(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
チョコレートは、カカオ豆を主原料とする、優れた香味および口どけを有する菓子である。特に、テンパー型チョコレート(カカオ豆に含まれるココアバターのみを油脂分として含むチョコレートなど)は、一般的なチョコレートとして知られている。このテンパー型チョコレートは、通常、チョコレート原料から得られた融液状のチョコレート生地を、テンパリングした後、そのチョコレート生地を冷却固化することで得られる。テンパリングとは、融液状のチョコレート生地中に安定結晶の結晶核(種結晶)を生じさせる操作である。ココアバターは様々な結晶構造をとり得るので、チョコレート生地中のココアバターを安定結晶として固化させるためには、テンパリングが必要である。テンパリングの具体例としては、40〜50℃で融解しているチョコレート生地の品温を27〜28℃程度まで下げた後に、再度29〜31℃程度まで加温する操作が知られている。
【0003】
テンパリングで生じる種結晶の量が適正であれば、チョコレート生地の冷却時における固化速度が速くなる。また、チョコレート生地が固化する際に十分な体積収縮が生じる。さらに、固化後のチョコレートが成形型から良好に剥離する(つまり、型抜けが良い)。ファットブルーム(チョコレート表面に白い油脂結晶が生成する現象を指す。以下、「ブルーム」という。)の発生も抑制される。得られたチョコレートは優れた光沢を有するばかりでなく、その保存中におけるブルーム耐性にも優れる。こうした適正なテンパリング状態は「プロパーテンパー」と呼ばれる。
【0004】
他方、テンパリングで生じる種結晶の量が少なすぎると、多くの場合、ブルームが発生する。また、得られたチョコレートの保存中におけるブルーム耐性が低下する。そのため、保存中のチョコレートに短期間でブルームが発生してしまう可能性がある。こうしたテンパリング状態は「アンダーテンパー」と呼ばれる。また、テンパリングで生じる種結晶の量が多すぎると、得られるチョコレートのキメが粗くなる。そのため、チョコレートの保存中におけるブルーム耐性が低下する可能性がある。こうしたテンパリング状態は「オーバーテンパー」と呼ばれる。チョコレートの製造においては、アンダーテンパーおよびオーバーテンパーを回避するため、テンパリング状態の管理が重要である。
【0005】
テンパリング状態を管理する方法として、テンパーメーターを使用してテンパーインデックスを求める方法が開発されている。テンパーメーターは、冷却によりチョコレート生地中の油脂が結晶化することで生じる発熱量を経時的にパターン化する機械である。テンパーメーターの測定データに基づいて求められたテンパーインデックスは、テンパリング状態を表す指標として利用できる。例えば、テンパーインデックスが1〜3の場合はアンダーテンパーであり、テンパリングが不十分の状態を表す。テンパーインデックスが4〜6の場合はプロパーテンパーであり、テンパリングが良好な状態を表す。そして、7〜9の場合はオーバーテンパーであり、種結晶の量が多くなりすぎて粘度が上昇した状態を表す。テンパーメーターの使用により、テンパリングの状態を数値(テンパーインデックス)で管理できる。
【0006】
ところで、チョコレートの油脂中に、特殊なトリアシルグリセロールを含ませることにより、チョコレートのブルーム耐性が向上することが知られている。例えば、特開平2−138937号公報には、モノUジS型トリグリセリド(SSU)を有効成分とする抗ブルーム剤が記載されている。また、特開平5−311190号公報には、構成脂肪酸の1つが炭素数12以下の飽和脂肪酸(B)であり、残る2つの脂肪酸が炭素数16以上の飽和脂肪酸(A)であるトリグリセリドからなる油脂のグレイニング防止剤(A2B)が記載されている。
【0007】
