【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 日本農芸化学会 2013年度大会 講演要旨集 ウェブサイトの掲載日:平成25年3月5日 ウェブサイトのアドレス: http://www.jsbba.or.jp/2013/ https://jsbba.bioweb.ne.jp/jsbba2013/ 集会名:日本農芸化学会 2013年度大会 開催日:平成25年3月27日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、下記の工程(a)〜(c)を有することを特徴とする、有機物を硝酸態窒素に分解する微生物担体の製造方法に関する。
(a)未焼成の貝殻に有機物を加え、8時間以上静置することにより、貝殻に付着する微生物を活性化する工程
(b)貝殻に水を添加し、貝殻から流出させることにより、貝殻を洗浄する工程
(c)上記工程(b)で貝殻から流出した流出液中の硝酸態窒素量を測定し、流出液中に硝酸態窒素が生成されていない場合には上記(a)及び(b)の工程を繰り返し、流出液中に硝酸態窒素が生成されている場合には、貝殻を微生物担体として得る工程
【0014】
本発明における「有機物を硝酸態窒素に分解する微生物」としては、例えばアンモニア態窒素から硝酸態窒素への硝化(硝酸化成)を行う微生物や、低分子有機物からアンモニア態窒素への分解(アンモニア化成)を行う微生物が挙げられ、特に硝酸化成を行う微生物(硝化菌)が好ましい。
【0015】
硝化菌としては、例えばアンモニア酸化菌(もしくは亜硝酸生成菌)のNitrosomonas属、Nitorosococcus属、Nitrosospira属(Nitrosolobus属、Nitrosovibrio属を含む);亜硝酸酸化菌(もしくは硝酸生成菌)のNitrobacter属、Nitrospira属;などを挙げることができる。アンモニア化成を行う微生物としては、例えば原生動物;細菌、糸状菌等のアンモニア化成菌;などを挙げることができる。
【0016】
これらの微生物は、2種以上のものが含まれていることが好ましく、特に硝化菌およびアンモニア化成を行う微生物が含まれていることが好ましい。
【0017】
本発明における「硝酸態窒素」とは、硝酸イオンや硝酸塩であるが、具体的には硝酸イオンを想定したものである。
【0018】
本発明における「貝殻」は、未焼成のものであれば特に制限はないが、例えばカキ、ホタテガイ、アコヤガイ、アワビ、ハマグリ、アサリ、サザエ、シジミなどの貝殻を挙げることができる。中でも、硝化菌が多く生息しているカキの貝殻(以下、「カキ殻」または「カキ殻石灰」ということがある。)が特に好ましい。
【0019】
本発明では、貝殻に天然に付着している上記微生物を利用して、有機物を硝酸態窒素に分解する。したがって、本発明においては、上記微生物または微生物源としての土壌等を外部から添加(接種)する工程を必要としない。
【0020】
また、本発明においては、貝殻に付着している上記微生物が死滅しない程度に、貝殻に対して予め洗浄等の前処理を行うことができる。
【0021】
上記の貝殻は本来の形、大きさのまま用いることもできるし、適宜粉砕して用いても良い。
前記貝殻に水を添加した場合に、貝殻に付着した硝化菌等の微生物が好気的条件下に維持でき、また毛細管現象で全体が湛水状態になってしまわないように、適度な空隙が貝殻間または貝殻内部に作られるためには、貝殻の大きさが0.2cm以上であることが好ましく、0.5cm以上であることがより好ましい。
【0022】
一般に貝殻は、層状に重なる炭酸カルシウムの結晶(硬質部分)が、タンパク質を主成分とする網目状の間基質(多孔質部分)により繋ぎ合わされた、ミルフィーユ状構造を有する。この軟質部分は非常にもろく崩れやすいため、貝殻を粉砕することにより容易に微粉砕される。
