特許第6156768号(P6156768)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6156768蛍光ガラス線量計用ガラス及び蛍光ガラス線量計
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6156768
(24)【登録日】2017年6月16日
(45)【発行日】2017年7月5日
(54)【発明の名称】蛍光ガラス線量計用ガラス及び蛍光ガラス線量計
(51)【国際特許分類】
   G01T 1/06 20060101AFI20170626BHJP
   C03C 3/16 20060101ALI20170626BHJP
【FI】
   G01T1/06
   C03C3/16
【請求項の数】2
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2012-286559(P2012-286559)
(22)【出願日】2012年12月28日
(65)【公開番号】特開2014-130023(P2014-130023A)
(43)【公開日】2014年7月10日
【審査請求日】2015年12月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100080458
【弁理士】
【氏名又は名称】高矢 諭
(74)【代理人】
【識別番号】100076129
【弁理士】
【氏名又は名称】松山 圭佑
(74)【代理人】
【識別番号】100089015
【弁理士】
【氏名又は名称】牧野 剛博
(72)【発明者】
【氏名】山本 幸佳
(72)【発明者】
【氏名】飯田 敏行
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 文信
(72)【発明者】
【氏名】牧 大介
(72)【発明者】
【氏名】図子 直城
【審査官】 藤原 伸二
(56)【参考文献】
【文献】 特表2012−506838(JP,A)
【文献】 特開平03−088741(JP,A)
【文献】 特開平09−221336(JP,A)
【文献】 特開昭62−065952(JP,A)
【文献】 特公昭48−001096(JP,B1)
【文献】 特公昭46−003466(JP,B1)
【文献】 米国特許第4204976(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C1/00−14/00
G01T1/00−1/16
1/167−7/12
C09K11/00−11/89
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタりん酸ナトリウムとメタりん酸カルシウムで構成されるNa−Caガラスに、銀が添加されていることを特徴とする蛍光ガラス線量計用ガラス。
【請求項2】
請求項1に記載の蛍光ガラス線量計用ガラスを備えたことを特徴とする蛍光ガラス線量計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光ガラス線量計用ガラス及び蛍光ガラス線量計に係り、特に、福島第1原発のような放射性瓦礫集積場や原発施設、放射線取扱施設や、その汚染水処理施設等の高線量率、高温の過酷環境に対応可能な蛍光ガラス線量計用ガラス、及び、これを用いた蛍光ガラス線量計に関する。
【背景技術】
【0002】
放射線被曝量(放射線吸収線量)を測定するための線量計の1つに蛍光ガラス線量計がある。
【0003】
この蛍光ガラス線量計は、銀イオンを含有したりん酸塩ガラス(銀活性りん酸塩ガラスと称する)からなる蛍光ガラスを検出子として用いており、この蛍光ガラスは波長300〜400nmの紫外線励起により、オレンジ色の蛍光(Rediophotoluminesence:RPLとも称する)を発することが知られている。この蛍光量は照射した放射線量に比例するので、この蛍光量を測定することで放射線被曝量を知ることができる。この蛍光は、何度でも繰り返し測定することができる。
【0004】
我が国における蛍光ガラス線量計の進歩は、蛍光計測技術の開発と蛍光ガラス材料開発の両輪で進められてきた。蛍光計測技術の開発においては、例えば特許文献1及び特許文献2に記載されているように、紫外線レーザーを利用したパルス測定方式が導入されたことで、高精度な蛍光計測ができるようになった。
【0005】
一方、蛍光ガラスの材料としては、非特許文献1に示されるような様々なタイプの蛍光ガラスが作られ、又、特許文献3や4にもガラス材料が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭47−51919号公報
【特許文献2】特公昭50−38352号公報
【特許文献3】特開2010−210336号公報
