(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6154997
(24)【登録日】2017年6月9日
(45)【発行日】2017年6月28日
(54)【発明の名称】強度およびめっき性に優れる銅合金材およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 9/06 20060101AFI20170619BHJP
C22F 1/08 20060101ALI20170619BHJP
H01B 1/02 20060101ALI20170619BHJP
H01B 5/02 20060101ALI20170619BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20170619BHJP
B21B 3/00 20060101ALI20170619BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20170619BHJP
【FI】
C22C9/06
C22F1/08 B
C22F1/08 P
H01B1/02 A
H01B5/02 A
H01B13/00 Z
B21B3/00 L
!C22F1/00 602
!C22F1/00 604
!C22F1/00 612
!C22F1/00 613
!C22F1/00 623
!C22F1/00 630A
!C22F1/00 630K
!C22F1/00 630F
!C22F1/00 661A
!C22F1/00 681
!C22F1/00 682
!C22F1/00 683
!C22F1/00 685Z
!C22F1/00 686Z
!C22F1/00 691B
!C22F1/00 691C
!C22F1/00 692A
!C22F1/00 692B
!C22F1/00 693A
!C22F1/00 693B
!C22F1/00 694A
!C22F1/00 694B
【請求項の数】7
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2012-157984(P2012-157984)
(22)【出願日】2012年7月13日
(65)【公開番号】特開2014-19889(P2014-19889A)
(43)【公開日】2014年2月3日
【審査請求日】2015年5月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100131288
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 尚祐
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 清慈
(72)【発明者】
【氏名】江口 立彦
【審査官】
相澤 啓祐
(56)【参考文献】
【文献】
特開平04−202728(JP,A)
【文献】
特開平03−097818(JP,A)
【文献】
特開2008−024999(JP,A)
【文献】
特開2005−017284(JP,A)
【文献】
特開昭64−000240(JP,A)
【文献】
特開2010−106363(JP,A)
【文献】
特開2004−156115(JP,A)
【文献】
特開2006−283059(JP,A)
【文献】
特開2014−019889(JP,A)
【文献】
特表2011−508081(JP,A)
【文献】
国際公開第2009/060873(WO,A1)
【文献】
国際公開第2008/099892(WO,A1)
【文献】
米国特許第04897243(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 9/00−9/10
C22F 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Niを5.2〜8.0質量%、Siを1.0〜2.3質量%、並びにTi0.2質量%以下、Fe0.3質量%以下、Cr0.3質量%以下、Co0.1質量%以下、Zr0.05質量%以下、およびHf0.05質量%以下からなる群(A)より選択される1種または2種以上を合計で0.05〜2.0質量%、および/または、Mg0.2質量%以下、Mn0.4質量%以下、Ag0.15質量%以下からなる群(B)より選択される1種または2種以上を合計で0.05〜1.0質量%含有し、残部がCuおよび不可避不純物からなる銅合金材であって、
銅合金の母相の結晶粒界に存在する粒径0.050〜3μmの化合物の粒子の数(NMO)が、5.0×103〜3.0×106個/mm2であることを特徴とする銅合金材。
【請求項2】
Niを5.2〜8.0質量%、Siを1.0〜2.3質量%、並びにTi0.2質量%以下、Fe0.3質量%以下、Cr0.3質量%以下、Co0.1質量%以下、Zr0.05質量%以下、およびHf0.05質量%以下からなる群(A)より選択される1種または2種以上を合計で0.05〜2.0質量%、および/または、Mg0.2質量%以下、Mn0.4質量%以下、Ag0.15質量%以下からなる群(B)より選択される1種または2種以上を合計で0.05〜1.0質量%含有し、残部がCuおよび不可避不純物からなる銅合金材であって、
銅合金の母相の結晶粒界に存在する粒径0.050〜3μmの化合物の粒子の数をNMO、前記母相の結晶粒内に存在する粒径0.050〜3μmの化合物の粒子の数をNMIとしたとき、
NMOが、5.0×103〜3.0×106個/mm2、NMIとNMOの比NMI/NMOが、1/2〜10であることを特徴とする銅合金材。
【請求項3】
前記銅合金材に対し、Sn0.4質量%以下および/またはZn0.3質量%以下を合計で、0.05〜0.8質量%さらに含有することを特徴とする請求項1または2に記載の銅合金材。
【請求項4】
表面の全部または一部に銀めっきが施された請求項1〜3のいずれか1項に記載の銅合金板材。
【請求項5】
