(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記Mが、質量%で、1.5%〜4.5%のMoと、1.0%〜3.0%のTiと、0.2%〜1.0%のWとの組合せである、請求項1に記載のトルクセンサ用軟磁性部品。
【背景技術】
【0002】
EPSは、ステアリングホイールからの操舵力をトルクセンサで検出し、その検出信号をトルク信号として制御ユニットに送り、そのトルク信号に応じた電流をモータに流すように制御することにより、操舵力の適切な補助を行うシステムである。こうしたEPSに用いられるトルクセンサは、例えば、ステアリングホイールに連結する入力軸と、操舵機構に連結する出力軸と、これら2つの軸を連結するトーションバーと、該トーションバーの周りに設けられるマグネットのN極およびS極と、ヨークと、リングコアと、磁束を検出するホール素子などからなる検出部とを備えている。また、ヨークやリングコアなど、樹脂モールドされている部品もある。
【0003】
このようなトルクセンサにおいて、操舵力が加わると入力軸が回転してトーションバーがねじれるため、マグネットとヨークとの間に角度差が生じる。その角度差に応じてマグネットの磁束がヨークからリングコアに伝達され、検出部によりトーションバーのねじれ角に比例した磁束として検出される。このようにして、操舵力に応じた操舵トルクを検出することができる。
【0004】
一般に、磁性体に外部磁界(磁場)を逆方向も含めて交互に加えたときの磁束密度(B)と外部磁界の強さ(H)で表す磁化曲線(B−H曲線)はヒステリシス曲線になる。そのヒステリシス曲線の勾配を透磁率μ(=B/H、SI単位系で[H/m])といい、原点付近の勾配を初透磁率μi、最大の勾配を最大透磁率μmという。なお、透磁率は真空の透磁率(μ
0=4π×10
-7[H/m])との比(比透磁率)を用いることが一般的であるため、以下、これに従う。上述した比透磁率が大きい磁性体ほど弱い磁場で磁化されやすくなる。よって、トルクセンサの感度を高めるためには、できるだけ弱い磁場で、大きく磁化する磁性体を用いることが好ましい。すなわち、大きな比透磁率をもつ磁性体を用いることが好ましい。そのためには、磁性体の磁束密度を零にするために必要な外部磁界の強さを示す保磁力(Hc)はできる限り小さいことが好ましい。
【0005】
トルクセンサに用いるリングコアやヨークには、例えば、SUS410Lで規定される材料、特許文献1に開示される歪感受性が小さいFe系材料、特許文献2に開示される比透磁率が大きく磁心損失(コアロス)が少ないFe−Ni系材料、JIS−C2531で規定されるFe−Ni系材料などが用いられている。特に、Fe−Ni系材料である、約78質量%のNiと、Feと、さらにMo、Cu、Crなどを添加して初比透磁率や最大比透磁率を大きくしたJIS−C2531に規定されるパーマロイC(PC)は、磁束の変化に対する感受性が良いので検出精度向上に有効である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、トルクセンサに関し、部品点数の削減、工数の低減、軽量化などを目的として、軟磁性材料を含む部材の成形に樹脂モールドが適用されることが多くなっている。通常、軟磁性材料を樹脂モールドすると、樹脂モールド後の樹脂の収縮によって軟磁性材料の内部に圧縮応力が生じ、樹脂モールド前よりも初比透磁率、最大比透磁率、実効比透磁率が低下し、保磁力が上昇する。つまり、樹脂モールドによって軟磁性材料を含む軟磁性部品の磁気特性が劣化する。このため、樹脂モールドされたトルクセンサ用軟磁性部品を用いたトルクセンサは、ヒステリシスの増大、応答性や感度の低下により、トルクの検出精度が従来よりも低下する問題があった。
【0008】
本発明の目的は、樹脂モールド前後の軟磁性材料の磁気特性の変化を抑制し、トルクセンサの検出精度向上に寄与することができるトルクセンサ用軟磁性部品を提供することである。また、そのトルクセンサ用軟磁性部品を用いて構成される、検出精度が向上されたトルクセンサを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、樹脂モールド後の樹脂の収縮によって軟磁性材料の内部に発生する圧縮応力が軟磁性材料の磁気特性の劣化を引き起こしていることに着目し、磁場を印加したときに収縮する性質を有する軟磁性材料を適用することにより、上述した課題が解決できることを見出し、本発明に到達した。
【0010】
すなわち本発明は、Niと、質量比の百分率でFe/(Fe+Ni)が10.0%〜〜
14.8%の範囲となるFeと、質量%で3.5%〜7.5%のM(但し、前記Mは、
