(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
スーパーマーケットやコンビニエンスストア等の小売店において、惣菜などの加熱調理済みの食品がプラスチック製の容器等に入れられ透明の蓋が被せられたものが販売されている。このような惣菜は、一般に、冷凍食品やレトルト食品に比べて手作り感があり、食感や味も優れている。また、解凍や煮沸をすることなくすぐに食べられるため利便性が高い。さらに、透明な蓋が用いられていることにより、消費者は中身を確認できるため、食べたいものを選ぶのが簡単であり、また安心して購入することができる。言い換えれば、透明蓋を用いた包装容器は、惣菜のおいしさを消費者の視覚に訴えることができる。
【0003】
一方で、上記のような加熱調理済み食品は、品質保持期間が1〜3日程度と短いので、作り置きすることができない。
そのため、加熱調理済み食品を包装した製品(食品包装体)を製造する工場では、小売店等からの注文があってから生産を開始、又は見込みで生産する必要があり、計画的な生産ができず、注文数が多量であった、又は変動してしまった場合には生産が逼迫してしまうという問題が有る。また、加熱調理済み食品の製造工場から十分な品質保持期間を残して配送できる範囲は限られるため、狭い地域ごとに比較的小規模な工場を配置し、各地域ごとにその限られた地域の生産要求に対応しているのが実状である。さらに、小売店等では、売れ残った商品を廃棄処分としたり、値引きした処分価格で販売したりすることもあり、長期保管可能な冷凍食品やレトルト食品に比べ無駄が多いという問題が有る。
【0004】
従来の加熱調理済み食品(惣菜)は、
図7に示す工程で製造されている。すなわち、惣菜が加熱調理され(ステップS11)、冷却エアーの吹付けによって冷却された後(ステップS12)、人手で具材や、液体の調味料やタレ等が容器に盛り付けられ(ステップS13)、蓋が被せられ容器に蓋が嵌合されて(ステップS14)、出荷される。
この製造方法において、惣菜は、加熱調理(ステップS11)により殺菌されていると言える。しかし、その後の冷却工程(ステップS12)、盛付け工程(ステップS13)、および、盛付け工程から包装工程(ステップS14)に至るまでの間は、いずれも大気に曝されているため、所定のレベルの衛生管理がなされていても、惣菜の表面が大気中の浮遊菌によって汚染される可能性がある。また、盛付工程は人手で行われており、人や手袋等によって汚染される可能性がある。従来の加熱調理済み惣菜の品質保持期間が短いのは、これらの原因によるものと言える。
【0005】
加熱調理済み食品の品質保持期間を延長させる方法として、例えば、特許文献1に記載されるような、調理済み食品を包装容器に盛り付け、その包装容器の開口部全体を透明なフィルムで覆って真空包装し、細菌の増殖を抑える方法が知られている。
【0006】
また、別の方法として、例えば、特許文献2には、じゃがいも、にんじん、栗等の固形食品が盛り付けられた包装容器内のフリースペース(食品によって占有されていない空間)に不活性ガスをフローして包装容器内をガス置換した後、包装容器を蓋材で密封包装する方法が示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1の方法は、真空包装する食品が高温である場合、減圧時、固形具材に含まれる水分が突沸して食品の形状が破壊されてしまうという問題がある。また、破裂した食品や突沸液体の飛散により透明フィルムの汚れ、見栄えの低下、商品価値の低下を招くなど、包装された製品(食品包装体)の外観も著しく損われるという問題がある。そのため、真空包装をするにあたり、高温の食品を十分に冷却する必要があるが、加熱調理後の食品を冷却すると、殺菌後の食品の表面に、再度、大気中の浮遊菌が付着し、二次汚染される可能性がある。また、特許文献1に記載の方法で製造された製品は、フィルムが食品に密着しているため、盛付け状態から惣菜食品のおいしさを消費者の視覚に訴えることが難しい。