Niを5.2〜8.0質量%、Siを1.0〜2.3質量%、並びにTi0.2質量%以下、Fe0.3質量%以下、Cr0.3質量%以下、Co0.1質量%以下、Zr0.05質量%以下、およびHf0.05質量%以下からなる群(A)より選択される1種または2種以上を合計で0.05〜2.0質量%、および/または、Mg0.2質量%以下、Mn0.4質量%以下、Ag0.15質量%以下からなる群(B)より選択される1種または2種以上を合計で0.05〜1.0質量%含有し、残部がCuおよび不可避不純物からなり、銅合金の母相の結晶粒界に存在する粒径0.050〜3μmの化合物の粒子の数(NMO)が、5.0×103〜3.0×106個/mm2である銅合金材の製造方法であって、
(a)前記銅合金材の合金組成を有した銅合金を溶解し、鋳造する溶解・鋳造工程、
(b)この鋳塊を1000〜1055℃の温度にて30分〜1時間加熱保持した後、1000℃未満の温度に一旦冷却し、800℃以上1000℃未満で10分〜1時間保持する均質化処理工程、
(c)熱間加工処理し、600℃以下に冷却する熱間加工工程、
(d)冷間加工する工程、
(e)930〜1055℃で5秒〜2分の保持する熱処理をした後、2段目の熱処理を600〜850℃で5秒〜20分保持し、急速に冷却する溶体化処理工程、
(f)350〜600℃で30分〜12時間加熱処理する時効処理工程、
(g)300〜550℃で5秒〜10分焼鈍する低温焼鈍工程、
をこの順で行うことを特徴とする銅合金材の製造方法。
【請求項6】
Niを5.2〜8.0質量%、Siを1.0〜2.3質量%、並びにTi0.2質量%以下、Fe0.3質量%以下、Cr0.3質量%以下、Co0.1質量%以下、Zr0.05質量%以下、およびHf0.05質量%以下からなる群(A)より選択される1種または2種以上を合計で0.05〜2.0質量%、および/または、Mg0.2質量%以下、Mn0.4質量%以下、Ag0.15質量%以下からなる群(B)より選択される1種または2種以上を合計で0.05〜1.0質量%含有し、残部がCuおよび不可避不純物からなり、銅合金の母相の結晶粒界に存在する粒径0.050〜3μmの化合物の粒子の数をNMO、前記母相の結晶粒内に存在する粒径0.050〜3μmの化合物の粒子の数をNMIとしたとき、NMOが、5.0×103〜3.0×106個/mm2、NMIとNMOの比NMI/NMOが、1/2〜10である銅合金材の製造方法であって、
(a)前記銅合金材の合金組成を有した銅合金を溶解し、鋳造する溶解・鋳造工程、
(b)この鋳塊を1000〜1055℃の温度にて30分〜1時間加熱保持した後、1000℃未満の温度に一旦冷却し、800℃以上1000℃未満で10分〜1時間保持する均質化処理工程、
(c)熱間加工処理し、600℃以下に冷却する熱間加工工程、
(d)冷間加工する工程、
(e)930〜1055℃で5秒〜2分の保持する熱処理をした後、2段目の熱処理を600〜850℃で5秒〜20分保持し、急速に冷却する溶体化処理工程、
(f)350〜600℃で30分〜12時間加熱処理する時効処理工程、
(g)300〜550℃で5秒〜10分焼鈍する低温焼鈍工程、
をこの順で行うことを特徴とする銅合金材の製造方法。
【請求項7】
前記(a)の工程において、前記銅合金材の合金組成に対し、Sn0.4質量%以下および/またはZn0.3質量%以下を合計で、0.05〜0.8質量%さらに含有する銅合金を溶解し、鋳造する溶解・鋳造工程を行うことを特徴とする請求項5または6に記載の銅合金材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、端子、コネクタ、スイッチ、リードフレームなどの電気・電子機器の材料として好適な高強度でめっき性に優れるNi−Si系銅合金に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の電気・電子機器の小型化および高性能化に伴って、そこに用いられるコネクタなどの材料にも、より高水準の厳しい特性が要求されるようになってきている。例えば、コネクタのばね接点部に使用される板材の厚さが薄くなり、接触圧力の確保が難しくなってきている。
コネクタのばね接点部では、薄い板材(ばね材)を撓ませて、その反力で電気的接続に必要な接触圧を得ている。しかし、板材の厚さがより薄くなると同じ接触圧を得るためには撓み量を大きくする必要があり、そのため、板材が弾性限度を超えて塑性変形してしまうことがある。従って、板材には弾性限度の一層の向上が要求されることになる。
【0003】
コネクタのばね接点部の材料には耐応力緩和特性、熱伝導性、曲げ加工性、耐熱性、めっき密着性、マイグレーション特性など多岐に渡る特性が要求される。従来、高強度が必要な用途には、CDA合金ベリリウム銅(JIS C 1720合金)が使用されてきたが、金属ベリリウムの毒性から、近年、代替合金の開発が強く望まれてきた。
【0004】
このため、前記接点部材料には、ベリリウム銅と同等の特性を有し、かつ安価で、安全性の高い材料が強く望まれるようになり、多くの材料の中から比較的強度の高いCu−Ni−Si系銅合金が研究され多数の発明がなされている。Cu−Ni−Si系銅合金は、JIS C 1720合金に対して導電率で優位性がある。しかし、材料の0.2%耐力が1000MPaに近い高強度が要求されるような用途では、開発されているCu−Ni−Si系銅合金は、いまだベリリウム銅の代替材には成り得ていない。その理由としてまず、強度が不足していることがあげられ、特に、JIS C 1720合金において、JIS H 3130に記載の時効処理材やミルハードン材には到達できていない。また、強度を向上させた場合に相反する特性(例えば曲げ加工性、製造性)との両立が成され得ないからである。
【0005】
Cu−Ni−Si系銅合金において、NiおよびSiの濃度を向上させた場合、得られる銅合金材料の強度が向上することは従来から知られている。しかしながら、NiおよびSi濃度の向上は、前述の通り強度と相反する特性(例えば曲げ加工性、製造性)の劣化および製造性の著しい劣化をもたらす。
