(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
タンパク質として乳タンパク質の加水分解物および発酵乳由来タンパク質、脂質として油脂、および糖質としてイソマルチュロースを含む、小腸の絨毛成長を促進、小腸の固有筋層の厚さを増大、腸管機能を改善、または小腸の組織障害を予防するための飲食品であって、
発酵乳由来タンパク質が、カゼイン、α-ラクトアルブミン、およびβ-ラクトグロブリンを含む発酵乳由来タンパク質の混合物であり、乳タンパク質の加水分解物が、以下の(a)、(b)、(c)または(d)に記載のホエイタンパク質加水分解物である、前記飲食品、
(a)ホエイタンパク質分離物(WPI)またはホエイタンパク濃縮物(WPC)を、プロテアーゼで加水分解し、この加水分解物を10,000以上のカットオフ値をもつ限外濾過(Ultrafiltration:UF)装置で処理し、この加水分解物を含む透過物について前記プロテアーゼを不活性化することによって得られるホエイタンパク質加水分解物、
(b)加熱変性したホエイタンパク質分離物(WPI)を、エンドペプチダーゼおよびエキソペプチダーゼで加水分解後、この加水分解物中の芳香族アミノ酸をイオン交換樹脂で吸着処理することによって得られる、ホエイタンパク質加水分解物、
(c)タンパク質含量が少なくとも65%のホエイタンパク濃縮物(WPC)の12%水溶液を、60℃を超える温度で熱処理後、B.licheniformis由来のアルカラーゼ(登録商標)およびB.subtilis由来のニュートラーゼ(登録商標)で15〜35%のDHまで加水分解し、この加水分解物を、10,000を超えるカットオフ値をもつ限外濾過(Ultrafiltration:UF)後、ナノ濾過(Nanofiltration:NF)で濃縮し、このNF保持液を噴霧乾燥した、無臭で苦味の少ないホエイタンパク質加水分解物、
(d)ホエイタンパク質分離物(WPI)を8%のタンパク質含有量で含む溶液を85℃で加熱処理してpHが約7.5の溶液を得、この溶液をプロテアーゼで加水分解してpHが約7.0の加水分解物を得、この加水分解物について分画分子量10,000の限外濾過膜処理を行い、得られた透過液(パーミエイト)を逆相HPLCに供することによって得られるホエイタンパク質加水分解物。
タンパク質として乳タンパク質の加水分解物および発酵乳由来タンパク質、および糖質としてイソマルチュロースを含む、腸管機能を改善または小腸の組織障害を予防するための飲食品であって、
発酵乳由来タンパク質が、カゼイン、α-ラクトアルブミン、およびβ-ラクトグロブリンを含む発酵乳由来タンパク質の混合物であり、乳タンパク質の加水分解物が、以下の(a)、(b)、(c)または(d)に記載のホエイタンパク質加水分解物である、前記飲食品、
(a)ホエイタンパク質分離物(WPI)またはホエイタンパク濃縮物(WPC)を、プロテアーゼで加水分解し、この加水分解物を10,000以上のカットオフ値をもつ限外濾過(Ultrafiltration:UF)装置で処理し、この加水分解物を含む透過物について前記プロテアーゼを不活性化することによって得られるホエイタンパク質加水分解物、
(b)加熱変性したホエイタンパク質分離物(WPI)を、エンドペプチダーゼおよびエキソペプチダーゼで加水分解後、この加水分解物中の芳香族アミノ酸をイオン交換樹脂で吸着処理することによって得られる、ホエイタンパク質加水分解物、
(c)タンパク質含量が少なくとも65%のホエイタンパク濃縮物(WPC)の12%水溶液を、60℃を超える温度で熱処理後、B.licheniformis由来のアルカラーゼ(登録商標)およびB.subtilis由来のニュートラーゼ(登録商標)で15〜35%のDHまで加水分解し、この加水分解物を、10,000を超えるカットオフ値をもつ限外濾過(Ultrafiltration:UF)後、ナノ濾過(Nanofiltration:NF)で濃縮し、このNF保持液を噴霧乾燥した、無臭で苦味の少ないホエイタンパク質加水分解物、
(d)ホエイタンパク質分離物(WPI)を8%のタンパク質含有量で含む溶液を85℃で加熱処理してpHが約7.5の溶液を得、この溶液をプロテアーゼで加水分解してpHが約7.0の加水分解物を得、この加水分解物について分画分子量10,000の限外濾過膜処理を行い、得られた透過液(パーミエイト)を逆相HPLCに供することによって得られるホエイタンパク質加水分解物。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、腸管機能の維持・改善に有用な組成物の提供である。あるいは本発明は、小腸の絨毛成長を促進するための組成物、小腸の固有筋層の厚さを増大させるための組成物、腸管機能を改善するための組成物、小腸の組織障害を予防するための組成物、又は抗炎症組成物の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、マウスConA誘発肝炎モデルを用いて、本発明の栄養組成物摂取群と一般流動食摂取群に対して、小腸や脾臓でのサイトカイン産生と小腸障害について組織標本を作製し検討した。サイトカインとしてはTNF-αやIL-6の産生に加えて、ケモカインであるMCP-1の産生について調べた。その結果、本発明の栄養組成物摂取群では、肝臓および血漿中サイトカイン産生上昇抑制に加え、小腸、脾臓でのMCP-1やIL-6産生上昇抑制作用が確認された。さらに、小腸の組織障害も軽減することが明らかになった(実施例1、2)。
この結果から、本発明の栄養組成物を摂取することで腸管に何らかの変化をもたらしているのではないかと推察し、2週間摂取後の正常マウスの小腸重量、大腸重量を測定した。また、小腸組織標本を作製し評価した。その結果、小腸重量と大腸重量の有意な増加が示された。また、小腸組織を評価した結果、絨毛の数には違いは認められなかったが、絨毛の平均の長さと固有筋層の厚さが対照群に対し有意に高値を示した。これらの結果から、小腸の障害に対する保護作用や小腸粘膜上皮や筋肉層の増殖促進作用を有していることが示された(実施例3)。
さらに本発明者らは、ラットインドメタシン誘発小腸障害モデルを用いて、本発明の栄養組成物摂取群と一般流動食群に対して、腸管の透過性の指標としてフェノールスルホンフタレインの尿中排泄率を調べた。また、肝臓、腸間膜リンパ節へのバクテリアルトランスロケーション(Bacterial Translocationとも言う)、さらに一般血液検査について検討した。その結果、本発明の栄養組成物摂取群では、腸管膜の透過性の亢進が抑制されること、また、肝臓や腸間膜リンパ節へのバクテリアルトランスロケーションが抑制されることが示された。さらに、一般血液検査結果から、インドメタシン投与による小腸障害に伴う血中の好中球数や単球数の増加を栄養組成物摂取群が抑制することが示された。以上の結果から、栄養組成物の摂取は腸管を保護して、非ステロイド性抗炎症剤などの薬剤に対する小腸障害を抑制する効果があり、また、腸障害によって起こるバクテリアルトランスロケーションにより誘発される敗血症や肺炎などの感染症の予防に有効であり、免疫系を正常に維持する効果があることが示された(実施例4)。
【0006】
また、本発明者らは、マウスConA誘発肝炎モデルを用いて、得られた栄養組成物の肝炎抑制作用および小腸障害に対する保護作用や腸管機能維持にどの成分が関与しているか検討した。その結果、腸管機能維持にはホエイタンパク質加水分解物、イソマルチュロース、クワルクが関与していることが示された(実施例5)。また、肝炎抑制作用にはホエイタンパク質加水分解物とクワルクが主に関与していることが示された(実施例6)。
【0007】
本願は、この知見に基づき、以下の発明を提供するものである。
〔1〕タンパク質として乳タンパク質の加水分解物および発酵乳由来タンパク質、脂質として油脂、および糖質としてイソマルチュロースを含む、小腸の絨毛成長を促進するための組成物。
〔2〕乳タンパク質が、カゼイン、乳タンパク質濃縮物(MPC)、ホエイタンパク質、ホエイタンパク質濃縮物(WPC)、ホエイタンパク質分離物(WPI)、α-ラクトアルブミン、β-ラクトグロブリンおよびラクトフェリンからなる群より選択される、〔1〕記載の組成物。
〔3〕発酵乳由来タンパク質がフレッシュチーズに由来する、〔1〕又は〔2〕記載の組成物。
〔4〕タンパク質として乳タンパク質の加水分解物および発酵乳由来タンパク質、脂質として油脂、および糖質としてイソマルチュロースを含む、小腸の固有筋層の厚さを増大させるための組成物。
〔5〕乳タンパク質が、カゼイン、乳タンパク質濃縮物(MPC)、ホエイタンパク質、ホエイタンパク質濃縮物(WPC)、ホエイタンパク質分離物(WPI)、α-ラクトアルブミン、β-ラクトグロブリンおよびラクトフェリンからなる群より選択される、〔4〕記載の組成物。
〔6〕発酵乳由来タンパク質がフレッシュチーズに由来する、〔4〕又は〔5〕記載の組成物。
〔7〕タンパク質として乳タンパク質の加水分解物および発酵乳由来タンパク質、脂質として油脂、および糖質としてイソマルチュロースを含む、腸管機能を改善するための組成物。
〔8〕乳タンパク質が、カゼイン、乳タンパク質濃縮物(MPC)、ホエイタンパク質、ホエイタンパク質濃縮物(WPC)、ホエイタンパク質分離物(WPI)、α-ラクトアルブミン、β-ラクトグロブリンおよびラクトフェリンからなる群より選択される、〔7〕記載の組成物。
〔9〕発酵乳由来タンパク質がフレッシュチーズに由来する、〔7〕又は〔8〕記載の組成物。
〔10〕タンパク質として乳タンパク質の加水分解物および発酵乳由来タンパク質、脂質として油脂、および糖質としてイソマルチュロースを含む、小腸の組織障害を予防するための組成物。
〔11〕乳タンパク質が、カゼイン、乳タンパク質濃縮物(MPC)、ホエイタンパク質、ホエイタンパク質濃縮物(WPC)、ホエイタンパク質分離物(WPI)、α-ラクトアルブミン、β-ラクトグロブリンおよびラクトフェリンからなる群より選択される、〔10〕記載の組成物。
〔12〕発酵乳由来タンパク質がフレッシュチーズに由来する、〔10〕又は〔11〕記載の組成物。
〔13〕タンパク質として乳タンパク質の加水分解物および発酵乳由来タンパク質、脂質として油脂、および糖質としてイソマルチュロースを含む、抗炎症組成物。
〔14〕乳タンパク質が、カゼイン、乳タンパク質濃縮物(MPC)、ホエイタンパク質、ホエイタンパク質濃縮物(WPC)、ホエイタンパク質分離物(WPI)、α-ラクトアルブミン、β-ラクトグロブリンおよびラクトフェリンからなる群より選択される、〔13〕記載の組成物。
〔15〕発酵乳由来タンパク質がフレッシュチーズに由来する、〔13〕又は〔14〕記載の組成物。
〔16〕タンパク質として乳タンパク質の加水分解物および発酵乳由来タンパク質、脂質として油脂、および糖質としてイソマルチュロースを含む組成物を投与する工程を含む、小腸の絨毛成長の促進方法。
〔17〕タンパク質として乳タンパク質の加水分解物および発酵乳由来タンパク質、脂質として油脂、および糖質としてイソマルチュロースを含む組成物を投与する工程を含む、小腸の固有筋層の厚さを増大させる方法。
〔18〕タンパク質として乳タンパク質の加水分解物および発酵乳由来タンパク質、脂質として油脂、および糖質としてイソマルチュロースを含む組成物を投与する工程を含む、腸管機能改善方法。
〔19〕タンパク質として乳タンパク質の加水分解物および発酵乳由来タンパク質、脂質として油脂、および糖質としてイソマルチュロースを含む組成物を投与する工程を含む、小腸の組織障害の予防方法。
〔20〕タンパク質として乳タンパク質の加水分解物および発酵乳由来タンパク質、脂質として油脂、および糖質としてイソマルチュロースを含む組成物を投与する工程を含む、炎症抑制方法。
〔21〕小腸の絨毛成長を促進するための組成物の製造における、タンパク質として乳タンパク質の加水分解物および発酵乳由来タンパク質、脂質として油脂、および糖質としてイソマルチュロースを含む組成物の使用。
〔22〕小腸の固有筋層の厚さを増大させるための組成物の製造における、タンパク質として乳タンパク質の加水分解物および発酵乳由来タンパク質、脂質として油脂、および糖質としてイソマルチュロースを含む組成物の使用。
〔23〕腸管機能を改善するための組成物の製造における、タンパク質として乳タンパク質の加水分解物および発酵乳由来タンパク質、脂質として油脂、および糖質としてイソマルチュロースを含む組成物の使用。
〔24〕小腸の組織障害を予防するための組成物の製造における、タンパク質として乳タンパク質の加水分解物および発酵乳由来タンパク質、脂質として油脂、および糖質としてイソマルチュロースを含む組成物の使用。
〔25〕抗炎症組成物の製造における、タンパク質として乳タンパク質の加水分解物および発酵乳由来タンパク質、脂質として油脂、および糖質としてイソマルチュロースを含む組成物の使用。
〔26〕小腸の絨毛成長の促進方法に使用するための、タンパク質として乳タンパク質の加水分解物および発酵乳由来タンパク質、脂質として油脂、および糖質としてイソマルチュロースを含む組成物。
〔27〕小腸の固有筋層の厚さを増大させる方法に使用するための、タンパク質として乳タンパク質の加水分解物および発酵乳由来タンパク質、脂質として油脂、および糖質としてイソマルチュロースを含む組成物。
〔28〕腸管機能改善方法に使用するための、タンパク質として乳タンパク質の加水分解物および発酵乳由来タンパク質、脂質として油脂、および糖質としてイソマルチュロースを含む組成物。
〔29〕小腸の組織障害の予防方法に使用するための、タンパク質として乳タンパク質の加水分解物および発酵乳由来タンパク質、脂質として油脂、および糖質としてイソマルチュロースを含む組成物。
〔30〕炎症抑制方法に使用するための、タンパク質として乳タンパク質の加水分解物および発酵乳由来タンパク質、脂質として油脂、および糖質としてイソマルチュロースを含む組成物。
〔31〕発酵乳由来タンパク質を含む、腸管機能を改善するための組成物。
〔32〕タンパク質として乳タンパク質の加水分解物および発酵乳由来タンパク質、および糖質としてイソマルチュロースを含む、腸管機能を改善するための組成物。
