(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
廃電池を湿式処理して回収したニッケルイオンおよび/またはコバルトイオンを含む処理液に、硫化剤を添加してニッケルおよび/またはコバルトを含む金属硫化物を生成し、該金属硫化物をレパルプ槽に投入して該金属硫化物を含むスラリーを作製する金属硫化物のスラリー化方法において、
前記レパルプ槽は、前記金属硫化物を投入する投入口の近傍に位置する一方側面部が、底面部から上面部に向って外側に傾斜しており、
前記金属硫化物を含むスラリーのスラリー濃度を200g/L以下に維持することを特徴とする金属硫化物のスラリー化方法。
【背景技術】
【0002】
近年、CO
2の排出量削減や大気汚染防止の観点から、ハイブリッド自動車や電気自動車の技術開発、商業化が加速している。一方、原子力発電所の事故リスク低減についても社会的に重要な課題となっており、太陽光発電や風力発電などの新エネルギーによる発電プラントの新設が盛んに行われるようになり、電力貯蔵用の二次電池の重要性が高まっている。小型二次電池についても、小型パーソナルコンピューターや携帯電話などの移動式端末の普及と性能向上に伴って、需要が高まる一方である。
【0003】
現在、小型二次電池としては、高容量で小型軽量化が可能であるという特徴を生かし、主にリチウムイオン電池が利用されている。また、自動車用二次電池や電力貯蔵用二次電池としては、その安全性と信頼性から、ニッケル水素電池が採用されている。このような拡大する二次電池の需要に対して、使用済みの二次電池や、二次電池を構成する正極材などの製造工程で生じた不良品(以下、これらを「廃電池」と称する。)から有価金属を回収して、資源としてリサイクルするための技術開発も進められている。
【0004】
有価金属の回収方法としては、乾式処理法や湿式処理法などが提案されている。一般的に、低コストで大量処理が可能な方法は、廃電池を溶融または焼却する乾式処理法である。しかしながら、乾式処理法では、リチウムや希土類元素を回収することができず、また、ニッケルがステンレス用途のフェロニッケルとして回収されてしまい、回収できる金属が限られるという問題がある。さらに、回収される金属の純度が低く、廃電池に含まれている有価金属を、電池用にリサイクルが可能となる高純度の有価金属として回収することができないという問題が生じている。
【0005】
一方、湿式処理法による有価金属の回収方法としては、例えば、特許文献1および特許文献2に記載の回収プロセスが検討されている。これらの方法によれば、廃電池からニッケルやコバルトなどの有価金属を金属硫化物として回収することができ、高純度の有価金属の回収が可能となる。しかしながら、これらの回収方法では、各種不純物の分離にコストがかかることが難点となっている。
【0006】
特許文献1および特許文献2に記載の回収方法により回収された金属硫化物を原料として、有価金属が湿式製錬され、硫酸ニッケルや電気コバルトとして二次電池の原料に供されることになり、廃電池から二次電池へのリサイクルが完結することになる。
【0007】
具体的には、廃電池としてニッケル水素電池のスクラップを用いる場合は、スクラップ原料を硫酸で浸出する工程、得られた硫酸浸出液から希土類元素を沈殿物として回収する工程、希土類元素を回収した後の水溶液から有価金属を硫化物として回収して不純物と分離する工程、有価金属を回収した後の廃液を中和処理する工程の順序で処理される。
【0008】
また、廃電池としてリチウムイオン電池のスクラップを用いる場合は、電池スクラップを破砕および解砕する工程、破砕および解砕されたスクラップ原料を洗浄する工程、洗浄後のスクラップ原料を酸で浸出する工程、得られた酸浸出液から有価金属を硫化物として回収して不純物と分離する工程、有価金属を回収した後の廃液を中和処理する工程の順序で処理される。
【0009】
また、廃電池に含まれる有価金属を、金属硫化物として回収する他の方法としては、例えば、特許文献3および特許文献4に開示されている。これらの方法によれば、適正なpH領域で硫化水素ナトリウムなどの硫化剤を添加するなどの反応条件を適正に維持することにより、不純物を液中に残したまま、有価金属を選択的に金属硫化物へと分配させて濃縮することができ、不純物分離に有効である。