Moと、Nb、TiおよびWから選択された1種以上の元素、Mo単体、または、Cr単体)と、を含み、飽和磁歪が−4.0ppm以上0ppm未満である軟磁性材料が樹脂モールドされて形成されている、トルクセンサ用軟磁性部品である。
【0011】
本発明では、前記Mが、質量%で3.5%〜6.5%のMoであってよい
。
また、前記Mが、質量%で3.5%〜6.0%のCrであってよい
。
また、前記Mが、質量%で、1.5%〜6.0%のMoと、0.5%〜3.0%のTiとの組合せであってよい。
また、前記Mが、質量%で、1.0%〜4.5%のMoと、2.5%〜5.0%のNbとの組合せであってよい。
また、前記Mが、質量%で、1.5%〜4.5%のMoと、1.0%〜3.0%のTiと、0.2%〜1.0%のWとの組合せであってよい
。
【0012】
また、前記軟磁性材料は、保磁力が0〜2.0(A/m)以下であることが好ましい。
また、前記軟磁性材料は、最大比透磁率が100000以上であることが好ましい。
【0013】
本発明のトルクセンサ用軟磁性部品は、トルクセンサ用リングコアに用いられることが好ましい。
また、トルクセンサ用ヨークに用いられることが好ましい。
【0014】
上述した本発明のトルクセンサ用軟磁性部品を用いて、トルクセンサを構成することができる。
また、前記トルクセンサは、電動パワーステアリング(EPS)に用いられることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、樹脂モールド前後の軟磁性材料の磁気特性の変化が抑制できるため、トルクセンサ用途に有効な磁気特性を有するトルクセンサ用軟磁性部品を得ることができる。また、そのトルクセンサ用軟磁性部品を用いることにより、高い検出精度が期待できるトルクセンサを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明における重要な特徴は、磁場を印加したときに収縮する性質をもつ軟磁性材料のうち、飽和磁歪が零よりも小さい「−4.0ppm以上0ppm未満」である軟磁性材料を樹脂モールドに適用したことである。
【0018】
このような軟磁性材料を得るためには、磁歪調整元素としての添加元素(M)を見出し、さらに前記Mと、Niと、Feの割合を適正化することが必要になる。また、同時に、トルクセンサ用軟磁性部品として所望される保磁力や最大比透磁率や初比透磁率などの各種の磁気特性や、機械的特性をも所定に確保する必要がある。加えて、軟磁性材料が所定の各種の磁気特性を有するためには磁性焼鈍が必要になるが、添加元素の種類や化学成分のバランスによっては実用性を欠く磁性焼鈍条件が必要になる。つまり、Fe−Ni系軟磁性材料の添加元素として従来知られている単独の元素を、あるいは単純に組合せた幾つかの元素を、従来知られている任意の範囲内で添加してみたところで、所定の磁気特性や機械的特性を有してなお「−4.0ppm以上0ppm未満」の飽和磁歪を有する樹脂モールドに好適な軟磁性材料を見出すことは容易ではないのである。
【0019】
本発明において、樹脂モールドされる軟磁性材料の飽和磁歪は負値である。磁歪(λ)とは、磁性体(本発明においては軟磁性材料)に磁場が印加されたとき、その磁性体の長さが変化する性質であり、その程度を本発明においては飽和磁歪(λs)によって表す。磁性体は、原子サイズでNS極を持つ微小磁石を形成し、微小な歪みを持っているため、磁場が印加されると原子サイズの微小磁石のNS極の方向が揃い、歪み(ε)が結晶全体で同方向に揃って形状が変化する(歪む)。一般に、機械的な歪み(ε)は百分率[%]で表すことが多いが、磁場を印加したときの歪みである磁歪(λ)は百万分率[ppm]で表すことが一般的であるため、これに従う。
【0020】
上述したように、本発明における軟磁性体材料は磁歪が圧縮方向(負の方向)であるため、樹脂モールドによる樹脂の収縮によって内部に圧縮応力が発生している状態で磁場が印加された場合であっても、自己の収縮する性質(負の方向の磁歪)によって自己収縮することができる。よって、本発明における軟磁性体材料は、樹脂モールドされても上述した自己の収縮量に相当する分だけ内部の圧縮応力が低減されるため、上述した各種の磁気特性の樹脂モールド前後の変化を抑制することができる。
【0021】
また、本発明における軟磁性材料の飽和磁歪は、上述したように負値であって、さらに「−4.0ppm以上0ppm未満」に限定される。これは、本発明のトルクセンサ用軟磁性部品に適用可能な所定の磁気特性を有する必要があるためと、樹脂モールドによる成形圧力および樹脂の収縮に起因して発生する収縮応力の相当分を遥かに超えて収縮する程の性質が必要でないためである。磁気特性としては、特に、保磁力が小さく、最大比透磁率が大きいことが重要であり、さらに初比透磁率が大きいことが好ましい。
【0022】