本発明において、前記貝殻を粉砕して用いる場合には、貝殻を粉砕した後、篩により多孔質部分からなる微粒子を除去することが好ましい。具体的には、前記貝殻を粉砕した後、篩により粒径2mm未満、より好適には粒径5mm未満の微粒子を除去することが好ましい。
【0023】
本発明において前記貝殻は、適当な容器に充填して用いることもできるし、野積みした山にするなど、平面又は斜面の上に積み上げることもできる。
【0024】
前記貝殻を充填する容器としては、貝殻を充填できる容器であり、水を添加した後に、水を貝殻から流出させることができる容器であれば如何なる容器でも用いることができる。好ましくは、底面に排水口を備えた容器であり、水を添加した後、水を効率よく流出できる構造のもの(前記貝殻を充填した後、カラムとして用いることができる構造のもの)であればよい。
【0025】
なお、当該容器が排水口を備えた容器でない場合であっても、当該容器を傾けるなどの操作を行って、水を流出させる操作(デカンテーション)を行うことができる容器であれば用いることができる。
【0026】
当該容器に前記貝殻を充填する場合、0.1〜100000ml、好ましくは、1〜10000mlの貝殻を充填することができる。また、充填高さとしては、0.1〜200cmの層になるように貝殻を充填することができる。
【0027】
一方、容器を用いない場合には、前記貝殻に水を添加した際に崩れない山に積み上げることが必要であり、また、貝殻から流出させた流出液が回収し易いよう、緩やかな斜面上に積み上げるのが好ましい。
【0028】
本発明では、上記の充填工程にて、前記貝殻を前記容器に充填した後、貝殻に有機物を加え、8時間以上静置することにより、貝殻に付着する微生物を活性化する工程(活性化工程)を行う。
なお、前記したように、前記貝殻を容器に充填せずに積み上げた場合は、上記の充填工程を行わずに、直接活性化工程を行うこともできる。
【0029】
本発明の活性化工程において、有機物の添加は、前記貝殻に有機物を直接添加することで行う。なお、当該有機物は、液体の状態であっても粉末の状態であっても添加することができる。
【0030】
本発明における「有機物」としては、有機質肥料や、食品残渣、植物残渣、畜産廃棄物、排泄物といった有機質資源など、如何なるものを用いることができるが、炭素と窒素の含有比であるC/N比が24以下、好ましくは19以下の高窒素含有有機物を用いることが、硝酸態窒素の回収効率を高める点で望ましい。
【0031】
前記有機物としては、タンパク質、タンパク質分解物、アミノ酸などを多く含むものが望ましい。
具体的には、魚煮汁、トウモロコシ浸漬液、油粕、魚粉、大豆粕、酵母粕、酒粕、焼酎粕、米ぬか、生ゴミなどの食品残渣などを挙げることができる。なお、これらは、食品製造過程で得られる廃棄物であり、毒性のあるような成分が含まれていない点で望ましい。また、家畜糞を挙げることができ、アンモニア態窒素を含む有機物も利用できる。さらには、大豆粉、だしの素(アミノ酸高含有物)、牛乳、粉ミルク、などの食品そのものも利用できる。加えてさらには、可食部として利用できない植物の組織や器官である植物体残渣も利用することができる。
これらのうち、魚煮汁、魚粉、油粕、生ゴミ、トウモロコシ浸漬液、米ぬか、大豆粉、植物体残渣、牛乳、粉ミルクおよび家畜糞を用いることがさらに望ましい。
【0032】
具体的に、魚煮汁としては、鰹煮汁を挙げることができる。また、トウモロコシ浸漬液としては、コーンスティープリカー(CSL:トウモロコシでんぷん製造時の副産物であるトウモロコシ浸漬液)を挙げることができる。また、油粕としては、菜種油粕、コーン油粕、を挙げることができる。また、植物体残渣としては、トマトなどの栽培管理中に摘葉処理で発生した茎葉などを挙げることができる。また、生ゴミとしては、魚のアラ、調理後の野菜くず、肉切片などを挙げることができる。また、家畜糞としては、牛糞や豚糞、鶏糞などを挙げることができる。
上記具体例のうち、特には、鰹煮汁、コーンスティープリカーが液体であるため前記貝殻に浸透しやすい点で望ましい。
