特許第6155191号(P6155191)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6155191RNA干渉によるmRNA発現の抑制を促進する促進剤およびその用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6155191
(24)【登録日】2017年6月9日
(45)【発行日】2017年6月28日
(54)【発明の名称】RNA干渉によるmRNA発現の抑制を促進する促進剤およびその用途
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20170619BHJP
   C12N 15/113 20100101ALI20170619BHJP
【FI】
   C12N15/00 A
   C12N15/00 G
【請求項の数】2
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2013-537478(P2013-537478)
(86)(22)【出願日】2012年9月27日
(86)【国際出願番号】JP2012074921
(87)【国際公開番号】WO2013051459
(87)【国際公開日】20130411
【審査請求日】2015年4月28日
(31)【優先権主張番号】特願2011-218815(P2011-218815)
(32)【優先日】2011年10月2日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001421
【氏名又は名称】キユーピー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115255
【弁理士】
【氏名又は名称】辻丸 光一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100129137
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 ゆみ
(74)【代理人】
【識別番号】100154081
【弁理士】
【氏名又は名称】伊佐治 創
(72)【発明者】
【氏名】落谷 孝広
【審査官】 澤田 浩平
(56)【参考文献】
【文献】 特表2009−500357(JP,A)
【文献】 特開2011−132147(JP,A)
【文献】 特開2007−126390(JP,A)
【文献】 特開2006−273834(JP,A)
【文献】 特表2009−531421(JP,A)
【文献】 特表2010−538077(JP,A)
【文献】 TILI,E. et al,Resveratrol modulates the levels of microRNAs targeting genes encoding tumor-suppressors and effecto,Biochem Pharmacol,2010年,Vol.80, No.12,p.2057-65,特にAbstract
【文献】 DHAR,S. et al,Resveratrol and prostate cancer: promising role for microRNAs,Mol Nutr Food Res,2011年 8月,Vol.55, No.8,p.1219-29,特にAbstract
【文献】 BAE,S. et al,Resveratrol alters microRNA expression profiles in A549 human non-small cell lung cancer cells,Mol Cells,2011年 9月,Vol.32, No.3,p.243-9,特にAbstract
【文献】 RIMANDO,A.M. et al,Cancer chemopreventive and antioxidant activities of pterostilbene, a naturally occurring analogue o,J Agric Food Chem,2002年,Vol.50, No.12,p.3453-7,特にAbstract
【文献】 ANEKONDA,T.S.,Resveratrol--a boon for treating Alzheimer's disease?,Brain Res Rev,2006年,Vol.52, No.2,p.316-26,特にAbstract
【文献】 MARAMBAUD,P. et al,Resveratrol promotes clearance of Alzheimer's disease amyloid-beta peptides,J Biol Chem,2005年,Vol.280, No.45,p.37377-82,特にAbstract
【文献】 J Agric Food Chem.,2005年,53(9),p.3403-3407
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K31/00−31/80,48/00,
A61P1/00−43/00,
C12N15/09,A23L1/30
CAplus (STN),
REGISTRY(STN),
MEDLINE (STN),
EMBASE (STN),
BIOSIS (STN),
JSTPlus (JDreamIII),
JMEDPlus(JDreamIII),
JST7580 (JDreamIII),
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式(2)で表されるレスベラトロール(resveratrol)、下記化学式(3)で表されるプテロスチルベン(pterostilbene)、それらの互変異性体、幾何異性体および立体異性体、ならびにそれらの塩からなる群から選択される少なくとも一つの有効成分を含み、
前記有効成分が、Argonaute2(Ago2)の発現を促進することを特徴とするArgonaute2発現促進剤(疾患に関する治療薬を除く)。
【化2】
【化3】
【請求項2】
in vitroにおいて、RNA干渉により標的遺伝子をノックダウンする方法であって、
前記標的遺伝子のmRNAの発現を抑制する外因性の核酸を細胞に導入する工程を含み、
請求項1記載のArgonaute2発現促進剤により、Argonaute2(Ago2)の発現を促進させることを特徴とするノックダウン方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、RNA干渉によるmRNA発現の抑制を促進する促進剤およびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
RNA干渉(RNAi)は、miRNA(micro RNA)、またはsiRNA(small interfering RNA)等の核酸が、前記核酸に相補的な標的mRNAを特異的に分解することにより、標的タンパク質の発現を特異的に抑制する現象である。このような現象は、細胞の分化、増殖、アポトーシス等の生命現象に関わっていると考えられている。このため、前記核酸は、種々の疾患の診断法または治療薬としての応用が期待され、その実用化に向けて、様々な研究が進められている。
【0003】