軟磁性材料のもつ飽和磁歪が「−4.0ppm」を超えて負の方向に大きい、つまり「−4.0ppm」未満の負値であって絶対値が4.0ppmを超えて大きいと、トルクセンサ用として所望される小さな保磁力や大きな最大比透磁率などを有することが難しくなる。また、軟磁性材料のもつ飽和磁歪が「0(零)ppm」以上、つまり零または正値であると、そもそも収縮する性質を有さないため自己収縮せず、このため樹脂モールド時の樹脂の収縮に起因する軟磁性材料の内部の圧縮応力が低減されない。なお、磁気特性の変化をより小さく抑制する観点から、本発明者らの検討結果によれば、好ましい飽和磁歪は「−3.0ppm以上0ppm未満」であり、より好ましくは「−2.5ppm以上0ppm未満」である。
【0023】
トルクセンサ用として一般的な樹脂モールド成形において、使用される樹脂は熱可塑性樹脂(プラスチック)材料であって、PBT(ポリプチレンテレフタレート)やPPS(ポリフェニレンサルファイド)が使用され、さらにガラス繊維を含ませる場合もある。また、成形圧力は、樹脂の種類や成形体の形状や大きさなどを考慮して決定され、PBTやPPSでは30MPa〜180MPaの範囲と考えてよい。
【0024】
上述したPBTやPPSの他、ABS(アクリロニトリルスチレン共重合体)、PS(ポリスチレン)、AS(アクリロニトリルスチレン)、EVA(エチレン酢酸ビニル)、PP(ポリプロピレン)、HDPE(高密度ポリエチレン)、PMMA(メタクリル酸メチルエステル)、PA(ポリアミド)、POM(ポリアセタール)、PC(ポリカーボネート)、LCP(液晶ポリマー)などの樹脂も使用可能と考えられる。これら樹脂の成形収縮率(収縮方向の歪みを百分率で表した値)は概ね0.1%〜6.0%の範囲であって、上述したPBTやPPSは0.2%〜0.8%の範囲と考えてよい。
【0025】
本発明において、添加元素の種類および化学成分のバランスの適正化によって得られた樹脂モールドに好適な軟磁性材料は、Ni(ニッケル)と、質量比の百分率でFe/(Fe+Ni)が10.0%〜16.0%の範囲となるFe(鉄)と、質量%で3.5%〜7.5%のM(但し、前記Mは、Mo(モリブデン)、Nb(ニオビウム)、Cr(クロミウム)、Cu(銅)、Ti(チタニウム)、W(タングステン)から選択された1種以上の元素)と、を含むものである。以下、特に断らない限り、元素の含有については質量%で表す。
【0026】
(Ni、Fe)
トルクセンサ用としての軟磁性材料において、NiおよびFeは、本発明のトルクセンサ用軟磁性部品に適用可能な所定の磁気特性および機械的強度を得るために必要な元素であって、軟磁性材料の素地を生成する元素である。また、磁歪に加え、例えば、保磁力、最大比透磁率、初比透磁率、実効比透磁率、最大磁束密度などの軟磁性材料の基本的な磁気特性は、NiとFeの含有比率によって概ね決定される。本発明においては、Niに対し、Feを、質量比の百分率でFe/(Fe+Ni)が10.0%〜16.0%の範囲になるように制御することにより、軟磁性材料の各種の磁気特性(特に保磁力と最大比透磁率)を安定化させる。例えば、当該軟磁性材料の全質量に対してNiを質量%で75.0%〜85.0%の範囲とし、上式に従ってFe/(Fe+Ni)が10.0%〜16.0%の範囲となるように、Feを質量%で概ね8.3%〜16.2%の範囲から選択して含有させることにより、トルクセンサ用として所望される軟磁性材料の基本的な磁気特性を得ることができる。
【0027】
(3.5%〜7.5%のM)
本発明においては、上述した軟磁性材料の基本的な磁気特性が得られるNiおよびFeに対し、さらに質量%で3.5%〜7.5%のM(但し、前記Mは、Mo、Nb、Cr、Cu、Ti、Wから選択された1種以上の元素)を添加することが重要である。この前記Mの含有により、トルクセンサ用として所望される磁気特性や機械的特性を実用的な磁性焼鈍条件の範囲で調整できるようになる。つまり、前記Mで表す1種以上の元素が、軟磁性材料に必要な磁性焼鈍条件や磁気特性の安定化に影響を及ぼすのである。前記Mを含有して実用的な磁性焼鈍を経た軟磁性材料は、上述した基本的な磁気特性を有し、かつ、零よりも小さい「−4.0ppm以上0ppm未満」の飽和磁歪を有することができるため、トルクセンサ用軟磁性部品に好適な軟磁性材料となる。
【0028】
なお、前記Mは、3.5%未満であると、飽和磁歪が負値にならないことがあるし、好適な磁気特性を得るための磁性焼鈍の冷却速度が大きくなって実用化が困難になることがある。また、前記Mは、7.5%を超えると、相対的にNiおよびFeの含有比率が低下するため、トルクセンサ用として必要な基本的な磁気特性が得られないことがある。特に最大磁束密度が低下することがある。前記Mは、好ましくは質量%で3.8%〜6.5%であり、保磁力や最大比透磁率に加え、最大磁束密度などの磁気特性も好適にすることができる。なお、前記Mに含まれる元素または元素の組合せは、上述した元素の他にも有り得ると考えられるが、前記Mは実用に際しての成分調整や取扱いなどが容易であるため好ましい。
