特許第6156494号(P6156494)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6156494-蒸気発生設備の水処理方法 図000006
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6156494
(24)【登録日】2017年6月16日
(45)【発行日】2017年7月5日
(54)【発明の名称】蒸気発生設備の水処理方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 5/00 20060101AFI20170626BHJP
   F22B 37/56 20060101ALI20170626BHJP
   C02F 5/10 20060101ALI20170626BHJP
   C02F 1/70 20060101ALI20170626BHJP
   C02F 1/58 20060101ALI20170626BHJP
【FI】
   C02F5/00 620B
   F22B37/56 Z
   C02F5/10 610Z
   C02F5/10 620C
   C02F5/10 620D
   C02F1/70 Z
   C02F5/00 610G
   C02F1/58 T
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-522378(P2015-522378)
(86)(22)【出願日】2013年6月14日
(86)【国際出願番号】JP2013066521
(87)【国際公開番号】WO2014199523
(87)【国際公開日】20141218
【審査請求日】2015年12月17日
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 保
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 優
(72)【発明者】
【氏名】志村 幸祐
【審査官】 杉山 豊博
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−004096(JP,A)
【文献】 特開平07−188953(JP,A)
【文献】 特開2012−071273(JP,A)
【文献】 特開昭57−007225(JP,A)
【文献】 特開2006−274427(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 5/00
C02F 1/58
C02F 1/70
C02F 5/10
F22B 37/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬度成分を1〜50mgCaCO/L含む給水を用いる蒸気発生設備において、給水に対して、下記の(a−1)と(a−2)とを含む(a)スケール防止剤と、下記の(b−1)と、(b−2)又は(b−3)とを含み、かつ、前記(b−1)〜(b−3)中における(b−2)及び/又は(b−3)の含有割合が質量基準で0.02〜20%である(b)脱酸素剤(ただし、マグネシウム塩を含む脱酸素剤を除く)を添加する、蒸気発生設備の水処理方法。
(a−1)アクリル酸/2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸共重合体及び/又はその塩
(a−2)ホスホン酸及び/又はその塩
(b−1)亜硫酸及び/又はその塩
(b−2)エリソルビン酸及び/又はその塩
(b−3)アスコルビン酸及び/又はその塩
【請求項2】
前記ホスホン酸が、1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸である、請求項1に記載の蒸気発生設備の水処理方法。
【請求項3】
前記アクリル酸/2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸共重合体のアクリル酸と、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸とのモノマーのモル比が、90:10〜50:50である、請求項1又は2に記載の蒸気発生設備の水処理方法。
【請求項4】
給水の全硬度成分に対して、質量基準で、前記(a)スケール防止剤を0.1〜1.0倍添加する、請求項1〜3の何れかに記載の蒸気発生設備の水処理方法。
【請求項5】