miRNAの医薬品への応用としては、例えば、線維症関連疾患の治療に、特定のmiRNAを投与することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−516410号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記特許文献1のように、miRNAを医薬品として応用する研究は盛んに行われている。しかしながら、例えば、内在性のmiRNAおよび投与された外因性のmiRNAによるmRNA発現の抑制を促進する促進剤の開発は行われておらず、このような促進剤はこれまで存在しなかった。また、miRNAに限らず、他の核酸によるmRNA発現の抑制を促進する促進剤は存在しなかった。
【0006】
そこで、本発明は、RNA干渉によるmRNA発現の抑制を促進する促進剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の促進剤は、レスベラトロール(resveratrol)、レスベラトロール誘導体、それらの互変異性体、幾何異性体および立体異性体、ならびにそれらの塩からなる群から選択される少なくとも一つの有効成分を含み、前記有効成分が、RNA干渉によりmRNAの発現を抑制する核酸の転写、およびArgonaute2(Ago2)の発現の少なくとも一方を促進することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明者は、レスベラトロール(resveratrol)、レスベラトロール誘導体、それらの互変異性体、幾何異性体および立体異性体、ならびにそれらの塩からなる群から選択される少なくとも一つの有効成分が、miRNA等の核酸の転写を活性化すること、およびRNAi経路において、前記核酸に結合し、標的mRNAの認識・切断を行うRISC(RNA-induced silencing complex)の主要なコンポーネントの一つであるArgonaute2(Ago2)の発現を誘導することにより、RNA干渉によるmRNA発現の抑制が促進されることを突き止め、本発明に到達した。本発明の促進剤によれば、RNA干渉によるmRNA発現の抑制を促進できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1(A)は、レスベラトロールが濃度依存的に、悪性度の高いMDA-MB231D3H2LN細胞の浸潤を抑制したことを示す写真およびグラフである。図1(B)は、レスベラトロールがMDA-MB231D3H2LN細胞の抗がん剤であるドセタキセルに対する薬剤感受性を向上させたことを示すグラフである。図1(C)は、レスベラトロールがin vivoで、MDA-MB231D3H2LN細胞の腫瘍形成を阻害したことを示す写真およびグラフである。図1(D)は、レスベラトロールがin vivoで、MDA-MB231D3H2LN細胞の抗がん剤であるドセタキセルに対する薬剤感受性を向上させたことを示すグラフである。
図2図2(A)は、レスベラトロールが濃度依存的に、MDA-MB231D3H2LN細胞のがん幹細胞(CD24-/CD44+)の割合を減少させたことを示すフローサイトメトリーおよびグラフである。図2(B)は、レスベラトロールが、MDA-MB231D3H2LN細胞におけるがん幹細胞を抑制するmiRNAの一種であるmiR-200cの発現を上昇させたことを示すグラフである。
図3図3(A)は、レスベラトロールが、MDA-MB231D3H2LN細胞におけるがん抑制的なmiRNAであるmiR-16、miR-141、miR-143の発現を上昇させたことを示すグラフである。図3(B)は、浸潤を抑制するmiR-141の発現を減少させると、MDA-MB231D3H2LN細胞に対するレスベラトロールの浸潤抑制効果が低下したことを示す写真およびグラフである。図3(C)は、細胞増殖を抑制するmiR-143の発現を減少させると、MDA-MB231D3H2LN細胞に対するレスベラトロールの細胞増殖抑制効果が低下したことを示すグラフである。
図4図4(A)は、レスベラトロールが、多数のがん抑制的なmiRNAの発現を上昇させることを、マイクロアレイを使用して確認した結果を示すグラフである。図4(B)は、レスベラトロールが、MCF7-ADR細胞におけるmiRNAマシナリーの一種であるAgo2の発現を上昇させたことを示すグラフである。図4(C)は、Ago2を強制発現させたMDA-MB231D3H2LN細胞において、miR-16、miR-143の発現が上昇したことを示すグラフである。図4(D)は、Ago2を強制発現させたHEK293細胞において、RNA干渉の効果がより持続されたことを示すグラフである。
図5図5(A)は、レスベラトロールおよびプテロスチルベンが、MCF7細胞の細胞増殖抑制効果を有することを示すグラフである。図5(B)は、レスベラトロールおよびプテロスチルベンが、MDA-MB231D3H2LN細胞におけるAgo2の発現を上昇させることを示すグラフである。
図6図6は、レスベラトロールおよびプテロスチルベンが、MDA-MB231D3H2LN細胞におけるがん抑制的なmiRNAであるmiR-141、miR-143、miR-200cの発現を上昇させたことを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(促進剤)
本発明の促進剤は、前述のように、レスベラトロール(resveratrol)、レスベラトロール誘導体、それらの互変異性体、幾何異性体および立体異性体、ならびにそれらの塩からなる群から選択される少なくとも一つの有効成分を含み、前記有効成分が、RNA干渉によりmRNAの発現を抑制する核酸の転写、およびArgonaute2(Ago2)の発現の少なくとも一方を促進することを特徴とする。本発明の促進剤は、例えば、in vitroで細胞に添加してもよいし、in vivoで個体動物に投与してもよい。また、本発明の促進剤により転写が促進される核酸は、例えば、細胞における内因性の核酸でもよいし、細胞外から投与された外因性の核酸でもよい。例えば、本発明の促進剤により前記内因性の核酸の転写が促進されることで、前記内因性の核酸によるRNA干渉作用が促進され、例えば、疾患に関与する特定の遺伝子のmRNAの発現を抑制でき、その結果、前記疾患を治療できる。さらに、本発明の促進剤により前記外因性の核酸の転写が促進されることで、前記外因性の核酸によるRNA干渉作用が促進され、例えば、さらに、疾患に関与する特定の遺伝子のmRNAの発現を抑制でき、その結果、より効果的に前記疾患を治療することもできる。
【0011】
本発明の促進剤において、前記レスベラトロールおよびレスベラトロール誘導体が、下記化学式(1)で表される化合物であることが好ましい。

【化1】
【0012】
前記化学式(1)中、R、RおよびRは、それぞれ、水素原子または疎水基であり、互いに同一でも異なっていてもよい。例えば、R、RおよびRの2つまたは3つが疎水基である場合、それらは、互いに同一の疎水基でもよいし、異なる疎水基でもよい。R、RおよびRの少なくとも一つが疎水基であると、例えば、前記化学式(1)で表される化合物の親水性が抑制されることにより、前記有効成分が生体組織内に留まりやすい。前記有効成分が生体組織内に留まりやすければ、RNA干渉によりmRNAの発現を抑制する核酸の転写、およびArgonaute2(Ago2)の発現の少なくとも一方を促進するという効果を、さらに発揮しやすい。
