特許第6156553号(P6156553)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6156553CIGS太陽電池用ガラス基板及びCIGS太陽電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6156553
(24)【登録日】2017年6月16日
(45)【発行日】2017年7月5日
(54)【発明の名称】CIGS太陽電池用ガラス基板及びCIGS太陽電池
(51)【国際特許分類】
   C03C 3/087 20060101AFI20170626BHJP
   C03C 3/085 20060101ALI20170626BHJP
   C03B 18/02 20060101ALI20170626BHJP
   C03C 17/22 20060101ALI20170626BHJP
   H01L 31/0392 20060101ALI20170626BHJP
【FI】
   C03C3/087
   C03C3/085
   C03B18/02
   C03C17/22 Z
   H01L31/04 284
【請求項の数】7
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2016-113363(P2016-113363)
(22)【出願日】2016年6月7日
(62)【分割の表示】特願2016-501470(P2016-501470)の分割
【原出願日】2015年9月17日
(65)【公開番号】特開2016-196404(P2016-196404A)
(43)【公開日】2016年11月24日
【審査請求日】2016年6月7日
(31)【優先権主張番号】特願2014-191183(P2014-191183)
(32)【優先日】2014年9月19日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】旭硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】林 英明
(72)【発明者】
【氏名】黒岩 裕
(72)【発明者】
【氏名】梶原 貴人
(72)【発明者】
【氏名】安部 朋美
(72)【発明者】
【氏名】川本 泰
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 祐一
【審査官】 飯濱 翔太郎
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/108790(WO,A1)
【文献】 特開2013−147417(JP,A)
【文献】 特開2012−250902(JP,A)
【文献】 特開2013−170087(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00−14/00
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス基板の第一面の表面から深さ5000nm以上において、下記酸化物基準の質量百分率表示で、
SiOを45〜75%、
Alを8〜14%、
NaOを3.5%以上7%未満
Oを3〜8%含み、
NaO+KOが〜15%、
SiO−Alが45%未満、
MgO+CaO+SrO+BaOが1〜30%である、ガラス母組成を有し、
上記ガラス母組成100質量部に対しFeを酸化物基準で0.100〜0.2質量部含む、CIGS太陽電池用ガラス基板であって、
ガラス基板の第一面において、2次イオン質量分析法によってガラス基板表面から深さ方向に54Fe/30Siのカウントを測定し、54Fe/30Siのカウントのピーク位置におけるガラス基板表面からの距離「A」が6〜18(μm)であり、
ガラス基板の第一面に対向する第二面において、ICP発光分光分析法により測定した単位面積当たりのSn原子の量「B」が0.5〜4(μg/cm)であり、
前記「B」に対する前記「A」の比「A/B」が5〜15(μm/(μg/cm))である、CIGS太陽電池用ガラス基板。
【請求項2】
ガラス基板の第一面の表面から深さ5000nm以上において、酸化物基準の質量百分率表示で、9×SiO+15×Alが570%〜840%である、請求項1に記載のCIGS太陽電池用ガラス基板。
【請求項3】
前記ガラス母組成が、さらに
MgOを0〜3%、
CaOを4〜8%、
SrOを5〜18%、
BaOを0〜5%含む、
請求項1または2に記載のCIGS太陽電池用ガラス基板。
【請求項4】
BaOが2%以下である、請求項1から3のいずれか1項に記載のCIGS太陽電池用ガラス基板。
【請求項5】
ガラス転移温度が580℃以上である、請求項1から4のいずれか1項に記載のCIGS太陽電池用ガラス基板。
【請求項6】
ガラス転移温度が630℃以上である、請求項1から5のいずれか1項に記載のCIGS太陽電池用ガラス基板。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載のCIGS太陽電池用ガラス基板、及び前記CIGS太陽電池用ガラス基板の第一面に形成されCIGS系化合物を含む光電変換層を有する、CIGS太陽電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CIGS太陽電池用ガラス基板及びCIGS太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池では、ガラス基板に光電変換層として半導体の膜が形成される。太陽電池に用いられる半導体として、カルコパイライト結晶構造を持つ11−13族、11−16族化合物半導体や、立方晶系あるいは六方晶系の12−16族化合物半導体は、可視から近赤外の波長範囲の光に対して大きな吸収係数を有している。そのために、高効率薄膜太陽電池の材料として期待されている。代表的な例として、Cu(In,Ga)Se(以下、CIGSと称することがある。)が挙げられる。
【0003】
このような太陽電池用ガラス基板として、アルカリ金属、特にNaを含むガラス基板を用いることで、太陽電池の光電変換効率を高めることができることが知られている。ガラス基板にCIGS膜等の光電変換層が形成される場合、ガラス基板が光電変換層の形成工程で加熱処理されることで、ガラス基板に含まれるNa原子がガラス基板表面から光電変換層に拡散していく。これによって、光電変換層のキャリア濃度が高まり、光電変換効率を高めることができる。
【0004】
特許文献1では、光電変換装置用のガラス基板において、透過率を高めるために、溶融錫に接して成形された表面(ボトム面)から10μmの深さまでにおけるSnO換算の酸化錫濃度の最大値が1質量%以下であり、5μmの深さまでにおけるFe換算の酸化鉄濃度の最大値が0.2質量%以下であるガラス基板を提案している。
特許文献1では、ボトム面から侵入する微量成分を制限して、透過率を高く保持することを提案している。
【0005】
特許文献2では、光電変換装置用のガラス基板において、透過率を高め、アルカリ溶出を抑制するために、ガラス基板のボトム面の最表面に存在するスズの陽イオンを含有するスズ層を除去して、ボトム面とトップ面の可視光反射率の差を限定するガラス基板を提案している。
特許文献2では、スズ層にスズの陽イオンが多量に含まれていると、ボトム面での反射率は高くなり、ボトム面からのアルカリ溶出量は少なくなるが、透過率を高めるために、ボトム面のスズ層を除去することが提案されている。