〔33〕乳タンパク質が、カゼイン、乳タンパク質濃縮物(MPC)、ホエイタンパク質、ホエイタンパク質濃縮物(WPC)、ホエイタンパク質分離物(WPI)、α-ラクトアルブミン、β-ラクトグロブリンおよびラクトフェリンからなる群より選択される、〔32〕記載の組成物。
〔34〕発酵乳由来タンパク質がフレッシュチーズに由来する、〔31〕〜〔33〕のいずれか一項に記載の組成物。
〔35〕発酵乳由来タンパク質を含む、小腸の組織障害を予防するための組成物。
〔36〕タンパク質として乳タンパク質の加水分解物および発酵乳由来タンパク質、および糖質としてイソマルチュロースを含む、小腸の組織障害を予防するための組成物。
〔37〕乳タンパク質が、カゼイン、乳タンパク質濃縮物(MPC)、ホエイタンパク質、ホエイタンパク質濃縮物(WPC)、ホエイタンパク質分離物(WPI)、α-ラクトアルブミン、β-ラクトグロブリンおよびラクトフェリンからなる群より選択される、〔36〕記載の組成物。
〔38〕発酵乳由来タンパク質がフレッシュチーズに由来する、〔35〕〜〔37〕のいずれか一項に記載の組成物。
〔39〕タンパク質として乳タンパク質の加水分解物および発酵乳由来タンパク質を含む、抗炎症組成物。
〔40〕さらに糖質としてイソマルチュロースを含む、〔39〕記載の組成物。
〔41〕乳タンパク質が、カゼイン、乳タンパク質濃縮物(MPC)、ホエイタンパク質、ホエイタンパク質濃縮物(WPC)、ホエイタンパク質分離物(WPI)、α-ラクトアルブミン、β-ラクトグロブリンおよびラクトフェリンからなる群より選択される、〔39〕又は〔40〕記載の組成物。
〔42〕発酵乳由来タンパク質がフレッシュチーズに由来する、〔39〕〜〔41〕のいずれか一項に記載の組成物。
〔43〕発酵乳由来タンパク質を含む組成物を投与する工程を含む、腸管機能を改善するための方法。
〔44〕タンパク質として乳タンパク質の加水分解物および発酵乳由来タンパク質、および糖質としてイソマルチュロースを含む組成物を投与する工程を含む、腸管機能を改善するための方法。
〔45〕乳タンパク質が、カゼイン、乳タンパク質濃縮物(MPC)、ホエイタンパク質、ホエイタンパク質濃縮物(WPC)、ホエイタンパク質分離物(WPI)、α-ラクトアルブミン、β-ラクトグロブリンおよびラクトフェリンからなる群より選択される、〔44〕記載の方法。
〔46〕発酵乳由来タンパク質がフレッシュチーズに由来する、〔43〕〜〔45〕のいずれか一項に記載の方法。
〔47〕発酵乳由来タンパク質を含む組成物を投与する工程を含む、小腸の組織障害の予防方法。
〔48〕タンパク質として乳タンパク質の加水分解物および発酵乳由来タンパク質、および糖質としてイソマルチュロースを含む組成物を投与する工程を含む、小腸の組織障害の予防方法。
〔49〕乳タンパク質が、カゼイン、乳タンパク質濃縮物(MPC)、ホエイタンパク質、ホエイタンパク質濃縮物(WPC)、ホエイタンパク質分離物(WPI)、α-ラクトアルブミン、β-ラクトグロブリンおよびラクトフェリンからなる群より選択される、〔48〕記載の方法。
〔50〕発酵乳由来タンパク質がフレッシュチーズに由来する、〔47〕〜〔49〕のいずれか一項に記載の方法。
〔51〕タンパク質として乳タンパク質の加水分解物および発酵乳由来タンパク質を含む組成物を投与する工程を含む、炎症抑制方法。
〔52〕組成物が糖質としてイソマルチュロースをさらに含む、〔51〕記載の方法。
〔53〕乳タンパク質が、カゼイン、乳タンパク質濃縮物(MPC)、ホエイタンパク質、ホエイタンパク質濃縮物(WPC)、ホエイタンパク質分離物(WPI)、α-ラクトアルブミン、β-ラクトグロブリンおよびラクトフェリンからなる群より選択される、〔51〕又は〔52〕記載の方法。
〔54〕発酵乳由来タンパク質がフレッシュチーズに由来する、〔51〕〜〔53〕のいずれか一項に記載の方法。
〔55〕腸管機能を改善するための組成物の製造における、発酵乳由来タンパク質の使用。
〔56〕腸管機能を改善するための組成物の製造における、タンパク質として乳タンパク質の加水分解物および発酵乳由来タンパク質、および糖質としてイソマルチュロースの使用。
〔57〕乳タンパク質が、カゼイン、乳タンパク質濃縮物(MPC)、ホエイタンパク質、ホエイタンパク質濃縮物(WPC)、ホエイタンパク質分離物(WPI)、α-ラクトアルブミン、β-ラクトグロブリンおよびラクトフェリンからなる群より選択される、〔56〕記載の使用。
〔58〕発酵乳由来タンパク質がフレッシュチーズに由来する、〔55〕〜〔57〕のいずれか一項に記載の使用。
〔59〕小腸の組織障害を予防するための組成物の製造における、発酵乳由来タンパク質の使用。
〔60〕小腸の組織障害を予防するための組成物の製造における、タンパク質として乳タンパク質の加水分解物および発酵乳由来タンパク質、および糖質としてイソマルチュロースを含む組成物の使用。
〔61〕乳タンパク質が、カゼイン、乳タンパク質濃縮物(MPC)、ホエイタンパク質、ホエイタンパク質濃縮物(WPC)、ホエイタンパク質分離物(WPI)、α-ラクトアルブミン、β-ラクトグロブリンおよびラクトフェリンからなる群より選択される、〔60〕記載の使用。
〔62〕発酵乳由来タンパク質がフレッシュチーズに由来する、〔59〕〜〔61〕のいずれか一項に記載の使用。
〔63〕抗炎症組成物の製造における、タンパク質として乳タンパク質の加水分解物および発酵乳由来タンパク質を含む組成物の使用。
〔64〕組成物が糖質としてイソマルチュロースをさらに含む、〔63〕記載の使用。
〔65〕乳タンパク質が、カゼイン、乳タンパク質濃縮物(MPC)、ホエイタンパク質、ホエイタンパク質濃縮物(WPC)、ホエイタンパク質分離物(WPI)、α-ラクトアルブミン、β-ラクトグロブリンおよびラクトフェリンからなる群より選択される、〔63〕又は〔64〕記載の使用。
〔66〕発酵乳由来タンパク質がフレッシュチーズに由来する、〔63〕〜〔65〕のいずれか一項に記載の使用。
〔67〕腸管機能を改善するための方法に使用するための、発酵乳由来タンパク質を含む組成物。
〔68〕腸管機能を改善するための方法に使用するための、タンパク質として乳タンパク質の加水分解物および発酵乳由来タンパク質、および糖質としてイソマルチュロースを含む組成物。
〔69〕乳タンパク質が、カゼイン、乳タンパク質濃縮物(MPC)、ホエイタンパク質、ホエイタンパク質濃縮物(WPC)、ホエイタンパク質分離物(WPI)、α-ラクトアルブミン、β-ラクトグロブリンおよびラクトフェリンからなる群より選択される、〔68〕記載の組成物。
〔70〕発酵乳由来タンパク質がフレッシュチーズに由来する、〔67〕〜〔69〕のいずれか一項に記載の組成物。
〔71〕小腸の組織障害の予防方法に使用するための、発酵乳由来タンパク質を含む組成物。
〔72〕小腸の組織障害の予防方法に使用するための、タンパク質として乳タンパク質の加水分解物および発酵乳由来タンパク質、および糖質としてイソマルチュロースを含む組成物。
〔73〕乳タンパク質が、カゼイン、乳タンパク質濃縮物(MPC)、ホエイタンパク質、ホエイタンパク質濃縮物(WPC)、ホエイタンパク質分離物(WPI)、α-ラクトアルブミン、β-ラクトグロブリンおよびラクトフェリンからなる群より選択される、〔72〕記載の組成物。
〔74〕発酵乳由来タンパク質がフレッシュチーズに由来する、〔71〕〜〔73〕のいずれか一項に記載の組成物。
〔75〕炎症抑制方法に使用するための、タンパク質として乳タンパク質の加水分解物および発酵乳由来タンパク質を含む組成物。
〔76〕さらに糖質としてイソマルチュロースを含む、〔75〕記載の組成物。
〔77〕乳タンパク質が、カゼイン、乳タンパク質濃縮物(MPC)、ホエイタンパク質、ホエイタンパク質濃縮物(WPC)、ホエイタンパク質分離物(WPI)、α-ラクトアルブミン、β-ラクトグロブリンおよびラクトフェリンからなる群より選択される、〔75〕又は〔76〕記載の組成物。
〔78〕発酵乳由来タンパク質がフレッシュチーズに由来する、〔75〕〜〔77〕のいずれか一項に記載の組成物。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、タンパク質として乳タンパク質の加水分解物および発酵乳由来タンパク質、脂質として油脂、および糖質としてイソマルチュロースを含む、小腸の絨毛成長を促進するための組成物を提供する。
【0010】
小腸の絨毛成長は、小腸上皮細胞の増殖を促進する。ひいては、小腸の絨毛成長は、栄養の吸収を促進、または小腸の障害の修復を促進すると考えられる。したがって、本発明の組成物は、例えば、「小腸の絨毛成長剤」、「小腸上皮細胞増殖剤」、「栄養吸収促進剤」、「小腸の障害の修復促進剤」として用いることができる。また、上記本発明の組成物は、健常人の小腸機能改善、栄養不良な高齢者の栄養改善、呼吸、循環、代謝などの重篤な機能不全患者(ICU患者)の腸管機能維持、脳・神経障害を有する嚥下障害患者の栄養補給および腸管機能維持、潰瘍性大腸炎やクローン病などの慢性腸疾患のための腸管機能改善および栄養状態改善、慢性閉塞性肺疾患(COPD)の栄養不良に対する腸管機能改善および栄養状態改善、又は、癌患者等の抗生物質や抗ガン剤などによる腸管障害患者に対する腸管機能改善および栄養状態改善のために用いることができる。
【0011】
本発明は、タンパク質として乳タンパク質の加水分解物および発酵乳由来タンパク質、脂質として油脂、および糖質としてイソマルチュロースを含む、小腸の固有筋層の厚さを増大させるための組成物を提供する。
【0012】
小腸の固有筋層の厚さの増大は、小腸、大腸の蠕動運動を促進すると考えられる。また、小腸の固有筋層の厚さの増大により、整腸作用が促されると考えられる。したがって、本発明の組成物は、例えば、「小腸の固有筋層の厚さの増大剤」、「腸の蠕動運動促進剤」、「整腸剤」として用いることができる。また、上記本発明の組成物は、健常人の小腸機能改善、栄養不良な高齢者の栄養改善、呼吸、循環、代謝などの重篤な機能不全患者(ICU患者)の腸管機能維持、脳・神経障害を有する嚥下障害患者の栄養補給および腸管機能維持、潰瘍性大腸炎やクローン病などの慢性腸疾患のための腸管機能改善および栄養状態改善、慢性閉塞性肺疾患(COPD)の栄養不良に対する腸管機能改善および栄養状態改善、又は、癌患者等の抗生物質や抗ガン剤などによる腸管障害患者に対する腸管機能改善および栄養状態改善のために用いることができる。
【0013】
本発明は、発酵乳由来タンパク質を含む、腸管機能を改善するための組成物を提供する。また、本発明は、タンパク質として乳タンパク質の加水分解物および発酵乳由来タンパク質、脂質として油脂、および糖質としてイソマルチュロースを含む、腸管機能を改善するための組成物を提供する。
【0014】
また、本発明は、タンパク質として乳タンパク質の加水分解物および発酵乳由来タンパク質、および糖質としてイソマルチュロースを含む、腸管機能を改善するための組成物を提供する。
【0015】
腸管機能の改善とは、摂取した栄養の消化吸収の促進および腸管の蠕動運動による老廃物の排泄促進をいう。腸管機能低下により、gut-associated lymphoid tissue(GALT)の脆弱化を含むバリアの破綻が生じ、バクテリアルトランスロケーション(BT)や敗血症などを生じ、生体防御機能低下に繋がる。腸管機能低下は、栄養不良に陥るとともに、生体機能を調節している消化管ホルモンや神経伝達物質の産生・分泌不良をも誘発する。なお、本発明において、「腸」には「小腸」および「大腸」のいずれも含まれる。
したがって、本発明の腸管機能を改善するための組成物は、消化吸収促進作用または整腸作用を有し、例えば、「腸管機能改善剤」、「消化吸収促進剤」、「整腸剤」、「老廃物排泄促進剤」「腸管免疫改善剤」として用いることができる。
腸管免疫とは、腸管でおこる免疫応答のことである。免疫応答とは、免疫学的応答とも呼ばれる。生体に抗原(非自己)が進入すると、生体はこの抗原と特異的に反応する抗体又は特異的免疫機能を持ったリンパ球(感作リンパ球)を産生して多様な生体反応を引き起こす。抗原の侵入に対して起こる一連の生体反応を免疫応答と呼ぶ。
消化管は外界の異物に接しやすい場所なので、小腸を中心とする腸管の周りはリンパ球が取り巻いており、腸管には病原体となる食べ物の中のウィルスや消化酵素で分解された異種たんぱくなどが取り込まれる。腸管はこれらの吸収を阻止するため、生物が最初に進化させた重要な免疫組織である。消化管の機能低下の一つに腸管免疫の低下が挙げられる。腸管免疫の低下は外から侵入してきたウィルスなどの異物(すなわち抗原)や、ガン細胞のような体内で発生した異常な細胞(すなわち抗原)や、老廃物(すなわち抗原)を排除する免疫応答作用が低下する事を意味し、腸管で起こる様々な病気の発症の増加や、治癒の遅延を引き起こす。これらの腸管免疫の低下が引き起こす症状を改善することを腸管免疫改善という。
【0016】
また、上記本発明の組成物は、健常人の小腸機能改善、栄養不良な高齢者の栄養改善、呼吸、循環、代謝などの重篤な機能不全患者(ICU患者)の腸管機能維持、脳・神経障害を有する嚥下障害患者の栄養補給および腸管機能維持、潰瘍性大腸炎やクローン病などの慢性腸疾患のための腸管機能改善および栄養状態改善、慢性閉塞性肺疾患(COPD)の栄養不良に対する腸管機能改善および栄養状態改善、又は、癌患者等の抗生物質や抗ガン剤などによる腸管障害患者に対する腸管機能改善および栄養状態改善のために用いることができる。
【0017】
本発明は、発酵乳由来タンパク質を含む、小腸の組織障害を予防するための組成物を提供する。また、本発明は、タンパク質として乳タンパク質の加水分解物および発酵乳由来タンパク質、脂質として油脂、および糖質としてイソマルチュロースを含む、小腸の組織障害を予防するための組成物を提供する。
【0018】
また、本発明は、タンパク質として乳タンパク質の加水分解物および発酵乳由来タンパク質、および糖質としてイソマルチュロースを含む、小腸の組織障害を予防するための組成物を提供する。
【0019】
小腸の組織障害とは、腸管に癌や潰瘍などができたり、癌患者等の抗生物質や抗ガン剤などの摂取により絨毛や粘膜固有筋層などの組織が破壊されておこる障害である。上記本発明の組成物は、このような小腸の組織障害の予防に用いられる。なお、本願において「障害」なる用語は、「機能が充分に働かないこと」、「外的に傷つけられること」、「傷害」を含む広義に用いられる。
