【文献】
T. Pfau et al.,Hardware-Efficient Coherent Digital Receiver Concept With Feedforward Carrier Recovery for M -QAM Constellations,IEEE Journal of Lightwave Technology,2009年 4月,Vol. 27, No. 8,Pages 989 - 999
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
変調された受信信号のシンボルを一定数ごとに分離してブロック化させた1つの分離シンボル群に対する位相補償を1回の処理として、前記分離シンボル群の数に応じて複数回連続して行う受信信号処理装置であり、
ブロック内に一定時間間隔で入力される前記シンボルを一定数ごとに時間分離させて前記分離シンボル群を取得し、前記分離シンボル群を構成する各分離シンボルごとに出力する分離出力部と、
前記各分離シンボルの時間に対する位相変化に基づき決定される1つのブロック内周波数及び前記各分離シンボルの各位相の時間中心値として決定される1つのブロック内中心位相の前回処理値から、これらの今回処理値を推定した事前推定値として、ブロック内事前推定周波数及びブロック内事前推定中心位相を取得する事前推定値取得部と、
前記事前推定値から前記各分離シンボルの事前推定位相を算出し、前記事前推定位相に基づいて前記各分離シンボルの位相を仮補償する仮補償部と、
前記位相が仮補償された前記各分離シンボルを判定前シンボルとし、前記判定前シンボルに対して、前記受信信号の変調方式に応じて設定される参照信号に基づく判定を行い、前記参照信号の参照点に一致させた判定後シンボルを取得する判定部と、
前記判定前シンボル及び前記判定後シンボルに基づいて決定される、前記ブロック内周波数の観測値と前記ブロック内事前推定周波数との周波数誤差を算出するとともに、前記判定前シンボル及び前記判定後シンボルに基づいて決定される、前記ブロック内中心位相の観測値と前記ブロック内事前推定中心位相との位相誤差を算出する誤差観測部と、
前記周波数誤差及び前記位相誤差に基づいて前記事前推定値を修正し、前記ブロック内周波数及び前記ブロック内中心位相の最も確からしい今回処理値を推定した事後推定値として、ブロック内事後推定周波数及びブロック内事後推定中心位相を取得する事後推定値取得部と、
前記事後推定値から前記各分離シンボルの事後推定位相を算出し、前記事後推定位相に基づいて前記各分離シンボルの位相を本補償する本補償部と、
前記事前推定値取得部が、前記事後推定値を前記ブロック内周波数及び前記ブロック内中心位相の前回処理値として、次回の前記位相補償における前記分離シンボル群に対する前記事前推定値を取得するよう、フィードバック処理を行うフィードバック処理部と、
を有する搬送波再生部を備えることを特徴とする受信信号処理装置。
事後推定値取得部が、周波数誤差、位相誤差、事前推定値としての事前状態ベクトル及び利得を制御する事前誤差共分散行列の入力に基づき、前記事前推定値及び前記事前誤差共分散行列の値が修正された、事後推定値としての事後状態ベクトル及び事後誤差共分散行列を出力するカルマンフィルタで構成され、
フィードバック処理部が、事前推定値取得部に前記事後推定値及び前記事後誤差共分散行列を入力することで、前記事前推定値取得部が前記カルマンフィルタに対し、これらを次回の前記位相補償における前記事前推定値及び前記事前誤差共分散行列として出力するよう、フィードバック処理を行う請求項1から3のいずれかに記載の受信信号処理装置。
変調された受信信号のシンボルを一定数ごとに分離してブロック化させた1つの分離シンボル群に対する位相補償を1回の処理として、前記分離シンボル群の数に応じて複数回連続して行う受信信号処理方法であり、
ブロック内に一定時間間隔で入力される前記シンボルを一定数ごとに時間分離させて前記分離シンボル群を取得し、前記分離シンボル群を構成する各分離シンボルごとに出力する分離出力ステップと、
前記各分離シンボルの時間に対する位相変化に基づき決定される1つのブロック内周波数及び前記各分離シンボルの各位相の時間中心値として決定される1つのブロック内中心位相の前回処理値から、これらの今回処理値を推定した事前推定値として、ブロック内事前推定周波数及びブロック内事前推定中心位相を取得する事前推定値取得ステップと、
前記事前推定値から前記各分離シンボルの事前推定位相を算出し、前記事前推定位相に基づいて前記各分離シンボルの位相を仮補償する仮補償ステップと、
前記位相が仮補償された前記各分離シンボルを判定前シンボルとし、前記判定前シンボルに対して、前記受信信号の変調方式に応じて設定される参照信号に基づく判定を行い、前記参照信号の参照点に一致させた判定後シンボルを取得する判定ステップと、
前記判定前シンボル及び前記判定後シンボルに基づいて決定される、前記ブロック内周波数の観測値と前記ブロック内事前推定周波数との周波数誤差を算出するとともに、前記判定前シンボル及び前記判定後シンボルに基づいて決定される、前記ブロック内中心位相の観測値と前記ブロック内事前推定中心位相との位相誤差を算出する誤差観測ステップと、
前記周波数誤差及び前記位相誤差に基づいて前記事前推定値を修正し、前記ブロック内周波数及び前記ブロック内中心位相の最も確からしい今回処理値を推定した事後推定値として、ブロック内事後推定周波数及びブロック内事後推定中心位相を取得する事後推定値取得ステップと、
前記事後推定値から前記各分離シンボルの事後推定位相を算出し、前記事後推定位相に基づいて前記各分離シンボルの位相を本補償する本補償ステップと、
前記事前推定値取得ステップが、前記事後推定値を前記ブロック内周波数及び前記ブロック内中心位相の前回処理値として、次回の前記位相補償における前記分離シンボル群に対する前記事前推定値を取得するよう、フィードバック処理を行うフィードバック処理ステップと、
を有することを特徴とする受信信号処理方法。
事後推定値取得ステップが、周波数誤差、位相誤差、事前推定値としての事前状態ベクトル及び利得を制御する事前誤差共分散行列の入力に基づき、前記事前推定値及び前記事前誤差共分散行列の値が修正された、事後推定値としての事後状態ベクトル及び事後誤差共分散行列を出力するカルマンフィルタで実行され、
フィードバック処理ステップが、事前推定値取得ステップの実行部に前記事後推定値及び前記事後誤差共分散行列を供給することで、前記事前推定値取得ステップが前記カルマンフィルタに対し、これらを次回の前記位相補償における前記事前推定値及び前記事前誤差共分散行列として供給するよう、フィードバック処理を行う請求項5から7のいずれかに記載の受信信号処理方法。
受信信号と、前記受信信号に対する、参照信号更新手段により更新された参照信号に基づく判定器の判定結果としての判定信号との位相差を制御信号として、搬送波周波数と局所発振周波数の周波数差の揺らぎに起因して発生する、前記受信信号の位相変化に応じた位相補正量を算出する位相補正量算出手段を有する請求項9に記載の受信信号処理装置。
タップ係数に応じて雑音成分がフィルタリングされた受信信号と、前記受信信号に対する、参照信号更新手段により更新された参照信号に基づく判定器の判定結果としての判定信号との差を誤差信号とし、前記誤差信号の大きさが最小となるように前記タップ係数を制御して後続受信信号の等化処理を行う適応等化器を有する請求項9から10に記載の受信信号処理装置。
請求項9から12のいずれかに記載の受信信号処理装置を有する受信部と、前記受信部に送信信号を送信する送信部と、前記送信部から送信される前記送信信号を前記受信部に伝送する伝送路と、を有し、前記送信部が、前記受信部が受信する受信信号と参照信号更新手段により更新された参照信号に基づく判定器の判定結果としての判定信号との差に基づく情報を前記送信信号の歪みとして前記歪みのない状態にフィードバック処理されることを特徴とする通信システム。
受信信号と、前記受信信号に対する、参照信号更新工程により更新された参照信号に基づく本判定工程の判定結果としての判定信号との位相差を制御信号として、搬送波周波数と局所発振周波数の周波数差の揺らぎに起因して発生する、前記受信信号の位相変化に応じた位相補正量を算出する位相補正量算出工程を含む請求項14に記載の受信信号処理方法。
タップ係数に応じて雑音成分がフィルタリングされた受信信号と、前記受信信号に対する、参照信号更新工程により更新された参照信号に基づく本判定工程の判定結果としての判定信号との差を誤差信号とし、前記誤差信号の大きさが最小となるように前記タップ係数を制御して後続受信信号の等化処理を行う適応等化工程を含む請求項14から15のいずれかに記載の受信信号処理方法。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(受信信号処理装置)
本発明の受信信号処理装置は、変調された受信信号のシンボルを一定数ごとに分離してブロック化させた1つの分離シンボル群に対する位相補償を1回の処理として、前記分離シンボル群の数に応じて複数回連続して行う受信信号処理装置であり、分離出力部、事前推定値取得部、仮補償部、判定部、誤差観測部、事後推定値取得部、本補償部、及びフィードバック処理部を有する搬送波再生部を備える。
以下では、前記受信信号処理装置の各部の構成及び信号処理を、図面を参照しつつ説明する。
【0014】
<基本構成>
図1に、本発明の一実施形態に係る受信信号処理装置の回路構成を示す。該
図1に示すように、受信信号処理装置(搬送波再生部)100は、分離出力部1と、事前推定値取得部2と、前記仮補償部としての事前推定位相算出部3及び乗算器4
1,4
2,…,4
Nと、判定部5
1,5
2,…,5
Nと、誤差観測部6と、事後推定値取得部7と、前記本補償部としての事後推定位相算出部8及び乗算器9
1,9
2,…,9
Nと、フィードバック処理部10とで構成される。
受信信号処理装置100では、入力される受信信号の変調方式は既知であり、前記受信信号を構成するシンボルに対して、どのシンボルが送信されたかを判定することができるものとする。
また、受信信号処理装置100では、入力される前記受信信号に対して、時間的に連続したN個のシンボルE
1,E
2,...,E
Nをブロック化させて、まとめて一つの分離シンボル群とする。前記分離シンボル群の搬送波周波数及び位相を一括して求めて搬送波再生を行い、最終的に得られた信号s
1,s
2,...,s
Nを出力する。これを連続して入力される前記分離シンボル群の数に応じて複数回繰返して処理する。