また、特許文献2では、スズ層除去後のボトム面に適度な量のスズの陽イオンを含ませて、アルカリ溶出量を小さくして、耐候性や化学的耐久性を高めるために、スズ層の除去後のボトム面とトップ面の可視光反射率の差を限定することが提案されている(段落0031及び段落0032参照)。
【0006】
特許文献3では、フラットパネルディスプレイ用のガラス基板において、ガラス基板表面に銀電極を形成する場合に生じる黄変を抑制するために、所定のガラス組成であって、ガラス基板のトップ面から深さ10μmまでの表層における平均Fe2+含有量がFe換算で0.055%以下であるガラス基板を提案している。
【0007】
特許文献4では、フラットパネルディスプレイ用のガラス基板において、ガラス基板表面に銀電極を形成する場合に生じる黄変を抑制するために、所定のガラス組成であって、ガラス基板のトップ面から深さ10μmまでの表層における平均Fe2+含有量がFe換算で0.0725%以下であるガラス基板を提案している。
【0008】
特許文献3及び特許文献4では、ガラス基板のトップ面で平均Fe2+含有量を低減することで、銀電極形成時に銀イオンの還元作用によって、ガラス基板の黄変を防止することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第4251552号公報
【特許文献2】特開2006−206400号公報
【特許文献3】特開2011−11951号公報
【特許文献4】特許第5282572号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1及び特許文献2では、ガラス基板のボトム面の酸化錫及びスズの陽イオンを低減させて、ガラス基板の透過率を高めている。特許文献2では、さらに、ガラス基板のボトム面のスズの陽イオンを一定以上にして、アルカリ成分の溶出を制限し、耐候性を高めている。
しかしながら、特許文献1及び特許文献2では、ガラス基板の透過率を高めることを主目的としているため、ガラス基板の耐候性が十分に得られるものではない。
また、ガラス基板を太陽電池用ガラス基板に用いる場合には、ガラス基板のトップ面から太陽電池の光電変換層へのアルカリ成分の拡散量を高めることが望まれる。
【0011】
特許文献3及び特許文献4では、フラットディスプレイパネル用ガラス基板において、銀電極形成時の黄変を防止するために、ガラス基板のトップ面のFe2+含有量を制限している。
しかしながら、ガラス基板を太陽電池用ガラス基板に用いる場合には、ガラス基板のトップ面から太陽電池の光電変換層へのアルカリ成分の拡散量を高めることが望まれる。
また、ガラス基板のボトム面において、耐候性を高めることも重要である。
【0012】
本発明の一目的としては、ガラス基板を太陽電池用ガラス基板として用いる場合に、ガラス基板から光電変換層へアルカリ成分を拡散させて、太陽電池の変換効率を高めるとともに、ガラス基板の耐候性を高めることである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一側面としては、ガラス基板の第一面の表面から深さ5000nm以上において、下記酸化物基準の質量百分率表示で、SiOを45〜75%、Alを8〜14%、NaOを3.5〜7%、KOを3〜8%含み、NaO+KOが5〜15%、SiO−Alが45%未満、MgO+CaO+SrO+BaOが1〜30%である、ガラス母組成を有し、上記ガラス母組成100質量部に対しFeを酸化物基準で0.100〜0.2質量部含む、CIGS太陽電池用ガラス基板であって、ガラス基板の第一面において、2次イオン質量分析法によってガラス基板表面から深さ方向に54Fe/30Siのカウントを測定し、54Fe/30Siのカウントのピーク位置におけるガラス基板表面からの距離「A」が6〜18(μm)であり、ガラス基板の第一面に対向する第二面において、ICP発光分光分析法により測定した単位面積当たりのSn原子の量「B」が0.5〜4(μg/cm)であり、前記「B」に対する前記「A」の比「A/B」が5〜15(μm/(μg/cm))である、CIGS太陽電池用ガラス基板である。
【0014】
本発明の他の側面としては、上記CIGS太陽電池用ガラス基板、及び前記CIGS太陽電池用ガラス基板の第一面に形成されCIGS系化合物を含む光電変換層を有する、CIGS太陽電池である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ガラス基板を太陽電池用ガラス基板として用いる場合に、ガラス基板から光電変換層へアルカリ成分を拡散させて、太陽電池の変換効率を高めるとともに、ガラス基板の耐候性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、ガラス基板のトップ面の表面において54Fe/30SiのSIMSプロファイルを示すグラフである。
図2図2は、本発明の一実施形態による太陽電池の一例を模式的に示す断面図である。
図3図3(a)は、実施例において評価用ガラス基板上に作製した太陽電池セルを示し、図3(b)は、その断面図を示す。
図4図4は、実施例において評価用ガラス基板上に作製した複数の太陽電池セルの平面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<ガラス基板>
本発明の一実施形態によるガラス基板としては、ガラス基板の第一面の表面から深さ5000nm以上において、酸化物基準の質量百分率表示で、NaO+KOが1〜30%であり、ガラス基板の第一面において、2次イオン質量分析法によってガラス基板表面から深さ方向に54Fe/30Siのカウントを測定し、54Fe/30Siのカウントのピーク位置におけるガラス基板表面からの距離「A」が6〜18(μm)であり、ガラス基板の第一面に対向する第二面において、ICP発光分光分析法により測定した単位面積当たりのSn原子の量「B」が0.5〜4(μg/cm)であり、「B」に対する「A」の比「A/B」が5〜15(μm/(μg/cm))であることを特徴とする。
以下の説明では、ガラス基板の第一面をトップ面(T面)と称し、ガラス基板の第二面をボトム面(B面)とも称する。
典型的には、ガラス基板が、フロート法板ガラス製造方法によって製造された板ガラスからなり、同製造方法において成形中のガラスリボン(すなわち、板状ガラス帯状体)がフロート浴(錫浴)の錫面と接した側の面をガラス基板のボトム面(B面)と称し、フロート浴(錫浴)の錫面と接しない反対面(すなわち、フロート浴の上部空間のHおよびN雰囲気と接する側の面)をガラス基板のトップ面(T面))と称する。
また、「A」をFe還元層の厚さ、「B」をSn侵入量と称することがある。
【0018】
本実施形態によれば、ガラス基板を太陽電池用ガラス基板として用いる場合に、ガラス基板から光電変換層へアルカリ成分を拡散させて、太陽電池の変換効率を高めるとともに、ガラス基板の耐候性を高めることができる。
【0019】
本実施形態によるガラス基板は、太陽電池用ガラス基板に好ましく用いることができ、より好ましくはCIGS太陽電池用ガラス基板に用いることができる。この場合、ガラス基板のT面をCIGS膜等の光電変換層の成膜面とし、ガラス基板のB面を裏面として光電変換層の非成膜面として取り扱うことができる。
【0020】
