(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6162439
(24)【登録日】2017年6月23日
(45)【発行日】2017年7月12日
(54)【発明の名称】乳脂肪クリーム及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A23C 13/14 20060101AFI20170703BHJP
【FI】
A23C13/14
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-48318(P2013-48318)
(22)【出願日】2013年3月11日
(65)【公開番号】特開2014-171452(P2014-171452A)
(43)【公開日】2014年9月22日
【審査請求日】2016年2月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】711002926
【氏名又は名称】雪印メグミルク株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小杉 達也
(72)【発明者】
【氏名】木村 浩
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 裕輔
(72)【発明者】
【氏名】武藤 高明
【審査官】
福澤 洋光
(56)【参考文献】
【文献】
特許第5946662(JP,B2)
【文献】
Milchwissenschaft,1985年,Vol.40, No.7,pp.394-397
【文献】
Milchwissenschaft,2001年,Vol.56, No.9,pp.504-508
【文献】
Milchwissenschaft,1991年,Vol.46, No.12,pp.758-765
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23C 9/00−23/00
CA/MEDLINE/BIOSIS/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪率が35%程度〜55%程度であり、乳脂肪クリーム中の全脂肪に対し、遊離脂肪の割合が3.5%以下であり、脂肪球のメディアン径が2.4μmより大きいことを特徴とする乳脂肪クリーム。
【請求項2】
原料乳からクリームを分離するクリーム分離工程と、
前記分離工程によって分離されたクリームを殺菌するクリーム殺菌工程とを含む乳脂肪クリームの製造方法において、
前記クリーム分離工程前に原料乳を均質処理する原料乳均質工程を含み、
前記原料乳均質工程が、原料乳を2.0MPa未満の均質圧で均質処理する工程である
ことを特徴とする遊離脂肪率が3.5%以下の乳脂肪クリームの製造方法。
【請求項3】
前記クリーム殺菌工程前及び/又は前記クリーム殺菌工程後に、分離後のクリームを均質処理するクリーム均質処理工程を含むことを特徴とする請求項2記載の遊離脂肪率が3.5%以下の乳脂肪クリームの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な乳脂肪クリーム及びその製造方法に関する。なお、本発明において、「乳脂肪クリーム」とは、乳及び乳製品の成分規格等に関する省令(昭和26年12月27日厚生省令第52号、以下「乳等省令」という。)によって規定される「種類別 クリーム」を意味するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、クリームと呼ばれるものには、乳脂肪のみからなる乳脂肪クリームのほか、乳脂肪に乳化剤や安定剤を加えたもの、植物性脂肪に乳化剤や安定剤を加えたもの、乳脂肪と植物性脂肪の混合脂肪に乳化剤や安定剤を加えたものがある。乳等省令上は、乳脂肪クリームのみが「種類別 クリーム」とされ、その他の乳化剤、安定剤を加えたもの(以下、「合成クリーム」という。)は「乳又は乳製品を主要原料とする食品」として定義されている。
【0003】