【0029】
また、前記Mとして、例えば、Moのみ1種、Nbのみ1種、Crのみ1種、MoとCuの2種、MoとTiの2種、MoとNbの2種、MoとTiとWの3種、NbとWとTiの3種など、幾通りかの選択をすることができるが、その元素の選択によっては軟磁性材料の磁歪やその他の磁気特性に及ぼす影響に差異を生じる。
【0030】
(M:Moのみ1種)
例えば、前記MとしてMoのみ1種を選択する場合は、質量%で、3.5%〜6.5%であってよい。Moは、上述したNiとFeで得られる軟磁性材料の基本的な磁気特性をトルクセンサ用としてより好ましくする効果を有し、そのために必要な磁性焼鈍の所定の冷却速度の有効範囲を広げる効果を有する。Moが6.5%を超えると磁気特性への影響が大きくなるため、含有量のバラツキの管理をより厳しくするなど、取扱いに留意する必要がある。また、Moが3.5%未満では、飽和磁歪が正値になることがあったり、他の磁気特性の向上効果が低減したり、冷却速度に係る効果が不十分になる。
【0031】
(M:Nbのみ1種)
また、例えば、前記MとしてNbのみ1種を選択する場合は、質量%で、5.0%〜6.5%であってよい。Nbは、上述したNiとFeで得られる軟磁性材料の基本的な磁気特性をトルクセンサ用としてより好ましくする効果に加え、軟磁性材料の機械的強度を向上させる効果を有する。Nbが6.5%を超えると磁気特性への影響が大きくなるため、含有量のバラツキの管理をより厳しくするなど、取扱いに留意する必要がある。また、Nbが5.0%未満では磁気特性や機械的強度の向上効果が低減する傾向がある。
【0032】
(M:Crのみ1種)
また、例えば、前記MとしてCrのみ1種を選択する場合は、質量%で、3.5%〜6.0%であってよい。Crは、軟磁性材料の耐食性を向上させることができるが、磁束密度の立ち上がりを遅くする傾向があるため透磁率などの磁気特性に悪影響を及ぼすことがある。Crが6.0%を超えると磁気特性への影響が大きくなるため、含有量のバラツキの管理をより厳しくするなど、取扱いに留意する必要がある。また、Crが3.5%未満になると、耐食性の向上効果が不十分になるばかりか、飽和磁歪が正値になることがある。
【0033】
(M:MoとCuの2種)
また、例えば、前記Mとして、MoとCuの2種を選択する場合は、質量%で、前記Mが3.5%〜7.5%の範囲において、3.5%〜5.0%のMoと、1.5%〜2.5%のCuとの組合せであってよい。Cuは、磁場の印加によって磁場の逆向きに磁化される反磁性の性質を有するため、3.5%〜5.0%のMoに対し、Cuを1.5%以上含有することにより、軟磁性材料の保磁力を小さくする効果が期待できる。しかし、(Mo+Cu)が7.5%を超えると、トルクセンサ用としての磁気特性が不十分になる。
【0034】
(M:MoとTiの2種)
また、例えば、前記Mとして、MoとTiの2種を選択する場合は、質量%で、前記Mが3.5%〜7.5%の範囲において、1.5%〜6.0%のMoと、0.5%〜3.0%のTiとの組合せであってよい。MoとTiの組合せは、上述したNiとFeで得られる軟磁性材料の基本的な磁気特性をトルクセンサ用としてより一層好ましくする効果を有する。Moは、上述したように磁性焼鈍の所定の冷却速度の有効範囲を広げる効果を有する。Tiは、軟磁性材料の機械的強度を向上させる効果などを有する。しかし、(Mo+Ti)が7.5%を超えると、もしくは3.5%未満であると、トルクセンサ用としての好適な磁気特性が得られないことがある。
【0035】
(M:MoとNbの2種)
また、例えば、前記Mとして、MoとNbの2種を選択する場合は、質量%で、前記Mが3.5%〜7.5%の範囲において、1.0%〜4.5%のMoと、2.5%〜5.0%のNbとの組合せであってよい。MoとNbの組合せは、上述したNiとFeで得られる軟磁性材料の基本的な磁気特性をトルクセンサ用としてより一層好ましくする効果を有する。Moは、上述したように磁性焼鈍の所定の冷却速度の有効範囲を広げる効果を有する。Nbは、上述したように軟磁性材料の機械的強度を向上させる効果を有する。しかし、(Mo+Nb)が7.5%を超えるとトルクセンサ用としての好適な磁気特性が得られないことがあり、(Mo+Nb)が3.5%未満であるとトルクセンサ用としての磁気特性および機械的強度の向上効果が得られないことがある。
【0036】
(M:MoとTiとWの3種)
