特許第6156114号(P6156114)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6156114
(24)【登録日】2017年6月16日
(45)【発行日】2017年7月5日
(54)【発明の名称】赤色発光蛍光体
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/66 20060101AFI20170626BHJP
   C09K 11/67 20060101ALI20170626BHJP
   C09K 11/68 20060101ALI20170626BHJP
   C09K 11/69 20060101ALI20170626BHJP
   C09K 11/86 20060101ALI20170626BHJP
【FI】
   C09K11/66CQE
   C09K11/67CQD
   C09K11/68
   C09K11/69
   C09K11/86
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-257833(P2013-257833)
(22)【出願日】2013年12月13日
(65)【公開番号】特開2015-113431(P2015-113431A)
(43)【公開日】2015年6月22日
【審査請求日】2016年6月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】坂本 昌章
(72)【発明者】
【氏名】吉田 智一
【審査官】 古妻 泰一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−026777(JP,A)
【文献】 国際公開第2004/056940(WO,A1)
【文献】 特開2005−350649(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0274930(US,A1)
【文献】 特開2011−006501(JP,A)
【文献】 特開2008−202044(JP,A)
【文献】 特開2012−044053(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 11/66
C09K 11/67
C09K 11/68
C09K 11/69
C09K 11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式で示されることを特徴とする赤色発光蛍光体。
(x-a)MgO・(a/2)Me2O3・yMgF2・(1-b)GeO2・(b/2)Mt2O3:zMn4+
(ただし、一般式中x、y、z、a、bについて、2.5<x≦4.0、0.25≦y<1.5、0<z<0.05、0≦a≦0.3、0b≦0.3であり、一般式中Meは、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、V、Nb、Ta、Cr、Mo、Wから選択された少なくとも1種であり、一般式中Mtは、Al、Gaから選択された少なくとも1種である。)
【請求項2】
下記一般式で示されることを特徴とする赤色発光蛍光体。
(x-a)MgO・(a/2)Me2O3・yMgF2・cCaF2・(1-b)GeO2・(b/2)Mt2O3:zMn4+
(ただし、一般式中x、y、z、a、b、cについて、2.0<x≦4.0、0≦y<2.0、0<z<0.1、0≦a<1.0、0≦b<1.0、0<c≦2.0、a+b≠0であり、一般式中Meは、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、V、Nb、Ta、Cr、Mo、Wから選択された少なくとも1種であり、一般式中Mtは、B、Al、Ga、Inから選択された少なくとも1種である。)
【請求項3】
前記Meは、Sc、Y、La、Lu、Ta、Moから選択された少なくとも1種であり、前記Mtは、B、Al、Gaから選択された少なくとも1種である請求項2に記載の赤色発光蛍光体。
【請求項4】
前記Meは、Scであり、0≦a≦0.3である請求項3に記載の赤色発光蛍光体。
【請求項5】
前記Mtは、Gaであり、0≦b≦0.3である請求項3または4に記載の赤色発光蛍光体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近紫外から可視領域の光励起により、高効率な赤色発光を示す蛍光体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
