特許第6160776号(P6160776)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6160776
(24)【登録日】2017年6月23日
(45)【発行日】2017年7月19日
(54)【発明の名称】鉛蓄電池用極板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/20 20060101AFI20170710BHJP
【FI】
   H01M4/20 Z
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-532370(P2016-532370)
(86)(22)【出願日】2014年7月10日
(86)【国際出願番号】JP2014068445
(87)【国際公開番号】WO2016006080
(87)【国際公開日】20160114
【審査請求日】2016年12月21日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】日立化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091443
【弁理士】
【氏名又は名称】西浦 ▲嗣▼晴
(74)【代理人】
【識別番号】100130720
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼見 良貴
(74)【代理人】
【識別番号】100130432
【弁理士】
【氏名又は名称】出山 匡
(72)【発明者】
【氏名】苅谷 賢二
(72)【発明者】
【氏名】小幡 篤史
(72)【発明者】
【氏名】三輪 芳揮
(72)【発明者】
【氏名】玉野 貴大
【審査官】 松嶋 秀忠
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−278000(JP,A)
【文献】 特開平02−094257(JP,A)
【文献】 特開平04−112456(JP,A)
【文献】 特開昭62−017952(JP,A)
【文献】 特開平04−181654(JP,A)
【文献】 特開平05−089875(JP,A)
【文献】 特開昭52−020232(JP,A)
【文献】 特開2000−040508(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/14−23
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛合金製の格子基板にペースト状活物質を充填して活物質充填極板を作製する活物質充填工程と、
前記活物質充填極板をプレス成形するプレス成形工程と、
前記プレス成形工程でプレス成形した前記活物質充填極板を熟成、乾燥して未化成極板とする熟成・乾燥工程とを備える鉛蓄電池用極板の製造方法であって、
前記活物質充填極板の表面を、常温よりも高い一定の温度の硫酸で処理する硫酸処理工程と、
硫酸処理工程で硫酸処理された前記活物質充填極板を、前記熟成・乾燥工程で熟成する前に予備乾燥する予備乾燥工程とをさらに備え、
前記硫酸処理工程で用いる前記硫酸は、温度が40〜60℃の範囲に調整され、かつ、比重が1.10〜1.30(20℃換算)の範囲に調整されており、
前記硫酸処理工程は、前記プレス成形工程に含まれており、
前記プレス成形工程では、プレス面を有する一対のローラを備えるロールプレス機を用いて、前記活物質充填極板が前記一対のローラ間を通過すると前記活物質充填極板がプレス成形され、
前記一対のローラの前記プレス面には前記硫酸が浸潤されており、前記活物質充填極板が前記一対のローラ間を通過すると、前記活物質充填極板の表面に前記硫酸が塗布されることを特徴とする鉛蓄電池用極板の製造方法。
【請求項2】
鉛合金製の格子基板にペースト状活物質を充填して活物質充填極板を作製する活物質充填工程と、
前記活物質充填極板をプレス成形するプレス成形工程と、
前記プレス成形工程でプレス成形した前記活物質充填極板を熟成、乾燥して未化成極板とする熟成・乾燥工程とを含む鉛蓄電池用極板の製造方法であって、
前記活物質充填極板の表面を、常温よりも高い一定の温度に調整された硫酸で処理する硫酸処理工程と、
硫酸処理工程で表面を硫酸処理した前記活物質充填極板を、前記熟成・乾燥工程で熟成する前に予備乾燥する予備乾燥工程とをさらに備え、