上記本発明の組成物は、絨毛の修復促進作用や粘膜固有筋層の修復促進作用を有し、例えば、「小腸の組織障害の予防剤」、「絨毛の修復促進剤」、「粘膜固有筋層の修復促進剤」として用いることができる。
また、上記本発明の組成物は、潰瘍性大腸炎やクローン病などの慢性腸疾患のための腸管機能改善および栄養状態改善、癌患者等の抗生物質や抗ガン剤などによる腸管障害患者に対する腸管機能改善および栄養状態改善のために、用いることができる。
【0020】
本発明は、タンパク質として乳タンパク質の加水分解物および発酵乳由来タンパク質、脂質として油脂、および糖質としてイソマルチュロースを含む、抗炎症組成物を提供する。
【0021】
また、本発明は、タンパク質として乳タンパク質の加水分解物および発酵乳由来タンパク質を含む、抗炎症組成物を提供する。
【0022】
本発明の抗炎症組成物は、潰瘍性大腸炎やクローン病などの慢性腸疾患に対して抗炎症作用を有する。抗炎症作用とは炎症性サイトカイン産生を抑制する作用のことであり、同時に単球やT細胞の組織浸潤に関与しているMCP-1の産生を抑制することで炎症の持続や進展が抑制される。MCP-1は、別名MCAF(monocyte chemotactic and activating factor)と呼ばれ、単球の走化性因子として見出された。単球に対する作用は走化性の亢進ばかりでなく、ライソゾーム酵素や活性酸素の放出亢進、抗腫瘍活性の増強、IL-1およびIL-6の産生誘導など、単球活性化因子としての役割も明らかになっている。単球以外では、好塩基球による化学伝達物質の遊離促進、T細胞走化性活性がある。MCP-1の産生・分泌は、LPSや炎症性サイトカインの刺激により生体のさまざまな細胞に認められ、単球/マクロファージ、線維芽細胞あるいは血管内皮細胞が代表的である。また、ある種の腫瘍細胞ではMCP-1の(他の刺激因子によらない)恒常的産生が観察されている。これまでの研究成果から、MCP-1は動脈硬化症、遅延型アレルギー、関節リウマチ、あるいは肺疾患といった各種炎症性疾患において単球およびT細胞の組織浸潤に関与すると考えられている。
本発明の抗炎症組成物は、抗炎症作用または組織障害軽減作用を有し、例えば、「抗炎症剤」、「組織障害軽減剤」として用いることができる。
また、上記本発明の組成物は、呼吸、循環、代謝などの重篤な機能不全患者(ICU患者)の腸管機能維持、脳・神経障害を有する嚥下障害患者の栄養補給および腸管機能維持、潰瘍性大腸炎やクローン病などの慢性長疾患のための腸管機能改善および栄養状態改善、慢性閉塞性肺疾患(COPD)の栄養不良に対する腸管機能改善および栄養状態改善、癌患者等の抗生物質や抗ガン剤などによる腸管障害患者に対する腸管機能改善および栄養状態改善のために用いることができる。
【0023】
本発明の上記各組成物に含まれる有効成分について、以下に概説する。
【0024】
本発明の組成物は、タンパク質として乳タンパク質の加水分解物および発酵乳由来タンパク質を含む。
本発明の乳タンパク質の加水分解物としては、カゼイン、乳タンパク質濃縮物(Milk Protein Concentrate: MPC、総乳タンパク質(Total Milk Protein)=TMPともいう)、ホエイ、ホエイタンパク質、ホエイタンパク質濃縮物(Whey Protein Concentrate: WPC)、ホエイタンパク質分離物(Whey Protein Isolate: WPI)、α-ラクトアルブミン(α-La)、β-ラクトグロブリン(β-Lg)およびラクトフェリンの加水分解物が挙げられる。
乳タンパク質の定義、分類、製法については、ジャパンフードサイエンス 1989年7月号p42〜48他、又はミルク総合辞典 1992年1月20日 編者 山内邦男 横山謙吉編集 発行所朝倉書店を参照のこと。
【0025】
カゼインとは、牛乳などの主要タンパク質で、リン酸が共有結合したリンタンパク質の1種である。カゼインは、牛乳中には約3%、人乳中には約0.9%で含まれ、牛乳中ではタンパク質の約80%を占める。
【0026】
一方、ホエイとは、例えば牛乳から脂肪、カゼイン、脂溶性ビタミンなどを除去した際に残留する水溶性成分である。ホエイは一般的に、ナチュラルチーズやレンネットカゼインを製造した際に、副産物として得られるチーズホエイやレンネットホエイ(またはスイート(甘性)ホエイともいう)、脱脂乳から酸カゼインやクワルクを製造した際に得られるカゼインホエイ、クワルクホエイ(またはアシッド(酸)ホエイともいう)のことである。ホエイの主成分は、タンパク質(β−ラクトグロブリン、α−ラクトアルブミンなど)、乳糖、水溶性ビタミン、塩類(ミネラル成分)であり、それぞれの特徴は、ホエイの成分としての研究よりも牛乳の成分としての研究で明らかにされている。
ホエイタンパク質とは、例えば牛乳中で、カゼインを除くタンパク質の総称である。ホエイタンパク質は、β-ラクトグロブリン、α-ラクトアルブミン、ラクトフェリンなどの複数の成分から構成されており、乳糖、ビタミン、ミネラルなどは含まれない。牛乳などの乳原料を酸性に調整した際に、沈殿するタンパク質がカゼイン、沈殿しないタンパク質がホエイタンパク質となる。
「ホエイ関連製品」には、ホエイを濃縮処理した濃縮ホエイ、ホエイを乾燥処理したホエイパウダー、ホエイの主要なタンパク質などを限外濾過(Ultrafiltration:UF)法などで濃縮処理した後に乾燥処理したホエイタンパク質濃縮物(Whey Protein Concentrate:以下、「WPC」ともいう)、ホエイを精密濾過(Microfiltration:MF)法や遠心分離法などで脂肪を除去してからUF法で濃縮処理した後に乾燥処理した脱脂WPC(低脂肪・高タンパク質)、ホエイの主要なタンパク質などをイオン交換樹脂法やゲル濾過法などで選択的に分画処理した後に乾燥処理したホエイタンパク質分離物(Whey Protein Isolate:以下、「WPI」ともいう)、ナノ濾過(Nanofiltration:NF)法や電気透析法などで脱塩処理した後に乾燥処理した脱塩ホエイ、ホエイ由来のミネラル成分を沈殿処理してから遠心分離法などで濃縮処理したミネラル濃縮ホエイなどを挙げられる。これらのうち、乳タンパク質を乾燥重量として(固形分の)15%〜80%で含むWPCは、タンパク質濃縮ホエイパウダーとして、平成10年3月30日に、乳等省令の一部改正により、乳製品に定義された(濃縮ホエイ、ホエイパウダー、WPC、ホエイタンパク質濃縮パウダーについて、乳等省令に規定する製造工程を経たものであれば脱塩工程の有無にかかわらない)。
【0027】
また、脱脂乳をMF法やUF法などで濃縮処理した後に乾燥処理した乳タンパク質濃縮物(Milk Protein Concentrate:以下、「MPC」ともいう)は、WPCやWPIと同様に、乳糖や塩類などが低減されており、カゼインやホエイタンパク質が相対的に増強されている。
なお、濃縮処理には、一般的な装置や方法を用いることができ、例えば真空蒸発缶(エバポレーター)、真空釜、薄膜垂直上昇管状型濃縮機、薄膜垂直下降管状型濃縮機、プレート型濃縮機などを用いて、減圧下で加熱する方法を用いることができる。そして、乾燥処理にも、一般的な装置や方法を用いることができ、例えば噴霧乾燥(スプレードライヤー)法、ドラム乾燥法、凍結真空乾燥(フリーズドライヤー)法、真空(減圧)乾燥法などを用いることができる。
乳タンパク質濃縮物(MPC)の標準的な製造方法は、以下のとおりである。
(1)脱脂乳を膜分離した後に、濃縮する段階。または
(2)脱脂乳を膜分離した後に、濃縮、乾燥する段階。
【0028】
ホエイタンパク質濃縮物(WPC)は、ホエイの主要なタンパク質などを限外濾過(Ultrafiltration:UF)法などで濃縮処理した後に乾燥処理して得られるものである。一般的に、固形分の約25%以上がホエイ(乳清)タンパク質であるものの総称である。ホエイから乳糖や塩類などを低減し、ホエイタンパク質を相対的に増強して、固形分の約25%〜約80%にすることで得られる。特に、乳タンパク質を乾燥重量として15%〜80%で含むWPCは、乳等省令により、タンパク質濃縮ホエイパウダーと定義されている。
ホエイタンパク質濃縮物(WPC)の標準的な製造方法は、以下のとおりである。
(1)ホエイを膜分離した後に、濃縮する段階。または
(2)ホエイを膜分離した後に、濃縮、乾燥する段階。
なお、濃縮処理には、一般的な装置や方法を用いることができ、例えば真空蒸発缶(エバポレーター)、真空釜、薄膜垂直上昇管状型濃縮機、薄膜垂直下降管状型濃縮機、プレート型濃縮機などを用いて、減圧下で加熱する方法を用いることができる。そして、乾燥処理にも、一般的な装置や方法を用いることができ、例えば噴霧乾燥(スプレードライヤー)法、ドラム乾燥法、凍結真空乾燥(フリーズドライヤー)法、真空(減圧)乾燥法などを用いることができる。
【0029】
ホエイタンパク質単離物(WPI)は、ホエイの主要なタンパク質などをイオン交換樹脂法や電気透析法などで濃縮処理した後に乾燥処理して得られるものである。一般的に、固形分の約85%〜約95%がホエイ(乳清)タンパク質であるものの総称である。ホエイから乳糖や塩類などを低減し、ホエイタンパク質を相対的に増強して、固形分の約90%(85%〜95%)にすることで得られる。
ホエイタンパク質濃縮物(WPI)の標準的な製造方法は、以下のとおりである。
(1)ホエイを膜分離又はイオン交換樹脂処理又は電気透析処理した後に、濃縮する段階。または
(2)ホエイを膜分離又はイオン交換樹脂処理又は電気透析処理した後に、濃縮、乾燥する段階。
なお、濃縮処理には、一般的な装置や方法を用いることができ、例えば真空蒸発缶(エバポレーター)、真空釜、薄膜垂直上昇管状型濃縮機、薄膜垂直下降管状型濃縮機、プレート型濃縮機などを用いて、減圧下で加熱する方法を用いることができる。そして、乾燥処理にも、一般的な装置や方法を用いることができ、例えば噴霧乾燥(スプレードライヤー)法、ドラム乾燥法、凍結真空乾燥(フリーズドライヤー)法、真空(減圧)乾燥法などを用いることができる。
【0030】
本発明の乳タンパク質の加水分解物について、ホエイタンパク質の加水分解を例にとると、通常、該タンパク質の加水分解に用いる酵素は、ペプシン、トリプシンおよびキモトリプシンであるが、植物起源のパパイン、バクテリアや菌類由来のプロテアーゼを用いた研究報告(Food Technol., 48: 68-71, 1994;Trends Food Sci. Technol., 7: 120-125, 1996;Food Proteins and Their Applications, pp. 443-472, 1997)もある。ホエイタンパク質を加水分解する酵素活性は大きく変動する。ペプシンはα-Laおよび変性したα-Laを分解するが、未変性の(native)β-Lgを分解しない(Neth. Milk dairy J., 47: 15-22, 1993 )。トリプシンはα-Laをゆっくり加水分解するがβ-Lgはほとんど未分解のままである(Neth. Milk dairy J., 45: 225-240, 1991)。キモトリプシンはα-Laを速く分解するが、β-Lgはゆっくり分解される。パパインはウシ血清アルブミン(BSA)およびβ-Lgを加水分解したが、α-Laは抵抗性がある(Int. Dairy Journal 6: 13-31, 1996a)。しかしながら、Caを結合していないα-Laは酸性のpHでパパインにより完全に分解される(J. Dairy Sci., 76: 311-320, 1993)。
【0031】
乳タンパク質の酵素分解をコントロールして該タンパク質を修飾することにより、広範囲のpHおよびプロセッシング条件にわたって、該タンパク質の機能的特性を変更することができる(Enzyme and Chemical Modification of proteins in Food proteins and their Applications, pp. 393-423, 1997, Marcel Dekker, Inc., New York, 1997 ;Food Technol., 48: 68-71, 1994)。
【0032】
ペプチド結合の加水分解は、荷電基の数および疎水性の増加、低分子量化、および分子の立体配置の修飾をもたらす(J. Dairy Sci., 76: 311-320, 1993)。機能的特性の変化は大きく加水分解度に依存する。ホエイタンパク質の機能性に共通してみられる最も大きな変化は溶解性の増加と粘度の低下である。加水分解度が高い場合、しばしば、加水分解物は加熱しても沈澱せず、pH 3.5〜4.0で溶解性が高い。加水分解物は、また、無処置の(intact)タンパク質よりもはるかに粘度が低い。この差異はとくにタンパク質濃度が高い場合に顕著である。その他の影響は、ゲル特性の変化、熱安定性を高める、乳化および起泡性の増強、乳化および泡の安定性の低下である(Int. Dairy journal, 6: 13-31, 1996a;Dairy Chemistry 4, pp. 347-376, 1989;J. Dairy Sci., 79: 782-790, 1996)。
【0033】
乳タンパク質から派生するさまざまな生理活性オリゴペプチドが知られている(吉川正明「ミルクの先端機能」吉川正明ら編, p 188-195, 弘学出版, 1998;大谷元「ミルクの先端機能」吉川正明ら編, p 97-99, 弘学出版, 1998;大谷元、Milk Science 47: 183, 1998;Trends in Food Science and Technology, 9: 307-319, 1998)。アンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害活性を有するペプチド(血圧降下作用をもつ)もそのうちの一つである。
【0034】
