【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成24年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「ノーマリーオフコンピューティング基盤技術開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下に、各実施形態について図面を参照しつつ説明する。
なお、図面は模式的または概念的なものであり、各部分の厚みと幅との関係、部分間の大きさの比率などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。また、同じ部分を表す場合であっても、図面により互いの寸法や比率が異なって表される場合もある。
なお、本願明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
【0008】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る不揮発性記憶装置を示す模式的断面図である。
図1に表したように、本実施形態に係る不揮発性記憶装置610は、磁気記憶素子110と、制御部550と、を含む。
磁気記憶素子110は、積層体SB0を含む。積層体SB0は、第1積層部SB1と、第2積層部SB2と、を含む。
制御部550は、磁気記憶素子110と電気的に接続される。制御部550は、磁気記憶素子110に対して電圧の印加及び電流の供給を行うことにより、磁気記憶素子110の動作を制御する。
【0009】
第1積層部SB1は、第1強磁性層10と、第2強磁性層20と、第1非磁性層10nと、を含む。
第1強磁性層10は、主面10aを有する。第1強磁性層10の磁化10mの方向は、実質的に固定されている。第1強磁性層10の磁化10mの方向は、例えば、主面10aに対して垂直な成分を有する。第1強磁性層10の磁化10mの方向は、主面10aに対して非平行である。
【0010】
第2強磁性層20は、第1強磁性層10と積層される。第2強磁性層20は、第1部分21と、第2部分22と、を含む。第1部分21の磁化21mの方向は、可変である。第2部分22は、第1強磁性層10と第2強磁性層20との積層方向SD1に第1部分21と積層される。積層方向SD1は、例えば、主面10aに対して垂直である。この例では、第1強磁性層10と第1部分21との間に第2部分22が設けられる。第2部分22の磁化22mの方向は、可変である。第1部分21の磁化21mは、第2部分22の磁化22mと強磁性結合している。第2部分22の磁気共鳴周波数は、第1部分21の磁気共鳴周波数よりも低い。第1部分21の磁気共鳴周波数は、例えば、20GHz以上である。第2部分22の磁気共鳴周波数は、例えば、20GHz未満である。
【0011】
第1部分21及び第2部分22には、例えば、合金が用いられる。第2部分22に含まれる少なくとも1つの元素の濃度は、第1部分21に含まれる同じ元素の濃度と異なる。すなわち、第2部分22に含まれる合金の組成比は、第1部分21に含まれる合金の組成比と異なる。第2部分22は、例えば、第2強磁性層20において、第1部分21と合金の組成比を変えた部分である。
【0012】
第2部分22の材料は、第1部分21の材料と異なってもよい。この場合、第1部分21及び第2部分22は、それぞれ第2強磁性層20に含まれる1つの層と見なすことができる。すなわち、第2強磁性層20は、第1層と第2層とを含む積層体でもよい。
【0013】
第1非磁性層10nは、第1強磁性層10と第2強磁性層20との間に設けられる。第1非磁性層10nは、例えば、第1強磁性層10及び第2強磁性層20に接する。第1強磁性層10、第2強磁性層20及び第1非磁性層10nは、積層方向SD1に積層されている。
【0014】
本願明細書において、積層されている状態は、直接接して重ねられる状態の他に、間に他の要素が挿入されて重ねられる場合も含む。
【0015】
第1積層部SB1の積層方向SD1に対して平行な方向をZ軸方向とする。Z軸に対して垂直な1つの軸をX軸とする。X軸とZ軸とに対して垂直な軸をY軸とする。積層体SB0に含まれる層の膜面は、X−Y平面に対して平行である。例えば、主面10aは、X−Y平面に対して平行である。
【0016】
第2積層部SB2は、積層方向SD1に第1積層部SB1と積層される。第2積層部SB2は、第3強磁性層30を含む。第3強磁性層30は、積層方向SD1に第1積層部SB1と積層される。第3強磁性層30の磁化の方向は、可変である。第3強磁性層30の幅(積層方向SD1に対して垂直な方向の長さ)は、例えば、35ナノメートル(nm)以下である。例えば、X−Y平面に投影したときの第3強磁性層30の形状が円形である場合、その円の直径は、35nm以下である。例えば、第3強磁性層30の面内方向(積層方向SD1に対して垂直な方向)の最大の長さが、35nm以下である。第3強磁性層30の厚さ(積層方向SD1の長さ)は、例えば、0.5nm以上3.5nm以下である。
【0017】
この例では、第2積層部SB2が、第4強磁性層40と第2非磁性層20nとをさらに含む。第4強磁性層40は、第3強磁性層30と積層方向SD1に積層される。第4強磁性層40の磁化の方向は、実質的に固定されている。第2非磁性層20nは、第3強磁性層30と第4強磁性層40との間に設けられる。第2非磁性層20nは、例えば、第3強磁性層30及び第4強磁性層40に接する。
【0018】
この例では、積層体SB0が、第3非磁性層30nをさらに含む。第3非磁性層30nは、第1積層部SB1と第2積層部SB2との間に設けられる。この例では、第1強磁性層10、第1非磁性層10n、第2強磁性層20、第3非磁性層30n、第3強磁性層30、第2非磁性層20n及び第4強磁性層40が、この順に積層される。第3非磁性層30nは、例えば、流れる電子のスピン偏極度を消失させるスピン消失層である。第3非磁性層30nは、例えば、第1積層部SB1及び第2積層部SB2に接する。この例において、第3非磁性層30nは、第2強磁性層20及び第3強磁性層30に接する。
【0019】
この例では、磁気記憶素子110が、第1導電層81と、第2導電層82と、をさらに含む。第1積層部SB1は、第1導電層81と第2導電層82との間に配置される。第2積層部SB2は、第1積層部SB1と第2導電層82との間に配置される。第1導電層81は、第1積層部SB1に電気的に接続される。この例では、第1導電層81は、第1強磁性層10に電気的に接続される。第2導電層82は、第2積層部SB2に電気的に接続される。この例では、第2導電層82は、第4強磁性層40に電気的に接続される。
【0020】
第1導電層81及び第2導電層82は、制御部550と電気的に接続される。磁気記憶素子110は、第1導電層81及び第2導電層82を介して制御部550と直接または間接に接続される。第1導電層81及び第2導電層82は、磁気記憶素子110とは別と見なしても良い。不揮発性記憶装置610は、例えば、第1配線91及び第2配線92をさらに含む(
図28参照)。第1配線91は、例えば、第1導電層81に電気的に接続される。第2配線92は、例えば、第2導電層82に電気的に接続される。制御部550は、例えば、第1配線91及び第2配線92を介して磁気記憶素子110と電気的に接続される。
【0021】
実施形態に係る不揮発性記憶装置610によれば、誤動作を抑制した磁気記憶素子及び不揮発性記憶装置が提供できる。磁気記憶素子110では、第1部分21の磁化21mと第2部分22の磁化22mとが、強磁性結合している。これにより、例えば、静磁状態における第2強磁性層20のΔ値すなわち熱擾乱耐性を高めることができる。従って、磁気記憶素子110及び不揮発性記憶装置610の誤動作を抑制することができる。例えば、磁気記憶素子110の記憶保持時間を長時間化できる。書き込み時の電流値を低減させることもできる。
【0022】
Δ値とは、例えば、第2強磁性層20の磁気異方性エネルギーと熱エネルギーとの比である。Δ値は、例えば、次の式で表すことができる。
Δ=Ku・V/K
B・T
上記の式において、Kuは有効磁気異方性定数であり、Vは第2強磁性層20の体積であり、K
Bはボルツマン定数であり、Tは磁気記憶素子110の絶対温度である。
【0023】
以下では、磁気記憶素子110の構成及び動作の例について説明する。以下の説明は、磁気記憶素子110に加え、実施形態に係る、後述する他の磁気記憶素子にも適用できる。
【0024】
磁気記憶素子110においては、積層方向SD1に第1積層部SB1及び第2積層部SB2に電流を流すことによりスピン偏極した電子を第2強磁性層20に作用させる。また、磁気記憶素子110においては、第3強磁性層30の磁化を歳差運動させることにより発生する回転磁界を第2強磁性層20に作用させる。これにより、第2強磁性層20の第1部分21の磁化21mの方向及び第2部分22の磁化22mの方向が、電流の向きに応じた方向に決定される。
【0025】
第1強磁性層10は、例えば、第1の磁化固定層として機能する。第1強磁性層10においては、例えば、磁化10mが膜面に対して略垂直方向に固定されている。第1強磁性層10の磁化10mの方向は、積層方向SD1と略平行である。
【0026】
第2強磁性層20の第1部分21においては、例えば、第1部分21の磁化21mの方向は、膜面に対して略垂直方向で、積層方向SD1と略平行である。第1部分21の磁化21mは、反転可能である。第1部分21は、データを記憶する役割をもつ。第1部分21は、例えば、磁気記憶層として機能する。
【0027】
第2強磁性層20の第2部分22においては、例えば、第2部分22の磁化22mの方向は、膜面に対して略垂直方向で、積層方向SD1と略平行である。第2部分22の磁化22mは、反転可能である。第2部分22の磁化22mは、例えば、積層方向SD1に電流が積層体SB0に流れた際に、第1部分21の磁化21mよりも早く磁化反転して、第1部分21の磁化21mの磁化反転をアシストする。第2部分22は、例えば、第1部分21の磁化反転のトリガとして機能する。第2部分22は、例えば、トリガ層である。
【0028】
なお、第2部分22もデータの記憶保持に寄与する。従って、第2強磁性層20を磁気記憶層とし、第1部分21を記憶保持の本体部分、第2部分22を磁化反転のトリガ部分と考えてもよい。
【0029】
第1非磁性層10nは、第1のスペーサ層として機能する。第1非磁性層10nが絶縁材料に基づくトンネルバリア層である場合に、第1強磁性層10、第1非磁性層10n及び第2強磁性層20を含む第1積層部SB1は、例えば、MTJ(Magnetic Tunnel Junction)の構造を有する。
【0030】
第3強磁性層30においては、例えば、積層方向SD1へ投影した磁化成分が、積層方向SD1に対して垂直な方向へ投影した磁化成分よりも小さい。第3強磁性層30の磁化容易軸は、膜面に対して略平行である。第3強磁性層30は、書き込み時に高周波磁場を発生させる役割をもつ。第3強磁性層30は、例えば、磁化回転層(発振層)として機能する。
【0031】
第4強磁性層40は、例えば、第2の磁化固定層として機能する。第4強磁性層40の磁化40mの方向は、例えば、膜面に対して略垂直方向に固定されている。例えば、第4強磁性層40の磁化40mの方向は、膜面に対して略垂直方向である。第2非磁性層20nは、第2のスペーサ層として機能する。
【0032】
第1強磁性層10、第2強磁性層20及び第4強磁性層40には、例えば、垂直磁化膜が用いられる。第3強磁性層30には、例えば、面内磁化膜が用いられる。
【0033】
図2(a)及び
図2(b)は、磁化を例示する模式図である。
図2(a)は、垂直磁化膜における磁化を例示している。
図2(b)は、面内磁化膜における磁化を例示している。
図2(a)及び
図2(b)に表したように、積層方向SD1に対して垂直な1つの方向を面内方向SD2とする。面内方向SD2は、X−Y平面内の方向である。磁化72の面内磁化成分72bは、磁化72をX−Y平面に投影した成分である。面内磁化成分72bは、面内方向SD2に対して平行である。磁化72の垂直磁化成分72aは、磁化72をZ軸方向に投影した成分である。垂直磁化成分72aは、積層方向SD1に対して平行である。
【0034】