なお、これらの有機物は、1種のみを用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0033】
当該有機物の添加量としては、前記貝殻1Lに対して、0.01〜20g、好ましくは0.1〜10g、更に好ましくは0.1〜1g(すべて乾燥質量換算)を添加することができる。
具体的には、当該有機物が液体の状態の場合、前記貝殻1Lに対して、鰹煮汁を用いた場合0.1〜20g(液体質量(乾燥質量換算で0.07〜14g))であり、コーンスティープリカーを用いた場合0.1〜20g(液体質量(乾燥質量換算で0.05〜10g))である。
【0034】
なお、有機物の添加量が、上記所定量よりも多い場合、前記貝殻の有機物の担持量を超えることがあり好ましくない。また、有機物の添加量が、上記所定量よりも少ない場合、肥料成分として硝酸態窒素を回収する目的からすれば、硝酸態窒素の濃度が低くなるため好ましくない。
【0035】
本発明においては、有機物の添加後、前記貝殻に付着した微生物を馴化、増殖(活性化)させるために「静置」する。
静置する温度は、上記微生物の生育に適した温度である10〜42℃、好ましくは15〜37℃である。なお、温度が10℃よりも低い場合、微生物の増殖が遅延し活性化に時間を要するため好ましくない。また、温度が42℃よりも高い場合、微生物の一部が不活性化することがあり、好ましくない。
【0036】
また、静置する期間は、一晩(約8〜24時間)以上であれば良く、好ましくは3日以上、さらに好ましくは5日以上、最も好ましくは7日以上を要する。
なお、静置する期間が一晩よりも短い場合、前記微生物が十分に活性化されず、硝酸態窒素の生成量が少なくなるため好ましくない。また、静置する期間を長くとることにより、前記微生物が活性化され、硝酸態窒素の生成量が多くなる。
【0037】
本発明においては、上記のように静置した後、前記貝殻に水を添加し、貝殻から流出させることにより、貝殻を「洗浄」する(洗浄工程)。
本工程では、前記貝殻中に生成した硝酸態窒素を洗浄により除去することで、脱窒反応を抑制することができる。
なお、脱窒反応とは、脱窒菌により硝酸態窒素が亜酸化窒素ガスあるいは窒素ガスなどに還元され、硝酸態窒素が失われてしまう現象で、脱窒菌のエネルギー源になる有機成分と酸素供給体になる硝酸態窒素とが共存するときに誘発しやすい反応である。
【0038】
「洗浄」の具体的な操作としては、以下の態様が考えられる。
i)前記貝殻を‘排水口を備えた容器’に充填した場合においては、水を添加した後、前記貝殻からの流出液を前記排水口から流出させることによって行う。
ii)前記貝殻を‘排水口を備えない容器’に充填した場合においては、水を添加した後、当該容器を傾けるなどの操作を行い、前記貝殻からの流出液を流出させる(デカンテーションする)ことによって行う。
iii)前記貝殻を容器に充填せずに積み上げた場合においては、水を添加した後、前記貝殻からの流出液を直接流出させることによって行う。
【0039】
本工程を行った後、余分な水分も流出した状態になる。
なお、本工程を行った後は、担体内部の環境が好気的な状態(カラカラに乾いていてもよい)にした方が、脱窒反応を行う微生物群(脱窒菌)の繁殖を抑制するために好適である。
【0040】
洗浄に用いる水としては、純水(蒸留水、イオン交換水、逆浸透膜水など)、井戸水、河川水、湖水、水道水、海水などを挙げることができる。なお、高濃度の硝酸態窒素(50mgNO
3/ml以上)を含む水は望ましくない。
当該水の添加量としては、前記貝殻1Lあたり100〜3000mlであることが望ましい。
【0041】
前記活性化工程によって、前記貝殻に付着した前記微生物が十分に活性化されたかどうかの判定は、前記洗浄工程において貝殻から流出させた流出液中の硝酸態窒素量を測定することで行うことができる。
【0042】
