(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記静菌または抗菌の対象とする微生物が大腸菌(Escherichia coli)、シュードモナス プチダ(Pseudomonas putida)、シュードモナス アエルギノーザ(Pseudomonas aeruginosa)、シュードモナス フルオレッセンス(Pseudomonas fluoressence)のいずれかであることを特徴とする請求項3に記載の静菌または抗菌剤。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、乳タンパク質、脂肪酸の抗菌性については報告があるものの、特許文献1〜6については、用いる原料や製造工程が煩雑であることや、十分な効果が得られないこと等の様々な問題が認められる。
また、特許文献4に記載されるラクトフェリン等の乳中の抗菌性タンパク質は、分子量が20,000Da以上と大きいので、本発明の静菌または抗菌性成分とは異なる物質である。
また、特許文献5では、乳タンパク質の加水分解物を抗菌剤として用いているが、乳成分単独の効果ではなく、さらに乳成分を加水分解する工程を有するため製造工程が煩雑である等の問題が認められる。
さらに、特許文献6の遊離脂肪酸の抗菌剤は、乳化剤として乳タンパク等が必要なこと、遊離脂肪酸の乳化組成物はそれらの合同融点未満の温度ではほとんどまたは全く抗菌効力を持たないことが開示されており、これらの点から実用化においては問題点が多い。
一方で、乳タンパク質、脂肪酸以外の低分子物質の静菌または抗菌性については全く報告がされていない。また、乳やホエーの限外ろ過パーミエイトについて静菌または抗菌性の効果を有する報告はなされていない。
【0007】
よって、本発明は、乳またはホエーに含まれる低分子画分の有効利用を目的とし、乳またはホエーよりの低分子画分を探索することにより静菌または抗菌効果のある物質を取得することを課題とする。また、それを有効成分とする植物病原菌抑制剤、ヒトや家畜等の感染症予防剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決すべく、鋭意検討した所、本発明者らは、ホエーの限外ろ過パーミエイトを更に分画した分画物に、土壌細菌に対する高い静菌または抗菌活性があることを見出した。さらに、当該分画物より、植物病原性細菌や食中毒細菌などに対して静菌または抗菌活性がある化合物を分離・同定することに成功した。
即ち本発明は下記の通りである。
[1]シクロヘキサンカルボン酸とアミノ酸がアミド結合した化合物および/またはその塩を有効成分とする静菌または抗菌剤。
[2]シクロヘキサンカルボン酸とアミノ酸のアミド結合した化合物が、下記式(1)で表される化合物である前記[1]に記載の静菌または抗菌剤。
【化1】
ここで、Rは中性または酸性のアミノ酸側鎖を示す。
[3]アミノ酸が、グリシン、アラニン、セリンのいずれかである前記[2]に記載の静菌または抗菌剤。
[4]乳抽出物からなる前記[1]〜[3]のいずれかに記載の静菌または抗菌剤。
[5]ホエー抽出物からなる前記[1]〜[3]のいずれかに記載の静菌または抗菌剤。
[6]前記静菌または抗菌の対象とする微生物が、Escherichia属、シュードモナス属のいずれかである前記[1]〜[4]のいずれかに記載の静菌または抗菌剤。
[7]前記静菌または抗菌の対象とする微生物が大腸菌(Escherichia coli)、シュードモナス プチダ(Pseudomonas putida)、シュードモナス アエルギノーザ(Pseudomonas aeruginosa)、シュードモナス フルオレッセンス(Pseudomonas fluoressence)のいずれかであることを特徴とする前記[5]に記載の静菌または抗菌剤。
[8]前記[1]〜[5]のいずれかに記載の静菌または抗菌剤を含有することを特徴とする植物病原菌防除剤。
[9]前記[1]〜[5]のいずれかに記載の静菌または抗菌剤を含有することを特徴とする飲食品、栄養組成物または飼料。
【発明の効果】
【0009】
