(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
エチレン系ポリマを主成分とするベースポリマ100質量部に対し、芳香族アミン系酸化防止剤3〜10質量部、芳香族系プロセスオイル5〜20質量部、メラミン・シアヌレート化合物10〜30質量部、及び金属水和物100〜200質量部を含み、
前記エチレン系ポリマは、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体及びエチレン−αオレフィン共重合体、又はエチレン−酢酸ビニル共重合体及びエチレン−αオレフィン共重合体のいずれかと、極性官能基で変性されたエチレン系ポリマとを含むことを特徴とする耐放射線性ハロゲンフリー樹脂組成物。
前記極性官能基で変性されるエチレン系ポリマは、エチレン−αオレフィン共重合体であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の耐放射線性ハロゲンフリー樹脂組成物。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所や高速増殖炉、核燃料再処理施設、粒子加速器施設などにおいては、使用環境にγ線をはじめとする放射線が存在する。このことから、各施設・設備への電源供給、信号伝送等に用いる電線・ケーブルには放射線による劣化に耐えることが必要とされる。
【0003】
特に原子力発電所で使用される電線・ケーブル類は、定常運転時に発生する熱、放射線に加え、冷却材喪失事故(以下LOCAと言う)発生時に想定される熱、放射線及び熱水又は過熱蒸気に曝された場合においても、規定された電気絶縁性を一定期間保持できなければならない。更に、万一の火災を想定し、垂直トレイに布設されたケーブル火災を模擬した高度な難燃性が要求されている。
【0004】
一方、電線・ケーブルには、火災時の安全性や環境配慮の観点から、塩素等のハロゲン元素を含まず、燃焼時に有害ガスを発生させないハロゲンフリーの電線・ケーブルが望まれるようになっている。この要望に対し、近年、ビル内設備用ケーブルとして被覆材料に「エコマテリアル」を使用したJISC3605、JISC3401に規定されているごとき電線・ケーブルが普及してきている。
【0005】
エコマテリアルとは、エチレン−エチルアクリレート(EEA)やエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン-αオレフィン共重合体等、軟質のエチレン系ポリマに水酸化マグネシウムや水酸化アルミニウムなどの金属水酸化物系難燃剤を混和してなるハロゲンフリー難燃性樹脂組成物の総称である。
【0006】
しかしながら、エコマテリアルを使用した電線・ケーブルに使用する樹脂組成物は、放射線照射により、酸化劣化に起因する主鎖切断や架橋が進行し、伸び、引張強さなどの機械特性が著しく低下する。また、酸化劣化により被覆材に亀裂が入り、電気絶縁性を保持できなくなる。
【0007】
例えば、特許文献1には、エチレン・プロピレンゴム等の樹脂成分に対し、特定質量比の金属水和物及びメラミン・シアヌレート化合物を含有し、金属水和物の50質量%以上がシランカップリング剤で処理され、特定の物性値、難燃性を有する絶縁樹脂組成物が開示されている。
【0008】
また、特許文献2には、ヨウ素価1〜10のエチレン・プロピレン・ジエンゴム及びプロセス油(ナフテン系や芳香族系)が配合されてなる耐放射線性組成物が開示されている。
【0009】
また、特許文献3には、ポリオレフィン系樹脂に対してサリチレート系、ベンゾトリアゾール系及びトリアジン系の紫外線吸収剤を添加してなる耐放射線性樹脂組成物の記載がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1には、耐放射線性に関する記載はなく、当該樹脂組成物を放射線環境下で使用した場合、特にLOCA発生時に電気絶縁性を維持することは難しい。
【0012】
また、特許文献2に記載の発明の耐放射線性は0.8〜1MGy級にすぎず、近年ではさらに高レベルの耐放射線性を要求される。
【0013】
