(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
コア及び第1クラッドを有する出発母材の外側を酸水素火炎で火炎研磨後、回転する前記出発母材に対向させてガラス微粒子合成用バーナを配置し、前記出発母材とバーナとを前記出発母材に沿って相対的に往復移動させ、ガラス原料を酸水素火炎中で加水分解させて生成したガラス微粒子を第2クラッドの多孔質ガラス層として堆積させる光ファイバ用ガラス母材の製造方法において、原料供給開始直後の堆積1往復目の水素流量を、定常条件よりも増やし、堆積2往復目以降の前記水素流量を、定常条件よりも35%〜50%低減した条件でガラス微粒子を合成し堆積することを特徴とする光ファイバ用ガラス母材の製造方法。
【背景技術】
【0002】
光ファイバ用ガラス母材の製造には、VAD法、OVD法がよく知られている。
図1の様な中心部に屈折率の高いコアを有し、その外周にコアよりも屈折率の低い第1クラッドを有し、その外周に第1クラッドよりも屈折率の低い第2クラッドを有し、更にその外側に第2クラッドよりも屈折率の高い第3クラッドを有する構造の光ファイバがある。このような光ファイバは第2クラッドによって基本モード光の閉じ込め効果が増し、光ファイバに曲げを与えたときの伝搬光の漏出(曲げ損失)を低減する効果がある。ここで、コア、第1クラッド、第2クラッドは伝搬光のモードフィールドがおよぶ範囲なので、金属やOH基のような光吸収損失の要因となる不純物は極力低減する必要がある。
【0003】
VAD法において複数のバーナを用いて、コア、第1クラッド、第2クラッド等の屈折率が異なるガラスを一括して合成する手法が知られている。しかしながら、
図1の様な構造の光ファイバ用ガラス母材を作製する場合には、きれいな階段状の屈折率分布を得るのが難しい。特に第2クラッドに屈折率低減用のドーパントとしてフッ素を添加する場合には、焼結処理中にフッ素がガラス全体に拡散するなどの影響があり、第2クラッド部分のみに選択的にフッ素を添加するのが難しかった。
【0004】
一方、第2クラッドに効率よくフッ素をドープする方法として、VAD法などでコア及び第1クラッドを有する中間母材を準備し、この中間母材に対してOVD法によって第2クラッドの多孔質ガラス層を堆積し、これを焼結するときにフッ素を添加する合成方法がある。この合成方法では、まず、VAD法などでコア及び第1クラッドを有する中間母材を合成し、合成した中間母材を所定径に延伸する。そして、延伸した中間母材表面のOH基を含むガラス層をエッチング等により除去して、OVD法に用いる出発母材を作製する。OVD法では、コアを中心軸として回転する出発母材に対向させてガラス微粒子合成用バーナを配置し、出発母材とバーナとを出発母材の回転軸方向に沿って相対的に往復移動させる。この状態で、ガラス原料を酸水素火炎中で加水分解させて生成したガラス微粒子を出発母材上に堆積させた後、塩素含有雰囲気下で脱水し、その後、フッ素含有雰囲気下で透明ガラス化してフッ素を含有する第2クラッドを付与する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0010】
本発明の光ファイバ用ガラス母材の製造方法は、少なくともコア、第1クラッド、第2クラッドの3層からなる光ファイバ用ガラス母材の製造方法において、コア及び第1クラッドを有する出発母材を準備する出発母材準備工程と、出発母材上にガラス原料を酸水素火炎中で加水分解して生成したガラス微粒子を堆積させる第2クラッド堆積工程と、堆積して得られた多孔質体を塩素含有雰囲気下で脱水後、フッ素含有雰囲気下で透明ガラス化するガラス化工程とからなる。
【0011】
前記出発母材を準備する出発母材準備工程は、VAD法によってコア及び第1クラッドを有する多孔質ガラス母材を製造するVAD工程と、該多孔質体ガラス母材を塩素含有雰囲気下で加熱脱水する脱水工程と、脱水した多孔質体ガラス母材をヘリウム雰囲気下で加熱透明ガラス化してガラス母材とするガラス化工程と、該ガラス母材を加熱延伸して外径を調整する延伸工程と、延伸済みガラス母材の表面層を除去する表面層除去工程とを含んでいる。なお、コアにはゲルマニウムがドープされている。表面層を除去する表面層除去工程は、機械研削研磨、もしくはフッ化水素酸によるウエットエッチング等を用いて行われる。