上記のようなトリアシルグリセロールがチョコレートの油脂中に少量含まれると、チョコレートのブルーム耐性は向上する。しかしながら、テンパーインデックスがプロパーテンパーであったものがアンダーテンパーになるなど、テンパリングをしても種結晶の量が安定しないという難点があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、油脂中にブルーム耐性向上剤などを含有する場合であっても、テンパリングが容易なチョコレートを提供することである。本発明の課題は、また、上記チョコレートの製造に適したハードバターを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、油脂中にブルーム耐性向上剤を含有するチョコレートにおいて、油脂中のSOS(1,3−ジステアロイル−2−オレオイルグリセロール)含有量を特定量とすることにより、チョコレート生地(融液状態にあるチョコレート)がプロパーテンパーをとりやすくなることを見いだした。それにより本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は以下のものを提供する。
(1)チョコレート中の油脂に占める、L2MおよびLM2の合計含有量が0.01〜10質量%であり、SOSの含有量が30〜75質量%であるチョコレート。
ただし、L、M、S、O、L2M、LM2およびSOSは、以下を意味する。
L:炭素数16〜24の飽和脂肪酸
M:炭素数6〜10の脂肪酸
S:ステアリン酸
O:オレイン酸
L2M:グリセロール1分子に2分子のLと1分子のMが結合したトリアシルグリセロール
LM2:グリセロール1分子に1分子のLと2分子のMが結合したトリアシルグリセロール
SOS:1,3−ジステアロイル−2−オレオイルグリセロール
(2)前記油脂に占める、前記LM2の含有量に対する前記L2Mの含有量の質量比(L2M/LM2)が、0.05〜4.5である、(1)のチョコレート。
(3)前記油脂に占める、LOLの含有量が45〜95質量%である、(1)または(2)のチョコレート。
ただし、LOLは、以下を意味する。
LOL:グリセロール1分子の、1位と3位にLが、2位にOが結合した、トリアシルグリセロール
(4)前記油脂に占める、MMMの含有量が0.01質量%以上5質量%未満である、(1)〜(3)の何れか1つのチョコレート。
ただし、MMMは、以下を意味する。
MMM:グリセロール1分子に3分子のMが結合したトリアシルグリセロール
(5)0.03〜30質量%のL2MとLM2、および、35〜85質量%のSOS、を含むハードバター
ただし、L、M、S、O、L2M、LM2およびSOSは、以下を意味する。
L:炭素数16〜24の飽和脂肪酸
M:炭素数6〜10の脂肪酸
S:ステアリン酸
O:オレイン酸
L2M:グリセロール1分子に2分子のLと1分子のMが結合したトリアシルグリセロール
LM2:グリセロール1分子に1分子のLと2分子のMが結合したトリアシルグリセロール
SOS:1,3−ジステアロイル−2−オレオイルグリセロール
(6)前記ハードバターに占める、前記LM2の含有量に対する前記L2Mの含有量の質量比(L2M/LM2)が、0.05〜4.5である、(5)のハードバター。
(7)前記ハードバターに占める、LOLの含有量が45〜95質量%である、(5)または(6)のハードバター。
ただし、LOLは、以下を意味する。
LOL:グリセロール1分子の、1位と3位にLが、2位にOが結合した、トリアシルグリセロール
(8)前記ハードバターに占める、MMMの含有量が0.03〜15質量%である、(5)〜(7)の何れか1つのハードバター
ただし、MMMは、以下を意味する。
MMM:グリセロール1分子に3分子のMが結合したトリアシルグリセロール
(9)(6)〜(8)の何れか1つのハードバターを、油脂中に0.04〜100質量%含有するチョコレート。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、ブルーム耐性があり、テンパリングが容易なチョコレートを提供することができる。本発明によると、また、上記チョコレートの製造に適した、ハードバターを提供することができる。