前記硫酸処理工程で用いる硫酸は、温度が40〜60℃の範囲に調整され、かつ比重が1.10〜1.30(20℃換算)の範囲に調整されていることを特徴とする鉛蓄電池用極板の製造方法。
【請求項3】
前記予備乾燥工程で予備乾燥した活物質充填極板の表面に形成される硫酸鉛層は、厚みが100〜800μmである請求項2に記載の鉛蓄電池用極板の製造方法。
【請求項4】
前記予備乾燥工程で予備乾燥した活物質充填極板の表面に形成される硫酸鉛層は、厚みが100〜500μmである請求項2に記載の鉛蓄電池用極板の製造方法。
【請求項5】
前記硫酸処理工程が前記プレス成形工程と同時に行われる請求項2、またはに記載の鉛蓄電池用極板の製造方法。
【請求項6】
前記硫酸処理工程が前記プレス成形工程に含まれており、
前記プレス成形工程では、プレス面を有する一対のローラを備えるロールプレス機を用いて、前記活物質充填極板が前記一対のローラ間を通過すると前記活物質充填極板がプレス成形され、
前記一対のローラの前記プレス面には前記硫酸が浸潤されており、前記活物質充填極板が前記一対のローラ間を通過すると、前記活物質充填極板の表面に前記硫酸が塗布される請求項2、またはに記載の鉛蓄電池用極板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛蓄電池用極板の製造方法に関し、特に格子基板にペースト状活物質を充填して未化成極板を作製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から使用されている二次電池の中でも鉛蓄電池は、価格及び安全性等で優れている。鉛蓄電池の極板の種類には、クラッド式、ペースト式等がある。特にペースト式極板は、生産性が高く、コストを相対的に抑えることができ、多くの用途の鉛蓄電池に使われている。鉛蓄電池用のペースト式極板は、ペースト状の活物質を鉛合金製の格子基板に充填し、熟成・乾燥して作製される。
【0003】
特開平04−2053号公報(特許文献1)には、鉛蓄電池用正極板の製造において、鉛丹を添加したペースト状活物質を格子基板に充填した後、正極板の表面を濃度10質量%以上、60質量%以下の硫酸と反応させて硫酸鉛化することにより、正極活物質の利用率を維持してサイクル特性の低下を抑制する極板の製造方法が開示されている。
【0004】
特開平09−92269号公報(特許文献2)には、活物質を格子基板に充填した極板を、表面に希硫酸を含む一対のソーキングロールを通過させることにより、次工程の乾燥工程で極板表面のひび割れを防止する鉛蓄電池用極板の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平04−2053号公報
【特許文献2】特開平09−92269号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1、2に示された方法では、極板表面の活物質に硫酸を塗布するときの硫酸温度や雰囲気温度の季節変動及び日中変動について考慮されていないため、極板表面に硫酸鉛層を形成するために要する時間が作業時間帯毎に変化し、硫酸鉛層の密度や厚さにばらつきが生じる。そのため、製造環境によっては、予備乾燥または一次乾燥を行ってもよいが、ばらつきを抑制するため、頻繁に、予備乾燥炉(一次乾燥炉)内の温度を調整したり、あるいは炉内を通過する時間を設定し直す必要がある。また、極板表面に形成された硫酸鉛層の密度や厚さにばらつきがあると、極板表面に亀裂や割れが発生する問題がある。この極板表面の亀裂や割れは、予備乾燥(一次乾燥)を行う場合に顕著となる。さらに、特許文献1、2に示された方法では、極板を、その面どうしが向き合うように並べて熟成、乾燥する際に、極板どうしが貼り付いたり、また貼り付いた極板どうしを引き離すときに活物質が脱落する問題もある。
【0007】
本発明の目的は、極板表面に亀裂や割れが発生するのを防止することができる鉛蓄電池用極板の製造方法を提供することにある。
【0008】
本発明の他の目的は、製造中に極板どうしが貼り付きにくい鉛蓄電池用極板の製造方法を提供することにある。
【0009】
本発明のさらに他の目的は、鉛蓄電池の初期容量を大きくすることができる極板の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明が改良の対象とする鉛蓄電池用極板の製造方法は、活物質充填工程、プレス成形工程、及び熟成・乾燥工程を備えている。まず、活物質充填工程では、鉛合金製の格子基板にペースト状活物質を充填することにより活物質充填極板を作製する。なお、活物質充填極板は、後述する熟成・乾燥後の未化成極板に対して、熟成・乾燥前の極板を意味する。
