(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6155405
(24)【登録日】2017年6月9日
(45)【発行日】2017年6月28日
(54)【発明の名称】銅合金材料およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 9/02 20060101AFI20170619BHJP
C22C 9/04 20060101ALI20170619BHJP
C22C 9/05 20060101ALI20170619BHJP
C22C 9/10 20060101ALI20170619BHJP
C22C 9/00 20060101ALI20170619BHJP
C22F 1/08 20060101ALI20170619BHJP
H01B 1/02 20060101ALI20170619BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20170619BHJP
C22C 9/06 20060101ALN20170619BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20170619BHJP
【FI】
C22C9/02
C22C9/04
C22C9/05
C22C9/10
C22C9/00
C22F1/08 B
H01B1/02 A
H01B13/00 501D
H01B13/00 501B
!C22C9/06
!C22F1/00 604
!C22F1/00 623
!C22F1/00 630A
!C22F1/00 630F
!C22F1/00 630K
!C22F1/00 650A
!C22F1/00 661A
!C22F1/00 681
!C22F1/00 682
!C22F1/00 683
!C22F1/00 684A
!C22F1/00 685Z
!C22F1/00 694A
!C22F1/00 691B
!C22F1/00 691C
!C22F1/00 692A
!C22F1/00 692B
!C22F1/00 691A
!C22F1/00 694B
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-567450(P2016-567450)
(86)(22)【出願日】2016年4月13日
(86)【国際出願番号】JP2016061908
(87)【国際公開番号】WO2016171055
(87)【国際公開日】20161027
【審査請求日】2016年11月28日
(31)【優先権主張番号】特願2015-89869(P2015-89869)
(32)【優先日】2015年4月24日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(74)【代理人】
【識別番号】100114292
【弁理士】
【氏名又は名称】来間 清志
(72)【発明者】
【氏名】藤井 恵人
(72)【発明者】
【氏名】磯松 岳己
(72)【発明者】
【氏名】樋口 優
【審査官】
川口 由紀子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−100111(JP,A)
【文献】
特開2010−106355(JP,A)
【文献】
特開2015−048503(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 9/00− 9/10
C22F 1/00
C22F 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Niを0.05〜1.2質量%、Pを0.01〜0.15質量%およびSnを0.05〜2.5質量%含有し、残部がCuおよび不可避不純物からなる合金組成を有し、電解研磨後の材料表面をFE−SEMで観察し、1μm×1μmの視野面積当たり、粒子径が5〜30nmである化合物粒子の個数割合が20〜180個/μm2、粒子径が30nm超えである化合物粒子の個数割合が0〜0.67個/μm2であることを特徴とする銅合金材料。
【請求項2】