【0015】
k回目に入力される前記分離シンボル群に対する信号処理において、推定すべきパラメータは、前記分離シンボル群を構成する各分離シンボルE
1,E
2,...,E
Nの時間変化に対する位相変化に基づき決定される1つのブロック内周波数ω
k及び各分離シンボルE
1,E
2,...,E
Nの各位相の時間中心値として決定されるブロック内中心位相θ
kの2つである。なお、kは、1つの前記分離シンボル群に対する前記位相補償の処理回数を示し、任意の整数を表す。
図2に、ブロック化された前記分離シンボル群の搬送波位相と、前記ブロック内周波数及び前記ブロック内中心位相との関係を示す。該
図2において、各点は、搬送波位相φを表しており、搬送波周波数オフセットにしたがって時間変化する様子を表している。破線は、ブロック化された前記分離シンボル群を構成する各分離シンボルの位相を最もよく近似する直線であって、その傾きがブロック内周波数ω
kである。また、点線は、前記分離シンボル群におけるブロック内中心位相θ
kである。
光通信の場合、シンボルレートが数十GHzであるのに対して、信号源及び局所発振器に使用されるレーザーの周波数揺らぎの量は、短期的(数十シンボルに相当する時間、ナノ秒オーダー)には通常1MHz以下(例えば100kHz以下)であるから、数十の分離シンボルから構成されるブロック内においては、ブロック内周波数ω
kがほぼ一定であり、更に搬送波位相φの値は、時間に対してほぼ線形に変化するとみなしてよい。
そこで、ブロック内周波数ω
k及びブロック内中心位相θ
kの2つが判明すれば、線形予測により、ブロック化された前記分離シンボル群の全てのシンボルの位相φが高精度に推定できる。
具体的には、n=1,2,…,Nとして、下記計算式(1)から位相φ
k,nを求めることができる。
【0017】
ブロック内周波数ω
k及びブロック内中心位相θ
kの2つを精度よく推定する方法について述べる。大まかな手順としては、最初に、前回(k−1回目)の処理で得られたブロック内周波数及びブロック内中心位相の推定結果(ω
k−1、θ
k−1)から今回(k回目)の処理における事前推定値(ω
k−、θ
k−)を得る。次に、今回(k回目)の前記分離シンボル群ついての観測を実施し、観測値(ω
〜k、θ
〜k)と事前推定値(ω
k−、θ
k−)との誤差(ε
ω、ε
θ)を測定する。得られた誤差情報に適当な重みをかけて事前推定値(ω
k−、θ
k−)を修正し、最適な事後推定値(ω
k、θ
k)を得る。ここで得られた事後推定値(ω
k、θ
k)は、フィードバック処理が実施され、次回(k+1回目)の処理における事前推定値(ω
k+1−、θ
k+1−)を得るために用いられる。以上の手順を前記分離シンボル群の数ごと、即ち、処理回数ごとに繰返して行う。
以下では、以上に説明した基本構成をもとに、再び
図1を参照しつつ、より具体的な説明を行う。
【0018】
<分離出力部>
分離出力部1は、ブロック内に一定時間間隔で入力される前記シンボルを一定数ごとに時間分離させて分離シンボルE
1,E
2,...,E
Nで構成される前記分離シンボル群を取得し、前記分離シンボル群を各分離シンボルE
1,E
2,...,E
Nごとに出力する。
このような分離出力部1としては、特に制限はなく、例えば、公知のシリアル・パラレル変換器を用いて構成することができる。
また、分離出力部1で取得される前記分離シンボル群のシンボル数(ブロックサイズ)Nの値としては、特に制限はないが、2〜1,024が好ましい。このようなシンボル数の範囲内であれば、既存の推定方法により、観測値(ω
〜k、θ
〜k)と事前推定値(ω
k−、θ
k−)との誤差(ε
ω、ε
θ)を観測することができるとともに、高シンボルレートの前記受信信号に対する搬送波再生を現実的なデジタルシグナルプロセッサ(DSP)によって実施することができる。
【0019】
<事前推定値取得部>
事前推定値取得部2は、分離シンボルE
1,E
2,...,E
Nの前記ブロック内周波数及びブロック内中心位相の前回処理値(ω
k−1、θ
k−1)から、これらの今回処理値を推定した事前推定値として、ブロック内事前推定周波数ω
k−及びブロック内事前推定中心位相θ
k−を取得する。
前記事前推定値として、具体的なブロック内事前推定周波数ω
k−及びブロック内事前推定中心位相θ
k−の取得手順としては、搬送波周波数オフセット値の変化の速さがシンボルレートと比較して相当遅いことがわかっているため、ブロック内周波数ω
kは、ブロックごとにほとんど変化しないと仮定して、ブロック内事前推定周波数ω
k−及びブロック内事前推定中心位相θ
k−を、それぞれ、下記式(2)、(3)に基づき、推定する。
なお、前回処理値(ω
k−1、θ
k−1)の算出については、後述の記載で説明する。
【0021】
<仮補償部>
前記仮補償部は、事前推定位相算出部3及び乗算器4
1,4
2,・・・,4
Nで構成される。
事前推定位相算出部3では、前記事前推定値としてのブロック内事前推定周波数ω
k−及びブロック内事前推定中心位相θ
k−から、前記式(1)に基づき、各分離シンボルE
1,E
2,...,E
Nの事前推定位相φ
n−を算出する。
乗算器4
1,4
2,・・・,4
Nでは、事前推定位相φ
n−の入力に基づき、各分離シンボルE
1,E
2,...,E
Nに対して、exp(−iφ
n−)を乗算し、各分離シンボルE
1,E
2,...,E
Nがそれぞれ持つ前述の位相変調成分exp[i2πf
ot]に対する仮補償を行う。即ち、下記式(4)により、位相が仮補償されたシンボルs
n−を取得する。
【0023】
<判定部>
判定部5
1,5
2,…,5
Nは、位相が仮補償されたシンボルs
n−を判定前シンボルとし、この判定前シンボルs
n−(
図1中のs
1−,s
2−,・・・,s
N−)に対して、前記受信信号の変調方式に応じて設定される参照信号(送信シンボルが取り得る全ての複素振幅値の組)に基づく判定を行い、前記参照信号の参照点のうち、複素平面上で受信信号(前記各分離シンボル)とのユークリッド距離が最も小さいものに一致させた判定後シンボルd
n−(
図1中のd
1−,d
2−,・・・,d
N−)を取得する。なお、このような判定部5
1,5
2,…,5
Nとしては、特に制限はなく、任意の方法に基づく公知の判定器を用いて構成することができる。
【0024】
<誤差観測部>
誤差観測部6では、判定前シンボルs
n−及び判定後シンボルd
n−に基づいて決定されるブロック内周波数の観測値ω
〜kとブロック内事前推定周波数ω
k−との周波数誤差ε
ωを算出するとともに、ブロック内中心位相の観測値θ
〜kとブロック内事前推定中心位相θ
k−との位相誤差ε
θを算出する。
周波数誤差ε
ω及び位相誤差ε
θの算出手順としては、特に制限はなく、各分離シンボルE
1,E
2,...,E
Nの時間変化に対する位相変化の平均値及び各分離シンボルE
1,E
2,...,E
Nの各位相の時間中心値の平均値を観測値として算出してもよいが、高精度に誤差の推定を行う観点から、下記参考文献1に記載される最尤位相推定(Maximum−Likelihood Phase Estimation)にしたがって算出することが好ましい。
参考文献1;J. G. Proakis et al., “Digital Communications,”2008, 5th ed., McGraw Hill.
【0025】
前記最尤位相推定では、位相誤差ε
θが下記式(5)により算出され、この位相誤差ε
θは、判定前シンボルs
n−及び判定後シンボルd
n−に基づいて決定される、ブロック内中心位相の観測値(θ
〜k)とブロック内事前推定中心位相θ
k−との差を表す。
【0026】
【数7】
また同様に、最尤周波数推定によって周波数誤差ε
ωが下記式(6)により算出され、この周波数誤差ε
ωは、判定前シンボルs
n−及び判定後シンボルd
n−に基づいて決定される、ブロック内周波数の観測値(ω
〜k)とブロック内事前推定周波数ω
k−との差を表す。
【0027】
【数8】
なお、前記式(6)の推定結果を得るにあたっては、尤度関数Λ(ω)を下記式(6)’により定義し、ωが微小であるという仮定の下で下記式(6)’中のexp(inω)を下記式(6)’’で近似し、dΛ/dωが0となるωを最尤推定値ε
ωとして扱うこととする。
【0030】
<事後推定値取得部>
事後推定値取得部7は、周波数誤差ε
ω及び位相誤差ε
θに基づいて、前記事前推定値(ω
k−,θ
k−)を修正し、前記ブロック内周波数及び前記ブロック内中心位相の最も確からしい今回処理値を推定した事後推定値として、ブロック内事後推定周波数ω
k及びブロック内事後中心位相θ
kを取得する。
ブロック内事後推定周波数ω
k及びブロック内事後中心位相θ
kを取得する方法としては、周波数誤差ε
ω及び位相誤差ε
θに適当な重みをかけて前記事前推定値(ω
k−,θ
k−)を修正する方法であれば、特に制限はないが、より精度の高い前記事後推定値を得る観点から、下記参考文献2〜4に記載のカルマンフィルタを参照して構成されるカルマンフィルタにより取得することが好ましい。なお、下記参考文献3、4では、カルマンフィルタを用いて搬送波再生を行う方法が記載されているが、いずれもシンボルごとの処理に対して適用するものであり、ここでは、ブロック化された前記分離シンボル群を構成する複数の前記分離シンボルに対して適用する手段として、前記周波数誤差、前記位相誤差、前記事前推定値としての事前状態ベクトル及び利得を制御する事前誤差共分散行列の入力に基づき、前記事前推定値及び前記事前誤差共分散行列の値が修正された、前記事後推定値としての事後状態ベクトル及び事後誤差共分散行列を出力するカルマンフィルタを提案する。
参考文献2;足立他、「カルマンフィルタの基礎」、2012、東京電機大学出版局
参考文献3;W.−T. Lin et al., “Adaptive Carrier Synchronization Using Decision−Aided Kalman Filtering Algorithms,” IEEE Trans. Consumer Electron., Vol.53, No.4, pp.1260−1267 (2007).
参考文献4;T. Marshall et al., “Kalman filter carrier and polarization−state tracking,” Opt. Lett., Vol.35, No.13, pp.2203−2205 (2010).
