(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
本発明の出発原料の1つは、下記式に示す2−メチルノニルハライド(1)である。式中、Xは、ハロゲン原子を示し、好ましくは塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子である。
【0013】
2−メチルノニルハライド(1)は、市販品の購入や既存の方法、例えばJ.Chem.Ecol.,28,1237−1254(2002)やBull.Soc.Chim.Fr.397−406等に記載された方法による調製が可能である。
【0014】
2−メチルノニルハライド(1)から下記式に示す2−メチルノニル金属試薬(2)を調製する。式中、Mは、1価の金属又は2価の金属を示し、好ましくは1価のアルカリ金属もしくは1価の銅又は2価の金属であり、より好ましくはリチウム、ナトリウム、マグネシウム、亜鉛、カドミウム、銅から選ばれる金属原子である。Xは前述の通りである。mが1のときは、nは0又は1であり、mが0.5のときは、nは0である。
【0016】
Mがリチウム、ナトリウム等のアルカリ金属の金属試薬の場合、mは1であり、nは0(零)であり、対応する金属試薬はそれぞれ2−メチルノニルリチウム、2−メチルノニルナトリウム等となる。
Mがマグネシウム、亜鉛、カドミウム等の2価金属の金属試薬の場合、mは1又は0.5であり、nは1又は0(零)である。mが1のとき、対応する金属試薬としては、例えば、2−メチルノニルマグネシウムクロリド、2−メチルノニルマグネシウムブロミド、2−メチルノニルマグネシウムヨージド、2−メチルノニル亜鉛ブロミド、2−メチルノニルカドミウムヨージド等が挙げられる。また、mが0.5のとき、対応する金属試薬としては、例えば、ビス(2−メチルノニル)マグネシウム、ビス(2−メチルノニル)亜鉛等のジアルキル金属試薬が挙げられる。
Mが1価の銅の場合、mは1であり、nは0(零)であり、対応する金属試薬としては、例えば、2−メチルノニル銅が挙げられる。Mが1価の銅と1価のアリカリ金属の1:1(モル比)の組合せの場合、mは0.5であり、nは0(零)であり、対応する金属試薬としては、例えば、ビス(2−メチルノニル)銅リチウム等のアート錯体が挙げられる。
【0017】
2−メチルノニルハライド(1)から2−メチルノニル金属試薬(2)を調製する方法としては、単体金属と2−メチルノニルハライド(1)との直接反応、他の有機金属試薬と2−メチルノニルハライド(1)とのハロゲン−金属交換等の方法が挙げられる。また、一旦調製した2−メチルノニル金属試薬の一部又は全部をトランスメタル化により金属元素の異なる2−メチルノニル金属試薬(2)に変換して調製することも可能である。
単体金属と2−メチルノニルハライドとの直接反応としては、例えば、金属マグネシウムと2−メチルノニルクロリドから2−メチルノニルマグネシウムクロリドを調製する反応が挙げられる。
他の有機金属試薬と2−メチルノニルハライドとのハロゲン−金属交換等の方法としては、例えば、tert−ブチルリチウムと2−メチルノニルブロミドから2−メチルノニルリチウムを調製する反応が挙げられる。
2−メチルノニル金属試薬の一部又は全部をトランスメタル化により金属元素の異なる2−メチルノニル金属試薬に変換する方法としては、例えば、2−メチルノニルリチウムとヨウ化銅から2−メチルノニル銅を調製する反応が挙げられる。
【0018】
2−メチルノニル金属試薬(2)の調製に使用する溶媒としては2−メチルノニル金属試薬(2)が反応しないものであれば特に制限されないが、ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、クメン等の炭化水素類、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル類が好ましく、これらの溶媒は単独もしくは混合して使用することができる。2−メチルノニル金属試薬(2)の調製に使用する溶媒の量は、2−メチルノニル金属試薬(2)1.00molに対し、好ましくは10gから10,000gである。
【0019】
2−メチルノニル金属試薬(2)の調製の反応温度は、金属元素の種類や金属試薬の調製方法に拠るが−78℃から120℃、好ましくは−50℃から100℃、さらに好ましくは−30℃から80℃で行うのが良い。
