特許第6155166号(P6155166)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6155166
(24)【登録日】2017年6月9日
(45)【発行日】2017年6月28日
(54)【発明の名称】超電導磁気軸受及び冷却装置
(51)【国際特許分類】
   F16C 32/04 20060101AFI20170619BHJP
   F25B 9/00 20060101ALI20170619BHJP
   H02J 15/00 20060101ALI20170619BHJP
【FI】
   F16C32/04 Z
   F25B9/00 Z
   H02J15/00 A
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-222172(P2013-222172)
(22)【出願日】2013年10月25日
(65)【公開番号】特開2015-83855(P2015-83855A)
(43)【公開日】2015年4月30日
【審査請求日】2016年8月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001081
【氏名又は名称】特許業務法人クシブチ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】笠原 甫
(72)【発明者】
【氏名】松井 正和
(72)【発明者】
【氏名】松岡 太郎
(72)【発明者】
【氏名】島田 守
(72)【発明者】
【氏名】池田 匡視
【審査官】 尾形 元
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−081701(JP,A)
【文献】 特開2010−239796(JP,A)
【文献】 特開昭62−266371(JP,A)
【文献】 特開平04−019526(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 32/04
F16C 37/00
F25B 9/00
H02J 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸内に配置された超電導体と、前記超電導体の周囲に配置された超電導コイルと、前記超電導コイルに熱的に接続された冷却源とを備え、前記回転軸を非接触状態に浮上させて支持する超電導磁気軸受であって、
前記超電導コイルを内包する内槽と、前記内槽に接続されており前記回転軸の外周を覆うスロート部とを備え、前記スロート部の内表面の少なくとも一部及び前記回転軸の外表面の少なくとも一部に鏡面処理が施されたことを特徴とする超電導磁気軸受。
【請求項2】
前記超電導体は前記回転軸の一端に配置され、該回転軸の他端は、前記冷却源による冷却温度よりも高い温度の空間に延在することを特徴とする請求項1に記載の超電導磁気軸受。
【請求項3】
前記鏡面処理は、前記内表面及び前記外表面のうち、相互に対向する領域にそれぞれ施されていることを特徴とする請求項1または2に記載の超電導磁気軸受。
【請求項4】
前記スロート部は、前記内槽と接続される接続端とは反対側に開放端を備え、前記鏡面処理は、前記開放端を含む領域の前記内表面に施されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の超電導磁気軸受。
【請求項5】
前記鏡面処理は、前記開放端から前記スロート部の長さの1/4以上離れた位置までの領域に施されることを特徴とする請求項4に記載の超電導磁気軸受。
【請求項6】
前記超電導体と前記超電導コイルとの間に相当する前記回転軸の前記外表面には、前記鏡面処理が施されないことを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の超電導磁気軸受。
【請求項7】
前記回転軸の外表面と前記スロート部の内表面との離間距離を1mm以上10mm以下としたことを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の超電導磁気軸受。
【請求項8】
