【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 2011年11月14日、IEEE Xplore Digital Library の雑誌IEEE Journal of Quantum Electronicsにて表題「Strain Engineering of Plasma Dispersion Effect for SiGe Optical Modulators」として発表
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成23年度総務省、100Gbit/s超級歪SiGe光変調器の研究開発事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る光変調器は、キャリアプラズマ効果による屈折率の変化又は自由キャリア吸収による吸光度の変化を増大させることにより、従来の光変調器と同等以上の性能を得ることができる。
【0013】
まず、本実施形態に係る光変調器で用いるキャリアプラズマ効果及び自由キャリア吸収について説明する。キャリアプラズマ効果による屈折率の変化Δnは、以下の関係式で表される。
【0015】
式中、eは単位電荷、λは光波長、ε
0は真空中の誘電率、nは真性シリコンの屈折率、ΔN
eは電子密度の変化、m
ce*は電子の有効質量、ΔN
hは正孔密度の変化、m
ch*は正孔の有効質量である。上記式から明らかなように、電子の有効質量又は正孔の有効質量が減少すると、屈折率の変化Δnが増大する。
同様に、自由キャリア吸収による吸光度の変化Δαは、以下の関係式で表される。
【0017】
式中、μ
eは電子の移動度、μ
hは正孔の移動度である。上記式から明らかなように、電子の有効質量又は正孔の有効質量が減少すると、吸光度の変化Δαが増大する。
【0018】
上記のとおり、屈折率の変化Δn及び吸光度の変化Δαは共に、電子の有効質量又は正孔の有効質量に反比例し、電子の有効質量又は正孔の有効質量を減少させることにより、屈折率の変化Δn及び吸光度の変化Δαは増大する。
【0019】
本発明では、光導波路に引張り歪み又は圧縮歪みを与えて光導波路における電子の有効質量又は正孔の有効質量を減少させることにより、屈折率の変化Δn又は吸光度の変化Δαを増大させている。
【0020】
因みに、圧縮歪みにより、正孔の有効質量は最大で1/3程度に減少することが知られている。これにより、圧縮歪を光導波路に与えた場合、キャリアプラズマ効果による屈折率の変化Δn及び自由キャリア吸収による吸光度の変化Δαを3倍程度に増大することができる。また、引張り歪みにより、電子の有効質量は最大で1/2程度に減少することが知られている。これにより、引張歪を光導波路に与えた場合、キャリアプラズマ効果による屈折率の変化Δn及び自由キャリア吸収による吸光度の変化Δαを2倍程度に増大することができる。
【0021】
一方向に圧縮歪み又は引張歪みを付与する1軸歪みの場合、2方向に同時に圧縮歪み又は引張歪みを付与する2軸歪みに比べ、バンドギャップの縮小が少ない。なお、Siのバンドギャップは1.15eVであるのに対し、Geのバンドギャップは0.67eVであるので、SiGe層31におけるGe濃度を高くするほどバンドギャップは小さくなる。例えば、動作波長1.55μmとした場合、バンドギャップは0.8eV必要である。そうすると、1軸歪みの場合、2軸歪みに比べ原理的にはより大きな歪みを付与することができるので、キャリアプラズマ効果による屈折率の変化Δn及び自由キャリア吸収による吸光度の変化Δαをさらに増大することができる。
【0022】
1.第1実施形態
以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。
図1に示す光変調器1Aは、マッハツェンダー干渉計2に設けられている。マッハツェンダー干渉計2は、入力部3、分岐部4、第1の分岐導波路5、第2の分岐導波路6、合波部7、及び出力部8を備え、第1の分岐導波路5に光変調器1Aが設けられている。本実施形態に係る光変調器1Aは、キャリアプラズマ効果により、入射した光の屈折率を変化させる。
【0023】
光変調器1Aは、入射部10と、出射部11と、当該入射部10から出射部11へとつながる光導波路12と、変調電気入力信号が入力される電極としての入力電極13とを備える。光変調器1Aは、CW光が光導波路12を通過する際、当該CW光を入力電極13に入力された変調電気入力信号により変調された光変調信号を出射部11から出射する。