【0009】
また、特許文献2に記載されるようなガス置換方法では、95%以上といった高い置換率で包装容器内のガス置換を行うことができないため、従来の品質保持期間をそれほど長く延長することができない。また、高いガス置換ができないことにより、包装する食品(惣菜)が緑色野菜を含む惣菜食品である場合、その出来たて後と遜色のない色調や風味を長く維持することができない。
【0010】
本発明の目的は、上記従来技術の問題点を解消し、食品包装体(商品)の外観を損なうことなく、加熱調理後の食感や色調といった品質を維持しつつ、品質保持期間を14日ほどにすることを可能にする食品包装体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、食品包装体(商品)の外観がよく、出来たての食品の風味、色彩等を維持しつつ、品質保持期間が従来よりも飛躍的に延長された製品を得るために、鋭意、検討を重ねた。その結果、このような製品が得られる包装方法、すなわち、チャンバ内において、高温の食品をガス置換包装する方法、具体的には、チャンバ内の減圧条件および包装される食品の温度条件を見出し、本発明を完成させた。
【0012】
すなわち、この発明にかかる食品包装体の製造方法は、10℃以下で流通される、固形具材及び液状物からなる食品を容器に盛り付け包装した食品包装体の製造方法であって、前記容器に加熱済みの前記固形具材を盛り付ける固形具材盛付工程と、前記容器に盛り付けられた前記固形具材をスチーム加熱する固形具材加熱工程と、スチーム加熱された前記固形具材上に、高温の前記液状物を充填する液状物充填工程と、下記(1)〜(5)のいずれかの包装工程と、下記(6)の特徴を有することを特徴とするものである。
(1)前記液状物充填工程完了後、食品の温度が85℃〜90℃である前記加熱済み食品が盛り付けられた前記容器にフィルムを被せてチャンバ内に収納し、前記チャンバ内を500mbar以上600mbar以下に減圧し、不活性ガスを800〜1200mbarまで導入して前記容器内を95%以上のガス置換率でガス交換
を行った後、前記容器と前記フィルムを熱溶着して前記加熱済み食品を包装する包装工程。
(2)前記液状物充填工程完了後、食品の温度が80〜85℃である前記加熱済み食品が盛り付けられた前記容器にフィルムを被せてチャンバ内に収納し、前記チャンバ内を400mbar以上600mbar以下に減圧し、不活性ガスを800〜1200mbarまで導入して前記容器内を95%以上のガス置換率でガス交換
を行った後、前記容器と前記フィルムを熱溶着して前記加熱済み食品を包装する包装工程。
(3)前記液状物充填工程完了後、食品の温度が70〜80℃である前記加熱済み食品が盛り付けられた前記容器にフィルムを被せてチャンバ内に収納し、前記チャンバ内を300mbar以上600mbar以下に減圧し、不活性ガスを800〜1200mbarまで導入して前記容器内を95%以上のガス置換率でガス交換
を行った後、前記容器と前記フィルムを熱溶着して前記加熱済み食品を包装する包装工程。
(4)前記液状物充填工程完了後、食品の温度が55〜70℃である前記加熱済み食品が盛り付けられた前記容器にフィルムを被せてチャンバ内に収納し、前記チャンバ内を200mbar以上600mbar以下に減圧し、不活性ガスを800〜1200mbarまで導入して前記容器内を95%以上のガス置換率でガス交換
を行った後、前記容器と前記フィルムを熱溶着して前記加熱済み食品を包装する包装工程。
(5)前記液状物充填工程完了後、食品の温度が35〜55℃である前記加熱済み食品が盛り付けられた前記容器にフィルムを被せてチャンバ内に収納し、前記チャンバ内を100mbar以上600mbar以下に減圧し、不活性ガスを800〜1200mbarまで導入して前記容器内を95%以上のガス置換率でガス交換
を行った後、前記容器と前記フィルムを熱溶着して前記加熱済み食品を包装する包装工程。