in vitro活性の測定から推定される、ACE阻害活性の可能性のある数多くのペプチドに関する報告がある(例えば、J. Dairy Res., 67: 53-64, 2000;Br. J. Nutr., 84: S33-S37, 2000)。加水分解物から、さまざまなクロマトグラフィー技術を用いて、ACE阻害ペプチドを精製および同定する研究報告がなされている(例えば、Maruyama, S., & Suzuki, H., Agricultural and Biological Chemistry, 46: 1393-1394, 1982;Miyoshi S. et al., Agri. Biol. Chem., 55: 1313-1318, 1991;Food Science and Biotechnology, 8: 172-178, 1999;Biosci. Biotech. Biochem., 57: 922-925, 1993)。
【0035】
これらの報告から、ACE阻害活性は、さまざまな分離原理に基づくカラム操作で得られた数多くのフラクションに存在していると考えられ、これはACE阻害物質の分子特性がかなり多様であることを示している。ACE阻害が、さまざまなタンパク質、プロテアーゼおよび加水分解条件で産生される加水分解物中に見出されるという事実は、多様なアミノ酸配列をもったさまざまなペプチドもまた、ACE阻害活性を有する可能性を示唆している。このようなペプチドの化学的多様性のために、加水分解物のクロマトグラフィーによる精製は、部分的な活性ペプチドの損失を常に伴うこととなろう。加水分解中、ACE阻害活性は連続的に形成され一方で分解される。加水分解物の最大活性はこれら2つのプロセスの最適化の結果である。加水分解物の全体的なペプチド組成は、ACE阻害活性を決定し、それは加水分解酵素の特異性およびプロセス条件に依存する。
【0036】
そこで、必要とする加水分解を最小限にとどめ、ACE阻害活性を最大化すべく、応答曲面法(response surface methodlogy)を用いたホエイタンパク質加水分解の最適化についての報告(International Dairy Journal 12: 813-820, 2002)がなされている。
【0037】
本発明で用いられる乳タンパク質加水分解物は、in vivoにおけるLPS誘導性TNF-αおよびIL-6産生を抑制する作用を有する。そこで、LPS誘導性TNF-α及び/又はIL-6産生の抑制効果を指標に乳タンパク質の加水分解条件(変性温度、pH、温度、加水分解時間および酵素/基質の比)の最適化を上記文献(International Dairy Journal 12: 813-820, 2002)を参考に試みることができる。
【0038】
一方、乳タンパク質加水分解物については、上記に例示した文献に加えて数多くの特許(公開特許および特許)が存在する。例えば、カゼインとホエイタンパク質を別々に加水分解し、疎水性部分を吸着・除去した後、両者を所定割合で混合する特許(日本特許第2,986,764号)、ホエイタンパク質をバチルス属由来のプロテアーゼと放線菌由来のプロテアーゼによって加水分解した後、酵素と不溶性の加水分解物を除去する特許(日本特許第3,222,638号)、β-ラクトグロブリンを酵素で分解して得られる分岐鎖アミノ酸/芳香族アミノ酸のモル比が10重量%以上、芳香族アミノ酸が2.0重量%未満、平均分子量が数百〜数千のペプチド混合物の特許(日本特許第3,183,945号)、ホエイタンパク質中のβ-ラクトグロブリンを選択的に酵素分解する特許(日本特許第2,794,305号)、あるいはホエイタンパク質をB. リシェニホルミス(B. licheniformis)由来のプロテアーゼ及び/又は枯草菌(B. subtilis)由来のプロテアーゼにより、非−pH−スタット法により、15〜30%の加水分解度(DE)まで加水分解し、カットオフ値10,000を超える限外濾過膜の透過液を得る特許(日本特許第3167723号)等をあげることができる。
上記文献や特許の加水分解物が、LPS誘導性TNF-αおよびIL-6産生を抑制する作用を有するかどうかは、公知のアッセイ系(例えば、実験医学別冊、「バイオマニュアルUP実験シリーズ」、サイトカイン実験法、宮島篤、山本雅 編、(株)羊土社、1997)で調べることができる。
【0039】
乳タンパク質加水分解の最適化のための5つのパラメーターとして、例えば、予備加熱、酵素と基質の比(E/S)、pH、加水分解温度、および加水分解時間をとる。
予備加熱:65〜90℃
E/S:0.01〜0.2
pH:2〜10
加水分解温度:30〜65℃
加水分解時間:3〜20時間未満
【0040】
使用酵素としては、例えば、ノボノルディスク社の以下のものがあげられる。
1)エンド型プロテアーゼ
B. リシェニホルミス由来のプロテアーゼ:アルカラーゼ(Alcalase)(登録商標)
B. レントゥス(B. lentus)由来のプロテアーゼ:エスペラーゼ(登録商標)
枯草菌由来のプロテアーゼ:ニュートラーゼ(Neutrase)(登録商標)
バクテリア由来のプロテアーゼ:プロタメックス(登録商標)
豚膵臓トリプシン:PTN(登録商標)
2)エキソ型プロテアーゼ
アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)由来のプロテアーゼ:フレーバーザイム(登録商標)
豚あるいはウシ内臓由来のカルボキシペプチダーゼ
【0041】
上記酵素の他に、動物由来のパンクレアチン、ペプシン、植物由来のパパイン、ブロメライン、微生物由来(例えば、乳酸菌、酵母、カビ、放線菌等)のエンドプロテアーゼおよびエキソプロテアーゼ、これらの粗精製物、菌体破砕物等を例示することができる。また、酵素の組み合わせとしては、B. リシェニホルミス由来のアルカラーゼと豚膵臓由来のPTN(トリプシン)の組み合わせがよく用いられる。
【0042】
ホエイタンパク質加水分解物の調製方法としては、例えば、後述の参考例1に記載の方法が挙げられる。
【0043】
本発明で用いられる乳タンパク質加水分解物は、LPS誘導性TNF-α及び/又はIL-6産生の抑制効果を有する酵素加水分解物そのもの、限外濾過膜処理後の保持液、あるいは透過液(パーミエイト)、さらに同様の活性を有する市販の乳タンパク質の加水分解物を包含する。
【0044】
本発明に用いることのできるホエイタンパク加水分解物は、例えば、以下のものがあげられる。特許第3183945は、加熱変性したホエイタンパク質分離物(WPI)を、エンドペプチダーゼおよびエキソペプチダーゼで加水分解後、この加水分解物中の芳香族アミノ酸をイオン交換樹脂で吸着処理することにより、Fischer比が10以上、分岐鎖アミノ酸が15 %以上、芳香族アミノ酸が2 %未満のホエイタンパク加水分解物(分子量200〜3,000のペプチド混合物)を開示している。
特表平6−50756は、タンパク質含量が少なくとも65 %のホエイタンパク濃縮物(WPC)の12 %水溶液を、60 ℃を超える温度で熱処理後、B. licheniformis由来のアルカラーゼおよびB. subtilis由来のニュートラーゼで15〜35 %のDHまで加水分解し、この加水分解物を、10,000を超えるカットオフ値をもつ限外濾過(Ultrafiltration:UF)後、ナノ濾過(Nanofiltration:NF)で濃縮し、このNF保持液を噴霧乾燥して、無臭で苦味の少ないホエイタンパク加水分解物を開示している。
【0045】
本発明で用いられる乳タンパク質加水分解物は、市販されているものとしては、例えばPeptigen IF-3080、Peptigen IF-3090、Peptigen IF-3091およびLacprodan DI-3065(Arla Foods)、WE80BG(DMV)、Hyprol 3301、Hyprol 8361 およびHyprol 8034(Kerry)、Tatua2016、HMP406(Tatua)、Whey Hydrolysate 7050(Fonterra)、Biozate3(Davisco)などがあげられるが、これらに限定されるものではない。タンパク質加水分解物の調製方法としては、例えば、以下の1)〜5)の工程を含む、ホエイ蛋白加水分解産物の製法が挙げられる。
1)乾燥物として計算された少なくとも65%の蛋白質を含むホエイ蛋白と水を混合して、20%までの蛋白質含量をもつスラリーを作り、
2)60℃を超える温度までの熱処理を行い、
3)工程2)からの混合物を、バチルス・リケニホルミス(B.licheniformis)により作られることができるプロテアーゼにより、そして/又はバチルス・サブチリス(B.subtilis)により作られることができるプロテアーゼにより、非−pH−スタット法により、15と35%との間のDHまで蛋白分解性加水分解し、
4)工程3)からの混合物を、10,000を超えるカットオフ値をもつ限外濾過/マイクロフィルトレーション装置上で、その透過物が蛋白質加水分解産物を構成するように分離し、そして
5)その加水分解を、上記酵素の失活により終了させる
【0046】
好ましくは、上記工程1)におけるスラリーは7〜12%の蛋白質含量をもつ。
【0047】
好ましくは、上記工程2)における熱処理は70と90℃の間で行われる。
【0048】
好ましくは、上記工程3)における加水分解は20〜30%の間のDHまで行われる。
【0049】
好ましくは、上記前記限外濾過/マイクロフィルトレーション装置のカットオフ値は、50,000を超える。
【0050】
好ましくは、上記工程3)又は工程5)の終りにおける混合物は、乾燥物含量に関して計算された、1と5%の間の炭素に対応する量で、好ましくは50と70℃の間の温度において、5分間より長い間、活性炭により処理され、そしてその活性炭が除去される。
【0051】
好ましくは、上記工程5)の後、濃縮が、好ましくは50と70℃の間の温度において、ナノフィルトレーション/ハイパーフィルトレーション/逆浸透、及び/又は蒸発により行われ、その後、その保持物がその蛋白質加水分解産物溶液として回収される。
【0052】
好ましくは、上記工程5)からの蛋白質加水分解産物溶液は、6.5%より低い水分含量までスプレードライされる。
【0053】
従って、ホエイ蛋白加水分解産物の製造のための方法は、
1)乾燥物として計算された少なくとも65%の蛋白質を含むホエイ蛋白と水とを混合し、約20%までの、好ましくは12%までの蛋白質含有量をもつスラリーを作り、
2)60℃を超える温度までの熱処理を行い、
3)段階2)からの混合物を、バチルス・リケニホルミス(B.licheniformis)により作られることができるプロテアーゼ、好ましくはAlcalase(登録商標)により、及び/又はバチルス・サブチリス(B.subtilis)により作られることができるプロテアーゼ、好ましくはNeutrase(登録商標)により、非−pH−スタット法により、15と35%との間のDHまで蛋白分解性加水分解し、
4)段階3)からの混合物を、10,000を超えるカットオフ値をもつ限外濾過/マイクロフィルトレーション装置上で、その透過物が上記蛋白質加水分解産物を構成するように分離し、そして、
5)その加水分解を、上記酵素の不活性化により終了させること、
を特徴とする。
【0054】
ホエイタンパク加水分解物(IF−3090)のアミノ酸組成を表1に示す。
【0056】
乳タンパク質加水分解物の配合量は、組成物全体に対して、たとえば0.1〜22%、通常4.1〜14.0%、好ましくは5.5〜10.0%の割合で配合することができる。または、組成物100ml当たり0.9〜3g好ましくは1.2〜2g配合することができる。
【0057】
本発明で用いられる発酵乳由来タンパク質の配合原料としては、例えば、発酵乳(ヨーグルト)から水分(ホエイ)を減少させたもの(例えば、日本特許第3,179,555号)を挙げることができる。発酵乳(ヨーグルト)由来タンパク質は、アミノ酸スコアが100で、発酵によりタンパク質の消化吸収性が高められており栄養価が高い。
【0058】
または、本発明で用いられる発酵乳由来タンパク質としては、好ましくは、フレッシュチーズ(非熟成チーズ)由来のタンパク質が挙げられる。フレッシュチーズ由来のタンパク質は、タンパク質としてはカゼインを主成分として、α-ラクトアルブミンやβ-ラクトグロブリンを含むホエイタンパク質、また乳タンパク質の一部がアミノ酸やペプチドに分解されている成分を含んでいることを特徴としている。フレッシュチーズはカッテージ、クワルク(Quark)、ストリング、ヌーシャテル、クリームチーズ、モツァレラ、リコッタ、マスカルポーネなど多くの種類があり、本発明においては、好ましくは、クワルクが用いられる。クワルクの製造方法は公知(例えば、特開平6-228013)である。クワルクは、脂肪含量が低く、さわやかなフレーバーと酸味が特徴である。
【0059】
非熟成チーズの一般的な製造法を以下に説明する。まず、原料乳から凝乳を製造する。原料乳にスターターを接種して培養後、更にレンネットを添加して凝乳(カード)とする。凝乳の製造に先立って、必要に応じて、原料乳を前処理することができる。たとえば製造ロット間の品質差を小さくするために、多種類の乳原料を混合して品質を調節することができる。このような処理を標準化と言う。更に乳中の脂肪球を機械的に破壊する均質化(homogenize)処理を加えることもできる。あるいは、乳原料に混入した微生物を除くために、遠心除菌や加熱処理を施すこともできる。
【0060】
得られた凝乳(カード)から乳清(ホエイ)を分離して得られる固形分が非熟成チーズ(フレッシュチーズ)である。遠心分離や膜分離によって凝乳からホエイを分離する方法が公知である。たとえば、クワルクセパレーター等の遠心分離機がホエイの分離に利用されている。あるいは必要に応じて予め凝乳を切断や加温することによって分離プロセスを効率化することもできる。
【0061】
より具体的には、次のような原料と工程によって得ることができるフレッシュチーズは、本発明における乳発酵成分として好ましい。以下の工程中、発酵には、主にLactobacillus bulgaricusおよび/またはStreptococcus thermophilusを用いることができる。
ウシ脱脂乳を加熱殺菌する;