製菓、製パン、デザートの製造においては、乳脂肪クリーム、合成クリームのいずれも使用されているが、近年は添加剤を一切使用しないという点から乳脂肪クリームが好まれる傾向がある。合成クリームは、配合油脂の選択の自由度が高く、また乳化剤や安定剤の組み合わせも多種多様な選択が可能であることから、ホイップ性と乳化安定性に優れた製品を提供できるというメリットがあるが、一方で、乳脂肪クリームと比較すると、芳醇でフレッシュな乳の風味に欠け、風味の面で劣るというデメリットがある。
【0004】
乳脂肪クリームは、乳から分離したクリーム、もしくは乳から分離したクリームを殺菌処理したものを生乳で脂肪調整した後、均質、殺菌、再均質、冷却して製造されるのが一般的である。乳脂肪クリームは乳脂肪独特の風味やコクを有し、風味の点で合成クリームより優れるが、定義上、安定性を付与するための乳化剤や安定剤を添加することができないため、ホイップ性や乳化安定性等の物性の付与は、専ら製造条件の制御によって行わなければならない。よって、ホイップ性や乳化安定性においては、合成クリームに劣るという問題がある。特に、乳脂肪クリームでは、保存時や流通時において振動が加わったり温度変化が生じたりした場合に、乳脂肪球の凝集が生じやすいという問題があった。
乳脂肪クリームの乳化安定性の改善方法としては、超高温殺菌法(UHT法)による殺菌工程の前後で均質化することにより脂肪層の浮上を抑制する方法(特許文献1)が報告されているが、この方法では十分ではない。また、クリーム加熱殺菌処理後の冷却工程において、一旦7℃〜25℃まで急速に冷却し、その温度で1分間〜30分間保持し、その後3℃〜5℃まで急速に冷却することで、乳化安定性を付与する方法(特許文献2)が報告されている。しかし、この方法では冷蔵保存時での振動耐性は付与されるが、温度変化等に対する耐性は付与されず、乳化安定性としては不十分である。
この他にも乳脂肪クリームの製造に関して、生乳を膜濃縮処理、脱酸素処理を行なうことで風味と物性に優れたクリームの製造方法(特許文献3)も報告されているが、この方法は、製造に特別な装置や複雑な工程が必要となるほか、得られた乳脂肪クリームの乳化安定性は十分なものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−259831号公報
【特許文献2】特開2006−325426号公報
【特許文献3】特開2006−141273号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、保存時の安定性に優れた、従来よりも乳脂肪球の凝集が抑制された乳脂肪クリームの提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下のとおりである。
(1)乳脂肪クリーム中の全脂肪に対し、遊離脂肪の割合が3.5%以下であることを特徴とする乳脂肪クリーム。
(2)脂肪球のメディアン径が2.4μmより大きいことを特徴とする(1)記載の乳脂肪クリーム。
(3)原料乳からクリームを分離するクリーム分離工程と、前記分離工程によって分離されたクリームを殺菌するクリーム殺菌工程とを含む乳脂肪クリームの製造方法において、前記クリーム分離工程前に原料乳を均質処理する原料乳均質工程を含むことを特徴とする遊離脂肪率が3.5%以下の乳脂肪クリームの製造方法。
(4)前記原料乳均質工程が、原料乳を2.0MPa未満の均質圧で均質処理する工程であることを特徴とする(3)記載の遊離脂肪率が3.5%以下の乳脂肪クリームの製造方法。
(5)前記クリーム殺菌工程前及び/又は前記クリーム殺菌工程後に、分離後のクリームを均質処理するクリーム均質処理工程を含むことを特徴とする(3)又は(4)記載の遊離脂肪率が3.5%以下の乳脂肪クリームの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、保存時の安定性に優れた、従来よりも乳脂肪球の凝集が抑制された乳脂肪クリームが得られる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明につき、さらに詳細に説明する。
