(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記含フッ素重合体(c)が、前記単位(A):(B):(C)を30〜75:20〜50:5〜33(モル%)で有する前記単位(A)と単位(B)と単位(C)とからなる共重合体、単位(A):(B):(D)を30〜70:20〜50:1〜20(モル%)で有する前記単位(A)と単位(B)と単位(D)とからなる共重合体、または単位(A):(B):(C):(D)を30〜70:20〜50:5〜30:1〜19(モル%)で有する前記単位(A)と単位(B)と単位(C)と単位(D)とからなる共重合体である、請求項3に記載のプラスチック光ファイバ。
前記含フッ素重合体(c)が、前記単位(A):(B):(C)を17〜75:20〜50:5〜33(モル%)で有する前記単位(A)と単位(B)と単位(C)とからなる共重合体、単位(A):(B):(D)を40〜65:20〜40:5〜20(モル%)で有する前記単位(A)と単位(B)と単位(D)とからなる共重合体、または単位(A):(B):(C):(D)を1〜74:20〜50:5〜30:1〜19(モル%)で有する前記単位(A)と単位(B)と単位(C)と単位(D)とからなる共重合体である、請求項3に記載のプラスチック光ファイバ。
前記含フッ素重合体(a)が、前記単位(A):(B):(C)を30〜75:20〜50:5〜33(モル%)で有する前記単位(A)と単位(B)と単位(C)とからなる共重合体、単位(A):(B):(D)を30〜70:20〜50:1〜20(モル%)で有する前記単位(A)と単位(B)と単位(D)とからなる共重合体、または単位(A):(B):(C):(D)を30〜70:20〜50:5〜30:1〜19(モル%)で有する前記単位(A)と単位(B)と単位(C)と単位(D)とからなる共重合体である、請求項9に記載のプラスチック光ファイバ。
内層が、前記含フッ素重合体(a)からなるマトリックス中に、屈折率が該含フッ素重合体(a)よりも高い化合物(b)を含有し、該化合物(b)の分布によって屈折率分布構造が形成されている、請求項1〜11のいずれか一項に記載のプラスチック光ファイバ。
前記含フッ素重合体(a)が中心に配置され、かつ該中心から半径方向に同心円状に前記含フッ素重合体(c)の層および前記保護被覆層となる材料の層が配置された多層構造体を、その軸方向に延伸して紡糸することを特徴とする、請求項1〜13のいずれか一項に記載のプラスチック光ファイバを製造する方法。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書において、内層と外層とからなる2層構造のファイバを「プラスチック光ファイバ裸線(以下、「光ファイバ裸線」ともいう。)」といい、プラスチック光ファイバ裸線上に少なくとも1層の保護被覆層が形成されたファイバを「プラスチック光ファイバ(以下、「光ファイバ」ともいう。)」という。
通常、光ファイバ裸線の長さ方向に垂直な断面形状は円形であり、光ファイバ裸線の該断面において内層は円形であり、外層は内層と同心の円環状である。
本明細書において、重合体の「単位」とは、単量体1分子から形成される構成部分をいう。重合体は多数の「単位」が連結した構造を有し、重合体中には2種以上の「単位」が存在していてもよい。
本明細書において、主鎖とは、該主鎖以外のすべての分子鎖が側鎖と見なされるような線状分子鎖である。重合性二重結合(炭素原子間の不飽和二重結合)を有する単量体の重合により生成する重合体の主鎖は、連結した炭素原子からなる。
本明細書において、数平均分子量(Mn)は、分子量既知の標準ポリスチレン試料を用いて作成した検量線を用い、ゲルパーミエーションクロマトグラフィで測定して得られるポリスチレン換算分子量である。
【0016】
〔プラスチック光ファイバ〕
本発明のプラスチック光ファイバは、内層と、内層の外周を覆い、かつ内層の屈折率よりも屈折率が低い外層と、外層の外周を覆う保護被覆層とを有する。
【0017】
本発明の内層を形成する材料は、C−H結合を有しない非晶性の含フッ素重合体(a)を含む。該含フッ素重合体(a)からなるマトリックス中に、該含フッ素重合体(a)とは屈折率が異なる化合物(b)を含有し、該化合物(b)の分布によって屈折率分布構造が形成された層であることが好ましい。なお、内層が屈折率分布構造を有する光ファイバを「屈折率分布型光ファイバ」といい、本発明の光ファイバは、モード分散が生じにくく、伝送帯域が増加する点で屈折率分布型光ファイバが好ましい。
本発明の外層を形成する材料は、C−H結合を主鎖の末端にのみ有していてもよい非晶性の含フッ素重合体(c)を含む。
【0018】
屈折率分布型光ファイバの好ましい態様について、
図1〜4を用いて説明する。
図1〜4は屈折率分布を表すグラフであり、横軸は光ファイバ裸線の直径を示し、縦軸は屈折率を示す。光ファイバ裸線の内層(符号1で示す範囲)は、中心が最も屈折率が高く、中心から離れるにしたがって屈折率が漸次低下する屈折率分布を有する。符号3は内層の最外部の屈折率レベルを示し、符号4は外層(符号2で示す範囲)の屈折率レベルを示す。外層の屈折率4は、内層の最外部の屈折率3より低い。
内層の屈折率分布は、
図1または2のように外周側に向かってグラフの傾きが漸次小さくなるサインカーブ状の分布でもよく、
図3または4のように外周側に向かってグラフの傾きが漸次大きくなる放物線状の分布でもよい。伝送帯域が大きい点からは、後者の放物線状の屈折率分布が好ましい。一方、
図2または4のように、屈折率が内層の最外部まで連続的に低下する分布でもよく、
図1または3のように、中心から内層の途中まで連続的に低下しそれより外側の内層が一定の屈折率を有するものでもよい。
図2または4における内層はコア層として機能し、外層はクラッドとして機能する。また、
図1または3の内層における屈折率が一定の部分は第1クラッドとして機能し、外層は第2クラッドとして機能し、それ以外の部分はコアとして機能する。
内層の厚さ(光ファイバ中心から内層の最外部までの距離、すなわち内層の半径)は、特に限定されないが、10〜1,000μmが好ましく、20〜500μmがより好ましく、30〜200μmが特に好ましい。外層の厚さは、特に限定されないが、2〜1,000μmが好ましく、5〜500μmがより好ましく、10〜200μmが特に好ましい。
【0019】
本発明においては、含フッ素重合体(c)のガラス転移温度(Tgc)(℃)は、含フッ素重合体(a)のガラス転移温度(Tga)(℃)以上である。その理由は以下のように考えている。外層のTgcよりも内層のTgaが低いと、光ファイバの成形時に、外層よりも先に内層が固化し、固化した状態の内層が外層に引っ張られることによって内層に分子配向が生じて、得られる光ファイバの伝送損失が大きくなってしまうおそれがある。
外層を構成する含フッ素重合体(c)として2種以上の重合体の混合物を用いる場合、2種以上の重合体が充分均一に混合している場合等では混合物のTgは各重合体の質量割合に応じた1つのTgが現れる。この場合はこの混合物の1つのTgが上記Tgcである。しかし、充分均一な混合物ではない場合、混合物のTgとしては各重合体に基づくTg(2以上のTg)が現れる場合がある。この場合は、含フッ素重合体(c)について現れる2以上のTgがいずれも、含フッ素重合体(a)のガラス転移温度Tga以上であることが好ましい。
内層を構成する含フッ素重合体(a)として2種以上の重合体の混合物を用いる場合も同様に、1つのTgが現れる場合はこの混合物の1つのTgが上記Tgaである。混合物のTgとしては各重合体に基づくTg(2以上のTg)が現れる場合は、含フッ素重合体(c)のガラス転移温度Tgcが、含フッ素重合体(a)について現れる2以上のTgのより高い方のTg以上であることが好ましい。
【0020】
外層の屈折率4は、光ファイバの曲げ損失を小さくできる点で、内層の最外部の屈折率3に対して0.003以上低いことが好ましく、0.005以上低いことが特に好ましい。
内層の中心部分の最高屈折率と外層の最低屈折率とで計算される開口数NAは0.20以上が好ましく、0.23以上がより好ましく、0.25以上が特に好ましい。通常、開口数の上限は0.5程度である。一般に、曲げ損失は光ファイバのコア径(コア層として機能する部分の外径)によっても変化し、コア径が大きくなるほど曲げ損失も大きくなる。
【0021】
本発明の光ファイバにおいては、含フッ素重合体(a)の破断伸度および含フッ素重合体(c)の破断伸度が、120%以上であり、かつ、延伸における延伸倍率(以下、「ファイバ延伸倍率」ということもある。)よりも大きいことを特徴とする。これにより、光ファイバの伝送損失および曲げ損失を小さくすることができる。
かかる効果が得られる理由は以下であると考えている。ファイバ延伸倍率が高い光ファイバにあっては、光ファイバ成形の際に、保護被覆層を形成する材料が延伸方向に強く配向している。したがって、ファイバ延伸倍率を120%以上と大きくすることにより、機械的強度を良好にすることができると考えられる。
また、通常、光ファイバの断面積の大部分は保護被覆層によって占められているため、ファイバ延伸倍率はこの保護被覆層にかかる応力によって決まると考えられる。つまり、保護被覆層のガラス転移温度付近における伸び量がファイバ延伸倍率を規定する。このことから、保護被覆層を形成する材料のガラス転移温度における含フッ素重合体(a)の破断伸度および含フッ素重合体(c)の破断伸度が、ファイバ延伸倍率以下である材料を用いることで、光ファイバ成形時に内層および外層が含フッ素重合体(a)の破断伸度および含フッ素重合体(c)の破断伸度以上に伸ばされ、内層および外層に亀裂が入ってしまうおそれがある。内層にクラックが入ると光ファイバとしての機能が失われる。また外層にクラックが入ると外層による光の閉じ込め機能が失われ、開口数NAの値が低下する。したがって、延伸を行った伝送損失の小さい光ファイバを安定的に高収率で製造するためには、内層および外層を構成する材料として、保護被覆層を形成する材料のガラス転移温度における含フッ素重合体(a)の破断伸度および含フッ素重合体(c)の破断伸度がファイバ延伸倍率よりも大きい含フッ素重合体(a)および(c)を用いることが重要である。
