(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
銀粉末(A)と、比重が4以上であり、かつ、銀粉末(A)以外の無機粉末フィラー(B)とを導電性粉末、また、フェノキシ樹脂(C)とブロックイソシアネート(D)をバインダー成分とし、溶剤(E)を含む導電性接着剤組成物であって、
銀粉末(A)が全重量に対して20〜50重量%、無機粉末フィラー(B)が全重量に対して1〜60重量%以下配合され、ブロックイソシアネート(D)の量がフェノキシ樹脂(C)100重量部に対して5〜90重量部であり、バインダー成分(C+D)が全重量に対して5〜14重量%含まれ、
銀粉末(A)と無機粉末フィラー(B)の合計量が全重量に対して50〜80重量%である
ことを特徴とする導電性接着剤組成物。
【背景技術】
【0002】
従来、導電性接着剤組成物は、ハンダ代替品として電子素子などのチップ部品をリードフレームや各種基板に接着し、電気的もしくは熱的に導通させる材料として使用したり、電子素子内部や端面の電極として使用されている。
【0003】
電子素子などのチップ部品は、小型化・高性能化が進んでいる一方で、コストメリットの観点から内部に使用される導電性接着剤組成物には低銀化(銀含有率の低減)が必要とされている。そのため、低銀含有率で、硬化後に低抵抗で耐熱性、耐湿性の高いペーストが要求されている。
【0004】
一般的な低銀化として、卑金属に銀をコートした金属粉のみやそれと銀粉末を併用する方法が選択される。例えば、特許文献1では銅粉に銀をコートした金属粉と銀粉末との併用によって体積抵抗率の低減化を図っている。
すなわち、この特許文献1には、平均粒径が5〜60μmの銀コート銅粉、平均粒径が0.5〜15μmの銀粉、室温で液状のエポキシ樹脂を必須成分とし、該成分中に銀コート銅粉が10〜90重量%、銀粉が5〜85重量%含まれており、かつ銀コート銅粉と銀粉の合計量が75〜97重量%である導電性樹脂ペーストが記載されている。
【0005】
しかし、銀をコートした金属粉を使用した場合、三本ロールでの混練時に圧力が高いと銀コート部分が剥がれたり、クラックが入ったりする。電子素子に適用後、経時変化によってクラックが進行し内部の金属が露出することにより、抵抗値が変化する可能性があるので適用しにくい。また,圧力が低いと分散状態が充分ではないため、バラツキが大きくなりやすい。自公転ミキサーや攪拌羽根付きミキサーでも分散が不充分となり性能が発揮されない。
【0006】
一方、特許文献2〜4のように、銀粉末のみを使用することで体積抵抗率や熱時強度などの各種特性を維持することが検討されている。
すなわち、特許文献2では、金属粉末、エポキシ樹脂、ビスアルケニル置換ナジイミド、及び硬化剤とで構成され、かつ上記金属粉末が60〜90重量%の範囲で配合されていると共に、シリカ、チタニア、アルミナから選ばれる粉体、硬化促進剤、及びエポキシ樹脂と上記ビスアルケニル置換ナジイミドの希釈剤として作用しかつ硬化時には液体として存在しない有機化合物の少なくとも1種が添加成分として配合されている導電性接着剤が提案されている。
また、特許文献3では、銀粉末を全量に対して80〜95重量%含有させるが、その際、タップ密度が3.5g/ml以上で8.0g/ml以下の銀粉末(a)を全量に対して40〜95重量%、さらにタップ密度が0.1g/ml以上で3.5g/ml未満の銀粉末(b)を50重量%以下とした導電性接着剤が提案されている。
また、特許文献4では、導電性充填剤95重量%〜50重量%及び樹脂バインダー5重量%〜50重量%、及び導電性充填剤と特定の希釈剤とからなり、樹脂バインダーがエポキシ樹脂、ジシアンジアミド、硬化促進剤及び特定の硬化剤からなり、硬化促進剤としてエポキシ化合物にジアルキルアミンを反応して得られ、分子中に特定の官能基を有する化合物の粉末表面を酸性物質で処理して得たものを用いる導電性樹脂組成物が提案されている。
これらは体積抵抗率や熱時強度などの各種特性を維持することができるものの、銀含有率が50重量%以上なので、導電性接着剤組成物のコストアップに繋がってしまう。
【0007】
これに対して、低銀含有率で低体積抵抗率を実現するために、特許文献5では、平均粒径が0.5〜2μmで、かつタップ密度が3〜7g/cm
3であり、さらに比表面積が0.4〜1.5m
2/gである導電性粉末と特定の有機成分とを必須成分とし、ガラスフリットを含有するプラズマディスプレイ用導電ペーストが提案されている。
