特許第6160284号(P6160284)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6160284絶縁寿命推定方法および絶縁寿命推定装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6160284
(24)【登録日】2017年6月23日
(45)【発行日】2017年7月12日
(54)【発明の名称】絶縁寿命推定方法および絶縁寿命推定装置
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/12 20060101AFI20170703BHJP
【FI】
   G01R31/12 A
   G01R31/12 B
【請求項の数】5
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2013-126478(P2013-126478)
(22)【出願日】2013年6月17日
(65)【公開番号】特開2015-1461(P2015-1461A)
(43)【公開日】2015年1月5日
【審査請求日】2015年8月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100105256
【弁理士】
【氏名又は名称】清野 仁
(72)【発明者】
【氏名】角 陽介
【審査官】 荒井 誠
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−300810(JP,A)
【文献】 特開平10−185980(JP,A)
【文献】 米国特許第06133746(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/12−31/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体と絶縁体とを備えて構成された試料における絶縁寿命を推定する絶縁寿命推定方法であって、
前記試料での部分放電による放電電荷量と当該試料の絶縁破壊との相関情報を得る情報取得ステップと、
前記絶縁寿命の推定を行う段階で前記試料に部分放電を発生させて当該部分放電による放電電荷量を検出する電荷量検出ステップと、
前記情報取得ステップで得た相関情報を基に、前記電荷量検出ステップで検出した放電電荷量から前記試料が絶縁破壊に至るまでの期間を求め、前記絶縁寿命の推定結果とする寿命推定ステップと、
を備え、
前記情報取得ステップでは、前記相関情報として、前記試料が絶縁破壊に至るまでの総放電電荷量を特定する情報を取得し、
前記電荷量検出ステップでは、前記試料で発生した部分放電による単位時間当たりの放電電荷量を検出し、
前記寿命推定ステップでは、前記総放電電荷量を前記単位時間当たりの放電電荷量で除して、前記試料の使用開始から当該試料が絶縁破壊に至るまでの期間を求める
ことを特徴とする絶縁寿命推定方法。
【請求項2】
前記情報取得ステップに先立ち、前記試料の使用開始から当該試料が絶縁破壊に至るまで、当該試料での部分放電による放電電荷量を検出し続けて、その検出結果から前記相関情報を生成して記憶保持しておく事前準備ステップを備え、
前記情報取得ステップでは、前記事前準備ステップで記憶保持した前記相関情報を読み出すことで、当該相関情報を取得する
ことを特徴とする請求項に記載の絶縁寿命推定方法。
【請求項3】
導体と絶縁体とを備えて構成された試料における絶縁寿命を推定する絶縁寿命推定装置であって、
前記試料での部分放電による放電電荷量と当該試料の絶縁破壊との相関情報を得る情報取得部と、
前記絶縁寿命の推定を行う段階で前記試料に部分放電を発生させて当該部分放電による放電電荷量を検出する電荷量検出部と、
前記情報取得部で得た相関情報を基に、前記電荷量検出部で検出した放電電荷量から前記試料が絶縁破壊に至るまでの期間を求め、前記絶縁寿命の推定結果とする寿命推定部と、
を備え、
前記情報取得部では、前記相関情報として、前記試料が絶縁破壊に至るまでの総放電電荷量を特定する情報を取得し、
前記電荷量検出部では、前記試料で発生した部分放電による単位時間当たりの放電電荷量を検出し、
前記寿命推定部では、前記総放電電荷量を前記単位時間当たりの放電電荷量で除して、前記試料の使用開始から当該試料が絶縁破壊に至るまでの期間を求める
ことを特徴とする絶縁寿命推定装置。
【請求項4】
前記相関情報を記憶保持するデータベース部を備え、
前記情報取得部は、前記データベース部が記憶保持する前記相関情報を読み出すことで、当該相関情報を取得する
ことを特徴とする請求項記載の絶縁寿命推定装置。
【請求項5】
前記試料の使用開始から当該試料が絶縁破壊に至るまで、当該試料での部分放電による放電電荷量を検出し続けて、その検出結果から前記相関情報を生成して、前記データベース部に記憶保持させる情報生成部
を備えることを特徴とする請求項記載の絶縁寿命推定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁寿命を推定する絶縁寿命推定方法および絶縁寿命推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エナメル線等の電線は、導体の周囲を囲うように絶縁体(絶縁皮膜)が設けられて構成されている。このような導体と絶縁体とを備えて構成された電線は、その使用条件や使用環境等によっては部分放電が発生することがある。部分放電とは、絶縁体中または導体と絶縁体との間における微小なボイド(空隙)で微弱な電気的スパーク(放電現象)が発生することをいう。電線は、部分放電が発生すると、これにより絶縁体が破壊されて絶縁状態を保てなくなる絶縁破壊に至るおそれがある。そのため、電線については、想定される使用条件や使用環境等において、絶縁体が絶縁破壊に至るまでの期間(すなわち絶縁寿命)を推定することが広く行われている。
【0003】
電線の絶縁寿命を推定する方法としては、当該電線のV−t(V:印加電圧、t:破壊時間)特性を利用したものが一般的である。ただし、近年は、例えば電動機用電源としてインバータ電源が用いられることが多く、そのため電線に急峻な過電圧(インバータサージ電圧)が印加されることを考慮する必要がある。このことから、従来における絶縁寿命推定方法には、例えば、交流電圧下の部分放電開始電圧(Partial Discharge Inception Voltage、以下「PDIV」という。)に対するインバータサージ電圧下のPDIVの増加分だけ、交流電圧下のV−t特性をシフトしてインバータサージ電圧下のV−t特性とすることで、インバータサージ電圧の印加時でも絶縁寿命を推定し得るようにしたものがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−80006号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電線の絶縁寿命は、部分放電によって支配される(影響される)と考えられる。そして、その部分放電は、印加電圧波形条件(立上り時間、パルス幅等)の影響を受ける。例えば、インバータサージ電圧下において、PDIVは、印加電圧の波形の立ち上がり時間の影響を受ける。このように、絶縁寿命に影響を及ぼす部分放電は、印加電圧波形条件によって発生態様が異なり得る。
