特許第6155108号(P6155108)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友大阪セメント株式会社の特許一覧 ▶ 化工建設株式会社の特許一覧 ▶ ショーボンド建設株式会社の特許一覧 ▶ 東京電力株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6155108-コンクリート構造体 図000006
  • 特許6155108-コンクリート構造体 図000007
  • 特許6155108-コンクリート構造体 図000008
  • 特許6155108-コンクリート構造体 図000009
  • 特許6155108-コンクリート構造体 図000010
  • 特許6155108-コンクリート構造体 図000011
  • 特許6155108-コンクリート構造体 図000012
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6155108
(24)【登録日】2017年6月9日
(45)【発行日】2017年6月28日
(54)【発明の名称】コンクリート構造体
(51)【国際特許分類】
   C23F 13/02 20060101AFI20170619BHJP
【FI】
   C23F13/02 B
【請求項の数】5
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-131168(P2013-131168)
(22)【出願日】2013年6月21日
(65)【公開番号】特開2015-4113(P2015-4113A)
(43)【公開日】2015年1月8日
【審査請求日】2016年3月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】593089600
【氏名又は名称】化工建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000107044
【氏名又は名称】ショーボンド建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003687
【氏名又は名称】東京電力ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074332
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100114432
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 寛昭
(72)【発明者】
【氏名】峰松 敏和
(72)【発明者】
【氏名】若杉 三紀夫
(72)【発明者】
【氏名】赤澤 一彰
(72)【発明者】
【氏名】山本 誠
(72)【発明者】
【氏名】鹿島 篤志
(72)【発明者】
【氏名】大久保 謙治
(72)【発明者】
【氏名】小椋 明仁
(72)【発明者】
【氏名】石塚 正寿
【審査官】 内藤 康彰
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−264243(JP,A)
【文献】 特開2012−144771(JP,A)
【文献】 特開2012−067360(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23F13/00−13/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に金属材が設置されているコンクリートと、
前記コンクリートの表面に互いに間隔を開けて配されている複数の電気防食電極と、
セメント材料と骨材とを含有し、前記コンクリートの表面に互いに間隔を開けて配されて前記電気防食電極を覆いつつ前記コンクリートの表面に固定している複数の固定部と、
防水性を有し、前記固定部の表面と前記固定部の外側に位置する前記コンクリートの表面とを覆うように互いに間隔を開けて配されている複数の防水部材とを備え、
前記防水部材は、前記固定部の端縁よりも外側に延出しており、且つ、該延出端縁と前記電気防食電極との距離が20mm以上であるコンクリート構造体。
【請求項2】
前記距離が、かぶり厚さ以上である請求項1に記載のコンクリート構造体。
【請求項3】
前記防水部材は、第1の防水部材と第2の防水部材とを有しており、
前記第1の防水部材は、前記固定部の表面を覆うように配されており、
前記第2の防水部材は、前記第1の防水部材の表面の少なくとも一部と、前記第1の防水部材の外側に位置する前記コンクリートの表面とを覆うように配されている請求項1または2に記載のコンクリート構造体。
【請求項4】