特許文献5によれば、低銀含有率であり低コスト化が実現できるが、590℃で15分間保持することでガラスフリットを溶融し、再凝固によって接着力を発現させている。また、その際ガラスフリットは銀の焼結助剤として働き低体積抵抗率化を行なっている。しかし、一般的に樹脂などの有機物は590℃という高温では分解・蒸発してしまう。
【0008】
こうした導電ペーストは、プラズマディスプレイのような高温で熱処理しても周辺部材へ影響を与えない場合に適用されるが、高温熱処理による周辺部材の劣化を考えて300℃以下で熱処理しなければならない分野がある。
それはタンタルコンデンサやアルミ固体電解コンデンサなど各種電子素子で、その内部電極や端面電極を接着する分野である。この熱処理後には樹脂などの有機物は存在し得るし、接着力はその樹脂によって発現させている。
ところが、特許文献5のような焼成型銀ペーストは、高温での熱処理を必要とするため、300℃以下で熱処理すると、樹脂は残存するが硬化反応をさせることはできないし、ガラスフリットも溶融しないので接着力が弱くて実用性がない。
【0009】
また、樹脂組成の面から導電性を改善する方法として、フェノキシ樹脂を混合する例が知られている。特許文献6および特許文献7では、エポキシ樹脂に、優れた造膜性を持つフェノキシ樹脂を配合することで、硬化時の硬化収縮により導電粉末同士を接触させて、優れた導電性を得ることができるとされている。
特許文献6には、導電粉末、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、60℃〜130℃で活性化可能な潜在性硬化剤、および溶剤を含む導電性樹脂組成物が記載されており、特許文献7には、導電性を有する金属粉と該金属粉のバインダーとなるエポキシ樹脂、およびエポキシ樹脂に対してフェノキシ樹脂を3〜10重量%含有する導電性ペーストが記載されている。
しかしながら、これらの例では、フェノキシ樹脂が多い場合は、フェノキシ樹脂の水酸基と反応する硬化剤が含まれていないため、耐熱性、耐湿性に劣るという問題が生じる。また、エポキシ樹脂の含有量が多い場合は、フェノキシ樹脂が多い場合に比べ導電性が悪く、銀含有率が50重量%以下のケースでは、十分な導電性を得ることができない。
【0010】
こうした状況の下、半導体などのチップ部品やチップ部品内で使用される材料を接着する際に、低温で硬化でき、低銀含有率かつ低抵抗、高接着性、高温耐湿性を実現した導電性接着剤組成物が切望されていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、前述した従来技術の問題点に鑑み、低温で硬化でき、低銀含有率かつ低抵抗、高接着性、高温耐湿性を実現しうる導電性接着剤組成物及びそれを用いた電子素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、銀粉末、比重が4以上の無機粉末フィラー、樹脂と硬化剤成分、溶剤を必須成分とする導電性樹脂組成物において、樹脂成分としてフェノキシ樹脂、ブロックイソシアネートを用い、各成分を特定量配合することにより、低銀含有率かつ低抵抗、高接着性、高温耐湿性を実現した導電性接着剤組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、銀粉末(A)と、比重が4以上であり、かつ、銀粉末(A)以外の無機粉末フィラー(B)とを導電性粉末、また、フェノキシ樹脂(C)とブロックイソシアネート(D)をバインダー成分とし、溶剤(E)を含む導電性接着剤組成物であって、
銀粉末(A)が全重量に対して20〜50重量%、かつ無機粉末フィラー(B)が全重量に対して
1〜60重量%以下配合され、ブロックイソシアネート(D)の量がフェノキシ樹脂(C)100重量部に対して5〜90重量部であり、バインダー成分(C+D)が全重量に対して5〜14重量%含まれ、
銀粉末(A)と無機粉末フィラー(B)の合計量が全重量に対して50〜80重量%であることを特徴とする導電性接着剤組成物が提供される。
【0015】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、前記銀粉末(A)は、フレーク状の銀粉末であることを特徴とする導電性接着剤組成物が提供される。
【0016】
また、本発明の第3の発明によれば、第1の発明において、前記無機粉末フィラー(B)は、Ni、Cu、Bi、Co、Mn、Sn、Fe、Cr、Ti、またはZrから選ばれる1種以上の金属粉、あるいは、WO
3、SnO
