特許第6153114号(P6153114)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6153114扁平上皮癌予防剤、及び扁平上皮癌モデル動物及びその作製方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6153114
(24)【登録日】2017年6月9日
(45)【発行日】2017年6月28日
(54)【発明の名称】扁平上皮癌予防剤、及び扁平上皮癌モデル動物及びその作製方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/74 20150101AFI20170619BHJP
   C12N 1/20 20060101ALI20170619BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20170619BHJP
   A23C 9/127 20060101ALI20170619BHJP
   A23L 33/10 20160101ALN20170619BHJP
   A23L 5/00 20160101ALN20170619BHJP
   A61K 35/20 20060101ALN20170619BHJP
【FI】
   A61K35/74 A
   C12N1/20 E
   A61P35/00
   A23C9/127
   !A23L33/10
   !A23L5/00 J
   !A61K35/20
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-551737(P2013-551737)
(86)(22)【出願日】2012年12月26日
(86)【国際出願番号】JP2012083643
(87)【国際公開番号】WO2013099939
(87)【国際公開日】20130704
【審査請求日】2015年12月24日
(31)【優先権主張番号】特願2011-284133(P2011-284133)
(32)【優先日】2011年12月26日
(33)【優先権主張国】JP
【微生物の受託番号】IPOD  FERM BP-6999
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006138
【氏名又は名称】株式会社明治
(73)【特許権者】
【識別番号】503420833
【氏名又は名称】学校法人常翔学園
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077562
【弁理士】
【氏名又は名称】高野 登志雄
(74)【代理人】
【識別番号】100096736
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】100117156
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100111028
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 博人
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 清和
(72)【発明者】
【氏名】内田 勝幸
(72)【発明者】
【氏名】松浦 哲郎
【審査官】 松原 寛子
(56)【参考文献】
【文献】 日本癌学会学術総会記事,2009年,p.129, P-0131
【文献】 Toxicol.Pathology,2009年,Vol.37,p.790-798
【文献】 Gerodontology,2001年,Vol.18, No.2,p.73-78
【文献】 応用薬理,2001年,Vol.61, No.2/3,p.203-213
【文献】 Int.Dairy J.,2005年,Vol.15,p.1184-1190
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/74
A23C 9/127
C12N 1/20
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳をL.bulgaricus、S.thermophilusおよびL.gasseriを用いて発酵させた発酵物を有効成分とするカンジダ感染に起因する扁平上皮癌予防剤。
