(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
カーボンナノチューブを成長させる為の触媒が収容された容器内に、前記カーボンナノチューブの原料となる炭素化合物を供給することにより前記カーボンナノチューブを成長させる工程を含み、
前記工程において、前記炭素化合物の供給によって前記カーボンナノチューブとは別に前記触媒の表面に堆積する炭素生成物の生成量を低減する為の、ハロゲン単体及びハロゲン化合物のうち少なくとも一方を含む200ppm以上のハロゲン含有物を前記容器内に更に供給し、
前記容器内に前記炭素化合物の供給を開始した後に、前記容器内に前記ハロゲン含有物の供給を開始する、カーボンナノチューブの製造方法。
カーボンナノチューブを成長させる為の触媒が収容された容器内に、前記カーボンナノチューブの原料となる炭素化合物を供給することにより前記カーボンナノチューブを成長させる工程を含み、
前記工程において、前記炭素化合物の供給によって前記カーボンナノチューブとは別に前記触媒の表面に堆積する炭素生成物の生成量を低減する為の、ハロゲン単体及びハロゲン化合物のうち少なくとも一方を含む200ppm以上のハロゲン含有物を前記容器内に更に供給し、
前記炭素化合物が前記触媒まで到達した後に前記ハロゲン含有物を前記触媒に到達させる、カーボンナノチューブの製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
カーボンナノチューブは、機械的強度が高く、軽く、電気伝導特性が良く、熱特性が良く、化学的耐腐食性が高く、且つ電界電子放出特性が良いといった優れた特性を有する素材である。したがって、カーボンナノチューブの用途として、軽量高強度ワイヤ、走査プローブ顕微鏡(SPM)の探針、電界放出ディスプレイ(FED)の冷陰極、導電性樹脂、高強度樹脂、耐腐食性樹脂、耐摩耗性樹脂、高度潤滑性樹脂、二次電池や燃料電池の電極、LSIの層間配線材料、バイオセンサーなどが考えられている。
【0007】
カーボンナノチューブの製造方法としては、例えばアーク放電法やレーザー蒸発法、化学気相成長法(CVD法)等がある。CVD法では、例えば次のような方法によってカーボンナノチューブを合成することができる。すなわち、触媒となる金属を容器内に設置した上で、容器内の温度を例えば650℃〜1300℃とし、炭素源としての炭化水素等をこの容器内に供給する。一例では、平らな表面を有する基板の該表面上に、触媒としての金属膜をスパッタリング等によって形成する。そして、この基板を炉内に設置して炉内温度を所定の温度まで昇温させ、アセチレンや水素、アンモニア等が混合されたガスを炉内に供給することによりガスと触媒との化学反応が生じ、基板表面にカーボンナノチューブが生成する。このカーボンナノチューブは、基板表面に対して略垂直に配向する。
【0008】
しかしながら、特許文献2等に記載された従来の製造方法では、カーボンナノチューブの長さが最長で2mm程度に止まっており、軽量高強度ワイヤ等の材料として好適な、より長尺のカーボンナノチューブを製造しうる方法が望まれている。
【0009】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、長尺のカーボンナノチューブを製造することが可能な方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決するために、一実施形態によるカーボンナノチューブの製造方法は、カーボンナノチューブを成長させる為の触媒が収容された容器内に、カーボンナノチューブの原料となる炭素化合物を供給することによりカーボンナノチューブを成長させる工程を含み、該工程において、炭素化合物の供給によってカーボンナノチューブとは別に触媒の表面に堆積する炭素生成物の生成量を低減する為の、ハロゲン単体及びハロゲン化合物のうち少なくとも一方を含む200ppm以上のハロゲン含有物を容器内に更に供給し、
容器内に炭素化合物の供給を開始した後に
、容器内にハロゲン含有物の供給を開始することを特徴とする。
【0011】