[前記(a)スケール防止剤/前記(b)脱酸素剤]の質量比が0.02〜500である、請求項1〜4の何れかに記載の蒸気発生設備の水処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸気発生設備の水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ボイラ等の蒸気発生設備は、給水を高温高圧にして蒸気を発生させる装置である。ボイラの給水にカルシウムやマグネシウム等の硬度成分が含まれる場合、硬度成分がボイラ缶内の伝熱面等にスケールとして付着する。
付着したスケールは、ボイラ缶内で防食皮膜として作用し、腐食性が問題となることは少ない。しかし、スケールが付着することでボイラの熱効率が低下して低効率運転となるとともに、スケール付着部分が局部的に過熱され、鋼材の機械的強度が低下し、膨出、破裂等の事故につながることがある。
【0003】
硬度成分のスケール防止に関して、特許文献1及び2の技術が提案されている。
特許文献1は、アクリル酸/2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸共重合体(以下、「AA/AMPS」と称する場合もある。)によるスケール防止方法、特許文献2は、AA/AMPSと、カルボキシホスホネート、ヒドロキシエチリデンジスルホン酸亜鉛イオン(HEDP−Zn塩)アミノトリ(メチレンスルホン酸)、ヘキサメタホスホネート塩、ポリアクリル酸等からなる群から選ばれる少なくとも一種とを含むスケール防止剤が開示されている。
【0004】
しかし、特許文献1は65.6℃という低温での開放条件の試験、特許文献2はpH7〜9、0〜80℃のバッチ試験(閉鎖条件の試験)であり、高温高圧のボイラ水系における硬度成分の排出やスケール防止効果については考慮されていない。例えば、ボイラ缶内を想定した高温高圧条件では、AA/AMPS単独や、AA/AMPS+ポリアクリル酸では、スケール付着を十分に抑制できず、かつ硬度成分の排出効果が不十分である。また、ボイラ水系にAA/AMPS+HEDP−Zn塩を適用すると、亜鉛(Zn)が缶内でスケール化するため適用できない。
【0005】
ボイラ用に特化したスケール防止剤としては、一般にポリアクリル酸塩が用いられてきている。しかし、給水に硬度成分が含まれる場合、ポリアクリル酸塩の添加量が少ないと、伝熱面へのスケールを十分に抑制できず、さらには、硬度成分の排出効果が低くなり、ブロー配管が硬度成分のスラッジにより閉塞するなどの障害が生じる。一方、ポリアクリル酸塩の添加量を多くすると、スケール防止にかかる費用が多くなる。このため、実際にはスケールを完全に防止できる量のポリアクリル酸塩は添加されず、ボイラの高効率運転がなされていないという問題がある。
【0006】
一方、スケールは防食皮膜として作用するため、スケールの付着を防止できた場合においては、ボイラ缶内の腐食を防止する必要がある。このため、脱酸素剤を添加してボイラ缶内の腐食を防止している。
従来、脱酸素剤にはヒドラジンが用いられてきたが、ヒドラジンは、強度の変異原性を有する物質であるため、最近は亜硫酸塩等が用いられるようになってきている。亜硫酸塩の利点は安全性が高く、価格も安価であり、低温での酸素との反応性が高く速やかに脱酸素が可能である点が挙げられる。亜硫酸塩以外にも糖類やタンニン酸等が開発されているが、糖類やタンニン酸等は、低温での反応性が亜硫酸に劣り、薬注点近傍でキレート腐食を生じる場合があり、また価格が亜硫酸よりも高価である。このため、ヒドラジンに代わる脱酸素剤としては、亜硫酸塩が広く用いられている。
【0007】
しかし、亜硫酸塩の欠点として亜硫酸が酸素と反応性が高い故に、使用時に薬注タンク内で溶解させ水溶液として存在する際に、空気中の酸素と反応して、水溶液中の亜硫酸濃度が低下し、経時的に脱酸素効果が低下するという問題がある。
また、亜硫酸塩は酸素と反応することで腐食性アニオンである硫酸イオンが生成する。したがって、亜硫酸塩の劣化を想定して過剰に亜硫酸を注入した場合には、ボイラ中の硫酸イオンが高濃度となり、激しい腐食を生じることがある。
【0008】
亜硫酸塩の欠点を改良する技術として、特許文献3及び4の技術が提案されている。
特許文献3では、亜硫酸塩と、3個以上の水酸基を有する芳香族化合物とを併用する水性脱酸素剤組成物が提案されている。しかし、特許文献3のものは、亜硫酸塩と併用する芳香族化合物によりブロー水が着色するため使用範囲が限定される問題がある。