【請求項2】
発酵物が、L.bulgaricusおよびS.thermophilusを乳に配合して発酵させた後に、L.gasseriを配合した発酵乳である請求項1に記載のカンジダ感染に起因する扁平上皮癌予防剤。
【請求項3】
L.gasseriがL.gasseri OLL2716株(FERM BP−6999)である、請求項1又は2に記載のカンジダ感染に起因する扁平上皮癌予防剤。
【請求項4】
扁平上皮が口腔および/または食道の扁平上皮である請求項1〜3のいずれか1項に記載のカンジダ感染に起因する扁平上皮癌予防剤。
【請求項5】
カンジダ感染に起因する扁平上皮癌予防剤を製造するための、乳をL.bulgaricus、S.thermophilusおよびL.gasseriを用いて発酵させた発酵物の使用。
【請求項6】
カンジダ感染に起因する扁平上皮癌予防のために使用する、乳をL.bulgaricus、S.thermophilusおよびL.gasseriを用いて発酵させた発酵物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カンジダ感染に起因する扁平上皮癌の予防剤、並びに扁平上皮癌モデル動物の作製方法、当該扁平上皮癌モデル動物及び当該モデル動物を利用したスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
口腔癌や食道癌は重層扁平上皮由来の癌であり、特に食道癌は難治性の癌であり死亡率が高い。一方、Candida albicans(C.albicans)は健康人の口腔内からも検出される常在菌であるが、臓器移植や大手術後の患者、肝硬変症や糖尿病の患者といったような、免疫機能が衰えた患者においては、しばしば重篤な口腔カンジダ症や食道カンジダ症を引き起こすことが知られている。また、寝たきりの高齢者が増加するに従い、低栄養状態に陥り免疫機能の低下と共に感染の機会が増加していることも問題となっている。このように、免疫機能が低下している患者や高齢者では、C.albicansに感染し易く、深在性真菌症、さらには悪性腫瘍へ進展し重篤な結果を招くため、重大な問題となっている。
よって、カンジダ症から扁平上皮癌への進行を抑制し、扁平上皮癌の発症を予防する医薬品や食品の提供が望まれている。
【0003】
一方、Lactobacillus gasseri(L.gasseri)を含む発酵乳には、ピロリ菌に対する除菌効果があり、これに基づく胃炎や胃潰瘍の予防効果を有することが知られている(特許文献2及び3)。しかしながら、カンジダ感染に対する効果については全く知られていない。
【0004】
また一般に、疾患に有効な医薬品や食品のスクリーニングには、疾患モデルを作成することが有効であり、扁平上皮癌のモデル動物については、Aldh2欠損哺乳類動物(ヒトを除く)の皮内又は皮下にエタノール及び/又はアセトアルデヒドを投与して作成される扁平上皮癌モデル動物が報告されている(特許文献1)。しかしながら、当該扁平上皮癌モデル動物は、アルコール代謝に関与しているALDH2遺伝子が不活性型のヒトに高頻度で発症する扁平上皮癌の発症メカニズムの解明や治療法の開発を目的としたものであり、カンジダ感染に伴う扁平上皮癌の発症とは異なるものである。
【0005】
本発明者らは、アロキサン投与により糖尿病を誘発したWBN/Kobラットの前胃において重度の感染性慢性炎症を伴った扁平上皮癌が発生することを見出している(非特許文献1)。しかしながらこのモデルでは、アロキサン誘発糖尿病ラットの前胃増殖性病変の程度や発症率には個体差が大きく、カンジダ症から扁平上皮癌への進行を抑制する医薬品や食品のスクリーニングを適切に行うためには、よりバラツキの少ない病態モデルを確立する必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−110601号公報
【特許文献2】特許第4509250号
