特許第6153810号(P6153810)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6153810-水素供給システム 図000008
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6153810
(24)【登録日】2017年6月9日
(45)【発行日】2017年6月28日
(54)【発明の名称】水素供給システム
(51)【国際特許分類】
   C01B 3/38 20060101AFI20170619BHJP
   C01B 3/48 20060101ALI20170619BHJP
   C01B 3/56 20060101ALI20170619BHJP
【FI】
   C01B3/38
   C01B3/48
   C01B3/56 Z
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-163460(P2013-163460)
(22)【出願日】2013年8月6日
(65)【公開番号】特開2015-30652(P2015-30652A)
(43)【公開日】2015年2月16日
【審査請求日】2016年7月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003285
【氏名又は名称】千代田化工建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】特許業務法人 大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡田 佳巳
(72)【発明者】
【氏名】今川 健一
(72)【発明者】
【氏名】河合 裕教
(72)【発明者】
【氏名】白髪 昌斗
(72)【発明者】
【氏名】石山 辰雄
【審査官】 宮崎 園子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−031255(JP,A)
【文献】 特開2012−176879(JP,A)
【文献】 国際公開第01/004046(WO,A1)
【文献】 特開2003−040601(JP,A)
【文献】 特開2007−153726(JP,A)
【文献】 特開2008−290927(JP,A)
【文献】 特開2009−221057(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 3/38
C01B 3/48
C01B 3/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素の水蒸気改質を行う改質装置と、
前記改質装置から得られるガスの水性ガスシフト反応を行い、水素及び二酸化炭素を含むガスを得るシフト反応装置と、
前記シフト反応装置から得られるガスに含まれる二酸化炭素を吸収液に吸収させる第1吸収装置と、
前記第1吸収装置を通過したガスを用いて芳香族化合物の水素化反応を行い、水素化芳香族化合物を生成する水素化反応装置と、
前記第1吸収装置との間で吸収液の循環を行い、前記水素化反応によって発生する熱を利用して、二酸化炭素を吸収した吸収液を加熱し、吸収液から二酸化炭素を分離させる再生装置と
前記改質装置に熱を供給する加熱炉と、
前記加熱炉で発生した二酸化炭素を吸収液に吸収させる第2吸収装置とを有し、
前記第2吸収装置は前記再生装置との間で吸収液の循環を行い、前記第2吸収装置において二酸化炭素を吸収した吸収液は前記再生装置において加熱され、二酸化炭素が分離されることを特徴とする水素供給システム。
【請求項2】
前記第1吸収装置を通過したガスから水素を分離し、分離した水素を前記水素化反応装置に供給する水素分離装置を有し、
前記加熱炉は、前記水素分離装置によって水素が分離された残りのガスの燃焼熱を前記水蒸気改質に供給することを特徴とする請求項1に記載の水素供給システム。
【請求項3】
前記水素化反応によって発生する熱は、温度100℃〜200℃、圧力0.10〜1.62MPaAの水蒸気として前記再生装置に供給されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の水素供給システム。