【0024】
入力部3に入射したCW(Continuous wave)光は、分岐部4で第1の分岐導波路5と第2の分岐導波路6に分岐される。第1の分岐導波路5に分岐されたCW光の一部は、光変調器1Aに入射し、入力電極13に入力された変調電気入力信号に変調された光変調信号として光変調器1Aから出射される。光変調信号は、合波部7において第2の分岐導波路6を伝播してきたCW光の他部と合波され、所定の強度変調が付与された変調光出力信号として出力部8から出力される。
【0025】
このように、光の屈折率を利用した光変調器1Aは、マッハツェンダー干渉計2と共に用いられる。入力されたCW光の一部は、光変調器1Aで電気信号から光変調信号に変換され、さらにマッハツェンダー干渉計2により強度変調が付与された変調光出力信号として出力される。
【0026】
図2に示す光変調器1Aは、SOI(Silicon on Insulator)基板に形成された凸条の光導波路12を有するPIN(P−intrinsic−N)型ダイオードと同様の構造を有する。この光変調器1Aは、Si基板16と、Si基板16上に積層されたSiO
2からなる埋め込み酸化層17と、埋め込み酸化層17上に設けられた凸条の光導波路12を有するSiで形成された真正半導体層18とを有する。光導波路12は図面に対し垂直方向、すなわち手前から奥へ伸びるように形成されている。当該真正半導体層18の光導波路12を挟んで一側に不純物半導体部としてのP型半導体部19と、他側に不純物半導体部としてのN型半導体部20がそれぞれ形成されている。光導波路12は、P型半導体部19とN型半導体部20の間の真正半導体層18で形成されている。P型半導体部19は、前記入力電極13が設けられており、変調電気入力信号が入力される。N型半導体部20は、電極としての接地電極21が設けられている。
【0027】
上記のように構成された光導波路12の表面には、歪生成部としてのSiN膜22が形成されている。NはSiに比べ格子定数が大きいので、真正半導体層18上に形成されたSiN膜22は、凸条の基端部すなわち、P型半導体部19とN型半導体部20の間の真正半導体層18に対し引張応力を付与する。この引張応力に比例して真正半導体層18には、1軸の引張歪みが生じる。この真正半導体層18の引張り歪みにより、半導体のバンド構造が変調することで、真正半導体層18における電子の有効質量が減少する。
【0028】
光変調器1Aは、電界が印加されていない場合、入射部10に入射したCW光を出射部11からそのまま出射する。一方、入力電極13と接地電極21の間に順バイアス電圧を印加すると、光導波路12内に自由キャリアが注入される。自由キャリアの増加により真正半導体層18の屈折率が変化し、これにより光導波路12内を通過するCW光の位相が変調される。
【0029】
本実施形態の場合、光変調器1Aは、SiN膜22により真正半導体層18に引張り応力が付与されており、これにより光導波路12には1軸の引張歪みが生じている。この引張歪みによって光導波路12における電子の有効質量が減少する。電子の有効質量とキャリアプラズマ効果による屈折率の変化Δnとは反比例するので、光変調器1Aはより大きな屈折率の変化Δnを得ることができる。したがって、光変調器1Aは、キャリアプラズマ効果による屈折率の変化Δnを増大させることにより、従来と同等以上の性能を得ることができる。
【0030】
本実施形態の場合、光変調器1Aは、光導波路12に1軸の引張歪みが生じているので、歪みが生じていない場合に比べ、キャリアプラズマ効果による屈折率の変化Δnを2倍程度に増大することができる。
【0031】
なお、本実施形態では、SiN膜22が真正半導体層18に引張応力を付与し、これにより真正半導体層18には、1軸の引張歪みが生じる場合について説明したが、本実施形態はこれに限られない。すなわち、SiN膜22は成膜条件を制御することで、真正半導体層18に圧縮応力を付与することもできる。これにより真正半導体層18には1軸の圧縮歪みが生じるので、正孔の有効質量が減少する。正孔の有効質量とキャリアプラズマ効果による屈折率の変化Δnとは反比例するので、光変調器1Aはより大きな屈折率の変化Δnを得ることができる。この場合、光変調器1Aは、光導波路12に1軸の圧縮歪みが生じているので、歪みが生じていない場合に比べ、キャリアプラズマ効果による屈折率の変化Δnを3倍程度に増大することができる。
