【文献】
Hiraki Anno et al.,Gallium composition dependence of crystallographic and thermolectric properties in polycrystalline type-I Ba8GaxSi46-x (nominal X=14-18) clathrates prepared by combining arc melting and spark plasma sintering methods,Journal of Solid State Chemistry,2012年 9月,Vol.193,PP.94-104
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
ゼーベック効果を利用した熱電変換モジュールは、熱エネルギーを電気エネルギーに変換することを可能とする。現実に熱電変換する場合は、p型熱電変換材料とn型熱電変換材料とを用いて、一般的には複数のp型およびn型熱電変換材料を交互に電気的に直列に接続する構造とする。熱電変換モジュールの性質を利用し、産業・民生用プロセスや移動体から排出される排熱を有効な電力に変換することができるため、熱電変換は、環境問題に配慮した省エネルギー技術として注目されている。
【0003】
ゼーベック効果を利用した熱電変換素子の無次元性能指数ZTは、下記の式[1]で表すことができる。
ZT=S
2T/ρκ … [1]
式[1]中、S、ρ、κおよびTは、それぞれ、ゼーベック係数、電気抵抗率、熱伝導度および測定温度を表す。
【0004】
式[1]から明らかなように、熱電変換素子の性能を向上させるためには、素子のゼーベック係数を大きくすること、電気抵抗率を小さくすること、熱伝導度を小さくすることが重要である。高い性能指数を示す熱電変換材料として、従来、ビスマス・テルル系材料、シリコン・ゲルマニウム系材料、鉛・テルル系材料などを用いた熱電変換素子が知られている。
【0005】
ところで、従来の熱電変換素子は、それぞれ解決すべき課題を有する。
たとえば、ビスマス・テルル系材料は室温では大きなZT値を有するが、100℃を越えれば急激にそのZT値が小さくなり、廃熱発電のような200〜800℃程度では、熱電変換材料として利用できなくなる。また、ビスマス・テルル系、鉛・テルル系は環境負荷物質の鉛とテルルを含んでいる。
【0006】
そこで、熱電性能が良好で環境負荷が少なく、さらに軽量な新しい熱電変換材料が求められている。そのような新しい熱電変換材料の1つとしてクラスレート化合物が注目されている。熱電変換素子として有望なクラスレート化合物にはいくつかの種類が報告されているが、コスト面等からSi系のクラスレート化合物が注目されている。
【0007】
Si系からなるクラスレート化合物の組成や合成法については既にいくつか開示されている。例えば特許文献1には、Ba、Ga、Siからなるクラスレート化合物において、組成式Ba
8Ga
xSi
46−x(14≦x≦24)で表されるクラスレート化合物とその熱電特性が開示されている。
【0008】
特許文献2には、P型のBa−Al−Siクラスレート化合物において700KでのZTが1.01であることが開示されている。
また、特許文献3には、Ba−Ga−Al−Siクラスレート化合物において800℃でのZTが0.4以上であることが開示されている。
【0009】
特許文献4には組成式Ba
HGa
IAl
JSi
KPd
L(7≦H≦8、9≦I≦12、0≦J≦2、33≦K≦35、0<L≦2、H+I+J+K+L=54)を有するクラスレート化合物およびこれを用いた熱電変換材料は、室温〜600℃という温度領域において、Pdを含まない同系の材料よりも高いZTを有することが開示されている。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好ましい実施形態について説明する。無論、本発明は下記に記載する実施形態に限定されるものではない。
