(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
フェライト焼結磁石は、各種モータ、発電機、スピーカ等、種々の用途に使用されている。代表的なフェライト焼結磁石として、六方晶のM型マグネトプランバイト構造を有するSrフェライト(SrFe
12O
19)及びBaフェライト(BaFe
12O
19)が知られている。これらのフェライト焼結磁石は、酸化鉄とストロンチウム(Sr)又はバリウム(Ba)の炭酸塩等とを原料とし、粉末冶金法によって比較的安価に製造される。
【0003】
近年、環境に対する配慮などから、自動車用電装部品、電気機器用部品等において、部品の小型・軽量化及び高効率化を目的として、フェライト焼結磁石の高性能化が要望されている。特に、自動車用電装部品に用いられるモータには、高い残留磁束密度B
r(以下、単に「B
r」という)を保持しながら、薄型化した際の強い反磁界によっても減磁しない、高い保磁力H
cJ(以下、単に「H
cJ」という)と高い角型比H
k/H
cJ(以下、単に「H
k/H
cJ」という)を有するフェライト焼結磁石が要望されている。
【0004】
フェライト焼結磁石の磁石特性の向上を図るため、上記のSrフェライトにおけるSrの一部をLa等の希土類元素で置換し、Feの一部をCoで置換することにより、H
cJ及びB
rを向上させる方法が特開平10-149910号や特開平11-154604号によって提案されている。
【0005】
特開平10-149910号及び特開平11-154604号に記載の、Srの一部をLa等の希土類元素で置換し、Feの一部をCo等で置換したSrフェライト(以下、「SrLaCoフェライト」という)は、磁石特性に優れることから、従来のSrフェライトやBaフェライトに代わり、各種用途に多用されつつあるものの、さらなる磁石特性の向上も望まれている。
【0006】
一方、フェライト焼結磁石として、上記SrフェライトやBaフェライトとともに、Caフェライトも知られている。Caフェライトは、CaO-Fe
2O
3又はCaO-2Fe
2O
3の組成式で表される構造が安定であり、Laを添加することによって六方晶フェライトを形成することが知られている。しかし、得られる磁石特性は、従来のBaフェライトの磁石特性と同程度であり、高くはなかった。
【0007】
特許第3181559号は、CaフェライトのB
r及びH
cJの向上、並びにH
cJの温度特性の改善を図るため、Caの一部をLa等の希土類元素で置換し、Feの一部をCo等で置換した、20 kOe以上の異方性磁界H
Aを有するCaフェライト(以下、「CaLaCoフェライト」という)を開示しており、この異方性磁界H
AはSrフェライトに比べて10%以上高い値であると記載している。
【0008】
しかしながら、CaLaCoフェライトは、高い異方性磁界H
Aを有するものの、B
r及びH
cJはSrLaCoフェライトと同程度であり、一方でH
k/H
cJが非常に悪く、高いH
cJと高いH
k/H
cJとを満足することができず、モータ等の各種用途に応用されるまでには至っていない。
【0009】
CaLaCoフェライトの磁石特性を改良すべく、種々の提案がなされている。例えば、特開2006-104050号は、各構成元素の原子比率及びモル比nの値を最適化し、かつLa及びCoを特定の比率で含有させたCaLaCoフェライトを提案しており、国際公開第2007/060757号は、Caの一部をLaとBaで置換したCaLaCoフェライトを提案しており、国際公開第2007/077811号は、Caの一部をLa及びSrで置換したCaLaCoフェライトを提案している。
【0010】
特開2011-213575号は、式:Ca
1-w-x-yR
wSr
xBa
yFe
zM
mで表される組成系において、w、x、y、z及びmが特定の範囲を満たすとともに副成分としてSiを含み、SiO
2換算でのSiの含有量y1(質量%)をY軸に、zとmとの合計量x1(質量%)をX軸に表わしたときに、x1及びy1が、X-Y座標における4つの点a(8.9,1.2)、b(8.3,0.95)、c(10.0,0.35)及びd(10.6,0.6)で囲まれる範囲内にあるフェライト磁石を開示しており、この磁石は高いB
r及びH
cJが維持されるとともに、高いH
k/H
cJ(特開2011-213575号におけるH
kは、J(磁化の大きさ)-H(磁界の強さ)曲線の第2象限において、Jが0.9B
rの値になる位置のHの値)を有すると記載している。
【0011】
国際公開第2008/105449号は、国際公開第2007/060757号及び国際公開第2007/077811号よりもSr及び/又はBaが多い組成領域において、第一の微粉砕工程と、前記第一の微粉砕工程によって得られた粉末に熱処理を施す工程と、前記熱処理が施された粉末を再度粉砕する第二の微粉砕工程とからなる粉砕工程(以下「熱処理再粉砕工程」という)を行うことによって、結晶粒子の粒径を小さくするとともに磁石の密度を高め、さらに、結晶粒子の形状を制御することによって磁石特性を向上させることを提案している。
【0012】
特開2006-104050号、国際公開第2007/060757号、国際公開第2007/077811号、特開2011-213575号及び国際公開第2008/105449号に記載のCaLaCoフェライトは、特許第3181559号で提案されたCaLaCoフェライトに対して優れた磁石特性を有し、近年要望されている、高いB
rを保持しながら、薄型化した際の強い反磁界によっても減磁しない、高いH
cJと高いH
k/H
cJを有するものである。しかしながら、いずれもCo含有量が原子比率で0.25〜0.3程度必要であり、現在市場に提供されているSrLaCoフェライト焼結磁石のCo含有量(原子比率で0.2程度)に比べ多くのCoを使用している。Coの価格はフェライト磁石の主成分である酸化鉄の十倍から数十倍に相当するため、Coを多量に使用したことによる原料コストの増大により、これらのフェライト焼結磁石は価格の上昇が避けられないという問題がある。特に、国際公開第2008/105449号は、熱処理再粉砕工程を行うため、製造工程の増加に伴うコストアップも避けられず、原料費と工程費との二重のコストアップとなる。
【0013】