【0011】
プレス成形工程では、活物質充填工程で作製した活物質充填極板をプレス成形する。プレス成形の方法は任意であるが、後述のロールプレス機を用いることによりプレス成形が容易になる。
【0012】
熟成・乾燥工程は、プレス成形工程でプレス成形した活物質充填極板を、熟成、乾燥して未化成極板とする工程である。熟成、乾燥が完了した未化成極板は、その後、化成処理を施すことにより、鉛蓄電池用の極板となる。
【0013】
本発明の製造方法は、さらに硫酸処理工程と予備加熱工程とを備えている。硫酸処理工程では、活物質充填工程で作製した活物質充填極板の表面を、常温よりも高い温度に調整された硫酸で処理する。硫酸処理された活物質充填極板の表面には、格子基板に充填されたペースト状活物質と硫酸とが反応して硫酸鉛結晶が生成される。ここで、「常温」とは25℃を意味する。さらに、硫酸処理の方法は任意であり、活物質充填極板の表面に硫酸鉛結晶を形成できるものであればどのような方法を採用しても良い。なお、硫酸処理工程を行う期間は、活物質充填工程後からプレス成形工程前まで、プレス成形工程中、及び、プレス工程後から後述する予備乾燥工程前まで、のいずれの期間であっても良い。
【0014】
予備乾燥工程は、硫酸処理工程で硫酸処理された活物質充填極板を予備乾燥する工程である。この予備乾燥は、後に行う熟成・乾燥工程で活物質充填極板を熟成する前に予備的に行う乾燥であり、熟成後の乾燥に対して一次乾燥ということもある。予備乾燥(一次乾燥)は、活物質表面の余分な水分を除去すると共に、硫酸と活物質の化学反応で生成した硫酸鉛結晶を成長させて適切な硫酸鉛層を形成するために行う工程であり、乾燥炉の温度調節、乾燥時間及び乾燥方法が重要である。予備乾燥の温度が高すぎるとペースト状活物質中の水分が過剰に蒸発し、後に行う熟成・乾燥工程での化学反応が阻害される。逆に予備乾燥の温度が低すぎると適切な乾燥状態とするために時間がかかり、生産効率が低下する。予備乾燥は、乾燥炉内を加熱して行われる。乾燥炉内の加熱は電熱ヒータあるいは温風によって行われる。なお、電熱ヒータを用いると、極板に充填されているペースト状活物質の温度が急激に上昇するため、ペースト状活物質の水分量を適切に維持し、且つ適切な硫酸鉛層を形成するための乾燥炉内温度を調整するのが難しい。一方、温風を用いた乾燥炉の場合、風によっても活物質表面が乾燥されるため、温風の温度を低く設定してもペースト状活物質内の水分量を規定量に保持することができる。そのため、温風を用いて乾燥することにより、活物質表面の硫酸鉛層を形成させ、表面の活物質が脱落しない程度に活物質表面の水分を除去することが比較的容易である。
【0015】
本発明の製造方法を用いることにより、未化成極板の表面に亀裂や割れが発生するのを防止することができる。特に予備乾燥(一次乾燥)を行う場合でも、活物質充填極板の表面に亀裂や割れが発生するのを防止することができる。また、熟成・乾燥工程の際に各活物質充填極板を向き合うように整列させる際に、隣り合う活物質充填極板の表面が接触して活物質が相互に貼り付き難くなる。さらに、活物質どうしが貼り付いた場合でも、相互に貼り付いた活物質どうしを引き離す際に活物質が脱落するのを防止することができる。本発明のように、常温よりも高い温度の硫酸で活物質充填極板の表面を処理することにより、雰囲気温度の季節変動や日中変動等がある場合(特に雰囲気温度が常温以下の温度領域のとき)でも、活物質充填極板の表面(ペースト状活物質)と硫酸との反応の進行を速めることができる。その結果、結晶性の高い硫酸鉛結晶が活物質充填極板の表面に生成され、均一な硫酸鉛層が形成される。このようにして形成された硫酸鉛層は、格子基板に充填した直後の活物質の表面に比べて強固な結晶構造を持つため、上記のような効果が得られるものと考えられる。
【0016】