【0006】
ところが、従来のV−t特性を利用した絶縁寿命推定方法では、事前に行うV−t試験において印加電圧波形条件が固定で一定の波高値の電圧を電線に課電し続けて絶縁破壊までの期間を測定し、その結果に基づき実使用での電線の絶縁寿命を推定する。つまり、実使用下では印加電圧波形条件が種々異なり電圧値も時々刻々と変化するにも拘らず、その実使用での電線の絶縁寿命推定結果については、当該実使用下における印加電圧波形条件の影響が考慮されたものとはなっていない。このことは、特にインバータサージ電圧下で顕著であると考えられる。そのため、従来における絶縁寿命推定方法では、絶縁寿命推定結果についての信頼性が必ずしも十分であるとは言えない。
【0007】
この点については、例えば、想定される様々な印加電圧波形条件に合わせてV−t試験を実施し、実使用での印加電圧波形条件が変わればその都度V−t試験を実施することも考えられる。しかしながら、その都度V−t試験を実施することは、効率的ではない。
また、従来の絶縁寿命推定方法としては、特許文献1のようにインバータサージ電圧が印加されることを考慮したものもあるが、そのためにはPDIV比でV−t特性を換算しなければならず、V−t特性の換算を要する分だけ効率的ではない。
【0008】
そこで、本発明は、印加電圧波形条件の影響を考慮して絶縁寿命を推定し得るようにすることで、絶縁寿命推定結果についての信頼性向上を図りつつ、その場合であっても絶縁寿命の推定を効率的に行うことのできる絶縁寿命推定方法および絶縁寿命推定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記目的を達成するために案出されたものである。
本発明の第1の態様によれば、
導体と絶縁体とを備えて構成された試料における絶縁寿命を推定する絶縁寿命推定方法であって、
前記試料での部分放電による放電電荷量と当該試料の絶縁破壊との相関情報を得る情報取得ステップと、
前記絶縁寿命の推定を行う段階で前記試料に部分放電を発生させて当該部分放電による放電電荷量を検出する電荷量検出ステップと、
前記情報取得ステップで得た相関情報を基に、前記電荷量検出ステップで検出した放電電荷量から前記試料が絶縁破壊に至るまでの期間を求め、前記絶縁寿命の推定結果とする寿命推定ステップと、
を備え
前記情報取得ステップでは、前記相関情報として、前記試料が絶縁破壊に至るまでの総放電電荷量を特定する情報を取得し、
前記電荷量検出ステップでは、前記試料で発生した部分放電による単位時間当たりの放電電荷量を検出し、
前記寿命推定ステップでは、前記総放電電荷量を前記単位時間当たりの放電電荷量で除して、前記試料の使用開始から当該試料が絶縁破壊に至るまでの期間を求める
ことを特徴とする絶縁寿命推定方法が提供される。
【0012】
本発明の第の態様によれば、
前記情報取得ステップに先立ち、前記試料の使用開始から当該試料が絶縁破壊に至るまで、当該試料での部分放電による放電電荷量を検出し続けて、その検出結果から前記相関情報を生成して記憶保持しておく事前準備ステップを備え、
前記情報取得ステップでは、前記事前準備ステップで記憶保持した前記相関情報を読み出すことで、当該相関情報を取得する
ことを特徴とする第の態様の絶縁寿命推定方法が提供される。
【0013】
本発明の第の態様によれば、
導体と絶縁体とを備えて構成された試料における絶縁寿命を推定する絶縁寿命推定装置であって、
前記試料での部分放電による放電電荷量と当該試料の絶縁破壊との相関情報を得る情報取得部と、
前記絶縁寿命の推定を行う段階で前記試料に部分放電を発生させて当該部分放電による放電電荷量を検出する電荷量検出部と、
前記情報取得部で得た相関情報を基に、前記電荷量検出部で検出した放電電荷量から前記試料が絶縁破壊に至るまでの期間を求め、前記絶縁寿命の推定結果とする寿命推定部と、
を備え、
前記情報取得部では、前記相関情報として、前記試料が絶縁破壊に至るまでの総放電電荷量を特定する情報を取得し、
前記電荷量検出部では、前記試料で発生した部分放電による単位時間当たりの放電電荷量を検出し、
前記寿命推定部では、前記総放電電荷量を前記単位時間当たりの放電電荷量で除して、前記試料の使用開始から当該試料が絶縁破壊に至るまでの期間を求める
ことを特徴とする絶縁寿命推定装置が提供される。
【0014】
本発明の第の態様によれば、
前記相関情報を記憶保持するデータベース部を備え、
前記情報取得部は、前記データベース部が記憶保持する前記相関情報を読み出すことで、当該相関情報を取得する
ことを特徴とする第の態様の絶縁寿命推定装置が提供される。
【0015】
本発明の第の態様によれば、
前記試料の使用開始から当該試料が絶縁破壊に至るまで、当該試料での部分放電による放電電荷量を検出し続けて、その検出結果から前記相関情報を生成して、前記データベース部に記憶保持させる情報生成部
を備えることを特徴とする第の態様の絶縁寿命推定装置が提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、印加電圧波形条件の影響を考慮して絶縁寿命を推定することができ、絶縁寿命推定結果についての信頼性向上を図りつつ、その場合であっても絶縁寿命の推定を効率的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の第1実施形態における絶縁寿命推定装置の概略構成例を示すブロック図である。
図2】本発明の第1実施形態における絶縁寿命推定方法の手順の概要を示すフローチャートである。
図3】本発明の第1実施形態における絶縁寿命推定装置の具体的な回路構成例を示す模式図である。
図4】本発明の第1実施形態における絶縁寿命推定装置のデータロガーに記録される電圧データ(波形データ)の一具体例を示す説明図である。
図5】本発明の第1実施形態における絶縁寿命推定装置のデータロガーに記録される電圧データ(波形データ)の一部を拡大して示す説明図である。
図6】本発明の第1実施形態における事前準備ステップの処理手順の概要を示すフローチャートである。
図7】本発明の第1実施形態における相関情報の一具体例を示す説明図である。
図8】本発明の第1実施形態における電荷量検出ステップの処理手順の概要を示すフローチャートである。
図9】本発明の第2実施形態における相関情報の一具体例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を、図面に基づいて説明する。
ここでは、以下の順序で項分けをして説明を行う。
1.概要