本発明によると、さらに、艶が良好で、カカオ感や乳感がより強まったチョコレートを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明のチョコレートについて順を追って記述する。
本発明においてチョコレートとは、「チョコレート類の表示に関する公正競争規約」(全国チョコレート業公正取引協議会)乃至法規に規定されているチョコレートに限定されない。本発明におけるチョコレートは、食用油脂および糖類を主原料とする。主原料には、必要に応じてカカオ成分(カカオマス、ココアパウダー等)、乳製品、香料、および乳化剤等が加えられる。このチョコレートは、チョコレート製造の工程(混合工程、微粒化工程、精練工程、成形工程、および冷却工程など)の全部乃至一部を経て製造される。また、本発明におけるチョコレートは、ダークチョコレート、およびミルクチョコレートの他に、ホワイトチョコレートおよびカラーチョコレートも含む。
【0014】
本発明のチョコレート中の油脂含有量は、好ましくは25〜65質量%であり、より好ましくは28〜55質量%であり、さらに好ましくは30〜50質量%であり、最も好ましくは30〜45質量%である。なお、本発明におけるチョコレート中の油脂は、原材料として配合される油脂以外に、原材料中の油脂も含む。例えば、一般的に、カカオマス中の油脂(ココアバター)の含有量は55質量%(含油率0.55)であり、ココアパウダー中の油脂(ココアバター)の含有量は11質量%(含油率0.11)であり、全脂粉乳中の油脂(乳脂)の含有量は25質量%(含油率0.25)である。よって、チョコレート中の油脂の含有量は、チョコレート中の各原材料の配合量(質量%)に含油率を掛け合わせた値を合計した値となる。
【0015】
本発明のチョコレート中の油脂は、L2MおよびLM2を合計で0.01〜10質量%含有する。以下、L、M、L2MおよびLM2は、次を意味する。Lは、炭素数16〜24の飽和脂肪酸である。Mは、炭素数6〜10の脂肪酸である。L2Mは、グリセロール1分子に2分子のLと1分子のMが結合したトリアシルグリセロールである。LM2は、グリセロール1分子に1分子のLと2分子のMが結合したトリアシルグリセロールである。Lは、好ましくは直鎖であり。また、Lの炭素数は、好ましくは16〜20であり、より好ましくは16〜18である。Mは、好ましくは直鎖の飽和脂肪酸である。本発明のチョコレート中の油脂は、L2MおよびLM2を合計で、好ましくは0.05〜5質量%、より好ましくは0.1〜3質量%、さらに好ましくは0.25〜2.5質量%含む。チョコレート中の油脂に占める、L2MおよびLM2の合計含有量(以下、L2M+LM2とも表す)が上記範囲内にあると、チョコレートのブルーム耐性が向上する。すなわち、L2MおよびLM2は、チョコレートにブルーム耐性を付与するトリアシルグリセロールであり、ブルーム耐性向上剤として利用できる。また、チョコレートのカカオ風味や乳風味が強調される。
【0016】
上記L2MおよびLM2は、チョコレート中の油脂に占める、LM2の含有量に対するL2Mの含有量の質量比(L2M/LM2)が、好ましくは0.05〜4.5である。L2M/LM2は、より好ましくは0.3〜3であり、さらに好ましくは0.55〜2.5である。チョコレートの油脂中にL2MおよびLM2が含まれると、テンパーインデックスが低下する(プロパーテンパーからアンダーテンパーへの移行)傾向にある。しかし、L2M/LM2が上記範囲内にあると、チョコレートのテンパーインデックスをプロパーテンパーの範囲内に調整しやすい。
【0017】
