(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6157918
(24)【登録日】2017年6月16日
(45)【発行日】2017年7月5日
(54)【発明の名称】パノースを含むココア飲料
(51)【国際特許分類】
A23L 2/00 20060101AFI20170626BHJP
A23L 2/38 20060101ALI20170626BHJP
A23G 1/00 20060101ALI20170626BHJP
A23G 1/30 20060101ALI20170626BHJP
【FI】
A23L2/00 Z
A23L2/38 C
A23G1/00
【請求項の数】10
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-97908(P2013-97908)
(22)【出願日】2013年5月7日
(65)【公開番号】特開2014-217305(P2014-217305A)
(43)【公開日】2014年11月20日
【審査請求日】2016年3月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006138
【氏名又は名称】株式会社明治
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100117787
【弁理士】
【氏名又は名称】勝沼 宏仁
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100107342
【弁理士】
【氏名又は名称】横田 修孝
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100143971
【弁理士】
【氏名又は名称】藤井 宏行
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 久美子
(72)【発明者】
【氏名】土師 智寿
(72)【発明者】
【氏名】木村 義治
【審査官】
柴原 直司
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−198435(JP,A)
【文献】
特開平04−360663(JP,A)
【文献】
特開2009−125064(JP,A)
【文献】
特開2007−049962(JP,A)
【文献】
特開2005−137362(JP,A)
【文献】
特開2004−267153(JP,A)
【文献】
特開平09−095672(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 2/00−2/84
A23G 1/00−9/30
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パノースおよびヤマモモ科植物抽出物を含む、ココア飲料。
【請求項2】
パノースを含有する分岐オリゴ糖含有組成物およびヤマモモ科植物抽出物を含む、ココア飲料。
【請求項3】
パノースが、ココア飲料に対して、0.002〜0.2質量%含まれる、請求項1または2に記載のココア飲料。
【請求項4】
パノースを含有する分岐オリゴ糖含有組成物が、マルミノース(登録商標)、パノックスA(登録商標)、パノリッチ(登録商標)、およびパノラップ(登録商標)からなる群から選択される一種または二種以上である、請求項2または3に記載のココア飲料。
【請求項5】
カカオ分が、ココア飲料に対して、0.5以上10質量%未満含まれる、請求項1〜4のいずれか一項に記載のココア飲料。
【請求項6】
ヤマモモ科植物抽出物が、ココア飲料に対して、0.005〜0.1質量%含まれる、請求項1〜5のいずれか一項に記載のココア飲料。
【請求項7】
容器入りである、請求項1〜6のいずれか一項に記載のココア飲料。
【請求項8】