(6)前記容器は、広口且つ深底形状であり、前記包装工程において、前記深底容器のフランジに前記フィルムを熱溶着する。
【0014】
また、前記不活性ガスは、窒素ガス、または、窒素及び二酸化炭素からなる混合ガスであることが好ましい。
また、前記チャンバは、上部ハウジングと下部ハウジングとが接合することで形成され、前記包装工程は、前記チャンバ内において、前記上部ハウジングと前記下部ハウジングの間に貼られた前記フィルムが前記下部ハウジングの表面に配置された前記広口容器の開口部を覆った状態でガス交換
を行った後、前記フィルムを前記広口容器の前記フランジに熱溶着することが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、食品の品質保持期間を14日間ほどにすることができるとともに、出来たてと遜色のない色調および風味等も維持することができる。また、商品として外観の良いものを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、添付の図面に示す好適な実施形態に基づいて、この発明を詳細に説明する。
【0018】
図1は、本発明の食品包装体の製造方法を採用した食品包装体の製造システムの一実施形態を模式的に示す上面図である。同図に示す食品包装体の製造システム1は、包装容器に盛り付けられた加熱調理済み食品(具材)を加熱殺菌処理した後、さらにその食品の表面に高温の液状物を充填し、フィルムを容器に被せ、容器内をガス置換後、密封包装をして製品とするものであり、スチームオーブン2、クリーンブース4、液体充填機5及び包装機6を有している。包装機6は、本発明の特徴的部分である包装方法を実施する包装機の一例である。
【0019】
まず、食品包装体の製造システム1によって製造される食品包装体(製品)について説明する。本発明が対象とするのは、加熱調理済みの惣菜等の食品であって、容器に盛り付けられて包装された状態で、10℃以下で流通されて販売されるものであり、開封してそのまま食べられるものである。
包装される食品としては、固形具材と液状物からなり、食べられる状態にまで加熱調理された加熱調理済みの食品であれば各種の食品を対象とすることができる。固形具材としては、野菜、肉または魚等の、煮物、焼き物、蒸し物、揚げ物または炒め物や、汁物、米飯、麺類などが例示され、液状物としては、ソース、タレなどが例示される。中でも、固形具材の上に適当量の液状物が掛けられている食品が本発明に適しており、本発明の効果が特に高い。
【0020】
図2に、包装容器(食品包装体)の一例を示す。包装容器7は、容器8とフィルム9からなり、窒素、二酸化炭素等の不活性ガスを充填し密閉できるものである。容器8は、フィルム9に熱溶着することが可能な材料によって構成される。また、容器8は、食品の品質保持期間をより長く保つために、密封後、容器外の酸素を透過させにくい材料からなる。また、容器8は、耐熱性を有する材料によって構成されるが、消費者が惣菜を温めて食することを所望する場合のために、電子レンジによる加熱にも十分耐えるものであることが好ましい。容器8は、透明であっても不透明であってもよい。
容器8の形状は、盛り付けられる内容物(惣菜)の種類に応じたものが選択されるが、包装時に、包装内のガス交換がしやすい広口のものを用いることが好ましい。また、本発明が対象とする食品は固形具材と液状物からなるため、包装性及び外観の点から、底の深い容器を用いることが好ましい。また、容器8の底部に仕切りを設け、主菜や複数の副菜をそれぞれ収容する形状であってもよい。
【0021】
フィルム9は、容器8に熱溶着(ヒートシール)することが可能な樹脂材料が用いられる。また、フィルム9は、食品の品質保持期間を長く保つために、密封後、容器外の酸素を透過させにくい材料からなる。また、フィルム9は、容器8に盛り付けられた内容物(惣菜)が見えるように、透明であることが好ましい。売り場に並べられたときに包装容器7の内部がよく見えるため、消費者の視覚に訴えることができる。さらに、容器8と同様に電子レンジによる加熱耐性を有することが好ましい。