【請求項4】
炭化水素の水蒸気改質及び前記水蒸気改質によって生成されたガスの水性ガスシフト反応によって、水素及び二酸化炭素を含むガスを生成する水素生成工程と、
前記水素生成工程によって得られたガスに含まれる二酸化炭素を吸収液に吸収させる第1吸収工程と、
前記第1吸収工程を経たガスを用いて芳香族化合物の水素化反応を行い、水素化芳香族化合物を生成する水素化工程と、
燃料を燃焼することによって発生した燃焼熱を、前記水蒸気改質に利用する加熱工程と、
前記加熱工程における燃料の燃焼によって生じた二酸化炭素を吸収液に吸収させる第2吸収工程と、
前記水素化反応によって発生する熱を利用して、前記第1吸収工程及び前記第2吸収工程において二酸化炭素を吸収した吸収液を加熱し、吸収液から二酸化炭素を分離させる再生工程とを有することを特徴とする水素の供給方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化水素から水素を製造して供給する水素供給システムに関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化の原因となる炭酸ガスの排出量削減の観点から、石油等の炭化水素に代えて炭素を含まない水素ガスを利用する機運が高まっている。運輸関連では、水素ガスを直接燃焼させる水素自動車や、燃料電池を利用した燃料電池自動車の開発が進められている。また、コジェネレーションを目的とした定置型燃料電池も開発が進められている。
【0003】
水素ガスは、炭化水素の改質や、水の電気分解によって製造される。炭化水素の改質は広く使用されている手法であり、その中の1つである水蒸気改質は、高温、触媒存在下で天然ガスやナフサ等の炭化水素と水蒸気とを反応させ、水素と一酸化炭素とを生成する(例えば、特許文献1)。水蒸気改質によって得られた一酸化炭素は、続く水性ガスシフト反応によって、水と反応し、水素と二酸化炭素(炭酸ガス)とを生成する。
【0004】
炭化水素の改質によって水素ガスを製造した場合には、必ず炭酸ガスが副生成物として生成される。そのため、地球温暖化防止の観点から炭酸ガスを大気中に放出させないために、水素ガスから分離し、適切に貯蔵する必要がある。任意のガスから炭酸ガスを除去する手法として、例えばアルカノールアミン水溶液等の炭酸ガスを吸収する吸収液に炭酸ガスを含むガスを接触させ、吸収液に炭酸ガスを吸収させる方法がある(例えば、特許文献2)。炭酸ガスを吸収した吸収液は、加熱による再生処理によって炭酸ガスを放出し、再度、炭酸ガスを吸収するために使用される。この手法を用いれば、水素ガスから炭酸ガスを分離することができる。分離した炭酸ガスは、例えば、地中や海底中に貯留することで大気中への放出を避けることができる。炭酸ガスの回収、貯蔵(CCS)を利用することによって、水素ガスは、製造工程においても二酸化炭素を発生しない、クリーンなエネルギーとして使用することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013−49601号公報
【特許文献2】特開平5−301023号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の水素の製造工程の熱収支を考えた場合、炭酸ガスを吸収した吸収液の加熱再生処理に必要な熱量が不足するため、外部から再生処理に熱量を供給する必要がある。これにより、水素の製造に必要となるエネルギー使用量が増大すると共に、エネルギー使用量に応じて炭酸ガスの排出量が増大するという問題がある。また、炭酸ガスの地中への貯留は実施可能な場所が限定されているため、水素の需要地域に隣接した場所で水素を製造した場合には、炭酸ガスの地中への貯留を実施できない場合がある。この場合には、大量の炭酸ガスを地中貯留が可能な場所に効率良く輸送するための技術、コスト、及びエネルギー等が必要になるという問題がある。
【0007】