ココア飲料に、パノースまたはパノースを含有する分岐オリゴ糖含有組成物を加える工程を含み、かつヤマモモ科植物抽出物を更に加える工程を含む、パノース含有ココア飲料の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか一項に記載のココア飲料を、40〜70℃で1時間以上保温する、保管方法。
【請求項10】
パノースまたはパノースを含有する分岐オリゴ糖含有組成物、およびヤマモモ科植物抽出物を含有させることを特徴とする、ココア飲料のムレ臭低減方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
技術分野
本発明はココア飲料に関し、更に詳細には、パノースを含むココア飲料である。
【0002】
背景技術
現在、容器入り飲料は、スチール缶、アルミ缶、PET容器、またはガラス瓶等に封入されて流通し、小売店の店頭や自動販売機などで販売される。特に、冬季にはホットベンダー中で加温された状態で販売されることもあるため、その場合には飲料は容器中で長期間加温され続ける。
【0003】
ホットココアは冬季に需要が高く、ホットベンダー中でココア飲料を一定時間加温された状態で販売されることが多い。しかしながら、ココア飲料をホットベンダー等で一定時間以上加温された場合には、汗で蒸れたような好ましくない臭い(ムレ臭)が発生するとの問題があった。
【0004】
このムレ臭の発生により、ココア飲料の品質が劣化し、商品価値が低下してしまうことから、ココア飲料をホットベンダー等で一定時間以上加温された場合であってもムレ臭低減効果を有するココア飲料が希求されているといえる。
【0005】
ここで、特開2007―135404号公報(特許文献1)には、イソマルトオリゴ糖とデンプン分解物の混合物を用いた飲料の風味の改善が開示されているが、ココア飲料のムレ臭低減効果については全く開示も示唆もなされていない。
【0006】
また、特開2011―83248号公報(特許文献2)には、重合度5〜10の分岐糖類を含んでなる風味改善剤および製剤用マスキング剤が開示されているが、パノースを含むココア飲料において、ムレ臭を低減することについては全く開示も示唆もなされていない。
【0007】
更に、特開2007―49962号公報(特許文献3)には、マルトシルトレハロースを含有するココアドリンクがレトルト臭や、ムレ臭を低減することについて開示されているが、パノースまたはパノースを含有する分岐オリゴ糖含有組成物を含むココア飲料において、ムレ臭が低減されることについては全く開示も示唆もなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007―135404号公報
【特許文献2】特開2011―83248号公報
【特許文献3】特開2007―49962号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、ココア飲料、特にココア成分や乳固形分の含有量が多いココア飲料において、加熱時、特に加熱保管時において発生する、ムレ臭が低減され、ココア飲料の品質が改善されたココア飲料を提供することを一つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、ココア飲料、特にココア成分や乳固形分の含有量が多いココア飲料に、パノースまたはパノースを含有する分岐オリゴ糖含有組成物を含有させることにより、当該ココア飲料を一定時間加熱した場合であっても、ムレ臭の発生を抑えることができ、ココア飲料の品質が改善することを見出した。本発明はこれらの知見に基づくものである。
【0011】
本発明によれば、以下の(1)〜(14)の発明が提供される。
(1)パノースを含む、ココア飲料。
(2)パノースを含有する分岐オリゴ糖含有組成物を含む、ココア飲料。
(3)パノースが、ココア飲料に対して、0.002〜0.2質量%含まれる、(1)または(2)に記載のココア飲料。