特許文献3に記載の発明の耐放射線性は2.5MGy級の耐放射線性を有しているものの、LOCA発生時における熱水及び過熱蒸気曝露は想定されておらず、事故時に電気絶縁性を保持できない可能性がある。
【0014】
従って、本発明の目的は、LOCA発生時における熱水又は過熱蒸気に晒されても電気絶縁性を保持できる高度な耐放射線性を有するハロゲンフリー樹脂組成物及びこれを用いた電線・ケーブルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するため、本発明によれば、以下の耐放射線性ハロゲンフリー樹脂組成物及びこれを用いた電線・ケーブルが提供される。
【0016】
[1]エチレン系ポリマを主成分とするベースポリマ100質量部に対し、芳香族アミン系酸化防止剤3〜10質量部、芳香族系プロセスオイル5〜20質量部、メラミン・シアヌレート化合物10〜30質量部、及び金属水和物100〜200質量部を含み、前記エチレン系ポリマは、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体
及びエチレン−αオレフィン共重合体、
又はエチレン−酢酸ビニル共重合体
及びエチレン−αオレフィン共重合体のいずれかと、極性官能基で変性されたエチレン系ポリマとを含むことを特徴とする耐放射線性ハロゲンフリー樹脂組成物。
[2]前記極性官能基は、エポキシ基、カルボキシル基、又は無水マレイン酸基であることを特徴とする前記[1]に記載の耐放射線性ハロゲンフリー樹脂組成物。
[3]前記極性官能基で変性されるエチレン系ポリマは、エチレン−αオレフィン共重合体であることを特徴とする前記[1]又は前記[2]に記載の耐放射線性ハロゲンフリー樹脂組成物。
[4]前記[1]〜[3]のいずれか1つに記載の耐放射線性ハロゲンフリー樹脂組成物を被覆材料として使用したことを特徴とする電線。
[5]前記[1]〜[3]のいずれか1つに記載の耐放射線性ハロゲンフリー樹脂組成物を被覆材料として使用したことを特徴とするケーブル。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、LOCA発生時における熱水又は過熱蒸気に晒されても電気絶縁性を保持できる高度な耐放射線性を有するハロゲンフリー樹脂組成物及びこれを用いた電線・ケーブルが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0019】
〔耐放射線性ハロゲンフリー樹脂組成物〕
本発明の実施形態に係る耐放射線性ハロゲンフリー樹脂組成物は、エチレン系ポリマを主成分とするベースポリマ100質量部に対し、芳香族アミン系酸化防止剤3〜10質量部、芳香族系プロセスオイル5〜20質量部、メラミン・シアヌレート化合物10〜30質量部、及び金属水和物100〜200質量部を含み、前記エチレン系ポリマは、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体
及びエチレン−αオレフィン共重合体、
又はエチレン−酢酸ビニル共重合体
及びエチレン−αオレフィン共重合体のいずれかと、極性官能基で変性されたエチレン系ポリマとを含む。
【0020】
(エチレン系ポリマを主成分とするベースポリマ)
本発明の実施形態に用いるベースポリマは、エチレン系ポリマを主成分とする。
エチレン系ポリマとしては、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体及びエチレン−αオレフィン共重合体、又はエチレン−酢酸ビニル共重合体及びエチレン−αオレフィン共重合体のいずれかを含む。ベースポリマ中のエチレン系ポリマの含量は、60質量%以上であることが好ましく、より好ましくは80質量%以上であり、さらに好ましくは90質量%以上であり、最も好ましくは100質量%である。本発明の効果を奏する限りにおいて、他の種類のポリマを含んでいても良い。
【0021】