【0020】
(A)熱電変換材料
本発明にかかる熱電変換材料は、Si系クラスレート化合物を主体とし、このSi系クラスレート化合物の母相中に、第二相としてSi化合物を分散させたものである。
クラスレート化合物は格子熱伝導率が低いという特性を有する。そこで、熱電変換材料の性能指数を向上させるためにはゼーベック係数を増加させることが重要である。なお、これらの物性値は熱電変換材料のキャリア濃度に依存するところが大きい。
【0021】
Si系クラスレート化合物としては、Ba−Ga−Si系をはじめ、様々なクラスレート化合物が存在する。
本実施形態にかかるSi系クラスレート化合物は、好ましくは、組成式Ba
aGa
bSi
c(7≦a≦8、14≦b≦18、28≦c≦32、a+b+c=54)で表されるクラスレート化合物である。
本発明では、Si系クラスレート化合物を主体としているが、Si化合物を形成する元素を添加し、第二相としてSi化合物を析出(または晶出)させることにより、Si量(組成式中のcの値)を低減したSi系クラスレート化合物を主体とする熱電変換材料を実現した。
【0022】
つまり、本発明の一態様は、Si系クラスレート化合物を主体とし、Si化合物が分散している熱電変換材料である。その熱電変換材料は大きなパワーファクターを有する。本実施形態にかかる熱電変換材料は、600℃におけるパワーファクターが700μW/mK
2以上である。
【0023】
(A−1)クラスレート化合物
本実施形態にかかるSi系クラスレート化合物は、Siが含まれたクラスレート化合物であり、好ましくは組成式Ba
aGa
bSi
c(7≦a≦8、14≦b≦18、28≦c≦32、a+b+c=54)で表される。
【0024】
本実施形態にかかるSi系クラスレート化合物は、主に、基本的な格子がSiのクラスレート格子から構成され、Ba元素がその内部に内包され、クラスレート格子を構成する原子の一部がGaで置換された構造を有している。組成式Ba
aGa
bSi
cの組成比のうち、Ga、Siの各組成比b、cは概ね、次のような関係を有する。
b+c=46
このような関係を満たせば、当該Si系クラスレート化合物はSiクラスレート相を主体とするものとして実現され、理想的な結晶構造をとりうる。
なお、本実施形態にかかる「熱電変換材料」は、上記Si系クラスレート化合物を主成分とし、少量の他の添加物が含まれてもよい。
本実施形態にかかる「Si系クラスレート化合物」は、Siクラスレート相を主体とするものであればよく、分散したSi化合物に含有されている同じ元素が少量含有されていてもよいし、さらに少量の他の添加物が含まれてもよい。
【0025】
(A−2)Si化合物
本実施形態にかかるSi化合物は、Si系クラスレート化合物中に分散している。
かかるSi化合物は、好ましくは、Siと、V、Cr、Co、Mn、Mo、Nb、Ti、Zr(これらの金属を以後「M」とする。)から選択される少なくとも1種の金属とからなる金属間化合物であり、さらに好ましくはSiと、V、Crから選択される少なくとも1種とからなる金属間化合物である。
【0026】
本実施形態にかかるSi化合物においては、熱電変換材料の粉末X線回折におけるSi化合物の最大回折ピーク強度は、同熱電変換材料中のSi系クラスレート化合物の最大回折ピーク強度に対して、回折ピーク強度比α(%)が0<α<22の条件を満たしている(後記参照)。
【0027】
(B)製造方法
本発明の好ましい実施形態にかかる熱電変換材料の製造方法は、主に、
(1)Si系クラスレート化合物を形成する原料に、Si系クラスレート化合物の母相中に分散させるSi化合物を形成する元素を添加し、混合・溶融・凝固して所定の組成のクラスレート化合物を調製する調製工程と、
(2)前記クラスレート化合物を粉砕して微粒子とする粉砕工程と、
(3)前記微粒子を焼結する焼結工程と、