【特許文献3】特許第3046303号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Sano T, Ozaki K, Kodama Y,Matsuura T,Narama I., Toxicol. Pathol., vol. 37, p.790−798(2009).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、カンジダ感染に起因して進行する扁平上皮癌の予防に有効な発酵物を提供することを課題とする。さらに本発明は、従来のモデル動物よりもバラつきが少なく、より適切に薬効評価を行えるカンジダ感染に起因する扁平上皮癌モデル動物とその作製方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、ラットにアロキサンを投与して糖尿病を誘発した直後から、C.albicansを強制的に経口投与することで、ラットの前胃において、カンジダ感染による慢性炎症を伴う増殖性病変を早期に誘発でき、その病変の個体差が少ない扁平上皮癌モデル動物を作成できることを見出した。また、乳をLactobacillus bulgaricus(L.bulgaricus)、StreptococcuS.thermophilus(S.thermophilus)およびL.gasseriを用いて発酵させた発酵物が、C.albicans感染による炎症を抑制すると共に増殖性の病変の進行を抑制し、カンジダ感染に起因する扁平上皮癌の予防に有用であることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は以下を包含する。
[1]乳をL.bulgaricus、S.thermophilusおよびL.gasseriを用いて発酵させた発酵物を有効成分とするカンジダ感染に起因する扁平上皮癌予防剤。
[2]発酵物が、L.bulgaricusおよびS.thermophilusを乳に配合して発酵させた後に、L.gasseriを配合した発酵乳である前記[1]に記載のカンジダ感染に起因する扁平上皮癌予防剤。
[3]L.gasseriがL.gasseri OLL2716株(FERM BP−6999)である、前記[1]又は[2]に記載のカンジダ感染に起因する扁平上皮癌予防剤。
[4]扁平上皮が口腔および/または食道の扁平上皮である前記[1]〜[3]に記載のカンジダ感染に起因する扁平上皮癌予防剤。
[5]カンジダ感染に起因する扁平上皮癌予防剤を製造するための、乳をL.bulgaricus、S.thermophilusおよびL.gasseriを用いて発酵させた発酵物の使用。
[6]カンジダ感染に起因する扁平上皮癌予防のために使用する、乳をL.bulgaricus、S.thermophilusおよびL.gasseriを用いて発酵させた発酵物。
[7]乳をL.bulgaricus、S.thermophilusおよびL.gasseriを用いて発酵させた発酵物を投与又は摂取するカンジダ感染に起因する扁平上皮癌の予防方法。
[8]糖尿病誘発物質を投与して糖尿病を誘発させた糖尿病発症モデル動物にC.albicansを強制経口投与する工程を含む扁平上皮癌モデル動物の作製方法。
[9]動物がラットである前記[8]に記載の作製方法。
[10]前記[8]又は[9]に記載の方法により作製された扁平上皮癌モデル動物。
[11]前記[10]に記載の扁平上皮癌モデル動物に被検物質を投与して扁平上皮癌病変部の変化を観察する工程を含む扁平上皮癌の予防剤および/または治療剤のスクリーニング方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明のカンジダ感染に起因する扁平上皮癌予防剤によれば、カンジダ症及びカンジダ症から扁平上皮癌への進行を有効に抑制することができる。また、本発明によれば、カンジダ感染に起因する扁平上皮癌への進行を、病変の程度や発生率に個体差が少なく再現できる扁平上皮癌モデル動物が作成でき、これを用いることにより、扁平上皮癌の治療に有用な物質やカンジダ感染に起因する扁平上皮癌予防剤のスクリーニングが可能となり、また、C.albicansの感染による扁平上皮癌発症のメカニズムの解明や新たな扁平上皮癌の治療及び予防方法の研究が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】(a)C群(無処置ラットにC.albicansを投与した群)、及び、(b)AC群(アロキサン誘発糖尿病ラットにC.albicansを投与した群)の前胃である。扁平上皮過形成は、AC群ではC群に比較して高度である。AC群の上皮の表層部には、C.albicans感染をともなう高度の化膿性炎症をみとめる。