本発明の実施形態において使用されるエチレン系ポリマとしては、高密度ポリエチレン(HDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、直鎖状超低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン(HDPE)、エチレン−メチルメタクリレート共重合体(EMMA)、エチレン−エチルアクリレート共重合体(EEA)、エチレン−ブチルアクリレート(EBA)、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体、エチレン−ブテン−1共重合体、エチレン−ブテン−ヘキセン三元共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体(EPDM)、エチレン−オクテン共重合体(EOR)、エチレン共重合ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体(EPM)、ポリ−4メチル−ペンテン−1、マレイン酸グラフト低密度ポリエチレン、水素添加スチレン−ブタジエン共重合体(H−SBR)、マレイン酸グラフト直鎖状低密度ポリエチレン、マレイン酸グラフト直鎖状超低密度ポリエチレン、エチレン−αオレフィン共重合体(特にエチレンと炭素数が4〜20のαオレフィンとの共重合体が好ましい)、エチレン−スチレン共重合体、マレイン酸グラフトエチレン−スチレン共重合体、マレイン酸グラフトエチレン−メチルアクリレート共重合体、マレイン酸グラフトエチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−無水マレイン酸共重合体、エチレン−エチルアクリレート−無水マレイン酸三元共重合体、ブテン−1を主成分とするエチレン−プロピレン−ブテン−1三元共重合体などが挙げられる。これらは単独又は2種以上をブレンドして用いることができる。
【0022】
本発明の実施形態に係る耐放射線性ハロゲンフリー樹脂組成物は、上記エチレン系ポリマの内、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体(EPDM)、エチレン−αオレフィン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)から選ばれる1種以上を含む。これにより、メラミン・シアヌレート化合物、金属水和物を大量に添加しても、これらのエチレン系ポリマが添加剤を受容し、機械特性を低下させない。
【0023】
特に、上記樹脂組成物を電線・ケーブルの絶縁体材料に使用する場合には、電気絶縁性を保持できるため耐放射線性も良好であるエチレン−プロピレン−ジエン共重合体(EPDM)、エチレン−αオレフィン共重合体を含むことが好ましく、ケーブルのシース材料に使用する場合には、難燃性を有したエチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)を含むことが好ましい。
【0024】
ベースポリマを構成するエチレン系ポリマ中のエチレン−プロピレン−ジエン共重合体(EPDM)、エチレン−αオレフィン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)から選ばれる1種以上の含量は、70〜97質量%であることが好ましく、より好ましくは75〜96質量%であり、さらに好ましくは80〜95質量%であり、最も好ましくは85〜95質量%である。
【0025】
また、本発明の実施形態に係る耐放射線性ハロゲンフリー樹脂組成物は、極性官能基で変性されたエチレン系ポリマを含む。変性されるエチレン系ポリマとしては、上述のものを使用できるが、エチレン−αオレフィン共重合体が好適である。これにより、機械特性に優れ、劣化後にLOCA発生時に発生する熱水又は過熱水蒸気に曝露されても電気絶縁性を保持させる耐放射線性を有することができる。これは、ポリマ中の極性官能基が添加剤粒子表面のヒドロキシル基と静電気的に吸着し、ポリマと粒子表面の密着性を向上させ、水分の侵入を抑制し、電気絶縁性を保持させているものと考えられる。
【0026】
極性官能基としては、エポキシ基、カルボキシル基、無水マレイン酸基が好ましい。特に、無水マレイン酸で変性したエチレン−αオレフィン共重合体を使用することが好適である。
【0027】