特許文献4では、亜硫酸塩と、キレート剤、ソルビン酸又はその塩を併用する安定剤が提案されている。しかし、キレート剤は添加量が万一不足となったときに酸素共存下においては腐食性がさらに増すリスクがあり、ソルビン酸は溶解性が低いため作業性が悪く、ソルビン酸塩は、カリウム塩の場合、過熱器や蒸気タービンを有する場合の微量のキャリーオーバによるアルカリ腐食のリスクが高くなる問題があり、ナトリウム塩の場合、吸湿性が高く粉末での保存性が悪い問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭50−86489号公報
【特許文献2】特開昭61−125497号公報
【特許文献3】特公昭63−59755号公報
【特許文献4】特開平9−308824号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような状況下になされたものであり、硬度成分が含まれる給水に対して、スケール成分の付着を十分に抑制し、効率的にスラッジを排出するととともに、亜硫酸塩の水溶液中での劣化を抑制することで、高効率かつ安定的に蒸気発生設備の運転を可能とする、蒸気発生設備の水処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決すべく、本発明は、次の[1]〜[4]を提供する。
[1]硬度成分を1〜50mgCaCO3/L含む給水を用いる蒸気発生設備において、給水に対して、下記の(a−1)と(a−2)とを含む(a)スケール防止剤と、下記の(b−1)と、(b−2)又は(b−3)とを含む(b)脱酸素剤を添加する、蒸気発生設備の水処理方法。
(a−1)アクリル酸/2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸共重合体及び/又はその塩
(a−2)ホスホン酸及び/又はその塩
(b−1)亜硫酸及び/又はその塩
(b−2)エリソルビン酸及び/又はその塩
(b−3)アスコルビン酸及び/又はその塩
[2]前記ホスホン酸が、1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸である、上記[1]に記載の蒸気発生設備の水処理方法。
[3]前記アクリル酸/2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸共重合体のアクリル酸と、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸とのモノマーのモル比が、90:10〜50:50である、上記[1]又は[2]に記載の蒸気発生設備の水処理方法。
[4]給水の全硬度成分に対して、質量基準で、前記スケール防止剤を0.1〜1.0倍添加する、上記[1]〜[3]の何れかに記載の蒸気発生設備の水処理方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の蒸気発生設備の水処理方法によれば、硬度成分が含まれる給水に対して、スケール成分の付着を十分に抑制し、効率的にスラッジを排出するととともに、亜硫酸塩の水溶液中での劣化を抑制することで、高効率かつ安定的に蒸気発生設備を運転することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明を実施するための蒸気発生設備の一実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の蒸気発生設備の水処理方法は、硬度成分を1〜50mgCaCO3/L含む給水を用いる蒸気発生設備において、給水に対して、下記の(a−1)と(a−2)とを含む(a)スケール防止剤と、下記の(b−1)と、(b−2)又は(b−3)とを含む(b)脱酸素剤を添加する工程を有してなるものである。
(a−1)アクリル酸/2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸共重合体及び/又はその塩
(a−2)ホスホン酸及び/又はその塩
(b−1)亜硫酸及び/又はその塩
(b−2)エリソルビン酸及び/又はその塩
(b−3)アスコルビン酸及び/又はその塩
【0015】
本発明の水処理方法の対象は、ボイラ等の蒸気発生設備である。また、本発明の蒸気発生設備の水処理方法は、硬度成分を1〜50mgCaCO3/L含む給水を用いる蒸気発生設備を対象とする。なお、硬度成分の濃度が高すぎるとスケール防止効果が不十分になりやすいため、給水の硬度成分は1〜30mgCaCO3/Lであることが好ましい。