本発明により得られる化合物は、静菌剤または抗菌剤として有用である。また、本発明の化合物を含む、乳またはホエー由来成分を有効成分とする静菌または抗菌剤を提供することができる。これらの静菌または抗菌剤は食品由来の天然物であり、ブロッコリーの花蕾等の農薬を散布できない野菜に対して用いることができるほか、土壌散布によっても植物病原菌を抑制することが可能である。さらには、ヒトや家畜動物等で問題となる病原性大腸菌等に対して効果が期待できるため、安全な腸内病原菌の抑制剤としても利用できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の化合物及びその製造方法について説明する。
本発明の静菌又は抗菌剤は、例えば、工業的にホエーやホエーの限外ろ過パーミエイト等から分画することが可能であり、乳副産物の付加価値を向上し、有効に活用することが可能となる。このような処理により得られた本発明の静菌又は抗菌性物質は、食品由来の天然物であり、ブロッコリーの花蕾などの農薬を散布できない野菜に対しても使用できるほか、土壌散布によっても植物病原菌を抑制することが可能である。更には、ヒトや家畜動物などで問題となる病原性大腸菌などに対して抑制効果が期待できるため、安全な腸内病原菌の抑制剤としても利用できる。さらに、本発明の静菌又は抗菌性物質をアミノ酸とシクロヘキサンカルボン酸から合成した場合においても、同様に用いることができる。
【0012】
本発明において使用する原料としては、生乳や脱脂乳等の乳又は、ホエーなど用いることができる。例えば乳であれば、入手が容易である牛乳が適当であるが、多量に入手が可能であれば人乳、ヤギ乳、羊乳などの乳であってもかまわないし、液状でもよいし、粉末化したものを還元して用いてもかまわない。ホエーであれば、酸や乳酸菌で分離した酸ホエーでも良いし、レンネットを用いたチーズ製造時に二次的に生成するホエーであっても良く、液状でもよいし、粉末化したものを還元して用いてもかまわない。脱脂乳からミルクタンパク質コンセントレート(MPC)を製造する際に副産物として生成する限外ろ過パーミエイトを用いても良い。副産物の有効利用という観点から、ホエーやその限外ろ過パーミエイトなどを使用することが望ましい。
【0013】
乳またはホエーより脂肪を除く場合には、例えばクリームセパレーターなど用いて遠心分離により除去することができる。
乳またはホエーよりタンパク質成分を除く場合には、限外ろ過フィルターを用いることもできるし、溶液中の塩濃度を高めて析出させる(塩析)こともできる。限外ろ過フィルターとしては、乳またはホエー中のタンパク質成分を除去できればどのようなものでもかまわないが、乳タンパク質のサイズや除去効率を考慮すると、3,000から20,000Daの範囲内の分画分子量を有する限外濾過膜が適当である。
【0014】
本発明の静菌又は抗菌剤の分離・精製には、有機溶媒による抽出や、合成吸着樹脂やシリカゲルなどを用いたカラムクロマトグラフィーを併用して用いることができる。例えば、タンパク質・脂質を除去したホエーの限外ろ過パーミエイトを合成樹脂であるDIAION(登録商標) HP20(三菱化学製)に供し、蒸留水で洗浄後、50%のエタノール溶液で溶出する。エバポレーターで乾固した後、蒸留水に再溶解し、水酸化ナトリウム(和光純薬製)にてpH8.0に調整後、酢酸エチル(和光純薬製)で溶媒抽出を行う。水相を回収し、塩酸(和光純薬製)にてpH2.5に調整した後、酢酸エチルで溶媒抽出を行う。酢酸エチル相を回収してエバポレーターで乾固後、蒸留水に再溶解し、本発明の静菌又は抗菌性物質を含む粗画分(AE画分)を得ることができる。
【0015】
更に上記静菌又は抗菌性物質を精製するため、高速液体クロマトグラフィーなどを用いて上記静菌又は抗菌性物質の分画を行うことができる。例えば、逆相カラムを用い、移動相には酢酸やトリフルオロ酢酸、ギ酸などで酸性化した含水メタノールや含水アセトニトリルなどを使用し、それらを組み合わせて分画することで本発明の静菌又は抗菌性物質のみを精製することが可能である。本発明の静菌又は抗菌性物質を含む画分を選択するためには、高速液体クロマトグラフィーで分取した画分を乾固し、50%エタノールに溶解後、病原菌に対する抗菌試験を実施して抗菌性を示した画分を選択する。例えば滅菌したペーパーディスク(ADVANTEC製)に分画物を50μl吸収させ、病原菌を塗布した標準寒天培地(パールコア標準寒天培地、栄研化学製)上に等間隔に並べる。病原菌の至適条件で培養後、ペーパーディクス周辺で菌の生育を阻害している範囲(阻止円)の大きさでその抗菌性の有無を判断することができる。
【0016】