2.第1実施形態
2−1.絶縁寿命推定装置の概略構成
2−2.絶縁寿命推定方法の手順
3.第2実施形態
4.各実施形態の効果
5.変形例等
【0019】
<1.概要>
先ず、本発明に係る絶縁寿命推定方法および絶縁寿命推定装置の概要を説明する。
【0020】
本発明は、部分放電が発生する電線等について、絶縁寿命を推定するためのものである。ここでいう「電線等」は、エナメル線等の電線の他にも、導体と絶縁体とを備えて構成されたものを含む。「部分放電」とは、電線等の絶縁体に絶縁劣化を生じさせる微弱な放電現象のことをいう。「絶縁寿命」とは、電線等の使用開始から当該電線等の絶縁体が絶縁劣化により破壊されて絶縁状態を保てなくなるに至るまでの期間のことをいう。
【0021】
本発明の案出にあたり、本願発明者は、部分放電と絶縁体の絶縁劣化とについて、鋭意検討を行った。その結果、本願発明者は、部分放電と絶縁劣化との間には相関があるとの知見を得た。さらに詳しくは、電線等に発生した部分放電の電荷量(以下「放電電荷量」という。)とその部分放電による絶縁劣化で浸食される絶縁体の体積とは一定の関係性があり、しかもその関係性は電線等への印加電圧波形条件が変わっても(例えばインバータサージ電圧下であっても)成り立つ、という知見を得た。この知見を基に、本願発明者は、さらに鋭意検討を重ねた結果、放電電荷量を指標として電線等の絶縁寿命を推定するという、これまでには無い新たな寿命評価の手法についての着想を得るに至った。本発明は、このような本願発明者による新たな着想に基づいて成されたものである。
【0022】
本発明に係る絶縁寿命推定方法および絶縁寿命推定装置によれば、以下に述べる手順で電線等の絶縁寿命を推定する。
具体的には、先ず、絶縁寿命の推定対象となる電線等(以下、単に「試料」という。)について、その試料での部分放電による放電電荷量とその試料の絶縁破壊との相関情報を予め特定しておく。ここでいう「相関情報」は、放電電荷量と絶縁破壊との関係性を特定する情報であり、例えば詳細を後述する絶縁破壊に要する総放電電荷量QB.Dや絶縁破壊に至る放電電荷量の経時変化特性等についての情報がこれに該当する。このような相関情報は、同じく詳細を後述する放電電荷量測定を行って特定すればよい。また、特定した相関情報については、データベース部を構築して記憶保持しておくことが考えられる。
その後は、絶縁寿命の推定を行う段階で、試料についての相関情報をデータベース部から読み出して得る一方で、その試料に部分放電を発生させて、その試料で現に発生した部分放電による放電電荷量を検出する。放電電荷量の検出は、詳細を後述するように、予め設定された所定時間につき、試料にPDIVを超える電圧の課電を行って部分放電を発生させ、その部分放電による放電電荷量を例えば残留電荷法による残留電圧検出回路を用いて検出することで行えばよい。つまり、ここでいう「現に」とは、絶縁寿命の推定を行う段階で現実に部分放電を発生させたときの放電電荷量を実際に検出するという意である。
放電電荷量を検出したら、その後は、その検出結果を取得した相関情報と照らし合わせつつ、その相関情報に基づいて試料が絶縁破壊に至るまでの期間を求め、その試料についての絶縁寿命の推定結果とする。これにより、例えば、相関情報が総放電電荷量QB.Dを特定するものである場合には、詳細を後述するように、試料の使用初期段階における放電電荷量から、その試料が絶縁破壊に至るまでの寿命期間を推定することになる。また、例えば、相関情報が放電電荷量の経時変化特性を特定するものである場合には、詳細を後述するように、ある課電時間を経過した後の試料における放電電荷量から、その試料の残存寿命期間を推定することになる。
【0023】
以上のように、本発明に係る絶縁寿命推定方法および絶縁寿命推定装置は、試料の部分放電による放電電荷量を指標としてその試料の絶縁寿命を推定するという手法を採用している。つまり、絶縁体の絶縁破壊と相関のある部分放電の放電電荷量を絶縁寿命推定の指標とすることにより、印加電圧ではなく実際に発生した放電電荷量を基準にして絶縁寿命を推定することになるので、種々異なる印加電圧波形の立ち上がり時間の影響を加味した絶縁寿命推定を行うことが可能となる。したがって、本発明に係る絶縁寿命推定方法および絶縁寿命推定装置によれば、印加電圧波形条件の影響を考慮して絶縁寿命を推定し得るので、絶縁寿命推定結果についての信頼性向上を図りつつ、その場合であっても絶縁寿命の推定を効率的に行うことができる。
【0024】
<2.第1実施形態>
次に、本発明の第1実施形態を説明する。
【0025】
[2−1.絶縁寿命推定装置の概略構成]
図1は、本発明の第1実施形態における絶縁寿命推定装置の概略構成例を示すブロック図である。
【0026】
第1実施形態の絶縁寿命推定装置は、供試される試料1の絶縁寿命を推定するものであり、その試料1が課電部2とグランド(接地)との間に配置されるように構成されている。試料1は、導体と絶縁体とを備えて構成されたものであればよく、例えばエナメル線、撚線、撚対線(ツイストペアケーブル)等の電線が供試され得る。
【0027】
このような試料1の絶縁寿命を推定するために、第1実施形態の絶縁寿命推定装置は、大別すると、課電部2と、部分放電電荷量検出部3と、制御部4と、情報出力部5とを備えている。
【0028】
課電部2は、試料1に対して、当該試料1のPDIVよりも高い電圧を印加して、当該試料1に部分放電を発生させるものである。課電部2による電圧印加は、インバータサージパルスによって行うことが考えられるが、交流電圧やインパルス電圧によるものであっても構わない。このような電圧印加を行う課電部2は、例えばインバータパルス発生器またはサージパルス発生器等といった公知の電圧印加装置を用いて構成すればよい。
【0029】
部分放電電荷量検出部3は、部分放電を発生させた試料1について、その部分放電発生時の放電電荷量を検出するものである。放電電荷量の検出は、例えば詳細を後述するように直列コンデンサを用いた残留電荷法を利用して行うことが考えられるが、これに限定されることはなく、例えば高周波CTを用いた差動検出法、検出インピーダンス法等による放電電流・電圧波形計測によって行っても構わない。
【0030】
制御部4は、試料1の絶縁寿命推定のために必要な処理を行うものである。必要な処理としては、大別すると、絶縁寿命推定のための事前準備処理と、実際に絶縁寿命を推定する寿命推定処理とがある。制御部4は、事前準備処理を行うために、部分放電波形記録部41、部分放電電荷量算出部42、情報算出部43およびデータベース部44としての機能を有している。また、制御部4は、寿命推定処理を行うために、情報取得部45および寿命推定部46としての機能を有している。
【0031】
部分放電波形記録部41は、後に絶縁寿命推定の対象となる試料1と同種の試料1について、使用開始から絶縁破壊に至るまでの長時間にわたり、部分放電電荷量検出部3による放電電荷量の検出結果である波形データを、取りこぼし無く連続的に記録するものである。