Niを0.05〜1.2質量%、Pを0.01〜0.15質量%およびSnを0.05〜2.5質量%を含有し、さらにFe、Zn、Pb、Si、Mg、Zr、Cr、Ti、MnおよびCoの中から選ばれる少なくとも1成分を含有し、Feが0.001〜0.1質量%、Znが0.001〜0.5質量%、Pbが0.001〜0.05質量%、Siが0.001〜0.1質量%、Mgが0.001〜0.3質量%、Zrが0.001〜0.15質量%、Crが0.001〜0.3質量%、Tiが0.001〜0.05質量%、Mnが0.001〜0.2質量%およびCoが0.001〜0.2質量%であり、かつMg、Zr、Cr、Ti、MnおよびCoを2以上含有する場合の合計含有量が0.001〜0.5質量%であり、残部がCuおよび不可避不純物からなる合金組成を有し、電解研磨後の材料表面をFE−SEMで観察し、1μm×1μmの視野面積当たり、粒子径が5〜30nmである化合物粒子の個数割合が20〜120個/μm2、粒子径が30nm超えである化合物粒子の個数割合が0〜0.67個/μm2であることを特徴とする銅合金材料。
【請求項3】
Snを0.05〜0.5質量%含有し、引張強度が400MPa以上、導電率が50%IACS以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の銅合金材料。
【請求項4】
Snを0.5質量%超え2.5質量%以下含有し、引張強度が500MPa以上、導電率が25%IACS以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の銅合金材料。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載された銅合金材料を製造する方法であって、
下記(a)〜(e)の工程を含むことを特徴とする銅合金材料の製造方法。
(a)300℃までの冷却速度を30℃/分以上とする溶解鋳造工程。
(b)5℃/分以上で昇温し、600〜1000℃で30分〜10時間保持する均質化熱処理工程。
(c)300℃までの冷却速度を30℃/分以上とする熱間圧延工程。
(d)加工率を80%以上とする冷間圧延工程。
(e)350〜600℃で5秒〜10時間保持する焼鈍工程。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅合金材料およびその製造方法に関し、特に、半導体装置に用いられるリードフレームをはじめとした電気電子部品に用いられる銅合金材料およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ICやLSI等の半導体装置に用いられるリードフレームは、銅合金材料をプレス加工することで形成されるが、この際、材料中に加工歪が残留する。この加工歪が残留すると、後工程のエッチングを行う際、材料に反りが生じ、リードフレームのリードピン間隔の寸法精度が低下する。このため、通常、プレス加工後のリードフレームに400〜450℃での熱処理を施して加工歪を除去するが、この熱処理の際に銅合金の結晶組織が再結晶化することによって、銅合金材料の強度が低下する傾向があることが知られている。そこで、リードフレームに使用される電子機器用銅合金材料には、前述の熱処理を施しても強度が低下しない特性(耐熱性)を具備することが必要とされる。
【0003】
またリードフレーム用銅合金材料には、小型化された部品に適用するための高強度と、部品の発熱を抑制するための高導電率とを具備することに加えて、部品成型の自由度を高めるための良好な曲げ加工性を兼ね備えていることも要求される。
【0004】
このような要求を満たす銅合金材料として、Cu−Ni−Sn−P系合金が広く提供されている。Cu−Ni−Sn−P系合金は、Ni−P系の化合物を析出させることで、高強度、高導電率および良好な曲げ加工性を兼ね備えることができる。
【0005】
特許文献1〜9では、析出物のサイズや分布を制御することで、引張強度、導電率、曲げ加工性に加え、ばね性、耐応力緩和特性、プレス加工性、耐食性、めっき性、半田濡れ性、耐マイグレーション性、熱間加工性といった様々な特性を兼ね備えることが検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平4−154942号公報
【特許文献2】特開平4−236736号公報
【特許文献3】特開平10−226835号公報
【特許文献4】特開2000−129377号公報