【特許文献4】実公平6−17093号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】横田良助「蛍光ガラス線量計の最近の進歩」応用物理第40巻第12号(1971)1292−1306頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら従来は、メタりん酸塩ガラスの母材がメタりん酸ナトリウムNaPO3とメタりん酸アルミニウムAl(PO3)3でなるNa−Alガラスであったため、蛍光量は多いが、福島第1原発のような放射性瓦礫集積場や原発施設、放射線取扱施設や、その汚染水処理施設等の0.1Gy/h以上の高線量率、200℃以上の高温の過酷環境には用いることができなかった。
【0009】
本発明は、前記従来の問題点を解消するべくなされたもので、前記のような高線量率、高温の過酷環境に対応可能な蛍光ガラス線量計用ガラスを提供することを第1の課題とする。
【0010】
本発明は、又、前記のような過酷環境に対応可能な蛍光ガラス線量計を提供することを第2の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、メタりん酸ナトリウムとメタりん酸カルシウムで構成されるNa−Caガラスに、銀が添加されていることを特徴とする蛍光ガラス線量計用ガラスにより、前記第1の課題を解決したものである。
【0012】
又、前記蛍光ガラス線量計用ガラスを備えたことを特徴とする蛍光ガラス線量計により、前記第2の課題を解決したものである。
【発明の効果】
【0013】
発明者が、各種のりん酸塩のイオン半径と平均分子体積の関係を調査したところ、図1に示す如く、メタりん酸塩ガラスの母材に平均分子体積の小さいりん酸塩を使用すると、銀原子が基になるラジオフォトルミネッセンス中心の温度安定性が向上することが分かった。
【0014】
そこで本発明では、従来のメタりん酸ナトリウムとメタりん酸アルミニウムでなるNa−Alガラスの代わりに、メタりん酸ナトリウムNaPO3とメタりん酸カルシウムCa(PO3)2でなるNa−Caガラスを母材に使うこととした。なおラジオフォトルミネッセンス蛍光スペクトルは650nm付近で、メタりん酸塩ガラスの母材が変わっても大きく影響しないことが確認できた。
【0015】
このNa−Caガラスでは、図2に例示するように、ビルドアップが200℃で始まり、350℃を超えてアニール(消光)が見られるので、200℃以上の過酷環境で使用できる。蛍光量はNa−Alガラスに比べ2桁小さいが、後出図4に例示する如く、高線量率に対応できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】各種のりん酸塩のイオン半径と平均分子体積の関係を示す図
図2】一定量の放射線を照射した後、1時間、異なる温度で加熱した後のラジオフォトルミネッセンスの強度の関係を、従来のNa−Alガラスと本発明に係るNa−Caガラスで比較して示す図
図3】本発明の実施例における300℃の環境での蛍光量の減少を示す図
図4】同じく吸収線量と蛍光強度の関係を示す図
図5】本発明の実施例に係る蛍光ガラスにおいて紫外線ランプをオン・オフしたときのγ線照射量と蛍光の発生状況を示す写真
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0018】
NaPO50%、Ca(PO3)25%でなるりん酸塩ガラスに銀を0.2%ドープした銀活性化りん酸塩ガラスをアルミナ製の坩堝に入れて電気炉で1000℃以上で5時間以上加熱し、自然冷却で徐冷した。
【0019】
このようにして製造した本発明によるNa−Caガラスと従来のNa−Alガラスに対して、一定量の放射線を照射した後、1時間、異なる温度(横軸)で加熱した後のラジオフォトルミネッセンスの強度(縦軸)の関係を図2に示す。
【0020】
蛍光ガラスは、線量測定前の処理の1つにプレヒートと呼ばれる処理が必要である。従来のNa−Alガラスの場合、100℃で1時間加熱するとラジオフォトルミネッセンスが増加され、蛍光強度が最大となる(ビルドアップと呼ばれる)。これに対して本発明によるNa−Caガラスでは、ビルドアップが200℃以上で見られ、350℃を超えて、アニール(消光)が見られる。即ち、従来のNa−Alガラスでは200℃以上になるとアニールにより蛍光が減少するのに対して、本発明によるNa−Caガラスでは、ビルドアップが200℃以上で見られ、350℃を超えてアニールが生じることが分かる。従って、従来は困難であった200℃以上の過酷環境下で使用可能である。なお、蛍光量自体はNa−Alガラスに比べて2桁小さい。
【0021】
本発明に係るNa−Caガラスにおける300℃の環境での蛍光量の減少状態を図3に示す。5時間経過後も10%減少で済んでいることが分かる。
【0022】
又、吸収線量と蛍光強度の関係を図4に示す。蛍光量が吸収線量に良く比例していることが分かる。
【0023】
本発明に係る蛍光ガラス10は、図5に示す如く、市販の蛍光ガラス線量計と同じ形状に加工して使用することができる。ラジオフォトルミネッセンス読取装置も特許文献1や2と同じものを使用し、読み値に補正係数をかけることで使用できる。
【0024】
本発明の実施例に係る蛍光ガラスに対して紫外線ランプをオン・オフしたときの状態を図5に示す。
【0025】
図5に示すように、γ線照射量20Gyまでフェーディングが無く、繰り返し読取りが可能であることが確認できた。
【符号の説明】
【0026】
10…蛍光ガラス
図1
図2
図3
図4
図5