図2】ごく初期の扁平上皮癌を認めた一個体の病変部位である。図上方は過形成部であり、その部の底部から不規則な扁平上皮細胞索が下方に伸張している。破線で囲まれ矢印のある部位が粘膜筋板にまで浸潤する癌細胞の先進部分である。
図3】(a)DC群(アロキサン誘発糖尿病ラットにC.albicansを投与した群)、及び、(b)DC+LG21群(アロキサン誘発糖尿病ラットにC.albicansおよびLG21を投与した群)の前胃病変部位である。扁平上皮過形成は、DC+LG21群ではDC群に比較して軽度である。DC群の上皮の表層部には、C.albicans感染をともなう高度の化膿性炎症をみとめるが、DC+LG21群では軽度である。
図4】(a)DC群、及び、(b)DC+LG21群における細胞増殖マーカーであるKi−67の免疫染色像である。Ki−67は増殖した扁平上皮細胞の核内に陽性となり、DC群と比較してDC+LG21群の陽性率は低い。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下に述べる個々の形態には限定されない。
(カンジダ感染に起因する扁平上皮癌予防剤)
本発明のカンジダ感染に起因する扁平上皮癌予防剤の有効成分である発酵物は、乳を、L.bulgaricus、S.thermophilusおよびL.gasseriを用いて発酵させた発酵物である。
当該発酵物は、L.bulgaricus、S.thermophilusおよびL.gasseriを、乳に配合(添加)して発酵させる他、L.bulgaricusおよびS.thermophilusを乳に配合(添加)して発酵させた後に、L.gasseriを配合(添加)してさらに発酵させるものでもよい。
ここで、発酵原料である乳としては、特に制限されず、獣乳(牛乳、羊乳、山羊乳、水牛乳などの哺乳類由来の乳)などを一般的に使用することが可能である。なお、この乳は、生乳や殺菌乳のみから構成されるわけではなく、発酵を阻害しない範囲で、還元乳原料(バター、クリーム、脱脂乳、全脂濃縮乳、脱脂濃縮乳、全脂粉乳、脱脂粉乳、練乳など)や、必要に応じて、その他の食品や食品添加物も配合(添加)することが可能である。
【0014】
L.bulgaricus及びS.thermophilusとしては、発酵乳の製造に一般的に用いられ、コーデックス規格でヨーグルトスターターとして規格化されているL.bulgaricusとS.thermophilusの混合スターターをベースとするスターターを好適に用いることができる。例えば、L.delbrueckii subsp. bulgaricus JCM1002と、S.thermophilus ATCC19258等が挙げられる。このほか、Streptococcus属、Leuconostoc属、Pediococcus属等の乳酸菌や、ビフィズス菌、酵母等を添加しても良い。
【0015】
また、L.gasseriとしては、特に限定されるものではないが、例えば、L.gasseri OLL2716株が挙げられる。なお、L.gasseri OLL2716株は、前記特許文献3に記載されているとおり、1999年5月24日付(原寄託日)で独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(茨城県つくば市東1−1−1 つくばセンター 中央第6)に、受託番号FERM BP−6999の下でブタペスト条約に基づき国際寄託されている。本寄託株は1999年5月24日付の微工研菌寄第P−17399号の国内寄託(原寄託)から、2000年1月14日にブダペスト条約に基づく国際寄託に移管された。
【0016】
本発明の発酵物は、後記実施例に示すように、C.albicans感染による炎症を抑制し、扁平上皮細胞の癌化を有意に抑制する。従って、本発明の発酵物は、カンジダ感染に起因する扁平上皮癌予防剤として使用することができる。
尚、当該使用は、ヒト若しくは非ヒト動物における使用であり得、また治療的使用であっても非治療的使用であってもよい。ここで、「非治療的」とは、医療行為を含まない概念、すなわち人間を手術、治療又は診断する方法を含まない概念、より具体的には医師又は医師の指示を受けた者が人間に対して手術、治療又は診断を実施する方法を含まない概念である。