上記方法などにより得られた本発明の静菌又は抗菌剤の本体は、シクロヘキサンカルボン酸とアミノ酸がアミド結合した化合物であり、具体的には、例えば以下の式(1)で表される化合物である。
【化1】
ここで、上記式(1)のRは、中性または酸性のアミノ酸側鎖を示し、酸性アミノ酸としては、アスパラギン酸およびグルタミン酸、中性アミノ酸としてはグリシン ・アラニン ・バリン・ロイシン・イソロイシン、セリン・トレオニン、システイン・メチオニン、アスパラギン・グルタミン、プロリン、フェニルアラニン・チロシン・トリプトファンなどを挙げることができるが特に限定されるものではなく、このうちでも好ましくはグリシン、アラニン、セリンが挙げられる。アミノ酸がグリシン、アラニン、セリンの場合の上記式(1)のRは、順に、H、CH
3、CH
2OHとなる。精製された本発明の静菌又は抗菌性物質は液状のまま使用しても良いし、噴霧乾燥や凍結乾燥などにより粉末化してから使用しても良い。
なお、本発明は、上記のシクロヘキサンカルボン酸とアミノ酸がアミド結合した化合物の塩についても同様の効果を有する。例えば、金属塩、無機塩、アミン塩、アミノ酸塩等が挙げられる。金属塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、亜鉛塩、銀塩、銅塩等が挙げられ、無機塩としては、例えば、炭酸ナトリウム塩、炭酸水素ナトリウム塩、炭酸カリウム塩、炭酸水素カリウム塩等が挙げられ、アミン塩としては、例えば、トリエタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、モノエタノールアミン塩等が挙げられ、アミノ酸塩としては、例えば、アルギニン塩、リジン塩等が挙げられる。
【0017】
本発明の静菌又は抗菌剤は、各種のアミノ酸とシクロヘキサンカルボン酸をアミド縮合させて調製することもできる。たとえば、グリシンおよびシクロヘキサンカルボン酸から、アラニンとシクロヘキサンカルボン酸から、またはセリンとシクロヘキサンカルボン酸から調製することもできる。
【0018】
本発明の静菌又は抗菌剤を植物病原菌防除剤として用いる場合には、例えば液状の物質に溶解して単独で散布しても良いし、他の農薬等の散布時に薬剤と混和して同時に散布することもできる。例えば、粉末化した該剤を水や他の液剤に約0.1~10%溶解して散布することにより、植物病原菌防除剤としての効果が期待できる。植物体表面への付着性を高めるため、農業上通常用いられる展着剤、界面活性剤を補助剤として添加することも可能である。例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、オキシエチレンポリマー、オキシプロピレンポリマー、ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル、脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルスルホン酸塩、アルキルアリールスルホン酸塩、アルキルリン酸塩、アルキルリン酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル、第四級アンモニウム塩、オキシアルキルアミン、レシチン、サポニン等が挙げられる。また、必要に応じてゼラチン、カゼイン、デンプン、寒天、ポリビニルアルコール、アルギン酸ソーダなどを補助剤として用いることができる。
また、土壌中の病原菌防除の目的では、粉末状で直接散布することもできるが、ゼオライト等の土壌改良資材に混和あるいは吸着させた後、土壌にすき込んで使用することも可能であるし、肥料に混和して用いることも可能である。
植物体への散布部位は、病原菌の発症、繁殖可能部位であればどこにでも用いることができ、花、茎、葉、根および種子などが挙げられる。
【0019】
本発明の静菌又は抗菌剤は、ヒト又は家畜・ペットなどの感染症予防を目的として用いることができる。ヒトの感染症予防を目的とした場合は、本発明の静菌又は抗菌剤を錠剤やドリンク剤に添加することもできるし、飲食品に添加して使用することもできる。家畜・ペットなどの動物用途であれば、固形飼料・餌に混和することもできるし、飲料水に溶解して摂取させることもできる。また、粉末を飼料・餌に直接振りかけて与えることもできる。
例えば、粉末化した本剤を1〜99%含む錠剤をヒトが飲用することで、感染症予防効果が期待できる。また、粉末化した本剤を豚または鶏用の固形飼料に0.1〜5%程度混和して給与することで、感染症予防効果が期待できる。