即ち、本発明では、前記洗浄工程で貝殻から流出した流出液中の硝酸態窒素量を測定し、‘当該流出液中に硝酸態窒素が生成されている’と認められた場合、‘貝殻に付着する微生物が活性化された’と判定することができる。
具体的には、当該流出液中に、貝殻1Lあたり0.1mg以上、好ましくは5mg以上、の硝酸イオンの生成が認められた場合に、‘貝殻に付着する微生物が“十分に”活性化された’と判定することができる。
【0043】
このように、貝殻に付着する微生物が活性化されたと判定された前記貝殻は、有機物の無機化反応速度(特に硝化能)が顕著に向上したものとなり、当該貝殻を‘有機物を硝酸態窒素に分解する微生物担体’(以下、「貝殻担体」ともいう。)として得る。
【0044】
なお、本発明における「微生物担体」とは、前記微生物を担持した担体であり、具体的には、前記微生物が活性化された状態(つまり、有機物を速やかに分解して硝酸態窒素を生成できる状態)で付着している前記貝殻である。
【0045】
当該微生物担体に添加した有機物は速やかに分解され、硝酸態窒素が生成され始める時点では、脱窒反応を行う微生物群(脱窒菌)のエネルギー源となる有機成分が失われた状態になるため、当該微生物担体中は脱窒反応が起りにくい環境になる。
【0046】
なお、前記流出液中に硝酸態窒素が生成されていない場合には、つまり、前記流出液中の硝酸態窒素量の測定結果が上記基準を満たしておらず、前記貝殻に付着した前記微生物が活性化された(もしくは‘十分に’活性化された)と認められない場合には、前記活性化工程および前記洗浄工程を、上記基準を満たすまで繰り返して行う。
【0047】
上記の方法により製造された本発明の微生物担体は、‘有機物を硝酸態窒素に分解する触媒カラム’のカラム担体として用いることができる。
なお、前記活性化工程に先立ち、前記排水口を備えた容器に前記貝殻を充填して、上記方法により製造された微生物担体においては、前記排水口を備えた容器に充填された状態のままで、触媒カラムとして用いることができる。
また、当該微生物担体を新たな別の容器に充填して使用することもできる。
【0048】
本発明の当該触媒カラムを用いて有機物を分解することにより、硝酸態窒素を含む無機肥料を製造することができる。
すなわち、本発明の触媒カラムに有機物を添加し、必要に応じてさらに水を添加して、当該カラムから流出した流出液を、硝酸態窒素を含む無機肥料として回収する。
好ましくは、当該触媒カラムからの流出液のうち、硝酸イオン濃度が10mg/L以上、更に好ましくは50mg/L以上であるものを、当該無機肥料とする。
【0049】
本発明の触媒カラムによれば、有機物からの1日あたりの硝酸態窒素の生成量は、前記貝殻担体1Lあたり、硝酸イオン換算で約270mg以上、窒素換算で約60mg以上を得ることができる。
【0050】
なお、本発明の前記微生物担体を容器に充填しないままで用いる場合においても、直接前記微生物担体に有機物を添加し、必要に応じてさらに水を添加して、前記微生物担体から流出した流出液を回収することで、前記したような硝酸態窒素を含む無機肥料を得ることが可能である。
【0051】
本発明の触媒カラムを用いて、硝酸態窒素を含む無機肥料を製造する際に添加する有機物としては、前述したものを用いることができる。
【0052】
当該有機物の添加量としては、前記貝殻担体1Lに対して、0.01〜20g、好ましくは0.1〜10g、更に好ましくは0.1〜1g(すべて乾燥質量換算)を添加することができる。
なお、具体的には、当該有機物が液体の状態の場合、鰹煮汁を用いた場合0.1〜20g(液体質量:(乾燥質量換算で0.07〜14g))であり、コーンスティープリカーを用いた場合0.1〜20g(液体質量:(乾燥質量換算で0.05〜10g))である。
【0053】
なお、有機物の添加量が上記所定量よりも多い場合、硝酸化成の反応が追いつかず、当該流出液におけるアンモニア態窒素の濃度が上昇するため、好ましくない。ただし、アンモニア含有率の高い肥料(例:土耕栽培用の肥料)の製造を目的とする場合は問題ない。