図2(a)に表したように、垂直磁化膜においては、垂直磁化成分72aが、面内磁化成分72bよりも大きい磁化状態を有する。垂直磁化膜において、磁化の方向が膜面に対して略垂直であることが動作特性上望ましい。
【0035】
図2(b)に表したように、面内磁化膜においては、面内磁化成分72bが、垂直磁化成分72aよりも大きい磁化状態を有する。面内磁化膜において、磁化の方向が膜面に対して略平行であることが動作特性上望ましい。
【0036】
説明の便宜上、第1積層部SB1から第2積層部SB2に向かう方向を「上」または「上向き」と言う。第2積層部SB2から第1積層部SB1に向かう方向を「下」または「下向き」と言う。
【0037】
既に説明したように、第1強磁性層10の磁化10mの方向は、実質的に固定される。第4強磁性層40の磁化40mの方向は、実質的に固定されている。
【0038】
図1に表したように、磁気記憶素子110において、第1強磁性層10の磁化10mの方向は上向きであり、第4強磁性層40の磁化40mの方向は下向きである。第1強磁性層10の磁化10mの積層方向SD1の成分の向きは、例えば、第4強磁性層40の磁化40mの積層方向SD1の成分の向きに対して逆である。ただし、第1強磁性層10の磁化10mの方向及び第4強磁性層40の磁化40mの方向は、種々の変形が可能である。例えば、第1強磁性層10の磁化10mの方向及び第4強磁性層40の磁化40mの方向の両方を上向きまたは下向きとしてもよいし、一方を上向きとし、他方を下向きとしてもよい。
【0039】
磁気記憶素子110において、例えば、第1導電層81及び第2導電層82を介して、第1積層部SB1及び第2積層部SB2に電子電流を流すことができる。電子電流は電子の流れである。上向きに電流が流れるときには、電子電流は下向きに流れる。
【0040】
膜面に対して垂直な方向に電子電流を流すと、磁界発生源の第3強磁性層30における磁化30mが歳差運動する。これにより、回転磁界(高周波磁界)が発生する。高周波磁界の周波数は、例えば、約1GHz〜60GHzである。高周波磁界は、第2強磁性層20の第1部分21の磁化21m及び第2部分22の磁化22mに対して垂直方向の成分(第1部分21及び第2部分22の磁化困難軸の方向の成分)を有する。従って、第3強磁性層30から発生した高周波磁界の少なくとも一部は、第1部分21及び第2部分22の磁化困難軸の方向に印加される。第3強磁性層30から発生した高周波磁界が、第1部分21及び第2部分22の磁化困難軸の方向に印加されると、第1部分21の磁化21m及び第2部分22の磁化22mが反転し易くなる。
【0041】
磁気記憶素子110においては、電子電流を第1積層部SB1及び第2積層部SB2に流すことによって、第1部分21の磁化21mの方向及び第2部分22の磁化22mの方向を制御することができる。具体的には、電子電流の流れる向き(極性)を変えることで第1部分21の磁化21mの向き及び第2部分22の磁化22mの向きを反転させることができる。情報を記憶させる場合において、例えば、第1部分21の磁化21mの方向に応じて、「0」と「1」とがそれぞれ割り当てられる。磁気記憶素子110は、第1状態、または、第1状態とは異なる第2状態、を有する。第1状態及び第2状態のそれぞれは、第1部分21の磁化21mの異なる2つの方向に対応している。
【0042】
前述のように、第3強磁性層30の幅(直径)は、35nm以下であることが好ましい。第3強磁性層30の幅が、35nmよりも大きくなると、例えば、第3強磁性層30の磁化30mの歳差運動にともなって、ボルテックス(還流磁区)が発生する。第3強磁性層30の断面形状の円相当直径を35nm以下とし、第3強磁性層30の厚さを0.5nm以上3.5nm以下とすることで、例えば、ボルテックスの発生を抑制することができる。これにより、例えば、第3強磁性層30から発生した高周波磁界を第2強磁性層20の磁化反転により適切に作用させ、第2強磁性層20の第1部分21及び第2部分22の磁化反転をアシストすることができる。すなわち、第2強磁性層20の位置において、第1部分21の磁化21m及び第2部分22の磁化22mが反転する十分な磁界強度を得ることができる。
【0043】
第3強磁性層30の横断面形状(積層方向SD1に対して垂直な平面で切断したときの断面形状)の円相当直径をR(nm)、「R」の半分の値をr(=R/2)(nm)、層厚をt(nm)とするとき、r<0.419t
2−2.86t+19.8の関係式を満たすサイズとすることが望ましい。
【0044】
本願明細書において、「円相当直径」とは、対象とする平面形状の面積と同じ面積を有する円を想定し、その円の直径をいうものとする。例えば、第3強磁性層30の横断面形状が円形の場合、「R」は直径を意味する。第3強磁性層30の横断面形状が楕円の場合、「R」は、その楕円の面積と同じ面積を有する円の直径を意味する。第3強磁性層30の横断面形状が多角形の場合、「R」は、その多角形の面積と同じ面積を有する円の直径を意味する。
【0045】
磁気記憶素子110における動作の具体例として、まず「書き込み」動作の例について説明する。
【0046】
図3(a)〜
図3(e)及び
図4(a)〜
図4(e)は、第1の実施形態に係る不揮発性記憶装置の動作を例示する模式図である。
これらの図は、磁気記憶素子110における「書き込み」動作の際の第1積層部SB1及び第2積層部SB2の状態を例示している。書き込み動作においては、第1強磁性層10の膜面及び第2強磁性層20の膜面を横切るように電子電流60を流すことにより、第2強磁性層20に対して書き込み動作が実施される。ここでは、第1非磁性層10nを介した磁気抵抗効果が、ノーマルタイプである場合について説明する。
【0047】
「ノーマルタイプ」の磁気抵抗効果においては、非磁性層の両側の磁性層の磁化どうしが互いに平行である時の電気抵抗が、反平行である時の電気抵抗よりも低い。ノーマルタイプの場合、第1非磁性層10nを介した第1強磁性層10と第2強磁性層20との間の電気抵抗は、第1強磁性層10の磁化10mが第2強磁性層20の磁化21m、22mに対して平行である時には、反平行である時よりも低い。
【0048】
図3(a)〜
図3(e)は、第2強磁性層20の第1部分21の磁化21m及び第2部分22の磁化22mの向きを上向きから下向きに反転させる場合を例示している。
図3(a)は、電子電流60を流し始めた状態を例示している。
図3(e)は、電子電流60を流し終えた状態(磁化21m及び磁化22mが反転した状態)を例示している。
図3(b)〜
図3(d)は、その途中の状態を例示している。
【0049】
図3(a)に表したように、磁化21mの向き及び磁化22mの向きを上向きから下向きに反転させる場合には、第2積層部SB2から第1積層部SB1に向けて電子電流60を流す。すなわち、下向きに電子電流60を流す。
【0050】
電子電流60を下向きに流すと、第1非磁性層10nを通過した電子のうちで、第1強磁性層10の磁化10mと同じ向き(この例において上向き)のスピンをもった電子は、第1強磁性層10を通過する。一方、第1強磁性層10の磁化10mに対して逆向き(この例において下向き)のスピンをもった電子は、第1強磁性層10と第1非磁性層10nとの界面において反射される。この反射された電子のスピンの角運動量は、第2強磁性層20へ伝達され、第2強磁性層20の磁化21m及び磁化22mに作用する。
【0051】
図3(b)に表したように、電子電流60を流すと、第3強磁性層30の磁化30mが歳差運動し、回転磁界が発生する。膜面に対して略垂直方向の磁化40mを有する第4強磁性層40を通過した電子は、第4強磁性層40の磁化40mと同じ方向のスピンをもつようになる。この電子が、第3強磁性層30へ流れると、このスピンのもつ角運動量が第3強磁性層30へ伝達され、第3強磁性層30の磁化30mに作用する。すなわち、いわゆるスピントランスファトルクが働く。これにより、電子電流60の供給によって、磁化30mが歳差運動する。第3強磁性層30を通過した電子のスピン偏極度は、第3非磁性層30nの通過によって消失される。
【0052】
図3(c)に表したように、第3強磁性層30の磁化30mが歳差運動すると、第3強磁性層30からの回転磁界の作用と第1強磁性層10との界面で反射するスピン偏極した電子の作用により、まずトリガ層である第2部分22の磁化22mの向きが、上向きから下向きに反転する。
【0053】
前述のように、第2部分22の磁気共鳴周波数は、第1部分21の磁気共鳴周波数よりも低い。第3強磁性層30の発生させる回転磁界の周波数は、第2部分22の磁気共鳴周波数に合わせて設定される。これにより、下向きのスピンをもった電子の作用と回転磁界の作用とにより、第2部分22の磁化22mの向きが、上向きから下向きに反転する。
【0054】
図3(d)に表したように、第2部分22の磁化22mの向きが上向きから下向きに反転すると、スピン偏極した電子の作用、第3強磁性層30からの回転磁界の作用及び強磁性結合した磁化22mの作用により、第1部分21の磁化21mの向きが、上向きから下向きに反転する。
【0055】
図3(e)に表したように、電子電流60の供給を停止すると、磁化30mの歳差運動が停止し、磁化21mの向き及び磁化22mの向きが、上向きから下向きに反転した状態で保持される。この向きの磁化21m及び磁化22mを有する第2強磁性層20の状態に、例えば「0」を割り当てる。磁気記憶素子110は、例えば、第2強磁性層20の磁化21mの向き及び磁化22mの向きが下向きである状態が、第1状態に対応する。
【0056】
また、
図3(a)〜
図3(e)に表したように、磁気記憶素子110では、第1状態と第2状態との間に、3つの状態を持つ。1つは、
図3(b)に表したように、磁化21m及び磁化22mが上向きで、磁化30mが歳差運動している状態である。もう1つは、
図3(c)に表したように、磁化21m及び磁化22mの一方が上向き、他方が下向きで、磁化30mが歳差運動している状態である。もう1つは、
図3(d)に表したように、磁化21m及び磁化22mが下向きで、磁化30mが歳差運動している状態である。すなわち、磁気記憶素子110は、第1状態及び第2状態に、上記3つの状態を加えた、最大で5つの状態を持つ。
【0057】
図4(a)〜
図4(e)は、第1部分21の磁化21m及び第2部分22の磁化22mの向きを下向きから上向きに反転させる場合を例示している。
図4(a)は、電子電流60を流し始めた状態を例示している。
図4(e)は、電子電流60を流し終えた状態(磁化21m及び磁化22mが反転した状態)を例示している。
図4(b)〜
図4(d)は、その途中の状態を例示している。
【0058】
図4(a)に表したように、磁化21mの向き及び磁化22mの向きを下向きから上向きに反転させる場合には、第1積層部SB1から第2積層部SB2に向けて電子電流60を流す。すなわち、上向きに電子電流60を流す。
【0059】
図4(b)に表したように、電子電流60を流すと、第3強磁性層30の磁化30mが歳差運動し、回転磁界が発生する。第4強磁性層40の磁化40mに対して逆向きのスピンをもった電子は、第4強磁性層40と第2非磁性層20nとの界面において反射される。この反射された電子のスピンの角運動量は、第3強磁性層30へ伝達され、第3強磁性層30の磁化30mに作用する。これにより、磁化30mが歳差運動する。
【0060】
図4(c)に表したように、第3強磁性層30の磁化30mが歳差運動すると、スピン偏極した電子の作用及び第3強磁性層30からの回転磁界の作用により、第2部分22の磁化22mの向きが、下向きから上向きに反転する。
【0061】
電子電流60を上向きに流すと、第1強磁性層10の磁化10mと同じ向き(この例において上向き)のスピンをもった電子は、第1強磁性層10を通過し、第2強磁性層20へ伝達される。これにより、上向きのスピンをもった電子の作用と第3強磁性層30からの回転磁界の作用とにより、第2部分22の磁化22mの向きが、下向きから上向きに反転する。
【0062】
図4(d)に表したように、第2部分22の磁化22mの向きが下向きから上向きに反転すると、スピン偏極した電子の作用、第3強磁性層30からの回転磁界の作用及び強磁性結合した磁化22mの作用により、第1部分21の磁化21mの向きが、下向きから上向きに反転する。
【0063】