【0020】
本発明の静菌又は抗菌剤は、ヒト用の食品や、家畜飼料・ペット用餌などの腐敗防止剤として使用することも出来る。この場合、用途や形態に合わせて液体または粉末の静菌または抗菌剤を適当量混和することができる。
【0021】
当該静菌または抗菌性物質を、たとえばブロッコリーの花蕾等、そのまま食するため農薬を散布できない野菜に対しても使用することができる。その結果、これらの野菜類の病害を抑え、安定的に農業生産を行うことができる。更に、本発明の静菌または抗菌性物質を土壌散布することで、植物病原菌の繁殖、感染などの抑制効果も期待できる。また、種子を本発明の静菌または抗菌性物質に浸漬しておいたり、発症前の植物体に散布しておくことで、植物病原菌の発症を予防することも期待できる。また、ヒトや家畜動物などで問題となる病原性大腸菌等に対しても効果が期待できるため、食品や家畜飼料として摂食することにより、安全に腸内病原菌を防除することもできる。
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例
に限定されるものではない。
【実施例1】
【0022】
(ホエーからの本発明の静菌又は抗菌性物質を含む粗画分の調製)
ゴーダタイプチーズの製造工程で排出されたチーズホエー40Lを8,000g×30分、4℃で遠心分離後、その上清を分画分子量が10,000Daの限外ろ過膜(3838 HFK-131、Koch Membrane Systems Inc.)に供し、通過した画分をホエー限外ろ過パーミエイトとした。
合成樹脂であるDIAION HP20(三菱化学製)をエタノール(和光純薬製)で膨潤後、蒸留水で洗浄し、オープンカラム(内径45mm×長さ550mm)に充填した。ホエー限外ろ過パーミエイトをこの樹脂に供し、3Lの蒸留水にて洗浄を行った後、3Lの50%のエタノール溶液で溶出した。溶出液をエバポレーターで乾固した後、500mlの蒸留水に再溶解した。これに水酸化ナトリウム(和光純薬製)を加えてpH8.0に調整し、酢酸エチル(和光純薬製)500mlで3回の溶媒抽出を行った。水相を回収し、塩酸(和光純薬製)にてpHを2.5に調製した後、酢酸エチル500mlで3回の溶媒抽出を行った。回収した酢酸エチル相をエバポレーターで乾固後、50%エタノール10mlに溶解し、粗画分(AE画分)とした。
【0023】
(AE画分のシュードモナス及び大腸菌の抑制効果)
北海道別海町の土壌を滅菌水に懸濁後、PDB培地(パールコア標準寒天培地、栄研化学製)に塗布し、27℃で1日培養した。生育したコロニーの一つを釣菌し、その16S rRNAの遺伝子配列を解読したところ、当株がPseudomonas sp.であることが確認された。この分離株を以降の抗菌性試験に用いた。
前記土壌より分離したシュードモナス属細菌(Pseudomonas sp)と子牛の糞便より分離した大腸菌(Escherichia coli)を、標準寒天培地(パールコア標準寒天培地、栄研化学製)に塗布し、シュードモナス属細菌は30℃で、大腸菌は37℃で1日培養した。生育した菌体を生理食塩水に懸濁し、その100μlを標準寒天培地に塗布した。滅菌した直径10mmのペーパーディスク(ADVANTEC製)にホエー抽出画分を各々50μl吸収させ、寒天培地上に等間隔に並べた。培地をシュードモナス属細菌は30℃で、大腸菌は37℃で1日間培養した後、ペーパーディクス周辺で菌の生育を阻害している範囲(阻止円)の大きさを測定した。その結果、シュードモナス属細菌、大腸菌共にAE画分で強い阻止円を形成していた(表1)。なお、蒸留水を滅菌したペーパーディスクに100μl吸収させたものを寒天培地上に置いて同様に培養したが(対照区)、阻止部分は形成されなかった(阻止円の大きさは10mm)。
以上の結果から、AE画分には植物病原性菌であるシュードモナス属細菌や、動物の感染症原因菌である大腸菌に対しても高い静菌または抗菌効果があることが判明した。また、データは示さなかったが、ヒトの糞便より分離した大腸菌(Escherichia coli)でも同様の静菌または抗菌効果が認められた。
【実施例2】
【0025】
(1)AE画分から本発明の静菌又は抗菌性化合物の分離・同定