また、別の実施形態によるカーボンナノチューブの製造方法は、カーボンナノチューブを成長させる為の触媒が収容された容器内に、カーボンナノチューブの原料となる炭素化合物を供給することによりカーボンナノチューブを成長させる工程を含み、該工程において、炭素化合物の供給によってカーボンナノチューブとは別に触媒の表面に堆積する炭素生成物の生成量を低減する為の、ハロゲン単体及びハロゲン化合物のうち少なくとも一方を含む200ppm以上のハロゲン含有物を容器内に更に供給し、炭素化合物が触媒まで到達した後にハロゲン含有物を触媒に到達させることを特徴とする。
【0012】
また、一実施形態によるカーボンナノチューブの製造装置は、カーボンナノチューブを成長させる為の触媒を収容する容器と、カーボンナノチューブの原料となる炭素化合物を容器内に供給する原料供給手段と、炭素化合物の供給によってカーボンナノチューブとは別に触媒の表面に堆積する炭素生成物の生成量を低減する為の、ハロゲン単体及びハロゲン化合物のうち少なくとも一方を含むハロゲン含有物を容器内に更に供給するハロゲン含有物供給手段と、原料供給手段における炭素化合物の供給及びハロゲン含有物供給手段におけるハロゲン含有物の供給を制御する制御部と、を備え、制御部は、原料供給手段に
容器内への炭素化合物の供給を開始させた後に、ハロゲン含有物供給手段に
容器内へのハロゲン含有物の供給を開始させることを特徴とする。
【0013】
発明者は、カーボンナノチューブを成長させる際にその成長を阻害する要因について研究を行った。その結果、カーボンナノチューブの原料となる炭素化合物を容器内に供給したときに、炭素化合物の熱分解によって生成される例えばアモルファスカーボンといった炭素生成物が触媒の上に徐々に堆積し、この炭素生成物によって触媒作用が次第に減ずること(いわゆる触媒失活)によって、カーボンナノチューブの成長が或る長さで停止してしまうことを見出した。このような現象に鑑み、上述したカーボンナノチューブの製造方法及び製造装置では、カーボンナノチューブを成長させる際に、カーボンナノチューブの原料となる炭素化合物に加えて、触媒の表面に堆積するアモルファスカーボン等の炭素生成物の形成を低減する為の、ハロゲン単体及びハロゲン化合物のうち少なくとも一方を含むハロゲン含有物を容器内に供給する。これにより、カーボンナノチューブの成長中における触媒上への炭素生成物の堆積量を減ずることができるので、触媒作用が次第に減ずることを抑え、カーボンナノチューブをより長く成長させることができる。すなわち、上述したカーボンナノチューブの製造方法及び製造装置によれば、長尺のカーボンナノチューブを製造することができる。
【0014】
また、上述したカーボンナノチューブの製造方法では、ハロゲン含有物の供給開始時刻t
0における単位時間当たりのハロゲン含有物の供給量と比較して、時刻t
0より後の時刻t
1における単位時間当たりのハロゲン含有物の供給量が多くてもよい。発明者の知見によれば、触媒上への炭素生成物の堆積量は、炭素化合物の供給開始以後、時間が経過するほど多くなる傾向がある。したがって、ハロゲン含有物の供給量を上記のように時間の経過に応じて増加させることにより、カーボンナノチューブの成長中における触媒上への炭素生成物の堆積量をより効果的に減ずることができる。
【0015】
また、上述したカーボンナノチューブの製造方法では、触媒が鉄ハロゲン化合物を含んでもよい。鉄ハロゲン化合物の具体例としては、FeF
2、FeF
3、FeCl
2、FeCl
3、FeBr
2、FeBr
3、FeI、FeI
2、FeI
3のうち一種類、またはこれらの中から複数を組み合わせたものがある。加えて、取扱いが容易であるこれらの化合物の水和物も、上記鉄ハロゲン化合物に含まれる。このような触媒を用いることにより、カーボンナノチューブを好適に成長させることができる。
【0016】
また、上述したカーボンナノチューブの製造方法及び製造装置では、ハロゲン含有物は、F
2、Cl
2、Br
2、HF、CF
4、HCl、及びHBrのうち少なくとも一つを含んでもよい。これにより、触媒上へのアモルファスカーボン等の炭素生成物の堆積を好適に低減することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によるカーボンナノチューブの製造方法及び製造装置によれば、長尺のカーボンナノチューブを製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照しながらカーボンナノチューブの製造方法の実施の形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0020】