(4)パノースを含有する分岐オリゴ糖含有組成物が、マルミノース(登録商標)、パノックスA(登録商標)、パノリッチ(登録商標)、およびパノラップ(登録商標)からなる群から選択される一種または二種以上である、(2)または(3)に記載のココア飲料。
(5)カカオ分が、ココア飲料に対して、0.5以上10質量%未満含まれる、(1)〜(4)のいずれかに記載のココア飲料。
(6)ヤマモモ科植物抽出物を更に含む、(1)〜(5)のいずれかに記載のココア飲料。
(7)ヤマモモ科植物抽出物が、ココア飲料に対して、0.005〜0.1質量%含まれる、(6)に記載のココア飲料。
(8)容器入りである、(1)〜(7)のいずれかに記載のココア飲料。
(9)ココア飲料に、パノースまたはパノースを含有する分岐オリゴ糖含有組成物を加える工程を含む、パノース含有ココア飲料の製造方法。
(10)ヤマモモ科植物抽出物を更に加える工程を含む、(9)に記載の製造方法。
(11)(9)または(10)に記載の製造方法により製造される、ココア飲料。
(12)(1)〜(8)または(11)のいずれかに記載のココア飲料を、40〜70℃で1時間以上保温する、保管方法。
(13)(12)に記載の保管方法により保管される、ココア飲料。
(14)パノースまたはパノースを含有する分岐オリゴ糖含有組成物を含有させることを特徴とする、ココア飲料のムレ臭低減方法。
【0012】
本発明によれば、ココア飲料、特にココア成分や乳固形分の含有量が多いココア飲料に、パノースまたはパノースを含有する分岐オリゴ糖含有組成物を含有させることにより、好ましくはヤマモモ科植物抽出物を更に含有させることにより、ホットベンダー等で一定時間以上加熱、特に加熱保管されたされた場合であってもムレ臭が低減でき、ココア飲料の品質を改善することができる点で有利である。
【0013】
<ココア飲料>
本発明のココア飲料は、パノース(3糖類の一種)(panose)を含むココア飲料である。以下、本発明のココア飲料について詳述する。
【0014】
パノースについて
本発明のココア飲料は、パノースが含まれる。ココア飲料にパノースを含有する分岐オリゴ糖含有組成物を含有させることにより、ココア飲料中にパノースを含有させてもよく、またパノースを単独でココア飲料に加えて含有させてもよい。
【0015】
従って、本発明のココア飲料は、パノースを含むココア飲料であってもよく、またパノースを含有する分岐オリゴ糖含有組成物を含むココア飲料であってもよい。
【0016】
また、パノースは、市販のパノースを含有する分岐オリゴ糖含有組成物から単離および/または精製してココア飲料に含有させてもよく、またパノースが含まれた他の市販品をそのまま、もしくは該市販品を単離および/または精製してココア飲料に含有させても良い。
【0017】
ここで、本発明のパノースを含有する分岐オリゴ糖含有組成物は、少なくともパノースを含むものであり、またパノース以外の分岐オリゴ糖を含んでいてもよい。分岐オリゴ糖とは、イソマルトオリゴ糖およびその還元糖をいう。また、イソマルトオリゴ糖とは、ぶどう糖が2〜10個結合したもの(オリゴ糖)のうち、α-1,4結合以外の結合を少なくとも一箇所に有するものをいう。
【0018】
イソマルトオリゴ糖としては、パノースの他にも例えば、イソマルトース、イソマルトトリオース、イソマルトテトラオース、またはイソマルトペンタオースが挙げられる。
【0019】
分岐オリゴ糖含有組成物は、常法により合成した上記分岐オリゴ糖を含有させ分岐オリゴ糖含有組成物としてもよく、また市販品を用いてもよい。分岐オリゴ糖含有組成物の市販品としては、例えば、マルミノース(登録商標)(昭和産業株式会社製)、パノックスA(登録商標)(昭和産業株式会社製)、パノリッチ(登録商標)(日本食品化工株式会社製)、およびパノラップ(登録商標)(株式会社林原製)が挙げられ、これらを一種または二種以上組み合わせて用いてもよい。分岐オリゴ糖含有組成物は、上述のように市販されているものを用いてもよいが、例えば、デンプン、一般的にはコーンスターチを酵素処理し糖化、脱塩、ろ過、濃縮等を行うことで製造することができる。