発光ダイオードは、窒化ガリウム(GaN)のような金属化合物から生産される半導体発光素子である。この半導体発光素子と蛍光体とを組み合わせて白色や電球色、橙色等に発光する発光装置が種々開発されている。これらの白色等に発光する発光装置は、光の混色の原理によって得られる。白色光を放出する方式としては、紫外線を発光する発光素子と、赤色(R)、緑色(G)、青色(B)のそれぞれに発光する3種の蛍光体とを用いる方式と、青色を発光する発光素子及び黄色等を発光する蛍光体を用いる方式とがよく知られている。青色を発光する発光素子と黄色等を発光する蛍光体とを用いる方式の発光装置は、蛍光ランプ等の照明、車載照明、ディスプレイ、液晶用バックライト等の幅広い分野で求められている。このうち、ディスプレイ用途に用いる蛍光体としては、色度座標上の広範囲の色を再現するために、発光効率と共に色純度が良いことも求められている。特にディスプレイ用途に用いる蛍光体は、カラーフィルターとの組合せの相性が求められ、発光ピークの半値幅の狭い蛍光体が求められている。
【0003】
青色域に励起帯を有し、発光ピークの半値幅の狭い赤色発光蛍光体として、例えば、K2SiF6:Mn4+、K2TiF6:Mn4+、K2SnF6:Mn4+、Na2TiF6:Mn4+、Na2ZrF6:Mn4+、K2Si0.5Ge0.5F6:Mn4+等の組成を有するフッ化物蛍光体が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
このような赤色蛍光体とともに、あるいは単独で、同じ目的で用いられる赤色蛍光体として、例えば、3.5MgO・0.5MgF2・GeO2:Mn4+の組成式で表される蛍光体(例えば、非特許文献1参照、以下「MGF蛍光体」と呼ぶことがある。)が候補の一つとして考えられる。
【0005】
このMGF蛍光体は、水銀ランプ用の赤色蛍光体として以前からよく知られているが、波長350〜500nmの近紫外から可視光を発光領域とする発光ダイオードを励起光源としても発光する。また、このMGF蛍光体は、常圧大気下1200℃付近の焼成で作製できるので、比較的製造し易いという利点がある。
【0006】
さらに近年、MGF蛍光体の組成中のMgF2を他のフッ化物であるAF2(Aは、Ca、Sr、BaまたはZnから選択された少なくとも1種。)に置換した赤色蛍光体が提案されている(例えば、特許文献2参照)。この蛍光体は、発光効率が従来のMGF蛍光体に比べ最大で150%の発光効率になることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2009−528429号公報
【特許文献2】特開2008−202044号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】『蛍光体ハンドブック』蛍光体同学会編、オーム社刊(1987)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来のMGF蛍光体は、主に254nm付近の波長の光で効率よく励起するとされている。そのため、より長い波長350〜500nmの近紫外から可視光を発光領域とする発光ダイオードを励起光源としたときにも効率よく発光することが求められる。
【0010】
そこで、本発明は、MGF蛍光体の基本的な特性はそのままに、波長350〜500nmの近紫外から可視領域の光で励起しても高効率に発光する赤色蛍光体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以上の目的を達成するために本発明は、下記一般式で示されることを特徴とする赤色発光蛍光体である。
(x-a)MgO・(a/2)Me2O3・yMgF2・(1-b)GeO2・(b/2)Mt2O3:zMn4+
(ただし、上記一般式中のx、y、z、a、bについて、2.0≦x≦4.0、0≦y≦2.0、0<z<0.1、0≦a<1.0、0≦b<1.0、a+b≠0であり、上記一般式中のMeは、Li、Na、K、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、V、Nb、Ta、Cr、Mo、Wから選択された少なくとも1種であり、上記一般式中のMtは、B、Al、Ga、Inから選択された少なくとも1種である。)
また、本発明は、下記一般式で示されることを特徴とする赤色発光蛍光体である。
(x-a)MgO・(a/2)Me2O3・yMgF2・cCaF2・(1-b)GeO2・(b/2)Mt2O3:zMn4+
(ただし、上記一般式中のx、y、z、a、b、cについて、2.0≦x≦4.0、0≦y≦2.0、0<z<0.1、0≦a<1.0、0≦b<1.0、0<c≦2.0、a+b≠0であり、上記一般式中のMeは、Li、Na、K、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、V、Nb、Ta、Cr、Mo、Wから選択された少なくとも1種であり、上記一般式中のMtは、B、Al、Ga、Inから選択された少なくとも1種である。)