【0006】
特許文献1は、Ni濃度を8.0mass%、Si濃度を2.0mass%まで向上させた合金において、NiとSiからなる化合物のサイズを、0.003μm以上0.03μm未満の粒径の化合物を小粒子、0.03μm〜100μmの粒径の化合物を大粒子として、その小粒子/大粒子の数の比を1.5以上にすることでせん断加工性を向上させる技術を開示している。特許文献1の発明に基づけば、Agめっきでの突起は無く、せん断加工性に優れる銅合金が製造できるが、引張強度が950MPa以上には到達していない。そのため、ベリリウム銅合金の時効処理材に相当する材料としての適用は難しい。
【0007】
特許文献2には、Ni濃度を8.0mass%、Si濃度を2.0mass%まで向上させた合金において、銅合金素材中の酸化物、晶出物および析出物の抽出残渣中のNi濃度を80%以下にすることで、強度と曲げ加工性を両立させる技術を開示している。特許文献2の発明に基づけば、強度、曲げ加工性に優れる銅合金が製造できるが、引張強度が、950MPa以上には到達しておらず、ベリリウム銅合金の時効処理材の代替材料としての適用は難しい。
【0008】
特許文献3には、Ni濃度を6.0mass%、Si濃度を1.2mass%まで向上させた合金において、銅合金素材の母相の平均結晶粒径を10μm以下として、Cube方位{001}<100>の割合が50%以上である集合組織を有し、層状組織を有さないことにより、強度、曲げ加工性に優れる銅合金の技術を開示している。特許文献3の発明に基づけば、強度、曲げ加工性に優れる銅合金が製造できるが、導電率が20%IACSと一般的な22%IACSよりも低く、ベリリウム銅合金の時効処理材から変更する利点が少ない。
【0009】
特許文献4は、Ni濃度を7.03mass%、Si濃度を0.62mass%まで向上させた銅合金の技術を開示している。特許文献4の発明に基づけば、強度、導電率に優れる銅合金が製造できるが、引張強度が、950MPa以上には到達しておらず、ベリリウム銅合金の時効処理材の代替材としての適用は難しい。
【0010】
特許文献5には、Ni濃度を6.50mass%、Si濃度を0.56mass%まで向上させた銅合金において、Mgを添加することでめっきの耐熱剥離性を改善する技術が開示されている。特許文献5の発明に基づけば、強度、導電率、めっき耐熱剥離性に優れる銅合金が製造できるが、引張強度が、950MPa以上には到達しておらず、ベリリウム銅合金の時効処理材に相当する材料としての適用は難しい。
【0011】
特許文献6には、Ni濃度を8.37mass%、Si濃度を2.08mass%まで向上させた銅合金において、析出する介在物の大きさを10μm以下にすることで、引張強度と導電率の両立を達成する技術が開示されている。特許文献6の発明に基づけば、引張強度1007MPa、導電率33%IACSの銅合金を製造できるが、めっき密着性がやや劣り、めっき性に課題が残る。
【0012】
特許文献7〜9には、Ni濃度を7.0mass%、Si濃度を1.96mass%まで向上させた銅合金において、Sの添加による硫化物や、金属間化合物等の分散を規定することで、引張強度と被削性の両立を達成する技術が開示されている。特許文献7〜9の発明に基づけば、引張強度が1000MPaを超え、被削性に優れる合金が製造できるが、被削性に優れることは、材料の曲げ成型加工性を劣化させることに繋がる為、コネクタ等、プレス加工にて微細構造物を成型する用途には、不向きな点がある。
【0013】
特許文献10には、Ni濃度を5.2mass%、Si濃度を1.17mass%まで向上させた銅合金において、粒界反応型析出のノジュール組織を抑制することで、強度、導電率、曲げ加工性に優れる銅合金の発明が開示されている。特許文献10の発明に基づけば、強度、導電率、曲げ加工性に優れる銅合金が製造できるが、引張強度が、950MPa以上には到達しておらず、ベリリウム銅合金の時効処理材と同様の適用は難しい。
【0014】
特許文献11は、Ni濃度を5.50mass%、Si濃度を1.32mass%まで向上させた銅合金において、特許文献1から発展させこれと同様に、NiとSiからなる化合物の粒径が、0.01μm以上0.05μm未満の大きさの化合物を小粒子、0.05μm以上、5μm未満のものを大粒子として、その小粒子/大粒子の数の比のみでなく、各々の粒子の数密度も制御することで、強度、導電率、加工性に優れる銅合金の発明を開示している。特許文献11の発明に基づけば、強度、導電率、曲げ加工性に優れる銅合金が製造できるが、引張強度が、950MPa以上には到達しておらず、ベリリウム銅合金の時効処理材の代替材としての適用は難しい。
【0015】
特許文献12には、Ni濃度を5.39mass%、Si濃度を1.35mass%まで向上させた銅合金において、引張強度1014MPa、導電率を34%IACSまで向上させた発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特許第3797736号公報
【特許文献2】特許第4209749号公報
【特許文献3】特許第4584692号公報
【特許文献4】特開平1−263243公報
【特許文献5】特開平2−301535号公報
【特許文献6】特開2010−242154号公報
【特許文献7】特開2010−106363号公報
【特許文献8】特許第4630387号公報
【特許文献9】特許第4824124号公報
【特許文献10】特開2007−169764号公報
【特許文献11】特開2009−242926号公報
【特許文献12】特開2011−508081号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
