特許第6156188号(P6156188)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6156188エピタキシャルシリコンウェーハの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6156188
(24)【登録日】2017年6月16日
(45)【発行日】2017年7月5日
(54)【発明の名称】エピタキシャルシリコンウェーハの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/324 20060101AFI20170626BHJP
   H01L 21/205 20060101ALI20170626BHJP
   H01L 21/20 20060101ALI20170626BHJP
   C23C 16/24 20060101ALI20170626BHJP
   C30B 25/20 20060101ALI20170626BHJP
【FI】
   H01L21/324 T
   H01L21/205
   H01L21/20
   H01L21/324 X
   C23C16/24
   C30B25/20
【請求項の数】1
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-35969(P2014-35969)
(22)【出願日】2014年2月26日
(65)【公開番号】特開2015-162522(P2015-162522A)
(43)【公開日】2015年9月7日
【審査請求日】2016年12月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】302006854
【氏名又は名称】株式会社SUMCO
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】特許業務法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】鳥越 和尚
(72)【発明者】
【氏名】小野 敏昭
【審査官】 柴山 将隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−040972(JP,A)
【文献】 特開平09−283529(JP,A)
【文献】 特開2010−141272(JP,A)
【文献】 国際公開第2001/056071(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/153724(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/324
C23C 16/24
C30B 25/20
H01L 21/20
H01L 21/205
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンウェーハの表面にエピタキシャル膜が設けられたエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法であって、
ボロンが添加され、その抵抗率が100mΩ・cm以下である前記シリコンウェーハ上に、前記エピタキシャル膜を成長させるエピタキシャル膜形成工程と、
前記エピタキシャルシリコンウェーハを900℃未満の温度で熱処理する熱処理工程と、
を備え
前記熱処理工程を実施する前の、前記シリコンウェーハの酸素濃度が、8×1017atoms/cm以上18×1017atoms/cm(ASTM F−121,1979)以下であり、
前記エピタキシャル膜の膜厚が、0.5μm以上8.0μm以下であり、
前記熱処理工程を実施した後の、前記エピタキシャル膜の平均酸素濃度が、1.7×1017atoms/cm(ASTM F−121,1979)以上であり、
前記熱処理工程は、
前記エピタキシャル膜形成工程を実施する前の、前記シリコンウェーハの酸素濃度をX(×1017atoms/cm)、
前記エピタキシャル膜形成工程を実施する前の、前記シリコンウェーハの抵抗率をY(Ω・cm)、
前記エピタキシャル膜の膜厚をZ(μm)、
前記熱処理の温度をT(℃)、
前記熱処理の時間をt(min)、