部分放電電荷量算出部42は、部分放電波形記録部41が記録した波形データを所定の演算プログラムで処理することにより、当該波形データの1パルス毎の放電電荷量を計算するとともに、使用開始から絶縁破壊に至るまでの放電電荷量を積算するものである。
情報算出部43は、部分放電電荷量算出部42での計算結果に基づき、部分放電波形記録部41が放電電荷量を検出した試料1についての相関情報を生成するものである。具体的には、情報算出部43は、部分放電電荷量算出部42での計算結果である放電電荷量の積算値、すなわち使用開始から絶縁破壊までに要した総放電電荷量QB.D[単位:C]を、相関情報として生成して、データベース部44に記憶保持させるようになっている。
データベース部44は、情報算出部43が生成した相関情報を、その相関情報を得た試料1の種類と関連付けて、記憶保持しておくものである。
【0032】
情報取得部45は、供試される試料1の絶縁寿命を推定するのにあたり、その試料1と同種の試料1についてデータベース部44に記憶保持されている相関情報、すなわち当該試料1が絶縁破壊に至るまでの総放電電荷量QB.Dを特定する情報をデータベース部44内から読み出して取得するものである。
寿命推定部46は、情報取得部45が得た相関情報を基に、部分放電電荷量検出部3で検出した放電電荷量から試料1が絶縁破壊に至るまでの期間を求め、その試料1についての絶縁寿命の推定結果とするものである。さらに具体的には、寿命推定部46は、情報取得部45が総放電電荷量QB.Dを特定する情報を取得するので、詳細を後述するようにその総放電電荷量QB.Dを部分放電電荷量検出部3が検出した単位時間当たりの放電電荷量で除することで、試料1の使用開始から当該試料1が絶縁破壊に至るまでの期間を求めるようになっている。
【0033】
このような各部41〜46としての機能を有する制御部4は、所定プログラムを実行するコンピュータ装置を利用して実現することが考えられる。すなわち、制御部4は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、HDD(Hard disk drive)等の組み合わせからなるコンピュータ装置によって構成される。その場合に、コンピュータ装置は、単数台であってもよいし、通信回線を介して接続された複数台であってもよい。また、複数台の場合は、上述の各部41〜46としての機能が複数台に分散配置されていてもよい。
【0034】
情報出力部5は、制御部4に接続する表示ディスプレイ等からなるもので、制御部4での処理結果についての情報出力を行うものである。情報出力部5が出力する情報としては、試料1についての絶縁寿命の推定結果に関するものが挙げられる。
【0035】
[2−2.絶縁寿命推定方法の手順]
続いて、上述した構成の絶縁寿命推定装置を用いて行う絶縁寿命推定方法の手順について説明する。
図2は、本発明の第1実施形態における絶縁寿命推定方法の手順の概要を示すフローチャートである。
【0036】
第1実施形態の絶縁寿命推定方法では、供試される試料1についての絶縁寿命の推定を、事前準備ステップ(S1)と、情報取得ステップ(S2)と、電荷量検出ステップ(S3)と、寿命推定ステップ(S4)とを順に経て行う。以下、これらの各ステップ(S1〜S4)について、順に説明する。
【0037】
(S1:事前準備ステップ)
事前準備ステップ(S1)は、情報取得ステップ(S2)に先立ち、供試される試料1と同種の試料1について、使用開始から絶縁破壊に至るまで、部分放電による放電電荷量を検出し続けて、その検出結果から相関情報を生成してデータベース部44に記憶保持しておくステップである。
【0038】
(絶縁寿命推定装置の回路構成)
ここで、事前準備ステップ(S1)を行うために用いる絶縁寿命推定装置の具体的な回路構成について、残留電荷法を利用する場合を例に挙げて説明する。
図3は、本発明の第1実施形態における絶縁寿命推定装置の具体的な回路構成例を示す模式図である。なお、図中において、図1に示したものと同一の構成要素については、同一の符号を付している。
【0039】
図例の絶縁寿命推定装置において、試料1には、課電部2から当該試料1のPDIVよりも高い電圧が例えばインバータサージパルスによって印加される。このとき、インバータサージパルスが印加される試料1は、後に絶縁寿命推定の対象となる試料1と同種のものである。
【0040】
また、試料1とグランド(接地)との間には、部分放電電荷量検出部3の一部を構成するコンデンサ3aが、当該試料1と直列に接続されている。コンデンサ3aは、試料1に部分放電が発生することで生じた電荷を溜めるためのものである。そのため、コンデンサ3aとしては、印加電圧の大半が試料1にかかるように、試料1の静電容量よりも大きな静電容量を有するものが用いられる。
コンデンサ3aの両端には、部分放電電荷量検出部3の一部を構成する短絡回路(リフレッシュ回路)3bが接続されている。短絡回路3bは、コンデンサ3a内の過度な電荷の蓄積を定期的にリフレッシュすべく、コンデンサ3aの両端を短絡させて放電させるものである。そのために、短絡回路3bは、例えば、課電部2によるインバータパルス出力に同期して、パルス立ち上がりから一定時間後に駆動パルス(例えば1ms幅)を出力し、リレーを動作させてコンデンサ3aの両端を短絡させるように構成されている。
【0041】
また、コンデンサ3aの両端には、部分放電波形記録部41の一部を構成する複数(例えば2つ)のデータロガー4a,4bが接続されている。データロガー4a,4bは、いずれも、コンデンサ3aの端子電圧を測定するとともに、測定した電圧を例えば波形データ等で記録するように構成されている。これにより、各データロガー4a,4bには、例えば図4及び図5に示すような波形データの形式で、コンデンサ3aの端子電圧が記録されることになる。ここで、図4はデータロガーに記録される電圧データ(波形データ)の一具体例を示しており、図5はデータロガーに記録される電圧データ(波形データ)の一部を拡大して示している。
複数のデータロガー4a,4bを併用するのは、使用開始から絶縁破壊に至るまでの長時間にわたりデータ記録を行う場合であっても、複数のそれぞれをオーバーラップさせながら選択的に動作させることで、データの取りこぼしが生じること無く全てのデータを記録し得るようにするためである。つまり、複数のデータロガー4a,4bを併用することで、例えば1つのデータロガー4aが記録データの転送出力に時間を要しても、その間に他の1つのデータロガー4bが波形データの記録を行う、といったことを行えるようになる。
このように、複数のデータロガー4a,4bを併用することから、各データロガー4a,4bには、図3に示すように、部分放電波形記録部41の一部を構成するタイマ機構4cが接続されている。タイマ機構4cは、データロガー4a,4bの作動の切り替えを行うために、所定時間(例えば10秒)を監視し、その所定時間毎にデータロガー4a,4bに対する作動指示を切り換えるように構成されている。