このように従来の技術においては、NiおよびSi濃度の向上により強度の向上を図ることができる。しかし、強度向上が高度なベリリウム銅(JIS C 1720合金)の水準まで、すなわち具体的には引張強度950MPa以上までの改善が成されていない場合が多い。また、強度を向上させようとした場合、導電率の低下を招くことになる。さらに、端子材としての使用を考慮した場合、NiおよびAgめっき等のめっき性が十分ではなくなることが問題となる。本発明はこれらの従来の銅合金材の問題を解決した銅合金材およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の課題は、下記の手段により達成された。
(1)Niを5.2〜8.0質量%、Siを1.0〜2.3質量%、並びにTi
0.2質量%以下、Fe
0.3質量%以下、Cr
0.3質量%以下、Co
0.1質量%以下、Zr
0.05質量%以下、およびHf
0.05質量%以下からなる群(A)より選択される1種または2種以上を合計で0.05〜2.0質量%、および/または、Mg
0.2質量%以下、Mn
0.4質量%以下、Ag
0.15質量%以下からなる群(B)より選択される1種または2種以上を合計で0.05〜1.0質量%含有し、残部がCuおよび不可避不純物からなる銅合金材であって、
銅合金の母相の結晶粒界に存在する粒径0.050〜3μmの化合物の粒子の数(N
MO)が、5.0×10
3〜3.0×10
6個/mm
2であることを特徴とする銅合金材。
(2)Niを5.2〜8.0質量%、Siを1.0〜2.3質量%、並びにTi
0.2質量%以下、Fe
0.3質量%以下、Cr
0.3質量%以下、Co
0.1質量%以下、Zr
0.05質量%以下、およびHf
0.05質量%以下からなる群(A)より選択される1種または2種以上を合計で0.05〜2.0質量%、および/または、Mg
0.2質量%以下、Mn
0.4質量%以下、Ag
0.15質量%以下からなる群(B)より選択される1種または2種以上を合計で0.05〜1.0質量%含有し、残部がCuおよび不可避不純物からなる銅合金材であって、
銅合金の母相の結晶粒界に存在する粒径0.050〜3μmの化合物の粒子の数をN
MO、前記母相の結晶粒内に存在する粒径0.050〜3μmの化合物の粒子の数をN
MIとしたとき、
N
MOが、5.0×10
3〜3.0×10
6個/mm
2、N
MIとN
MOの比N
MI/N
MOが、1/2〜10であることを特徴とする銅合金材。
(3)前記銅合金材に対し、Sn
0.4質量%以下および/またはZn
0.3質量%以下を合計で、0.05〜0.8質量%さらに含有することを特徴とする(1)または(2)に記載の銅合金材。
(4)表面の全部または一部に銀めっきが施された(1)〜(3)のいずれか1項に記載の銅合金板材。
(5)Niを5.2〜8.0質量%、Siを1.0〜2.3質量%、並びにTi
0.2質量%以下、Fe
0.3質量%以下、Cr
0.3質量%以下、Co
0.1質量%以下、Zr
0.05質量%以下、およびHf
0.05質量%以下からなる群(A)より選択される1種または2種以上を合計で0.05〜2.0質量%、および/または、Mg
0.2質量%以下、Mn
0.4質量%以下、Ag
0.15質量%以下からなる群(B)より選択される1種または2種以上を合計で0.05〜1.0質量%含有し、残部がCuおよび不可避不純物からなり、銅合金の母相の結晶粒界に存在する粒径0.050〜3μmの化合物の粒子の数(N
MO)が、5.0×10
3〜3.0×10
6個/mm
2である銅合金材の製造方法であって、
(a)前記銅合金材の合金組成を有した銅合金を溶解し、鋳造する溶解・鋳造工程、
(b)この鋳塊を1000〜1055℃の温度にて30分〜1時間加熱保持した後、1000℃未満の温度に一旦冷却し、800℃以上1000℃未満で10分〜1時間保持する均質化処理工程、
(c)熱間加工処理し、600℃以下に冷却する熱間加工工程、
(d)冷間加工する工程、
(e)930〜1055℃で5秒〜2分の保持する熱処理をした後、2段目の熱処理を600〜850℃で5秒〜20分保持し、急速に冷却する溶体化処理工程、
(f)350〜600℃で30分〜12時間加熱処理する時効処理工程、
(g)300〜550℃で5秒〜10分焼鈍する低温焼鈍工程、
をこの順で行うことを特徴とする銅合金材の製造方法。
(6)Niを5.2〜8.0質量%、Siを1.0〜2.3質量%、並びにTi
0.2質量%以下、Fe
0.3質量%以下、Cr
0.3質量%以下、Co
0.1質量%以下、Zr
0.05質量%以下、およびHf
0.05質量%以下からなる群(A)より選択される1種または2種以上を合計で0.05〜2.0質量%、および/または、Mg
0.2質量%以下、Mn
0.4質量%以下、Ag
0.15質量%以下からなる群(B)より選択される1種または2種以上を合計で0.05〜1.0質量%含有し、残部がCuおよび不可避不純物からなり、銅合金の母相の結晶粒界に存在する粒径0.050〜3μmの化合物の粒子の数をN
MO、前記母相の結晶粒内に存在する粒径0.050〜3μmの化合物の粒子の数をN
MIとしたとき、N
MOが、5.0×10
3〜3.0×10
6個/mm
2、N
MIとN
MOの比N
MI/N
MOが、1/2〜10である銅合金材の製造方法であって、
(a)前記銅合金材の合金組成を有した銅合金を溶解し、鋳造する溶解・鋳造工程、
(b)この鋳塊を1000〜1055℃の温度にて30分〜1時間加熱保持した後、1000℃未満の温度に一旦冷却し、800℃以上1000℃未満で10分〜1時間保持する均質化処理工程、
(c)熱間加工処理し、600℃以下に冷却する熱間加工工程、
(d)冷間加工する工程、
(e)930〜1055℃で5秒〜2分の保持する熱処理をした後、2段目の熱処理を600〜850℃で5秒〜20分保持し、急速に冷却する溶体化処理工程、
(f)350〜600℃で30分〜12時間加熱処理する時効処理工程、
(g)300〜550℃で5秒〜10分焼鈍する低温焼鈍工程、
をこの順で行うことを特徴とする銅合金材の製造方法。
(7)前記(a)の工程において、前記銅合金材の合金組成に対し、Sn
0.4質量%以下および/またはZn
0.3質量%以下を合計で、0.05〜0.8質量%さらに含有する銅合金を溶解し、鋳造する溶解・鋳造工程を行うことを特徴とする(5)または(6)に記載の銅合金材の製造方法。