2−メチルノニル金属試薬(2)の調製の反応時間は、任意に設定できるが、ガスクロマトグラフィー(GC)やシリカゲル薄層クロマトグラフィー(TLC)で反応を追跡して反応を完結させることが収率の点で望ましく、通常0.5〜24時間程度である。
【0020】
もう1つの出発原料である2−エチリデンマロン酸エステル(3)は下記一般式で表される。式中、Rは、同じでも異なってもよい炭素数1から5の炭化水素基を示すが、2−エチリデンマロン酸エステル(3)の調製の容易さや価格の点において、同じであることが好ましい。
【0022】
Rは、炭素数1から5、好ましくは炭素数1から3の1価炭化水素基である。1価炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、イソプロピル基等の直鎖状、分岐状の飽和炭化水素基の他、ビニル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基、2−メチル−1−プロペニル基、エチニル基、プロピニル基、1−ブチニル基等の直鎖状、分岐状の不飽和炭化水素基が挙げられ、これらと異性体の関係にある炭化水素基でも良い。また、これらの炭化水素基の水素原子中の一部がメチル基、エチル基等で置換されていても良い。これらの炭化水素基から、後の反応における反応性や入手の容易さを考慮すると、反応性の高い低級アルキル基や一級炭化水素基が好ましい。これらを考慮するとRの特に好ましい例として、メチル基、エチル基、n−プロピル基等を挙げられる。
【0023】
2−エチリデンマロン酸エステル(3)は、市販品の購入や既存の方法、例えばSynthesis,6,1045−1049(2006)やOrganic Syntheses,Coll.Vol.4,293−294(1963)等に記載された方法による調製が可能である。
【0024】
次に、上述の方法により得られた2−メチルノニル金属試薬(2)を、下記一般式に示すように、2−エチリデンマロン酸エステル(3)に1,4−付加反応させ2−(1,3−ジメチルデシル)マロン酸エステル(4)を製造する工程について述べる。式中、M及びRは上記と同じである。
【0026】
通常は2−メチルノニル金属試薬(2)をクロトン酸エステルに1,4−付加させた後にエステルを加水分解する方が、2−(1,3−ジメチルデシル)マロン酸エステル(4)を経由するよりも簡便に3,5−ジメチルドデカン酸が得られると予想される。しかし、実際には2−メチルノニル金属試薬をクロトン酸エステルに1,4−付加させると、付加で生じるエノラートがさらにクロトン酸エステルに1,4−付加した副生物や、それがさらに1,4−付加した副生物等、クロトン酸に複数回1,4−付加した副生物を生成するため、3,5−ジメチルドデカン酸エステルは低収率でしか得られない。
一方、本発明の2−エチリデンマロン酸エステル(3)への1,4−付加の場合は、1,4−付加体(4)が良好な収率で得られる点が優れている。収率が良好な理由としては、例えば、付加で生じるエノラートの負電荷が2つのエステルカルボニル基により安定化されているため、更なる反応が抑えられることが考えられる。
【0027】
1,4−付加反応で用いる2−メチルノニル金属試薬(2)は、2−エチリデンマロン酸エステル(3)1.00molに対し、好ましくは0.80molから1.50mol、さらに好ましくは0.90molから1.20molである。0.80mol未満の場合、2−エチリデンマロン酸エステルが未反応のまま残るため経済性が低下する。一方、1.50molを超える場合、過剰分の金属試薬がエステル部分と反応する副反応が起こったり、未反応のまま残って経済性が低下したりする。
【0028】
1,4−付加反応は遷移金属塩の非存在下でも進行するが、収率の点から遷移金属塩の存在下に行うことが好ましい。遷移金属塩としては、例えば、銅、亜鉛、ニッケル、パラジウム、鉄等の金属塩が挙げられ、これらを単独もしくは混合して使用することができるが、収率と経済性の観点から銅塩が特に好ましい。銅塩としては、塩化第一銅、塩化第二銅、臭化化第一銅、臭化第二銅、ヨウ化第一銅、ヨウ化第二銅等のハロゲン化銅、酢酸第一銅、酢酸第二銅、シアン化第一銅等が挙げられるが、収率の点からハロゲン化銅が特に好ましい。
遷移金属塩は2−エチリデンマロン酸エステル(3)1.00molに対し、好ましくは0.0001molから1.00mol、より好ましくは0.0005molから0.20mol、さらに好ましくは0.001molから0.10mol用いることができる。