なお、本発明における硬度成分の濃度(単位:mgCaCO3/L)は、マグネシウム、カルシウム等の硬度成分を炭酸カルシウム換算したものである。
【0016】
蒸気発生設備は、運転圧力が4.0MPa以下であることが好ましい。運転圧力を4.0MPa以下とすることにより、亜硫酸塩の分解を抑制し、スケール防止剤の熱安定性を良好にしやすくできる。
【0017】
図1は、本発明を実施するための蒸気発生設備の一実施形態を示す図である。
図1は、復水タンク1、復水ライン11、補給水タンク2、補給水ライン21、給水タンク3、給水ライン31、薬注タンク4、薬注配管41、蒸気発生部(ボイラ缶)5、蒸気供給ライン51及びドレン回収ライン52を有する、循環式の蒸気発生設備6を示している。なお、図示しないが、給水タンク3又は給水ライン31には、給水系の全硬度成分濃度を測定する機器が接続されていることが好ましい。
【0018】
[スケール防止剤]
スケール防止剤は、下記の(a−1)と(a−2)とを含むものである。
(a−1)アクリル酸/2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸共重合体及び/又はその塩
(a−2)ホスホン酸及び/又はその塩
【0019】
<(a−1)アクリル酸/2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸共重合体及び/又はその塩>
アクリル酸/2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸共重合体(AA/AMPS)は、モノマー単位として、アクリル酸と、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸とを有する共重合体である。
AA/AMPSの重量平均分子量は2,000〜80,000であることが好ましく、3,000〜70,000であることがより好ましい。重量平均分子量を2,000以上80,000以下とすることにより、より高いスケール防止効果を得られる。
【0020】
AA/AMPS中における、アクリル酸と、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸とのモノマーのモル比は、99:1〜5:95であることが好ましく、90:10〜50:50であることがより好ましい。AAとAMPSとのモル比を前記範囲とすることにより、より高いスケール防止効果を得られる。
【0021】
AA/AMPSの塩は、上記AA/AMPSの構成単位の少なくとも一部にアクリル酸塩及び/又は2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸塩を含むものである。すなわち、本発明においてAA/AMPSの塩とは、AA/AMPSの完全中和物のみならず、AA/AMPSの部分中和物を含むものとする。
AA/AMPSの塩は、上記AA/AMPSのナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、マグネシウム塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、アミン塩等が挙げられる。これらAA/AMPSの塩の中でも、経済性の観点からナトリウム塩が好適である。
AA/AMPSの塩は、そのベースとなるAA/AMPSが上記の重量平均分子量を満たすことが好ましい。
【0022】
AA/AMPSの塩は、例えば、AA/AMPSを中和することにより得ることができる。また、原料モノマーであるアクリル酸及び/又は2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸を中和して、アクリル酸塩及び/又は2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸塩として、これらを用いて共重合してAA/AMPSの塩としてもよい。
AA/AMPS又はその原料モノマーの中和剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム等のアルカリ金属系の中和剤の他、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、アンモニア、炭酸アンモニウム、モルフォリン、ジエチルエタノールアミン等が挙げられる。これら中和剤は、後述するホスホン酸、亜硫酸、エリソルビン酸、アスコルビン酸の中和剤としても用いることができる。
【0023】
<(a−2)ホスホン酸及び/又はその塩>