【0031】
先ず、前記カルマンフィルタを適用するうえで、モデルとして発展方程式及び観測方程式をそれぞれ下記式(7)及び(8)により定義する。
【0033】
【数12】
なお、前記式(7)、(8)中のx
kは、k回目の処理における状態ベクトルであり、この値を推定することが前記カルマンフィルタの目的である。ここでは、x
kをブロック内中心位相θ
kとブロック内周波数ω
kを用いて二行一列のベクトルとして下記式(9)により定義する。
【0034】
【数13】
ただし、前記式(9)中のTは、行列の転置を表す。
また、前記式(7)中の線形発展行列Aを下記式(10)により定義する。
【0035】
【数14】
この式(10)の定義は、前述の前記事前推定値を前記式(2)、(3)によって計算することに相当する。
また、前記式(7)中のB及びn
sは、システム雑音と呼ばれるパラメータを規定するもので、系の発展に対して本質的な揺らぎを与える雑音を記述する行列及びベクトルである。ここでは、レーザーの周波数は本質的に揺らいでいるためシステム雑音として考えるが、位相は周波数揺らぎに付随するものであるという立場からシステム雑音としては考えないこととし、B及びn
sをそれぞれ下記式(11)、(12)により定義する。
【0037】
【数16】
ただし、前記式(12)中のn
fは、搬送波周波数揺らぎを表すランダム変数であり、平均値が零であり、分散値、即ち雑音電力がσ
f2であるとする。
【0038】
前記式(8)のy
kは、観測値ベクトルであり、前記ブロック内中心位相の観測値θ
〜kと前記ブロック内周波数の観測値ω
〜kを用いて下記式(13)で定義される。
【0039】
【数17】
また、状態ベクトルx
kは、y
kとして直接観測可能であるとして、前記式(8)中のCは、二行二列の単位行列Iと定義する。また、前記式(8)中のn
oは、観測雑音ベクトルであり、下記式(14)により定義される。
【0040】
【数18】
ただし、前記式(14)中、n
θ及びn
ωは、それぞれ観測値θ
〜k、ω
〜kに対する雑音を表すランダム変数であり、平均値が零であり、分散値、即ち雑音電力がそれぞれσ
θ2及びσ
ω2であるとする。
【0041】
以上の定義から、最適な状態ベクトルx
kを以下の手順により推定する。
先ず、状態ベクトルx
kの事前推定値x^
k−及び事前誤差共分散行列P
k−が、それぞれ下記式(15)、(16)により与えられる。
【0043】
【数20】
ただし、前記式(15)中のx^
k−1及び前記式(16)中のP
k−1は、それぞれ前回の処理で得られた状態ベクトルの事後推定値及び事後誤差共分散行列である。
また、前記式(16)に示すQは、システム雑音を表す行列であり、雑音電力σ
f2を用いて下記式(17)により与えられる。
【0044】
【数21】
なお、雑音電力σ
f2の値は、信号源及び局所発振器の光源であるレーザーの周波数揺らぎによって決定されるので、システムで使用されるレーザーを決定した時点で固定値を用いることとする。
【0045】
次に、カルマンゲインG
kは、下記式(18)により与えられる。
【0046】
【数22】
ただし、前記式(18)中、R
kは、観測雑音を表す行列であり、観測値θ
〜k、ω
〜kに対する位相及び周波数の観測雑音電力σ
θ2及びσ
ω2を用いて下記式(19)により与えられる。
【0047】
【数23】
なお、前記式(18)は、逆行列演算を含んでいるが、行列のサイズが2行2列であるので容易に計算できる。
また、前記式(19)中の観測雑音電力σ
θ2及びσ
ω2の値は、入力される前記受信信号の品質に依存するので、繰返し処理の当初は、あらかじめ設定される初期値を用いる一方、ある程度処理回数を重ねた後は、繰返し処理を行う過程で得られた観測値誤差の統計量として得られた値を用い、行列R
kの値を随時更新するものとする。
これにより、受信中に前記受信信号の品質が変化したとしても、常に最適な推定結果を与えることが可能となる。この点は、前述のPLLを用いた搬送波再生(非特許文献2参照)と比較して大きな利点となる。つまり、前述のPLLを使用する場合は、受信信号の品質に合わせてループフィルタ帯域等のパラメータを最適化する必要が生じ、その方法が単純ではないことから、受信中に前記受信信号の品質が変化したとしても、それに適応させることは容易ではない。これに対し、前記カルマンフィルタを採用した場合、観測結果から最適な制御パラメータが自動的に得られる。
【0048】
状態ベクトルの事後推定値x^
kは、事前推定値x^
k−、観測値ベクトルy
k、及びカルマンゲインG
kを用いて、下記式(20)により与えられる。
【0049】
【数24】
ここで、式(20)中の「y
k−x^
k−」の項は、イノベーションと呼ばれる下記式(21)により与えられ、前記ブロック内中心位相及び前記ブロック内周波数に関しての観測値と事前推定値との差である。即ち、前記式(5)、(6)で与えられる位相誤差ε
θ及び周波数誤差ε
ωを用いることができる。
【0051】
最後に事後誤差共分散行列P
kは、事前誤差共分散行列P
k−及びカルマンゲインG
kを用いて下記式(22)により与えられる。
【0053】
以上により、事後推定値取得部7では、前記事後推定値としての状態ベクトルの事後推定値x^
k、即ち、ブロック内事後推定周波数ω
k及びブロック内事後推定中心位相θ
kが出力可能とされ(前記式(9)等参照)、また、前記カルマンフィルタを用いる場合の構成として、事後誤差共分散行列P
kが出力可能とされる(前記式(22)等参照)。
【0054】
<本補償部>
前記本補償部は、事後推定位相算出部8及び乗算器9
1,9
2,・・・,9
Nで構成される。
事後推定位相算出部8では、前記事後推定値としてのブロック内事後推定周波数ω
k及びブロック内事後推定中心位相θ
kから、前記式(1)に基づき、各分離シンボルE
1,E
2,...,E
Nの事後推定位相φ
nを算出する。
乗算器9
1,9
2,・・・,9
Nでは、事後推定位相φ
nの入力に基づき、各分離シンボルE
1,E
2,...,E
Nに対して、exp(−iφ
n)を乗算し、各分離シンボルE
1,E
2,...,E
Nがそれぞれ持つ前述の位相変調成分exp[i2πf
ot]に対する補償を行う。
このようにして、ブロック化された各分離シンボルE
1,E
2,...,E
Nの搬送波位相を一括して補償して再生することができる。また、引き続き、次の前記分離シンボル群に対する搬送波再生を実施し、処理を繰り返すことで全ての受信シンボルに対する搬送波再生が可能となる。
なお、搬送波再生が実施された受信シンボルに対して、公知の復調処理(判定及び逆符号化)を行うことにより、前記受信信号を復調することができる。
【0055】
<フィードバック処理部>
フィードバック処理部10は、今回(k回目)得られた前記事後推定値(ω
k、θ
k)に基づき、事前推定値取得部2が、前記事後推定値(ω
k、θ
k)を前記ブロック内周波数及び前記ブロック内中心位相の前回処理値として、次回(k+1回目)の前記位相補償における前記分離シンボル群に対する前記事前推定値(ω
k+1−、θ
k+1−)を取得するようにフィードバック処理を行う。
なお、事後推定値取得部7が前記カルマンフィルタで構成される場合には、前記フィードバック処理に加えて、事前推定値取得部2に前記事後推定値及び前記事後誤差共分散行列(x^
k、P
k)を入力することで、事前推定値取得部2が、前記カルマンフィルタに対し、これらを次回の前記位相補償における前記事前推定値及び前記事前誤差共分散行列(x^
k+1−、P
k+1−)として出力するよう、フィードバック処理を行う。
なお、今回(k回目)の前記事後推定値(ω
k、θ
k)、前記事後推定値及び前記事後誤差共分散行列(x^
k、P
k)を取得する際に用いる前回(k−1回目)の処理値に関し、初回(k=1)については、(x^
0−、P
0−)に適当な初期値を入力して処理を行う。また、処理開始当初は、前記初期値の影響を受けるため、ある程度十分な回数の処理を経てから、実質的な処理の開始を行うことが好ましい。
【0056】
前述の通り、PLLのようにシンボルごとにフィードバック処理を行う場合、デジタルシグナルプロセッサ(DSP)がシンボルレートと同じクロック周波数で動作する必要があるので、光通信のようにシンボルレートが数十GHzに及ぶ場合、搬送波再生を行うことが難しい。これに対し、受信信号処理装置100では、前記分離シンボル群のシンボル数(ブロックサイズ)をNとすると、フィードバックが発生する時間間隔は、原理的にシンボル間隔のN分の1とすることができることから、Nを数十以上の大きな値にすることで、デジタルシグナルプロセッサ(DSP)の所要クロック周波数を低くすることができ、シンボルレートが数十GHzの場合でも現実的なデジタルシグナルプロセッサ(DSP)で搬送波再生を実施することが可能となる。
なお、
図1に示す受信信号処理装置100は、本発明の一実施形態として説明したものであり、本発明の技術的思想は、この例に限られない。例えば、偏波多重信号光の偏波分離や波形整形を行う適応等化器と本発明の搬送波再生方法を組み合わせた形の処理を実施してもよい。また、受信信号処理装置100を含む本発明の受信信号処理装置の各部は、前述の構成により、各部の信号処理を実行するように回路化されたIC、LSI等の任意の集積回路を用いて構築することができる。
【0057】
<受信信号処理装置(本判定部を備える構成例等)>
本発明の受信信号処理装置は、更に、デジタル変調された受信信号の1つの受信シンボル(ここでは、前記搬送波再生部から出力される前記各分離シンボル)に対して、前記デジタル変調の変調方式により決定される参照信号を構成する複数の参照点から、複素平面上でのユークリッド距離が最も短い参照点を判定する判定器と、下記式〔1〕に基づき、判定された前記参照点の位置を前記受信シンボルの位置に近づくように補正し、前記判定器で用いられる前記参照信号の前記参照点を補正後の前記参照点に更新させる参照信号更新手段と、を有する本判定部を備えて構成することができる。
このような参照信号更新手段により、前記参照信号の更新を任意の回数繰り返して行うことで、前記参照信号内の全ての前記参照点を前記受信シンボルが取り得る複素振幅値の期待値と一致させるように更新させることができ、送信信号が歪みを有する場合でも、判定指向型の各種信号処理手段を正常に動作させ、信号品質を低下させずに処理することができる。
【0058】
【数27】
ただし、前記式〔1〕中、nは、前記参照点に対する更新の回数を示し、r
nは、n回目に更新処理された前記参照点の複素平面上での位置を表す2次元ベクトルを示し、x
nは、n回目の更新時における前記受信シンボルの前記複素平面上での位置を表す2次元ベクトルを示し、μは、10
−10以上0.1以下の微小な数値を示し、r
n+1は、補正後における前記参照点の前記複素平面上での位置を表す2次元ベクトルを示す。
【0059】
前記判定器としては、特に制限はなく、公知の判定指向型の判定器における回路構成に基づいて、前記受信シンボルに対する判定を実行するように回路化されたIC、LSI等の集積回路を用いて構築することができる。
また、前記参照信号更新手段の具体的な構成としては、特に制限はなく、前記参照信号の前記参照点の補正を実行するように回路化されたIC、LSI等の集積回路を用いて構築することができる。
【0060】
前記受信信号処理装置の前記本判定部としては、前記受信信号と、前記受信信号に対する、前記参照信号更新手段により更新された前記参照信号に基づく前記判定器の判定結果としての判定信号との位相差を制御信号として、搬送波周波数と局所発振周波数の周波数差の揺らぎに起因して発生する、前記受信信号の位相変化に応じた位相補正量を算出する位相補正量算出手段を有することが好ましい。このような位相補正量算出手段を有することで、前記制御信号に基づく、前記搬送波再生を行うことが可能となる。
【0061】
また、前記受信信号処理装置としては、有限インパルス応答(FIR)フィルタによって雑音成分がフィルタリングされた前記受信信号と、前記受信信号に対する、前記参照信号更新手段により更新された前記参照信号に基づく前記判定器の判定結果としての判定信号との差を誤差信号とし、前記誤差信号の大きさが最小となるように前記FIRフィルタのタップ係数が制御される適応等化器(アダプティブイコライザ;AEQ)を有することが好ましい。このような適応等化器を有することで、前記受信信号の品質を最大化させた等化処理(フィルタリング処理)を行うことができる。
【0062】
前記適応等化器としては、偏波多重された前記受信信号の偏波分離処理を実施する偏波分離処理手段を有することが好ましい。このような偏波分離手段を有することで、偏波多重された前記受信信号を対象とした前記等化処理を行うことができる。
【0063】