本発明における乳脂肪クリームとは、乳等省令上の「種類別 クリーム」であり、乳化剤や安定剤などの添加物を含まないものである。乳脂肪クリームは、通常、原料乳をディスク型の遠心分離機を通してクリームと脱脂乳に分離するクリーム分離工程、分離されたクリームを殺菌するクリーム殺菌工程、殺菌後のクリームを冷却するクリーム冷却工程を経て製造される。また、必要に応じて殺菌工程前及び/又は殺菌工程後にクリームを均質化するクリーム均質工程を経てもよい。本発明の乳脂肪クリームは、前記の工程に加えて、クリーム分離工程前に、原料乳に均質処理を行なう原料乳均質工程を経ることを特徴とする。
【0010】
本発明の乳脂肪クリームは、原料乳均質工程を経ることによって、乳脂肪クリーム中の遊離脂肪率(乳脂肪クリーム中の全脂肪に対する遊離脂肪の割合)を3.5%以下に調製する。これにより、乳脂肪クリームの乳化安定性が増し、保存時や流通時において振動や温度変化が加わった場合においても乳脂肪球の凝集が抑制された乳脂肪クリームを得ることができる。また、より好ましくは、乳脂肪クリーム中の遊離脂肪率を3.0%以下に調製することにより、さらに乳化安定性の高い乳脂肪クリームを得ることができる。
従来、乳脂肪クリームの製造工程で行われる均質工程は、原料乳に対してではなく、専ら原料乳をディスク型の遠心分離機を通してクリームと脱脂乳に分離するクリーム分離工程後に得られたクリームに対して行われる、クリーム均質工程であった。これは原料乳に対して均質処理を行うと、クリーム分離工程の効率が低下し、歩留まりが悪化するためである。したがって、乳脂肪クリームの製造において、原料乳に対する均質処理は従来検討されてこなかった。本願発明は、原料乳に対して均質処理を行うことにより、クリーム分離工程での効率は低下するものの、得られる乳脂肪クリームが従来のものよりも、きわめて高い乳化安定性を有することを見出して、完成させたものである。
なお、クリーム分離工程後に得られたクリームに対して均質処理を行った場合、乳脂肪クリーム中の遊離脂肪率は6.5%以上となり、本願発明の方法によって得られる乳脂肪クリームとは明確に区別できるものである。
【0011】
原料乳均質工程では、原料乳を所定の均質化温度になるように加温した後、均質機を用いて均質化する。原料乳の加温には、プレート式熱交換機、バッチ式加熱機等が用いることができる。中でも、原料乳の加温効率の点から、プレート式熱交換機を用いることが好ましい。また、均質化には、ホモゲナイザーなどの均質機のほか、マイクロフルイダイザー、コロイドミル等を用いてもよい。原料乳の均質化効率及び処理量の能力の点から、ホモゲナイザーを用いることが好ましく、その中でも二段均質機を用いることが好ましい。
また、均質化圧力は、均質機の種類、原料乳の処理流量やホモバブルの形状、均質化温度等の製造条件の違いにより適宜変更すればよいが、特に均質化圧力を加えなくてもよい。均質処理時の均質化圧力を上げれば上げるほど乳脂肪クリーム中の遊離脂肪率は低下させることができるが、均質化圧力をかけずに均質処理した場合(均質機を通過させた場合)においても、乳脂肪クリーム中の遊離脂肪率は3.4%前後となる。
なお、均質化圧力を上げるほど、乳脂肪クリーム中の遊離脂肪率を低下させることができるが、一方で次工程であるクリーム分離工程の効率が低下する。したがって、得られる乳脂肪クリームの脂肪球のメディアン径が2.4μmよりも大きくなる程度の均質化圧力(2.0MPa未満)が好ましいが、求める乳化安定性とクリーム分離工程の効率を鑑み、適宜決定すればよい。
【0012】
なお、クリーム分離工程、クリーム殺菌工程は、適宜既知の手法を用いて行なえばよく、クリーム分離工程では、ディスク型の遠心分離機等を用いて行なえばよい。またクリーム殺菌工程では、例えば、保持殺菌法では63℃30分間、プレート式熱交換殺菌法では72〜75℃15秒、82〜85℃10秒間の高温短時間殺菌法(HTST法)あるいは130〜140℃2秒間の超高温殺菌法(UHT法)等の条件で実施すればよい。また、通常は、殺菌工程を経たクリームは直ちに10℃以下に冷却されるが、このクリーム殺菌工程前後でクリーム均質工程を行なってもよい。クリーム均質工程についても、既知の方法で行なえばよく、例えば1.0MPa程度の均質圧で均質処理を行なえばよい。