ベースポリマを構成するエチレン系ポリマ中の極性官能基で変性されたエチレン系ポリマの含量は、2〜20質量%であることが好ましく、より好ましくは3〜18質量%であり、さらに好ましくは5〜15質量%であり、最も好ましくは7〜12質量%である。
【0028】
ベースポリマの耐熱性を向上させるため、硫黄化合物や有機過酸化物の添加、電子線照射、シラングラフト水架橋などの常法に従い、架橋させることが好ましい。本実施の形態においては、エチレン系ポリマを使用するため、電子線照射、有機過酸化物による架橋が好ましく、架橋度を上げるためには特に有機過酸化物による架橋が好ましい。
【0029】
(芳香族アミン系酸化防止剤)
本発明の実施形態に係る耐放射線性ハロゲンフリー樹脂組成物は、上記ベースポリマ100質量部に対し、芳香族アミン系酸化防止剤3〜10質量部を含む。
【0030】
エチレン系ポリマに放射線(主にγ線)を照射すると、通常の加熱劣化と異なり、室温においてもポリマから水素が引き抜かれラジカルが生成し、このラジカルが酸素と結合することによりポリマの酸化劣化が生じる。この結果、ポリマの架橋や分子切断が起こるため、樹脂組成物の機械特性が急激に低下する。この劣化現象への対策として、ポリマに生成したラジカルを速やかに捕捉することと、酸化劣化によってポリマに生じるヒドロペルオキシドを安定なアルコールに変えることで連鎖的な酸化劣化を防ぐことが重要と考え、芳香族アミン系酸化防止剤が劣化に対して有効であることを見出した。
【0031】
芳香族アミン系酸化防止剤としては、ゴム・プラスチック酸化防止剤として市販されている化合物があり、例えばジフェニルアミン系化合物、キノリン系化合物、ナフチルアミン系化合物などのモノアミン化合物や、フェニレンジアミン系化合物、ベンゾイミダゾール系化合物などのジアミン化合物が挙げられる。
【0032】
ジフェニルアミン系化合物としては、p−(p−トルエン・スルホニルアミド)−ジフェニルアミン(商品名:ノクラックTD他)、4,4’−(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン(商品名:ノクラックCD、ナウガード445他)、4,4’−ジオクチル・ジフェニルアミン誘導体(商品名:ノクラックODA−N、アンテージOD−P、アンテージDDP他)などが挙げられる。
【0033】
キノリン系化合物としては、2,2,4−トリメチル1,2−ジヒドロキノリン重合物(商品名:ノクラック224;JIS略号TMDQ)などが挙げられる。
【0034】
ナフチルアミン系化合物としては、フェニル−α−ナフチルアミン(商品名:ノクラックPA他;JIS略号PAN)、N,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミン(商品名ノクラックWhite他:JIS略号DNPD)などが挙げられる。
【0035】
フェニレンジアミン系化合物としては、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン(商品名:ノクラックDP他;JIS略号DPPD)、N−イソプロピル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン(アンテージ3C、ノクラック810NA他;JIS略号IPPD)、N−フェニル−N’−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)−p−フェニレンジアミン(商品名:ノクラックG−1他)、N−フェニル−N’−(1,3−ジメチルブチル)−p−フェニレンジアミン(アンテージ6C,ノクラック6C他)、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン(商品名:ノクラックDP他;JIS略号DPPD)の混合物(商品名:ノクラック500、アンテージDP2他)、ジアリール−p−フェニレンジアミン誘導体またはその混合物(商品名:ノクラック630、アンテージST1他)などが挙げられる。
【0036】