【0029】
1,4−付加反応においては、遷移金属塩と共にルイス酸やルイス塩基を添加して反応を行うことも可能である。ルイス酸としては、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム、ヨウ化マグネシウム、塩化アルミニウム等のハロゲン化物塩、三フッ化ホウ素‐ジエチルエーテル錯体等のホウ素化合物、クロロトリメチルシラン、ブロモトリメチルシラン、ヨードトリメチルシラン等のハロゲン化ケイ素化合物等が挙げられ、これらのルイス酸は単独もしくは混合して使用することができる。ルイス塩基としては、亜リン酸トリエチル、トリフェニルホスフィン、ヘキサメチルホスホリックトリアミド(HMPA)等のリン化合物、ジメチルイミダゾリジノン、テトラメチルエチレンジアミン等の窒素化合物、ジメチルスルフィド等の硫黄化合物等が挙げられ、これらのルイス塩基は単独もしくは混合して使用することができる。
1,4−付加反応におけるルイス酸やルイス塩基の使用量は、2−エチリデンマロン酸エステル(3)1.00molに対し、好ましくは0.0001molから100mol、さらに好ましくは0.001molから10.0molである。
【0030】
1,4−付加反応の溶媒としては、2−メチルノニル金属試薬(2)が反応しないものであれば特に制限されないが、ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、クメン等の炭化水素類、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル類が好ましく、これらの溶媒は単独もしくは混合して使用することができる。1,4−付加反応に使用する溶媒の量は、2−メチルノニル金属試薬(2)1.00molに対し、好ましくは10gから10,000gである。
【0031】
1,4−付加反応の反応温度は、好ましくは−78℃から50℃、より好ましくは−50℃から40℃、さらに好ましくは−30℃から30℃である。−78℃未満では反応がスムーズに進行しない場合があり、50℃を超えると副反応が増える場合がある。
1,4−付加反応の反応時間は、任意に設定できるが、ガスクロマトグラフィー(GC)やシリカゲル薄層クロマトグラフィー(TLC)で反応を追跡して反応を完結させることが収率の点で望ましく、通常0.5〜24時間程度である。目的の2−(1,3−ジメチルデシル)マロン酸エステルの単離と精製は、減圧蒸留や各種クロマトグラフィー等の通常の有機合成における精製方法から適宜選択して用いることができるが、工業的経済性の観点から減圧蒸留が好ましい。また、目的物が十分な純度を有している場合には、粗生成物のまま次の工程に用いても良い。
【0032】
続いて、下記一般式に示すように、2−(1,3−ジメチルデシル)マロン酸エステル(4)を脱炭酸反応又は脱アルコキシカルボニル化反応により3,5−ジメチルドデカン酸(5)を得る工程について述べる。式中、Rは同じでも異なってもよい炭素数1から5の1価の炭化水素基を示す。
【0034】
この工程は、好ましくは、下記一般式に示すように、2−(1,3−ジメチルデシル)マロン酸エステル(4)のエステルを加水分解して2−(1,3−ジメチルデシル)マロン酸(6)を得る段階と、2−(1,3−ジメチルデシル)マロン酸(6)を脱炭酸反応により前記3,5−ジメチルドデカン酸(5)を得る段階とを少なくとも含んでもよい。
【0036】
エステルの加水分解は、通常、酸又は塩基の水溶液を用いて、有機溶媒中又は有機溶媒の非存在下で必要に応じて冷却又は加熱して反応を行うことが好ましい。
エステルの加水分解反応における酸としては、例えば、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸等の鉱酸類、酢酸、シュウ酸、トリフルオロ酢酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸等の有機酸類が挙げられる。これらの酸は単独で用いても複数の酸を混合して用いても良く、基質の種類や反応性を考慮して選択できる。これらの酸の内、反応性や価格の点で塩酸、硫酸が特に好ましい。酸の使用量は、基質や酸の種類によって異なるが、基質1.00molに対し、好ましくは0.001molから100mol、より好ましくは0.01molから10molである。