【0013】
以下に本発明の実施例、参考例、試験例を挙げて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0014】
原料乳を60℃まで加温したものを均質圧0.0MPaで均質処理し、その後遠心分離機にて脂肪率45%のクリームを分離した。得られたクリームをプレート式殺菌機に通液し、120℃、2秒の殺菌処理を行なった。殺菌後、約50℃までプレート冷却したのち、クリームをパウチに700g採取し、冷却して乳脂肪クリーム(実施例品1)を得た。得られた乳脂肪クリームは5℃で保存した。
【実施例2】
【0015】
原料乳を60℃まで加温したものを均質圧0.5MPaで均質処理し、その後遠心分離機にて脂肪率45%のクリームを分離した。得られたクリームをプレート式殺菌機に通液し、120℃、2秒の殺菌処理を行なった。殺菌後、約50℃までプレート冷却したのち、クリームをパウチに700g採取し、冷却して乳脂肪クリーム(実施例品2)を得た。得られた乳脂肪クリームは5℃で保存した。
【実施例3】
【0016】
原料乳を60℃まで加温したものを均質圧1.0MPaで均質処理し、その後遠心分離機にて脂肪率45%のクリームを分離した。得られたクリームをプレート式殺菌機に通液し、120℃、2秒の殺菌処理を行なった。殺菌後、約50℃までプレート冷却したのち、クリームをパウチに700g採取し、冷却して乳脂肪クリーム(実施例品3)を得た。得られた乳脂肪クリームは5℃で保存した。
【実施例4】
【0017】
原料乳を60℃まで加温したものを均質圧1.5MPaで均質処理し、その後遠心分離機にて脂肪率45%のクリームを分離した。得られたクリームをプレート式殺菌機に通液し、120℃、2秒の殺菌処理を行なった。殺菌後、約50℃までプレート冷却したのち、クリームをパウチに700g採取し、冷却して乳脂肪クリーム(実施例品4)を得た。得られた乳脂肪クリームは5℃で保存した。
【実施例5】
【0018】
原料乳を60℃まで加温したものを均質圧2.0MPaで均質処理し、その後遠心分離機にて脂肪率45%のクリームを分離した。得られたクリームをプレート式殺菌機に通液し、120℃、2秒の殺菌処理を行なった。殺菌後、約50℃までプレート冷却したのち、クリームをパウチに700g採取し、冷却して乳脂肪クリーム(実施例品5)を得た。得られた乳脂肪クリームは5℃で保存した。
【実施例6】
【0019】
原料乳を60℃まで加温したものを均質圧0.5MPaで均質処理し、その後遠心分離機にて脂肪率45%のクリームを分離した。得られたクリームを均質圧1.0MPaで均質処理し、プレート式殺菌機に通液して、120℃、2秒の殺菌処理を行なった。殺菌後、約50℃までプレート冷却したのち、クリームをパウチに700g採取し、冷却して乳脂肪クリーム(実施例品6)を得た。得られた乳脂肪クリームは5℃で保存した。
【実施例7】
【0020】
原料乳を60℃まで加温したものを均質圧0.5MPaで均質処理し、その後遠心分離機にて脂肪率45%のクリームを分離した。得られたクリームを均質圧2.0MPaで均質処理し、プレート式殺菌機に通液して、120℃、2秒の殺菌処理を行なった。殺菌後、約50℃までプレート冷却したのち、クリームをパウチに700g採取し、冷却して乳脂肪クリーム(実施例品7)を得た。得られた乳脂肪クリームは5℃で保存した。
【実施例8】
【0021】
原料乳を60℃まで加温したものを均質圧0.5MPaで均質処理し、その後遠心分離機にて脂肪率45%のクリームを分離した。得られたクリームをプレート式殺菌機に通液し、120℃、2秒の殺菌処理を行なった。その後、約50℃までプレート冷却した後、均質圧1.0MPaで均質処理し、均質処理後のクリームをパウチに700g採取し、冷却して乳脂肪クリーム(実施例品8)を得た。得られた乳脂肪クリームは5℃で保存した。
【実施例9】
【0022】