図4(e)に表したように、電子電流60の供給を停止すると、磁化30mの歳差運動が停止し、磁化21mの向き及び磁化22mの向きが、下向きから上向きに反転した状態で保持される。この向きの磁化21m及び磁化22mを有する第2強磁性層20の状態に、例えば「1」を割り当てる。磁気記憶素子110は、例えば、第2強磁性層20の磁化21m及び磁化22mの向きが上向きである状態が、第2状態に対応する。
【0064】
このような作用に基づいて、第2強磁性層20の異なる複数の状態のそれぞれに、「0」または「1」が適宜割り当てられる。これにより、磁気記憶素子110における「書き込み」が実施される。
【0065】
磁気抵抗効果が「リバースタイプ」の場合は、第1非磁性層10nを介した第1強磁性層10と第2強磁性層20との間の電気抵抗は、第1強磁性層10の磁化10mが第2強磁性層20の磁化21m及び22mに対して平行である時には、反平行である時よりも高い。リバースタイプにおける「書き込み」動作は、ノーマルタイプの場合と同様である。
【0066】
この例においては、例えば、第1状態が「0」であり、第2状態が「1」である。第1状態を「1」とし、第2状態を「0」としてもよい。第1状態及び第2状態は、「0」または「1」に限ることなく、他の状態でもよい。磁気記憶素子110に設けられる状態の数は、3つ以上でもよい。すなわち、磁気記憶素子110は、マルチビットの記憶素子でもよい。
【0067】
第1状態または第2状態の設定は、制御部550によって実施される。例えば、第1状態の設定が「書き込み」に対応し、第2状態の設定が「消去」に対応する。第2状態の設定が「書き込み」に対応し、第1状態の設定が「消去」に対応しても良い。
【0068】
電子電流60の供給は、例えば、制御部550によって行われる。制御部550は、書き込み動作のときに、例えば、10ナノ秒以上の電子電流60を磁気記憶素子110に供給する。これにより、例えば、電子電流60の供給によって、磁化21mの向き及び磁化22mの向きを適切に反転させることができる。より好ましくは、3ナノ秒以上である。これにより、例えば、適切に磁化を反転させつつ、書き込み動作にかかる時間を抑えることができる。
【0069】
次に、「読み出し」動作の例について説明する。
磁気記憶素子110における第2強磁性層20の磁化21m及び磁化22mの方向の検出は、例えば、磁気抵抗効果を利用して実施される。磁気抵抗効果においては、各層の磁化の相対的な向きにより電気抵抗が変わる。磁気抵抗効果を利用する場合、第1強磁性層10と第2強磁性層20との間にセンス電流を流し、磁気抵抗が測定される。センス電流の電流値は、書き込み時(記憶時)に流す電子電流60に対応する電流値よりも小さい。
【0070】
図5(a)及び
図5(b)は、第1の実施形態に係る不揮発性記憶装置の動作を例示する模式図である。
これらの図は、磁気記憶素子110における「読み出し」動作の際の第1積層部SB1の状態を例示している。これらの図では、第2積層部SB2、第1導電層81、第2導電層82及び第3非磁性層30nは省略されている。
【0071】
図5(a)は、第1強磁性層10の磁化10mの方向が、第2強磁性層20の磁化21m及び磁化22mの方向と同じ場合を例示している。
図5(b)は、第1強磁性層10の磁化10mの方向が、第2強磁性層20の磁化21m及び磁化22mの方向と反平行(逆向き)である場合を例示している。
【0072】
図5(a)及び
図5(b)に表したように、第1積層部SB1にセンス電流61を流し、電気抵抗を検出する。
ノーマルタイプの磁気抵抗効果においては、
図5(a)の状態の抵抗は、
図5(b)の状態の抵抗よりも低い。リバースタイプの磁気抵抗効果においては、
図5(a)の状態の抵抗は、
図5(b)の状態の抵抗よりも高い。
【0073】
これらの抵抗が互いに異なる複数の状態のそれぞれに、それぞれ「0」と「1」とを対応づけることにより、2値データの記憶の読み出しが可能となる。なお、センス電流61の向きは、
図5(a)及び
図5(b)に例示した方向に対して逆向きでも良い。
【0074】
センス電流61の供給は、例えば、制御部550によって行われる。制御部550は、読み出し動作のときに、例えば、3ナノ秒以下のセンス電流61を磁気記憶素子110に供給する。これにより、例えば、センス電流61の供給による磁化21mの向きの反転及び磁化22mの向きの反転を抑えることができる。より好ましくは、1ナノ秒以下である。これにより、センス電流61の供給による磁化の反転をより適切に抑えることができる。
【0075】
このように、制御部550は、「書き込み」のときに磁気記憶素子110に電流を供給する時間を、「読み出し」のときに磁気記憶素子110に電流を供給する時間よりも長くする。制御部550は、例えば、「書き込み」のときに第1時間の電流を磁気記憶素子110に供給し、「読み出し」のときに第2時間の電流を磁気記憶素子110に供給する。このとき、第1時間は、第2時間よりも長い。これにより、例えば、安定した「書き込み」の動作と、安定した「読み出し」の動作と、を得ることができる。
【0076】
DRAM相当のメモリ動作としては、10ナノ秒〜30ナノ秒での書き込み電流が想定される。一方、キャッシュメモリ相当の用途としては、1ナノ秒〜3ナノ秒での書き込み電流が想定される。
【0077】
書き込み時間(第1時間)は、例えば、10ナノ秒以上であり、読み出し時間(第2時間)は、それ未満である。3ナノ秒以下の磁化反転では、磁化が熱の影響(熱によるアシスト効果)を受け難くなるため、反転に必要となる電流が上昇し始める。1ナノ秒の近傍は、dynamic領域といい、磁化が熱の影響を受けないため、反転に要する電流がさらに大きくなる。
【0078】
そこで、10ナノ秒以上で書き込みをし、3ナノ秒以下で読み出しをする。1ナノ秒以上3ナノ秒以下で書き込みをし、書き込みより小さい電流値で、3ナノ秒以下で読み出しをすることで、誤書き込み率をさらに低くすることができる。
【0079】
上記のように、磁気記憶素子110において、第2積層部SB2は、磁界発生源として機能する。第1積層部SB1は、磁気記憶部として機能する。以下、第2積層部SB2を、磁界発生源、または、STO(Spin Torque Oscillator)と言う場合がある。一方、第1積層部SB1を、磁気記憶部、または、MTJと言う場合がある。
【0080】
上記のように、MTJ素子の記憶層及びトリガ層である第2強磁性層20への書き込みが、スピントルク書き込み方式により行われる。このような磁気記憶素子110において、例えば、高記憶密度化の要請から磁気記憶素子110の幅を35nm以下とすることが望まれている。磁気記憶素子110の幅とは、例えば、磁気記憶素子110のX軸方向またはY軸方向の長さである。また、磁気記憶素子110のX−Y平面に投影した形状が、円形または楕円形である場合、磁気記憶素子110の幅とは、磁気記憶素子110の直径(長径)である。
【0081】
本願発明者は、磁気記憶素子110の幅を35nm以下とする場合に、第2強磁性層20に第1部分21と第2部分22とを設け、第1部分21の磁化21mと第2部分22の磁化22mとを強磁性結合させることにより、熱擾乱耐性を維持できることを見出した。これにより、実施形態に係る磁気記憶素子110及び不揮発性記憶装置610では、誤動作を抑制することができる。
【0082】
また、本願発明者は、第2部分22の磁気共鳴周波数を第1部分21の磁気共鳴周波数よりも低くすることにより、第1部分21の磁気共鳴周波数よりも低い周波数で磁化21m及び磁化22mを反転させることができることを見出した。
【0083】
磁気記憶素子の幅を35nm以下とする場合、記憶層のΔ値を60以上とすることが好ましい。これにより、良好な熱擾乱耐性が得られる。前述のように、Δ値は、素子サイズに影響する。このため、素子サイズを小さくした場合には、有効磁気異方性定数Kuの大きい材料を記憶層に用いる必要がある。
【0084】
記憶層の有効異方性磁界Hkは、有効磁気異方性定数Kuに比例する。Hkは、例えば、Hk=2・Ku/Msの式で表される。Msは、飽和磁化である。このため、有効磁気異方性定数Kuの大きい材料を記憶層に用いた場合には、記憶層の有効異方性磁界Hkが高くなる。
【0085】
記憶層の有効異方性磁界Hkが高くなると、磁界発生源からアシスト磁界を印加して記憶層の磁化反転をアシストする際に、より高い周波数がアシスト磁界に必要となる。例えば、Δ値を60以上とする場合には、Hkが10kOe〜20kOe程度となり、30GHz〜60GHz程度の高周波アシスト磁界が必要となる。
【0086】
平行から反平行及び反平行から平行の双方向において記憶層の磁化反転をアシストするため、磁界発生源には、面内磁化膜が用いられることが多い。この場合において、30GHz〜60GHz程度の磁界を発生させようとすると、例えば、磁界発生源の発生させる磁界の周波数と、記憶層の磁化の反転する周波数と、のマッチングが難しくなる。例えば、磁界発生源や記憶層に用いる材料の選定が難しくなる。磁気記憶素子の設計の自由度が低下する。
【0087】
これに対して、本実施形態に係る磁気記憶素子110では、第2部分22の磁気共鳴周波数に応じた周波数の磁界の印加で、第1部分21の磁化21m及び第2部分22の磁化22mを反転させることができる。第2部分22の磁気共鳴周波数は、例えば、20GHz未満であり、より好ましくは、15GHz以下である。従って、第3強磁性層30の発生させる回転磁界の周波数を、例えば、20GHz未満とすることができる。これにより、例えば、第3強磁性層30の発生させる回転磁界の周波数と、磁化21m及び磁化22mの磁気共鳴周波数と、のマッチングが容易になる。例えば、磁気記憶素子110において、第1積層部SB1及び第2積層部SB2の設計の自由度を高めることができる。
【0088】
図6(a)〜
図6(c)は、第1の実施形態に係る磁気記憶部のシミュレーションの条件を例示する模式図である。
図6(a)は、シミュレーションに用いた磁気記憶部を表す模式的断面図である。
図6(b)は、第1部分21に関するシミュレーション条件を示す表である。
図6(c)は、第2部分22に関するシミュレーション条件を示す表である。
シミュレーションでは、Micromagnetics-LLGにより、トリガ層を設けることで、記憶層の磁気共鳴周波数より低い周波数の磁界で磁化反転がアシストされることを確認する。
【0089】
図6(a)に表したように、シミュレーションに用いた磁気記憶部MMUでは、第1強磁性層10、第1非磁性層10n及び第2強磁性層20が、この順で積層されている。第2強磁性層20においては、第1強磁性層10と第1部分21との間に、第2部分22が設けられる。すなわち、磁気記憶部MMUの積層順は、磁気記憶素子110の第1積層部SB1の積層順と同じである。磁気記憶部MMUのX−Y平面に投影した形状は、円形とした。磁気記憶部MMUの直径は、16nmとした。
【0090】
図6(b)に表したように、磁気記憶部MMUの第1部分21(記憶層)において、厚さt1は1nm、飽和磁化Ms1は800emu/cc、有効磁気異方性定数Ku1は12×10
6erg/cm
3、有効異方性磁界Hk1は22kOeである。この場合、磁気共鳴周波数f1は62GHz、しきい値電流Ic1は11μAとなる。
【0091】
図6(c)に表したように、磁気記憶部MMUの第2部分22(トリガ層)において、厚さt2は2nm、飽和磁化Ms2は500emu/cc、有効磁気異方性定数Ku2は2.4×10
6erg/cm
3、有効異方性磁界Hk2は4.6kOeである。この場合、磁気共鳴周波数f2は13GHz、しきい値電流Ic2は3μAとなる。第2部分22は、面内磁化発振層/垂直磁化固着層から成る直径16nmのSTOを想定した時に、STOで発生可能な周波数帯域とした。
【0092】
シミュレーションでは、磁気記憶部MMUに対して、周波数をパラメータとした回転磁界を与えた。回転磁界の磁界強度は、第1部分21の有効異方性磁界Hk1に対して10%程度とした。第1部分21のしきい値電流Ic1の2倍の大きさの電流を下から上向きに流した。
【0093】
図7(a)〜
図7(c)は、第1の実施形態に係る磁気記憶部のシミュレーション結果を例示する模式図である。
図7(a)は、磁気記憶部MMUにおいて、第1部分21及び第2部分22を垂直方向に磁化させた場合を示している。
図7(b)は、磁気記憶部MMUにおいて、第1部分21及び第2部分22を面内方向に磁化させた場合を示している。
図7(c)は、シミュレーション結果を示すグラフ図である。