【0032】
また、本実施形態では、入力電極13と接地電極21の間に順バイアス電圧を印加する場合について説明したが、本発明はこれに限らず、逆バイアス電圧を印加してもよい。この場合、光導波路12内において空乏層が伸びることでキャリア密度を変調することができる。これにより、真正半導体層18の屈折率が変化するので、光導波路12内を通過するCW光の位相を変調することができる。
【0033】
2.第2実施形態
第2実施形態に係る光変調器1Bについて、
図2と同様の構成について同様の符号を付した
図3を参照して説明する。本図における光変調器1Bは、光導波路12を挟んで一側及び他側に形成された不純物半導体部としてのP型半導体部25とN型半導体部26が形成されており、それぞれ一般式Si
1−xGe
x(0<x<1)(以下、「SiGe」と示す。)を含有する。これにより、P型半導体部25とN型半導体部26は真正半導体層18の光導波路12が形成された部分27に圧縮応力を付与する。この圧縮応力に比例して真正半導体層18の光導波路12が形成された部分27には、1軸の圧縮歪みが生じる。真正半導体層18の光導波路12が形成された部分27の圧縮歪みにより、半導体のバンド構造が変調することで、正孔の有効質量が減少する。なお、SiGeのGe濃度が高い方が、部分27により大きな歪みを生じさせ得る。この場合、Ge濃度は、x≧0.1以上であれば真正半導体層18の部分27により確実に歪みを生じさせることができる。
【0034】
正孔の有効質量とキャリアプラズマ効果による屈折率の変化Δnとは反比例するので、光変調器1Bは、より大きな屈折率の変化Δnを得ることができる。したがって、光変調器1Bは、キャリアプラズマ効果による屈折率の変化Δnを増大させることにより、従来と同等以上の性能を得ることができる。
【0035】
本実施形態の場合、光変調器1Bは、光導波路12に1軸の圧縮歪みが生じているので、歪みが生じていない場合に比べ、キャリアプラズマ効果による屈折率の変化Δnを3倍程度に増大することができる。
【0036】
3.第3実施形態
第3実施形態に係る光変調器1Cについて、
図2と同様の構成について同様の符号を付した
図4を参照して説明する。本図における光変調器1Cは、光導波路30に歪生成部としてのSiGe層31が形成されている。光導波路30は、真正半導体層18、SiGe層31、真正半導体層18の順に積層されており、当該SiGe層31に圧縮応力が生じている。この圧縮応力に比例して、SiGe層31そのものに2軸の圧縮歪みが生じている。この圧縮歪みにより、半導体のバンド構造が変調することで、SiGe層31における正孔の有効質量が減少する。
【0037】
なお、Siのバンドギャップは1.15eVであるのに対し、Geのバンドギャップは0.67eVであるので、SiGe層31におけるGe濃度を高くするほどバンドギャップは小さくなる。例えば、動作波長1.55μmとした場合、バンドギャップは0.8eV必要である。そうすると、0.8eVのバンドギャップを確保するには、SiGe層31におけるGe濃度はx≦0.5とするのが好ましい。
【0038】
本実施形態に係る光変調器1Cは、光導波路30にSiGe層31を設けたことにより、SiGe層31がP型半導体部19とN型半導体部20の間に配置されることになる。そうすると、入力電極13と接地電極21の間に順バイアス電圧を印加した場合、電流はP型半導体部19とN型半導体部20の間の真正半導体層18より抵抗が少ないSiGe層31を流れる。当該SiGe層31は、圧縮歪みによって正孔の有効質量が減少しているので、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0039】
なお、上記では、光導波路30にSiGe層31を設けた場合について説明したが、本実施形態はこれに限られない。
図4と同様の構成について同様の符号を付した
図5に示す光変調器1Dのように、P型半導体部19とN型半導体部20の間の真正半導体層18に歪生成部としてのSiGe層32を形成することとしてもよい。SiGe層32は、P型半導体部19とN型半導体部20と真正半導体層18とで囲まれているので、圧縮応力が付与されている。この圧縮応力に比例して、SiGe層32そのものに2軸の圧縮歪みが生じている。そうすると、SiGe層は2軸の圧縮歪みによって正孔の有効質量が減少しているので、本実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0040】