柱状体内に配置された被冷却体と、前記被冷却体を非接触で冷却する冷却源と、前記被冷却体が配置された側の前記柱状体の端部を内包する内槽と、前記内槽に接続されており前記柱状体の外周を覆うスロート部とを備え、前記スロート部の内表面の少なくとも一部及び前記柱状体の外表面の少なくとも一部に鏡面処理が施されたことを特徴とする冷却装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超電導コイルに対して回転軸を非接触状態に浮上させて支持する超電導磁気軸受、及び、非接触状態で被冷却体を冷却する冷却装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、回転軸内に配置された超電導体と、超電導体の周囲に配置された超電導コイルとを備え、超電導コイルに対して回転軸を非接触状態に浮上させて支持する超電導磁気軸受が知られている。この種の超電導磁気軸受では、超電導コイルに熱的に接続される冷却源を備え、超電導体を非接触状態で冷却するために、冷却源に大きな冷凍能力が要求されるという問題があった。
この問題を解決するために、従来、超電導コイルと超電導体が配置される回転軸とが収容される空間にガスを充填するものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この構成では、超電導コイルと超電導体との熱伝達が輻射だけでなく、ガスによる対流、伝導が加わるため、熱伝達が良くなり超電導体を効率良く冷却することができる。
また、超電導磁気軸受を含む装置全体を輻射シールドで覆うことで、外部からの熱侵入を抑制し、冷却源の熱負荷の低減を図ったものが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−264495号公報
【特許文献2】特開2010−239796号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、超電導体が配置される回転軸からの熱侵入が対策されていないため、回転軸を通じて侵入された熱により、超電導体の冷却が阻害され、冷却源の熱負荷が増大する問題があった。さらに、特許文献2に記載の技術では、装置全体を輻射シールドで覆うため、例えば、超電導フライホイール蓄電装置のように、大型の装置の場合には、装置全体を輻射シールドで覆うのは構成が煩雑化して現実的ではない。
そこで、本発明は、冷却源の熱負荷を簡単に低減できる超電導磁気軸受及び冷却装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明は、回転軸内に配置された超電導体と、前記超電導体の周囲に配置された超電導コイルと、前記超電導コイルに熱的に接続される冷却源とを備え、前記超電導コイルに対して前記回転軸を非接触状態に浮上させて支持する超電導磁気軸受であって、前記超電導コイルを内包する内槽と、前記内槽に接続されており前記回転軸の外周を覆うスロート部とを備え、前記スロート部の内表面の少なくとも一部及び前記回転軸の外表面の少なくとも一部に鏡面処理が施されたことを特徴とする。
この構成によれば、スロート部の内表面の少なくとも一部及び回転軸の外表面の少なくとも一部に鏡面処理が施されたため、スロート部と回転軸との隙間を通じて輻射熱が侵入することが抑制される。従って、超電導体を効率良く冷却することができ、冷却源の熱負荷を簡単に低減できる。
【0006】
この構成において、前記超電導体は前記回転軸の一端に配置され、該回転軸の他端は、前記冷却源による冷却温度よりも高い温度の空間に延在する構成としても良い。また、前記鏡面処理は、前記内表面及び前記外表面のうち、相互に対向する領域にそれぞれ施されていてもよい。また、前記スロート部は、前記内槽と接続される接続端とは反対側に開放端を備え、前記鏡面処理は、前記開放端を含む領域の前記内表面に施されてもよい。
【0007】
また、前記鏡面処理は、前記開放端から前記スロート部の長さの1/4以上離れた位置までの領域に施されてもよい。また、前記超電導体と前記超電導コイルとの間に相当する前記回転軸の前記外表面には、前記鏡面処理が施されない構成としてもよい。また、前記回転軸の外表面と前記スロート部の内表面との離間距離を1mm以上10mm以下としてもよい。
【0008】
また、本発明は、柱状体内に配置された被冷却体と、前記被冷却体を非接触で冷却する冷却源と、前記被冷却体が配置された側の前記柱状体の端部を内包する内槽と、前記内槽に接続されており前記柱状体の外周を覆うスロート部とを備え、前記スロート部の内表面の少なくとも一部及び前記柱状体の外表面の少なくとも一部に鏡面処理が施されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、スロート部の内表面の少なくとも一部及び回転軸の外表面の少なくとも一部に鏡面処理が施されたため、スロート部と回転軸との隙間を通じて輻射熱が侵入することが抑制される。従って、超電導体を効率良く冷却することができ、冷却源の熱負荷を簡単に低減できる。
