(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
シリコン基板の表面からイオンを注入してイオン注入領域を形成し、上記シリコン基板のイオン注入した表面とサファイア基板の表面とを絶縁膜を介して貼り合わせた後、上記イオン注入領域でシリコン基板を剥離させてサファイア基板上にシリコン層を有するSOS基板を得るSOS基板の製造方法であって、
上記サファイア基板の面方位がオフ角1度以下のC面であり、該サファイア基板を予め還元性雰囲気中700〜1000℃の熱処理温度で熱処理した後に上記シリコン基板と貼り合わせることを特徴とするSOS基板の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、C面サファイア基板を用い、特許文献1で記載されている貼り合わせによってSOS基板を作製しても、使用したウェハによって単結晶シリコン膜の欠陥、例えばボイドやOSF(Oxidation induced Stacking Fault;酸化誘起積層欠陥)状の欠陥の数にばらつきがあり、再現性よく欠陥の少ないSOS基板を作製することが困難であった。
また、サファイア基板自身の金属濃度、特に基板表面におけるFeの濃度が高いという問題があった。典型的なサファイア基板におけるFeの濃度は、1×10
11〜1×10
12atoms/cm
2であるが、シリコンデバイス等で要求される値1×10
10atoms/cm
2に比べて1〜2桁高い値となっている。そのため、上記金属濃度を持つSOSは、半導体製造ラインを汚染するため、該半導体製造ラインに投入できない問題があった。また、金属濃度を下げるために、例えばシリコンウェハの洗浄で用いられているSC−2(HCl+H
2O
2+H
2O)洗浄を行うことが考えられるが、この洗浄を施してもサファイア基板における金属濃度はなかなか減少せず、1×10
10atoms/cm
2以下にするには洗浄を繰り返さなければならず、洗浄に要するコストや時間が増大する問題点があった。また、サファイア基板によっては、洗浄を繰り返してもFeの濃度が下がらないという問題点があった。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、欠陥数が少なく、かつそのばらつきのないSOS基板を再現性よく作製でき、更に半導体製造ラインに投入可能なSOS基板の製造方法及び該製造方法で製造されたSOS基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、C面サファイア基板のオフ角の大きさにより、単結晶シリコン膜の欠陥数に違いがあることと、そのばらつきの主因は面方位であり、これを一定の範囲以下に維持することが極めて重要であることを見出した。また、オフ角の大きさが1度を超えると、単結晶シリコン膜の欠陥数が多くなり、使用するC面サファイア基板のオフ角を1度以下とすることで、欠陥数が少なくかつそのばらつきのないSOS基板を再現性よく作製できることを見出した。また、サファイア基板における金属不純物、特にFeの濃度については、サファイア基板を還元性雰囲気、特に水素を含む雰囲気下で熱処理をすることにより、サファイア基板表面における金属不純物濃度を大幅に低減できることを見出した。更に、上記熱処理をしたサファイア基板を用いて貼り合わせ法によりSOSを作製すると、プロセスラインの汚染が極めて少なく、且つシリコン薄膜転写後のシリコン薄膜上の欠陥数が熱処理をしていない基板を使用した時に比べ、著しく少なくなることをも見出し本発明に至った。
なお、C面サファイア基板にオフ角を設けることについては、例えば、特開平11−74562号公報(特許文献3)に記載されているように、窒化物半導体層などをヘテロエピ成長させて形成する場合に、結晶性を良くする目的で意図的に形成されているが、本発明におけるように貼り合わせ法で単結晶の膜を転写する場合には、オフ角の効果は決して自明ではない。