4.第4実施形態
第4実施形態に係る光変調器1Eについて、
図2と同様の構成について同様の符号を付した
図6を参照して説明する。光変調器1Eは、SOI(Silicon on Insulator)基板に形成された凸条の光導波路41を有するMOS(Metal Oxide Semiconductor)型トランジスタと同様の構造を有する。この光変調器1Eは、Si基板16と、Si基板16上に積層されたSiO
2からなる埋め込み酸化層17とを備え、埋め込み酸化層17上に不純物半導体部としてのP型半導体層35、歪生成部としての量子井戸(Quantum well)層36、ゲート絶縁膜37、導電部としてのN型半導体層38、電極としての入力電極39が順に積層されている。ゲート絶縁膜37、N型半導体層38、及び入力電極39を備える光導波路41は、図面に対し垂直方向、すなわち手前から奥へ伸びるように形成されている。光導波路12を挟んで両側にそれぞれ電極としての接地電極40が設けられている。
【0041】
P型半導体層35上に形成された量子井戸層36は、SiGeを含有するP型半導体で構成されており、P型半導体層35により圧縮応力が付与されている。この圧縮応力に比例して量子井戸層36には、2軸の圧縮歪みが生じる。この量子井戸層36の圧縮歪みにより、半導体のバンド構造が変調することで、正孔の有効質量が減少する。
【0042】
本実施形態に係る光変調器1EはMOS構造であるため、キャリアはゲート絶縁膜37の表面のごく近傍(表面から<10nm)に蓄積される。そのため、ゲート絶縁膜37のごく近傍の正孔の有効質量を減少させればキャリアプラズマ効果を増大させることができる。したがって、量子井戸層36は、5nm程度に薄くても十分な効果を得ることができる。これにより、本実施形態に係る光変調器1Eは、薄く形成すればよいので、量子井戸層36を形成する際に容易に結晶成長することができる。
【0043】
量子井戸層36が薄いことによりバンドギャップが大きくなるので、Ge濃度を高くすることができる。因みに、動作波長1.55μmとした場合、バンドギャップは0.8eV必要である。したがって、本実施形態に係る光変調器1Eは、Ge濃度を高めて量子井戸層36により大きな歪を生じさせることができるので、キャリアプラズマ効果による屈折率の変化Δnをより増大することができる。
【0044】
ゲート絶縁膜37には、高誘電率ゲート絶縁膜(High-k膜)を用い、等価酸化膜厚(Equivalent Oxide Thickness, EOT)を1nmとすると、キャリアプラズマ効果による屈折率の変化Δn及び自由キャリア吸収による吸光度の変化Δαともに増大させることができる。高誘電率ゲート絶縁膜は、特に限定されないが、例えば、ハフニウム原子、酸素原子を含んだHfO
2膜、さらにシリコン原子を含んだHfSiO膜、および、シリコン原子の代わりにアルミニウム原子を含んだHfAlO膜などを用いることができる。
【0045】
上記のように構成された光変調器1Eでは、入力電極39と接地電極40の間に順バイアス電圧を印加すると、光導波路12内に自由キャリアが注入される。自由キャリアの増加によりP型半導体層35の屈折率が変化し、これにより光導波路12内を通過するCW光の位相が変調される。
【0046】
本実施形態の場合、光変調器1Eは、光導波路12に2軸の圧縮歪みが生じているので、歪みが生じていない場合に比べ、キャリアプラズマ効果による屈折率の変化Δnを3倍程度に増大することができる。さらに、ゲート絶縁膜37に高誘電率ゲート絶縁膜(High-k膜)を用いて等価酸化膜厚(Equivalent Oxide Thickness, EOT)を1nmとすることにより、5nmの膜厚のSiO
2のゲート絶縁膜に比べ屈折率の変化を単独で5倍程度に増大することができる。したがって、本実施形態に係る光変調器1Eは、歪によるキャリアプラズマ効果と高誘電率ゲート絶縁膜(High-k膜)を用いることによる効果とを組み合わせることにより、従来に比べ、屈折率の変化Δnを10倍程度に増大することができる。
【0047】
本実施形態では、ゲート絶縁膜37を挟んで不純物半導体部としてのP型半導体層35と導電部としてのN型半導体層38とを設けた場合について説明したが、本実施形態はこれに限られない。例えば、入力電極が設けられた導電部は必ずしも半導体である必要はなく、金属でもよい。