太陽電池は、CIGS膜等の光電変換層へNa原子やK原子のようなアルカリ金属のドーピングによって、欠陥密度を低下させ、キャリア濃度を向上させることができる。また、光電変換層が形成されるガラス基板の原料にNaOやKOを含ませることで、このNa原子やK原子は、光電変換層の形成工程の加熱処理によって、ガラス基板表面から光電変換層に拡散させることができる。このように、ガラス基板表面から光電変換層に拡散するアルカリ成分は、多い方が望ましい。
【0021】
本発明では、ガラス基板からの光電変換層へのアルカリ成分の拡散は、ガラス基板の光電変換層が成膜される面(T面)において、Fe還元層の厚さが影響していることを見出した。
【0022】
また、ガラス基板のT面のFe還元層の厚さとともに、ガラス基板のB面のSn浸入量を併せて制御することで、ガラス基板のB面の特性の変化を防止して、ガラス基板全体の耐候性を改善することができる。
【0023】
本実施形態では、ガラス基板の第一面(T面)において、2次イオン質量分析法(SIMS)によってガラス基板表面から深さ方向に54Fe/30Siのカウントを測定し、54Fe/30Siのカウントのピーク位置におけるガラス基板表面からの距離「A」(Fe還元層の厚さ)が6〜18(μm)である。
【0024】
ここで、Fe還元層は、ガラス基板中の酸化鉄がFe2+の状態で存在しやすい層である。このFe還元層は、ガラス基板をフロート成形する際に、スズ浴中でガラス基板のトップ面がH雰囲気に曝されることで、ガラス基板のトップ面の表面で、酸化鉄(Fe)のFe3+がFe2+に還元されることで生成されると考えられる。
【0025】
SIMSを用いてFe還元層の厚さを測定する具体的な方法について説明する。
SIMSを用いて54Fe/30Siのカウントを測定する具体的な測定装置および条件は、以下のとおりである。
測定装置:アルバック・ファイ社製ADEPT1010。
一次イオン:O2+
加速電圧:5kV。
ビーム電流:1μA。
ラスターサイズ:200×200μm
試料角度:45°。
【0026】
まず、SIMSを用いて、ガラス基板のトップ面からボトム面に向けて、ガラス基板の54Fe/30Siのカウントを測定する。
次いで、ガラス基板のトップ面からの深さをX軸として、54Fe/30Siのカウントのピーク位置を検出する。
このピーク位置におけるトップ面からの深さをFe還元層の厚さ(μm)として用いる。
ここで、ピーク位置としては、ガラス基板の深さ方向の測定範囲において、54Fe/30Siのカウントが最大値を示す位置である。
【0027】
一例として、ガラス基板のトップ面の表面において、54Fe/30SiのSIMSプロファイルを図1に示す。図1において、X軸は、ガラス基板のトップ面から深さ方向の距離(μm)を表し、Y軸は、54Fe/30Siのカウントを表す。
図1において、54Fe/30Siのカウントのピーク位置は、ガラス基板のトップ面から深さ4.6μmの位置である。したがって、Fe還元層厚さは、4.6μmである。
【0028】
図1において、54Fe/30Siのカウントのピーク位置の付近では、下記式の反応が起こっており、FeやSnが偏析しているものと推察される。
【化1】
【0029】
ガラス基板のトップ面の表層部に、Fe2+が存在することで、トップ面から光電変換層へのアルカリ成分の拡散量を高めることができる。本発明では、この現象は、ガラス基板のトップ面の表面から深さ方向への分布状態、すなわちFe還元層の厚さに起因することが見出された。
【0030】
T面のFe還元層の厚さが6μm以上であることで、トップ面から光電変換層へのアルカリ成分の拡散を促進して、光電変換率を高めることができる。Fe還元層に含まれるFe2+は、ガラス基板のフロート成形の際にガラス基板の表層でアルカリ成分をトラップし、表層部のアルカリ成分濃度を高めることができる。このように表層部のアルカリ成分濃度が高いガラス基板では、光電変換層の形成の際に、加熱処理によって、アルカリ成分がガラス基板表面から光電変換層に拡散することを促進することができる。
このFe還元層の厚さは、好ましくは7μm以上であり、より好ましくは8μm以上である。
【0031】
T面のFe還元層の厚さが18μm超であると、ガラス基板の強度が低下したり、化学的耐久性が低下したりすることがある。また、ガラス基板の透過率が低下することがある。
このFe還元層の厚さは、好ましくは15μm以下であり、より好ましくは11μm以下であり、さらに好ましくは10μm以下である。
【0032】
本実施形態では、ガラス基板の第二面(B面)において、ICP発光分光分析法により測定した単位面積当たりのSn原子の量「B」(Sn侵入量)が0.5〜4(μg/cm)である。
【0033】
Sn侵入量の測定方法の一例としては、まず、ガラス基板のB面を酸性液体によってエッチングし、この溶液中のSn原子量(μg)をICP発光分光分析法によって測定する。これによって、ガラス基板のB面に存在するSn原子の総量を測定することができる。次に、測定したSn原子量を、ガラス基板のB面の測定領域の面積(cm)で除すことで、単位面積当たりのSn原子量であるSn侵入量(μg/cm)を求めることができる。
酸性液体の具体例としては、フッ化水素酸溶液を用いることができる。
エッチング量は、ガラス基板のB面表面から深さ15〜20μmであることが好ましい。ガラス基板のB面表面から深さ15μm以上をエッチングすることで、B面表面から侵入したSn原子をほぼ全量で回収することができる。また、ガラス基板のB面表面から深さ20μmを超えてエッチングしても、B面表面から侵入したSn原子をさらに回収することはない。
ICP発光分光分析法には、エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製「SPS3100」を用いることができる。
【0034】
B面のSn成分は、ガラス基板の製造工程において、フロート成形でB面が溶融スズ浴に接触し、B面にSn成分が侵入することで生成される。
【0035】
B面のSn侵入量が0.5μg/cm以上であることで、ガラス基板のB面からのアルカリ成分の溶出を防止することができ、アルカリ成分が炭酸塩や水酸化物として析出する、いわゆる白ヤケを防止して、耐候性を高めることができる。
このSn侵入量は、好ましくは0.60μg/cm以上であり、より好ましくは、0.80μg/cm以上である。
【0036】
B面のSn侵入量が4μg/cm超であると、ガラス基板の強度が低下したり、化学的耐久性が低下したりすることがある。また、ガラス基板の透過率が低下することがある。
このSn侵入量は、好ましくは3μg/cm以下であり、より好ましくは2μg/cm以下であり、さらに好ましくは1μg/cm以下である。
【0037】
本実施形態では、第二面(B面)のSn侵入量(B)に対する、第一面(T面)のFe還元層の厚さ(A)の比(A/B)が、5〜15(μm/(μg/cm))である。
【0038】
このA/Bが5〜15であることで、ガラス基板のトップ面におけるアルカリ成分の拡散の作用と、ガラス基板のボトム面における耐候性の作用とを、バランスよく得ることができる。
このA/Bは、好ましくは5〜14であり、より好ましくは6〜13であり、さらに好ましくは7〜13である。
【0039】
一つのガラス基板において、トップ面のFe還元層の厚さと、ボトム面のSn侵入量とをそれぞれ独立して制御することは難しく、トップ面のFe還元層の厚さとボトム面のSn侵入量とは相互に作用して制御されるため、A/Bが上記した範囲を満たすことが重要になる。
【0040】