ホスホン酸としては、1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸(以下、「HEDP」と称する場合もある。)、2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸(以下、「PBTC」と称する場合もある。)、アミノトリメチレンホスホン酸、ヒドロキシホスホノ酢酸等が挙げられる。これらのホスホン酸の中でも、米国FDA規格ボイラ用添加物に記載されており、安全性の観点からHEDPが好適である。
【0024】
ホスホン酸の塩は、ホスホン酸のナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、マグネシウム塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、アミン塩等が挙げられる。これらホスホン酸の塩の中でも、経済性の観点からナトリウム塩が好適である。
ホスホン酸の塩は、上記例示したホスホン酸を中和することにより得ることができる。
【0025】
上記(a−1)と(a−2)は、質量比が1:1〜10:1であることが好ましく、2:1〜8:1であることがより好ましい。(a−1)が1に対して(a−2)を1以下とすることにより、スケール付着を十分に抑制でき、(a−1)が10に対して(a−2)を1以上とすることにより、効果的に硬度成分を排出できる。
【0026】
スケール防止剤は、本発明の効果を害しない範囲で、上記(a−1)及び(a−2)以外の成分を含んでいてもよい。但し、スケール防止剤の全固形分に対して、(a−1)及び(a−2)を合計で90質量%以上含むことが好ましく、95質量%以上含むことがより好ましく、100質量%含むことがさらに好ましい。
【0027】
<添加量、添加箇所>
スケール防止剤は、給水の全硬度成分(CaCO3換算)に対して、質量基準で、0.1〜1.0倍添加することが好ましく、0.2〜0.8倍添加することが好ましく、0.3〜0.6倍添加することがさらに好ましい。例えば、給水の全硬度成分の濃度が20mgCaCO3/Lの場合、スケール防止剤はその有効成分濃度が2〜20mg/Lとなるように添加することが好ましい。
全硬度成分に対してスケール防止剤を0.1倍以上添加することにより、スケール防止効果を十分に得ることができ、1.0倍以下添加することにより、コストを抑え、また、AA/AMPSがゲル化することを防止できる。
【0028】
図1では、給水タンク3中にスケール防止剤を添加しているが、スケール防止剤の添加箇所は他の箇所であってもよい。具体的には、スケール防止剤は、補給水タンク、補給水ライン、給水タンク、給水ライン、復水タンク及び復水ラインから選ばれる何れかの箇所で添加することが好ましく、給水タンク及び給水ラインの何れかの箇所で添加することがより好ましい。
【0029】
<スケール防止剤の剤型>
スケール防止剤は、水溶液の剤型が好ましいが、粉末やペレット状の固体でもよい。固体の場合は使用直前に溶解タンク(薬注タンク)にて溶解して水溶液状にして使用するのが好ましい。
また、AA/AMPS及び/又はその塩と、ホスホン酸及び/又はその塩とは、各々独立した剤型でもよく、両者を混合して一剤化した剤型でもよい。一剤化した剤型の場合、保管スペースが小さくて済み、混合する手間を省くことができる点で好適である。
【0030】
[脱酸素剤]
本発明で用いる脱酸素剤は、下記の(b−1)と、(b−2)又は(b−3)とを含有してなるものである。
(b−1)亜硫酸及び/又はその塩
(b−2)エリソルビン酸及び/又はその塩
(b−3)アスコルビン酸及び/又はその塩
【0031】
(b−1)の亜硫酸及び/又はその塩は、初期の脱酸素能力には優れるが、酸素との反応性が高すぎるため、経時的に脱酸素能力が低下する傾向にある。本発明では、(b−1)の亜硫酸及び/又はその塩と、(b−2)又は(b−3)とを併用することにより、経時的な亜硫酸又はその塩の減少率を抑え、初期段階及びその後の脱酸素能力を良好にすることができ、ひいては耐腐食性を良好にすることができる。
【0032】
亜硫酸の塩、エリソルビン酸の塩、アスコルビン酸の塩としては、これら酸のナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、マグネシウム塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、アミン塩等が挙げられる。これら塩の中でも、経済性、製剤時の安定性の観点から、カリウム塩又はナトリウム塩が好適である。亜硫酸の塩、エリソルビン酸の塩、アスコルビン酸の塩は、亜硫酸、エリソルビン酸、アスコルビン酸を中和することにより得ることができる。