【0012】
第2クラッドの堆積に先立って行われる出発母材の火炎研磨は、バーナを用いてガラス原料を含まない酸水素火炎で出発母材の表面を加熱する。これにより、出発母材表面の一部が溶融、揮散されてキズ・異物が除去される。さらに、火炎中にフッ素系ガスを導入して、ガラス表面のエッチング効果を高めてもよい。
【0013】
火炎研磨に続いて、出発母材に第2クラッドの多孔質ガラス層を堆積するため、酸水素火炎にガラス原料を供給し、酸水素火炎中で加水分解して生成したガラス微粒子を堆積させる。このとき、酸素、水素、ガラス原料をそれぞれ複数本のバーナに均等に分岐して各バーナで生成したガラス微粒子を堆積させると堆積速度が向上して好ましい。
【0014】
原料供給開始直後の1往復目の堆積では、出発母材と第2クラッドとの界面での剥がれをなくすために、界面での密着性を高める必要がある。そのためには、第2クラッドの多孔質ガラス層の堆積火炎の温度を十分に高くして、堆積するガラス多孔質層の密度を高くすることが有効である。第2クラッドの多孔質ガラス層の堆積火炎の温度を高くするために、水素流量を定常時よりも増やした条件とするのが好ましく、特には、定常条件よりも4%以上増やした条件とするのが好ましい。4%未満であると、堆積火炎の温度が高くならず、界面での多孔質ガラス層の密度が低下して出発母材と第2クラッドとの界面での剥がれが発生しやすくなる。逆に、水素流量を増やしすぎて堆積火炎の温度が高くなり過ぎると、多孔質ガラス層の嵩密度が増して比表面積が低下して、後工程の熱処理でCl
2などの脱水用ガスやSIF
4などのドーパントガスが拡散しにくくなったり、Heなどの透明ガラス化用の低分子ガスとの置換が進みにくかったりする。このため、水素流量の定常時よりも増やす流量は200%を超えないことが好ましい。
【0015】
この様な合成方法で製造した光ファイバ用ガラス母材は、第2クラッドの多孔質ガラス層の堆積に先立って行われる酸水素火炎での火炎研磨のときや、多孔質ガラス層の第1層目の堆積のときには、出発母材が酸水素火炎に直接曝されるため、出発母材の外表面から内部に向かってOH基が拡散浸透しやすい。そのため、OH基の出発母材への拡散浸透を抑制するためには、定常条件に対し、水素流量を増やす量は130%以下とするのが好ましい。また、堆積2往復目以降の水素流量を定常条件とするのが好ましく、その場合には、OH基の出発母材への拡散浸透を抑制するためには1往復目の水素流量を定常条件より増やす量は35%以下とするのが好ましい。
【0016】
また、多孔質ガラス層を堆積する2往復目以降にも、ガラス微粒子を吹き付ける酸水素火炎の熱が、出発母材との界面まで伝わるため、OH基が出発母材界面から内部に向かって浸透しやすくなる。特に、出発母材と第2クラッドとの界面での密着性を高めるとともに生産性を上げるため、多孔質ガラス層を高温の火炎で炙り密度を高くしているため、温度が上昇してOH基拡散速度はさらに上昇する。これらによって、光ファイバ用ガラス母材の径方向のOH基濃度は、出発母材と第2クラッドとの界面で極大となる。
【0017】
その結果、モードフィールド領域の近傍に第1クラッドと第2クラッドとの界面を有する場合、該界面OH基に起因する伝送損失が増大することとなる。
図2は、第2クラッドに1.3ppmのOH基を含有する光ファイバ用ガラス母材を作製し、ファイバ径を変えながら線引きして、そのファイバの1383nmにおける伝送損失を計測した結果である。ファイバ径を変える事によってモードフィールド直径と前記界面の半径位置との関係を変える事ができる。1383nmにOH基による吸収損失ピークが存在する。界面の半径位置と波長1310nmにおけるモードフィールド半径(波長1310nmにおけるモードフィールド直径の1/2に相当)との比が2.6以上の場合、1383nmの吸収損失が0.35dB/km以下となっている。つまり、前記比が2.6の場合は第1クラッドと第2クラッドの界面における局所的なOH基濃度を1.3ppm以下にするのが好ましい。また、前記比を2.6未満にした場合は、前記界面における局所的なOH基濃度を更に低減するのが好ましい。また、多孔質ガラス層の密度を高くしすぎた場合、後工程の加熱処理のときに、多孔質ガラス層にフッ素が均一にドープされにくくなる。