上記L2MおよびLM2が有する構成脂肪酸中のMの全量のうち、炭素数6の脂肪酸が占める割合は、好ましくは10質量%以下であり、より好ましくは5質量%以下である。さらに、上記L2MおよびLM2が有する構成脂肪酸中のMの全量のうち、炭素数10の脂肪酸が占める割合は、好ましくは10質量%以上であり、より好ましくは20〜100質量%あり、さらに好ましくは40〜100質量%であり、最も好ましくは60〜100質量%である。
【0018】
本発明のチョコレート中の油脂は、MMMを0.01質量%以上5質量%未満含有することが好ましい。以下、MMMは、グリセロール1分子に3分子のMがエステル結合しているトリアシルグリセロールを意味する。MMMの、これら3つの脂肪酸(M)は、すべて同一であってもよいし、異なる脂肪酸を含んでいてもよい。さらに、MMMは、複数の異なるトリアシルグリセロールの混合物であってもよい。このような混合物の例として、トリオクタノイルグリセロールとトリデカノイルグリセロールとの混合物が挙げられる。MMMの炭素数6〜10の構成脂肪酸は、好ましくは直鎖の飽和脂肪酸である。チョコレートに含まれる油脂中のMMMの含有量は、より好ましくは0.04〜4質量%であり、さらに好ましくは0.08〜3質量%であり、最も好ましくは0.12〜2質量%である。チョコレートに含まれる油脂中のMMMの含有量が上記範囲内にあると、チョコレートの艶が良好である。また、チョコレートのテンパーインデックスをプロパーテンパーの範囲内に調整しやすいので、テンパリングが容易になる。また、チョコレートのカカオ風味や乳風味が強調される。
【0019】
上記MMMは、MMMが有する構成脂肪酸全量のうち、炭素数6の脂肪酸が好ましくは10質量%以下であり、より好ましくは5質量%以下である。さらに、上記MMMは、MMMが有する構成脂肪酸全量のうち、炭素数10の脂肪酸が好ましくは10質量%以上であり、より好ましくは20〜100質量%であり、最も好ましくは40〜80質量%である。
【0020】
本発明のチョコレート中の油脂に任意成分として含まれる上記MMMは、従来公知の方法を用いて製造できる。例えば、炭素数6〜10の脂肪酸とグリセロールとを、120〜180℃に加熱し、脱水縮合させることにより製造できる。この縮合反応は、減圧下で行うのが好ましい。上記縮合反応には、触媒を用いることができる。しかし、無触媒下で、上記縮合反応を行うことが好ましい。なお、MMMは、以下に説明するL2MおよびLM2を含有するエステル交換油脂に、原料油脂の反応残渣として含まれるものを、使用してもよい。
【0021】
本発明のチョコレート中の油脂に含まれる上記のL2MおよびLM2は、従来公知の方法を用いて製造できる、L2MおよびLM2を含有する油脂を使用してもよい。L2MおよびLM2を含有する油脂は、例えば、10〜65質量部(より好ましくは20〜55質量部)のMMMと、35〜90質量部(より好ましくは45〜80質量部)のヨウ素価5以下かつ構成脂肪酸として炭素数16以上の飽和脂肪酸の含有量が90質量%以上の油脂(例えば、菜種油、大豆油、パーム油などを原料とする、極度硬化油)との混合油脂をエステル交換した油脂であってもよい。当該エステル交換油脂を、さらに分別した油脂であってもよい。また、MMMと、構成脂肪酸として炭素数16以上の飽和脂肪酸の含有量が90質量%以上の油脂(例えば、菜種油、大豆油、パーム油など)との混合油脂を、エステル交換した後、極度硬化した油脂であってもよい。当該油脂を、さらに分別した油脂であってもよい。硬化(水素添加)反応およびエステル交換反応は、従来公知の方法が適用できる。エステル交換反応は、ナトリウムメトキシド等の合成触媒を使用した化学的エステル交換、ならびに、リパーゼを触媒とした酵素的エステル交換のどちらの方法でも適用できる。分別は、従来公知の、ドライ分別(自然分別)、乳化分別(界面活性剤分別)、ならびに、溶剤分別等の通常の方法が適用できる。
【0022】