【0037】
エステルの加水分解反応における塩基としては、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等の炭酸塩類、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム等の水酸化物塩類、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、トリブチルアミン、ピロリジン、ピペリジン、モルホリン、ピペラジン等の有機塩基類等が挙げられる。これらの塩基は単独で用いても複数の塩基を混合して用いても良く、基質の種類や反応性を考慮して選択できる。これらの塩基の内、反応性や価格の点で水酸化物塩類が特に好ましい。塩基の使用量は、基質や塩基の種類によって異なるが、基質1.00molに対し、好ましくは2.00molから10.0mol、より好ましくは2.20molから5.00molである。
【0038】
塩基性条件下でエステルの加水分解を行った場合は、脱炭酸の前に酸を加えて2−(1,3−ジメチルデシル)マロン酸の塩を遊離の2−(1,3−ジメチルデシル)マロン酸にする必要がある。使用する酸としては、例えば、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸等の鉱酸類、酢酸、シュウ酸、トリフルオロ酢酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸等の有機酸類が挙げられる。これらの酸は単独で用いても複数の酸を混合して用いても良く、基質の種類や反応性を考慮して選択できる。これらの酸の内、反応性や価格の点で塩酸、硫酸が特に好ましい。酸の使用量は、2−(1,3−ジメチルデシル)マロン酸の塩を遊離の2−(1,3−ジメチルデシル)マロン酸にするために必要な量以上を加える必要がある。
【0039】
エステルの加水分解反応における溶媒としては、水に加えて、例えば、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル類、ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、クメン等の炭化水素類、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(DMI)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヘキサメチルホスホリックトリアミド(HMPA)等の非プロトン性極性溶媒類、アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル類が挙げられ、これらを単独又は混合して用いることができるが、使用する酸又は塩基と反応しないものを選択する必要がある。エステルの加水分解反応に使用する溶媒の量は、2−(1,3−ジメチルデシル)マロン酸エステル(4)1.00molに対し、好ましくは10gから10,000gである。
【0040】
エステルの加水分解に伴い生成するアルコール(ROH)が残存したまま脱炭酸を行うと再エステル化が進行してしまうので、エステルの加水分解中又は加水分解後にアルコールを留去や分液等により除去することが好ましい。
エステルの加水分解における反応温度は、基質の種類や使用する酸又は塩基を考慮して選択できるが、好ましくは0℃から250℃、より好ましくは20℃から200℃である。反応時間は、任意に設定できるが、ガスクロマトグラフィー(GC)やシリカゲル薄層クロマトグラフィー(TLC)で反応を追跡して反応を完結させることが収率の点で望ましく、通常0.5〜24時間程度である。
【0041】
続いて2−(1,3−ジメチルデシル)マロン酸(6)から3,5−ジメチルドデカン酸(5)を製造する脱炭酸工程について述べる。
この工程は2−(1,3−ジメチルデシル)マロン酸(6)を溶媒中又は無溶媒で加熱することにより実施可能である。
脱炭酸工程は、エステルの加水分解により得られる2−(1,3−ジメチルデシル)マロン酸(6)の反応液をそのまま加熱することによって行うことも可能だが、2−(1,3−ジメチルデシル)マロン酸(6)を分液操作等により単離してから行うことも可能である。2−(1,3−ジメチルデシル)マロン酸(6)を単離した方が脱炭酸の反応温度を高くできるため、反応時間を短縮することができる。
