特許第6160091号(P6160091)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6160091塗料塗布装置、塗料塗布方法及びエナメル線の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6160091
(24)【登録日】2017年6月23日
(45)【発行日】2017年7月12日
(54)【発明の名称】塗料塗布装置、塗料塗布方法及びエナメル線の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B05C 3/15 20060101AFI20170703BHJP
   B05C 11/02 20060101ALI20170703BHJP
   B05C 11/10 20060101ALI20170703BHJP
   H01B 13/16 20060101ALI20170703BHJP
   B05D 1/40 20060101ALI20170703BHJP
   B05D 7/20 20060101ALI20170703BHJP
【FI】
   B05C3/15
   B05C11/02
   B05C11/10
   H01B13/16 C
   B05D1/40 Z
   B05D7/20
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-12557(P2013-12557)
(22)【出願日】2013年1月25日
(65)【公開番号】特開2014-144384(P2014-144384A)
(43)【公開日】2014年8月14日
【審査請求日】2015年5月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100105256
【弁理士】
【氏名又は名称】清野 仁
(72)【発明者】
【氏名】船山 泰弘
【審査官】 平井 裕彰
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−232378(JP,A)
【文献】 実開昭59−048773(JP,U)
【文献】 実開平05−015227(JP,U)
【文献】 実公昭36−025572(JP,Y1)
【文献】 実公昭36−028677(JP,Y1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05C 1/00〜 3/20
7/00〜21/00
B05D 1/00〜 7/26
H01B13/02〜13/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面形状が平角形状の走行線の周囲に塗料を塗布する塗布部と、
前記走行線の走行路上に移動可能に設けられ、前記走行線を通過させることで前記走行線の周囲に余剰に塗布された前記塗料を除去する金型、前記金型を保持する保持部材、及び前記金型の前記走行線の周方向への回動を維持する回動維持部材を有する余剰塗料除去部と、を備え、
前記金型は、前記走行線の走行方向の端部に設けられ、前記走行方向と直交する方向の大きさが前記回動維持部材よりも小さい係止部(ただし、前記金型の前記端部側の一部が収容される開口部が形成されている係止部を除く)を有し、
前記回動維持部材は、前記走行線が前記金型内を通過する際、前記係止部と前記保持部材とによって挟まれるように設けられ、
前記回動維持部材は、前記走行線の周方向に回転可能なスラストベアリングであることを特徴とする塗料塗布装置。
【請求項2】
塗布部で断面形状が平角形状の走行線の周囲に塗料を塗布する塗布工程と、
前記走行線の走行路上に移動可能に設けられ、前記走行線の周方向への回動を維持する回動維持部材が設けられた金型に前記走行線を通過させることで、前記走行線の周囲に余剰に塗布された前記塗料を除去する工程と、を有し、
前記金型は、前記走行線の走行方向の端部に設けられ、前記走行方向と直交する方向の大きさが前記回動維持部材よりも小さい係止部(ただし、前記金型の前記端部側の一部が収容される開口部が形成されている係止部を除く)を有し、
記回動維持部材は、前記走行線が前記金型内を通過する際、前記係止部と前記保持部材とによって挟まれるように設けられ、
前記回動維持部材は、前記走行線の周方向に回転可能なスラストベアリングである