フェライト焼結磁石の最大の特徴は安価であるという点にある。従って、例え優れた磁石特性を有するフェライト焼結磁石であっても、価格が高いと市場では受け入れられ難い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、優れた磁石特性を有するフェライト焼結磁石を安価に提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するにあたり、発明者らは、焼結助剤に着目した。周知の通り、一般的なフェライト焼結磁石の焼結プロセスは液相焼結に分類され、通常、液相焼結を促進させることなどを目的として、焼結(焼成)前(粉砕工程など)に焼結助剤を添加する。焼結助剤としてはCaCO
3やSiO
2がよく知られている。CaCO
3やSiO
2などの焼結助剤は、焼結(焼成)時に液相成分の一部となり、焼結後の焼結体(焼結磁石)においては粒界相の一成分として存在する。
【0016】
フェライト焼結磁石において粒界相の存在は不可欠である。しかしながら、粒界相は非磁性であるため、粒界相が多量に存在すると(焼結助剤の添加量が多いと)、主相(六方晶のM型マグネトプランバイト構造を有するフェライト相)の含有比率が低下し、磁石特性の低下を招く。一方、粒界相の存在量が少なくなり過ぎると(焼結助剤の添加量が少なくなり過ぎると)、焼結時に液相の量が少なくなり、焼結できなくなる。従って、磁石特性を向上させるには、焼結助剤の添加量を液相焼結に必要な最小限の量とし、焼結後の焼結体における粒界相の含有比率を小さくして、主相の含有比率を増加させることが必要である。
【0017】
発明者らは、CaLaCoフェライトにおいて、液相焼結に必要な最小限の焼結助剤の添加量について鋭意研究した。その結果、従来は、CaCO
3及びSiO
2の両方を添加するのが一般的であったが、CaLaCoフェライトでは、SiO
2のみの添加で、かつ従来最適と考えられていた添加量よりも少ない0.2質量%以上0.35質量%以下、好ましくは0.2質量%以上0.3質量%以下で従来のCaLaCoフェライトと同等の優れた磁石特性が得られることを知見した。また、SiO
2のみの添加で、かつ前記のように少ない添加量とした場合、微粉砕粉の平均粒径(平均粒度)を従来のCaLaCoフェライトよりも大きくしても磁石特性が低下しないことを知見した。SiO
2のみの添加で、かつ少ない添加量で優れた磁石特性が得られるのは、CaLaCoフェライトには、主相成分としてCaが含まれており、そのCaが焼結時に液相成分の一部となるためであると考えられる。また、微粉砕粉の平均粒径を大きくしても磁石特性が低下しないのは、液相焼結時の液相の量が最適化されたためであると考えられる。さらに、これらは、特許第3181559号、特開2006-104050号、国際公開第2007/060757号、国際公開第2007/077811号、特開2011-213575号及び国際公開第2008/105449号に示すようなCaLaCoフェライト全てにおいてではなく、主相成分にSrやBaを含有しない、Ca、La、Fe及びCoからなる場合に顕著であることを知見した。
【0018】
焼結助剤については、例えば、特開2006-104050号には、仮焼体の粉砕時に、CaCO
3をCaO換算で0.3〜1.5質量%、SiO
2を0.2〜1.0質量%添加するのが好ましいと記載され、実施例ではCaCO
3がCaO換算で0.6質量%、SiO
2が0.45質量%添加されている。国際公開第2007/060757号には、仮焼体の粉砕時に、CaCO
3を0.2〜1.5質量%(CaO換算で0.112〜0.84質量%)、SiO
2を0.1〜1.5質量%添加するのが好ましいと記載され、実施例では、CaCO
3が0.5質量%、SiO
2が0.4質量%添加されている。国際公開第2007/077811号には、粉砕工程において仮焼体に対してCaCO
3を1.8質量%以下、SiO
2を1.0質量%以下添加するのが好ましいと記載され、実施例ではCaCO
3がCaO換算で0.6質量%、SiO
2が0.45質量%添加されている。このように、いずれも添加量として広い範囲が記載されているものの、実施例に記載される最適な添加量は、CaCO
3で0.5質量%程度、SiO
2で0.4質量%程度であり、いずれもCaCO
3及びSiO
2の両方が添加されている。
【0019】
また、特開2011-213575号には、「Si成分の含有量は、全てのSi成分の合計で、好ましくはSiO
2に換算して0.35〜1.2質量%、より好ましくは0.4〜1.1質量%である。」と記載されているが、「副成分としてSiO
2を含むほか、他の副成分を更に含んでいてもよい。例えば、まず、副成分としてCa成分を含んでいても良い。」との記載があり、CaCO
3の添加を排除してはいない。
【0020】
フェライト焼結磁石は、結晶粒径を小さくする、すなわち、粉砕工程において仮焼体粉末(微粉砕粉末)の粒径(粒度)を小さくすると、磁石特性が向上することが知られている。例えば、国際公開第2008/105449号に記載の熱処理再粉砕工程などによって、結晶粒子の粒径を小さくすることができるが、前記の通り、製造工程の増加に伴うコストアップが避けられない。また、結晶粒径を小さくすると、各結晶粒の比表面積が大きくなり、液相焼結を促進させるには、焼結助剤の添加量を増加させる必要がある。
【0021】
一方、結晶粒径を大きくする、すなわち、粉砕工程において仮焼体粉末(微粉砕粉末)の粒径(粒度)を大きくすると、磁石特性は低下するものの、粉砕時間を短縮することができるとともに、プレス成形時における脱水時間、すなわちプレスサイクルを短縮することができるため、工程費を削減することができる。また、プレスサイクルの短縮によりプレス成形時の金型寿命を延ばすことができるため、製造コストの削減を図ることができる。さらに、各結晶粒の比表面積が相対的に小さくなるため、焼結助剤の添加量を少なくすることができる。
【0022】
前述したように、焼結助剤の添加量を従来に比べ大幅に少なくできたことで、焼結体における粒界相の含有比率が減少し、主相の含有比率が増加し、その結果、優れた磁石特性が得られる。また、微粉砕粉の平均粒径を従来のCaLaCoフェライトよりも大きくしても磁石特性が低下しない。従って、従来のCaLaCoフェライトよりも微粉砕粉の平均粒径を大きくしても、従来のCaLaCoフェライトと同等の磁石特性を得ることができる。
【0023】
すなわち、従来のCaLaCoフェライトよりも焼結助剤の添加量が少なくなるので、原料コストを低減できる。また、微粉砕粉の平均粒径を大きくしても磁石特性が低下しない。従って、微粉砕粉の平均粒径を大きくした場合は、従来のCaLaCoフェライトと同等の優れた磁石特性を有しつつ、粉砕時間の短縮及びプレス成形時における脱水時間の短縮によるプレスサイクルの短縮により工程費を削減することができ、またプレスサイクルの短縮によりプレス成形時の金型寿命を延ばすことができるため、製造コストの削減を図ることができる。従って、優れた磁石特性を有するフェライト焼結磁石を安価にして提供することができる。