以下、本発明の一実施形態によるガラス基板の組成について説明する。以下の説明において、ガラス基板の組成は、ガラス基板の第一面(トップ面)の表面から深さ5000nm以上のガラス基板の内部において、酸化物基準の質量百分率表示で表す。
ここで、ガラス基板の第一面の表面から深さ5000nm以上とは、ガラス基板の第一面の表面から深さ5000nm以上、かつガラス基板の第二面の表面から深さ5000nm以上である。
本実施形態によるガラス基板の組成に制限はないが、主成分がSiOであり、NaO+KOが1〜30%であることで、太陽電池用ガラス基板として優れた光電変換効率を得ることができる。より好ましくは、NaOを酸化物基準で1〜20%、KOを0〜15%含むガラス基板を用いることができる。
また、本実施形態によるガラス基板の組成は、SiO及びAlを含み、9SiO+15Alが570%〜840%であり、SiO−Alが50%未満であることで、太陽電池用ガラスとして優れた耐熱性を得ることができる。
【0041】
より好ましいガラス基板の組成の一例としては、ガラス基板の第一面の表面から深さ5000nm以上において、下記酸化物基準の質量百分率表示(以下、質量百分率表示を単に「%」とも表記する。)で、
SiOを45〜75%、
Alを0.1〜20%、
MgOを0〜15%、
CaOを0〜15%、
SrOを0〜18%、
BaOを0〜18%、
NaOを1〜20%、
Oを0〜15%含み、
NaO+KOが1〜30%であり、
MgO+CaO+SrO+BaOが1〜40%である、ガラス母組成を有し、
上記ガラス母組成100質量部に対しFeを酸化物基準で0.01〜0.5質量部含むガラス組成が挙げられる。
【0042】
本実施形態によるガラス基板において、上記組成に限定する理由は、以下のとおりである。
【0043】
SiOは、ガラスの骨格を形成する成分であり、45質量%(以下単に%と記載する)未満ではガラスの耐熱性及び化学的耐久性が低下し、平均熱膨張係数が増大するおそれがある。好ましくは48%以上であり、より好ましくは51%以上である。
【0044】
しかし、75%超ではガラスの高温粘度が上昇し、溶解性が悪化する問題が生じるおそれがある。好ましくは70%以下であり、より好ましくは65%以下であり、さらに好ましくは60%以下である。
【0045】
Alは、ガラス転移点温度を上げ、耐候性(ヤケやソラリゼーション)、耐熱性及び化学的耐久性を向上し、ヤング率を上げる成分である。その含有量が0.1%未満であるとガラス転移点温度が低下するおそれがある。また平均熱膨張係数が増大するおそれがある。好ましくは3%以上であり、より好ましくは5%以上であり、さらに好ましくは8%以上である。
【0046】
しかし、20%超では、ガラスの高温粘度が上昇し、溶解性が悪くなるおそれがある。また、失透温度が上昇し、成形性が悪くなるおそれがある。好ましくは18%以下であり、より好ましくは15%以下であり、さらに好ましくは14%以下である。
【0047】
SiOおよびAlは、ガラス基板の耐熱性を増加させる成分であるので、9SiO+15Al(すなわち、(SiOの含有量×9)と(Alの含有量×15)との合計)が、570%以上となる範囲で含有させるのが好ましい。より好ましくは600%以上、さらに好ましくは630%以上、特に好ましくは660%以上である。
しかし、SiOおよびAlは、ガラスの高温粘度を上昇させ、溶解性を悪化させる効果があるので、9SiO+15Alが840%以下となる範囲で含有させるのが好ましい。より好ましくは800%以下、さらに好ましくは760%以下、特に好ましくは720%以下である。
また、耐熱性を増加させるために、SiO−Alは、50%未満であることが好ましい。より好ましくは48%未満、特に好ましくは45%未満である。
【0048】
MgOは、ガラスの溶解時の粘性を下げ、溶解を促進する効果がある成分であり、15%以下で含有させてもよい。好ましくは0.05%以上、より好ましくは0.1%、さらに好ましくは0.2%以上である。
【0049】
しかし、15%超では平均熱膨張係数が増大するおそれがある。また失透温度が上昇するおそれがある。好ましくは10%以下であり、より好ましくは5%以下であり、さらに好ましくは3%以下である。
【0050】
CaOは、ガラスの溶解時の粘性を下げ、溶解を促進する効果があり、15%以下で含有させることができる。好ましくは1%以上であり、より好ましくは2%以上であり、さらに好ましくは3%以上、特に好ましくは4%以上である。しかし、15%超ではガラスの平均熱膨張係数が増大するおそれがある。好ましくは10%以下であり、より好ましくは9%以下であり、さらに好ましくは8%以下である。
【0051】
SrOは、ガラスの溶解時の粘性を下げ、溶解を促進する効果があり、18%以下で含有させることができる。しかし、18%超含有するとガラス基板の平均熱膨張係数が増大するとともに密度が増大し、ガラスが脆くなるおそれがある。15%以下が好ましく、12%以下がより好ましく、10%以下であることがさらに好ましく、9%以下であることが特に好ましい。また、好ましくは0.5%以上、より好ましくは2%以上、さら好ましくは3.5%以上、特に好ましくは5%以上である。
【0052】
BaOは、ガラスの溶解時の粘性を下げ、溶解を促進する効果があり、18%以下で含有させることができる。好ましくは0.5%以上、より好ましくは1%以上、さらに好ましくは1.5%以上である。しかし、18%超含有すると、ガラス基板の平均熱膨張係数が大きくなるおそれがある。また比重も大きくなるとともに密度が増大し、ガラスが脆くなるおそれがある。8%以下が好ましく、5%以下であることがより好ましく、さらに好ましくは3%以下であり、特に好ましくは2%以下である。
【0053】
NaOは、CIGS等の光電変換層を備える太陽電池の発電効率向上に寄与するための成分であり、必須成分である。また、ガラス溶解温度での粘性を下げ、溶解しやすくする効果があるので1〜20%含有させることができる。Naは、ガラス基板上に構成された光電変換層中に拡散し、発電効率を高めることができるが、含有量が1%未満ではガラス基板上の光電変換層へのNa拡散量が不十分となり、発電効率も不十分となるおそれがある。含有量が2%以上であると好ましく、含有量が2.5%以上であるとより好ましく、3%以上であるとさらに好ましく、含有量が3.5%以上であると特に好ましい。
【0054】
NaO含有量が15%を超えるとガラス転移点温度が低下し、平均熱膨張係数が大きくなり、または化学的耐久性が劣化する。含有量が13%以下であると好ましく、含有量が11%以下であるとより好ましく、9%以下であるとさらに好ましく、7%未満であると特に好ましい。
【0055】
Oは、NaOと同様の効果があるため、0〜15%含有させることができる。しかし、15%超では発電効率が低下し、すなわちNaの拡散が阻害され、また、ガラス転移点温度が低下し、平均熱膨張係数が大きくなるおそれがある。3%以上であるのが好ましく、4%以上であるのがより好ましく、5%以上であるのがさらに好ましい。14%以下が好ましく、12%以下であることがより好ましく、10%以下であることが更に好ましく、8%以下であることが特に好ましい。
ここで、ガラス母組成は、上記したSiO、Al、MgO、CaO、SrO、BaO、NaO、およびKOの総量であり、これらの成分は、上述した通りである。
【0056】