ことを特徴とする塗料塗布方法。
【請求項3】
塗布部で断面形状が平角形状の走行線の周囲に塗料を塗布する工程と、
前記走行線の走行路上に移動可能に設けられ、前記走行線の周方向への回動を維持する回動維持部材が設けられた金型に前記走行線を通過させることで、前記走行線の周囲に余剰に塗布された前記塗料を除去する工程と、
前記走行線を硬化部に送り、前記塗料を硬化させる工程と、を有し、
前記金型は、前記走行線の走行方向の端部に設けられ、前記走行方向と直交する方向の大きさが前記回動維持部材よりも小さい係止部(ただし、前記金型の前記端部側の一部が収容される開口部が形成されている係止部を除く)を有し、
前記回動維持部材は、前記走行線が前記金型内を通過する際、前記係止部と前記保持部材とによって挟まれるように設けられ、
前記回動維持部材は、前記走行線の周方向に回転可能なスラストベアリングである
ことを特徴とするエナメル線の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料塗布装置、塗料塗布方法及びエナメル線の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えば銅や鋼などの金属線材(走行線)の周囲に、絶縁塗料等の塗料を塗布して塗料層(絶縁層)を形成することが行われている。このような塗料層の形成は、例えば、塗料が貯留される塗料槽と、走行線の走行路上で、塗料槽の下流側に移動可能に設けられるダイス(金型)と、ダイスを保持するダイスホルダと、を備える塗料塗布装置によって行われている。ダイスには、貫通孔が設けられている。塗料塗布装置は、金属線材等の走行線が、塗料槽を通過した後、ダイスに設けられた貫通孔内を通過することで、走行線に塗布された余分な塗料を除去するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−156456号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、走行線がダイスを通過し、走行線に塗布された塗料が除去される際、ダイスが走行線の走行路上を移動し、ダイスがダイスホルダに強固に押し付けられる場合があった。従って、ダイスとダイスホルダとの間に大きな摩擦力が発生する場合があった。このため、ダイスが走行線の走行方向に移動しなくなるとともに、周方向にも移動(回動)しなくなる場合があった。塗料の粘度が高い場合、ダイスとダイスホルダとの間に発生する摩擦力がより大きくなる場合があった。
【0005】
走行線の走行位置は、塗料塗布装置内の風や、張力変動などの影響で、一定であるとは限らない。すなわち、走行線の走行位置にズレや捩れが発生する場合がある。このとき、ダイスがダイスホルダに強固に押し付けられ、ダイスが走行線の周方向に移動(回動)しない場合、走行線の走行位置のズレや捩じれにダイスが追従することができない場合があった。従って、走行線が、ダイスホルダに設けられた貫通孔の中心を通過しない場合があった。このため、走行線の周囲に均一に塗料が塗布されるように塗料を調整することができず、走行線の周囲に均一に塗料を塗布することができない場合があった。その結果、走行線の周囲に形成された塗料層に傾きや偏りが生じる場合があった。
【0006】
そこで、本発明は、上記課題を解決し、走行線の周囲に均一に塗料を塗布できる塗料塗布装置、塗料塗布方法及びエナメル線の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は次のように構成されている。
本発明の第1の態様によれば、断面形状が平角形状の走行線の周囲に塗料を塗布する塗布部と、前記走行線の走行路上に移動可能に設けられ、前記走行線を通過させることで前記走行線の周囲に余剰に塗布された前記塗料を除去する金型、前記金型を保持する保持部材、及び前記金型の前記走行線の周方向への回動を維持する回動維持部材を有する余剰塗料除去部と、を備え、前記金型は、前記走行線の走行方向の端部に設けられ、前記走行方向と直交する方向の大きさが前記回動維持部材よりも小さい係止部(ただし、前記金型の前記端部側の一部が収容される開口部が形成されている係止部を除く)を有し、前記回動維持部材は、前記走行線が前記金型内を通過する際、前記係止部と前記保持部材とによって挟まれるように設けられ、前記回動維持部材は、前記走行線の周方向に回転可能なスラストベアリングである塗料塗布装置が提供される。