なお、本発明において、粒子の粒径とは圧延面をフィールドエミッション電子銃を搭載した走査型電子顕微鏡(FE−SEM)で観察した場合に得られた粒子の断面積を粒子の観察視野からの断面積を画像解析より算出して、円相当径として算出したものと定義する。
【発明の効果】
【0019】
本発明で得られるNi−Si系銅合金は、950MPa以上の引張強度を有し、導電率も高水準で保持し、かつ、優れた、めっき整状性、耐めっき剥離性を有する、高強度でめっき性に優れた銅合金材である。この小型端子、コネクタ、スイッチ、その他スイッチ、リレーなどの電子・電気機器の部材に好適であり、工業上顕著な効果を奏するものである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は電子機器用コネクタに好適な銅合金材であって、高強度、導電性(熱・電気伝導性)とともにめっき性等を具備することが要求されるあらゆる電気・電子機器用部材に関する。
【0021】
[銅合金の組成]
本発明の銅合金の合金元素について説明する。
本発明において、Niの含有量を5.2〜8.0質量%、Siの含有量を1.0〜2.3質量%に規定する。いずれの含有量おいても、下限値未満ではJIS C 1720と同等以上の強度が得られず、何れかが上限値を超えると鋳造時で形成される晶出物が多くなり、熱間圧延前の均質化処理により未固溶の化合物が多くなり、熱間加工性が劣る。また、添加量を増してもそれに見合う強度が得られない。強度向上の点からは望ましい含有量はNiが5.4〜6.5質量%、Si含有量が1.1〜2.0質量%である。
【0022】
Ti、Fe、Cr、Co、ZrおよびHfは、Siとケイ化物を形成し、X−SiおよびNi−X−Si(ここでのXはTi、Fe、Cr、Co、ZrおよびHfからなる群(A)より選択されるいずれかの元素又はこれらの元素から選択される複数の元素含む)の2元および、多元系の形でケイ化物形成し、後述する、中サイズの粒子および大サイズの粒子に含有される。X−SiおよびNi−X−Si化合物は、溶体化処理時に粒界の移動を抑制して母相結晶粒径を微細にすると共に、粒界反応型析出の抑制に寄与する。Ti、Fe、Cr、Co、ZrおよびHfを総量にて0.05〜2.0質量%に制御する。この総量が、0.05質量%未満であるとその粒界移動および粒界反応型析出抑制の効果が得られないからである。2.0質量%を超えて添加した場合には、強度にも、粒界移動および粒界反応型析出抑制にも寄与しない、粗大な粒子の数が増加し、強度およびめっき性が劣化するからである。
【0023】
本発明は、Mg、Mn、Agからなる群(B)よりより選択される1種または2種以上を合計で0.05〜1.0質量%含有する態様を包含する。
Mgは、銅合金の母相に固溶する形態で存在し、粒界反応型析出の形成を抑制すると共に、耐応力緩和特性の改善効果がある。ただし、添加量により導電率を低下させることがある。Mgの添加量は0.05質量%以上1.0質量%以下である。0.05質量%未満ではその改善効果が期待できず、1.0質量%を超えて添加した場合は導電率を著しく低下させる。Mg、MnおよびAgを併せて、総量で1.0質量%未満に制限する。
【0024】
Mnは、母相に固溶する形態で存在し、粒界反応型析出の形成を抑制すると共に、熱間加工性の改善効果がある。ただし、添加量により導電率を低下させることがある。Mnの添加量は0.05質量%以上1.0質量%以下である。0.05質量%未満ではその改善効果が期待できず、1.0質量%を超えて添加した場合は導電率を著しく低下させる。
【0025】
Agは、母相に固溶もしくはAg単体の形態で存在し、粒界反応型析出の形成を抑制、強度向上および熱間加工性の改善効果がある。ただし、この改善効果以上の量を添加しても、いたずらにコストを高くするので、好適な添加量が存在する。0.05質量%未満ではその改善効果が期待できず、1.0質量%を超えて添加した場合はコスト高になる。
【0026】
本発明において、上記の合金組成に、さらにSnまたはZnを適宜添加して耐応力緩和特性などを改善することもできる。
Snは、母相に固溶する形態で存在し、粒界反応型析出の形成を抑制すると共に、耐応力緩和特性を改善する。ただし、添加量により導電率の低下、また特に熱間加工性の低下を引起すので、改善効果に見合うだけの添加量を考慮し添加しても良い。Ni−Si系の化合物で十分に目的の耐応力緩和特性が満たせるのであれば、添加しなくてもよい。Snの添加量が0.05質量%未満ではその改善効果が弱く、0.8質量%を超えて添加した場合は熱間加工性を著しく低下させる。
【0027】
Znは、母相に固溶する形態で存在し、めっき密着性を向上させる一方で、粒界反応型析出を助長させる効果があり、また導電率を低下させる。このため、改善効果に見合うだけの添加量を考慮し添加しても良い。析出物の制御により、めっき密着性が十分確保できる場合には添加しなくてもよい。添加量が0.05質量%未満ではその改善効果が弱く、0.8質量%を超えて添加した場合は導電率を低下させ、また粒界反応型析出を助長させ、強度が低下する。
【0028】
本発明の合金組成に対し、P、As、Sb、BiおよびPbを含有するとは、銅合金の結晶粒界を脆弱にして、熱間加工および冷間加工性を著しく低下させるので、極力抑制することが望ましい。そのため、これらは総量で、0.001質量%未満に押さえるのがよい。
【0029】
本発明の銅合金の良好な組織形態について説明する。銅合金中の化合物は、強度を向上させる粒径0.01μm以上0.05μm未満の粒子(小粒子)、強度にはあまり寄与しないが結晶粒微細化に寄与する粒径0.05μm以上3μm以下の粒子(中粒子)、および強度特性に寄与せずにめっき性等の特性に悪影響及ぼす粒径3μm超の粒子(大粒子)にサイズの違いにより3つに分類できる。
【0030】
本発明では、上述の中粒子の結晶粒界および結晶粒内の分散を制御し、めっき時の局所的な電流密度増加を抑制し、めっきの均一性、整状性が向上することを見出した。めっきの均一性、整状性を向上させるには、結晶粒界上の0.05〜3μmの粒子の数をN