【0020】
本発明の好ましい態様によれば、パノースを含有する分岐オリゴ糖含有組成物を含み、かつ該分岐オリゴ糖含有組成物が、マルミノース(登録商標)、パノックスA(登録商標)、パノリッチ(登録商標)、およびパノラップ(登録商標)からなる群から選択される一種または二種以上である、ココア飲料が提供される。
【0021】
本発明のココア飲料に含まれるパノースは、本発明の効果を奏する限り特に限定されるものではないが、ココア飲料に対して、好ましくは0.002〜0.2質量%含まれ、より好ましくは0.005〜0.05質量%含まれる。パノースが、ココア飲料に対して、0.005〜0.05質量%含まれることにより、ホットベンダー等で一定時間以上加熱、特に加熱保管された場合であってもムレ臭をより低減することができ、ココア飲料としての品質がより改善される。
【0022】
本発明のココア飲料において、パノースを含有する分岐オリゴ糖含有組成物は、本発明の効果を奏する限り特に限定されるものではないが、ココア飲料に対して、好ましくは0.01〜1質量%含まれ、より好ましくは0.025〜0.25質量%含まれる。本発明のココア飲料に、パノースを含有する分岐オリゴ糖含有組成物が0.025〜0.25質量%含まれることにより、ホットベンダー等で一定時間以上加熱、特に加熱保管されたされた場合であってもムレ臭をより低減することができ、ココア飲料の品質がより改善される。
【0023】
本発明のパノースを含有する分岐オリゴ糖含有組成物において、パノースが、分岐オリゴ糖含有組成物に対して、好ましくは10〜80質量%含まれ、より好ましくは15〜30質量%含まれる。本発明の分岐オリゴ糖含有組成物に、パノースが15〜30質量%含まれることにより、ホットベンダー等で一定時間以上加熱、特に加熱保管された場合であってもムレ臭をより低減することができ、ココア飲料の品質がより改善される。
【0024】
本発明のココア飲料の好ましい態様によれば、パノースを含有する分岐オリゴ糖含有組成物が、単糖類を含み、かつ分岐オリゴ糖含有組成物中の単糖類、2糖類、および3糖類の合計含有量が、分岐オリゴ糖含有組成物に対して、10〜95質量%であり、好ましくは60〜90質量%であるココア飲料が提供される。分岐オリゴ糖含有組成物には、単糖類、2糖類、および3糖類以外に、4糖類、5糖類、および6糖類以上の糖類が含まれていてもよい。
【0025】
本発明のココア飲料の好ましい態様によれば、パノースまたはパノースを含有する分岐オリゴ糖含有組成物を含むムレ臭低減作用を有するココア飲料が提供される。ココア飲料は、時間の経過とともにココア飲料に特有の、すえ臭いような、汗臭いような不快な臭いを呈し、この臭いをムレ臭という。このムレ臭は、ココア飲料を、レトルト殺菌処理や、超高温瞬間滅菌(UHT殺菌)処理行った場合や、ホットベンダー等で一定時間以上加温処理されることにより、ムレ臭がより強くなる場合がある。ココア飲料に、上述のようなパノースまたはパノースを含有する分岐オリゴ糖含有組成物を加えることにより、ココア飲料のムレ臭を低減させることができる。
【0026】
ヤマモモ科植物抽出物について
本発明のココア飲料の好ましい態様によれば、上記パノースまたはパノースを含有する分岐オリゴ糖含有組成物に加えて、更にヤマモモ科植物抽出物(以下、ヤマモモ抽出物と記載する場合もある)を含むココア飲料が提供される。本発明のヤマモモ科植物抽出物は、フラボノイド配糖体、特にミリシトリンを含む抽出物であり、好ましくはミリシトリンを主成分として含む。本発明のココア飲料に含まれるヤマモモ科植物抽出物としては、本発明の効果を奏する限り特に限定されるものではないが、市販品であるサンメリン(登録商標)(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製)(サンメリンYA−Fなど)を用いることが好ましい。また、本発明のココア飲料に含まれるヤマモモ科植物抽出物は、例えば、ヤマモモ科植物であるヤマモモまたはヤチヤナギを、有機溶媒浸漬法などの常法により抽出して用いてもよい。ココア飲料に、上記パノースまたはパノースを含有する分岐オリゴ糖含有組成物に加えて、ヤマモモ科植物抽出物を更に加えることにより、ココア飲料のムレ臭を更に低減させることができ、ココア飲料の品質を更に改善することができる。また、本発明のココア飲料に用いられるヤマモモ科植物抽出物は、油溶性を示す抽出物であっても、油溶性抽出物を酵素処理することにより水溶性化した抽出物であってもよいが、好ましくは水溶性化したヤマモモ科植物抽出物であることが好ましい。