【0042】
また、データロガー4a,4bには、部分放電電荷量算出部42および情報算出部43として機能するコントローラ4dが電気的に接続されている。そして、コントローラ4dには、所定タイミングで各データロガー4a,4bに記録された電圧データ(波形データ)が転送されてくるようになっている。
コントローラ4dは、データロガー4a,4bからのデータ転送があると、放電電荷量を算出する手順や放電電荷量の累積値を算出する手順等が記載された所定プログラムを実行することにより、放電電荷量の算出、放電電荷量の累積値の算出、放電電荷量や放電電荷量等の算出結果に基づく相関情報の生成等を行うように構成されている。具体的には、コントローラ4dは、部分放電発生前後の検出コンデンサ端電圧の差から部分放電による残留電圧を計算し、コンデンサ容量と残留電圧の積を放電電荷量とする。また、コントローラ4dは、1パルス毎に電荷量を計算し、試料1が絶縁破壊するまでの電荷量の計算・累積をする。これらの計算のためにコントローラ4dが実行する所定プログラムは、公知技術を利用して実現されたものであればよく、例えば放電電荷量の算出であればVBA(Visual Basic for Applications)プログラムを用いることが考えられる。
【0043】
(事前準備ステップの処理手順)
続いて、事前準備ステップ(S1)の処理手順について説明する。
図6は、本発明の第1実施形態における事前準備ステップの処理手順の概要を示すフローチャートである。
【0044】
事前準備ステップ(S1)は、部分放電発生工程(S11)と、電圧記録工程(S12)と、電荷量算出工程(S13)と、累積電荷量算出工程(S14)と、相関情報生成工程(S15)と、を順に経る。
【0045】
(部分放電発生工程)
部分放電発生工程(S11)では、後に絶縁寿命推定の対象となる試料1と同種の試料1に対して、当該試料1のPDIVよりも高い電圧を、課電部2が例えばインバータサージパルスによって印加して、当該試料1に部分放電を発生させる。なお、課電部2による試料1への電圧印加は、当該試料1が絶縁破壊に至ったことが確認できるまで、継続的に行う。
【0046】
(電圧記録工程)
電圧記録工程(S12)では、課電部2による試料1への電圧印加の開始と同時に、データロガー4a,4bの作動を開始し、コンデンサ3aの端子電圧の測定および記録を開始する。そして、データロガー4a,4bをタイマ機構4cによる監視結果に従いつつ所定時間毎に交互に作動させて、少なくとも試料1が絶縁破壊に至るまで、その試料1から出力された電圧を連続して測定し、電圧のデータを記録する。すなわち、試料1が使用開始から絶縁破壊に至るまで、コンデンサ3aの端子電圧を連続して測定し、記録する。
データロガー4a,4bの作動を切り替える際には、所定の時間だけ、各データロガー4a,4bを共に作動させることが望ましい。すなわち、作動切り替えにあたり、複数のデータロガー4a,4bが共に作動する期間を有することが望ましい。このように、データロガー4a,4bを所定時間だけ重複して作動させるようにすれば、コンデンサ3aの端子電圧のデータを連続的に記録する場合に、その記録データの取りこぼしを抑制できる。
コンデンサ3aの端子電圧のデータを記録したら、その後、データロガー4a,4bは、記録したデータを例えば波形データの形式でコントローラ4dへ転送する。具体的には、各データロガー4a,4bは、作動停止から次の作動開始までの間に、一回の作動で記録した電圧のデータを例えば1ファイルとしてコントローラ4dへ転送する。このとき、転送するデータには、どのデータロガー4a,4bで記録したデータであるかを特定する情報を付すことが望ましい。また、コントローラ4dへ転送するデータには、時間情報を付してもよい。
なお、コンデンサ3aに過度の電荷が溜まった際には、コンデンサ3aの両端に接続される短絡回路3bを作動させて、コンデンサ3aの両端を短絡させて放電させるものとする。好ましくは、例えば、課電部2による試料1への電圧の印加開始から所定時間毎に、短絡回路3bを作動させるようにする。これにより、コンデンサ3aに過度の電荷が溜まってしまうことを抑制できるので、コンデンサ3aに加わる電圧を正確に測定できるようになる。
【0047】
(電荷量算出工程)
電荷量算出工程(S13)では、データロガー4a,4bからの転送データを受けると、コントローラ4dがその転送データに基づいて、コンデンサ3a内に残留する電荷量を試料1から放電された放電電荷量として算出する。具体的には、コントローラ4dは、受け取った転送データを基に、試料1にて部分放電が発生する前と後におけるコンデンサ3aの端子電圧の差を認識する。そして、クーロンの法則により、認識したコンデンサ3aの端子電圧の差に、当該コンデンサ3aの静電容量を乗じることで、当該コンデンサ3a内に残留する電荷量を算出し、その算出結果を試料1から放電された放電電荷量と擬制する。
ここで、例えば図5に示す電圧のデータがコントローラ4dに転送されてきた場合について考える。なお、図5中の実線は、部分放電が発生していないときのコンデンサ3aの端子電圧を示し、図5中の点線は、部分放電が発生しているときのコンデンサ3aの端子電圧を示している。このような場合に、コントローラ4dは、試料1から放電された放電電荷量を、下記の(1)式を用いて算出することになる。
【0048】
Q=Cd×(|V2―V1|+|V3―V2|)・・・(1)
ただし、(1)式において、Qは試料1から放電された放電電荷量(コンデンサ3a内の残留電荷量)であり、Cdはコンデンサ3aの静電容量であり、V1,V2,V3はそれぞれ部分放電が発生しているときと部分放電が発生していないときのコンデンサ3aの端子電圧の差の値である。
【0049】
このとき、コントローラ4dは、データロガー4a,4bの一回の作動期間毎(すなわち作動切り替えが生じる毎)に放電電荷量を算出することが考えられる。すなわち、コントローラ4dは、例えば、データロガー4a,4bからの転送ファイル毎に放電電荷量を算出することが考えられる。
なお、データロガー4a,4bを所定時間だけ重複して作動させた場合には、コントローラ4dは、放電電荷量の算出にあたり、重複して作動させた期間の電圧を、その重複分から減算しておくものとする。
このようにして放電電荷量を算出したら、コントローラ4dは、その算出結果を、コントローラ4dがアクセス可能なRAM等に一時的に保存しておく。
【0050】
(累積電荷量算出工程)
累積電荷量算出工程(S14)では、電荷量算出工程(S13)で算出した転送ファイル毎の放電電荷量を、試料1の使用開始から絶縁破壊に至るまでの間、コントローラ4dが累積的に積算していくことで、累積放電電荷量を算出する。すなわち、コントローラ4dは、試料1が絶縁破壊に至るまでの全てのファイルに記載された放電電荷量を累積する。これにより、部分放電の発生によって試料1が絶縁破壊に至るまでの放電電荷量の総和(以下「総放電電荷量」ともいう。)を算出することができる。