本発明のチョコレート中の油脂は、2位にオレイン酸(以下、Oとも表す)、1位および3位にステアリン酸(以下、Sとも表す)が結合した、SOS(1,3−ジステアロイル−2−オレオイルグリセロール)を30〜75質量%含有する。チョコレートに含まれる油脂が含有するSOSの含有量は、好ましくは32〜60質量%であり、より好ましくは33〜50質量%である。チョコレート中の油脂に占める、SOSの含有量が上記範囲内にあると、ブルーム耐性向上剤(L2MおよびLM2)の添加によるテンパーインデックスの低下を緩和し、テンパーインデックスをプロパーテンパーの範囲内に調整しやすい。また、チョコレートのブルーム耐性自体も、ブルーム耐性向上剤(L2MおよびLM2)の効果と相乗して、著しく向上する。
【0023】
本発明のチョコレートは、好ましくはテンパー型チョコレートである。本発明のチョコレートに含まれる油脂は、好ましくは、LOLを含有する。以下、LOLは、次を意味する。LOLは、2位にオレイン酸、ならびに、1位および3位に炭素数16〜24の飽和脂肪酸が結合したトリアシルグリセロールである。上記のSOSは、LOLの1つである。チョコレートに含まれる油脂中の、LOLの含有量は、好ましくは45〜95質量%であり、より好ましくは50〜90質量%であり、さらに好ましくは55〜85質量%である。LOLの1位および3位に結合している炭素数16〜24の飽和脂肪酸は、必ずしも同じ飽和脂肪酸でなくてもよい。さらに、チョコレートに含まれるLOLの構成脂肪酸Lの全量のうち、炭素数16〜18の飽和脂肪酸の占める割合は、好ましくは90質量%以上であり、より好ましくは95質量%以上である。チョコレートに含まれる油脂中のLOL含有量が上記範囲内にあると、チョコレートはテンパー型チョコレートに適している。
【0024】
本発明のチョコレートには、上記SOSを規定量含有させるため、チョコレートに含まれる油脂として、SOSを豊富に含む油脂(40質量%以上、好ましくは60質量%以上のSOSを含む油脂)を使用することが好ましい。SOSを豊富に含む油脂(以下、SOS油脂とも表す)の例として、シア脂、サル脂、アランブラッキア脂、モーラー脂、イリッペ脂、およびマンゴー核油、ならびに、それらの分別油が挙げられる。さらに、SOS油脂は、すでに知られているように、ステアリン酸、あるいは、それらの低級アルコールエステルと、オレイン酸の含有量の高いハイオレイックヒマワリ油等との間で、1,3位選択性リパーゼ製剤を用いて、エステル交換を行なった油脂でもよい。また、得られたエステル交換油を分別した油脂でもよい。また、本発明のチョコレートに含まれる油脂には、上記LOLを含有するように、LOLを豊富に含む油脂(40質量%以上、好ましくは60質量%以上のLOLを含む油脂)を使用してもよい。LOLを豊富に含む油脂(以下、LOL油脂とも表す)の例としては、ココアバター、パーム油、ならびに、それらの分別油が挙げられる。
【0025】
本発明のチョコレートは、チョコレート中の油脂の、L2MおよびLM2の合計含有量が0.01〜10質量%であり、SOSの含有量が30〜75質量%である。当該条件が満たされている限り、本発明のチョコレートの製造にどのような油脂原料を使用してもよい。例えば、上記で挙げた、SOS油脂およびLOL油脂の他、ヤシ油、パーム核油、パーム油、パーム分別油(パームオレイン及びパームスーパーオレイン等)、大豆油、菜種油、綿実油、サフラワー油、ひまわり油、米油、コーン油、ゴマ油、オリーブ油、および乳脂、ならびにこれらの混合油、およびそれらの加工油脂(水素添加油脂、エステル交換油脂、分別油脂)が使用できる。
【0026】
本発明のチョコレートに含まれる油脂の、MMM含有量、L2M含有量、LM2含有量、L2O含有量およびS2O含有量は、例えば、ガスクロマトグラフ法(JAOCS,vol70,11,1111−1114(1993)に準じて測定できる。LOL含有量は、LOL/L2O比を、例えば、J.High Resol.Chromatogr.,18,105−107(1995)に準じた方法で測定し、この値とL2O含有量を基に算出できる。SOS含有量も同様に求めることができる。ただし、上記L2Oは、グリセロール1分子に2分子のLと1分子のOがエステル結合したトリアシルグリセロールである。上記S2Oは、グリセロール1分子に2分子のSと1分子のOがエステル結合したトリアシルグリセロールである。