【0024】
すなわち、本発明のフェライト焼結磁石は、Ca、La、Fe及びCoの金属元素の原子比率を示す一般式:Ca
1-xLa
xFe
2n-yCo
yにおいて、x及びy、並びにモル比を表わすnが、
0.3≦x≦0.6、
0.25≦y≦0.5、及び
3≦n≦6
を満足するCa、La、Fe及びCoと、0.2質量%以上0.35質量%以下のSiO
2とを含有することを特徴とする。
【0025】
前記SiO
2の含有量は0.2質量%以上0.3質量%以下であるのが好ましい。
【0026】
本発明のフェライト焼結磁石の製造方法は、Ca、La、Fe及びCoの金属元素の原子比率を示す一般式:Ca
1-xLa
xFe
2n-yCo
yにおいて、x及びy、並びにモル比を表わすnが、
0.3≦x≦0.6、
0.25≦y≦0.5、及び
3≦n≦6
を満足するように原料粉末を混合し、混合原料粉末を得る原料粉末混合工程、
前記原料粉末を仮焼し、仮焼体を得る仮焼工程、
前記仮焼体を粉砕し、仮焼体粉末を得る粉砕工程、
前記仮焼体粉末を成形し、成形体を得る成形工程、及び
前記成形体を焼成し、焼結体を得る焼成工程を含み、
前記仮焼体又は仮焼体粉末に、仮焼体又は仮焼体粉末100質量%に対して0.2質量%以上0.35質量%以下のSiO
2を添加することを特徴とする。
【0027】
本発明のフェライト焼結磁石の他の製造方法は、Ca、La、Fe及びCoの金属元素の原子比率を示す一般式:Ca
1-xLa
xFe
2n-yCo
yにおいて、
x及びy、並びにモル比を表わすnが、
0.3≦x≦0.6、
0≦y<0.5、及び
3≦n≦6
を満足するように原料粉末を混合し、混合原料粉末を得る原料粉末混合工程、
前記原料粉末を仮焼し、仮焼体を得る仮焼工程、
前記仮焼体を粉砕し、仮焼体粉末を得る粉砕工程、
前記仮焼体粉末を成形し、成形体を得る成形工程、及び
前記成形体を焼成し、焼結体を得る焼成工程を含み、
前記仮焼体又は仮焼体粉末に、前記yが合計で0.25≦y≦0.5となるように、Coの原料粉末を添加すること、及び
前記仮焼体又は仮焼体粉末に、仮焼体又は仮焼体粉末100質量%に対して0.2質量%以上0.35質量%以下のSiO
2を添加することを特徴とする。
【0028】
前記SiO
2の添加量は0.2質量%以上0.3質量%以下であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、優れた磁石特性を有するフェライト焼結磁石を安価にして提供することができる。すなわち、焼結助剤の添加量が少なくなるので、原料コストを低減でき、微粉砕粉の平均粒径を大きくしても磁石特性が劣化しない。微粉砕粉の平均粒径を大きくした場合は、粉砕時間の短縮及びプレス成形時におけるプレスサイクルの短縮による工程費の削減、並びにプレスサイクルの短縮によるプレス成形時の金型寿命の延長ができ、製造コストの削減を図ることができる。
【0030】
本発明によるフェライト焼結磁石を使用することにより、小型・軽量化、高能率化された各種モータ、発電機、スピーカ等の自動車用電装部品、電気機器用部品等を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0032】
[1]フェライト焼結磁石
本発明のフェライト焼結磁石は、Ca、La、Fe及びCoの金属元素の原子比率を示す一般式:Ca
1-xLa
xFe
2n-yCo
yにおいて、x及びy、並びにモル比を表わすnが、
0.3≦x≦0.6、
0.25≦y≦0.5、及び
3≦n≦6
を満足するCa、La、Fe及びCoと、0.2質量%以上0.35質量%以下のSiO
2とを含有することを特徴とする。
【0033】
本発明のフェライト焼結磁石を構成する主相は、六方晶のM型マグネトプランバイト構造を有するフェライト相である。一般に、磁性材料、特に焼結磁石は、複数の化合物から構成されており、その磁性材料の特性(物性、磁石特性など)を決定づけている化合物が「主相」と定義される。本発明における主相、すなわち、六方晶のM型マグネトプランバイト構造を有するフェライト相も、本発明のフェライト焼結磁石の物性、磁石特性などの基本部分を決定づけている。
【0034】
「六方晶のM型マグネトプランバイト構造を有する」とは、フェライト仮焼体のX線回折を一般的な条件で測定した場合に、六方晶のM型マグネトプランバイト構造のX線回折パターンが主として観察されることを言う。
【0035】
本発明のフェライト焼結磁石には、前記主相と粒界相とを有している。粒界相は、X線回折パターンで観察することが困難であるため、透過電子顕微鏡等で確認するのが好ましい。なお、粒界相とは、当業者において「2粒子粒界相」などと言われ、フェライト焼結磁石の任意の断面を観察した場合に、主相と主相の粒界に存在する線状に見える粒界相、及び当業者において「3重点粒界相」などと言われ、フェライト焼結磁石の任意の断面を観察した場合、三つ以上の主相の間に存在するほぼ三角形、ほぼ多角形又は不定形などに見える粒界相の両方を言う。
【0036】
本発明のフェライト焼結磁石は、前記主相、粒界相の他、主相よりもLaの原子比率が高い第3相が存在する場合がある。第3相とは、前記主相を第1相、前記粒界相を第2相とした場合における「3つ目の相」という意味であって、構成比率や析出順序などを定義したものではない。第3相は本発明においては必須構成相ではなく、第3相の有無により本発明の構成及び効果が損なわれるものではない。また、本発明のフェライト焼結磁石には、X線回折等により極少量(5質量%以下程度)観察される異相(スピネル相等)や不純物相の存在は許容される。X線回折からの異相の定量にはリートベルト解析のような手法を用いることができる。
【0037】
前記一般式におけるx及びy、並びにモル比を表わすnの限定理由を以下に説明する。
【0038】
Laの含有量(x)は、0.3≦x≦0.6である。Laが0.3未満又は0.6を超えるとB
r及びH
k/H
cJが低下するため好ましくない。Laは、Laを除く希土類元素の少なくとも一種でその一部を置換することができる。置換量はモル比でLaの50%以下であるのが好ましい。
【0039】