【発明の効果】
【0012】
本発明にかかる赤色発光蛍光体は、波長350〜500nmの近紫外から可視領域の光により励起させて、従来よりも効率よく発光させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明にかかる蛍光体と比較例の発光スペクトルを示す図である。
図2図2は、本発明にかかる蛍光体の相対発光強度を示す図である。
図3図3は、本発明にかかる蛍光体と比較例の励起スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明を実施するための最良の形態を、以下に図面を参照しながら説明する。ただし、以下に示す形態は、本発明の技術思想を具体化するための赤色発光蛍光体を例示するものであって、本発明は、赤色発光蛍光体を以下に限定するものではない。
【0015】
本発明者は、MGF蛍光体について波長350nm〜500nmの近紫外から可視領域の光で励起して高効率に発光させるため、検討した結果、MGF蛍光体の構成元素の組成比を変えることや、また他の元素を置換することにより目的を達成することができることを見出し本発明に至った。
【0016】
上述した特許文献2に記載の発明は、3.5MgO・0.5MgF2・GeO2:Mn4+の組成式で表されるMGF蛍光体組成中のMgF2を、他のフッ化物であるAF2(Aは、Ca、Sr、BaまたはZnから選択された少なくとも1種である。)に置換した蛍光体である。これにより、従来のMGF蛍光体と比較して発光効率が最大で150%向上するとされている。
【0017】
一方、本形態にかかる蛍光体は、MGF蛍光体組成中MgOのMg元素の一部をLi、Na、K、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、V、Nb、Ta、Cr、Mo、Wなどの他の元素に置換したり、あるいはGeO2中のGe元素の一部をB、Al、Ga、Inなどの他の元素に置換したりすることにより発光効率が向上することが本発明者らにより見出された。さらにMgとGeの両元素を他の元素に置換することにより、深赤色と呼ばれる600〜670nmの波長領域の光の発光強度が従来のMGF蛍光体の200%を超えることが見出された。
【0018】
以下、本形態にかかるMGF蛍光体について詳細に説明する。本形態にかかる第一の蛍光体は、下記一般式(I)で示される赤色発光蛍光体である。
(x-a)MgO・(a/2)Me2O3・yMgF2・(1-b)GeO2・(b/2)Mt2O3:zMn4+ (I)
ただし、上記一般式(I)中のx、y、z、a、bについて、2.0≦x≦4.0、0≦y≦2.0、0<z<0.1、0≦a<1.0、0≦b<1.0、a+b≠0(すなわち、aとbが同時に0になることはない。)である。また、上記一般式(I)中のMeは、Li、Na、K、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、V、Nb、Ta、Cr、Mo、Wから選択された少なくとも1種である。また、上記一般式(I)中のMtは、B、Al、Ga、Inから選択された少なくとも1種である。
【0019】
上記一般式(I)中のx、y、z、a、bについて、好ましい範囲は、2.5<x≦3.75、0.25≦y<1.5、0<z<0.05、0≦a<0.5、0≦b<0.5であり、より好ましい範囲は、3.0≦x≦3.5、0.5≦y≦1.0、0.005≦z≦0.03、0.05≦a≦0.3、0.05≦b≦0.3である。
【0020】
また、本形態にかかる第二の蛍光体は、下記一般式(II)で示される赤色発光蛍光体である。
(x-a)MgO・(a/2)Me2O3・yMgF2・cCaF2・(1-b)GeO2・(b/2)Mt2O3:zMn4+ (II)
ただし、上記一般式(II)中のx、y、z、a、b、cについて、2.0≦x≦4.0、0≦y≦2.0、0<z<0.1、0≦a<1.0、0≦b<1.0、0<c≦2.0、a+b≠0(すなわち、aとbが同時に0になることはない。)である。また、上記一般式(II)中のMeは、Li、Na、K、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、V、Nb、Ta、Cr、Mo、Wから選択された少なくとも1種である。また、上記一般式(II)中のMtは、B、Al、Ga、Inから選択された少なくとも1種である。
【0021】