【0051】
(相関情報生成工程)
相関情報生成工程(S15)では、電荷量算出工程(S13)で算出した放電電荷量または累積電荷量算出工程(S14)で算出した総放電電荷量に基づき、コントローラ4dが相関情報を生成する。具体的には、コントローラ4dは、累積電荷量算出工程(S14)での算出結果である放電電荷量の積算値を、相関情報の一具体例である総放電電荷量QB.Dとして生成する。
【0052】
図7は、本発明の第1実施形態における相関情報の一具体例を示す説明図である。
図例は、試料1の使用開始から絶縁破壊までに要した総放電電荷量QB.Dの一例を示している。なお、総放電電荷量QB.Dは、試料1の種類によって異なるものとなる。
【0053】
総放電電荷量QB.Dを相関情報として生成すると、その後、相関情報生成工程(S15)において、コントローラ4dは、その生成結果(すなわち総放電電荷量QB.D)を、試料1の種類と関連付けて、データベース部44に記憶保持させる。例えば、絶縁体の材質、寸法、形状等が異なるエナメル線A、エナメル線B、・・・、エナメル線Z等のそれぞれに対して、算出した総放電電荷量QB.Dを、データベース部44に記憶保持させておく。
【0054】
事前準備ステップ(S1)は、以上のような各工程(S11〜S15)を経て行われる。なお、後に絶縁寿命推定の対象となる試料1と同種の試料1についての総放電電荷量QB.Dが既にデータベース部44内に記憶保持されている場合には、改めて事前準備ステップ(S1)を行う必要はない。つまり、既にデータベース部44内に相関情報が存在していれば、事前準備ステップ(S1)についてはその実行を省略しても構わない。
【0055】
(S2:情報取得ステップ)
事前準備ステップ(S1)の終了後、供試される試料1について絶縁寿命の推定を行う必要が生じると、絶縁寿命推定装置は、情報取得ステップ(S2)以降の各ステップを行う。
【0056】
情報取得ステップ(S2)は、供試される試料1についての相関情報を得るステップである。さらに詳しくは、供試される試料1と同種の試料1についてデータベース部44に記憶保持されている相関情報、すなわち当該試料1が絶縁破壊に至るまでの総放電電荷量QB.Dを特定する情報を、データベース部44内から読み出して取得するステップである。
情報取得ステップ(S2)における総放電電荷量QB.Dの読み出しは、情報取得部45として機能するコントローラ4dが行う。
なお、情報取得ステップ(S2)は、寿命推定ステップ(S4)を開始する時点までに完了していればよく、電荷量検出ステップ(S3)と並行して行っても構わない。
【0057】
(S3:電荷量検出ステップ)
電荷量検出ステップ(S3)は、絶縁寿命の推定を行う段階で供試される試料1に部分放電を発生させ、その試料1で現に発生した部分放電による単位時間当たりの放電電荷量を検出するステップである。
【0058】
(絶縁寿命推定装置の回路構成)
電荷量検出ステップ(S3)を行うための絶縁寿命推定装置の具体的な回路構成は、事前準備ステップ(S1)で説明したもの(図3参照)と同様のものを用いればよい。その場合には、コントローラ4dが寿命推定部46として機能する。
ただし、電荷量検出ステップ(S3)では、単位時間当たりの放電電荷量を検出すればよく、事前準備ステップ(S1)の場合のような放電電荷量の累積値の算出を必要としない。そのため、電荷量検出ステップ(S3)で用いる回路構成において、データロガー4a,4bは、複数を併用するように構成されていなくてもよく、単数だけ作動させるように構成されていても構わない。
【0059】
(電荷量検出ステップの処理手順)
続いて、電荷量検出ステップ(S3)の処理手順について説明する。
図8は、本発明の第1実施形態における電荷量検出ステップの処理手順の概要を示すフローチャートである。
電荷量検出ステップ(S3)は、部分放電発生工程(S31)と、電圧記録工程(S32)と、電荷量算出工程(S33)と、を順に経る。
【0060】
(部分放電発生工程)
部分放電発生工程(S31)では、供試される試料1に対して、当該試料1のPDIVよりも高い電圧を、課電部2が例えばインバータサージパルスによって印加して、当該試料1に部分放電を発生させる。なお、課電部2による試料1への電圧印加は、当該試料1の使用初期段階において、予め設定された所定計測期間だけ行えばよい。ここで、「使用初期段階」とは、例えば、試料1の使用開始から所定計測期間が経過するまでのことをいう。ただし、必ずしもこれに限定されることは無く、これと同等に扱うことが可能であり、試料1が絶縁破壊に至るまでの全期間からみて初期とみなせることができる段階であれば、ここでいう「使用初期段階」に含む。また、「所定計測期間」は、単位時間当たりの放電電荷量の検出に十分な期間であればよく、具体的には例えば10秒に設定することが考えられる。
【0061】
(電圧記録工程)
電圧記録工程(S32)では、課電部2による試料1への電圧印加の開始と同時に、データロガー4a,4bの作動を開始し、コンデンサ3aの端子電圧の測定および記録を開始する。そして、少なくとも所定計測期間が過ぎるまでデータロガー4a,4bを作動させて、その試料1から出力された電圧を測定し、電圧のデータを記録する。このとき、所定計測期間の分だけ電圧データを記録できればよいので、データロガー4a,4bの作動切り替えは、行わなくても構わない。
コンデンサ3aの端子電圧のデータを記録したら、その後、データロガー4a,4bは、記録したデータを例えば波形データの形式でコントローラ4dへ転送する。
【0062】
(電荷量算出工程)
電荷量算出工程(S33)では、データロガー4a,4bからの転送データを受けると、コントローラ4dがその転送データに基づいて、コンデンサ3a内に残留する電荷量を試料1から放電された放電電荷量として算出する。放電電荷量の算出は、事前準備ステップ(S1)の電荷量算出工程(S13)の場合と同様に行えばよい。
所定計測期間の放電電荷量を算出したら、コントローラ4dは、その算出結果を所定計測期間の時間値で除して、使用初期段階における単位時間当たりの放電電荷量ΔQs[単位:C/s]を算出する。そして、このようにして単位時間当たりの放電電荷量ΔQsを算出したら、コントローラ4dは、その算出結果を、コントローラ4dがアクセス可能なRAM等に一時的に保存しておく。
【0063】
(S4:寿命推定ステップ)
情報取得ステップ(S2)および電荷量検出ステップ(S3)の後に行う寿命推定ステップ(S4)は、情報取得ステップ(S2)で得た相関情報を基に、電荷量検出ステップ(S3)で検出した単位時間当たりの放電電荷量ΔQsから供試される試料1が絶縁破壊に至るまでの期間を求め、その試料1についての絶縁寿命の推定結果とするステップである。さらに詳しくは、寿命推定ステップ(S4)では、相関情報である総放電電荷量QB.Dを単位時間当たりの放電電荷量ΔQsで除して、供試される試料1の使用開始から当該試料1が絶縁破壊に至るまでの期間を求めるようになっている。