Coの含有量(y)は、0.25≦y≦0.5である。Coが0.25未満ではCoの添加による磁石特性の向上効果が得られない。Coが0.5を超えるとCoを多く含む異相が生成して磁石特性が大きく低下するため好ましくない。より好ましい範囲は0.25≦y≦0.4である。
【0040】
nは(Fe+Co)と(Ca+La)とのモル比を反映する値で、2n=(Fe+Co)/(Ca+La)で表される。モル比nは3≦n≦6である。nが3未満又は6を超えると磁石特性が低下するため好ましくない。
【0041】
LaとCoとのモル比x/yの値は、1≦x/y≦3であるのが好ましい。より好ましい範囲は1.2≦x/y≦2である。これらの値を満たす組成を選択することにより、磁石特性をより向上させることができる。また、La含有量>Co含有量であるとき、すなわち、x>yであるとき、磁石特性の向上効果が大きい。
【0042】
前記の組成は、金属元素の原子比率で示したが、酸素(O)を含む組成は、
一般式:Ca
1-xLa
xFe
2n-yCo
yO
α(ただし、x、y及びα並びにモル比を表わすnは、
0.3≦x≦0.6、
0.25≦y≦0.5、及び
3≦n≦6
を満たし、LaとFeが3価でCoが2価であり、x=yでかつn=6の時の化学量論組成比を示した場合はα=19である。)で表される。
【0043】
前記酸素(O)を含めたフェライト焼結磁石の組成において、酸素のモル数は、Fe及びCoの価数、n値などによって異なってくる。また、還元性雰囲気で焼成した場合の酸素の空孔(ベイカンシー)、フェライト相におけるFeの価数の変化、Coの価数の変化等により金属元素に対する酸素の比率が変化する。従って、実際の酸素のモル数αは19からずれる場合がある。そのため、本発明においては、最も組成が特定し易い金属元素の原子比率で組成を表記している。
【0044】
SiO
2の含有量は、0.2質量%以上0.35質量%以下である。0.35質量%を超えると粒界相の含有比率が増加し、磁石特性が低下するため好ましくない。0.2質量%未満ではH
cJが低下するため好ましくない。より好ましい範囲は0.2質量%以上0.3質量%以下である。SiO
2は、後述するように、仮焼体又は仮焼体粉末に添加され、焼結(焼成)時に液相成分となり、焼結後の焼結体(焼結磁石)においては粒界相の一成分として存在する。なお、SiO
2の含有量は、焼結磁石の成分分析結果におけるCa、La、Fe及びCoの各組成(質量%)から、CaCO
3、La(OH)
3、Fe
2O
3及びCo
3O
4に換算し、それらの合計100質量%に対する含有比率(質量%)である。
【0045】
先述の通り、従来は、CaCO
3及びSiO
2の両方を添加するのが一般的であったが、CaLaCoフェライトに限っては、SiO
2のみの添加で、しかも0.2質量%以上0.35質量%以下という極めて少ない添加量で、優れた磁石特性が得られることを発明者らが初めて知見した。これは、CaLaCoフェライトにおいては、主相成分としてCaが含まれており、そのCaが焼結時に液相成分の一部となるためであると考えられる。ただし、SiO
2のみの添加で、しかも0.2質量%以上0.35質量%以下という極めて少ない添加量で、優れた磁石特性が得られるのは、特許第3181559号、特開2006-104050号、国際公開第2007/060757号、国際公開第2007/077811号、特開2011-213575号及び国際公開第2008/105449号に示すようなCaLaCoフェライト全てにおいてではなく、SrやBaを含有しない組成、すなわち、Ca、La、Fe及びCoからなる場合に顕著なことである。
【0046】
六方晶のM型マグネトプランバイト構造を有するフェライト相の安定性は、Baフェライト>Srフェライト>SrLaCoフェライト>CaLaCoフェライト、であることが分かっている。CaLaCoフェライトにおいて、主相成分のCaが液相成分の一部となる、すなわち、主相から液相へCaが移動していると考えられるのは、CaLaCoフェライトのフェライト相が、Baフェライト、Srフェライト及びSrLaCoフェライトに比べ不安定であることも一つの要因である。従って、CaLaCoフェライトにBaやSrが含有されていると、フェライト相はより安定になり、主相から液相へCaが移動し難くなるものと考えられる。すなわち、国際公開第2007/060757号、国際公開第2007/077811号、特開2011-213575号及び国際公開第2008/105449号のように、BaやSrを含有するCaLaCoフェライトにおいては、SiO
2の添加のみでは液相焼結が困難となる場合がある。そのため、これまでは、CaCO
3とSiO
2の両方が添加されるのが一般的であった。
【0047】
前述の通り、本発明によれば、焼結助剤の添加量を従来に比べ大幅に少なくできたことで、焼結体における粒界相の含有比率が減少し、主相の含有比率が増加し、その結果、優れた磁石特性が得られる。また、微粉砕粉の平均粒径を従来のCaLaCoフェライトよりも大きくしても磁石特性が低下しない。従って、本発明によれば、焼結助剤の添加量が少なくなるので、原料コストを低減できる。また、従来のCaLaCoフェライトよりも微粉砕粉の平均粒径を大きくしても、従来のCaLaCoフェライトと同等の磁石特性を得ることができる。例えば、後述する実施例に示す通り、Ca
0.5La
0.5Fe
10.1Co
0.3からなる仮焼体に0.3質量%のSiO
2のみを焼結助剤として添加し、空気透過法での平均粒径(平均粒度)が0.8μmになるように粉砕した後、成形及び焼成した本発明に基づくフェライト焼結磁石は、同様の仮焼体に0.6質量%のSiO
2と0.7質量%のCaCO
3を添加し、空気透過法での平均粒径(平均粒度)が0.6μmになるように粉砕した後、成形及び焼成したフェライト焼結磁石と同等以上の磁石特性が得られる。つまり、平均粒径(平均粒度)が0.2μm大きくなっても同等の磁石特性が得られる。平均粒径(平均粒度)を0.2μm大きくすることで、粉砕時間の短縮、プレス成形時における脱水時間、すなわちプレスサイクルの短縮を図ることができるため、工程費を削減することができる。また、プレスサイクルの短縮によりプレス成形時の金型寿命を延ばすことができるため、製造コストの削減を図ることができる。
【0048】
[2]フェライト焼結磁石の製造方法
本発明のフェライト焼結磁石の製造方法は、Ca、La、Fe及びCoの金属元素の原子比率を示す一般式:Ca
1-xLa
xFe
2n-yCo
yにおいて、
x及びy、並びにモル比を表わすnが、
0.3≦x≦0.6、
0.25≦y≦0.5、及び
3≦n≦6
を満足するように原料粉末を混合し、混合原料粉末を得る原料粉末混合工程、