2、ZnO
2、ZrO
2、またはTiO
2から選ばれる1種以上の酸化物粉であることを特徴とする導電性接着剤組成物が提供される。
また、本発明の第4の発明によれば、第1または3の発明において、前記無機粉末フィラー(B)は、平均粒子径が1μm以下であることを特徴とする導電性接着剤組成物が提供される。
【0017】
また、本発明の第5の発明によれば、第1の発明において、前記フェノキシ樹脂(C)は、数平均分子量が5,000以上であることを特徴とする導電性接着剤組成物が提供される。
【0018】
また、本発明の第6の発明によれば、第1の発明において、前記バインダー成分が、数平均分子量5,000以下のエポキシ樹脂(F)を含有することを特徴とする導電性接着剤組成物が提供される。
【0019】
また、本発明の第7の発明によれば、第1または6の発明において、前記バインダー成分が、さらにフェノール樹脂(G)を含有することを特徴とする導電性接着剤組成物が提供される。
【0020】
一方、本発明の第8の発明によれば、第1〜7のいずれかの発明の導電性接着剤組成物を用いてなる電子素子が提供される。
【発明の効果】
【0021】
本発明の導電性接着剤組成物は、銀粉末を特定量配合し、無機粉末フィラーとして特定の比重のものを特定量配合し、さらに、高分子樹脂であるフェノキシ樹脂を特定量配合するので、低銀含有率で低抵抗率を実現し、低コスト化することができる。また、フェノキシ樹脂の硬化剤として、ブロックイソシアネートをフェノキシ樹脂に対して特定量配合しており架橋密度を上げ、高接着性、高温耐湿性を実現できる。
したがって、本発明の導電性接着剤組成物をタンタルコンデンサやアルミ固体電解コンデンサなど各種電子素子の内部電極や端面電極に適用したとき、低抵抗且つ高接着強度、高温耐湿性を実現できる。さらに、樹脂成分としてエポキシ樹脂またはフェノール樹脂を混合することによって、より被接着面の耐湿性(以下、被接着耐湿性ともいう)に優れ、かつ低銀含有率で低抵抗率を維持した導電性接着剤とすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
1.導電性接着剤組成物
以下、まず本発明の導電性接着剤組成物について詳細に説明する。
本発明の導電性接着剤組成物は、導電性粉末として、銀粉末だけでなく比重が4以上の無機粉末フィラーを含有することに第一の特徴がある。この無機粉末フィラーは比重が4以上であれば、金属粉のような導電性を持った粉末に限らず、金属酸化物等を用いても、十分な導電性を維持することが可能である。
また、本発明の導電性接着剤組成物は、フェノキシ樹脂とブロックイソシアネートを特定量配合することに第2の特徴がある。
【0023】
[A.銀粉末]
銀粉末は、導電性接着剤組成物の導電性成分である。粒径の大きさは、特に制限されないが、平均粒径が30μm以下のものが望ましく、20μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましい。この範囲で粒径は大きいものと小さいものとの混合が望ましい。
形状は特に制限されないが、価格や取扱性、保存性、得られる特性等を考慮した場合、フレーク状の銀粉末や球状の銀粉末の適用が望ましく、フレーク状の銀粉末の適用が好ましい。但し、導電性接着剤の使用方法や求められる特性に合わせて球状粉や針状粉の粉末を適用してもよい。
【0024】
通常、銀粉末は鉛を含まない純粋な銀を用いるが、本発明の目的を損なわない範囲でSn、Bi、In、Pd、Ni、Cuなどの金属や合金、あるいは混合粉を採用しても良い。
【0025】
また、銀粉末の配合割合は、20〜50重量%の範囲内に設定される。50重量%以下であればコストメリットがあるが、配合割合が20重量%未満であると電気伝導性が劣り好ましくない。好ましいのは、20〜45重量%の範囲、より好ましいのは、20〜40重量%である。
【0026】
[B.無機粉末フィラー]
本発明では無機粉末フィラー(B)として、比重が4以上の無機粉末を使用する。
無機粉末フィラーは、特に限定されないが、金属粉として、Ni、Cu、Bi、Co、Mn、Sn、Fe、Cr、Ti、Zrなど、酸化物粉として、WO
3、SnO
2、ZnO
2、ZrO
2、TiO
2など、その他窒化物、炭化物、水酸化物、炭酸塩、硫酸塩などが挙げられる。これらは、いずれも比重が4以上の無機粉末であり、単独でも、複数種併用しても良い。比重が4未満の無機粉末、例えばAl、Mg、MgOであると、導電性接着剤の体積抵抗率が高くなるため、好ましくない。