【0010】
湿式処理法による廃電池からの有価金属の回収を、有価金属の湿式製錬プラント内または同プラントの近くで実施すれば、有価金属を含む金属硫化物をスラリー化してポンプで輸送することが可能となり、金属硫化物の荷造りやトラックなどによる輸送、または金属硫化物の解袋などの手間を省くことができる。そして、極めて効率的な廃電池からの有価金属の回収と電池材料の製造を実現することができる。
【0011】
しかしながら、有価金属を含む金属硫化物をレパルプ槽でスラリー化する製法にあっては、水や所定溶液中への混合および分散が困難であるという大きな問題が存在している。
【0012】
すなわち、有価金属イオンを含んだ水溶液に硫化水素ナトリウムなどの硫化剤を添加した、いわゆる湿式処理法で作製された金属硫化物は、粒子径が500μm〜600μm以下で、ほとんどが100μm以下の微粒子である。
【0013】
金属硫化物は、フィルタープレスなどのろ過機により脱水された後、レパルプ槽に投入されてスラリー化されるが、これがスラリー化されるとスラリーの粘性が極端に増加する。均一な混合および分散のために撹拌を継続すると、液面から空気が取り込まれ、液の粘性が高いために、微細な気泡が液中から追い出されずにレパルプ槽内に蓄積する。その気泡に金属硫化物が付着するため、気泡が上昇できず液中に滞留することになる。
【0014】
一方、金属硫化物のスラリー化において、例えば、金属硫化物の落下用シュートと一体化したレパルプ槽などのように、円筒形ではない外観形状を有するレパルプ槽を用いる場合は、以下に示すような様々な問題が生じ、金属硫化物を均一に水や所定溶液に混合および分散させることが困難となる。
【0015】
すなわち、レパルプ槽に設けられた撹拌機から遠い部分に浮遊または沈下した金属硫化物に対して撹拌力が不足し、レパルプ槽内に金属硫化物やその他の不純物などが滞留してできた澱み部が生じることがある。
【0016】
また、金属硫化物の脱水直後には、圧搾などの操作により圧密されてブロック状に固まったものが存在することがあり、ブロック状の金属硫化物がレパルプ槽内に滞留し、撹拌機では解砕されないこともある。
【0017】
さらに、外部に排出されずにレパルプ槽内に留まった気泡を内部に取り込んだ金属硫化物の塊が、レパルプ槽内に浮遊または沈下して滞留し、その塊が蓄積および増大して、レパルプ槽内の液面近傍の天井部や内方側壁部などに付着するという問題がある。
【0018】
また、気泡を含んだスラリーにより液面が上昇し、場合によってはレパルプ槽からスラリーが溢れ出るという問題もある。
【0019】
そのような事態になると、装置の運転を停止しレパルプ槽内のスラリーを抜き取って、人手で付着物や浮遊物の除去を行う必要があり、手間が掛かるだけで無く、非効率な運転を強いられてしまう。
【0020】
また、上述した状況下においては、レパルプ槽での本来の目的である金属硫化物と液体成分との混合や、液体成分中への金属硫化物の分散が不可能となる。そのため、レパルプ槽からポンプによって送り出されるスラリー濃度の変動が大きくなり、スラリーが高濃度になると配管が閉塞して送液ができなくなるという事態が生じてしまう。
【0021】
さらに、金属硫化物に気泡が含まれているため、空気が金属硫化物と共に輸送されることになり、その空気がポンプのケーシング内に溜まることによって、ポンプによる送液ができなくなるという問題もある。
【0022】
ところで、特許文献5では、湿式処理法で作製された金属硫化物について、沈降性の良い粒子を得るための反応条件が明確化されているが、金属硫化物をスラリー化するための好適な条件については記載どころか示唆すらされていない。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態にかかる金属硫化物のスラリー化方法について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明にかかる金属硫化物のスラリー化方法は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変更を加えることが可能である。