前記防水部材は、絶縁性をさらに有している請求項1〜3のいずれかに記載のコンクリート構造体。
【請求項5】
前記固定部は、電磁波遮断性材料をさらに含有している請求項1〜4のいずれかに記載のコンクリート構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気防食電極が設置されたコンクリート構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コンクリート構造体中の鉄筋等の金属材の腐食を防止するために、コンクリートにチタン等の耐食性金属からなる電気防食電極を設置し、電気防食電極を陽極、金属材を陰極として、電気防食電極と金属材との間に防食電流を供給する技術が用いられている。
【0003】
この種の電気防食電極が設置されたコンクリート構造体しては、例えば、コンクリートの表面に線状の電気防食電極を収容する溝を切削し、該溝内に電極を直接配置、または固定ピン等を介して配置し、モルタルなどの充填材で電極を覆って形成されたものが提案されている(特許文献1、2参照)。
【0004】
しかし、かかるコンクリート構造体は、コンクリートの表面に溝を切削して製造しなければならず、製造作業が煩雑であり、製造時にコンクリートの切削によって粉塵や騒音が発生するおそれがある。また、固定ピンを用いた場合には、製造作業がさらに煩雑となる。さらに、降雨等により、電気防食電極を覆うモルタル等を介してコンクリート内部に水が浸入するおそれがあり、かかる場合、防食電流のバラツキにつながる。
【0005】
一方、上記溝に電気防食電極を配し、モルタル等の充填材を溝に充填して電気防食電極を覆った後、該充填材とモルタル等に跨るように耐候性塗料を塗布して形成されたコンクリート構造体が提案されている(特許文献3参照)。しかし、このように耐候性材料を塗布しても、防食電流のバラツキが生じるおそれがある。
【0006】
また、電気防食電極と充填材たるモルタル等とが内部に充填された電極ホルダーが、樹脂製の伸縮可能な固定部材を介してコンクリート表面に固定されてなるコンクリート構造体が提案されている(特許文献4参照)。かかるコンクリート構造体によれば、溝に穴を開ける作業が省かれるが、電極ホルダーに電気防食電極と充填材とを一旦収容する必要があり、しかも、固定部材を介して設置する必要があるため、製造作業が煩雑となる。また、上記と同様、コンクリート内部への水の浸入により、防食電極のバラツキが生じるおそれもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−371391号公報
【特許文献2】特開平4−116184号公報
【特許文献3】特開2005−256132号公報
【特許文献4】特許第4144881号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記問題点に鑑み、本発明は、電気防食電極が容易に設置され、しかも、比較的防食電流のバラツキが少ないコンクリート構造体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るコンクリート構造体は、
内部に金属材が設置されているコンクリートと、
前記コンクリートの表面に配されている電気防食電極と、
セメント材料と骨材とを含有し、前記コンクリートの表面に配されて前記電気防食電極を覆いつつ前記コンクリートの表面に固定している固定部と、
防水性を有し、前記固定部の表面と前記固定部の外側に位置する前記コンクリートの表面とを覆うように配されている防水部材とを備え、
前記防水部材は、前記固定部の端縁よりも外側に延出しており、且つ、該防水部材の延出端縁と前記電気防食電極との距離が20mm以上である。
【0010】
ここで、防水性とは、JIS A 6909−2003「建築用仕上塗材」の透水試験B法において、0.5ml以下の性状を有することを意味する。また。前記防水部材の延出端縁と前記電気防食電極との距離とは、前記延出端縁と前記電気防食電極とを最短で結ぶ距離を意味する。
【0011】
かかる構成のコンクリート構造体によれば、内部に金属材が設置されているコンクリートの表面に前記電気防食電極が前記固定部で覆われることによって固定されるため、該コンクリート構造体を製造するために、あえてコンクリート表面を切削したりコンクリート表面に穴を空けたりする必要がない。
加えて、前記固定部の表面と、前記固定部の外側に位置する前記コンクリート表面とが前記防水部材によって覆われており、しかも、前記防水部材の延出端縁と電気防食電極との距離が20mm以上であるため、降雨等によってコンクリート内部に水が浸入し難く、防食電流に影響する領域でのコンクリートの含水量の変動を抑制することができる。これにより、防食電流のバラツキを抑制することができる。