【0017】
本発明において、「カンジダ感染に起因する扁平上皮癌の予防」とは、カンジダ、好ましくはC.albicansに感染した扁平上皮細胞で構成される組織の癌化を抑制して扁平上皮癌の発症を予防すること、すなわちカンジダ症から扁平上皮癌への進行を抑制するとを意味すると共に、扁平上皮細胞が癌化する前の前癌病変、すなわちカンジダ感染による炎症(カンジダ症)を抑制(予防)又は治療することを意味する。ここで、扁平上皮細胞で構成される組織は、口腔、食道、咽頭、喉頭、肛門、皮膚などが挙げられるが、本発明では、上部消化管である口腔、食道、咽頭、喉頭が好適に挙げられる。
尚、本発明において「扁平上皮癌」とは、形態学的に識別可能な典型的な扁平上皮癌のほか、扁平上皮の過形成病変が含まれる。
したがって、本発明のカンジダ感染に起因する扁平上皮癌の予防には、例えば、口腔癌、咽頭癌、喉頭癌、食道癌の予防の他、急性口腔カンジダ症、急性偽膜性カンジダ症、鵞口瘡、急性萎縮性カンジダ症、慢性口腔カンジダ症、慢性萎縮性口内炎、慢性肥厚性カンジダ症、慢性粘膜皮膚カンジダ症、正中菱形舌炎などの口腔内真菌症、食道カンジダ症などの抑制(予防)又は治療が包含される。
【0018】
本発明のカンジダ感染に起因する扁平上皮癌予防剤は、それ自体、ヒトを含む動物に摂取又は投与した場合に、カンジダに感染した扁平上皮細胞の癌化を抑制し、カンジダ症から扁平上皮癌への進行を抑制する効果を発揮する、ヒト若しくは動物用の医薬品、食品であってもよく、或いは当該医薬品又は食品に配合して使用される素材又は製剤であってもよい。ここで、当該食品には、カンジダ感染に起因する扁平上皮癌の予防や、カンジダ症の予防又は治療をコンセプトとし、必要に応じてその旨を表示した、機能性食品、病者用食品、特定保健用食品が包含される。
【0019】
本発明の発酵物を含有した上記医薬品の投与形態としては、予防目的や改善目的、投与経路等に応じて剤型を選択することができ、例えば錠剤、被覆錠剤、丸剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、液剤、懸濁剤、乳剤、シロップ剤、注射剤、坐剤、浸剤、煎剤、チンキ剤等が挙げられる。これらの各種製剤は、常法に従って主薬に対して必要に応じて充填剤、増量剤、賦形剤、結合剤、保湿剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、着色剤、矯味矯臭剤、溶解補助剤、懸濁剤、コーティング剤などの医薬の製剤技術分野において通常使用しうる既知の補助剤を用いて製剤化することができる。また、この医薬製剤中に着色剤、保存剤、香料、風味剤、甘味剤等や他の医薬品を含有させてもよい。
【0020】
本発明の発酵物を含有した上記食品の形態としては、牛乳、清涼飲料、発酵乳、ヨーグルト、チーズ、パン、ビスケット、クラッカー、ピッツァクラスト、調製粉乳、流動食、病者用食品、幼児用粉乳等食品、授乳婦用粉乳等食品、栄養食品等、いずれの形態であってもよく、その性状についても、通常用いられる飲食品の状態、例えば、固体状(粉末、顆粒状その他)、ペースト状、液状ないし懸濁状のいずれでもよい。
【0021】
斯かる食品は、本発明の発酵物をそのまま使用し、あるいは他の食品ないし食品成分と混合するなど、通常の飲食品組成物における常法に従って製造できる。
他の食品成分としては、特に限定されないが、例えば水、タンパク質、糖質、脂質、ビタミン類、ミネラル類、有機酸、有機塩基、果汁、フレーバー類等が挙げられる。ここで、タンパク質としては、例えば全脂粉乳、脱脂粉乳、部分脱脂粉乳、カゼイン、ホエイ粉、ホエイタンパク質、ホエイタンパク質濃縮物、ホエイタンパク質分離物、α―カゼイン、β―カゼイン、κ−カゼイン、β―ラクトグロブリン、α―ラクトアルブミン、ラクトフェリン、大豆タンパク質、鶏卵タンパク質、肉タンパク質等の動植物性タンパク質、これら加水分解物;バター、乳清ミネラル、クリーム、ホエイ、非タンパク態窒素、シアル酸、リン脂質、乳糖等の各種乳由来成分などが挙げられる。糖質としては糖類、加工澱粉(テキストリンのほか、可溶性澱粉、ブリティッシュスターチ、酸化澱粉、澱粉エステル、澱粉エーテル等)、食物繊維などが挙げられる。