【0022】
本発明における含フッ素重合体(a)および同(c)の破断伸度は、それぞれ下記の引張試験により求められたものである。
厚さ200μmの含フッ素重合体フィルムをASTM D 1822に規定された試験片タイプLの形状に打ち抜き、試験片を製造する。JIS K 7161−1994に準拠して、保護被覆層を形成する材料のガラス転移温度にて、引張速度10mm/分で試験片の引張試験を行い、下式(II)から含フッ素重合体の破断伸度(%)を算出する。
含フッ素重合体の破断伸度=破断時の試験片の標線間距離の増加/引張試験前の試験片の標線間距離×100 ・・・(II)。
【0023】
(含フッ素重合体(a))
内層を形成する材料である含フッ素重合体(a)は、非晶性であり、近赤外光で光吸収を生じるC−H結合を有しない含フッ素重合体である。含フッ素重合体(a)の屈折率は1.25〜1.40が好ましく、1.30〜1.37がより好ましく、1.32〜1.35が特に好ましい。
【0024】
含フッ素重合体(a)の溶融状態における粘度は、溶融温度230℃において10
2〜10
5ポアズが好ましく、10
3〜10
4が特に好ましい。溶融粘度が上記範囲の下限値以上であると、ファイバ成形時に外周面の断面形状を真円に近づけることが簡便になる。上記範囲の上限値以下であると、溶融紡糸が簡便になる。また内層が化合物(b)を含む場合は、化合物(b)のマトリックス中での拡散が良好になり、屈折率分布を形成しやすい。
【0025】
含フッ素重合体(a)の数平均分子量(Mn)は、1×10
4〜5×10
6が好ましく、5×10
4〜1×10
6が特に好ましい。数平均分子量が上記範囲の下限値以上であると、含フッ素重合体(a)の耐熱性が良好であり、上限値以下であると、内層が化合物(b)を含む場合に、化合物(b)のマトリックス中での拡散が良好になり、屈折率分布を形成しやすい。含フッ素重合体(a)の数平均分子量を固有粘度[η]で表した場合は、ペルフルオロ(2−ブチルテトラヒドロフラン)(以下、「PBTHF」ともいう。)中30℃で0.1〜1.0dL/gであることが好ましく、0.2〜0.5dL/gが特に好ましい。
【0026】
含フッ素重合体(a)のガラス転移温度(Tga)(℃)は、熱変形による伝送損失の増加が小さい点で、70℃以上が好ましい。Tgaは、含フッ素重合体(c)のガラス転移温度(Tgc)(℃)以下とする。
【0027】
含フッ素重合体(a)は、製造後の光ファイバにおけるファイバ延伸倍率、および保護被覆層を形成する材料に応じて、保護被覆層を形成する材料のガラス転移温度で引張試験を行った時の含フッ素重合体(a)の破断伸度が120%以上であり、かつ、ファイバ延伸倍率よりも大きくなるように、選択する。
【0028】
含フッ素重合体(a)としては、脂肪族環構造を有する含フッ素重合体が好ましく、主鎖に脂肪族環構造を有する含フッ素重合体がより好ましく、主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有する含フッ素重合体が特に好ましい。
主鎖に脂肪族環構造を有するとは、脂肪族環を構成する炭素原子の1以上が主鎖を構成する炭素連鎖中の炭素原子であることを意味する。また主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有するとは、さらに前記脂肪族環を構成する炭素原子の少なくとも一部にフッ素原子またはフッ素含有基が結合している構造を有することを意味する。脂肪族環としては、炭素原子のみから構成される脂肪族環であってもよく、炭素原子とヘテロ原子とから構成される脂肪族ヘテロ環であってもよい。脂肪族ヘテロ環を構成するヘテロ原子としては酸素原子、窒素原子等が挙げられる。含フッ素脂肪族環構造としては、ヘテロ原子として酸素原子を1個または2個有する、含フッ素脂肪族エーテル環構造が特に好ましい。
主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有する含フッ素重合体は、透明性の点で、該含フッ素重合体の全単位に対して含フッ素脂肪族環構造を有する単位を20モル%以上含有する重合体が好ましく、40モル%以上含有する重合体が特に好ましい。
【0029】
含フッ素重合体(a)としては、以下の単位(A)〜(D)を含む共重合体(i)〜(iv)、または単位(A)のみからなる単独重合体(v)が挙げられる。
単位(A):2個以上の重合性二重結合を有する含フッ素単量体の環化重合により形成される単位。含フッ素重合体(a)中の単位(A)は、1種であってもよく、2種以上であってもよい。
単位(B):環を構成する炭素原子と環を構成しない炭素原子との間に重合性二重結合を有する単量体、または、環を構成する炭素原子2個間に重合性二重結合を有する単量体、の重合により形成される単位。含フッ素重合体(a)中の単位(B)は、1種であってもよく、2種以上であってもよい。
単位(C):ペルフルオロオレフィンまたはフッ素原子以外のハロゲン原子を含むペルフルオロオレフィンの重合により形成される単位。含フッ素重合体(a)中の単位(C)は、1種であってもよく、2種以上であってもよい。フッ素原子以外のハロゲン原子を含むペルフルオロオレフィンとは、ペルフルオロオレフィンのフッ素原子の一部がフッ素原子以外のハロゲン原子で置換された化合物を意味する。
単位(D):ペルフルオロビニルエーテル系単量体の重合により形成される単位。含フッ素重合体(a)中の単位(D)は、1種であってもよく、2種以上であってもよい。
【0030】
共重合体(i):単位(B)と単位(C)とからなる共重合体。
共重合体(ii):単位(A)と単位(B)と単位(C)とからなる共重合体。
共重合体(iii):単位(A)と単位(B)と単位(D)とからなる共重合体。
共重合体(iv):単位(A)と単位(B)と単位(C)と単位(D)とからなる共重合体。
共重合体(i)〜(iv)のうち、共重合体(i)に比べて、重合体の屈折率、溶融粘度、ガラス転移点等の物性調整が効率的である点で、共重合体(ii)、共重合体(iii)および共重合体(iv)が好ましく、さらに製造が簡便である点からは、共重合体(ii)および共重合体(iii)が特に好ましい。
含フッ素重合体(a)としては、伝送損失を低くできる点で単独重合体が好ましく、特にTgaをTgcよりも低くしやすい点で単位(A)のみからなる単独重合体(v)が好ましい。
さらに、含フッ素重合体(a)は、上記共重合体(i)〜(iv)および単独重合体(v)から選ばれる2種以上の混合物であってもよい。
【0031】
以下、単位(A)〜(D)について説明する。
<単位(A)>
単位(A)は、特開昭63−238111号公報や特開昭63−238115号公報等に記載されている。
単位(A)としては、下式(1)または(2)で表される単位が挙げられる。
【0033】
式(1)または(2)中、X
5〜X
10は、それぞれ独立にフッ素原子またはペルフルオロアルキル基を表す。フッ素原子の一部は塩素原子に置換されていてもよい。またペルフルオロアルキル基におけるフッ素原子の一部は、塩素原子に置換されていてもよい。ペルフルオロアルキル基における炭素数は1〜5が好ましく、1が特に好ましい。
Zは、酸素原子、単結合または−OC(R
9)(R
10)O−を表し、酸素原子が好ましい。
R
5〜R
10は、それぞれ独立にフッ素原子、ペルフルオロアルキル基またはペルフルオロアルコキシ基を表す。フッ素原子の一部は塩素原子に置換されていてもよい。またペルフルオロアルキル基およびペルフルオロアルコキシ基におけるフッ素原子の一部は、塩素原子に置換されていてもよい。ペルフルオロアルキル基およびペルフルオロアルコキシ基における炭素数は1〜5が好ましく、1が特に好ましい。
s、tは、それぞれ独立に0〜5の整数であり、かつ、s+tが1〜6の整数(ただし、Zが−OC(R
9)(R
10)O−の場合はs+tは0であってもよい。)である。ただし、s、tが2以上の整数の場合、その数で規定された複数の置換メチレン基における置換基の種類は異なっていてもよい。sとtは、それぞれ0〜4の整数であり、かつ、s+tが1〜4の整数であることが好ましい。
【0034】
式(1)または(2)で表される単位は、下式(3)で表される化合物の環化重合により形成される。
【0036】
式(3)中、Z、X
5〜X
10、R
5〜R
8、s、tは、上述のとおりである。
式(3)で表される化合物としては、Zは酸素原子または−OC(R
9)(R
10)O−、sは0または1、tは0〜4の整数であり、かつ、s+tは1〜4の整数(ただし、Zが−OC(R
9)(R
10)O−の場合は0であってもよい。)、X
5〜X
10はいずれもフッ素原子または多くとも2個以内が塩素原子、トリフルオロメチル基もしくはクロロジフルオロメチル基で他がフッ素原子、R
5〜R
10がそれぞれ独立にフッ素原子、塩素原子(ただし多くとも炭素原子1個に付き1個結合。)、トリフルオロメチル基またはクロロジフルオロメチル基である化合物が好ましい。
【0037】
式(3)で表される化合物としては、下式(4)〜(6)で表される化合物が好ましい。下式において、R
71、R
72は、好ましい態様も含めて前記R
7と同様である。R
81、R
82は、好ましい態様も含めて前記R
8と同様である。
式(4)で表される化合物において、X
5〜X
10はすべてフッ素原子であるか、またはその1〜2個(ただし、X
5〜X
7の多くとも1個かつX
8〜X
10の多くとも1個。)が塩素原子で他がフッ素原子であることが好ましい。R
7とR