乳酸菌スターターを0.5〜5%接種して発酵を開始する;
pHが4.6に達して形成されるカードからホエイを分離する;
ホエイを分離したカードを冷却して非熟成チーズを得る
こうして製造することができる非熟成チーズは、一般にクワルク(Quark)と呼ばれることもある。非熟成チーズの組成の一例は、次のとおりである。
全固形分17〜19%、
タンパク質11〜13%、
脂肪1%以上、
炭水化物2〜8%、
乳糖2%以上
【0062】
発酵乳由来タンパク質の配合量は、組成物全体に対して、たとえば0.1〜30%、通常8.0〜23.0%、好ましくは10.0〜18.0%の割合で配合することができる。または、組成物100ml当たり2〜6g好ましくは2.5〜4.5g配合することができる。または、本発明の組成物全体に含まれる発酵乳由来タンパク質は、組成物全体のタンパク質量に対して約0.1〜約90%、好ましくは約1〜約80%、さらに好ましくは約30〜約70%とすることができる。
【0063】
本発明の組成物は、脂質として油脂を含む。
本発明の組成物は、好ましくはn-3系脂肪酸を脂質として含む。本発明の組成物に含まれるn-3系脂肪酸としては、EPA、DHA、α−リノレン酸、DPAなどが挙げられ、好ましくはEPA、DHA、又は/及びα−リノレン酸、より好ましくはEPA又は/及びDHAである。n-3系脂肪酸を含む油脂としては、シソ油、アマニ油、エゴマ油、魚油、菜種油、大豆油、サラダ油、フラックス油などが挙げられる。本発明においては、これらn-3系脂肪酸を直接含んでもよいし、魚油などの油脂の形態で含んでもよい。
また、本発明の組成物は、好ましくは中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT:medium-chain triglyceride)を脂質として含む。MCTは体内で速やかに吸収されエネルギーになりやすく、体に脂肪が付きにくいという特徴を有する。MCTを含む油脂としては、パーム油、パーム核油、中鎖脂肪酸含有油脂などが挙げられる。本発明においては、MCTを直接含んでもよいし、パーム核油などの油脂の形態で含んでもよい。
したがって、本発明の組成物には、タンパク質として乳タンパク質の加水分解物および発酵乳由来タンパク質、脂質として中鎖脂肪酸トリグリセリド、EPA、及び/又はDHA、および糖質としてイソマルチュロースを含む、組成物が含まれる。
【0064】
また、本発明の組成物は、オレイン酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、リノール酸、ステアリン酸、リノレン酸、アラキドン酸などの脂肪酸、好ましくはオレイン酸を脂質として含んでよい。これらの脂肪酸を含む油脂としては、例えば、高オレイン酸のハイオレイックヒマワリ油、ナタネ油、オリーブ油、高オレイン酸ベニバナ油、大豆油、コーン油、パーム油などが挙げられる。ヒマワリ油、ナタネ油、オリーブ油、およびオリーブ油との混合物も用いることができる。リノール酸、アラキドン酸、γ―リノレン酸などはn-6系脂肪酸である。n-6系脂肪酸を含む油脂としては、サフラワー油、ひまわり油、大豆油、アマニ油、トウモロコシ油、ラッカセイ油などが挙げられる。
【0065】
n-3系脂肪酸とn-6系脂肪酸の比は、n-3系脂肪酸1に対して、n-6系脂肪酸が、例えば5以下、通常0.5以上4.0以下、好ましくは1.0以上4.0以下、より好ましくはn-3系脂肪酸:n-6系脂肪酸=1:2の割合である。
n-3系脂肪酸の配合量は、組成物全体に対して、たとえば0.01〜10%、通常0.05〜7%、好ましくは0.1〜5%の割合で配合することができる。または、組成物100ml当たり0.05〜2.2g好ましくは0.1〜1.0g配合することができる。
MCTの配合量は組成物全体に対して、たとえば0.01〜14.5%、通常0.01〜8.0%、好ましくは2.0〜4.0%の割合で配合することができる。または、組成物100ml当たり0.01〜2.0g好ましくは0.5〜1.0g配合することができる。
オレイン酸含有油脂の配合量は、組成物全体に対して、たとえば0.1〜14.5%、通常2.0〜10.0%、好ましくは4.0〜8.0%の割合で配合することができる。または、組成物100ml当たり0.5〜2.0g好ましくは1.0〜1.8g配合することができる。
【0066】
また、本発明の組成物は、ミルクレシチンや大豆レシチンを脂質として含んでもよい。
ミルクレシチンと大豆レシチンはそれぞれ単独でもよく、また組み合わせてもよい。
【0067】
ミルクレシチンは、スフィンゴミエリン(SM)、ホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルイノシトール(PI)、ホスファチジルセリン(PS)、リゾホスファチジルコリン(LPC)からなり、乳脂肪球皮膜(MFGM)のみに局在している。MFGMリン脂質画分の成分組成を表2(乳業技術 Bulletin of Japan Dairy Technical Association, Vol. 50:pp. 58-91, 2000)に示す。
【0069】
なお、レシチンという用語は、生化学、医学、薬学などの分野ではホスファチジルコリンだけに使用しているが、商業的あるいは工業的には、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジン酸および他のリン脂質の混合物の総称として使われている。食品添加物公定書第7版(1999)では、レシチンは、「油糧種子又は動物原料から得られたもので、その主成分は、リン脂質である」、と定義されている。本発明では乳由来のリン脂質も一括して「ミルクレシチン」と称する。
【0070】
ミルクレシチンの特徴は、表2に示すように、大豆レシチンには含まれないSMを多量に含むことである。ミルクレシチンはラットに投与した場合、大豆レシチンに比較して脳および肝臓内のDHA含量を高めること、また、大豆レシチンあるいは卵黄レシチンに比較して高脂血症や脂肪肝の改善に有効であること、が知られている。また、SMがコレステロールの生合成に関与しているHMG-CoAリダクターゼ活性を調節すること、コレステロールの腸管での吸収の調節に関与していることなど、SMがコレステロール代謝に関与していることが知られている。これらのことから、SMがPCやPEの脂質代謝改善効果をさらに高めていると考えられる(佐々木一、Milk Science 51(2): 93-94, 2002)。
【0071】
MFGMを多く含むものとして、限外濾過(ultrafiltration:UF)および精密濾過(microfiltration:MF)の組み合わせで製造されるWPIの副産物(MF保持液)の凍結乾燥物、クリームあるいはバターから無水乳脂肪(anhydrous milk fat:AMF )を除いた画分(バターゼラム)、ホエイクリームからAMFを除いた画分(ホエイクリームゼラム)などがあげられる。これらを原料としてリン脂質濃縮物を得る方法は公知である(例えば特開平7-173182が本発明に包含される)。
【0072】
大豆レシチンは天然の食品添加物として、食品分野で広く使われる一方、ポリエンホスファチジルコリンは医薬品(適応:慢性肝疾患における肝機能の改善、脂肪肝、高脂質血症)としても使われている。大豆レシチンの生理作用として、(1) 生体膜の形態と機能の調整、(2) 肺機能改善、(3) 動脈硬化症の改善、(4) 脂質代謝の改善、(5) 肝臓脂質代謝の改善および(6)神経機能の改善・向上、があげられている(食品と開発, Vol. 29(3):18-21, 1994 )。
【0073】
いわゆる「天然系」の一連のレシチン製品に関しては、通常、製品中のPC含量によって序列されている。レシチンの用途に応じてグレートアップした各種のレシチンが製造されている。大豆レシチンの精製、分画による主なPC含量の違いにより、大豆レシチン製品は便宜的に表3のように分類されている(藤川琢馬、油化学 第40巻(10), pp.951-p58, 1991 )。
【0075】
本発明の組成物は、糖質としてイソマルチュロース(パラチノース(登録商標))を含む。イソマルチュロースはCAS Registry 番号13718-94-0、化学式C
12H
22O
11で示される物質である。
イソマルチュロースは、還元イソマルチュロース、パラチノースシロップ(登録商標)、あるいはイソマルチュロース水飴などを含む。イソマルチュロース水飴は、イソマルチュロースの脱水縮合によって生じる四糖、六糖、八糖等のオリゴ糖を主成分とする水飴状の液状物である。イソマルチュロースはショ糖と同様にグルコースとフルクトースに消化されて吸収される(合田敏尚ら、日本栄養・食糧学会誌, Vol. 36(3): 169-173, 1983)が、その加水分解速度がショ糖の1/5と遅い(Tsuji, Y. et al., J. Nutr. Sci. Vitaminol., 32: 93-100, 1986)ために、摂取後の血中グルコースおよびインスリン濃度を一定レベルに長時間維持する(Kawai, K. et al., Endocrinol, Japan, 32(6): 933-936, 1985)。
【0076】
イソマルチュロースの配合量は、組成物全体に対して、たとえば、10〜70%、通常15〜60%、好ましくは20〜35%の割合で配合することができる。または、組成物100ml当たり4〜13g好ましくは5〜8g配合することができる。
【0077】
本発明の組成物は、小腸の絨毛成長を促進、小腸の固有筋層の厚さを増大、腸管機能を改善、小腸の組織障害を予防、または各種の炎症を抑制するために、対象に対して投与することを一つの目的として使用される。
本発明において、「対象」とは、特に限定されるものではないが、動物(例えば、ヒト、家畜動物種、野生動物)を含む。「対象」は、必ずしも疾患を有する者である必要はなく、例えば、本発明の組成物は、健康なヒトを投与対象とすることもありうる。
本発明において、「投与する」とは、経口的、あるいは非経口的に投与することが含まれ、その投与形態は医薬品又は飲食品のいずれでもよい。
【0078】
すなわち、本発明の組成物は、医薬組成物、栄養医薬組成物、医薬品、薬剤、飲食組成物、飲食品、栄養組成物、特別用途食品、栄養機能食品、健康食品、医薬品添加物、食品添加物等のいずれの形態でも利用することができる。例えば、本発明の組成物を、栄養バランスのとれた健常人のための小腸機能改善食品、栄養不良な高齢者の栄養改善食品、呼吸、循環、代謝などの重篤な機能不全患者(ICU患者)の腸管機能維持食品、脳・神経障害を有する嚥下障害患者の栄養補給および腸管機能維持食品、潰瘍性大腸炎やクローン病などの慢性長疾患のための腸管機能改善および栄養状態改善食品、慢性閉塞性肺疾患(COPD)の栄養不良に対する腸管機能改善および栄養状態改善食品、または、癌患者等の抗生物質や抗ガン剤などによる腸管障害患者に対する腸管機能改善および栄養状態改善食品として利用することもできる。
【0079】
または、本発明の医薬組成物、栄養医薬組成物、医薬品、薬剤を、飲食組成物、飲食品、栄養組成物、特別用途食品、栄養機能食品、健康食品等に含有して利用することができる。例えば、本発明の医薬組成物、栄養医薬組成物、医薬品、薬剤を、栄養バランスのとれた健常人のための小腸機能改善食品、栄養不良な高齢者の栄養改善食品、呼吸、循環、代謝などの重篤な機能不全患者(ICU患者)の腸管機能維持食品、脳・神経障害を有する嚥下障害患者の栄養補給および腸管機能維持食品、潰瘍性大腸炎やクローン病などの慢性長疾患のための腸管機能改善および栄養状態改善食品、慢性閉塞性肺疾患(COPD)の栄養不良に対する腸管機能改善および栄養状態改善食品、または、癌患者等の抗生物質や抗ガン剤などによる腸管障害患者に対する腸管機能改善および栄養状態改善食品に含有して利用することもできる。
【0080】
例えば、医薬品として直接投与することにより、又は特定保健用食品等の特別用途食品や栄養機能食品として直接摂取することにより、対象において、小腸の絨毛成長を促進、小腸の固有筋層の厚さを増大、腸管機能を改善、小腸の組織障害を予防、または各種の炎症を抑制することが期待される。
【0081】
本発明の組成物を医薬品として使用する場合には、種々の形態で投与することができる。その形態として、例えば、経腸栄養剤、液剤等による経鼻チューブ、胃瘻、腸瘻などによる経腸または経口投与を挙げることができるが、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤等の製剤に加工する投与形態であってもよい。これらの各種製剤は、常法に従って主剤に賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、矯臭剤、溶解補助剤、懸濁剤、コーティング剤、溶剤、等張化剤などの医薬の製剤技術分野において通常使用し得る既知の補助剤を用いて製剤化することができる。また、適当量のカルシウムを含んでいてもよい。さらに適当量のビタミン、ミネラル、有機酸、糖類、アミノ酸、ペプチド類などを添加してもよい。
【0082】
本発明の組成物を、医薬品の形態で使用する場合、経口的または経腸的に投与することができる。例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤等の経口投与や、経鼻チューブ、胃瘻、腸瘻などによる経腸投与を選択することができ、患者の年齢、症状により適宜投与方法を選択することができる。有効投与量は、一回につき体重1kgあたり0.1mgから1500mgの範囲で選ばれる。あるいは、患者あたり5mg〜75g、好ましくは100mg〜50gの投与量を選ぶことができる。好ましい投与量、投与方法は、具体的な例としては、1回につき体重1kgあたり0.1mgから1500mg、より好ましくは2mgから1000mgを1日に1回〜3回、1ヶ月間(4週間)、食事の前あるいは後に投与する方法などである。投与回数は、投与後状態の観察および血液検査値の動向を観察しながら、状態に応じた回数に調整する。
【0083】