脂質としては、例えば、ラード、魚油等、これらの分別油、水素添加油、エステル交換油等の動物性油脂;パーム油、サフラワー油、コーン油、ナタネ油、ヤシ油、これらの分別油、水素添加油、エステル交換油等の植物性油脂などが挙げられる。ビタミン類としては、例えば、ビタミンA、カロチン類、ビタミンB群、ビタミンC、ビタミンD群、ビタミンE、ビタミンK群、ビタミンP、ビタミンQ、ナイアシン、ニコチン酸、パントテン酸、ビオチン、イノシトール、コリン、葉酸などが挙げられ、ミネラル類としては、例えば、カルシウム、カリウム、マグネシウム、ナトリウム、銅、鉄、マンガン、亜鉛、セレン、乳清ミネラルなどが挙げられる。有機酸としては、例えば、リンゴ酸、クエン酸、乳酸、酒石酸などが挙げられる。これらの成分は、2種以上を組み合わせて使用することができ、合成品及び/又はこれらを多く含む食品を用いてもよい。
【0022】
上記医薬品又は食品中の本発明の発酵物の含有量は、その目的、用途に応じて任意に定めることができる。例えば、乾燥物換算で、全体量に対して通常、0.001〜100重量%の含量で配合することができ、好ましくは0.01〜100重量%、さらに好ましくは0.1〜100重量%の含量で配合することができる。また、発酵物中のL.bulgaricus及びS.thermophilusの菌数としては、両者の乳酸菌数が合計で1mLあたり1000万(1×10個)以上であることが好ましい。また、L.gasseriが1mLあたり100万(1×10個)以上であることが好ましく、L.gasseriが1mLあたり1000万(1×10個)以上であることがより好ましい。
【0023】
上記医薬品又は食品の投与又は摂取量は、被験体の生物種、齢数、体重、投与又は摂取回数等により異なり、当業者の裁量によって広範囲に変更することができる。例えば本発明の発酵物(乾燥物換算)として、0.01〜10000mg/kg体重/day、好ましくは0.05〜6000mg/kg体重/day、さらに好ましくは0.3〜5000mg/kg体重/dayでありうる。また、投与又は摂取回数は、単回でも反復でもよいが、好ましくは反復投与又は摂取である。
また、投与又は摂取対象としては、それを必要としているヒトであれば特に限定されないが、例えば口腔カンジダ症、食道カンジダ症等の患者、又はその予備軍等が挙げられる。
【0024】
(扁平上皮癌モデル動物)
本発明の扁平上皮癌モデル動物の作製で用いる「動物」とは、例えば、マウス、ラットを意味し、動物の性別、週齢、体重等については、目的とするスクリーニングに適用可能である限り特に制限はない。ヒトの口腔や舌、食道は、重層扁平上皮に覆われており、ヒト・サル・イヌでは一部分のみで角化しているが、マウス・ラットでは前胃に至る全域で完全角化していることが知られている(日薬理誌、131,373−377,2008)。本発明では、マウスやラットの前胃に病変を形成させることを特徴とするものである。当該「動物」としては、例えばWBN/KobラットやF344ラットなどが挙げられる。
【0025】
本発明の扁平上皮癌モデル動物の作製では、糖尿病動物にC.albicansを強制経口投与することを特徴とする。糖尿病動物はとしては、例えばラット(正常ラット)やマウス(正常マウス)にアロキサンやストレプトゾトシン等の薬物を投与して糖尿病を惹起した動物以外にも、遺伝性糖尿病動物を使用することもできるが、糖尿病誘発物質を投与して発病させるのが発症時期や重症度を均一化できるため好ましく、糖尿病誘発物質であるアロキサンにより発症させた糖尿病ラットを用いるのが遺伝毒性発癌物質でないため好ましい。糖尿病が発症しているかどうかの確認は、動物の血糖や尿糖を測定する等、通常の方法で確認できる。
【0026】
本発明では、糖尿病を誘発後、C.albicansを強制経口投与することを特徴とする。C.albicansの検体は、生理食塩水に懸濁して経口投与するのが好ましい。本発明では、強制経口投与するC.albicans の菌数や投与頻度、投与期間は、C.albicans が動物の扁平上皮細胞に定着すれば良く、使用する動物の生物種、齢数、体重、投与経路、投与回数等により異なり、当業者の裁量によって広範囲に変更することができる。例えば、10週齢のWBN/Kobラットに投与する場合には、1×106個/mL以上、好ましくは、1×107個/mL以上の菌数を週1回〜週4回の頻度で強制経口投与することなどが挙げられる。