【特許文献5】特開2000−256814号公報
【特許文献6】特開2001−262255号公報
【特許文献7】特開2001−262297号公報
【特許文献8】特開2006−291356号公報
【特許文献9】特開2007−100111号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
Cu−Ni−Sn−P系合金は、高強度、高導電率および良好な曲げ加工性を兼ね備えた優れた合金系であるが、プレス加工後のリードフレームに施される400〜450℃の熱処理に対する耐熱性は、十分とは言い難い。
【0008】
特許文献1〜9ではいずれも、様々な材料特性の改良を試みてはいるものの、耐熱性の向上に着目したものではない。
【0009】
上記の事情に鑑み、本発明の目的は、高強度、高導電率および良好な曲げ加工性に加えて、さらに良好な耐熱性を兼ね備えた銅合金材料およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、リードフレームをはじめとした電気電子部品に用いられるCu−Ni−Sn−P系合金について研究を行い、Niを0.05〜1.2質量%、Pを0.01〜0.15質量%およびSnを0.05〜2.5質量%含有する合金組成を有し、電解研磨後の材料表面をFE−SEMで観察し、1μm×1μmの視野面積当たり、粒子径が5〜30nmである化合物粒子の個数割合を20個/μm
2以上、粒子径が30nm超えである化合物粒子の個数割合を1個/μm
2以下とすることで、高強度、高導電率および良好な曲げ加工性を具備するだけではなく、さらに良好な耐熱性をも兼ね備えた銅合金材料が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明の要旨構成は、以下のとおりである。
(1)Niを0.05〜1.2質量%、Pを0.01〜0.15質量%およびSnを0.05〜2.5質量%含有し、残部がCuおよび不可避不純物からなる合金組成を有し、電解研磨後の材料表面をFE−SEMで観察し、1μm×1μmの視野面積当たり、粒子径が5〜30nmである化合物粒子の個数割合が20個/μm
2以上、粒子径が30nm超えである化合物粒子の個数割合が1個/μm
2以下であることを特徴とする銅合金材料。
【0012】
(2)Niを0.05〜1.2質量%、Pを0.01〜0.15質量%およびSnを0.05〜2.5質量%を含有し、さらにFe、Zn、Pb、Si、Mg、Zr、Cr、Ti、MnおよびCoの中から選ばれる少なくとも1成分を含有し、Feが0.001〜0.1質量%、Znが0.001〜0.5質量%、Pbが0.001〜0.05質量%、Siが0.001〜0.1質量%、Mgが0.001〜0.3質量%、Zrが0.001〜0.15質量%、Crが0.001〜0.3質量%、Tiが0.001〜0.05質量%、Mnが0.001〜0.2質量%およびCoが0.001〜0.2質量%であり、かつMg、Zr、Cr、Ti、MnおよびCoを2以上含有する場合の合計含有量が0.001〜0.5質量%であり、残部がCuおよび不可避不純物からなる合金組成を有し、電解研磨後の材料表面をFE−SEMで観察し、1μm×1μmの視野面積当たり、粒子径が5〜30nmである化合物粒子の個数割合が20個/μm
2以上、粒子径が30nm超えである化合物粒子の個数割合が1個/μm
2以下であることを特徴とする銅合金材料。
【0013】
(3)Snを0.05〜0.5質量%含有し、引張強度が400MPa以上、導電率が50%IACS以上であることを特徴とする上記(1)または(2)に記載の銅合金材料。
【0014】
(4)Snを0.5質量%超え2.5質量%以下含有し、引張強度が500MPa以上、導電率が25%IACS以上であることを特徴とする上記(1)または(2)に記載の銅合金材料。
【0015】
(5)下記(a)〜(e)の工程を含むことを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれか1項に記載された銅合金材料の製造方法。
(a)300℃までの冷却速度を30℃/分以上とする溶解鋳造工程。
(b)5℃/分以上で昇温し、600〜1000℃で30分〜10時間保持する均質化熱処理工程。
(c)300℃までの冷却速度を30℃/分以上とする熱間圧延工程。