【0054】
上記の方法により製造された本発明の硝酸態窒素を含む無機肥料は、野菜、果実、花卉、樹木、観葉植物など、あらゆる植物の栽培の肥料として用いることができる。
特には、葉菜類であるチンゲンサイ、コマツナ、レタス、ホウレンソウなど;果実を収穫対象とする果菜であるトマトなど;花卉;果樹;の栽培に好適に用いることができる。さらに特には、葉菜類であるチンゲンサイ、コマツナの栽培に好適に用いることができる。
なお、当該無機肥料は、水耕での養液栽培、固形培地耕での養液栽培、通常の土壌を用いた栽培など、一般的に行われている植物の栽培においても用いることができる。
【0055】
本発明の前記微生物担体は、植物栽培固形培地として用いることができる。
本発明において「植物栽培固形培地」とは、植物の養液栽培(固形培地耕)において、土の代わりに植物の根を支持するために用いられる固形培地を指す。従来ロックウールなどを用いた植物栽培固形培地が広く用いられている。
本発明の前記微生物担体を用いた植物栽培固形培地としては、例えば、前記微生物担体をバインダー等で適当な形に成形したものなどが挙げられる。
【0056】
本発明の植物栽培固形培地を用いて植物の養液栽培を行う場合には、有機物を有機質肥料として、当該植物栽培固形培地に直接添加することが可能である。
なお、当該有機質肥料としての有機物は、前述した有機物を用いることができ、液体の状態であっても粉末の状態であってもよい。好ましくは、添加操作の自動化が容易な液体の有機質肥料、すなわち魚煮汁(より好ましくは鰹煮汁)やコーンスティープリカー、あるいは固体有機物の微粉砕物を懸濁した懸濁液や腐敗液を用いることができる。
【0057】
従来の養液栽培では、養液中に直接有機質肥料を添加しても、硝化菌等の微生物が存在しないために有機物は分解されず、逆に根に障害を与えてしまうため、有機質肥料は使用できなかった。
しかし、本発明の植物栽培固形培地を用いた場合には、有機質肥料を固形培地に添加することにより、有機物が無機化され硝酸態窒素が生成し、硝酸態窒素は栄養分として植物根により吸収される。
【0058】
即ち、本発明の植物栽培固形培地を用いることで、固形培地耕においても有機質肥料を直接添加して養液栽培を行うことが可能となる。
なお、本発明の植物栽培固形培地を用いる固形培地耕での養液栽培は、潅水後、有機質肥料を固形培地に直接添加する操作を繰り返すことで行うことができる。
【0059】
本発明の植物栽培固形培地への当該有機質肥料の添加量としては、前記微生物担体1Lに対して、0.01〜20g、好ましくは0.1〜10g、更に好ましくは0.1〜1g(すべて乾燥質量換算)とすることができる。
具体的には、当該有機質肥料が液体の状態の場合、鰹煮汁を用いた場合0.1〜20g(液体質量:(乾燥質量換算で0.07〜14g))であり、コーンスティープリカーを用いた場合0.1〜20g(液体質量:(乾燥重質換算で0.05〜10g))である。
【0060】
なお、有機質肥料の添加量が上記所定量よりも多い場合、硝酸化成の反応が追いつかず、植物栽培養液中のアンモニア態窒素の濃度が上昇するため、好ましくない。但し、栽培時に生育障害を起こさない程度であれば問題ない。
【0061】
本発明の植物栽培固形培地を用いた植物の養液栽培方法は、野菜、果実、花卉、樹木、果樹、観葉植物など、あらゆる植物の栽培に用いることができる。
特には、葉菜類であるチンゲンサイ、コマツナ、レタス、ハーブなど;果実を収穫対象とする果菜であるトマト、ナス、ピーマン、メロン、スイカ、イチゴなど;花卉;果樹;の栽培に好適に用いることができる。さらに、特には葉菜類であるチンゲンサイ、コマツナの栽培に好適に用いることができる。
【0062】
さらに本発明においては、前記微生物担体を、有機物の無機化反応を触媒する微生物資材(微生物源)として利用することが可能である。