【0013】
前記化学式(1)中、R、RおよびRにおける前記疎水基が、それぞれ、飽和または不飽和炭化水素基であることがより好ましい。前記飽和または不飽和炭化水素基は、分枝構造を含んでいても含んでいなくてもよく、環状構造を含んでいても含んでいなくてもよい。前記飽和炭化水素基の炭素数は、特に限定されないが、例えば1〜30、好ましくは1〜20、より好ましくは1〜10である。前記不飽和炭化水素基の炭素数は、特に限定されないが、例えば2〜30、好ましくは2〜20、より好ましくは2〜10である。また、前記飽和または不飽和炭化水素基は、さらに、1または複数のアルコキシ基またはアリールオキシ基で置換されていても置換されていなくてもよい。前記アルコキシ基の炭素数は、特に限定されないが、例えば1〜30、好ましくは1〜20、より好ましくは1〜10である。前記アリールオキシ基の炭素数は、特に限定されないが、例えば5〜30、好ましくは5〜20、より好ましくは6〜10である。なお、本発明において、前記「アルコキシ基」は、オキシ基(酸素原子、−O−)に、アリール基(芳香族炭化水素基)以外の任意の炭化水素基が結合した基をいう。前記「アリール基(芳香族炭化水素基)以外の任意の炭化水素基」は、前記オキシ基にアリール基(芳香族炭化水素基)が直接結合していなければ、その構造中にアリール基を含む基(例えば、ベンジル基等)であってもよい。また、本発明において、前記「アリールオキシ基」は、オキシ基(酸素原子、−O−)に、アリール基(芳香族炭化水素基)が直接結合した基をいう。前記「アリール基(芳香族炭化水素基)」は、前記オキシ基に芳香環が直接結合していれば、その構造中に、脂肪族炭化水素により形成された置換基、連結基等を含んでいてもよい。前記脂肪族炭化水素により形成された置換基は、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基等があげられる。前記脂肪族炭化水素により形成された連結基は、例えば、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基等があげられる。
【0014】
なお、本発明において「アリール基」は、芳香族炭化水素基をいい、例えば、単環でも縮合環でもよく、ビフェニリル基(C−C−)等でもよい。本発明において、アリール基(芳香族炭化水素基)の炭素数は、特に限定されないが、例えば5〜30、好ましくは5〜20、より好ましくは6〜10である。アリール基をその構造中に含む置換基、またはアリール基から誘導される基(例えば、アリールオキシ基、アラルキル基等)においても同様である。また、本発明において「アルキル基」は、具体的には、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基およびtert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基等が挙げられる。アルキル基をその構造中に含む基またはアルキル基から誘導される基(例えば、アルキルオキシ基、アルキレン基、アラルキル基等)においても同様である。本発明において、「アルケニル基」は、例えば、前記アルキル基の炭素−炭素単結合の1または複数が二重結合に置き換わった基でもよい。「アルキニル基」は、例えば、前記アルキル基の炭素−炭素単結合の1または複数が三重結合に置き換わった基でもよい。アルケニル基もしくはアルキニル基をその構造中に含む基、または、アルケニル基もしくはアルキニル基から誘導される基においても同様である。また、本発明において、置換基等に異性体が存在する場合は、特に限定しない限り、どの異性体でもよい。例えば、単に「プロピル基」という場合は、n-プロピル基でもイソプロピル基でもよい。また、例えば、単に「ビフェニリル基」という場合は、2−ビフェニリル基でも、3−ビフェニリル基でも、4−ビフェニリル基でもよい。
【0015】
前記化学式(1)中のR、RおよびRにおける前記疎水基の、前記飽和炭化水素基は、直鎖もしくは分枝アルキル基、シクロアルキル基、アルキルシクロアルキル基、シクロアルキルアルキル基、またはアルキルシクロアルキルアルキル基であることがさらに好ましく、炭素数1〜6の直鎖または分枝アルキル基であることがさらに好ましい。また、前記化学式(1)中のR、RおよびRにおける前記疎水基の、前記不飽和炭化水素基は、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、またはアラルキル基であることがさらに好ましい。前記アリール基およびアラルキル基の芳香環の各水素原子は、それぞれ、飽和もしくは不飽和炭化水素基、アルコキシ基、またはアリールオキシ基で置換されていてもよい。前記アリール基は、シクロペンタジエニル基、フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、o−メトキシフェニル基、m−メトキシフェニル基、p−メトキシフェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、ビフェニリル基、アントリル基、フェナントリル基、またはピレニル基であることがさらに好ましい。なお、シクロペンタジエニル基は、アニオン状態では、π電子数が6となり、芳香族性を示す。
【0016】
前記化学式(1)で表される化合物は、下記化学式(2)で表されるレスベラトロール(resveratrol)および下記化学式(3)で表されるプテロスチルベン(pterostilbene)の少なくとも一つであることが特に好ましい。なお、下記化学式(2)で表されるレスベラトロールは、前記化学式(1)において、R、RおよびRが全て水素原子である化合物である。また、下記化学式(3)で表されるプテロスチルベンは、前記化学式(1)において、Rが水素原子であり、RおよびRがメチル基である化合物である。
【化2】

【化3】
【0017】
前記レスベラトロールは、ブドウ(ブドウ科ブドウ、Vitis vinifera)の果実のファイトアレキシンとして見出された物質である。前記レスベラトロールは、例えば、天然物由来のものでもよいし、人工合成されたものでもよい。前記レスベラトロールが天然由来の場合、その由来は、特に限定されない。例えば、レスベラトロールは、ブドウの果実に加え、木の実(例えば、ラズベリー、ブルーベリー、メリンジョ等)、草の実(例えば、ピーナッツ等)、およびその他の植物(例えば、イタドリ等)等、多くの種類の植物に含まれている。前記レスベラトロールは、例えば、これらの植物の一種または二種以上から抽出したものでもよい。また、前記レスベラトロールが天然物由来のものである場合、前記レスベラトロールは、例えば、精製されていないクルードな状態のものでもよいし、精製された状態のもの(精製品)でもよい。また、前記レスベラトロールは、例えば、前述のように、その誘導体でもよい。前記レスベラトロールの誘導体としては、例えば、前記化学式(1)で表される化合物(前記化学式(2)で表されるレスベラトロール自体を除く)でもよい。また、例えば、前記化学式(3)で表されるプテロスチルベンは、前記レスベラトロールの類似体(アナログ)であり、前記レスベラトロールの誘導体に含まれる。前記レスベラトロールは、例えば、市販品を購入してもよいし、前記天然物から従来公知の方法で自家調製してよい。