ベンゾイミダゾール系化合物としては、2−メルカプトベンゾイミダゾール(商品名:アンテージMB他;JIS略号MBI)、2−メルカプトメチルベンゾイミダゾール(商品名ノクラックMMB他)、2−メルカプトベンゾイミダゾールの亜鉛塩(商品名:ノクラックMBZ他;JIS略号ZnMBI)、2−メルカプトメチルベンゾイミダゾールの亜鉛塩(商品名:ノクラックMMBZ他)などが挙げられる。
【0037】
これらの芳香族アミン系酸化防止剤は、単独で又は2種以上をブレンドして使用することができる。特に、ジフェニルアミン系化合物、キノリン系化合物はラジカルの捕捉に適しており、ベンゾイミダゾール系化合物はラジカルの捕捉に加え、ヒドロペルオキシドの安定化に適している。このため、ジフェニルアミン系化合物、キノリン系化合物とベンゾイミダゾール系化合物との併用が好適である。
【0038】
芳香族アミン系酸化防止剤の添加量は、上記ベースポリマ100質量部に対し、3〜10質量部である。好ましくは、5〜8質量部である。添加量が3質量部未満の場合、放射線環境下での劣化防止効果が小さく、10質量部を超えた場合、組成物を電子線又は有機過酸化物によって架橋させるときに、架橋に必要なラジカルを酸化防止剤が捕捉してしまうため架橋阻害をおこし、機械特性が低下する。
【0039】
(芳香族系プロセスオイル)
本発明の実施形態に係る耐放射線性ハロゲンフリー樹脂組成物は、上記ベースポリマ100質量部に対し、芳香族系プロセスオイル5〜20質量部を含む。
【0040】
芳香族系プロセスオイルを添加することで更に耐放射線性は向上する。この原因は明確ではないが、芳香族系プロセスオイル中の芳香族化合物に含まれるπ共有電子が放射線から受けるエネルギーを共鳴安定化すると考えられる。
【0041】
芳香族系プロセスオイルの添加量は、上記ベースポリマ100質量部に対し、5〜20質量部である。好ましくは、5〜15質量部である。5質量部未満では耐放射線性が顕著に見られず、20質量部を超える量では引張強度の低下が起きる。
【0042】
芳香族系プロセスオイルの構成炭素は、アロマティック環中の炭素、ナフタレン環中の炭素、パラフィン鎖中の炭素に分けられ、アロマティック環中の炭素が多いほど放射線防御効果があり、好ましくは25質量%以上含有されているものである。
【0043】
(メラミン・シアヌレート化合物)
本発明の実施形態に係る耐放射線性ハロゲンフリー樹脂組成物は、上記ベースポリマ100質量部に対し、メラミン・シアヌレート化合物(メラミンとシアヌール酸の付加物)10〜30質量部を含む。
【0044】
メラミン・シアヌレート化合物は難燃剤として広く知られた物質ではあるが、上記芳香族プロセスオイルと併用することで難燃性はもとより耐放射線性を付与できることを見出した。この原因も明確ではないが、メラミン・シアヌレート化合物は波長200〜230nm付近の紫外線を吸収する性質を有している。γ線はさらに短い10pm程度の波長の放射線ではあるが、γ線が組成物中の何らかの原子に衝突し、コンプトン効果によって波長が長くなっていくことと予想すると紫外線領域となった波長の電磁波をメラミン・シアヌレート化合物が吸収し、劣化を抑制できているとも考えられる。また、メラミン・シアヌレート化合物と同じくπ共有電子を有する芳香族系プロセスオイルを併用したことでメラミン・シアヌレートの分散性を改善し、更に芳香族プロセスオイルとメラミン・シアヌレート化合物のπ共有電子がスタックすることにより、放射線から受けるエネルギーを共鳴安定化する作用が強まったものと考えられる。
【0045】
メラミン・シアヌレート化合物の添加量は、上記ベースポリマ100質量部に対し、10〜30質量部である。好ましくは、15〜25質量部である。10質量部未満では耐放射線性が発現せず、30質量部を超える量を添加すると分散性が悪化し引張特性が悪化する。よって、放射線環境下での劣化が生じやすい。
【0046】
(金属水和物)
本発明の実施形態に係る耐放射線性ハロゲンフリー樹脂組成物は、上記ベースポリマ100質量部に対し、金属水和物100〜200質量部を含む。
【0047】