【0048】
5.第5実施形態
第5実施形態に係る光変調器1Fについて、
図6と同様の構成について同様の符号を付した
図7を参照して説明する。本実施形態に係る光変調器1Fは、埋め込み酸化層17上に不純物半導体部としてのN型半導体層42、ゲート絶縁膜37、導電部としてのP型半導体層45、入力電極39が順に積層されている。ゲート絶縁膜37、P型半導体層45、及び入力電極39を備える光導波路43は、図面に対し垂直方向、すなわち手前から奥へ伸びるように形成されている。
【0049】
上記のように構成されたN型半導体層42、及びP型半導体層45の表面には、歪生成部としてのSiN膜44が形成されている。形成されたSiN膜44は、N型半導体層42、及びP型半導体層45に対し引張り応力を付与する。この引張り力に比例してN型半導体層42、及びP型半導体層45には、1軸の引張り歪みが生じる。このN型半導体層42の引張り歪みにより、半導体のバンド構造が変調することで、電子の有効質量が減少する。
【0050】
本実施形態の場合、光変調器1Fは、N型半導体層42に形成された光導波路12に1軸の引張歪みが生じているので、歪みが生じていない場合に比べ、キャリアプラズマ効果による屈折率の変化Δnを2倍程度に増大することができる。
【0051】
本実施形態では、ゲート絶縁膜37を挟んで不純物半導体部としてのN型半導体層42と導電部としてのP型半導体層45とを設けた場合について説明したが、本実施形態はこれに限られない。例えば、入力電極が設けられた導電部は必ずしも半導体である必要はなく、金属でもよい。
【0052】
(変形例)
一方、圧縮応力を付与し得るようにSiN膜44を形成してもよい。この場合、図示しないが、光変調器は、埋め込み酸化層上に不純物半導体部としてのP型半導体層、ゲート絶縁膜、導電部としてのN型半導体層、入力電極が順に積層される。SiN膜は、P型半導体層、及びN型半導体層に対し圧縮応力を付与する。この圧縮応力に比例してP型半導体層、及びN型半導体層には、1軸の圧縮歪みが生じる。このP型半導体層の圧縮歪みにより、半導体のバンド構造が変調することで、正孔の有効質量が減少する。光変調器は、P型半導体層に形成された光導波路に1軸の圧縮歪みが生じているので、歪みが生じていない場合に比べ、キャリアプラズマ効果による屈折率の変化Δnを3倍程度に増大することができる。
【0053】
この場合N型半導体層にも1軸の圧縮歪みが生じており、これによりN型半導体層ではキャリアプラズマ効果による屈折率の変化Δn及び自由キャリア吸収による吸光度の変化Δαは小さくなる。本実施形態に係る光変調器は、上述の通り、MOS型ダイオードであるから、N型半導体層は電極に相当する。電極としては抵抗を下げる必要があるので、ドープ濃度を高くする必要がある。ところが、ドープ濃度を高くすると、材料そのものにおける光の吸収が増えてしまい、光の変調効率を著しく低下させてしまう。
【0054】
そこで、従来はドープ濃度を10
18/cm
3程度に抑える必要があり、電極としては抵抗が大きく、光変調器としての性能を著しく低下させていた。また動作速度は抵抗Rと、容量Cとの積で表され、一般的に小さい方が動作速度が速くなるといわれている。そうすると、上記した通り従来ではドープ濃度が低いので、電極の抵抗が大きく動作速度を速めることが困難であった。
【0055】
これに対し、本実施形態に係る光変調器は、N型半導体層に圧縮歪みが生じていることにより、自由キャリア吸収による吸光度の変化Δαは、歪みが生じていない場合に比べ1/10程度に小さくなる。そうすると、従来に比べドープ濃度を高くしても光の吸収による変調効率の低下を抑制することができる。したがって、光変調器は、ドープ濃度を高くすることにより電極としての抵抗を下げることができるので、結果として高速動作が可能になる。
【0056】
本実施形態では、ゲート絶縁膜37を挟んで不純物半導体部としてのP型半導体層と導電部としてのN型半導体層とを設けた場合について説明したが、本実施形態はこれに限られない。例えば、入力電極が設けられた導電部は必ずしも半導体である必要はなく、金属でもよい。
【0057】
6.実施例(1)
図8は、Si基板上にSiGe層を成長させた場合のGe濃度の変化と正孔の有効質量の変化とを計算した結果である。本図からGe濃度が高くなるに従い、正孔の有効質量が小さくなっていくのが確認できる。
【0058】