具体的には、水中での有機物の無機化反応用に最適化された微生物群の種菌として利用することが可能である。
【実施例】
【0063】
以下に実施例、および比較例を挙げて本発明を具体的に説明する。
【0064】
〔実施例1〕
未焼成のカキ殻を、粒径が20 mm以下になるように粉砕した後、篩により粒径2mm以上の大きさの粒子を回収した。このとき、カキ殻の多孔質部分は、粉砕により粒径2mm未満の微粒子となって除去された。一方、カキ殻の硬質部分の粉砕物は、殆どが粒径2mm以上となって篩上に残り、回収された。
【0065】
底に穴の開いた容量約250 mlの容器(植木鉢など)に、上記で回収したカキ殻粒子を100ml充填した。鰹節工場の副産物である鰹煮汁0.1g(液体質量、6mg N相当)をカキ殻粒子の上から加え、室温(25℃、以下同様)で一晩(約8時間)静置した。次いで、カキ殻粒子の上から100mlの水を加え、容器底面の穴から流出させることにより、カキ殻粒子を洗浄した。以後、鰹煮汁の添加と水での洗浄の操作を、7回繰り返すことにより、カキ殻に自然に付着している微生物を活性化した(本発明例)。
【0066】
対照として、前記特許文献2記載の方法により、種々の多孔質担体に微生物を固定化した。すなわち、多孔質担体として籾殻薫炭、ロックウール、綿状ウレタン、バーミキュライト、繊維状ウレタン、パーライト、オレンジウレタン、グレーウレタン、黒ウレタン、軽石およびヤシガラを用意した。
次に、10Lの水に、80gのバーク堆肥と8gの前記鰹煮汁を添加し、室温下でエアーポンプで曝気することにより、並行複式無機化反応を行う微生物群を培養して得た培養液を、微生物源とした。
【0067】
前記の底に穴の開いた容器に各種多孔質担体100mlを充填し、多孔質担体の上から微生物源の培養液200mlを添加することで、微生物群を接種した。さらに多孔質担体の上から100mlの水を添加し、容器底面の穴から流出させることにより、多孔質担体を洗浄した。
以後、本発明例と同様に、鰹煮汁0.1gを添加して一晩静置した後に100mlの水で洗浄する、という操作を7回以上繰り返すことにより、各種多孔質担体に微生物群を固定化した(比較例)。
【0068】
上記の操作により作製した本発明例と比較例の微生物担体を用いて有機物を分解する実験を、以下の方法で行った。すなわち、本発明例と比較例の微生物担体を各100mlとり、これに鰹煮汁0.1g(液体質量、6mg N相当)を添加して一晩静置した。その後、蒸留純水100mlを添加し、微生物担体から流出した流出液を回収し、流出液中の各種無機態窒素(硝酸イオン、亜硝酸イオン、アンモニアイオン)の濃度を測定した。
硝酸イオン濃度の測定は、リフレクトファント硝酸試験紙(メルク社製)を使ってRQ-flex(メルク社製)で測定することによって行った。また、亜硝酸イオンの測定はリフレクトファント亜硝酸試験紙(メルク社製)、アンモニアイオンの測定はリフレクトファントアンモニア試験紙(メルク社製)によって行った。
【0069】
測定結果を
図1に示す。図中の棒グラフは斑点が硝酸態窒素(NO
3-)、黒が亜硝酸態窒素(NO
2-)、斜線がアンモニア態窒素(NH
4+)、の回収量(単位:mg/day)を示す。図中の折れ線グラフは、有機態窒素の添加量(6mgN相当)に対する無機態窒素(NO
3-,NO
2-及びNH
4+の合計量の比率)回収量の比率(無機態窒素変換率、単位:%)を示す。
【0070】
その結果、
図1に示すように、本発明例のカキ殻を用いた微生物担体は、比較例の各種多孔質担体よりも優れた無機態窒素変換率を示した。特に、硝酸態窒素生成量において、本発明例は比較例よりも顕著に優れていた。具体的には、比較例で最も成績の良かった籾殻薫炭(硝酸態窒素生成量:2.26 mg/day)と比べて、本発明例の硝酸態窒素生成量は4.69 mg/dayであり、約2.1倍と飛躍的に向上した。
なお、比較例の多孔質担体で微生物無接種の場合には、硝酸生成が全く認められなかった。