金属水和物としては、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、ハイドロタルサイトなどが挙げられる。このうち難燃効果が大きいのは水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムである。これらの粒子の分散性や粒子表面とポリマとの密着性を考慮し、脂肪酸、脂肪酸金属塩、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、アクリル樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、シリコーンエラストマー、カチオン性又はノニオン性を有する水溶性樹脂などで表面処理することも可能である。特にシランカップリング剤で表面処理することが好適である。
【0048】
金属水和物の添加量は、上記ベースポリマ100質量部に対し、100〜200質量部である。好ましくは、120〜160質量部である。金属水和物の添加量が100質量部未満では垂直トレイ難燃性試験に合格できる高度な難燃性を得ることができず、200質量部を超える量を添加すると機械特性が著しく低下する。
【0049】
(その他の添加剤)
本発明の実施形態に係る樹脂組成物には、上記の添加剤以外にも必要に応じて、難燃助剤、酸化防止剤、滑剤、界面活性剤、軟化剤、可塑剤、無機充填剤、相溶化剤、安定剤、金属キレート剤(銅害防止剤)、架橋剤、紫外線吸収剤、光安定剤(ヒンダードアミン系化合物)、着色剤などの添加剤を加えることができる。特に難燃助剤を添加することは好適である。難燃助剤としては、赤リンやリン酸エステル系化合物などのリン系難燃剤、シリコーン系難燃剤、窒素系難燃剤、ホウ酸化合物、スズ酸化合物などが挙げられる。
【0050】
〔電線〕
本発明の実施形態に係る電線は、本発明の実施形態に係る上記耐放射線性ハロゲンフリー樹脂組成物を被覆材料(絶縁体)として使用したことを特徴とする。
【0051】
図1は、本発明の実施形態に係る電線の横断面図である。
図1に示すように、本実施の形態に係る電線10は、汎用の材料、例えば、純銅や錫めっき銅等からなる導体1と、導体1の外周に被覆された絶縁体2とを備える。導体1は、
図1のように複数本であっても、1本であってもよい。
【0052】
絶縁体2は、本発明の実施の形態に係る上記の耐放射線性ハロゲンフリー樹脂組成物から構成されている。
【0053】
本実施の形態においては、絶縁体を、単層で構成してもよく、また、多層構造とすることもできる。さらに、必要に応じて、セパレータ、編組等を施してもよい。
【0054】
〔ケーブル〕
本発明の実施形態に係るケーブルは、本発明の実施形態に係る上記耐放射線性ハロゲンフリー樹脂組成物を被覆材料(絶縁体及び/又はシース)として使用したことを特徴とする。
【0055】
図2は、本発明の実施形態に係るケーブルの横断面図である。
図2に示すように、本実施の形態に係るケーブル100は、導体1に絶縁体2を被覆した電線3本を紙等の介在4と共に撚り合わせた三芯撚り線と、三芯撚り線の外周に施された押さえ巻テープ5と、その外周に押出被覆されたシース3とを備える。電線は単芯でもよく、三芯以外の多芯撚り線であってもよい。
【0056】
絶縁体2及びシース3は、本発明の実施の形態に係る上記の耐放射線性ハロゲンフリー樹脂組成物から構成されている。絶縁体2、シース3のどちらかだけが上記の耐放射線性ハロゲンフリー樹脂組成物から構成されていてもよいが、両方であることが好ましい。
【0057】
本実施の形態においては、シースを、単層で構成してもよく、また、多層構造とすることもできる。さらに、必要に応じて、セパレータ、編組等を施してもよい。
【0058】
〔本発明の実施の形態の効果〕
以上の通り、本発明の実施の形態によれば、LOCA発生時における熱水又は過熱蒸気に晒されても電気絶縁性を保持できる高度な耐放射線性を有するハロゲンフリー樹脂組成物を得ることが出来る。本発明の実施の形態に係る耐放射線性ハロゲンフリー樹脂組成物は、燃焼時に有害なガスを発生させず、放射線環境下で使用されても機械特性の低下が少ないものである。また、当該樹脂組成物を絶縁体及び/又はシースに使用することにより、垂直トレイ燃焼試験に合格する高い難燃性を有し、燃焼時に有害なガスを発生せず、高い耐放射線性を有し、LOCA発生時にも規定された電気絶縁性を一定時間、保持できる電線・ケーブルを得ることができる。