【0011】
本発明の第2の態様によれば、塗布部で断面形状が平角形状の走行線の周囲に塗料を塗布する塗布工程と、前記走行線の走行路上に移動可能に設けられ、前記走行線の周方向への回動を維持する回動維持部材が設けられた金型に前記走行線を通過させることで、前記走行線の周囲に余剰に塗布された前記塗料を除去する工程と、を有し、前記金型は、前記走行線の走行方向の端部に設けられ、前記走行方向と直交する方向の大きさが前記回動維持部材よりも小さい係止部(ただし、前記金型の前記端部側の一部が収容される開口部が形成されている係止部を除く)を有し、前記回動維持部材は、前記走行線が前記金型内を通過する際、前記係止部と前記保持部材とによって挟まれるように設けられ、前記回動維持部材は、前記走行線の周方向に回転可能なスラストベアリングである塗料塗布方法が提供される。
【0012】
本発明の第3の態様によれば、塗布部で断面形状が平角形状の走行線の周囲に塗料を塗布する工程と、前記走行線の走行路上に移動可能に設けられ、前記走行線の周方向への回動を維持する回動維持部材が設けられた金型に前記走行線を通過させることで、前記走行線の周囲に余剰に塗布された前記塗料を除去する工程と、前記走行線を硬化部に送り、前記塗料を硬化させる工程と、を有し、前記金型は、前記走行線の走行方向の端部に設けられ、前記走行方向と直交する方向の大きさが前記回動維持部材よりも小さい係止部(ただし、前記金型の前記端部側の一部が収容される開口部が形成されている係止部を除く)を有し、前記回動維持部材は、前記走行線が前記金型内を通過する際、前記係止部と前記保持部材とによって挟まれるように設けられ、前記回動維持部材は、前記走行線の周方向に回転可能なスラストベアリングであることを特徴とするエナメル線の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明にかかる塗料塗布装置、塗料塗布方法及びエナメル線の製造方法によれば、走行線の周囲に均一に塗料を塗布できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態にかかる塗料塗布装置の概略構成図である。
図2】本発明の他の実施形態にかかる塗料塗布装置の概略構成図である。
図3】本発明の一実施例にかかる平角エナメル線の概略断面図である。
図4】本発明の一実施例にかかる塗料塗布装置によって製作した平角エナメル線の塗料層の厚さの測定結果を示すグラフ図である。
図5】本発明の一実施例にかかる塗料塗布装置によって製作した平角エナメル線の塗料層の厚さの測定結果を示すグラフ図である。
図6】本発明の他の実施例にかかる塗料塗布装置によって製作した平角エナメル線の塗料層の厚さの測定結果を示すグラフ図である。
図7】比較例にかかる塗料塗布装置によって製作した平角エナメル線の塗料層の厚さの測定結果を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(1)塗料塗布装置
まず、本発明の一実施形態にかかる塗料塗布装置について、主に図1を参照しながら説明する。図1は、本実施形態にかかる塗料塗布装置10の概略構成図である。
【0016】
(塗布部)
図1に示すように、塗料塗布装置10は、走行線11の周囲に塗料を塗布する塗布部を備えている。塗布部は、例えば塗料が貯留される塗料槽12を備えている。塗料槽12には、走行線11が搬入される入口孔と、走行線11が搬出される出口孔とが形成されている。入口孔と出口孔とは、それぞれ対向するように設けられている。塗料槽12は、例えば走行線11が鉛直上方向に(紙面の手前側から奥側に向かって)走行されるように設けられている。なお、走行線11としては、例えば銅線等の導体を用いることができる。塗料槽12に溜められる塗料としては、例えば紫外線硬化性樹脂や熱硬化性樹脂等の絶縁塗料を用いることができる。
【0017】
(余剰塗料除去部)
塗布部(塗料槽12)の下流側には、走行線11の周囲に塗布された塗料の厚さ(塗料の付き回り)を調整する金型としてダイス13が設けられている。ダイス13は、走行線11の周囲に塗布された余剰な塗料を除去するように形成されている。ダイス13は例えば円筒形状に形成されているが、これに限定されるものではない。
【0018】