【0022】
容器8への所定量の加熱調理済みの固形具材の盛り付けは、固形具材が機械に適したものであれば公知の充填装置を利用してもよいし、形の崩れやすいものや自動計量の困難なものなど、機械充填に不適なものであれば、従来と同様に、衛生管理下で人手によって行えばよい。
容器8は、ネットコンベヤに載せられてスチームオーブン2へ搬送される。
【0023】
スチームオーブン2は、容器8の固形具材を加熱することで殺菌処理を行うものである。スチームオーブン2は、温度および湿度の範囲が制御可能なものであり、熱気および蒸気を加熱庫内に供給することにより、加熱および加湿を行うものである。
【0024】
ベルトコンベヤ11は、スチームオーブン2と液体充填機5との間、及び、液体充填機5と包装機6との間に設けられており、各装置間で搬送速度の調整が必要な場合には、速度調整機構(バッファー等)を設けて調整を行えばよい。
【0025】
クリーンブース4は、空気中の浮遊粉塵の量が管理された空間であり、本発明の実施形態においては、クラス10,000(1ft
3当たり(すなわち約0.028m
3当たり)の粒径0.5μm以上の粒子数が10,000個以下)のクリーンルームである。
スチームオーブン2によって殺菌処理された容器8は、速やかにクリーンブース4に収容され、液体充填機5によって高温の液状物が充填され、短時間で包装機6へ送られ包装されるので、食品の表面が大気に触れて大気中の浮遊菌により汚染される可能性を大幅に抑えることができる。なお、クリーンブース4を使用する代わりに、包装機6へ送られる前に容器8内の食品に蒸気を照射することで同様の効果を得ることもできる。
【0026】
液体充填機5は、ベルトコンベヤ11上の容器8へ盛り付けられた固形具材に高温の液状物を充填することで、具材表面の殺菌処理を行うととともに、包装前に食品の表面が大気中の浮遊菌により汚染される可能性を抑えるものである。
【0027】
包装機6は、液状物が充填された容器8にフィルムを被せて、容器内のガス置換を行った後、容器8とフィルム9を熱溶着(ヒートシール)して密封し、包装容器7の形をした製品(食品包装体)を製造するものである。
図3に、本願の実施の形態に用いられる包装機6を示す。包装機6は、上部ハウジング12と、下部ハウジング13と、ベルトコンベア15と、図示されていない、フィルム17を上部ハウジング12と下部ハウジング13との接合面に配置し搬送するフィルム搬送部と、ガス充填部と、各部材の制御及びチャンバ内の圧力及びガスの制御を行う制御部とから構成される。
上部ハウジング12には、容器8とフィルム9を熱溶着させるためのヒートシール部材とフィルム17を切り取るカッターが備え付けられている。下部ハウジング13は、上部ハウジング12に向かって上昇及び下降するものであり、上下のハウジングが接合することによりチャンバが形成される。また、下部ハウジング13は、チャンバが形成される際、容器8を収納する部材も有する。ガス充填部は、不活性ガスをチャンバへ導入するガスを充填している部材である。
制御部は、各部材の制御を行うとともに、チャンバ内の圧力の制御及び不活性ガスの導入条件の制御を行う。
この制御方法およびそれによる食品の包装方法は、本発明の特徴とするところであり、これについては、後に詳述する。
包装機6で密閉包装されて得られた製品(食品包装体)7は、冷却後、適宜梱包されて出荷される。
【0028】
次に、食品包装体の製造システム1で実施される本発明の食品包装体の製造方法を、
図4のフローチャートに沿って説明する。
【0029】
まず、包装される食品のうち、固形具材が、煮る、焼く、蒸す等の調理方法により加熱調理(および加圧調理)される(ステップS1)。このとき、食材がその内部まで加熱されることにより、殺菌も同時に行われる。この工程では、食されるのに最適な状態まで完全に調理を行ってもよいが、後述する殺菌工程(ステップS4)や液体充填工程(ステップS5)での加熱を考慮し、完全な状態よりも僅かに手前の状態で調理を止めておいてもよい。