図7(c)の横軸は、時間(ナノ秒)であり、縦軸は、エネルギーである(J)。
【0094】
シミュレーションでは、トリガ層を設けたことにより、第2強磁性層20の熱擾乱耐性(Δ値)が減少しないかを検討した。
図7(a)及び
図7(b)に表したように、記憶層とトリガ層の初期磁化をそれぞれ面内方向に傾けた場合と、それぞれ垂直方向に傾けた場合について、10ns間の磁化緩和過程を計算した。この系では、垂直磁化が安定である。一方、面内磁化は、ある一定時間を経てエネルギーバリアを超えて垂直磁化へ緩和する。
【0095】
図7(c)に表したように、垂直磁化は一定値である。一方、面内磁化は約3nsまで高いエネルギー状態を保った後、垂直磁化へと緩和して低いエネルギー状態へと遷移している。この時のエネルギーバリアから第2強磁性層20のΔ値を求めた。
【0096】
図8は、第1の実施形態に係る磁気記憶部のシミュレーション結果を例示するグラフ図である。
図8は、Δ値の計算結果を表す。
図8において、C1及びC2は、第1部分21のみを第2強磁性層20に設けた場合の計算結果である。一方、C3〜C5は、第1部分21と第2部分22とを第2強磁性層20に設けた場合の計算結果である。また、C1は、第1部分21の材料パラメータから解析的に求められる計算結果である。C2は、第1部分21のみを第2強磁性層20に設けた場合の、エネルギーバリアから求めた計算結果である。C3は、第1部分21と第2部分22との結合磁界の大きさを5kOeとしたときの計算結果である。C4は、第1部分21と第2部分22との結合磁界の大きさを6kOeとしたときの計算結果である。C5は、第1部分21と第2部分22との結合磁界の大きさを7kOeとしたときの計算結果である。
【0097】
図8に表したように、計算結果C1及び計算結果C2では、Δ値が、40程度である。一方、計算結果C3〜計算結果C5では、Δ値が、60程度である。このように、トリガ層を設けることで、全体のΔ値が向上していることがわかる。トリガ層を設けることで、良好な熱安定性が得られることがわかる。
【0098】
図9は、第1の実施形態に係る磁気記憶部のシミュレーション結果を例示するグラフ図である。
図9は、外部印加磁界の周波数を変えた時に、磁化反転にかかった時間を計算したシミュレーション結果を表す。
図9の横軸は、外部印加磁界の周波数Fext(GHz)であり、縦軸は、磁化反転にかかった時間Trv(ナノ秒)である。また、
図9において、M1は、第1部分21のみを第2強磁性層20に設けたモデルのシミュレーション結果である。M2は、第1部分21と第2部分22との結合磁界の大きさを5kOeとしたときのシミュレーション結果である。M3は、第1部分21と第2部分22との結合磁界の大きさを6kOeとしたときのシミュレーション結果である。
【0099】
図9に表したように、シミュレーション結果M3では、約20GHzで共鳴が起きて磁化反転がアシストされていることがわかる。これに対して、第1部分21単体での共鳴周波数は、約60GHzである。
【0100】
図10は、第1の実施形態に係る磁気記憶部のシミュレーション結果を例示するグラフ図である。
図10は、電流を通電した時の磁化の時間応答を表している。
図10の横軸は、電流の供給時間であり、縦軸は、第2強磁性層20の磁化の状態を表している。また、
図10において、Mz1は、第1部分21と第2部分22とを第2強磁性層20に設けたモデルに対して外部磁界を与えない時の挙動を表す。Mz2は、21GHzの回転磁界を与えた時の挙動を表す。
【0101】
図10に表したように、Mz1では、磁化反転にかかる時間が、約2.3nsである。一方、Mz2では、磁化反転にかかる時間が、約1.5nsである。このように、第1部分21と第2部分22とを設けた第2強磁性層20では、外部磁界の印加によって、磁化反転にかかる時間が短くなる。また、Mz1では、第2部分22が先に磁化反転した後、第1部分21が磁化反転していて、それぞれ個別に反転している。一方、Mz2では、トリガ層である第2部分22が先に磁化反転し、それに引きづられて記憶層である第1部分21が磁化反転している。なお、両者が一体となって磁化反転してもよい。これにより、トリガ層の応答が記憶層の磁化反転をアシストし、実質的に磁気共鳴周波数を下げていることがわかる。
【0102】
図11(a)及び
図11(b)は、第1の実施形態に係る別の第1積層部を例示する模式的断面図である。
図11(a)及び
図11(b)に表したように、第1積層部SB1において、第1部分21及び第2部分22の位置は、2通りある。
図11(a)に表したように、第1強磁性層10と第1部分21との間に第2部分22を設けてもよい。
図11(b)に表したように、第1強磁性層10と第2部分22との間に第1部分21を設けてもよい。
図11(a)は、例えば、第1強磁性層10からのスピントルクによって第2部分22の磁化22mが反転することで、第1部分21の磁化21mの磁化反転がアシストされる構造である。
図11(b)は、例えば、第2積層部SB2(STO)からの磁界によって第2部分22の磁化22mの歳差運動が増強され、第1部分21の磁化21mの磁化反転をアシストする構造である。
【0103】
このように、トリガ層を設けることによって、記憶層の共鳴周波数より低い周波数で磁化反転をアシストすることが可能となる。トリガ層を設けた場合の磁気共鳴周波数は、例えば、トリガ層の設計やトリガ層と記憶層との強磁性結合の大きさに依存する。
【0104】
図12は、第1の実施形態に係る磁気記憶部のシミュレーション結果を例示するグラフ図である。
図12は、共鳴アシスト構造を利用した書き込み電流と読み出し電流の関係を表した図である。
図12の横軸は、STOの発生磁界の周波数Frmfであり、縦軸は、磁気記憶部MMUに流れる電流である。また、
図12において、I
Rは読み出し電流であり、I
Wは書き込み電流である。共鳴アシスト構造では、共鳴することで、書き込みに必要となる電流が下がった状態で書き込みをすることで、読み出し時と書き込み時の電流マージン(Ic変化率ΔI)を拡大して、誤書き込みを防ぐことができる。トリガ層付き構造では、STOの発生磁界の周波数Frmfを、例えば、30GHz以下へ下げることができるため、例えば、第2積層部SB2の材料選択性が増す。
【0105】
図13は、第1の実施形態に係る磁気記憶部のシミュレーション結果を例示するグラフ図である。
図13は、磁気記憶部MMUに印加する外部磁界をZ軸方向に変化させた時の磁気記憶部MMUの抵抗値の変化の一例を表す。
図13の横軸は、磁気記憶部MMUに印加する外部磁界Hextであり、縦軸は、磁気記憶部MMUの抵抗値Rである。
【0106】
磁気記憶部において、磁気抵抗効果を高めるために界面層と呼ばれる部分を記憶層に隣接して設ける構成がある。特に、
図11(a)に示す構成の場合、トリガ層の位置は、界面層を設ける位置と類似している。界面層とトリガ層とは、磁気記憶素子の磁界に対する抵抗変化を見ることで識別可能である。
【0107】
図13において、特性CT11は、
図11(a)に示す構成の磁気記憶部の外部磁界Hextと抵抗値Rとの関係を表す。特性CT12は、
図11(a)に示す構成において、トリガ層を界面層に置き換えた構成の磁気記憶部の外部磁界Hextと抵抗値Rとの関係を表す。
【0108】
図13に表したように、界面層の場合、界面層と記憶層は一体となって磁界に応答するため、飽和磁界(Hk)まで抵抗値はほぼ一様に増大する。一方、トリガ層の場合、トリガ層が先に磁化飽和するため、トリガ層と記憶層のそれぞれにおいて飽和磁界が存在する。そのため、抵抗値は途中で傾きを変える挙動を示す。
【0109】
図14は、第1の実施形態に係る磁気記憶素子の特性を例示するグラフ図である。
図14は、第2強磁性層20にトリガ層がある場合とない場合における、外部磁界に対する書き込み電流の変化を表した図である。
図14の横軸は、外部磁界の周波数であり、縦軸は、磁化反転に必要であった電流密度である。
第2強磁性層20の磁気共鳴周波数は、例えば、積層体SB0の上下電極(例えば、第1導電層81及び第2導電層82)にプローブをあて、ダンピング測定法を利用して測定することができる。ダンピング測定法としては、例えば、H. Kubota et. al., Nature physics 4 (08) 37,または、J. Sankey et. al., Nature physics 4 (08) 67などに記載された方法を利用することができる。
【0110】
図14において、特性CT21は、実施形態に係る磁気記憶素子110の結果を表す。特性CT22は、第2強磁性層20に第1部分21のみを設けた参考例の結果を表す。
図14に表したように、トリガ層を設けていない参考例では、第2強磁性層20の磁気共鳴周波数が、50GHz付近である。一方、磁気記憶素子110では、第2強磁性層20の磁気共鳴周波数が、20GHz未満である。このように、第2強磁性層20にトリガ層が設けられているか否かは、例えば、ダンピング測定法を利用して第2強磁性層20の磁気共鳴周波数を測定することにより、判別することができる。
【0111】
図15は、第1の実施形態に係る磁気記憶素子の特性を例示するグラフ図である。
図15は、第1部分21の有効異方性磁界Hk1及び第2部分22の有効異方性磁界Hk2の測定結果の一例を表す。
図15の横軸は、外部磁界であり、縦軸は、磁気記憶部の抵抗値Rである。
第1部分21の有効異方性磁界Hk1及び第2部分22の有効異方性磁界Hk2は、例えば、積層体SB0の上下電極にプローブをあて、容易軸方向と困難軸方向とにそれぞれ磁界を印加したときの磁気記憶部の抵抗を測定することで、求めることができる。この例において、容易軸方向は、積層方向SD1であり、困難軸方向は、面内方向SD2である。
【0112】
図15に表したように、第1部分21の有効異方性磁界Hk1は、例えば、飽和磁界に達したときの磁界の値である。第2部分22の有効異方性磁界Hk2は、例えば、飽和磁界に達するまでに抵抗値の編曲した点の磁界の値である。
【0113】
第1部分21の有効異方性磁界Hk1は、第2部分22の有効異方性磁界Hk2と離れていることが望ましいが、一致している場合もある。また、容易軸方向におけるヒステリシスループは、角型比が80%以上であることが望ましいが、角型とならない場合もある。
【0114】
図16は、第1の実施形態に係る磁気記憶素子の特性を例示するグラフ図である。
図16は、第1部分21の磁気共鳴周波数f1及び第2部分22の磁気共鳴周波数f2の測定結果の一例を表す。
図16の横軸は、測定装置の測定周波数であり、縦軸は、測定装置の信号強度SIである。
第1部分21の磁気共鳴周波数f1及び第2部分22の磁気共鳴周波数f2は、例えば、強磁性共鳴(FMR:Ferromagnetic Resonance)測定装置などで測定することができる。FMR測定では、例えば、積層体SB0の上下電極にプローブをあて、スペクトルを測定する。第2強磁性層20に第1部分21と第2部分22とが設けられている場合には、第1部分21の磁気共鳴周波数f1及び第2部分22の磁気共鳴周波数f2のそれぞれに対応した2本以上のスペクトルが観察される。これにより、観察されたスペクトルの1つを第1部分21の磁気共鳴周波数f1、別の1つを第2部分22の磁気共鳴周波数f2として測定することができる。
【0115】
また、第1部分21の磁気共鳴周波数f1及び第2部分22の磁気共鳴周波数f2は、例えば、透過電子顕微鏡(Transmission Electron Microscopy:TEM)と電子エネルギー損失分光法(Electron Energy-Loss Spectroscopy:EELS)との組み合わせなどによる組成分析で積層体SB0に用いられている材料を同定し、それぞれの部分に該当する材料を用いた単層膜を作る。そして、その単層膜の磁気共鳴周波数をFMR測定などで測定することにより、より正確に求めることができる。
【0116】
以下、磁気記憶素子110の各層の構成の例について説明する。以下の説明は、実施形態に係る任意の磁気記憶素子に適用できる。
【0117】