上記一般式(I)中のx、y、z、a、b、cについて、好ましい範囲は、2.5<x≦3.75、0.25≦y<1.5、0<z<0.05、0≦a<0.5、0≦b<0.5、0<c<1.0であり、より好ましい範囲は、3.0≦x≦3.5、0.5≦y≦1.0、0.005≦z≦0.03、0.05≦a≦0.3、0.05≦b≦0.3、0.05≦c≦0.75である。
【0022】
図1は、比較例として示す従来の3.5MgO・0.5MgF2・GeO2:0.15Mn4+蛍光体と、参考例として示すCaAlSiN3:Eu2+蛍光体と、本形態の実施例として示す3.4MgO・0.1Sc2O3・0.5MgF2・0.885GeO2・0.1Ga2O3:0.015Mn4+蛍光体(後述する実施例13)の発光スペクトルを対比して示す図である。なお、点線が参考例を、細実線が比較例を、太実線が実施例を示す。
【0023】
また、図3は、比較例として示す従来の3.5MgO・0.5MgF2・GeO2:0.15Mn4+蛍光体と、後述する実施例にかかる蛍光体の励起スペクトルを示す図である。なお、細実線が比較例と示し、その他の線が後述する各実施例を示す。
【0024】
本形態の第一、第二の赤色発光蛍光体は、図1および図3に示されるように、波長350〜500nmの近紫外から可視領域の光により励起されて、深赤色と呼ばれる600〜670nmの波長領域の光を発光する。また、本形態の第一、第二の赤色発光蛍光体は、図1に示されるように、参考例として示すCaAlSiN3:Eu2+蛍光体よりも発光スペクトルの半値幅が狭い光を発光する。
【0025】
上述したように、従来のMGF蛍光体は、254nm付近の水銀ランプの輝線で効率よく発光するものであり、より長波長である近紫外光や青色光ではあまり効率よく発光しないものであった。
【0026】
しかしながら、本形態の蛍光体は、図3に示されるように、MGF蛍光体の組成中のMgOやMgF2の組成比を変化させたり、MgやGeの一部を他の元素で置換したりすることにより、254nm付近での励起による発光強度が下がる一方で、近紫外光や青色光励起での発光強度が大きくなる。
【0027】
上記一般式(I)で示される第一の蛍光体は、3.5MgO・0.5MgF2・GeO2:Mn4+の組成式で表されるMGF蛍光体について、その構成元素の組成比を変えたり、MgやGeの成分元素の一部を他の元素で置換したりした蛍光体である。
【0028】
また、上記一般式(II)で示される第二の蛍光体は、CaF2をその組成中に含むMGF蛍光体について、その構成元素の組成比を変えたり、MgやGeの成分元素の一部を他の元素で置換したりした蛍光体である。
【0029】
これら第一、第二の蛍光体について、Mgを置換する元素は、Li、Na、K、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、V、Nb、Ta、Cr、Mo、Wから選択された少なくとも1種である。これらのうち、Mgを置換する元素として、K、Sc、Y、La、Lu、Ta、Moが好ましく、Scがより好ましい。
【0030】
また、第一、第二の蛍光体について、Geを置換する元素は、B、Al、Ga、Inから選択された少なくとも1種である。これらのうち、Geを置換する元素として、B、Al、Gaが好ましく、Gaがより好ましい。
【0031】
図2は、Sc単独で置換した実施例(後述する実施例1〜5)と、Ga単独で置換した実施例(後述する実施例6〜10)と、GaおよびScで置換(共置換)した実施例(後述する実施例11〜15)について、それぞれの各置換量(mol)における440nm励起での相対発光強度を示す図である。なお、図2中、細点線がSc単独で置換した実施例、太点線がGa単独で置換した実施例、実線がGaおよびScで置換(共置換)した実施例を示す。
【0032】
図2に示されるように、Sc、Gaそれぞれ単独で置換するよりも、両方の元素で同時に置換(共置換)するほうが、より発光効率を向上させることができることが分かる。これは、価数の異なる元素を同時に置換することで電荷補償の効果が得られ、濃度消光が抑制されるためであると考えられる。
【0033】
以下、本発明に係る実施例について詳述する。なお、本発明は以下に示す実施例のみに限定されないことは言うまでもない。
【実施例】
【0034】
<実施例1〜15>
まず、原料としてMgO、MgF2、GeO2、MnCO3を正確に秤量する。さらに、MgOまたはGeO2を置換する元素の原料として、Sc2O3またはGa2O3を正確に秤量した後、これらの原料を羽根撹拌式混合機で混合した。この混合した原料を、大気中において1000〜1300℃で6時間焼成することにより、組成式が以下の表1に示される実施例1〜15の蛍光体を得た。
<比較例>