8はすべてフッ素原子であるか、一方が塩素原子もしくはトリフルオロメチル基であり、他方がフッ素原子であることが好ましい。
【0039】
式(4)〜(6)で表される化合物の具体例としては、以下の化合物が挙げられる。
CF
2=CFOCF
2CF=CF
2、
CF
2=CFOCF(CF
3)CF=CF
2、
CF
2=CFOCF
2CF
2CF=CF
2、
CF
2=CFOCF(CF
3)CF
2CF=CF
2、
CF
2=CFOCF
2CF(CF
3)CF=CF
2、
CF
2=CFOCF
2CFClCF=CF
2、
CF
2=CFOCCl
2CF
2CF=CF
2、
CF
2=CFOCF
2CF
2CCl=CF
2、
CF
2=CFOCF
2CF
2CF=CFCl、
CF
2=CFOCF
2CF(CF
3)CCl=CF
2、
CF
2=CFOCF
2OCF=CF
2、
CF
2=CFOC(CF
3)
2OCF=CF
2、
CF
2=CFOCCl
2OCF=CF
2、
CF
2=CClOCF
2OCCl=CF
2。
【0040】
含フッ素重合体(a)に含まれる単位(A)としては、光ファイバの伝送損失が小さい点で、下式(41)または(42)で表される単位が特に好ましい。式(41)または(42)中、dおよびeは一方が0で他方が1である。なお、式(41)で表される単位は上記CF
2=CFOCF
2CF(CF
3)CF=CF
2の環化重合により形成される単位であり、式(42)で表される単位は上記CF
2=CFOCF
2CF
2CF=CF
2の環化重合により形成される単位である。
プラスチック光ファイバとしての耐熱性に優れる点からは、単位(A)としては式(41)で表される単位が特に好ましい。
【0042】
<単位(B)>
単位(B)のうち、環を構成する炭素原子と環を構成しない炭素原子間に重合性二重結合を有する単量体の重合により形成される単位としては、下式(7)で表される単位が好ましい。
【0044】
式(7)中、X
3〜X
4は、それぞれ独立にフッ素原子またはペルフルオロアルキル基を表す。フッ素原子の一部は塩素原子に置換されていてもよい。またペルフルオロアルキル基におけるフッ素原子の一部は、塩素原子に置換されていてもよい。ペルフルオロアルキル基における炭素数は1〜5が好ましく、1が特に好ましい。
R
3〜R
4は、それぞれ独立にフッ素原子、ペルフルオロアルキル基またはペルフルオロアルコキシ基を表す。フッ素原子の一部は塩素原子に置換されていてもよい。またペルフルオロアルキル基およびペルフルオロアルコキシ基におけるフッ素原子の一部は、塩素原子に置換されていてもよい。ペルフルオロアルキル基およびペルフルオロアルコキシ基における炭素数は1〜5が好ましく、1が特に好ましい。
R
3とR
4は、それぞれ共同して含フッ素脂肪族環を形成してもよい。
qは、1〜5の整数であり、2が好ましい。
【0045】
qが2である式(7)で表される単位は、下式(8)で表される化合物(すなわち、環を構成する炭素原子と環を構成しない炭素原子間に重合性二重結合を有する単量体)の重合により形成される。
【0047】
式(8)中、X
3〜X
4は、上述のとおりである。R
31、R
32は好ましい様態も含めて、前記R
3と同様である。R
41、R
42は好ましい様態も含めて、前記R
4と同様である。R
31、R
32、R
41、R
42は、それぞれ独立にフッ素原子、トリフルオロメチル基またはクロロジフルオロメチル基が特に好ましい。
式(8)で表される化合物の具体例としては、下式(9)〜(11)で表される化合物が挙げられる。
【0049】
単位(B)のうち、環を構成する炭素原子2個間に重合性二重結合を有する単量体の重合により形成される単位としては、下式(12)で表される単位が好ましい。
【0051】
式(12)中、X
1〜X
2は、それぞれ独立にフッ素原子またはペルフルオロアルキル基を表す。フッ素原子の一部は塩素原子に置換されていてもよい。またペルフルオロアルキル基におけるフッ素原子の一部は塩素原子に置換されていてもよい。ペルフルオロアルキル基における炭素数は1〜5が好ましく、1が特に好ましい。
R
1〜R
2は、それぞれ独立にフッ素原子、ペルフルオロアルキル基またはペルフルオロアルコキシ基を表す。フッ素原子の一部は塩素原子に置換されていてもよい。またペルフルオロアルキル基およびペルフルオロアルコキシ基におけるフッ素原子の一部は、塩素原子に置換されていてもよい。ペルフルオロアルキル基およびペルフルオロアルコキシ基における炭素数は1〜5が好ましく、1が特に好ましい。
R
1とR
2は、それぞれ共同して含フッ素脂肪族環を形成してもよい。
pは、1〜4の整数であり、1または2が好ましい。
【0052】
pが1または2である式(12)で表される単位は、下式(13)または下式(14)で表される化合物(すなわち、環を構成する炭素原子2個間に重合性二重結合を有する単量体)の重合により形成される。
【0054】
式(13)および(14)中、X
1〜X
2、R
1〜R
2は、上述のとおりである。R
11、R
12は好ましい様態も含めて前記R
1と同様である。R
21、R
22は好ましい様態も含めて、前記R
2と同様である。
式(13)および(14)で表される化合物の具体例としては、下式(15)〜(23)で表される化合物が挙げられる。
【0056】
含フッ素重合体(a)に含まれる単位(B)としては、屈折率を小さくできる点で、下式(43)で表される単位が特に好ましい。
【0058】
<単位(C)>
重合により単位(C)を形成するペルフルオロオレフィンとしては、炭素数が2〜4のペルフルオロオレフィンが好ましく、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロペン等が挙げられる。単位(C)を得るためのフッ素原子以外のハロゲン原子を含むペルフルオロオレフィンとしては、炭素数が2〜4のフッ素原子以外のハロゲン原子を含むペルフルオロオレフィンが好ましく、クロロトリフルオロエチレン等が挙げられる。
含フッ素重合体(a)に含まれる単位(C)としては、含フッ素重合体(a)の破断伸度を高くできる点で、−(CF
2−CF
2)−または−(CF
2−CFCl)−が特に好ましい。
【0059】
<単位(D)>
重合により単位(D)を形成するペルフルオロビニルエーテル系単量体としては、ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)、ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)のアルキル基の炭素原子間にエーテル性酸素原子を有するペルフルオロ{(アルコキシアルキル)ビニルエーテル}等が挙げられる。
上記ビニルエーテル系単量体におけるエーテル性酸素原子を有していてもよいアルキル部分(ビニル基の炭素原子に−O−を介して結合しているアルキル基またはアルコキシアルキル基)の炭素数は10以下が好ましい。
含フッ素重合体(a)に含まれる単位(D)としては、含フッ素重合体(a)の破断伸度を高くできる点で、−(CF
2−CF(OCF
3))−、−(CF
2−CF(OC
3F
7))−および−(CF
2−CF(OCF
2CF(CF
3)OCF
2CF
2CF
3))−が特に好ましい。
【0060】
含フッ素重合体(a)が、前記共重合体(ii)である場合、単位(A):単位(B):単位(C)の好ましい範囲は、30〜75:20〜50:5〜33(モル%)である。含フッ素重合体(a)が、前記共重合体(iii)である場合、単位(A):(B):(D)の好ましい範囲は、30〜70:20〜50:1〜20(モル%)である。含フッ素重合体(a)が、前記共重合体(iv)である場合、単位(A):(B):(C):(D)の好ましい範囲は、30〜70:20〜50:5〜30:1〜19(モル%)である。
【0061】
(化合物(b))
化合物(b)は、含フッ素重合体(a)よりも屈折率が高い化合物である。化合物(b)は、光ファイバの伝送損失が小さい点で、C−H結合を有しない化合物が好ましい。マトリックスである含フッ素重合体(a)より屈折率が0.05以上大きい化合物が特に好ましい。
化合物(b)としては、ベンゼン環等の芳香族環、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン原子、エーテル結合等の結合基を含む、低分子化合物、オリゴマ、ポリマーが好ましい。
化合物(b)の数平均分子量(低分子化合物の場合は分子量)は3×10
2〜2×10
3が好ましく、3×10
2〜1×10
3が特に好ましい。上記範囲の下限値以上であると、内層のガラス転移温度が高く、耐熱性に優れる。上記範囲の上限値以下であると、化合物(b)と含フッ素重合体(a)との相溶性が良好である。
【0062】
化合物(b)の具体例としては、含フッ素ハロゲン脂肪族化合物、炭素原子に結合した水素原子を含まないハロゲン化芳香族炭化水素または含ハロゲン多環式化合物等が挙げられる。
含フッ素ハロゲン脂肪族化合物としては、特開平8−5848号公報に記載のクロロトリフルオロエチレンの5〜8量体であるオリゴマ、ジクロロジフルオロエチレンの5〜8量体であるオリゴマ、または前記含フッ素重合体(a)を形成する単量体のうち屈折率が高いオリゴマを与える単量体(例えば塩素原子を有する単量体)を重合して得られる2〜5量体オリゴマが挙げられる。
【0063】
炭素原子に結合した水素原子を含まないハロゲン化芳香族炭化水素または含ハロゲン多環式化合物としては、ハロゲン原子としてフッ素原子のみを含む(またはフッ素原子と相対的に少数の塩素原子を含む)フッ化芳香族炭化水素または含フッ素多環式化合物が、含フッ素重合体(a)との相溶性が良好になる点で好ましい。また、これらのハロゲン化芳香族炭化水素または含ハロゲン多環式化合物は、カルボニル基、シアノ基等の極性のある官能基を有していないことがより好ましい。
