(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6161054
(24)【登録日】2017年6月23日
(45)【発行日】2017年7月12日
(54)【発明の名称】触媒反応管の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 19/24 20060101AFI20170703BHJP
B01J 19/00 20060101ALI20170703BHJP
B01J 37/02 20060101ALI20170703BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20170703BHJP
B01J 23/50 20060101ALI20170703BHJP
B81C 1/00 20060101ALI20170703BHJP
C07C 213/02 20060101ALN20170703BHJP
C07C 215/76 20060101ALN20170703BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20170703BHJP
【FI】
B01J19/24 A
B01J19/00 321
B01J37/02 301N
B01J37/08
B01J23/50 Z
B81C1/00
!C07C213/02
!C07C215/76
!C07B61/00 300
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-226441(P2012-226441)
(22)【出願日】2012年10月11日
(65)【公開番号】特開2014-76433(P2014-76433A)
(43)【公開日】2014年5月1日
【審査請求日】2015年8月7日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 修一
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 敏重
(72)【発明者】
【氏名】ジャベード ラハット
(72)【発明者】
【氏名】川▲崎▼ 慎一朗
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 明
(72)【発明者】
【氏名】大川原 竜人
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 剛一
【審査官】
宮部 裕一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−104928(JP,A)
【文献】
特開2009−185308(JP,A)
【文献】
特開2003−225544(JP,A)
【文献】
特開2008−161805(JP,A)
【文献】
特開2007−326095(JP,A)
【文献】
TANAKA David A.Pacheco ,et al.,Preparation of palladium and silver alloy membrane on a porous α-alumina tube via simultaneous elec,Journal of Membrane Science,2005年,VOL.247,P.21−27
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 19/00
B01J 19/24
B01J 23/50
B01J 37/02
B01J 37/08
B81C 1/00
B01D 69/04
B01D 71/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空細管に、パラジウムと銀の混合溶液からなる無電解メッキ溶液を連続注入し、該中空細管で、該無電解メッキ溶液のパラジウムと銀とを均一に分散して該中空細管の内壁に被覆して形成した触媒反応管に、強酸を注入することにより、銀を選択的に溶出して表面を多孔質パラジウムとすることを特徴とする触媒反応管の製造方法。
【請求項2】
前記中空細管の材質が、金属、金属合金、ガラスまたはポリマーであることを特徴とする請求項1に記載の触媒反応管の製造方法。
【請求項3】
前記中空細管の内壁に、前記無電解メッキ溶液を使用する無電解メッキによりパラジウムと銀を被覆した後の触媒反応管の内径が、0.05〜10mmの範囲の細管であることを特徴とする請求項1または2に記載の触媒反応管の製造方法。