【0018】
前記プテロスチルベンは、前述のように、前記レスベラトロールの類似体(アナログ)である。前記プテロスチルベンは、例えば、天然物由来のものでもよいし、人工合成されたものでもよい。前記プテロスチルベンが天然由来の場合、その由来は、特に限定されない。例えば、プテロスチルベンは、ブルーベリーのうち、特定の品種(例えば、ディアベリー)に多く含まれる。前記プテロスチルベンは、例えば、前記ディアベリー等から抽出したものでもよい。また、前記プテロスチルベンが天然物由来のものである場合、前記プテロスチルベンは、例えば、精製されていないクルードな状態のものでもよいし、精製された状態のもの(精製品)でもよい。また、前記プテロスチルベンは、例えば、その誘導体でもよい。前記プテロスチルベンの誘導体としては、例えば、前記化学式(1)で表される化合物(前記化学式(3)で表されるプテロスチルベン自体を除く)でもよい。前記プテロスチルベンは、例えば、市販品を購入してもよいし、前記天然物から従来公知の方法で自家調製してよい。
【0019】
なお、前述のように、前記化学式(1)で表される化合物に互変異性体、幾何異性体または立体異性体(例えば、配座異性体、光学異性体等)等の異性体が存在する場合は、いずれの異性体も、本発明の促進剤における前記有効成分として用いることができる。例えば、前記化学式(1)は、炭素−炭素二重結合に対し、E型の幾何異性体を表しているが、その異性体であるZ型の幾何異性体も、前記有効成分に含まれる。また、前記化学式(1)で表される化合物、その互変異性体、幾何異性体または立体異性体の塩も、同様に本発明に用いることができる。前記塩は、医学的または薬学的に許容可能な塩であることが好ましい。前記塩は、酸付加塩でも塩基付加塩でもよい。さらに、前記酸付加塩を形成する酸は無機酸でも有機酸でも良く、前記塩基付加塩を形成する塩基は無機塩基でも有機塩基でもよい。前記無機酸としては、特に限定されないが、例えば、硫酸、リン酸、フッ化水素酸、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、次亜フッ素酸、次亜塩素酸、次亜臭素酸、次亜ヨウ素酸、亜フッ素酸、亜塩素酸、亜臭素酸、亜ヨウ素酸、フッ素酸、塩素酸、臭素酸、ヨウ素酸、過フッ素酸、過塩素酸、過臭素酸、過ヨウ素酸等が挙げられる。前記有機酸も特に限定されないが、例えば、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、シュウ酸、p−ブロモベンゼンスルホン酸、炭酸、コハク酸、クエン酸、安息香酸、酢酸、ヒドロキシカルボン酸、プロピオン酸、マロン酸、アジピン酸、フマル酸、マレイン酸等が挙げられる。前記無機塩基としては、特に限定されないが、例えば、水酸化アンモニウム、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩、硫酸塩等があげられ、より具体的には、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、硫酸カリウム、硫酸カルシウム等が挙げられる。前記有機塩基も特に限定されないが、例えば、アルコールアミン、トリアルキルアミン、テトラアルキルアンモニウム、およびトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン等が挙げられる。前記アルコールアミンとしては、例えば、エタノールアミン等が挙げられる。前記トリアルキルアミンとしては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリオクチルアミン等が挙げられる。前記テトラアルキルアンモニウムとしては、例えば、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラプロピルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム、テトラオクチルアンモニウム等が挙げられる。これらの塩の製造方法も特に限定されず、例えば、前記レスベラトロール、レスベラトロール誘導体、それらの互変異性体、幾何異性体または立体異性体に、前記のような酸または塩基を公知の方法により適宜付加させる等の方法で製造することができる。
【0020】
また、本発明の促進剤は、前記レスベラトロール、レスベラトロール誘導体、それらの互変異性体、幾何異性体および立体異性体、ならびにそれらの塩からなる群から選択される少なくとも一つの有効成分以外の物質を含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。
【0021】
本発明において、前記核酸は、前述のように、RNA干渉によりmRNAの発現を抑制する核酸であり、例えば、miRNA、siRNA、shRNA等があげられ、これらの中でも、miRNAが特に好ましい。前記核酸は、例えば、疾患に関連する遺伝子のmRNA発現を抑制する核酸であることが好ましい。
【0022】
本発明の促進剤は、前述のように、前記核酸の転写促進、およびArgonaute2(Ago2)の発現促進の少なくとも一方により、RNA干渉によるmRNAの発現抑制を促進する。このため、本発明の促進剤は、例えば、RNA干渉を利用した疾患の治療方法、医薬品、食品添加物、ノックダウンによる遺伝子解析等に適用できる。
【0023】
(治療方法)
本発明の治療方法は、特定の遺伝子が関与する疾患を治療する方法であって、前記遺伝子は、RNA干渉によりmRNAの発現が抑制される遺伝子であり、前記本発明の促進剤により、RNA干渉によりmRNAの発現を抑制する核酸の転写、およびArgonaute2(Ago2)の発現の少なくとも一方を促進させることを特徴とする。本発明の治療方法は、前記本発明の促進剤の記載を引用できる。
【0024】
本発明の治療方法では、例えば、さらに、前記遺伝子のmRNAの発現をRNA干渉により抑制する外因性の核酸を投与してよい。このように、外因性の核酸を投与することにより、例えば、より効果的に疾患を治療できる。前記外因性の核酸は、例えば、前述の核酸を使用できる。
【0025】
前記疾患は、特定の遺伝子が関与する疾患であり、例えば、がん、アルツハイマー、糖尿病等があげられる。前記外因性の核酸は、前記疾患に関与する遺伝子に応じて、適宜設定できる。
【0026】
(医薬品)
本発明の医薬品は、特定の遺伝子が関与する疾患を治療する医薬品であって、前記遺伝子は、RNA干渉により発現が抑制される遺伝子であり、前記本発明の促進剤と、前記遺伝子のmRNAの発現をRNA干渉により抑制する外因性の核酸とを含み、前記本発明の促進剤が、前記外因性の核酸の転写、およびArgonaute2(Ago2)の発現の少なくとも一方を促進することを特徴とする。本発明の医薬品は、前記本発明の促進剤および前記本発明の治療方法の記載を引用できる。
【0027】