として、以下の式(1)を満たすように行われることを特徴とするエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法。
t≧3.71×1056×X−7.03×Y0.27×Z3.34×T−16.7 … (1)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エピタキシャルシリコンウェーハの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シリコン単結晶を切り出して得られるシリコンウェーハの表面に、エピタキシャル膜を気相成長させたエピタキシャルウェーハが知られている。エピタキシャル膜は気相成長によるCVDで成膜され、理論的にはエピタキシャル膜内に酸素はなく、現実的にも酸素濃度ゼロか、ほとんど存在していない状態である。
このようにエピタキシャル膜中の酸素濃度が低い場合、例えば、デバイスプロセスなどの熱処理においてエピタキシャル膜中に転位が発生し、この転位が伸展してしまうことがある。そこで、このような転位の伸展を防止するための検討がなされている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1には、エピタキシャル膜表面の酸素濃度が転位発生に関係することを見出し、このエピタキシャル膜表面の酸素濃度を、1.0×1017〜12×1017atoms/cm(ASTM F−121,1979)に設定することで、転位の伸展を防止できることが記載されている。そして、このような特性を有するエピタキシャルウェーハの製造方法として、エピタキシャル膜の形成工程後に、900℃以上シリコンの融点以下の熱処理温度で処理する酸素濃度設定熱処理工程を行うことが記載されている。エピタキシャル膜形成後に上記のような高温での熱処理を実施することにより、シリコンウェーハに固溶している酸素がエピタキシャル膜に熱拡散し、エピタキシャル膜の酸素濃度が上昇する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−141272号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、半導体デバイスの集積回路が動作する場合に、発生する浮遊電荷が意図しない寄生トランジスタを動作させることによって発生する、いわゆるラッチアップと呼ばれている現象が発生する。ラッチアップ現象が発生すると、半導体デバイスが正常に動作しなくなり、これを正常状態に回復させるためには、電源を落とさなければならないようなトラブルを生じる。
ラッチアップ対策として、p/pエピタキシャルウェーハが適用されている。p/pエピタキシャルウェーハは、ボロンを高濃度に含有した低抵抗のシリコンウェーハ(pシリコンウェーハ)の表面にエピタキシャル膜を成長させたウェーハである。p/pエピタキシャルウェーハは、上記ラッチアップ現象の防止対策の他に、トレンチ構造のキャパシタを用いる場合にトレンチ周辺の電圧印加にともなう空乏層の拡がりを防止するなど、デバイスの機能向上を図ることができることから、広く適用されるようになっている。
しかしながら、p/pエピタキシャルウェーハに対して上記特許文献1に記載の高温の熱処理を実施した場合は、シリコンウェーハに固溶している酸素だけでなく、シリコンウェーハ中のボロンもエピタキシャル膜に熱拡散してしまい、エピタキシャル膜の抵抗率が変化して所望の抵抗率の範囲を満たさなくなるおそれがある。
【0006】
本発明の目的は、低抵抗シリコンウェーハを使用した場合でも、エピタキシャル膜の抵抗率を変化させることなく、転位の伸展を抑制可能なエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、鋭意研究を重ね、低抵抗シリコンウェーハを使用したエピタキシャルシリコンウェーハにおいて、エピタキシャル膜形成工程の後に実施する熱処理工程の熱処理条件を制御することで、ボロンによる酸素の増速拡散効果によって、エピタキシャル膜の平均酸素濃度を高めることができ、かつ、エピタキシャル膜へのボロンの拡散を抑制し、エピタキシャル膜の抵抗率を変化させることがないことを見出した。
本発明は、上述のような知見に基づいて完成されたものである。
【0008】