【0027】
無機粉末フィラーの粒径は、特に制限されるわけではないが、平均粒子径が1μm以下のものが好ましい。平均粒子径が1μmを超えると導電性が大きい銀粉末同士の接触を妨げるので電気伝導性が劣化することがある。無機粉末として細かいものを使用することで、銀粉同士の導電を妨げないようになる。
【0028】
無機粉末フィラー(B)の配合割合は、全量に対して60重量%以下に設定される。無機粉末フィラー(B)が60重量%を超えると塗布性が悪化するため好ましくない。一方、無機粉末フィラー(B)が1重量%未満であると電気伝導性が劣ることがある。好ましい配合量は3〜55重量%、より好ましいのは5〜50重量%、さらに好ましいのは10〜40重量%である。
【0029】
[C.フェノキシ樹脂]
本発明では、主たるバインダー成分としてフェノキシ樹脂を使用する。フェノキシ樹脂は、骨格中に反応性に富むエポキシ基や水酸基を有しており、例えばビスフェノール骨格を有するフェノキシ樹脂、ノボラック骨格を有するフェノキシ樹脂、ナフタレン骨格を有するフェノキシ樹脂、ビフェニル骨格を有するフェノキシ樹脂等が挙げられる。これらの中でもビスフェノールA型フェノキシ樹脂が好ましい。
【0030】
フェノキシ樹脂の分子量は、特に制限されないが、硬化後の塗膜中の銀濃度が相対的に増加し、導電性が向上するという観点から、溶剤必要量が増える数平均分子量5,000以上が望ましい。フェノキシ樹脂の数平均分子量は7,000以上が好ましく、8,000以上がより好ましい。常温で固形の場合は、溶剤(E)に溶解させて使用する。
【0031】
上記フェノキシ樹脂の市販品としては、例えば、三菱化学株式会社製のjER1256、jER4250、jER4275、新日鉄化学株式会社製のYP−50、YP−50S、YP−70、ZX−1356−2、FX−316、YPB−43C、YPB−43Mなどが挙げられる。これらは、単独でも、複数種併用してもよい。
フェノキシ樹脂は、前述したとおり、優れた造膜性を持ち、硬化時の硬化収縮により導電性粒子同士を密着させる効果を持つため、導電性の向上に寄与する。
【0032】
フェノキシ樹脂の含有量は、全量に対して、ブロックイソシアネートとの合計量(C+D)で5〜14重量%とする。フェノキシ樹脂は、5〜13重量%配合することが好ましく、5〜12重量%配合することがより好ましい。フェノキシ樹脂が5重量%より少ないと、接着性が悪化し、14重量%より多いと、導電性が悪化する。
【0033】
[D.ブロックイソシアネート]
フェノキシ樹脂(C)は、骨格中に反応性に富むエポキシ基や水酸基を有しているので、硬化剤にはこれらの基と反応して、架橋構造を形成させる機能が要求される。
【0034】
そのため本発明では硬化剤として、ブロックイソシアネートを用いる。ブロックイソシアネートとは、イソシアネート化合物のイソシアネート基をブロック剤で保護したものである。
ブロックイソシアネートは通常、常温で安定であるが、そのブロック剤の解離温度以上の温度に加熱すると、遊離のイソシアネート基を生成する。そのため、ブロック剤で保護されていないイソシアネート化合物を使用した場合、常温での安定性が悪化する。ブロック剤の解離温度は、特に制限されるわけではないが、50〜200℃が好ましく、より好ましいのは100〜180℃である。
【0035】
上記ブロックイソシアネートの市販品としては、例えば、日本ポリウレタン工業株式会社製のミリオネートMS−50、コロネートAPステーブル、コロネート2503、コロネート2512、コロネート2507、コロネート2527などが挙げられる。これらは、単独でも、複数種を併用してもよい。
【0036】
また、上記ブロックイソシアネートに対するブロック剤の解離触媒、フェノキシ樹脂とイソシアネートとの反応を促進する硬化促進剤を混合することも可能である。解離触媒、硬化促進剤は、種類によって特に限定されないが、例えば、ジブチルスズジラウレート、ジオクチルスズジラウレートなどの有機スズ化合物、テトラエチレンジアミンなどの3級系アミン化合物などが挙げられる。これらは、単独でも、複数種併用してもよい。
本発明では、ブロックイソシアネートを用いることで、フェノキシ樹脂との架橋密度をあげ、接着性、耐熱性、耐湿性を向上させることができる。
【0037】
ブロックイソシアネートの含有量は、フェノキシ樹脂100重量部に対して、5〜90重量部混合することが望ましく、10〜80重量部配合することが好ましく、15〜50重量部配合することがより好ましい。含有量が5重量部より少ないと、架橋密度が低下し、接着性が悪化する。一方、含有量が90重量部より多いと、導電性が悪化する。