ZrOは、ガラスの溶解時の粘性を下げ、溶解を促進し、Tgを上げる効果がある成分であり、上記したガラス母組成のガラスに対して内掛けの割合で、10.5%以下で含有させてもよい。好ましくは0.5%以上で含有させる。より好ましくは1%以上であり、さらに好ましくは1.5%以上であり、特に好ましくは2%以上である。しかし、10.5%超含有すると発電効率が低下し、失透温度が上昇し、またガラス基板の平均熱膨張係数が増大するおそれがある。9%以下が好ましく、7%以下であることがより好ましく、5%以下であることがさらに好ましい。
【0057】
NaO及びKOは、ガラス溶解温度での粘性を十分に下げるために、またCIGS太陽電池の発電効率向上のために、NaO及びKOの合量は、1〜30%とすることができる。好ましくは5%以上であり、より好ましくは8%以上、さらに好ましくは10%以上である。
【0058】
しかし、30%超ではTgが下がりすぎ、平均熱膨張係数が上がりすぎるおそれがある。好ましくは20%以下であり、より好ましくは17%以下、さらに好ましくは15%以下、特に好ましくは13%以下である。
【0059】
MgO、CaO、SrO及びBaOは、ガラスの溶解時の粘性を下げ、溶解を促進させる点から、MgO、CaO、SrO及びBaOの合量は、1〜40%とすることができる。しかし、合量で40%超では平均熱膨張係数が大きくなり、失透温度が上昇するおそれがある。6%以上が好ましく、9%以上がより好ましく、12%以上がさらに好ましく、14%以上が特に好ましい。また、30%以下が好ましく、25%以下がより好ましく、20%以下がさらに好ましい。
【0060】
本実施形態によるガラス基板は、本質的に上記組成からなることが好ましいが、本発明の目的を損なわない範囲で、上記したガラス母組成に対し、内掛けの割合で、その他の成分を、典型的には合計5%以下で含有してもよい。たとえば、耐候性、溶解性、失透性、紫外線遮蔽等の改善を目的に、B、ZnO、LiO、WO、Nb、V、Bi、MoO、P等を含有してもよい。
【0061】
は、溶解性を向上させる等のために2%まで含有してもよい。含有量が2%を超えるとガラス転移点温度が下がり、または平均熱膨張係数が小さくなり、CIGS膜等の光電変換層を形成するプロセスにとって好ましくない。より好ましくは含有量が1%以下である。含有量が0.5%以下であると特に好ましく、さらに好ましくは実質的に含有しない。
【0062】
なお、「実質的に含有しない」とは、原料等から混入する不可避的不純物以外には含有しないこと、すなわち、意図的に含有させないことを意味する。以下同じである。
【0063】
また、ガラスの溶解性、清澄性を改善するため、ガラス中にSO、F、Cl、SnO等の清澄剤を1種、あるいは複数種の場合には合量で、上記したガラス母組成100%に対し、外掛けの割合で、2%以下で含有するように、これらの原料を母組成原料に添加してもよい。
【0064】
また、ガラスの化学的耐久性向上のため、ガラス中にY、La、およびTiOを1種、あるいは複数種の場合には合量で、上記したガラス母組成100%に対し、内掛けの割合で、5%以下で含有させてもよい。これらのうちY、La及びTiOは、ガラスのヤング率向上にも寄与する。
【0065】
また、ガラスの色調を調整するため、ガラス中にCeO等の着色剤を含有してもよい。このような着色剤の含有量は、上記したガラス母組成100質量%に対し、内掛けの割合で、1%以下、複数種の場合には合量で1%以下が好ましい。
【0066】
さらに、Feは、酸化物基準で、ガラス母組成100質量部に対して、外掛けの割合で、0.01〜0.5質量部、含有することが好ましい。
Feが0.01質量部以上であることで、上記したT面のFe還元層の厚さを十分に得ることができる。この値は、0.075質量部以上であることがより好ましく、さらに好ましくは0.080質量部以上であり、一層好ましくは0.100質量部以上である。 Feが0.5質量部以下であることで、上記したT面のFe還元層が厚くなりすぎることを防止することができる。また、ガラス基板が過剰に着色して、透過率が低下することを防止することができる。この値は、0.3質量部以下であることがより好ましく、さらに好ましくは0.2質量部以下である。
【0067】
また、本実施形態によるガラス基板は、環境負荷を考慮すると、As、Sbを実質的に含有しないことが好ましい。また、安定してフロート成形することを考慮すると、ZnOを実質的に含有しないことが好ましい。
【0068】
以下、本実施形態によるガラス基板の特性について説明する。
本実施形態によるガラス基板のガラス転移温度(Tg)としては、580℃以上であることが好ましい。このTgは、600℃以上であるのがより好ましく、610℃以上であるのがより一層好ましく、620℃以上であるのがさらに好ましく、630℃以上であるのが特に好ましい。このTgは、通常のソーダライムガラスのTgよりも高く、これによって、高温における光電変換層の形成を担保することができる。
本発明のTgの上限値は、750℃以下であることが好ましい。このTgは、より好ましくは720℃以下、さらに好ましくは700℃以下である。これによって、ガラス原料の溶融時の粘性を適度に低く抑えて製造しやすくできる。
【0069】
本実施形態によるガラス基板の50〜350℃における平均熱膨張係数は、70×10−7〜110×10−7/℃であることが好ましい。この範囲であることで、ガラス基板に形成されるCIGS膜等との熱膨張差が大きくなりすぎることを防ぎ、膜剥がれ、膜クラック等を防止することができる。
さらに、太陽電池を組立てる際(具体的にはCIGSの光電変換層を有するガラス基板とカバーガラスとを加熱して貼りあわせる際)、ガラス基板が変形することを防止することができる。
【0070】
この平均熱膨張係数は、好ましくは100×10−7/℃以下、より好ましくは95×10−7/℃以下、さらに好ましくは90×10−7/℃以下である。一方、この平均熱膨張係数は、好ましくは73×10−7/℃以上、より好ましくは75×10−7/℃以上、さらに好ましくは80×10−7/℃以上である。
【0071】
<ガラス基板の製造方法>
本発明の一実施形態であるガラス基板の製造方法について説明する。
【0072】
本実施形態によるガラス基板の製造方法には、生産性およびコストの面で優れるため、その成形方法としてフロート法が好ましく用いられる。
本実施形態のガラス基板の製造方法の一例としては、ガラス原料を溶融し、溶融ガラスを溶融スズ上でガラスリボン(すなわち、板状ガラス帯状体)に成形し、このガラスリボンを徐冷し、このガラスリボンを所定形状に切断してガラス基板を得る方法が挙げられる。
【0073】
ガラス原料の溶融では、得られるガラス基板の組成に応じて原料を調整し、この原料を溶解炉に連続的に投入し、加熱して溶融ガラスを得る。ガラス基板の組成が上記したガラス組成となるように原料を調整することが好ましい。
【0074】
ガラス原料の溶融温度としては、通常1450〜1700℃とすることができ、より好ましくは1500〜1650℃である。溶融時間は、特に制限されず、通常1〜48時間である。
【0075】
溶融工程では清澄剤を用いることができる。ガラス基板が、アルカリ金属酸化物(NaO、KO)を含有するアルカリガラスである場合では、上記した清澄剤の中から清澄剤としてSOを効果的に用いることができる。
【0076】
ガラス基板の製造工程における成形工程では、溶融ガラスを溶融スズ浴(フロートバス)中の溶融スズ面上に板状に流し出し、溶融スズ面上を進行させながらガラスリボンに成形する。