本発明の組成物を飲食品として使用する場合、液状、ペースト状、固形、粉末等の形態を問わず、各種飲食品に添加して、食品として摂取することもできる。飲食品としては、牛乳、清涼飲料、発酵乳、ヨーグルト、チーズ、パン、ビスケット、クラッカー、ピッツァクラスト、調製粉乳、流動食、病者用食品、栄養食品、冷凍食品、食品組成物、加工食品その他の市販食品等を例示することができる。本発明の組成物を飲食品として使用する場合、直接使用できる形態であることが好ましい。この形態で組成物は、経管で鼻−胃、空腸を経て、また、経口摂取することができる。このような組成物は、各種形態、例えば、果実ジュース型飲料、乳シェーク型飲料などであってもよい。また、組成物は、使用前に再構成できる可溶性粉末であってもよい。
【0084】
組成物の浸透圧は約300〜1000 mOsm/l、例えば約300〜750 mOsm/lの浸透圧を有することができる。室温で測定する場合、組成物の粘度は、約5〜40 cp(1 cp = 0.001 Pa・s)、好ましくは20未満である。
組成物のカロリーは、約1〜2 kcal/ml、好ましくは、1〜1.5 kcal/mlである。
【0085】
本発明の組成物を飲食品として使用する場合、更に、付加的な栄養素を配合することによって、その栄養学的な組成を調節することができる。本発明における付加的な栄養素には、水、タンパク質、糖質、脂質、アミノ酸、食物繊維、ビタミン類、ミネラル類、有機酸、有機塩基、果汁、フレーバー類、人工甘味料(例えばアスパルテームなど)等を使用することができる。
【0086】
また、便臭低減効果のあるシャンピニオンエキスを5 mg〜500 mg(0.005%〜0.5%)、栄養強化の目的でカロチノイド製剤(例えば、α-カロチン、 β-カロチン、リコピン、ルテインなどを含む)を10μg〜200μg (0.00001%〜0.0002%)含ませることもできる。
【0087】
さらにまた、抗酸化剤として、カテキン、ポリフェノールなどを含ませることもできる。
【0088】
さらには、脂質代謝亢進等の目的で、カルニチンを含ませることもできる。カルニチンとはリジンとメチオニンから肝臓や腎臓で作られる生体微量成分である。年齢とともにその生成量は低下することが知られている。L-カルニチンは、筋肉細胞へ長鎖脂肪酸の受け渡しなど栄養成分の代謝に重要な働きをする。
【0089】
糖質としては、上記のイソマルチュロースに加えて、その他複数の糖質が挙げられる。イソマルチュロース以外の糖質としては、ショ糖、ブドウ糖、果糖、ハチミツなどを使用する。その他、デキストリン、難消化性デキストリンがあげられる。
【0090】
食物繊維は水溶性食物繊維と不溶性食物繊維とに分けられ、両者のいずれを用いることもできる。
水溶性食物繊維としては、難消化性オリゴ糖のラクツロース、ラクチトール、あるいはラフィノースを用いることができる。難消化性オリゴ糖の生理機能としては、未消化物のまま大腸に到達し、腸内ビフィズス菌の活性化および増殖に寄与し、腸内環境の改善すなわち整腸効果を有することが知られている。ラクツロースは、ガラクトースとフルクトースからなる合成二糖類であり、高アンモニア血症用に対する基本的な薬剤として使用される(Bircher, J. et al., Lancet i: 890, 1965 )。慢性肝不全による慢性再発型肝性脳症は、ラクツロースの投与、肝不全用特殊アミノ酸輸液(Fischer液)などに対してよく反応する。第二世代のラクツロースというべきラクチトール(β-galactosyl-sorbitol)の慢性肝性脳症に対する臨床効果はラクツロースと同程度であり(Lanthier, PL. and Morgan, M., Gut, 26: 415, 1985; Uribe, M., et al., Dig. Dis. Sci., 32: 1345, 1987; Heredia, D. et al., J. Hepatol, 7: 106, 1988; Riggio, O., et al., Dig. Dis. Sci., 34: 823, 1989)、現在高アンモニア血症治療剤として用いられている。
【0091】
その他の水溶性食物繊維の候補として、脂質代謝改善作用(コレステロールや中性脂肪の低下)を有するペクチン(プロトペクチン、ペクチニン酸、ペクチン酸)、グアーガム・酵素分解物、タマリンドシードガムなどがあげられる。グアーガム分解物には血糖値上昇抑制作用およびインスリン節約効果もみられる(大和谷一彦ら、日本栄養・食糧学会誌, 46: 199, 1993 )。さらに、水溶性食物繊維の候補として、高分子水溶性食物繊維では、こんにゃくグルコマンナン、アルギン酸、低分子アルギン酸、サイリウム、アラビアガム、海藻多糖類(セルロース、リグニン様物質、寒天、カラギーナン、アルギン酸、フコダイン、ラミナリン)、微生物ガム(ウエランガム、カードラン、キサンタンガム、ジェランガム、デキストラン、プルラン、ラムザンガム)、その他のガム(種子由来のローカストビーンガム、タマリンドガム、タラガム、樹液由来のカラヤガム、トラガントガム)など、低分子水溶性食物繊維のポリデキストロース、難消化性デキストリン、マルチトールなどがあげられる。
【0092】
不溶性食物繊維は、大腸での不消化物のカサを増やし、通過時間を短縮する。その結果排便回数が増し、便量の増加をもたらす。不溶性食物繊維の候補として、セルロース、ヘミセルロース、リグニン、キチン、キトサン、大豆食物繊維、小麦ふすま、パインファイバー、コーンファイバー、ビートファイバーなどがあげられる。
【0093】
ビタミン類としては、例えば、ビタミンA、カロチン類、ビタミンB群、ビタミンC、ビタミンD群、ビタミンE、ビタミンK群、ビタミンP、ビタミンQ、ナイアシン、ニコチン酸、パントテン酸、ビオチン、イノシトール、コリン、葉酸などを用いることができる。
現在ビタミンは13種類が知られている。そのうち肝臓に深いかかわりをもつことが知られているのは、ビタミンA、B群(B1、B2、ニコチン酸、B6、パントテン酸、葉酸、B12、ビオチン)およびKである。肝障害との関連においては、Aの欠乏症と過剰症、B群の欠乏症、Kの過剰症が主として問題になる。
【0094】
ビタミンAは閉塞性黄疸などで腸管内に胆汁が不足すると吸収率が低下し欠乏が起こる。また、タンパク質低栄養状態では、レチノール結合タンパク質(RBP)の生成が低下するためビタミンAが目標器官に輸送されず、欠乏症状が発現する。非代償性肝硬変などの場合は比較的少量でビタミンAの過剰による中毒症状が発現する。慢性肝疾患ではビタミンB群の利用障害がみられる。ビタミンKは腸内細菌が合成したものも利用されるので、通常、欠乏症はみられないが、閉塞性黄疸などで腸管内に胆汁が不足すると吸収率が低下する。
【0095】
ミネラル類としては、例えば、カルシウム、カリウム、マグネシウム、ナトリウム、銅、鉄、マンガン、亜鉛、セレンなどが挙げられる。有機酸としては、例えば、リンゴ酸、クエン酸、乳酸、酒石酸などを用いることができる。
体液管理を行う場合に通常問題となる電解質は、ナトリウム、塩素、カリウム、リン、カルシウムおよびマグネシウムである。ミネラルの処方を組み立てる際には、(1) 細胞内に取り込まれるミネラルが十分に配分されているか、(2) 患者の内分泌環境が、投与しようとしている栄養基質の量と種類に十分対応できるか、(3) 腎に対する浸透圧物質負荷量の推測と適正な尿浸透圧を維持するための投与水分量はどうか、の3点に配慮する。
鉄、または天然物由来の微量元素、例えばミネラル酵母の銅、亜鉛、セレン、マンガン、クロムなどが含まれる。グルコン酸銅、グルコン亜鉛なども使用可能である。
【0096】
有機酸としては、例えば、リンゴ酸、クエン酸、乳酸、酒石酸などが挙げられる。
【0097】
これらの付加的な栄養素は、化学的に合成したものや、天然物由来の成分のいずれをも利用することができる。あるいは目的とする成分を含む食品を原材料として配合することもできる。これらの成分は、少なくとも1つ、あるいは2種以上を組み合わせて配合することができる。組成物の形態としては、固体でも液体でもかまわない。またゲル状あるいは半固形などとすることもできる。
【0098】
本発明の組成物は、流動食や経腸栄養剤の分野で公知の方法により製造できる。例えば、液状の組成物を予め加熱滅菌してから、無菌的に容器へ充填する方法(例えば、UHT殺菌法とアセプティック包装法を併用した方法)や、液状の組成物を容器へ充填してから、容器とともに加熱滅菌する方法(例えば、レトルト法、オートクレーブ法)などを採用できる。すなわち、組成物の使用形態が液状の場合、当該組成物に基づく均質化物(殺菌液を均質化したもの)を、必要に応じて再度、約120〜145℃、約1〜10秒間で加熱殺菌した後に冷却してから無菌充填するか、缶容器やソフトバックへ充填してからレトルト殺菌する。そして、組成物の使用形態が粉末の場合、当該均質化物を、例えば噴霧乾燥や凍結乾燥する。
【0099】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明は、以下に述べる個々の形態には限定されない。本発明では、ホエイタンパク質を調合(添加・混合)する際には加温して調合し、例えば、当該調合液の温度(調合温度)を、55℃以下とする。調合温度を70℃などの高温とすると、タンパク質が凝固(カード化)してしまうし、調合温度を2℃などの低温とすると、タンパク質が水などへ溶解又は分散しにくくなるからである。そのため、調合工程として、好ましくは温度を5〜55℃、より好ましくは40〜55℃、さらに好ましくは40〜53℃、特に好ましくは40〜50℃である。なお、この時、調合液における細菌(汚染菌など)の増殖を考慮しながら、適切な調合時間を採用することが好ましい。
【0100】
さらに本発明では、調合液を高温殺菌した後に均質化する。高温殺菌(加熱)ではタンパク質が変性して、粘度が増加(増粘)することもあるが、高温殺菌した後に均質化することで、この増粘の程度を低減できるからである。ここで、高温殺菌した後に均質化するとは、高温殺菌した後に、容器などへ充填して製品とする前に均質化することであり、その回数は1回に限らず、2回以上の複数であっても良い。例えば、調合液を殺菌した後に、そのまま2回目にも殺菌した場合には、この2回目に殺菌した後にも均質化することとなる。また、調合液を殺菌した後に均質化し、さらに2回目にも殺菌した場合には、この2回目に殺菌した後にも改めて2回目で均質化することとなる。そして、調合液を殺菌した後に均質化し、殺菌せずに改めて2回目で均質化しても良いこととなる。すなわち、本発明では、調合液を高温殺菌した後には、容器などへ充填して製品とする前までに1回でも均質化することが重要である。
【0101】
一方、高温殺菌した調合液(殺菌液)を均質化した後であっても、殺菌液が増粘しない程度であれば、再び殺菌しても良い。例えば、調合液を殺菌した後に均質化し、高温殺菌せずに改めて2回目に殺菌しても良いこととなる。この時、高温殺菌工程として、例えば、温度を100〜150℃、保持時間を1〜30秒間、好ましくは115〜145℃、1〜20秒間、より好ましくは120〜145℃、1〜10秒間、さらに好ましくは125〜140℃、1〜5秒間に相当する熱履歴である。高温殺菌すると、タンパク質が変性して殺菌液が増粘しやすいが、高温殺菌しなければ増粘しにくいため、均質化で増粘の程度を低減する効果は、高温殺菌で特に発揮されることとなる。
【0102】
また、高温殺菌する際などに、調合液へ圧力を調整(加圧や減圧)しても良い。この時、通常では調合液の沸騰を防止するなどの目的から、例えば、殺菌圧力を1〜10kg/cm
2程度とする。つまり、本発明の高温殺菌では、温度(加熱)に加えて、このような圧力を加えても良い。そして、高温殺菌する装置として、例えば、プレート式熱交換器、チューブ式熱交換器、スチームインジェクション式殺菌機、スチームインフュージョン式殺菌機、通電加熱式殺菌機などがある。一方、均質化する際に、ホモジナイザーを使用して、例えば、温度を10〜60℃程度、流量を100〜10000L/h程度に設定すると、圧力を10〜100MPa、好ましくは20〜80MPa、より好ましくは30〜70MPa、さらに好ましくは20〜50MPaとなる。また、必要であれば、高温殺菌や均質化などの操作条件を変えて、複数回で処理しても良い。
【0103】
以下、本発明について、さらなる詳細な例を挙げて説明するが、本発明は、これらにより限定されるものではない。調合工程では、前記した温度の温水をタンク内で撹拌しておき、そこへビタミンミックス(ビタミンの混合成分)以外の原料を混合・拡散しやすさを考慮して順次、添加・混合・撹拌して、調合液とした。原料を混合・拡散させやすい投入順序は、原料の量や特性により異なり、一度にあるいは分割して様々な順序で投入するが、例えば、糖、タンパク質、油脂、ミネラルの順で投入する方法がある。またもう一つの例としては、一部の糖、タンパク質、その他の糖類、ミネラル、油脂の順で投入する方法がある。さらにもう一つの例としては、油脂、タンパク質、糖、ミネラルの順で投入する方法がある。この調合液を、スチームインジェクション式で加熱殺菌した後に、ホモゲナイザーで均質化(二段階の圧力で均質化)して、殺菌液とした。この殺菌液へビタミンミックス(ビタミンの混合成分)、フレーバー(香料)などを添加・混合して、最終の殺菌液とした。この最終の殺菌液を、さらにスチームインフュージョン式で加熱殺菌(二段階殺菌)した後に、ホモゲナイザーで均質化(二段階の圧力で均質化)して組成物を得た。
【0104】
小腸の絨毛成長を促進、小腸の固有筋層の厚さを増大、腸管機能を改善、小腸の組織障害を予防、または各種の炎症を治療するためには、症状、体重などによって異なるが、例えば、飲食品として投与(摂取)する場合、投与量は、一般的には一日あたり固形分含量で約0.05g〜約1000g、好ましくは約0.05g〜約250g、さらに好ましくは約2.5g〜約50gである。本発明の組成物の投与を必要とする対象に、一度にまたは分割して、食前、食事後、食間および/または就寝前に適宜投与することができる。投与量は、個別に、投与される者の年齢、体重、および投与目的に応じて適宜調節することができる。また、食事の代わりに本発明の組成物を用いることもできるし、食事の補助としても利用できる。
【0105】