【0064】
ハロゲン化芳香族炭化水素としては、式Φr−Zb[Φrは水素原子のすべてがフッ素原子に置換されたb価のフッ素化芳香族環残基、Zはフッ素以外のハロゲン原子、−Rf、−CO−Rf、−O−Rf、あるいは−CN。ただし、Rfはペルフルオロアルキル基、ポリフルオロペルハロアルキル基、または1価のΦr。bは0以上の整数。]で表される化合物が挙げられる。該芳香族環としてはベンゼン環やナフタレン環が好ましい。Rfは、炭素数は5以下ペルフルオのロアルキル基やポリフルオロペルハロアルキル基が好ましい。フッ素以外のハロゲン原子としては、塩素原子または臭素原子が好ましい。
具体的な化合物としては、1,3−ジブロモテトラフルオロベンゼン、1,4−ジブロモテトラフルオロベンゼン、2−ブロモテトラフルオロベンゾトリフルオライド、クロロペンタフルオロベンゼン、ブロモペンタフルオロベンゼン、ヨードペンタフルオロベンゼン、デカフルオロベンゾフェノン、ペルフルオロアセトフェノン、ペルフルオロビフェニル、クロロヘプタフルオロナフタレン、ブロモヘプタフルオロナフタレンが挙げられる。
【0065】
含フッ素多環式化合物としては、特開平11−167030号公報に例示される、下記(b−1)〜(b−3)の化合物が好ましい。
(b−1)炭素環または複素環であってかつフッ素原子またはペルフルオロアルキル基を有する含フッ素環の2個以上が、トリアジン環、酸素、硫黄、リンおよび金属からなる群から選ばれる1種以上を含む結合で結合された含フッ素非縮合多環式化合物であって、かつC−H結合を有しない化合物。
(b−2)炭素環または複素環であってかつフッ素原子またはペルフルオロアルキル基を有する含フッ素環の3個以上が、直接または炭素を含む結合で結合された含フッ素非縮合多環式化合物であって、かつC−H結合を有しない化合物。
(b−3)炭素環または複素環の3個以上から構成されている縮合多環式化合物であって、かつC−H結合を有しない含フッ素縮合多環式化合物。
【0066】
化合物(b)として特に好ましい化合物は、含フッ素重合体(a)との相溶性が良好でかつ耐熱性が良好である点から、クロロトリフルオロエチレンオリゴマ、ペルフルオロ(トリフェニルトリアジン)、ペルフルオロターフェニル、ペルフルオロクアトロフェニル、ペルフルオロ(トリフェニルベンゼン)、ペルフルオロアントラセン、式(30)で表される化合物、および、式(31)で表される化合物である。相溶性が良好であるため、含フッ素重合体(a)と化合物(b)とを200〜300℃で混合できる。また、含フッ素重合体(a)と化合物(b)とを含フッ素溶媒に溶解させて混合した後、溶媒を除去することにより、両者を均一に混合させることができる。
化合物(b)は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0069】
含フッ素重合体(a)からなるマトリックス中に化合物(b)が分布している内層を形成する場合、含フッ素重合体(a)と化合物(b)との混合物を使用することが好ましい。
含フッ素重合体(a)と化合物(b)との混合物中における、化合物(b)の含有量は、含フッ素重合体(a)と化合物(b)との合計量に対して5〜25質量%が好ましく、7〜15質量%が特に好ましい。上記範囲であると、光ファイバの内層は耐熱性に優れる。
【0070】
(含フッ素重合体(c))
外層を形成する材料である含フッ素重合体(c)は、非晶性であり、C−H結合が主鎖の末端にのみ存在していてもよい含フッ素重合体である。
外層は主に光が伝播する部分ではなく、光ファイバが曲げられた時に内層から漏れ出た光を反射すればよい。したがって、含フッ素重合体(c)においては、C−H結合を主鎖の末端にのみ有していても、C−H結合により吸収される近赤外光の伝送に対して大きな影響を及ぼさない。含フッ素重合体(c)がC−H結合を主鎖の末端にのみ有する場合、含フッ素重合体(c)中の炭素原子に結合した水素原子の割合は5質量%以下が好ましく、1質量%以下が特に好ましい。前記範囲の上限値を超えると、含フッ素重合体(c)の屈折率が上昇し、内層に対する所定の屈折率差を維持できなくなる。
含フッ素重合体(c)としては、光ファイバの伝送損失が小さい点で、C−H結合を有しない含フッ素重合体であることが好ましい。
含フッ素重合体(c)の溶融状態における粘度の好ましい範囲は、含フッ素重合体(a)と同様であり、含フッ素重合体(c)の数平均分子量の好ましい範囲、固有粘度[η]の好ましい範囲も含フッ素重合体(a)と同様である。
【0071】
含フッ素重合体(c)の屈折率は1.25〜1.40が好ましく、1.30〜1.35が特に好ましい。ただし、外層の屈折率は、内層の屈折率よりも低く、含フッ素重合体(c)の屈折率は、含フッ素重合体(a)の屈折率よりも低いことが好ましい。含フッ素重合体(c)の屈折率は、含フッ素重合体(a)の屈折率よりも0.003以上低いことが好ましく、0.005以上低いことが特に好ましい。
含フッ素重合体(c)は、製造後の光ファイバにおけるファイバ延伸倍率、および保護被覆層を形成する材料に応じて、保護被覆層を形成する材料のガラス転移温度で引張試験を行った時の含フッ素重合体(c)の破断伸度が120%以上であり、かつ、ファイバ延伸倍率よりも大きくなるように、選択する。
【0072】
含フッ素重合体(c)としては、前記含フッ素重合体(a)と同様の脂肪族環構造を有する含フッ素重合体が好ましく、主鎖に脂肪族環構造を有する含フッ素重合体がより好ましく、主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有する含フッ素重合体が特に好ましい。
含フッ素重合体(c)としては、含フッ素重合体(a)と同様の単位(A)〜(D)を含む前記共重合体(i)〜(iv)やそれらの2種以上の混合物が好ましい。なかでも、重合体の屈折率、溶融粘度、ガラス転移点等の物性調整が簡便である点からは、共重合体(ii)、共重合体(iii)および共重合体(iv)が好ましい。
含フッ素重合体(c)は、単位(A)および単位(B)を含み、さらに単位(C)および単位(D)の一方または両方を含む共重合体が好ましい。
耐熱性に優れる点からは、単位(A)、(D)を含まない共重合体(i)が好ましい。
【0073】
含フッ素重合体(c)の屈折率、ガラス転移温度(Tgc)および含フッ素重合体(c)の破断伸度は、含フッ素重合体(c)を構成する単位の組成(種類と含有量)によって調整することができる。
含フッ素重合体(c)の破断伸度を大きくする方法としては、単位(C)および/または単位(D)の含有割合を増やすことが挙げられる。含フッ素重合体(c)の破断伸度を小さくする方法としては、単位(B)の含有割合を増やすことが挙げられる。
【0074】
<単位(A)>
含フッ素重合体(c)に含まれる単位(A)としては、光ファイバの伝送損失が小さい点で、特に下式(41)または(42)で表される単位が好ましい。式(41)または(42)中、dおよびeは一方が0で他方が1である。
【0076】
<単位(B)>
含フッ素重合体(c)に含まれる単位(B)としては、屈折率を小さくできる点で、特に下式(43)で表される単位が好ましい。
【0078】
<単位(C)>
含フッ素重合体(c)に含まれる単位(C)としては、含フッ素重合体(c)の破断伸度を高くできる点で、特に−(CF
2−CF
2)−または−(CF
2−CFCl)−が好ましい。
【0079】
<単位(D)>
含フッ素重合体(c)に含まれる単位(D)としては、含フッ素重合体(c)の破断伸度を高くできる点で、特に−(CF
2−CF(OCF
3))−、−(CF
2−CF(OC
3F
7))−、または−(CF
2−CF(OCF
2CF(CF
3)OCF
2CF
2CF
3))−が好ましい。
【0080】
含フッ素重合体(c)が、前記共重合体(i)である場合、単位(B):単位(C)の好ましい範囲は、50〜95:5〜50(モル%)であり、60〜80:20〜40(モル%)が特に好ましい。単位(C)の割合が上記範囲の下限値以上であると含フッ素重合体(c)の破断伸度に優れ、上限値以下であると外層が内層の最外部に対して充分な屈折率差を有する。単位(C)の割合が上記範囲の下限値以上であると含フッ素重合体(c)の破断伸度に優れる理由としては、単位(C)が増えると含フッ素重合体のガラス転移温度が低下し、これにより同じ温度で比較した場合にポリマーの流動性が上がり、結果として破断伸度が大きくなる傾向がある。単位(C)の割合が上限値以下であると外層が内層の最外部に対して充分な屈折率差を有する理由は、単位(B)が多いほど屈折率は低下する傾向にあるため、単位(C)を上記上限値以内に収めることで、内層に光を閉じ込めるのに必要な内層−外層間の屈折率差が得られる。
含フッ素重合体(c)が、前記共重合体(ii)である場合、単位(A):単位(B):単位(C)の好ましい範囲は、30〜75:20〜50:5〜33(モル%)であり、30〜65:25〜45:10〜30(モル%)が特に好ましい。単位(C)の割合が上記範囲の下限値以上であると含フッ素重合体(c)の破断伸度に優れ、上限値以下であると外層が内層よりも高いガラス転移温度を有しやすい。単位(B)の割合が上記範囲の下限値以上であると外層が内層の最外部に対して充分な屈折率差を有し、上限値以下であると含フッ素重合体(c)の破断伸度に優れる。
【0081】
含フッ素重合体(c)が、前記共重合体(iii)である場合、単位(A):単位(B):単位(D)の好ましい範囲は、30〜70:20〜50:1〜20(モル%)であり、50〜70:25〜35:5〜15(モル%)が特に好ましい。なお、単位(B)+(D)を100モル%から差し引いた残りが単位(A)の好ましい範囲となる。単位(D)の割合が上記範囲の下限値以上であると含フッ素重合体(c)の破断伸度に優れ、上限値以下であると外層が内層よりも高いガラス転移温度を有しやすい。単位(B)の割合が上記範囲の下限値以上であると外層が内層の最外部に対して充分な屈折率差を有し、上限値以下であると含フッ素重合体(c)の破断伸度に優れる。