【0027】
本発明のココア飲料に含まれるヤマモモ科植物抽出物は、本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、ココア飲料に対して、好ましくは0.005〜0.1質量%含まれ、より好ましくは0.01〜0.05質量%含まれる。本発明のココア飲料に含まれるヤマモモ科植物抽出物を、ココア飲料に対して、0.01〜0.05質量%含有させることにより、ココア飲料のムレ臭をより低減させることができ、ココア飲料として良好な品質に改善することができる。
【0028】
本発明のココア飲料の好ましい態様によれば、ココア飲料に対して、パノースが0.002〜0.2質量%(好ましくは、0.005〜0.05質量%)含まれ、かつヤマモモ科植物抽出物が0.005〜0.1質量%(好ましくは、0.01〜0.05質量%)含まれるココア飲料が提供される。ヤマモモ科植物抽出物がココア飲料に含まれることにより、ココア飲料に含まれるパノースが少量であっても、ココア飲料のムレ臭をより低減させることができる。
【0029】
その他の成分
ココア飲料とは、ココアパウダー、カカオマス、カカオニブ、ココアバター、およびカカオエキスパウダーからなる群から選択される少なくとも1種以上の原料を用いた飲料であり、本発明のココア飲料にはこれらの原料が少なくとも一種以上含まれる。また、本発明のココア飲料には、副原料として、甘味料、乳原料、植物油脂、乳化剤、安定剤、pH調整剤、香料等が含まれていてもよい。
【0030】
本発明のココア飲料に含まれてもよい甘味料としては、例えばショ糖、ぶどう糖、果糖、キシリトール等の呈味性糖類や、ステビア、アスパルテーム、アセスルファムカリウム等の高甘味度甘味料が挙げられる。
【0031】
本発明のココア飲料に含まれてもよい乳原料としては、例えば牛乳や、加工乳、ホエー、全粉乳、脱脂粉乳、ミルククラム、カゼインタンパク等、生乳を原料とし加工することで得られるもののことをいう。
【0032】
本発明のココア飲料に含まれるカカオ分の配合は、特に限定されるものではないが、カカオ分が、ココア飲料に対して、0.5質量%以上10質量%未満であることが好ましく、より好ましくは1.5質量%以上5.0質量%以下である。
【0033】
また、本発明のココア飲料の別の態様として、本発明のココア飲料に含まれるカカオ分の配合は、カカオ分が、ココア飲料に対して、10質量%以上20質量%以下である(好ましくは、10質量%以上15質量以下である)ココア飲料が提供されてもよい。
【0034】
このようにカカオ分の濃度が高いカカオ飲料であったとしても、本発明のココア飲料にパノースまたはパノースを含有する分岐オリゴ糖含有組成物を加え、更にヤマモモ科植物抽出物を加えることにより、ホットベンダー等で一定時間加温した場合であっても、ココア飲料のムレ臭を低減させることができ、ココア飲料の品質を改善することができる。
【0035】
カカオ分とは、カカオニブ、カカオマス、ココアバター、ココアケーキ、ココアパウダー、またはカカオエキスパウダーなどから、これらに含まれる水分を除いた量をいう。
【0036】
本発明のココア飲料の好ましい態様によれば、ココア飲料中の無脂固形カカオ分が1.5〜3質量%であることが好ましい。無脂固形カカオ分とは、カカオニブ、カカオマス、ココアパウダー、またはカカオエキスパウダーから、これらに含まれる油分を除いた固形分量をいう。