従って、電気防食電極が容易に設置され、しかも、比較的防食電流のバラツキが少ないコンクリート構造体となる。
【0012】
また、上記構成のコンクリート構造体においては、前記距離が、かぶり厚さ以上であることが好ましい。
【0013】
ここで、「かぶり厚さ」とは、前記コンクリート表面と、前記金属材の表面とを最短距離で結ぶ長さを意味する。
【0014】
かかる構成によれば、防食電流に影響を及ぼすコンクリートの含水量の変動を抑制することができるため、電気防食電極から流れる防食電流のバラツキを、より抑制することができる。
【0015】
また、上記構成のコンクリート構造体においては、
前記防水部材は、第1の防水部材と第2の防水部材とを有しており、
前記第1の防水部材は、前記固定部の表面を覆うように配されており、
前記第2の防水部材は、前記第1の防水部材の表面の少なくとも一部と、前記第1の防水部材の外側に位置する前記コンクリートの表面とを覆うように配されていることが好ましい。
【0016】
かかる構成によれば、第1の防水部材と第2の防水部材とを、別材料を用いて形成したり、別々の工程で形成したりすること等ができる。例えば、製造時において、固形部を形成するための材料の形状を第1の防水部材によって保持しつつ硬化させ、第2の防止部材によって延出端縁の位置を調整することができる。
このように、第1の防水部材と第2の防水部材とに、それぞれ異なる機能を付与し、役割を分担させることができる。また、電気防食電極が一層容易に設置され、しかも、一層防食電流のバラツキが少ないコンクリート構造体となる。
【0017】
また、上記構成のコンクリート構造体においては、
前記防水部材は、絶縁性をさらに有していることが好ましい。
【0018】
ここで、絶縁性とは、JSCE−K 562−2008の「四電極法による断面修復材の体積抵抗率測定方法(案)」において、体積抵抗率が200kΩ・cm以上であることを意味する。
【0019】
かかる構成によれば、前記防水部材が絶縁性をさらに有していることによって、該防水部材の外側からコンクリート内部に流れ込む電流を抑制することができるため、防食電流のバラツキを抑制することができる。
【0020】
また、上記構成のコンクリート構造体においては、
前記固定部は、電磁波遮断性材料をさらに含有していることが好ましい。
【0021】
ここで、電磁波遮断性材料とは、アドバンテスト法で測定したとき、電磁波シールド性能が10dB以上である材料を意味する。
【0022】
かかる構成によれば、前記固定部が電磁波遮断性材料を有していることによって、外部環境の影響によってコンクリート内部に電流が発生することを抑制できるため、防食電流のバラツキを、より抑制することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、電気防食電極が容易に設置され、しかも、比較的防食電流のバラツキが少ないコンクリート構造体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の第1実施形態のコンクリート構造体を示す概略断面図。
図2】本実施形態のコンクリート構造体を示す概略上面図。
図3】本実形形態のコンクリート構造体において電気防食電極の他の配置を示す概略上面図。
図4】本発明の第2実施形態のコンクリート構造体を示す概略断面図。
図5】本発明の第3実施形態のコンクリート構造体を示す概略断面図。
図6】製造例1で製造されたコンクリート構造体を示す概略断面図。
図7】製造例2〜4で製造されたコンクリート構造体を示す概略断面図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明に係るコンクリート構造体の製造方法およびコンクリート構造体の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【0026】
まず、本発明の第1実施形態に係るコンクリート構造体について、図1図3を参照しつつ説明する。
【0027】
本実施形態のコンクリート構造体100は、図1図2に示すように、内部に金属材11が設置されているコンクリート10と、該コンクリート10の表面に配されている電気防食電極1と、セメント材料と骨材とを含有し、前記コンクリート10の表面に配されて前記電気防食電極1を覆いつつ前記コンクリート10の表面に固定している固定部4と、防水性を有し、前記固定部4の表面と前記固定部4の外側に位置する前記コンクリート10の表面とを覆うように配されている防水部材6とを備えている。また、前記防水部材6は、前記固定部4の端縁よりも外側に延出しており、且つ、該防水部材6の延出端縁と前記電気防食電極1との距離Lが20mm以上であるように構成されている。