【0033】
上記(b−1)〜(b−3)中における(b−2)及び/又は(b−3)の含有割合[(b−2)+(b−3)/(b−1)+(b−2)+(b−3)]×100は、質量基準で、0.02〜20%であることが好ましく、0.1〜10%であることがより好ましい。(b−1)、(b−2)、(b−3)が塩の場合、そのベースとなる酸が前記の比率を満たすことが好ましい。(b−2)及び/又は(b−3)の含有割合を0.02%以上とすることにより、有効に亜硫酸濃度の低下を防止でき、20%以下とすることにより、水溶液の良好な安定性が得られる。
【0034】
脱酸素剤は、本発明の効果を害しない範囲で、上記(b−1)、(b−2)及び(b−3)以外の成分を含んでいてもよい。但し、脱酸素剤の全固形分に対して、(b−1)、(b−2)及び(b−3)を合計で90質量%以上含むことが好ましく、95質量%以上含むことがより好ましく、100質量%含むことがさらに好ましい。
【0035】
<添加量、添加箇所>
溶解(薬注)タンクでの亜硫酸の希釈濃度は、脱酸素及び溶解度の観点から、1〜30質量%であることが好ましく、5〜20質量%であることがより好ましい。亜硫酸の塩の場合、そのベースとなる亜硫酸が上記の濃度を満たすことが好ましい。
また、亜硫酸又はその塩は、給水の溶存酸素濃度に対して、当量以上の量を添加することが好ましく、当量以上〜2倍量以下を添加することがより好ましい。
【0036】
脱酸素剤の添加箇所は限定されないが、ボイラ缶内の腐食を防止する観点から、脱酸素剤は、溶存酸素の再溶解のない給水ラインに添加するのが好ましい。
なお、脱酸素剤を給水中の溶存酸素濃度の当量以上添加するために、給水ラインには、給水の溶存酸素濃度を測定する機器が接続されていることが好ましい。
【0037】
<脱酸素剤の剤型>
脱酸素剤は、水溶液の剤型が好ましいが、粉末やペレット状の固体でもよい。固体の場合は使用直前に溶解タンク(薬注タンク)にて溶解して水溶液状にして使用するのが好ましい。
また、(b−1)、(b−2)及び(b−3)は、各々独立した剤型でもよく、混合して一剤化した剤型でもよい。一剤化した剤型の場合、保管スペースが小さくて済み、混合する手間を省くことができる点で好適である。なお、亜硫酸を希釈した水溶液は、7日以内に使用することが好ましい。
また、スケール防止剤と脱酸素剤とを高濃度で混合すると、品質の安定性が不十分となる可能性があることから、両者は一剤としないことが好ましい。
【0038】
<スケール防止剤(a)と脱酸素剤(b)の比率>
本発明では、[スケール防止剤(a)/脱酸素剤(b)]の質量比が0.02〜500であることが好ましい。
【0039】
<任意添加成分>
本発明においては、本発明の目的が損なわれない範囲で、必要に応じて、蒸気発生設備の系内の何れかの箇所で、各種の添加成分、例えば、清缶剤、復水処理剤を有効量添加することできる。これらの添加成分は一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0040】
また、本発明では、腐食防止の観点から、蒸気発生部のpHを9.0〜12.0とすることが好ましい。蒸気発生部のpHは、アルカリ剤の添加や、ブロー量及び/又は給水量の増減により調整することができる。pHの調整のし易さの観点からは、アルカリ剤を添加する手段が好適である。
アルカリ剤としては、例えばアルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属リン酸塩、中和性アミン等が挙げられる。
【実施例】
【0041】
次に、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。なお、実施例において、「HEDP」は1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸、「PBTC」は2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸、「PAA」はポリアクリル酸、「AA/AMPS」はモノマー単位としてアクリル酸と、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸とを有する共重合体を示す。
【0042】
[実施例1〜8、比較例1〜4]