【0064】
具体的には、コントローラ4dは、下記の(2)式を用いて、絶縁寿命の推定結果を得る。
Ts=QB.D/ΔQs・・・(2)
ただし、(2)式において、Tsは供試される試料1の使用開始から絶縁破壊に至るまでの期間[単位:s]であり、QB.Dは試料1が絶縁破壊に至る総放電電荷量[単位:C]であり、ΔQsは試料1の使用初期段階における単位時間当たりの放電電荷量[単位:C/s]である。
【0065】
このようにして得られた期間Tsの算出結果は、供試される試料1についての絶縁寿命の推定結果として、情報出力部5から情報出力されることになる。このときの情報出力部5での情報出力態様については、特に限定されるものではなく、適宜設定したもの(例えば図表等を利用したもの)であればよい。
【0066】
<3.第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態を説明する。ただし、ここでは、上述した第1実施形態との相違点についてのみ説明し、同一の事項については説明を省略する。
【0067】
本発明の第2実施形態は、事前準備ステップ(S1)における相関情報生成工程(S15)と、電荷量検出ステップ(S3)における部分放電発生工程(S31)と、寿命推定ステップ(S4)とが、上述した第1実施形態の場合とは異なる。
【0068】
(相関情報生成工程)
第2実施形態における相関情報生成工程(S15)では、電荷量算出工程(S13)で算出した放電電荷量および累積電荷量算出工程(S14)で算出した総放電電荷量に基づき、コントローラ4dが相関情報を生成する。具体的には、コントローラ4dは、絶縁破壊に至る放電電荷量の経時変化特性についての情報を、相関情報の一具体例として生成する。ここで、「経時変化特性」とは、放電電荷量の検出結果が経時的にどのように変化するか示す特性のことをいう。
【0069】
図9は、本発明の第2実施形態における相関情報の一具体例を示す説明図である。
図例は、電荷量算出工程(S13)で算出した絶縁破壊に至るまでの放電電荷量を所定単位時間(例えば10秒)当たりに換算した上で、その単位時間当たりの各放電電荷量[単位:mC/10s]を試料1が絶縁破壊に至るまでの間(すなわち総放電電荷量に到達するまでの間)について時系列[単位:min]で並べて表した経時変化特性の一例を示している。なお、放電電荷量の経時変化特性は、試料1の種類によって異なるものとなる。
【0070】
このような相関情報として生成すると、その後、相関情報生成工程(S15)において、コントローラ4dは、その生成結果(すなわち放電電荷量の経時変化特性)を、試料1の種類と関連付けて、データベース部44に記憶保持させる。このとき、データベース部44は、放電電荷量と課電時間の時間経過との関係を特定し得る形式(例えば二次元図表形式や関数形式)で情報記憶を行うものとする。また、その記憶情報が、情報取得ステップ(S2)において、コントローラ4dによって読み出されるものとする。
【0071】
(部分放電発生工程)
第2実施形態における部分放電発生工程(S31)では、供試される試料1に課電部2が電圧印加を行って部分放電を発生させるが、その電圧印加を行うのが試料1の使用初期段階でなくても構わない。つまり、第2実施形態では、ある課電時間を経過した試料1であっても、絶縁寿命推定の対象となり得る。
また、第2実施形態における部分放電発生工程(S31)では、試料1への電圧印加を所定計測期間だけ行うが、その所定計測期間が上述した相関情報生成工程(S15)での換算に用いた所定単位時間に対応しているものとする。
【0072】
(寿命推定ステップ)
第2実施形態における寿命推定ステップ(S4)では、コントローラ4dが以下のようにして供試される試料1についての絶縁寿命を推定する。すなわち、コントローラ4dは、寿命推定ステップ(S4)に先立つ電荷量検出ステップ(S3)にて、ある課電時間を経過した後の試料1における放電電荷量Qnを検出しているので、その放電電荷量Qnを情報取得ステップ(S2)にて読み出した相関情報(すなわち放電電荷量の経時変化特性)と対照させて、その放電電荷量Qnに対応する課電時間Tnを求める。課電時間Tnを求めたら、コントローラ4dは、その試料1が絶縁破壊に至るまでに要する課電時間TB.Dを相関情報から特定し、課電時間Tnから課電時間TB.Dまでの残存期間を求める。そして、コントローラ4dは、求めた残存期間をその試料1についての絶縁寿命の推定結果とする。
【0073】
具体的には、コントローラ4dは、下記の(3)式を用いて、絶縁寿命の推定結果を得る。
Tr=TB.D−Tn・・・(3)
ただし、(3)式において、Trは供試される試料1の電荷量検出時点から絶縁破壊に至るまでの残存期間[単位:min]であり、TB.Dは試料1が絶縁破壊に至るに要する課電時間[単位:min]であり、Tnは試料1についての放電電荷量の経時変化特性とその試料1の検出電荷量Qnから推定した経過課電時間[単位:min]である。
【0074】
このようにして得られた残存期間Trの算出結果は、供試される試料1についての絶縁寿命の推定結果として、情報出力部5から情報出力されることになる。このときの情報出力部5での情報出力態様については、特に限定されるものではなく、適宜設定したもの(例えば図表等を利用したもの)であればよい。
【0075】
<4.各実施形態の効果>
上述した各実施形態によれば、以下に示す1つまたは複数の効果を奏する。
【0076】
(1)各実施形態においては、絶縁体の絶縁破壊と相関のある部分放電の放電電荷量を絶縁寿命推定の指標として用い、印加電圧ではなく実際に発生した放電電荷量を基準にして絶縁寿命を推定する。つまり、供試される試料1についての絶縁寿命を、絶縁破壊に要する放電エネルギーを指標として用いることで推定する。そのため、各実施形態では、供試される試料1に対する印加電圧波形条件によらず、当該試料1に対して印加される種々異なる印加電圧波形の立ち上がり時間の影響を加味しつつ、当該試料1の絶縁寿命を推定することが可能となる。
これにより、各実施形態によれば、従来のV−t特性を利用した絶縁寿命推定に比べて、絶縁寿命推定結果についての信頼性向上が図れるようになる。詳しくは、例えばインバータサージパルス電圧下においてはPDIVがパルス立ち上がり時間の影響を受けるため、印加電圧ピーク値だけでは絶縁寿命について議論できず、よって従来のV−t特性を利用した絶縁寿命推定では必ずしも信頼性が十分な結果が得られるとは言えないが、各実施形態で説明した絶縁寿命推定であれば、実際の印加電圧波形条件を反映させつつ絶縁寿命推定を行えるため、従来に比べて絶縁寿命推定結果についての信頼性向上が図れると言える。