【0031】
金属硫化物のスラリー化方法では、廃電池を湿式処理して回収した有価金属イオンを含む処理液に、硫化剤を添加して有価金属を含む金属硫化物を生成し、その金属硫化物をレパルプ槽に投入して金属硫化物を含むスラリーを作製する。
【0032】
まず、廃電池を湿式処理して回収した有価金属イオンを含む処理液に、硫化剤を添加して有価金属を含む金属硫化物を生成する工程について説明する。この工程では、例えば、廃電池に含まれる有価金属を酸性水溶液に浸出させて浸出残渣と分離し、得られた処理液から硫化物沈殿法や溶媒抽出法などによって有価金属を回収する。有価金属が浸出された処理液には不純物も含まれているので、硫化物沈澱法や溶媒抽出法などにより有価金属と不純物とを選択的に分離することが行われる。
【0033】
ここで利用される廃電池とは、使用済みの二次電池や、二次電池を構成する正極材などの製造工程で生じた不良品である。使用済みの二次電池としては、例えば、使用済みのニッケル水素電池やリチウムイオン電池などが挙げられる。また、有価金属とは、ニッケルやコバルトなどであり、不純物金属とは、マンガンや鉄、アルミニウム、希土類元素などである。
【0034】
また、ここで利用される硫化剤としては、硫化水素ナトリウム水溶液(NaHS)や硫化ナトリウム水溶液(Na
2S)、またはそれらの混合液などの液体の硫化剤を用いることが好ましい。一方、硫化水素ガス(H
2S)などの気体の硫化剤は、毒性のある硫化水素ガスを環境中に放散しないための環集や除害装置などへの設備コストや管理コストがかかる。
【0035】
硫化物沈殿法は、溶解度積の違いを利用して目的金属と不純物金属とを選択的に分離する方法である。この方法では、例えば、廃電池中の有価金属が浸出された処理液から有価金属を沈殿させる場合には、有価金属の溶解度積が、不純物金属の溶解度積に比べて低いことを利用して、処理液のpHを有価物金属が沈殿し不純物金属が沈殿しない領域に調整した後に、処理液に硫化剤を添加して、有価金属のみを硫化物として沈殿させる。
【0036】
より詳細には、金属硫化物を生成する方法は、例えば、廃電池を湿式処理して回収したニッケルやコバルトなどの有価金属のイオンを含む水溶液に、水酸化ナトリウム水溶液を添加して液中のpHを所定値に調整した後、硫化水素ナトリウムおよび水酸化ナトリウムの混合水溶液を添加して、有価金属を含む金属硫化物の沈澱を得る。得られた金属硫化物は、その粒子径が500〜600μm以下で、ほとんどが100μm以下の微粒子である。
【0037】
次に、上記金属硫化物を生成する工程で得られた金属硫化物をレパルプ槽に投入して金属硫化物を含むスラリーを作製する工程について説明する。この工程では、例えば、
図1および
図2に示すスラリー化装置1を用いて金属硫化物を含むスラリーを作製する。
【0038】
図1および
図2に示すように、スラリー化装置1は、レパルプ槽10と、フィルタープレス20と、金属硫化物投入シュート30と、撹拌機40と、ポンプ50と、配管60とを備えている。
【0039】
レパルプ槽10は、水または所定溶液を収容し、水または所定溶液中に金属硫化物が投入され、金属硫化物を含むスラリーを作製する槽である。
図3に示すように、レパルプ槽10は、略矩形体状の容器であり、底面部11が略円形状に、上面部12が略矩形状に形成されている。また、レパルプ槽10では、底面部11の直径L
1より上面部12の幅L
2の方が大きくなるように形成されている。
【0040】
レパルプ槽10の上面部12には、金属硫化物をレパルプ槽10内に投入するための投入口13と、後述する撹拌機40の撹拌軸41を挿入するための挿入口14が設けられている。また、投入口13の近傍に位置する一方側面部15は、底面部11から上面部12に向って外側に傾斜している。また、一方側面部15に対向する他方側面部16は、円弧状に形成されている。
【0041】