含フッ素重合体(c)が、前記共重合体(iv)である場合、単位(A):単位(B):単位(C):単位(D)の好ましい範囲は、30〜70:20〜50:5〜30:1〜19(モル%)であり、40〜60:25〜40:10〜25:2〜10(モル%)が特に好ましい。なお、単位(B)は20モル%以上であって、単位(B)+(C)+(D)を100モル%から差し引いた残りが単位(A)の好ましい範囲となる。単位(C)の割合が上記範囲の下限値以上であると含フッ素重合体(c)の破断伸度に優れ、上限値以下であると外層が内層よりも高いガラス転移温度を有しやすい。単位(B)の割合が上記範囲の下限値以上であると外層が内層の最外部に対して充分な屈折率差を有し、上限値以下であると含フッ素重合体(c)の破断伸度に優れる。
【0082】
本発明における含フッ素重合体(a)と含フッ素重合体(c)の組み合わせとしては、含フッ素重合体(a)が単位(A)からなる単独重合体で、含フッ素重合体(c)が共重合体(i)〜(iv)から選ばれる1種以上である組み合わせが好ましく、特に含フッ素重合体(a)が単位(A)からなる単独重合体で、含フッ素重合体(c)が共重合体(ii)〜(iv)から選ばれる1種以上である組み合わせが好ましい。該単位(A)としては、上述の式(42)で表される単位が好ましい。
耐熱性に優れる点からは、以下の(V)、(VI)いずれかの組み合わせが好ましい。
(V):含フッ素重合体(a)が式(41)からなる単独重合体で、含フッ素重合体(c)が共重合体(i)〜(iv)から選ばれる1種以上である組み合わせで、特に好ましくは含フッ素重合体(a)が式(41)からなる単独重合体で、含フッ素重合体(c)が共重合体(i)である組み合わせ。
(VI):含フッ素重合体(a)が共重合体(i)〜(iv)から選ばれる1種以上で、含フッ素重合体(c)が共重合体(i)〜(iv)から選ばれる1種以上である組み合わせで、特に好ましくは含フッ素重合体(a)が共重合体(ii)〜(iii)から選ばれる1種以上で、含フッ素重合体(c)が共重合体(i)である組み合わせ。
【0083】
(保護被覆層)
保護被覆層は、光ファイバ裸線の外層上に、少なくとも1層設けられる。
保護被覆層を形成する材料のガラス転移温度Tg(℃)は、耐熱性に優れる点からは、高いことが好ましい。特に、ガラス転移温度の高い含フッ素重合体(a)および同(c)を用いる場合、保護被覆層のガラス転移温度があまり低いと、含フッ素重合体(a)および同(c)は充分な破断伸度を確保できなくなるおそれがある。したがって、ガラス転移温度の高い含フッ素重合体(a)および(c)が充分な破断伸度を確保するためにも、破断伸度の点からも保護被覆層のガラス転移温度は高い方が望ましい。
保護被覆層を形成する材料のガラス転移温度Tg(℃)は、100〜150℃が好ましい。該ガラス転移温度Tgが上記範囲の下限値以上であると保護被覆層の湿熱耐久性が良好になり、上限値以下であるとファイバ成形が容易になる。
【0084】
保護被覆層を形成する材料としては、合成樹脂であれば特に限定されず、含フッ素重合体(a)および含フッ素重合体(c)以外の熱可塑性樹脂や硬化性樹脂の硬化物等が使用できる。なかでも、ポリメチルメタクリレート(PMMA)等のアクリル樹脂、芳香族系ポリカーボネート、環状オレフィンポリマー、芳香族系ポリカーボネートと芳香族系ポリエステルとのポリマーアロイ、ポリフェニレンエーテルと、汎用ポリスチレン(GPPS)または耐衝撃性ポリスチレンとのポリマーアロイが好ましい。該ポリマーアロイは、二軸押出機で溶融混錬することにより製造できる。
アクリル樹脂は市販品を用いてもよく、PMMA(パラペットEH1000、クラレ社製、ガラス転移温度100℃)等が挙げられる。
【0085】
芳香族系ポリカーボネートと芳香族系ポリエステルとのポリマーアロイに用いる芳香族系ポリカーボネートしては、後述する2価フェノールとカーボネート前駆体との反応により製造される芳香族ポリカーボネートを使用できる。例えば、2価フェノールとカーボネート前駆体とを溶液法または溶融法、具体的には、2価フェノールとホスゲンの反応、2価フェノールとジフェニルカーボネート等とのエステル交換反応により製造されたものを使用できる。
2価フェノールとしては、例えば、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン〔ビスフェノールA〕、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、4,4'−ジヒドロキシジフェニル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロアルカン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン等が挙げられる。なかでも、入手容易かつコストの点で、ビス(ヒドロキシフェニル)アルカン系、特にビスフェノールAを主原料とした化合物が好ましい。
カーボネート前駆体としては、ホスゲンやジフェニルカーボネート等が挙げられる。
【0086】
芳香族系ポリカーボネートは市販品を用いてもよい。市販品としては、パンライトL−1225LM、パンライトL−1225L、パンライトL−1225Y、パンライトL−1250Y(以上、帝人化成社製)、タフロンAC1080、タフロンAC1030、タフロンA1900、タフロンR1900(以上、出光興産社製)、LEXAN915R、LEXAN925A(SABIC イノベーティブジャパン社製)等が挙げられる。
【0087】
芳香族系ポリエステルは、カルボン酸およびジオールを構成成分とするが、芳香族系ポリエステルの構成成分であるカルボン酸がフタル酸であることが好ましい。
芳香族系ポリエステルの構成成分であるジオールは、2種以上のジオールを含有することが好ましい。具体的には、ビスフェノールフルオレン、ビスクレゾールフルオレン、ビスフェノキシエタノールフルオレン、シクロヘキサンジメタノール、および、スピログリコールからなる群から選ばれる少なくとも1種のジオールと、エチレングリコールおよびブチレングリコールからなる群から選ばれる少なくとも1種のジオールと、を含有することが好ましい。
ジオール成分が上記成分以外の場合には、芳香族系ポリエステルが結晶性となり加工性に問題が生じるおそれがある。
【0088】
芳香族系ポリエステルは市販品を用いてもよい。市販品としては、EASTER PCTG10179、EASTERコポリエステル5445、EASTERコポリエステル6763、EASTERコポリエステル15086(以上、Eastman Chemical社製)、OKP4、OKP6、OKP4HT(以上、大阪ガスケミカル社製)、Altester20、Altester30、Altester45(以上、三菱ガス化学社製)等が挙げられる。
芳香族系ポリカーボネートと芳香族系ポリエステルとのポリマーアロイは市販品を用いてもよく、XYLEX X7300CL(SABICイノベーティブジャパン社製、ガラス転移温度:113℃)等が挙げられる。XYLEX X7300CLは、芳香族ポリカーボネート(PC)と、芳香族ポリエステル(PE)(ジカルボン酸がシクロヘキサンジカルボン酸、ジオールがシクロヘキサンジメタノール)とのポリマーアロイであって、PC:PEの質量比が60:40である。
【0089】
ポリフェニレンエーテルと、汎用ポリスチレン(GPPS)または耐衝撃性ポリスチレンとのポリマーアロイにおいて、汎用ポリスチレンとは、添加剤等を除いた樹脂成分が実質上スチレン系単量体のポリマーのみで構成されたものである。一方、耐衝撃性ポリスチレンとは、スチレン系単量体とブタジエン等のゴム成分を与える単量体とのコポリマーや、該コポリマーと他のホモポリマーあるいはコポリマーとのブレンド樹脂等が挙げられる。
【0090】
ポリフェニレンエーテルとしては、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−メチル−6−エチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2,6−ジエチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−メチル−6−n−プロピル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−エチル−6−n−プロピル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2,6−ジ−n−プロピル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−メチル−6−i−プロピル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−エチル−6−i−プロピル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2,6−ジ−i−プロピル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−メチル−6−フェニル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2,6−ジフェニル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−メチル−6−クロロ−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−メチル−6−ヒドロキシエチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−メチル−6−クロロエチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−メチル−6−メトキシ−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−メチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2,6−ジ(p−フルオロフェニル)−1,4−フェニレン)エーテル等が挙げられる。