エステルの加水分解を酸性条件下で行った場合はエステルの加水分解と同時に脱炭酸を行うことも可能である。この際、上述した再エステル化を防ぐため、アルコール(ROH)を除去しながら反応を行うことが好ましい。
【0042】
脱炭酸工程における溶媒としては、例えば、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル類、ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、クメン等の炭化水素類、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(DMI)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヘキサメチルホスホリックトリアミド(HMPA)等の非プロトン性極性溶媒類、アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル類、水等が挙げられ、これらを単独又は混合して用いることができる。脱炭酸工程における溶媒の使用量は、2−(1,3−ジメチルデシル)マロン酸(6)1.00molに対し、好ましくは0から10,000gである。
【0043】
脱炭酸工程の反応温度は、使用する酸や溶媒を考慮して選択できるが、好ましくは60℃から250℃、より好ましくは80℃から200℃である。反応時間は任意に設定できるが、薄層クロマトグラフィー(TLC)で反応の進行を追跡して反応を十分進行させるのが良く、通常0.5〜48時間が好ましい。
【0044】
また、2−(1,3−ジメチルデシル)マロン酸エステル(4)から3,5−ジメチルドデカン酸(5)を得る工程は、下記一般式に示すように、好ましくは、2−(1,3−ジメチルデシル)マロン酸エステル(4)をルイス酸処理することにより脱アルコキシカルボニル化反応を行い3,5−ジメチルドデカン酸エステル(7)を得る段階と、3,5−ジメチルドデカン酸エステル(7)を加水分解して3,5−ジメチルドデカン酸(5)得る段階とを少なくとも含んでもよい。
【0046】
脱アルコキシカルボニル化におけるルイス酸としては、例えば、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、臭化リチウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム等のハロゲン化物塩が挙げられる。これらのルイス酸は単独で用いても複数のルイス酸を混合して用いても良く、基質の種類や反応性を考慮して選択できる。これらのルイス酸のうち、反応性や価格の点で塩化ナトリウムが特に好ましい。ルイス酸の使用量は、基質の種類によって異なるが、基質1.00molに対し、好ましくは0.80molから100mol、より好ましくは1.00molから10.0molである。
【0047】
脱アルコキシカルボニル化における溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、t−ブチルアルコール、ベンジルアルコール、メトキシエタノール、エトキシエタノール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル等のアルコール類、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル類、ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、クメン等の炭化水素類、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(DMI)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヘキサメチルホスホリックトリアミド(HMPA)等の非プロトン性極性溶媒類、アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル類、水等が挙げられ、これらを単独又は混合して用いることができる。これらの溶媒の内、ルイス酸の溶解性や沸点等からDMSOと水の組み合わせが特に好ましい。脱アルコキシカルボニル化における溶媒の使用量は、好ましくは、2−(1,3−ジメチルデシル)マロン酸エステル(4)1.00molに対し、好ましくは0から10,000gである。
【0048】