【0028】
前記コンクリート10としては、例えば、橋梁、道路等のようなコンクリート構造体のコンクリート等が挙げられる。
前記コンクリート10の表面は、予め、洗浄処理、あるいは、コンクリートサンダー等を用いて粗面化する処理等のような処理が施されたものであってもよい。かかる処理が施されることによって、コンクリート10表面と固定部4及び防水部材6との接着力が向上する。
【0029】
本実施形態において電気防食電極を設置するコンクリート10の内部には、鋼材等の金属材11が設置されている。また、各金属材11には、図2に示すように外部電源Bのマイナス(負)極側が接続されており、該金属材11と電気防食電極1との間に電圧をかけることによって、これらの間に防食電流を流すように構成されている。
前記金属材11のかぶり厚さTは、特に限定されるものではないが、1〜100mmに設定することができる。また、金属材11が複数配されている場合、これらの間隔は、例えば、50〜300mmに設定することができる。
【0030】
前記電気防食電極1は、金属からなる陽極電極である。該電気防食電極1の材質としては、陽極として用いられ且つ耐食性を有する金属であれば特に限定されるものではない。例えば、白金メッキチタン製電極、高珪素鋳鉄製電極、黒鉛製電極、フェライト製電極または金属酸化物製電極等が挙げられる。
【0031】
前記電気防食電極1の形状としては、例えば、棒状あるいは帯状などの長尺状のものが挙げられる。これらのうち、特に、エキスパンドメタル状の網目を有する金属体が好ましい。
なお、エキスパンドメタル状とは、JIS G 3351に規定されたエキスパンドメタルの形状、またはこれと同様の形状をいう。
本実施形態では、帯状のエキスパンドメタルからなる電気防食電極1の平面部がコンクリートの表面と平行になるような方向に電気防食電極1が配置されている。
該電気防食電極1の幅は、特に限定されるものではないが、例えば、10〜50mmに設定することができる。
また、電気防食電極1が複数配されている場合、電気防食電極1同士の間隔は、特に限定されるものではなく、適宜設定することができる。例えば、各金属材11の直上に配されるように設定することができる。また、例えば電気防食電極1の間隔は、通常、100mm以上であるが、100mm未満であってもよい。
【0032】
本実施形態では、図1に示すように電気防食電極1がコンクリート10表面と直接接触している態様を採用しても、その他、例えば図3に示すように電気防食電極1が固定部4の一部を介してコンクリート10の表面に接触している態様を採用してもよい。
【0033】
前記固定部4は、セメント材料と骨材とを含有しており、前記コンクリート10の表面に配されて前記電気防食電極1を覆いつつ前記コンクリート10の表面に固定するものである。かかる固定部4としては、モルタル、グラウト等により形成されてなるものが挙げられる。
前記セメント材料としては、例えば、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、高炉セメント、超速硬セメント、アルミナセメント、混合セメント等が挙げられる。
また、前記骨材としては、粗骨材及び細骨材が挙げられる。粗骨材としては、砂利、砕石等のコンクリートに用いられる公知のものが挙げられ、細骨材としては、珪砂、砕砂、パーライト等のセメントモルタルに用いられる公知のものが挙げられる。
また、前記セメント材料及び前記骨材は、材齢28日までの電気抵抗率が100kΩ・cm以下であることが好ましい。
【0034】
本実施形態では、前記固定部4は、断面台形状に形成されているが、固定部4の形状は、特に限定されるものではない。また、固定部4の大きさも、特に限定されるものではなく、電気防食電極1をコンクリート10表面に固定するよう、適宜設定することができる。
【0035】
前記固定部4は、電磁波遮断性材料をさらに含有していることが好ましい。かかる電磁波遮断性材料としては、例えば、銅、アルミニウム、銀等が挙げられる。固定部4が電磁波遮断性材料をさらに含有していることによって、外部環境の影響によってコンクリート10内部に、意図しない電流が発生することを抑制できるため、防食電流のバラツキを、より抑制することができる
【0036】
また、コンクリート10の表面と平行、且つ、電気防食電極1の長手方向と垂直な方向(図1の左右方向)において固定部4の両端縁を最短で結ぶ長さ(固定部の幅)は、電気防食電極1を覆いつつコンクリート10表面に固定することが可能であれば、特に限定されるものではない。例えば、該幅は、15〜50mmとすることができる。
