の前方視野用カメラ10bのそれぞれの視野は、互いに異なる領域を有している。これにより、視線検出装置1は、前方視野用カメラが1台である場合と比較して、広い視野範囲でより高品質な撮影画像を得ることができ、広い視野範囲で注視点を検出することができる。
【0057】
(2)視線検出装置1において、第1の前方視野用カメラ10aおよび第2の前方視野用カメラ10bは、それぞれ、互いに異なる方向に向けて固定されている。これにより、視線検出装置1は、前方視野用カメラが1台である場合と比較して、広い視野角でより高品質な撮影画像を得ることができる。
【0058】
(3)視線検出装置1において、第1の前方視野用カメラ10aおよび第2の前方視野用カメラ10bは、それぞれのピントの合う範囲が互いに異なっている。これにより、視線検出装置1は、前方視野用カメラが1台である場合と比較して、ピント方向に広い視野範囲でより高品質な撮影画像を得ることができる。
【0059】
(4)視線検出装置1において、第1の前方視野用カメラ10aおよび第2の前方視野用カメラ10bは、それぞれの画角が互いに異なっている。これにより、視線検出装置1は、前方視野用カメラが1台である場合と比較して、画角方向に広い視野範囲でより高品質な撮影画像を得ることができる。
【0060】
(5)視線検出装置1において、第2の前方視野用カメラ10bは、第1の前方視野用カメラ10aよりも、被験者の視野の下方を撮像し、且つピントの合う範囲が近方に設定されている。これにより、第1の前方視野用カメラ10aによって、比較的遠方の注視点にピントが合った撮影画像を得ることができ、第2の前方視野用カメラ10bによって、比較的近方の注視点にピントが合った撮影画像を得ることができる。したがって、視線検出装置1では、注視点が被験者から遠くても近くても、注視点にピントの合った画像を撮影することができる。
【0061】
(6)視線検出装置1において、第2の前方視野用カメラ10bは、第1の前方視野用カメラ10aよりも、被験者の視野の下方を撮像し、且つ画角が広くなっている。これにより、第2の前方視野用カメラ10bによって広い視野角の撮影画像を得ることができると共に、第1の前方視野用カメラ10aによって、遠方の注視点についても高解像度の撮影画像を得ることができる。
【0062】
(変形例1)
上述した実施の形態では、PC16は、第2の表示方法において、被験者から注視点までの距離情報に基づいて、第1の撮影画像31および第2の撮影画像32の重複領域36に表示する撮影画像を選択するようにした。しかしながら、この他の方法で、重複領域36に表示する撮影画像を選択するようにしてもよい。
【0063】
たとえば、PC16は、第1の撮影画像31および第2の撮影画像32のそれぞれにおいて、注視点付近のコントラストを検出し、この検出結果に基づいて、重複領域36に表示する撮影画像を選択するようにしてもよい。具体的には、PC16は、上記検出したコントラストが、第1の撮影画像31の方が強い場合には、第1の撮影画像31において注視点にピントが合っていると考えられるので、PC16は、重複領域36に第1の撮影画像31を表示する。一方、PC16は、上記検出したコントラストが、第2の撮影画像32の方が強い場合には、第2の撮影画像32において注視点にピントが合っていると考えられるので、PC16は、重複領域36に第2の撮影画像32を表示する。
【0064】
また、PC16は、第1の撮影画像31および第2の撮影画像32のうち、PC16の操作者によって不図示のPC用入力装置を介して指定された撮影画像を、重複領域36に表示する撮影画像として選択するようにしてもよい。
【0065】
(変形例2)