また、サファイア基板を、水素を含む雰囲気で熱処理する手法は、例えばサファイア基板上に直接窒化物半導体層をエピタキシャル成長する前に処理することが知られており、例えば特開2004−111848号公報(特許文献4)に記載されている。しかしながら、これはエピ成長した膜の結晶性を向上させることを目的としたものであり、本発明のように結晶性のよい単結晶基板同士の貼り合わせで単結晶の膜を転写して形成するものとは膜の形成方法が異なる。また、還元雰囲気で熱処理することが金属不純物濃度の減少に効果があることについては言及されていない。更に、上記熱処理を施したサファイア基板を用いてSOS基板を製造することについては記載されておらず、このときにサファイア支持基板上に形成したシリコン層の欠陥数低減に効果があることについても自明ではない。即ち、貼り合わせを行う前にサファイア基板を水素を含む雰囲気で貼り合わせ前に熱処理することが重要であり、このことにより、初めて金属不純物を除去でき、付帯効果として有機物等の異物も除去されるものである。その結果、貼り合わせ後の欠陥数を低減することができるものである。
これらの効果は、本発明者らにより初めて見出されたものである。
【0012】
従って、本発明は、上記目的を達成するため、下記のSOS基板の製造方法及びSOS基板を提供する。
〔1〕 シリコン基板の表面からイオンを注入してイオン注入領域を形成し、上記シリコン基板のイオン注入した表面とサファイア基板の表面とを絶縁膜を介して貼り合わせた後、上記イオン注入領域でシリコン基板を剥離させてサファイア基板上にシリコン層を有するSOS基板を得るSOS基板の製造方法であって、
上記サファイア基板の面方位がオフ角1度以下のC面であり、該サファイア基板を予め還元性雰囲気中700〜1000℃の熱処理温度で熱処理した後に上記シリコン基板と貼り合わせることを特徴とするSOS基板の製造方法。
〔2〕 上記サファイア基板の熱処理時間は、10秒以上12時間以下であることを特徴とする〔1〕に記載のSOS基板の製造方法。
〔3〕 上記熱処理後のサファイア基板表面の全反射蛍光X線分析法で検出されるFeの濃度が1.9×10
10atoms/cm
2以下である〔1〕又は〔2〕に記載のSOS基板の製造方法。
〔4〕 上記還元性雰囲気は、水素又は水素を含む不活性ガス雰囲気であることを特徴とする〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載のSOS基板の製造方法。
〔5〕 上記絶縁膜の厚さが300nm以下であることを特徴とする〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載のSOS基板の製造方法。
〔6〕 上記絶縁膜は、SiO
xN
y(式中、x=0〜2、y=0〜1.5であり、x+y>0である。)であることを特徴とする〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載のSOS基板の製造方法。
〔7〕
基板の面方位がオフ角1度以下のC面であり、基板表面の全反射蛍光X線分析法で検出されるFeの濃度が1.9×1010atoms/cm2以下であるサファイア基板上に
厚さ20〜300nmのシリコン酸化膜である絶縁膜を介してシリコン基板のイオン注入剥離膜であるシリコン層を有
しており、フッ化水素溶液に浸漬した後に検出されるシリコン層の表面欠陥数が、SOS基板の外径が150mmφの場合に302個以下であるSOS基板。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、基板の面方位がオフ角1度以下のC面であるC面サファイア基板をシリコン基板と貼り合わせるので、シリコン層における欠陥数が少なく、かつそのばらつきが少ないSOS基板を製造することができる。また、サファイア基板を予め還元性雰囲気中で熱処理した後にシリコン基板と貼り合わせると、シリコン層における欠陥数をより低減でき、洗浄することなくサファイア基板の金属不純物が除去されて半導体製造ラインに投入可能なレベルとすることもできる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係るSOS基板の製造方法を
図1に基づき、説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
本発明に係るSOS基板の製造方法は、