【実施例】
【0059】
以下に、本発明を実施例に基づいて更に詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0060】
図1の構造の電線10を下記の通りの方法で作製した。
【0061】
表1の実施例1〜10及び表2の比較例1〜11に示した配合割合で各種成分を配合し、有機過酸化物以外の配合剤を25L加圧ニーダによって開始温度40℃、終了温度180℃で混練後、混練物をペレットにした。その後、ブレンダーで有機過酸化物を混練物に含浸させて、絶縁体として使用する樹脂組成物を得た。
【0062】
得られた樹脂組成物を導体断面積3.5SQの銅導体上に厚さ0.8mm、設定温度130℃で押出後、約200℃の飽和蒸気で架橋し、
図1に示す電線とした。
【0063】
作製した電線の評価は、以下に示す方法により判定した。評価結果を表1及び表2に示す。
【0064】
(1)初期引張試験(機械特性試験)
作製した電線について、IEC60811−1に準拠して引張試験を実施した。引張強さ(Tb)は、9MPa未満のものを不合格とし、9MPa以上を合格とした。破断伸び(Eb)は、200%未満のものを不合格とし、200%以上のものを合格とした。
【0065】
(2)燃焼試験
作製した電線について、IEEE Std.383(2003)に準拠した垂直トレイ燃焼試験を行い、炭化長が150cm以下のものを合格とした。
【0066】
(3)耐放射線性試験
作製した電線にアレニウス則に従い60年分の促進熱劣化を与えた後、γ線を照射し、
図3に示すプロファイルで蒸気曝露させた。
図3は、耐放射線性試験(高圧蒸気曝露試験)における条件(温度と圧力の時間変化)を示す図である。蒸気曝露期間中は、交流600Vで課電を行い短絡してはならない。その後、電線自己径の40倍に相当するマンドレルに巻き付け、交流3200V/mm、5分間の浸水耐電圧試験を実施し、破壊しないものを合格とした。γ線照射線量率は室温5kGy/hで2MGyの照射を行った。
【0067】
(4)総合判定
上記(1)〜(3)のすべての試験で合格のものを合格とし、1つでも不合格があったものを不合格とした。
【0068】
【表1】
【0069】
【表2】
【0070】
表1に示されるように、実施例1〜10の耐放射線性ハロゲンフリー樹脂組成物を絶縁体に使用した電線は全ての特性を満足し、機械特性、難燃性、耐放射線性に優れていることが分かる。
【0071】
一方、比較例1、2は、
エチレン−プロピレン−ジエン共重合体及びエチレン−αオレフィン共重合体、又はエチレン−酢酸ビニル共重合体及びエチレン−αオレフィン共重合体のいずれの組み合わせも使用しておらず
、初期の破断伸びが小さく不合格であった。また、耐放射線性が不十分であった。
【0072】
比較例3は、極性官能基で変性されたエチレン系ポリマが添加されていないため、劣化後の破断伸びは十分であるが冷却材喪失事故を想定した蒸気曝露試験後の耐電圧試験に合格することができなかった。
【0073】
比較例4は、芳香族系プロセスオイルの添加量が少なく、耐放射線性が不十分であった。逆に比較例5は、芳香族系プロセスオイルの添加量が多く、初期の引張強さが十分ではない。
【0074】
比較例6、8はそれぞれ、メラミン・シアヌレート化合物、金属水和物の添加量が不十分で、垂直トレイ燃焼試験に合格できなかった。また、比較例6に関しては、芳香族系プロセスオイルの量、及び芳香族アミン系酸化防止剤の量ともに十分であるが、耐放射線性に劣る結果となった。
【0075】
比較例7は、メラミン・シアヌレート化合物の添加量が多く、初期の破断伸びが不十分であった。
【0076】
比較例9は、金属水和物の添加量が多く、初期の破断伸びが不十分であり、また劣化後の耐電圧試験も不合格となった。
【0077】
比較例10は、芳香族アミン系酸化防止剤の添加量が少なく、耐放射線性が不十分であり、逆に比較例11は、芳香族アミン系酸化防止剤の添加量が多すぎるため、架橋阻害を起こし、初期の引張強さが不十分となる結果であった。