【0010】
本発明の多チャンネル式化学発光計測システムは、従来のルミノメーターや分光器では今までできなかった、多サンプルから出る化学発光を多点で同時測定するものであり、この目的を達成するために多チャンネルミラー仕様の穿孔キャップを用いて多サンプルの保持・同時操作と反射面による効率的な集光、一サンプルに対する光ファイバーを用いた多点受光式光学系と網羅的な同時データ処理が可能なソフトシステムを組み合わせたことを特徴としている。多チャンネルミラー式穿孔キャップの採用により多連或いは単独のサンプルチューブと多チャンネルマイクロスライドとに兼用とすることができる。
本発明の多チャンネル式化学発光計測システムは以下のような化学発光、生物発光を出すバイオアッセイへの応用が想定できる。昆虫由来の発光酵素からの生物発光を用いたATP測定法(雑菌測定)、酸化ラジカルの発光測定法、ルミノールの酸化を含む化学発光サンプルの測定法、レポータージーンアッセイ(reporter−gene assay)、ツーハイブリットアッセイ(two−hybrid assay)、タンパク質相補法(protein complementation assay)、インテインを介したタンパク質スプライシング法(intein−mediated protein splicing assay)、一分子型生物発光プローブ法(single−chain probe−based assay)、二分子型生物発光プローブ法(two−molecule−format bioluminescent probe−based assay)を行う際に利用できる。
例えば、レポータージーンアッセイを行う際、市販の6チャンネルのマイクロスライド(ibidi社製)上のレポーター発現ベクターを持つ真核細胞を培養しリガンド刺激を行い、レポーター蛋白質の細胞内蓄積を待つ。その後、基質を添加することによって生細胞が発光することから、本発明の多チャンネル式化学発光計測システムのミラー式穿孔キャップを用いて生きた細胞のままで効率的に光測定すればよい。
また、前記細胞を細胞溶解液で溶解した後、細胞ライセットを市販の200μLチューブやPCRチューブに入れて測定すればよい。
また、一分子型生物発光プローブを用いる場合、市販の6チャンネルのマイクロスライド(ibidi社製)上の細胞を培養し一分子型生物発光プローブを発現させ、当該細胞にリガンド刺激を行う。リガンド刺激後、基質を添加することによって細胞を発光させ、本発明の多チャンネル式化学発光計測システムを用いることにより多数のサンプルからの発光を多点・同時で光測定すればよい。
【実施例】
【0014】
図1、2は本発明の多チャンネル式化学発光計測システムで用いる多チャンネルのミラー式穿孔キャップの一例を説明した図であり、
図3に示した本発明の多チャンネル式化学発光計測システム本体の発光サンプル測定基盤の上に蓋をした状態で多チャンネル同時計測を実施するものである。
図1〜3で図示したものは8チャンネル式の例であるが、汎用の8連チューブ、市販の6連マイクロスライド(ibidi社製等)、汎用の200・Lマイクロチューブなどに対応させるのに好適なように8チャンネルとしたものであり、必ずしも8チャンネルである必要はなく、チャンネル間のピッチを市販の多連チューブ、市販の多チャンネルマイクロスライド等に共通のピッチで構成しておけば汎用性が保たれる。したがって、本明細書中で用いる用語「多チャンネル」とは、「Nチャンネル(Nは2以上の自然数)」を意味するものである。
図1に、本発明の多チャンネルミラー式穿孔キャップの一例として8チャンネル式の構造を示す。図において、8チャンネルのミラー式穿孔キャップには8個の空洞が設けられ、各空洞は、
図3の多チャンネル式化学発光計測システム(図では8チャンネル式)の発光サンプル測定基盤に蓋をしたとき、発光サンプル測定基盤側の各チャンネル(Ch1〜Ch8)に対向するように形成され、各空洞間のピッチと発光サンプル測定基盤側の各チャンネル間のピッチとは何れも、汎用のPCRサンプルチューブ及び多チャンネルマイクロスライドや8チャンネルピペット等のチャンネル間のピッチと共通の9mmのピッチで形成されている。各空洞間には隔壁を設けてチャンネル間でのクロストークを防止し、空洞内壁はミラー状で上部に逃げようとする化学発光の光を下部に集光させる構造を備えている。さらに、ミラー式穿孔キャップには横面から穿孔が設けてあり、各穿孔のピッチは前記空洞のピッチと同じであり、各穿孔は発光サンプル測定基盤に蓋をしたときにやや下向きになるように穿たれ(図では15°の先下り傾斜)、穿孔の先は空洞に貫通しており、穿孔にサンプルチューブを挿入保持したとき、サンプルチューブの発光部が空洞内に位置する構造であり、また、穿孔内壁はミラー状に形成されており空洞内壁と同様に上部に逃げようとする化学発光の光を下部に集光させる構造である。