【0038】
本発明において、バインダー成分(C+D)の配合割合は、全量に対して5〜14重量%とすることが望ましい。バインダー成分は、5〜12重量%配合することが好ましく、6〜11重量%配合することがより好ましい。配合割合が5重量%未満では接着強度や熱時強度が低下することがあり、また、14重量%を超えると導電性が悪化するなどの弊害が生じることがある。
【0039】
[E.溶剤]
本発明では、樹脂バインダー成分を溶剤(E)に溶解させて使用する。特にフェノキシ樹脂(C)、ブロックイソシアネート(D)、エポキシ樹脂(F)およびフェノール樹脂(G)が固形の場合は、溶剤(E)に溶解させて液状にする。したがって、溶剤(E)としては、配合する樹脂を溶解可能なもの、また、接着剤組成物が硬化する際、溶剤成分が揮発・蒸発し、又は分解して飛散してしまう有機化合物が選択される。
【0040】
上記溶剤としては、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテートなどのエステル類、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミドなどの極性溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロへキサノンなどのケトン類、ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの炭化水素化合物などが挙げられる。これらは、単独でも、複数種併用してもよい。ただし、ブロックイソシアネート(D)からブロック剤が解離して生じるイソシアネート基は、1級アミン、2級アミン、水酸基との反応性が高いため、これらの官能基を持つ溶剤を使用すると、樹脂硬化系に影響を与えるため、好ましくない。
【0041】
一般に高分子樹脂であるフェノキシ樹脂を特定量以上配合することで粘度を維持する場合には、低分子樹脂、例えばエポキシ樹脂の場合と比較すると、多量の溶剤が必要となる。溶剤は、硬化時に蒸発してしまうため、同じ銀含有率であっても、溶剤量が多いほど硬化後の塗膜に含有する銀濃度が増加し、導電性が向上する。
【0042】
したがって、溶剤は、5〜45重量%配合することが好ましく、10〜40重量%配合することがより好ましい。溶剤の量が5重量%未満であると導電性接着剤の粘度が高くなって塗布性を悪化させる場合があり、逆に、45重量%を超えて配合すると粘度が低すぎて塗布性を悪化させたり、接着性に悪影響を与えることがある。
【0043】
[F.エポキシ樹脂]
本発明では上記バインダー成分に、さらにエポキシ樹脂を追加使用することができる。エポキシ樹脂は、その数平均分子量が5,000以下のものが好ましい。数平均分子量は4,000以下がより好ましく、3,000以下であることがさらに好ましい。数平均分子量が5,000以下のエポキシ樹脂であれば、被接着耐湿性を改善することができるが、数平均分子量が5,000より大きいエポキシ樹脂を混合しても、被接着耐湿性を改善できないことがある。
【0044】
数平均分子量が5,000以下のエポキシ樹脂としては、例えば、三菱化学株式会社製のエポキシ樹脂、jER827、jER828、jER828EL、jER828XA、jER834、jER801N、jER801PN、jER802、jER813、jER816A、jER816C、jER819、jER1001、jER1002、jER1003、jER1055、jER1004、jER1004AF、jER1007、jER1009などが挙げられる。これらは、単独でも、複数種併用してもよい。
【0045】
上記エポキシ樹脂の含有量は、バインダー成分の全重量にもよるが、好ましくは0.1〜7重量%、より好ましくは0.1〜5重量%である。エポキシ樹脂の配合量は、多いほど導電性が悪化するが、一方で接着強度、被接着耐湿性は向上する。
【0046】
また、上記エポキシ樹脂用の硬化剤、硬化促進剤を併用することが可能である。硬化剤、硬化促進剤は、エポキシ樹脂用であれば、特に限定されない。
硬化剤としては、例えば、ジアミノジフェニルメタン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ジアミノジフェニルスルホン、イソホロンジアミン、ジシアンジアミド等のアミン系化合物、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、無水マレイン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸などの酸無水物、ポリフェノール類、ポリアミドなどが挙げられる。