また、コンクリート10の表面と垂直方向(図1の上下方向)における固定部4(図1の上端縁)の長さ(高さ)も、電気防食電極1を覆いつつコンクリート10表面に固定することが可能であれば、特に限定されるものではない。例えば、該長さは、5〜40mmとすることができる。
【0037】
前記防水部材6は、防水性を有している。また、防水部材6は、電気防食電極1の長手方向と垂直な方向において固定部4の端縁よりも外側に延出しており、且つ、該防水部材6の延出端縁と前記電気防食電極1との距離Lが20mm以上であるように構成されている。前記距離Lが20mm以上であることによって、防食電流に影響を及ぼすコンクリートの含水量の変動を抑制することができるため、電気防食電極1から流れる防食電流のバラツキを、より抑制することができる。
さらに、前記距離Lは、かぶり厚さT以上であることが好ましい。前記距離Lが、かぶり厚さT以上であることによって、防食電流に影響を及ぼすコンクリート10の含水量の変動をより抑制することができるため、電気防食電極1から流れる防食電流のバラツキを、より抑制することができる。
【0038】
本実施形態では、防水部材6は、第1の防水部材6aと第2の防水部材6bとを有しており、前記第1の防水部材6aは、前記固定部4の表面を覆うように配されており、前記第2の防水部材6bは、前記第1の防水部材6aの表面の少なくとも一部と、前記第1の防水部材6aの外側に位置する前記コンクリート10の表面とを覆うように配されている。
具体的には、第1の防水部材6aは、防水性を有し、固定部4の形状を保持する形状保持部材としての機能を有している。かかる第1の防水部材6aとしては、例えば、塩化ビニル等の樹脂製の容器等が挙げられる。なお、このような容器は、一般的に、モールと呼ばれている。本実施形態では、該第1の防水部材6aは、断面台形状の容器状に形成されているが、かかる形状は、特に限定されるものではない。
【0039】
また、第2の防水部材6bは、上記第1の防水部材6a表面と、該第1の防水部材6aよりも外側に位置するコンクリート10表面とに跨るようにして形成されている。かかる第2の防水部材6bとしては、エポキシ、アクリル、エステル等の樹脂材料から形成された樹脂成形体等が挙げられる。
【0040】
なお、第2の防水部材6bが、第1の防水部材6aの一部を覆っているような図1に示す態様の他、第1の防水部材6aの全部を覆っている態様を採用してもよい。
【0041】
また、第1の防水部材6a及び第2の防水部材6bの各厚みは、特に限定されるものではなく、コンクリート10内部に水が浸入しないように適宜設定すればよい。
【0042】
また、本実施形態においては、前記金属材11が複数、互いに間隔を空けて設置されており、前記電気防食電極1と前記固定部4と前記防水部材6とが前記複数の金属材11に対応してそれぞれ複数配されており、且つ、前記複数の防水部材6が互いに間隔を空けて配されていることが好ましい。
【0043】
ここで、コンクリート構造体100が製造された後、コンクリート10の内部から水素ガス等の気体が発生する場合があるが、このとき、電気防食電極1間の防水部材6同士(互いに隣接する防水部材6同士)が繋がっていると、前記気体が防水部材6とコンクリート10表面との間で溜まり、該表面に対する防水部材6の接着性が低下し、この隙間からコンクリート10内に、不測の位置において不意に水が浸入するおそれがある。
しかし、上記構成によれば、防止部材6同士が離れているため、これらの隙間から前記気体が外部環境に放出されることになる。これにより、防水部材6とコンクリート10表面との間に前記気体が溜まることを抑制することができるため、防食電流に影響を及ぼすコンクリート10の含水量のバラツキを、より抑制することができる。
但し、かかる態様の他、互いに隣接する防水部材6同士が繋がっている態様を採用してもよい。
なお、このように防水部材6が繋がっている場合には、各電気防食電極1と、隣に配された電気防食電極1用の固定部4の端縁との距離が、上記距離Lに相当する。すなわち、隣り合った固定部4同士間に位置する防水部材6は、隣り合った両方の電気防食電極1用の防水部材6として共用される。
【0044】
続いて、本実施形態のコンクリート構造体の製造方法について説明する。
【0045】
上記コンクリート構造体100の製造方法は、例えば以下の通りである。すなわち、先ず、内部に金属材11が設置されたコンクリート10の表面に電気防食電極1を載置する。次に、第1の防水部材6aを電気防食電極の上方からこれを覆うように、コンクリート10表面に配する。次に、第1の防水部材6aの内面とコンクリート10表面との隙間に、固定部4を形成するための材料を注入し、該材料を硬化させて固定部4を形成する。そして、第1の防水部材6aの表面とコンクリート10とに跨るように、第2の防水部材6bを形成するための材料を塗布等によって配し、これを硬化させて第2の防水部材6bを形成する。このとき、第2の防水部材6bの端縁と、電気防食電極1との距離が、20mm以上となるように、第2の防水部材6bを形成する。このようにして、コンクリート構造体100を製造する。
