【実施例】
【0040】
≪実施例1≫
パルスアークの周波数を10〜40kHzの範囲に設定することができる溶接機を用い、直径1.6mmの2%セリウムを含んだタングステン電極を使用して板厚5mmのAZ31Bマグネシウム合金板に対して貫通溶接を行い、実施溶接部1を得た。用いたAZ31Bマグネシウム合金板の組成を表1に示す。
【0041】
【表1】
【0042】
なお、パルスアーク周波数、アーク長、溶接電流、溶接速度はそれぞれ15kHz、2mm、70A、2mm/minとし、気孔欠陥の発生を意図的に促進させるために、アルゴン−0.3%水素混合ガスをシールドガスとして使用した。また、溶接姿勢は気孔欠陥が溶接部上部に凝集しやすい横向きとし、溶接の予備処理としてAZ31Bマグネシウム合金板の裏面に市販の防錆油を塗布した。
【0043】
≪実施例2≫
パルスアーク周波数を30kHzとした以外は実施例1と同様にして、実施溶接部2を得た。
【0044】
≪実施例3≫
パルスアーク周波数を35kHzとした以外は実施例1と同様にして、実施溶接部3を得た。
【0045】
≪実施例4≫
パルスアーク周波数を40kHzとした以外は実施例1と同様にして、実施溶接部4を得た。
【0046】
≪実施例5≫
被溶接材を純マグネシウム板とし、パルスアーク周波数を25kHzとした以外は実施例1と同様にして、実施溶接部5を得た。用いた純マグネシウム板の組成を表2に示す。
【0047】
【表2】
【0048】
≪実施例6≫
パルスアーク周波数を30kHzとした以外は実施例5と同様にして、実施溶接部6を得た。
【0049】
≪実施例7≫
パルスアーク周波数を35kHzとした以外は実施例5と同様にして、実施溶接部7を得た。
【0050】
≪実施例8≫
パルスアーク周波数を40kHzとした以外は実施例5と同様にして、実施溶接部8を得た。
【0051】
≪実施例9≫
被溶接材をAZ91マグネシウム合金板とし、パルスアーク周波数を25kHzとした以外は実施例1と同様にして、実施溶接部9を得た。用いたAZ91マグネシウム合金板の組成を表3に示す。
【0052】
【表3】
【0053】
≪実施例10≫
パルスアーク周波数を30kHzとした以外は実施例9と同様にして、実施溶接部10を得た。
【0054】
≪実施例11≫
パルスアーク周波数を35kHzとした以外は実施例9と同様にして、実施溶接部11を得た。
【0055】
≪実施例12≫
パルスアーク周波数を40kHzとした以外は実施例9と同様にして、実施溶接部12を得た。
【0056】
≪実施例13≫
被溶接材をAMX601難燃性マグネシウム合金板とし、パルスアーク周波数を30kHzとした以外は実施例1と同様にして、実施溶接部13を得た。用いたAMX601難燃性マグネシウム合金板の組成を表4に示す。
【0057】
【表4】
【0058】
≪実施例14≫
被溶接材をAZX611難燃性マグネシウム合金板とし、パルスアーク周波数を30kHzとした以外は実施例1と同様にして、実施溶接部14を得た。用いたAZX611難燃性マグネシウム合金板の組成を表5に示す。
【0059】
【表5】
【0060】
≪比較例1≫
市販の交直流用ティグ溶接機Mini Elecon200P(株式会社ダイヘン製)を用い、アーク周波数を60Hzとした以外は実施例1と同様にして、比較溶接部1を得た。
【0061】
≪比較例2≫
パルスアーク周波数を10kHzとした以外は実施例1と同様にして、比較溶接部2を得た。
【0062】
≪比較例3≫
溶接中に溶融池が被接合材を貫通しない片側溶接とした以外は実施例1と同様にして、比較溶接部3を得た。
【0063】
≪比較例4≫
パルスアーク周波数を30kHzとした以外は比較例3と同様にして、比較溶接部4を得た。
【0064】
≪比較例5≫
パルスアーク周波数を35kHzとした以外は比較例3と同様にして、比較溶接部5を得た。
【0065】
≪比較例6≫
パルスアーク周波数を40kHzとした以外は比較例3と同様にして、比較溶接部6を得た。
【0066】
≪比較例7≫
パルスアーク周波数を20kHzとした以外は実施例5と同様にして、比較溶接部7を得た。
【0067】
≪比較例8≫
市販の交直流用ティグ溶接機Mini Elecon200P(株式会社ダイヘン製)を用い、アーク周波数を60Hzとした以外は実施例5と同様にして、比較溶接部8を得た。
【0068】
≪比較例9≫
パルスアーク周波数を20kHzとした以外は実施例9と同様にして、比較溶接部9を得た。
【0069】
≪比較例10≫
市販の交直流用ティグ溶接機Mini Elecon200P(株式会社ダイヘン製)を用い、アーク周波数を60Hzとした以外は実施例9と同様にして、比較溶接部10を得た。
【0070】
≪比較例11≫
被溶接材をA5083アルミニウム合金板とした以外は実施例1と同様にして、比較溶接部11を得た。用いたA5083アルミニウム合金板の組成を表6に示す。
【0071】
【表6】
【0072】
≪比較例12≫
市販の交直流用ティグ溶接機Mini Elecon200P(株式会社ダイヘン製)を用い、アーク周波数を60Hzとした以外は比較例11と同様にして、比較溶接部12を得た。
【0073】
≪比較例13≫
被溶接材をA6061アルミニウム合金板とした以外は実施例1と同様にして、比較溶接部13を得た。用いたA6061アルミニウム合金板の組成を表7に示す。