【請求項4】
前記無電解メッキ溶液中のパラジウムに対する銀の比率が、1〜30質量%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の触媒反応管の製造方法。
【請求項5】
前記中空細管の内壁に被覆する金属薄膜の膜厚が、5μm以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の触媒反応管の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒反応管の製造方
法に関するものである。
さらに詳細には、マイクロリアクターにおけるマイクロ反応管、特に触媒反応管
の製造方法に関するもので、該触媒反応管の内壁をパラジウムと銀の混合薄膜、それらの合金薄膜ならびにパラジウムと銀の混合薄膜から銀を除去して得られる多孔質薄膜で被覆する触媒反応管の製造方
法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
マイクロリアクターは、通常一辺あたりが1mm以下の大きさの空間で化学反応を行う装置であり、1990年代後半になってから盛んに研究が行われている。
この狭い空間として、内径の小さな中空反応管(マイクロ反応管)が使用され、優れた熱伝導性と拡散による物質移動が速やかなため、良好な温度制御性と混合性が可能となる。また、比表面積と空間体積との比率が大きいため、高効率の界面反応が期待できる。このようなマイクロ反応管に触媒を組み合わせることで、高効率な流通式(フロー)反応の達成が期待される。中空反応管に固体触媒の粒子や触媒粉体を充填した固定床触媒は広く知られているが、充填相による圧損と閉塞の課題がある。また、加圧下でのフロー反応により、充填した触媒粒子が押し流されることが懸念される。一方、チューブ型リアクターは、触媒充填相がないため過大な圧損発生や閉塞の恐れがなく、中空細管の中に反応物質を流通させることで連続的に反応を行うことができる。
【0003】
反応物質を中空管内に通液しながら触媒反応を行わせる目的で、細管の内表面に金属触媒を担持した触媒反応管の報告例がある。例えば金属錯体触媒を化学結合により担持した細管と、これを用いた接触水素化反応(特許文献1参照)、表面に白金などの貴金属触媒を担持したセラミック管をそれより直径の大きな外管に挿入し、形成される内管と外管のすきまの流路を反応場とした触媒反応管(特許文献2参照)、金属合金チューブの内面に無電解メッキにより、パラジウムや白金、ロジウムなどの貴金属触媒の薄膜を担持してなるマイクロリアクター反応管(特許文献3参照)が提案されている。
しかしながら、これらはいずれも単一金属を担持あるいは被覆した触媒反応管であり、2種の金属を複合させて被覆した触媒反応管ではない。
【0004】
一方、マイクロリアクターを使用しない触媒反応では、2種の金属を複合させることや、合金化することで金属間の相互作用により、触媒活性が向上することが知られている(非特許文献1、2参照)。また、触媒の表面が多孔質であることで、接触表面が多くなることから触媒活性が向上することが知られているが、これをマイクロリアクターのような径の小さな中空反応管に適用することは知られておらず、技術的にも難易度が高いものと予想されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−69164号公報
【特許文献2】特開2007−75787号公報
【特許文献3】特許第4986174号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Nature Nanotechnology,l6,302〜307(2011)
【非特許文献2】Chem.Commn.,3540〜3542(2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
触媒活性が高く、かつ高密度でしかも効率的な触媒活性が発現され、酸化、還元、分解反応など多くの反応を、流通プロセスで効率よく達成できる触媒反応
管の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、触媒反応における触媒金属をマイクロリアクターのような径の小さな中空反応管に適用することを種々検討し、触媒金属をこの中空反応管の内壁に被覆する方法に至った。