【0046】
上記の通り、本実施形態のコンクリート構造体100は、内部に金属材11が設置されているコンクリート10の表面に電気防食電極1が固定部4で覆われることによって固定されるため、コンクリート構造体100を製造するために、あえてコンクリート10表面を切削したりコンクリート10表面に穴を空けたりする必要がない。
加えて、固定部4の表面と、該固定部4の外側に位置するコンクリート10表面とが防水部材6によって覆われており、しかも、防水部材6の延出端縁と電気防食電極との距離Lが20mm以上であるため、降雨等によってコンクリート10内部に水が浸入し難く、防食電流に影響する領域でのコンクリート10の含水量の変動を抑制することができる。これにより、防食電流のバラツキを抑制することができる。
従って、電気防食電極1が容易に設置され、しかも、比較的防食電流のバラツキが少ないコンクリート構造体100となる。
【0047】
また、本実施形態では、防水部材6が、第1の防水部材6aと第2の防水部材6bとを有しているため、第1の防水部材6aと第2の防水部材6bとを、別材料を用いて形成したり、別々の工程で形成したりすること等ができる。例えば、製造時において、後述するように固形部4を形成するための材料の形状を第1の防水部材6aによって保持しつつ硬化させ、第2の防止部材6bによって延出端縁の位置を調整することができる。
このように、第1の防水部材6aと第2の防水部材6bとに、それぞれ異なる機能を付与し、役割を分担させることができる。また、電気防食電極1が一層容易に設置され、しかも、一層防食電流のバラツキが少ないコンクリート構造体100となる。
【0048】
次に、本発明の第2実施形態に係るコンクリート構造体について、図4を参照しつつ説明する。なお、図4において図1と共通する部分には共通する符号を付して説明を繰り返さない。
【0049】
本実施形態のコンクリート構造体100において、固定部4は、形状保持部材として機能する第1の防水部材6aに覆われていない。
また、防水部材6は、固定部4の表面と、前記コンクリート10における前記固定部4の外側の表面とに跨ってこれらを覆うように形成された一の成形体から構成されている。このような防水部材6としては、前述した第2の防水部材6bを形成するための材料と同様の材料から形成された樹脂成形体が挙げられる。
【0050】
また、本実施形態の固定部4は、例えば、不図示の型枠を用い、固定部4を形成するための材料を該型枠に流し込んで硬化させることによって、形成することができる。また、固定部4を形成した後、型枠を外し、その後、防水部材6を形成するための材料を、固定部4の表面全体と該固定部4の外側に位置するコンクリート10表面とに跨るように塗布等によって配し、硬化させることによって、防水部材6を形成することができる。このとき、防水部材6の延出端縁と電気防食電極1との距離Lが20mm以上となるように、防水部材6を形成する。
その他、本実施形態のコンクリート構造体100の構成、及びその製造方法は、上記第1実施形態と同様であるため、説明を繰り返さない。
【0051】
次に、本発明の第3実施形態に係るコンクリート構造体について、図5を参照しつつ説明する。なお、図5において図1及び図4と共通する部分には共通する符号を付して説明を繰り返さない。
【0052】
本実施形態においては、図5に示すように、溝9を有するコンクリート10に電気防食電極1が配されている。また、固定部4は、溝9を埋めつつ、電気防食電極1を覆ってコンクリート10表面に固定するように構成されている。そして、固定部9は、その表面が、溝部9の外側に位置するコンクート10表面と面一状となるように形成されている。なお、本実施形態では、溝部9の底面が、電気防食電極が配されるコンクリート10表面に相当する。また、溝9としては、例えば、幅5〜50mm、深さ5〜50mmのものが挙げられる。
【0053】
また、本実施形態の固定部4は、溝9に固定部4を形成するための材料を流し込んで硬化させることによって、形成することができる。また、固定部4を形成した後、固定部4の表面全体と該固定部4の外側に位置するコンクリート10表面とに跨るように塗布等によって配し、硬化させることによって、防水部材6を形成することができる。
その他、本実施形態のコンクリート構造体100の構成、及びその製造方法は、上記第1実施形態と同様であるため、説明を繰り返さない。
【0054】