図1に示すように、シリコン基板への水素イオン(希ガスイオン)注入工程(工程1)、サファイア基板の水素雰囲気下の熱処理工程(工程2)、シリコン基板及び/又はサファイア基板の表面活性化処理工程(工程3)、シリコン基板とサファイア基板の貼り合わせ工程(工程4)、可視光照射、剥離処理工程(工程5)、シリコン層薄化工程(工程6)の順に処理を行うものである。
【0016】
(工程1:シリコン基板への水素イオン(希ガスイオン)注入工程)
まず、単結晶シリコン基板(ドナー基板)1の表面から水素イオン又は希ガス(即ち、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン、ラドン)イオンを注入し、基板中に層状のイオン注入領域(イオン注入層ともいう)3を形成する(
図1(a))。
【0017】
ここで、半導体基板である単結晶シリコン基板(以下、シリコン基板ともいう)1としては、特に限定されないが、例えばチョクラルスキー(CZ)法により育成された単結晶をスライスして得られたもので、例えば直径が100〜300mm、導電型がP型又はN型、抵抗率が10Ω・cm程度のものが挙げられる。
【0018】
また、シリコン基板1の表面は、あらかじめ薄い絶縁膜2を形成しておいてもよい。絶縁膜2を通してイオン注入を行えば、注入イオンのチャネリングを抑制する効果が得られるからである。絶縁膜2としては、例えばSiO
xN
y(式中、x=0〜2、y=0〜1.5であり、x+y>0である。)で表される酸化物、酸窒化物、窒化物等を用いることができる。
【0019】
絶縁膜2の厚さは、好ましくは300nm以下、より好ましくは50nm以下、更に好ましくは20nm以下である。絶縁膜2の厚さが300nmを超えると、該絶縁膜2はサファイアやシリコンに比べ、熱膨張係数の差のために、SOS基板を高温で処理すると膜の割れや剥がれが生じやすくなる。又、絶縁膜2としてSiO
2を用いた場合には、その熱伝導率が低いため、高パワーのデバイスを作製した場合には放熱性が悪く問題となる。その場合には、SiO
2よりも熱伝導性が良好な酸窒化物や窒化物、例えばSi
3N
4等を絶縁膜2として用いてもよい。なお、絶縁膜2の厚さの下限値は特に規定されないが、SOS基板製造時に発生するボイド発生を抑制する目的で20nm以上であることが好ましい。
【0020】
イオン注入領域3の形成方法は、特に限定されず、例えば、シリコン基板1の表面から所望の深さにイオン注入領域3を形成できるような注入エネルギーで、所定の線量の水素イオン又は希ガスイオンを注入する。このときの条件として、例えば注入エネルギーは50〜100keV、注入線量は2×10
16〜1×10
17/cm
2とできる。注入される水素イオンとしては、2×10
16〜1×10
17(atoms/cm
2)のドーズ量の水素イオン(H
+)、又は1×10
16〜5×10
16(atoms/cm
2)のドーズ量の水素分子イオン(H
2+)が好ましい。特に好ましくは、8.0×10
16(atoms/cm
2)のドーズ量の水素イオン(H
+)、又は4.0×10
16(atoms/cm
2)のドーズ量の水素分子イオン(H
2+)である。
【0021】
イオン注入された基板表面からイオン注入領域3までの深さ(即ち、イオン打ち込み深さ)は、支持基板であるサファイア基板上に設けるシリコン薄膜の所望の厚さに対応するものであるが、好ましくは300〜500nm、更に好ましくは400nm程度である。また、イオン注入領域3の厚さ(即ち、イオン分布厚さ)は、機械衝撃等によって容易に剥離できる厚さが良く、好ましくは200〜400nm、更に好ましくは300nm程度である。
【0022】
(工程2:サファイア基板の水素雰囲気下の熱処理工程)
次に、サファイア基板4を予め還元性雰囲気中で熱処理する(
図1(b)、(c))。
【0023】
ここで、サファイア基板4は、SOS基板の支持基板(ハンドル基板)となる絶縁性の透明基板であり、基板の面方位がオフ角1度以下のC面であるC面サファイア基板である(