また、比較例の蛍光体として、上述した非特許文献1に記載された水銀ランプ用の蛍光体であり、組成式が3.5MgO・0.5MgF2・GeO2:0.015Mn4+で表される蛍光体を、上記実施例と同じ原料および焼成条件で作製した。
【0035】
【表1】
【0036】
<実施例1〜15の粉体輝度測定結果>
上記実施例1〜15について、その粉体輝度を分光蛍光光度計:F-4500(株式会社日立ハイテクノロジーズ製)で測定した。その結果を以下の表2に示す。
【0037】
【表2】
【0038】
表2右欄の「相対発光強度」は、440nmの青色光で励起したときの各試料の相対発光強度を示す。すなわち、各実施例における相対発光強度は、波長が440nmの光で励起したとき、3.5MgO・0.5MgF2・GeO2:0.015Mn4+蛍光体(比較例)の発光強度を100%として、各実施例の相対的な発光強度(%)である(後述の各実施例における「相対発光強度」について同じ。)。
【0039】
実施例1〜5では、MGF蛍光体の成分元素のうち、MgOのMgの一部をScで置換している。これにより、表2に示されるように、Scで置換していない比較例に対して発光強度が大きくなっていることが分かる。しかし、Scの置換量が過剰になると、発光強度が小さくなることが分かる。したがって、Scの置換量のより好ましい範囲は、モル比で、0.05以上0.3以下である。
【0040】
実施例6〜10では、MGF蛍光体の成分元素のうち、GeO2のGeの一部をGaで置換している。これにより、表2に示されるように、Gaで置換していない比較例に対して発光強度が大きくなっていることが分かる。しかし、Gaの置換量が過剰になると、発光強度が小さくなることが分かる。したがって、Gaの置換量のより好ましい範囲は、モル比で、0.05以上0.3以下である。
【0041】
実施例11〜15では、MGF蛍光体の成分元素のうち、MgOのMgの一部をScで置換するとともに、GeO2のGeの一部をGaで置換している。これにより、表2に示されるように、ScまたはGaで置換していない比較例に対して発光強度が大きくなっていることが分かる。また、ScまたはGa単独で置換している実施例に対して発光強度が大きくなっていることが分かる。その一方、ScおよびGaの置換量が過剰になると、発光強度が小さくなることが分かる。
【0042】
図3は、比較例の蛍光体(細実線)と、実施例3の蛍光体(細点線)と、実施例8の蛍光体(太点線)と、実施例13の蛍光体(太実線)についての励起スペクトルを示す図である。
【0043】
図3に示されるように、実施例3においてSc単独で置換したり、実施例8においてGa単独で置換したりすることにより、発光ダイオードを励起光源とした場合の波長350〜500nm(近紫外から可視領域)の励起強度が大きくなっていることが分かる。そのため、各実施例で測定した波長440nm励起における発光強度も大きくなる。さらに、実施例13は、ScおよびGaで共置換した実施例であり、さらに発光強度が大きくなる。
<実施例16〜21>
まず、原料としてMgO、MgF2、GeO2、MnCO3を正確に秤量する。さらに、MgOまたはGeO2を置換する元素の原料としてSc2O3またはGa2O3を正確に秤量した後、これらの原料を羽根撹拌式混合機で混合した。この混合した原料を、大気中において1000〜1300℃で6時間焼成して、組成式が以下の表3に示される実施例16〜21の蛍光体を得た。
<比較例>
また、比較例の蛍光体として、上述した非特許文献1に記載された水銀ランプ用の蛍光体であり、組成式が3.5MgO・0.5MgF2・GeO2:0.015Mn4+で表される蛍光体を、上記実施例と同じ原料および焼成条件で作製した。
【0044】
【表3】
【0045】
<実施例16〜21の粉体輝度測定結果>
上記実施例16〜21について、その粉体輝度を分光蛍光光度計:F-4500(株式会社 日立ハイテクノロジーズ製)で測定した。その結果を以下の表4に示す。
【0046】
【表4】
【0047】
実施例16〜21では、MGF蛍光体の成分元素のうち、MgOのMgの一部をScで置換するとともに、MGF蛍光体の成分元素のうち、GeO2のGeの一部をGaで置換している。各実施例の置換量は同じである。
【0048】
表4に示されるように、実施例16は、その組成にMgF2を含んでおらず、発光強度が小さくなっている。実施例17〜21は、MGF蛍光体の組成中のMgF2の含有量が異なる。MgF2の含有量が大きくなると、発光強度が大きくなるが、MgF2の含有量が大きくなりすぎると、発光強度は小さくなることが分かる。したがって、MgF2の含有量の好ましい範囲は、モル比で、0.25以上1.5未満である。
<実施例22〜25>