図1は、本実施形態に係るカーボンナノチューブの製造方法に使用される製造装置の構成を概略的に示す図である。
図1に示されるように、この製造装置10は、電気炉12を備えている。この電気炉12は、所定方向A(原料ガスが流れる方向)に沿って延在する略円筒形状を呈している。電気炉12の内側には、カーボンナノチューブの成長室としての反応容器管14が通されている。反応容器管14は、例えば石英といった耐熱材からなる略円筒形の部材であり、電気炉12よりも細い外径を有し、所定方向Aに沿って延在している。反応容器管14の内部には、例えば石英製の基板28と、例えばFeCl
2といった触媒26とが載置される。
【0021】
基板28は、少なくともその表面が酸化ケイ素、好ましくは本実施例のように石英(SiO
2)であればよい。この酸化ケイ素からなる表面にカーボンナノチューブが成長する。なお、酸化ケイ素には、いわゆる石英として知られるSiO
2の他にSiOがある。また、スパッタリングなどによって形成された酸化ケイ素は、酸素/ケイ素比がこれらから変化しており(例えばSiO
1.9など)一定しないが、これらを含め、基板28の表面はSiOx(x≦2)からなるとよい。
【0022】
電気炉12は、ヒータ16及び熱電対18を有する。ヒータ16は、反応容器管14を囲むように配設されており、反応容器管14の管内温度を上昇させるための熱を発生する。熱電対18は、電気炉12の内側において反応容器管14の近傍に配置され、反応容器管14の温度に応じた電気信号を生成する。ヒータ16及び熱電対18は、制御部20と電気的に接続されている。制御部20は、反応容器管14の内部がカーボンナノチューブの成長に適した所定の温度に近づくように、熱電対18から提供された電気信号に基づいてヒータ16への供給電力を制御する。
【0023】
所定方向Aにおける反応容器管14の一端には、ガス供給部22が接続されている。ガス供給部22は、カーボンナノチューブの原料となる炭素化合物としての原料ガス30(例えばアセチレンといった炭化水素ガス)を反応容器管14の内部へ供給する原料供給手段である。更に、本実施形態のガス供給部22は、カーボンナノチューブの成長中におけるアモルファスカーボン等の炭素生成物の堆積を低減する為のハロゲン含有物であるハロゲン含有物ガス32を、反応容器管14の内部へ供給するハロゲン含有物供給手段である。ハロゲン含有物ガス32は、ハロゲン単体及びハロゲン化合物のうち少なくとも一方を含むガスであるとよく、例えばF
2、Cl
2、Br
2、HF、CF
4、HCl、及びHBrのうち少なくとも一つを含むガスであることが好ましい。
【0024】
所定方向Aにおける反応容器管14の他端には、圧力調整バルブ23及び排気部24が接続されている。圧力調整バルブ23は、反応容器管14内のガスの圧力を調整する。排気部24は、反応容器管14の内部を真空排気する。排気部24としては、例えばロータリーポンプが好適である。ガス供給部22、圧力調整バルブ23及び排気部24は、制御部20によって制御される。制御部20は、ガス供給部22における原料ガス30及びハロゲン含有物ガス32の供給(供給タイミングや供給量)を制御する。
【0025】
次に、本実施形態に係るカーボンナノチューブの製造方法について説明する。
図2は、本実施形態の製造方法を示すフローチャートである。
【0026】
まず、工程S11では、触媒26を表面に有する基板28を反応容器管14の内部に設置する。なお、触媒26が基板28上に存在する必要はなく、触媒26と基板28とが反応容器管14内において互いに離れて設置されてもよい。或いは、反応容器管14の内壁にのみカーボンナノチューブを成長させる場合には、反応容器管14の内部に触媒26のみ設置し、基板28の設置を省略してもよい。また、触媒26として、例えば塩化第一鉄(FeCl
2)及び塩化第二鉄(FeCl
3)の少なくとも一方を含む塩化鉄の粉体といった、鉄ハロゲン化合物を用いることができる。
【0027】
続く工程S12では、制御部20からの指示により、排気部24が反応容器管14の内部を真空排気する。このとき、排気部24は、例えば反応容器管14内の圧力が10
−2Torr以下となるように反応容器管14内を排気するとよい。なお、1Torrは133.3Paとして換算される。
【0028】