を有する。これらの工程を経ることにより、所定の組成を有し、ポア(空隙)が少ない材料が得られるという利点がある。
【0028】
(1)調製工程
調製工程では、所定の組成を有しかつ均一な組成のクラスレート化合物のインゴットを製造する。まず、所望のクラスレート化合物の組成となるように、所定量の原料(Ba、Ga、Si、M)を秤量し混合させる。原料は、単体であってもよいし、合金や化合物であってもよく、その形状は、粉末でも片状でも塊状であってもよい。
【0029】
溶融時間としては、すべての原料が液体状態で均質に混ざり合う時間が必要とされるが、製造に要するエネルギーを考慮すると、溶融時間はできるだけ短時間であることが望まれる。そのため、溶融時間は、好ましくは1〜100分であり、さらに好ましくは1〜10分であり、特に好ましくは1〜5分である。
【0030】
原料混合物からなる粉末を溶融する方法は、特に限定されるものではなく、種々の方法を用いることができる。
溶融方法としては、たとえば、抵抗発熱体による加熱、高周波誘導溶解、アーク溶解、プラズマ溶解、電子ビーム溶解などが挙げられる。
ルツボとしては、グラファイト、アルミナ、コールドクルーシブルなどが、加熱方法に対応して適宜用いられる。
溶融の際は、材料の酸化を防ぐために、不活性ガス雰囲気または真空雰囲気下でおこなわれるのが好ましい。
短時間で均質に混ざり合った状態とするためには、好ましくは微細な粉末状の原料が混合されるのがよい。ただし、Baとしては、酸化を防ぐために、好ましくは塊状を呈するものを使用する。また、溶融時に機械的な攪拌または電磁的な攪拌を加えるのも好ましい。
【0031】
溶融後、インゴットにするためには、鋳型を用いて鋳造してもよいし、ルツボ中で凝固させてもよい。できあがったインゴットの均質化のためには、溶融後にアニール処理をおこなってもよい。
アニール処理の処理時間は、製造時の省エネルギーを考慮すると、なるべく短時間とされることが望まれるが、アニール効果を考慮すると、長い時間が必要とされる。アニール処理の処理時間は、好ましくは1時間以上であり、さらに好ましくは1〜10時間がさらに好ましい。
【0032】
アニール処理の処理温度は、好ましくは700〜950℃であり、さらに好ましくは850〜930℃である。処理温度が700℃未満であると、均質化が不十分になるという問題が生じ、処理温度が950℃を超えると、再溶融による濃度偏析が生じるという問題が生じる。
【0033】
(2)粉砕工程
粉砕工程では、調製工程によって得られたインゴットを、ボールミルなどを用いて粉砕し、微粒子状のクラスレート化合物を得ることができる。得られる微粒子としては、焼結性を向上するために粒度が細かいことが望まれる。本実施形態では、微粒子の粒径は、好ましくは150μm以下であり、さらに好ましくは1μm以上75μm以下である。
【0034】
所望の粒径の微粒子とするためには、ボールミルなどによってインゴットを粉砕した後、粒度を調製する。粒度の調製方法は、ISO3310−1規格のレッチェ社製試験ふるいとレッチェ社製ふるい振とう機AS200デジットを用いたふるい分けによりおこなえばよい。なお、この粉砕工程に代えて、ガスアトマイズ法などの各種アトマイズ法やフローイングガスエバポレーション法などを用いて微粉末を製造することもできる。
【0035】
(3)焼結工程
焼結工程では、前記粉砕工程で得られた微粉末状のクラスレート化合物を焼結して、均質で空隙の少ない、所定の形状の固体を得ることができる。焼結方法としては、放電プラズマ焼結法、ホットプレス焼結法、熱間等方圧加圧焼結法などを用いることができる。
【0036】
放電プラズマ焼結法を用いる場合、その焼結の1条件となる焼結温度は、好ましくは600〜1000℃であり、より好ましくは900〜1000℃である。焼結時間は好ましくは1〜10分であり、より好ましくは3〜7分である。圧力は好ましくは40〜80MPaであり、より好ましくは50〜70MPaである。