MOとした場合、N
MOを5.0×10
3〜3.0×10
6個/mm
2にすることが必要である。3.0×10
6個/mm
2を超えて存在した場合、めっき時に異常電析が発生してめっきコブが形成し、また、耐めっき剥離性が悪くなる傾向にある。5.0×10
3個/mm
2よりも少ない場合には、溶体化時に結晶粒が粗大化しており、強度特性が劣ると共に曲げ加工性が劣る。
【0031】
母相の結晶粒内の化合物を併せて制御した場合、より良好なめっきの均一性および高強度が得られる。具体的には結晶粒内の0.08〜3μmの粒子の数をN
MIとしたとき、N
MIとN
MOの比をN
MI/N
MOを1/2〜10にするとよい。N
MI/N
MOが1/2未満であるとめっきコブ(突起)が形成しやすくなる。N
MI/N
MOが10を超えて大きいと強度が劣る。
【0032】
[銅合金の製造方法]
本発明の銅合金は、例えば、上記の成分組成の鋳塊を鋳造後、均質化処理、熱間加工(熱間圧延など)、冷間加工(冷間圧延など)、溶体化熱処理、時効熱処理、仕上げ冷間圧延、低温焼鈍等の一般的な銅合金材の製造工程を組み合わせて製造することが可能である。ただし、各工程において、以下に述べるように焼鈍条件で厳密な制御を実施することで初めて、上述の組織形態を達成し良好な特性を具備した銅合金を製造することができる。
【0033】
本発明では、高強度を達成するために、従来のコルソン合金と比較して高濃度のNiおよびSiを添加しているので、鋳造段階において、偏析等の顕在化が起こり易い。冷却方式の制御等で偏析をなるべく除去することが望ましい。この偏析等の防止は、次に記載する均質化処理工程の採用で実施できる。
【0034】
次に本発明の製造方法の好ましい実施の形態を説明する。
均質化処理工程は、各粒子の制御をする熱処理の1つめのポイントとなる。まず、約1000℃以上1055℃以下の温度にて30分以上1時間以下の保持を実施した後、1000℃未満の温度に一旦冷却してから800℃以上1000℃未満で10分以上1時間以下の条件で保持する2段階の均質化処理を行う。2段階の均質化処理の1段目と2段目および熱間加工は連続で実施できる。1段目において1000〜1055℃の温度での保持をしないと、鋳塊時の偏析や、晶出で形成した大粒子が固溶されずに残存するため、後の工程での中粒子の制御が困難になる。1段目の温度が1055℃を超えると、粒界から溶融が開始するため、偏析が助長されてしまう。2段目の1000℃未満の温度に一旦冷却してからの熱処理は、800
℃以上1000℃
未満で10分〜1時間の保持を実施することにより、粒界の中粒子の制御を行う。温度が800℃を下回ると、後に制御しきれない中粒子が残存してしまう。2段目の熱処理は、上述の温度範囲の中で行われれば良いため、保持時間中一定の温度ではなく時間に対して温度勾配をもっていても、中粒子の組織状態が形成されれば、特性上問題は無い。1000℃
以上で、熱間加工を実施すると粒界が脆化しており、熱間加工割れを引起す。
【0035】
熱間加工処理工程は、板・条製品を製造する場合は熱間圧延が好ましいが、熱間押出、熱間鍛造等の方式によることを排除するものではない。熱間加工処理は、600℃までの温度で終了することが望ましい。600℃を下回ると、強度を向上させる小粒子の存在が多くなる為、熱間加工処理での変形抵抗が高くなり、加工ができなくなる。熱間加工処理終了後は速やかに水冷にて材料全体を均一に冷却する。
【0036】
熱間加工処理工程後、板厚の調整などを目的として冷間圧延を行う。
【0037】
冷間圧延後の溶体化処理は、各粒子の制御をする熱処理の2つめのポイントとなる。結晶粒界と結晶粒内の中粒子は前述の均質化処理と併せて、この溶体化処理工程にて制御できる。上述の中粒子の状態を制御するためには、例えば、次のように溶体化処理を階段状に実施することが挙げられる。一例として、最高到達温度を930℃以上1055℃以下にて実施した後、600℃以上930℃未満の温度範囲で一度保持を入れた後、急速に冷却をする。本発明において、急冷却の速度は30〜500℃/秒とするのが好ましい。最高到達温度が930℃を下回ると、次の時効処理工程にて小粒子の形成が少なくなるので、強度が出ない。最高到達温度1055℃を超えると結晶粒界が一部溶解する。2段目の熱処理が600℃未満では、中粒子と共に小粒子が形成してしまう。930℃以上では、中粒子の形成ができない。2段目の熱処理のより好ましい温度域は600℃以上850℃以下である。1段目の熱処理の保持時間は5秒〜2分程度が良い。2段目の熱処理の保持時間は5秒〜20分程度が良い。2段目の熱処理は、上述の温度範囲の中で行われれば良いため、保持時間中一定の温度ではなく時間に対して温度勾配をもっていても、中粒子の組織状態が形成されれば特性上問題は無い。熱処理後の急速冷却は冷却中に、小粒子が局所的に形成しないように、冷却速度を向上させまた、部位毎に均一に冷却する必要がある。冷却速度が30℃/秒未満では、冷却速度不足である。500℃/秒を超えると、板の形状が悪くなる。溶体化処理工程における中粒子の制御方法は本方式に限定するものではなく、走間炉、バッチ炉等で実施することが可能である。
【0038】
時効処理工程は、350℃以上600℃以下にて実施して、小粒子を形成して強度および導電率を向上させる。処理温度は低温のほうが、より微細な小粒子が数多く形成するが処理時間が長時間必要である。350℃未満で実施した場合には強度が十分に得られない。600℃以上で実施した場合には、小粒子が形成せずに、強度が十分に得られない。350℃以上600℃未満の中でも、500℃を超えて実施した場合には粒界反応型析出の進行が顕著になりやすいので、より好ましくは350℃以上500℃以下である。処理時間は、30分〜12時間が望ましい。時効処理の前に冷間圧延を施すことで強度をより向上させることができる。
【0039】
時効処理の後、冷間加工を施し強度を調整することができる。