また、本発明によれば、スロート部の内表面の少なくとも一部及び柱状体の外表面の少なくとも一部に鏡面処理が施されたため、スロート部と柱状体との隙間を通じて輻射熱が侵入することが抑制される。従って、被冷却体を効率良く冷却することができ、冷却源の熱負荷を簡単に低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施形態にかかる超電導磁気軸受が搭載された電力貯蔵装置の概略構成図である。
図2】超電導磁気軸受の概略構成を示す部分拡大図である。
図3】高温側温度と侵入熱との関係を輻射、伝達ごとに示したグラフである。
図4】鏡面処理の有無、及び鏡面処置領域の変化させた場合の超電導バルク体、侵入熱との関係をまとめた図である。
図5】輻射熱の比Qz/Qrと、スロート部と回転軸の隙間との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施の形態について説明する。
図1は、本実施形態にかかる超電導磁気軸受が搭載された超電導フライホイール電力貯蔵装置(以下、電力貯蔵装置という)の概略構成図である。
電力貯蔵装置1は、モータ/発電機11と、フライホイール13と、このフライホイール13の回転軸14を回転自在に支持する超電導磁気軸受15とを有し、電力によりモータ/発電機11を回転させることによりフライホイール13を回転させ、電力を回転力に変換して蓄え、また、フライホイール13の回転力によりモータ/発電機11を回転させて発電することにより回転力を電力に変換して出力するように構成されている。
【0012】
この電力貯蔵装置1はケース体17を有し、このケース体17内にフライホイール13及び回転軸14が格納されている。ケース体17の上面部には、モータ/発電機11が配置されている。このモータ/発電機11と回転軸14の上端14A(他端)との間には、非接触式(空隙式)の電磁クラッチ装置19が配置され、両者間に非接触で回転が伝達されるように構成されている。
このように非接触式の電磁クラッチ装置19を設けることにより、モータ/発電機11の回転軸を常に回転させる必要がなくなり、このモータ/発電機11のロータが常時高速で回転することに伴う渦電流損失やモータ/発電機11のベアリングの回転損失等の損失を防ぐことができ、この電力貯蔵装置1の効率を向上させることができる。
【0013】
ケース体17は、ベース板21上に脚片部23を介して配置されており、ベース板21とケース体17との間の空間に超電導磁気軸受15が配置されている。
具体的には、ケース体17の下方には冷却容器25が取り付けられ、この冷却容器25内に超電導磁気軸受15が格納される。冷却容器25は、断熱性の高い材料を用いて形成され、電力貯蔵装置1が設置された空間の雰囲気温度が超電導磁気軸受15に伝達されることを抑制している。
【0014】
超電導磁気軸受15は、図2に示すように、回転軸14の下端14B(一端)に設けられる超電導バルク体31(超電導体)と、この超電導バルク体31の周囲を囲むように配置される超電導コイル33と、この超電導コイル33を内包する内槽35と、この内槽35に接続されて回転軸14の外周を覆うように延材する筒状のスロート部37とを備える。内槽35は、冷却容器25の底面に不図示の支持部材によって支持されており、この支持部材は、熱侵入が極力防止される材質、形態が選択される。
超電導バルク体31は、超電導コイル33に対して浮上状態となるように配置されるため、超電導バルク体31が設けられた回転軸14及びフライホイール13は、超電導コイル33と非接触状態で回転することができるように構成される。
【0015】
超電導バルク体31は、高温超電導体であるRE系超電導材(RE−Ba−Cu−O材料,REはGdやYなどの希土類元素)が用いられる。温度条件によっては、超電導体として臨界温度の低いNb3Sn系やNb−Ti系の材料を適用しても良い。超電導コイル33の材質も限定されるものではないが、性能向上がめざましいRE系高温超電導線材(REはYなどの希土類)、ビスマス系高温超電導線材やMgB2超電導線材等が用いられる。温度条件によっては、Nb−Ti系超電導線材やNb3Sn系超電導線材を用いてもよい。
また、超電導磁気軸受15には、図1に示すように、超電導コイル33を臨界温度以下に冷却するための熱伝導型の冷却装置41(冷却源)が取り付けられている。この冷却装置41は、例えばHe圧縮器42とHe冷却器等の極低温冷却器43とを備えて構成され、極低温冷却器43は、冷却容器25内に配置されて熱伝導部材34を介して超電導コイル33と伝熱可能となっている。このため、極低温冷却器43の冷熱が熱伝導部材34を介して、超電導コイル33に伝達されるため、この超電導コイル33は臨界温度以下に冷却される。