硬化促進剤としては、例えば、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール等のイミダゾール類、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、ベンジルジメチルアミン、ウンデセン−7等の3級アミン系化合物などが挙げられる。
これらは単独でも複数種混合して使用してもよい。硬化剤や硬化促進剤を使用した場合は、被接着耐湿性だけでなく、接着強度も向上する。
【0047】
[G.フェノール樹脂]
本発明では上記バインダー成分に、さらにフェノール樹脂を追加使用することができる。フェノール樹脂は、溶剤(E)に溶解するものであればよく、特に限定されないが、ノボラック型フェノール樹脂やレゾール型フェノール樹脂の使用が好ましい。本発明では、保存安定性の観点から、ノボラック型フェノール樹脂を使用することがより好ましい。
【0048】
また、上記フェノール樹脂用の硬化剤を併用することが可能である。硬化剤としては、ヘキサメチレンテトラミンなどのアミン系化合物が挙げられる。硬化剤を使用した場合は、被接着耐湿性だけでなく、接着強度も向上する。
【0049】
フェノール樹脂の含有量は、バインダー成分(C+D)の全重量にもよるが、好ましくは0.1〜7重量%、より好ましくは0.1〜5重量%である。エポキシ樹脂(F)とフェノール樹脂(G)とを含有する場合も、バインダー成分(C+D)とエポキシ樹脂(F)とフェノール樹脂(G)の総和が全重量に対して5〜14重量%とする必要がある。フェノール樹脂の配合量は、多くなるとともに導電性が悪化するが、一方で接着強度、熱間強度、被接着耐湿性は向上する。
エポキシ樹脂(F)とフェノール樹脂(G)とを含有する場合においても、これらに対する硬化剤、硬化促進剤を併用して使用することが可能である。
【0050】
上記のように本発明においては、数平均分子量が5,000以下のエポキシ樹脂、またはフェノール樹脂、もしくはその両方を配合することにより、硬化後の塗膜表面に露出するエポキシ基および水酸基等の反応性の高い官能基の量が増加すると考えられ、これによって、塗膜上に塗布される導電性接着剤との被接着性が向上し、接着接続面での高温耐湿性がさらに向上する。
【0051】
2.電子素子
本発明の導電性接着剤組成物は、固体電解コンデンサなどの電子素子の内部電極や端面電極、また接着剤などとして使用される。その他に、積層セラミックスコンデンサやチップ抵抗器などの電子素子などの接着にも使用することが可能である。使用時には被着面にディッピングやスクリーン印刷などによって導電性接着剤組成物を塗布した後に、加熱硬化させる。
【0052】
通常、固体電解コンデンサは、タンタル等の弁作用金属を加圧成形し焼結した焼結体からなる陽極体の表面を酸化して形成した誘電体酸化皮膜層、二酸化マンガンや導電性高分子等の導電性材料からなる固体電解質層、カーボン層、銀層を順次形成する。その後、陽極リードフレームと陽極リード線は抵抗溶接で、陰極リードフレームと銀層は、導電性接着剤を用いて接続し、外装樹脂で被覆することにより作製される。
【0053】
近年、貴金属である銀価格の上昇に伴い、固体電解コンデンサには、等価直列抵抗(ESR)が低いだけでなく、低価格のペーストが要求されている。これまでは価格を下げるため銀粉末以外の金属粉を使用すると、抵抗値が大きくなり、ESRとして使用できなかった。
しかし、本発明では、前記の通り、銀粉末、比重が4以上の無機粉末フィラー、フェノキシ樹脂、ブロックイソシアネート、溶剤を特定量配合することにより、銀粉末の含有率を20〜50重量%の範囲まで低下させながら、コストメリットと低いESRの両立を実現させることができる。
【実施例】
【0054】
以下に、実施例に基づき本発明を具体的に説明するが、本発明は、これら実施例によって何ら限定されるものではない。なお、用いた原材料は次のとおりである。
【0055】
(A)導電性粉末、
銀粉末は、銀粉A:フレーク状銀粉末、銀粉B:球状銀粉末を用いた。
また、無機粉末はNi粉A:比重が8.9で平均粒子径が0.5μmのNi粉末、Ni粉B:比重が8.9で平均粒子径が2μmのNi粉末、Al粉:比重が2.7で平均粒径が0.5μmのAl粉末、WO