【0074】
【表7】
【0075】
≪比較例14≫
市販の交直流用ティグ溶接機Mini Elecon200P(株式会社ダイヘン製)を用い、アーク周波数を60Hzとした以外は比較例13と同様にして、比較溶接部14を得た。
【0076】
≪比較例15≫
被溶接材をA1050アルミニウム板とした以外は実施例1と同様にして、比較溶接部15を得た。用いたA1050アルミニウム板の組成を表8に示す。
【0077】
【表8】
【0078】
≪比較例16≫
市販の交直流用ティグ溶接機Mini Elecon200P(株式会社ダイヘン製)を用い、アーク周波数を60Hzとした以外は比較例15と同様にして、比較溶接部16を得た。
【0079】
≪比較例17≫
被溶接材をA7075アルミニウム合金板とした以外は実施例1と同様にして、比較溶接部17を得た。用いたA7075アルミニウム合金板の組成を表9に示す。
【0080】
【表9】
【0081】
≪比較例18≫
市販の交直流用ティグ溶接機Mini Elecon200P(株式会社ダイヘン製)を用い、アーク周波数を60Hzとした以外は比較例17と同様にして、比較溶接部18を得た。
【0082】
≪比較例19≫
被溶接材をA2017アルミニウム合金板とした以外は実施例1と同様にして、比較溶接部19を得た。用いたA2017アルミニウム合金板の組成を表10に示す。
【0083】
【表10】
【0084】
≪比較例20≫
市販の交直流用ティグ溶接機Mini Elecon200P(株式会社ダイヘン製)を用い、アーク周波数を60Hzとした以外は比較例19と同様にして、比較溶接部20を得た。
【0085】
≪比較例21≫
被溶接材をニッケル板とした以外は実施例1と同様にして、比較溶接部21を得た。用いたニッケル板の組成を表11に示す。
【0086】
【表11】
【0087】
≪比較例22≫
市販の交直流用ティグ溶接機Mini Elecon200P(株式会社ダイヘン製)を用い、アーク周波数を60Hzとした以外は比較例21と同様にして、比較溶接部22を得た。
【0088】
≪比較例23≫
溶接の予備処理としてAZ31Bマグネシウム合金板の裏面に市販の防錆油を塗布しなかったこと以外は実施例1と同様にして、比較溶接部23を得た。
【0089】
[評価]
AZ31Bマグネシウム合金に関する実施溶接部1〜実施溶接部4及び、比較溶接部1及び2の断面写真及び気孔率を、
図4及び
図5にそれぞれ示す。断面形状が変形しているのは重力の影響であり、溶接は写真における試料の右側から行われている。通常のティグ溶接(60Hz)及びパルスアーク周波数が10kHzの場合、溶接部における顕著な気孔欠陥が観察されるが、パルスアーク周波数が15kHz〜40kHzの場合には完全に気孔欠陥が消失していることが確認できる。
【0090】
AZ31Bマグネシウム合金の片側溶接に関する比較溶接部3〜比較溶接部6の断面写真を
図6に示す。AZ31Bマグネシウム合金の貫通溶接に関する結果を示した
図4と比較すると、片側溶接では溶接部に気孔欠陥が残存していることが分かる。当該結果より、超音波キャビテーションを利用した溶接部の気孔欠陥低減には、貫通溶接が効果的であることが分かる。
【0091】
純マグネシウムに関する実施溶接部5〜実施溶接部8及び、比較溶接部7及び8の断面写真及び気孔率を、
図7及び
図8にそれぞれ示す。通常のティグ溶接(60Hz)及びパルスアーク周波数が20kHzの場合、溶接部における顕著な気孔欠陥が観察されるが、パルスアーク周波数が25kHz〜40kHzの場合には気孔欠陥の形成が抑制されていることが確認できる。
【0092】
AZ91Bマグネシウム合金に関する実施溶接部9〜実施溶接部12及び、比較溶接部9及び10の断面写真及び気孔率を、
図9及び
図10にそれぞれ示す。通常のティグ溶接(60Hz)の場合、溶接部における顕著な気孔欠陥が観察されるが、パルスアーク周波数が20kHz〜40kHzの場合には気孔欠陥の形成が抑制されていることが確認できる。特に、30kHzにおいて気孔欠陥の低減効果が顕著である。
【0093】
難燃性マグネシウムAMX601に関する実施溶接部13及び難燃性マグネシウムAZX611に関する実施溶接部14の断面写真を
図11及び
図12にそれぞれ示す。溶接部には気孔欠陥が全く観察されず、本発明のパルスアーク溶接方法が効果的に作用していることが確認できる。
【0094】
本発明のパルスアーク溶接方法の気孔欠陥低減効果に及ぼす被溶接材質の影響を
図13に示す(マグネシウム合金の結果(実施溶接部1及び比較溶接部1)とその他の金属材の結果(比較溶接部11〜比較溶接部22)との比較)。本発明のパルスアーク溶接方法によって、マグネシウム合金溶接部の気孔欠陥はほぼ完全に消失しているのに対し、その他の金属に関しては気孔欠陥低減効果がある程度認められるものと全く認められないものが存在する。加えて、マグネシウム合金に関する気孔低減効果は、気孔欠陥低減効果がある程度認められる純アルミニウム及びアルミニウム合金の結果と比較しても、明らかに顕著である。
【0095】
裏面に防錆油を塗布せずにパルスアーク溶接を施して得られた比較溶接部23の裏面外観写真を
図14に示す。顕著な酸化が観察され、良好な継手が得られていないことが分かる。