本発明の医薬品の投与方法は、特に制限されず、例えば、経口投与でもよいし、非経口投与でもよい。経口剤として投与する時の形態は、特に限定されず、通常のおよび腸溶性錠剤、カプセル、ピル、散剤、顆粒剤、エリキシル剤、チンキ剤、溶剤、懸濁剤、シロップ、固体または液体エアロゾル、ならびに乳濁液等、当業者が通常用いる形態を選択することができる。また、前記非経口投与は、例えば、静脈注射、筋肉注射、皮下投与、直腸投与、経皮投与、腹腔内投与、局所投与等があげられる。本発明の医薬品の投与量は、特に制限されず、例えば、患者の体の大きさ、年齢、性別、病状の進行状況等により適宜決定される。
【0028】
本発明の医薬品は、例えば、一種類以上の医学的または薬学的に許容可能な添加物をさらに含んでいてもよい。すなわち、例えば、前記本発明の促進剤を、投与に先立ち、一種類以上の薬学的または医学的に許容可能な添加物と共に製剤してもよい。前記添加物は、特に限定されないが、例えば、担体、希釈剤、香料、甘味料、滑沢剤、溶解剤、懸濁剤、結合剤、錠剤崩壊剤、およびカプセル化材等の不活性物質である。また、これら以外にも、例えば、医薬の分野で一般に使用されている任意の添加物を適宜用いても良い。
【0029】
(食品添加剤)
本発明の食品添加物は、特定の遺伝子が関与する疾患を予防または改善する食品添加剤であって、前記遺伝子は、RNA干渉により発現が抑制される遺伝子であり、前記本発明の促進剤を含むことを特徴とする。本発明の食品添加物は、前記本発明の促進剤を含むことが特徴であって、これ以外の構成は特に制限されない。本発明の食品添加物は、前記本発明の促進剤および前記本発明の医薬品の記載を引用できる。
【0030】
(ノックダウン方法)
本発明のノックダウン方法は、RNA干渉により標的遺伝子をノックダウンする方法であって、前記標的遺伝子のmRNAの発現を抑制する外因性の核酸を細胞に導入する工程を含み、レスベラトロール(resveratrol)およびプテロスチルベン(pterostilbene)の少なくとも一つにより、前記導入された外因性の核酸の転写、およびArgonaute2(Ago2)の発現の少なくとも一方を促進させることを特徴とする。本発明のノックダウン方法によれば、前記レスベラトロールおよび前記プテロスチルベンの少なくとも一方により、前記細胞内において、前記外因性の核酸によるRNA干渉作用が促進され、前記標的遺伝子の発現が抑制される。このため、本発明のノックダウン方法により、例えば、遺伝子の解析を良好に行える。本発明のノックダウン方法は、前記本発明の促進剤の記載を引用できる。前記核酸の導入工程は、特に制限されず、例えば、従来公知の方法により行え、前記外因性の核酸は、前記標的遺伝子の種類に応じて適宜設定できる。また、前記細胞の種類または形態等は、特に制限されない。
【実施例】
【0031】
つぎに、本発明の実施例について、説明する。本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0032】
(レスベラトロール、プテロスチルベン)
(1)レスベラトロール(cayman chemical社製)
(2)プテロスチルベン(東京化成工業社製)
【0033】
(細胞)
細胞は、下記(1)〜(4)の細胞を使用した。
(1)MDA-MB231D3H2LN細胞(Xenogen社製)
(2)MCF7-ADR細胞(入手元:American Type Culture Collection)
(3)Ago2強制発現MDA-MB231D3H2LN細胞(Xenogen社製)
(4)Ago2強制発現HEK293細胞(Xenogen社製)
【0034】
(個体動物)
(1)マウス(日本チャールズリバー社製)
【0035】
(浸潤率(% invasion))
浸潤率は、下記の試薬器具を使用し、製造元の説明書の記載に従って測定した。
マトリゲル インベージョン チャンバー 24ウェル 8μm(BD社製)
【0036】
(細胞生存率(%))
細胞生存率は、下記の試薬を使用し、製造元の説明書の記載に従って測定した。
TetraColor One(生化学バイオビジネス社製)
【0037】
図1(C)に示す発光量は、下記のようにして測定、解析した。すなわち、まず、マウスにD-ルシフェリン(150mg/kg, Promega) を腹腔投与し、10分後にIVIS イメージングシステム(Xenogen)を用いて、発光量(Photon/sec)を測定した。前記発光量の測定結果を、LIVINGIMAGE 2.50 software(Xenogen)を用いて解析した。
【0038】
(腫瘍残存率(% of tumor))
腫瘍残存率は、下記のようにして測定した。すなわち、まず、前記機器であるIVISイメージングシステム(Xenogen)を用いて、発光量を測定した。前記発光量の測定結果を、LIVINGIMAGE 2.50 software(Xenogen)を用いて解析した。この解析結果から、腫瘍残存率を測定した。
【0039】
(フローサイトメトリー)
がん幹細胞の割合を測定するために、下記の試薬および機器を使用した。
・抗ヒトCD44-FIT抗体(Becton Dickinson社製, clone L178)
・抗ヒトCD24-APC抗体(Biolegend社製, clone ML5)
・デスクトップセルソーターJSAN(ノベルサイエンス社製)
【0040】
(miRNAおよびAgo2のmRNA発現量の測定)
(1)トータルRNAの抽出
がん細胞(MDA-MB231D3H2LN細胞またはMCF7-ADR細胞)に、レスベラトロールまたはプテロスチルベンを所定濃度で添加した。前記添加から48時間後に、RNA精製前の細胞の溶解液を、Qiazol(キアゲン社製)で処理した。前記処理した溶液から、miRNeasy Mini Kit(50)(キアゲン社製)を用いて、total RNAを抽出した。
【0041】
(2)リアルタイムPCT
(2−1)miRNAのリアルタイムPCR
miRNAに関しては、逆転写反応は、Taqmn miRNA assays Kitを用いて行った。すわなち、total RNA 1μgに、100mM dNTPs(with dTTP) 0.05μL、MultiScribe(登録商標)Reverse Transcriptase(50U/μL) 0.33μL、10×Reverse Transcription Buffer 0.50μL、RNase Inhibitor(20U/μL) 0.063μL、Nuclease-free water 1.387μL、そしてそれぞれのmiRNAに対応する5×RT primer(ID number; miR-16:000391、miR-141:000463、miR-143:002249、miR-200c:002300)を添加した。この混合物を、16℃・5分間、42℃・30分間、85℃・30分間反応させた。
【0042】
リアルタイムPCRは、TaqMan 2X Universal PCR Master Mix, No AmpErase UNG 5μL、20×TaqMan(登録商標)Small RNA Assay 0.5μL、鋳型として4倍希釈したRT反応物を4.5μL添加した、10μLの反応系で行った。リアルタイムPCRのプログラムは、95℃で10分間反応させたのち、95℃・15秒、60℃・60秒の反応を1サイクルとし、このサイクルを40回繰り返すプログラムとした。蛍光強度を、60℃の反応終了時に測定した。
【0043】
(2−2)Ago2のリアルタイムPCR