詳しくは、溶融スズを満たした溶融スズの浴面上に、溶融窯から溶融ガラスが連続的に流入され、ガラスリボンが形成される。次に、このガラスリボンを溶融スズ浴の浴面に沿って浮かしながら前進させることで、温度低下とともにガラスリボンが板状に成形される。その後、製板されたガラスリボンが引出しロールによって引き出され、徐冷炉に搬送される。
【0077】
溶融スズ浴内の雰囲気ガスとしては、水素と窒素とからなる混合ガスを用いることができる。水素ガス濃度は、1〜10体積%であることが好ましい。溶融スズ浴内は、正圧であることが好ましい。
【0078】
溶融スズ浴の温度は、650〜1350℃であることが好ましい。また、溶融スズ浴内に流入する溶融ガラスの温度が上流側で950〜1350℃であり、下流側で650〜950℃であるように、溶融スズ浴の温度が調整されることが好ましい。溶融スズ浴内でのガラスリボンの滞在時間は、1〜10分であることが好ましい。
【0079】
フロート法においては、徐冷工程において成形されたガラスリボンをロール搬送する際、ロールによるガラスリボン表面へのキズを防止するために、温度の高いガラスリボンにSOガス(亜硫酸ガス)を大気中で吹き付けて、ガラスの成分と反応させてガラス表面に硫酸塩を析出させて保護する方法を用いてもよい。硫酸塩としては代表的なものとして、Na塩、K塩、Ca塩、Sr塩、Ba塩等が挙げられ、通常、これらの塩の複合物として析出される。
【0080】
SO処理は、板状に成形されたガラスリボンに対して、第二面(B面)側からSOガスを吹き付ける処理である。このSO処理は、ガラスリボンの片側の表面、具体的には、搬送用ローラと接する側のガラスリボンの表面にSOガスを吹き付けて、NaやKの硫酸塩による保護膜を形成し、搬送によって表面キズがつくのを防止するために行われる。
【0081】
SO処理後は、ガラスリボンを洗浄して、硫酸塩等の膜を除去することが好ましい。
ガラスリボンの洗浄方法は、特に制限されず、例えば、水による洗浄、洗浄剤による洗浄、酸化セリウムを含有したスラリーを散布しながらブラシ等でこする洗浄等を用いることができる。酸化セリウム含有のスラリーで洗浄する場合は、その後に塩酸や硫酸等の酸性洗浄剤等を用いて洗浄することが好ましい。
【0082】
洗浄後のガラスリボン表面には、汚れや上記酸化セリウム等の付着物によるガラスリボン表面の凹凸等がないことが好ましい。凹凸があると、ガラス基板としたときに、上記電極膜やその下地層等の成膜の際に、膜表面の凹凸や膜厚偏差や膜のピンホール等が生じ、発電効率が低下するおそれがあるためである。
【0083】
洗浄後は、ガラスリボンを所定の大きさに切断して、ガラス基板を得ることができる。
【0084】
<太陽電池用ガラス基板>
本実施形態によるガラス基板は、太陽電池用ガラス基板として好ましく用いることができ、具体的には、太陽電池用ガラス基板及び太陽電池用カバーガラスとして用いることができる。
【0085】
太陽電池の光電変換層としては、カルコパイライト結晶構造を持つ11−13族、11−16族化合物半導体や、立方晶系あるいは六方晶系の12−16族化合物半導体を好ましく用いることができる。代表的な例としては、CIGS系化合物、CdTe系化合物、CIS系化合物、またはCZTS系化合物等を挙げることができる。特に好ましくはCIGS系化合物である。
【0086】
太陽電池の光電変換層としては、シリコン系化合物、また有機系化合物等を用いてもよい。
【0087】
本実施形態によるガラス基板をCIGS太陽電池用ガラス基板に用いる場合、ガラス基板の厚さは、3mm以下とするのが好ましく、より好ましくは2.5mm以下、さらに好ましくは2mm以下である。また、ガラス基板にCIGS膜の光電変換層を形成する方法は、CIGS膜の少なくとも一部がセレン化法、または蒸着法で形成されるものが好ましい。本実施形態によるガラス基板を用いることで、光電変換層を形成する際の加熱温度を500〜650℃とすることができる。
【0088】
本実施形態のCIGS太陽電池用ガラス基板をガラス基板のみに使用する場合、カバーガラス等は、特に制限されない。カバーガラスの組成の他の例としては、ソーダライムガラス等が挙げられる。
【0089】
本実施形態によるガラス基板をCIGS太陽電池用カバーガラスとして用いる場合、カバーガラスの厚さは、4mm以下とするのが好ましく、より好ましくは2.5mm以下、さらに好ましくは2mm以下である。また光電変換層を有するガラス基板にカバーガラスを組立てる方法は、特に制限されない。本実施形態によるガラス基板を用いることで、加熱して組立てる場合、その加熱温度を500〜650℃とすることができる。
【0090】
本実施形態のCIGS太陽電池用ガラス基板をCIGSの太陽電池用のガラス基板及びカバーガラスに併用すると、平均熱膨張係数が同等であるため太陽電池組立時の熱変形等が発生せず好ましい。
【0091】
ガラス基板のトップ面のFe還元層の厚さは、CIGS太陽電池用ガラス基板の全域において均一であることが好ましい。好ましくは、ガラス基板内でFe還元層の厚さの変動の範囲は、目標の値の30%以内、より好ましくは20%以内、さらに好ましくは10%以内、特に好ましくは5%以内である。これによって、発電効率が低い部分が発生することを防止して、その部分に影響されて、太陽電池の発電効率が低下することを防ぐことができる。
ガラス基板のボトム面のSn侵入量は、CIGS太陽電池用ガラス基板の全域において均一であることが好ましい。好ましくは、ガラス基板内でSn侵入量の変動の範囲は、目標の値の30%以内、より好ましくは20%以内、さらに好ましくは10%以内である。これによって、局所的にアルカリ成分が溶出し、耐候性が低下することを防止することができる。
【0092】
<太陽電池>
次に、本発明の一実施形態である太陽電池について説明する。
【0093】
本実施形態による太陽電池は、上記した本実施形態によるガラス基板、及びガラス基板の第一面に形成されCIGS系化合物を含む光電変換層を有することを特徴とする。
【0094】
好ましい形態としては、ガラス基板と、カバーガラスと、ガラス基板とカバーガラスとの間に配置されたCIGS系化合物とを含む光電変換層を有し、ガラス基板及びカバーガラスのうち少なくとも一方が、上記した本実施形態によるガラス基板である。
【0095】
以下、図面を参照して、本実施形態による太陽電池の一例について説明する。なお、図面に示す太陽電池の各層の厚さは、模式的に示すものであり、これに限定されない。
【0096】
図2は、本実施形態による太陽電池の一例を示す断面模式図である。
【0097】
図2において、太陽電池(CIGS太陽電池)1は、ガラス基板5と、カバーガラス19と、ガラス基板5とカバーガラス19との間に光電変換層としてCIGS膜9とを有する。ガラス基板5及びカバーガラス19のうち少なくとも一方に、上記した本実施形態によるガラス基板を用いることができる。
【0098】
ガラス基板5及びカバーガラス19に本実施形態によるガラス基板を用いる場合は、CIGS膜9が形成される面がガラス基板の第1面となるように形成することが好ましい。
【0099】
太陽電池1は、ガラス基板5上に裏面電極層としてプラス電極であるMo膜7を有し、その上にCIGS膜9を有する。ガラス基板5とMo膜7との間には、不図示であるが、1〜100nmの薄いシリカ膜等のアルカリ金属制御層を設けることで、ガラス基板からのアルカリ金属や不純物元素のCIGS膜9への拡散量を制御することもできる。