本発明の組成物を酸性の医薬品や飲食品の形態とした場合、そのpHはpH2.0〜pH6.0、好ましくはpH3.0〜pH5.0とすることができる。
【0106】
また、上述の本発明の組成物の用途は、以下(1)〜(30)のように表現することもできる。
(1)タンパク質として乳タンパク質の加水分解物および発酵乳由来タンパク質、脂質として油脂、および糖質としてイソマルチュロースを含む組成物を投与する工程を含む、小腸の絨毛成長の促進方法。
(2)タンパク質として乳タンパク質の加水分解物および発酵乳由来タンパク質、脂質として油脂、および糖質としてイソマルチュロースを含む組成物を投与する工程を含む、小腸の固有筋層の厚さを増大させる方法。
(3)タンパク質として乳タンパク質の加水分解物および発酵乳由来タンパク質、脂質として油脂、および糖質としてイソマルチュロースを含む組成物を投与する工程を含む、腸管機能改善方法。
(4)タンパク質として乳タンパク質の加水分解物および発酵乳由来タンパク質、脂質として油脂、および糖質としてイソマルチュロースを含む組成物を投与する工程を含む、小腸の組織障害の予防方法。
(5)タンパク質として乳タンパク質の加水分解物および発酵乳由来タンパク質、脂質として油脂、および糖質としてイソマルチュロースを含む組成物を投与する工程を含む、炎症抑制方法。
(6)小腸の絨毛成長を促進するための組成物の製造における、タンパク質として乳タンパク質の加水分解物および発酵乳由来タンパク質、脂質として油脂、および糖質としてイソマルチュロースを含む組成物の使用。
(7)小腸の固有筋層の厚さを増大させるための組成物の製造における、タンパク質として乳タンパク質の加水分解物および発酵乳由来タンパク質、脂質として油脂、および糖質としてイソマルチュロースを含む組成物の使用。
(8)腸管機能を改善するための組成物の製造における、タンパク質として乳タンパク質の加水分解物および発酵乳由来タンパク質、脂質として油脂、および糖質としてイソマルチュロースを含む組成物の使用。
(9)小腸の組織障害を予防するための組成物の製造における、タンパク質として乳タンパク質の加水分解物および発酵乳由来タンパク質、脂質として油脂、および糖質としてイソマルチュロースを含む組成物の使用。
(10)抗炎症組成物の製造における、タンパク質として乳タンパク質の加水分解物および発酵乳由来タンパク質、脂質として油脂、および糖質としてイソマルチュロースを含む組成物の使用。
(11)小腸の絨毛成長の促進方法に使用するための、タンパク質として乳タンパク質の加水分解物および発酵乳由来タンパク質、脂質として油脂、および糖質としてイソマルチュロースを含む組成物。
(12)小腸の固有筋層の厚さを増大させる方法に使用するための、タンパク質として乳タンパク質の加水分解物および発酵乳由来タンパク質、脂質として油脂、および糖質としてイソマルチュロースを含む組成物。
(13)腸管機能改善方法に使用するための、タンパク質として乳タンパク質の加水分解物および発酵乳由来タンパク質、脂質として油脂、および糖質としてイソマルチュロースを含む組成物。
(14)小腸の組織障害の予防方法に使用するための、タンパク質として乳タンパク質の加水分解物および発酵乳由来タンパク質、脂質として油脂、および糖質としてイソマルチュロースを含む組成物。
(15)炎症抑制方法に使用するための、タンパク質として乳タンパク質の加水分解物および発酵乳由来タンパク質、脂質として油脂、および糖質としてイソマルチュロースを含む組成物。
(16)発酵乳由来タンパク質を含む組成物を投与する工程を含む、腸管機能を改善するための方法。
(17)タンパク質として乳タンパク質の加水分解物および発酵乳由来タンパク質、および糖質としてイソマルチュロースを含む組成物を投与する工程を含む、腸管機能を改善するための方法。
(18)発酵乳由来タンパク質を含む組成物を投与する工程を含む、小腸の組織障害の予防方法。
(19)タンパク質として乳タンパク質の加水分解物および発酵乳由来タンパク質、および糖質としてイソマルチュロースを含む組成物を投与する工程を含む、小腸の組織障害の予防方法。
(20)タンパク質として乳タンパク質の加水分解物および発酵乳由来タンパク質を含む組成物を投与する工程を含む、炎症抑制方法。
(21)腸管機能を改善するための組成物の製造における、発酵乳由来タンパク質の使用。
(22)腸管機能を改善するための組成物の製造における、タンパク質として乳タンパク質の加水分解物および発酵乳由来タンパク質、および糖質としてイソマルチュロースの使用。
(23)小腸の組織障害を予防するための組成物の製造における、発酵乳由来タンパク質の使用。
(24)小腸の組織障害を予防するための組成物の製造における、タンパク質として乳タンパク質の加水分解物および発酵乳由来タンパク質、および糖質としてイソマルチュロースを含む組成物の使用。
(25)抗炎症組成物の製造における、タンパク質として乳タンパク質の加水分解物および発酵乳由来タンパク質を含む組成物の使用。
(26)腸管機能を改善するための方法に使用するための、発酵乳由来タンパク質を含む組成物。
(27)腸管機能を改善するための方法に使用するための、タンパク質として乳タンパク質の加水分解物および発酵乳由来タンパク質、および糖質としてイソマルチュロースを含む組成物。
(28)小腸の組織障害の予防方法に使用するための、発酵乳由来タンパク質を含む組成物。
(29)小腸の組織障害の予防方法に使用するための、タンパク質として乳タンパク質の加水分解物および発酵乳由来タンパク質、および糖質としてイソマルチュロースを含む組成物。
(30)炎症抑制方法に使用するための、タンパク質として乳タンパク質の加水分解物および発酵乳由来タンパク質を含む組成物。
【0107】
本発明の組成物としては、例えば、MEIN(明治乳業株式会社)が挙げられる。MEINの成分を含む組成物は、表4に記載の成分を含む組成物と表現できる。
【0109】
表4の脂肪について、ミルクリン脂質(乳由来リン脂質、ミルクレシチンともいう)の組成例を以下の表5に示す。
【0111】
また、表4の脂肪について、脂肪酸の組成例を以下の表6に示す。
【0113】
なお本明細書において引用されたすべての先行技術文献は、参照として本明細書に組み入れられる。
【実施例1】
【0114】
栄養組成物の小腸組織障害軽減効果(1)
本発明の栄養組成物および比較対照として一般流動食(メイバランス:明治乳業(株))、流動食A(インパクト:味の素ファルマ(株))を用いて実験を行い、ConA投与24時間後の小腸の組織障害の程度を測定した。
【0115】
動物はC57BL/6マウス(6週齢、雄)を日本エスエルシー(株)より購入し使用した。飼育は、21.0±2.0℃、湿度55.0±15.0%、12時間ごとの明暗切り替え(明期:7-19時)の環境下で行った。実験期間中を通じ、飼料と飲料水は自由摂取とした。
購入した動物を1週間馴化後、体重を指標として、3群に群分けした。実験群は、群1:一般流動食(明治乳業:メイバランス)、群2:栄養組成物(明治乳業:MEIN)、群3:流動食A(味の素ファルマ:インパクト)であり、2週間飼育した。一般流動食、栄養組成物、流動食Aの組成を表7及び8に示す。なお、本実施例において使用されたイソマルチュロースはCAS Registry 番号13718-94-0、化学式C
12H
22O
11で示される物質である。
【0116】
【表7】
【0117】
【表8】
【0118】
ConA(Sigma)を12mg/kgの用量を尾静脈内に投与し、投与24時間後にエーテル麻酔下で腹部大静脈から採血をおこなった後、小腸を摘出した。小腸は胃の下から6cmから3cmを10%ホルマリン溶液で固定後、通常の方法で包埋を行い、組織標本を作製し、ヘマトキシリン・エオジン染色を行った。組織標本をデジタルマイクロスコープ(キーエンス社)を用いて100倍で撮影した画像中の絨毛を含む粘膜層と固有筋層全体の面積を測定した。結果は平均±SD(n=7〜9)で示した。統計解析はSPSSによる一元配置分散分析の後、Scheffe検定を用いて行い、p<0.05を有意とした。
【0119】
結果を
図1、2に示す。小腸面積を比較した結果、栄養組成物摂取群で最も高値を示し、一般流動食、流動食A摂取群の順で低下した(
図1)。栄養組成物摂取群と流動食A摂取群との間に有意差が認められた。また、
図2に示す組織像より、ConA投与により小腸粘膜上皮の損傷、脱落や筋肉層の厚さの低下などの障害が起こっていることが確認された。一方、正常に近い組織像を示したのは栄養組成物摂取群であり(
図2)、この結果から栄養組成物の摂取によりこのような小腸の障害の程度が軽減されることも示された。
【実施例2】
【0120】
栄養組成物の小腸組織障害軽減効果(2)
本発明の栄養組成物および比較対照としてメイバランスを用いて実験を行い、ConA投与2時間後の小腸中のサイトカイン産生と24時間後の組織障害の程度を評価した。
【0121】
動物はC57BL/6マウス(6週齢、雄)を日本エスエルシー(株)より購入し使用した。飼育は、21.0±2.0℃、湿度55.0±15.0%、12時間ごとの明暗切り替え(明期:7-19時)の環境下で行った。実験期間中を通じ、飼料と飲料水は自由摂取とした。
マウスを1週間馴化した後、体重を指標として、4群に群分けした。実験群は、1群:一般流動食(ConA投与2時間後に剖検)、2群:栄養組成物(ConA投与2時間後に剖検)、3群:一般流動食(ConA投与24時間後に剖検)、4群:栄養組成物(ConA投与24時間後に剖検)の各飼料で2週間飼育した。一般流動食、栄養組成物は実施例1と同様のものを用いた。
【0122】
ConA(Sigma )を12mg/kgの用量を尾静脈内に投与し、投与2時間後と24時間後にエーテル麻酔下で腹部大静脈から採血をおこなった後、肝臓、脾臓、小腸、大腸を摘出した。小腸は全長の長さ、胃の下から11cmから10cmの重量、大腸は盲腸の下5cmの重量を測定した。各臓器についても臓器重量を測定した。小腸は胃の下から6cmから3cmを切り出し、10%ホルマリン溶液で固定後、通常の方法で組織標本を作製し、ヘマトキシリン・エオジン染色を行った。臓器中のサイトカインを以下に記載の方法に従い調製した後、Mouse inflammation kit(CBA法:日本ベクトン・ディッキンソン(株))を用いて測定し、結果を臓器重量当たりの濃度で示した。また、結果は平均±SDで示した。統計解析はSPSSによる一元配置分散分析の後、Student's t検定あるいはMann-Whitney検定を用いて行った。
<臓器中のサイトカイン濃度測定方法>
1.臓器を100mgにlysis buffer 1mlを加え、ガラス−テフロン(登録商標)ホモジナイザーでホモジネートした。
Lysis buffer
20mM Tris・HCl (pH7.4)
0.25M sucrose
2mM EDTA・2Na
10mM EGTA
1% Tritonx-100
+1tablet of Complete Mine protease inhibitor cocktail tablets/10ml
2.均一にしたホモジネートを100,000gで40分遠心し、上清を集めた(氷冷で操作する)。
3.上清中の蛋白質濃度はBCA蛋白質アッセイキットを使って測定した。また、蛋白質当たりのサイトカイン量についても血漿中のサイトカインと同様の方法で測定した。
(参考文献:Journal of Neuroinflammation 2008, 5:10, Increased systemic and brain cytokine production and neuroinflammation by endotoxin following ethanol treatment Liya Qin, Jun He, Richard N Hanes, Olivera Pluzarev, Jau-Shyoung Hong and Fulton T Crews)
【0123】
結果を表9〜11に示す。
体重は群間に違いは認められなかった。一方、小腸、大腸重量は有意な増加を示した。また、腸の長さも有意に長いことが示された(表9)。
次に、血漿中および臓器中サイトカイン濃度を測定した結果を示す(表10)。血漿中サイトカインやケモカインであるTNF-α、IFN-γ、MCP-1、IL-6濃度は一般流動食群で顕著な上昇が認められ、栄養組成物群でこれらすべてにおいて有意に低値を示した。IL-12とIL-10濃度は検出限界以下であった。臓器中のサイトカインは脾臓で最も産生されており、栄養組成物群ではIFN-γ、MCP-1、IL-6濃度が一般流動食群に比べ、有意に低値を示した。肝臓では栄養組成物群で一般流動食群に比べ、TNF-α(p=0.07)、IFN-γ、MCP-1が有意に低値を示した。小腸ではMCP-1、IL-6が有意に低値を示した。ConAは肝臓に障害が顕著に起こることが知られており、栄養組成物群で肝障害が抑制されることは、肝臓でのTNF-αの産生の抑制が関与していることが示された。血漿中のIL-6濃度上昇は肝臓のIL-6濃度だけでは説明がつかないことから、脾臓での産生量が寄与していると考えられる。小腸では他の臓器に比べ、炎症性サイトカインの濃度は低いが、正常に比べMCP-1とIL-6において上昇が認められており、栄養組成物群では一般流動食群に比べ、有意に低値を示したことから、障害の軽減に関与していると考えられた。
また、ConA投与24時間後の小腸の病理組織を下記に示す0〜3のレベルで評価した結果、栄養組成物群は一般流動食群に比べ小腸障害を軽減することが示された(Mann-whitney検定、p=0.021)(表11)。
【0124】
【表9】
【0125】
【表10】
【0126】
【表11】
【実施例3】
【0127】
栄養組成物の粘膜上皮や筋肉層の増殖促進作用
本発明の栄養組成物および一般流動食を2週間自由摂取させた後の小腸、大腸重量および小腸組織評価を行った。
【0128】
動物はC57BL/6マウス(6週齢、雄)を日本エスエルシー(株)より購入し使用した。飼育は、21.0±2.0℃、湿度55.0±15.0%、12時間ごとの明暗切り替え(明期:7-19時)の環境下で行った。実験期間中を通じ、飼料と飲料水は自由摂取とした。