上述した実施の形態では、視線検出装置1に、2台の前方視野用カメラ10a、10bを設ける例について説明したが、前方視野用カメラを3台以上設けてもよい。たとえば、視線検出装置1に、第1の前方視野用カメラ10aと同じカメラを、第3の前方視野用カメラとして設けてもよい。この場合、第1の前方視野用カメラ10aを被験者3の視野より若干下方向かつ左方向を向けて固定し、第3の前方視野用カメラを被験者の視野より若干下方向かつ右方向を向けて固定し、第2の前方視野用カメラ10bは第1および第3の前方視野用カメラよりさらに下方に向けかつ水平方向には正面に向けて固定する。こうすることで、視線検出装置1は、より広い視野を撮影することができる。特に、遠方撮影用の前方視野用カメラ(第1および第3の前方視野用カメラ)は比較的画角が狭いので、遠方撮影用に2台の前方視野用カメラを用いることで、遠方においても広い視野を撮影することができる。
【0066】
また、上記第1〜第3の前方視野用カメラの撮影画像の表示例について説明する。
図8は、第1の表示方法の一例を説明する図である。第1の表示方法では、PC16は、モニター19に、第1の前方視野用カメラ10aで撮影した第1の撮影画像31と、第2の前方視野用カメラ10bで撮影した第2の撮影画像32と、第3の前方視野用カメラで撮影した第3の撮影画像37とを並べて表示する。なお、第1の前方視野用カメラ10aが視野の上方の左側を撮影し、第2の前方視野用カメラ10bが視野の下方を撮影し、第3の前方視野カメラが視野の上方の右側を撮影しているので、PC16は、第1の撮影画像31を上側の左側に、第2の撮影画像32を下側に、第3の撮影画像37を上側の右側に表示する。また、第1〜第3の撮影画像31、32、37は、それぞれの視野の範囲に比例した大きさで表示される。さらに、PC16は、第1〜第3の撮影画像31、32、37のうち、注視点を含む撮影画像については、注視点の位置を示す印を、撮影画像に重ねて表示する。
図8では、第1の撮影画像31および第2の撮影画像32には注視点が含まれ、第3の撮影画像37には注視点が含まれていないため、第1の撮影画像31および第2の撮影画像32上にのみ、それぞれ注視点を表す第1の印33および第2の印34が重ねて表示されている。
【0067】
図9は、第2の表示方法の一例を説明する図である。第2の表示方法では、PC16は、モニター19に、第1の前方視野用カメラ10aで撮影した第1の撮影画像31と、第2の前方視野用カメラ10bで撮影した第2の撮影画像32と、第3の前方視野用カメラで撮影した第3の撮影画像37とを、一部重ねて表示する。具体的に、PC16は、第1〜第3の撮影画像31、32、37を、それぞれの視野の範囲に比例した大きさとし、視野が重複する領域を重ねて表示する。このとき、それぞれの前方視野用カメラのレンズの歪曲収差による画像の歪みを画像処理により補正して表示すると、第1の撮影画像31と第2の撮影画像32と第3の撮影画像37とが、その重複領域の境界で滑らかにつながるので、より望ましい。また、PC16は、第1〜第3の撮影画像31、32、37のうち、注視点を含む撮影画像については、注視点の位置を示す印を、撮影画像に重ねて表示する。
図9では、第1の撮影画像31および第2の撮影画像32には注視点が含まれ、第3の撮影画像37には注視点が含まれていないため、第1の撮影画像31および第2の撮影画像32上にのみ、注視点を表す印35が重ねて表示されている。
【0068】
この第2の表示方法において、PC16は、第1〜第3の撮影画像31、32、37の重複領域については、第1〜第3の撮影画像31、32、37のうち、いずれかを選択して表示する。この選択の方法は、上述した実施の形態と同様の方法であってもよいし、変形例1と同様の方法であってもよい。
【0069】
(変形例3)
なお、視野の下方を撮影する第2の前方視野用カメラ10bについては、レンズと受光面を偏心させて煽り撮影の状態にすることで、視野の下方ほどピントが合う範囲をより被検者に近づけて使用するようにしてもよい。
【0070】
以上の説明はあくまで一例であり、上記の実施形態の構成に何ら限定されるものではない。また、上記実施形態に各変形例の構成を適宜組み合わせてもかまわない。