脱アルコキシカルボニル化における反応温度は、基質の種類や反応性、使用するルイス酸を考慮して選択できるが、好ましくは50℃から250℃、より好ましくは100℃から200℃である。反応時間は、任意に設定できるが、薄層クロマトグラフィー(TLC)で反応の進行を追跡して反応を十分進行させるのがよく、通常0.5〜24時間が好ましい。
【0049】
ルイス酸処理することにより脱アルコキシカルボニル化を行って得られた3,5−ジメチルドデカン酸エステル(7)は、加水分解することにより3,5−ジメチルドデカン酸(5)となる。加水分解の条件等については、使用する塩基の量が、3,5−ジメチルドデカン酸エステル(7)1.00molに対し、好ましくは1.00molから10.0mol、より好ましくは1.10molから5.00molである点以外は上述の2−(1,3−ジメチルデシル)マロン酸エステル(4)の加水分解と同様である。
【0050】
以上のようにして、応用又は利用等に必要な十分量の原体を供給するために簡便で、かつ効率的なCalifornia prionusのフェロモン原体3,5−ジメチルドデカン酸の製造方法が実現できる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例を示して、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
実施例1−1
<2−(1,3−ジメチルデシル)マロン酸エチル(4Et)の製造>
(2つのRがともにエチル基である場合)
窒素雰囲気下、反応器にマグネシウム(3.17g、0.131mol)、テトラヒドロフラン(37g)を加え、60〜65℃で30分撹拌した。続いて2−メチルノニルクロリド(1Cl)(21.9g、0.124mol)を滴下し、70〜75℃で2時間撹拌することにより、2−メチルノニルマグネシウムクロリド(2MgCl)を調製した。
別の反応器に窒素雰囲気下、塩化第一銅(0.30g、0.0030mol)、テトラヒドロフラン(68g)、亜リン酸トリエチル(0.90g、0.0078mol)を加え、撹拌しながら−10〜0℃に冷却した。続いて2−エチリデンマロン酸エチル(3Et)(22.0g、0.118mol)のテトラヒドロフラン(68g)溶液を加えた後、上記2−メチルノニルマグネシウムクロリド溶液を−10〜0℃で滴下し、0〜10℃で1時間撹拌した。反応液に塩化アンモニウム(6.5g)、20質量%塩酸(22g)、水(90g)の混合液を加え、反応を停止させ、有機相を飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥した後、減圧濃縮し、2−(1,3−ジメチルデシル)マロン酸エチル(4Et)の粗生成物(42.1g、0.0909mol)を得た。収率73%。この粗生成物をそのまま次の反応に用いたが、分析用サンプルは減圧蒸留(bp150〜155℃/2mmHg)により調製した。
【0052】
IR(D−ATR):ν=2958,2926,2855,1755,1734,1464,1369,1302,1234,1175,1150,1096,1034cm
-1。
1H−NMR(500MHz,CDCl
3):δ=0.84−0.88(6H,m),0.94(1.5H,d,J=6.9Hz),0.97(1.5H,d,J=6.9Hz),0.99−1.52(21H,m),2.27−2.36(21H,m),3.16(0.5H,d,J=8.0Hz),3.21(0.5H,d,J=7.7Hz),4.13−4.23(4H,m)ppm。
13C−NMR(125MHz,CDCl
3):δ=14.08,14.10,16.77,17.34,18.85,20.46,22.65,26.72,27.02,29.32,29.36,29.84,29.91,29.98,30.00,31.04,31.86,31.88,35.78,38.09,41.75,42.20,57.60,58.56,60.98,61.07,168.80,169.04ppm。
【0053】
実施例1−2
<2−(1,3−ジメチルデシル)マロン酸メチル(4Me)の製造>
(2つのRがともにメチル基の場合)
2−エチリデンマロン酸エチル(3Et)(22.0g、0.118mol)の代わりに2−エチリデンマロン酸メチル(3Me)(18.7g、0.118mol)を使用した以外は実施例1−1と同じ方法で行い、2−(1,3−ジメチルデシル)マロン酸メチル(4Me)の粗生成物(43.4g、0.0859mol)を得た。収率69%。