また、内槽35内には、He(ヘリウム)ガスが充填されている。これにより、超電導バルク体31は、臨界温度以下に冷却された超電導コイル33からの輻射熱で冷却されると共に、ヘリウムガスを介して伝熱によって冷却されるため、超電導バルク体31を効率良く冷却することができる。
【0016】
内槽35は、熱伝導率の高い材料であるCu(銅)で形成されている。Cuの他には、Al(アルミニウム)を用いることもできる。具体的には、熱伝導率が500W/Km以上となる材料(例えば、Cu,Al)が好ましく、内槽35内の温度が50K以下の場合には、熱伝導率が1000W/Km以上となる材料(例えば、高純度Cu,高純度Al)を用いるのが更に好ましい。
この構成では、内槽35を熱伝導率の高い材料であるCuで形成しているため、内槽35の壁面が均等に冷却され、この壁面からの輻射及び伝熱によって超電導バルク体31を効率良く冷却することができる。
【0017】
ところで、上記した構成では、回転軸14の下端14Bに設けられた超電導バルク体31を冷却するために、超電導コイル33を収容した内槽35を備え、この内槽35内を冷却装置41によって冷却している。
しかし、回転軸14の下端14Bを除いた他の部分(例えば、上端14A)は、内槽35の外部であるケース体17内に延在している。ケース体17内は、冷却されていないため、該ケース体17が設置される空間の雰囲気温度に近い温度となる。この雰囲気温度は、当然のことながら内槽35内の冷却温度に比べて高い温度となるため、回転軸14の中に温度の高い部分と低い部分による温度勾配が生じる。
温度勾配が生じると、伝達及び輻射によって、温度の高い高温側部分(上端14A)から低い低温側部分(下端14B)に熱が侵入するため、その分、冷却装置41の熱負荷が高くなることが想定された。
発明者達が、実験等を重ねたところ、図3に示すように、高温側部分の温度が100(K)を超えると、輻射による熱侵入が伝熱による熱侵入を大きく上回るという知見を得た。通常、ケース体17が設置される空間の雰囲気温度は、100(K)以上となるため、輻射による侵入熱を抑えて冷却装置41の熱負荷の低減を図ることが重要となっている。
【0018】
そこで、本実施形態では、内槽35内への輻射熱の侵入を抑えるために、スロート部37の内周面37A(内表面)の一部及び回転軸14の外周面14C(外表面)の一部にそれぞれ鏡面処理を施している。鏡面処理とは、輻射率が0.1以下となるような表面処理をいう。
本実施形態では、回転軸14及びスロート部37は、いずれも熱伝導率が10W/Kmよりも小さい材料である繊維強化プラスチック(FRP;Fiber Reinforced Plastics)で形成されている。この場合には、回転軸14の外周部及びスロート部37の内周部にそれぞれ、金属(例えば、SUS(ステンレススチール)またはTi(チタン))製のスリーブ(不図示)を取り付ける。回転軸14に取り付けたスリーブの外周面(回転軸14の外周面に相当)、及び、スロート部37に取り付けたスリーブの内周面(スロート部37の内周面に相当)のそれぞれ一部に鏡面処理を施せばよい。なお、回転軸14については、該回転軸を金属(例えば、SUS(ステンレススチール)またはTi(チタン))で形成し、この外周面の一部を鏡面処理しても良いことは勿論である。
【0019】
このような鏡面処理は、図2に示すように、スロート部37の内周面37A及び回転軸14の外周面14Cのうち、相互に対向する領域37A1,14C1にそれぞれ施されている。具体的には、鏡面処理は、スロート部37の上端37B(開放端)を含む領域、すなわち、上端37B(開放端)から該スロート部37の長さLの半分の長さ(1/2L)だけ離れた位置までの領域37A1及び、該領域37A1に対向する回転軸14の外周面14Cの領域14C1に施されている。
発明者達の実験等によれば、鏡面処理は、スロート部37の上端37Bから該スロート部37の長さLの1/4以上半分以下の長さ(1/4L以上1/2L以下)離れた位置までの領域37A1に設けることが好ましいことが判明した。なお、符号37Cは、内槽35に接続されるスロート部37の下端(接続端)を示す。
【0020】
次に、実施例について述べる。
[実施例1]
実施例1では、内槽35は残留抵抗比が100の高純度Cu(銅)で形成され、回転軸14及びスロート部37は、いずれも繊維強化プラスチックで形成されている。この回転軸14の外周及びスロート部37の内周には、それぞれSUS(ステンレススチール)製のスリーブ(不図示)が取り付けられている。回転軸14に取り付けられるスリーブの外周面(回転軸14の外周面14Cに相当)、及び、スロート部37に取り付けられるスリーブの内周面(スロート部37の内周面37Aに相当)にはそれぞれ鏡面処理が施されている。