【0009】
本発明の上記課題は、以下の技術的手段から構成される。
(1)中空細管に、パラジウムと銀の混合溶液からなる無電解メッキ溶液を連続注入し、該中空細管で、該無電解メッキ溶液のパラジウムと銀とを均一に分散して該中空細管の内壁に被覆して形成した触媒反応管に、強酸を注入することにより、銀を選択的に溶出して表面を多孔質パラジウムとすることを特徴とする触媒反応管の製造方
法。
(
2)前記中空細管の材質が、金属、金属合金、ガラスまたはポリマーであることを特徴とする(1
)に記載の触媒反応管の製造方法。
(
3)前記中空細管の内壁に、前記無電解メッキ溶液を使用する無電解メッキによりパラジウムと銀を被覆した後の触媒反応管の内径が、0.05〜10mmの範囲の細管であることを特徴とする(1)
または(
2)に記載の触媒反応管の製造方法。
(
4)前記無電解メッキ溶液中のパラジウムに対する銀の比率が、1〜30質量%であることを特徴とする(1)〜(
3)のいずれか1項に記載の触媒反応管の製造方法。
(
5)前記中空細管の内壁に被覆する金属薄膜の膜厚が、5μm以下であることを特徴とする(1)〜(
4)のいずれか1項に記載の触媒反応管の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、触媒活性が高く、かつ高密度でしかも効率的な触媒活性が発現され、酸化、還元、分解反応など多くの反応を、流通プロセスで効率よく達成できる触媒反応管およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
中空細管にパラジウムと銀の混合薄膜、合金薄膜ならびに
本発明の多孔質薄膜を該中空細管の内壁に被覆する方法の模式図を示す。
【
図2】参考例1における、パラジウムと銀の混合薄膜が形成された中空管の断面の電子顕微鏡写真を示す。
【
図3】参考例2における、パラジウムと銀の混合薄膜が形成された中空管の内壁表面の電子顕微鏡写真とEDX分析によるパラジウム(上側の薄いジグザグ線)と銀(下側の濃いジグザグ線)の分布を示す。
【
図4】実施例
1における、パラジウムと銀の合金から銀を優先的に溶出して形成された多孔質膜の電子顕微鏡写真を示す。
【
図5】応用例1(参考応用例)における、ギ酸水溶液の連続分解による水素製造装置の模式図を示す。
【
図6】応用例2における、ギ酸水溶液によるp−ニトロフェノールからp−アミノフェノールを生成する反応の反応収率の図を示す。白色の棒グラフは反応管の内壁にパラジウムを被覆したもの、黒色の棒グラフは多孔質パラジウムを被覆した反応管を用いた反応収率の結果である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の触媒反応管の製造方法を詳細に説明する。
【0013】
本発明で行う触媒反応は、従来の触媒を中空細管に反応液とともに導入して、触媒反応を行う方法ではない。
これとは全く発想の異なるものであり、中空細管の内壁に触媒を被覆する方法であり、被覆する金属が二種の金属、具体的にはパラジウムと銀の混合物ならびに合金であり、必要により、この被覆膜から、容易に銀のみを除去し、パラジウムのみとすることが可能となる。
【0014】
本発明では、中空細管の内部空間において、触媒被覆面積を広くすることが好ましく、内面積/体積の比率を高くするため、内径は0.05mm〜10mmの細管が用いられる。さらに、細管内部の充分な物質拡散と熱拡散を保障するためには内径2mm以下のものが望ましく、圧損を考慮すると、0.1mm以上が望ましい。また、中空細管の長さは反応における触媒との接触時間を決定するもので、長いほど反応の効率は高くなるが、滞留時間も長くなる。0.5m〜10mの範囲が最も好ましい。
このような細管内表面へのパラジウムと銀の被膜には、メッキ溶液を細管内に導入することで簡便に金属被覆が達成できる無電解メッキの手法が適用できる。この無電解メッキ手法は、メッキ液の濃度と通液量によってメッキ膜の厚さを制御できることも優位点である。
【0015】
無電解メッキ法は、中空細管の材質が、金属の他、電導性のないガラス、セラミックス、プラスチックの表面にも金属薄膜を被覆することが可能である。本発明で用いる中空細管の材質としては、金属、合金、ガラス、セラミックス、プラスチックが利用できる。金属性の中空細管では、耐腐食性のニッケル合金、クロム合金、鉄合金を用いることが好ましい。さらに耐薬品性を向上させるために、チタンもしくはチタン合金を内張りしたものが好ましく用いられる。ガラスでは、ガスクロマトグラフィーのカラムに用いるシリカガラスキャピラリー、セラミックスではアルミナ、チタニア、ジルコニアなどのチューブが使用でき、プラスチックではポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアミドなどのチューブが良好な素材として用いることができる。