【0054】
実施例1−3
<2−(1,3−ジメチルデシル)マロン酸エチル(4Me)の製造>
(室温で反応、Grignardにエチリデンマロネートを滴下)
窒素雰囲気下、反応器にマグネシウム(3.52g、0.145mol)、テトラヒドロフラン(41g)を加え、60〜65℃で30分撹拌した。続いて2−メチルノニルクロリド(1Cl)(24.4g、0.138mol)を滴下し、70〜75℃で2時間撹拌することにより、2−メチルノニルマグネシウムクロリド(2MgCl)を調製した。
上記溶液を20℃に放冷し、塩化第一銅(0.34g、0.0035mol)、テトラヒドロフラン(127g)、亜リン酸トリエチル(1.00g、0.0086mol)を加えた。続いて2−エチリデンマロン酸エチル(3Et)(24.4g、0.131mol)のテトラヒドロフラン(25g)溶液を20〜30℃で滴下し、20〜30℃で1時間撹拌した。反応液に塩化アンモニウム(6.5g)、20質量%塩酸(22g)、水(90g)の混合液を加え、反応を停止させ、有機相を飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥した後、減圧濃縮し、2−(1,3−ジメチルデシル)マロン酸エチル(4Et)の粗生成物(47.70g、0.105mol)を得た。収率76%。
【0055】
比較例1
(クロトン酸エステルへの1,4−付加)
窒素雰囲気下、反応器にマグネシウム(2.86g、0.118mol)、テトラヒドロフラン(35g)を加え、60〜65℃で30分撹拌した。続いて2−メチルノニルクロリド(1Cl)(18.1g、0.103mol)を滴下し、70〜75℃で2時間撹拌することにより、2−メチルノニルマグネシウムクロリド(2MgCl)を調製した。
上記溶液を−10℃に冷却後、塩化第一銅(0.07g、0.001mol)、テトラヒドロフラン(31g)を加えた。続いてクロトン酸t−ブチル(16.1g、0.113mol)のテトラヒドロフラン(31g)溶液を−10〜0℃で滴下した。滴下途中で塩化第一銅(0.07g、0.001mol)を2回追加した。滴下終了後、0〜10℃で1時間撹拌した。反応液に酢酸(9g)を加え反応を停止させた後、塩化アンモニウム(1g)、20質量%塩酸(1.5g)、水(27g)の混合液を加え、有機相を飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥した後、減圧濃縮し3,5−ジメチルドデカン酸t−ブチルの粗生成物(31.8g、0.0246mol)を得た。収率24%。上述したように1,4−付加で生じたエノラートがさらにクロトン酸t−ブチルに1,4−付加した副生物等が生成したため低収率となった。
【0056】
実施例2−1
<3,5−ジメチルドデカン酸(5)の製造>
(塩基性加水分解後、ジカルボン酸を単離して脱炭酸)
窒素雰囲気下、反応器に実施例1−1の方法で得られた、2−(1,3−ジメチルデシル)マロン酸エチル(4Et)の粗生成物(41.6g、0.0899mol)、13質量%水酸化ナトリウム水溶液(87g)を加え、加熱還流下1時間撹拌した後、生成したエタノールを1時間かけて留出させた。続いて20質量%塩酸(87g)を加え、トルエンとテトラヒドロフランの混合液で抽出した。得られた有機相を減圧濃縮した後、窒素雰囲気下、170℃で6時間加熱撹拌した。この反応液をテトラヒドロフランで希釈し、飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥した後、減圧濃縮した。得られた残渣を減圧蒸留(bp130〜140℃/2mmHg)することにより3,5−ジメチルドデカン酸(5)(18.9g、0.0828mol)を得た。2−メチルノニルクロリド(1Cl)から3工程の通算収率は67%であった。
【0057】
IR(D−ATR):ν=2958,2925,2854,1708,1463,1411,1380,1295cm
-1。
1H−NMR(500MHz,CDCl
3):δ=0.84−0.89(6H,m),0.92−0.97(3H,m),1.00−1.17(2H,m),1.23−1.34(12H,m),1.43−1.50(1H,m),2.03−2.18(2H,m),2.28−2.40(1H,m)ppm。
13C−NMR(125MHz,CDCl