【0027】
本発明の扁平上皮癌モデル動物の作製では、通常は、投与開始から3ヶ月、好ましくは6ヶ月程度でラット前胃の扁平上皮過形成が形成される。本発明において「扁平上皮癌」の用語は、形態学的に識別可能な典型的な扁平上皮癌のほか、扁平上皮の過形成病変を含むものである。
本発明のモデル動物が病変を生じた後、その病変部の一部を採取して病理組織学的に前癌病変を判定することができる。例えば、組織をヘマトキシリン-エオジン染色(HE染色)して扁平上皮の乳頭状増殖の所見が認められれば、病変部に過形成が形成されたことを証明できる。さらに、過形成から連続性に浸潤増殖する病変をみいだし、構造異型または核異型を証明することによっても癌細胞の存在を確認できる。
【0028】
本発明の方法により作製された扁平上皮癌を担持するモデル動物は、扁平上皮癌の治療薬のスクリーニングに用いることができる。モデル動物に対して被検物質を経口投与又は非経口投与し、例えば癌病変部の縮小や癌の進行抑制などの治療効果を観察することにより、扁平上皮癌の治療に有用な物質をスクリーニングできる。モデル動物の作製に際しては、予め被検物質を投与しておき、その後にC.albicansを強制的に経口投与することによって、扁平上皮癌の予防薬のスクリーニングも可能である。
また、本発明のモデル動物は、C.albicansの感染による扁平上皮癌発症のメカニズムの解明や扁平上皮癌の治療方法及び予防方法の研究にも有用である。
【実施例】
【0029】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。なお、実施例において「%」表示は特に明記する場合を除き重量%を示すものとする。
【0030】
[実施例1]病態モデルの確立
アロキサンで糖尿病を誘発した直後からC.albicansを実験的に投与し、早期の炎症および増殖性病変の誘発を試みた。
【0031】
10週齢の雌WBN/Kobラットにアロキサン(シグマ社)を40mg/kgの投与量で尾静脈より単回投与し、2週間にわたって糖尿病の状態を確認した。糖尿病が発症しなかった動物には、再度、アロキサンを投与し、糖尿病を発症させた。群構成は表1の通りであり、糖尿病を誘発後、C.albicans(6×107個/mL)を強制経口投与した群(AC群、15匹)、糖尿病を誘発後、C.albicansを強制経口投与しない群(A群、14匹)、さらに、アロキサンを投与せずC.albicansの強制経口投与のみ行った群(C群、10匹)を用いた。AC群には、アロキサン投与後2週より、C.albicansを6×107個/mLとなるように生理食塩水にて稀釈した被験物質を1匹あたり1mL、週に3回、強制経口投与した。その後は、週1回の頻度で8週間投与し、合計10週間、14回、強制経口投与した。いずれの群もC.albicans投与後25週にて剖検を実施し、上部消化管について病理組織学的観察を行った。尚、C.albicansは2008年2月に解剖したF344アロキサン雄1896の増殖性病変を有する胃から採取し、摂南大学薬学部病理学研究室にて培養・保管されている生菌を用いた。
【0032】
【表1】
【0033】
AC群、A群およびC群の病理所見の結果を表2に示した。C群(図1)では、前胃扁平上皮の過形成、C.albicansの感染および炎症は認めなかった。A群では、14例中4例(28.6%)で前胃扁平上皮細胞が軽度から中等度の過形成(Squamous cell hyperplasia)を認め、14例中7例(50%)で好中球の集族(Accumulation of neutrophils)および、14例中9例(64.3%)で粘膜固有層から粘膜下織におけるリンパ球形質細胞浸潤(Lymphocytic and plasmacytic infiltraion in submucosa)からなる慢性炎症を伴っていたが、病変の程度は軽度〜中等度であり、発生率も低いものであった。一方、AC群では、15匹中14例で前胃扁平上皮が中等度から高度の過形成となり、粘膜表層部にはC.albicansの感染と化膿性炎症、粘膜固有層から粘膜下織にはリンパ球形質細胞浸潤からなる慢性炎症が認められた(図1)。このうち、1例でごく初期の扁平上皮癌に進展していた(図2)。