まず、原料としてMgO、GeO2、MnCO3を正確に秤量する。さらに、MgOまたはGeO2を置換する元素の原料としてSc2O3またはGa2O3を正確に秤量した後、これらの原料を羽根撹拌式混合機で混合した。この混合した原料を、大気中において1000〜1300℃で6時間焼成して、組成式が以下の表5に示される実施例22〜25の蛍光体を得た。
<比較例>
また、比較例の蛍光体として、上述した非特許文献1に記載された水銀ランプ用の蛍光体であり、組成式が3.5MgO・0.5MgF2・GeO2:0.015Mn4+で表される蛍光体を、上記実施例と同じ原料および焼成条件で作製した。
【0049】
【表5】
【0050】
<実施例22〜25の粉体輝度測定結果>
上記実施例22〜25について、その粉体輝度を分光蛍光光度計:F-4500(株式会社 日立ハイテクノロジーズ製)で測定した。その結果を以下の表6に示す。
【0051】
【表6】
【0052】
本実施例22〜25の蛍光体は、他の組成比は一定にしてMnの含有量を変化させたものである。表6に示されるように、Mnの含有量を大きくしていくと発光強度が大きくなるが、Mnの含有量がモル比で0.05mol以上になると、濃度消光と考えられる影響により、発光強度が小さくなることが分かる。したがって、Mn含有量のより好ましい範囲は、モル比で、0.005以上0.03以下である。
<実施例26〜37>
まず、原料としてMgO、MgF2、GeO2、MnCO3を正確に秤量した。さらに、MgOを置換する元素の原料としてSc2O3、K2CO3、Y2O3、La2O3、Lu2O3、Ta2O5またはMoO3を、GeO2を置換する元素の原料としてGa2O3、H3BO3またはAl2O3を正確に秤量した後、これらの原料を羽根撹拌式混合機で混合した。この混合した原料を、大気中において1000〜1300℃で6時間焼成して、組成式が以下の表7に示される実施例26〜37の蛍光体を得た。
<比較例>
また、比較例の蛍光体として、上述した非特許文献1に記載された水銀ランプ用の蛍光体であり、組成式が3.5MgO・0.5MgF2・GeO2:0.015Mn4+で表される蛍光体を、上記実施例と同じ原料および焼成条件で作製した。
【0053】
【表7】
【0054】
<実施例26〜37の粉体輝度測定結果>
上記実施例26〜37について、その粉体輝度を分光蛍光光度計:F-4500(株式会社 日立ハイテクノロジーズ製)で測定した。その結果を以下の表8に示す。
【0055】
【表8】
【0056】
表8に示されるように、MgOのMgをScで置換するか、もしくはGeO2のGeをGaで置換することにより、発光強度が大きくなっており、さらにScおよびGaで同時に置換することにより、さらに発光強度が大きくなることが分かる。
【0057】
さらに、表8の実施例30〜37に示されるように、MgOのMgをK,Y,La,Lu,TaまたはMoで置換したり、GeO2のGeをAlまたはBで置換したりしても、ScまたはGaで置換する実施例と同様に発光強度が大きくなることが分かる。
<実施例38〜40>
まず、原料としてMgO、MgF2、CaF2、GeO2、MnCO3を正確に秤量した。さらに、MgOまたはGeO2を置換する元素の原料としてSc2O3またはGa2O3を正確に秤量した後、これらの原料を羽根撹拌式混合機で混合した。この混合した原料を、大気中において1000〜1300℃で6時間焼成して、組成式が以下の表9に示される実施例38〜40の蛍光体を得た。
<比較例>
また、比較例の蛍光体として、上述した非特許文献1に記載された水銀ランプ用の蛍光体であり、組成式が3.5MgO・0.5MgF2・GeO2:0.015Mn4+で表される蛍光体を、上記実施例と同じ原料および焼成条件で作製した。
【0058】
【表9】
【0059】
<実施例38〜40の粉体輝度測定結果>
上記実施例38〜40について、その粉体輝度を分光蛍光光度計:F-4500(株式会社 日立ハイテクノロジーズ製)で測定した。その結果を以下の表10に示す。
【0060】
【表10】
【0061】
表10に示されるように、本実施例38〜40の蛍光体は、その組成としてMgF2とともにCaF2を含むことにより、発光強度が最大で比較例の2倍近く大きくなることが分かる。したがって、CaF2含有量のより好ましい範囲は、モル比で、0.05以上0.75以下である。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は、近紫外から可視領域の光励起により効率よく発光する赤色発光蛍光体を提供することができる。さらに、本発明は、紫外光で励起するランプや近紫外や可視光を放射する発光ダイオードと組み合わせて、高効率な深赤色発光の発光装置、または他の蛍光体などと組み合わせて白色系の混色光を含むさまざまな色の発光装置や表示装置として利用することができる。
図1
図2
図3