図1(b))。即ち、サファイア基板4を構成する単結晶サファイアは、その結晶面(0001)面(C面)が基板の主面に平行であり、かつ結晶軸のc軸の基板の主面に対する傾きであるオフ角が1度以下、好ましくは0.6度以下である。オフ角が1度より大きくなると、後述するSOS基板における単結晶シリコン層の欠陥数が増加し、あるいはそのばらつきが大きくなり、更には膜の剥がれが生じやすくなる。また、サファイア基板4は、可視光領域(波長400〜700nm)の光が貼り合わせたシリコン基板1のイオン注入領域3に到達するまでにエネルギー損失が少ないものであることが望ましく、上記可視光領域の透過率が70%以上であることが好ましい。
【0024】
還元性雰囲気としては、例えば一酸化炭素、硫化水素、二酸化硫黄、水素、ホルムアルデヒドから選ばれるガス種又はそれらの組み合わせからなる還元性ガス、あるいは該還元性ガスと不活性ガスとの混合ガスからなる雰囲気が挙げられ、それらの中で、好ましくは少なくとも水素を含む雰囲気、即ち水素のみ又は水素を含む不活性ガスからなる雰囲気、より好ましくは水素のみからなる雰囲気である。
【0025】
熱処理温度の下限は、好ましくは600℃以上であり、より好ましくは700℃以上である。熱処理温度が600℃未満ではサファイア基板4表面の金属除去の効果及びシリコン薄膜表面の欠陥数低減効果が不十分となる場合がある。
【0026】
熱処理温度の上限は、好ましくは1100℃以下であり、より好ましくは1000℃以下であり、更に好ましくは900℃以下である。熱処理温度が1100℃超ではSOS基板のシリコン薄膜表面の欠陥数が逆に増加し、SOS基板として不適となるおそれがある。
【0027】
熱処理時間は、好ましくは10秒〜12時間、より好ましくは1分〜1時間である。熱処理時間が10秒より短いと、サファイア基板4表面の金属除去が不十分となったり、SOS基板のシリコン薄膜表面の欠陥数の低減が不十分となるおそれがあり、12時間より長いと熱処理コストの増加となる場合がある。
【0028】
本熱処理を行う炉としては、還元性雰囲気とするために水素を導入できる炉であれば、チューブ炉やエピ成長炉、RTA(Rapid Thermal Annaeling)炉など使用することができ、特に限定はされない。
【0029】
以上の熱処理を施すことにより、サファイア基板4表面の金属濃度を当初より低減させることができ、例えば1×10
10atoms/cm
2以下とすることができる(
図1(c))。また、上記範囲の熱処理でサファイア基板4の表面粗度を悪化させることはなく、シリコン基板1との貼り合わせが困難になることはない。
【0030】
また、オフ角1度以下のC面サファイア基板を用い、熱処理温度が700〜1000℃の場合に、後述するSOS基板のシリコン薄膜における欠陥数を従来よりも低減することができる。本熱処理により、サファイア基板4表面の微視的な形状変化や化学的変化が生じ、更にはパーティクルやその他の付着物が除去されたため、貼り合わせの密着力の増加及び/又は均一化が図られると推測されるが、その原因はよく分かっていない。
【0031】
(工程3:シリコン基板及び/又はサファイア基板の表面活性化処理工程)
熱処理後で貼り合わせの前に、シリコン基板1のイオン注入された表面と、熱処理後のサファイア基板4の表面との双方もしくは片方に表面活性化処理を施す。
【0032】
表面活性化処理は、基板表面に反応性の高い未結合手(ダングリングボンド)を露出させること、又はその未結合手にOH基が付与されることで活性化を図るものであり、例えばプラズマ処理又はイオンビーム照射による処理により行われる。
【0033】
プラズマで処理をする場合、例えば、真空チャンバ中にシリコン基板1及び/又はサファイア基板4を載置し、プラズマ用ガスを導入した後、100W程度の高周波プラズマに5〜10秒程度さらし、表面をプラズマ処理する。プラズマ用ガスとしては、シリコン基板1を処理する場合、表面を酸化する場合には酸素ガスのプラズマ、酸化しない場合には水素ガス、アルゴンガス、又はこれらの混合ガスあるいは水素ガスとヘリウムガスの混合ガス等を挙げることができる。サファイア基板4を処理する場合は、水素ガス、アルゴンガス、又はこれらの混合ガスあるいは水素ガスとヘリウムガスの混合ガス等を用いる。この処理により、シリコン基板1及び/又はサファイア基板4の表面の有機物が酸化して除去され、更に表面のOH基が増加し、活性化する。