前記位相補正量算出手段及び前記適応等化器の具体的な構成としては、特に制限はなく、前者については、公知の判定指向型の位相補正量算出手段であるデジタルフェーズロックループ(DPLL)に任意の位相補正手段を組み合わせたものに対して、前記参照信号の補正及び更新を実行するよう回路化した構成、そして後者については、公知の判定指向型の適応等化器に対して、前記参照信号の補正及び更新を実行するよう回路化した構成が挙げられる。このような構成としては、前記参照信号更新手段及び前記判定器が組み込まれた状態で、前記参照信号更新手段により更新された前記参照信号に基づく前記判定器の判定結果としての前記判定信号に基づく前記位相補正量算出処理及び前記等化処理を実行するように回路化されたIC、LSI等の集積回路を用いて構築することができる。
【0064】
ここで、公知の判定指向型の前記位相補正量算出手段及び前記適応等化器の各回路構成例、及びこれらが実行する信号処理例を
図15、
図16を用いて説明するとともに、これらが有する問題点についても説明する。また、ここでは、
図16に示す各回路構成を一つの受信信号処理装置と見立てて説明をする。なお、
図15はDPLLの構成例を示す回路図である。また、
図16は、DPLL、位相補正手段(e
−j(・)演算部)、及びAEQを有して構成される受信信号処理装置の構成例を示す回路図である。
【0065】
図15に示すように、デジタルフェーズロックループ230は、位相誤差演算処理部231と、位相差算出部232と、ループフィルタ部233と、数値制御発振器234とで構成される。
このデジタルフェーズロックループ230の信号処理手順を各部の信号処理とともに説明する。なお、デジタルフェーズロックループ230では、連続して入力される受信シンボル及び判定シンボルごとに位相補正量φを出力するための演算を繰り返し行っていて、以下では、j番目(ただしjは1以上の整数)に入力される受信シンボル及び判定シンボルに対する演算処理について説明するものとし、立ち上がり時であるj=1の場合を除き、1シンボル前のj−1番目の処理が完了していて、フィードバック信号が適宜供給されているものとする。また、図中のz
−1は、1シンボル遅延を意味し、1シンボル前の処理で得られた値がフィードバックされて得られることを示す。
位相誤差演算処理部231では、受信シンボルである入力s
jと、判定シンボルである入力d
jとの位相誤差θ
jを算出する。この際、位相誤差θ
jは、θ
j=Arg(s
j×d
j*)として得られる。ここで、d
j*は、判定後の受信シンボルの複素共役であり、Argは、複素数の複素平面上における位相角を与える関数を意味する。また、添え字jはj番目の入力シンボルに対して処理されて得られる値であることを意味している。
位相差算出部232では、j番目の入力シンボルに対する位相誤差θ
jと、j−1番目の入力シンボルに対して得られた、後述する位相補正量φ
j−1との差であるθ’
jを算出する。ただし、j=1の場合は、φ
0=0とする。
ループフィルタ部233では、Damping factor ζ、Natural frequency ω
nと、シンボル時間間隔Ts、即ち、シンボルレートの逆数によって決定されるパラメータC
1及びC
2を用いて図中に示す演算を行い、θ’
jの高周波成分をカットする。
数値制御発振器234では、θ’
jの高周波成分がカットされた後の値(ループフィルタ部233の出力)の入力に基づき、j−1番目の入力シンボルに対して得られた位相補正量φ
j−1との和をとり、j番目の入力シンボルに対して得られた位相補正量φ
jとして、出力する。ただし、j=1の場合は、φ
0=0とする。
以上の信号処理手順により、デジタルフェーズロックループ230では、次の入力シンボルに対する位相補正量φ(受信信号搬送波周波数と、前記局所発振器(LO)のランダムな周波数差に起因して発生する位相シフトを補正する値)を算出する。また、数値制御発振器234から出力される位相補正量φ
jを位相差算出部232にフィードバックさせて、上記と同様に後続の入力s
j+1、d
j+1に対して演算処理を行い、位相補正量φ
j+1を算出する。
デジタルフェーズロックループ230では、こうした信号処理をシンボルが入力されるごとに繰り返し行うことで、受信シンボルと判定シンボルの位相誤差で制御される判定指向型の位相補正量算出手段として、各受信シンボル間の位相変化を追尾する位相補正量φの出力が可能とされる。
また、デジタルフェーズロックループ230を公知の位相補正手段(例えば、位相補正手段(e
−j(・)演算部)235)と組み合わせることで、前記位相補正量に基づき、搬送波再生された復調信号を得ることができる。
更に、デジタルフェーズロックループ230と位相補正手段を公知の適応等化器に組み込む(例えば、
図16参照)ことで、適応等化が実施されたうえで、前記搬送波再生も実施された復調信号を得ることができる。
なお、前記搬送波再生に用いられる回路構成としては、この例に限られず、本発明の受信信号処理装置は、前記受信シンボルに対する判定結果と前記受信シンボルとの関係を誤差信号として利用する、全ての搬送波再生回路の回路構成を適用することができ、例えば、非特許文献3に示される搬送波再生回路の回路構成とすることもできる。
【0066】
図16に示すように、適応等化器250は、h11,h12,h21,h22の各FIRフィルタ、判定器251、誤差信号算出部及びタップ係数制御部252とともに、各FIRフィルタのタップ係数を最適に制御する。この適応等化器250では、偏波多重された前記受信信号に対する偏波分離処理を実行するため、2×2バタフライ構成とされる。また、適応等化器250を構成するFIRフィルタは、例えば、9タップのT/2分数間隔FIRフィルタとされるが、この形態に制限されることなく、任意のタップ数のFIRフィルタを利用可能である。
適応等化器250に入力される信号E
1及びE
2は、前記受信信号のX偏波成分及びY偏波成分の複素振幅値であるが、信号E
1及びE
2のそれぞれは、前記送信信号のX偏波成分及びY偏波成分と必ずしも一致していない。また、h11及びh21、並びに、h12及びh22の各FIRフィルタには、誤差信号算出部及びタップ係数制御部252によって決定されたタップ係数を表すベクトル(タップ係数ベクトル)が与えられ、各FIRフィルタの出力は、これらタップ係数ベクトルと、時系列の入力信号ベクトルとの内積(畳み込み演算)によって与えられる。
本例では、適応等化器250と、判定指向型の位相補正量算出手段として、
図15に示すデジタルフェーズロックループ(DPLL)230、位相補正手段235、及び判定を行う判定器251が組み込まれて受信信号処理装置が構成されている。
適応等化器250から出力される信号は、
図15で示すデジタルフェーズロックループ回路230(DPLL)から出力される位相補正量に応じて、位相補正手段235によって位相が補正(搬送波再生)され、判定器251に入力される。
判定器251では、取り扱う前記受信信号のデジタル変調方式により決定される参照信号が規定されていて、受信シンボルs
x,s
yに対して、参照信号内のどの参照点が最も近いかを判定する。具体的には、複素平面上で、受信シンボルs
x,s
yとのユークリッド距離が最も小さい参照点を選び、選ばれた参照点をそれぞれ判定シンボルd
x,d
yとして出力する。
判定器251により判定される前の受信シンボルs
x,s
y、及び判定された後の判定シンボルd
x,d
yは、適応等化器250の前記信号処理、及びデジタルフェーズロックループ回路30の前記信号処理を制御するのに用いられる。
なお、デジタルフェーズロックループ(DPLL)230の出力が、適応等化器250内の誤差信号算出部及びタップ係数制御部252に入力されているが、これは判定前後の受信シンボルから誤差信号を計算する際、補正した搬送波位相を元の状態に戻したうえで、タップ係数の計算を実施しているためである。
FIRフィルタのタップ係数制御部252では、誤差信号に基づいて二乗誤差の期待値を最小化するLeast Mean Square(LMS)アルゴリズムを用いた前記タップ係数の制御を行う。
前記アルゴリズムを用いたタップ係数制御は、先ず、前記受信信号に関する事前情報に頼らないブラインドスタートアップ状態では、信号s
x,s
yが持つ絶対値振幅の一定値からの誤差を利用する、Constant Modulus Algorithm(CMA)を用いて行い、次に、前記タップ係数がある程度収束した後は、判定前後の複素振幅の差を誤差信号として利用する判定指向型(Decision−directed;DD)動作モードに移行して行う。
このようにして、前記各FIRフィルタによって、偏波分離処理及び雑音のフィルタリングが実施された受信シンボルs
x,s
yと、判定シンボルd
x,d
yとの差を誤差信号とし、前記誤差信号の大きさが最小になるように前記各タップ係数を制御して、後続の受信シンボルに対する等化処理を行い、前記受信信号の品質を最大化させる。
前記受信信号処理装置により復調される信号としては、判定器251より出力される判定シンボルd
x,d
yをそのまま復調された信号としてもよいし、前記等化処理後の信号s
x,s
yに対して、外部に別途設けられた判定器による判定を再度実施して得られる信号を復調された信号としてもよい。後者の場合、前記判定器251と、外部に別途設けられる判定器とは、それぞれ異なる判定ルールによる判定を実施してもよい。
なお、入力信号が単一偏波信号で、E
1だけの場合は、
図16において、h21、h12、h22に関するFIRフィルタは使用せず、h11に関する回路の上半分のみで動作させればよい。
【0067】
ある送信信号(ここでは、16QAM信号を例とする)が、前記参照信号と同じく、
図13(b)に示す理想的なコンスタレーション波形を有する場合、前記判定に問題は生じず、前記位相補正量算出手段及び前記適応等化器を正常に動作させることができる。
ところが、前記送信信号が、
図14(a)〜(c)に示すような歪んだコンスタレーション波形を有する場合、理想的なコンスタレーションの前記参照信号を用いて判定を行うと、受信時の光信号対雑音比が高い状態であっても、多くの誤りを発生することになり、その結果、前記判定指向型動作モードにある前記位相補正量算出手段及び前記適応等化器が誤動作し、復調後の信号品質に信号劣化が発生することになる。
【0068】
そこで、本発明の前記受信信号処理装置の本判定部では、以下の信号処理により、前記送信信号が歪んでいる場合であっても、前記参照信号を補正することで前記位相補正量算出手段及び前記適応等化器を正常に動作させることとしている。なお、本明細書において、「本判定部」の用語は、受信信号処理装置における最終的な判定を行う判定器について、参照信号を補正する機能を備えた判定部の意味として用いる。したがって、受信信号処理装置内に唯一存在する判定器が、判定指向型の搬送波再生や適応等化を実施するための判定を行いかつそれが最終的な判定結果を与える場合、その判定器に参照信号を補正する機能を備えたものを「本判定部」と呼ぶことにし、一方で搬送波再生を実施するための判定器が仮に設置してあって、搬送波再生後の受信信号に対して改めて最終的な判定を実施する判定器を別に備える場合には、その最終判定を行う判定器に参照信号を補正する機能を備えたものを「本判定部」と呼ぶことにする。
このような参照信号の補正状況を、
図17(a)を用いて模式的に説明する。
図17(a)は、前記参照信号の補正状況を模式的に説明する説明図である。
該
図17(a)において、十字の図形は、理想的な16QAM信号のコンスタレーション状態に基づき決定される前記参照信号を構成する各参照点の複素平面上での位置を示し、丸い円の図形は、受信信号の1つの受信シンボルが前記複素平面上で取り得る位置の範囲を示し、前記各受信シンボルのコンスタレーションは、総じて歪んだ状態である。
前記参照信号の補正は、図中矢印で示すように、前記各参照点の位置を歪んだ状態の前記受信シンボルの期待される中心位置に更新することで行う。
即ち、前記参照信号を構成する1つの参照点の位置を、前記複素平面上で1つの前記受信シンボルの期待される中心位置に近づくように補正し、前記参照信号の前記参照点を補正後の前記参照点に更新処理する。
このとき、補正は、下記式〔1〕にしたがって行う。
【0069】
【数28】
ただし、前記式〔1〕中、nは、前記参照点に対する更新の回数を示し、r
nは、n回目に更新された前記参照点の前記複素平面上での位置を表す2次元ベクトルを示し、x
nは、n回目の更新時における前記受信シンボルの前記複素平面上での位置を表す2次元ベクトルを示し、μは、10
−10以上0.1以下の微小な数値を示し、r
n+1は、補正後における前記参照点の前記複素平面上での位置を表す2次元ベクトルを示す。
【0070】
こうした前記参照点が補正される状況を、
図17(b)を用いて模式的に説明する。
図17(b)は、前記参照信号の前記参照点が補正される状況を模式的に説明する説明図である。
該
図17(b)に示すように、参照点r
n−1は、受信シンボルx