【0091】
ポリフェニレンエーテルと、汎用ポリスチレン、または耐衝撃性ポリスチレンと、のポリマーアロイは、市販品を用いてもよい。市販品としては、ザイロンT0702、ザイロンX304H(以上、旭化成ケミカルズ社製)等が挙げられる。
【0092】
保護被覆層を形成する材料には、必要に応じて各種添加剤を含有させてもよい。例えば、難燃剤、酸化防止剤、ラジカル捕獲剤等が挙げられる。
保護被覆層は2層以上設けてもよい。2層設ける場合、光ファイバ裸線の外周を覆う内側の保護被覆層は、光ファイバに機械強度を持たせる材料を用いて形成し、その外周を覆う外側の保護被覆層は、各種添加剤を含有させて難燃性等の機能を付与した材料を用いて形成することが好ましい。
【0093】
保護被覆層は、光ファイバ裸線の機械的強度を高める目的等で設けられる。したがって、保護被覆層はある程度以上の厚さが必要となる。具体的には、保護被覆層の厚さが、光ファイバ裸線の半径の0.5倍以上であることが好ましく、0.8倍以上が特に好ましい。上限は、光ファイバの柔軟性等の点から、ファイバ裸線の半径の30倍以下であり、15倍以下が好ましい。
【0094】
(好ましい材料の組み合わせ)
本発明のプラスチック光ファイバを形成する材料としては、以下の組み合わせが好ましい。
内層を形成する材料と外層を形成する材料は、Tgaよりも高いTgcとなる組み合わせとして、以下の(α)〜(γ)の組み合わせがある。
(α):内層を形成する材料:含フッ素重合体(a)からなるマトリックス中に、屈折率が該含フッ素重合体(a)よりも高い化合物(b)を含有し、該化合物(b)の分布によって屈折率分布構造が形成される。含フッ素重合体(a)が、2個以上の重合性二重結合を有する含フッ素単量体の環化重合により形成される単位(特に式(42)で表される単位)のみを有する重合体である。
外層を形成する材料:含フッ素重合体(c)のみからなる。含フッ素重合体(c)は、前記単位(A):(B):(C)を30〜75:20〜50:5〜33(モル%)で有する前記単位(A)と単位(B)と単位(C)とからなる共重合体、単位(A):(B):(D)を30〜70:20〜50:1〜20(モル%)で有する前記単位(A)と単位(B)と単位(D)とからなる共重合体、または単位(A):(B):(C):(D)を30〜70:20〜50:5〜30:1〜19(モル%)で有する前記単位(A)と単位(B)と単位(C)と単位(D)とからなる共重合体である。
保護被覆層を形成する材料:アクリル樹脂、芳香族系ポリカーボネート、環状オレフィンポリマー、芳香族系ポリカーボネートと芳香族系ポリエステルとのポリマーアロイ、ポリフェニレンエーテルと、汎用ポリスチレン(GPPS)または耐衝撃性ポリスチレンとのポリマーアロイ。
(β):内層を形成する材料:含フッ素重合体(a)からなるマトリックス中に、屈折率が該含フッ素重合体(a)よりも高い化合物(b)を含有し、該化合物(b)の分布によって屈折率分布構造が形成される。含フッ素重合体(a)は、式(41)で表される単位のみを有する重合体である。
外層を形成する材料:含フッ素重合体(c)のみからなる。含フッ素重合体(c)は、前記単位(B)と単位(C)とからなる共重合体であり、その単位(B):単位(C)の好ましい範囲は、50〜95:5〜50(モル%)であり、より好ましい範囲は、60〜80:20〜40(モル%)である。
保護被覆層を形成する材料:アクリル樹脂、芳香族系ポリカーボネート、環状オレフィンポリマー、芳香族系ポリカーボネートと芳香族系ポリエステルとのポリマーアロイ、ポリフェニレンエーテルと、汎用ポリスチレン(GPPS)または耐衝撃性ポリスチレンとのポリマーアロイ。
(γ):内層を形成する材料:含フッ素重合体(a)からなるマトリックス中に、屈折率が該含フッ素重合体(a)よりも高い化合物(b)を含有し、該化合物(b)の分布によって屈折率分布構造が形成される。含フッ素重合体(a)は、前記単位(A):(B):(C)を30〜75:20〜50:5〜33(モル%)で有する前記単位(A)と単位(B)と単位(C)とからなる共重合体、もしくは単位(A):(B):(D)を30〜70:20〜50:1〜20(モル%)で有する前記単位(A)と単位(B)と単位(D)とからなる共重合体である。より好ましくは、前記単位(A):(B):(C)を30〜65:25〜45:10〜30(モル%)で有する前記単位(A)と単位(B)と単位(C)とからなる共重合体、もしくは単位(A):(B):(D)を30〜65:25〜40:5〜15(モル%)で有する前記単位(A)と単位(B)と単位(D)とからなる共重合体である。
外層を形成する材料:含フッ素重合体(c)のみからなる。含フッ素重合体(c)は、前記単位(B)と単位(C)とからなる共重合体であり、その単位(B):単位(C)の好ましい範囲は、50〜95:5〜50(モル%)であり、より好ましい範囲は、60〜80:20〜40(モル%)である。
保護被覆層を形成する材料:アクリル樹脂、芳香族系ポリカーボネート、環状オレフィンポリマー、芳香族系ポリカーボネートと芳香族系ポリエステルとのポリマーアロイ、ポリフェニレンエーテルと、汎用ポリスチレン(GPPS)または耐衝撃性ポリスチレンとのポリマーアロイ。
【0095】
〔プラスチック光ファイバの製造方法〕
本発明のプラスチック光ファイバは延伸する工程を経て製造され、公知のプラスチック光ファイバの製造方法を用いて製造できる。
本発明のプラスチック光ファイバは、前記含フッ素重合体(a)が中心に配置され、かつ該中心から半径方向に同心円状に前記含フッ素重合体(c)の層および前記保護被覆層となる材料の層が配置された多層構造体を、その軸方向に延伸して紡糸することによって製造することが好ましい。この製造方法としては、多層構造体を加熱して紡糸する方法、押出成形しつつ紡糸する方法等が挙げられる。
上記多層構造体が上記材料からなる固体円柱状体である場合は、該固体円柱状体を加熱して軟化し、軟化部分を円柱状体の軸方向に延伸して紡糸することができる。固体円柱状体としては後述の嵌合体が好ましい。また、溶融された材料からなる上記多層構造体を押出成形で製造しつつ、押し出された多層構造体の先端部を軸方向に延伸して紡糸することができる。押出成形としては各溶融された材料を上記多層構造となるように同時に押し出して成形する方法(共押出法)が好ましい。
光ファイバの延伸条件の例としては、特開2001−124938号公報に例示される。
【0096】
一般に、光ファイバの機械強度を良好に高めるために、ファイバ延伸倍率を120%以上とし、好ましくは130%以上とする。該ファイバ延伸倍率の上限は特に限定されないが、残留応力が大きくなりすぎず、ファイバの破損を低減できる点で300%以下が好ましく、200%以下が特に好ましい。
延伸倍率は、延伸前の長さ(L1)に対する、延伸後の長さ(L2)の比を百分率で表したもので、下記式(I)で表される。延伸工程を複数回経て光ファイバが製造される場合は、最初の延伸工程前の長さ(L1)に対する最後の延伸工程の後の長さ(L2)の比の百分率を延伸倍率とする。
ファイバ延伸率(単位:%)=L2/L1×100・・・(I)。
ファイバ延伸倍率は、延伸前後の残留応力をファイバの長さを基準に評価した値である。延伸後のファイバを保護被覆層を形成する材料のガラス転移温度よりも5〜100℃高い温度で熱処理する方法で応力緩和し、その時のファイバの縮み量からも同様に測定可能である。本発明においては式(I)により求められる延伸倍率で統一された値である。
以下、光ファイバの製造方法の態様を説明するが、これらに限定されるものではない。
【0097】
光ファイバを、嵌合体を加熱して紡糸する方法で製造する第1の様態を、
図5を用いて説明する。
まず、含フッ素重合体(a)と化合物(b)とを溶融混合し、これを円柱状に成形して、成形体aを得る。これとは別に、含フッ素重合体(a)のみからなる円筒管を回転成形にて製造する。次に、該円筒管の中空部内に成形体aを挿入する。さらに加熱して成形体aと円筒管とを一体化させるとともに、含フッ素重合体(a)からなるマトリックス中に化合物(b)を熱拡散させて、内層を形成する円柱体aを得る。なお、成形体aと円筒管とを一体化させる段階で化合物(b)を熱拡散させるのではなく、後述する加熱条件での延伸において熱拡散させて、屈折率分布を有する光ファイバを得ることもできる。
次に、含フッ素重合体(c)を用いて、内層を形成する円柱体aの外径よりも大きい内径を有する円筒体を製造し、該円筒体の中空部に内層を形成する円柱体aを挿入嵌合することによって、プリフォームを得る。
次に、保護被覆層の材料を用いて、プリフォームの外径よりも大きい内径を有する被覆円筒体を製造し、この円筒体の内部にプリフォームを挿入嵌合して嵌合体(図中符号26)を得る。
【0098】
嵌合体26を加熱して紡糸することにより、屈折率分布型プラスチック光ファイバが得られる。
すなわち、嵌合体26を加熱炉11で加熱すると、嵌合体26の下部が溶融する。加熱温度は、150〜300℃が好ましく、180〜260℃がより好ましく、190〜240℃が特に好ましい。溶融した嵌合体26の下部の先端部を始点として線引き(紡糸)を行う。このようにして得られる光ファイバは、線径モニタ16で紡糸体の外径をモニタリングする。加熱炉11内における嵌合体26の位置や加熱炉11の温度、引取り機13の引取速度等を調節することにより、光ファイバの外径を調整できる。