本発明は、以上の問題を鑑み、水素供給システムにおいて、炭酸ガス排出量を低減すると共にエネルギー使用効率を高めることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、水素供給システム(1)であって、炭化水素の水蒸気改質を行う改質装置(5)と、前記改質装置から得られるガスの水性ガスシフト反応を行い、水素及び二酸化炭素を含むガスを得るシフト反応装置(6)と、前記シフト反応装置から得られるガスに含まれる二酸化炭素を吸収液に吸収させる第1吸収装置(36)と、前記第1吸収装置を通過したガスを用いて芳香族化合物の水素化反応を行い、水素化芳香族化合物を生成する水素化反応装置(8)と、前記第1吸収装置との間で吸収液の循環を行い、前記水素化反応によって発生する熱を利用して、二酸化炭素を吸収した吸収液を加熱し、吸収液から二酸化炭素を分離させる再生装置(37)とを有することを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、生成した水素を用いて芳香族化合物の水素化反応を行い、水素化反応によって生じた熱を、二酸化炭素を吸収した吸収液の再生処理に利用するため、水素供給システムの熱収支が改善する。これにより、水素供給システムは、外部からのエネルギー供給を低減することができると共に、二酸化炭素(炭酸ガス)の排出量を削減することができる。
【0010】
また、生成される水素は、常温で液体となる水素化芳香族化合物(有機ハイドライド)に変換されるため、その後の輸送等の取扱いが容易になる。水素化芳香族化合物は、脱水素反応によって水素を放出するため、水素の需要に応じて水素を供給することができる。このように、水素を水素化芳香族化合物に変換することによって輸送が容易になるため、炭化水素から水素を製造する設備(装置、プラント)を水素の需要地(都市等)から離れた地域に設け、水素の需要地、又はこれに隣接した地域において水素化芳香族から水素を生成するというシステムを構築することができる。すなわち、水素の需要地によって影響を受けることなく、炭酸ガスの地中への貯留に適した場所や炭化水素の採掘場所に炭化水素から水素を製造する設備を設置することができる。これにより、水素の製造過程で発生する炭酸ガスを地中への貯留に適した場所に輸送する工程が省略され、輸送に関するコストやエネルギーが削減される。
【0011】
上記の発明において、前記改質装置に熱を供給する加熱炉(28)と、前記加熱炉で発生した二酸化炭素を吸収液に吸収させる第2吸収装置(38)とを更に有し、前記第2吸収装置は前記再生装置との間で吸収液の循環を行い、前記第2吸収装置において二酸化炭素を吸収した吸収液は前記再生装置において加熱され、二酸化炭素が分離されるとよい。
【0012】
この構成によれば、改質装置の加熱によって生じる二酸化炭素が回収される。これにより、水素供給システムの二酸化炭素放出量が低減される。
【0013】
上記の発明において、前記第1吸収装置を通過したガスから水素を分離し、分離した水素を前記水素化反応装置に供給する水素分離装置(8)を有し、前記加熱炉は、前記水素分離装置によって水素が分離された残りのガスの燃焼熱を前記水蒸気改質に供給するとよい。
【0014】
この構成によれば、水素分離装置を通過したガスは水素濃度が高くなるため、水素化反応装置における水素化反応の効率を高めることができる。また、水素分離装置によって水素が分離された残りのガスの燃焼熱を利用して水蒸気改質を行うため、熱収支が改善する。
【0015】
上記の発明において、前記水素化反応によって発生する熱は、温度100℃〜200℃、圧力0.10〜1.62MPaAの水蒸気として前記再生装置に供給されるとよい。
【0016】
この構成によれば、汎用性が高い手法を用いて水素化反応装置の熱を再生装置に供給することができる。
【0017】
本発明の他の側面は、水素化芳香族化合物の製造方法であって、炭化水素の水蒸気改質及び前記水蒸気改質によって生成されたガスの水性ガスシフト反応によって、水素及び二酸化炭素を含むガスを生成する水素生成工程と、前記水素生成工程によって得られたガスに含まれる二酸化炭素を吸収液に吸収させる吸収工程と、前記吸収工程を経たガスを用いて芳香族化合物の水素化反応を行い、水素化芳香族化合物を生成する水素化工程と、前記水素化反応によって発生する熱を利用して、二酸化炭素を吸収した吸収液を加熱し、吸収液から二酸化炭素を分離させる再生工程とを有することを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、生成した水素を用いて芳香族化合物の水素化反応を行い、水素化反応によって生じた熱を、二酸化炭素を吸収した吸収液の再生処理に利用するため、水素の供給方法における熱収支が改善する。また、生成した水素を水素化芳香族化合物に変換するため、その後の輸送や取扱いが容易になる。