レパルプ槽10においては、上述の通り、一方側面部15に傾斜を付けることで、投入口13から投入された金属硫化物は、投入口13の真下に落ちず、後述する撹拌機40の撹拌羽根42の付近まで流し入れることを意図している。レパルプ槽10では、一方側面部15に傾斜を付けることで、レパルプ槽10と比較して大型のフィルタープレス20からレパルプ槽10へ金属硫化物が閉塞しないように投入することができる。また、レパルプ槽10では、他方側面部16を円弧状に形成することにより、撹拌羽根42の撹拌力を金属硫化物に対して均等に伝えることを意図している。
【0042】
フィルタープレス20は、加圧ろ過して金属硫化物の脱水を行う装置であり、後述する金属硫化物投入シュート30の上端に連結して固定されている。また、フィルタープレス20は、脱水した金属硫化物を、後述する金属硫化物投入シュート30を介して投入口13からレパルプ槽10へ供給する。
【0043】
金属硫化物投入シュート30は、フィルタープレス20で脱水した金属硫化物をレパルプ槽10内へ送るための通路であり、上端がフィルタープレス20の下端と連結し、下端がレパルプ槽10の投入口13と連結して固定されている。金属硫化物投入シュート30は、その上端から投入口13に向って側面部31、32がそれぞれ内側に傾斜している。金属硫化物投入シュート30は、この傾斜によりフィルタープレス20で脱水した金属硫化物をレパルプ槽10内へ確実に送ることができる。
【0044】
撹拌機40は、レパルプ槽10内に投入された金属硫化物と、水または所定溶液とを撹拌することにより混合および分散するものである。撹拌機40は、回動自在の撹拌軸41を有しており、撹拌軸41の先端には、撹拌羽根42が取り付けられている。また、撹拌軸41は、レパルプ槽10の上面部12に設けられた挿入口14に挿入されている。撹拌機40は、その回動によりレパルプ槽10内に投入された金属硫化物と水または所定溶液とを、撹拌および混合することができる。
【0045】
また、スラリー化装置1においては、ポンプ50および配管60が設けられているので、レパルプ槽10で作製したスラリーを、ポンプ50により配管60を通って他の設備へ送液することができる。なお、ポンプ50や配管60の設置数や位置は適宜変更することができる。
【0046】
スラリー化装置1では、レパルプ槽10の上面部12の一方側面部15近傍に金属硫化物投入シュート30を介してフィルタープレス20が設けられ、金属硫化物投入シュート30の下端がレパルプ槽10の投入口13と連結して固定されている。また、スラリー化装置1では、一方側面部15近傍に投入口13が設けられ、レパルプ槽10の上面部12の他方側面部16近傍に撹拌機40が設けられて、金属硫化物の投入口13と撹拌機40とが離れて配置されている。
【0047】
しかしながら、スラリー化装置1では、投入口13の近傍に位置する一方側面部15は、底面部11から上面部12に向って外側に傾斜しているため、投入口13から投入された金属硫化物を、撹拌羽根42の付近に流し込み、撹拌機40の回動により、金属硫化物と水または所定溶液と混合および分散させ、スラリーを作製することができる。
【0048】
次に、スラリー化装置1を用いた金属硫化物のスラリー化方法について説明する。
【0049】
まず、金属硫化物のスラリー化方法では、上記金属硫化物を生成する工程で得られた微粒子状の金属硫化物を、フィルタープレス20により脱水する。フィルタープレス20内に充填された金属硫化物の重量は、フィルタープレス20にスラリーを供給するポンプ(図示せず。)の電流値、スラリーの流量、供給配管(図示せず。)内の圧力などのパラメーターを適切に管理することで、容易に把握することができる。
【0050】
次いで、金属硫化物のスラリー化方法では、フィルタープレス20により脱水した金属硫化物を、フィルタープレス20のろ板(図示せず。)を開枠することにより、金属硫化物投入シュート30を通って、レパルプ槽10の投入口13から、水または所定溶液を張り込んだレパルプ槽10内に直接落下させる。そして、金属硫化物のスラリー化方法では、投入口13から投入された金属硫化物が、投入口13を閉塞することなく撹拌羽根42の付近に順次流入し、撹拌機40の回動により、金属硫化物と水または所定溶液とを混合および分散してスラリーを作製することができる。
