【実施例】
【0031】
次に、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【0032】
〔実験1〕
ボロンがドープされたシリコン融液からCZ法(チョクラルスキー法)を用いて単結晶インゴットを製造し、この単結晶インゴットからシリコンウェーハを切り出した。シリコンウェーハの酸素濃度(以下、「基板酸素濃度」という場合がある)は、11×10
17atoms/cm
3である。シリコンウェーハの抵抗率(以下、「基板抵抗率」という場合がある)は、5mΩ・cmである。また、基板抵抗率が10Ω・cmのシリコンウェーハも用意した。
次に、シリコンウェーハの(100)面を鏡面研磨面とし、この鏡面研磨面に膜厚(以下、「エピタキシャル膜厚」という場合がある)が3μmのエピタキシャル膜を成長させた。エピタキシャル膜の成長は、トリクロロシランなどのガス雰囲気中で1150℃程度の温度で行った。
そして、エピタキシャル膜の成長を終えたウェーハに対して、非酸化性雰囲気において、850℃で60分間保持する熱処理工程を実施し、エピタキシャルシリコンウェーハを得た。
なお、熱処理を実施しないエピタキシャルシリコンウェーハについても用意した。
【0033】
作製したエピタキシャルシリコンウェーハに対し、応力負荷試験を行った。
まず、エピタキシャルシリコンウェーハから、長さ3cm、幅1.5cmの測定用サンプルを切り出した。次に、測定用サンプルの表面(エピタキシャル膜の表面)に、マイクロビッカーズ硬度計で5gの荷重を加えて10秒間保持し、3μm深さの圧痕を導入した。そして、測定用サンプルを、支点間距離2cm、試験温度800℃にて3点曲げ試験を実施した。この際、5Nの荷重を加え、測定用サンプルの表面側に引張応力を作用させた。
その後、室温まで冷却した測定用サンプルに対し、2μmのライトエッチングを実施し、エピタキシャル膜に導入した圧痕から発生したエピタキシャル膜表面で観察される転位ピットの有無を光学顕微鏡を用いて測定した。測定結果を以下の表1に示す。
【0034】
また、作製したエピタキシャルシリコンウェーハのうち、熱処理工程を実施したウェーハについて、酸素濃度の深さプロファイルを測定した。酸素濃度の測定は、SIMS(二次イオン質量分析計)で行った。その深さプロファイルを
図3に示す。
【0035】
【表1】
【0036】
表1に示すように、エピタキシャル膜形成後に熱処理を実施した例では、基板抵抗率が5mΩ・cmでは、圧痕からの転位の伸展が無く、エピタキシャル膜の強度が高くなることが判った。一方で、基板抵抗率が10Ω・cmでは、圧痕からの転位の伸展が確認され、同様の熱処理温度での熱処理工程を実施しても、エピタキシャル膜の強度が低いことが判った。
なお、熱処理工程を実施しない例については、いずれの抵抗率であっても転位の伸展が確認され、エピタキシャル膜の強度が低いことが判った。
【0037】
図3に示すように、両者を比較すると、基板抵抗率が5mΩ・cmの例では、基板の酸素濃度が減少するプロファイルが観察されるものの、エピタキシャル膜の酸素濃度が局所的に上昇するプロファイルとなることが判った。
【0038】
〔実験2〕
熱処理温度を900℃に変更した以外は、上記実験1と同様の条件でエピタキシャルシリコンウェーハの作製を行い、作製したエピタキシャルシリコンウェーハのうち、熱処理工程を実施したウェーハについて、酸素濃度の深さプロファイルを測定した。その深さプロファイルを
図4に示す。
【0039】
【表2】
【0040】
図4に示すように、熱処理温度が900℃では、低抵抗基板における、エピタキシャル膜の酸素濃度プロファイルにおいて、局所的な酸素濃度の上昇プロファイルは確認できなかった。
【0041】
次に、上記実験1,実験2で作製したエピタキシャルシリコンウェーハのうち、熱処理工程を実施したウェーハについて、酸素濃度の深さ微分(atoms/cm
4)の深さプロファイルを測定した。その深さプロファイルを
図5,
図6に示す。
図5に示すように、850℃で熱処理を実施した実験1では、基板抵抗率が5mΩ・cmのシリコンウェーハを用いた例において、界面近傍に、局所的な酸素濃度の深さ微分の深さプロファイルのピークが観察された。この局所的な酸素濃度の深さ微分の深さプロファイルのピークは、界面近傍で局所的に酸素濃度が上昇していることを表しており、上記表1において、圧痕からの転位の伸展が無く、エピタキシャル膜の強度が高い結果が得られたことを裏付けているものと推察される。
一方、
図5に示す、基板抵抗率が10Ω・cmのシリコンウェーハを用いた例、
図6に示す、900℃で熱処理を実施した実験2では、いずれの例についても、ブロードなピークが観察された。
【0042】
〔実験3〕
熱処理温度を1000℃に変更した以外は、実験1と同様の条件でエピタキシャルシリコンウェーハを作製した。また、実験1と同様に熱処理温度を850℃でもエピタキシャルシリコンウェーハを作製した。作製したエピタキシャルシリコンウェーハについて、ボロン濃度の深さプロファイルを測定した。ボロン濃度の深さプロファイルは、SIMS(二次イオン質量分析計)で行った。その深さプロファイルを