次に調理後の固形具材は、充填(盛付け)が容易となる程度の温度まで冷却される(ステップS2)。冷却後の固形具材は、衛生管理下、人手によって、または充填装置によって、容器8に充填(盛付け)される(ステップS3)。
【0030】
次に、容器8がスチームオーブン2へ搬送され、容器8の固形具材が加熱殺菌処理される(ステップS4)。
この加熱殺菌処理工程(ステップS4)は、ステップS2の冷却工程およびステップS3の具材充填工程において、固形具材が空気中の浮遊粉塵または浮遊菌がその表面に付着することによって二次汚染された場合でも、その浮遊菌を殺菌して、固形具材の表面についた細菌の菌数を所定数以下に抑えるための処理である。
【0031】
具体的には、固形具材の表面についた細菌に対して、食品の表面部分の温度を60℃以上90℃以下に1分間以上保つことで、殺菌効果が得られる。また、この範囲において、さらに、食品の表面部分の温度を65℃以上に保つのが好ましく、70℃以上に保つのがより好ましい。なお、この温度が65℃以下であっても殺菌は可能であるが、殺菌できなくなるものの頻度が確率的に高くなるので、あまり好ましくはない。
【0032】
加熱殺菌処理工程が終わると、クリーンな環境下において、液体充填装機5によって、液状物が各容器8に充填される(ステップS5)。この液体充填工程において、容器8内に盛り付けられた固形具材上に高温の液状物が充填されることにより、加熱殺菌処理後、固形具材に付着した空気中の浮遊粉塵または浮遊菌を殺菌することができる。また、高温の液状物で食品を覆うことにより、食品が包装されるまでの間、食品の表面を高温に保つことができるので、再度、細菌等が食品の表面に付着する可能性を抑えることができる。従って、液状物は、固形具材の表面全体を覆うように充填されていることが好ましい。
充填される液状物の温度は、食品の表面部分に付着した細菌等を殺菌することができる温度であれば特に限定されないが、60〜100℃であることが好ましく、また、固形具材の冷却により二次汚染が発生することを防ぐためにも、固形具材より高温であることが好ましい。また、特に、強い殺菌作用を持つ80℃以上が好ましい。
【0033】
液体充填工程(ステップS5)が終了すると、各容器8が包装機6へ搬送され、各容器に盛り付けられた食品はガス置換包装される(ステップS6)。
ガス置換包装(MAP:Modified Atmosphere Packaging)工程(ステップS6)は、包装前に食品の表面につく細菌数を最小限に抑えて品質保持期間を長くするとともに、食品の風味や色彩等も長く維持することができるようにするための処理である。
【0034】
複数(例えば5個)の容器8が包装機6のベルトコンベア15上に配置されると、包装機6のガイドアーム(図示されていない)が複数の容器8の側面を同時に挟み込み、
図5(A)に示されるように、各容器8を下部ハウジング13の所定位置16に配置する。
このとき、容器8内の食品の温度は35〜90℃に維持される。このような範囲の温度を維持することにより、食品の表面部分に付着した細菌等を殺菌することができる。なお、このような温度範囲の中でも強い殺菌作用を有する80℃以上に食品の温度が維持されていることが好ましい。80℃以上であれば、食品の表面に付着する細菌数を最小限に抑えた食品を包装することができる。
【0035】
次いで、下部ハウジング13が上部ハウジング12に向かって上昇しつつ、
図5(B)に示されるように、下部ハウジング13の収容部材に容器8が収納されることで、下部ハウジング13と上部ハウジング12が接合し、チャンバ14が形成される。上部ハウジング12と下部ハウジング13が接合することで、両ハウジング間に張られたフィルム17が下部ハウジング13の表面に配置された容器8の開口部を未シール状態で覆った状態となる。