原料乳を60℃まで加温したものを均質圧0.5MPaで均質処理し、その後遠心分離機にて脂肪率45%のクリームを分離した。得られたクリームをプレート式殺菌機に通液し、120℃、2秒の殺菌処理を行なった。その後、約50℃までプレート冷却した後、均質圧2.0MPaで均質処理し、均質処理後のクリームをパウチに700g採取し、冷却して乳脂肪クリーム(実施例品9)を得た。得られた乳脂肪クリームは5℃で保存した。
【実施例10】
【0023】
原料乳を60℃まで加温したものを均質圧0.5MPaで均質処理し、その後遠心分離機にて脂肪率45%のクリームを分離した。得られたクリームを均質圧1.0MPaで均質処理した後、プレート式殺菌機に通液し、120℃、2秒の殺菌処理を行なった。その後、約50℃までプレート冷却したのち、再度均質圧1.0MPaで均質処理し、均質処理後のクリームをパウチに700g採取し、冷却して乳脂肪クリーム(実施例品10)を得た。得られた乳脂肪クリームは5℃で保存した。
【実施例11】
【0024】
原料乳を60℃まで加温したものを均質圧0.5MPaで均質処理し、その後遠心分離機にて脂肪率45%のクリームを分離した。得られたクリームを均質圧2.0MPaで均質処理した後、プレート式殺菌機に通液し、120℃、2秒の殺菌処理を行なった。その後、約50℃までプレート冷却したのち、再度均質圧2.0MPaで均質処理し、均質処理後のクリームをパウチに700g採取し、冷却して乳脂肪クリーム(実施例品11)を得た。得られた乳脂肪クリームは5℃で保存した。
【0025】
[比較例1]
原料乳を60℃まで加温した後、遠心分離機にて脂肪率45%のクリームを分離した。得られたクリームを均質圧0.0MPaで均質処理し、プレート式殺菌機に通液して120℃、2秒の殺菌処理を行なった。その後、約50℃までプレート冷却したのち、クリームをパウチに700g採取し、冷却して乳脂肪クリーム(比較例品1)を得た。得られた乳脂肪クリームは5℃で保存した。
【0026】
[比較例2]
原料乳を60℃まで加温した後、遠心分離機にて脂肪率45%のクリームを分離した。得られたクリームを均質圧1.0MPaで均質処理し、プレート式殺菌機に通液して120℃、2秒の殺菌処理を行なった。その後、約50℃までプレート冷却したのち、クリームをパウチに700g採取し、冷却して乳脂肪クリーム(比較例品2)を得た。得られた乳脂肪クリームは5℃で保存した。
【0027】
[比較例3]
原料乳を60℃まで加温した後、遠心分離機にて脂肪率45%のクリームを分離した。得られたクリームを均質圧2.0MPaで均質処理し、プレート式殺菌機に通液して120℃、2秒の殺菌処理を行なった。その後、約50℃までプレート冷却したのち、クリームをパウチに700g採取し、冷却して乳脂肪クリーム(比較例品3)を得た。得られた乳脂肪クリームは5℃で保存した。
【0028】
[比較例4]
原料乳を60℃まで加温した後、遠心分離機にて脂肪率45%のクリームを分離した。得られたクリームをプレート式殺菌機に通液し、120℃、2秒の殺菌処理を行ない、その後、約50℃までプレート冷却した後、均質圧0.0MPaで均質処理し、均質処理後のクリームをパウチに700g採取し、冷却して乳脂肪クリーム(比較例品4)を得た。得られた乳脂肪クリームは5℃で保存した。
【0029】
[比較例5]
原料乳を60℃まで加温した後、遠心分離機にて脂肪率45%のクリームを分離した。得られたクリームをプレート式殺菌機に通液し、120℃、2秒の殺菌処理を行ない、その後、約50℃までプレート冷却した後、均質圧1.0MPaで均質処理し、均質処理後のクリームをパウチに700g採取し、冷却して乳脂肪クリーム(比較例品5)を得た。得られた乳脂肪クリームは5℃で保存した。
【0030】
[比較例6]
原料乳を60℃まで加温した後、遠心分離機にて脂肪率45%のクリームを分離した。得られたクリームをプレート式殺菌機に通液し、120℃、2秒の殺菌処理を行ない、その後、約50℃までプレート冷却した後、均質圧2.0MPaで均質処理し、均質処理後のクリームをパウチに700g採取し、冷却して乳脂肪クリーム(比較例品6)を得た。
【0031】
[比較例7]