(d)加工率を80%以上とする冷間圧延工程。
(e)350〜600℃で5秒〜10時間保持する焼鈍工程。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、Niを0.05〜1.2質量%、Pを0.01〜0.15質量%およびSnを0.05〜2.5質量%含有し、残部がCuおよび不可避不純物からなる合金組成を有し、電解研磨後の材料表面をFE−SEMで観察し、1μm×1μmの視野面積当たり、粒子径が5〜30nmである化合物粒子の個数割合を20個/μm
2以上、粒子径が30nm超えである化合物粒子の個数割合を1個/μm
2以下とすることにより、高強度、高導電率および良好な曲げ加工性に加えて、さらに良好な耐熱性を兼ね備えた銅合金材料の提供が可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、本発明の銅合金材料(実施例14)の電解研磨後の表面をFE−SEMにより倍率:50000倍で観察したときのSEM写真である。
【
図2】
図2は、比較例22の電解研磨後の表面をFE−SEMにより倍率:50000倍で観察したときのSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の銅合金材料の好ましい実施の態様について、詳細に説明する。
(銅合金材料の成分組成)
本発明の銅合金材料の基本組成は、Niを0.05〜1.2質量%、Pを0.01〜0.15質量%およびSnを0.05〜2.5質量%含有し、残部がCuおよび不可避不純物である。
【0019】
[必須含有成分]
(Ni:0.05〜1.2質量%)
Niは、母相に固溶し、またPと化合物を形成することで、強度を増加させる元素である。また、Niは、Pと化合物を生成し、この生成物を析出させることで、導電率を高めるとともに耐熱性も向上させる効果を有している。しかしながら、Ni含有量が0.05質量%未満では、その効果を十分に発揮することができず、また、1.2質量%超えでは、導電率が顕著に低下する。このため、Ni含有量は、0.05〜1.2質量%とし、好ましくは0.10〜1.00質量%、より好ましくは0.10〜0.40質量%とした。
【0020】
(P:0.01〜0.15質量%)
Pは、Niと化合物を生成することで、強度の増加、導電率の上昇、および耐熱性の向上に寄与する元素である。しかしながら、P含有量が0.01質量%未満では、その効果を十分に得られず、また、0.15質量%超えだと、導電率の低下、粗大(例えば、粒子径が30nm超え)な化合物粒子の生成による曲げ加工性の低下、微細(例えば、粒子径が5〜30nm)な化合物の生成割合を減少させることによる耐熱性の低下、加工性の低下を引き起こす。このため、P含有量は、0.01〜0.15質量%とし、好ましくは0.01〜0.10質量%、より好ましくは0.05〜0.10質量%とした。
【0021】
(Sn:0.05〜2.5質量%)
Snは、母相に固溶することで、強度の増加および耐熱性の向上に寄与する元素である。しかしながら、Sn含有量が0.05質量%未満では、その効果を十分に得られず、また、2.5質量%超えだと、導電率の低下、熱間加工性の劣化を引き起こす。このため、Sn含有量は、0.05〜2.5質量%とした。なお、引張強度と導電率のうち、特に導電率を重視する場合には、Sn含有量を0.05〜0.5質量%に限定すれば、引張強度が400MPa以上で、50%IACS以上の高導電率を具備することができる点で好ましく、また、特に引張強度を重視する場合には、Sn含有量を0.5質量%超え2.5質量%以下に限定すれば、25%IACS以上の導電率で、500MPa以上の高引張強度を具備することができる点で好ましい。
【0022】
[任意添加成分]
本発明では、基本組成として、上述したNi、PおよびSnを含有することを必須とするが、さらに任意添加成分として、Fe、Zn、Pb、Si、Mg、Zr、Cr、Ti、MnおよびCoの中から選ばれる少なくとも1成分を選択的に含有させてもよい。
【0023】
(Fe:0.001〜0.1質量%)