前記原料粉末を仮焼し、仮焼体を得る仮焼工程、
前記仮焼体を粉砕し、仮焼体粉末を得る粉砕工程、
前記仮焼体粉末を成形し、成形体を得る成形工程、及び
前記成形体を焼成し、焼結体を得る焼成工程を含み、
前記仮焼体又は仮焼体粉末に、仮焼体又は仮焼体粉末100質量%に対して0.2質量%以上0.35質量%以下のSiO
2を添加することを特徴とする。この方法は、仮焼工程前に、全ての原料粉末(SiO
2を除く)を全量添加する方法(以下「前添加法」という)である。
【0049】
また、本発明のフェライト焼結磁石の他の製造方法は、Ca、La、Fe及びCoの金属元素の原子比率を示す一般式:Ca
1-xLa
xFe
2n-yCo
yにおいて、
x及びy、並びにモル比を表わすnが、
0.3≦x≦0.6、
0≦y<0.5、及び
3≦n≦6
を満足するように原料粉末を混合し、混合原料粉末を得る原料粉末混合工程、
前記原料粉末を仮焼し、仮焼体を得る仮焼工程、
前記仮焼体を粉砕し、仮焼体粉末を得る粉砕工程、
前記仮焼体粉末を成形し、成形体を得る成形工程、及び
前記成形体を焼成し、焼結体を得る焼成工程を含み、
前記仮焼体又は仮焼体粉末に、前記yが合計で0.25≦y≦0.5となるように、Coの原料粉末を添加すること、及び
前記仮焼体又は仮焼体粉末に、仮焼体又は仮焼体粉末100質量%に対して0.2質量%以上0.35質量%以下のSiO
2を添加することを特徴とする。この方法は、仮焼工程前に、Coの原料粉末を除く全ての原料粉末(SiO
2を除く)を全量添加するか、又はCoの原料粉末の一部とCoを除く全ての原料粉末(SiO
2を除く)の全量を添加し、仮焼工程後、成形工程前において、前記仮焼体又は仮焼体粉末に、前記yが合計で0.25≦y≦0.5となるように、Coの原料の全部又は残りの一部を添加する方法(以下「後添加法」という)である。
【0050】
本発明において、前記前添加法及び前記後添加法のいずれによっても、前記フェライト焼結磁石を得ることができる。各工程について以下に説明する。
【0051】
(a)原料粉末混合工程
Ca、La、Fe及びCoの金属元素の原子比率を示す一般式:Ca
1-xLa
xFe
2n-yCo
yにおいて、
x及びy、並びにモル比を表わすnが、
0.3≦x≦0.6、
0.25≦y≦0.5(後添加法の場合は0≦y<0.5)、及び
3≦n≦6
で表される組成を満足するように原料粉末を準備する。なお、前記一般式におけるx及びy、並びにモル比を表わすnの限定理由は、前記フェライト焼結磁石と同じである。
【0052】
原料粉末は、価数にかかわらず、それぞれの金属の酸化物、炭酸塩、水酸化物、硝酸塩、塩化物等を使用することができる。原料粉末を溶解した溶液であってもよい。Caの化合物としては、Caの炭酸塩、酸化物、塩化物等が挙げられる。Laの化合物としては、La
2O
3等の酸化物、La(OH)
3等の水酸化物、La
2(CO
3)
3・8H
2O等の炭酸塩等が挙げられる
。鉄の化合物としては、酸化鉄、水酸化鉄、塩化鉄、ミルスケール等が挙げられる。Coの化合物としては、CoO、Co
3O
4等の酸化物、CoOOH、Co(OH)
2、Co
3O
4・m
1H
2O(m
1は正の数である)等の水酸化物、CoCO
3等の炭酸塩、及びm
2CoCO
3・m
3Co(OH)
2・m
4H
2O等の塩基性炭酸塩(m
2、m
3、m
4は正の数である)が挙げられる。
【0053】
前記の通り、Coの原料粉末(例えばCo
3O
4粉末)は、原料粉末混合工程で(仮焼工程前に)全量を添加してもよいし(前添加法)、Coの原料粉末の一部又は全部を、仮焼工程後、成形工程前に添加してもよい(後添加法)。
【0054】
仮焼時の反応促進のため、必要に応じてB
2O
3、H
3BO
3等のBを含む化合物を1質量%程度まで添加しても良い。特にH
3BO
3の添加は、H
cJ及びB
rのさらなる向上に有効である。H
3BO
3の添加量は、0.3質量%以下であるのが好ましく、0.2質量%程度が最も好ましい。H
3BO
3の添加量が0.1質量%よりも少ないとB
rの向上効果が小さく、0.3質量%よりも多いとB
rが低下する。またH
3BO
3は、焼結時に結晶粒の形状やサイズを制御する効果も有するため、仮焼後(微粉砕前や焼結前)に添加してもよく、仮焼前及び仮焼後の両方で添加してもよい。
【0055】
準備したそれぞれの原料粉末を混合し、混合原料粉末とする。原料粉末の配合、混合は、湿式及び乾式のいずれで行ってもよい。スチールボール等の媒体とともに撹拌すると原料粉末をより均一に混合することができる。湿式の場合は、溶媒に水を用いるのが好ましい。原料粉末の分散性を高める目的でポリカルボン酸アンモニウム、グルコン酸カルシウム等の公知の分散剤を用いてもよい。混合した原料スラリーはそのまま仮焼してもよいし、原料スラリーを脱水した後、仮焼してもよい。
【0056】
(b)仮焼工程
乾式混合又は湿式混合することによって得られた混合原料粉末は、電気炉、ガス炉等を用いて加熱することで、固相反応により、六方晶のM型マグネトプランバイト構造のフェライト化合物を形成する。このプロセスを「仮焼」と呼び、得られた化合物を「仮焼体」と呼ぶ。
【0057】
仮焼工程は、酸素濃度が5%以上の雰囲気中で行うのが好ましい。酸素濃度が5%未満であると、異常粒成長、異相の生成等を招く。より好ましい酸素濃度は20%以上である。
【0058】
仮焼工程では、温度の上昇とともにフェライト相が形成される固相反応が進行する。仮焼温度が1100℃未満では、未反応のヘマタイト(酸化鉄)が残存するため磁石特性が低くなる。一方、仮焼温度が1450℃を超えると結晶粒が成長し過ぎるため、粉砕工程において粉砕に多大な時間を要することがある。従って、仮焼温度は1100〜1450℃であるのが好ましく、1200〜1350℃であるのがより好ましい。仮焼時間は0.5〜5時間であるのが好ましい。仮焼前にH
3BO
3を添加した場合は、フェライト化反応が促進されるため、1100℃〜1300℃で仮焼を行うことができる。
【0059】
(c)SiO
2の添加
焼結助剤としてSiO
2を添加する。SiO
2は、前記仮焼工程後、成形工程前において、仮焼体又は仮焼体粉末に、仮焼体又は仮焼体粉末100質量%に対して0.2質量%以上0.35質量%以下添加する。SiO
2の添加量が0.35質量%を超えると、粒界相の含有比率が増加し、B
r及びH
cJが低下するため好ましくない。SiO
2の添加量が0.2質量%未満ではH
cJが低下するため好ましくない。より好ましい範囲は0.2質量%以上0.3質量%以下である。SiO