すなわち、本発明のエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法は、シリコンウェーハの表面にエピタキシャル膜が設けられたエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法であって、ボロンが添加され、その抵抗率が100mΩ・cm以下である前記シリコンウェーハ上に、前記エピタキシャル膜を成長させるエピタキシャル膜形成工程と、前記エピタキシャルシリコンウェーハを900℃未満の温度で熱処理する熱処理工程と、を備え、前記熱処理工程を実施する前の、前記シリコンウェーハの酸素濃度が、8×1017atoms/cm以上18×1017atoms/cm(ASTM F−121,1979)以下であり、前記エピタキシャル膜の膜厚が、0.5μm以上8.0μm以下であり、前記熱処理工程を実施した後の、前記エピタキシャル膜の平均酸素濃度が、1.7×1017atoms/cm(ASTM F−121,1979)以上であり、前記熱処理工程は、前記エピタキシャル膜形成工程を実施する前の、前記シリコンウェーハの酸素濃度をX(×1017atoms/cm)、前記エピタキシャル膜形成工程を実施する前の、前記シリコンウェーハの抵抗率をY(Ω・cm)、前記エピタキシャル膜の膜厚をZ(μm)、
前記熱処理の温度をT(℃)、前記熱処理の時間をt(min)、として、以下の式(1)を満たすように行われることを特徴とする。
t≧3.71×1056×X−7.03×Y0.27×Z3.34×T−16.7 … (1)
【0009】
本発明のエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法によれば、抵抗率が100mΩ・cm以下の低抵抗シリコンウェーハを使用し、かつ、熱処理工程を900℃未満の温度で行うため、ボロンによるエピタキシャル膜への酸素の増速拡散作用を生じさせることができる。これにより、エピタキシャル膜の平均酸素濃度が十分に高められ、転位の伸展を抑制可能なエピタキシャルシリコンウェーハを製造することができる。また、熱処理工程を900℃未満の温度で行うため、シリコンウェーハ中のボロンがエピタキシャル膜に熱拡散することも抑制できる。
ここで、シリコンウェーハからエピタキシャル膜に酸素が拡散しても、拡散前後において、基板酸素濃度(シリコンウェーハの酸素濃度)は、ほとんど変わらないことが確認されている。
基板酸素濃度が上記範囲に設定されたシリコンウェーハを用いることにより、エピタキシャル膜形成工程後に実施する熱処理工程の熱処理温度を制御するだけの簡単な方法で、転位の伸展が発生しない量の酸素をエピタキシャル膜に拡散させることができる。
また、エピタキシャル膜の膜厚が上記範囲内であれば、エピタキシャル膜の平均酸素濃度を十分に高めることで、転位の伸展を防止できる。
さらに、エピタキシャル膜の平均酸素濃度が上記範囲内であれば、転位の伸展を防止できる。
また、上記式(1)に、シリコンウェーハの酸素濃度と、シリコンウェーハの抵抗率と、エピタキシャル膜の膜厚と、熱処理の温度とを代入し、熱処理の時間を計算で求めるだけの簡単な方法で、転位の伸展を抑制可能なエピタキシャルシリコンウェーハを製造することができる。
【0018】
明細書において、「局所的な酸素濃度上昇プロファイル」とは、酸素濃度の深さ微分(atoms/cm)の深さプロファイルにおいて、シリコンウェーハとエピタキシャル膜との界面(以下、単に「界面」という場合がある)近傍に2×1021(atoms/cm)以上のピークを持つことをいう。ここで、酸素濃度の深さ微分(atoms/cm)の深さプロファイルは、エピタキシャルシリコンウェーハの深さ方向の酸素濃度プロファイルを測定(SIMS測定)することで得られる。また、界面近傍とは、深さ方向で、界面からエピタキシャル膜側に1μmの位置から、界面から基板側に0.5μmの位置までの範囲をいう。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態に係るエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法を表すフローチャート。
図2】前記一実施形態に係るエピタキシャルシリコンウェーハを示す断面図。
図3】実験1の850℃で熱処理を実施した例における、酸素濃度の深さプロファイルを示すグラフ。
図4】実験2の900℃で熱処理を実施した例における、酸素濃度の深さプロファイルを示すグラフ。