冷間加工の加工率は、5〜50%で実施する。曲げ加工性を考慮した場合には30%以下の加工率で実施することが好ましい。
【0040】
冷間加工の後は、低温焼鈍にて強度の調整と延性の回復を行う。低温焼鈍の温度は300〜550℃で比較的短時間、5秒〜10分程度実施するのが好ましい。
【実施例】
【0041】
以下に、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0042】
(実施例1)
表1に示す本発明規定組成の銅合金(本発明例1−1〜1−20)を、所定の原料を高周波溶解炉にて溶解後、1300℃にて5分間保持した。次いで、0.1〜100℃/秒の冷却速度で鋳造して室温とし、鋳塊を得た。これを1035℃×1時間の保持後、900℃まで冷却して30分間の保持を実施した後、連続で熱間圧延により板厚t=12mmの熱間圧延板を作製した。この熱間圧延は、600℃以上で完了して、速やかに水冷を行った。この両面を各1mm面削してt=10mmとし、次いで冷間圧延によりt=0.214mmに仕上げた。この板材を990℃にて30秒間保持した後、速やかに850℃に60秒保持して、冷却速度100℃/秒以上で水冷を実施した。次いで、全ての合金は時効熱処理を450〜500℃にて2hr実施した後、加工率30%で冷間圧延を行ってt=0.15mmの板を得た。その後400℃にて15秒間の熱処理を実施して速やかに水冷して供試材とした。本発明例1−1〜1−20の供試材について以下の特性評価を行った。
【0043】
(比較例1)
表1に示す比較例1の銅合金(比較例1−1〜1−8)も、所定の原料を高周波溶解炉にて溶解後、1300℃にて5分間保持を実施した。得られた鋳塊を上述の実施例1(本発明例1−1〜1−20)と同様の工程にて製造し、比較供試材として以下の特性評価を行った。ただし、比較例1―3(Ni, Si上限以上含有)および比較例1−5(P添加)の材料に関しては、熱間圧延時に割れが発生したので次工程以降の製造および評価は不可であった。
【0044】
【表1】
【0045】
(特性評価方法)
得られた銅合金材に関して、次のように特性評価を実施した。
a.導電率:
20℃(±0.5℃)に保たれた恒温漕中で四端子法により比抵抗を計測して導電率を算出した。なお、端子間距離は100mmとした。
【0046】
b.引張強度:
圧延平行方向から切り出したJIS Z2201−13B号の試験片をJIS Z2241に準じて3本測定しその平均値を示した。
【0047】
c.母相の結晶粒界上および結晶粒内の化合物粒子数の測定:
母相の結晶粒界および結晶粒内の化合物の粒子数は、めっき性を評価するためにめっきを施す圧延面にて実施した。バフ研磨にて鏡面仕上げの後、電解研磨にて表層を研磨して圧延面を観察した。観察には、フィールドエミッション電子銃を搭載した走査型電子顕微鏡(FE−SEM)を使用した。観察倍率は化合物の粒子の大きさが0.05μm以上0.1μm未満の場合は10万倍、0.1〜3μmの場合には3万倍にて観察が可能である。各試料につき結晶粒界を含む視野を10視野、結晶粒内の視野を10視野観察して、サイズが0.05〜3μmの結晶粒界および結晶粒内の化合物の粒子数を数え、平均として観察視野や面積で除した粒子密度として算出した。この際に分類した粒子径は、粒子の観察視野からの断面積を画像解析より算出して、円相当径として算出した。
【0048】
d.めっき性:
得られた材料に脱脂処理として、クリーナー160S(メルテックス社製)を60g/l含む脱脂液中において、液温60℃で電流密度2.5A/dm
2の条件で30秒間カソード電解して行った。また、つづけて酸洗処理として、硫酸を100g/l含む酸洗液中に室温で30秒間浸漬して行った。脱脂、酸洗後、シアン化銀カリウムを55g/l、シアン化カリウムを75g/l、水酸化カリウムを10g/l、炭酸カリウムを25g/l含む銀めっき浴中において、室温で電流密度1.0A/dm
2の条件でめっき厚が3μmになるように行った。銀めっき性は、めっきの整状性と、耐めっき剥離性について評価した。めっきの整状性は、銀めっき表面をマイクロスコープ(キーエンス社製)を用いて450倍に拡大観察して、銀めっきが表面に発生した突起物状の異常析出箇所の個数を数え、単位面積当たり(mm
2当たり)の個数が、5個以下の場合を◎、5個を越え10個以下の場合○、10個より多い場合を×として評価した。実用ができるのは○および◎の評価のものである。めっき剥離試験はJIS H 8504に基づき、テープ引きはがし試験を行った。判定基準は、めっき剥離が生じなかった場合○、めっき剥離が生じた場合を×とした。
【0049】
(特性評価結果1)
表1に示す特性評価結果において、本発明例1−1〜1−20では、所望の成分および、結晶粒界の数密度および、結晶粒内/結晶粒界の数密度比になっているので、強度、導電率、めっき整状性、耐めっき剥離性に優れる銅合金が得られている。
【0050】
また、表1に示す比較例1−1では、Niの量が規定量よりも下回ったので強度が出なかった。比較例1−2では、Siの量が規定量よりも下回ったので強度が出なかった。比較例1−3では、NiおよびSiがともに規定量を超えたため、熱間圧延で割れが発生した。比較例1−4では、添加元素を含まないので、時効過程において粒界反応型析出によるノジュール領域が広がったため、粒子状の化合物が断定できず、また、強度が低下し、めっき整状性および耐めっき剥離性も劣化した。比較例1−5では、添加元素にPを含有したので熱間圧延で割れが発生した。比較例1−6ではZn、比較例1−7ではSnがそれぞれ規定量を超えて含有したため、いずれも導電率が低下した。比較例1−8では、添加元素の総量が規定量を超え、結晶粒界の粒子密度が規定値を超えたので、めっき整状性および耐めっき剥離性が劣化した。
【0051】
(実施例2)
Niを5.8質量%、Siを1.32質量%、Crを0.3質量%含有し、残部がCuである銅合金を不純物の混入をなるべく少なくするように、原料を高周波溶解炉にて溶解後、1300℃にて5分間保持を実施した。これを0.1〜100℃/秒の冷却速度で鋳造して鋳塊を得た。これら成分を共通として、次工程の製造条件を変化させることで、結晶粒界および結晶粒内の粒子を制御した。