第1強磁性層10及び第2強磁性層20には、例えば、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)及びクロム(Cr)よりなる群から選択された少なくともいずれかの元素を含む金属材料を用いることが好ましい。さらに、上記の群から選択された少なくともいずれかと、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)及びロジウム(Rh)よりなる群から選択された少なくともいずれかの金属を含む合金を用いることができる。
【0118】
第1強磁性層10及び第2強磁性層20において、含まれる磁性材料の組成や熱処理の条件などを調整する。これにより、第1強磁性層10及び第2強磁性層20において、例えば、磁化量や磁気異方性などの特性を調整することができる。例えば、第2強磁性層20において、第1部分21と第2部分22とを形成することができる。また、第1強磁性層10及び第2強磁性層20には、例えば、TbFeCo及びGdFeCoなどの希土類−遷移金属のアモルファス合金を用いることができる。第1強磁性層10及び第2強磁性層20には、例えば、Co/Pt、Co/Pd及びCo/Niなどの積層構造を用いてもよい。Co/Ru、Fe/Au、及び、Ni/Cu等は、下地層との組み合わせで垂直磁化膜となる。膜の結晶配向方向を制御することで、Co/Ru、Fe/Au、または、Ni/Cu等を、第1強磁性層10及び第2強磁性層20として用いることができる。第1強磁性層10及び第2強磁性層20は、例えば、アルミニウム(Al)、ゲルマニウム(Ge)、窒素(N)、リン(P)、砒素(As)、ボロン(B)、及び、シリコン(Si)などの添加物を含んでもよい。
【0119】
第1非磁性層10nには、例えば、非磁性トンネルバリア層として機能する絶縁材料を用いることができる。具体的には、例えば、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、亜鉛(Zn)、ジルコニウム(Zr)、タンタル(Ta)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、シリコン(Si)、マグネシウム(Mg)及び鉄(Fe)よりなる群から選択された少なくともいずれかの元素を含む、酸化物、窒化物又は弗化物を用いることができる。非磁性トンネルバリア層とは、例えば、絶縁体を含み、電圧を印加したときに、トンネル効果による電流(トンネル電流)の流れる非磁性の層である。非磁性トンネルバリア層の厚さは、例えば、2nm以下である。これにより、電圧を印加したときに、非磁性トンネルバリア層にトンネル電流が流れる。
【0120】
第1非磁性層10nには、例えば、Al
2O
3、SiO
2、MgO、AlN、Ta−O、Al−Zr−O、Bi
2O
3、MgF
2、CaF
2、SrTiO
3、AlLaO
3、Al−N−O、または、Si−N−O等を用いることができる。第1非磁性層10nには、例えば、非磁性半導体(ZnOx、InMn、GaN、GaAs、TiOx、Zn、Te、または、これらに遷移金属がドープされたもの)などを用いることができる。
【0121】
第1非磁性層10nの厚さは、約0.2ナノメートル(nm)以上2.0nm以下程度の範囲の値とすることが望ましい。これにより、例えば、絶縁膜の均一性を確保しつつ、抵抗が過度に高くなることが抑制される。
【0122】
第2非磁性層20nには、例えば、非磁性トンネルバリア層及び非磁性金属層のうちのいずれかを用いることができる。
【0123】
第2非磁性層20nとして、非磁性トンネルバリア層を用いる場合、第2非磁性層20nには、例えば、第1非磁性層10nに関して説明した材料と同じ材料を用いることができる。また、この場合、第2非磁性層20nの厚さは、約0.2nm以上2.0nm程度の範囲の値とすることが望ましい。
【0124】
第2非磁性層20nに用いられる非磁性金属層には、例えば、銅(Cu)、銀(Ag)、金(Au)、クロム(Cr)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、ルテニウム(Ru)、パラジウム(Pd)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、白金(Pt)及びビスマス(Bi)よりなる群から選択されたいずれかの非磁性金属、または、上記の群から選択された少なくともいずれか2つ以上の元素を含む合金を用いることができる。第2非磁性層20nとして非磁性金属層を用いる場合、第2非磁性層20nの厚さは、1.5nm以上、20nm以下とすることが望ましい。これにより、磁性層間で層間結合せず、かつ、伝導電子のスピン偏極状態が非磁性金属層を通過する際に失われることを抑制することができる。
【0125】
第3強磁性層30には、例えば、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)及びクロム(Cr)よりなる群から選択された少なくともいずれかの元素を含む磁性金属を用いることができる。さらに、上記の群から選択された少なくともいずれかと、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)及びロジウム(Rh)よりなる群から選択された少なくともいずれかの元素と、を含む合金を用いてもよい。
【0126】
第3強磁性層30において、含まれる磁性材料の組成や熱処理を調整する。これにより、第3強磁性層30において、例えば、磁化量や磁気異方性などの特性を調整することができる。また、第3強磁性層30は、アルミニウム(Al)、ゲルマニウム(Ge)、窒素(N)、リン(P)、砒素(As)、ボロン(B)、及び、シリコン(Si)などの添加物を含んでもよい。第3強磁性層30には、Co/Pt、Co/Pd及びCo/Niなどの積層構造を用いてもよい。膜の結晶配向方向を制御することで、Co/Ru、Fe/Au、Ni/Cu等を、第3強磁性層30に用いることができる。
【0127】
第4強磁性層40には、例えば、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)及びクロム(Cr)よりなる群から選択された少なくともいずれかの元素を含む金属材料を用いることが好ましい。さらに、これらと、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)及びロジウム(Rh)よりなる群から選択された少なくともいずれかの元素と、を含む合金を用いてもよい。
【0128】
第4強磁性層40において、含まれる磁性材料の組成や熱処理の条件などを調整することにより、例えば、磁化量や磁気異方性などの特性を調整することができる。第4強磁性層40は、例えば、TbFeCo、及び、GdFeCoなどの希土類−遷移金属のアモルファス合金でもよい。第4強磁性層40は、Co/Pt、Co/Pd及びCo/Niなどの積層構造を用いてもよい。Co/Ru、及び、Fe/Au、Ni/Cu等は、下地層との組み合わせで垂直磁化膜となる。膜の結晶配向方向を制御することで、Co/Ru、Fe/Au及びNi/Cu等を第4強磁性層40として用いることができる。
【0129】
第3非磁性層30nには、例えば、非磁性金属層が用いられる。
第3非磁性層30nに用いられる非磁性金属層には、例えば、銅(Cu)、銀(Ag)、金(Au)、クロム(Cr)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、ルテニウム(Ru)、パラジウム(Pd)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、チタン(Ti)、タングステン(W)、白金(Pt)、ビスマス(Bi)、イリジウム(Ir)及びオスミウム(Os)よりなる群から選択された少なくともいずれかの非磁性金属、または、上記の群から選択された2つ以上の非磁性金属を含む合金を含むことができる。
【0130】
さらに、第3非磁性層30nに用いられる非磁性金属層は、例えば、上記の群から選択された少なくともいずれかの元素を含む、導電性窒化物、導電性酸化物及び導電性弗化物の少なくともいずれかでもよい。例えば、第3非磁性層30nには、例えば、TiN及びTaNなどを用いることができる。さらに、第3非磁性層30nには、これらの材料の膜を積層させた積層膜を用いても良い。第3非磁性層30nには、例えば、Ti膜/Ru膜/Ti膜の積層膜などを用いることができる。
【0131】
第3非磁性層30nには、銅(Cu)などのスピン拡散長が長い材料、または、ルテニウム(Ru)などのスピン拡散長が短い材料を用いることができる。ルテニウム(Ru)などのスピン拡散長が短い材料を第3非磁性層30nに用いることにより、流れる電子のスピン偏極を消失させ易くすることができる。
【0132】
第1導電層81及び第2導電層82には、例えば、導電性の磁性材料または導電性の非磁性材料が用いられる。導電性の磁性材料としては、例えば、第3強磁性層30及び第4強磁性層40に用いられる材料と実質的に同じ材料を挙げることができる。
【0133】
第1導電層81及び第2導電層82に用いられる導電性の非磁性材料には、例えば、金(Au)、銅(Cu)、クロム(Cr)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、ルテニウム(Ru)、パラジウム(Pd)、銀(Ag)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、チタン(Ti)、タングステン(W)、白金(Pt)、ビスマス(Bi)及びアルミニウム(Al)よりなる群から選択されたいずれかの金属、または、上記の群から選択された2つ以上の金属を含む合金を用いることができる。
【0134】
さらに、第1導電層81及び第2導電層82に用いられる導電性の非磁性材料は、上記の群から選択された少なくともいずれかの元素を含む、導電性窒化物、導電性酸化物及び導電性弗化物の少なくともいずれかでもよい。第1導電層81及び第2導電層82に用いられる導電性の非磁性材料は、カーボンナノチューブ、カーボンナノワイヤ及びグラフェンなどでもよい。
【0135】
第1導電層81及び第2導電層82に導電性の保護膜を設けてもよい。この場合、保護膜には、例えば、タンタル(Ta)、ルテニウム(Ru)、銅(Cu)、金(Au)、銀(Ag)、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、金(Au)、銀(Ag)及びアルミニウム(Al)よりなる群から選択された少なくともいずれかの元素を含む合金、または、グラフェンなどの材料を用いることができる。エレクトロマグレーション耐性及び低抵抗であることを考慮すると、保護膜には、銅(Cu)及びアルミニウム(Al)よりなる群から選択されたいずれかの元素、または、これらを含む合金を用いることが望ましい。
【0136】
第1導電層81及び第2導電層82の少なくともいずれかに、トランジスタが直接または間接に接続される場合がある。このときには、第1導電層81及び第2導電層82の上記の少なくともいずれかには、例えば、そのトランジスタのソース部またはドレイン部が用いられても良い。また、このときには、第1導電層81及び第2導電層82の上記の少なくともいずれかには、例えば、そのトランジスタのソース部またはドレイン部に接続されるコンタクト部が用いられても良い。
【0137】
X−Y平面に投影したときの第1積層部SB1の形状及び第2積層部SB2の形状は任意である。X−Y平面に投影したときの第1積層部SB1の形状及び第2積層部SB2の形状は、例えば、円形、楕円形、扁平円、及び、多角形などである。多角形とする場合には、四角形や六角形などの3つ以上の角を有することが好ましい。また、多角形は、角丸状でもよい。
【0138】
Z軸に対して平行な平面(例えばZ−X平面やZ−Y平面)に投影したときの第1積層部SB1及び第2積層部SB2の形状は任意である。Z軸に対して平行な平面に投影したときの第1積層部SB1の形状及び第2積層部SB2の形状(膜面に対して垂直な面で切断した形状)は、例えば、テーパ形状または逆テーパ形状を有することができる。
【0139】
次に、第1の実施形態に係る磁気記憶素子110の製造方法の例について説明する。以下の製造方法は、磁気記憶素子110に加え、層の作製順を適宜変更することにより、実施形態に係る、後述する他の磁気記憶素子にも適用できる。また、以下の説明において、「材料A/材料B」は、材料Aの上に材料Bが積層されていることを指す。
【0140】