n−1により参照点r
nに補正され、参照点r
nは、次の受信シンボルx
nにより参照点r
n+1に補正され、参照点r
n+1は、更に次の受信シンボルx
n+1により参照点r
n+2(図中には、参照点を示す十字記号のみ表示している)に補正される。この処理を繰り返すことで、参照点は、ある受信シンボルが取り得る位置の範囲の期待値としての中心点E[x
n](前記受信シンボルが取り得る複素振幅値の期待値)へと近づいていく。なお、前記シンボル位置の範囲(図中、円形で示す範囲)及びその期待値としての中心点E[x
n]は、複数の受信シンボルの各受信位置及びこれらの平均値からそれぞれ決定される。
また、参照点r
n−1から参照点r
n、参照点r
nから参照点r
n+1への補正距離は、前記式〔1〕におけるμの値に依存し、10
−10未満であると、収束が遅くなり、0.1を超えると、急速に収束するものの、不安定な動作の一因となる。
以上の補正処理に基づく前記参照信号の前記参照点の更新を任意の回数繰り返して行うことで、前記参照信号内の全ての前記参照点を前記受信シンボルの歪みに合わせた形にすることができる。そのため、前記受信シンボルが送信側で生じた歪みを有する場合でも、歪みの影響を排除した判定を行うことができ、判定指向型の前記適応等化器や前記位相補正量算出手段を正常に動作させ、信号品質を低下させずに受信することができる。
なお、どのタイミングで、いくつの受信シンボルに基づいて前記補正及び前記更新を行うかについては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0071】
前記参照信号の補正及び更新を行う前記本判定部を、1つの前記受信信号処理装置に組み入れた場合の具体的な構成例を
図18に示す。
図18は、受信信号処理装置の構成例を示す回路図である。
図18に示すように、受信信号処理装置200は、2×2バタフライ構成のFIRフィルタと、誤差信号算出部及びタップ係数制御部252からなる適応等化器250、判定器251、デジタルフェーズロックループ230、位相補正部235、を有する受信信号処理装置において、更に、参照信号更新部270が配された構成とされる。
参照信号更新部270では、入力される受信シンボルs
x及び判定シンボルd
xに基づき、前記参照信号を構成する前記参照点のうち、判定シンボルd
xに一致する参照点rの位置を、複素平面上で前記式〔1〕により受信シンボルs
xを構成する1つの受信シンボルxの位置に近づくように補正し、補正された参照点rの前記複素平面上での位置情報を、判定器251で用いられる参照信号に対して逐次反映する更新処理を行う。これら参照信号更新部270での参照点rの補正と、参照点rの補正に伴う判定器251に対する参照点rの更新を、任意の回数繰り返して行うことで、前記参照信号内の全ての前記参照点を所望の形に更新していく。判定器251では、後続の受信シンボルs
xに対して、受信シンボルs
xの歪みに応じて更新された前記参照信号に基づき、前記複素平面上でのユークリッド距離が最も短い参照点rを判定し、その結果を判定シンボルd
xとして出力する。また、Y偏波成分の入力信号E
2に基づく受信シンボルs
yに対しても受信信号s
xと同様に、歪みに応じて更新された前記参照信号に基づく判定を行い、その結果を判定シンボルd
yとして出力する。
なお、参照信号更新部270の補正処理に基づいて判定器251の参照信号を更新する処理を実施し、更新された前記補正信号に基づいて判定器251から出力される判定信号により、前記搬送波再生を目的とする前記位相補正量算出処理、前記等化処理及び前記偏波分離処理を実施すること以外の事項については、公知の前記位相補正量算出処理、前記等化処理及び前記偏波分離処理の信号処理手順にしたがって前記受信信号の信号処理を行うことで、目的とする復調信号を得ることができる。なお、前記復調信号としては、判定シンボルd
x,d
yそのものであってもよいし、前記各信号処理が完了したシンボルs
x及びs
yを再度、受信信号処理装置200の外部に別途設けられた判定器に入力して得られる判定シンボルとしてもよい。後者の場合は、前記判定器251と、外部に別途設けられる判定器は異なる判定ルールによる判定を実施してもよい。
【0072】
前記受信信号処理装置が適用可能な前記受信信号としては、特に制限はなく、複数の複素振幅値により多値化変調されたBPSK信号、QPSK信号、QAM信号が挙げられる。
また、前記受信信号処理装置は、前記受信シンボルが取り得る期待位置の範囲が、理想的な波形のコンスタレーションの閾値を超えていない限り、
図14(a)〜(c)に示したコンスタレーション波形以外の波形歪みを有する信号に対しても適用することができ、例えば、
図19に示すようなコンスタレーションを有する信号に対しても、適用することができる。なお、
図19は、前記受信信号処理装置で処理可能な他の信号のコンスタレーションを示す図である。
【0073】
以上の説明をもとに、本発明の前記受信信号処理装置のより具体的な実施形態について説明をする。
このような実施形態としては、先ず、
図20に示すような、前記適応等化器(AEQ)と、前記搬送波再生部とを有して構成される受信信号処理装置が挙げられる。なお、
図20は、適応等化器(AEQ)と、搬送波再生部とを有して構成される受信信号処理装置の構成例を示す回路図である。
該
図20に示すように、受信信号処理装置300は、
図16に示す受信信号処理装置において、DPLL230に代え、
図1に示す受信信号処理装置を構成する搬送波再生部100の回路構成を適用した例に係る。
こうした受信信号処理装置300によれば、DPLL230に代えて、搬送波再生部100を用いるため、高シンボルレートの光通信に適用でき、かつ、QAM信号等の多値化信号に対して高精度に搬送波再生が可能とされ、更に、適応等化器250により、受信信号と判定器251から出力される判定信号との差が最少となるようにタップ係数を制御することができる。
【0074】
次に、
図21に示すような、前記搬送波再生部と前記本判定部を有して構成される受信信号処理装置が挙げられる。なお、
図21は、搬送波再生部と本判定部とを有して構成される受信信号処理装置の構成例を示す回路図である。
該
図21に示すように、この受信信号処理装置310は、
図1に示す受信信号処理装置を構成する搬送波再生部100と、
図18に示す判定器251と参照信号更新部270とを有する前記本判定部とで構成される。
こうした受信信号処理装置310によれば、受信信号処理装置300と同様に、高精度に搬送波再生が可能となることに加え、参照信号更新部270により判定器251で用いられる前記参照信号の前記参照点を補正するとともに、その補正結果を搬送波再生部100における判定部5
1,5
2,・・・5
Nに対してフィードバック処理させて次回の判定に適用することで、前記受信シンボルが送信側で生じた歪みを有する場合でも、歪みの影響を排除した判定を行うことができる。
【0075】
また、
図22に示すような、前記適応等化器(AEQ)と前記搬送波再生部と前記本判定部を有して構成される受信信号処理装置が挙げられる。なお、
図22は、適応等化器(AEQ)と搬送波再生部と本判定部とを有して構成される受信信号処理装置の構成例を示す回路図である。
該
図22に示すように、この受信信号処理装置320は、
図16に示す適応等化器250と、
図1に示す受信信号処理装置を構成する搬送波再生部100と、
図18に示す判定器251と参照信号更新部270とを有する前記本判定部と、を有して構成される。
こうした受信信号処理装置320によれば、受信信号処理装置300と同様に、高精度に搬送波再生が可能で、タップ係数を最適に制御することができ、更に、受信信号処理装置310と同様に、前記受信シンボルが送信側で生じた歪みを有する場合でも、歪みの影響を排除した判定を行うことができる。
【0076】
(受信信号処理方法)
本発明の受信信号処理方法は、変調された受信信号のシンボルを一定数ごとに分離してブロック化させた1つの分離シンボル群に対する位相補償を1回の処理として、前記分離シンボル群の数に応じて複数回連続して行う受信信号処理方法であり、分離出力ステップ、事前推定値取得ステップ、仮補償ステップ、判定ステップ、誤差観測ステップ、事後推定値取得ステップ、本補償ステップ、及びフィードバック処理ステップを含む。
【0077】
前記分離出力ステップは、ブロック内に一定時間間隔で入力される前記シンボルを一定数ごとに時間分離させて前記分離シンボル群を取得し、前記分離シンボル群を構成する各分離シンボルごとに出力するステップである。
前記分離出力ステップで取得される前記分離シンボル群のシンボル数としては、特に制限はないが、2〜1,024が好ましい。
前記事前推定値取得ステップは、前記各分離シンボルの時間に対する位相変化に基づき決定される1つのブロック内周波数及び前記各分離シンボルの各位相の時間中心として決定される1つのブロック内中心位相の前回処理値から、これらの今回処理値を推定した事前推定値として、ブロック内事前推定周波数及びブロック内事前推定中心位相を取得するステップである。
また、仮補償ステップは、前記事前推定値から前記各分離シンボルの事前推定位相を算出し、前記事前推定位相に基づいて前記各分離シンボルの位相を仮補償するステップである。
【0078】
前記判定ステップは、前記位相が仮補償された前記各分離シンボルを判定前シンボルとし、前記判定前シンボルに対して、前記受信信号の変調方式に応じて設定される参照信号に基づく判定を行い、前記参照信号の参照点に一致させた判定後シンボルを取得するステップである。
また、前記誤差観測ステップは、前記判定前シンボル及び前記判定後シンボルに基づいて決定される、前記ブロック内周波数の観測値と前記ブロック内事前推定周波数との周波数誤差を算出するとともに、前記判定前シンボル及び前記判定後シンボルに基づいて決定される、前記ブロック内中心位相の観測値と前記ブロック内事前推定中心位相との位相誤差を算出するステップである。
前記誤差観測ステップとしては、特に制限はないが、最尤推定により前記周波数誤差及び前記位相誤差を算出することが好ましい。
【0079】
前記事後推定値取得ステップは、前記周波数誤差及び前記位相誤差に基づいて前記事前推定値を修正し、前記ブロック内周波数及び前記ブロック内中心位相の最も確からしい今回処理値を推定した事後推定値として、ブロック内事後推定周波数及びブロック内事後推定中心位相を取得するステップである。
前記事後推定値取得ステップとしては、前記周波数誤差、前記位相誤差、前記事前推定値としての事前状態ベクトル及び利得を制御する事前誤差共分散行列の入力に基づき、前記事前推定値及び前記事前誤差共分散行列の値が修正された、前記事後推定値としての事後状態ベクトル及び事後誤差共分散行列を出力するカルマンフィルタで実行されることが好ましい。
【0080】
前記本補償ステップは、前記事後推定値から前記各分離シンボルの事後推定位相を算出し、前記事後推定位相に基づいて前記各分離シンボルの位相を本補償するステップである。
また、前記フィードバック処理ステップは、前記事前推定値取得ステップが、前記事後推定値を前記ブロック内周波数及び前記ブロック内中心位相の前回処理値として、次回の前記位相補償における前記分離シンボル群に対する前記事前推定値を取得するよう、フィードバック処理を行うステップである。
前記事後推定値取得ステップを前記カルマンフィルタにより実行する場合、前記フィードバック処理ステップとしては、前記事前推定値取得ステップの実行部に前記事後推定値及び前記事後誤差共分散行列を供給することで、前記事前推定値取得ステップが前記カルマンフィルタに対し、これらを次回の前記位相補償における前記事前推定値及び前記事前誤差共分散行列として供給するよう、フィードバック処理を行うことができる。
【0081】
なお、これら以外の事項については、前記受信信号処理装置で述べた事項を適用することができる。
以上の前記受信信号処理方法によれば、高シンボルレートの光通信に適用でき、かつ、QAM信号等の多値化信号に対しても高精度に搬送波再生が可能となる。
【0082】
<受信信号処理方法(本判定工程を含む構成例)>
本発明の受信信号処理方法は、更に、デジタル変調された受信信号の1つの受信シンボル(ここでは、位相が本補償された前記各分離シンボル)に対して、前記デジタル変調の変調方式により決定される参照信号を構成する複数の参照点から、複素平面上でのユークリッド距離が最も短い参照点を判定する本判定工程と、下記式〔1〕に基づき、本判定された前記参照点の位置を前記受信シンボルの位置に近づくように補正し、前記本判定工程で用いられる前記参照信号の前記参照点を補正後の前記参照点に更新させる参照信号更新工程と、を含み、実施されることが好ましい。