【発明の効果】
【0019】
以上の構成によれば、水素供給システムにおいて、炭酸ガス排出量を低減すると共にエネルギー使用効率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】実施形態に係る水素供給システムの構成を示すブロック図
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して、本発明に係る水素供給システムの実施形態について説明する。図1は、実施形態に係る水素化生成装置の構成を示すブロック図である。
【0022】
水素供給システム1は、炭化水素ガスから水素を生成し、生成された水素を水素化芳香族化合物に変換する水素化芳香族化合物生成部2と、水素化芳香族化合物から水素を生成する水素供給部3とを有する。水素化芳香族化合物生成部2及び水素供給部3は、プラントや装置として構成される。水素化芳香族化合物生成部2と水素供給部3とは、互いに離れた場所に設けてもよい。例えば、水素化芳香族化合物生成部2は炭酸ガスを貯留することができる地層が存在する場所に設けられ、水素供給部3は水素の需要地である都市等やその隣接地に設けられるとよい。水素化芳香族化合物生成部2は、炭酸ガスを貯留することができる地層が存在する場所に加え、石油や天然ガスの採掘地に隣接していることが好ましい。
【0023】
水素供給システム1の水素化芳香族化合物生成部2は、水蒸気改質装置5と、WGS装置(Water Gas Shift、水性ガスシフト反応装置)6と、二酸化炭素分離装置7と、水素精製装置(水素分離装置)8と、水素化装置9と、第1芳香族化合物タンク11と、第1水素化芳香族化合物タンク12とを主要な構成として有している。水素供給部3は、第2芳香族化合物タンク15と、第2水素化芳香族化合物タンク16と、脱水素装置17とを有している。水素化芳香族化合物生成部2を構成する各要素は、配管等によって形成されたラインによって互いに接続されている。同様に、水素供給部3を構成する各要素は、配管等によって形成されたラインによって互いに接続されている。
【0024】
水素供給システム1に供給される炭化水素ガスは、天然ガスや、ナフサ、オフガス等であってよい。炭化水素ガスは、メタンを主成分とした軽質炭化水素ガスであることが好ましい。本実施形態では、炭化水素ガスは天然ガスである。
【0025】
炭化水素ガスは、最初に、第1加熱器21を通して脱硫装置22に供給される。炭化水素ガスには、水蒸気改質装置5において使用される改質触媒の触媒毒となるメルカプタン等の硫黄化合物が含まれている場合がある。この硫黄化合物を炭化水素ガスから除去するために、脱硫装置22は、硫黄化合物を水素化脱硫するCo−Mo系触媒やNi−Mo系触媒と、得られた硫化水素を吸着除去する酸化亜鉛の吸着剤とを有している。
【0026】
脱硫された炭化水素ガスには、水蒸気が混合される。水蒸気は、STM(水蒸気)製造装置24において水が加熱、蒸発されることによって製造され、第2加熱器25を通過して昇温された後に脱硫された炭化水素ガスに混合される。互いに混合された炭化水素ガス及び水蒸気は、第3加熱器26を通過して昇温され、水蒸気改質装置5に供給される。
【0027】
水蒸気改質装置5は、複数のチューブ(管)からなる管型反応器として形成されている。水蒸気改質装置5の内部には改質触媒が充填され、内部を炭化水素ガス及び水蒸気が通過する。水蒸気改質装置5は、加熱炉28と熱交換可能に配置され、加熱炉28から熱の供給を受ける。加熱炉28は、水素精製装置8と連結され、水素精製装置8からメタン等を含む燃料(オフガス)が供給される。また、脱硫装置22等に供給される原料としての天然ガスの一部が追加燃料として加熱炉28に供給されてもよい。加熱炉28内では燃料が燃焼し、その燃焼熱によって水蒸気改質装置5が加熱される。水蒸気改質装置5と加熱炉28との一例として、加熱炉28内に水蒸気改質装置5が配置され、加熱炉28内での燃料の燃焼に伴う輻射熱によって水蒸気改質装置5が加熱される構成としてもよい。