【0027】
本発明のチョコレートは、油脂以外に、好ましくは糖類を含有する。糖類としては、ショ糖(砂糖および粉糖)、乳糖、ブドウ糖、果糖、麦芽糖、還元澱粉糖化物、液糖、酵素転化水飴、異性化液糖、ショ糖結合水飴、還元糖ポリデキストロース、オリゴ糖、ソルビトール、還元乳糖、トレハロース、キシロース、キシリトース、マルチトール、エリスリトール、マンニトール、ラフィノース、およびデキストリン等が使用できる。本発明のチョコレート中の糖類の含有量は、好ましくは20〜60質量%であり、より好ましくは25〜55質量%であり、さらに好ましくは30〜50質量%である。
【0028】
本発明のチョコレートには、油脂および糖類以外にも、チョコレートに一般的に配合される原材料を使用できる。具体的には、例えば、全脂粉乳および脱脂粉乳等の乳製品、カカオマスおよびココアパウダー等のカカオ成分、大豆粉、大豆蛋白、果実加工品、野菜加工品、抹茶粉末、およびコーヒー粉末等の各種粉末、ガム類、澱粉類、乳化剤、酸化防止剤、着色料、ならびに香料を使用できる。
【0029】
本発明のチョコレートは、従来公知の方法により製造できる。本発明のチョコレートの製造には、例えば、油脂、カカオ成分、糖類、乳製品、および乳化剤等を原材料として使用できる。本発明のチョコレートは、混合工程、微粒化工程(リファイニング)、精練工程(コンチング)、および冷却工程等を経て、製造できる。特に、精錬工程の後の融液状態のチョコレート生地に、テンパリングを行い、その後冷却固化することにより、テンパー型チョコレートとすることが好ましい。なお、本発明においてチョコレート生地は、最終的に冷却固化される以前の工程にある、チョコレートの原材料混合物を意味する。
【0030】
本発明のチョコレートの製造工程における好ましい実施の形態であるテンパリングは、融液状(油脂結晶が完全に融けた状態)のチョコレート生地において、油脂の安定結晶の結晶核(種結晶)を生じさせる操作である。この操作により、チョコレート生地に含まれる油脂に含有されたLOLを、安定な結晶として、固化できる。テンパリングは、例えば、40〜50℃で融解しているチョコレート生地を、品温が26〜29℃程度になるまで下げた後に、再度28〜31℃程度まで加温する操作が挙げられる。あるいは、テンパリングに替えて、シーディングを行ってもよい。SOSあるいはBOB(1,3−ジベヘノイル−2−オレオイルグリセロール)のようなLOLの安定結晶をシード剤としてチョコレート生地に添加してもよい。すなわち、上記シード剤の安定結晶が完全に融けてしまわない温度において、チョコレート中の油脂に対して、0.05〜5質量%のシード剤を添加(シーディング)することでテンパリングに替えてもよい。シーディングにおいても、テンパリングと同様に、テンパーインデックスにより、テンパリング状態を判断できる。
【0031】
本発明のチョコレートは、チョコレート製品の全てに使用できる。例えば、直接食べられるように型抜きまたはカッティングされたブロックチョコレートでもよい。その他、パン、ケーキ、洋菓子、焼き菓子、ドーナツ、およびシュー菓子等の製造時の、コーティング材料、フィリング材料、生地へ混ぜ込むチョコチップとして、使用できる。
【0032】
本発明は、また、本発明のチョコレートの製造に適したハードバターを提供する。本発明のハードバターは、0.03〜30質量%のL2MとLM2、および、35〜85質量%のSOSを含む。本発明のハードバターに占めるL2MとLM2の含有量の合計は、好ましくは0.2〜15質量%であり、より好ましくは1〜11質量%である。本発明のハードバターに占めるSOSの含有量は、好ましくは40〜80質量%であり、より好ましくは50〜75質量%である。本発明のハードバターの、L2MとLM2、および、SOS、の含有量が上記範囲内にあると、本発明のハードバターを使用したチョコレートは、テンパリングが容易になる上、ブルーム耐性に優れる。