このような参照信号更新工程により、前記参照信号の更新を任意の回数繰り返して行うことで、前記参照信号内の全ての前記参照点を前記受信シンボルが取り得る複素振幅値の期待値と一致させるように更新させることができ、送信信号が歪みを有する場合でも、判定指向型の適応等化器や位相補正量算出手段を正常に動作させ、信号品質を低下させずに受信することができる。
なお、本明細書において、「本判定工程」の用語は、受信信号処理方法における最終的な判定を行う判定ステップについて、参照信号を補正するステップを備えた判定工程の意味として用いる。したがって、受信信号処理方法内に唯一存在する判定ステップが、判定指向型の搬送波再生や適応等化を実施するための判定を行いかつそれが最終的な判定結果を与える場合、その判定器に参照信号を補正するステップを備えたものを「本判定工程」と呼ぶことにし、一方で搬送波再生を実施するための判定ステップが仮に実施されていて、搬送波再生後の受信信号に対して改めて最終的な判定を実施する判定ステップが別に実施される場合には、その最終判定を行う判定ステップに参照信号を補正するステップを備えたものを「本判定工程」と呼ぶことにする。
【0083】
【数29】
ただし、前記式〔1〕中、nは、前記参照点に対する更新の回数を示し、r
nは、n回目に更新された前記参照点の複素平面上での位置を表す2次元ベクトルを示し、x
nは、n回目の更新時における前記受信シンボルの前記複素平面上での位置を表す2次元ベクトルを示し、μは、10
−10以上0.1以下の微小な数値を示し、r
n+1は、補正後における前記参照点の前記複素平面上での位置を表す2次元ベクトルを示す。
【0084】
また、前記受信信号処理方法としては、前記受信信号と、前記受信信号に対する、前記参照信号更新工程により更新された前記参照信号に基づく前記本判定工程の判定結果としての判定信号との位相差を制御信号として、搬送波周波数と局所発振周波数の周波数差の揺らぎに起因して発生する、前記受信信号の位相変化に応じた位相補正量を算出する位相補正量算出工程を含むことが好ましい。このような位相補正量算出工程を有することで、前記制御信号に基づく、前記搬送波再生を行うことが可能となる。
【0085】
また、前記受信信号処理方法としては、FIRフィルタによって雑音成分がフィルタリングされた前記受信信号と、前記受信信号に対する、前記参照信号更新工程により更新された前記参照信号に基づく前記本判定工程の判定結果としての判定信号との差を誤差信号とし、前記誤差信号の大きさが最小となるように前記FIRフィルタのタップ係数が制御されて後続受信信号の等化処理を行う適応等化工程を含むことが好ましい。このような適応等化工程を有することで、前記受信信号の品質を最大化させた等化処理(フィルタリング処理)を行うことができる。ここで、前記適応等化工程としては、更に偏波多重された前記受信信号の偏波分離処理を実施する偏波分離処理工程を有することが好ましい。このような偏波分離工程を有することで、偏波多重された前記受信信号を対象とした前記等化処理を行うことができる。
なお、前記受信信号処理方法における各信号処理は、本発明の前記受信信号処理装置を用いて実行することができる。
【0086】
(通信システム)
本発明の通信システムは、前記本判定部を備えた前記受信信号処理装置を有する受信部と、前記受信部に送信信号を送信する送信部と、前記送信部から送信される前記送信信号を前記受信部に伝送する伝送路と、を有し、前記送信部が、前記受信部が受信する受信信号と参照信号更新手段により更新された参照信号に基づく判定器の判定結果としての判定信号との差に基づく情報を前記送信信号の歪みとして前記歪みのない状態にフィードバック処理される。
即ち、本発明の前記受信信号処理装置から出力される前記判定信号は、前記送信信号の歪みに関する情報を有している。これを送信側にフィードバックし、送信信号の歪みを解消するために用いることができる。その結果、送信信号の歪みに起因する本質的なペナルティを解消することができ、復調される信号品質をより向上させることができる。
なお、前記受信信号処理装置を除く、前記受信部及び前記送信部及び前記伝送路としては、公知の構成により構築することができる。なお、前記伝送路としては、信号を長距離伝送する公知の光ファイバなどが挙げられる。
【実施例】
【0087】
本発明の前記受信信号処理装置及び前記受信信号処理方法を適用した実験の内容と、該実験から確認される効果について説明をする。なお、本発明の前記受信信号処理装置及び前記受信信号処理方法は、任意の変調方式の信号に対して適用することができるが、ここでは、送信信号としてシンボルレートが12Gbaudの単一偏波16QAM及び64QAM信号を用いた。
図3に、本実験で用いた通信系の説明図を示す。該
図3に示すように、本通信系は、レーザーダイオード(LD)101と、IQ変調器(IQM)102と、任意波形発生器(AWG)103と、可変光減衰器(VOA)104と、光増幅器105と、バンドパスフィルタ(BPF)106と、コヒーレント受信器107と、リアルタイムオシロスコープ108と、オフラインのデジタル信号処理器(DSP)109と、光スペクトラムアナライザ(OSA)110とで構成される。
【0088】
レーザーダイオード101では、周波数193.1THz(波長;1,552.52nm)の連続光が出力される。
レーザーダイオード101から出力された連続光は、マッハツェンダー型ベクトル変調器であるIQ変調器102でベクトル変調され、16QAM及び64QAM信号が生成される。これら変調信号は、長さが2
15−1の疑似ランダムビットシーケンス(PRBS)から、グレイコードによる符号化を用いて得られたものである。
IQ変調器102には、任意波形発生器103から出力される、前記変調信号の同相(in−phase)及び直交(quadrature)成分それぞれに相当する電気信号が印可される。
【0089】
送信される16QAM及び64QAM信号は、可変光減衰器104と光増幅器105を用いて、光信号対雑音比(OSNR)が調整され、続いて、光増幅に伴って発生する信号帯域外光雑音がバンドパスフィルタ106で除去された後、コヒーレント受信機107で受信される。なお、前記光信号対雑音比の調整は、コヒーレント受信機107への入力パワーを一定値1mWとして、可変光減衰器104の減衰量及び光増幅器105の利得の調整を行って実施した。また、前記光信号対雑音比の測定を、コヒーレント受信機107と並行して設置された光スペクトラムアナライザ110によって実施した。
コヒーレント受信機107は、局所発振器(LO)光源と、90度光ハイブリッド部と、バランスフォトダイオードとで構成される。前記バランスフォトダイオードから出力される16QAM信号及び64QAM信号は、リアルタイムオシロスコープ108によりサンプリングレート80GSa/sでアナログ・デジタル変換され、オフラインデジタル信号処理器109に保存される。前記オフラインデジタル信号処理器109には、
図1に示す受信信号処理装置と同様の構成からなる実施例に係る受信信号処理装置が組み込まれており、アンチエリアスフィルタを適用後、オーバーサンプリングレート=2に相当する24GSa/sでリサンプリングし、タイミングが送信時のものと一致するようにリタイミングを行った後、実施例に係る受信信号処理装置による搬送波再生を行った。その後、位相が再生された16QAM信号及び64QAM信号を復調し、ビット誤り率等の信号品質を評価した。
なお、デジタル信号処理器109としては、パソコンを用い、実施例に係る受信信号処理装置を含む各信号処理部は、パソコン内で稼働する計算ソフトであるMatlab上に構築されたものである。
【0090】
実施例に係る受信信号処理装置に基づく信号処理にあたり、いくつかのパラメータの初期値を設定した。先ず、誤差共分散行列の初期値P
oについては、2行2列の零行列とした。
また、本実験系のシステム雑音電力σ
f2を10
−9とし、行列Qを固定した。なお、レーザーダイオード101の雑音特性が変化する場合は、それに応じて値を変化すべきであるが、ここでは常に同じレーザーを用いるものとし、行列Qを固定したままとする。また、観測雑音σ
θ2及びσ
ω2については、初期値をそれぞれ10
−2及び10
−3とし、実施例に係る受信信号処理を実施していく中で、統計量的にある程度十分な数の観測サンプル数が得られて以降は、観測した位相と周波数の誤差に関して統計的に得た誤差の分散値を用いるものとし、行列R
kを随時更新した。
また、状態ベクトルの初期値x
0に関し、位相θ
0については零とおくが、周波数ω
0に関しては、ある程度正確な値を入力する必要がある。本実験では、入力された最初の1,024シンボルについて、下記参考文献5で示される手法、即ち、複素振幅を4乗したものを高速フーリエ変換し、スペクトルが最大の強度を与える周波数成分をもって搬送波周波数の近似値とみなす手法を採用し、この値を周波数ω
0の初期値とおいた。
参考文献5;M. Selmi et al., “Accurate Digital Frequency Offset Estimator for Coherent PolMux QAM Transmission Systems,” Proc. ECOC2009, P3.08 (2009).
【0091】
以上の実験条件において、先ず、16QAM信号に対して、光信号対雑音比(OSNR)を12dBから37dBまで変化させて受信し、オフラインデジタル信号処理器109において復調を行った。前記受信信号処理装置の分離出力部におけるブロックサイズをN=2
m(m=2,3,…,7)とし、ビットエラーレート(BER)及びQファクター(Q値の二乗をdBで表示したもの;20log10(Q)[dB])を測定した結果を
図4(a)、(b)に示す。なお、
図4(a)は、ビットエラーレート(BER)の測定結果を示す図であり、
図4(b)は、Qファクターの測定結果を示す図である。
これら
図4(a)、(b)に示すように、いずれのブロックサイズの場合でも、搬送波再生を含めた復調処理が成功し、ビットエラーレート(BER)が正しく測定できていることがわかる。ブロックサイズを増やしていくと、特に光信号対雑音比(OSNR)が高い場合にわずかながらBERやQファクターが劣化しているのがわかる。
【0092】
また、
図5に光信号対雑音比(OSNR)が37dB及び15dBの場合のQファクターのブロックサイズ依存性を示す。
該
図5に示すように、光信号対雑音比(OSNR)が37dBの場合、ブロックサイズNが2のときのQファクターが18.3dBであるのに対して、ブロックサイズNが16のときのQファクターは、18.1dBであり、ブロックサイズNが128のときのQファクターは、17.5dBである。このようにブロックサイズを増していくと、Qファクターの低下が確認され、信号の品質が劣化する。
この点に関し、光信号対雑音比(OSNR)が37dBで、ブロックサイズNが2,16,128のときの受信シンボルのコンスタレーションを
図6(a)〜(c)に示す。なお、
図6(a)は、ブロックサイズNが2のときのコンスタレーションを示す図であり、
図6(b)は、ブロックサイズNが16のときのコンスタレーションを示す図であり、
図6(c)は、ブロックサイズNが128のときのコンスタレーションを示す図である。
これら
図6(a)〜(c)に示すように、ブロックサイズNが大きくなるとコンスタレーションの歪みが大きくなり、特に位相誤差が発生し、結果としてQファクターが劣化する。ブロックサイズNが大きいと位相誤差が生じる原因は、「ブロック内で搬送波周波数オフセットが一定値を保つ」という仮定が成り立たなくなるためである。そこで、より狭線幅のレーザーを信号源や局所発振器の光源に用いることで、搬送波周波数オフセットの時間変化の度合いを弱め、結果としてブロックサイズNを大きくしたときの品質劣化を低減できるものと考えられる。
一方、
図5において光信号対雑音比(OSNR)が15dBの場合は、ブロックサイズNの増加に対してQファクターの劣化量が非常に小さい。例えば、ブロックサイズNが2のとき及び128のときのQファクターは、それぞれ9.36dB及び9.18dBである。これは、光信号対雑音比(OSNR)が低い場合には、自然放出光(ASE)雑音による品質劣化が支配的となるため、搬送波再生にともなう位相雑音の影響がほぼ無視できるためである。現実の通信システムでは、誤り訂正符号(FEC)によってエラーフリーにできる最低の光信号対雑音比(OSNR)に一定のマージンを確保したうえで受信するように設計される。一例として、7%のオーバーヘッドが付与された誤り訂正符号(FEC)を用いた場合、ビットエラーレート(BER)が3.9×10
−3以下又はQファクターが8.5dB以上であればエラーフリーとできる。つまり、そのようなシステムにおいては、ブロックサイズNを128とした場合でも、Qファクターの劣化量を0.2dB程度と考えればよく、十分許容範囲の値とすることができる。