2の添加は、例えば、仮焼工程によって得られた仮焼体にSiO
2を添加した後粉砕工程を実施する、粉砕工程の途中でSiO
2を添加する、又は粉砕工程後の仮焼体にSiO
2を添加、混合した後成形工程を実施する、などの方法を採用することができる。
【0060】
上述したSiO
2の他に、仮焼工程後、成形工程前において、磁石特性向上のためにCr
2O
3、Al
2O
3等を添加することもできる。これらの添加量は、それぞれ5質量%以下であるのが好ましい。
【0061】
(d)粉砕工程
仮焼体は、振動ミル、ボールミル、アトライター等によって粉砕し、仮焼体粉末とする。仮焼体粉末の平均粒径(平均粒度)は0.4〜1.0μm程度(空気透過法)にするのが好ましい。前記の通り、本発明によれば、従来のCaLaCoフェライトの焼結磁石を製造する際よりも仮焼体粉末(微粉砕粉)の平均粒径(平均粒度)を大きくしても同等の磁石特性が得られる。従って、平均粒径(平均粒度)は比較的大きくても(例えば0.8〜1.0μm)構わない。粉砕工程は、乾式粉砕及び湿式粉砕のいずれでもよいが、双方を組み合わせて行うのが好ましい。
【0062】
湿式粉砕は、分散媒として水及び/又は非水系溶剤(アセトン、エタノール、キシレン等の有機溶剤)を用いて行う。湿式粉砕により、分散媒と仮焼体粉末とが混合されたスラリーが生成される。スラリーには公知の分散剤及び/又は界面活性剤を固形分比率で0.2〜2質量%を添加するのが好ましい。湿式粉砕後は、スラリーを濃縮及び混練するのが好ましい。
【0063】
国際公開第2008/105449号においては、粉砕工程として、第一の微粉砕工程と、前記第一の微粉砕工程によって得られた粉末に熱処理を施す工程と、前記熱処理が施された粉末を再度粉砕する第二の微粉砕工程とからなる熱処理再粉砕工程を行うことによって、結晶粒子の粒径を小さくするとともに磁石の密度を高め、さらに、結晶粒子の形状を制御することによって磁石特性を向上させている。しかし、本発明においては、前記方法によってフェライト焼結磁石を製造することにより、熱処理再粉砕工程を行わなくとも優れた磁石特性を有するフェライト焼結磁石を提供することができる。
【0064】
(e)成形工程
粉砕工程後のスラリーは、分散媒を除去しながら磁界中又は無磁界中でプレス成形する。磁界中でプレス成形することにより、粉末粒子の結晶方位を整列(配向)させることができ、磁石特性を飛躍的に向上させることができる。さらに、配向を向上させるために、分散剤及び潤滑剤をそれぞれ0.01〜1質量%添加しても良い。また成形前にスラリーを必要に応じて濃縮してもよい。濃縮は遠心分離、フィルタープレス等により行うのが好ましい。
【0065】
(f)焼成工程
プレス成形により得られた成形体は、必要に応じて脱脂した後、焼成(焼結)する。焼成は、電気炉、ガス炉等を用いて行う。焼成は、酸素濃度が10%以上の雰囲気中で行うのが好ましい。酸素濃度が10%未満であると、異常粒成長、異相の生成等を招き、磁石特性が劣化する。酸素濃度は、より好ましくは20%以上であり、最も好ましくは100%である。焼成温度は、1150〜1250℃が好ましい。焼成時間は、0.5〜2時間が好ましい。焼成工程によって得られる焼結磁石の平均結晶粒径は約0.5〜2μmである。仮焼体粉末(微粉砕粉)の平均粒径(平均粒度)を大きくすると、焼結磁石の平均結晶粒径も若干大きくなる。
【0066】
焼成工程の後は、加工工程、洗浄工程、検査工程等の公知の製造プロセスを経て、最終的にフェライト焼結磁石を製造する。
【実施例】
【0067】
本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0068】
実施例1
組成式Ca
1-xLa
xFe
2n-yCo
yにおいて、x=0.5、y=0.3及びn=5.2になるようにCaCO
3粉末、La(OH)
3粉末、Fe
2O
3粉末及びCo
3O
4粉末を配合し、配合後の粉末の合計100質量%に対してH
3BO
3粉末を0.1質量%添加、混合し、混合原料粉末を準備した。前記混合原料粉末を湿式ボールミルで4時間混合し、乾燥して整粒した。次いで、大気中において1300℃で3時間仮焼し、得られた仮焼体をハンマーミルで粗粉砕して仮焼体粉末(粗粉砕粉)を得た。
【0069】
前記粗粉砕粉100質量%に対して、表1に示す添加量のSiO
2粉末とCaCO
3粉末を添加した。なお、本実施例及び比較例において、CaCO
3の添加量は全てCaO換算で表記する。CaO換算での添加量からCaCO
3の添加量は、式:
(CaCO
3の分子量×CaO換算での添加量)/CaOの分子量
によって求めることができる。
例えば、CaO換算で0.7質量%のCaCO
3を添加する場合、
(100.09[CaCO
3の分子量]×0.7質量%[CaO換算での添加量])/56.08[CaOの分子量]=1.249質量%[CaCO
3の添加量]、となる。
【0070】
次に、粗粉砕粉を水を分散媒とした湿式ボールミルで、空気透過法による平均粒径が表1に示す平均粒径になるまで微粉砕し、仮焼体粉末(微粉砕粉)の濃度が60%のスラリーを得た。平均粒径0.8μmに微粉砕するのに要した時間は20時間、平均粒径0.6μmに微粉砕するのに要した時間は35時間であった。
【0071】
成形は、加圧方向と磁界方向とが平行である平行磁界成形機(縦磁界成形機)にて、一回のプレスで3個の成形体を成形する、いわゆる3個取りで行った。具体的には、直径25 mm、充填深さ30 mmのキャビティ(3個)に約1.3 Tの磁界を印加し、前記キャビティにスラリーを充填し、スラリー充填完了後、下パンチを上方へ移動させて、分散媒を上パンチ側から除去しながら、最終的に50 MPaの圧力で成形し、直径25 mmの円柱状の成形体(軸方向が磁界方向)を3個得た。前記成形工程において、下パンチの移動開始から成形圧力が上昇するまでの時間を測定した。その結果、微粉砕粉の平均粒径が0.8μmの場合は40秒、微粉砕粉の平均粒径が0.6μmの場合は60秒であった。なお分散媒が除去されている間は成形圧力はほとんど上昇しないので、前記成形圧力が上昇するまでの時間とは、分散媒がほぼ除去されるまでの時間に相当する。
【0072】
成形工程において得られた3個の成形体を、焼成炉内に装入し、大気中で、1200℃で1時間焼成し、フェライト焼結磁石を得た。得られたフェライト焼結磁石のB
r、H
cJ及びH
k/H
cJの測定結果を表1に示す。B
r、H
cJ及びH
k/H
cJは3個のフェライト焼結磁石の平均値である。なお、H