実施例1で分画したAE画分について、活性成分を分離するためシリカゲルカラム(ワコーゲルC-100,和光純薬製,直径20mm×250mm)に供し、精製を行った。AE画分をこのカラムに供し、500mLの1%酢酸含有ヘキサン(和光純薬製)にて洗浄を行った後、1Lのn−ヘキサン:酢酸エチル:酢酸=39:60:1溶液にて溶出した。エバポレーターで乾固した後、1N酢酸に溶解し、あらかじめメタノールで膨潤・洗浄後、1N酢酸で順化したSepPak tC18カートリッジ(Waters社製)に添加し、さらに20mlの1N酢酸で溶出させた。
次に、高速液体クロマトグラフィーを用いて抗菌成分の分画を行った。まず、カラムにYMC ODS−A(10 mm ID×250mm: YMC) を用い、溶媒は1% 酢酸 in 50%メタノールを3ml/分で流し、カラム温度を40℃とし、ピークは235nmから350nmのスペクトルで検出した。上記の溶出液を高速液体クロマトグラフィーに供し、3分間隔で分取したものを乾固した。50%エタノールに溶解後、試験例1と同様にして大腸菌に対する抗菌性試験を行い、9〜12分の分画物で抗菌活性があることを見出した。更に精製するため、この分画物をYMC Phe(10 mm ID×250mm: YMC)カラムに供し、1% 酢酸 in 50%メタノール・3ml/分で分画した。このうち7〜9分の分画物が抗菌活性を示したため、更にYMC ODS−A(10 mm ID×250mm: YMC)カラムに供し、1% 酢酸 in 20%メタノール・3ml/分で分画した。このうち17〜19分の分画物が抗菌活性を示したため、更にXtrra Prep RP18(10 mm ID×250mm: Waters)カラムに供し、1% 酢酸 in 40%アセトニトリル(和光純薬製)・3ml/分で分画した。このうち9〜10分の位置(
図1破線部分)に単一ピークが検出され(
図1)、この分画物が抗菌活性を示した。このピークのスペクトルを調べると、特異的な紫外部吸収極大は認められなかった(
図2)。
この化合物をESI−FT−MSで分析した結果、シクロヘキサンカルボン酸とアミノ酸のアミド結合物であり、分子式 C
9H
15N
1O
3で表される分子量185.1の化合物であることが判明した(
図3)。また、
1H−NMR(アセトン−d)及び
13C−NMR(アセトン−d)による解析の結果、
1Hについてはσppm:3.86(2H,s)、2.23(1H,tt)、1.8−1.7(5H,m)、1.5−1.2(5H,m)であり、
13Cについては、σ:26.8(CH
2)、26.9(CH
2)、30.6(CH
2)、41.7(CH
2)、46.1(CH)、173.2(CO)、179.6(CO)のシグナルが検出された。
以上の分析結果から、当該化合物がシクロヘキサンカルボン酸にグリシンがアミド結合した化合物であると同定した。
(2)抗菌活性の測定
得られた化合物4.8mgを50%エタノールに溶解し、滅菌した8mmのペーパーディスク吸収させた。このディクスを用いて、試験例1と同様にして大腸菌に対する抗菌試験を行った結果、明確な阻止円を形成した(表2)。なお、蒸留水を滅菌したペーパーディスクに50μl吸収させたものを寒天培地上に置いて同様に培養したが(対照区)、阻止部分は形成されなかった(阻止円の大きさは8mm)。
以上の結果から、ホエーより分画した抗菌活性画分よりさらに分離・精製して得られた前記化合物は抗菌性を示すことが確認された。
【0026】
【表2】
【実施例3】
【0027】
(植物病原菌の防除剤)
上記実施例2で得られた本発明の化合物1gをポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルリン酸アンモニウム190g、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル60g、リン酸トリエチル280g、リン酸トリブチル470gと均一に混和し、乳剤を調製し、植物病原菌防除剤を製造した。
【実施例4】
【0028】
(家畜用感染症予防飼料)
上記実施例1で得られた静菌又は抗菌活性を有する粗画分200gを99.8kgの脱イオン水に溶解し、50℃まで加熱後、TKホモミクサー(MARK II 160型;特殊機化工業社製)にて、3、600rpmで40分間撹拌混合した。この混合溶液に大豆粕12kg、脱脂粉乳14kg、大豆油4kg、コーン油2kg、パーム油23.2kg、トウモロコシ澱粉14kg、小麦粉9kg、ふすま2kg、ビタミン混合物5kg、セルロース2.8kg、ミネラル混合物2kgを配合し、120℃、4分間殺菌して、本発明の家畜用感染症予防飼料100kgを製造した。