【0016】
図1では、中空細管(反応管)の材質の材質にチタンを内張りした(チタンを内管とした)酸化チタンを使用したものを図示しているが、チタンを内張りしたニッケル合金も好ましい。
なお、中空細管の内張りの厚み(内管の厚み)は0.01mm〜0.5mmが好ましく、0.05mm〜0.5mmがより好ましい。
【0017】
中空細管の内壁への金属の被膜は、内壁にパラジウムの種核を付与した後、錯形成剤、金属錯体、還元剤を含むメッキ液を通液して無電解メッキすることで達成される。非導電性素材へのメッキでは、導電性と触媒性を兼ね備えたパラジウムの微細な種核を、分散して担持することが重要である。このためには中空細管の基材の表面にパラジウム化合物もしくは錯体を吸着させ、塩化スズまたはヒドラジン等のパラジウム錯体を還元可能な還元剤を用いて還元する方法で達成できる。
【0018】
用いる無電解メッキ溶液には、パラジウム、銀、白金などの金属塩や金属錯体、これを安定に溶存させる錯形成剤、ならびに還元剤を適当な溶媒に溶かして用いられる。中空細管の内壁に、パラジウムと銀を均一に被膜するため、パラジウム塩と銀塩を双方含むメッキ溶液を中空細管に通液する。例えば酢酸パラジウムなどのパラジウム塩と硝酸銀を任意の比率で混合したメッキ液を通液することで、一定比率のパラジウムと銀を均一に被覆することができる。
【0019】
パラジウムと銀とを同時にメッキする際には、銀と不溶性の沈殿を生成する塩化物イオンを避け、当該金属の酢酸塩、硝酸塩、硫酸塩を用いることが好ましい。具体的にはパラジウムとして酢酸パラジウムや[Pd(NH
3)
4]の酢酸塩や硝酸塩、銀としては硝酸銀や酢酸銀が最も好ましい。また、錯形成剤の例としては、好ましくはアンモニアとキレート剤との組合せ、特にアンモニアとエチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)との組合せが挙げられる。還元剤としては、ヒドラジン、グルコースなどが挙げられる。溶剤としては通常水を用いる。
【0020】
中空細管にパラジウム塩と硝酸銀を任意の比率で混合したメッキ液を通液することで、任意の比率のパラジウムと銀を均一に被覆することができる〔
図1の(A)〕。良好なメッキのためにはパラジウムと銀との比は1〜30質量%が好ましく、5〜20質量%が最も好ましく選択される。銀の析出がパラジウムより早いため、これ以上銀の濃度を濃くすると銀が優先的に被覆してメッキ反応の進行が阻害される。
中空細管に被覆する触媒金属膜の厚さは、5μm以下であることが好ましく、経済性の観点からは0.5〜2μmがより好ましい。被覆する金属の量は、メッキ液の濃度と通液量によって制御できる。このようにして、パラジウムと銀は均一溶液から同時にメッキされ、中空細管の内壁に両元素が均一に分散した被膜が得られる。
【0021】
中空細管の内壁にパラジウムと銀を均一に分散被覆した後、加熱焼成することで合金化が起こる〔
図1の(B)〕。合金化は、中空細管の内壁に水素や不活性ガスの窒素、ヘリウム、アルゴンなどを通気しながら行うことが最適である。またあらかじめパラジウムと銀が均一に混合しているため、合金化は300℃から始まるが、速やかな合金化のためには400℃〜800℃で行うことが望ましい。
【0022】
中空細管の内壁にパラジウムと銀とを均一に被覆した中空細管に、酸を導入することで、より溶解しやすい銀が優先的に溶出し、多孔質のパラジウム層が残留する〔
図1の(C)〕。酸としては、硝酸、硫酸、塩酸などの鉱酸が用いられるが、硝酸が最も望ましい。またその濃度は1M〜6Mの範囲が望ましく、2〜3Mが最も良好である。多孔質のパラジウム薄膜は広い表面を提供することからより高い触媒活性が期待できる。
【0023】
本発明の製造方法で製造した中空細管は、パラジウム触媒もしくはパラジウムと銀の混合触媒が中空細管の内壁に被覆されたものであり、これらの触媒が関与する化学反応を使用した化合物の合成、特に、酸化、還元、分解反応の各種の反応に使用することができる。