また、例えば、前記Mとして、MoとTiとWの3種を選択する場合は、質量%で、前記Mが3.5%〜7.5%の範囲において、1.5%〜4.5%のMoと、1.0%〜3.0%のTiと、0.2%〜1.0%のWとの組合せであってよい。Mo、Ti、Wの組合せは、上述したNiとFeで得られる軟磁性材料の基本的な磁気特性をトルクセンサ用としてより一層好ましくする効果に加え、軟磁性材料の機械的強度を向上させる効果を有する。しかし、(Mo+Ti+W)が7.5%を超えるとトルクセンサ用としての好適な磁気特性が得られないことがあり、(Mo+Ti+W)が3.5%未満であるとトルクセンサ用として磁気特性および機械的強度の向上効果が得られないことがある。
【0037】
(M:NbとWとTiの3種)
また、例えば、前記Mとして、NbとWとTiの3種を選択する場合は、質量%で、前記Mが3.5%〜7.5%の範囲において、2.5%〜3.5%のNbと、1.5%〜2.5%のWと、0.5%〜1.5%のTiとの組合せであってよい。Nb、W、Tiの組合せは、上述したNiとFeで得られる軟磁性材料の基本的な磁気特性をトルクセンサ用としてより一層好ましくする効果に加え、軟磁性材料の機械的強度を向上させる効果を有する。しかし、(Nb+W+Ti)が7.5%を超えるとトルクセンサ用としての好適な磁気特性が得られないことがあり、(Nb+W+Ti)が3.5%未満であると飽和磁歪が正値になることがある。
【0038】
また、本発明における軟磁性材料には、Ni、Fe、前記Mの他に、Si(珪素)、Mn(マンガン)、Mg(マグネシウム)、B(ボロン)、Al(アルミニウム)、C(炭素)、S(硫黄)、P(燐)、O(酸素)、N(窒素)などの元素を含有することがある。
【0039】
本発明における軟磁性材料の製造に際し、Si、Mn、Alは脱酸剤として、Mnは脱硫剤として使用できる。また、SiやMnやMgは熱間加工性の向上に寄与し、Bは熱間や温間の鍛造性や圧延性の向上に寄与する。しかし、Siは、磁束密度の立ち上がりを遅くする傾向があり、軟磁性材料の磁気特性に好ましくない影響を与える可能性があるため、2.0質量%以下が好ましく、より好ましくは1.0質量%以下、さらに0.7%質量以下であり、全く含まれなくてもよい。また、Mnは、全く含有しなくてもよいが、Siとは逆に磁束密度の立ち上がりを早くする傾向があり、軟磁性材料の磁気特性に好ましい影響を与える可能性がある。そのため、0.2質量%以上のMnを含有してもよい。しかし、Mnは、上述した作用効果を奏するとはいえ、多過ぎると磁気特性に好ましくない影響を与える可能性があるため、0.7質量%以下に抑制することが好ましい。また、AlやMgの含有は、多過ぎると磁気特性に好ましくない影響を与える可能性があるため、0.05質量%以下が好ましく、より好ましくは0.02質量%以下であり、全く含まれなくてもよい。また、Bの含有もAl等と同様に、0.01質量%以下が好ましく、より好ましくは0.005質量%以下であり、全く含まれなくてもよい。なお、その他のC、S、P、O、Nの含有は、可能な限り少量に抑制し、例えば0.01質量%以下に抑制することが好ましい。
【0040】
次に、トルクセンサ用軟磁性部品に形成する軟磁性材料に所望される磁気特性のうち、上述した磁歪に次いで、本発明者らが着目した保磁力と最大比透磁率の好ましい範囲について説明する。
【0041】
(保磁力)
保磁力は、トルクセンサの感度、応答性、ヒステリシスに影響を及ぼす。また、トルク検出に際しては、入力(トルク値)に対する出力(電圧値)すなわち感度(V/kgf・m)がより大きく、ヒステリシスがより小さい(ヒステリシス曲線内の面積がより小さい)ことが所望される。そのため、本発明における樹脂モールド前の軟磁性材料の保磁力は、好ましくは2.0(A/m)以下、より好ましくは1.6(A/m)以下、さらに好ましくは1.3(A/m)以下であり、理想的には零である。この順に、ヒステリシスを小さく抑制することができる。
【0042】
(最大比透磁率)
最大比透磁率は、トルクセンサの応答性、分解能に影響を及ぼす。トルク検出に際しては、目的とする制御量(トルク値)を小さくするために高い分解能が所望される。一般に最大比透磁率が大きいと分解能を高めやすいため、本発明においては樹脂モールド前の軟磁性材料の最大比透磁率が100000以上であることが好ましい。
【0043】
また、以下の磁気特性についても所定値の範囲であることが好ましい。
(初比透磁率)
初比透磁率は、最大比透磁率と同様に、トルクセンサの応答性、分解能に影響を及ぼす。そのため、初比透磁率の値はできるだけ高いことが好ましい。特に、樹脂モールド前の軟磁性材料の初比透磁率(μ0.4)が30000以上であることが好ましく、トルクセンサの応答性や分解能の向上に有効である。ここで、初比透磁率(μ0.4)とは、JIS規格(JIS−C2531)に基づいた磁場0.4(A/m)における比透磁率をいう。
【0044】
(実効比透磁率)