【0037】
本発明のココア飲料の好ましい別の態様によれば、本発明のカカオ飲料には、乳原料が含まれることが好ましい。本発明のカカオ飲料に乳原料を含有することにより、ココア飲料の加温保存中のムレ臭の発生がより顕著になることから、ムレ臭を低減する必要性が高まるが、ココア飲料にパノースまたはパノースを含有する分岐オリゴ糖含有組成物を加え、更にヤマモモ科植物抽出物を加えることにより、この問題を解決することができる。ココア飲料に含まれる無脂乳固形分は、特に限定されないが、0.5〜5質量%であることが好ましい。
【0038】
本発明のココア飲料の好ましい別の態様によれば、本発明のココア飲料は、容器入りであることが好ましい。該容器としては、缶(スチール缶、アルミ缶など)、ガラス瓶、紙パック、またはペットボトル等のいずれの態様であってもよく、缶またはガラス瓶入りココア飲料として製造されたものをレトルト殺菌してもよく、また、殺菌処理したココア飲料を缶、ガラス瓶、紙パック、またはペットボトル等に無菌充填してもよい。
【0039】
<ココア飲料の製造方法>
本発明の製造方法は、ココア飲料にパノースまたはパノースを含有する分岐オリゴ糖含有組成物を加える工程を含むパノース含有ココア飲料の製造方法である。また、本発明の製造方法の好ましい態様によれば、ココア飲料にパノースまたはパノースを含有する分岐オリゴ糖含有組成物に加え、ヤマモモ科植物抽出物を更に加える工程を含む製造方法が提供される。
【0040】
パノースまたはパノースを含有する分岐オリゴ糖含有組成物およびヤマモモ科植物抽出物を加えるタイミングは、本発明の効果を奏する限り特に限定されるものではなく、ココア飲料の製造工程のいずれの工程に加えてもよい。また、このパノースは、本発明の効果を奏する限り特に限定されるものではないが、ココア飲料に対して、0.002〜0.2質量%となるように加えることが好ましく、0.005〜0.05質量%となるように加えることがより好ましい。
【0041】
ココア飲料にパノースまたはパノースを含有する分岐オリゴ糖含有組成物を加えるとは、ココア飲料にパノースまたはパノースを含有する分岐オリゴ糖含有組成物を含有させることができればどのような態様であってもよい。
【0042】
本発明のココア飲料の製造方法として、例えば、缶入ココア飲料を製造するためには、ココアパウダーを始めとする原料を水に溶解または分散し、ココア飲料調合液を調製し、このココア調合液をホモジナイズして均質化して、缶容器に投入後、100〜150℃、好ましくは120〜140℃で加熱(殺菌)工程を行うことにより製造することができる。このような加熱工程は、パノースまたはパノースを含有する分岐オリゴ糖含有組成物を加えた(好ましくは、更にヤマモモ科植物抽出物を加えた)後に行うことが好ましいが、パノースまたはパノースを含有する分岐オリゴ糖含有組成物を加える(好ましくは、更にヤマモモ科植物抽出物を加える)前に行うことを妨げるものではない。
【0043】
ココア飲料調合液の調製方法は、特に限定されるものではないが、使用原料の種類に応じ、例えば粉体分散液、副原料溶解液、液糖、仕込水等を分けて予め調合して、その後、最終工程でこれらを混合することによってココア飲料調合液を調製してもよい。ココア飲料調合液の調製温度は、50〜75℃であることが好ましい。
【0044】
本発明のココア飲料の殺菌方法としては、特に限定されるものではないが、例えばレトルト殺菌や、いわゆる超高温瞬間滅菌(UHT殺菌)等が行われる。UHT殺菌を行う場合は、ココア飲料を殺菌した後に缶等容器に封入することが好ましい。商業的無菌を担保するため、殺菌強度F0≧40となるような温度、殺菌時間を設定することが好ましい。本発明のココア飲料によれば、レトルト殺菌や、UHT殺菌等により発生する、ココア飲料のムレ臭であっても低減することができる。
【0045】