【0100】
CIGS膜9は、CIGS系化合物を含む光電変換層である。CIGS系化合物の組成としては、例えば、Cu(In1−XGa)Seである。ここで、xは、InとGaの組成比を示すもので0<x<1である。
【0101】
CIGS膜9は、CIGS系化合物を単独で含むことができるが、その他にCdTe系化合物、CIS系化合物、シリコン系化合物、またはCZTS系化合物等を含んでもよい。
【0102】
CIGS膜9上には、バッファ層11としてのCdS(硫化カドミウム)またはZnS(亜鉛硫化物)層を介して、ZnOまたはITOの透明導電膜13を有し、さらにその上にマイナス電極であるAl電極(アルミニウム電極)等の取出し電極15を有する。これらの層の間の必要な場所には反射防止膜を設けてもよい。図2においては、透明導電膜13と取出し電極15との間に反射防止膜17が設けられている。
【0103】
また、取出し電極15上にカバーガラス19が設けられ、必要な場合は、取出し電極15とカバーガラス19との間は、樹脂封止したり、接着用の透明樹脂で接着されたりする。なお、カバーガラス19は設けなくてもよい。
【0104】
本実施形態において、光電変換層の端部または太陽電池の端部は封止されていてもよい。封止するための材料としては、例えば本実施形態によるガラス基板と同じ材料、そのほかのガラス、樹脂等が挙げられる。
【0105】
以下、CIGS膜9の形成方法の一例について具体的に説明する。
【0106】
CIGS膜9の形成では、まず、Mo膜7上に、スパッタ装置を用いて、CuGa合金ターゲットでCuGa合金層を成膜し、続いてInターゲットを使用してIn層を成膜することで、In−CuGaのプリカーサ膜を成膜する。成膜温度は、特に制限されないが通常室温とすることができる。
【0107】
プリカーサ膜の組成は、蛍光X線による測定において、Cu/(Ga+In)比(原子比)が0.7〜0.95、またGa/(Ga+In)比(原子比)が0.1〜0.5となることが好ましい。CuGa合金層及びIn層の膜厚を調整することで、この組成を得ることができる。
【0108】
次いで、プリカーサ膜を、RTA(Rapid Thermal Annealing)装置を用いて加熱処理する。
【0109】
加熱処理では、第1段階として、セレン化水素混合雰囲気において200〜700℃で1〜120分保持し、CuとInとGaとを、Seと反応させる。セレン化水素混合雰囲気は、アルゴンや窒素などの不活性ガス中にセレン化水素を1〜20体積%で含むことが好ましい。
【0110】
その後、第2段階として、セレン化水素混合雰囲気を硫化水素混合雰囲気に置換し、さらに200〜700℃で1〜120分保持し、CIGS結晶を成長させることで、CIGS膜を形成する。硫化水素混合雰囲気は、アルゴンや窒素などの不活性ガス中に硫化水素を1〜30体積%で含むことが好ましい。
CIGS膜の厚さは、1〜5μmであることが好ましい。
【実施例】
【0111】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されない。
例1〜3は、本発明に係る実施例であり、例4〜6は、比較例である。各例のガラス基板は、下記したガラス基板の作製方法によって表1および表2に記載の通りに作製した。
【0112】
<ガラス基板の作製>
表1及び表2にガラス基板のガラス組成を示す。各成分は、ガラス基板の表面からの深さ5000nm以上のガラス基板内部において、酸化物基準の質量百分率表示で示す。FeおよびSOについては、ガラス母組成100質量部に対して外添した質量部の配合割合(外掛けとして表1及び表2にて表示)で示す。
なお、ガラス母組成は、表1の第1欄(左欄)の単位と示したSiO〜BaOの各成分からなるガラス組成をいう。
【0113】
各表に示すガラス組成となるように配合したガラス原料を、温度1450〜1700℃で加熱し溶融ガラスを得た。
次いで、溶融ガラスを溶融スズで満たしたスズ浴上に流し込み、板状のガラスリボンを成形した。
スズ浴は、H及びNの混合ガス雰囲気とし、温度は、上流側で950〜1150℃、下流側で750〜950℃とした。各ガラスリボンの製造工程において、スズ浴のH濃度を各表に示す。
【0114】
ガラスリボンの徐冷工程において、徐冷炉内でSO処理を同時にした。SOガスは、ガラスリボンのB面側から総量で0.2〜1.0リットル/mとなるように吹き付けた。SOガスは、SOと空気の混合気体である。このとき、SO処理の雰囲気温度は、500〜700℃であり、徐冷炉において、ガラスリボンT面中心部の上部空間内でのSO濃度は、0.1〜30ppmの範囲であった。
SO処理後に、ガラスリボンを炭酸カルシウムと水の混合物、および中性洗剤と水の混合物で洗浄し、ガラスリボン両面に付着した硫酸塩の保護層を除去した。
【0115】
例4では、ガラス基板を製造後、表面から深さ5000nmの層を除去した。また、ガラス基板の除去方法は、酸化セリウムの水スラリーでの研削により実施した。除去後には、エタノール中での超音波洗浄により洗浄を行った。
【0116】
<評価>
上記して得られた例1〜6のガラス基板について、以下の評価を行った。結果を各表に併せて示す。
【0117】
(平均熱膨張係数)
50〜350℃の平均熱膨張係数(α:単位は×10−7/K)を示差熱膨張計(TMA)を用いて測定し、JISR3102(1995年度)より求めた。
(Tg)
ガラス転移温度(Tg:単位は℃)は、示差熱膨張計(TMA)を用いて測定し、JISR3103−3(2001年度)により求めた。
【0118】
(T面のFe還元層)
T面のFe還元層の厚さは、2次イオン質量分析法(SIMS)を用いて、ガラス基板のT面の表面から深さ方向に54Fe/30Siのカウントを測定して求めた。測定装置及び測定条件を以下に示す。
測定装置:アルバック・ファイ社製ADEPT1010。
一次イオン:O2+
加速電圧:5kV。
ビーム電流:1μA。
ラスターサイズ:200×200μm
試料角度:45°。
【0119】
Fe還元層の厚さは、上記測定した54Fe/30Siのカウントのピーク位置におけるガラス基板のT面の表面からの深さ(μm)とした。
一例として、図1に、例5のガラス基板のトップ面の表面における54Fe/30SiのSIMSプロファイルを示す。図1に示すグラフにおいて、54Fe/30Siが最大値を示す位置をピーク位置とし、このピーク位置を示すときの深さ4.6μmをFe還元層の厚さとした。
【0120】
(B面のSn侵入量)
Sn侵入量の測定は、まず、ガラス基板のB面をフッ化水素酸溶液によってエッチングし、この溶液中のSn原子量(μg)をICP発光分光分析装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製「SPS3100」)によって測定した。次に、測定したSn原子量を、ガラス基板のB面の測定領域の面積(cm)で除して、単位面積当たりのSn原子量であるSn侵入量(μg/cm)を求めた。
エッチング量は、ガラス基板のB面表面から深さ15〜20μmとした。
【0121】
(ΔHz)
評価対象であるB面に対し反対側の面であるT面を保護フィルム(日東電工DH)でマスキングし、このガラス基板を60℃−95%RHで13日間、恒温恒湿槽内に静置した。試験前後でのヘーズ率をC光源ヘーズメータで測定し、試験前のヘーズ率と試験後のヘーズ率の差からヘーズ率の変化(ΔHz)を求めた。
【0122】