【0018】
そこで、多孔質ガラス層を堆積する2往復目以降の水素流量を定常条件よりも減じた条件とする。これにより、出発母材との界面付近に伝わる熱量が低減されるためOH基が拡散浸透するのを抑制できる。この場合において、1往復目の水素流量を定常条件より増やす量は30%以上とするのが好ましく、30%未満では、界面での多孔質ガラス層密度が低下して出発母材と第2クラッドとの界面での剥がれが生じやすくなる。堆積2往復目以降の水素流量を定常条件よりも低減する量は35〜50%とするのが好ましい。35%未満であるとOH基濃度の低減効果が少なく、また、50%を超えると多孔質体の嵩密度が低下して出発母材と多孔質ガラス層との界面付近での剥がれが発生しやすくなる。そして、この水素流量を低減する範囲は、堆積2往復目以降連続して20〜40往復とするのが好ましく、20往復未満ではOH基低減効果が少なく、40往復を超えると多孔質ガラス層の平均嵩密度が低下して割れが生じやすくなる。
【0019】
ここで、定常条件とは、堆積2往復目以降もしくは堆積2往復目以降の水素流量を低減した堆積以降から、堆積終了までに設定されたガス流量条件であり、後工程の加熱処理のときに、多孔質ガラス層にフッ素が均一にドープされやすい平均嵩密度になるガス流量に設定される。第2クラッドを純シリカクラッドとする場合には、多孔質ガラス層の平均嵩密度を0.4g/cm
3以上あるいは生産性を上げるために0.5g/cm
3以上とするが、本発明では0.25〜0.5g/cm
3とし、好ましくは0.25〜0.4g/cm
3となるようにする。平均嵩密度が0.25g/cm
3を下回ると生産性が低下するのみならず多孔質ガラス層に割れが生じやすくなる。平均嵩密度が0.4g/cm
3を超えるとフッ素が均一にドープされにくくなる傾向が見られる。なお、平均嵩密度は次式で計算する。
ここで、ρは多孔質ガラス層の平均嵩密度、W
Sは多孔質ガラス層の堆積重量、Lは多孔質ガラス層の直胴長さ、D
Sは多孔質ガラス層の外径、D
Tは出発母材の外径、kは直胴部両端のテーパ部分を考慮するための係数である。以下、実施例1、2、3、4、5、6および比較例1、2を挙げて本発明の実施の形態について説明するが、本発明はこれらに限定されず様々な態様が可能である。
【0020】
[実施例1]
VAD法によりコア・第1クラッドからなる多孔質シリカガラス母材を作製し、脱水工程、透明ガラス化工程、延伸工程を経て外径39mmのガラス母材を製造した。コアにはゲルマニウムがドープされており、第1クラッドは純シリカガラスである。このガラス母材の表面を、フッ化水素酸によるウエットエッチングをして表面を厚み2mm削り落とし、外径35mm、長さ600mmの出発母材とした。この出発母材のコアを軸として回転させながら、軸に対して直角方向から対抗して配置したバーナに水素を流量50L/min、酸素を25L/min供給して酸水素火炎とし、このバーナを出発母材と平行に90mm/minの移動速度で一往復させて火炎研磨した。
【0021】
その後、この出発母材上に、OVD法で第2クラッドの多孔質ガラス層を堆積した。多孔質ガラス層の堆積用バーナを2本用意し、それぞれ出発母材の回転軸に対して直角の方向に配置して出発母材に対向させた。水素、酸素、ならびにガラス原料の四塩化珪素を同伴したアルゴンガスをそれぞれ分岐して各バーナに均等に供給した。原料供給開始後のバーナ往復回数と水素流量との関係を
図3に示す。原料供給開始直後の堆積1往復目の水素流量は120L/min(
図3−A)、酸素流量を44L/minとした。この水素流量は定常条件の53L/minに対して約130%増にあたる。堆積2往復目以降の水素流量は、定常条件の53L/minよりも低減した40L/min(
図3−B)から始め、さらに徐々に低減して11往復目で49%低減した27L/min(
図3−C)とし、その後、徐々に水素流量を増大して41往復目までは連続して水素流量が低減されたガス条件で堆積を行ない、42往復目で定常条件の53L/min(