【0051】
金属硫化物のスラリー化方法においては、推定重量の金属硫化物を落下させれば、その開枠回数と張り込んだ水量または所定溶液量により、容易に目的とするスラリー濃度に調整することができる。また、スラリー濃度は、レパルプ槽10にサンプリング口(図示せず。)を設けてスラリーを採取し、その単位体積当たりの金属硫化物の重量を測定することにより確認してもよい。確認の結果、目的のスラリー濃度と異なる場合には、レパルプ槽10内のスラリーに水を足すか、または金属硫化物を追加投入することによって、スラリー濃度を調整することができる。
【0052】
一般的に、微粒子状の金属硫化物のスラリーを作製する場合、粘度が高くなりやすいことが知られている。一般的な金属硫化物のスラリー化条件において、
図1〜
図3に示すレパルプ槽10を用いて金属硫化物をスラリー化する場合には、レパルプ槽10に設けられた撹拌機40から遠い部分に浮遊または沈下した金属硫化物に対する撹拌力が不足し、レパルプ槽10内に金属硫化物やその他の不純物などが滞留してできた澱み部が生じるなどの様々な問題が生じるため、この金属硫化物を均一に水や所定溶液に混合および分散させることが困難となる場合がある。
【0053】
粘度の上昇について、本発明者らは、上記金属硫化物を生成する工程により得られた金属硫化物を、ビーカースケールで水を用いてスラリー化してスラリーの粘度を調べた。その結果を
図4に示す。
図4に示す通り、スラリー濃度の上昇と共に粘度が顕著に上昇することが判明した。そして、200g/Lのスラリー濃度における粘度(約11mP・S)の変化率は、水のみの粘度(1mP・S)に対して約10倍となっていることが判明した。
【0054】
一方で、通常の二相分散系では、20体積%の濃度で分散させた場合の粘度の変化率は、分散媒のみの粘度に対して2〜3倍程度であることが知られている。それに対し、上記金属硫化物を生成する工程により得られた金属硫化物は、ほとんどが100μm以下の微粒子である。したがって、この微粒子をスラリー化する場合には、微細な気泡に付着し易いことなどの条件が重なってしまい、固体(微粒子)と液体(水または所定溶液)に気体(気泡)も加わって、それらの相互の界面に大きな摩擦力が働くと考えられる。
【0055】
そして、金属硫化物のスラリー濃度が高くなると、水または所定溶液中に存在する微細な気泡に金属硫化物の微粒子が付着し、気泡と金属硫化物との一体物の比重が、水または水溶液と同じか大きくなることで、気泡の上昇が妨げられ、気泡を含む金属硫化物が水または所定溶液中に滞留すると考えられる。また、スラリー粘度の上昇に伴い、撹拌効果も低下するため、金属硫化物に含まれる気泡と金属硫化物との分離が進まない状態になっていると推測できる。
【0056】
そこで、金属硫化物のスラリー化方法では、金属硫化物のスラリー濃度を最適化し、その濃度を維持することによって、100μm以下の金属硫化物であっても、これを均一かつ効率的に水や所定溶液に混合および分散させることができる。
【0057】
すなわち、金属硫化物のスラリー化方法においては、スラリー濃度を、好ましくは200g/L以下、さらに好ましくは160g/L以上200g/L以下に維持する。スラリー濃度が200g/Lを超えると、気泡を含む金属硫化物の塊がレパルプ槽10の液面や液中に浮遊したり、金属硫化物の塊が撹拌機40では解砕されずに漂う現象が観察され、金属硫化物を容易に撹拌することができず、均一に水や所定溶液中に混合および分散させることが困難となる。
【0058】
また、金属硫化物のスラリー化方法においては、スラリー中の気泡が外部に放出されず気泡を含んだスラリーの液面が上昇することで、レパルプ槽10の液面近傍の天井部17や内方側壁部18、19などに金属硫化物の塊が付着し、人手による付着物の除去作業を行う必要があり、効率的な運転を行うことが困難となる。
【0059】