次に、延伸装置18、アニーリング装置20を経て巻き取り機21で巻き取ることにより、所定の延伸倍率を付与されたプラスチック光ファイバが得られる。ここでは、延伸倍率は、巻き取り機21の巻き取り速度と引取り機13の引取り速度の比から求められる。
また、本態様においては、引取りの際にも延伸させることができる。この場合、例えば特開平7−234322号公報に例示されるように、引取り速度を速くすると線引き張力とともにファイバ延伸倍率は大きくなり、引取り速度を遅くするとファイバ延伸倍率は小さくなる傾向がある。
【0099】
光ファイバを共押出法で製造する第2の態様を説明する。
例えば特開2000−356716号公報および特開平8−334634号公報に例示される拡散部を有する多層押し出し機を用いて、含フッ素重合体(a)と化合物(b)とを溶融混合した原料と、含フッ素重合体(a)のみの原料と、含フッ素重合体(c)のみの原料を、同時押し出し成形ヘッドで同心円状に押し出しながら引取ることで、屈折率分布型プラスチック光ファイバが製造できる。
得られる光ファイバの外径を線径モニタでモニタリングする。ダイにおける溶融温度、引取り装置の引取り速度、巻き取り装置の巻き取り速度等を調節することにより、光ファイバの外径を調整できる。ここでも、
図5の引取り機13、延伸装置18、アニーリング装置20、巻き取り機21と同様の装置を用いて、所定の延伸倍率をプラスチック光ファイバに付与することができる。
また、本態様においては、引取りの際にも延伸させることができる。この場合、例えばダイ温度を低くするとファイバ延伸倍率は大きくなり、ダイ温度を高くするとファイバ延伸倍率は小さくなる傾向がある。ダイ径を小さくするとファイバ延伸倍率は大きくなり、ダイ径を大きくするとファイバ延伸倍率は小さくなる傾向がある。引取り速度を速くするとファイバ延伸倍率は大きくなり、引取り速度を遅くするとファイバ延伸倍率は小さくなる傾向がある。また、引き続き巻き取り前に延伸機を用いて延伸することにより、機械特性を向上できる。
【0100】
本発明によれば、後述の実施例に示されるように、伝送損失および曲げ損失が小さいプラスチック光ファイバが得られる。例えば、波長850nmにおける伝送損失が200dB/km以下、好ましくは100dB/km以下で、曲げ損失(曲げ半径5mm)が1dB以下、好ましくは0.5dB以下の光ファイバが得られる。
【実施例】
【0101】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、例1〜3、5〜8および13〜16が実施例、例4および9〜12が比較例である。
〔重合体の評価〕
(ガラス転移温度)
TA Instruments社製の示差走査熱量計 DSC Q100(製品名)を用いて測定した。
(屈折率)
JIS K 7142に準拠して、アタゴ社製のアッペ屈折率計2T(製品名)を用いて測定した。
(固有粘度[η])
JIS K 7367−1に準拠して、柴田科学器械工業社製のウベローデ型粘度計を用いて下記条件にて測定した。
測定温度:30℃(恒温槽)、
希釈溶媒:ペルフルオロ(2−ブチルテトラヒドロフラン)、
希釈濃度:1%、0.67%、0.59%。
【0102】
〔外層を形成する材料〕
(合成例1:重合体(c−1)の合成)
内容積2Lのステンレス製オートクレーブに、単位(A)を形成する単量体であるペルフルオロ(ブテニルビニルエーテル)(CF
2=CFOCF
2CF
2CF=CF
2、以下、「BVE」ともいう。)の1,030g、単位(B)を形成する単量体であるペルフルオロ(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソール)(以下、「PDD」ともいう。)の110g、単位(D)を形成する単量体であるペルフルオロ(プロピルビニルエーテル)(以下、「PPVE」ともいう。)の154g、溶媒であるトリデカフルオロヘキサン(以下、「C6H」ともいう。)の1,360g、重合開始剤であるペルフルオロブチリルパーオキシド(以下、「PFB」ともいう。)のHCFC225cb(化学式CClF
2CF
2CHClF)溶液(PFB濃度2.5質量%)の41gを入れた。系内を凍結脱気した後、20℃で40時間の溶液重合を行い、重合体(c−1)の230gを得た。重合体(c−1)は、室温で強靭で透明なガラス状の重合体であった。
重合体(c−1)におけるBVEから形成される単位(A)、PDDから形成される単位(B)、およびPPVEから形成される単位(D)の組成比(単位:モル%)を、F−NMRの解析により算出した。また、重合体(c−1)のガラス転移温度および屈折率を測定し、結果を表1に示す。
【0103】
(合成例2および3:重合体(c−2)および(c−3)の合成)
単量体の仕込比を変えた以外は合成例1と同様にして、重合体(c−2)および(c−3)を合成し、各物性を測定した。結果を表1に示す。
【0104】
(合成例4:重合体(c−4)の合成)
内容積2Lのステンレス製オートクレーブに、BVEの920g、PDDの188g、PPVEの381g、溶媒は使用せず、PFBのHCFC225cb溶液(PFB濃度2.5質量%)の27gを入れた。系内を凍結脱気した後、40℃で5.5時間の溶液重合を行い、重合体(c−4)の240gを得た。各物性を測定し、結果を表1に示す。
【0105】
(合成例5:重合体(c−5)の合成)
内容積2Lのステンレス製オートクレーブに、BVEの1,000g、PDDの174g、単位(C)を形成する単量体であるテトラフルオロエチレン(以下、「TFE」ともいう。)の53g、C6Hの1,250g、連鎖移動剤であるシクロヘキサンの0.24g、PFBのHCFC225cb溶液(PFB濃度2.5質量%)の41gを入れた。系内を凍結脱気した後、40℃で5.5時間の溶液重合を行い、重合体(c−5)の260gを得た。各物性を測定し、結果を表1に示す。
【0106】
(合成例6:重合体(c−6)の合成)
内容積200mLのステンレス製オートクレーブに、BVEの15g、PDDの8.5g、TFEの4.5g、イオン交換水の100g、メタノールの17g、ジイソプロピルパーオキシジカーボネートの0.28gを入れた。系内を3回窒素で置換した後、40℃で22時間の懸濁重合を行い、重合体(c−6)の27gを得た。各物性を測定し、結果を表1に示す。
【0107】
(合成例7:重合体(c−7)の合成)
単量体の仕込比を変えた以外は合成例7と同様にして、重合体(c−7)を合成し、各物性を測定した。結果を表1に示す。
【0108】
(合成例8:重合体(c−8)の合成)
内容積2Lのステンレス製オートクレーブに、BVEの1,180g、PDDの200g、PPVEの15g、TFEの38g、C6Hの1,250g、PFBのHCFC225cb溶液(PFB濃度2.5質量%)の41gを入れた。系内を凍結脱気した後、40℃で5.5時間の溶液重合を行い、重合体(c−8)の300gを得た。各物性を測定し、結果を表1に示す。
【0109】
(合成例9:重合体(c−9)の合成)
内容積2Lのステンレス製オートクレーブに、BVEの104g、PDDの110g、C6Hの1,280g、PFBのHCFC225cb溶液(PFB濃度2.5質量%)の41gを入れた。系内を凍結脱気した後、40℃で5.5時間の溶液重合を行い、重合体(c−9)の240gを得た。各物性を測定し、結果を表1に示す。
【0110】
(合成例10:重合体(c−10)の合成)
特開平11−228638号公報の実施例の記載に従い、重合体(c−10)を得た。各物性を測定し、結果を表1に示す。
【0111】
【表1】
【0112】
〔内層を形成する材料〕
(合成例11:重合体(a−1)の合成)
内容積5Lのガラスフラスコに、単位(A)を形成する単量体であるBVEの750g、イオン交換水の4kg、メタノールの260gおよびジイソプロピルペルオキシジカーボネートの3.7gを入れた。系内を窒素で置換した後、40℃で22時間の懸濁重合を行い、数平均分子量約5×10
4の重合体の690gを得た。該重合体をフッ素/窒素混合ガス(フッ素ガス濃度20容量%)雰囲気中で、250℃で5時間加熱し、重合体(a−1)を得た。
重合体(a−1)のガラス転移温度、屈折率は表2に示す。固有粘度[η]は、PBTHF中30℃で0.3であり、室温で強靱で透明なガラス状重合体であった。
【0113】
(製造例1:内層を形成する材料(a−1)および円柱体(a−1)の製造)
重合体(a−1)の100質量部に対して、化合物(b)として前述の式(30)で表される化合物(屈折率:1.41)の8.8質量部および式(31)で表される化合物(屈折率:1.46)の2.2質量部を加えて混合し、内層を形成する材料(a−1)を得た。
得られた材料(a−1)をガラス封管中に仕込み、250℃で溶融成形して円柱状の成形体(a−1)を得た。成形体(a−1)の外径は15mm、ガラス転移温度は92℃、屈折率は1.354であった。
次に、重合体(a−1)のみからなる円筒管を溶融成形にて製造し、該円筒管の中空部に成形体(a−1)を挿入し、200℃に加熱して一体化させ、内層を形成する円柱体(a−1)を製造した。円柱体(a−1)の外径は20mmであった。
【0114】
(製造例2:内層を形成する材料(a−2)および円柱体(a−2)の製造)
化合物(b)として、クロロトリフルオロエチレンオリゴマ(平均分子量:760、屈折率:1.41)の15質量部を用いる以外は、製造例1と同様にして、内層を形成する材料(a−2)を得た。
得られた材料(a−2)を用いて、製造例1と同様にして、円柱体(a−2)を得た。
【0115】
(製造例3:内層を形成する材料(a−3)および円柱体(a−3)の製造)
化合物(b)として、ペルフルオロ(1,3,5−トリフェニルベンゼン)(屈折率:1.47)の7質量部を用いる以外は、製造例1と同様にして、内層を形成する材料(a−3)を得た。
得られた材料(a−3)を用いて、製造例1と同様にして、円柱体(a−3)を得た。