([T面のFe還元層(A)]/[B面のSn侵入量(B)])
[T面のFe還元層(A)]/[B面のSn侵入量(B)]は、上記したB面のSn侵入量に対する、Fe還元層の比(A/B)(単位:μm/(μg/cm))として計算して求めた。
【0123】
(T面の電池効率)
上記で得られたガラス基板を用いて、CIGS太陽電池サンプルを作製し、T面の電池効率を測定した。
【0124】
評価用太陽電池の作製について、図3及び図4を用いて以下に説明する。なお、評価用太陽電池の層構成は、図2において、太陽電池のカバーガラス19及び反射防止膜17を有さない以外は、図2に示す太陽電池の層構成とほぼ同様である。
【0125】
得られたガラス基板を大きさ3cm×3cm、厚さ1.8mmに加工した。ガラス基板5aの上に、スパッタ装置にて、プラス電極7aとしてMo膜を成膜した。成膜は、室温にて実施し、厚み250nmのMo膜を得た。
プラス電極7a(モリブデン膜)上にスパッタ装置にて、CuGa合金ターゲットでCuGa合金層を成膜し、続いてInターゲットを使用してIn層を成膜することで、In−CuGaのプリカーサ膜を成膜した。成膜は、室温にて実施した。蛍光X線によって測定したプリカーサ膜の組成が、Cu/(Ga+In)比(原子比)が0.88、Ga/(Ga+In)比(原子比)が0.34となるように各層の厚みを調整し、厚み600nmのプリカーサ膜を得た。
【0126】
プリカーサ膜を、RTA(Rapid Thermal Annealing)装置を用いてアルゴン及びセレン化水素混合雰囲気(セレン化水素はアルゴンに対し5体積%、以下、「セレン化水素雰囲気」という)、及び硫化水素混合雰囲気(硫化水素はアルゴンに対し5体積%、以下、「硫化水素雰囲気」という)にて加熱処理した。まず、第1段階としてセレン化水素雰囲気において425℃で10分保持を行い、CuとInとGaとを、Seと反応させた。その後、硫化水素雰囲気に置換した後、第2段階としてさらに580℃で30分保持してCIGS結晶を成長させることでCIGS層9aを得た。得られたCIGS層9aの厚みは、約1.7μmであった。
【0127】
CIGS層9a上に、CBD(Chemical Bath Deposition)法にて、バッファ層11aとしてCdS層を成膜した。具体的には、まず、ビーカー内で、濃度0.01Mの硫酸カドミウム、濃度1.0Mのチオウレア、濃度15Mのアンモニア及び純水を混合させ、混合液を作製した。次に、CIGS層を上記混合液に浸し、ビーカーごと予め水温を70℃にしておいた恒温バス槽に入れ、CdS層を50〜100nmの厚さで成膜した。
【0128】
さらに、CdS層上にスパッタ装置にて、透明導電膜13aを以下の方法で成膜した。まず、ZnOターゲットを使用してZnO層を成膜し、次に、AZOターゲット(Alを1.5wt%含有するZnOターゲット)を使用してAZO層を成膜した。各層の成膜は、室温にて実施し、厚み480nmの2層構成の透明導電膜13aを得た。
透明導電膜13aのAZO層上にEB蒸着法により、図3(a)に示す形状のマイナス電極15aとして膜厚1μmのアルミ膜を成膜した(電極全長(縦9mm、横3.1mm)、電極幅0.35mm)。
【0129】
最後に、メカニカルスクライブによって透明導電膜13a側からCIGS層9aまでを削り、図3に示すようなパターンでセル化を行った。図3(a)は、1つの太陽電池セルを上面から見た図であり、図3(b)は、図3(a)中のA−A´の断面図である。一つのセルは、幅0.55cm、長さ1.1cmで、マイナス電極15aを除いた面積が0.54cmであり、図4に示すように、合計8個のセルが1枚のガラス基板5a上に得られた。
【0130】
ソーラーシミュレータ(山下電装株式会社製、YSS−T80A)に、評価用CIGS太陽電池(上記8個のセルを作製した評価用ガラス基板5a)を設置し、あらかじめInGa溶剤を塗布したプラス電極7aにプラス端子を(不図示)、マイナス電極15aにマイナス端子(不図示)をそれぞれ電圧発生器に接続した。ソーラーシミュレータ内の温度は、25℃一定に温度調節機にて制御した。疑似太陽光を照射し、10秒後に、電圧を−1Vから+1Vまで0.015V間隔で変化させ、8個のセルのそれぞれの電流値を測定した。
【0131】
この照射時の電流と電圧特性から発電効率を式(1)により算出した。8個のセルのうち最も効率の良いセルの値を、各ガラス基板の発電効率の値とした。試験に用いた光源の照度は、0.1W/cmであった。
発電効率[%]=Voc[V]×Jsc[A/cm]×FF[無次元]×100/試験に用いる光源の照度[W/cm2]・・・式(1)
【0132】
発電効率は、開放電圧(Voc)と短絡電流密度(Jsc)と曲線因子(FF)の掛け算で求められる。
なお、開放電圧(Voc)は、端子を開放した時の出力であり、短絡電流(Isc)は、短絡した時の電流である。短絡電流密度(Jsc)は、Iscをマイナス電極を除いたセルの面積で割ったものである。
【0133】
また最大の出力を与える点が最大出力点と呼ばれ、その点の電圧が最大電圧値(Vmax)、電流が最大電流値(Imax)と呼ばれる。最大電圧値(Vmax)と最大電流値(Imax)の掛け算の値を、開放電圧(Voc)と短絡電流(Isc)の掛け算の値で割った値が、曲線因子(FF)として求められる。上記の値を使用し、発電効率を求めた
【0134】
上記して求めた発電効率について、例4のガラス基板の発電効率を1として各ガラス基板の相対値を求め、この相対値を電池効率とした。結果を各表に示す。
【0135】
【表1】
【0136】
【表2】
【0137】
表1に示す通り、実施例である例1〜3では、Fe還元層の厚さ、Sn侵入量、及びA/Bがそれぞれ本発明の範囲内であり、T面の電池効率及び耐侯性が優れた。
また、ガラス転移温度(Tg)が高く、適正な平均熱膨張係数(α)であり、太陽電池用ガラス基板に適することがわかった。
【0138】
例4は、ガラス基板の両面を研磨したものであり、Fe還元層及びSn侵入量が確認されず、耐侯性が低下した。ΔHzが大きいことから、耐候性試験によってガラス基板に炭酸塩等が析出して、ヘーズ率が変化したことがわかる。なお、例4は、両面研磨を施すため、最終的なガラス基板表面の組成は、ガラス基板のバルク組成(すなわち、ガラス基板の内部の組成)に近い値を示す。
【0139】
表2に示す通り、例5は、Fe還元層及びSn侵入量が適正範囲ではなく、電池効率が低下した。例6は、Fe還元層及びSn侵入量が適正範囲ではなく、耐候性が低下した。
また、例6では、SiO−Alが大きく、耐熱性が低下した。例6では、耐熱性が十分でなく、太陽電池作製時にCIGS膜の膜剥がれが生じた。
【産業上の利用可能性】
【0140】
本発明のガラス基板は、太陽電池用ガラス基板、中でもCIGS太陽電池用ガラス基板に好ましく用いることができる。例えば、太陽電池用ガラス基板及び/または太陽電池用カバーガラスに有用に用いることができる。これによって、発電効率のよい太陽電池を提供することができる。
なお、2014年9月19日に出願された日本特許出願2014−191183号の明細書、特許請求の範囲、図面および要約書の全内容をここに引用し、本発明の開示として取り入れるものである。
【符号の説明】
【0141】
1:太陽電池、 5、22:ガラス基板、 7:プラス電極 9:CIGS層またはCZTS層、 11:バッファ層、 13、23:透明導電膜、 15:マイナス電極、 17:反射防止膜、 19:カバーガラス。
図1
図2
図3
図4