ウェーハ上に下部電極(図示せず)を形成した後、そのウェーハを超高真空スパッタ装置内に配置する。下部電極上に、Ta/Ru(下部電極とのコンタクト層、兼ストッパー層)、CoFeB/FePt層(第1強磁性層10)、MgO(第1非磁性層10n)、CoFeB層(トリガ層)、FePd/CoFeB層(記憶層)、及び、その上にTa/Ru層(コンタクト層、兼ストッパー層、兼第3非磁性層30n)を、この順に積層させる。ここで、磁界中でアニールすることによって、FePd/CoFeB層とCoFeB/FePt層との膜面垂直方向の磁気異方性の強さを調節することもできる。続いて、FePt/CoFeB/Cu/Py層(磁界発生部)、及び、Ta/Ru層(上部コンタクト層、兼ストッパー層)をこの順に積層する。これにより、加工体が形成される。
【0141】
次に、EB(electron beam:電子線)レジストを塗布してEB露光を行い、直径50nmのレジストマスクを形成する。加工体のうちで、レジストで被覆されていない部分を、下部電極とのコンタクト層兼ストッパー層のTa層が露出するまで、イオンミリングによって削る。
【0142】
この後、保護絶縁層となるSiN膜を成膜し、積層体SB0を被覆する。
【0143】
次に、埋め込み絶縁層となるSiO
2膜を成膜した後、CMP(Chemical Mechanical Polishing)等で平坦化した後、RIE(Reactive Ion Etching)等で全面をエッチングすることで電極との上部コンタクト層を露出させる。
【0144】
さらに全面にレジストを塗布し、レジストの開口部が上部電極の位置に対応するように、ステッパ露光装置を用いてレジストをパターニングする。上部電極に対応する開口を埋め込むように、Cu膜を形成し、レジストを除去する。これにより、上部電極が形成される。上部電極に電気的に接続される配線(図示しない)が設けられる。
以上により、磁気記憶素子110が完成する。
【0145】
図17は、第1の実施形態に係る別の磁気記憶素子を例示する模式的断面図である。
図17に表しように、磁気記憶素子111では、第1強磁性層10の磁化10mの向きが下向きであり、第4強磁性層40の磁化40mの向きが上向きである。このように、磁化10mの向き及び磁化40mの向きは、磁気記憶素子110の磁化10mの向き及び磁化40mの向きに対して、それぞれ逆向きでもよい。
【0146】
磁気記憶素子110及び磁気記憶素子111の積層順では、例えば、第2強磁性層20と第3強磁性層30との間に第4強磁性層40を配置する構成などに比べて、第2強磁性層20と第3強磁性層30との間の距離が近い。これにより、第3強磁性層30で発生した回転磁界を、より適切に第2強磁性層20に作用させることができる。第2強磁性層20における磁化反転をより効率的にアシストすることができる。
【0147】
また、磁気記憶素子110及び磁気記憶素子111では、第1強磁性層10の磁化10mの積層方向SD1の成分の向きが、第4強磁性層40の磁化40mの積層方向SD1の成分の向きに対して逆である。これにより、例えば、第2強磁性層20の位置において、第1強磁性層10の磁化10m及び第4強磁性層40の磁化40mに起因する漏洩磁界の影響を抑えることができる。
【0148】
磁気記憶素子110及び111において、第3非磁性層30nにおいてスピン情報が保たれると、第3強磁性層30は、第2強磁性層20からのスピントランスファトルクの影響を受ける。このため、第3強磁性層30の磁化回転の制御性が低下する場合がある。
【0149】
このとき、第3非磁性層30nとして、例えばルテニウム(Ru)などのようなスピン拡散長の短い膜(スピン消失の機能を持つ材料)、または、スピン拡散長の短い構造を有する層を用いることが望ましい。これにより、第3強磁性層30の磁化回転の制御性の低下を抑制できる。
【0150】
すなわち、第3強磁性層30の磁化30mが歳差運動をするためのスピントランスファトルクの大きさは、第4強磁性層40でのスピン偏極で決まる。この構成においては、他の電子のスピンの影響(スピントランスファトルク)を受けることなく、第3強磁性層30の磁化30mを独立に制御することが可能となる。
【0151】
第3非磁性層30nのための、このようなスピン消失効果が得られる材料としては、ルテニウム(Ru)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)、ジルコニウム(Zr)、チタン(Ti)及びバナジウム(V)よりなる群から選択された金属、または、これらの群から選択された2つ以上を含む合金を挙げることができる。
【0152】
第3非磁性層30nの厚さは、第2強磁性層20と第3強磁性層30とが層間磁気結合しない値に設定されることが望ましい。具体的には、第3非磁性層30nの厚さは、1.4nm以上に設定することが望ましい。
【0153】
第3非磁性層30nの厚さが1.4nm以上であると、第2強磁性層20と第3強磁性層30とが層間結合せず、かつ、第3非磁性層30nにおいて、伝導電子が第3非磁性層30nの内部及び界面を通過する際にスピン偏極度を消失させることができる。さらに、第2強磁性層20の磁化21m及び磁化22mの向きにより第3強磁性層30の歳差運動が変化することを、第3非磁性層30nにより防ぐことができる。
【0154】
一方、第3非磁性層30nの厚さが20nmを超えると、多層膜のピラー形成が困難となる。さらに、第3強磁性層30から発生する回転磁界の強度が、第2強磁性層20の位置で減衰する。そのため、第3非磁性層30nの厚さは、20nm以下に設定されることが望ましい。
【0155】
第3非磁性層30nとして、前述した単層膜の他に、積層膜を用いることができる。この積層膜は、例えば、ルテニウム(Ru)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)、ジルコニウム(Zr)、チタン(Ti)及びバナジウム(V)よりなる群から選択された金属、または、その群から選択された2つ以上を含む合金を含む層と、その層の少なくとも片側に積層された銅(Cu)層と、の積層構成を有することができる。
【0156】
さらに、第3非磁性層30nに用いられる積層膜は、例えば、ルテニウム(Ru)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)、ジルコニウム(Zr)、チタン(Ti)及びバナジウム(V)よりなる群から選択された金属、または、その群から選択された2つ以上を含む合金を含む第1層と、第1層の少なくとも片側に積層され、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、チタン(Ti)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、タンタル(Ta)、タングステン(W)及びルテニウム(Ru)よりなる群から選択された少なくともいずれかの元素を含む酸化物を含む第2層と、を含む積層構成を有することができる。
【0157】
図18は、第1の実施形態に係る別の磁気記憶素子を例示する模式的断面図である。
図18に表しように、磁気記憶素子112では、第2強磁性層20が、第4非磁性層40nをさらに含む。第4非磁性層40nは、第1部分21と第2部分22との間に設けられる。このように、第1部分21の磁化21mは、第4非磁性層40nを介して第2部分22の磁化22mと強磁性結合させてもよい。
【0158】
第4非磁性層40nには、例えば、非磁性金属層が用いられる。
第4非磁性層40nに用いられる非磁性金属層には、銅(Cu)、銀(Ag)、金(Au)、クロム(Cr)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、ルテニウム(Ru)、パラジウム(Pd)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、白金(Pt)、ビスマス(Bi)、イリジウム(Ir)及びオスミウム(Os)よりなる群から選択された少なくともいずれかの非磁性金属、または、上記の群から選択された2つ以上の元素を含む合金を用いることができる。
【0159】
第4非磁性層40nには、銅(Cu)などのスピン拡散長が長い材料、または、ルテニウム(Ru)などのスピン拡散長が短い材料を用いることができる。スピン偏極した電子が挿入される効果を消去したい場合には、ルテニウム(Ru)などのスピン拡散長が短い材料を、第4非磁性層40nに用いることが望ましい。
【0160】
図19(a)〜
図19(j)は、第1の実施形態に係る別の磁気記憶素子を例示する模式的断面図である。
図19(a)〜
図19(f)に表したように、磁気記憶素子121〜磁気記憶素子126では、第2強磁性層20、第1非磁性層10n、第1強磁性層10、第3非磁性層30n、第4強磁性層40、第2非磁性層20n及び第3強磁性層30が、この順に積層されている。このように、積層体SB0の積層順は、
図19(a)〜
図19(f)に表した順序でもよい。
【0161】
磁気記憶素子121及び磁気記憶素子122では、第1強磁性層10の磁化10mの積層方向SD1の成分の向きが、第4強磁性層40の磁化40mの積層方向SD1の成分の向きに対して逆である。これにより、例えば、第2強磁性層20の位置において、第1強磁性層10の磁化10m及び第4強磁性層40の磁化40mに起因する漏洩磁界の影響を抑えることができる。
【0162】
磁気記憶素子121及び磁気記憶素子122において、第1強磁性層10と第4強磁性層40とは、第3非磁性層30nを介して反強磁性結合していても良い。このように、非磁性層を介して互いの磁化の方向が反強磁性結合し反平行となる構造は、シンセティックアンチフェロ(SAF:Synthetic Anti-Ferromagnetic)構造と呼ばれる。この例では、「第1の磁性層(例えば第1強磁性層10)/非磁性層(例えば第3非磁性層30n)/第2の磁性層(例えば第4強磁性層40)」の積層構造が、SAF構造に対応する。
【0163】
SAF構造を用いることにより、互いの磁化固定力が増強され、外部磁界に対する耐性、及び、熱的な安定性を向上させることができる。この構造においては、磁気記憶層(例えば第2強磁性層20)の位置において膜面に対して垂直な方向にかかる漏洩磁界を実質的にゼロにすることができる。
【0164】
SAF構造における非磁性層(中間層)には、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)またはオスミウム(Os)などの金属材料が用いられる。非磁性層の厚さは、例えば、3nm以下に設定される。これにより、非磁性層を介して十分強い反強磁性結合が得られる。
【0165】
すなわち、第3非磁性層30nは、例えば、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)、及び、イリジウム(Ir)よりなる群から選択されたいずれかの金属、または、前記群から選択された少なくとも2つ以上の金属を含む合金を含む。第3非磁性層30nの厚さは、例えば、3nm以下である。
【0166】
磁気記憶素子123及び磁気記憶素子124では、第1強磁性層10の磁化10mの積層方向SD1の成分の向きが、第4強磁性層40の磁化40mの積層方向SD1の成分の向きに対して同じである。このように、磁化10mの向きは、磁化40mの向きと平行でもよい。
【0167】
磁気記憶素子125及び磁気記憶素子126では、磁化10mの向き及び磁化40mの向きが、積層方向SD1に対して傾いている。磁化10mの向き及び磁化40mの向きは、積層方向SD1に対して平行でなくてもよい。磁化10mの向き及び磁化40mの向きは、少なくとも積層方向SD1の成分を有していればよい。
【0168】
図19(g)及び
図19(h)に表しように、磁気記憶素子127及び磁気記憶素子128では、第1強磁性層10、第1非磁性層10n、第2強磁性層20、第3非磁性層30n、第4強磁性層40、第2非磁性層20n及び第3強磁性層30が、この順に積層されている。このように、積層体SB0の積層順は、
図19(g)及び
図19(h)に表した順序でもよい。
【0169】
図19(i)及び
図19(j)に表しように、磁気記憶素子129及び磁気記憶素子130では、第2強磁性層20、第1非磁性層10n、第1強磁性層10、第3非磁性層30n、第3強磁性層30、第2非磁性層20n及び第4強磁性層40が、この順に積層されている。このように、積層体SB0の積層順は、