Feは、Pと化合物を形成することで強度の増加、耐熱性の向上に寄与する元素であり、この効果を奏するには、Fe含有量を0.001質量%以上とすることが好ましい。しかしながら、Fe含有量が0.1質量%よりも多いと、材料が磁性を帯びやすくなり、材料が磁性を帯びると、リードフレームにおける伝送信号の伝達特性が劣化する懸念がある。このため、Fe含有量は、0.001〜0.1質量%とすることが好ましく、0.001〜0.05質量%がより好ましく、0.001〜0.01質量%がさらに好ましい。
【0024】
(Zn:0.001〜0.5質量%)
Znは、母相に固溶することで強度の増加、半田濡れ性の向上、めっき性の向上に寄与する元素であり、この効果を奏するには、Zn含有量を0.001質量%以上とすることが好ましい。しかしながら、Zn含有量が0.5質量%より多いと、導電率が低下する傾向がある。このため、Zn含有量は、0.001〜0.5質量%であることが好ましく、0.01〜0.5質量%がより好ましく、0.1〜0.5質量%がさらに好ましい。
【0025】
(Pb:0.001〜0.05質量%)
Pbは、プレス加工性の向上に寄与する元素であり、この効果を奏するには、Pb含有量を0.001質量%以上とすることが好ましい。しかしながら、Pb含有量を0.05質量%よりも多くしても、効果の更なる向上は認められず、また、近年の環境保護の観点から、Pb含有量を極力抑えることが望ましい。このため、Pb含有量は0.001〜0.05質量%にすることが好ましく、0.001〜0.01質量%がより好ましい。
【0026】
(Si:0.001〜0.1質量%)
Siは、強度の増加に寄与する元素であり、この効果を奏するには、Si含有量を0.001質量%以上とすることが好ましい。しかしながら、Si含有量を0.1質量%よりも多くすると、導電率の低下や、粗大な化合物の生成による曲げ加工性の劣化が懸念される。このため、Si含有量は、0.001〜0.1質量%が好ましく、0.01〜0.1質量%がより好ましい。
【0027】
(Mg:0.001〜0.3質量%)
Mgは、強度の増加や耐熱性の向上に寄与する元素である。また例えば電子部品のばね接点などにおいて、耐応力緩和特性の向上に寄与する。これらの効果を奏するには、Mg含有量を0.001質量%以上とすることが好ましい。しかしながら、Mg含有量を0.3質量%よりも多くすると、導電率の低下や、鋳造時の介在物の形成が懸念される。このため、Mg含有量は、0.001〜0.3質量%が好ましく、0.01〜0.3質量%がより好ましい。
【0028】
(Zr:0.001〜0.15質量%)
Zrは、強度の増加や耐熱性の向上に寄与する元素である。また例えば電子部品のばね接点などにおいて、耐応力緩和特性の向上に寄与する。これらの効果を奏するには、Zr含有量を0.001質量%以上とすることが好ましい。しかしながら、Zr含有量を0.15質量%よりも多くすると、導電率の低下や、熱間加工時の割れが懸念される。このため、Zr含有量は、0.001〜0.15質量%が好ましく、0.01〜0.1質量%がより好ましい。
【0029】
(Cr:0.001〜0.3質量%)
Crは、強度の増加や耐熱性の向上に寄与する元素であり、この効果を奏するには、Cr含有量を0.001質量%以上とすることが好ましい。しかしながら、Cr含有量を0.3質量%よりも多くすると、鋳造時の晶出物の発生による曲げ加工性の低下が懸念される。このため、Cr含有量は、0.001〜0.3質量%が好ましく、0.01〜0.3質量%がより好ましい。
【0030】
(Ti:0.001〜0.05質量%)
Tiは、強度の増加や耐熱性の向上に寄与する元素である。また例えば電子部品のばね接点などにおいて、耐応力緩和特性の向上に寄与する。これらの効果を奏するには、Ti含有量を0.001質量%以上とすることが好ましい。しかしながら、Ti含有量を0.05質量%よりも多くすると、導電率の低下や、鋳塊表面の鋳肌異常が懸念される。このため、Ti含有量は、0.001〜0.05質量%が好ましく、0.01〜0.05質量%がより好ましい。
【0031】
(Mn:0.001〜0.2質量%)
Mnは、強度の増加や耐熱性の向上、熱間加工性の向上に寄与する元素であり、この効果を奏するには、Mn含有量を0.001質量%以上とすることが好ましい。しかしながら、Mn含有量を0.2質量%よりも多くすると、導電率の低下が懸念される。このため、Mn含有量は、0.001〜0.2質量%が好ましく、0.01〜0.2質量%がより好ましい。
【0032】