Ago2に関しては、逆転写反応は、High Capacity cDNA Reverse Transcription Kitを用いて行った。total RNA 1μgに、100mM dNTPs(with dTTP) 0.8μL、MultiScribe(登録商標)Reverse Transcriptase(50U/μL) 0.8μL、10×Reverse Transcription Buffer 2μL、RNase Inhibitor(20U/μL) 0.5μL、10×RT random Primer 2μLを添加し、そして、Nuclease-free waterを、混合物全体が20μLになるように添加した。この混合物を、25℃・10分間、37℃・120分間、85℃・1分間反応させた。
【0044】
リアルタイムPCRは、Platinum qPCR SuperMix-UDG with ROX 5μL、20×TaqMan(登録商標)probe(ID number; Ago2:Hs01085579_m1、TARBP2:Hs00366328_m1、DICER1:Hs00229023_m1、DROSHA6:Hs00203008_m1、DGCR8:Hs00377897_m1) 0.5μL、鋳型として10倍希釈したRT反応物を4.5μL添加した、10μLの反応系で行った。リアルタイムPCRのプログラムは、50℃・2分間および95℃・2分間反応させたのち、95℃・15秒、60℃・30秒の反応を1サイクルとし、このサイクルを45回繰り返すプログラムとした。蛍光強度を、60℃の反応終了時に測定した。
【0045】
図1〜6におけるグラフについて、「*」は、P<0.05を示し、「**」は、P<0.01を示し、「***」は、P<0.001を示す。
【0046】
[実施例1−1]
本実施例では、レスベラトロールの、がん細胞の浸潤への影響を確認した。
【0047】
がん細胞は、MDA-MB231D3H2LN細胞を使用した。前記がん細胞に、レスベラトロールを5μM(μmol/L)〜50μM(μmol/L)で添加した。前記がん細胞について、顕微鏡観察、浸潤率(% invasion)の測定を行った。コントロール(vehicle)は、レスベラトロールに代えて、DMSOを添加し、同様にして顕微鏡観察、浸潤率の測定を行った。
【0048】
図1(A)の写真およびグラフに示すように、レスベラトロールは、濃度依存的に、悪性度の高いMDA-MB231D3H2LN細胞の浸潤を抑制することが確認された。すなわち、図1(A)の顕微鏡写真に示すとおり、がん細胞を示す黒点は、レスベラトロール濃度依存的に減少し、この結果は、同図のグラフにおいて、浸潤率(% invasion)がレスベラトロール濃度依存的に減少したことと一致した。
【0049】
[実施例1−2]
本実施例では、レスベラトロールの、がん細胞のドセタキセルに対する薬剤感受性への影響を確認した。
【0050】
がん細胞は、MDA-MB231D3H2LN細胞を使用した。前記がん細胞に、レスベラトロールを25μM(μmol/L)およびドセタキセル(Docetaxel)を2.5nM(nmol/L)添加した。前記がん細胞について、細胞生存率(Cell viability(%))の測定を行った。コントロール(vehicle)は、レスベラトロールおよびドセタキセルに代えて、DMSOを添加し、同様にして細胞生存率の測定を行った。
【0051】
図1(B)のグラフに示すように、レスベラトロールは、MDA-MB231D3H2LN細胞の抗がん剤であるドセタキセルに対する薬剤感受性を向上させることが確認された。
【0052】
[実施例1−3]
本実施例では、レスベラトロールの、in vivoでの腫瘍形成および薬剤感受性への影響を確認した。
【0053】
個体動物は、SCID Hairless Outbred(SHO)マウスを使用した。前記動物の腹部に、がん細胞であるMDA-MB231D3H2LN細胞を移植した。この状態で、前記動物に、レスベラトロールを、16.5mg/kg/dayで投与した。また、別個体の前記動物に、レスベラトロールおよびドセタキセルを、16.5mg/kg/dayおよび10mg/kg/weekで投与した。前記投与後の動物における腹部のがん細胞について、発光量(Photon/sec)の測定および解析、ならびに腫瘍残存率(% of tumor)の測定を行った。レスベラトロールを投与した実験のコントロール(vehicle)は、レスベラトロールに代えて、エタノールを投与し、同様にして発光量の測定および解析を行った。レスベラトロールおよびドセタキセルを投与した実験のコントロール(vehicle)は、ドセタキセルを投与し、同様にして腫瘍残存率を測定した。
【0054】
図1(C)の写真およびグラフ、ならびに図1(D)のグラフに示すように、レスベラトロールは、in vivoで、MDA-MB231D3H2LN細胞の腫瘍形成を抑制し、抗がん剤であるドセタキセルに対する薬剤感受性を向上させることが確認された。図1(C)左側の写真に示すように、コントロール(vehicle)マウスでは、同図中「a」および「b」で示す円で囲った位置に、腹腔内の腫瘍に由来する発光が確認された。これに対し、図1(C)右側の写真に示すレスベラトロール投与マウスは、発光量が小さいために(図1(C)のグラフ参照)、この写真では発光が確認できなかった。また、図1(D)のグラフに示すように、レスベラトロール投与マウスは、投与後22日(Day 22)および29日(Day 29)のいずれでも、コントロール(vehicle)マウスより腫瘍残存率(% of tumor)が小さく、特に、投与後29日では、腫瘍残存率がきわめて低くなっていた。
【0055】
[実施例2−1]
本実施例では、レスベラトロールの、がん細胞のがん幹細胞の割合(CD24-/CD44+)への影響を確認した。
【0056】
がん細胞は、MDA-MB231D3H2LN細胞を使用した。前記がん細胞に、レスベラトロールを5μM(μmol/L)〜50μM(μmol/L)で添加した。前記がん細胞について、フローサイトメトリー測定を行った。コントロール(0μM(μmol/L))は、レスベラトロールに代えて、DMSOを添加し、同様にしてフローサイトメトリー測定を行った。
【0057】
図2(A)のフローサイトメトリーおよびグラフに示すように、レスベラトロールは、濃度依存的に、MDA-MB231D3H2LN細胞のがん幹細胞(CD24-/CD44+)の割合(Percentage of CD24-/CD44+)を減少させることが確認された。
【0058】
[実施例2−2]
本実施例では、レスベラトロールの、がん細胞におけるがん幹細胞を抑制するmiRNAであるmiR-200cの発現への影響を確認した。
【0059】
がん細胞は、MDA-MB231D3H2LN細胞を使用した。前記がん細胞に、レスベラトロールを25μM(μmol/L)または50μM(μmol/L)で添加した。前記がん細胞について、相対的miRNA発現量を測定した。コントロール(0μM(μmol/L))は、レスベラトロールに代えて、DMSOを添加し、同様にして相対的miRNA発現量(Comparative expression of miR-200c)を測定した。
【0060】
図2(B)のグラフに示すように、レスベラトロールは、MDA-MB231D3H2LN細胞におけるがん幹細胞を抑制するmiRNAであるmiR-200cの発現を上昇させることが確認された。
