【実施例】
【0036】
以下、本発明の実施例について、詳細に説明する。
【0037】
<正極用ペースト状活物質の作製>
一酸化鉛を主成分とする鉛粉:1000kgと、PET繊維[繊度:2.0D(denier)、繊維長:3.0mm]:2kgを混合し、水を加えた後、希硫酸:200kg(比重:1.260、20℃換算)に、鉛丹:300kgを加えて攪拌したスラリーを加えて混練し、正極用のペースト状活物質を作製した。
【0038】
加えた水の量は、ペースト状活物質の格子基板への充填性を考慮し、ペースト状活物質が一定の硬さになるように調整した。
【0039】
<正極板の作製>
上述の方法で作製した正極用ペースト状活物質を格子基板3に充填して、未化成のペースト式正極板を作製した。即ち、縦:240mm、横:140mm、厚み:4.3mmの格子形状をした鉛−カルシウム合金製の鋳造格子基板に、正極用ペースト状活物質を極板厚みが4.4mmになるように充填する。その後、温度、比重を所定値に設定した硫酸が常にロールプレス機(一対のローラ)のプレス面に滴下された状態で、一対のローラ9A,9B間に活物質充填極板7を通過させる。続いて、130℃に調整された循環式の熱風乾燥炉(予備乾燥炉)17内で20秒間乾燥させ、予備乾燥(一次乾燥)を行う。
【0040】
この後、以下の条件で熟成・乾燥をして、未化成のペースト式正極板を作製した。
【0041】
(一次放置):雰囲気温度75〜85℃、相対湿度95〜98%、4〜8時間
(二次放置):雰囲気温度50〜65℃、相対湿度50%以上、20時間以上
(乾燥) :55〜65℃ 24時間以上
<負極用ペースト状活物質の作製>
一酸化鉛を主成分とする鉛粉:900kgと、PET繊維[繊度:2.0D(denier)、繊維長:3.0mm]:2.7kgと、硫酸バリウム:4.5kgと、リグニン:1.8kgとを混合し、水を加えた後、希硫酸:100kgを加え混練し、負極用のペースト状活物質を作製した。
【0042】
加える水の量は、ペースト状活物質の格子基板への充填性を考慮し、ペースト状活物質が一定の硬さになるように調整した。
【0043】
<負極板の作製>
上述の方法で作製した負極用ペースト状活物質を格子基板に充填して、未化成のペースト式負極板を作製した。即ち、縦:240mm、横:140mm、厚み:2.5mmの格子形状をした鉛−カルシウム合金製の鋳造格子基板に、負極用ペースト状活物質を極板厚みが2.6mmになるように充填する。その後、温度、比重を所定値に設定した硫酸がプレス面に常に滴下されているローラ間に活物質充填極板を通過させ、続いて130℃に調整された循環式の熱風乾燥炉内で20秒間乾燥させ、予備乾燥(一次乾燥)を行う。
【0044】
この後、以下の条件熟成・乾燥をして、未化成のペースト式負極板を作製した。
【0045】
(一次放置):雰囲気温度37〜43℃、相対湿度92〜98%、24時間
(二次放置):雰囲気温度37〜43℃、相対湿度50%以上、16時間以上
(乾燥) :35〜45℃ 8時間、65〜75℃ 12時間
[実施例1〜5、比較例1]
ローラのプレス面に滴下する硫酸の温度と比重を表1に示すように変化させて、上記正極板と負極板の表面に硫酸を塗布し、続いて予備乾燥(一次乾燥)、熟成、乾燥した未化成極板について、極板どうしの貼り付きの有無と、これらの未化成極板を用いて組み立てた鉛蓄電池の初期容量を確認した。
【0046】
<評価試験1>
実施例1〜5、比較例1の条件で作製した未化成極板について、熟成、乾燥後の極板どうしの貼り付きの有無を確認した。貼り付きの有無は、予備乾燥(一次乾燥)後の活物質充填極板を、極板どうしが重なるように積層し、荷重をかけることなく2時間放置し、その後、手で上側の極板を持ち上げる際に、下側の極板が僅かでも密着して持ち上がった場合を貼り付き有「×」とし、その他の場合を「○」とした。本試験の結果を表1に併せて示す。
【0047】
<評価試験2>
実施例1〜5により作製した極板を用いて鉛蓄電池を組み立て、JIS規格JIS C 8704−2−1に基づく試験条件で1.0CA放電試験を行い、高率放電容量を確認した。終止電圧に達するまでの放電時間を表1に併せて示す。
【表1】
【0048】
表1に示すとおり、硫酸温度を25℃以下とした比較例1の場合は、極板の貼り付きが発生したが、25℃よりも高い温度とした実施例1〜5では、極板の貼り付きが発生しなかった。
【0049】
実施例1〜5及び比較例1は、極板の表面に硫酸を塗布した後は、同一条件で予備乾燥(一次乾燥)、熟成、乾燥を行っている。硫酸温度を25℃よりも高くした場合(実施例1〜5)は、硫酸温度を25℃以下にした場合(比較例1)に比べ、予備乾燥(一次乾燥)工程が終了したときには硫酸鉛結晶の密度、硫酸鉛層が適切に形成されているので極板の貼り付きが発生しなかったものと考えられる。硫酸温度が25℃以下の場合は、予備乾燥(一次乾燥)温度を高く、乾燥時間を長くして硫酸鉛結晶を成長させる必要がある。硫酸温度を25℃より高くした場合は、25℃以下にした場合に比べ短時間で予備乾燥(一次乾燥)を完了させることができ、予備乾燥(一次乾燥)炉の温度を維持するためのエネルギーを小さくすることができる。