鏡面処理は、輻射率を0.05とし、該鏡面処理をスロート部37の上端37B(開放端)から該スロート部37の長さLの1/4の長さ(1/4L)離れた位置までの領域、及び、これに対向する回転軸14の外周面14Cの領域に施した。
【0021】
[実施例2]
実施例2では、回転軸14の外周面14C及びスロート部37の内周面37Aに施される鏡面処理領域が実施例1と異なる。具体的には、鏡面処理は、スロート部37の内周面37Aの全領域(すなわち上端37Bから下端37Cまで)と、この領域に対向する回転軸14の外周面14Cの領域に施されている。他の構成については上記した実施例1と同一である。
[実施例3]
実施例3においても、回転軸14の外周面14C及びスロート部37の内周面37Aに施される鏡面処理領域が実施例1,2と異なる。具体的には、鏡面処理は、スロート部37の下端37Cから該スロート部37の長さLの半分の長さ(1/2L)離れた位置までの領域、及び、これに対向する回転軸14の外周面14Cの領域に施されている。他の構成については上記した実施例1と同一である。
【0022】
また、従来例として、鏡面処理を施していないものを挙げる。
[従来例]
従来例では、回転軸14の外周面14C及びスロート部37の内周面37Aには、いずれも鏡面処理が施されていない。他の構成については上記した実施例1と同一である。
【0023】
以上の実施例1〜3及び従来例について、冷却装置41を作動させて超電導バルク体31を冷却した際の、該超電導バルク体31の温度を測定し、内槽35内に侵入した熱量を算出した。これらの結果をまとめたものが図4である。
この図4によれば、実施例1では、従来例と比較して、超電導バルク体31の温度は16K低下するとともに、侵入熱を19W低減することが可能となっている。このため、従来のものに比べて、超電導バルク体31を効率良く冷却することができ、冷却装置41の熱負荷を簡単に低減することができる。
また、実施例2は、実施例1と同一の結果が出ており、スロート部37の上端37B(開放端)からの所定領域(高温側)に鏡面処理が施されていれば、上端37B側からの熱の侵入が抑制されるため、下端37C側への鏡面処理の有無にかかわらず、冷却装置41の熱負荷を低減することができることがわかる。
実施例1及び2によれば、スロート部37の上端37B(開放端)からの所定領域(高温側)に鏡面処理を施すことにより、簡単な構成で冷却装置41の熱負荷を効果的に低減できる。
また、実施例3では、超電導バルク体31は、実施例1,2と同等の温度(31K)まで低下したものの、侵入熱は実施例1,2に比べて8W(30%)程大きい。これは、ケース体17内に近い高温側に鏡面処理が施されていないため、熱が回転軸14とスロート部37との隙間に侵入し、輻射熱によって、回転軸14を加熱した分、冷却装置41の熱負荷が大きくなったためと考えられる。このため、鏡面処理は、スロート部37の上端37Bから該スロート部37の長さLの1/4以上半分以下の長さ(1/4L以上1/2L以下)だけ離れた位置までの領域37A1(所定領域)に設けることが好ましい。
なお、実施例1〜3において、超電導バルク体31と超電導コイル33との間に相当する回転軸14の下端(低温)側の外周面14C2には鏡面処理が施されていない。
【0024】
次に、回転軸14とスロート部37との隙間について説明する。
図5は、輻射熱の比Qz/Qrと、スロート部37と回転軸14の隙間距離yとの関係を示すグラフである。
図2に示すように、スロート部37から回転軸14へ伝わる輻射熱をQr、スロート部37から内槽35へ伝わる輻射熱をQzとする。この場合、輻射熱の比Qz/Qrは、回転軸14の直径Xに関係なく、スロート部37と回転軸14の隙間距離(離間距離)yと正比例の関係にある。
ここで、輻射熱の比Qz/Qrが1よりも大きくなる、すなわちQz>Qrとなると、スロート部37から内槽35へ伝わる輻射熱Qzが大きくなるため、輻射熱Qzが内槽35内に侵入しやすくなる。
このため、本構成では、回転軸14の外周面14Cとスロート部37の内周面37Aとの離間距離(隙間距離)yは、上限を10mmとしている。これによれば、輻射熱の比Qz/Qrを1以下に保つことができるため、輻射熱の内槽35内への侵入を効果的に抑えることができる。