硫酸処理工程で用いる硫酸の温度は、40〜60℃の範囲に調整するのが好ましい。このような温度範囲に調整された硫酸で活物質充填極板の表面を処理すると、常温の硫酸で処理する場合に比べて、硫酸鉛の生成量と結晶の成長とのばらつきが少なく反応が速く進行するので、次工程の予備乾燥工程における乾燥温度を従来よりも低くし、乾燥時間を短く設定した場合でも、表面に亀裂や割れが生じにくい極板を得ることができる。なお、活物質充填極板の表面を処理する硫酸の温度が60℃より高くなっていくと、極板表面に大きな硫酸鉛の結晶が析出して、熟成反応が進行し難くなることにより、鉛蓄電池の容量が小さくなる傾向にある。また、硫酸の温度が40℃よりも低くなっていくと、極板表面に細かい硫酸鉛結晶が析出し易くなる。これは、鉛蓄電池の使用時に、電解液が極板表面から活物質内部へ浸透、拡散するのを妨げる原因となるので、鉛蓄電池容量が小さくなる傾向にある。
【0017】
また、硫酸処理工程で用いる硫酸の比重は、20℃換算で1.10〜1.30の範囲に調整するのが好ましい。硫酸の比重が1.30より大きくなっていくと、すなわち、硫酸の濃度が高いと、細かい硫酸鉛結晶が析出して、電解液が活物質表面から活物質内部へ浸透、拡散し難くなるため、鉛蓄電池の容量が小さくなる傾向にある。また、硫酸の比重が1.10より小さくなっていくと、すなわち、硫酸の濃度が低いと、大きな硫酸鉛の結晶が析出して熟成反応が進行し難くなるため、鉛蓄電池の容量が小さくなる傾向にある。
【0018】
なお、上記の温度範囲及び比重範囲に調整された硫酸で活物質充填極板の表面を処理して予備乾燥(一次乾燥)を行うと、活物質充填極板の表面に形成される硫酸鉛層の厚みが100〜800μmの範囲になる。言い換えると、予備乾燥後の活物質充填極板の表面に形成される硫酸鉛層の厚みが100〜800μmの範囲になるように、硫酸処理工程における硫酸処理を制御することにより、確実に、未化成極板の表面に亀裂や割れの発生するのを防ぎ、かつ極板どうしを重ね合わせた場合に極板どうしが張り付くのを防ぐことができる。さらに、硫酸処理工程における硫酸処理は、極板表面に形成される硫酸鉛層の厚みが100〜500μmの範囲になるように制御するのが好ましい。硫酸鉛層の厚みが100〜500μmの範囲では、未化成極板の表面に亀裂や割れの発生するのを防ぎ、かつ極板どうしを重ね合わせた場合に極板どうしが張り付くのを防ぐことができる上に、電池容量を維持することができる。
【0019】
なお、硫酸鉛層の厚みが100μm以上の範囲では極板表面の水分がなくなるため、極板どうしが貼り付かなくなると考えられる。言い換えると、硫酸鉛層の厚みが100μm未満では、極板表面の水分量が多くなり、極板どうしが貼り付き易く、電池性能にも影響を与えるおそれがある。また、硫酸鉛層の厚みが500μmを超えると電池性能に影響を与え、硫酸鉛層の厚みが800μmを超えると電池性能に与える影響が大きくなるおそれがある(すなわち、硫酸比重を高くすればするほど硫酸鉛層が厚くなり電池性能が低下するおそれがある)。
【0020】
硫酸処理工程は、プレス成形工程に含まれていることが好ましい。すなわち、硫酸処理工程における硫酸処理と、プレス成形工程におけるプレス成形とを同時に行うことが好ましい。この場合、プレス成形工程では、一対のローラを備えるロールプレス機を用い、活物質充填極板をこの一対のローラ間を通過させることにより活物質充填極板をプレス成形する。そして、一対のローラのプレス面には硫酸処理に用いる硫酸を予め浸潤しておく。この状態で、活物質充填極板が一対のローラ間を通過すると、活物質充填極板の表面に硫酸が塗布される。このように活物質充填極板をプレス成形することにより、同時に活物質充填極板の表面に硫酸処理がなされる。
【0021】
このように硫酸処理工程をプレス成形工程に含めて活物質充填極板の表面に硫酸を塗布することにより、製造ラインに大きな変更を加えることなく、活物質充填極板の表面への硫酸処理を確実に行うことができる。また、プレス成形と同時に硫酸処理がなされるため、活物質充填極板の表面に厚みが均一でしかも強固な硫酸鉛層を形成することができる。そのため、予備乾燥(一次乾燥)時に、活物質充填極板の表面に割れが生じる問題や、熟成時に活物質どうしが貼り付く等の問題を確実に防ぐことができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、活物質充填極板の表面が、常温よりも高い温度に調整された硫酸で処理されるため、極板表面に亀裂や割れが発生するのを防止することができる。また、各極板を向き合うように整列させて熟成する場合でも、隣り合う極板どうしが貼り付き難くなり、さらに、極板どうしが貼り付いた場合でも、活物質どうしを引き離す際に活物質が脱落するのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明に係る鉛蓄電池用極板の製造方法の一例を示す製造工程の概略図である。