図5】実験1の850℃で熱処理を実施した例における、酸素濃度の深さ微分の深さプロファイルを示すグラフ。
図6】実験2の900℃で熱処理を実施した例における、酸素濃度の深さ微分の深さプロファイルを示すグラフ。
図7】実験3のボロン濃度の深さプロファイルを示すグラフ。
図8】実験4の応力負荷試験結果を示すグラフ。
図9】実験5において、抵抗率が5mΩ・cmのシリコンウェーハを用いた例の、応力負荷試験結果を示すグラフ。
図10】実験5において、抵抗率が10mΩ・cmのシリコンウェーハを用いた例の、応力負荷試験結果を示すグラフ。
図11】実験5において、抵抗率が100mΩ・cmのシリコンウェーハを用いた例の、応力負荷試験結果を示すグラフ。
図12】実験6において、抵抗率が5mΩ・cmのシリコンウェーハを用いた例の、応力負荷試験結果を示すグラフ。
図13】実験6において、抵抗率が10mΩ・cmのシリコンウェーハを用いた例の、応力負荷試験結果を示すグラフ。
図14】実験6において、抵抗率が100mΩ・cmのシリコンウェーハを用いた例の、応力負荷試験結果を示すグラフ。
図15】実験7において、抵抗率が5mΩ・cmのシリコンウェーハを用いた例の、応力負荷試験結果を示すグラフ。
図16】実験7において、抵抗率が10mΩ・cmのシリコンウェーハを用いた例の、応力負荷試験結果を示すグラフ。
図17】実験7において、抵抗率が100mΩ・cmのシリコンウェーハを用いた例の、応力負荷試験結果を示すグラフ。
図18】実験8の応力負荷試験結果を示すグラフ。
図19】実験9の応力負荷試験結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
図1は、エピタキシャルシリコンウェーハの製造方法を表すフローチャートである。図2は、エピタキシャルシリコンウェーハを示す断面図である。
【0021】
図1に示すように、図2に示すエピタキシャルシリコンウェーハ1の製造方法では、先ず、シリコンウェーハ準備工程を行う(ステップS1)。
このシリコンウェーハ準備工程では、CZ法や、MCZ(磁場印加チョクラルスキー)法などによって、引き上げられた単結晶インゴットを、スライス、面取り、研削、ラッピング、エッチング、研磨、洗浄などを含む必要な各工程によって、表面21が鏡面研磨されたシリコンウェーハ2を準備する全ての工程を含む。この際、シリコンウェーハ2の酸素濃度は、8×1017atoms/cm以上18×1017atoms/cm(ASTM F−121,1979)以下であることが好ましい。シリコンウェーハの酸素濃度が上記範囲であれば、後述する熱処理工程でエピタキシャル膜の酸素濃度を所望の範囲にまで高めることができる。
また、シリコンウェーハ2は、ボロンが添加され、100mΩ・cm以下、好ましくは、5mΩ・cm以上100mΩ・cm以下となるように、その抵抗率が調整される。
【0022】
次に、シリコンウェーハ2にエピタキシャル膜3を形成するエピタキシャル膜形成工程を行う(ステップS2)。
図示しないエピタキシャル装置の反応容器内にシリコンウェーハ2を載置し、反応容器内の温度を室温から目的温度まで昇温させる。目的温度は、1050℃〜1280℃に設定することが好ましい。反応容器内の温度が上記目的温度に到達すると、シリコンウェーハ2の表面21にエピタキシャル膜3を成長させる。例えば、トリクロロシランなどの成長ガスを反応容器内に導入し、この成長ガス雰囲気でエピタキシャル膜3の成膜を行う。なお、この成膜において、ボロン、リンなどの必要なドーパントを添加してもよい。
エピタキシャル膜形成工程は、エピタキシャル膜3の膜厚Tが0.5μm以上8.0μm以下となるまで行われることが好ましい。そして、エピタキシャル膜3が上記膜厚Tとなるまで成膜されると、エピタキシャルシリコンウェーハ1の温度を、エピタキシャル膜3を成長させたときの温度から室温まで降温する。
【0023】
次に、エピタキシャルシリコンウェーハ1を熱処理する熱処理工程を行う(ステップS3)。この熱処理工程では、900℃未満の温度となるように、熱処理条件を制御する。
また、上記温度範囲内において熱処理時間を制御することが好ましい。
具体的には、エピタキシャル膜形成工程を実施する前の、シリコンウェーハ2の酸素濃度をX(×1017atoms/cm)、エピタキシャル膜形成工程を実施する前の、シリコンウェーハ2の抵抗率をY(Ω・cm)、エピタキシャル膜3の膜厚をZ(μm)、熱処理の温度をT(℃)、熱処理の時間をt(min)、として、以下の式(1)を満たすように、熱処理の時間を制御する。