工程S13では、反応容器管14の内部が所定の温度に近づくように、制御部20が、熱電対18からの電気信号に基づいてヒータ16への供給電力を制御する。なお、所定の温度は、常温では固相の触媒26が沸騰または昇華して気相になる程度に高い温度であり、且つ反応容器管14の内部に供給される原料ガスと触媒26との間で気相反応が生じる温度に設定される。一実施例では、所定の温度は700℃以上900℃以下の範囲内の温度である。
【0029】
工程S14では、制御部20からの指示により、ガス供給部22が反応容器管14の内部に向けて原料ガス30の供給を開始する。また、制御部20からの指示により、圧力調整バルブ23が、原料ガス30の圧力を所定圧力に近づくように調整する。これらの動作により、所定圧力及び所定流量の原料ガス30が反応容器管14の内部に供給され始める。所定圧力は、例えば1Torr以上50Torr以下の範囲内であるとよい。また、所定流量は、反応容器管14の内径に応じて設定され、例えば管の内径が30mm程度の石英製の反応容器管14内でカーボンナノチューブを成長させる場合は、20sccm以上500sccm以下の範囲内であるとよい。1sccmとは、0℃、1気圧において毎分1ミリリットルの流量を表す。なお、このような好適な流量の範囲は、反応容器管14の内径や容積によって変化する。原料ガス30が反応容器管14の内部に供給され始めると、昇華した触媒26と原料ガス30とが気相反応し始め、基板28上にカーボンナノチューブが垂直に配向しつつ成長し始める。
【0030】
具体的には、触媒26に塩化第一鉄(FeCl
2)が用いられ、原料ガス30がアセチレンである場合、反応容器管14の内部おいて次の化学反応が生じる。
FeCl
2+C
2H
2→FeC
2+2HCl ・・・(1)
このように、塩化第一鉄とアセチレンとが気相反応することにより、FeC
2及び塩化水素が生成される。FeC
2の粉体は、互いに衝突を繰り返し、基板28上に堆積する。このFeC
2に含まれるFeが、触媒26による触媒作用の主体となる。すなわち、FeC
2からFeを残してカーボンが析出し(FeC
2→Fe+2C)、グラフェン層が形成される。これがカーボンナノチューブの成長の始まりであると考えられる。なお、残ったFeは、触媒粒子となって基板28上に堆積する。
【0031】
図3は、カーボンナノチューブ42が、基板28上に形成された触媒粒子44より上方に成長する様子を示す図である。原料ガス30として供給されるアセチレンが、上記のようにして生成したFeに接触すると、炭素と水素とに分解される。この炭素がカーボンナノチューブ42の原料となり、成長に寄与する。
【0032】
ここで、原料ガス30を反応容器管14内に供給すると、例えばアモルファスカーボンといった炭素生成物が触媒粒子44の上に徐々に堆積する。そして、この炭素生成物が触媒粒子44の作用を次第に減じさせる。このような問題に鑑み、本実施形態では、工程S15において、制御部20からの指示により、ガス供給部22が反応容器管14の内部に向けてハロゲン含有物ガス32の供給を開始する。ハロゲン含有物ガス32が反応容器管14の内部に供給されると、触媒粒子44の上におけるアモルファスカーボンといった炭素生成物の堆積が低減される。これにより、カーボンナノチューブの成長中における触媒粒子44上への炭素生成物の堆積量を減じ、触媒粒子44の触媒作用が維持される。
【0033】
図4は、工程S15におけるハロゲン含有物ガス32の供給量と、カーボンナノチューブの成長開始(すなわち原料ガス30の供給開始)からの経過時間との関係の一例を示すグラフである。ハロゲン含有物ガス32の供給量は、反応容器管14内に供給されるガスに含まれる塩素原子の個数N
Clと炭素原子の個数N
Cとの比(N
Cl/N
C、単位ppm)によって表されている。なお、このグラフは、触媒26をFeCl
2とし、ハロゲン含有物ガス32をCl
2とし、原料ガス30をC
2H
2とした場合のものである。
【0034】
図4に示されるように、本実施形態では、制御部20からの指示により、原料ガス30の供給が開始された後に、所定の時間が経過してからハロゲン含有物ガス32の供給が開始される。これにより、原料ガス30が触媒26まで到達した後にハロゲン含有物ガス32が触媒26に到達することとなる。なお、原料ガス30の供給開始からハロゲン含有物ガス32の供給開始までの時間は、例えば1分〜2分である。また、供給始期におけるハロゲン含有物ガス32の供給量は、数百ppm〜数万ppmであることが好ましく、