図2】硫酸処理に用いた硫酸の比重(浸漬硫酸比重)と硫酸処理により活物質充填極板の表面に形成された硫酸鉛層の厚み(硫酸侵入・酸浸漬層厚さ)との関係を示すグラフである。
図3】(A)乃至(C)は、比重が1.10〜1.30の硫酸で処理した活物質充填極板の表面付近の断面を、光学式デジタル金属顕微鏡を用いて100倍に拡大して撮影した顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。図1には、本発明の一例を示す鉛蓄電池用極板の製造工程が示されている。本例では、まず、ベルトコンベア1に格子基板3を搭載する。格子基板3は、鋳造格子基板またはエキスパンド格子基板を用いることができる。格子基板の材質は、主原料を鉛とし、スズ、カルシウム、アンチモン等を添加することができる。本例では、カルシウム及びスズを添加した鉛合金製の格子基板を用いた。これは、カルシウムを添加すると、自己放電の割合を減少させることができ、更にこのカルシウムを添加した際の課題である、極板の腐食の起こり易さをスズの添加により抑制することができるためである。
【0025】
ベルトコンベア1上に搭載した格子基板3に充填機5を用いて活物質を充填して活物質充填極板7を作製する(活物質充填工程)。活物質は、前述した格子基板3に充填し易いように、ペースト状のものを用いる。このペースト状活物質の組成は、特に限定されるものではないが、一酸化鉛を含んだ鉛粉、水、硫酸等(正極、負極の特性に合わせてカットファイバ、炭素粉末、リグニン、硫酸バリウム、鉛丹等の添加物を加える場合もある)を混練して作製するのが好ましい。また、ペースト状活物質の格子基板への充填量は、少なくとも格子基板3の格子を完全に覆うことができる量であるが、好ましくは、格子基板3の最外周部分である枠骨の厚み以上まで充填できる量である。
【0026】
格子基板3にペースト状活物質を充填して作製した活物質充填極板7は、プレス成形により成形する(プレス成形工程)。本例では、一対のローラ9A,9Bを備えるロールプレス機9を用いる。具体的には、活物質充填極板7を一対のロールプレス機9の一対のローラ9A,9B間の隙間に通過させてプレス成形を行う。一対のローラ9A,9Bは、少なくとも1つのローラでそれぞれ構成すればよいが、ペースト状活物質を十分にプレスして充填できるように、本例では、一対のローラ9A,9Bとして、図1に示すようにそれぞれ3つのローラを配置した。
【0027】
本例では、さらに、活物質充填極板7の表面を、常温よりも高い温度に調整された硫酸で処理する(硫酸処理工程)。硫酸は、耐薬品性のあるポリプロピレン、ポリエチレン等の樹脂製、あるいは樹脂、金属等をフッ素樹脂でコートした硫酸槽11に貯蔵されている。硫酸槽11内の硫酸は、加熱装置13により設定温度に加温されている。加熱装置13は、石英ガラスヒータで構成され、硫酸槽11にこの石英ガラスヒータを浸漬して硫酸を加熱し、図示しないフッ素樹脂を被覆したK熱電対を使用して測定した温度信号を、図示しない温度コントローラへ伝送して、石英ガラスヒータの温度を制御している。本例では、硫酸槽11の容量を2m3とし、ヒータ容量2kW×3本の石英ガラスヒータ13を使用した。なお、加熱装置13には、上記の石英ガラスヒータの代わりにフッ素樹脂被覆ヒータ等を使用することも可能である。本例では、このようにして硫酸を常温より高い温度に加温している。
【0028】
また、本例では、図示しない比重測定器具を使用して硫酸の比重を測定し、硫酸槽11に接続された図示しない濃硫酸と純水のリザーブタンクの開閉弁を制御して、所定の硫酸比重を保持している。
【0029】
本例では、硫酸処理工程がプレス成形工程内に含まれている。すなわち、活物質充填極板7の表面を硫酸処理する硫酸処理工程を、活物質充填極板7をプレス成形するプレス成形工程と一緒に行う。この場合は、硫酸処理に用いる常温よりも高い温度の硫酸を予め一対のローラのプレス面に浸潤しておく。具体的には、硫酸槽11から図示しない耐酸性のポンプで汲み上げた硫酸を、チューブ14を用いて移送し、ロールプレス機9(一対のローラ9A,9B)のプレス面に滴下してプレス面を硫酸で浸潤させる。一対のローラ9A,9Bのプレス面を硫酸で浸潤するために、プレス面を布で覆う構造を用いても良く、また十分な量の硫酸を保持させる場合は多孔質の材料等を用いても良い。例えば、フッ素ゴム、超高分子ポリエチレン材料を用いた多孔質体、フッ素樹脂の焼結多孔質体等を用いることができる。本例では、上下に配置した一対のローラそれぞれの周面をポリエステル製の織布で覆った構成とした。