3):δ=14.10,19.27,19.37,20.02,20.29,22.68,26.82,27.00,27.63,27.68,29.37,29.91,29.93,30.00,31.90,36.62,37.68,41.47,42.40,44.30,44.55,179.87,180.00ppm
GC条件:Column:DB−WAX,(J&W Scientific社製)30mx0.25mmφ、Temp:100℃+10℃/分→230℃Max、Inj:230℃、Carrier:He 1ml/分、Split ratio:100:1、Detector:FID、保持時間:13.812分(syn体)、13.925分(anti体)。
【0058】
実施例2−2
<3,5−ジメチルドデカン酸(5)の製造>
(塩基性加水分解後、そのまま酸を加えて脱炭酸)
窒素雰囲気下、反応器に2−(1,3−ジメチルデシル)マロン酸エチル(4Et)(35.2g、0.107mol)、13質量%水酸化ナトリウム水溶液(104g)を加え、加熱還流下1時間撹拌した後、生成したエタノールを1時間かけて留出させた。続いて56質量%硫酸水溶液(93g)を加え、30時間加熱還流した。反応液をテトラヒドロフランで希釈し、有機相を飽和食塩水で3回洗浄した後、減圧濃縮し、得られた残渣を減圧蒸留(bp130〜140℃/2mmHg)することにより3,5−ジメチルドデカン酸(5)(21.6g、0.0944mol)を得た。2−メチルノニルクロリド(1Cl)から3工程の通算収率は59%であった。
【0059】
実施例2−3
<3,5−ジメチルドデカン酸(5)の製造>
(酸性で加水分解、脱炭酸)
窒素雰囲気下、反応器に2−(1,3−ジメチルデシル)マロン酸エチル(4Et)(18.6g、0.0566mol)、酢酸(40g)、水(20g)、硫酸(2g)を加え、エタノールを留出させながら加熱還流下48時間撹拌した。反応液をテトラヒドロフランと水で希釈し、有機相を飽和食塩水で洗浄した後、減圧濃縮し、得られた残渣を減圧蒸留(bp130〜140℃/2mmHg)することにより3,5−ジメチルドデカン酸(5)(11.4g、0.0498mol)を得た。2−メチルノニルクロリド(1Cl)から3工程の通算収率は59%であった。
【0060】
実施例3−1
<3,5−ジメチルドデカン酸エチル(7)の製造>
(Krapcho法)
窒素雰囲気下、反応器に2−(1,3−ジメチルデシル)マロン酸エチル(4Et)(1.84g、0.00559mol)、塩化ナトリウム(0.50g、0.0084mol)、水(0.60g、0.034mol)、ジメチルスルホキシド(20ml)を加え、170℃で8時間撹拌した。続いて反応液に水を加え、ヘキサンで抽出した。得られた有機相を水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥した後、減圧濃縮し、3,5−ジメチルドデカン酸エチル(7Et)の粗生成物(1.35g、0.0500mol)を得た。2−メチルノニルクロリド(1Cl)から2工程の通算収率は60%であった。このものはそのまま次の反応に用いた。
IR(D−ATR):ν=2957,2925,2872,2854,1738,1463,1378,1176,1034cm
-1。
1H−NMR(500MHz,CDCl
3):δ=0.83−0.92(9H,m),0.93−1.36(17H,m),1.40−1.46(1H,m),1.98−2.19(2H,m),2.20−2.33(1H,m),4.09−4.14(2H,m)
【0061】
実施例3−2
<3,5−ジメチルドデカン酸(5)の製造>
(エステルの加水分解)
窒素雰囲気下、反応器に実施例3−1の方法で調製した3,5−ジメチルドデカン酸エチル(7Et)の粗生成物(1.22g、0.00452mol)、メタノール(1ml)、25質量%水酸化ナトリウム水溶液(3ml)を加え、65℃で2時間撹拌した。続いて反応液に水を加え、ヘキサン‐テトラヒドロフラン混合液で洗浄した。水相に20質量%塩酸を加えて酸性にした後にヘキサン‐テトラヒドロフラン混合液で抽出した。得られた有機相を硫酸マグネシウムで乾燥した後、減圧濃縮し、得られた残渣を減圧蒸留(bp130〜140℃/2mmHg)することにより3,5−ジメチルドデカン酸(5)(1.03g、0.00452mol)を得た。2−メチルノニルクロリド(1Cl)から3工程の通算収率は60%であった。