以上の結果から、C.albicans感染がアロキサン誘発糖尿病ラットの前胃において慢性炎症を伴う増殖性病変を早期に誘発することが明らかとなった。さらにこの病態モデルはバラつきが非常に少なく、薬効評価に有用なモデルであることがわかった。
【0034】
【表2】
【0035】
[実施例2]
実施例1の結果より、C.albicansをアロキサン誘発糖尿病ラットに投与することにより、前胃に増殖性および炎症性病変を誘発し癌化させることが明らかとなった。
コーデックス規格でヨーグルトスターターとして規格化されているL.bulgaricusとS.thermophilusの混合スターターをベースとするスターターで発酵させた後にL.gasseri OLL2716を添加し発酵してなる本発明の発酵物により、C.albicans感染誘発前胃増殖性および炎症病変が抑制されるかを検討した。
本発明の発酵物は次のように調製した。まず、L.gasseri OLL2716株、L.delbrueckii subsp. bulgaricus JCM1002、S.thermophilus ATCC19258をそれぞれ10%脱脂粉乳培地に1%で接種し、37℃で15時間培養してバルクスターターを調製した。その後、95℃で5分間加熱処理したヨーグルトミックス(SNF:9.5%、FAT:3.0%)に、L.delbrueckii subsp. bulgaricus JCM1002、S.thermophilus ATCC19258のスターターを各1%、L.gasseri OLL2716株のスターターを5%接種して、43℃で4時間発酵させた。発酵・冷却直後のL.gasseri OLL2716株、L.delbrueckii subsp. bulgaricus JCM1002、S.thermophilus ATCC19258それぞれの生菌数は9.0×107CFU/mL、6.4×10CFU/mL、11.0×10CFU/mLであった。以下、本発明の発酵物をLG21と称する。
【0036】
WBN/Kobラットにアロキサン(シグマ社製)を投与し糖尿病を誘発後、表3に示すような群構成で試験を行った。具体的には、C.albicansおよび本発明の発酵物(LG21)を経口投与したDC+LG21群、C.albicansのみを経口投与したDC群を設けた。DC群には、アロキサン投与後3週より、最初の2週間にわたって、C.albicans 6×107個/mLとなるように生理食塩水にて稀釈した被験物質を1匹あたり1mLの投与量で、週に3回、強制経口投与した。その後は、週1回の頻度で、アロキサン投与後27週まで、C.albicansを強制経口投与したDC+LG21群では、アロキサン投与後2週からアロキサン投与後27週までの期間、本発明の発酵物であるLG21を5mL/kg体重の投与量で、1日1回の頻度で強制経口投与を開始し、アロキサン投与後3週より、最初の2週間にわたって、C.albicans 6×107個/mLとなるように生理食塩水にて稀釈した被験物質を1匹あたり1mLの投与量で、週に3回、強制経口投与した。その後は、週1回の頻度で、アロキサン投与後27週まで、C.albicansを強制経口投与した。DC+LG21群、DC群の両群は、アロキサン投与27週(35週齢)にて剖検し、前胃の増殖性病変、C.albicans感染ならびに炎症性病変を比較した。
【0037】
【表3】
【0038】
DC+LG21群およびDC群の病理所見の結果を表4に示した。前胃扁平上皮過形成および炎症は、両群とも小弯側で強く、大弯側で弱かった。大弯側では、DC+LG21群の過形成はDC群に比較して有意に弱く(図3)、細胞の増殖マーカーであるKi−67陽性率もDC+LG21群において有意な低値を示した(図4)。また、C.albicans感染および粘膜の化膿性炎症も、大弯側でDC+LG21群おいてやや軽度であった。以上の結果から、本発明の発酵物は扁平上皮細胞の癌化を有意に抑制することが明らかとなった。
【0039】
【表4】
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明によれば、カンジダ感染に起因して進行する扁平上皮癌の予防剤を提供できる。また、従来のモデル動物よりもバラつきが少なく、より適切に薬効評価を行えるカンジダ感染に起因する扁平上皮癌モデル動物とその作製方法、当該モデル動物を利用したスクリーニング方法を提供できる。
図1
図2
図3
図4