【0030】
ポンプは、硫酸の流量を調節するための制御手段を備えており、吐出量を適宜調節することができる。具体的には、吐出量は、図示しないコントローラにより1〜10dm3/分の範囲で可変できるように制御されている。本例では、耐酸性の自吸式ポンプを使用して吐出量が5dm3/分に設定されている。なお、硫酸槽11では、硫酸比重が設定範囲に収まるように制御されている。また、硫酸槽11内の硫酸の液量は、図示しない液位計により設定範囲に制御されている。
【0031】
このように、ロールプレス機9(一対のローラ9A,9B)のプレス面に硫酸を滴下して、一対のローラ9A,9Bのプレス面に硫酸を浸潤した状態で、活物質充填極板7を一対のローラ9A,9Bの間隙に通過させると、活物質充填極板7のプレス成形と同時にプレス面に浸潤した硫酸が活物質充填極板7の表面に塗布される。言い換えると、活物質充填極板7においてプレス成形によるペースト状活物質の充填性を向上させながら、活物質充填極板7の表面に硫酸鉛の結晶を生成することができる。
【0032】
ロールプレス機9(一対のローラ9A,9B)のプレス面に滴下した硫酸のうち、活物質充填極板7の表面に塗布されなかった硫酸(一対のローラ9A,9Bに浸潤されなかった硫酸を含む)は、硫酸回収槽15に落下して回収され、図示しない吐出量を調節可能な耐酸性の自吸式ポンプによりチューブ16を通じて硫酸槽11へ回送される。
【0033】
なお、回収された硫酸中には活物質、硫酸鉛等の不要な泥状物が存在しているので、硫酸回収槽15内にフィルターを設けてこれらの泥状物を除去してもよい。また、硫酸中の泥状物は、比重が大きく硫酸槽11の底部に沈殿するため、硫酸槽11の液面近くから硫酸を汲み出してロールプレス機9への供給を行っても良い。
【0034】
プレス成形および硫酸処理が終了した活物質充填極板7は、熟成・乾燥する前に予備乾燥が行われる(予備乾燥工程)。具体的には、図1に示すようにプレス成形と同時に硫酸が塗布された活物質充填極板7を、ベルトコンベア1と隣接するベルトコンベア2上に設けられた予備乾燥炉17内を通過させる。本例では、予備乾燥炉17として、炉内の温度を100〜150℃に調整した循環式の熱風乾燥炉を用い、乾燥時間を15〜25秒に設定して、ペースト状活物質の水分量を8〜11質量%に調整した。
【0035】
予備乾燥が完了した活物質充填極板7は、後述する所定の条件で熟成・乾燥が行われ(熟成・乾燥工程)、未化成極板となる。
【実施例】
【0036】
以下、本発明の実施例について、詳細に説明する。
【0037】
<正極用ペースト状活物質の作製>
一酸化鉛を主成分とする鉛粉:1000kgと、PET繊維[繊度:2.0D(denier)、繊維長:3.0mm]:2kgを混合し、水を加えた後、希硫酸:200kg(比重:1.260、20℃換算)に、鉛丹:300kgを加えて攪拌したスラリーを加えて混練し、正極用のペースト状活物質を作製した。
【0038】
加えた水の量は、ペースト状活物質の格子基板への充填性を考慮し、ペースト状活物質が一定の硬さになるように調整した。
【0039】
<正極板の作製>
上述の方法で作製した正極用ペースト状活物質を格子基板3に充填して、未化成のペースト式正極板を作製した。即ち、縦:240mm、横:140mm、厚み:4.3mmの格子形状をした鉛−カルシウム合金製の鋳造格子基板に、正極用ペースト状活物質を極板厚みが4.4mmになるように充填する。その後、温度、比重を所定値に設定した硫酸が常にロールプレス機(一対のローラ)のプレス面に滴下された状態で、一対のローラ9A,9B間に活物質充填極板7を通過させる。続いて、130℃に調整された循環式の熱風乾燥炉(予備乾燥炉)17内で20秒間乾燥させ、予備乾燥(一次乾燥)を行う。
【0040】
この後、以下の条件で熟成・乾燥をして、未化成のペースト式正極板を作製した。
【0041】
(一次放置):雰囲気温度75〜85℃、相対湿度95〜98%、4〜8時間
(二次放置):雰囲気温度50〜65℃、相対湿度50%以上、20時間以上
(乾燥) :55〜65℃ 24時間以上
<負極用ペースト状活物質の作製>