【0028】
水蒸気改質装置5に充填された改質触媒は、例えばニッケル系触媒である。水蒸気改質装置5はシェル内で約800℃に加熱され、炭化水素ガスと水蒸気は、改質触媒の存在下で次の式1及び式2の水蒸気改質反応に従って反応する。
【数1】
【数2】
【0029】
数1及び数2の水蒸気改質反応によって、炭化水素ガスと水蒸気とから、水素、二酸化炭素、及び一酸化炭素が生成される。水蒸気改質反応は、吸熱反応であり、外部からの熱供給が必要となる。
【0030】
水蒸気改質装置5から排出される生成ガスは、第1冷却装置31を通過してWGS装置6に供給される。生成ガスは、第1冷却装置31を通過することによって、冷却水等の冷却媒体と熱交換し、冷却媒体によって熱が回収され、続くWGS装置6のシフト反応に適した温度に冷却される。第1冷却装置31では、生成ガスは、例えば250℃〜500℃に冷却される。
【0031】
WGS装置6では、鉄−クロム系、銅−クロム系、又は銅−亜鉛系触媒等の存在下で次の数3に基づいた水性ガスシフト反応が行われる。WGS装置6の温度は、シフト反応の反応速度及び生成物の組成比を考慮して適宜設定するとよい。シフト反応によって、ガス中の一酸化炭素及び水は、水素及び二酸化炭に変換される。これにより、WGS装置6を通過したガスの主成分は、水素、二酸化炭素、水になる。
【数3】
【0032】
WGS装置6を通過した生成ガスは、第2冷却装置32に送られ、第2冷却装置32において冷却媒体と熱交換して100℃以下に冷却され(熱が回収され)、生成ガス中の水蒸気が凝縮される。凝縮水を含む生成ガスは、気液分離装置34に供給され、凝縮水が生成ガスから分離される。気液分離装置34は、公知のノックアウトドラムであってよい。気液分離装置34で、水が分離された生成ガスは、二酸化炭素分離装置7に供給される。
【0033】
二酸化炭素分離装置7は、化学吸収法の二酸化炭素分離回収技術を利用した装置である。本実施形態の二酸化炭素分離装置7は、二酸化炭素を選択的に溶解するアルカノールアミン水溶液を吸収液(吸収剤)として使用する化学吸収法を用いた装置である。二酸化炭素分離装置7は、第1CO回収装置36と、吸収液再生装置37と、第2CO回収装置38とを有する。第1CO回収装置36と吸収液再生装置37とは互いに吸収液が循環可能に接続されている。同様に、第2CO回収装置38と吸収液再生装置37とは互いに吸収液が循環可能に接続されている。吸収液としてのアルカノールアミンは、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、ジグリコールアミン、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノールであってよい。本実施形態では、吸収液にモノエタノールアミンを使用する。
【0034】
気液分離装置34から供給される生成ガスは、第1CO回収装置36に供給される。生成ガスは、例えば塔型に形成された第1CO回収装置36の下部に導入され、第1CO回収装置36の内部を通過して上部から排出される。吸収液は、第1CO回収装置36内において生成ガスと向流接触するように、第1CO回収装置36の上部から下部に流れる。第1CO回収装置36に供給された生成ガスは、吸収液との接触によって、炭酸ガスが吸収液に吸収され、除去される。炭酸ガスが除去された生成ガスは、水素精製装置8に供給される。
【0035】
第1CO回収装置36において、炭酸ガスを吸収した吸収液は、第1CO回収装置36の下部から例えば塔型に形成された吸収液再生装置37の上部に供給され、再生処理を受ける。吸収液再生装置37は、熱交換器である加熱器を有している。吸収液再生装置37に供給された吸収液は、加熱器によって加熱される。加熱器は、後に詳述するように、水素化装置9から供給される熱を受けて吸収液を加熱する。本実施形態では、水素化装置9から水蒸気の形で加熱器は熱の供給を受ける。