図4に示される例では5000ppmである。
【0035】
また、
図4に示されるように、ハロゲン含有物ガス32の供給を開始してから更に時間が経過したのち(
図4では原料ガス30の供給開始から5分後)、ハロゲン含有物ガス32の供給量を5000ppmから7000ppmに増加させるとよい。すなわち、制御部20からの指示により、ハロゲン含有物ガス32の供給開始時刻t
0における単位時間当たりのハロゲン含有物ガス32の供給量(5000ppm)と比較して、時刻t
0より後の時刻t
1における単位時間当たりのハロゲン含有物ガス32の供給量(7000ppm)を多くするとよい。
【0036】
以上に説明した、本実施形態によるカーボンナノチューブの製造方法及び製造装置によって得られる効果について説明する。従来の製法では、カーボンナノチューブの長さは最長で2mm程度に止まっており、軽量高強度ワイヤ等の材料として、より長尺のカーボンナノチューブを製造しうる方法が望まれていた。発明者は、カーボンナノチューブを成長させる際にその成長を阻害する要因について研究を行い、次の事実を見出した。すなわち、カーボンナノチューブの原料となる原料ガス30を反応容器管14の内部に供給すると、例えばアモルファスカーボンといったカーボンナノチューブ以外の炭素生成物が触媒粒子44の上に徐々に堆積し、触媒粒子44の触媒作用が次第に減じてしまう(いわゆる触媒失活)。これにより、カーボンナノチューブは3mmを超えることができずにそれ未満の長さで成長が停止してしまう。
【0037】
このような現象に鑑み、本実施形態に係る製造方法及び製造装置では、カーボンナノチューブを成長させる際に、原料ガス30に加えて、触媒粒子44の表面に堆積する炭素生成物の生成量を低減する為のハロゲン含有物ガス32を反応容器管14の内部へ供給する。これにより、カーボンナノチューブの成長中における触媒粒子44上への炭素生成物の堆積量を減ずることができるので、触媒粒子44の触媒作用の低下を抑え、長時間にわたってカーボンナノチューブをより長く成長させることができる。また、触媒粒子44を介して基板28上に林立したカーボンナノチューブは、糸状に連続して取り出され、紡績が可能なものとなる。すなわち、本実施形態に係る製造方法及び製造装置によれば、長尺のカーボンナノチューブを製造することが可能であり、紡績可能なカーボンナノチューブの長さを、例えば2mm以上にまで長くすることができる。また、成長条件を調整することによってカーボンナノチューブを1cm以上の長さに成長させることも可能であると考えられる。
【0038】
また、
図4に示されたように、ハロゲン含有物ガス32の供給開始時刻t
0における単位時間あたりのハロゲン含有物ガス32の供給量と比較して、時刻t
0より後の時刻t
1における単位時間当たりのハロゲン含有物ガス32の供給量が多いことが好ましい。発明者の知見によれば、触媒粒子44上への炭素生成物の堆積量は、原料ガス30の供給開始以後、時間が経過するほど多くなる傾向がある。そこで、本実施形態のように、ハロゲン含有物ガス32の供給量を上記のように時間の経過に応じて増加させることにより、カーボンナノチューブの成長中における触媒粒子44上への炭素生成物の堆積量をより効果的に減ずることができる。
【0039】
また、ハロゲン含有物ガス32の供給量を時間の経過に応じて増加させることにより、次の作用も期待できる。すなわち、カーボンナノチューブ成長前に反応容器管14内部に配置されていた触媒26に含まれる塩素原子は、時間経過とともに徐々に塩素化合物またはCl
2の形態で反応容器管14外部に排気され、反応容器管14内部における塩素原子の数が次第に少なくなるので、カーボンナノチューブの成長速度が時間経過とともに低下する。しかし、ハロゲン含有物ガス32としてのCl
2の供給量を時間経過とともに増加させると、反応容器管14の内部における塩素原子の数の減少分を補うことができるので、カーボンナノチューブの成長速度の低下を抑えることができる。
【0040】