一酸化鉛を主成分とする鉛粉:900kgと、PET繊維[繊度:2.0D(denier)、繊維長:3.0mm]:2.7kgと、硫酸バリウム:4.5kgと、リグニン:1.8kgとを混合し、水を加えた後、希硫酸:100kgを加え混練し、負極用のペースト状活物質を作製した。
【0042】
加える水の量は、ペースト状活物質の格子基板への充填性を考慮し、ペースト状活物質が一定の硬さになるように調整した。
【0043】
<負極板の作製>
上述の方法で作製した負極用ペースト状活物質を格子基板に充填して、未化成のペースト式負極板を作製した。即ち、縦:240mm、横:140mm、厚み:2.5mmの格子形状をした鉛−カルシウム合金製の鋳造格子基板に、負極用ペースト状活物質を極板厚みが2.6mmになるように充填する。その後、温度、比重を所定値に設定した硫酸がプレス面に常に滴下されているローラ間に活物質充填極板を通過させ、続いて130℃に調整された循環式の熱風乾燥炉内で20秒間乾燥させ、予備乾燥(一次乾燥)を行う。
【0044】
この後、以下の条件熟成・乾燥をして、未化成のペースト式負極板を作製した。
【0045】
(一次放置):雰囲気温度37〜43℃、相対湿度92〜98%、24時間
(二次放置):雰囲気温度37〜43℃、相対湿度50%以上、16時間以上
(乾燥) :35〜45℃ 8時間、65〜75℃ 12時間
[実施例1〜5、比較例1]
ローラのプレス面に滴下する硫酸の温度と比重を表1に示すように変化させて、上記正極板と負極板の表面に硫酸を塗布し、続いて予備乾燥(一次乾燥)、熟成、乾燥した未化成極板について、極板どうしの貼り付きの有無と、これらの未化成極板を用いて組み立てた鉛蓄電池の初期容量を確認した。
【0046】
<評価試験1>
実施例1〜5、比較例1の条件で作製した未化成極板について、熟成、乾燥後の極板どうしの貼り付きの有無を確認した。貼り付きの有無は、予備乾燥(一次乾燥)後の活物質充填極板を、極板どうしが重なるように積層し、荷重をかけることなく2時間放置し、その後、手で上側の極板を持ち上げる際に、下側の極板が僅かでも密着して持ち上がった場合を貼り付き有「×」とし、その他の場合を「○」とした。本試験の結果を表1に併せて示す。
【0047】
<評価試験2>
実施例1〜5により作製した極板を用いて鉛蓄電池を組み立て、JIS規格JIS C 8704−2−1に基づく試験条件で1.0CA放電試験を行い、高率放電容量を確認した。終止電圧に達するまでの放電時間を表1に併せて示す。
【表1】
【0048】
表1に示すとおり、硫酸温度を25℃以下とした比較例1の場合は、極板の貼り付きが発生したが、25℃よりも高い温度とした実施例1〜5では、極板の貼り付きが発生しなかった。
【0049】
実施例1〜5及び比較例1は、極板の表面に硫酸を塗布した後は、同一条件で予備乾燥(一次乾燥)、熟成、乾燥を行っている。硫酸温度を25℃よりも高くした場合(実施例1〜5)は、硫酸温度を25℃以下にした場合(比較例1)に比べ、予備乾燥(一次乾燥)工程が終了したときには硫酸鉛結晶の密度、硫酸鉛層が適切に形成されているので極板の貼り付きが発生しなかったものと考えられる。硫酸温度が25℃以下の場合は、予備乾燥(一次乾燥)温度を高く、乾燥時間を長くして硫酸鉛結晶を成長させる必要がある。硫酸温度を25℃より高くした場合は、25℃以下にした場合に比べ短時間で予備乾燥(一次乾燥)を完了させることができ、予備乾燥(一次乾燥)炉の温度を維持するためのエネルギーを小さくすることができる。
【0050】
また、実施例1〜3と実施例4、5との対比から、硫酸温度を40〜60℃に設定することにより、硫酸温度が40℃より低い場合及び60℃より高い場合に比べて、高率放電容量が大きくなることが判る。硫酸温度の設定を高くしていくと、大きな硫酸鉛結晶が析出し、熟成反応が進行しにくくなり、また、硫酸温度の設定が低いと、細かい硫酸鉛結晶が析出し、硫酸鉛の層によって、電解液である硫酸の活物質内部への浸透、拡散が妨げられるため、いずれも初期容量が低下するものと考えられる。このため、活物質充填後の活物質表層に硫酸鉛層を形成するためには、硫酸温度が40〜60℃(実施例1〜3)の条件が、特に好ましい。
【0051】
[実施例6〜9]
ローラ周面に滴下する硫酸の温度と比重を表2に示すように変化させて、そのほかは実施例1と同様の工程を経て未化成極板を製造した。製造した極板どうしの貼り付きの有無と、これら極板を用いて組み立てた鉛蓄電池の電池容量を確認した。
【0052】