【0033】
本発明のハードバターに含まれる、上記L2MとLM2においては、LM2の含有量に対するL2Mの含有量の質量比(L2M/LM2)が、好ましくは0.05〜4.5であり、より好ましくは0.3〜3であり、さらに好ましくは0.55〜2.5である。ハードバターの使用により、チョコレートの油脂中にL2MおよびLM2が含まれることになる。しかし、L2M/LM2が上記範囲内にあると、チョコレートのテンパーインデックスをプロパーテンパーの範囲内に調整しやすい。
【0034】
本発明のハードバターは、また、ハードバターに占めるLOLの含有量が、好ましくは45〜95質量%であり、より好ましくは50〜90質量%であり、さらに好ましくは60〜90質量%である。ハードバターに占めるLOLの含有量が、上記範囲内にあると、本発明のハードバターを使用したチョコレートは、さらに、テンパリングが容易になる上、ブルーム耐性に優れる。
【0035】
本発明のハードバターは、また、ハードバターに占めるMMMの含有量が、好ましくは0.03〜15質量%であり、より好ましくは0.2〜10質量%であり、さらに好ましくは0.4〜6質量%である。本発明のハードバターのMMMの含有量が上記範囲内にあると、本発明のハードバターを使用したチョコレートは、テンパリングが容易になる上、艶に優れる。
【0036】
本発明のハードバターは、チョコレート中の油脂に占める含有量が、好ましくは0.04〜100質量%であり、より好ましくは5〜60質量%であり、さらに好ましくは7〜30質量%であり、最も好ましくは9〜20質量%である。また、本発明のハードバターは、チョコレートに含まれるココアバター100質量部に対して、10〜1000質量部使用されることが好ましい。
【実施例】
【0037】
次に実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されない。
【0038】
〔分析方法〕
油脂のMMM含有量、L2M含有量、LM2含有量、L2O含有量およびS2O含有量は、ガスクロマトグラフ法(JAOCS,vol70,11,1111−1114(1993)に準じて測定した。LOL含有量は、LOL/L2O比を、J.High Resol.Chromatogr.,18,105−107(1995)に準じた方法で測定し、この値とL2O含有量を基に算出した。SOS含有量も同様に算出した。
チョコレートのテンパーインデックスは、チョコレートを融液状態(チョコレート中の油脂の結晶が融解した状態)とし、テンパリングもしくはシーディングした後、テンパーメーター(TENPERMETER E5、Sollich GmbH&Co.製)を用いて測定した。
テンパーインデックスは、以下を意味する。
3.9以下: アンダーテンパーであり、好ましくない。
4.0〜6.0: プロパーテンパーであり、好ましい。
(4.6〜5.4: プロパーテンパーの中でも、さらに好ましい。)
6.1以上: オーバーテンパーであり、好ましくない。
【0039】
〔MMMの調製〕
(MMM−1):構成脂肪酸がカプリル酸とカプリン酸であり、その質量比が3:7であるMMMを合成し、MMM−1とした。
【0040】
〔L2MおよびLM2を含有する油脂の調製〕
(L2M+LM2−1):86質量部の菜種油と14質量部のMMM−1とを混合した。次いで、ナトリウムメチラートを触媒としてランダムエステル交換して、エステル交換油脂を得た。エステル交換油脂を極度硬化した後、溶剤分別することにより、(L2M+LM2−1)を得た。(L2M+LM2−1)は、L2MおよびLM2の合計含有量が95.4質量%であり、LM2含有量に対するL2M含有量の質量比(L2M/LM2)が4.1であった。