本発明の別の態様によれば、パノースまたはパノースを含有する分岐オリゴ糖含有組成物を加える工程を含む製造方法により製造されるココア飲料が提供される。また、本発明の好ましい態様によれば、パノースまたはパノースを含有する分岐オリゴ糖含有組成物を加える工程に、更にヤマモモ科植物抽出物を加える工程を含む製造方法により製造されるココア飲料が提供される。
【0046】
また、本発明の別の好ましい態様によれば、パノースまたはパノースを含有する分岐オリゴ糖含有組成物およびヤマモモ科植物抽出物を加える工程に、更に120〜140℃での加熱工程を含む製造方法により製造されるココア飲料が提供される。
【0047】
<ココア飲料の加温保管方法>
本発明の好ましい態様によれば、本発明のココア飲料および本発明の製造方法により製造されたココア飲料を、40〜70℃の品温で1時間以上、好ましくは50〜60℃の品温で3日以上、より好ましくは1週間以上、保温(加温)する保管方法が提供される。また、この保管方法においては、保管期間は1ヶ月までであることが好ましく、さらには2週間までであることがより好ましい。本発明のココア飲料は、上記のような条件で保管したとしても、ココア飲料のムレ臭を低減することができ、ココア飲料としての品質を保つことができる。加熱(殺菌)された缶入ココア飲料は、ホットベンダーに保管され、定常的に保温(加温)販売されており、この保温時に、ムレ臭が著しく発生する場合が多いが、本発明のココア飲料を用いることにより、このようなムレ臭を低減することができる。また、本発明のココア飲料および本発明の製造方法により製造されたココア飲料は、ホットベンダー用または加温販売用であることが好ましい。
【0048】
本発明の別の態様によれば、本発明のココア飲料および本発明の製造方法により製造されたココア飲料を、40〜70℃で1時間以上(好ましくは50〜60℃の品温で3日以上、より好ましくは1週間以上)保管されるココア飲料が提供される。
【0049】
<ムレ臭低減方法>
また、本発明の別の態様によれば、パノースまたはパノースを含有する分岐オリゴ糖含有組成物を含有させることを特徴とするココア飲料のムレ臭低減方法が提供される。本発明の別の好ましい態様によれば、ココア飲料に、パノースまたはパノースを含有する分岐オリゴ糖含有組成物を含有させ、ヤマモモ科植物抽出物を更に含有させることを特徴とするココア飲料のムレ臭低減方法が提供される。これらの方法を用いることにより、ココア飲料をレトルト殺菌やUHT殺菌により加熱された場合であっても、更にホットベンダーに保管され、一定時間保温(加温)販売された場合であっても、ココア飲料のムレ臭を低減することができ、ココア飲料としての品質を保つことができる。
【実施例】
【0050】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【0051】
パノースを含有する分岐オリゴ糖含有組成物中の糖の重合度分布の分析
パノースを含む各種の分岐オリゴ糖含有組成物について、分岐オリゴ糖含有組成物に含まれる糖の重合度分布を分析した。分析方法は高速液体クロマトグラフィを使用し、定法に基づいて行った。
【0052】
各分岐オリゴ糖含有組成物中の単糖類、2糖類、3糖類、4糖類、5糖類、および6糖類以上の糖類について、それらの分布を表に示した。パノラップ(登録商標)(株式会社林原製)、パノリッチ(登録商標)(日本食品化工株式会社製)、パノックスA(登録商標)(昭和産業株式会社製)、およびマルミノース(登録商標)(昭和産業株式会社製)は、単糖類、2糖類、および3糖類の合計が全て75質量%以上であるのに対し、ブランチオリゴ(登録商標)(日本食品化工株式会社製)は19質量%と著しく少なかった。その結果を下記表1に示す。
【0053】
パノース含有量
各分岐オリゴ糖含有組成物のパノース含有量(質量%)を分析した。分析方法は高速液体クロマトグラフィを使用し、定法に基づいて行った。
【0054】
各分岐オリゴ糖組成物のパノース含有量を表に示した。パノラップ、パノリッチ、パノックスA、およびパノリッチのパノース含有量は19質量%以上であるのに対し、ブランチオリゴのパノース含有量は2質量%以下と著しく少なかった。その結果を下記表1に示す。