一方、本実施形態にように、フライホイール13が接続される回転軸14の場合には、スロート部37と回転軸14の隙間距離yが小さくなると、振動によって、回転軸14がスロート部37に接触する恐れがある。このため、本構成では、隙間距離yの下限を1mmとし、回転軸14とスロート部37との接触を防止している。
【0025】
以上説明したように、本実施形態によれば、回転軸14の下端14Bに配置された超電導バルク体31と、超電導バルク体31の周囲に配置された超電導コイル33と、超電導コイル33に熱的に接続された冷却装置41とを備え、回転軸14を非接触状態に浮上させて支持する超電導磁気軸受15であって、超電導コイル33を内包する内槽35と、内槽35と接続されて回転軸14の外周を覆うスロート部37とを備え、スロート部37の内周面37A及び回転軸14の外周面14Cのそれぞれ一部に鏡面処理が施されたため、スロート部37と回転軸14との隙間を通じて輻射熱が侵入することが抑制される。従って、超電導バルク体31を効率良く冷却することができ、冷却装置41の熱負荷を簡単に低減できる。
【0026】
また、本実施形態によれば、超電導バルク体31は、回転軸14の下端14Bに配置され、該回転軸14の上端14Aは、冷却装置41による冷却温度よりも高い温度の空間に延在する。この構成では、回転軸14における温度の高い部分の温度が100(K)を超えると、輻射による熱侵入が伝熱による熱侵入を大きく上回るが、スロート部37の内周面37A及び回転軸14の外周面14Cのそれぞれ一部に鏡面処理が施されたため、スロート部37と回転軸14との隙間を通じて輻射熱が侵入することが効果的に抑制することができる。
【0027】
また、本実施形態によれば、鏡面処理は、内周面37A及び外周面14Cのうち、相互に対向する領域37A1,14C1にそれぞれ施されているため、輻射熱の侵入を抑えることができる。
【0028】
また、本実施形態によれば、スロート部37は、内槽35と接続される下端37Cとは反対側に開放端となる上端37Bを備え、鏡面処理は、上端37Bからスロート部37の長さの1/4以上1/2以下の長さに相当する内周面37Aの領域37A1、及び、この領域37A1に対向する回転軸14の外周面14Cの領域14C1に施されているため、少ない施工面積によっても効果的に輻射熱の内槽35への侵入を抑制できる。
【0029】
また、本実施形態によれば、超電導バルク体31と超電導コイル33との間に相当する回転軸14の下端側の外周面14C2には、鏡面処理を施していない。鏡面処理は、すべての領域に施しても効果を奏するものではないため、効果の薄い領域には、鏡面処理を施さないことにより、超電導コイル33及び熱伝導部材34を介して極低温冷却器43の冷熱が輻射によって超電導バルク体31へ伝熱し、超電導バルク体31が効果的に冷却される。また、構成を簡素化することにもなるため、超電導磁気軸受15を安価に製作することができる。
【0030】
また、本実施形態によれば、回転軸14の外周面14Cとスロート部37の内周面37Aとの隙間距離yを1mm以上10mm以下としたため、回転軸14とスロート部37との接触を防止できるとともに、輻射熱の比Qz/Qrを1以下に保つことができ、輻射熱の内槽35内への侵入を効果的に抑えることができる。
【0031】
以上、本発明を実施するための形態について述べたが、本発明は既述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術思想に基づいて各種の変形および変更が可能である。例えば、本実施形態では、超電導バルク体31と超電導コイル33とを備える超電導磁気軸受15について説明したが、内槽への侵入熱を抑制して被冷却体を効果的に冷却する構成であれば他の構成とすることもできる。
【0032】
例えば、核磁気共鳴装置NMR(Nuclear Magnetic Resonance)のように、シャフト(柱状体)内に配置される被冷却体を非接触で冷却する冷却装置であれば、本願発明を適用することが可能である。この構成によっても、シャフトとスロート部との隙間を通じて輻射熱が侵入することが抑制される。従って、被冷却体を効率良く冷却することができ、冷却装置の熱負荷を簡単に低減できる。
【符号の説明】
【0033】
1 電力貯蔵装置(超電導フライホイール電力貯蔵装置)
11 モータ/発電機
13 フライホイール
14 回転軸
14A 上端(他端)
14B 下端(一端)
14C 外周面(外表面)
15 超電導磁気軸受
31 超電導バルク体(超電導体)
33 超電導コイル
35 内槽
37 スロート部
37A 内周面(内表面)
37B 上端(開放端)
37C 下端(接続端)
41 冷却装置(冷却源)
図1
図2
図3
図4
図5