k/H
cJにおいて、H
kは、J(磁化の大きさ)-H(磁界の強さ)曲線の第2象限において、Jが0.95B
rの値になる位置のHの値である。以下の実施例においても同様である。
【0073】
表1
【0074】
表1に示すように、SiO
2のみを添加した場合(試料No.1〜6)、0.2質量%以上0.35質量%以下(試料No.2〜5)で優れた磁石特性が得られている。また、SiO
2のみを0.3質量%添加し、微粉砕粉の平均粒径が0.6μmと0.8μmの試料No.3と試料No.4との比較から明らかなように、本発明によれば、微粉砕粉の平均粒径を大きくしても磁石特性が低下しない。
【0075】
本発明による試料No.3(SiO
2添加量:0.3質量%、及び微粉砕粉の平均粒径:0.6μm)は、比較例の試料No.7(SiO
2添加量:0.6質量%、CaCO
3添加量(CaO換算):0.7質量%、及び微粉砕粉の平均粒径:0.6μm)よりも焼結助剤の添加量が少ないにもかかわらず、同等の磁石特性が得られている。本発明の試料No.3は、焼結助剤の添加量が少ないので、試料No.7に比べ、原料コストを低減できる。
【0076】
さらに、本発明による試料No.4(SiO
2添加量:0.3質量%、及び微粉砕粉の平均粒径:0.8μm)は、比較例の試料No.7(SiO
2添加量:0.6質量%、CaCO
3添加量(CaO換算):0.7質量%、及び微粉砕粉の平均粒径:0.6μm)よりも平均粒径が0.2μm大きいにもかかわらず、同等以上の磁石特性が得られている。本発明による試料No.4は、平均粒径を0.2μm大きくできることで、粉砕時間の短縮、プレス成形時における脱水時間、すなわちプレスサイクルの短縮を図ることができ、工程費を削減することができる。また、プレスサイクルの短縮によりプレス成形時の金型寿命を延ばすことができるため製造コストの削減を図ることができる。
【0077】
前記本発明の試料No.4は、比較例の試料No.8(SiO
2添加量:0.6質量%、CaCO
3添加量(CaO換算):0.7質量%、及び微粉砕粉の平均粒径:0.8μm)と同じ平均粒径(0.8μm)を有しているが、試料No.4(本発明)の方がB
r、H
cJ及びH
k/H
cJの全てにおいて優れている。
【0078】
SiO
2を0.3質量%、CaCO
3をCaO換算で0.2〜0.3質量%添加した試料No.9〜12(比較例)と、前記試料No.4(本発明)を比較すると、B
rはほぼ同等であるが、試料No.9〜12(比較例)のH
cJは試料No.4(本発明)に比べて小さく、CaCO
3の添加量が増えるに従って低下している。このように、SiO
2の添加量を0.3質量%とした場合、CaCO
3が一緒に添加されているとH
cJが低下する。すなわち、前記試料No.4(本発明)のようにSiO
2のみを添加した場合にのみ、優れた磁石特性が得られることが分かる。
【0079】
実施例2
組成式Ca
1-xLa
xFe
2n-yCo
yにおいて、x=0.55とし、表2に示す添加量のSiO
2粉末とCaCO
3粉末を添加し、表2に示す平均粒径に微粉砕し、1210℃で焼成する以外は実施例1と同様にしてフェライト焼結磁石を得た。得られたフェライト焼結磁石のB
r、H
cJ及びH
k/H
cJの測定結果を表2に示す。
【0080】
表2
【0081】
本実施例は、フェライト焼結磁石の組成を変化させた例である。具体的には、x=0.55とした点が実施例1(x=0.5)とは異なる。表2に示すように、フェライト焼結磁石の組成を変化させても、実施例1とほぼ同じ結果が得られている。すなわち、SiO
2のみを添加した場合、0.2質量%以上0.35質量%以下で優れた磁石特性が得られている。0.1質量%ではH
cJは大きいが、H
k/H
cJが低下している。また、SiO
2のみを0.3質量%添加し、微粉砕粉の平均粒径が0.8μmである本発明による試料No.15は、SiO
2を0.6質量%、CaCO
3をCaO換算で0.7質量%添加し、微粉砕粉の平均粒径が0.6μmである比較例の試料No.18よりも平均粒径が0.2μm大きいにもかかわらず、試料No.18と同等な磁石特性が得られている。
【0082】
実施例3
組成式Ca
1-xLa
xFe
2n-yCo
yにおいて、y=0.25、n=5.0とし、表3に示す添加量のSiO
2粉末とCaCO
3粉末を添加し、表3に示す平均粒径に微粉砕し、1190℃で焼成する以外は実施例1と同様にしてフェライト焼結磁石を得た。得られたフェライト焼結磁石のB
r、H
cJ及びH
k/H
cJの測定結果を表3に示す。
【0083】
表3
【0084】
本実施例は、フェライト焼結磁石の組成を変化させた例である。具体的には、y=0.25、n=5.0とした点が実施例1(y=0.3、n=5.2)とは異なる。表3に示すように、フェライト焼結磁石の組成を変化させても、実施例1とほぼ同じ結果が得られている。すなわち、SiO
2のみを添加した場合、0.2質量%以上0.35質量%以下で優れた磁石特性が得られている。SiO
2のみを0.35質量%添加し、微粉砕粉の平均粒径が0.8μmである本発明による試料No.23は、SiO
2を0.6質量%、CaCO
3をCaO換算で0.7質量%添加し、微粉砕粉の平均粒径が0.6μmである比較例の試料No.25よりも平均粒径が0.2μm大きいにもかかわらず、試料No.25と同等以上の磁石特性が得られている。
【0085】
実施例4
実施例1で作製した、本発明の試料No.4のフェライト焼結磁石(SiO
2添加量:0.3質量%、及び微粉砕粉の平均粒径:0.8μ)と、比較例の試料No.7のフェライト焼結磁石(SiO
2添加量:0.6質量%、CaCO
3添加量(CaO換算):0.7質量%、及び微粉砕粉の平均粒径:0.6μm)について、FE-TEM(電界放射型透過電子顕微鏡)による組織観察と、EDS(エネルギー分散型X線分光法)による組成分析を行った。組織観察は、円柱状焼結磁石の軸方向に垂直な面(c面)で行い、任意の断面で2箇所の組織写真を撮影した。試料No.4(本発明)の組織観察の結果を
図1及び
図2に、試料No.7(比較例)の組織観察の結果を
図3及び
図4に示す。また、組成分析は、円柱状焼結磁石の軸方向に垂直な面(c面)に存在する任意の5つの粒界相(三つ以上の主相の間に存在する粒界相(3重点粒界相))と、任意の3つの主相について行った。試料No.4(本発明)の組成分析の結果を表4及び表5に、試料No.7(比較例)の組成分析の結果を表6及び表7に示す。表4及び表6が3重点粒界相の組成分析の結果、表5及び表7が主相の組成分析の結果である。表4及び表6における(3重点)粒界相1〜5、並びに表5及び表7における主相1〜3は成分分析を行った任意の箇所について便宜的に振った番号である。なお、含有量の単位は全て原子%である。