t≧3.71×1056×X−7.03×Y0.27×Z3.34×T−16.7 … (1)
【0024】
熱処理の時間を上記式(1)で得られるtの値以上とすることにより、エピタキシャル膜3の平均酸素濃度が、1.7×1017atoms/cm(ASTM F−121,1979)以上に調整された、転位の伸展が無いエピタキシャルシリコンウェーハ1を製造することができる。
【0025】
[実施形態の作用効果]
上述したように、上記実施形態では、以下のような作用効果を奏することができる。
【0026】
(1)抵抗率が100mΩ・cm以下の低抵抗シリコンウェーハを使用し、かつ、熱処理工程を900℃未満の温度で行うため、ボロンによるエピタキシャル膜への酸素の増速拡散作用を生じさせることができる。これにより、エピタキシャル膜の平均酸素濃度が十分に高められ、転位の伸展を抑制可能なエピタキシャルシリコンウェーハを製造することができる。
【0027】
(2)熱処理工程を900℃未満の温度で行うため、シリコンウェーハ中のボロンがエピタキシャル膜に熱拡散することも抑制できる。
【0028】
(3)上記式(1)に、シリコンウェーハ2の酸素濃度と、シリコンウェーハ2の抵抗率と、エピタキシャル膜3の膜厚と、熱処理の温度とを代入し、熱処理の時間を計算で求めるだけの簡単な方法で、転位の伸展を抑制可能なエピタキシャルシリコンウェーハ1を製造することができる。
【0029】
[他の実施形態]
なお、本発明は上記実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の改良ならびに設計の変更などが可能である。
【0030】
すなわち、熱処理工程において、上記式(1)に基づき求めた熱処理時間を用いずに、複数の条件で行った実験に基づいて、エピタキシャル膜3の平均酸素濃度が1.7×1017atoms/cm(ASTM F−121,1979)以上に調整されたエピタキシャルシリコンウェーハ1を製造できるように、900℃未満の温度範囲内において熱処理条件を設定してもよい。
さらに、シリコンウェーハ2の酸素濃度は、8×1017atoms/cm未満であってもよいし、18×1017atoms/cm(ASTM F−121,1979)を超えていてもよい。
【実施例】
【0031】
次に、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【0032】
〔実験1〕
ボロンがドープされたシリコン融液からCZ法(チョクラルスキー法)を用いて単結晶インゴットを製造し、この単結晶インゴットからシリコンウェーハを切り出した。シリコンウェーハの酸素濃度(以下、「基板酸素濃度」という場合がある)は、11×1017atoms/cmである。シリコンウェーハの抵抗率(以下、「基板抵抗率」という場合がある)は、5mΩ・cmである。また、基板抵抗率が10Ω・cmのシリコンウェーハも用意した。
次に、シリコンウェーハの(100)面を鏡面研磨面とし、この鏡面研磨面に膜厚(以下、「エピタキシャル膜厚」という場合がある)が3μmのエピタキシャル膜を成長させた。エピタキシャル膜の成長は、トリクロロシランなどのガス雰囲気中で1150℃程度の温度で行った。
そして、エピタキシャル膜の成長を終えたウェーハに対して、非酸化性雰囲気において、850℃で60分間保持する熱処理工程を実施し、エピタキシャルシリコンウェーハを得た。
なお、熱処理を実施しないエピタキシャルシリコンウェーハについても用意した。
【0033】
作製したエピタキシャルシリコンウェーハに対し、応力負荷試験を行った。
まず、エピタキシャルシリコンウェーハから、長さ3cm、幅1.5cmの測定用サンプルを切り出した。次に、測定用サンプルの表面(エピタキシャル膜の表面)に、マイクロビッカーズ硬度計で5gの荷重を加えて10秒間保持し、3μm深さの圧痕を導入した。そして、測定用サンプルを、支点間距離2cm、試験温度800℃にて3点曲げ試験を実施した。この際、5Nの荷重を加え、測定用サンプルの表面側に引張応力を作用させた。
その後、室温まで冷却した測定用サンプルに対し、2μmのライトエッチングを実施し、エピタキシャル膜に導入した圧痕から発生したエピタキシャル膜表面で観察される転位ピットの有無を光学顕微鏡を用いて測定した。測定結果を以下の表1に示す。