図2は8チャンネルのミラー式穿孔キャップの使用例を説明するための図で、(a)は8チャンネルのミラー式穿孔キャップの穿孔に単独のマイクロチューブを2個挿入した例、(b)は8チャンネルのミラー式穿孔キャップの穿孔に8連PCRチューブを挿入した例、(c)は8チャンネルのミラー式穿孔キャップの空洞に6チャンネルマイクロスライドを挿入した例を示している(6チャンネルマイクロスライドに対しては両端の2つを除いた中寄りの6つの空洞が対応する)。このように、8チャンネルのミラー式穿孔キャップを用いることにより、単独のマイクロチューブ・8連PCRチューブ・6チャンネルマイクロスライドに対して対応することができ、さらに、その各チャンネル間は壁面により隔たれているため、相互サンプル間のクロストークが殆どなく、ミラー状の壁面によりサンプルから出る発光を効率的に集光できるものである。
また、8チャンネルのミラー式穿孔キャップにおいて穿孔を設けた横面と対向する横面を
図1のごとく平面にしておけば、当該対向する横面が底となるようにミラー式穿孔キャップを水平面上に載置した状態でも穿孔で単独のマイクロチューブ及び8連PCRチューブを挿入保持することができ、例えばこの状態での8チャンネルピペットによる注液等の操作も可能となる。
【0015】
図3は本発明の多チャンネル式化学発光計測システム本体の構成の一例を示したものであり、(A)は発光サンプル測定基盤(図は8チャンネル式でチャンネル毎に3地点で集光)の構造を示したものであり、(B)は発光サンプル測定基盤の裏側とホトマル受光部側とを連結する光ファイバーを示したものであり、図示の例では、各サンプルに対して3地点集光ができるように、8つのチャンネル毎に発光サンプル測定基盤とホトマル受光部間を3本の光ファイバーで連結した構成となっており、(C)は本発明の一例である8チャンネル式化学発光計測システム本体の全体を外観した図である。
発光サンプル測定基盤の8つのチャンネルのピッチは、ミラー式穿孔キャップの空洞及び穿孔と同じく、汎用のPCRサンプルチューブ及び多チャンネルマイクロスライドや8チャンネルピペット等のチャンネル間のピッチと共通の9mmのピッチで形成されており、化学発光計測時には発光サンプル測定基盤の上は8チャンネルのミラー式穿孔キャップで覆われ、各チャンネル間はミラー式穿孔キャップの壁面により隔たれているため、相互サンプル間のクロストークが防止できる。また8つのチャンネル毎に3地点集光のできるように光ファイバーを設置したため、単一サンプルに対して3地点集光による平均値などが反映できるように工夫されている。このような構成により発光サンプル測定基盤の上に多数サンプルの同時・多点計測が実現できる。
図4に、多点同時計測の利点を示すために、発光サンプル測定基盤とホトマルの受光部を繋げる光ファイバーの本数を1本(一点集光)、2本(2点集光)、3本(3点集光)に変えることによる発光値の相違とその変動係数(CV)を測定した結果を示す。まず光源(light source)として発光パルスゼネレーター用いたパルス光を産生し、
図4(A)に示すように、その光パルスに対して1点集光した場合(他の2点は遮光する)、2点集光した場合(他の1点は遮光する)、3点集光(全部開光する)した場合において、ホトマル側で受けたそれぞれの光の強度(
図4(B)参照)とCV値(
図4(C)参照)を計測した。その結果、
図4(B)によれば、チャンネル1位置(Ch1)における発光輝度は1、2、3点集光順に上がることが分かった。また、
図4(C)によれば、CV値も3点集光の場合が少ないこと(精度が良い)が分かった。隣のチャンネル2位置(Ch2)においても同様の傾向が観察できた。ここでCV値は、変動係数(CV)=標準偏差/平均値として求めた。
なお、上記説明では光ファイバーによるものを例示したが、光ファイバーの束ともいえるファイバーオプティックプレート(FOP)を用いても同様の装置を構築することができ、例えば、FOPを加工して発光サンプル測定基盤とホトマルの受光部を繋げることによっても同様に多チャンネル同時光計測が感度良く実現できる
【0016】
図5、
図6は、本発明の多サンプル・多点同時計測を支える信号処理系として、8チャンネル式ホトマルとそれに対応する独自の信号処理システムを説明するための図である。
まず、