【0086】
表4
【0087】
表5
【0088】
表6
【0089】
表7
【0090】
図1〜4から明らかなように、試料No.4(本発明)、試料No.7(比較例)ともに、主相(1)と、主相と主相の粒界に存在する線状に見える粒界相(2粒子粒界相(2))と、三つ以上の主相の間に存在する粒界相(3重点粒界相(3))を有していることが分かる。
【0091】
表4から、試料No.4(本発明)の3重点粒界相には、多くのSiが含まれていることが分かる。このSiは、仮焼体又は仮焼体粉末に焼結助剤として添加したSiO
2を由来にするものである。3重点粒界相におけるCa、La及びFeは主相成分から移動したものと考えられる。ここで、特徴的なのは、3重点粒界相にP(リン)が含まれていることである。このPはFeの不純物であると考えられ、液相焼結時にCaなどと共に主相から液相へ移動し、3重点粒界相に濃縮したものであると考えられる。本実施例においては、成分分析した5つの3重点粒界相全てからPが検出されている。
【0092】
一方、表6に示すように、試料No.7(比較例)の3重点粒界相にもSiが含まれている。このSiは、仮焼体又は仮焼体粉末に焼結助剤として添加したSiO
2に由来とするものである。3重点粒界相におけるCaの大半は仮焼体又は仮焼体粉末に焼結助剤として添加したCaCO
3に由来とするものであり、一部は主相成分から移動したものと考えられる。3重点粒界相のLa及びFeは主相成分から移動したものと考えられる。また、前記試料No.4(本発明)の場合と異なり、試料No.7(比較例)の3重点粒界相には、Pが含まれている場合と含まれていない場合がある。
【0093】
また、表4及び表6から明らかなように、試料No.4(本発明)と試料No.7(比較例)の3重点粒界相の成分(Si、Ca、La、Fe)はほぼ同じである。すなわち、CaCO
3の添加有無にかかわらず、Si、Ca、La、Feの3重点粒界相における存在比率は、概ね30:60:2:5となっている。この結果より、試料No.4(本発明)においては、液相焼結時に、主相から液相へCaが移動していると考えられる。
【0094】
実施例5
実施例1で作製した、本発明の試料No.4のフェライト焼結磁石(SiO
2添加量:0.3質量%、及び微粉砕粉の平均粒径:0.8μ)と、比較例の試料No.7のフェライト焼結磁石(SiO
2添加量:0.6質量%、CaCO
3添加量(CaO換算):0.7質量%、及び微粉砕粉の平均粒径:0.6μm)について、FE-SEM(電界放射型走査電子顕微鏡)を用いて反射電子像(BSE像)により組織観察を行なった。組織観察は、円柱状焼結磁石の軸方向に垂直な面(c面)で行い、任意の断面で4視野(視野(a)〜(d))の組織写真を倍率2000倍で撮影した。各組織写真について2値化処理を行い、三つ以上の主相の間に存在する粒界相(3重点粒界相)を背景画像から切り離し、全ての3重点粒界相の合計面積を求め、組織写真全体に占める3重点粒界相の面積比率を求めた。4視野それぞれにおける3重点粒界相の面積比率と、4視野の面積比率の平均値を表8に示す。また、前記視野(a)の2値化処理後の画像例を
図5及び
図6に示す。
図5が試料No.4(本発明)、
図6が試料No.7(比較例)である。
図5及び
図6では画像処理によって3重点粒界相が白くなるように表示している。この画像を画像解析することによって、画像上の白い部分(3重点粒界相)の面積を求めた。
【0095】
表8
【0096】
図5及び
図6から明らかなように、
図5に示す本発明によるフェライト焼結磁石(試料No.4)は、
図6に示す比較例によるフェライト焼結磁石(試料No.7)に比べ、3重点粒界相が少ないことが一見して分かる。また、表8に示すように、比較例によるフェライト焼結磁石(試料No.7)の面積比率は平均で3.6%であるのに対して、本発明によるフェライト焼結磁石(試料No.4)における3重点粒界相の面積比率は平均で2.0%であり、本発明によるフェライト焼結磁石は、粒界相の面積比率が少ないことが分かる。粒界相の面積比率が少ないということは、フェライト焼結磁石全体として粒界相の含有比率が少ないこととなり、主相の含有比率が多いということになる。従って、前記実施例1の表1に示す通り、試料No.4(本発明)と試料No.7(比較例)とは、試料No.4(本発明)の平均粒径が試料No.7(比較例)よりも0.2μm大きいにもかかわらず、試料No.7(比較例)と同等以上の磁石特性を得ることができる。また、本発明によるフェライト焼結磁石は、微粉砕粉の平均粒径を大きくできることから、粉砕時間の短縮、プレス成形時における脱水時間、すなわちプレスサイクルの短縮を図ることができ、工程費を削減することができる。また、プレスサイクルの短縮によりプレス成形時の金型寿命を延ばすことができるため製造コストの削減を図ることができる。
【0097】
また、EBSDにて解析を行ったところ、
図5に示す本発明によるフェライト焼結磁石(試料No.4)の平均結晶粒径は3.39μm、
図6に示す比較例によるフェライト焼結磁石(試料No.7)の平均結晶粒径は2.53μであった。焼結磁石における個々の結晶を球状と仮定してそれぞれの焼結磁石の結晶の比表面積を計算すると、本発明によるフェライト焼結磁石(試料No.4)は0.174 m
2/g、比較例によるフェライト焼結磁石(試料No.7)は0.233 m
2/gとなり、本発明によるフェライト焼結磁石(試料No.4)、すなわちSiO
2のみを0.3質量%添加し、微粉砕粉の平均粒径が0.6μmとした方が非表面積は小さくなる。これらの結果より、本発明によるフェライト焼結磁石(試料No.4)は、比較例によるフェライト焼結磁石(試料No.7)に比べ、焼結助剤の添加量は少ないが、焼結磁石における結晶の比表面積が小さいため、液相焼結の際、液相がある程度均一に主相界面に介在することができると考えられる。すなわち、フェライト焼結磁石においては、粒界相が主相界面に均一に介在し、主相を磁気的に孤立させることにより、磁石特性を高めているのではないかと考えられる。前記の通り、本発明によるフェライト焼結磁石(試料No.4)は、比較例によるフェライト焼結磁石(試料No.7)よりも平均粒径が0.2μm大きいにもかかわらず、同等以上の磁石特性が得られるのは、このような理由によるものと考えられる。