ダイス13には、貫通孔14が設けられており、貫通孔14内を走行線11が通過するように構成されている。貫通孔14は、例えば、入口側(上流側)から出口側(下流側)に向かって径が小さくなるようなテーパ形状に形成されているとよい。ダイス13の貫通孔14の出口は、走行線11に塗布された余剰な塗料を除去する機能を有する。従って、貫通孔14の出口の平面形状は、走行線11に塗布された塗料を硬化させて形成される塗料層の形状を所望とする形状に成形できる形状に形成されている。例えば、貫通孔14の出口の平面形状は、走行線11の走行方向と直交する方向の断面と相似する形状に形成されているとよい。なお、貫通孔14の入口の平面形状は、走行線11を送ることができる形状であれば、任意の形状とすることができる。すなわち、貫通孔14の入口の平面形状は、貫通孔14の出口の平面形状と同じ形状であってもよく、異なる形状であってもよい。また、ダイス13内の貫通孔14の平面形状は、貫通孔14内を走行線11が通過することができる形状であれば、任意の形状とすることができる。
【0019】
ダイス13は、走行線11の走行路上に、走行線11の走行方向及び周方向に移動可能に設けられている。すなわち、ダイス13は、走行線11の走行路上に往復移動し、かつ、走行線11の周方向に回動するように設けられている。また、ダイス13の両端にはそれぞれ、後述するダイスホルダ17に係止される係止部15,16が設けられている。なお、ダイス13の下流側の係止部16は設けられていなくてもよい。
【0020】
ダイス13は、ダイス13を保持する保持部材としてのダイスホルダ17に着脱自在に設けられている。ダイスホルダ17は、ダイス13の両端に設けられた係止部15,16の間に配設されている。
【0021】
走行線11の走行路上のダイス13よりも下流側には、走行線11がダイス13(ダイス13の貫通孔14)内を通過し、走行線11に塗布された余剰な塗料が除去される際、ダイス13の走行線11の周方向への動き(回動)を維持する回動維持部材18が設けられている。回動維持部材18は、走行線11がダイス13内を通過する際、ダイス13が走行線11の走行方向に引っ張られる力とは逆方向の力をダイス13に加えることができるように設けられている。例えば、回動維持部材18は、ダイス13の下流側の端面(ダイス13の上面)に設けられている。回動維持部材18は、走行線11の走行路上に着脱自在に設けられている。
【0022】
これにより、走行線11がダイス13内を通過する際、ダイス13の走行線11の周方向への回動が維持される。従って、走行線11の動きにダイス13を追従させることができる。すなわち、ダイス13の追従性を向上させることができる。
【0023】
すなわち、回動維持部材18によって、走行線11がダイス13内を通過する際、ダイス13が走行線11の走行方向に移動し(鉛直方向上側に引き上げられ)、ダイス13の上流側に設けられた係止部15とダイスホルダ17とが接触することを抑制できる。従って、ダイス13の係止部15とダイスホルダ17との間に摩擦力が発生することを抑制できる。従って、ダイス13の走行線11の周方向への回動が維持される。
【0024】
これにより、走行線11の走行位置のズレが発生したり、捻じれが発生した場合、ダイス13が走行線11の周囲を回動することによって、走行線11がダイス13の貫通孔14の出口の中心位置を通過するように、走行線11の位置ズレを修正することができる(センタリング効果)。従って、走行線11の周囲に塗布された塗料を均一な厚さに調整することができる。
【0025】
回動維持部材18としては、例えば錘を用いることができる。このとき、錘の重さは、ダイス13に走行線11を通過させた際、ダイスホルダ17が係止部15に接触しないように、塗料の粘度や走行線11の走行速度等によって調整するとよい。すなわち、塗料の粘度が低い場合や、走行線11の走行速度が遅い場合には、錘の重さは比較的軽量でよい。塗料の粘度が高い場合や、走行線11の走行速度が速い場合には、錘の重さを重くする必要がある。しかしながら、錘の重さが重すぎると、ダイス13が走行線11の動きに対して追従する速度が遅くなり、ダイス13の追従性が低下する場合がある。
【0026】
なお、回動維持部材18は、例えば主錘19と1つ以上の微調整錘20とを備えていてもよい。また、回動維持部材18は、所定の重さを有する1つの錘を用いてもよい。
【0027】
主に、ダイス13と、ダイスホルダ17と、回動維持部材18としての錘と、により余剰塗料除去部が構成されている。