【0036】
吸収液再生装置37において加熱された吸収液は、吸収した炭酸ガスを放出する。吸収液から分離した炭酸ガスは吸収液再生装置37の上部から取り出され、炭酸ガスが分離された吸収液は吸収液再生装置37から第1CO回収装置36に戻される。吸収液再生装置37から取り出された炭酸ガスは、貯蔵されて大気中への放出が避けられる。炭酸ガスの貯蔵は、タンクでの貯蔵や、地中や海底中への注入、固定を含む。また、炭酸ガスは、メタネーション反応の原料として使用されてもよい。
【0037】
水素精製装置8は、炭酸ガスが除去された生成ガスから水素を分離する。水素精製装置8は、圧力スイング吸着(PSA)や水素分離膜を使用した公知の装置であってよく、メタン等を含む生成ガスから水素を分離する。本実施形態では、水素精製装置8は、圧力スイング吸着装置である。水素精製装置8で水素を分離した後のガス(オフガス)は、未反応成分であるメタンや一酸化炭素を含む。水素精製装置8で分離された水素は、水素化装置9に供給される。一方、水素が分離された残りのオフガスは、加熱炉28に供給され、加熱炉28内にて燃焼する。これにより、水蒸気改質装置5が加熱される。
【0038】
加熱炉28での燃焼によって生じた炭酸ガスを含む排出ガス(燃焼ガス)は、第2CO回収装置38に供給される。第2CO回収装置38は、第1CO回収装置36と同様の構成を有する。排出ガス中の炭酸ガスは、第2CO回収装置38において吸収液に吸収される。第2CO回収装置38において炭酸ガスを吸収した吸収液は、第1CO回収装置36から吸収液再生装置37に送られた吸収液と同様に、吸収液再生装置37に送られ、加熱による再生処理を受け、吸収した炭酸ガスを放出する。炭酸ガスが分離された吸収液は、吸収液再生装置37から第2CO回収装置38に戻される。
【0039】
水素化装置9は、水素化触媒(水添触媒)の存在下で、水素化反応(水添反応)によって、水素と芳香族化合物とから水素化芳香族化合物を生成する。水素化反応は、芳香族化合物としてトルエン、トルエンの水素化芳香族化合物としてメチルシクロヘキサンを使用した場合について例示すると次の数4のように表される。水素化反応は、数4を左から右に進む反応であり、発熱反応である。
【数4】
【0040】
芳香族化合物は、特に限定されるものではないが、ベンゼン、トルエン、キシレン等の単環式芳香族化合物や、ナフタレン、テトラリン、メチルナフタレン等の2環式芳香族化合物や、アントラセン等の3環式芳香族化合物であり、これらを単独、或いは2種以上の混合物として用いることができる。水素化芳香族化合物は、上記の芳香族化合物を水素化したものであり、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン等の単環式水素化芳香族化合物や、テトラリン、デカリン、メチルデカリン等の2環式水素化芳香族化合物や、テトラデカヒドロアントラセン等の3環式水素化芳香族化合物等であり、これらを単独、或いは2種以上の混合物として用いることができる。水素化芳香族化合物は、芳香族化合物の水素化反応の生成物であり、それ自体が常温、常圧で安定な液体であると共に脱水素されて安定な芳香族化合物となるものであればよい。上記の水素化芳香族化合物及び芳香族化合物のうち、水素化芳香族化合物にメチルシクロヘキサンを使用し、芳香族化合物にメチルシクロヘキサンを脱水素化したトルエンを使用することが好ましい。
【0041】
水素化触媒は、芳香族化合物を水素化するために使用される公知の触媒であってよく、例えば、アルミナやシリカを担体とし、活性金属として白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ニッケル(Ni)等が担持されたものである。水素化触媒は、水素化装置9の内部に充填されている。
【0042】
水素化装置9には、水素精製装置8から水素が供給されると共に、第1芳香族化合物タンク11から芳香族化合物の供給される。水素化装置9では、水素化触媒の存在下で、上記の式4に基づく水素化反応によって、水素と芳香族化合物とから水素化芳香族化合物が生成される。生成された水素化芳香族化合物は、第1水素化芳香族化合物タンク12に供給され、貯蔵される。