図9は、Si基板上にSiGe層を成長させた場合のGe濃度の変化とSiGeのバンドギャップの変化とを計算した結果である。SiGe層は厚さ3nmの量子井戸層とした。比較として非特許文献4(D. V. Lang, R. People, J. C. Bean, and A. M. Sergent, “Measurement of the band gap of GexSi1-x/Si strained-layer heterostructures,” Appl. Phys. Lett., vol. 47, pp. 1333-1335, 1985.)と、非特許文献5(D. J. Robbins, L. T. Canham, S. J. Barnett, A. D. Pitt, and P. Calcott, “Near-band-gap photoluminescence from pseudomorphic Si1-xGex single layers on silicon,” J. Appl. Phys., vol. 71, pp. 1407-1414, 1992.)から得たバルクのSiGeのデータを合わせて示す。本図からGe濃度が高くなるに従い、バンドギャップが小さくなることが分かる。0.9eVのバンドギャップを得ようとすると、バルクの場合にはGe濃度がモル比0.3程度であるのに対し、量子井戸層を形成することによりGe濃度をモル比0.5程度にできることが確認できた。
【0059】
図10は、Si基板上にSiGe層を成長させた場合のGe濃度とキャリアプラズマ効果による屈折率の変化Δnとの関係を計算した結果である。本図から、Ge濃度を高くして歪みを生じさせることにより、屈折率の変化Δnが3倍程度になることが確認できた。
【0060】
図11は、Si基板上にSiGe層を成長させた場合のGe濃度と自由キャリア吸収による吸光度の変化Δαとの関係を計算した結果である。本図から、Ge濃度を高くして歪みを生じさせることにより、吸光度の変化Δαが4倍程度になることが確認できた。
【0061】
次いで、第4実施形態に係る光変調器1Eにおけるキャリアプラズマ効果による屈折率の変化Δnと、自由キャリア吸収による吸光度の変化Δαとを計算した。計算は
図12Aに示す光変調器1Eの構成をモデルとした。すなわち、光変調器1Eは、P型半導体層35の厚さを160nm、量子井戸層36はSi
0.5Ge
0.5とし厚さを3nm、ゲート絶縁膜37は高誘電率ゲート絶縁膜(High-k膜)を用い、等価酸化膜厚を1nm(物理的な厚さは5nm)、N型半導体層38の厚さを200nmとした。
図12Bは光導波路12にTEモードの基本波を入射させた場合の電界の分布を示す。
【0062】
その結果、キャリアプラズマ効果による屈折率の変化Δnは、
図13に示すとおり、量子井戸層を備えることにより、3倍程度となった。同様に、自由キャリア吸収による吸光度の変化Δαは、
図14に示すとおり、量子井戸層を備えることにより、3倍程度となった。
【0063】
図15は、Si基板上にSiGe層を成長させた場合のGe濃度と駆動電圧V
πと電極長さLとの積V
πL特性との関係を計算した結果である。V
πL特性は、光変調器の高速・低駆動電圧の性能を評価する指数の1つで、光変調器の長さを一定にした時の駆動電圧の大きさを表す指標である。また、電極による損失増大を抑制する目的で光変調器の長さを短くできるので、V
πLが小さい方が優位である。本図から、駆動電圧(V
πL)は、Ge濃度が高くなるに従い小さくなって、Ge濃度がX=0.5のとき0.033V-cmになることが確認できた。
【0064】
図16は、Si基板上にSiGe層を成長させた場合のGe濃度と、単位長さ及び駆動電圧あたりの吸光度との関係を計算した結果である。本図から、吸光度は、Ge濃度が高くなるに従い大きくなって、Ge濃度がX=0.5のとき9dB/mm/Vになることが確認できた。
【0065】
7.実施例(2)
次に、上記第4実施形態に対応する光変調器1Cに係る実施例について説明する。本実施例に係る光変調器1Cは、市販のSOI基板を用いて形成した。使用したSOI基板の埋め込み層17の膜厚は2μm、埋め込み層17上のSi層18Bの膜厚は260nmである。まず、埋め込み層17上のSi層18Bを熱酸化し、形成した熱酸化膜を除去することにより、厚さ100nmに薄膜化した。次いで、厚さ30nmのSiGe層31と、70nmのSi層18Bとを化学蒸着(CVD:Chemical Vapor Deposition)法によりSOI基板上に形成した(