【0061】
上記実施例2−1および実施例2−2の結果から、レスベラトロールがmiRNAの発現(転写)を促進することが確認され、この結果、がん幹細胞が抑制されることが確認された。
【0062】
[実施例3−1]
本実施例では、レスベラトロールの、がん細胞におけるがん抑制的なmiRNAであるmiR-16、miR-141、miR-143の発現への影響を確認した。
【0063】
がん細胞は、MDA-MB231D3H2LN細胞を使用した。前記がん細胞に、レスベラトロールを25μM(μmol/L)または50μM(μmol/L)で添加した。前記がん細胞について、相対的miRNA発現量(Comparative expression of miR-16、miR-141、miR-143)を測定した。コントロール(0μM(μmol/L))は、レスベラトロールに代えてDMSOを添加し、同様にして相対的miRNA発現量を測定した。
【0064】
図3(A)のグラフに示すように、レスベラトロールは、MDA-MB231D3H2LN細胞におけるがん抑制的なmiRNAであるmiR-16、miR-141、miR-143の発現を上昇させることが確認された。
【0065】
[実施例3−2]
本実施例では、がんの浸潤を抑制するmiR-141の発現減少による、レスベラトロールの浸潤抑制効果への影響を確認した。
【0066】
がん細胞は、MDA-MB231D3H2LN細胞を使用した。前記がん細胞に、Anti-miR-141(Ambion社製)を、トランスフェクション試薬であるDharmaFECT 1(0.2μL)を用いて、100nM(nmol/L)で添加した。ついで、Anti-miR-141を添加したがん細胞(Anti-miR-141)および添加していないがん細胞(Anti-miR-NC)に、レスベラトロールを50μM(μmol/L)で添加した。前記がん細胞について、顕微鏡観察および浸潤率(% invasion)の測定を行った。コントロール(0μM(μmol/L))は、レスベラトロールに代えて、DMSOを添加し、同様にして浸潤率を測定した。
【0067】
図3(B)の写真およびグラフに示すように、浸潤を抑制するmiR-141の発現を減少させると、MDA-MB231D3H2LN細胞に対するレスベラトロールの浸潤抑制効果が低下することが確認された。すなわち、図3(B)の写真に示すように、Anti-miR-141を添加した場合(Anti-miR-141)の方が、添加しなかった場合(Anti-miR-NC)よりも、がん細胞を示す黒点が多く、この結果は、同図のグラフにおいて、Anti-miR-141の方がAnti-miR-NCよりも浸潤率(% invasion)が高かったことと一致した。
【0068】
[実施例3−3]
本実施例では、がんの細胞増殖を抑制するmiR-143の発現減少による、レスベラトロールの細胞増殖抑制効果への影響を確認した。
【0069】
がん細胞は、MDA-MB231D3H2LN細胞を使用した。前記がん細胞に、Anti-miR-143(Ambion社製)を、トランスフェクション試薬であるDharmaFECT 1(0.2μL)を用いて、100nM(nmol/L)で添加した。ついで、前記がん細胞に、レスベラトロールを50μM(μmol/L)で添加した。前記がん細胞について、細胞生存率(cell viability (%))測定を行った。コントロール(0μM(μmol/L))は、レスベラトロールに代えて、DMSOを添加し、同様にして細胞生存率を測定した。
【0070】
図3(C)のグラフに示すように、細胞増殖を抑制するmiR-143の発現を減少させると、MDA-MB231D3H2LN細胞に対するレスベラトロールの細胞増殖抑制効果が低下することが確認された。すなわち、同図に示すように、Anti-miR-141を添加した場合(Anti-miR-141)の方が、添加しなかった場合(Anti-miR-NC)よりも、細胞生存率(cell viability (%))が高かった。
【0071】
上記実施例3−1〜3−3の結果から、レスベラトロールがmiRNAの発現(転写)を促進することにより、がん細胞の増殖を抑制することが確認された。
【0072】
[実施例4−1]
本実施例では、レスベラトロールの、がん細胞におけるがん抑制的なmiRNAの発現への影響を、マイクロアレイを使用して確認した。
【0073】
がん細胞は、MDA-MB231D3H2LN細胞を使用した。前記がん細胞に、レスベラトロールを25μM(μmol/L)で添加した。コントロール(0μM(μmol/L))は、レスベラトロールに代えて、DMSOを添加した。前記添加から48時間後に、RNA精製前の細胞の溶解液を、Qiazol(キアゲン社製)で処理した。前記処理した溶液から、miRNeasy Mini Kit(50)(キアゲン社製)を用いて、total RNAを抽出した。前記total RNAを、マイクロアレイ(Agilent社製)に供して、miRNAの発現を測定した。
【0074】
図4(A)のグラフに、前記マイクロアレイによるmiRNA発現の測定結果を示す。図4(A)において、縦軸は、レスベラトロールを25μM(μmol/L)で添加した群の個々のmiRNAの発現量を、横軸はレスベラトロール(0μM(μmol/L))を添加しなかった群の個々のmiRNAの発現量を示している。あるmiRNAの発現量がレスベラトロールを25μM(μmol/L)で添加した群とレスベラトロールを添加しなかった群とで等しい場合、直線(y=x)上にプロットが存在する。また、あるmiRNAの発現量がレスベラトロールを25μM(μmol/L)で添加した群がレスベラトロールを添加しなかった群より高い場合、直線(y=x)より上にプロットが存在する。図4(A)に示すように、レスベラトロールは、多数のがん抑制的なmiRNAの発現を上昇させることが確認された。
【0075】
[実施例4−2]
本実施例では、レスベラトロールの、がん細胞におけるAgo2の発現への影響を確認した。
【0076】
がん細胞は、MCF7-ADR細胞を使用した。前記がん細胞に、レスベラトロールを50μM(μmol/L)で添加した。前記がん細胞について、Ago2の相対的mRNA発現量を測定した。
【0077】
図4(B)のグラフに、Ago2の相対的mRNA発現量の測定結果を示す。図4(B)において、縦軸は、相対的mRNA発現量(Comparative expression of mRNA(normalized with DMSO))を示し、横軸の1〜5は、それぞれ、1:Ago2、2:TARBP2、3:DICER1、4:DROSHA6、5:DGCR8を示す。Ago2、TARBP2、DICER1、DROSHA6、DGCR8は、全てmiRNAの生合成に関与する遺伝子である。図4(B)に示すように、レスベラトロールは、MCF7-ADR細胞において、Ago2の発現を上昇させることが確認された。
【0078】
上記実施例4−1および4−2の結果から、レスベラトロールは、miRNAの発現(転写)、およびAgo2の発現の両方を促進することが確認された。
【0079】
[実施例4−3]
本実施例では、Ago2を強制発現させたがん細胞における、miR-16およびmiR-143の発現を確認した。
【0080】