実効比透磁率は、保磁力と同様に、トルクセンサの感度、応答性、ヒステリシスに影響を及ぼす。そのため、実効比透磁率の値はできるだけ高いことが好ましい。なお、実効比透磁率は磁気特性の他に、印加される周波数と、軟磁性材料を軟磁性部品に形成したときの板厚の影響を受ける。つまり、実効比透磁率の好ましい値は、トルクセンサとして使用される際の諸条件に対応して変化することになるため、一義に規定することは困難である。一般に、保磁力が低くなる程、透磁率が高くなる程、実効比透磁率は高くなる傾向がある。また、印加される周波数が高いほど軟磁性部品の厚さの影響が大きくなるため、高い周波数を印加する場合は軟磁性部品の厚さを薄肉化しておく方が有利である。
【0045】
(最大磁束密度)
最大磁束密度は、トルクセンサ用軟磁性部品の小型化や軽量化に関係し、例えばリングコアやヨークの形状サイズ(特に体積)に影響を及ぼす。最大磁束密度が高い軟磁性材料を用いたトルクセンサ用軟磁性部品は体積当たりに通過可能な磁束の量が大きいため、トルクセンサの磁気回路で発生する磁束を少ない体積で通すことが可能となり、トルクセンサ用軟磁性部品の体積を低減することができる。本発明においては樹脂モールド前の軟磁性材料の最大磁束密度が0.6(T)以上であることが好ましく、トルクセンサ用軟磁性部品の小型化や軽量化に寄与でき、それを用いたトルクセンサの小型化や軽量化にも寄与できる。
【0046】
以下、本発明のトルクセンサ用軟磁性部品を用いて構成された本発明のトルクセンサについて、電動パワーステアリング(EPS)などに用いられるトルクセンサの構成例を挙げて、適宜図面を用いて、具体的に説明する。
図1に、代表的なトルクセンサの主要部を模式図にして示す。また、
図2に、
図1に示すトルクセンサの主要部の軸方向に沿う断面を模式図にして示す。
【0047】
このトルクセンサは、ステアリングホイール(図示せず)に連結する入力軸1と、操舵機構(図示せず)に連結する出力軸3と、これら2つの軸を連結するトーションバー2と、そのトーションバー2の周囲に設けられるマグネットのN極4aおよびS極4bと、そのマグネットの周囲に設けられる樹脂構造体5と、その樹脂構造体5の周囲に設けられる樹脂構造体6とを備えている。
【0048】
樹脂構造体5は、上ヨーク7および下ヨーク8(以下、まとめて「上下ヨーク7、8」ということがある。)を内包して樹脂モールドされた軟磁性部品である。上下ヨーク7、8は、
図3に示すように略同等の形状を有し、複数の突出部7a、8aが互い違いに対向するように組合わされている。
【0049】
樹脂構造体6は、上リングコア9および下リングコア10(以下、まとめて「上下リングコア9、10」ということがある。)と、磁束を検出するホール素子などからなる検出部11を内包して樹脂モールドされた軟磁性部品である。上下リングコア9、10は、集磁リングとも呼ばれ、
図4に示すように略同等の形状を有している。検出部11は、上下リングコア9、10の外周の1箇所に突出して設けられ、上リングコア9からの突出部9aと下リングコア10からの突出部10aとの間に配置されている。
【0050】
図1に示すトルクセンサにおいては、トーションバー2の周囲に設けられたマグネットのN極4aおよびS極4bによって発生する磁場中に、上下ヨーク7、8と、上下リングコア9、10が配置され、一種の磁気回路が構成されている。ステアリングホイールに操舵力が加えられると、ステアリングホイールの回転によって入力軸1が回転し、その入力軸1の回転によってトーションバー2が回転し(あるいは捩れる)、そのトーションバー2の回転(あるいは捩れ)によってマグネットのN極4aおよびS極4bが移動すると、マグネットに対して上下ヨーク7、8の突出部7a、8aの位置関係が変動する(あるいは角度差が生じる)。
【0051】
磁場中、上ヨーク7の突出部7aおよび下ヨーク8の突出部8aを磁束線が通過しているが、上述したマグネットと上下ヨーク7、8の位置関係の変動(あるいは角度差)に応じて通過する磁束線が変化し、その磁束線の変化に対応して磁束が変動する。こうした磁束の変動は、上下ヨーク7、8の複数の突起部7a、8aにおいて比較的顕著に現れ、これを上下リングコア9、10によって捉えて強調し、最終的に検出部11のホール素子によって電位差に変換する。このようにして、操舵力に応じた操舵トルクを、トルクセンサの検出部11により、トーションバー2の回転(あるいは捩れ)に比例した電圧または電流の変化量として測定することができる。
【0052】
上述したマグネットと上下ヨーク7、8の位置関係の変動によって誘発される磁束線(磁束)の変動量は、トーションバー2の回転量(あるいは捩れ角度)と相関があるため、この磁束の変動量を検出することにより、トーションバー2の回転量(あるいは捩れ角度)を測定することができる。すなわち、トーションバー2に入力軸1を介して繋がるステアリングホイールの回転量(あるいは捩れ角度)を測定することができる。