【0116】
(合成例12:重合体(a−4)の合成)
内容積200mLの耐圧ガラス製オートクレーブに、単位(A)を形成する単量体としてCF
2=CFCF
2CF(CF
3)OCF=CF(以下、「MBVE」という。)の215g、イオン交換水の80g、メタノールの2.4gおよびペルフルオロベンゾイルペルオキシドの38mgを入れた。系内を窒素で置換した後、オートクレーブの内温が70℃になるまで加熱し、70℃で20時間重合を行った。得られた重合体をイオン交換水、メタノールで洗浄した後、200℃で1時間乾燥し、重合体の12.5gを得た。該重合体をフッ素/窒素混合ガス(フッ素ガス濃度20容量%)雰囲気中で、250℃で5時間加熱し、重合体(a−4)を得た。
重合体(a−4)のガラス転移温度、屈折率は表2に示す。回転式溶融粘弾性測定装置により230℃におけるゼロシェア粘度を測定したところ、5,200Pa・sであり、室温で強靱で透明なガラス状重合体であった。
【0117】
(製造例4:内層を形成する材料(a−4)および円柱体(a−4)の製造)
重合体(a−1)の代わりに重合体(a−4)を用いる以外は、製造例1と同様にして、内層を形成する材料(a−4)を得て、該材料を用いて円柱体(a−4)を得た。
【0118】
(合成例13:重合体(a−5)の合成)
合成例4で得た重合体(c−4)をフッ素/窒素混合ガス(フッ素ガス濃度20容量%)雰囲気中で、250℃で5時間加熱し、重合体(a−5)を得た。重合体(a−5)のガラス転移温度、屈折率は表2に示す。
【0119】
(製造例5:内層を形成する材料(a−5)および円柱体(a−5)の製造)
重合体(a−1)の代わりに重合体(a−5)を用いる以外は、製造例1と同様にして、内層を形成する材料(a−5)を得て、該材料を用いて円柱体(a−5)を得た。
【0120】
(合成例14:重合体(a−6)の合成)
合成例5で得た重合体(c−5)をフッ素/窒素混合ガス(フッ素ガス濃度20容量%)雰囲気中で、250℃で5時間加熱し、重合体(a−6)を得た。重合体(a−6)のガラス転移温度、屈折率は表2に示す。
【0121】
(製造例6:内層を形成する材料(a−6)および円柱体(a−6)の製造)
重合体(a−1)の代わりに重合体(a−6)を用いる以外は、製造例1と同様にして、内層を形成する材料(a−6)を得て、該材料を用いて円柱体(a−6)を得た。
【0122】
【表2】
【0123】
表1に示されるように、合成例1〜9で得た重合体(c−1)〜(c−9)の屈折率はいずれも、内層を形成する材料に含まれる重合体(a−1)の屈折率(1.342)よりも低かった。
合成例10で得た重合体(c−10)の屈折率は、内層を形成する材料に含まれる重合体(a−4)の屈折率(1.328)、重合体(a−5)の屈折率(1.329)、重合体(a−6)の屈折率(1.330)よりも低かった。
合成例1〜5、7〜9で得た重合体(c−1)〜(c−5)、(c−7)〜(c−9)のガラス転移温度は、内層を形成する材料に含まれる重合体(a−1)のガラス転移温度(108℃)よりも高かった。
合成例10で得た重合体(c−10)のガラス転移温度は、内層を形成する材料に含まれる重合体(a−4)のガラス転移温度(124℃)、重合体(a−5)のガラス転移温度(125℃)、重合体(a−6)のガラス転移温度(128℃)よりも高かった。
一方、合成例6で得た重合体(c−6)のガラス転移温度は、重合体(a−1)のガラス転移温度よりも低かった。これは重合体(c−6)における単位(C)の割合が高かったためと考えられる。
【0124】
〔保護被覆層を形成する材料〕
(合成例15:保護被覆層を形成する材料(d−1)の合成)
保護被覆層を形成する材料(d−1)として、ポリフェニレンエーテル(PPE)の6質量部と、汎用ポリスチレン(GPPS)の94質量部とを、270℃で溶融混錬して、ポリマーアロイを得た。保護被覆層を形成する材料(d−1)のガラス転移温度は100℃であった。
【0125】
(合成例16:保護被覆層を形成する材料(d−2)の合成)
保護被覆層を形成する材料(d−2)として、ポリフェニレンエーテル(PPE)の25質量部と、汎用ポリスチレン(GPPS)の75質量部とを、270℃で溶融混錬して、ポリマーアロイを得た。保護被覆層を形成する材料(d−2)のガラス転移温度は115℃であった。
【0126】
(合成例17:保護被覆層を形成する材料(d−3)の合成)
保護被覆層を形成する材料(d−3)として、ポリフェニレンエーテル(PPE)の31質量部と、汎用ポリスチレン(GPPS)の69質量部とを、270℃で溶融混錬して、ポリマーアロイを得た。保護被覆層を形成する材料(d−3)のガラス転移温度は120℃であった。
【0127】
〔プラスチック光ファイバの製造〕
(例1)
図5に示すように、内層、外層および保護被覆層を有する嵌合体を加熱して紡糸する方法でプラスチック光ファイバを製造した。
合成例16で製造した保護被覆層を形成する材料(d−2)を用いて、製造例1で得た円柱体(a−1)の外径よりも大きな内径を有する円筒体を製造した。該円筒体の中空部内に円柱体(a−1)を嵌合して嵌合体を得た。嵌合体を加熱して紡糸し、光ファイバを得た。引取速度は毎秒約1mであった。さらに、得られた光ファイバを延伸処理機にて延伸し、内層の半径が150μm、外層の厚さが50μm、保護被覆層の厚さが800μmの屈折率分布型プラスチック光ファイバを得た。なお、延伸処理機後ろの引取速度は毎秒約1.4mであった。ファイバ延伸倍率が144%となるように製造条件を調整した。
【0128】
プラスチック光ファイバの構成、保護被覆層を形成する材料のガラス転移温度(Tg)を表3に示す。
内層を形成する材料に用いた重合体(a−1)の厚さ200μmのフィルムを製造し、本例における保護被覆層を形成する材料のガラス転移温度にて、含フッ素重合体(a)の破断伸度を測定したところ、測定限界である500%を超える伸度を示した。結果を表3に示す。
外層を形成する材料として用いた重合体(c−1)の厚さ200μmのフィルムを製造し、本例における保護被覆層を形成する材料のガラス転移温度にて、含フッ素重合体(c)の破断伸度を測定した。結果を表3に示す。
得られたプラスチック光ファイバについて、伝送損失、開口数NA、曲げ損失、顕微鏡破断評価、ファイバ延伸収率を下記の方法で測定した。結果を表3に示す。
<伝送損失>
JIS C 6823 (2010年度版)に準拠して測定した。測定波長は850nmとした。
<開口数NA>
JIS C 6823 (2009年度版)に準拠して測定した。
<曲げ損失>
曲げ半径5mmにて、JIS C 6823に準拠して測定した。
<顕微鏡破断評価>
延伸後の光ファイバの保護被覆層を、保護被覆層が可溶な溶媒を用いて溶解除去した。得られた光ファイバ裸線の状態を顕微鏡観察した。内層および/または外層に亀裂や破断が生じていない場合を○(良好)、内層および/または外層に亀裂や破断が生じている場合を×(不良)とした。なお、例10の顕微鏡写真を
図6に、例1の顕微鏡写真を
図7に示す。
<ファイバ延伸収率>
延伸後の光ファイバの3,000mを切り分けて、30本の長さ100mの光ファイバを得た。それぞれの光ファイバについて伝送損失、開口数NA、曲げ損失を測定した。30本中、伝送損失が200dB/km以下、開口数NAが0.2以上、曲げ損失が0.2以下のすべてを達成した光ファイバの本数の比率を計算し、ファイバ延伸収率とした。
【0129】
(例2〜16)
内層、外層および保護被覆層を形成する材料、延伸後の引取速度を変化させてファイバ延伸倍率を変化させた以外は、例1と同様にして、光ファイバを製造し、評価した。結果を表3に示す。
【0130】
【表3】
【0131】
例1〜3、5〜8および13〜16で得た光ファイバは、伝送損失および曲げ損失が小さく、かつ延伸後のファイバ収率(ファイバ延伸収率)が良好であった。
例9で得た光ファイバは、伝送損失が大きかった。例9は、外層を形成する材料である重合体(c−6)のガラス転移温度が、内層を形成する材料である重合体(a−1)のガラス転移温度よりも低い例である。結果から、光ファイバの製造時に、外層よりも先に内層が固化することで、外層の伸びに伴って内層が引き伸ばされ、その結果、内層を形成する重合体(a−1)が配向し、散乱損失が大きくなったと考えられる。
例4、10および11で得た光ファイバは、開口数NAが小さく、延伸後のファイバ収率(ファイバ延伸収率)がゼロであった。例4、10および11は、ファイバ延伸倍率よりも含フッ素重合体(c)の破断伸度の方が小さい例である。
図6から、例10で得た光ファイバ裸線の外層には細かい亀裂が入っていることが確認できる。このことから、含フッ素重合体(c)の破断伸度よりもファイバ延伸倍率が大きくなった結果、光ファイバの外層にクラックが生じ、開口数NAが低下したと考えられる。
例12で得た光ファイバは、ファイバ延伸収率が低かった。例12は、ファイバ延伸倍率が120%よりも小さい例である。ファイバ延伸倍率が114%と低いため、光ファイバに充分な機械強度を与えられず、延伸時の張力で光ファイバの外層にクラックが生じたと考えられる。
【0132】
保護被覆層にガラス転移温度が120℃の材料(d−3)を使用した例13〜16のプラスチック光ファイバについて、耐熱性を評価するために、115℃のオーブンに5,000時間保存した後、伝送損失を再測定した結果を、表3に示す。
例13では、伝送損失が顕著に増加した。これは、内層を形成する重合体のガラス転移温度108℃よりも高い温度で長期間保管することにより、内層が軟化し、構造不整が増加したためと考えられる。
これに対して、内層を形成する重合体のガラス転移温度が120℃以上である例14〜16では、伝送損失はほとんど変化しなかった。内層を形成する材料にガラス転移温度が高い材料を用いることで、プラスチック光ファイバの耐熱性を高めることができると考えられる。