なお、本実験のシンボルレートは、12Gbaudであるので、ブロックサイズNが64の場合、1ブロック64シンボル分に相当する時間は、5.3ナノ秒であり、この時間は、ブロックごとの繰返し処理のクロック周波数に換算すると187.5MHzに相当する。このクロック周波数は、現実的なデジタルシグナルプロセッサ(DSP)で十分処理可能な低い値である。
【0093】
続いて、受信した16QAM信号について、復調後の信号品質の搬送波周波数オフセット依存性について述べる。ここでは、搬送波周波数オフセットの値が0から約1.2GHz付近の値をとるよう各レーザーの周波数を設定し、16QAM信号の光信号対雑音比(OSNR)を37dB及び15dBとした場合に、信号を受信及び復調し、搬送波再生の結果から判明した搬送波周波数オフセット測定結果に対する、BER及びQファクターを測定し、搬送波周波数オフセット依存性を確認した。
図7(a)に光信号対雑音比(OSNR)が15dBのときの搬送波周波数オフセット測定結果に対するビットエラーレート(BER)の測定結果を示す。なお、図には示さないが、光信号対雑音比(OSNR)が37dBの場合、全ての搬送波周波数オフセットの値に対して搬送波再生を含む復調処理が成功し、このときビットエラーは一つも観測されなかった。また、
図7(b)に光信号対雑音比(OSNR)が15dB,37dBのときの搬送波周波数オフセット測定結果に対するQファクターの測定結果を示す。
先に述べたように、非特許文献3に示されている手法では、搬送波周波数オフセットが0であることを前提としているため、搬送波周波数オフセットの値が大きな場合には処理することができない。これに対して、本発明の前記受信信号処理装置及び前記受信信号処理方法では、大きな搬送波周波数オフセットの値に対しても動作することがわかる。
一方、Qファクターに着目すると、
図7(b)に示すように、搬送波周波数オフセットが大きくなるとともに値が劣化しており、光信号対雑音比(OSNR)が15dBの場合に比べ37dBの場合の方が劣化量が大きい。光信号対雑音比(OSNR)が15dBの場合は、Qファクターの劣化量がわずかではあるが、ビットエラーレート(BER)に着目すると、搬送波周波数オフセットの値が大きくなるにつれてやや劣化しているのがわかる(
図7(a)参照)。
搬送波周波数オフセットが大きい場合に信号品質が劣化する理由として、本発明の前記受信信号処理装置及び前記受信信号処理方法では、搬送波周波数を推定する際に推定誤差が一定量存在するが、搬送波周波数オフセットの値が大きいほど、その推定誤差が位相誤差に反映される割合が大きくなるためと考えられる。
【0094】
次に、64QAM信号について、光信号対雑音比(OSNR)を20dBから37dBまで変化させて受信し、オフラインデジタル信号処理器109において復調を行った。前記受信信号処理装置の分離出力部におけるブロックサイズをN=2
m(m=2,3,…,6)とし、ビットエラーレート(BER)及びQファクターを測定した結果を
図8(a)、(b)に示す。なお、
図8(a)は、ビットエラーレート(BER)の測定結果を示す図であり、
図8(b)は、Qファクターの測定結果を示す図である。
これら
図8(a)、(b)に示すように、いずれのブロックサイズの場合でも、搬送波再生を含む復調処理が成功し、ビットエラーレート(BER)が正しく測定できていることがわかる。また、16QAM信号の場合と同様に、64QAM信号の場合も、ブロックサイズが増えていくと、特に光信号対雑音比(OSNR)が高い場合に、わずかながらビットエラーレート(BER)及びQファクターが劣化している。なお、光信号対雑音比(OSNR)が大きな領域でエラーフロアが生じているが、これは、本実験の通信系が持つ雑音成分に起因するものであり、前記受信信号処理装置及び前記受信信号処理方法の搬送波再生によるものではない。
【0095】
また、
図9に光信号対雑音比(OSNR)が37dB及び23dBの場合のQファクターのブロックサイズ依存性を示す。
該
図9に示すように、光信号対雑音比(OSNR)が37dBの場合、ブロックサイズNが2のときのQファクターが12.3dBであるのに対して、ブロックサイズNが16のときのQファクターは、12.2dBであり、ブロックサイズNが64のときのQファクターは、11.9dBである。このようにブロックサイズを増していくと、Qファクターの低下が確認され、信号の品質が劣化するが、この原因は16QAM信号の場合と同様、位相誤差によるものである。
この点に関し、光信号対雑音比(OSNR)が37dBで、ブロックサイズNが2,16,64のときの受信シンボルのコンスタレーションを
図10(a)〜(c)に示す。なお、
図10(a)は、ブロックサイズNが2のときのコンスタレーションを示す図であり、
図10(b)は、ブロックサイズNが16のときのコンスタレーションを示す図であり、
図10(c)は、ブロックサイズNが64のときのコンスタレーションを示す図である。
これら
図10(a)〜(c)に示すように、ブロックサイズNが大きくなるとコンスタレーションの歪みが大きくなり、特に位相誤差が発生し、結果としてQファクターが劣化する。一方、16QAM信号の場合と同様に、
図9において光信号対雑音比(OSNR)が23dBの場合は、ブロックサイズ増加に対してQファクターの劣化量が非常に小さい。例えば、ブロックサイズが2のとき及び64のときのQファクターは、それぞれ9.02dB及び8.78dBである。
【0096】
続いて、受信した64QAM信号について、復調後の信号品質の搬送波周波数オフセット依存性について述べる。ここでは、搬送波周波数オフセットの値が0から約1.2GHz付近の値をとるよう各レーザーの周波数を設定し、64QAM信号の光信号対雑音比(OSNR)を37dB及び23dBとした場合に、信号を受信及び復調し、搬送波再生の結果から判明した搬送波周波数オフセット測定結果に対する、BER及びQファクターを測定し、搬送波周波数オフセット依存性を確認した。
図11(a)に光信号対雑音比(OSNR)が37dB,23dBのときの搬送波周波数オフセット測定結果に対するビットエラーレート(BER)の測定結果を示す。また、
図11(b)に光信号対雑音比(OSNR)が23dB,37dBのときの搬送波周波数オフセット測定結果に対するQファクターの測定結果を示す。
これら
図11(a)、(b)に示すように、64QAM信号についても、搬送波周波数オフセットが1GHzを上回る大きな値の場合でも、復調処理が正常に動作できている。ただし、16QAM信号の結果(
図7a)、(b)参照)と比較すると、搬送波周波数オフセットが増加した際の信号品質劣化が著しい。これは、64QAM信号のシンボル間間隔が16QAM信号よりも小さく、同じ位相誤差に対するQファクター劣化量が大きいためである。64QAM信号について、光信号対雑音比(OSNR)が23dBで搬送波周波数オフセットが1GHzの場合、搬送波周波数オフセットが0の場合に対するQファクターペナルティは約0.5dBである。
【0097】
最後に、64QAM信号を長距離伝送して受信し、提案する搬送波再生手法を用いて復調した結果を示す。即ち、
図3に示す通信系において、IQ変調機102−光減衰器104間の伝送距離を長距離化させて試験を行った。伝送路は、80kmの標準シングルモードファイバ(SSMF)2スパンから構成され、これらを合計した伝送距離は、160kmである。各スパンの入射側には光増幅器が設置され、信号のスパン入射パワーは、−7dBmである。コヒーレント受信機107に入射する前に、光減衰器104と光増幅器105の利得を調整することで光信号対雑音比(OSNR)を変化させる。復調のためのオフラインデジタル信号処理器109においては、これまで述べた方法に加え、最初にデジタルフィルタによる分散補償を行う。本実験における分散補償量は、2,648.1ps/nmとした。
図12に、ブロックサイズNを16としたときの、Back−to−back及び伝送後信号のBER測定結果を示す。該
図12に示すように、伝送に伴うペナルティがわずかに発生しているものの、正常に受信及び復調処理ができていることがわかる。
【0098】
以上のように、本発明の前記受信信号処理装置及び受信信号処理方法は、高シンボルレートの通信に適用でき、かつ、QAM信号等の多値化信号に対しても高精度に搬送波再生が可能であることから、通信分野、特に光ファイバ通信分野における受信機内のデジタル信号処理プロセスにおいて、好適に用いることができる。
【0099】
本発明の前記受信信号処理装置及び方法の好適な構成例及び好適な実施方法として説明した前記本判定部及び前記本判定工程(以下、単に本判定部、本判定工程)を適用した実験の内容と、該実験から確認される効果について説明をする。なお、前記受信信号処理装置及び方法(本判定部及び本判定工程)は、任意の変調方式の信号に対して適用することができるが、ここでは、16QAM変調方式に注目して説明をする。また、ここでは、前記本判定部及び前記本判定工程自体の有効性を確認するため、搬送波再生の手法として判定指向型のDPLLを用いて搬送波位相が再生されたシンボルに対して信号処理を行うが、本発明の前記受信信号処理装置及び方法(搬送波再生部及び該部による信号処理方法)に基づいて、搬送波位相が再生された前記各分離シンボルに対して信号処理を行うことができる。
図23に、本実験で用いた通信系を示す。なお、
図23は、実験に用いた通信系を説明する説明図である。
該
図23に示すように、本通信系は、レーザーダイオード(LD)201と、IQ変調器(IQM)202と、任意波形発生器(AWG)203と、偏波多重化エミュレータ204と、可変光減衰器(VOA)205と、光増幅器206と、バンドパスフィルタ(BPF)207と、コヒーレント受信器208と、リアルタイムオシロスコープ209と、オフラインのデジタル信号処理器(DSP)210と、光スペクトラムアナライザ(OSA)211とで構成される。
【0100】
レーザーダイオード201では、中心波長が1,552.52nmの連続光が出力される。
レーザーダイオード201から出力された連続光は、IQ変調器202でベクトル変調され、16QAM信号が生成される。この16QAM信号は、シンボルレートが12Gaudで、長さが2
15−1の疑似ランダムビット列(PRBS)から、グレイコードによる符号化を用いて得られたものである。
IQ変調器202には、任意波形発生器203から出力される、16QAM信号の同相成分及び直交成分に相当する電気信号が印加される。送信する16QAM信号の波形として、
図13(b)に示すような理想的なコンスタレーションとする場合では、IQ変調器202に任意波形発生器203から出力される、理想的なコンスタレーションを持つ16QAM信号の同相成分及び直交成分に相当する電気信号をそのまま印可するが、
図14(c)に示すような歪んだコンスタレーションとする場合では、任意波形発生器203の振幅出力を調整し、直交成分の振幅が同相成分と比較して20%小さくなるように設定してIQ変調器202に印可し、更に、IQ変調器202に印加するバイアス電圧を調整して、同相成分と直交成分が複素平面上でなす角を理想値である90度から20度減少させ、直交位相誤差を与えることとしている。
【0101】
本実験では、送信信号として単一偏波16QAM信号(SP−16QAM)と、偏波多重16QAM信号(DP−16QAM)の両方を取り扱う。DP−16QAM信号を用いる場合、偏光ビームスプリッタ(PBS)とファイバ遅延線を有する偏波多重化エミュレータ204を用いて偏波多重する。即ち、本実験では、理想的なコンスタレーションと歪んだコンスタレーションの各波形を有する16QAM信号のそれぞれについて、SP−16QAM及びDP−16QAMとし、計4つの状態の16QAM信号を送信信号とする。
【0102】
送信される各16QAM信号は、可変光減衰器205と光増幅器206を用いて、光信号対雑音比(OSNR)が調整され、続いて、光増幅に伴って発生する信号帯域外光雑音がバンドパスフィルタ207で除去された後、コヒーレント受信機208で受信される。なお、光信号対雑音比は、コヒーレント受信機208と並行して設置された光スペクトラムアナライザ211によって測定を行った。
コヒーレント受信機208により受信された各16QAM信号は、リアルタイムオシロスコープ209によりアナログ・デジタル変換され、デジタル信号として取得される。アナログ・デジタル変換におけるサンプリングレートは、SP−16QAMの場合で80GSa/s、DP−16QAMの場合で40GSa/sとした。
デジタル信号として取得された各16QAM信号は、オフラインのデジタル信号処理器210に出力され、1シンボルあたり2サンプルに相当する24GSa/sでリサンプリングされた後、デジタル信号処理器210上に構築された信号処理プログラムを実行することで復調される。なお、デジタル信号処理器210としては、パソコンを用い、前記信号処理プログラムは、以下に説明する参考例及び実施例に係る受信信号処理装置として、パソコン内で稼働する計算ソフトであるMatlab上に構築されたものである。
【0103】
(参考例)