【0037】
焼結温度が600℃未満では焼結せず、焼結温度が1100℃以上では溶解する。焼結時間が1分未満では密度が低く、焼結時間が10分を超えると焼結が完了・飽和し、それ以上時間をかける意義がないと考えられる。
特に、焼結工程では、微粉末状のクラスレート化合物を上記焼結温度まで加熱してその温度で上記焼結時間保持し、その後に当該クラスレート化合物を加熱前の温度まで冷却する。この場合、微粉末状のクラスレート化合物を焼結温度まで加熱する工程とその温度で保持している工程とでは加圧状態とし、その後当該クラスレート化合物を冷却する工程では加圧状態を解除する。
かかる圧力操作によれば、微粉末状のクラスレート化合物の焼結工程での割れを抑制することができる。
【0038】
(C)クラスレート化合物およびSi化合物の生成の確認
前記の製造方法によって、Si系クラスレート化合物およびSi化合物が生成されたかどうかは、組成分析および粉末X線回折(XRD)により確認することができる。具体的には、焼結後のサンプルを再度粉砕して、JIS K 0131に準ずる方法により回折X線を測定し、得られるピークがタイプ1クラスレート相(Pm−3n、No.223)およびSi化合物相を示すものであれば、それぞれタイプ1クラスレート化合物、Si化合物が合成されたことを確認できる。
【0039】
前記の製造方法によって、生成された合金では、Si化合物のクラスレート化合物に対する体積割合が大きすぎても性能劣化の原因となってしまう。そのため、粉末X線回折ピークにおける前記Si化合物の構造に由来する回折ピーク強度は、同熱電変換材料中のSi系クラスレート化合物の構造に由来する回折ピーク強度に対して、回折ピーク強度比α(%)が0<α<22である。
【0040】
また、実際にはタイプ1クラスレート相とSi化合物相のみからなるものと、不純物相を含むものとがあるため、不純物のピークも観察される。本実施形態にかかる不純物相の割合が多くなると性能劣化の原因となるため、不純物相の最大回折ピーク強度の、Siクラスレート化合物の最大回折ピーク強度に対する、回折ピーク強度比は50%以下であり、好ましくは20%以下であり、さらに好ましくは10%以下である。
【0041】
なお、「回折ピーク強度」とは、粉末X線回折測定において測定された各化合物相のピーク高さとそのピークにおける半値幅の積で定義する。
「最大回折ピーク強度」とは、前記回折ピーク強度が最大のものとする。
また、「回折ピーク強度比」とは、各化合物相の最大回折ピーク強度の割合で定義する。たとえば、Si化合物相の最大回折ピーク強度(IP)の、Siクラスレート化合物相の最大回折ピーク強度(IHS)に対する、回折ピーク強度比αは、それぞれの最大回折ピーク強度を用いて、下記の式[3]で定義される。
回折ピーク強度比α(%)=(IP)/(IHS)×100 … [3]
【0042】
最大回折ピーク強度は、例えば次の通りである。
Si系クラスレート化合物相の最大回折ピーク強度は、空間群Pm−3n(No.223)を有するSi系クラスレート化合物の(123)面由来の回折ピーク強度である。VSi
2化合物相の最大回折ピーク強度は、空間群P6
222(No.180)を有するVSi
2化合物の(111)面由来の回折ピーク強度である。CrSi
2化合物相の最大回折ピーク強度は、空間群P6
222(No.180)を有するCrSi
2化合物の(111)面由来の回折ピーク強度である。NbSi
2化合物相の最大回折ピーク強度は、空間群P6
222(No.180)を有するNbSi
2化合物の(111)面由来の回折ピーク強度である。MoSi
2化合物相の最大回折ピーク強度は、空間群I4/mmm(No.139)を有するMoSi
2化合物の(103)面由来の回折ピーク強度である。CoSi
2化合物相の最大回折ピーク強度は、空間群Fm−3m(No.225)を有するCoSi