【表1】
【0055】
ココア飲料の調製
砂糖81質量部、全粉乳19質量部、ココアパウダー21質量部、牛乳19質量部、脱脂粉乳5質量部、乳化剤1質量部、結晶セルロース3質量部、香料1質量部、および水850質量部に、パノースを含有する各種分岐オリゴ糖含有組成物および/またはヤマモモ抽出物(商品名:サンメリンYA−F、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製)を下記表2〜6に記載の濃度となるように加え、混合、攪拌し、ココア飲料の調合液を得た。
パノースを含有する分岐オリゴ糖含有組成物としては、パノリッチ(登録商標)(日本食品化工株式会社製)、マルミノース(登録商標)(昭和産業株式会社製)、パノックスA(登録商標)(昭和産業株式会社製)、パノラップ(登録商標)(株式会社林原製)、およびブランチオリゴ(登録商標)(日本食品化工株式会社製)を用いた。
【0056】
上記得られたココア飲料の調合液の無脂固形カカオ分は1.9質量%、乳固形分は2.6質量%であった。得られた調合液をホモジナイズ処理により均質化した後、缶に充填、巻締し、F0≧40となるよう125℃、40分間のレトルト殺菌を行い、缶入りココア飲料を得た。
【0057】
得られた缶入りココア飲料を60℃で2週間保存した後、下記のとおり官能試験を行った。
【0058】
陰性対照
パノースを含有する分岐オリゴ糖含有組成物およびヤマモモ抽出物を全く含まない以外は、上記のココア飲料の調製と同様の方法で、缶入りココア飲料を得た。得られた缶入りココア飲料を60℃で2週間保存した後、上記のココア飲料と同様に、官能試験を行った。
【0059】
下記の5段階の評価基準によりそれぞれのココア飲料を評価し、その官能試験結果を下記表2〜6に示した。評価基準における、ココア飲料として良好か否かの判断は、ムレ臭の抑制の有無に加え、金属臭や異味の有無なども考慮して、ココア飲料としての品質を総合的に判断した。なお、下記表2〜6における数値はココア飲料の調合液中の含有量を表す。
陰性対照では、加温保存前には感じられなかった、ムレ臭、酸味、苦味が強く、明らかに加温保存による品質劣化が見られ、著しく劣った品質となっていた(下記評価基準では「E」であった)。
評価基準
A:ココア飲料として、著しく良好である
B:ココア飲料として、良好である
C:ココア飲料として、やや良好である
D:ココア飲料として、やや劣る
E:ココア飲料として、著しく劣る
−:官能試験を行わなかった
【0060】
【表2】
【0061】
【表3】
【0062】
【表4】
【0063】
【表5】
【表6】
【0064】
パノースを含有する分岐オリゴ糖含有組成物をココア飲料に加えることにより、陰性対照に比べ、ココア飲料のムレ臭が低減され、ココア飲料として良好であることがわかった。
また、分岐オリゴ糖含有組成物と、ヤマモモ抽出物とを併用することにより、著しいムレ臭抑制効果が得られ、ココア飲料として良好な品質に改善できることがわかる。
一方で、上記表2の結果は、ココア飲料における分岐オリゴ糖含有組成物の配合率が高いほど、ムレ臭の抑制効果は高くなるが、分岐オリゴ糖含有組成物の配合率が高くなると、ココア飲料としての品質に問題となるものではないが、ココア飲料に若干異味が出てしまうことを示すものである。特に、ヤマモモ抽出物を配合せず、分岐オリゴ糖含有組成物のみ配合したココア飲料では、分岐オリゴ糖含有組成物の配合率の増加に伴い、ムレ臭抑制効果は増加するが、十分なムレ臭抑制効果が現れる前に若干異味が発生していた。また、ヤマモモ抽出物においても、ヤマモモ抽出物の配合率が高いほど、ムレ臭の抑制効果は高くなるが、ヤマモモ抽出物配合率が高くなると、金属臭が発生し、ココア自体の風味が若干減少する傾向があり、ココア飲料としての品質に問題となるものではないが、この傾向はヤマモモ抽出物が0.05質量%より高い濃度で特にみられた(データは示さず)。