【0053】
こうしたトルクセンサにおいては、所定の分解能を有し、入力に対する応答性や、再現性や、感度が高いことが重要になる。そのためには、磁束線の変化の立ち上り(着磁)と立ち下り(消磁)の早さ、低ヒステリシス性、通すことのできる磁束線の量の多さが重要になる。従って、軟磁性部品である上下ヨーク7、8や上下リングコア9、10に所望される磁気特性としては、初比透磁率および最大比透磁率が大きいこと、保磁力が小さいこと、最大磁束密度が大きいことが重要になる。特に、低ヒステリシス性への影響が大きい保磁力は重視すべきである。
【0054】
また、磁気特性が好適な軟磁性材料を選定した場合であっても、樹脂モールド前後で磁気特性の変化が大きい軟磁性材料は磁気特性のバラツキが大きくなる可能性が高くなるため、実用上、トルクセンサ用軟磁性部品に使用することは好ましくない。この点、本発明における軟磁性材料は、飽和磁歪が−4.0ppm以上0ppm未満であることによって樹脂モールド前後の磁気特性の変化を抑制することができるため、トルクセンサ用軟磁性部品に使用することは有効である。
[実施例]
【0055】
上述したEPS用トルクセンサに適用可能な本発明のトルクセンサ用軟磁性部品の実施形態によるヨークやリングコアを、以下の方法によって製造した。
まず、表1に示す化学成分を有する実施例1〜19並びに比較例1〜4の軟磁性材料について、適切な原料を溶解して鋳造することによって得られたそれぞれのインゴットを用いて、熱間鍛造および熱間加工、さらには冷間圧延などの冷間加工を実施することにより、それぞれについて複数個の表2中に示す厚さの平板を作製した。そして、作製した平板をプレス打抜きによって穴あき平板(外径10mm、内径6mm)に形成し、それぞれの穴あき平板に対して磁性焼鈍を表2に示す熱処理条件で実施した。
【0058】
次いで、磁性焼鈍後の複数の穴あき平板を互いに密着させて厚さが約2.0mmになるように積層することにより、実施例1〜19並びに比較例1〜4に対応するそれぞれの試験体を作製した。以下、それぞれの試験体について、簡便のため「実施例1」〜「実施例19」並びに「比較例1」〜「比較例4」と記載する。また、総じて説明する際には、実施例1〜19に対応する試験体については「試験体A」と記載し、比較例1〜4に対応する試験体ついては「試験体B」と記載する。
【0059】
上述のようにして作製した試験体A、Bを内包する樹脂モールド試験体A、Bを、樹脂モールド成形によって作製した。具体的には、1つの試験体を主剤(アイカ工業製PE−10)と硬化剤(ナガセケムテックス製XNH2503)を含む成形用組成物を用いて所定の形状に被覆して成形(樹脂モールド成形)し、真空雰囲気下(真空引き)で脱泡を行い、加熱硬化処理(雰囲気温度85℃で2h保持)により作製した。
【0060】
次に、作製した試験体および樹脂モールド試験体を被測定物として、各種の磁気特性を測定した。具体的には、飽和磁歪(λs)、初比透磁率(μ0.4)、最大比透磁率(μm)、最大磁束密度(B800)、残留磁束密度(Br)、保磁力(Hc)、実効比透磁率(μe)について測定した。なお、飽和磁歪は、ストレインゲージ法で測定した。また、初比透磁率(μ0.4)、最大比透磁率(μm)、最大磁束密度(B800)、残留磁束密度(Br)、保磁力(Hc)は、B−Hトレーサーで測定した。また、実効比透磁率は、トランス法でH=0.8A/mにおける値を測定した。
【0061】
樹脂モールド前の試験体の測定結果を表3に、樹脂モールド試験体の測定結果を表4に示す。また、表3、表4から抜粋して、樹脂モールド前後の保磁力(Hc)の変化率を表5に、最大比透磁率(μm)の変化率を表6に示す。また、飽和磁歪に対し、樹脂モールド前後の保磁力(Hc)の変化を比較するためのグラフを
図5に、樹脂モールド前後の最大比透磁率(μm)の変化を比較するためのグラフを
図6に示す。
【0066】
表3に示す樹脂モールド前の試験体における飽和磁歪(λs)を見てみると、実施例1〜19は負値の「−2.44ppm」〜「−0.27ppm」を有し、比較例1〜3は正値の「+0.34ppm」〜「+0.80ppm」を有し、比較例4は「−4.35ppm」を有していた。また、初比透磁率(μ0.4)と最大比透磁率(μm)は、飽和磁歪(λs)が0(零)に近いほど概ね高い値を有する傾向になった。また、例えば、飽和磁歪が「+0.34ppm」の比較例1は、初比透磁率が180000、最大比透磁率が329000と高く良好な値であるため、好適な磁気特性を有する軟磁性材料であることがわかった。しかし、表4に示す樹脂モールド後の比較例1(樹脂モールド試験体)を見ると、初比透磁率や最大比透磁率が測定不可になるほど劣化しているため、樹脂モールドによる圧縮応力を受ける環境下での使用は好ましくないことがわかった。