チャンバ14が形成されると、まず、チャンバ14内を食品の温度における水の飽和蒸気圧より低い、食品の温度に応じて定まる所定の圧力以上600mbar以下になるように減圧し、その後、800〜1200mbarになるまでガス充填部から不活性ガスを導入する。
なお、不活性ガスは、除菌のためのフィルターを介してチャンバ14へ導入される。
【0036】
本発明者らは、食品包装体(商品)の外観がよく、出来たての食品の風味、色彩等を維持しつつ、品質保持期間が従来よりも飛躍的に延長された製品を得るために、鋭意、検討を重ねた。その結果、チャンバ内において、高温の食品をガス置換包装する方法により、品質保持期限を延ばすことができると考えた。しかし、先述したように、包装される食品が高温である場合、チャンバ内の圧力をその食品の温度における水の飽和蒸気圧以下にすると、食品等に含まれる水分の突沸を招き、食品の形状自体が破裂して破壊されたり、またそれに伴い、突沸液体や、食品の破裂片が容器、特に透明蓋(フィルム)等、を汚してしまったりして、食品包装体(商品)の外観を台無しにし、商品価値を著しく
劣化させることを知見した。そこで、発明者らはさらに検討を重ね、突沸の影響で食品包装体の外観を損なうことなく、高いガス置換率で食品を包装できるような条件、すなわち、上記に示されるようなチャンバ内の圧力および包装される食品の温度の条件を見出した。
【0037】
なお、上述したような条件において、食品の温度が85〜90℃である場合は、チャンバ内を500mbar以上600mbar以下に減圧することが好ましく、食品の温度が80〜85℃である場合は、前記チャンバ内を400mbar以上600mbar以下に減圧することが好ましく、さらに、食品の温度が70〜80℃である場合は、前記チャンバ内を300mbar以上600mbar以下に減圧することが好ましく、食品の温度が55〜70℃である場合は、前記チャンバ内を200mbar以上600mbar以下に減圧することが好ましく、食品の温度が35〜55℃である場合は、前記チャンバ内を100mbar以上600mbar以下に減圧することが好ましい。
【0038】
上記の範囲でチャンバ内を減圧すれば、内容物(製品)中の水分の突沸に影響されて外観を損ねることもなく、高温の食品(製品)を密封包装することができる。また、包装される食品が強い殺菌作用を有する高温であるため、その表面についた細菌の菌数を所定数以下に抑えたまま食品を包装することができる。そのため、製品の品質保持期間を従来の1〜2日から14日ほどに飛躍的に延長させることができる。
また、高温の食品を包装するため、冷却により食品の表面が空気中の浮遊菌に汚染されることもないので二次殺菌も不要となる。さらに、容器に食品を美しく盛り付けた状態のままで、売り場に商品(製品)を並べることができる。また、突沸により、液状物や固形具材の油脂分がフィルムに付着することで生じる未シール製品の製造を防止することもできる。また、食品が形状破壊されることもないため風味、食感も損なわれることがない。
【0039】
また、上記の範囲で減圧された後、不活性ガスが導入されることにより、95%以上という高い置換率で容器内のガス交換を行うことができる。特に、包装容器内のガス(空気)は、99.5%以上置換されることが好ましい。このような置換率でガス交換を行えば、包装容器内の酸素濃度を0.1%以下となるように食品を包装することができるため、長期間、食品中の油脂が酸素により劣化され不快な臭いを生じたり、味が劣化したりすることもなく、食品の風味を維持することができる。
ブロッコリーやいんげんといった緑色野菜が有する色彩(緑色)は、新鮮さを示す指標となるものであり、消費者が商品を購入する際、購入の有無を決める重要な判断材料の一つとなるものであるが、従来、このような色彩は製造後1〜2日しか維持することができなかった。しかし、今回、容器内を99.5%以上という高い置換率のガス交換が可能になったことにより、加熱調理後、1週間以上経過しても、出来たてとほぼ遜色のない緑色を維持することができるようになった。