図3−D)に戻した。このように、堆積2往復目以降の水素流量を、定常条件よりも低減した領域を設けて、多孔質ガラス層を堆積した。
【0022】
付着堆積量1810gとなるところで堆積を終了した。多孔質ガラス層の平均嵩密度は0.28g/cm
3であった。その後、電気炉を用いて塩素含有雰囲気下で1200℃に加熱して脱水した後、四フッ化ケイ素含有雰囲気下で1350℃に加熱して透明ガラス化し、外径52mmの光ファイバ用ガラス母材を得た。得られた光ファイバ用ガラス母材には、出発母材と第2クラッドとの界面での剥がれはなかった。この光ファイバ用ガラス母材を輪切りにして切断面を鏡面研磨して長さ100mmの分析サンプルを作製し、赤外吸収スペクトル法によって径方向のOH基含有量を測定した結果を
図4に示す。赤外吸収分析のスポットサイズは1.5mmである。図において、OH基濃度のピーク値は、出発母材と第2クラッドとの界面位置で極大となり1.2ppmであった。
【0023】
この、コア/第1クラッド/第2クラッドからなる光ファイバ用ガラス母材をガラス旋盤で延伸後、その表面をフッ化水素酸によるウエットエッチングをして所定量削り落とし、その周囲に更に純シリカガラスからなる第3クラッドを付加して、コア/第1クラッド/第2クラッド/第3クラッドからなる最終光ファイバ用ガラス母材とした。この最終光ファイバ用ガラス母材を直径125μmの光ファイバに線引きをした。この光ファイバの屈折率分布をファイバアナライザで測定した結果を
図5に示す。図において、第2クラッドの比屈折率差Δは−0.6%の平坦な形状になっており、フッ素が均一にドープされていることがわかる。このファイバの波長1310nmのモードフィールド直径は8.6μm、波長1383nmにおける伝送損失は0.31dB/kmであった。
【0024】
[実施例2]
実施例1と同様の方法により外径35mm、長さ600mmのコアおよび第1クラッドを有する出発母材を作製した。コアにはゲルマニウムがドープされており、第1クラッドは純シリカガラスである。この出発母材に対し、水素流量50L/min、酸素流量25L/minの酸水素火炎を50mm/minの移動速度で一往復させて火炎研磨した。その後、この出発母材上にOVD法で第2クラッドの多孔質ガラス層を堆積した。原料供給開始直後の堆積1往復目のガス条件は、水素流量70L/min、酸素流量を44L/minとした。この水素流量は定常条件の53L/minに対して32%増にあたる。
【0025】
堆積2往復目以降の水素流量は、定常条件の53L/minよりも低減した45L/minから始めて徐々に低減して11往復目で34%低減した35L/minとし、その後徐々に水素流量を増大して21往復目までは連続して水素流量が低減されたガス条件で堆積を行ない、22往復目で定常条件の53L/minに戻した。このまま堆積を継続して付着堆積量1480gとなるところで堆積を終了した。多孔質ガラス層の平均嵩密度は0.32g/cm
3であった。その後、電気炉を用いて塩素含有雰囲気下で1200℃に加熱して脱水した後、四フッ化ケイ素雰囲気下で1350℃に加熱し、透明ガラス化して外径50mmの光ファイバ用ガラス母材を得た。得られた光ファイバ用ガラス母材には、出発母材と第2クラッドとの界面での剥がれはなかった。この光ファイバ用ガラス母材を輪切りにして分析サンプルを作製し、径方向のOH基濃度を測定したところ、OH基濃度は、出発母材と第2クラッドとの界面で極大となり1.3ppmであった。第2クラッドの屈折率差Δは−0.5%で平坦な屈折率分布形状であった。
【0026】
[実施例3]
実施例1と同様の方法により外径32mm、長さ600mmのコア及び第1クラッドを有する出発母材を作製した。コアにはゲルマニウムがドープされており、第1クラッドは純シリカである。この出発母材の表面を実施例1と同様に水素流量50L/min、酸素流量25L/minの酸水素火炎で90mm/minの移動速度で一往復させて火炎研磨した。続いてOVD法で第2クラッドの多孔質ガラス層を堆積した。原料供給開始直後の堆積1往復目の水素流量を定常条件の水素流量よりも32%多い70L/minでスタートした。酸素流量は、定常条件の44L/minとした。