なお、先に記した特許文献3の24頁8行目以降には、「酸化剤としては、水蒸気、酸素、オゾン、硫化水素、酸性ガス、また、エタノール、メタノール等の低級アルコール、一酸化炭素、二酸化炭素などの低炭素数の含酸素化合物およびこれらの混合ガスも有効である。この中でも、水蒸気、酸素、二酸化炭素、一酸化炭素が好ましく、特に水蒸気が好ましく使用される。」と記載されている。しかしながら、この特許文献3には、本実施形態に係る製造方法及び製造装置の特徴の一つである「ハロゲン含有物を用いることが好適である」ということは記載も示唆もされていない。本実施形態に係る製造方法及び製造装置によれば、ハロゲン含有物ガス32を供給することにより、紡績可能なカーボンナノチューブ集合体における個々のカーボンナノチューブを例えば2mm以上に長尺化できるという、先行技術文献に記載された発明には無い特有の効果を奏することができる。
【0041】
ここで、「カーボンナノチューブが紡績可能である」ということについて、更に詳細に説明する。基板上に垂直に配向したカーボンナノチューブ束の一端をピンセット等を用いてつまみ出すと、カーボンナノチューブ同士が自発的に結合して繊維状になり、引き出される場合がある。このような現象を「紡績可能である」という。なお、引き出された繊維状構造体の中ではカーボンナノチューブが自発的に引き出し方向に配列しており、工業利用時にカーボンナノチューブの優れた材料特性を発揮するために最も適切な構造となっている。
【0042】
このような紡績可能性を実現するための条件としては、例えば次のようなものがある。
・基板上にカーボンナノチューブが垂直に配列していること。
・カーボンナノチューブの直線性が極めて高く、且つアレイの状態で凝集化(バンドル化)していること。
・カーボンナノチューブと基板との結合が比較的弱いこと。
【0043】
なお、これまでに知られている通常のカーボンナノチューブアレイには上記条件を全て満たしているものが存在せず、従って紡績性能を有するものは他に見当たらない。中国清華大学、オーストラリア国立研究所(CSIRO)、米国テキサス大学、米国ロスアラモス研究所、米国シンシナティ大学、及び大阪大学からは、紡績性能を有するカーボンナノチューブアレイを合成したとの報告があるが、これらの報告におけるカーボンナノチューブの長さは、全て1mm以下である。従って、機械強度を高めるためには糸径を10μm以下程度にまで細線化しなければならず、工業的な操作性が極めて低い。これに対し、本実施形態により製造されるカーボンナノチューブは、上記条件を全て満たし、工業的に極めて有用な紡績性能を有するものである。
【0044】
本実施形態に係る製造方法は、
図1に示された製造装置10を使用した場合における一つの例示であるが、カーボンナノチューブの製造方法は、製造装置10とは異なる構造を有する製造装置を用いても実施することができる。すなわち、カーボンナノチューブを成長させる為には、上述した化学気相反応が反応容器管14の内部において維持されればよい。したがって、工業的な生産効率を考慮して、気化された触媒を担体ガスと共に反応容器管14の内部へ供給してもよい。
【0045】
(実施例1)
上記実施形態の一実施例について以下に説明する。発明者は、
図1に示された製造装置10を用いて、多層カーボンナノチューブを基板28上に成長させた。基板28の大きさは、縦横の長さがそれぞれ10mmであり、厚さが1mmであった。また、反応容器管14の径は36mmであった。また、反応容器管14の内部温度を835℃とし、昇温速度を毎分40℃とし、触媒26(FeCl
2)の量を300mgとし、原料ガス30(C
2H
2)の圧力を8Torrとし、原料ガス30の流量を200sccmとした。そして、カーボンナノチューブを複数回にわたり成長させ、各回における成長時間を種々に変化させた。
【0046】
図5は、こうして作製されたカーボンナノチューブの長さと、成長時間との関係を示すグラフである。
図5における各プロットP1は、各回におけるカーボンナノチューブの長さと成長時間とを表している。また、
図5に示されるグラフG1は、カーボンナノチューブの長さと成長時間との関係を直線近似したものである。なお、比較のため、
図5には、特許文献2に記載された方法を用いてカーボンナノチューブを成長させた場合における、長さと成長時間との関係(プロットP2及びグラフG2)も併せて示されている。
【0047】
図5に示されるように、グラフG1及びG2の双方において、カーボンナノチューブは時間の経過にしたがって成長し、或る長さに達すると成長は止まる。しかしながら、グラフG1とグラフG2とを比較すると、グラフG2ではカーボンナノチューブの成長が長さ2mm程度で停止しているが、本実施例であるグラフG1では、カーボンナノチューブが長さ4mmを超えるまで成長を続けている。このように、本実施例では、従来の製法と比較してより長尺のカーボンナノチューブが得られた。なお、