原料乳を60℃まで加温した後、遠心分離機にて脂肪率45%のクリームを分離した。得られたクリームを均質圧1.0MPaで均質処理した後、プレート式殺菌機に通液し、120℃、2秒の殺菌処理を行なった。その後、約50℃までプレート冷却したのち、再度均質圧1.0MPaで均質処理し、均質処理後のクリームをパウチに700g採取し、冷却して乳脂肪クリーム(比較例品7)を得た。得られた乳脂肪クリームは5℃で保存した。
【0032】
[比較例8]
原料乳を60℃まで加温した後、遠心分離機にて脂肪率45%のクリームを分離した。得られたクリームを均質圧2.0MPaで均質処理した後、プレート式殺菌機に通液し、120℃、2秒の殺菌処理を行なった。その後、約50℃までプレート冷却したのち、再度均質圧2.0MPaで均質処理し、均質処理後のクリームをパウチに700g採取し、冷却して乳脂肪クリーム(比較例品8)を得た。得られた乳脂肪クリームは5℃で保存した。
【0033】
[試験例1]
実施例品1〜11、比較例品1〜8について、遊離脂肪率を測定した。遊離脂肪率の測定は、以下の手順で実施した。分液ロートにクリーム30ml、四塩化炭素60mlを加え攪拌した後10分間静置後、下層の四塩化炭素を回収した。分液ロート中に残ったクリームに四塩化炭素30mlを加え攪拌した後10分間静置後、下層の四塩化炭素を回収した。回収した四塩化炭素90mlに等量の飽和食塩水を加え攪拌した後10分間静置後、下層の四塩化炭素を回収した。回収した四塩化炭素を加熱プレート上で気化させ、残った脂質を遊離脂肪と定義し、元のクリーム30ml中の脂肪重量に対する遊離脂肪率として算出した。算出した数値を表1に示す。
【0034】
[試験例2]
実施例品1〜11、比較例品1〜8について、脂肪球のメディアン径を測定した。脂肪球のメディアン径の測定には、レーザー回折式粒度分布測定装置(SALD-3100、株式会社 島津製作所製)を用いた。測定した値を脂肪球径として表1に示す。
【0035】
[試験例3]
実施例品1〜11、比較例品1〜8について、クリーム分離時におけるクリームの回収率を算出し分離効率を評価した。比較例品1の調製時の回収率を100%とし、これと比較して回収率95%以上のものを○、80%以上95%未満を△、80%未満を×とした。結果を分離効率として表1に示す。
【0036】
[試験例4]
実施例品1〜11、比較例品1〜8について、乳化安定性の指標として凝集物評価を行なった。凝集物評価は、パウチに充填した700gのクリームを、冷蔵5℃で14日間保存後におけるクリーム中の凝集物とパウチ壁面に付着した凝集物を併せて目視にて5段階で評価(1点:凝集物がまったくない、2点:わずかに凝集物がある、3点:凝集物が散見される、4点:凝集物がある、5点:凝集物が多量にある)した。結果を凝集評価として表1に示す。
【0037】
【表1】
【0038】
表1に示したように、原料乳に対して均質処理を行った実施例品1〜5については、遊離脂肪率が3.5%以下となり、冷蔵保存後においても凝集物はほとんど見られなかった。原料乳に均質処理を行わず、クリーム分離後のみに均質処理を行った比較例品1〜8については、均質処理が殺菌処理の前後のどちらか、または両方で行なったかに関わらず、また、その際の均質圧に関わらず、遊離脂肪率は6.5%以上となり、凝集物評価において、多数の凝集物が見られた。この結果から、乳脂肪クリームの遊離脂肪率を3.5%以下にすることによって、乳化を安定させ、凝集物の発生を抑制できることがあきらかとなった。
一方、原料乳の均質圧を2.0MPaとした実施例品5では、脂肪球径が2.25μmと極めて小さくなり、結果、乳脂肪クリームの分離効率が低下する傾向が見られた。これは、脂肪球が小さくなることで、クリームとして分離される脂肪分の分離効率が悪化したことによるものと考えられる。したがって、乳脂肪クリームのメディアン径は、好ましくは2.4μmよりも大きくすることが望ましい。ただし、分離効率を問題にしなければ、原料乳均質工程の均質圧を可能な範囲で高くすることで、凝集物の発生を抑制することが可能である。
また、原料乳均質工程を経た後に、クリームの均質処理を実施した場合(実施例品6〜11)においても、遊離脂肪率は3.5%以下であり、凝集物の発生を抑制することができることがあきらかとなった。