【0027】
堆積2往復目からは水素流量を定常条件の53L/minに戻し、付着堆積量2050gとなるところで堆積を終了した。多孔質ガラス層の平均嵩密度は0.35g/cm
3であった。その後、電気炉で塩素含有雰囲気下で脱水後、四フッ化ケイ素含有雰囲気下で透明ガラス化して外径53mmの光ファイバ用ガラス母材を得た。この母材を輪切りにして端面を鏡面研磨して分析サンプルを作製し径方向のOH基濃度を測定したところ、OH基濃度は出発母材と第2クラッドとの界面位置で最大となり1.2ppmであった。また、出発母材と第2クラッドとの界面での剥がれはなかった。第2クラッドの比屈折率差Δは−0.6%で平坦な屈折率分布形状であった。
【0028】
[実施例4]
実施例1と同様の方法により外径33mm、長さ600mmのコア及び第1クラッドを有する出発母材を作製した。コアにはゲルマニウムがドープされており、第1クラッドは純シリカである。この出発母材の表面を実施例1と同様に水素流量50L/min、酸素流量25L/minの酸水素火炎で90mm/minの移動速度で一往復させて火炎研磨した。続いてOVD法で第2クラッドの多孔質ガラス層を堆積した。原料供給開始直後の堆積第1往復目の水素流量を定常条件の水素流量よりも23%多い65L/minでスタートした。酸素流量は、定常条件の44L/minとした。
【0029】
堆積2往復目からは水素流量を定常条件の53L/minに戻し、付着堆積量1960gとなるところで堆積を終了した。多孔質ガラス層の平均嵩密度は0.34g/cm
3であった。その後、電気炉を用いて塩素含有雰囲気下で1200℃に加熱して脱水した後、四フッ化ケイ素含有雰囲気下で1350℃に加熱し、透明ガラス化して外径53mmの光ファイバ用ガラス母材を得た。得られた光ファイバ用ガラス母材には、出発母材と第2クラッドとの界面での剥がれはなかった。この母材を輪切りにして切断面を鏡面研磨して分析サンプルを作製し径方向のOH基濃度を測定したところ、OH基濃度は、出発母材と第2クラッドとの界面位置で最大となり1.2ppmであった。第2クラッドの比屈折率差Δは−0.6%で平坦な屈折率分布形状であった。
【0030】
[実施例5]
実施例1と同様の方法により外径33mm、長さ600mmのコア及び第1クラッドを有する出発母材を作製した。コアにはゲルマニウムがドープされており、第1クラッドは純シリカである。この出発母材の表面を実施例1と同様に水素流量50L/min、酸素流量25L/minの酸水素火炎で90mm/minの移動速度で一往復させて火炎研磨した。続いてOVD法で第2クラッドの多孔質ガラス層を堆積した。原料供給開始直後の堆積第1往復目の水素流量を定常条件の水素流量よりも4%多い55L/minでスタートした。酸素流量は、定常条件の44L/minとした。
【0031】
堆積2往復目からは水素流量を定常条件の53L/minに戻し、付着堆積量1890gとなるところで堆積を終了した。多孔質ガラス層の平均嵩密度は0.34g/cm
3であった。その後、電気炉を用いて塩素含有雰囲気下で1200℃に加熱して脱水した後、四フッ化ケイ素含有雰囲気下で1350℃に加熱し、透明ガラス化して外径52mmの光ファイバ用ガラス母材を得た。得られた光ファイバ用ガラス母材には、出発母材と第2クラッドとの界面に直胴部の端部に軽微な剥がれが生じたものの、直胴部の9割以上の長さ領域では界面には剥がれが無く良好な仕上がりであった。この母材を輪切りにして切断面を鏡面研磨して分析サンプルを作製し径方向のOH基濃度を測定したところ、OH基濃度は、出発母材と第2クラッドとの界面位置で最大となり1.0ppmであった。第2クラッドの比屈折率差Δは−0.6%で平坦な屈折率分布形状であった。
【0032】
[実施例6]
実施例1と同様の方法により外径35mm、長さ600mmのコア及び第1クラッドを有する出発母材を作製した。コアにはゲルマニウムがドープされており、第1クラッドは純シリカガラスである。この出発母材の表面を水素流量50L/min、酸素流量25L/minの酸水素火炎を50mm/minの移動速度で一往復させて火炎研磨した。続いてOVD法で第2クラッドの多孔質ガラス層を堆積した。原料供給開始直後の堆積1往復目の水素流量を定常条件よりも108%増やした条件の110L/minでスタートした。酸素流量は、定常条件の44L/minとした。