尚、前記各実施形態にかかるコンクリート構造体は以上の通りであるが、本発明のコンクリート構造体は、上記実施形態に特に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において適宜変更することができる。例えば、上記第3実施形態では、溝内が固定部で充満している態様を示したが、その他、溝の底面に、上記第1及び第2実施形態と同様の固定部及び防水部材が配された態様を採用することもできる。
【実施例】
【0055】
次に実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0056】
(製造例1)
・使用材料
金属材:直径13mm×長さ300mmの円柱状の鋼材(D13)(商品名:異形棒鋼(鉄筋)D13、千代田鋼鉄工業株式会社製)
コンクリート材料:普通ポルトランドセメント(商品名:普通ポルトランドセメント、住友大阪セメント社製)、粗骨材、細骨材、水
電気防食用電極:チタンリボンメッシュ#100、13mm×長さ400mm(商品名:エルガードチタンリボンメッシュ#100、住友大阪セメント株式会社製)
グラウト材料:無収縮モルタル「フィルコン−R」(住友大阪セメント社製)
モール:塩化ビニル製、開口幅27mm×内側高さ14mm×内側長さ300mm(商品名:ワイヤプロテクタ N型、 マサル工業社製)
樹脂材料:エポキシ樹脂(商品名:ショーボンド#101B、ショーボンド化学株式会社製)
【0057】
・評価サンプルの製造
図6に示すように、まず、金属材とコンクリート材料とを用いて、内部に金属材を有するコンクリートを形成した。具体的には、互いに100mm間隔(中心間の間隔)で、かぶり厚さがTmmとなるように、且つ、コンクリート表面と平行となるように4本の金属材が内部に埋設されるように、長さ400mm×幅300mm×高さ100mmの矩形状のコンクリートを、型枠を用いて形成した。
次に、各金属材の直上に位置するコンクリート表面に、金属材と平行に電気防食用電極を4本載置した。なお、4本の電気防食電極の位置を、図6(a)の左側に配置されたものから順に、位置1、位置2、位置3、位置4と呼ぶこととした。
次に、該各電極の上方からモールを被せ、モールに形成された不図示の貫通孔からグラウト材料を注入し、注入されたグラウト材料を硬化させることによって、固定部としてのグラウトを形成した。固定部の断面は断面台形状とし、該台形の上底を18mm、下底を27mm、高さを14mmとした。
次に、型枠を用い、位置3のモールの外側周辺を除いてコンクリート表面の露出部分が無くなるように、且つ、位置1、2、4のモールの最上面のみが露出するように、樹脂材料をコンクリート表面に流し込んで、硬化させ、樹脂成形体を形成した。なお、図6において、樹脂成形体の高さは、位置1、2、4のモールの最上面と同じ高さとした、すなわち、これらの最上面を、樹脂成形体の間から露出させた。また、コンクリートの側面及び底面は、樹脂成形体によって覆われていない。さらに、位置2の右側の樹脂成形体の端縁と、位置4の左側の樹脂成形体の端縁との間の間隔を100mmに設定し、且つ、これら端縁の中心に位置3のモールが配されるように設定した。
次に、図6(a)、(b)に示すように、位置3のモールの傾斜面(側面部)とコンクリート表面とに跨るように、樹脂材料を塗布して硬化させて、樹脂成形体を形成することによって、コンクリート構造体を作製した。このとき、電気防食電極の長手方向と垂直な方向(図6の左右方向)における電気防食電極と樹脂成形体の延出端部との距離L、かぶり厚さT(mm)を表1に示すように変更して、試験サンプルを形成した。
【0058】
・試験サンプルの評価
形成した試験サンプルについて、図6(c)に示すように、電気防食電極が正極、金属材が負極となるように4mAの電流を印加し、各電気防食電極から流出する電流(防食電流)を測定した。具体的には、電気防食電極と電源とを結ぶ陽極側のリード線の間に10Ωのセメント抵抗を直列に配置し、該セメント抵抗の両端部の電圧を測定することによって、上記電流を測定した(V=IR)。さらに、位置2と位置3との間のコンクリートの露出部分に、霧吹きにて水を約100mL散布し、露出部分に十分に水を含ませ、この状態で、上記と同様、各電気防食電極から流出する電流を測定した。そして、水を散布する前の測定電流に対する水を散布した後の測定電流の割合(散布前の測定電流を1.0としたときの、散布後の測定電流/散布前の測定電流)を算出した。結果を表1に示す。
【0059】
【表1】
【0060】
表1に示すように、かぶり厚さTによらず、距離Lが20mm以上であれば、防食バラツキが低減され、距離Lがかぶり厚さT以上であれば、防食バラツキが一層低減されることがわかった。
【0061】
(製造例2)
・評価サンプルの製造
上記製造例1と同様の金属材、コンクリート材料、電気防食用電極、樹脂材料を用いた。一方、固定部を形成するための材料として、下記のモルタルを用いた。