【0034】
また、イオンビーム照射による処理は、プラズマ処理で使用するガスを用いたイオンビームをシリコン基板1及び/又はサファイア基板4に照射して表面をスパッタする処理であり、表面の未結合手を露出させ、結合力を増すことが可能である。
【0035】
(工程4:シリコン基板とサファイア基板の貼り合わせ工程)
次に、シリコン基板1のイオン注入された表面と熱処理後のサファイア基板4の表面とを貼り合わせる(
図1(d))。このとき、150〜200℃程度に加熱しながら貼り合わせるとよい。以下、この接合体を貼り合わせ基板5という。シリコン基板1のイオン注入面とサファイア基板の表面の少なくとも一方が活性化処理されていると、より強く接合できる。なお、シリコン基板1の絶縁膜2を、サファイア基板4と貼り合わせる前に、エッチングや研磨等により、薄くあるいは除去してもよい。
【0036】
貼り合わせ後に、貼り合わせ基板5に熱を加えて熱処理(第2の熱処理)を行う。この熱処理により、シリコン基板1とサファイア基板4の結合が強化される。このときの熱処理は、貼り合わせ基板5がシリコン基板1とサファイア基板4の熱膨率の差の影響(熱応力)で破損しない温度を選択する。その熱処理温度は、好ましくは300℃以下、より好ましくは150〜250℃、更に好ましくは150〜200℃である。また、熱処理の時間は、例えば1〜24時間である。
【0037】
(工程5:可視光照射、剥離処理工程)
次に、貼り合わせ基板5におけるシリコン基板1のイオン注入領域3に向けて可視光を照射し、アニールを施す。このとき、透明なサファイア基板4側から照射するとよい。また、可視光は、400〜700nmの範囲に極大波長を有する光であり、コヒーレント、インコヒーレントのいずれの光でもよく、波長領域が好ましくは400〜700nm、より好ましくは500〜600nmのレーザー光がよい。
【0038】
可視光としてレーザー光を照射した場合、レーザー光はサファイア基板4を透過し、ほとんど吸収されないので、サファイア基板4を熱することなくシリコン基板1に到達する。到達したレーザー光はシリコン基板1のサファイア基板4との貼り合わせ界面の近傍のみ、特に例えば水素イオン注入によりアモルファス化した部分であるイオン注入領域3を選択的に加熱し、イオン注入領域3の脆化を促す。
【0039】
次いで、可視光照射後、貼り合わせ基板5のイオン注入領域3に外部から機械的衝撃等の衝撃を付与して脆化したイオン注入領域3に沿って剥離し、シリコン基板1の一部を半導体層となるシリコン薄膜6(絶縁膜2が設けられ、除去されていない場合は絶縁膜2を有する)としてサファイア基板4に転写してウェハ7とする。即ち、サファイア基板4に結合したシリコン薄膜6をシリコン基板1から剥離させてSOI層(シリコン層)とする。なお、剥離は、イオン注入領域3に沿って貼り合わせ基板5の一端から他端に向かうへき開によるものが好ましい。
【0040】
ここで、シリコン薄膜の剥離のための外部からの衝撃付与の手法としては種々のものがあり、例えば、熱衝撃により剥離を行う方法、機械的衝撃により剥離を行う方法、振動衝撃により剥離を行う方法等が挙げられるが、本方法によりシリコン薄膜6とサファイア基板4界面で剥がれが生じないこと、本方法のプロセス温度がSOS基板に過剰な温度とならないことが必要条件である。
【0041】
なお、熱衝撃により剥離を行う方法としては、貼り合わせ基板5のいずれかの一方の面、例えばシリコン基板1側の面を加熱し、サファイア基板4との間に温度差を生じさせることにより、シリコン基板1側の急激な膨張によって両基板間で大きな応力を発生させ、この応力によってイオン注入領域3における剥離を生じさせる方法が挙げられる。
【0042】
また、機械的衝撃により剥離を行う方法としては、ジェット状に噴出させたガスや液体などの流体をシリコン基板1の側面から吹き付けることで衝撃を与える方法や、ブレードの先端部をイオン注入領域3の近傍領域に押し当てるなどして衝撃を付与する方法等が挙げられる。
【0043】