【0028】
余剰塗料除去部の下流側には、走行線11の周囲に塗布され、余剰塗料除去部にて厚さが調整された塗料を硬化させる硬化部としての硬化炉21が設けられていてもよい。これにより、走行線11の周囲に塗布された塗料を硬化させ、走行線11の周囲に塗料層を形成することができる。
【0029】
(2)塗料塗布方法及びエナメル線の製造方法
次に、上述の塗料塗布装置10を用いて、走行線11に塗料を塗布する塗料塗布方法の一実施形態について説明する。ここでは、一例として、走行線11として導体である銅線を用い、塗料として熱硬化性樹脂を用い、銅線の周囲に熱硬化性樹脂を塗布して塗料層を形成し、エナメル線を製造する場合について説明する。
【0030】
(塗料塗布工程)
走行線11を塗布部が備える塗布部である塗料槽12に送り、走行線11の周囲(外周)に、塗料として例えば熱硬化性樹脂を塗布する。
【0031】
(余剰塗料除去工程)
続いて、塗料を塗布した走行線11をダイス13に設けられた貫通孔14内に送り、走行線11に余剰に塗布した塗料を除去し、走行線に塗布した塗料の厚さ(塗料の付き回り)を調整する。ダイス13には、ダイス13の走行線11の周方向への回動を維持する回動維持部材18としての錘が設けられている。これにより、走行線11の動きにダイス13が追従する。従って、走行線11の走行位置のズレが発生したり、捻じれが発生した場合、走行線11の周囲をダイス13が回動することで、走行線11がダイス13の貫通孔14の出口の中心位置を通過するように、走行線11の走行位置のズレを修正する。
【0032】
(硬化工程)
ダイス13を通過し、塗料の厚さを調整した走行線11を硬化部としての硬化炉21に送り、塗料を硬化させて走行線の周囲を被覆する塗料層を形成してエナメル線を得る。そして、エナメル線の製造工程を終了する。
【0033】
(3)本実施形態にかかる効果
本実施形態によれば、以下に示す1つまたは複数の効果を奏する。
【0034】
本実施形態によれば、余剰塗料除去部は、走行線11の走行路上に移動可能に設けられ、走行線11の周囲に塗布された塗料を走行線11を貫通させることで除去するダイス13を備えている。また、余剰塗料除去部は、ダイス13の走行線11の周方向への回動を維持する回動維持部材18としての錘を備えている。これにより、走行線11の動きにダイス13を追従させることができる。従って、走行線11の走行位置のズレが発生したり、捻じれが発生した場合、ダイス13が走行線11の周囲を回動することによって、走行線11がダイス13の貫通孔14の出口の中心位置を通過するように、走行線11の位置ズレを修正することができる。従って、走行線11の周囲に塗布された塗料を均一な厚さに調整することができる。すなわち、走行線11の塗料の付き回りを均一にすることができる。
【0035】
(本発明の他の実施形態)
以上、本発明の一実施形態を具体的に説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能でる。
【0036】
上述の実施形態では、回動維持部材18として錘を用いる場合について説明したが、本発明はかかる形態に限定されない。すなわち、回動維持部材18として、軸受部材を用いてもよい。以下、回動維持部材18として軸受部材を備える塗料塗布装置10Aについて、主に図2を用いて説明する。図2は、本実施形態にかかる塗料塗布装置10Aの概略構成図である。
【0037】
図2に示すように、本実施形態にかかる塗料塗布装置10Aが備える余剰塗料除去部は、回動維持部材18として軸受部材を用い、走行線11がダイス13内を通過する際、回動維持部材18がダイス13とダイスホルダ17とによって挟まれるように設けられている点が、上述した実施形態と異なる。その他は、上述した実施形態と同様である。
【0038】
本実施形態にかかる塗料塗布装置10Aが備える余剰塗料除去部では、回動維持部材18が、ダイス13とダイスホルダ17とによって挟まれるように設けられている。すなわち、余剰塗料除去部では、走行線11の走行路の下流側から順に、ダイス13と、回動維持部材18と、ダイスホルダ17とが設けられている。また、回動維持部材18として、例えばスラストベアリング等の軸受部材を用いている。なお、本実施形態では、ダイス13に係止部15,16は設けられていなくてもよい。
【0039】