【実施例5】
【0029】
(ヒト用感染症予防剤)
上記実施例2で得られた本発明の化合物1g、ラクトース140g、シュガーエステル8g、セルロース2gを混合し、圧縮錠剤機により圧縮して、本発明品のヒト用感染症予防剤を製造した。
【実施例6】
【0030】
(1)グリシンおよびシクロヘキサンカルボン酸からの本発明化合物の調製
グリシン−シクロヘキサンカルボン酸縮合物の合成は、グリシンメチルエステルとシクロヘキサンカルボンとのアミド結合、エステル部分の加水分解の2ステップで行なった。まず、Glycine methyl ester hydrochloride 5gおよびCyclohexanecarboxylic acid 5.13gを氷冷したジクロロメタン100mlに溶解した後、トリメチルアミン5.6mlを添加した。この母液に、ジクロロメタン70mLに溶解した1-(3-Dimethylaminopropyl)-3-ethylcarbodiimide塩酸塩 7.67g、1-hydroxybenzotriazole 0.54g、トリエチルアミン5.6mlを氷冷しながら1時間かけて添加し、室温に戻しながら一晩攪拌した。反応液は蒸留水、5% NaHCO
3 、1N HCl、蒸留水の順に溶媒抽出を行うことにより精製し、得られたジクロロメタン相を硫酸マグネシウムにより脱水、ろ過後乾固した。アセトンに溶解し、4℃下で再結晶させて固液分離した後、結晶を五酸化ニリン共存下で減圧乾燥させた。
次に、この結晶2gを50%EtOH 50mlに溶解し、63℃で加温しながら1N NaOH 10mlを徐々に滴下した。反応液をHClによりpH8に調整後、蒸留水で100mLとし、酢酸エチルにより抽出して水相を得た。これをHClによりpH2.5に調整後、酢酸エチル抽出を3回行って酢酸エチル相を得た。これを無水硫酸マグネシウムにより脱水し、ろ過後乾固した。アセトンに溶解し、4℃下で再結晶させて固液分離した後、結晶を五酸化ニリン共存下で減圧乾燥させた。
この化合物をESI−FT−MSで分析した結果、実施例2で同定された化合物と同様の分子量とフラグメントパターンを示したことから、合成した化合物が実施例2で得られたホエーより分画した化合物と同一であると判断した。
(2)合成した本発明化合物の抗菌活性の測定
合成したグリシン−シクロヘキサンカルボン酸の縮合物について、30μmoleを50%エタノールに溶解し、滅菌した8mmのペーパーディスク吸収させた。このディクスを用いて、試験例1と同様にして大腸菌に対する抗菌試験を行った結果、明確な阻止円を形成した(表3)。なお、蒸留水を滅菌したペーパーディスクに50μl吸収させたものを寒天培地上に置いて同様に培養したが(対照区)、阻止部分は形成されなかった(阻止円の大きさは8mm)。
以上の結果から、グリシンとシクロヘキサンカルボン酸より合成した本発明の化合物が抗菌性を示すことが確認された。
【0031】
【表3】
【実施例7】
【0032】
(1)アラニンまたはセリンとシクロヘキサンカルボン酸からの本発明化合物の調製
実施例6と同様の方法を用いて、アラニンまたはセリンとシクロヘキサンカルボン酸縮合物の合成を行なった。Glycine methyl ester hydrochlorideの代わりにAlanine methyl ester hydrochlorideおよびSerine methyl ester hydrochlorideを出発原料とし、最終的に得られた結晶をGC−MSで分析した結果、アラニンまたはセリンとシクロヘキサンカルボン酸の縮合物であることを確認した。
(2)合成した本発明化合物の抗菌活性の測定
合成したアラニンまたはセリンーシクロヘキサンカルボン酸の縮合物について、30μmoleを50%エタノールに溶解し、滅菌した10mmのペーパーディスク吸収させた。このディクスを用いて、試験例1と同様にして大腸菌およびシュードモナスに対する抗菌試験を行った結果、明確な阻止円を形成した(表4)。なお、蒸留水を滅菌したペーパーディスクに100μl吸収させたものを寒天培地上に置いて同様に培養したが(対照区)、阻止部分は形成されなかった(阻止円の大きさは10mm)。
以上の結果から、アラニンまたはセリンとシクロヘキサンカルボン酸より合成した本発明の化合物が抗菌性を示すことが確認された。
【0033】
【表4】