なお、剥離処理の際、貼り合わせ基板5のシリコン基板1側に補強材を配置して機械的衝撃を加えることが好ましい。上記補強材としては、好ましくは、保護テープ、静電チャック及び真空チャックからなる群から選択される。シリコン基板1側に割れ防止のために保護テープをシリコン基板1側に貼り付けて剥離を行う方法や、又は静電チャック又は真空チャックにシリコン基板1側を密着させて剥離を行うことでより確実に剥離を行うことができる。保護テープは、特に材質、厚さ等に限定されず、半導体製造工程で用いられるダイシングテープやBGテープ等が使用できる。静電チャックは、特に限定されず、炭化ケイ素や窒化アルミニウム等のセラミックス静電チャック等が挙げられる。真空チャックは、特に限定されず、多孔質ポリエチレン、アルミナ等の真空チャックが挙げられる。
【0044】
また、振動衝撃により剥離を行う方法としては、超音波発振器の振動板から発振される超音波で振動衝撃を付与してイオン注入領域3における剥離を生じさせる方法が挙げられる。
【0045】
(工程6:シリコン層薄化(イオン注入ダメージ層除去)工程)
次に、ウェハ7のサファイア基板4上のシリコン薄膜6表層において、上記イオン注入によりダメージを受けて結晶欠陥を生じている層を除去する。
【0046】
ここで、イオン注入ダメージ層の除去は、ウェットエッチング又はドライエッチングにより行うことが好ましい。ウェットエッチングとしては、例えばKOH溶液、NH
4OH溶液、NaOH溶液、CsOH溶液、アンモニア水(28質量%)、過酸化水素水(30〜35質量% )、水(残部)からなるSC−1溶液、EDP(エチレンジアミンピロカテコール)溶液、TMAH(4メチル水酸化アンモニウム)溶液、ヒドラジン溶液のうち、少なくとも1つのエッチング溶液を用いて行うとよい。また、ドライエッチングとしては、例えばフッ素系ガス中にサファイア基板4上のシリコン薄膜6を曝してエッチングする反応性ガスエッチングやプラズマによりフッ素系ガスをイオン化、ラジカル化してシリコン薄膜6をエッチングする反応性イオンエッチング等が挙げられる。
【0047】
また、本工程において除去対象となる領域は、少なくとも結晶欠陥に拘るシリコン薄膜6のイオン注入ダメージ層全てであり、シリコン薄膜6表層の好ましくは120nm以上の厚み分、より好ましくは150nm以上の厚み分である。サファイア基板4上のシリコン薄膜6の厚さは、100〜400nmとなる。
【0048】
最後に、サファイア基板4上のシリコン薄膜6表面を鏡面仕上げする。具体的には、シリコン薄膜6に化学機械研磨(CMP研磨)を施して鏡面に仕上げる。ここではシリコンウェハの平坦化等に用いられる従来公知のCMP研磨でよい。なお、このCMP研磨で上記イオン注入ダメージ層の除去を兼ねてもよい。
【0049】
以上の工程を経て、サファイア基板4(支持基板)の金属不純物が除去されて半導体製造ラインに投入可能なSOS基板8を製造することができる。また、シリコン薄膜6表面の欠陥数を低減できる。
【実施例】
【0050】
以下に、本発明の試験例を挙げて、更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0051】
[試験例1]
図1に示す製造工程に従って、SOS基板を作製した。なお、シリコン基板1と熱処理を施したサファイア基板4の貼り合わせ及びシリコン薄膜6の転写(シリコン薄膜形成)は、特開2010−278337号公報(特許文献1)記載の方法に従った。具体的には次の通りである。
【0052】
(工程1)予め絶縁膜2としてシリコン酸化膜を厚さ100nm成長させた外径150mmφ、厚さ625μmのシリコン基板1に、57keV、ドーズ量6.0×10
16atoms/cm
2で水素イオンを注入した。
(工程2)支持基板として、外径150mmφ、厚さ0.6mmのオフ角0.3度のC面サファイア基板4を用いた。このサファイア基板4を拡散炉内に配置し、水素とArの混合ガス(水素:Ar=5:95)雰囲気とした後、900℃で5分保持することで熱処理を行った。熱処理後のサファイア基板4表面の金属濃度はTRXF(Total Reflection X−ray Fluorescence)法で検出される代表的な金属元素Feについて測定した(その検出下限濃度は0.6×10
10atoms/cm