マウスを1週間馴化した後、体重を指標として、1群5匹で2群に群分けした。実験群は群1:一般流動食、群2:栄養組成物とし、2週間飼育した。一般流動食、栄養組成物は実施例1と同様のものを用いた。
エーテル麻酔下で腹部大静脈から採血をおこなった後、肝臓、脾臓、小腸、大腸を摘出した。小腸は全長の長さ、胃の下から11cmから10cmの重量、大腸は盲腸の下5cmの重量を測定した。各臓器についても臓器重量を測定した。小腸は胃の下から6cmから3cmを切り出し、10%ホルマリン溶液で固定後、通常の方法で組織標本を作製し、ヘマトキシリン・エオジン染色を行った。組織標本に対して血漿中のALT、AST、アルブミン、総タンパク質、トリグリセリド、コレステロール、グルコース、尿素窒素の生化学検査を行った。また、結果は平均±SDで示した。統計解析はSPSSによる一元配置分散分析の後、Student's t検定を用いて行った。
【0129】
一般流動食と栄養組成物を2週間摂取させた際の正常マウスの臓器重量と血液生化学検査結果について表12に示す。正常マウスにおいて、体重、肝臓は群間に有意な違いは認められなかった。脾臓の相対重量、小腸、大腸重量において、栄養組成物群が一般流動食群に比べ、有意に高値を示した。一方、血液生化学検査結果はすべての数値が群間に有意な違いは認められなかった。
次に、正常小腸組織標本を作製し、150倍で撮影した1視野内の柔毛の数、柔毛の高さ、固有筋層の厚さを測定した(
図3および表13)。栄養組成物群では一般流動食群に比べ柔毛の数と柔毛の全長には有意な違いは認められなかったが、平均の柔毛の長さと固有筋層の厚さが有意に高値を示した。この結果から、栄養組成物群で認められた小腸重量の増加は柔毛の長さと固有筋層の厚さに起因していると考えられた。
【0130】
【表12】
【0131】
【表13】
【実施例4】
【0132】
栄養組成物の腸管透過性亢進およびバクテリアルトランスロケーションの抑制作用
ラットインドメタシン誘発小腸障害モデルを用いて、本発明の栄養組成物の小腸障害に及ぼす効果を検討した。
【0133】
動物はSDラット(6週齢、雄)を日本エスエルシー(株)から購入し使用した。飼育は21.0±2.0℃、湿度は55.0±15.0%、12時間ごとの明暗切り替え(明期:7-19時)の環境下で行った。実験期間中を通じ、飼料と飲料水は自由摂取とした。
購入した動物を1週間の馴化後、体重を指標として、6群に群分けした。一般流動食或いは栄養組成物でインドメタシン投与前の2週間飼育した。一般流動食、栄養組成物は実施例1と同様のものを用いた。その後、インドメタシンを5%NaHCO
3に溶かした溶液を10mg/kg容量で皮下に1日に1回、2日間連続で投与し、小腸障害を誘発させた。その後も同じ飼料で飼育し、投与1日目をday0として、day4、day8に剖検した。インドメタシンを投与しない正常群はday4とday8に半数ずつ剖検した。
また、day1、day3、day7にフェノールスルホンフタレイン注0.6%「第一三共」(第一三共(株))を3ml/bodyで経口投与し、その後、24時間尿を採取し、尿中のPSP排泄量を測定し、尿中のPSP排泄率で結果を示した。PSPは一般にヒトで腎機能の指標に使われている。PSPを経口で投与した場合、尿中への排泄率は非常に低いが、腸管膜障害により透過性が亢進すると細胞の隙間を透過し、血液内に入り、腎臓を介して尿中に排泄される。本実施例では腸管膜の透過性の指標として使われている。
剖検の前日午後5時から絶食を開始し、一晩絶食後に剖検した。エーテル麻酔下で心臓採血後、無菌状態で腸間膜リンパ節(MLN)、肝臓を摘出し、臓器重量を測定後、臓器をホモジネートした溶液を、5%ウマ脱線維血液を加えたBL寒天培地で37℃、72時間、好気および嫌気条件下で培養後に菌数を測定した。また、グラム染色を行い、検出された菌がグラム陰性菌かグラム陽性菌か調べた。
次に、小腸は全長の長さ、盲腸と大腸の重量、盲腸のpHを測定した。
また、血液一般検査は自動血球分析装置(Sysmex ST-1800i)を用いて分析した。血液一般検査は様々な病態の変化を調べる指標として使われている。好中球や単球の増加は感染症(細菌)が原因で引き起こされることが知られている。
【0134】
結果1
インドメタシン誘発小腸障害により腸管膜の透過性の亢進が認められるが、栄養組成物摂取により、対照群に比べ、有意に腸管透過性の亢進が抑制されていることが示された(
図4)。以上の結果より、栄養組成物摂取によりインドメタシン投与による小腸障害を抑制することが示された。
この結果から栄養組成物摂取は非ステロイド性抗炎症剤などによる小腸障害を予防する可能性が示唆された。
【0135】
結果2
インドメタシン誘発小腸障害により腸管粘膜の防御力の破錠、免疫力の低下などにより本来消化管の中にとどまる腸内細菌が腸管粘膜上皮のバリアを超えて肝臓や腸間膜リンパ節に移行することが分かっている。
インドメタシン投与4日目と8日目に腸間膜リンパ節全部と肝臓(一部)を取って、ホモジネートした溶液中の菌数を培養法により測定した。本実験結果より、インドメタシン投与4日目では腸間膜リンパ節に菌が検出されなかった個体は一般流動食群で9匹中2匹、栄養組成物群では10匹中3匹であった。また、肝臓ではすべての個体で検出された。8日目では腸間膜リンパ節に菌が検出されなかった個体は一般流動食群で8匹中1匹、栄養組成物群で8匹中4匹であった。また、肝臓では一般流動食群、栄養組成物群ともに菌はどの個体にも検出されなかった。実際の各臓器に検出された菌数の結果を
図5に示した。インドメタシン投与4日目では腸間膜リンパ節に検出された菌数は栄養組成物群と一般流動食群で有意な違いは認められなかった(図示せず)。一方、肝臓では栄養組成物群の方が少ない傾向を示した(p=0.068)(
図5上段)。インドメタシン投与8日目では肝臓へのバクテリアルトランスロケーション(BT)は認められなかったが、栄養組成物群は一般流動食群に比べ、腸間膜リンパ節へのBTを有意に抑制した(p<0.05)(
図5下段)。
また、検出された菌は好気性のグラム陽性菌であった。
以上の結果より、栄養組成物摂取は腸間膜リンパ節や肝臓へのBTを抑制した。つまり、栄養組成物摂取により、インドメタシン投与による小腸障害により誘発されるBTを抑制することが示された。栄養組成物摂取は小腸を保護し、非ステロイド性抗炎症剤などにより惹起される小腸障害を予防する可能性が示唆された。
【0136】
結果3
血液一般検査を行い、インドメタシン投与前と投与後の変化を調べた。血液一般検査は様々な病態の変化を調べる指標として使われている。好中球や単球の増加は感染症(細菌)が原因で引き起こされることが知られている。
検査の結果、正常個体では、栄養組成物群と一般流動食群との間に有意な違いが認められなかった。一方、インドメタシン投与群では、正常個体に比べ白血球数の上昇が認められた(
図6)。白血球の増加はリンパ球、好中球、単球の増加によるものであった(
図6)。一般流動食はday4で白血球の増加が認められ、day7ではさらに上昇を続けた。一方、栄養組成物はday4で白血球の増加はピークを示し、その後減少した。白血球の中で、特に群間で違いが認められたのは好中球数と単球数であった。Day4では群間に違いは認められなかったが、day7では栄養組成物群は一般流動食群と比べ、好中球数と単球数が低値を示した。
以上の結果から、非ステロイド性抗炎症剤誘発小腸障害により誘発されるバクテリアルトランスロケーションが栄養組成物群で抑制された結果、好中球数や単球数の上昇が抑制されたと考えられる。
【実施例5】
【0137】
栄養組成物の組成からホエイタンパク質加水分解物、イソマルチュロース、発酵乳由来タンパク質を除いた場合の変化1
動物はC57BL/6マウス6週齢雄を日本エスエルシー(株)から購入して使用した。購入したマウスを1週間馴化した後、体重を指標として、5群に群分けした。
群構成:
群1:一般流動食(明治乳業:メイバランス)
群2:栄養組成物(明治乳業:MEIN)
群3:栄養組成物-ホエイタンパク質加水分解物(栄養組成物-P)
(栄養組成物からホエイタンパク質加水分解物を除いたもの)
群4:栄養組成物-ホエイタンパク質加水分解物-イソマルチュロース(栄養組成物-P-I)
(栄養組成物からホエイタンパク質加水分解物とイソマルチュロースを除いたもの)
群5:栄養組成物-ホエイタンパク質加水分解物-イソマルチュロース-クワルク(栄養組成物-P-I-Q)
(栄養組成物からホエイタンパク質加水分解物、イソマルチュロース、クワルクを除いたもの)
上記5群で2週間飼育した。栄養組成物中のタンパク質源であるクワルクとホエイタンパク質加水分解物の代わりにカゼイン、糖質源としてイソマルチュロースの代わりにデキストリンを添加して調製した。
ConA(Sigma)は12mg/kgの用量を尾静脈内に投与し、翌日、エーテル麻酔下で腹部大静脈から採血をおこなった後、肝臓、脾臓、盲腸、小腸を摘出した。小腸は中央10cmの重量を測定した。
【0138】
体重および臓器重量の結果を
図7、表14(ConA投与24時間後の体重および体重当たりの臓器重量)に示した。
【0139】
【表14】
平均±SD (n=8〜10)
【0140】
体重、体重あたりの肝臓、脾臓重量には群間に有意な違いは認められなかった。盲腸重量は一般流動食群に比べ、栄養組成物群で有意な増加が認められた。栄養組成物からホエイタンパク質加水分解物、イソマルチュロース、クワルクを抜いた群は盲腸重量が栄養組成物群と比べ有意に低値を示すことから、これらの3つの素材が盲腸発酵に関与していることが示された。小腸重量は一般流動食群に比べ、栄養組成物群で有意な高値を示した。栄養組成物からホエイタンパク質加水分解物、イソマルチュロース、クワルクを抜いた群は小腸重量が栄養組成物群と比べ有意に低値を示すことから、これらの3つの素材が小腸の障害や炎症に関与している可能性が示された。
栄養組成物の腸管保護作用や抗炎症作用にホエイタンパク質加水分解物、イソマルチュロースおよびクワルクの3成分が関与している可能性が示された。
【実施例6】
【0141】
栄養組成物の組成からホエイタンパク質加水分解物、イソマルチュロース、発酵乳由来タンパク質を除いた場合の変化2
動物はC57BL/6マウス6週齢雄を日本エスエルシー(株)から購入して使用した。購入したマウスを1週間馴化した後、体重を指標として、6群に群分けした。
群構成(一般流動食、栄養組成物は実施例6と同様のものを用いた。)
群1:一般流動食
群2:栄養組成物
群3:栄養組成物-ホエイタンパク質加水分解物(-P)
(栄養組成物からホエイタンパク質加水分解物を除いたもの)
群4:栄養組成物-イソマルチュロース(-I)
(栄養組成物-イソマルチュロースを除いたもの)
群5:栄養組成物--クワルク(-Q)
(栄養組成物からクワルクを除いたもの)
群6:栄養組成物-ホエイタンパク質加水分解物-イソマルチュロース-クワルク(-P-I-Q)
(栄養組成物からホエイタンパク質加水分解物、イソマルチュロース、クワルクを除いたもの)
上記6群で2週間飼育した。栄養組成物中のタンパク質源であるクワルクとホエイタンパク質加水分解物の代わりにカゼイン、糖質源としてイソマルチュロースの代わりにデキストリンを添加して調製した。
ConA(Sigma)は12mg/kgの用量を尾静脈内に投与し、投与2、4、8時間後に尾静脈から採血をおこない、翌日、エーテル麻酔下で腹部大静脈から採血をおこなった後、肝臓、脾臓、盲腸、小腸、大腸を摘出した。血漿中のALT、ASTは富士ドライケムで測定した。
【0142】
結果1
最終日の体重および臓器重量の結果を表15に示した。
【0143】
【表15】
【0144】
体重および体重当たりの臓器重量(肝臓、脾臓)には群間に有意な違いが認められなかった。小腸、盲腸重量は栄養組成物群、3群(-ホエイタンパク質加水分解物)、4群(-イソマルチュロース)で、一般流動食群と比べ有意に高値を示した。
【0145】
結果2
ConA投与24時間後のAST、ALTの結果を
図8に示した。栄養組成物群に比べ、ホエイタンパク質加水分解物のみを除いた群(群3)とクワルクのみを除いた群(群5)でAST、ALTの上昇が認められた。イソマルチュロースのみを除いた群(群4)ではAST、ALT値はほぼ栄養組成物群と同レベルであった。また、栄養組成物からホエイタンパク質加水分解物とイソマルチュロースおよびクワルクを除いた場合(群6)、栄養組成物群に比べ、ALT値で有意に高値を示したことから、肝炎抑制作用には主にホエイタンパク質加水分解物とクワルクが関与していることが示された。
【0146】
栄養組成物の抗炎症作用はホエイタンパク質加水分解物とクワルクが主要な成分であると考えられた。栄養組成物の腸管機能維持および腸管保護作用はクワルクが主要な成分であるがホエイタンパク質加水分解物とイソマルチュロースを含む3種類の素材が関与していることが示された。
【0147】
[参考例1] ホエイタンパク質加水分解物の調製
乾燥物として約90%のタンパク質含量のホエイタンパク質分離物(WPI、ダビスコ社)を、8%(w/v)のタンパク質含有量で蒸留水に溶解した。溶液は85℃2分間の加熱処理しタンパク質を変性させた。この加熱後の溶液のpHは約7.5であった。加水分解は、アルカラーゼ2.4L(酵素、ノボザイムス社)を基質に対して2.0%の濃度で添加し3時間55℃で反応させた。次に、豚由来のトリプシンである PTN 6.0S(ノボザイムズジャパン)を基質に対して3.0%の濃度で添加し3時間55℃で反応させた。全加水分解時間は6時間であった。反応終了時のpHは約7.0であった。ホエイタンパク質加水分解物は、遠心処理(20,000×g、10分)後、分画分子量10,000のUF膜処理(ミリポア社ウルトラフリー-MC)を行った。
【0148】
透過液(パーミエイト)を逆相HPLCに供した。
条件
試料 :ホエイタンパク質加水分解物のUFパーミエイト
カラム:C18 SG120(資生堂社)4.6 mmφ×250 mm
溶離液:A;0.1%トリフルオロ酢酸水溶液/アセトニトリル5/95
B;0.1%トリフルオロ酢酸水溶液/アセトニトリル32/68
A→B 60分の直線濃度勾配
流速 :1 mL/min
検出 :215 nm(紫外/可視検出器)