(Co:0.001〜0.2質量%)
Coは、強度の増加や熱間加工性の向上に寄与する元素であり、この効果を奏するには、Co含有量を0.001質量%以上とすることが好ましい。しかしながら、Co含有量を0.2質量%よりも多くすると、導電率の低下が懸念される。このため、Co含有量は、0.001〜0.2質量%が好ましく、0.01〜0.2質量%がより好ましい。
【0033】
(Mg、Zr、Cr、Ti、MnおよびCoを2以上含有する場合の合計含有量:0.001〜0.5質量%)
Mg、Zr、Cr、Ti、MnおよびCoは、Pと化合物を形成することで、強度の増加、耐熱性の向上に寄与する。これらの元素の添加量は0.001〜0.5質量%が好ましく、0.01〜0.5質量%がより好ましく、0.1〜0.5質量%がさらに好ましい。0.5質量%より大きい場合、導電率の低下、粗大な化合物形成による曲げ加工性の低下が懸念される。
【0034】
(化合物粒子)
本発明においては、電解研磨後の材料表面をFE−SEMで観察し、1μm×1μmの視野面積当たり、粒子径が5〜30nmである化合物粒子の個数割合を20個/μm
2以上、粒子径が30nm超えである化合物粒子の個数割合を1個/μm
2以下とすることで、高強度、高導電率および良好な曲げ加工性に加えて、良好な耐熱性をも兼ね備えた銅合金材料を得ることができる。ここでいう「化合物粒子」とは、鋳造時に形成される介在物や晶出物、鋳造凝固後に形成される析出物の総称である。また、化合物粒子の粒子径は、長径の長さを意味する。1μm×1μmの視野面積当たり、粒子径が5〜30nmである微細な化合物粒子の個数割合が20個/μm
2以上であるとき、微細な化合物粒子により十分なピン止め効果が得られることで再結晶が抑制され、良好な耐熱性が得られる。一方、微細な化合物粒子の個数割合が20個/μm
2より少ない場合には良好な耐熱性が得られない。また、粒子径が30nm超えである粗大な化合物粒子の個数割合が1個/μm
2以下とすることで、良好な曲げ加工性が得られる。粗大な化合物粒子の個数割合が1個/μm
2を超えると、粗大な化合物粒子が破壊の起点となって、曲げ加工性が顕著に劣化する。さらにこのとき、粗大な化合物粒子が多く形成されると、微細な化合物粒子の個数割合が減少する傾向があるため、耐熱性も悪化するおそれもある。従来、化合物粒子の分散状態は、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて観察し、視野中の個数や面積率で表現されることが多いが、それらの数値は試験片の厚さに依存する。しかしながら、TEM用に作製される試験片の厚さを一様に揃えることは困難であり、加えて、同じ試験片で測定したとしても、測定回によってやや異なる結果になる可能性もある。このため、本発明では、試験片の厚さに因らない電界放射型走査電子顕微鏡(FE−SEM)を用いて化合物粒子の個数割合を評価した。
【0035】
(銅合金材料の製造方法)
次に、本発明の銅合金材料の製造方法について説明する。
本発明の銅合金材料は、通常、溶解鋳造→均質化熱処理→熱間圧延→冷間圧延→焼鈍→仕上げ圧延を行うことで製造される。各工程の間に、必要に応じて、面削、バフ研磨、酸洗、脱脂等を適宜行っても良い。また、冷間圧延と焼鈍は、複数回繰り返し行なっても良く、さらに仕上げ圧延後に低温焼鈍を施しても良い。本発明の製造方法においては、溶解鋳造、均質化熱処理および熱間圧延で粗大な化合物粒子を極力生成させず、その後の冷間圧延および焼鈍で微細な析出物を多く生成させることが重要である。本発明の製造方法は、従来と同程度の工程数でありながら、それぞれの工程条件を適切に調整することで、材料特性の向上を実現することができる。
【0036】
<溶解鋳造>
溶解鋳造は、一般的な方法で実施すれば良いが、本発明では、鋳造時、300℃までの冷却を、30℃/分以上の冷却速度で行なうことが、冷却時の晶出や析出を抑制し、粗大な化合物粒子の生成を抑制する点で好ましい。前記冷却速度が30℃/分よりも小さいと、冷却時の晶出や析出を十分に抑制することができず、粗大な化合物粒子が生成しやすくなる傾向があるからである。
【0037】
<均質化熱処理>