なお、製造した極板どうしの貼り付きの有無は、上述の評価試験1と同様に評価した。
【0053】
<評価試験3>
実施例1、6〜9により作製した極板について、JIS規格JIS C 8704−2−1に基づいた試験条件で0.1CA放電試験を行い、低率放電容量を確認した。終止電圧に達するまでの放電時間を、極板どうしの貼り付きの有無とともに表2に示す。
【表2】
【0054】
表2に示すとおり、硫酸温度を50℃(一定)として比重を1.05〜1.35まで変化させた場合は、いずれも極板の貼り付きは発生しなかった(実施例1及び6〜9)。
【0055】
また、実施例1,6,7と実施例8,9との対比から、硫酸比重を1.10〜1.30に設定することにより、硫酸比重がそれより低い場合や高い場合に比べて、低率放電容量が大きいことが判る。硫酸比重を1.10より低く設定していく、あるいは、1.30より高く設定していくと、低率放電容量が低下する傾向にある。硫酸比重が大きいと、細かい硫酸鉛結晶が析出し、硫酸鉛によって、電解液である硫酸の活物質内部への浸透、拡散が妨げられるため、また、硫酸比重が小さいと、大きな硫酸鉛結晶が析出し、熟成反応が進行しにくいため、いずれも容量が低下するものと考えられる。
【0056】
このように、実施例1〜9及び比較例1の結果より、活物質充填後の極板どうしの貼り付きを抑制し、電池特性を維持するには、極板に比重1.10〜1.30、温度40〜60℃の範囲の硫酸を塗布させるのが、最も好ましい。
【0057】
[実施例10〜14及び比較例2〜5]
活物質充填極板の硫酸処理として、硫酸処理を行う前にプレス成形を行った活物質充填極板の表面を、後述する表3に示すように温度と比重を変化させた硫酸に浸漬することにより、活物質充填極板の表面に硫酸鉛層を形成した。その他は実施例1と同様の工程を経て未化成極板を製造した。この例では、硫酸の比重に対する極板表面の硫酸鉛層の厚みを確認した上で、製造した極板どうしの貼り付きの有無と、これら極板を用いて組み立てた鉛蓄電池の電池容量を確認した。
【0058】
なお、製造した極板どうしの貼り付きの有無は、上述の評価試験1と同様に評価した。また、電池容量を確認は、上述の評価試験3と同様に低率放電容量として確認した。
【0059】
<評価試験4>
実施例10〜14及び比較例2〜5により作製した極板について、極板の断面を光学式デジタル金属顕微鏡(株式会社ナカデンインターナショナル製、MX−1200II、100倍)で観察し、観察した状態を確認した。確認した極板の表面付近の状態から、硫酸処理に用いた硫酸の比重(浸漬に用いた硫酸の比重)と極板表面に形成された硫酸鉛層の厚み(硫酸の侵入による酸浸層の厚さ)との関係を確認した。その結果を、対応する硫酸比重とともに図2図3及び表3に示す。
【表3】
【0060】
図2及び表3から、硫酸処理に用いる硫酸の比重によって、極板表面の硫酸鉛層の厚みが変化することが判った。さらに、図2図3及び表3から、極板表面の硫酸鉛層の厚みが100〜800μm(0.1〜0.8mm)の範囲では、極板どうしの貼り付きは認められなかった(実施例10〜14)。特に、極板表面の硫酸鉛層の厚みが100〜500μm(0.1〜0.5mm)の範囲にあるときに、極板どうしが貼り付かず、良好な放電時間が得られることも判った(実施例10〜12)。
【0061】
このように、実施例10〜14及び比較例2〜5の結果は、予備乾燥後の極板の表面に形成される硫酸鉛層の厚みが100〜800μmの範囲になるように硫酸処理を制御することにより、極板どうしの貼り付きを防止できることを示している。さらに、予備乾燥後の極板の表面に形成される硫酸鉛層の厚みが100〜500μmの範囲(図3参照)になるように硫酸処理を制御することにより、電池特性を維持しながら、極板どうしの貼り付きを防止できることを示している。
【0062】
以上、本発明の実施の形態について具体的に説明したが、本発明はこれらの実施の形態および実施例に限定されるものではない。すなわち、上記の実施の形態及び実施例に記載されている条件は、特に記載がない限り、本発明の技術的思想に基づく変更が可能である。
【符号の説明】
【0063】
1,2 ベルトコンベア
3 格子基板
5 充填機
7 活物質充填極板
9 ロールプレス機
9A,9B ローラ
11 硫酸槽
13 加熱装置(石英ガラスヒータ)
14,16 チューブ
15 硫酸回収槽
17 予備乾燥炉(一次乾燥炉)
図1
図2
図3