一方、金属硫化物のスラリー化方法においては、スラリー濃度は低いほどよいが、当然のことながら、スラリー濃度が低いと設備効率や生産効率が低下する。そこで、適切な設備効率や生産効率を確保するという観点から、スラリー濃度を160g/L以上に調整することが好ましい。
【0060】
したがって、金属硫化物のスラリー化方法によれば、レパルプ槽10の金属硫化物のスラリー濃度を200g/L以下、好ましくは160g/L以上200g/L以下に維持することで、スラリーの粘性が低くなり液中の気泡が外部に放出されるため、気泡を含む金属硫化物の塊や澱み部がレパルプ槽10内で生成されなくなる。
【0061】
また、金属硫化物のスラリー化方法によれば、スラリーの粘度が低いので、ブロック状の金属硫化物などの撹拌を阻害するものが含まれていても容易に撹拌することができ、撹拌機40における金属硫化物の解砕性能が安定し、均一に水や所定溶液中に混合および分散させることができる。その結果、金属硫化物のスラリー化方法では、気泡が外部に放出され、スラリー中に気泡が取り込まれて液面が上昇することがなくなるので、レパルプ槽10内の液面近傍の天井部17や内方側壁部18、19などに金属硫化物の塊が付着しなくなり、人手による付着物の除去作業を行う必要も無く、効率的な運転を行うことができる。
【0062】
さらに、金属硫化物のスラリー化方法によれば、金属硫化物のスラリー濃度を200g/L以下、好ましくは160g/L以上200g/L以下に維持することで、スラリー濃度が安定して配管60の閉塞が無くなると共に、過剰な撹拌によるスラリーへの空気の巻込みが減少するため、ポンプ50による送液が不能になる事態も無くなり、極めて安定した送液が可能となる。
【0063】
また、上述の金属硫化物のスラリー化方法では、レパルプ槽10内のスラリー濃度を200g/L以下に維持することで、
図3に示す外観形状のレパルプ槽10だけでなく、円筒状や方形筒状などの一般的な外観形状のレパルプ槽であっても、その外観形状によらずに、金属硫化物を撹拌機40で容易に撹拌することができ、均一に水や所定溶液中に混合および分散させることができる。
【0064】
そして、湿式処理法による廃電池からのニッケルやコバルトなどの有価金属の回収を、有価金属の湿式製錬プラント内または同プラントの近くで実施する場合、有価金属を含む金属硫化物をスラリー化してポンプで輸送することが可能となるので、効率的な廃電池からの有価金属の回収と電池材料の製造を実現することができ、工業的に極めて有用である。
【実施例】
【0065】
以下、実施例および各比較例を用いて本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例および各比較例では、
図1および
図2に示す商業規模の処理設備を利用した。
【0066】
実施例および各比較例において利用した処理設備は、
図1および
図2に示す通り、容量が10m
3の金属硫化物の作製のための反応槽(図示せず。以下、同様とする。)と、ろ過面積が27m
2で、ろ室容積が360Lの金属硫化物をろ過して脱水するためのフィルタープレス20と、容量が5m
3の金属硫化物をスラリー化するレパルプ槽10とで構成された設備である。この設備を用いて、ニッケルイオンおよびコバルトイオンを含む水溶液から金属硫化物を反応槽で生成し、得られた金属硫化物をフィルタープレス20でろ過して脱水した後、その金属硫化物をレパルプ槽10でスラリー化するという流れで処理を実施した。なお、金属硫化物のスラリー濃度は、フルタープレス20内に充填された金属硫化物の重量を推定し、その開枠回数とレパルプ槽10内に張り込んだ水量によって調整した。
【0067】
実施例および各比較例では、ともに廃電池に含まれるニッケルおよびコバルトを浸出させた硫酸水溶液を処理液とした。具体的には、使用済みの廃電池を焙焼して還元焙焼物とし、この還元焙焼物にpH1の硫酸を加え、廃電池に含まれるニッケルおよびコバルトを浸出した。これに硫酸ナトリウムを添加し、希土類元素などを硫酸複塩の形で分離して処理液を得た。得られた処理液には、ニッケルやコバルトなどの有価金属のほかに、マンガンや鉄、アルミニウムなどの不純物も含有されていた。
【0068】