図17A)。
【0066】
光変調器に用いられるPIN接合は、従来のCMOSを製造するプロセスによって形成することができる。まず、光導波路に対応するパターンを形成し、SiGe層31を有する凸条の光導波路30をドライエッチングによって形成した(
図17B)。
【0067】
次いで、ボロンとリンを用いて所定の領域にイオン注入をした後、アニール処理をすることにより、P型半導体部19と、N型半導体部20とを形成した(
図17C)。
【0068】
最後にP型半導体部19と、N型半導体部20の表面にそれぞれアルミニウムを熱蒸着した。これによりP型半導体部19上に入力電極13を形成し、N型半導体部上20に接地電極21を形成した(
図17D)。
【0069】
上記のようにして形成された光変調器1Cの劈開面における走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)像を
図18に示す。この光変調器1Cの減衰特性を従来の光学装置(図示しない)を用いて測定した。光学装置は、CWレーザを出射する光源と、偏光板と、フォトダイオードと、SMU(source measurement unit)とを備える。
【0070】
光源から出射したCWレーザ光は、偏光板を通過してTEモードに変換され、光変調器1Cの劈開面から光導波路30に入射する。SMUによって入力電極13と接地電極21の間に順方向バイアス電圧が印加されているとき、自由キャリアによって入射したCWレーザ光は減衰される。すなわち光変調器1Cは、順方向バイアス電圧を印加するか否かにより、CWレーザ光の振幅を変調することが可能になる。このようにして変調された光を、フォトダイオードで検出した。また比較例として、光導波路をSi層のみで形成した光変調器を作製した。
【0071】
実施例及び比較例に係る光変調器において、減衰特性を測定した結果及びシミュレーション結果を
図19に示す。
図19の縦軸は減衰量(dB)、横軸は電流密度を示し、○は実施例に係る光変調器1Cの測定結果、●は比較例に係る光変調器の測定結果、破線は実施例に対応する光変調器1Cのシミュレーション結果、実線は比較例に対応する光変調器のシミュレーション結果を示す。
【0072】
本図より、実施例は、同じ電流密度において比較例に比べ光の減衰が大きいことが確認できた。20dBの減衰を得るのに、実施例の場合24mA/mmの電流密度で足りるのに対し、比較例の場合55mA/mmの電流密度を必要とする。したがって実施例に係る光変調器1Cは、比較例に係る光変調器に比べ、2倍以上の光の変調効率を得ることができることが確認できた。
【0073】
8.変形例
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨の範囲内で適宜変更することが可能である。
【0074】
例えば、上記実施形態は、いずれもキャリアプラズマ効果により、入射した光の屈折率を変化させる場合について説明したが、本発明はこれに限らず、自由キャリア吸収により、入射した光を吸収する吸光度を変化させる場合に適用することとしてもよい。この場合、光変調器1A〜1Eは
図20に示すように、入射部10に対しCW光が入射される。入射したCW光は、出射部11へとつながる光導波路12を通過して出射部11から出射される。光変調器1Aは、CW光が光導波路12を通過する際、自由キャリア吸収を利用して、当該CW光を入力電極39に入力された変調電気入力信号に変調した光変調信号を出射部11から出射する。光変調器1Aは、電界が印加されていない場合、入射部10に入射したCW光を出射部11から出射する。一方、入力電極13と接地電極(本図には図示せず)の間に逆バイアス電圧を印加すると、光導波路12内に空乏層が形成される。空乏層が形成されることにより半導体層(本図には図示せず)の吸光度が変化し、これにより光導波路12内を通過するCW光が吸収される。このように入力電極13と接地電極の間の逆バイアス電圧をON又はOFFすると、出射光もOFF又はONされ、電気信号を光信号へ変換することができる。なお、上記説明では、入力電極13と接地電極の間に逆バイアス電圧を印加する場合について説明したが、本発明はこれに限らず、入力電極13と接地電極の間に順バイアス電圧を印加し、光導波路12内にキャリアを注入することにより半導体層の吸光度を変化させることとしてもよい。