図5は、同じ発光サンプルに対して同一信号が得られるように各チャンネルの加電圧を統括して調整ができるようにしたソフトウェア画面の一例を示したものである。8チャンネルの化学発光計測システムで得られた測定結果をA/Dコンバーターで同時処理しパソコンにオンライン転送する構成とし、また、携帯性と省エネ性を実現するためにパソコンのUSB3.0電源で全て作動できるように電源ラインを調製した。また多用な発光サンプルに対して光検出ができるように発光サンプリング速度を1万回−100万回に幅広く調整できる構成とした。
次に、
図6は、このように構築された8チャンネル式化学発光計測システムが正常に作動することを確認するために、任意の光源に対する各発光チャンネルの応答を確認した結果を示したものである。まず、チャンネル8位置のみに光を加える操作で反復的に発光信号が上下することが
図6(A)で確認でき、また、チャンネル5に対してパルスゼネレーターを照射したところ、チャンネル5だけが反復して強く反応していることが
図6(B)で確認できた。なお、このような8チャンネル間の発光測定値の統括は、上記した
図5のソフトウェア画面上での加電圧調整により行うことができる。
【0017】
(測定例1:8連PCRサンプルチューブの測定例)
図7は、本発明の多チャンネル化学発光計測システムを用いた場合と、従来のルミノメーターによる場合及び96穴プレートリーダーを用いた場合とで、発光サンプルの測定時間等を比較した図である。
まずCOS−7細胞を96穴プレートに培養し、各ウェル上の細胞に本発明者の既開発のストレスホルモン感受性を持つ一分子型生物発光プローブをコードするプラスミドを、脂質導入試薬(TransIT−LT1)を用いて導入した。プラスミドを導入した24時間後に市販の細胞溶バッファー(Promega)を用いて細胞ライセットを作った。8チャンネル式マイクロピペットを用いて各ウェル上の細胞ライセット10μLを8連チューブに入れ、8チャンネル式マイクロピペットを用いて40μLのセレンテラジン入りの基質溶液を同時に付加し発光させ、本発明の8チャンネル化学発光計測システムで光測定を行った(8連チューブを8チャンネルのミラー式穿孔キャップの穿孔に挿入保持)。
一方、同様の条件で光測定時間を比較するために前記同様の細胞ライセットを96穴プレートに10μLずつ移し、基質導入インジェクターが付いているコロナ電気のマイクロプレートリーダー(SH−9000lab)を用いて自動基質導入モードで光測定を行った。
また、同様の条件で光測定時間を比較するために、既存のルミノメーター(GloMax20/20n,Promega)を用いて、同じ発光サンプル10μLの光測定を行った。
それらの結果をまとめたものが
図7である。同一発光サンプルに対する測定時間は、ルミノメーターでは21分、96穴プレートリーダーでは5分、本発明のシステムでは3分が所要された。また発光測定値の標準偏差値(SD)は、ルミノメーターでは0.34、96穴プレートリーダーでは0.53、本発明のシステムでは0.11を示した。この結果によれば、本発明のシステムではルミノメーターの3倍の精度、96穴プレートリーダーの5倍の精度で発光測定が可能であることを示しており、また、測定時間も本発明のシステムではルミノメーターの1/6、96穴プレートリーダーの約1/2の測定時間で測定できることが確認できた。
【0018】
(測定例2:6チャンネルマイクロスライドの測定例)
図8に、本発明の多チャンネル化学発光計測システムを用いた測定例を示す。
まず、市販の細胞培養用の6チャンネルマイクロスライド(ibidi社製)にサル腎臓由来のCOS−7細胞を植え、6チャンネルマイクロスライド面積の9割が細胞に埋まるまで細胞を培養した。その細胞に
図8(A)で示す生物発光カプセルをコードするプラスミドを遺伝子導入し、更に24時間培養した。その後、培地を除き、このバッファーには、スタウロスポリン(STS;最終濃度:10μM)有り又は無しのHBSSバッファー(基質(セレンテラジン)は同量含有)に交換した。このバッファー交換後の2分、10分、15分時点で6チャンネルマイクロスライドからでる生物発光を、本発明の8チャンネル化学発光計測システムで測定した(6チャンネルマイクロスライドの上は8チャンネルのミラー式穿孔キャップで覆う)。
STS無しの条件では、発光カプセルが細胞膜に局在し、STS刺激有りの条件では発光酵素がカスパーゼ3により切り出される(
図8(B)参照)。このメカニズムによりSTS有り無しの条件に依存して発光輝度の相違が発生する。
その結果、
図8(C)で示すようにSTS依存的は発光輝度の相違が観察できた。