2化合物の(220)面由来の回折ピーク強度である。
これらの面の最大回折ピーク強度を用い、上記の式[3]から回折ピーク強度比αを計算することができる。
【0043】
(D)特性評価試験
次に、上記の方法で製造される熱電変換材料の無次元性能指数ZTを算出するための特性評価について説明する。
特性評価項目は、ゼーベック係数S、電気抵抗率ρである。
特性評価試験では、電子線マイクロアナライザー(島津製作所製EPMA−1610)による組成分析とミクロ組織観察、焼結密度測定をおこなう。各種特性評価用サンプルは、20mmφ(直径20mm)×5〜20mm(高さ5〜20mm)の円柱状焼結体から、切り出し、整形する。
【0044】
「ゼーベック係数S」および「電気抵抗率ρ」は、四端子法によりアルバック理工(株)製の熱電特性評価装置 ZEM−3を用いて測定する。
【0045】
以上の測定結果から、パワーファクターも算出される。クラスレート化合物は算出されたパワーファクターから、その熱電変換材料の特性を評価することができる。本実施形態にかかる熱電変換材料では、600℃におけるパワーファクターが700μW/mK
2以上である。
【実施例】
【0046】
以下、本発明を、実施例を用いてさらに詳細に説明するが、本発明は下記実施例により限定されるものではない。
【0047】
(1)サンプルの作製
純度2N以上の高純度のBaと、純度3N以上の高純度のGaと、純度3N以上の高純度のSiと、純度2N以上の高純度のVまたは純度3N以上の高純度のCrとを、所定の配合比率で秤量し(表1参照)、原料混合物を調製した。
【0048】
【表1】
【0049】
この原料混合物を、Ar(アルゴン)雰囲気中において、水冷銅ハース上で300Aの電流で1分間アーク溶解した後、原料の不均一を解消するためにインゴットを反転して、再度アーク溶解を行う工程を5回繰り返し、そのまま水冷銅ハース上で常温まで冷却することによりクラスレート化合物を有するインゴットを得た。
【0050】
その後、インゴットの均一性を高めるために、アルゴン雰囲気で、900℃で6時間のアニール処理をおこなった。得られたインゴットを、メノウ製遊星ボールミルを用いて粉砕し、微粒子を得た。このとき、得られた粒子の粒径の平均が75μm以下となるようにISO3310−1規格のレッチェ社製試験ふるいとレッチェ社製ふるい振とう機AS200デジットを用いて粒度を調製した。
【0051】
得られた焼結用粒子を、放電プラズマ焼結法(SPS法)を用いて、圧力50MPaまで加圧した後に1000℃まで加熱を行い、その後1000℃で5分間焼結した。焼結が終了してから、加圧状態を解除し、1000℃から室温まで冷却を行った。
【0052】
なお、焼結用粒子の焼結が終了してから、加圧状態を保持し続けて冷却を行うと、割れが生じてしまったが、上記のとおりに焼結後に加圧状態を解除して1000℃から室温まで冷却を行うと、そのような割れを抑制することができた。得られるサンプルやダイスの劣化を考慮すると、冷却温度が500℃以上では真空雰囲気で保持することが好ましいが、500℃未満では大気雰囲気で保持してもかまわない。
【0053】
このようにして得られたサンプルの焼結体を、電子線マイクロアナライザー(島津製作所製EPMA−1610)で組成分析するとともに、前記の「(C)クラスレート化合物およびSi化合物の生成の確認」のX線回折と、前記の「(D)特性評価試験」とに供した。
【0054】
(2)サンプルの評価
(2.1)組成分析および組織観察
図1に、実施例1のサンプルにおける(a)Si元素における面分析結果、(b)V元素における面分析結果、を示す。
図1(a)および(b)において、黒または白のコントラストの化合物が確認され、実施例1のサンプルにはSiおよびVが含有されていることを確認できた。
【0055】
図2に、実施例4のサンプルにおける(a)Si元素における面分析結果、(b)Cr元素における面分析結果、を示す。