【0067】
表5および
図5を参照しながら保磁力(Hc)について見てみると、飽和磁歪が「−2.5ppm以上0ppm未満」の実施例1〜19と、飽和磁歪が「+0.34ppm」の比較例1および「+0.41ppm」の比較例2は、樹脂モールド前の保磁力がいずれも2.0(A/m)以下であった。しかし、樹脂モールド後において、比較例1では8.73倍に、比較例2では3.88倍に、保磁力がそれぞれ増大していた。一方、実施例1〜19では、保磁力の変化率が実施例3で3.42倍とやや大きかったものの、いずれも比較例2よりも小さな変化率に止まっており、樹脂モールド前よりも小さく変化した実施例6も確認することができた。また、飽和磁歪が「−4.35ppm」の比較例4では、樹脂モールド前の保磁力が3.38(A/m)となり、2.0(A/m)より大きくなった。なお、比較例4では、樹脂モールド後には0.44倍の保磁力1.49(A/m)と小さくなった。しかし、樹脂モールド前の保磁力自体が高いことを考慮すれば、樹脂の種類やモールドの状態などによっては樹脂モールド前の保磁力の影響を強く受ける可能性があるため、樹脂モールド後に保磁力が小さくなったとはいえ、トルクセンサ用軟磁性部品として使用することは好ましくないと考えられる。
【0068】
上述した結果から、飽和磁歪が「−4.0ppm以上0ppm未満」である軟磁性材料は、樹脂モールドによる圧縮応力を受けたとしても保磁力(Hc)の好ましくないほどの増大を抑制することができるため、トルクセンサ用軟磁性部品に使用した際に、トルクセンサの高感度化、高応答性、低ヒステリシスを実現するために有効であることがわかった。また、
図5からして、飽和磁歪が「−4.0ppm以上0ppm未満」のとき、樹脂モールド後の保磁力のシフト方向が正方向になり、樹脂モールド後の保磁力が4.4(A/m)を超えないことがわかった。また、飽和磁歪が「−2.5ppm以上0ppm未満」のとき、前記シフト方向が正方向になり、樹脂モールド後の保磁力が条件次第で2.0(A/m)以下になることがわかった。また、飽和磁歪が「−1.7ppm以上−0.3ppm以下」のとき、樹脂モールド後の保磁力が2.0(A/m)以下になりやすいことがわかった。
【0069】
表6および
図6を参照しながら最大比透磁率(μm)について見てみると、飽和磁歪が「−1.5ppm以上0ppm未満」の実施例1〜8は、樹脂モールド後において、実施例6以外は0.16倍〜0.80倍に最大比透磁率が低下していた。しかし、トルクセンサ用軟磁性部品に使用するには問題ない程度であり、実施例1、2、4、7などは樹脂モールド前後の変化率が0.50倍以上であって好ましく、より好ましい樹脂モールド前よりも大きな最大比透磁率に変化した実施例6も確認することができた。また、飽和磁歪が「−4.35ppm」の比較例4は、樹脂モールド前の33700が、樹脂モールド後には6.29倍の212000と大きく好ましい最大比透磁率に変化していた。しかし、比較例4は、上述したように、トルクセンサ用軟磁性部品に使用するには不適当であると考えられる。
【0070】
上述した結果から、飽和磁歪が「−4.0ppm以上0ppm未満」である軟磁性材料は、樹脂モールドによる圧縮応力を受けたとしても最大比透磁率(μm)の好ましくないほどの低下を抑制することができるため、トルクセンサ用軟磁性部品に使用した際に、トルクセンサの高応答性、高分解能化を実現するために有効であることがわかった。また、
図6からして、飽和磁歪が「−4.0ppm以上0ppm未満」のとき、樹脂モールド後の最大比透磁率が24400以上になることがわかった。
【0071】
また、表3および表4を参照すると、実効比透磁率(μe)については、比較例1、2に比べ、実施例1〜16、18、19の方が樹脂モールド前後に低下する割合が小さくなる傾向が見られた。また、表2に示す試験体の厚さが同じである実施例5と比較例2は、化学成分に大きな違いがないといえるかもしれないが、実施例5のFe/(Ni+Fe)は0.153であり、比較例2のそれは0.164と違いがある。樹脂モールド前は、実施例5よりも比較例1の方が各周波数において大きな値を示していたが、樹脂モールド後は実施例5の方が大きな値を示したことから、樹脂モールドによる実効比透磁率の劣化は実施例5の方が少ないことがわかった。
【0072】
以上より、本発明によれば、トルクセンサ用軟磁性部品に使用するには問題ない程度に樹脂モールド前後の軟磁性材料の磁気特性の変化を抑制することができるため、トルクセンサ用途に有効な磁気特性を有するトルクセンサ用軟磁性部品を得ることができることがわかった。また、そのトルクセンサ用軟磁性部品を用いることにより、高い検出精度が期待できるトルクセンサを得ることができることがわかった。