【0034】
また、作製したエピタキシャルシリコンウェーハのうち、熱処理工程を実施したウェーハについて、酸素濃度の深さプロファイルを測定した。酸素濃度の測定は、SIMS(二次イオン質量分析計)で行った。その深さプロファイルを図3に示す。
【0035】
【表1】
【0036】
表1に示すように、エピタキシャル膜形成後に熱処理を実施した例では、基板抵抗率が5mΩ・cmでは、圧痕からの転位の伸展が無く、エピタキシャル膜の強度が高くなることが判った。一方で、基板抵抗率が10Ω・cmでは、圧痕からの転位の伸展が確認され、同様の熱処理温度での熱処理工程を実施しても、エピタキシャル膜の強度が低いことが判った。
なお、熱処理工程を実施しない例については、いずれの抵抗率であっても転位の伸展が確認され、エピタキシャル膜の強度が低いことが判った。
【0037】
図3に示すように、両者を比較すると、基板抵抗率が5mΩ・cmの例では、基板の酸素濃度が減少するプロファイルが観察されるものの、エピタキシャル膜の酸素濃度が局所的に上昇するプロファイルとなることが判った。
【0038】
〔実験2〕
熱処理温度を900℃に変更した以外は、上記実験1と同様の条件でエピタキシャルシリコンウェーハの作製を行い、作製したエピタキシャルシリコンウェーハのうち、熱処理工程を実施したウェーハについて、酸素濃度の深さプロファイルを測定した。その深さプロファイルを図4に示す。
【0039】
【表2】
【0040】
図4に示すように、熱処理温度が900℃では、低抵抗基板における、エピタキシャル膜の酸素濃度プロファイルにおいて、局所的な酸素濃度の上昇プロファイルは確認できなかった。
【0041】
次に、上記実験1,実験2で作製したエピタキシャルシリコンウェーハのうち、熱処理工程を実施したウェーハについて、酸素濃度の深さ微分(atoms/cm4)の深さプロファイルを測定した。その深さプロファイルを図5図6に示す。
図5に示すように、850℃で熱処理を実施した実験1では、基板抵抗率が5mΩ・cmのシリコンウェーハを用いた例において、界面近傍に、局所的な酸素濃度の深さ微分の深さプロファイルのピークが観察された。この局所的な酸素濃度の深さ微分の深さプロファイルのピークは、界面近傍で局所的に酸素濃度が上昇していることを表しており、上記表1において、圧痕からの転位の伸展が無く、エピタキシャル膜の強度が高い結果が得られたことを裏付けているものと推察される。
一方、図5に示す、基板抵抗率が10Ω・cmのシリコンウェーハを用いた例、図6に示す、900℃で熱処理を実施した実験2では、いずれの例についても、ブロードなピークが観察された。
【0042】
〔実験3〕
熱処理温度を1000℃に変更した以外は、実験1と同様の条件でエピタキシャルシリコンウェーハを作製した。また、実験1と同様に熱処理温度を850℃でもエピタキシャルシリコンウェーハを作製した。作製したエピタキシャルシリコンウェーハについて、ボロン濃度の深さプロファイルを測定した。ボロン濃度の深さプロファイルは、SIMS(二次イオン質量分析計)で行った。その深さプロファイルを図7に示す。
【0043】
図7に示すように、850℃で熱処理を実施した例では、エピタキシャル膜側にはボロンの拡散は小さいのに対し、1000℃で熱処理を実施した例では、エピタキシャル膜側にボロンが大きく拡散していることが確認できる。
【0044】
〔実験4〕
エピタキシャル膜厚、基板酸素濃度及び基板抵抗率を以下の表3の条件とし、熱処理温度を890℃で、熱処理時間を変動させたこと以外は、実験1と同様の条件でエピタキシャルシリコンウェーハの作製及び応力負荷試験を行い、エピタキシャル膜表面で観察される転位ピットを測定した。測定結果を以下の表3に示す。また、応力負荷試験結果を図8に示す。なお、図8中の曲線は、上記式(1)から導かれた転位伸展の有無の境界を表す近似曲線である。
【0045】
【表3】
【0046】
表3に示すように、熱処理温度が890℃であれば、圧痕からの転位の伸展が無く、エピタキシャル膜の強度が高くなることが判った。
また、図8から明らかなように、転位伸展の有無は、近似曲線を境界としており、この近似曲線よりも熱処理時間が小さいと転位の伸展が生じる傾向が見出せる。
【0047】
〔実験5〕