特に本発明の触媒反応管は、中空細管の内壁にパラジウムと銀の混合薄膜ないし合金薄膜を有する触媒反応管であって、該合金薄膜が、パラジウムに対する銀の比率が、1〜30質量%であるパラジウムと銀の合金薄膜であって、該金属薄膜の膜厚が5μm以下であり、該触媒反応管の内径が、0.05〜10mmの範囲の触媒反応管が好ましく使用される。
【0024】
例えば、
図5は、ギ酸の水素、二酸化炭素および一酸化炭素への分解反応により、水素を取り出す水素製造装置を示すものである。
図5に記載の反応装置は、ギ酸水溶液とヒーターで加熱した水とをT字ミキサーで混合した後、触媒被覆した中空細管に導入する。中空細管を通過した反応液は冷却後に気液分離し、気相のガス成分をガスクロマトグラフィー分析(GC分析)で、また水相の溶存炭素成分は全有機炭素(TOC)計搭載の無機炭素分析計で分析する。
また、
図6は、ギ酸水溶液によるp−ニトロフェノールからp−アミノフェノールを生成する反応の結果を示したものである。反応管を、恒温水槽内に置いて設定温度30℃ないし40℃に保つ。0.01Mp−ニトロフェノールと0.1Mギ酸を含む水溶液を毎分0.8mlの流速で反応管に導入した。反応の進行により、p−ニトロフェノールの吸収スペクトルの317nmにおける吸光度は減少する。p−アミノフェノールへの変換反応の収率はp−ニトロフェノールの317nmにおける吸光度から算出した。
【実施例】
【0025】
以下に、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これによって本発明が限定されるものではない。
【0026】
製造例1(反応管の内壁にパラジウム種核を付着する方法)
中空細管の外管の材料がニッケル合金であるインコネル635(商品名)であり、内管の材料がチタンからなる二重管(中空細管の内径が0.5mmで、外管の外径が1.5mm、長さ1mの細管をコイル状に巻いたもの)を反応管基材として用い、最初に、過酸化水素水の通液により内壁のチタン表面を酸化した。その後無電解メッキの前処理として、酸化チタン表面にパラジウム種核を付与した。具体的には、反応管の内部に0.1Mの酢酸パラジウムの水溶液5mlを通液して吸着させ、さらに1Mのヒドラジン水溶液を5ml通液し、内管の内表面にパラジウム粒子を種核として析出させた。
【0027】
参考例1
製造例1の工程で作製したパラジウム粒子の種核を付けた中空細管を、60℃の水浴に浸し、中空細管の先端からメッキ液として9.5mMの酢酸パラジウム、0.5mMの硝酸銀、0.15Mのエチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)、4Mのアンモニアおよび10mMヒドラジンを含む水溶液(60℃)を、毎分0.5mlの流速で通液してパラジウム(Pd)と銀(Ag)を同時にメッキした。この場合のメッキ液の組成は、パラジウムと銀の比率が質量比で95:5のものである。このメッキ液を112ml通液した後、水を通して洗浄した。中空細管の内部表面にはパラジウムと銀がメッキされた(
図2参照)。ここで、内部表面の白い部分にパラジウム(Pd)と銀(Ag)が被覆されている。
通液中にキャピラリー末端から流出するメッキ液をフラクションコレクターで分取し、流出液に含まれるパラジウムと銀の量を高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP発光分光分析法)で分析した。消費されたパラジウム量並びに銀の量は、それぞれ70mg、4.8mgであり、質量比で93.6%、6.4%に相当する。
【0028】
参考例2
製造例1の工程で作製したパラジウム粒子の種核を付けた中空細管を、60℃の水浴に浸し、中空細管の先端からメッキ液として9mMの酢酸パラジウム、1mMの硝酸銀、0.15MのEDTA、4Mのアンモニアおよび10mMのヒドラジンを含む水溶液(60℃)を、毎分0.5mlの流速で通液した。この場合のメッキ液の組成は、パラジウムと銀の比率が質量比で90:10のものである。メッキ液を110ml通液した後、水を通して洗浄した。流出液に含まれるパラジウムと銀の量をICP発光分光分析法で分析した。消費されたパラジウム量並びに銀の量は、それぞれ67.7mg、10.1mgであり、質量比で87%、13%に相当する。中空細管の内壁に被覆したパラジウムと銀の均一被覆膜の電子顕微鏡写真を
図3に示す。また、
図3の画像中にエネルギー分散型X線分光法分析(EDX分析)によるパラジウム(上側の薄いジグザグ線)と銀(下側の濃いジグザグ線)の均一な分布の状況を示した。