3粉:比重が7.2で平均粒径が0.3μmの三酸化タングステン粉末を用いた。
【0056】
(B)樹脂
樹脂成分として、フェノキシ樹脂は、フェノキシ樹脂A:数平均分子量約10,000のビスフェノールA型固形フェノキシ樹脂(三菱化学株式会社:jER1256)を用いた。
また、エポキシ樹脂は、エポキシ樹脂A:数平均分子量約370のビスフェノールA型液状エポキシ樹脂(三菱化学株式会社:jER828)、エポキシ樹脂B:数平均分子量約1,650のビスフェノールA型固形エポキシ樹脂(三菱化学株式会社:jER1004AF)、エポキシ樹脂C:数平均分子量約5,500のビスフェノールA型固形エポキシ樹脂(三菱化学株式会社:jER1010)を用いた。
フェノール樹脂は、フェノール・キシリレン樹脂(明和化成株式会社:MEHC−7800H)を用いた。
【0057】
(C)硬化剤
フェノキシ樹脂用の硬化剤として、ブロックイソシアネート:ブロックイソシアネート化合物(日本ポリウレタン工業株式会社:ミリオネートMS−50、解離温度180℃)、非ブロック型イソシアネート化合物(日本ポリウレタン工業株式会社:コロネートCORONATE HX)を用いた。
また、エポキシ樹脂用の硬化剤として、硬化剤A:ジシアンジアミド(三菱化学株式会社:DICY−7)、硬化剤B:ヘキサメチレンテトラミン(三菱ガス化学株式会社:ヘキサミン)、硬化促進剤:2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール(四国化成株式会社:キュアゾール2P4MHZ−PW)を用いた。
【0058】
(D)溶剤
溶剤は、溶剤A:エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(協和発酵ケミカル株式会社:ブチセルアセテート)、溶剤B:フェニルグリシジルエーテル(阪本薬品工業株式会社:PGE)を用いた。
【0059】
また、実施例1〜23及び、比較例1〜11の各試料は混練後、下記に示す評価を行なった。
(1)体積抵抗値の測定
アルミナ基板上に幅0.6mm、長さ60mmの長方形状となるように試料(導電性接着剤)を印刷し、200℃のオーブン中に60分間放置し、硬化した後、室温まで冷却し、導電性接着剤上の両端で抵抗値を測定した。続いて、印刷し硬化した熱導電性接着剤の膜厚を測定し、抵抗値と膜厚から体積抵抗率[Ω・cm]を求めた。
【0060】
(2)塗布性の評価
試料(導電性接着剤)を用いて、400メッシュのスクリーンにて幅100μm、長さ20mmの直線を10本印刷し、印刷面に欠け、かすれ、ダレ等があるものは不可(×)、それらが確認されない場合は良(○)とした。
【0061】
(3)接着強度の測定
アルミナ基板上に試料(導電性接着剤)を滴下し、1.5mm角のシリコンチップを載せ、200℃のオーブン中に60分間放置して硬化させた。室温まで冷却した後、この基板に対し水平方向からシリコンチップに力を加え、このシリコンチップが剥がれた時の力を接着強度[N]として測定した。
【0062】
(4)熱間接着強度の測定
銅基板上に試料(導電性接着剤)を滴下し、1.5mm角のシリコンチップを載せ、200℃のオーブン中に60分間放置して硬化させた。室温まで冷却した後、350℃に加熱されたホットプレート上に、この銅基板を20秒間放置し、その後、加熱したまま銅基板に対し、水平方向からシリコンチップに力を加え、このシリコンチップが剥がれたときの力を熱間接着強度[N]として測定した。
【0063】
(5)被接着性の測定
アルミナ基板上一面に試料(導電性接着剤)を塗布し、200℃のオーブン中に60分間放置させて硬化させ、塗膜を生成した。室温まで冷却した後、下記の成分から調製してなる被接着性測定用の導電性接着剤をこの塗膜上に滴下し、1.5mm角のシリコンチップを載せ、200℃のオーブン中に60分間保持して硬化させた。その後室温まで冷却し、被接着強度の測定試料とした。この測定試料の塗膜に対し水平方向からシリコンチップに力を加え、このシリコンチップが剥がれた時の力を被接着強度[N]として測定した。
【0064】
被接着性測定用の導電性接着剤:フレーク状銀粉72重量部、フェノキシ樹脂(三菱化学株式会社:JER1256)4.2重量部、ブロックイソシアネート(日本ポリウレタン工業株式会社:ミリオネートMS−50)2.5重量部、フェノール・キシリレン樹脂(明和化成株式会社:MEHC−7800H)3.3重量部、ヘキサメチレンテトラミン(三菱化学株式会社:ヘキサミン)0.33重量部、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(協和発酵ケミカル株式会社:ブチセルアセテート)17.76重量部