【0043】
水素化装置9は、熱交換器を有する。水素化装置9の熱交換器は、水素化反応によって生じる熱量を吸収し、その熱量を吸収液再生装置37に供給する。水素化装置9の熱交換器は、例えば、水蒸気ドラムとして形成されている。水蒸気ドラムは、水素化装置9と熱交換可能に配置され、水素化装置9から熱を受けて水から水蒸気を発生する。水蒸気ドラムが発生する水蒸気は、温度が100℃以上200℃以下であり、圧力が0.10MPaA以上1.55MPa以下である。水蒸気ドラムは、配管等によって吸収液再生装置37と循環可能に接続され、水蒸気ドラムにおいて発生した水蒸気は吸収液再生装置37との間で循環する。すなわち、水素化装置9における水素化反応によって生じる熱が、水蒸気ドラム等の熱交換器を介して吸収液再生装置37に伝達される。
【0044】
第1水素化芳香族化合物タンク12に貯蔵された液体の水素化芳香族化合物は、船舶や車両、パイプラインによる輸送によって水素供給部3の第2水素化芳香族化合物タンク16に輸送される。第2水素化芳香族化合物タンク16に供給された水素化芳香族化合物は、脱水素装置17に供給される。脱水素装置17では、脱水素触媒の存在下で脱水素反応によって、水素化芳香族化合物から水素と芳香族化合物とを生成する。脱水素反応は、上記の式4の右から左に進む反応である。脱水素装置17において生成された気体の水素と液体の芳香族化合物は、図示しない気液分離装置で分離され、水素は水素ガスとして外部に供給され、液体の芳香族化合物は第2芳香族化合物タンク15に貯蔵される。この脱水素反応に基づいて、水素化芳香族化合物は、需要に応じて水素を供給することができる。第2芳香族化合物タンク15に貯蔵された芳香族化合物は、船舶や車両、パイプラインによる輸送によって水素化芳香族化合物生成部2の第1芳香族化合物タンク11に輸送される。以上のように、水素化芳香族化合物生成部2と水素供給部3との間で、水素化芳香族化合物及び芳香族化合物の循環サイクル、いわゆる水素サプライチェーンが形成される。
【0045】
図1のブロック図に沿って、炭化水素ガスとして天然ガスから水素ガスを生成する場合の物質収支を以下の表1に示す。表1は、供給する天然ガスに含まれる各組成のモル数の合計を100kmol/hrとしている。表1から、天然ガスの流量を100kmol/hrとした場合には、水素ガスが303.9kmol/hr生成されることがわかる。
【表1】
【0046】
上記の表1の物質収支に基づいた熱収支を表2に示す。表2中の熱量の数値は、正の値が外界からの熱の吸収を表し、負の値が外界への熱の放出を表している。表2では、芳香族化合物としてトルエン、トルエンを水素化した水素化芳香族化合物としてシクロメチルヘキサンを使用している。
【表2】
【0047】
図1に示すように、天然ガスの予熱(I)は、第1加熱器21において行われる。水蒸気の予熱(II)は、第2加熱器25において行われる。天然ガス及び水蒸気の予熱(III)は、第3加熱器26において行われる。改質反応による吸熱(IV)は、水蒸気改質装置5において発生する。第1冷却装置31での熱回収(V)は、水蒸気改質装置5からの生成ガスと熱交換することによって行われる。シフト反応による発熱(VI)は、WGS装置6において発生する。第2冷却装置32での熱回収(VII)は、WGS装置6からの生成ガスと熱交換することによって行われる。改質反応への熱供給(VIII)は、加熱炉28において、水素精製装置8から供給されるオフガスの燃焼によって行われる。吸収液再生装置37での熱量(IX)は、吸収液再生装置37において二酸化炭素を吸収したモノエタノールアミンから二酸化炭素を脱離させるために加えられる熱量である。水素化反応による発熱(X)は、水素化装置9において発熱反応である水素化反応によって発生する。
【0048】
上述したように、天然ガスの流量を100kmol/hrとした場合には、水素ガスが303.9kmol/hr発生する。303.9kmol/hrの水素ガスを全て、トルエンの水素化反応に使用すると、上記の数4に基づいてトルエンは101.3kmol/hr反応する。水素化反応では、トルエン1モル当たり−205kJの熱が生じるため、101.3kmol/hrのトルエンが反応すると、熱量は−20.80GJ/hrになる。