【0052】
表2に示す本発明例2−1は、表1に示す本発明例1−1と同じものである。本発明例2−2は、鋳塊を1035℃×1時間の加熱保持後、860℃まで冷却して30分間保持した。これ以外の工程は本発明例2−1と同様である。本発明例2−3は、鋳塊を1035℃×1時間の加熱保持後、800℃まで冷却して1時間保持した。連続して行なった熱間圧延は、600℃以上で完了して、速やかに水冷した。この両面を各1mm面削してt=10mmとし、次いで冷間圧延によりt=0.214mmに仕上げた。この板材を990℃にて30秒間加熱保持した後、速やかに700℃にて60秒間保持して、冷却速度100℃/秒以上で水冷を実施した。これ以外の工程は本発明例2−1と同様である。
【0053】
本発明例2−4は、鋳塊を1035℃×1時間の保持後、860℃まで冷却して30分間保持した。連続して行う熱間圧延は、600℃以上で完了して、速やかに水冷を行った。この両面を各1mm面削してt=10mmとし、次いで冷間圧延によりt=0.214mmに仕上げた。この板材を990℃にて30秒間保持した後、速やかに670℃にて2分間保持して、冷却速度100℃/秒以上で水冷を実施した。これ以外の工程は本発明例2−1と同様である。
【0054】
本発明例2−5は、鋳塊を1035℃×1時間の保持後、900℃まで冷却して10分間の保持を実施した。連続して行う熱間圧延は、600℃以上で完了して、速やかに水冷を行った。この両面を各1mm面削してt=10mmとし、次いで冷間圧延によりt=0.214mmに仕上げた。この板材を990℃にて30秒間保持した後、速やかに610℃にて10分間保持して、冷却速度100℃/秒以上で水冷を実施した。これ以外の工程は本発明例2−1と同様である。
【0055】
(比較例2)
表2に示す比較例2−1〜2−6も鋳塊成分、および鋳造までの製造方法は、本発明例2−1〜2−5と共通である。比較例2−1は、得られた鋳塊を1060℃×1時間の保持後、そのまま熱間圧延を実施したが、割れが発生したので、次工程以降の製造および評価を中止した。比較例2−2は、鋳塊を1035℃×1時間の保持後、995℃まで冷却したがこれを保持しないで、連続して熱間圧延を実施し、600℃以上で完了して、速やかに水冷を行った。その両面を各1mm面削してt=10mmとし、次いで冷間圧延によりt=0.214mmに仕上げた。この板材を990℃にて30秒間保持した後、速やかに610℃にて40分間保持して、冷却速度100℃/秒以上で水冷を実施した。これ以外の工程は本発明例2−1と同様である。
【0056】
比較例2−3は、鋳塊を880℃×1時間の保持後、連続して600℃以上で熱間圧延し、速やかに水冷を行った。この両面を各1mm面削してt=10mmとし、次いで冷間圧延によりt=0.214mmに仕上げた。この板材を990℃にて30秒間保持した後、速やかに670℃にて2分間保持して、冷却速度100℃/秒以上で水冷を実施した。これ以外の工程は本発明例2−1と同様である。
【0057】
比較例2−4は、鋳塊を1035℃×1時間の保持後、760℃まで冷却して2時間の保持を実施した。連続して行った熱間圧延は、600℃以上で完了して、速やかに水冷を行った。この両面を各1mm面削してt=10mmとし、次いで冷間圧延によりt=0.214mmに仕上げた。この板材を990℃にて30秒間保持した後、速やかに670℃にて2分間保持して、冷却速度100℃/秒以上で水冷を実施した。これ以外の工程は本発明例2−1と同様である。
【0058】
比較例2−5は、鋳塊を1035℃×1時間の保持後、900℃まで冷却して30分間の保持した後、熱間圧延により板厚t=12mmの熱延板を作製した。熱間圧延は、600℃以上で完了して、速やかに水冷を行った。その両面を各1mm面削してt=10mmとし、次いで冷間圧延によりt=0.214mmに仕上げた。この板材を1060℃にて30秒間保持した後、速やかに冷却速度100℃/秒以上で水冷を実施した。次いで、全ての合金は時効熱処理を450〜500℃にて2hr実施した後、冷間圧延を行ったところ、冷間圧延で割れが発生した。
【0059】
比較例2−6は、鋳塊を1035℃×1時間の加熱保持後、900℃まで冷却して30分間保持を実施した後、熱間圧延により板厚t=12mmの熱延板を作製した。この熱間圧延は、600℃以上で完了して、速やかに水冷を行った。この両面を各1mm面削してt=10mmとし、次いで冷間圧延によりt=0.214mmに仕上げた。この板材を830℃にて30秒間保持した後、速やかに冷却速度100℃/秒以上で水冷を実施した。これ以外の工程は本発明例2−1と同様である。
【0060】
【表2】
【0061】
(特性評価結果2)
得られた銅合金材に関して、上記(実施例1)と同様の特性評価を実施した。
【0062】
表2に示すように、本発明例2−1〜2−5は所望の成分および、粒界上の数密度および、結晶粒内/結晶粒界の数密度比になっているので、強度、導電率、めっき整状性、耐めっき剥離性に優れる銅合金が得られている。
【0063】
表2に示すように、比較例2−1は、熱間圧延温度を1060℃で実施したので、熱間圧延割れが発生した。比較例2−2は、結晶粒内と結晶粒界にそれぞれ存在する化合物の中粒子の数密度の比が規定よりも大きかったので強度がでなかった。比較例2−3および比較例2−4は、結晶粒内と結晶粒界にそれぞれ存在する化合物の中粒子の数密度が規定の値よりも大きかったので、めっき整状性、耐めっき剥離性が劣化した。比較例2−5は、溶体化処理の最高到達温度が1060℃であったので、次々工程の冷間圧延で割れが生じた。比較例2−6は、結晶粒内と結晶粒界にそれぞれ存在する化合物の中粒子の数密度の比が規定よりも大きかったので強度が不足し、また、結晶粒内と結晶粒界にそれぞれ存在する化合物の中粒子の数密度の比が規定の値よりも大きかったのでめっき整状性、耐めっき剥離性が劣化した。