がん細胞は、Ago2を強制発現させたMDA-MB231D3H2LN細胞(Ago2 O/E)を使用した。前記がん細胞について、相対的miRNA発現量を測定した。コントロール(NC)は、Ago2を強制発現させていないMDA-MB231D3H2LN細胞について、同様にして相対的miRNA発現量(Comparative expression of miR-16、miR-143)を測定した。
【0081】
図4(C)のグラフに示すように、MDA-MB231D3H2LN細胞においてAgo2を強制発現させた結果、miR-16、miR-143発現の上昇が確認された。
【0082】
[実施例4−4]
本実施例では、Ago2を強制発現させた細胞における、RNA干渉効果の持続性を確認した。
【0083】
正常細胞として、Ago2強制発現HEK293細胞(HEK293 Ago2 O/E)を使用した。前記正常細胞について、相対的miRNA発現量を測定した。コントロール(HEK293)は、Ago2を強制発現させていないHEK293細胞について、同様にして相対的miRNA発現量を測定した。前記相対的miRNA発現量の測定は、図4(D)のグラフに示すように、前記各細胞におけるレニラルシファラーゼに対して規格化されたホタルルシファラーゼ活性に基づいて行った。前記各細胞におけるRNA干渉の効果を確認した。
【0084】
図4(D)のグラフに示すように、HEK293細胞においてAgo2を強制発現させた結果、RNA干渉の効果がより持続されることが確認された。すなわち、同図に示すように、Ago2強制発現後5日(day 5)において、Ago2強制発現HEK293細胞(HEK293 Ago2 O/E)の方が、Ago2を強制発現させていないHEK293細胞(HEK293)よりも、ルシフェラーゼ活性(luciferase activity)が低かったことから、RNA干渉の効果がより持続されることが確認された。
【0085】
上記実施例4−1〜4−4の結果から、細胞種に関わりなく、Ago2の発現が促進されることで、miRNAの発現(転写)が促進され、RNA干渉の効果が持続されることが確認された。すなわち、レスベラトロールにより、Ago2の発現およびmiRNAの転写が促進され、miRNAによるRNA干渉の効果が向上することが明らかである。
【0086】
[実施例5−1]
本実施例では、レスベラトロールおよびプテロスチルベンの、がん細胞の細胞増殖への影響を確認した。
【0087】
がん細胞は、MCF7細胞を使用した。前記がん細胞に、レスベラトロールを25μM(μmol/L)〜100μM(μmol/L)、または、プテロスチルベンを25μM(μmol/L)〜100μM(μmol/L)で添加した。前記がん細胞について、細胞生存率(cell viability (%))測定を行った。コントロール(0μM(μmol/L))は、レスベラトロールおよびプテロスチルベンに代えて、DMSOを添加し、同様にして細胞生存率測定を行った。
【0088】
図5(A)のグラフに示すように、レスベラトロールおよびプテロスチルベンは、MCF7細胞の細胞増殖抑制効果を有することが確認された。プテロスチルベンは、レスベラトロールよりさらに優れた、MCF7細胞の細胞増殖抑制効果を有することが確認された。
【0089】
[実施例5−2]
本実施例では、レスベラトロールおよびプテロスチルベンの、がん細胞におけるAgo2の発現への影響を確認した。
【0090】
がん細胞は、MDA-MB231D3H2LN細胞を使用した。前記がん細胞に、レスベラトロールを50μM(μmol/L)、またはプテロスチルベンを50μM(μmol/L)で添加した。前記がん細胞について、Ago2の相対的mRNA発現量(Relative expression of Ago2)を測定した。コントロール(vehicle)は、レスベラトロールおよびプテロスチルベンに代えて、DMSOを添加し、同様にしてAgo2の相対的mRNA発現量を測定した。
【0091】
図5(B)のグラフに示すように、レスベラトロールおよびプテロスチルベンは、MDA-MB231D3H2LN細胞におけるAgo2の発現を上昇させることが確認され、プテロスチルベンは、レスベラトロールよりさらに優れて、MDA-MB231D3H2LN細胞におけるAgo2の発現を上昇させることが確認された。
【0092】
[実施例5−3]
本実施例では、レスベラトロールおよびプテロスチルベンの、がん細胞におけるmiRNAであるmiR-141、miR-143、miR-200cの発現への影響を確認した。
【0093】
がん細胞は、MDA-MB231D3H2LN細胞を使用した。前記がん細胞に、レスベラトロールを25μM(μmol/L)、またはプテロスチルベンを25μM(μmol/L)で添加した。前記添加から48時間後に、RNA生成前の細胞の溶解液を、Qiazol(キアゲン社製)で処理し、total RNAを抽出した。前記total RNA 1μgに、100mM dNTPs(with dTTP) 0.05μL、MultiScribe(登録商標)Reverse Transcriptase(50U/μL) 0.33μL、10×Reverse Transcription Buffer 0.50μL、RNase Inhibitor(20U/μL) 0.063μL、Nuclease-free water 1.387μL、そしてそれぞれのmiRNAに対応する5×RT primer(ID number; miR-16:000391、miR-141:000463、miR-143:002249、miR-200c:002300)を添加することにより、逆転写反応を行った。その後、リアルタイムPCRでmiR-141、miR-143、miR-200cを定量解析することにより、前記がん細胞について、miR-141、miR-143、miR-200cの相対的miRNA発現量(Relative expression of mRNA)を測定した。コントロール(vehicle)は、レスベラトロールおよびプテロスチルベンに代えて、DMSOを添加し、同様にして相対的miRNA発現量を測定した。
【0094】
図6のグラフに示すように、レスベラトロールおよびプテロスチルベンは、MDA-MB231D3H2LN細胞におけるmiR-141、miR-143、miR-200cの発現を上昇させることが確認され、プテロスチルベンは、レスベラトロールよりさらに優れて、MDA-MB231D3H2LN細胞におけるmiR-141、miR-143、miR-200cの発現を上昇させることが確認された。
【0095】
上記実施例5−1〜5−3の結果から、レスベラトロールに加えて、プテロスチルベンも、Ago2の発現とmiRNAの発現(転写)を促進することが確認され、その結果、がん細胞の増殖を抑制することが確認された。
【0096】
以上の実施例の結果から、レスベラトロールおよびプテロスチルベンは、miRNAの発現(転写)およびAgo2の発現を促進することが確認され、前記促進により、miRNAによるRNA干渉効果が促進されることが確認された。このため、本発明の促進剤は、例えば、特定の遺伝子が関連する疾患に対して、前記遺伝子に対するmiRNAのRNA干渉作用を促進することで、前記疾患の治療等に有用といえる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6