均質化熱処理は、溶解鋳造で生成された粗大な化合物粒子を母相に固溶させ、溶体化状態とするために実施する。均質化熱処理は、600〜1000℃で30分〜10時間保持することが好ましい。従来、均質化熱処理の昇温速度は重要視されていなかったが、本発明では、規定する材料組織を得るために、特に昇温速度を、5℃/分以上、好ましくは10℃/分以上に制御することが必要である。昇温速度が5℃/分より小さいと、昇温時に溶解鋳造で形成された粗大な化合物粒子が成長し、その後の均質化熱処理で粗大な化合物粒子を、母相に十分に溶かしきることができずに残存しやすくなって、最終特性で曲げ加工性を劣化させるからである。また、微細な化合物粒子の個数割合も減少するため、耐熱性も悪化する。保持温度が600℃未満および保持時間が30分未満の少なくとも一方を満たす場合には、母相に固溶し切れなかった粗大な化合物粒子が残存しやすくなって、最終特性で曲げ加工性は劣化する恐れがあり、また、保持温度が1000℃超えの場合には、続く熱間圧延工程において、熱間加工割れが生じる恐れがあるからである。なお、保持時間は、溶体化の効果の飽和や、実際の製造における時間制約の観点から、上限を10時間とすることが好ましい。
【0038】
<熱間圧延>
熱間圧延は、550〜950℃で実施することが好ましい。本発明では、特に、300℃までの冷却速度を30℃/分以上とすることが必要である。300℃までの冷却速度が30℃/分より小さいと、冷却中に粗大な化合物粒子が析出しやすくなって、最終特性に悪影響を及ぼすからである。
【0039】
<冷間圧延>
熱間圧延後の冷間圧延は、80%以上の加工率で実施することが好ましい。加工率が80%未満だと、材料内に均一にひずみが導入されず、後の焼鈍で微細な化合物粒子が析出する際、材料内で析出状態に差が出る恐れがあるからである。
【0040】
<焼鈍>
焼鈍は、350〜600℃で5秒〜10時間保持するのが好ましい。前記の範囲よりも低温短時間だと、微細な化合物粒子の析出が不十分で、強度および導電率の低下が懸念され、また、前記の範囲よりも高温長時間だと、粗大な化合物粒子が析出し、曲げ加工性の劣化や耐熱性の悪化が懸念されるからである。
【0041】
<仕上げ圧延>
仕上げ圧延の加工率は特に限定されるものではないが、良好な曲げ加工性を得るため、60%以下とすることが好ましい。
【0042】
<低温焼鈍>
仕上げ圧延後に、250〜400℃で2秒〜5時間の低温焼鈍を実施しても良い。低温焼鈍により、材料のばね性や耐応力緩和特性を向上させることができる。前記の範囲よりも低温短時間だと、低温焼鈍の効果が得られない恐れがあり、また、前記の範囲よりも高温長時間だと、微細な化合物粒子が粗大に成長し、曲げ加工性や耐熱性に悪影響を及ぼす恐れがあるからである。また材料の再結晶が進行し、所望の強度が得られなくなる恐れがある。
【0043】
本発明の銅合金材料は、所定の合金組成を有するCu−Ni−Sn−P系銅合金中の化合物粒子のサイズと量を制御することで、高強度、高導電率および良好な曲げ加工性に加えて、さらに耐熱性も兼ね備えることができる。このため、本発明の銅合金材料は、リードフレームをはじめとした電気電子部品に用いるのに好適である。
【実施例】
【0044】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0045】
(実施例1〜26および比較例1〜22)
以下に、実施例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0046】
合金成分を溶解し、300℃まで30℃/分以上の冷却速度で冷却しながら鋳造して、表1に示す成分組成を有する鋳塊を作製した後、表2に示す昇温速度で昇温し、600〜1000℃で30分から10時間保持する均質化熱処理を施し、次いで熱間圧延を実施した。熱間圧延後に、表2に示す300℃までの冷却速度で冷却し、その後、面削により表面酸化層を除去し、80%以上の加工率で冷間圧延を実施した。更にその後、350〜600℃で5秒〜10時間焼鈍を実施し、次いで仕上げ圧延を60%以下の加工率で施し、最後に250〜400℃で2秒〜5時間の低温焼鈍を行い、板厚0.5mmの銅合金材料を製造した。
【0047】
このようにして製造した供試材について、下記の評価を実施した。
【0048】
(組織観察)