【0049】
表2に示すように、水素供給システム1の水素化芳香族化合物生成部2における熱収支の合計値は−15.97GJ/hrとなる。すなわち、水素化芳香族化合物生成部2は、外部からエネルギー(熱)の供給を受けることなく、水素化芳香族化合物を生成することができると共に、発生する炭酸ガスを回収・貯蔵することができる。仮に、水素ガスを水素化芳香族化合物に変換せず、水素ガスの状態で貯蔵する場合には、水素化反応による発熱(X:−20.80GJ/hr)を利用することができないため、外部から4.83GJ/hr(=−15.97−(−20.80))を供給する必要が生じる。
【0050】
以上のように、水素供給システム1の水素化芳香族化合物生成部2は、生成される水素を水素化芳香族化合物に変換して貯蔵することによって、炭酸ガスを吸収した吸収液の再生処理に水素化反応によって生じる熱を利用することができる。これにより、水素供給システム1は、外部からエネルギー(熱)の供給を受けることなく、炭酸ガスの回収・貯蔵(CCS)を行うことができ、炭酸ガス排出量を削減することができる。また、水素供給システム1は、水素を水素化芳香族化合物に変換して貯蔵するため、その後の輸送に適している。また、水素を水素化芳香族化合物に変換し、輸送を容易にすることによって、水素化芳香族化合物生成部2と水素供給部3とを互いに地理的に離れた場所に設けることが可能になる。これにより、水素化芳香族化合物生成部2を炭酸ガスの貯留に適した地層が存在する場所や炭化水素ガスの採掘地に設けることができ、炭酸ガスや炭化水素ガスの輸送に伴うコストやエネルギーを削減することができる。
【0051】
また、加熱炉28でのオフガスの燃焼に伴って発生する炭酸ガスが、第2CO回収装置38によって回収されるため、水素供給システム1から排出される炭酸ガス量が低減されている。
【0052】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。上記の実施形態では、水素化装置9で行われる水素化反応から生じる熱を、水蒸気ドラムを利用して水蒸気に変換して輸送し、吸収液再生装置37に供給したが、熱の輸送は水蒸気を利用したものに限られない。例えば、吸収液再生装置37と水素化装置9とを隣接して配置し、直接に熱交換するようにしてもよい。また、吸収液が流れるライン(配管)が水素化装置9内を通過するように配置してもよい。逆に、水素化装置9の反応物及び生成物が流れるライン(配管)が吸収液再生装置37内を通過するように配置してもよい。
【0053】
また、上記の実施形態では、第1CO回収装置36とは別の第2CO回収装置38を設ける構成としたが、他の実施形態では第1CO回収装置36と第2CO回収装置38とを共通化して1つの装置とし、1つのCO回収装置に気液分離装置34を通過した生成ガスと、加熱炉28からの排出ガスとを供給するようにしてもよい。
【0054】
水素化芳香族化合物生成部2及び水素供給部3は、地理的に互いに離れて配置されてもよいし、互いに隣接して配置されてもよい。水素化芳香族化合物生成部2及び水素供給部3を互いに隣接して配置する場合には、第2芳香族化合物タンク15及び第2水素化芳香族化合物タンク16は省略してもよい。水素供給部3は、プラント(大型設備)として設けられるだけでなく、家庭用の小型設備や車載用装置として設けられてもよい。
【符号の説明】
【0055】
1…水素供給システム、2…水素化芳香族化合物生成部、3…水素供給部、5…水蒸気改質装置、6…WGS装置(シフト反応装置)、7…二酸化炭素分離装置、8…水素精製装置、9…水素化装置、11…第1芳香族化合物タンク、12…第1水素化芳香族化合物タンク、15…第2芳香族化合物タンク、16…第2水素化芳香族化合物タンク、17…脱水素装置、21…第1加熱器、22…脱硫装置、24…STM製造装置、25…第2加熱器、26…第3加熱器、28…加熱炉、31…第1冷却装置、32…第2冷却装置、34…気液分離装置、36…第1CO回収装置(第1吸収装置)、37…吸収液再生装置、38…第2CO回収装置(第2吸収装置)
図1