【0065】
(6)被接着耐湿性の評価
上記(5)で作製した被接着強度の測定試料を、PCT(プレッシャークッカー試験)装置に入れ、温度121℃、湿度100%RH、2.1atmに48時間保持(耐湿試験)した。室温まで冷却した後、上記(5)と同様にして被接着強度を求めた。この被接着強度を上記(5)で測定した被接着強度と比較し、耐湿試験前後での被接着強度の減少率[%]を被接着耐湿性の評価の指標とした。
【0066】
(7)コストメリットの評価
銀粉の含有量が全重量に対して50重量%より多い場合はコストメリット無し(×)、50重量%以下の場合はコストメリット有り(○)とした。
(8)保存安定性の評価
試料(導電性接着剤)を軟膏瓶に入れ密閉し、10℃で30日間放置した。放置前後の粘度をブルックフィールド社製HBT粘度計で50rpm時の粘度を測定した。保存安定性は、放置後の粘度が放置前の粘度に比べ、2倍以内であれば良(○)、2倍を超えた場合は不可(×)と評価した。
【0067】
(9)総合評価
上記の評価項目において、体積抵抗値は1×10
−3Ω・cm以下、接着強度は40N以上、熱間接着強度は4N以上、被接着性については30N以上、被接着耐湿性については被接着強度の減少率が50%以下の条件を全て満たしたもののみ良(○)とし、1つでも条件に満たさないものがある場合は不可(×)とした。
【0068】
(実施例1〜23)
表1、2に記載した銀粉、無機粉末成分、バインダー樹脂、溶剤成分を原料として、接着剤組成物を調製し、3本ロール型混練機を使用して混練し、本発明の導電性接着剤を得た。表1、2中、各成分の濃度は重量%で示している。
この導電性接着剤を用いて、上記(1)〜(7)の測定を実施し、体積抵抗率、塗布性、接着強度、熱間強度、被接着性、被接着耐湿性、コストメリットを評価した。この結果は表1、2に併記した。
【0069】
【表1】
【0070】
【表2】
【0071】
(比較例1〜11)
表3に記載した銀粉、無機粉末成分、バインダー樹脂、溶剤成分を原料として、接着剤組成物を調整し、3本ロール型混練機を使用して混練し、比較用の導電性接着剤を得た。この導電性接着剤を用いて、上記(1)〜(7)により、体積抵抗率、塗布性、接着強度、熱間強度、被接着性、被接着耐湿性、コストメリットを測定・評価した。この結果は表3に併記した。
【0072】
【表3】
【0073】
「評価」
表1、2から明らかなように、実施例1〜23の導電性接着剤は、導電性、塗布性、接着性、耐熱性、被接着耐湿性のいずれにも優れていることが分かる。また、これらの実施例の中でも、数平均分子量5,000以下のエポキシ樹脂またはフェノール樹脂を含有している実施例13〜16、18〜23の導電性接着剤は、被接着耐湿性により優れていることが分かる。なお、実施例12は、Ni粉Bは比重が8.9で平均粒子径が2μmと大きいNi粉末なので、体積抵抗率、被接着性、被接着耐湿性の面で若干低下しているが、実用上問題がないレベルである。
【0074】
一方、表3から明らかなように、比較例1〜11の導電性接着剤は、導電性、塗布性、接着性、耐熱性、被接着耐湿性、コストメリットのいずれかで劣っていることが分かる。すなわち、比較例1は、比重が4以下の無機粉末フィラーを用いたために、体積抵抗率が高く、不可となった。比較例2は、銀粉末の含有量が20重量%より小さいため、体積抵抗率が高く不可となった。比較例3は、銀粉末の含有量が50重量%より大きいため、コストメリットが無く、不可となった。比較例4,5は銀粉末と無機粉末フィラーの合計が50〜80重量%の範囲ではないため、塗布性が悪く、不可となった。比較例6はブロックイソシアネートの含有量が、フェノキシ樹脂に対して5重量部より小さいため、接着性、耐熱性が悪く、不可となった。比較例7はブロックイソシアネートの含有量がフェノキシ樹脂に対して90重量部より大きいため、体積抵抗率が高く、不可となった。比較例8はフェノキシ樹脂の含有量が10重量%より大きいため、体積抵抗率が高く、不可となった。比較例9はフェノキシ樹脂の含有量が3重量%より小さいため、体積抵抗率、塗布性、接着強度等が悪く、不可となった。また、比較例10は非ブロックイソシアネートを用いたために、保存安定性が不可となった。比較例11は、特許第3484957号を参考に評価したが、コストメリットが無く保存安定性も不可となった。