【0029】
参考例3
製造例1の工程で作製したパラジウム粒子の種核を付けた中空細管を、60℃の水浴に浸し、中空細管の先端からメッキ液として8mMの酢酸パラジウム、2mMの硝酸銀、0.15MのEDTA、4Mのアンモニアおよび10mMのヒドラジンを含む水溶液(60℃)を、毎分0.5mlの流速で通液した。この場合のメッキ液の組成は、パラジウムと銀の比率が質量比で80:20のものである。流出液に含まれるパラジウムと銀の量から、消費されたパラジウム量並びに銀の量は、それぞれ60.1mg、16.2mgであり、質量比で79%、21%に相当する。
【0030】
参考例4
参考例2で作製したパラジウムと銀を67.7mg(87質量%):10.1mg(13質量%)の割合で被覆した中空細管を、内径4cmの石英管に挿入し、全体を管状炉に入れた。中空細管の一端から水素を流しながら、600℃で3時間加熱し、合金化した。加熱前に観測されたパラジウム(2θ=40.0°)と銀(2θ=38°)のX線回折ピークは、合金の新規なピーク(2θ=39.5°)となった。
【0031】
実施例
1
参考例2で作製したパラジウムと銀を67.7mg(87質量%):10.1mg(13質量%)の割合で被覆した中空細管に、4Mの硝酸700mlを25℃で流速毎分0.5ml通液し、銀を選択的に溶出して除去した。溶出したパラジウムと銀の量を分析した結果、残留したパラジウムは48.1mg(94質量%)銀は2.9mg(5.7質量%)であった。中空細管内壁に被覆した多孔質のパラジウム膜の電子顕微鏡写真を
図4に示す。
【0032】
応用例1(
参考応用例:パラジウム被覆した中空細管を用いたギ酸水溶液の分解反応)
以下のようにして、パラジウム被覆した中空細管によるギ酸分解反応の温度による影響を調べた。
【0033】
参考例2で製造した、内壁にパラジウムと銀を90:10の質量比で被膜した中空細管(中空細管内径0.5mm×長さ100cm)を、
図5に示した反応装置に接続し、恒温槽内に置いて設定温度に保った。
【0034】
0.5Mのギ酸水溶液(毎分0.6ml)と、あらかじめ加圧下で設定温度に加熱した水(毎分1.4ml)とをTミキサーで混合し、毎分2.0mlでパラジウム被覆した中空細管に導入した。上記の流速では、中空細管内におけるギ酸水溶液の滞留時間は4秒となる。また、熱水との混合により中空細管に導入されるギ酸水溶液の濃度は0.15Mとなる。中空細管から出た反応溶液は、熱交換器により速やかに冷却し、圧力調整器により常圧まで戻した。気体と液体を分離後、気相の体積と液相の体積を測定し、ガスクロマトグラフィー分析(GC分析)により気体成分(水素、CO
2、CO、メタン)を測定した。液相に溶存するCO
2は、全有機炭素(TOC)計搭載の無機炭素分析計により分析した。ギ酸の転化率は、初期ギ酸量と、生成するCO
2とCOの合計量との比から算出した。反応の温度を260℃、280℃、300℃と変化させてギ酸の転化率、生成する水素、CO
2およびCOの生成モル比を計測した。
なお、ギ酸の初濃度は0.5M、圧力は10MPa、反応時間は4秒である。
得られた結果を下記表1に示す。
【0035】
【表1】
【0036】
上記表1から明らかなように、300℃でギ酸は定量的に分解し、水素とCO
2比はほぼ1:1で生成した。また、反応温度が低下するに従って転化率が低下し、COの生成が増加した。
【0037】
応用例2(パラジウム被覆反応管によるp−ニトロフェノールの還元)
実施例
1で製造した、内壁に多孔質のパラジウム膜を被覆した反応管を用い、p−ニトロフェノールをギ酸で還元し、p−アミノフェノールの生成反応を行った。内壁に多孔質パラジウムを被膜した反応管(内径0.5mm×長さ100cm)を、恒温水槽内に置いて設定温度30℃ないし40℃に保った。0.01Mのp−ニトロフェノールと0.1Mのギ酸を含む水溶液を毎分0.8mlの流速で反応管に導入した。上記の流速では、反応管内におけるギ酸水溶液の滞留時間は15秒となる。反応管から出た反応液をフラクションコレクターで分取し、分光光度法によりp−ニトロフェノールの317nmにおける吸光度の減少から反応率を算出した。この結果を
図6に棒グラフで示す。
棒グラフの白色は反応管の内壁にパラジウムを被覆したもの、黒の棒グラフは多孔質パラジウムを被覆した反応管を用いた結果である。同じ温度条件では、多孔質パラジウムを被覆した反応管がパラジウム被覆反応管よりも高い反応収率を示した。