また、反応槽における金属硫化物の作製は、ニッケルイオンおよびコバルトイオンを含む水溶液に、濃度が25重量%の水酸化ナトリウム水溶液を添加してpH2.5に調整し、約10分間経過後、濃度が25重量%の硫化水素ナトリウム水溶液と濃度が25重量%の水酸化ナトリウム水溶液との混合液を添加することにより行った。
【0069】
(実施例1)
実施例1では、上述した金属硫化物の作製条件に基づいて、反応槽で金属硫化物を生成した。生成した金属硫化物の容量は、フィルタープレス20のろ室容積を超えたことから、フィルタープレス20でのろ過操作および開枠操作を5回に分けて行った。各ろ過操作において、スラリー給液の終点における給液圧力と給液流量により、金属硫化物の重量を推定した。
【0070】
ろ過後の金属硫化物は、フィルタープレス20内で圧搾と水によるケーキ洗浄を繰り返され、その後の開枠操作により、下部に設置するレパルプ槽10内にウェットな状態で落下させた。
【0071】
レパルプ槽10内にはあらかじめ1100Lの水が張り込まれており、金属硫化物の投入後、水を追加して3000Lとした。レパルプ槽10には動力3.7kWの撹拌機40が設置されており、撹拌を30時間継続した。その後、レパルプ槽10内を目視したところ、撹拌流の澱みは見られず、採取したサンプルを見ても、スラリー中に固形物の残留は認められなかった。スラリー濃度の測定値は200g/Lで、レパルプ槽10における金属硫化物のスラリー化は適切に行われていると判断された。
【0072】
(比較例1)
比較例1では、実施例1と同様の方法でレパルプ槽10内に金属硫化物を投入した。ただし、レパルプ槽10内には金属硫化物が残留していたため、フィルタープレス20の開枠操作を2回行って、金属硫化物を追投入した。金属硫化物の投入後、レパルプ槽10の液量は2200Lとなり、スラリー濃度の測定値は230g/Lであった。この状態で撹拌を継続したところ、
図5に示した通り、超音波式液位計の指示値が上昇していく状態が確認された。レパルプ槽10内を目視したところ、細かな気泡が多数観察され、液中に気泡が取り込まれていることが判明した。このように、スラリー濃度230g/Lでは適切な運転管理は不可能であることがわかった。
【0073】
(比較例2)
比較例2では、実施例1と同様の方法でレパルプ槽10内に金属硫化物を投入した。ただし、フィルタープレス20の開枠操作を6回行って、金属硫化物を投入した。金属硫化物の投入後、レパルプ槽10の液量は3800Lとなり、スラリー濃度の測定値は240g/Lであった。レパルプ槽10内を目視したところ、気泡を含む金属硫化物が液面部に浮遊しており、撹拌機40を運転した状態であっても液中に沈まず、澱んだ状態でほとんど解砕されていないことが観察された。ポンプ50を起動しても配管60が金属硫化物で閉塞し、スラリー濃度240g/Lでは、プロセスの運転自体が不可能な状態であった。
【0074】
実施例1、比較例1および比較例2の結果より、金属硫化物のスラリー濃度を200g/L以下に維持することで、液中に気泡が取り込まれても外部に排出され、撹拌不足による澱み部や気泡を含む金属硫化物が生成されなくなることが確認できた。澱み部や気泡を含む金属硫化物などの撹拌を阻害する要因が取り除かれることで、金属硫化物の解砕性が安定し、金属硫化物と水とを容易に撹拌することができ、均一に混合および分散させることができた。
【0075】
また、液中に気泡が取り込まれても外部に排出されることにより、スラリーの水位の上昇を防ぐことができた。
【0076】
さらに、金属硫化物の解砕性の安定と共にスラリー濃度も安定するので、配管60の閉塞が無くなり、ポンプ50による極めて安定した送液が可能となることが確認できた。
【0077】
したがって、金属硫化物のスラリー化方法では、湿式処理法による廃電池からのニッケルやコバルトなどの有価金属の回収を、有価金属の湿式製錬プラント内または同プラントの近くで実施する場合、有価金属を含む金属硫化物をスラリー化してポンプで輸送することが可能となるので、効率的な廃電池からの有価金属の回収と電池材料の製造を実現することができ、工業的に極めて有用であると考えられる。