さらに、各実施形態によれば、従来のV−t特性を利用した場合に比べて、絶縁寿命の推定を効率的に行うことができる。詳しくは、例えば従来のV−t特性を利用した絶縁寿命推定では、実使用での印加電圧波形条件が変わればその都度V−t試験を実施したり、インバータサージ電圧の印加を考慮してPDIV比でV−t特性を換算する必要があり、その分だけ効率的ではないと言えるが、各実施形態で説明した絶縁寿命推定であれば、実際の印加電圧波形条件を反映させつつ絶縁寿命推定を行えるため、従来に比べて絶縁寿命の推定を効率的に行うことができる。
【0077】
(2)各実施形態においては、絶縁寿命の推定にあたり、試料1で発生した部分放電による放電電荷量を、例えば直列コンデンサを用いた残留電荷法、高周波CTを用いた差動検出法、検出インピーダンス法による放電電流・電圧波形計測等を利用して、直接的に検出する。つまり、試料1での部分放電により発生する放電エネルギーを直接的に検出する。
この点においても、各実施形態では、絶縁寿命の推定を信頼性の向上を図りつつ効率的に行うことができる。
例えば、放電電荷量は、V−t試験によって得られた放電電流波形から算出することも可能である。しかしながら、V−t試験によって得られた放電電流波形(例えばオシロスコープによって得られた生波形データ)から電荷量を算出するには、立ち上がりが急峻な放電電流波形を、ナノ秒(ns)オーダのサンプルレートで積分する必要がある。そのため、電荷量を算出するためには、莫大な数のデータが必要となる。特に、試料1が絶縁破壊に至るまでの時間が長くなると、それだけ電荷量を算出するために必要なデータの数がさらに多くなる。その結果、データ処理に時間を要してしまい効率低下を招いてしまうとともに、莫大なデータを記憶する記憶領域も必要としてしまうおそれがある。この点、各実施形態では、放電電荷量を直接的に検出するので、絶縁寿命の推定を効率的に行うことができる。
さらには、例えば、試料1が絶縁破壊に至るまでの累積電荷量を算出する際に、莫大な数のデータを処理する必要があると、データの取得漏れが発生してしまうおそれがある。また、オシロスコープ等によって得られた生波形データから電荷量を算出する場合には、例えばオシロスコープの性能等によって、データの取りこぼしが発生してしまう可能性がある。これらにより、試料1についての絶縁寿命推定の精度が低下してしまい、結果として絶縁寿命推定結果に対する信頼性が損なわれるおそれがある。この点、各実施形態では、放電電荷量を直接的に検出するので、データの取りこぼしが発生することなく、絶縁寿命推定の信頼性向上を図ることができる。
【0078】
(3)第1実施形態においては、相関情報としての総放電電荷量QB.Dを基にしつつ、試料1の使用初期段階において発生した部分放電による単位時間当たりの放電電荷量を検出して、当該試料1についての絶縁寿命の推定を行う。
したがって、第1実施形態によれば、印加電圧波形条件によって単位時間当たりの放電電荷量が変わり得る場合であっても、試料1に対して生じる単位時間当たりの放電電荷量の影響を加味しつつ、当該試料1の絶縁寿命を推定することが可能となる。
しかも、第1実施形態によれば、試料1の使用初期段階における放電電荷量から当該試料1の絶縁寿命を推定する。そのため、第1実施形態によれば、電気絶縁製品(例えば巻線)の選定や製品寿命を適切に評価することが可能な絶縁寿命推定を行うことができ、当該製品の開発設計時に適切な仕様を効率よく決定することができるようになる。しかも、当該製品の開発側における絶縁設計への展開が、従来のV−t特性よりも容易であることから、絶縁寿命推定についての信頼性が向上することにもなる。
【0079】
(4)第2実施形態においては、相関情報としての放電電荷量の経時変化特性を基にしつつ、ある課電時間を経過した試料1において発生した部分放電による放電電荷量を検出して、当該試料1の残存寿命期間を推定して絶縁寿命推定結果とする。
したがって、第2実施形態によれば、ある課電時間を経過した試料1であり、その課電時間が不明なものであっても、当該試料1を絶縁寿命推定の対象とすることができる。しかも、その場合であっても、第1実施形態の場合と同様に、絶縁寿命推定結果についての信頼性向上を図りつつ、絶縁寿命の推定を効率的に行うことができる。
【0080】
(5)各実施形態においては、事前準備ステップ(S1)にて予め相関情報を生成して、その生成した相関情報をデータベース部44に記憶保持しておく。つまり、予め生成した相関情報によってデータベース部44内にデータベースを構築しておく。
したがって、各実施形態によれば、相関情報が既にデータベース部44内に記憶保持されている場合には、改めて事前準備ステップ(S1)を行う必要はないので、これにより絶縁寿命推定の効率化が図れる。さらには、既にデータベース部44内に相関情報が存在していれば、試料1についての絶縁寿命推定にあたり、データベース部44から相関情報を読み出して取得すればよいので、この点でも絶縁寿命推定の効率化が図れる。
【0081】
<5.変形例等>
以上に本発明の実施形態を具体的に説明したが、本発明の技術的範囲は上述した各実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0082】
上述した各実施形態では、絶縁寿命推定装置の制御部4がデータベース部44としての機能を有している場合を例に挙げたが、本発明はこれに限定されるものではなく、情報取得部45が相関情報を取得可能であれば、データベース部44は外部の別装置(例えばネットワーク回線を通じて接続するサーバ装置)に設けられていてもよい。このことは、本発明に係る絶縁寿命推定装置は、相関情報を取得可能であれば、必ずしもデータベース部44を備えていなくてもよいことを意味する。また、本発明に係る絶縁寿命推定方法は、既に相関情報が生成されており、その生成された相関情報を外部から取得可能であれば、必ずしも事前準備ステップ(S1)を行わなくてもよいことを意味する。
【0083】
また、上述した各実施形態では、事前準備ステップ(S1)を行うことを考慮して、複数のデータロガー4a,4bを併用する場合を例に挙げたが、本発明はこれに限定されるものではなく、事前準備ステップ(S1)が不要であれば、単数のデータロガーだけ作動させるように構成されていても構わない。また、事前準備ステップ(S1)を行う場合には、3つ以上のデータロガーを備えていてもよい。その場合に、各データロガーの作動順等についても特に限定されず、コンデンサ3aに加わる電圧を連続的に測定記録できれば、いずれのデータロガーの作動から開始してもよい。
【符号の説明】
【0084】
1…試料、2…課電部、3…部分放電電荷量検出部、3a…コンデンサ、3b…短絡回路、4…制御部、4a,4b…データロガー、4c…タイマ機構、4d…コントローラ、5…情報出力部、41…部分放電波形記録部、42…部分放電電荷量算出部、43…情報算出部、44…データベース部、45…情報取得部、46…寿命推定部
図1
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図9