図7に示す。
【0043】
図7に示すように、850℃で熱処理を実施した例では、エピタキシャル膜側にはボロンの拡散は小さいのに対し、1000℃で熱処理を実施した例では、エピタキシャル膜側にボロンが大きく拡散していることが確認できる。
【0044】
〔実験4〕
エピタキシャル膜厚、基板酸素濃度及び基板抵抗率を以下の表3の条件とし、熱処理温度を890℃で、熱処理時間を変動させたこと以外は、実験1と同様の条件でエピタキシャルシリコンウェーハの作製及び応力負荷試験を行い、エピタキシャル膜表面で観察される転位ピットを測定した。測定結果を以下の表3に示す。また、応力負荷試験結果を
図8に示す。なお、
図8中の曲線は、上記式(1)から導かれた転位伸展の有無の境界を表す近似曲線である。
【0045】
【表3】
【0046】
表3に示すように、熱処理温度が890℃であれば、圧痕からの転位の伸展が無く、エピタキシャル膜の強度が高くなることが判った。
また、
図8から明らかなように、転位伸展の有無は、近似曲線を境界としており、この近似曲線よりも熱処理時間が小さいと転位の伸展が生じる傾向が見出せる。
【0047】
〔実験5〕
エピタキシャル膜厚、基板酸素濃度及び基板抵抗率を以下の表4の条件とし、熱処理温度850℃で、熱処理時間を変動させたこと以外は、実験1と同様の条件でエピタキシャルシリコンウェーハの作製及び応力負荷試験を行い、エピタキシャル膜表面で観察される転位ピットを測定した。
また、基板抵抗率が5mΩ・cmのシリコンウェーハを使用した例では、エピタキシャル膜の平均酸素濃度を測定した。測定結果を以下の表4に示す。また、応力負荷試験結果を
図9〜
図11に示す。なお、
図9〜
図11中の曲線は、上記式(1)から導かれた近似曲線である。
【0048】
【表4】
【0049】
〔実験6〕
エピタキシャル膜厚、基板酸素濃度及び基板抵抗率を以下の表5の条件とし、熱処理温度800℃で、熱処理時間を変動させたこと以外は、実験1と同様の条件でエピタキシャルシリコンウェーハの作製及び応力負荷試験を行い、エピタキシャル膜表面で観察される転位ピットを測定した。測定結果を以下の表5に示す。また、応力負荷試験結果を
図12〜
図14に示す。なお、
図12〜
図14中の曲線は、上記式(1)から導かれた近似曲線である。
【0050】
【表5】
【0051】
〔実験7〕
エピタキシャル膜厚、基板酸素濃度及び基板抵抗率を以下の表6の条件とし、熱処理温度750℃で熱処理時間を変動させたこと以外は、実験1と同様の条件でエピタキシャルシリコンウェーハの作製及び応力負荷試験を行い、エピタキシャル膜表面で観察される転位ピットを測定した。測定結果を以下の表6に示す。また、応力負荷試験結果を
図15〜
図17に示す。なお、
図15〜
図17中の曲線は、上記式(1)から導かれた近似曲線である。
【0052】
【表6】
【0053】
〔実験8〕
エピタキシャル膜厚を2μmとし、基板酸素濃度、基板抵抗率、熱処理温度及び熱処理時間を以下の表7の条件としたこと以外は、実験1と同様の条件でエピタキシャルシリコンウェーハを作製した。また、マイクロビッカーズ硬度計の荷重を3gとして圧痕深さを2μmとした以外は、実施例1と同様の条件で応力負荷試験を行い、エピタキシャル膜表面で観察される転位ピットを測定した。測定結果を以下の表7に示す。また、応力負荷試験結果を
図18に示す。なお、
図18中の曲線は、上記式(1)から導かれた近似曲線である。
【0054】
【表7】
【0055】
〔実験9〕
エピタキシャル膜厚を4μmとし、基板酸素濃度、基板抵抗率、熱処理温度及び熱処理時間を以下の表8の条件としたこと以外は、実験1と同様の条件でエピタキシャルシリコンウェーハを作製した。また、マイクロビッカーズ硬度計の荷重を7gとして圧痕深さを4μmとした以外は、実施例1と同様の条件で応力負荷試験を行い、エピタキシャル膜表面で観察される転位ピットを測定した。測定結果を以下の表8に示す。また、応力負荷試験結果を
図19に示す。なお、
図19中の曲線は、上記式(1)から導かれた近似曲線である。
【0056】
【表8】
【0057】
表4〜表8並びに
図9〜
図19から明らかなように、転位伸展の有無は、近似曲線を境界としており、この近似曲線よりも熱処理時間が小さいと転位の伸展が生じる傾向が見出せる。
また、表4に示す、転位伸展の有無と、エピタキシャル膜の平均酸素濃度との関係から、エピタキシャル膜の平均酸素濃度が1.7×10
17atoms/cm
3以上であれば、転位伸展を抑制できることが導き出せる。
【0058】
〔実験10〕
実験5〜実験9で作製したシリコンエピタキシャルウェーハにおいて、半導体デバイスの製造プロセスを模擬した熱処理(1000℃で1時間保持、800℃で2時間保持、650℃で3時間保持、900℃で1時間保持)を行った。熱処理の雰囲気は、N
2とO
2の混合雰囲気(O
2を3質量%の割合で混合)とした。
上記実験5〜実験9において、応力負荷試験の結果が、転位の伸展無しとなった例については、この実験10におけるデバイス熱処理後の強度試験についても、同様に、転位の伸展無しの結果が得られた。