2である)。その結果、対象元素Feは検出限界(0.6×10
10atoms/cm
2)以下(DL(Detection Limit))であった。
(工程3)上記シリコン基板1及び熱処理を施したサファイア基板4について、それぞれの貼り合わせ面にイオンビーム活性化処理を行った。
(工程4)次いで、上記シリコン基板1のイオン注入側の面とサファイア基板4とを150℃に加熱して貼り合わせることにより接合体である貼り合わせ基板5を得た。次いで、貼り合わせ基板5を225℃で24時間熱処理を行った。
(工程5)次に、貼り合わせ基板5を200℃に加熱しながらサファイア基板4側から波長532nmのグリーンレーザー光を照射した。貼り合わせ基板5全面に該レーザー光を照射した後、貼り合わせ界面近傍のイオン注入領域3に機械的衝撃を加え、剥離することで、シリコン薄膜6をサファイア基板4に転写したウェハ7を作製した。
(工程6)最後に、ウェハ7上のシリコン薄膜6をCMP研磨で厚さ200nmまで薄化することによりSOS基板であるSOS基板8を得た。得られたSOS基板8を50質量%フッ化水素に10分間浸漬し、純水でリンスした後に、シリコン薄膜6表面の欠陥数を欠陥検査装置(KURABO社製)によってカウントしたところ、1ウェハで38個であった。
【0053】
[試験例2]
試験例1において、試験例1で用いたサファイア基板に代えて、オフ角0.5度のC面サファイア基板4を用い、それ以外は、試験例1と同様にしてSOS基板を作製した。なお、水素を含む雰囲気での熱処理後のサファイア基板4表面の金属(Fe)濃度をTRXF法で測定したところ、検出限界(0.6×10
10atoms/cm
2)以下(DL)であった。また、得られたSOS基におけるシリコン薄膜6表面の欠陥数を上記欠陥検査装置によってカウントしたところ、1ウェハで61個であり、試験例1よりも欠陥数が増加しており、オフ角の大きくなると欠陥数も増える傾向を示した。
【0054】
[試験例3]
試験例1において、試験例1で用いたサファイア基板に代えて、オフ角1.0度のC面サファイア基板4を用い、それ以外は、試験例1と同様にしてSOS基板を作製した。なお、水素を含む雰囲気での熱処理後のサファイア基板4表面の金属(Fe)濃度をTRXF法で測定したところ、検出限界(0.6×10
10atoms/cm
2)以下(DL)であった。また、得られたSOS基におけるシリコン薄膜6表面の欠陥数を上記欠陥検査装置によってカウントしたところ、1ウェハで217個であり、試験例2に比べて更に欠陥数は多くなる傾向を示したが、後述するオフ角1.5度の試験例4に比べるとオーダーが一桁小さい数値であった。
【0055】
[試験例4]
試験例1において、試験例1で用いたサファイア基板に代えて、オフ角1.5度のC面サファイア基板4を用い、それ以外は、試験例1と同様にしてSOS基板を作製した。なお、水素を含む雰囲気での熱処理後のサファイア基板4表面の金属(Fe)濃度をTRXF法で測定したところ、検出限界(0.6×10
10atoms/cm
2)以下(DL)であった。また、得られたSOS基におけるシリコン薄膜6表面の欠陥数を上記欠陥検査装置によってカウントしたところ、1ウェハで2000個であり、熱処理を行わない試験例9(後述)よりも欠陥数が多かった。
【0056】
[試験例5]
試験例1において、工程2の熱処理温度を600℃とし、それ以外は試験例1と同様にしてSOS基板8を作製した。なお、水素を含む雰囲気での熱処理後のサファイア基板4表面の金属(Fe)濃度をTRXF法で測定したところ、Fe濃度は20×10
10atoms/cm
2であり、熱処理温度を700℃(試験例6(後述))より更に下げると、表面のFe濃度は高くなり、金属不純物除去効果が更に小さくなることが分かった。また、得られたSOS基におけるシリコン薄膜6表面の欠陥数を上記欠陥検査装置によってカウントしたところ、1ウェハで500個と熱処理なしの試験例9(後述)よりも欠陥数が若干減少した程度であり、熱処理温度が低いとサファイア基板表面の構造が熱処理前の場合とほとんど変わらないためと推測される。
【0057】
[試験例6]