図19(i)及び
図19(j)に表した順序でもよい。
【0170】
磁気記憶素子121〜磁気記憶素子130において、第1導電層81と第2導電層82とを介して積層体SB0に書き込み電流I
Wを流す。書き込み電流I
Wの向きは任意である。第4強磁性層40の磁化40mの向きとは逆向きの磁界を印加することにより、第3強磁性層30において発生する回転磁界の向きと、第2強磁性層20の第1部分21の磁化21mが歳差運動する向きと、を互いに一致させることができる。
【0171】
図20は、第1の実施形態に係る別の磁気記憶素子を示す模式的断面図である。
図20に表したように、磁気記憶素子131は、磁気シールド51をさらに含む。積層体SB0は、積層方向SD1に延びる側面SS0を有する。第1積層部SB1は、積層方向SD1に延びる側面SS1(第1側面)を有する。第2積層部SB2は、積層方向SD1に延びる側面SS2(第2側面)を有する。第3非磁性層30nは、積層方向SD1に延びる側面SSnを有する。ここで、「積層方向SD1に延びる」には、積層方向SD1に対して非平行な状態も含むものとする。「積層方向SD1に延びる」は、少なくとも積層方向SD1に延びる成分を有していればよい。すなわち、「積層方向SD1に延びる面」とは、積層方向SD1に対して直交する面でなければよい。
【0172】
磁気シールド51は、積層体SB0の側面SS0の少なくとも一部を覆う。換言すれば、磁気シールド51は、積層体SB0の側面SS0の少なくとも一部と対向する。積層体SB0の側面SS0は、例えば、第1積層部SB1の側面SS1(第1側面)と、第2積層部SB2の側面SS2(第2側面)と、第3非磁性層30nの側面SSnと、を含む。この例において、磁気シールド51は、側面SS1と側面SS2と側面SSnとを覆う。X−Y平面に投影した磁気シールド51の形状は、例えば、積層体SB0を囲む環状である。
【0173】
磁気記憶素子131は、積層体SB0の側面SS0と磁気シールド51との間に設けられた保護層52をさらに含む。保護層52の厚さは、第2強磁性層20のZ軸方向の中心から第3強磁性層30のZ軸方向の中心までのZ軸方向の距離と実質的に同じ長さか、それよりも長いことが望ましい。第2強磁性層20のZ軸方向の中心と第3強磁性層30のZ軸方向の中心との間のZ軸方向の距離は、例えば、磁気記憶素子110の構成及び磁気記憶素子111の構成において最も近づき、磁気記憶素子121〜磁気記憶素子126の構成において最も離れる。保護層52の厚さは、例えば、2nm以上30nm以下であることが望ましい。
【0174】
例えば、第1積層部SB1の側面SS1及び第2積層部SB2の側面SS2が、SiNやAl
2O
3などの保護層52を介して、パーマロイ(Py)などの磁気シールド51により覆われる。これにより、例えば、複数の磁気記憶素子131が並べられた場合において、隣の磁気記憶素子131からの漏洩磁界が、第1積層部SB1及び第2積層部SB2の動作に悪影響を与えることが抑制される。例えば、各記憶セル(積層体SB0)において、第1積層部SB1に作用する有効磁界が実質的に同じであるため、ビット間の反転電流のばらつきが抑制される。第2積層部SB2についても発振電流のばらつきが同様に抑えられる。また、第1積層部SB1及び第2積層部SB2からの漏洩磁界が、隣の磁気記憶素子に作用することを抑制することができる。その結果、複数の磁気記憶素子どうしを近接して配置することができ、集積度を向上することができる。例えば、不揮発性記憶装置の記憶密度を向上させることができる。
【0175】
磁気シールド51には、例えば、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)及びクロム(Cr)よりなる群から選択されたいずれかの金属、または、この群から選択された2つ以上の金属を含む合金が用いられる。磁気シールド51は、例えば、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)及びクロム(Cr)よりなる群から選択された少なくともいずれかの金属と、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)及びロジウム(Rh)よりなる群から選択された少なくともいずれかの金属と、を含む合金でもよい。
【0176】
磁気シールド51に含まれる磁性材料の組成や熱処理の条件を調整することにより、磁気シールド51の特性を調整することができる。磁気シールド51は、例えば、TbFeCo及びGdFeCoなどの希土類−遷移金属のアモルファス合金でもよい。また、磁気シールド51には、Co/Pt、Co/Pd及びCo/Niなどの積層構造を用いてもよい。
【0177】
保護層52には、例えば、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、亜鉛(Zn)、ジルコニウム(Zr)、タンタル(Ta)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、シリコン(Si)、マグネシウム(Mg)及び鉄(Fe)よりなる群から選択された少なくともいずれかの元素を含む、酸化物、窒化物または弗化物を用いることができる。保護層52には、例えば、SiNが用いられる。
【0178】
以下、
図20に例示した磁気記憶素子131の製造方法の例について説明する。
まず、ウェーハ上に下部電極(図示せず)を形成した後、そのウェーハを超高真空スパッタ装置内に配置する。次に、下部電極上に、Ta/Ru層(電極とのコンタクト層、兼ストッパー層)、CoFeB層(トリガ層)、FePd/CoFeB層(記憶層)、MgO(第1非磁性層10n)、CoFeB/FePt層(第1強磁性層10)、Ru(第3非磁性層30n)、FePt/CoFeB/Cu/Py層(磁界発生部)および、その上にTa(電極とのコンタクト層)による層をこの順に積層させる。ここで、磁界中でアニールすることによって、FePd/CoFeB層とCoFeB/FePt層の膜面垂直方向の磁気異方性の強さを調節することもできる。
【0179】
次に、EBレジストを塗布してEB露光を行い、直径50nmのレジストマスクを形成する。イオンミリングによってレジストで被覆されていない部分を、ストッパー層を兼ねた下部電極上のTa層が露出するまで削る。
【0180】
続いて、保護層52としてSiN層を形成した後、磁気シールド51として機能するPy層を形成する。エッチバックにより、Py層が磁気記憶素子の側壁に残るようにする。
【0181】
次に、磁気記憶素子を絶縁埋め込みすべくSiO
2膜を成膜した後、CMP等で平坦化した後、RIE等で全面をエッチングすることで電極とのコンタクト層を露出させる。
【0182】
さらに全面にレジストを塗布し、このレジストを上部電極の位置にレジストが被覆されない部分ができるように、ステッパ露光装置を用いてパターニングする。上部電極に対応した開口をCuで埋め込み成膜し、レジストを除去する。上部電極には、図示しない配線を設けて電気的入出力ができるようにする。
以上により、磁気記憶素子131が完成する。
【0183】
図21(a)及び
図21(b)は、第1の実施形態に係る別の磁気記憶素子を示す模式的断面図である。
図21(a)及び
図21(b)に表したように、磁気記憶素子132及び磁気記憶素子133においては、第4強磁性層40及び第3非磁性層30nが省略されている。磁気記憶素子132及び磁気記憶素子133においては、第1積層部SB1と第3強磁性層30との間に、第2非磁性層20nが設けられる。磁気記憶素子132においては、第2強磁性層20、第1非磁性層10n、第1強磁性層10、第2非磁性層20n及び第3強磁性層30が、この順に積層される。磁気記憶素子133においては、第1強磁性層10、第1非磁性層10n、第2強磁性層20、第2非磁性層20n及び第3強磁性層30が、この順に積層される。
【0184】
磁気記憶素子132及び磁気記憶素子133においては、第1強磁性層10が、MTJの磁化固着層として用いられるとともに、STOの磁化固着層としても用いられる。磁気記憶素子132及び磁気記憶素子133においても、例えば、第2強磁性層20にトリガ層を設けることによって、誤動作を抑制することができる。不揮発性記憶装置610における誤動作を抑制することができる。このように、第4強磁性層40及び第3非磁性層30nは、磁気記憶素子において必要に応じて設けられ、省略可能である。
【0185】
図22(a)及び
図22(b)は、第1の実施形態に係る別の磁気記憶素子を示す模式的断面図である。
図22(a)に表したように、磁気記憶素子134では、第2積層部SB2の幅(積層方向SD1に対して垂直な方向の長さ)が、上方向に向かうに従って連続的に減少する。すなわち、第2積層部SB2の形状は、テーパ状である。第2積層部SB2の形状は、例えば、錐台状である。第2強磁性層20などのX−Y平面に投影した形状は、例えば、円形である。従って、第2積層部SB2の形状は、例えば、円錐台状である。従って、この例では、第2積層部SB2の積層方向SD1に対して垂直な方向の長さが、第2強磁性層20の積層方向SD1に対して垂直な方向の長さよりも短い。例えば、第3強磁性層30の積層方向SD1に対して垂直な方向の長さが、第2強磁性層20の積層方向SD1に対して垂直な方向の長さよりも短い。
【0186】
磁気記憶素子134では、例えば、磁気記憶素子133などに比べて、例えば、STOのΔ値を小さくすることができる。これにより、例えば、第3強磁性層30の磁化30mをより歳差運動させ易くすることができる。
【0187】
図22(b)に表したように、磁気記憶素子135では、積層体SB0の幅が、第1積層部SB1から第2積層部SB2に向かう方向において減少する。すなわち、磁気記憶素子135では、第1積層部SB1も、テーパ状である。磁気記憶素子135では、第1強磁性層10の幅が、第1積層部SB1から第2積層部SB2に向かう方向において減少する。例えば、第1強磁性層10の幅が、連続的に減少する。この例では、第1強磁性層10の幅が、上方向に向かうに従って連続的に減少する。第1強磁性層10の形状は、例えば、錐台状である。このように、第1積層部SB1を、テーパ状としてもよい。
【0188】
図23は、第1の実施形態に係る別の磁気記憶素子を示す模式的断面図である。
図23に表したように、磁気記憶素子141では、第1積層部SB1が、第5強磁性層50と第5非磁性層50nとをさらに含む。
【0189】
磁気記憶素子141では、第2強磁性層20と第5強磁性層50との間に第1強磁性層10が設けられる。第5非磁性層50nは、第1強磁性層10と第5強磁性層50との間に設けられる。磁気記憶素子141では、第5強磁性層50、第5非磁性層50n、第1強磁性層10、第1非磁性層10n、第2強磁性層20、第3非磁性層30n、第3強磁性層30、第2非磁性層20n及び第4強磁性層40が、この順に積層されている。
【0190】
第5強磁性層50には、例えば、第4強磁性層40に関して説明した材料を用いることができる。第5非磁性層50nには、例えば、第3非磁性層30nに関して説明した材料を用いることができる。
【0191】
第5強磁性層50の磁化50mの積層方向SD1の成分の向きは、第1強磁性層10の磁化10mの積層方向SD1の成分の向きに対して逆である。例えば、磁化10mに起因する漏洩磁界が、磁化50mに起因する逆向きの漏洩磁界によって弱められる。例えば、磁化10mに起因する漏洩磁界が、磁化50mに起因する漏洩磁界によって打ち消される。これにより、第2強磁性層20への漏洩磁界の影響をより適切に抑えることができる。
【0192】
図24(a)及び
図24(b)は、第1の実施形態に係る別の磁気記憶素子を示す模式図である。
図24(a)は、磁気記憶素子142の模式的平面図であり、
図24(b)は、磁気記憶素子142の模式的断面図である。
図24(b)は、
図24(a)のA1−A2線断面を模式的に表す。
図24(a)及び
図24(b)に表したように、磁気記憶素子142では、第2強磁性層20、第1非磁性層10n、第2積層部SB2及び第3非磁性層30nが、それぞれ複数設けられている。複数の第2強磁性層20は、積層方向SD1に対して垂直な方向に並ぶ。この例では、複数の第2強磁性層20が、Y軸方向に並ぶ。複数の第1非磁性層10nのそれぞれは、第1強磁性層10と複数の第2強磁性層20とのそれぞれの間に設けられる。複数の第2積層部SB2のそれぞれは、複数の第2強磁性層20のそれぞれと積層される。複数の第3非磁性層30nのそれぞれは、複数の第2強磁性層20と複数の第2積層部SB2とのそれぞれの間に設けられる。