表2の組成からなる実施例1〜8及び比較例1〜4のスケール防止剤及び脱酸素剤を、給水中で表2の濃度になるように添加して、以下の試験を行った。結果を表2に示す。
(試験装置)
実機水管ボイラの水循環を模擬したステンレス製電気式テストボイラを用いて、伝熱面へのスケール付着量及び硬度成分の排出率の評価を行った。
テストボイラの運転条件は、圧力2.0MPa、蒸発量8L/h、濃縮倍率10倍とした。また、給水には、重炭酸ナトリウム、ケイ酸3号、塩化ナトリウム、塩酸、硫酸ナトリウム、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム(試薬、キシダ化学製)を用いて、表1の条件に調整した合成水を用いた。また、給水温度をヒーターで30℃に保ち、溶存酸素濃度が飽和(7.5mgO2/L)になるように空気を給水タンク内で曝気しながら試験を行った。試験期間は加熱開始後18時間とした。なお、スケール防止剤及び脱酸素剤は、テストボイラの給水ラインにプランジャーポンプを用いて、給水ポンプと連動で表2の添加濃度となるように注入した。
【0043】
(スケール付着量)
スケール付着量の評価は、テストチューブへのスケール付着量で評価した。具体的には、テストチューブとして、ボイラの伝熱面を再現するために、内部に電気ヒーターが挿入されたステンレス製のテストチューブ(伝熱面面積φ37mm×250mm)を用いた。該テストチューブを試験終了後に取り出し、乾燥させた後、ステンレス製の金属片で掻き取り、重量を測定した。
【0044】
(硬度成分排出率)
テストボイラの連続ブローから排出されるボイラ水を試験終了1時間前に採取し、採取したボイラ水に塩酸を添加し、煮沸して硬度成分を溶解する。硬度成分を溶解した後、ボイラ水中のカルシウム濃度及びマグネシウム濃度を原子吸光分析により測定し、炭酸カルシウム換算した濃度を算出する。さらに、給水中の全硬度成分と濃縮倍数から理論濃度を算出し、[炭酸カルシウム換算濃度/理論濃度]×100の式により、硬度成分の排出率を決定した。
【0045】
(腐食性試験)
鋭敏化した冷間圧延鋼板(SPCC)製のテストピース(1mm×15mm×50mm)をテストボイラ内の給水点近傍に設置し、テストピースに発生した孔食数を目視で評価した。テストピースの鋭敏化は脱脂したテストピースを硝酸に浸漬した後、水で十分に洗浄し、すばやく乾燥させて行った。
【0046】
【表1】
【0047】
【表2】
【0048】
実施例1〜8においては、スケールの伝熱面付着量が少なく、硬度成分排出率も高くなり、AA/AMPSと、ホスホン酸とを併用することによる相乗効果が確認できる。また、実施例1〜8のものは、孔食の発生もなかった。
一方、比較例においては、スケールの伝熱面付着量が多く、硬度成分排出率も実施例よりも小さくなった。
【0049】
[実施例9〜16、比較例5〜6]
(亜硫酸の残留率)
表3に示す配合からなる脱酸素剤A〜Eを純水で10質量%、5質量%、2質量%に希釈した。希釈液を、蓋に直径5mmの穴を開けた容積1Lのポリプロピレン製の溶解タンクを模擬した容器内で、室温で7日間保管した。7日間保管後に希釈液の亜硫酸濃度を測定し、初期の亜硫酸濃度に対する残留率を算出した。結果を表3に示す。
【0050】
【表3】
【0051】
表3より、亜硫酸ナトリウムに加えて、エリソルビン酸ナトリウム又はアスコルビン酸ナトリウムを用いた場合、亜硫酸の残留率を向上できることが確認できる。
【0052】
表4のスケール防止剤及び脱酸素剤を、給水中で表4の濃度になるように添加して、スケール付着量及び腐食性の評価を行った。テストボイラ、ボイラの運転条件、給水は実施例4と同様として、運転時間は加熱開始後72時間とした。結果を表4に示す。
なお、表4の脱酸素剤の種類「A〜E」は、表3の脱酸素剤A〜Eを指す。例えば、実施例9では、表3の脱酸素剤Aの10%希釈液を、給水中で亜硫酸濃度が45mg/Lとなるように添加している。
【0053】
【表4】
【0054】
表4から明らかなように、実施例9〜16においては、テストピースに孔食の発生は認められなかった。この結果から、亜硫酸(塩)に加えて、エリソルビン酸(塩)又はアスコルビン酸(塩)を配合することにより、亜硫酸塩の劣化が防止され、ボイラの腐食が防止されることが確認できる。
【符号の説明】
【0055】
1:復水タンク 11:復水ライン
2:補給水タンク 21:補給水ライン
3:給水タンク 31:給水ライン
4:薬注タンク 41:薬注配管
5:蒸気発生部(ボイラ缶)51:蒸気供給ライン 52:ドレン回収ライン
6:蒸気発生設備
図1