【0033】
堆積2往復目からは水素流量を定常条件の53L/minとし、付着堆積量1420gとなるところで堆積を終了した。多孔質ガラス層の平均密度は0.35g/cm
3であった。その後、電気炉を用いて塩素含有雰囲気下で1200℃に加熱して脱水した後、四フッ化ケイ素含有雰囲気下で1350℃に加熱し、透明ガラス化して外径47mmの光ファイバ用ガラス母材を得た。得られた光ファイバ用ガラス母材には、出発母材と第2クラッドとの界面での剥がれはなかった。この母材を輪切りにして切断面を鏡面研磨して分析サンプルを作製しOH基濃度を測定したところ、OH基濃度は、出発母材と第2クラッドとの界面位置で最大となり1.7ppmであった。
【0034】
[比較例1]
実施例1と同様の方法により外径35mm、長さ600mmのコアおよび第1クラッドを有する出発母材を作製した。この出発母材の表面を水素流量50L/min、酸素流量25L/minの酸水素火炎を90mm/minの移動速度で一往復させて、火炎研磨をした。その後、この出発母材上にOVD法で第2クラッドの多孔質ガラス層を堆積した。原料供給開始直後の堆積1往復目から堆積終了まで水素流量を定常条件の53L/min、酸素流量を44L/minとした。付着堆積量1800gとなるところで堆積を終了した。多孔質ガラス層の平均嵩密度は0.33g/cm
3であった。その後、電気炉を用いて塩素含有雰囲気下で1200℃に加熱して脱水した後、四フッ化ケイ素含有雰囲気下で1350℃に加熱し、透明ガラス化した。得られた光ファイバ用ガラス母材には、出発母材と第2クラッドとの界面で剥がれが発生していたため、赤外吸収分光によるOH基濃度分析や、屈折率分布測定は行なえなかった。
【0035】
[比較例2]
実施例1と同様の方法により外径35mm、長さ600mmのコアおよび第1クラッドを有する出発母材を作製した。この出発母材の表面を水素流量50L/min、酸素流量25L/minの酸水素火炎を90mm/minの移動速度で一往復させて、火炎研磨をした。続いて、この出発母材上にOVD法で第2クラッドの多孔質ガラス層を堆積した。原料供給開始直後の堆積1往復目は水素流量を110L/min、酸素流量を44L/minとした。
【0036】
堆積2往復目以降の水素流量は、定常条件の53L/minよりも低減した36L/minから始めて徐々に低減して11往復目で51%低減した26L/minとし、その後徐々に水素流量を増大して36層目までは連続して水素流量が低減されたガス条件で堆積を行ない、37層目で定常の53L/minに戻した。付着堆積量1600gとなるところで堆積を終了した。多孔質ガラス層の平均嵩密度は0.28g/cm
3であった。その後、電気炉を用いて塩素含有雰囲気下で1200℃に加熱して脱水した後、四フッ化ケイ素含有雰囲気下で1350℃に加熱し、透明ガラス化して外径51mmの光ファイバ用ガラス母材を得た。得られた光ファイバ用ガラス母材には、出発母材と第2クラッドとの界面で剥がれが発生していたため、赤外吸収分光によるOH基濃度分析や、屈折率分布測定は行なえなかった。
【0037】
このように、コア及び第1クラッドを有する出発母材上に第2クラッドを形成する工程において、原料供給開始直後の堆積1往復目の水素流量を定常条件より増やした条件でガラス微粒子を堆積する。これにより、出発母材と第2クラッドとの界面での剥がれをなくすことができる。さらに、1往復目の水素流量を定常条件より増やす量は30%以上とし、堆積2往復目以降の水素流量を定常条件よりも低減する量は35〜50%とする。これにより、第1クラッドと第2クラッドとの界面位置でのOH基濃度のピーク値を低減することができる。その結果、最終製品の光ファイバにおいて、界面OH基に起因する伝送損失を一層低減できる、という優れた効果を奏する。
【0038】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0039】
特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。