製造した各銅合金材料(供試材)から採取した試験片(サイズ:20mm×20mm)の表面20μmをリン酸系水溶液で電解研磨した後、FE−SEMにより、材料表面を10000〜100000倍で観察した。観察は1μm×1μmの範囲を任意に3視野観察し、その視野範囲内に存在する、粒子径が5〜30nmの微細な化合物粒子の個数と、粒子径が30nm超えの粗大な化合物粒子の個数を計測した。その後、計測した個数を、1μm×1μm(1μm
2)の視野面積当たりの個数割合に換算した。換算した個数割合は四捨五入して、微細な化合物粒子に関しては整数で示し、また、粗大な化合物粒子に関しては小数点第二位の数字までを示した。
【0049】
(引張強度の測定)
引張強度は、各供試材から、JIS Z2241:2011の附属書Bに規定されている5号試験片を、圧延平行方向に沿って切り出して3本採取し、JIS Z2241:2011に規定された「金属材料引張試験方法」に準じて3本測定した。それらの引張強度の平均値を表2に示す。
【0050】
(導電率の測定)
20℃(±0.5℃)に保たれた恒温漕中で、四端子法により比抵抗値を計測し、計測した比抵抗値から導電率を算出した。なお、端子間距離は100mmとした。
【0051】
(曲げ加工性)
JCBA T307:2007に基づき、曲げ試験を実施した。板幅10mmの試験片を、曲げ軸が圧延方向と垂直になる方向(G.W.方向)及び平行になる方向(B.W.方向)に対してそれぞれ内側曲げ半径0.5mmで、曲げ角度90°のW曲げを行った。リードフレームをはじめとする電気電子部品においては、G.W.方向とB.W.方向の両方向の曲げ加工が想定されるため、曲げ後の曲げ部頂点の表面を光学顕微鏡により観察し、G.W.方向とB.W.方向のいずれも割れの発生していなかったものを曲げ加工性良好(A)、発生していたものを曲げ加工性不良(D)として評価した。その評価結果を表2に示す。
【0052】
(耐熱性)
耐熱性は、450℃に昇温した塩浴中に試験片を投入し、5分間経過後に取出し水冷する熱処理を施し、熱処理後の硬さを、熱処理前の硬さで除した値が0.8以上である場合を耐熱性良好(A)、0.8未満であったものを耐熱性不良(D)として評価した。その評価結果を表2に示す。なお、硬さは、JIS Z 2244:2009に規定されるビッカース硬さ試験−試験方法に基づき測定した。また、熱処理後の材料は、塩浴と接触した表面に皮膜が形成されていたため、酸洗で除去した後に硬さを測定した。
【0053】
【表1】
【0054】
【表2】
【0055】
表1および表2に示す結果から、Sn濃度が0.05〜0.5質量%の範囲である実施例1〜13はいずれも、引張強度が432〜492MPaと400MPa以上であり、導電率が50〜77%IACSと50%IACS以上であり、良好な曲げ加工性(A)と良好な耐熱性(A)が得られている。これに対して、表1に示した成分組成が本発明の範囲外である比較例1〜9ならびに表2に示した製造条件が本発明の範囲外である比較例10および11はいずれも、引張強度、導電率、曲げ加工性、耐熱性および製造性の少なくとも1つが劣っていた。
【0056】
また、Sn濃度が0.5質量%超え2.5質量%以下の範囲である実施例14〜26はいずれも、引張強度が512〜593MPaと500MPa以上であり、導電率が27〜38%IACSと25%IACS以上であり、良好な曲げ加工性(A)と良好な耐熱性(A)が得られている。これに対して、表1に示した成分組成が本発明の範囲外である比較例12〜20ならびに表2に示した製造条件が本発明の範囲外である比較例21および22はいずれも、引張強度、導電率、曲げ加工性、耐熱性および製造性の少なくとも1つが劣っていた。
【0057】
また、
図1および
図2は、それぞれ実施例14と比較例22の銅合金材料の電解研磨後の表面を、FE−SEMにより観察したときのSEM写真を示したものである。
図1に示す実施例14の銅合金材料では、微細な化合物粒子が分散しているのに対し、
図2に示す比較例22の銅合金材料では、化合物粒子が粗大となっているのがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明によれば、高強度、高導電率および良好な曲げ加工性に加えて、さらに良好な耐熱性を兼ね備えた銅合金材料の提供が可能になった。本発明の銅合金材料は、特に、半導体装置に用いられるリードフレームをはじめとした電気電子部品に用いられるのに好適である。