モルタル材料:セメントモルタル 「エルガードモルタル」(住友大阪セメント社製)
【0062】
図7に示すように、まず、金属材とコンクリート材料とを用いて、内部に金属材を有するコンクリートを形成した。具体的には、互いに100mm間隔(中心間の間隔)で、かぶり厚さがTmmとなるように、且つ、コンクリート表面と平行となるように4本の金属材が埋設されるように、さらに、長さ400mm×幅300mm×高さ100mmの矩形状であって溝を有するように、溝が形成されるような凸部を有する型枠を用いてコンクリートを形成した。該溝は、長さ300mm×幅25mm×深さ20mm、間隔100mm(中心間の間隔)で、金属材の直上にこれと平行に形成した。なお、上記と同様、4本の電気防食電極の位置を、図7(a)の左側に配置されたものから順に、位置1、位置2、位置3、位置4と呼ぶこととした。
次に、各溝の底面において幅方向中央に、金属材と平行に電気防食用電極を載置した。
次に、位置1〜4の各溝に、該溝が埋まるようにモルタル材料を用いて左官により被覆し、硬化させ、固定部を形成した。なお、固定部の上面が、該溝が形成されていないコンクリート表面と面一となるように、固定部を形成した。
そして、位置1〜位置4の固定部全面と、該固定部の外側のコンクリート表面とに跨るように樹脂材料を塗布し、自然乾燥によって硬化させて、樹脂成形体を形成して、コンクリート構造体を作製した。このとき、上記と同様、電気防食電極の長手方向と垂直な方向(図7の左右方向)における電気防食電極と樹脂成形体の延出端部との距離L、かぶり厚さT(mm)を表2に示すように変更して、試験サンプルを形成した。なお、各位置の樹脂成形体同士を、互いに離間しているように形成した。
【0063】
・試験サンプルの評価
形成した試験サンプルについて、図7(c)に示すように、電気防食電極が正極、金属材が負極となるように4mAの電流を印加し、各電気防食電極から流出する電流(防食電流)を、上記と同様にして測定した。さらに、位置2と位置3との間のコンクリートの露出部分に、霧吹きにて100mLの水を散布し、露出部分に十分に水を含ませ、この状態で、上記と同様、各電気防食電極から流出する電流を測定した。そして、水を散布する前の測定電流に対する水を散布した後の測定電流の割合(散布前の測定電流を1としたときの、散布後の測定電流/散布前の測定電流)を算出した。結果を表2に示す。
【0064】
【表2】
【0065】
表2に示すように、かぶり厚さTによらず、距離Lが20mm以上であれば、防食バラツキが低減され、距離Lがかぶり厚さT以上であれば、防食バラツキが一層低減されることがわかった。また、距離Lがかぶり厚さT以上であることによって、電気防食電極と金属材との間に流れる電流が拡散する範囲において、この電流のバラツキを十分に抑制することができることがわかった。
【0066】
(製造例3)
金属材同士の間隔を、200mmとしたこと、及び、かぶり厚さTが20mmの場合において距離L(mm)を変更したこと以外は製造例2と同様にして、試験サンプルを形成した。
そして、製造例2と同様にして、水散布前に対する散布後の測定電流の割合を算出した。結果を表3に示す。
【0067】
【表3】
【0068】
表3に示すように、金属材の同士の間隔を変更しても、距離Lが20mm以上であれば、防食バラツキが低減されることがわかった。
【0069】
(製造例4)
電気防食電極の幅を20mmとしたこと、及び、かぶり厚さTが20mmの場合において距離L(mm)を変更したこと以外は製造例2と同様にして、試験サンプルを形成した。
そして、製造例2と同様にして、水散布前に対する水散布後の測定電流の割合を算出した。結果を表4に示す。
【0070】
【表4】
【0071】
表4に示すように、電気防食電極の幅が20mmの場合であっても、距離Lが20mm以上であれば、防食バラツキが低減されることがわかった。
【0072】
以上のように本発明の実施の形態及び実施例について説明を行なったが、各実施の形態及び実施例の特徴を適宜組み合わせることも当初から予定している。また、今回開示された実施の形態及び実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態及び実施例ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0073】
1:電気防食電極、2:シート体、3:形状保持部材、4:固定部、6:防水部材、6a:第1の防水部材、6b:第2の防水部材、10:コンクリート、11:金属材、100:コンクリート構造体。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7