(L2M+LM2−2):70質量部の菜種油と30質量部のMMM−1とを混合した。次いで、ナトリウムメチラートを触媒としてランダムエステル交換して、エステル交換油脂を得た。エステル交換油脂を極度硬化した後、溶剤分別することにより、(L2M+LM2−2)を得た。(L2M+LM2−2)は、L2MおよびLM2の合計含有量が98.1質量%であり、LM2含有量に対するL2M含有量の質量比(L2M/LM2)が1.6であった。
(L2M+LM2−3):50質量部の菜種油と50質量部のMMM−1とを混合した。次いで、ナトリウムメチラートを触媒としてランダムエステル交換して、エステル交換油脂を得た。エステル交換油脂を極度硬化した後、溶剤分別することにより、(L2M+LM2−3)を得た。(L2M+LM2−3)は、L2MおよびLM2の合計含有量が97.2質量%であり、LM2含有量に対するL2M含有量の質量比(L2M/LM2)が0.7であった。
【0041】
〔L2M、LM2およびMMMを含有する油脂の調製〕
(L2M+LM2+MMM−1):50質量部の菜種油の極度硬化油と50質量部のMMM−1とを混合した。次いで、ナトリウムメチラートを触媒としてランダムエステル交換することにより、(L2M+LM2+MMM−1)を得た。(L2M+LM2+MMM−1)は、MMMの含有量が19.9質量%、L2MおよびLM2の合計含有量が74.6質量%であり、LM2含有量に対するL2M含有量の質量比(L2M/LM2)が0.7であった。
【0042】
〔SOS油脂の調製〕
(SOS−1):40質量部のハイオレイックヒマワリ油と60質量部のステアリン酸エチルとを混合した。次いで、1,3−位特異性リパーゼによりエステル交換して、エステル交換混合物を得た。エステル交換混合物より脂肪酸エチルを蒸留し、蒸溜残渣を溶剤分別することにより、(SOS−1)を得た。(SOS−1)のSOS含有量は、66.7質量%であった。
【0043】
〔チョコレートの調製1〕
表1、2の配合に従って、比較例1〜5および実施例1〜5のチョコレートを、常法に従って、混合、微粒化、精練した。その後、SOSの安定結晶を含むシード剤を、チョコレート生地に含まれる油脂に対して、1.0質量%添加した。これにより、シーディング済みの融液状のチョコレート生地を得た。各融液状態のチョコレート生地のテンパーインデックスを測定した。結果を、表1、2に示した。
【0044】
【表1】
【0045】
【表2】
【0046】
〔ブルーム耐性試験〕
上記比較例1、2および実施例1、4、5の、シーディングした融液状態のチョコレート生地を、冷却固化した。固化したチョコレートを型抜きして試験に供した。型抜き後の各チョコレートの艶を、以下の基準に従って評価した。また、型抜き後、20℃で1週間保持した比較例1、2および実施例1、4、5の各チョコレートの風味を、以下の基準に従って評価した。さらに、20℃で1週間保持した比較例1、2および実施例1、4、5の各チョコレートを、32℃で12時間保持と20℃で12時間保持とを1サイクルとする、温度サイクルに掛けた。7サイクル毎にチョコレートの表面のブルーム観察を行い、以下の基準に従って評価した。結果を表3に示した。
【0047】
(艶の評価基準)
A:艶に優れている
B:ふつう
C:艶ない
(風味の評価基準)
A:カカオ風味を強く感じる
B:カカオ風味をやや強く感じる。
C:ふつう
(ブルーム観察の評価基準)
−:ブルームがなく良好
−+:わずかにブルームが発生している
+:ブルームが発生し、不良
【0048】
【表3】
【0049】
〔ハードバター〕
上記実施例1〜5のチョコレートの配合において、SOS−1とL2MおよびLM2を含有する油脂とを予め混合した油脂、もしくは、SOS−1とL2M、LM2およびMMMを含有する油脂とを予め混合した油脂は、優れたブルーム耐性向上機能を有するハードバターとして使用できる。実施例1〜5において、予め混合したハードバターを使用したと仮定した場合のハードバターの組成を表4に示した。
【0050】
【表4】