【0193】
磁気記憶素子142では、第1強磁性層10の上に複数の第1非磁性層10nが並べて設けられる。複数の第2強磁性層20が、複数の第1非磁性層10nのそれぞれの上に設けられる。複数の第3非磁性層30nが、複数の第2強磁性層20のそれぞれの上に設けられる。複数の第2積層部SB2が、複数の第3非磁性層30nのそれぞれの上に設けられる。
【0194】
磁気記憶素子142では、第1強磁性層10が、第2強磁性層20や第3強磁性層30などに比べて大きい。これにより、例えば、第2強磁性層20の位置において、第1強磁性層10の磁化10mに起因する漏洩磁界を小さくすることができる。
【0195】
図25(a)及び
図25(b)は、第1の実施形態に係る別の磁気記憶素子を示す模式的断面図である。
図25(a)に表したように、磁気記憶素子143では、積層部分SPの幅(積層方向SD1に対して垂直な方向の長さ)が、第1積層部SB1から第2積層部SB2に向かう方向において減少する。例えば、積層部分SPの幅が、連続的に減少する。
【0196】
積層部分SPは、例えば、複数の第2強磁性層20のうちの1つと、この1つの第2強磁性層20と積層された1つの第1非磁性層10nと、前記1つの第2強磁性層20と積層された1つの第2積層部SB2と、前記1つの第2強磁性層20と積層された1つの第3非磁性層30nと、を含む。
【0197】
この例では、積層部分SPの幅が、上方向に向かうに従って連続的に減少する。すなわち、積層部分SPの形状は、テーパ状である。積層部分SPの形状は、例えば、錐台状である。第2強磁性層20などのX−Y平面に投影した形状は、例えば、円形である。従って、積層部分SPの形状は、例えば、円錐台状である。従って、この例では、複数の第2積層部SB2のそれぞれの積層方向SD1に対して垂直な方向の長さが、複数の第2強磁性層20のそれぞれの積層方向SD1に対して垂直な方向の長さよりも短い。例えば、第3強磁性層30の積層方向SD1に対して垂直な方向の長さが、第2強磁性層20の積層方向SD1に対して垂直な方向の長さよりも短い。
【0198】
磁気記憶素子143では、例えば、磁気記憶素子142などに比べて、第4強磁性層40を小さくすることができる。これにより、例えば、第2強磁性層20の位置において、第4強磁性層40の磁化40mに起因する漏洩磁界を小さくすることができる。また、磁気記憶素子143では、例えば、STOのΔ値を小さくすることができる。これにより、例えば、第3強磁性層30の磁化30mをより歳差運動させ易くすることができる。この例では、第2強磁性層20などもテーパ状にしている。これに限ることなく、少なくとも第3強磁性層30の幅が、第2強磁性層20の幅よりも狭ければよい。これにより、STOのΔ値を小さくできる。
【0199】
図25(b)に表したように、磁気記憶素子144では、第1強磁性層10の幅(積層方向SD1に対して垂直な方向の長さ)が、第1積層部SB1から第2積層部SB2に向かう方向において減少する。例えば、第1強磁性層10の幅が、連続的に減少する。この例では、第1強磁性層10の幅が、上方向に向かうに従って連続的に減少する。すなわち、第1強磁性層10の形状は、テーパ状である。第1強磁性層10の形状は、例えば、錐台状である。このように、第1強磁性層10の形状を、テーパ状としてもよい。
【0200】
図26(a)〜
図26(c)は、第1の実施形態に係る別の磁気記憶素子を示す模式的断面図である。
図26(a)〜
図26(c)に表したように、磁気記憶素子145〜磁気記憶素子147では、第1強磁性層10と複数の第2強磁性層20との間に、1つの第1非磁性層10nが設けられる。磁気記憶素子145〜磁気記憶素子147では、第1強磁性層10の上に第1非磁性層10nが設けられる。複数の第2強磁性層20が、第1非磁性層10nの上に並べて設けられる。複数の第3非磁性層30nが、複数の第2強磁性層20のそれぞれの上に設けられる。複数の第2積層部SB2が、複数の第3非磁性層30nのそれぞれの上に設けられる。
【0201】
磁気記憶素子145〜磁気記憶素子147において、積層部分SPは、例えば、複数の第2強磁性層20のうちの1つと、この1つの第2強磁性層20と積層された1つの第2積層部SB2と、前記1つの第2強磁性層20と積層された1つの第3非磁性層30nと、を含む。
【0202】
このように、1つの第1強磁性層10に複数の積層部分SPを積層させる構成において、第1非磁性層10nは、第1強磁性層10と複数の第2強磁性層20とのそれぞれの間に複数設けてもよいし、第1強磁性層10と複数の第2強磁性層20との間に1つ設けてもよい。
【0203】
磁気記憶素子146では、積層部分SPの形状がテーパ状である。このように、1つの積層部分SPを設ける構成において、積層部分SPの形状をテーパ状としてもよい。
【0204】
磁気記憶素子147では、第1強磁性層10の幅及び第1非磁性層10nの幅が、第1積層部SB1から第2積層部SB2に向かう方向において連続的に減少する。このように、第1強磁性層10の形状及び第1非磁性層10nの形状を、テーパ状としてもよい。
【0205】
(第2の実施形態)
図27は、第2の実施形態に係る不揮発性記憶装置の構成を例示する模式図である。
図27に表したように、本実施形態に係る不揮発性記憶装置620は、メモリセルアレイMCAを備える。メモリセルアレイMCAは、マトリクス状に配列された複数のメモリセルMCを有する。各メモリセルMCは、第1の実施形態に係る磁気記憶素子のいずれかを、MTJ素子(積層体SB0)として有する。
【0206】
メモリセルアレイMCAには、複数のビット線対(ビット線BL及びビット線/BL)及び、複数のワード線WLが配置されている。複数のビット線対のそれぞれは、列(カラム)方向に延在する。複数のワード線WLのそれぞれは、行(ロウ)方向に延在する。
【0207】
ビット線BLとワード線WLとの交差部分に、メモリセルMCが配置される。各メモリセルMCは、MTJ素子と選択トランジスタTRとを有する。MTJ素子の一端は、ビット線BLに接続されている。MTJ素子の他端は、選択トランジスタTRのドレイン端子に接続されている。選択トランジスタTRのゲート端子は、ワード線WLに接続されている。選択トランジスタTRのソース端子は、ビット線/BLに接続されている。
【0208】
ワード線WLには、ロウデコーダ621が接続されている。ビット線対(ビット線BL及びビット線/BL)には、書き込み回路622a及び読み出し回路622bが接続されている。書き込み回路622a及び読み出し回路622bには、カラムデコーダ623が接続されている。
【0209】
各メモリセルMCは、ロウデコーダ621及びカラムデコーダ623により選択される。メモリセルMCへのデータ書き込みの例は、以下である。まず、データ書き込みを行うメモリセルMCを選択するために、このメモリセルMCに接続されたワード線WLが活性化される。これにより、選択トランジスタTRがオンする。
【0210】
この例では、例えば、ロウデコーダ621、書き込み回路622a、読み出し回路622b、及び、カラムデコーダ623によって、制御部550が構成される。制御部550は、ビット配線BL、ワード配線WL及び選択トランジスタTRなどを介して、複数のメモリセルMC(複数の磁気記憶素子)のそれぞれと電気的に接続される。制御部550は、複数のメモリセルMCのそれぞれに対して、データの書き込み及びデータの読み出しを実施する。
【0211】
MTJ素子には、例えば、双方向の書き込み電流が供給される。具体的には、MTJ素子に左から右へ書き込み電流を供給する場合、書き込み回路622aは、ビット線BLに正の電位を印加し、ビット線/BLに接地電位を印加する。また、MTJ素子に右から左へ書き込み電流を供給する場合、書き込み回路622aは、ビット線/BLに正の電位を印加し、ビット線BLに接地電位を印加する。このようにして、メモリセルMCに、データ「0」、または、データ「1」を書き込むことができる。
【0212】
メモリセルMCからのデータ読み出しの例は、以下である。まず、メモリセルMCが選択される。読み出し回路622bは、MTJ素子に、例えば、選択トランジスタTRからMTJ素子に向かう方向に流れる読み出し電流を供給する。そして、読み出し回路622bは、この読み出し電流に基づいて、MTJ素子の抵抗値を検出する。このようにして、MTJ素子に記憶された情報を読み出すことができる。
【0213】
図28は、第2の実施形態に係る不揮発性記憶装置の構成を例示する模式図である。
図28は、1つのメモリセルMCの部分を例示している。この例では、磁気記憶素子110が用いられているが、実施形態に係る任意の磁気記憶素子を用いることができる。
【0214】
図28に表したように、不揮発性記憶装置620は、実施形態に係る磁気記憶素子(例えば磁気記憶素子110)と、第1配線91と、第2配線92と、を備える。第1配線91は、磁気記憶素子110の一端(例えば第1積層部SB1の端)に、直接または間接に接続される。第2配線92は、磁気記憶素子110の他端(例えば第2積層部SB2の端)に直接または間接に接続される。
【0215】
ここで、「直接に接続される」は、間に他の導電性の部材(例えばビア電極や配線など)が挿入されないで電気的に接続される状態を含む。「間接に接続される」は、間に他の導電性の部材(例えばビア電極や配線など)が挿入されて電気的に接続される状態、及び、間にスイッチ(例えばトランジスタなど)が挿入されて、導通と非導通とが可変の状態で接続される状態を含む。
【0216】
第1配線91及び第2配線92のいずれか一方は、例えば、ワード線WLに対応する。 第1配線91及び第2配線92のいずれか他方は、例えば、ビット線BLまたはビット線/BLに対応する。
【0217】
図28に表したように、不揮発性記憶装置620は、選択トランジスタTRをさらに備えることができる。選択トランジスタTRは、磁気記憶素子110と第1配線91との間(第1の位置)、及び、磁気記憶素子110と第2配線92の間(第2の位置)の少なくともいずれかに設けられる。
【0218】
このような構成により、メモリセルアレイMCAの任意のメモリセルMC(例えば磁気記憶素子110)にデータを書き込み、また、磁気記憶素子110に書き込まれたデータを読み出すことができる。このように構成された不揮発性記憶装置620においても、第2強磁性層20にトリガ層を設けることで、誤動作を抑制することができる。
【0219】
実施形態によれば、誤動作を抑制した磁気記憶素子及び不揮発性記憶装置が提供される。
【0220】
なお、本願明細書において、「垂直」及び「平行」は、厳密な垂直及び厳密な平行だけではなく、例えば製造工程におけるばらつきなどを含むものであり、実質的に垂直及び実質的に平行であれば良い。
【0221】
以上、具体例を参照しつつ、本発明の実施形態について説明した。しかし、本発明の実施形態は、これらの具体例に限定されるものではない。例えば、磁気記憶素子及び不揮発性記憶装置に含まれる、制御部、積層体、第1及び第2積層部、第1〜第5強磁性層、第1〜第5非磁性層、磁気シールド、第1配線、第2配線及び選択トランジスタなどの各要素の具体的な構成に関しては、当業者が公知の範囲から適宜選択することにより本発明を同様に実施し、同様の効果を得ることができる限り、本発明の範囲に包含される。
【0222】
また、各具体例のいずれか2つ以上の要素を技術的に可能な範囲で組み合わせたものも、本発明の要旨を包含する限り本発明の範囲に含まれる。
【0223】
その他、本発明の実施形態として上述した磁気記憶素子及び不揮発性記憶装置を基にして、当業者が適宜設計変更して実施し得る全ての磁気記憶素子及び不揮発性記憶装置も、本発明の要旨を包含する限り、本発明の範囲に属する。
【0224】
その他、本発明の思想の範疇において、当業者であれば、各種の変更例及び修正例に想到し得るものであり、それら変更例及び修正例についても本発明の範囲に属するものと了解される。
【0225】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。