図6は、4mmを超える長さに成長したカーボンナノチューブ42を示す写真である。
図6を参照すると、このような長さのカーボンナノチューブ42が、基板28上に垂直配向されていることがわかる。
【0048】
なお、
図6から明らかなように、基板28上に成長した複数本のカーボンナノチューブ42は互いに密集している。したがって、或るカーボンナノチューブ42の一端を引き出すと、隣接するカーボンナノチューブ42同士が連なって切れ目のない長い繊維状に紡糸され、カーボンナノチューブファイバを形成することができる。カーボンナノチューブファイバを引き出す端緒としては、ピンセットを用いてカーボンナノチューブ42をつまみ出してもよく、あるいは粘着手段を用いてカーボンナノチューブ42を引き出しても良い。粘着テープなどを用いて、一定幅にわたる複数本のカーボンナノチューブ42を同時に引き出すことにより、カーボンナノチューブ42をカーボンナノチューブテープあるいはカーボンナノシートとして引き出すこともできる。
【0049】
(実施例2)
上記実施形態の別の実施例について以下に説明する。発明者は、
図1に示された製造装置10を用いて、多層カーボンナノチューブを基板28上に成長させた。基板28の大きさは、縦横の長さがそれぞれ10mmであり、厚さが1mmであった。また、反応容器管14の径は36mmであった。また、反応容器管14の内部温度を825℃とし、昇温速度を毎分40℃とし、触媒26(FeCl
2)の量を200mgとし、原料ガス30(C
2H
2)の圧力を2Torrとし、原料ガス30の流量を200sccmとした。そして、ハロゲン含有物ガスとして塩素ガス(Cl
2)を追加で供給するとともに、その塩素ガスの供給量を、0ppmから700ppmまで複数設定し、これらの供給量のそれぞれにおいてカーボンナノチューブを90分間合成した。
【0050】
図7は、こうして作製されたカーボンナノチューブの長さと、成長時間との関係を示すグラフである。
図7におけるグラフG10〜G13それぞれは、塩素ガスの流量が0ppm、100ppm、200ppm、及び700ppmのそれぞれである場合の関係を示している。
【0051】
図7に示されるように、塩素ガスの供給量が0ppmおよび100ppmであるグラフG10及びG11では、カーボンナノチューブは時間の経過にしたがって成長し、或る長さ(本実施例では1.7mm程度)に達すると成長は止まる。しかしながら、塩素ガスの供給量が200ppm以上であるグラフG12及びG13では、カーボンナノチューブが3mmを超える長さに成長している。このように、本実施例においても、従来の製法と比較してより長尺のカーボンナノチューブが得られた。また、本実施例では、上記実施形態と比較して塩素ガスの供給量は10分の1程度であるが、上記実施形態と同様に、長尺のカーボンナノチューブが得られた。
【0052】
本発明によるカーボンナノチューブの製造方法及び製造装置は、上述した実施形態に限られるものではなく、他に様々な変形が可能である。例えば、基板上にFeなどの触媒粒子を形成し、大気圧または減圧の反応容器に炭化水素ガスを供給して触媒粒子の触媒作用により炭化水素を分解して炭素を取り出しカーボンナノチューブを成長させる一般的な方法においても本発明を適用可能である。
【0053】
また、上記実施形態では触媒の表面における炭素生成物の生成量を低減する為のハロゲン含有物として、例えばF
2、Cl
2、Br
2、HF、CF
4、HCl、HBrや塩化物を含むハロゲン含有物ガスを用いているが、ハロゲン含有物はこれらに限られるものではなく、炭素生成物の生成量を低減できる物質であればよい。また、容器内へ供給されるハロゲン含有物の相は気体に限らず、液体や固体であってもよい。
【0054】
また、上記実施形態では原料ガスの供給を開始したのちにハロゲン含有物ガスの供給を開始しているが、これらの供給を同時に開始してもよい。また、上記実施形態ではハロゲン含有物ガスの供給を開始してから所定時間が経過した後にハロゲン含有物ガスの供給量を増加させているが、ハロゲン含有物ガスの供給量は一定でもよく、或いは時間の経過に応じて適宜増減してもよい。