図2(a)および(b)においても、黒または白のコントラストの化合物が確認され、実施例4のサンプルにはSiおよびCrが含有されていることを確認できた。
【0056】
得られたサンプルの組成分析の結果を表2に示す。
表2から、実施例1〜7および比較例1〜3のサンプルにおいて、所望の組成Ba
aGa
bSi
c(7≦a≦8、14≦b≦18、28≦c≦32、a+b+c=54)の化合物が得られたことがわかる。
【0057】
【表2】
【0058】
比較例1のサンプルはSi化合物を含有していないサンプルである。
比較例1のサンプルは、実施例1〜7および比較例2〜4にくらべて、その秤量配合比におけるBaに対するSi割合が最も小さいにもかかわらず、Si系クラスレート化合物の組成比におけるBaに対するSi割合が最も大きい。
このことから、Si化合物を含有している熱電変換材料は、Si化合物を含有していない熱電変換材料よりも、Si系クラスレート化合物の組成比におけるBaに対するSi割合が小さいことがわかる。
【0059】
(2.2)X線回折分析
得られたサンプルを、粉末X線回折で分析した。
得られた結果から、不純物相のSi系クラスレート化合物相に対する回折ピーク強度比を算出したところ、すべてのサンプルで50%以下であることを確認できた。また、遷移金属Si化合物であるVSi
2またはCrSi
2構造に由来する回折ピークも確認できた。
【0060】
得られたサンプルにおける、強度と2θの関係から、実施例1〜7および比較例2〜4のサンプルでは、Si系クラスレート化合物を主体とし、VSi
2化合物またはCrSi
2化合物が分散していることを確認することができた。
【0061】
さらに、得られた結果から、式[3]に基づき、Si化合物相のSi系クラスレート化合物相に対する回折ピーク強度比α(%)を算出した。
【0062】
(2.3)特性評価
得られたサンプルについて、上記「(D)特性評価試験」の記載のとおりに、特性評価を行い、ゼーベック係数および電気抵抗率を測定した。
ゼーベック係数の測定結果から、すべてのサンプルでゼーベック係数が負となり、各サンプルがn型であることがわかった。
さらにゼーベック係数および電気抵抗率の測定結果から、式[2]に基づき、パワーファクターも算出した。
【0063】
表3に、実施例1〜7および比較例1〜4のサンプルにおける、回折強度ピーク比、600℃におけるゼーベック係数およびパワーファクターを示す。
表3に示すとおり、回折ピーク強度比α(%)が0<α<22の条件を満たしている実施例1〜7のサンプルにおいて、ゼーベック係数の絶対値|S|が大きく90μV/K以上であり、600℃におけるパワーファクターが700μW/mK
2以上であることがわかる。
【0064】
【表3】
【0065】
以上から、Si系クラスレートのゼーベック係数を増大させ、パワーファクターを向上させるためには、組成式Ba
aGa
bSi
c(7≦a≦8、14≦b≦18、28≦c≦32、a+b+c=54)を満たしたまま、Si量(組成式中のcの値)を低減させることが必要である。
本実施例によれば、Si系クラスレート化合物中に遷移金属Si化合物が分散することで、Si系クラスレート化合物のSi量割合は低減することがわかる。また、遷移金属Si化合物相のSi系クラスレート化合物相に対する回折ピーク強度比α(%)を、0<α<22とすることが、ゼーベック係数を増大させ、パワーファクターを向上させることに有用であることがわかる。
【0066】
(3)まとめ
特定の組成式Ba
aGa
bSi
c(7≦a≦8、14≦b≦18、28≦c≦32、a+b+c=54)を有するSi系クラスレート化合物を主体とし、かつ、Si化合物が分散しており、その回折ピーク強度比α(%)が0<α<22である熱電変換材料が、ゼーベック係数の絶対値が90μV/K以上、パワーファクターが700μW/mK
2以上という高い特性を得るのに、有用であることがわかる。