【0040】
また、チャンバ内を減圧後、800〜1200mbarまで不活性ガスを導入すれば、容器内の空気を95%以上のガス置換することができるとともに、容器8にフィルムが張り付きすぎたり、容器8が凹んだりすることのない、所定の形状を維持した製品(食品包装体)を得ることができる。
【0041】
不活性ガスとしては、窒素、二酸化炭素、ヘリウム、アルゴン等及びそれらの混合ガスを用いることができる。本実施形態においては、窒素、または、窒素および二酸化炭素を用いてガス置換を行っている。食品の酸化防止、退色の防止および食感維持のため、窒素ガスを用いることが好ましいからである。
【0042】
このように、チャンバ14内で容器内のガス置換が行われた後、包装機6は、上部ハウジング12に備え付けられているヒートシール部材により、容器8とフィルム17とを熱溶着して密閉した後、包装容器の形状に合わせてフィルム17をカッターで切り取り、包装容器7の形状にした後、
図3(C)に示されるように、下部ハウジング13が下降し、ベルトコンベア上に製品が搬出される。包装容器7は製造された後、冷却されることが好ましい。
このようにして得られた製品は、適宜梱包されて出荷される。
【0043】
このような方法により製造された製品は、商品として販売するのに十分に外観が良く、包装された食品の品質保持期間を14日間ほどにすることができるとともに、出来たてと遜色のない色調および風味等も維持することができる。
また、このように、食品の品質保持期間が延長されることにより、十分な品質保持期間を残してより広域に配送でき、生産工場の集約化による生産性の効率が可能となり、さらには廃棄ロスの低減が可能となる。
【0044】
以上、本発明に係る食品包装体の製造方法について詳細に説明したが、本発明は上記の実施例に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において改良や変更をしてもよいのはもちろんである。
【実施例】
【0045】
(実験例)
所定のサンプルについて、温度及びチャンバ内の減圧時の圧力を所定の条件にしたときの容器内のガス置換率及び外観を調べる試験を行った。
(実験条件)まず、タピオカ澱粉(松谷化学工業)55gと食紅1gを水に加熱溶解させた後、所定の温度で容器8(215×125×32mm)に40g充填したサンプルを作成した。サンプルは、
図3に示すようなガス置換包装機( QX-775, Ishida Europe )のチャンバ17内に収納し、フィルムを容器8に被せ、チャンバ17内を所定の圧力まで減圧した後、1000mbarまでガスを導入して容器内のガス置換を行い、密封包装された。
(評価方法)サンプルを密封したもの(包装体)7の外観の評価は、サンプルを密封した後、フィルム内面に澱粉溶液がどの程度付着しているかを目視で評価した。すなわち、フィルムに澱粉溶液が全く付着せず外観に全く影響がないものを◎、突沸が起こりフィルムにわずかに澱粉溶液が付着しているものの外観にほとんど影響がないものを○、突沸が起こりフィルムに多く澱粉溶液が付着し外観が非常に悪いものを×とした。
ガス置換率の評価は、包装容器内のガスが、99.5%以上置換されているものを◎、95%以上置換されているものを○で表した。
表1にこの実験から得られた結果を示す。また、
図6は、水の飽和蒸気圧曲線を示すグラフである。
【0046】
【表1】
【0047】
このような実験の結果により、包装体7の外観に関しては、チャンバ内をサンプルの温度における水の飽和蒸気圧以下の圧力よりも低い圧力まで減圧しても、外観に影響のないサンプルが複数あることが確認された。例えば、
図6の水の飽和蒸気圧曲線からも明らかなように、約700mbarの圧力下において、水は90℃で沸騰する。しかし、表1に示されるように、温度が90℃のサンプルをチャンバ内に収納し、500mbarまで減圧しても、包装容器の外観が損なわれることはなかった。