エピタキシャル膜厚、基板酸素濃度及び基板抵抗率を以下の表4の条件とし、熱処理温度850℃で、熱処理時間を変動させたこと以外は、実験1と同様の条件でエピタキシャルシリコンウェーハの作製及び応力負荷試験を行い、エピタキシャル膜表面で観察される転位ピットを測定した。
また、基板抵抗率が5mΩ・cmのシリコンウェーハを使用した例では、エピタキシャル膜の平均酸素濃度を測定した。測定結果を以下の表4に示す。また、応力負荷試験結果を図9図11に示す。なお、図9図11中の曲線は、上記式(1)から導かれた近似曲線である。
【0048】
【表4】
【0049】
〔実験6〕
エピタキシャル膜厚、基板酸素濃度及び基板抵抗率を以下の表5の条件とし、熱処理温度800℃で、熱処理時間を変動させたこと以外は、実験1と同様の条件でエピタキシャルシリコンウェーハの作製及び応力負荷試験を行い、エピタキシャル膜表面で観察される転位ピットを測定した。測定結果を以下の表5に示す。また、応力負荷試験結果を図12図14に示す。なお、図12図14中の曲線は、上記式(1)から導かれた近似曲線である。
【0050】
【表5】
【0051】
〔実験7〕
エピタキシャル膜厚、基板酸素濃度及び基板抵抗率を以下の表6の条件とし、熱処理温度750℃で熱処理時間を変動させたこと以外は、実験1と同様の条件でエピタキシャルシリコンウェーハの作製及び応力負荷試験を行い、エピタキシャル膜表面で観察される転位ピットを測定した。測定結果を以下の表6に示す。また、応力負荷試験結果を図15図17に示す。なお、図15図17中の曲線は、上記式(1)から導かれた近似曲線である。
【0052】
【表6】
【0053】
〔実験8〕
エピタキシャル膜厚を2μmとし、基板酸素濃度、基板抵抗率、熱処理温度及び熱処理時間を以下の表7の条件としたこと以外は、実験1と同様の条件でエピタキシャルシリコンウェーハを作製した。また、マイクロビッカーズ硬度計の荷重を3gとして圧痕深さを2μmとした以外は、実施例1と同様の条件で応力負荷試験を行い、エピタキシャル膜表面で観察される転位ピットを測定した。測定結果を以下の表7に示す。また、応力負荷試験結果を図18に示す。なお、図18中の曲線は、上記式(1)から導かれた近似曲線である。
【0054】
【表7】
【0055】
〔実験9〕
エピタキシャル膜厚を4μmとし、基板酸素濃度、基板抵抗率、熱処理温度及び熱処理時間を以下の表8の条件としたこと以外は、実験1と同様の条件でエピタキシャルシリコンウェーハを作製した。また、マイクロビッカーズ硬度計の荷重を7gとして圧痕深さを4μmとした以外は、実施例1と同様の条件で応力負荷試験を行い、エピタキシャル膜表面で観察される転位ピットを測定した。測定結果を以下の表8に示す。また、応力負荷試験結果を図19に示す。なお、図19中の曲線は、上記式(1)から導かれた近似曲線である。
【0056】
【表8】
【0057】
表4〜表8並びに図9図19から明らかなように、転位伸展の有無は、近似曲線を境界としており、この近似曲線よりも熱処理時間が小さいと転位の伸展が生じる傾向が見出せる。
また、表4に示す、転位伸展の有無と、エピタキシャル膜の平均酸素濃度との関係から、エピタキシャル膜の平均酸素濃度が1.7×1017atoms/cm以上であれば、転位伸展を抑制できることが導き出せる。
【0058】
〔実験10〕
実験5〜実験9で作製したシリコンエピタキシャルウェーハにおいて、半導体デバイスの製造プロセスを模擬した熱処理(1000℃で1時間保持、800℃で2時間保持、650℃で3時間保持、900℃で1時間保持)を行った。熱処理の雰囲気は、NとOの混合雰囲気(Oを3質量%の割合で混合)とした。
上記実験5〜実験9において、応力負荷試験の結果が、転位の伸展無しとなった例については、この実験10におけるデバイス熱処理後の強度試験についても、同様に、転位の伸展無しの結果が得られた。
【符号の説明】
【0059】
1…エピタキシャルシリコンウェーハ
2…シリコンウェーハ
3…エピタキシャル膜
21…シリコンウェーハの表面
図1
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図3
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図5
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