【0050】
また、実施例1〜3と実施例4、5との対比から、硫酸温度を40〜60℃に設定することにより、硫酸温度が40℃より低い場合及び60℃より高い場合に比べて、高率放電容量が大きくなることが判る。硫酸温度の設定を高くしていくと、大きな硫酸鉛結晶が析出し、熟成反応が進行しにくくなり、また、硫酸温度の設定が低いと、細かい硫酸鉛結晶が析出し、硫酸鉛の層によって、電解液である硫酸の活物質内部への浸透、拡散が妨げられるため、いずれも初期容量が低下するものと考えられる。このため、活物質充填後の活物質表層に硫酸鉛層を形成するためには、硫酸温度が40〜60℃(実施例1〜3)の条件が、特に好ましい。
【0051】
[実施例6〜9]
ローラ周面に滴下する硫酸の温度と比重を表2に示すように変化させて、そのほかは実施例1と同様の工程を経て未化成極板を製造した。製造した極板どうしの貼り付きの有無と、これら極板を用いて組み立てた鉛蓄電池の電池容量を確認した。
【0052】
なお、製造した極板どうしの貼り付きの有無は、上述の評価試験1と同様に評価した。
【0053】
<評価試験3>
実施例1、6〜9により作製した極板について、JIS規格JIS C 8704−2−1に基づいた試験条件で0.1CA放電試験を行い、低率放電容量を確認した。終止電圧に達するまでの放電時間を、極板どうしの貼り付きの有無とともに表2に示す。
【表2】
【0054】
表2に示すとおり、硫酸温度を50℃(一定)として比重を1.05〜1.35まで変化させた場合は、いずれも極板の貼り付きは発生しなかった(実施例1及び6〜9)。
【0055】
また、実施例1,6,7と実施例8,9との対比から、硫酸比重を1.10〜1.30に設定することにより、硫酸比重がそれより低い場合や高い場合に比べて、低率放電容量が大きいことが判る。硫酸比重を1.10より低く設定していく、あるいは、1.30より高く設定していくと、低率放電容量が低下する傾向にある。硫酸比重が大きいと、細かい硫酸鉛結晶が析出し、硫酸鉛によって、電解液である硫酸の活物質内部への浸透、拡散が妨げられるため、また、硫酸比重が小さいと、大きな硫酸鉛結晶が析出し、熟成反応が進行しにくいため、いずれも容量が低下するものと考えられる。
【0056】
このように、実施例1〜9及び比較例1の結果より、活物質充填後の極板どうしの貼り付きを抑制し、電池特性を維持するには、極板に比重1.10〜1.30、温度40〜60℃の範囲の硫酸を塗布させるのが、最も好ましい。
【0057】
[実施例10〜14及び比較例2〜5]
活物質充填極板の硫酸処理として、硫酸処理を行う前にプレス成形を行った活物質充填極板の表面を、後述する表3に示すように温度と比重を変化させた硫酸に浸漬することにより、活物質充填極板の表面に硫酸鉛層を形成した。その他は実施例1と同様の工程を経て未化成極板を製造した。この例では、硫酸の比重に対する極板表面の硫酸鉛層の厚みを確認した上で、製造した極板どうしの貼り付きの有無と、これら極板を用いて組み立てた鉛蓄電池の電池容量を確認した。
【0058】
なお、製造した極板どうしの貼り付きの有無は、上述の評価試験1と同様に評価した。また、電池容量を確認は、上述の評価試験3と同様に低率放電容量として確認した。
【0059】
<評価試験4>
実施例10〜14及び比較例2〜5により作製した極板について、極板の断面を光学式デジタル金属顕微鏡(株式会社ナカデンインターナショナル製、MX−1200II、100倍)で観察し、観察した状態を確認した。確認した極板の表面付近の状態から、硫酸処理に用いた硫酸の比重(浸漬に用いた硫酸の比重)と極板表面に形成された硫酸鉛層の厚み(硫酸の侵入による酸浸層の厚さ)との関係を確認した。その結果を、対応する硫酸比重とともに
図2、
図3及び表3に示す。
【表3】
【0060】
図2及び表3から、硫酸処理に用いる硫酸の比重によって、極板表面の硫酸鉛層の厚みが変化することが判った。さらに、
図2、
図3及び表3から、極板表面の硫酸鉛層の厚みが100〜800μm(0.1〜0.8mm)の範囲では、極板どうしの貼り付きは認められなかった(実施例10〜14)。特に、極板表面の硫酸鉛層の厚みが100〜500μm(0.1〜0.5mm)の範囲にあるときに、極板どうしが貼り付かず、良好な放電時間が得られることも判った(実施例10〜12)。
【0061】
このように、実施例10〜14及び比較例2〜5の結果は、予備乾燥後の極板の表面に形成される硫酸鉛層の厚みが100〜800μmの範囲になるように硫酸処理を制御することにより、極板どうしの貼り付きを防止できることを示している。さらに、予備乾燥後の極板の表面に形成される硫酸鉛層の厚みが100〜500μmの範囲(
図3参照)になるように硫酸処理を制御することにより、電池特性を維持しながら、極板どうしの貼り付きを防止できることを示している。
【0062】
以上、本発明の実施の形態について具体的に説明したが、本発明はこれらの実施の形態および実施例に限定されるものではない。すなわち、上記の実施の形態及び実施例に記載されている条件は、特に記載がない限り、本発明の技術的思想に基づく変更が可能である。