また、ガス置換率に関しては、表1に示されるように、いずれのサンプルであっても、チャンバ内の圧力を600mbar以下に減圧した後にガス置換行えば、包装容器内を95%以上ガス置換することができ、さらに、500mbar以下に減圧した後にガス置換を行えば、99.5%以上という高い置換率でガス置換できることが確認された。
【0048】
(実施例1)
本発明の食品包装体の製造方法を適用し、加熱殺菌処理後の食品を包装した食品包装体を製造し、経時実験を行った。
3穴トレイ(171×127×32mm)の容器8に加熱調理した鶏のから揚げ4個、ブロッコリー2個及び人参のグラッセ1個を充填した。容器8ヘ充填された固形具材は、スチームコンベクションオーブン1内で中心品温が80℃以上になるように加熱殺菌処理を行った。
次に、固形具材を盛り付けられた容器8は、その具材が高温のうちに、液体充填機5に送られ、80℃以上の高温のソースを鶏の唐揚げ上に充填した後、包装機6のベルトコンベア11上に移載された。
包装機6において、容器8は、盛り付けられた食品の中心品温が80℃を維持している間にチャンバ14内に収容され、フィルム17が被せられる。次いで、チャンバ内が300marまで減圧された後、窒素ガス100%が1000mbarまで導入され、容器内がガス置換された後、フィルム17と容器8が熱溶着され、密封包装され、冷却室で冷却後、製品(食品包装体)7とされた。
【0049】
(評価方法)
上記のように製造した食品包装体7は、10℃下で、7日間、14日間保管し、微生物検査及び品質評価を行った。
(1)微生物検査
7日間または14日間保管された食品包装体7の食品についてそれぞれ一般生菌数を測定した。本検査においては、「弁当及びそうざいの衛生規範について」に記載された加熱処理済製品の規格から一般生菌数10
5cfu/g未満のものについて基準を満たしていると判断した。
(2)品質評価
所定の日数保管された食品包装体の食品の色彩について目視で評価するとともに、微生物検査において基準を満たした食品包装体の食品についてのみ、味の劣化を複数のパネラーにより評価した。
【0050】
(比較例1)
鶏のから揚げ4個、ブロッコリー2個及び人参のグラッセ1個を加熱殺菌処理することなく、容器8に充填した後、20℃のソースを鶏のから揚げに充填した。食品が盛り付けられた容器8は、食品の温度が20℃に維持されたまま、包装機6のチャンバ7内に収納し、実施例1と同様の条件で包装して食品包装体を製造した。
【0051】
(比較例2)
上記実施例1と同様に、鶏のから揚げ4個、ブロッコリー2個及び人参のグラッセ1個を容器8に充填し、加熱殺菌処理を行い、その後、80℃以上のソースを鶏のから揚げに充填した容器8を、食品の温度を80℃に維持したまま、包装機6のチャンバ内に収容し、ガス置換包装を行わず、フィルム17を被せ、密封包装した食品包装体7を製造し、上記の実施例1と同様の微生物検査及び品質評価を行った。
【0052】
【表2】
【0053】
上記表2に示す通り、本発明の条件で加熱殺菌処理及びガス置換包装した場合(実施例1)は、製造後14日間経過した後でも、基準を満たす何ら問題のない生菌数レベルに抑えることができた。また、製造後、日数が経過しても、容器内の食品は一般細菌数が200cfu/g以下という非常に低いレベルに維持され続け、生菌数の増加は見られなかった。また、緑色野菜の色彩を密封包装したときの緑色のままで維持し続けることもできた。また、鶏のから揚げの味の劣化も生じなかった。
本発明の加熱殺菌処理を実施しない場合(比較例1)は、製造後14日間経過した後でも、緑色野菜の色彩は維持することができたが、実施例に対して、製造後における生菌数が7日後、14日後と大幅に増加していた。
本発明のガス置換方法を実施しない場合(比較例2)は、実施例1と同様に、製造後の生菌数レベルを維持することができたが、緑色野菜の色彩は退色し、味は劣化した。