これにより、走行線11がダイス13を通過する際、ダイス13がダイスホルダ17側に移動し、回動維持部材18を介して、ダイス13がダイスホルダ17に強固に押し付けられた場合であっても、ダイス13は、回動維持部材18である軸受部材によって、走行線11の周方向へ回動自在に軸支されている。従って、走行線11の走行位置がズレたり、走行線11に捻じれが発生した場合であっても、走行線11がダイス13に設けられた貫通孔14の出口の中心位置を通過するように、ダイス13を走行線11の動きに追従させることができる。その結果、走行線11の周囲に塗布された塗料を均一な厚さに調整することができる。
【実施例】
【0040】
次に、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0041】
(実施例1)
実施例1では、回動維持部材18として錘が設けられた塗料塗布装置10を用い、断面形状が平角形状の銅線11Aの周囲に熱硬化性樹脂を被覆して塗料層22を形成し、図3に示すような平角エナメル線(1.9mm×3.0mm、R0.3)を製作した。これを実施例1の試料とした。そして、製作した実施例1の試料である平角エナメル線を1000m毎に切断し、11個のサンプルを切り出した。そして、11個の各サンプルの切断面につき、塗料層22の厚さ(皮膜厚さ)を測定した。その結果を、図4に示す。図4から、実施例1の試料では、バラツキ(塗料層22の厚さの最大値と最小値との差)は0.007mmであることが確認された。従って、実施例1の試料では、走行線11である銅線11Aの周囲にほぼ均一な厚さの塗料層22が形成されていることが確認された。すなわち、実施例1では、走行線の周囲に均一に塗料を塗布できることが確認された。
【0042】
また、実施例1の試料から、1000cmの長さのサンプルを切り出した。そして、切り出したサンプルの切断面の塗料層22の厚さ(皮膜厚さ)を、コンフォーカル顕微鏡にてサンプルの長さ方向に連続的に測定した。その結果を図5に示す。図5から、実施例1の試料では、切断面で同一箇所の長さ方向における塗料層22の厚さのバラツキは6μm程度であることが確認された。従って、実施例1の試料では、走行線の長さ方向にも均一な厚さの塗料層22が形成されていることが確認された。
【0043】
(実施例2)
実施例2では、回動維持部材18としてスラストベアリングが設けられた塗料塗布装置10を用いたことを除くその他の点は、実施例1と同様にして図3に示すような平角エナメル線を製作した。これを実施例2の試料とした。実施例2の試料から、1000cmの長さのサンプルを切り出した。そして、切り出したサンプルの切断面の塗料層22の厚さ(皮膜厚さ)を、コンフォーカル顕微鏡にてサンプルの長さ方向に連続的に測定した。その結果を図6に示す。図6から、実施例2の試料では、切断面で同一箇所の長さ方向における塗料層22の厚さのバラツキは7μm程度であることが確認された。従って、実施例2の試料では、走行線の長さ方向にも均一な厚さの塗料層22が形成されていることが確認された。また、回動維持部材18として軸受部材を用いた方が、錘を用いた場合と比べて、ダイス13の追従性をより向上させることができ、走行線11の周囲により均一に塗料を塗布できることが確認できた。
【0044】
(比較例)
比較例では、回動維持部材18が設けられていない塗料塗布装置を用いたことを除くその他の点は、実施例1と同様にして図3に示すような平角エナメル線を製作した。これを比較例の試料とした。そして、製作した比較例の試料である平角エナメル線を1000m毎に切断し、11個のサンプルを切り出した。そして、11個の各サンプルの断面につき、塗料層22の厚さ(皮膜厚さ)を測定した。その結果を、図7に示す。図7から、比較例の試料では、バラツキは0.013mmであることが確認された。従って、比較例の試料では、走行線11である銅線の周囲に形成される塗料層の厚さが、実施例で製作した平角エナメル線の塗料層22の厚さよりもバラツキが大きく、均一な厚さの塗料層22が形成されていないことが確認された。すなわち、比較例では、走行線の周囲に均一に塗料を塗布することが難しいことが確認された。
【符号の説明】
【0045】
10 塗料塗布装置
11 走行線
12 塗料槽(塗布部)
13 ダイス(金型)
17 ダイスホルダ(保持部材)
18 回動維持部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7