試験例1において、工程2の熱処理温度を700℃とし、それ以外は試験例1と同様にしてSOS基板8を作製した。なお、水素を含む雰囲気での熱処理後のサファイア基板4表面の金属(Fe)濃度をTRXF法で測定したところ、Fe濃度は1.9×10
10atoms/cm
2であり、処理温度が低くなるとFeの除去効果が小さくなる傾向を示した。また、得られたSOS基におけるシリコン薄膜6表面の欠陥数を上記欠陥検査装置によってカウントしたところ、1ウェハで302個であり、試験例1と同じオフ角のC面サファイア基板を用いているが、試験例1よりも欠陥数は多かった。ただし、オフ角1.5度の試験例4に比べて、欠陥数はオーダーが一桁小さい数値であった。
【0058】
[試験例7]
試験例1において、工程2の熱処理温度を1000℃とし、それ以外は試験例1と同様にしてSOS基板8を作製した。なお、水素を含む雰囲気での熱処理後のサファイア基板4表面の金属(Fe)濃度をTRXF法で測定したところ、検出限界(0.6×10
10atoms/cm
2)以下(DL)であり、処理温度が高めであることによるFeの除去効果が認められた。また、得られたSOS基におけるシリコン薄膜6表面の欠陥数を上記欠陥検査装置によってカウントしたところ、1ウェハで279個であり、試験例1と同じオフ角のC面サファイア基板を用いているが、試験例1よりも欠陥数は多かった。ただし、オフ角1.5度の試験例4に比べて、欠陥数はオーダーが一桁小さい数値であった。
【0059】
[試験例8]
試験例1において、工程2の熱処理温度を1100℃とし、それ以外は試験例1と同様にしてSOS基板8を作製した。なお、水素を含む雰囲気での熱処理後のサファイア基板4表面の金属(Fe)濃度をTRXF法で測定したところ、検出限界(0.6×10
10atoms/cm
2)以下(DL)であり、処理温度が高めであることによるFeの除去効果が認められた。また、得られたSOS基におけるシリコン薄膜6表面の欠陥数を上記欠陥検査装置によってカウントしたところ、1ウェハで4200個であり、試験例1と同じオフ角のC面サファイア基板を用いているが、試験例1よりも欠陥数は著しく多かった。原因は定かではないが、処理温度が高すぎるとサファイア基板表面が逆に粗くなり、また表面にピットが生じるなどして、それらが原因となって欠陥数が増加しているものと考えられる。
【0060】
[試験例9]
試験例1において、工程2の水素を含む雰囲気での熱処理を行わず、それ以外は、試験例1と同様にしてSOS基板を作製した。なお、熱処理なし(即ち、熱処理前)のサファイア基板4表面の金属(Fe)濃度をTRXF法で測定したところ、Fe濃度は430×10
10atoms/cm
2と高い濃度を示していた。これを試験例1のように水素含有雰囲気で熱処理すると検出限界以下の濃度となり、アニールによる金属不純物濃度低減の効果が確認された。また、得られたSOS基におけるシリコン薄膜6表面の欠陥数を上記欠陥検査装置によってカウントしたところ、1ウェハで523個であり、オフ角1.5度の試験例4よりも欠陥数は少なかった。なお、試験例9の欠陥数は水素含有雰囲気で熱処理したもの(試験例1、6、7)よりも多いが、これはサファイア基板4表面の異物の影響と考えられ、試験例1、6、7では熱処理によりその異物が除去されたと考えられる。
以上の結果を表1に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
以上より、C面サファイア基板を用いた貼り合わせSOS基板について、C面サファイア基板のオフ角によって、シリコン層の欠陥数に差異が生じることが分かった。また、欠陥数を小さく保つには、オフ角1度以下にする必要があることが判明した。また貼り合わせ前に還元性雰囲気でサファイア基板のみを熱処理をすることは、サファイア基板表面の金属不純物や異物の除去効果があることがわかった。また理由はよくわからないが、このときの熱処理温度を適切な範囲とすることで、SOS化後の欠陥数を低減することが分かった。
【0063】
なお、これまで本発明を図面に示した実施形態をもって説明してきたが、本発明は図面に示した実施形態に限定されるものではなく、他の実施形態、追加、変更、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。