参考例として先に説明した
図16に示す適応等化器250を有する受信信号処理装置の回路構成と同じ回路構成とした受信信号処理装置により、デジタル信号処理器210(
図23参照)に出力された16QAM信号の復調処理を行った。なお、この回路構成では、
図16中に示すデジタルフェーズロックループ230を
図15に示す回路構成と同じ回路構成とし、デジタルフェーズロックループの動作特性として設定されるDamping factor ζ、Natural frequency ω
n、及びサンプル時間間隔T
sを、次のように設定している。
ζ=0.707
ω
n=2π×50[MHz]
Ts=(12×10
9)
−1=83.3[ps]
【0104】
また、判定器251における判定に用いられる参照信号は、受信信号の変調方式にしたがって、
図13(b)に示した、16QAM信号の理想的なコンスタレーションを有する形状とした。形状以外の要素として、前記参照信号は、同相成分(実軸方向)及び直交成分(虚軸方向)に対するバイアス(平行移動)及び振幅値について任意性を有するが、ここでは、一つの方法として、前記参照信号のバイアスを0とし、また、振幅値を前記参照信号の平均電力が前記受信信号の平均電力と一致するように調整した。
【0105】
また、参考例に係る適応等化器が適用された受信信号処理装置(
図16参照)により、等化処理(DP−16QAM信号の場合には、偏波分離処理を含む)及び搬送波再生処理が実施され、復調処理が完了したシンボルに対し、前記受信信号処理装置外に設けられた判定器を用いて改めて判定を行い、ビットエラーレート(BER)及びError Vector Magnitude(EVM)の解析を行った。また、復調処理後の16QAM信号のコンスタレーション波形の観察を行った。なお、復調処理された16QAM信号に対して改めて判定を実施する際、送信信号の歪みが事前に判明していて、歪みに合わせた参照信号が最初から利用できるものとした。これによって復調処理後の判定に対して送信信号の歪みが影響を及ぼさなくなり、前記適応等化器と前記適応等化器と接続されるデジタルフェーズロックループ(これらにつき、
図16参照)の動作にのみ注目して、送信信号の波形歪みの影響を評価する。
また、ここで、前記EVMの解析は、前記EVMのroot−mean square(rms)値を下記式〔2〕により定義して行った。
【0106】
【数30】
ただし、前記式〔2〕中、Mは、参照信号内の複素振幅値の数を示し、16QAM信号の場合でM=16であり、r
mは、参照信号内のm番目の複素振幅値を表す2次元ベクトルを示し、Nは、受信シンボルの数、x
nは、n番目の受信シンボルを表す2次元ベクトルを示し、r(x
n)は、x
nに対する判定より得られた参照信号内複素振幅を表す2次元ベクトルである。
なお、前記BER及び前記EVMの解析は、前記信号処理プログラム内に構築された計算ブロックにより行い、前記コンスタレーション波形の観察は、前記信号処理プログラム内に構築されたコンスタレーション波形導出ブロックにより行った。
【0107】
図24(a)に参考例に係る受信信号処理装置の前記BER測定結果を示す。また、
図24(b)に参考例に係る受信信号処理装置の前記EVM測定結果を示す。
これらの図に示すように、参考例に係る受信信号処理装置では、SP−16QAM及びDP−16QAMの両方について、理想的な波形に対する受信結果(各図中のIdeal SP−16QAM、DP−16QAM参照)に対して、歪みを与えた波形に対する受信結果(各図中のDistorted SP−16QAM、DP−16QAM参照)では、エラーフロア及び大きなペナルティが発生していることが分かる。
【0108】
図24(c)に参考例に係る受信信号処理装置で、理想的な波形のSP−16QAM信号を復調した場合のコンスタレーション波形を示す。また、
図24(d)に参考例に係る受信信号処理装置で、歪みを有するSP−16QAM信号を復調した場合のコンスタレーション波形を示す。これらのコンスタレーション波形は、ともに受信信号の光信号対雑音比(OSNR)が30dBのときに得られたものである。
図24(c)に対し、
図24(d)では、振幅値の大きなシンボルに対する大きな位相雑音の発生が確認され、判定時に発生する多くの誤りによって前記位相補正量算出手段(DPLL)の動作が劣化したものと考えられる。実際、前記DPLL内で使用した数値制御発振器(NCO)の発振周波数の標準偏差は、歪みのないSP−16QAM信号の場合に4MHzであったのに対して、歪みを与えたSP−16QAM信号の場合は、12MHzと増大しており、このことは、前記NCOを含む前記DPLLの動作が不安定になっていたことを意味する。
また、
図24(e)に参考例に係る受信信号処理装置で、歪みを有するDP−16QAM信号を復調した場合のコンスタレーションを示す。
この
図24(e)に示すように、DP−16QAM信号については、SP−16QAM信号の場合よりも大きな雑音成分の発生が確認できる。この
図24(e)に示すコンスタレーション波形は、前記OSNRが33dBのときに得られたものであるが、振幅値の大きなシンボルに対する位相雑音に加えて、全体的に大きな雑音成分が加わっていることが分かる。なお、DP−16QAM信号の一偏波当たりの前記OSNRは、SP−16QAMの場合と同じである。この結果は、多くの判定誤りによって前記適応等化器の動作が劣化し、偏波分離性能に影響を与えたためと考えられる。
以上のように、歪んだ波形の16QAM信号を受信して、理想的な波形の参照信号に基づく判定指向型の前記適応等化器及び前記位相補正量算出手段を用いて復調すると、受信信号品質が大きく劣化することが分かる。
【0109】
(実施例)
実施例として、デジタル信号処理器210(
図23参照)に出力された16QAM信号の復調を行う方法について、先に説明した
図18に示す受信信号処理装置200の回路構成と同じ回路構成とした受信信号処理装置を用いたこと以外、参考例と同様の実験を行った。ただし、この実施例に係る受信信号処理装置は、本判定部を適用した場合の効果を確認するための試験装置として、
図1に示す前記搬送波再生部を適用せずに構成されている。
なお、実施例に係る受信信号処理装置の参照信号更新部270では、前記式〔1〕におけるμの値を0.005に設定して前記参照点の補正及び更新を行った。
また、実施例に係る受信信号処理装置は、適応等化器250がConstant Modulus Algorithm(CMA)によって得られた誤差信号で動作しており、デジタルフェーズロックループ回路230(DPLL)のみが前記判定指向型動作モードで動作している状態で、最初に受信した16,000の受信シンボルに対して、前記参照信号の前記更新処理を行うこととした。また、更に、適応等化器250も前記判定指向型動作モードに移行した後、更に、10,000の受信シンボルに対して前記更新処理を行うこととした。いずれの場合も、前記参照信号内の全ての参照点rが、受信シンボルxが取り得る位置の範囲の中心(複素振幅期待値)へと収束し、前記参照信号を適切に更新することができた。
【0110】
図25(a)に実施例に係る受信信号処理装置の前記BER測定結果を示す。また、
図25(b)に実施例に係る受信信号処理装置の前記EVM測定結果を示す。なお、これらの測定結果は、参照信号更新部270及び判定器251に基づく前記参照信号の補正及び更新を行ったこと以外は、参考例と同様の方法で測定を行って得られたものである。
これらの図に示すように、SP−16QAM及びDP−16QAMの両方について、波形に歪みを与えた場合でも大きなペナルティを発生することなく信号を受信できていることが分かる(各図中のIdeal SP−16QAM、DP−16QAM、及びDistorted SP−16QAM、DP−16QAM参照)。
なお、
図25(b)に示す前記EVMにペナルティが発生していないものの、
図25(a)に示す前記BERに1dB程度の前記OSNRペナルティが発生している。これは、16QAM信号に波形歪みを与えるため、直交成分の振幅を同相成分と比較して20%減少させた結果、同じ平均パワーにおいて直交軸上のシンボル間隔が12%減少し、結果として同じBERを得るために1.29倍、即ち、+1.1dB分、大きな平均パワーを要することによる、本質的なものである。なお、このような送信信号の歪みに起因して生じる本質的なペナルティは、実使用の場面では、本発明の前記通信システムにより、前記参照信号更新部により更新された前記参照信号に基づく前記判定器の判定結果としての前記判定信号が有する歪みの情報を送信側にフィードバックし、前記送信信号が有する歪みを修正することで解消することができる。
【0111】
図25(c)に実施例に係る受信信号処理装置で、理想的な波形のSP−16QAM信号を復調した場合のコンスタレーション波形を示す。また、
図25(d)に実施例に係る受信信号処理装置で、歪みを有するSP−16QAM信号を復調した場合のコンスタレーション波形を示す。また、
図25(e)に実施例に係る受信信号処理装置で、歪みを有するDP−16QAM信号を復調した場合のコンスタレーション波形を示す。
これらの図に示すように、実施例に係る受信信号処理装置を用いて復調した場合、前記コンスタレーション波形中に大きな雑音の発生が確認されず、前記適応等化器(AEQ)及び前記位相補正量算出手段(DPLL)が正常に動作できている。
【0112】
次に、送信信号に与える歪みの程度を変化させた場合のEVM測定結果について説明する。このEVM測定結果は、同相成分に対する直交成分の振幅減少率を0%から45%まで変化させ、更に、直交位相誤差を0度から25度まで変化させてDP−16QAM信号を生成させた場合に、前記OSNRを35dBとして受信し、実施例に係る受信信号処理装置による前記復調処理を行った場合の前記EVMを示している。
前記EVM測定結果に関し、
図26(a)〜(f)に、同相成分に対する直交成分の振幅減少率を0%から45%まで変化させた各DP−16QAM信号をそれぞれ復調したときの前記EVM測定結果を示す。ここで、測定結果が示されていない条件は、歪みの程度が前記受信信号処理装置の適用範囲を超えるほど大きく、復調処理が実施できなかったことを示している。なお、
図26(a)は、直交位相誤差が0度の場合、
図26(b)は、直交位相誤差が5度の場合、
図26(c)は、直交位相誤差が10度の場合、
図26(d)は、直交位相誤差が15度の場合、
図26(e)は、直交位相誤差が20度の場合、
図26(f)は、直交位相誤差が25度の場合の前記EVM測定結果を示している。また、各図中、横軸は、同相成分の振幅を1としたときに、直交成分の振幅減少量を%で示したものであり、例えば、横軸の値が20%のときは、直交成分の振幅が20%減少して、同相成分と直交成分との振幅比が5:4であることを意味する。
【0113】
図26(a)〜(c)に示すように、直交位相誤差が10度以下の場合、直交成分の振幅減衰量の最大許容値は、45%であった。また、
図26(d)〜(e)に示すように、直交位相誤差が15度及び20度の場合、直交成分の振幅減衰量の最大許容値は、40%あった。また、
図26(f)に示すように、直交位相誤差が10度以下の場合、直交成分の振幅減衰量の最大許容値は、15%であった。
前記最大許容値は、主として歪んだ受信信号の各シンボルの中心位置(複素振幅期待値)により決定され、前記中心位置が理想的なコンスタレーションを参照信号として用いた場合の閾値を超えていなければ歪みが許容されるものである。前記最大許容値以下の送信信号の歪みであれば、実施例に係る受信信号処理装置による復調処理が正常に動作し、前記EVMのペナルティは、ほぼ無視できるほど小さい。
これに対し、参考例に係る受信信号処理装置を用いて同様の前記EVM測定を行った場合の測定結果を
図26(g)に示す。即ち、該
図26(g)は、参照信号の補正を行わない場合に、同相成分に対する直交成分の振幅減少率を0%から45%に変化させるとともに、直交位相誤差を0度から25度まで変化させた各DP−16QAM信号をそれぞれ復調したときのEVM測定結果をまとめて示す図である。
この
図26(g)に示すように、実用的と言える直交成分の振幅減衰量及び直交位相誤差の最大許容値は、それぞれ20%及び15度であり、本発明を適用した場合と比べると、実用的な範囲が大きく狭まっているうえに、復調が成功した場合でも、EVMペナルティも発生していることが分かる。
【0114】
以上のように、前記本判定部を含む受信信号処理装置、通信システム及び前記本判定工程を含む受信信号処理方法によれば、送信信号が歪みを有する場合でも、判定指向型の前記適応等化器や前記位相補正量算出手段を正常に動作させ、信号品質を低下させずに受信可能であることから、広く通信分野において利用することができ、特に光ファイバ通信分野で適用することで、多値数の大きなQAM信号に対しても、搬送波の周波数及び位相のそれぞれを高精度に推測して、信号の復調処理を行うことができる。