(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上述のような事情に基づいてなされたものであり、十分な可塑性、アルコール系溶媒への溶解性、その溶液の低粘性及び粘度安定性を有し、他の成分と相分離を起こし難く、粒子の分散性及びチキソトロピー性に優れたスラリーや、強度、剥離性及び柔軟性に優れたシート等を得ることができるポリオキシアルキレン変性ビニルアセタール系重合体の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するためになされた発明は、
ポリオキシアルキレン変性ビニルアルコール系重合体をアセタール化して得られるポリオキシアルキレン変性ビニルアセタール系重合体であって、
下記式(1)で表されるブロック(以下、「ブロック(1)」ともいう)及び下記式(2)で表されるブロック(以下、「ブロック(2)」ともいう)を含む単量体単位を含有し、この単量体単位の含有率が0.05モル%以上10モル%以下であり、粘度平均重合度が150以上5,000以下、かつアセタール化度が10モル%以上85モル%以下であることを特徴とするポリオキシアルキレン変性ビニルアセタール系重合体(以下、「POA変性ビニルアセタール系重合体」ともいう)である。
【0010】
【化1】
(式(1)中、R
1及びR
2は、いずれか一方がメチル基であり、他方が水素原子である。mは、繰り返し単位数を表し、10以上40以下の整数である。複数のR
1及びR
2は、それぞれ同一でも異なっていてもよい。)
【0011】
【化2】
(式(2)中、nは、繰り返し単位数を表し、1以上50以下の整数である。)
【0012】
当該POA変性ビニルアセタール系重合体は、ガラス転移点が低く可塑性に優れ、アルコール系溶媒への溶解性が高く、その溶液粘度は低く抑えられ、加えてその溶液粘度の経時安定性にも優れる。また、当該POA変性ビニルアセタール系重合体は、組成物とした際に他の成分と相分離を起こし難く、セラミック粉末等の無機粒子の分散性にも優れ、特にスラリー状の塗料等の組成物とした際には、チキソトロピー性を付与することができる。さらに、当該POA変性ビニルアセタール系重合体を加工して得られるフィルム、シート等は、強度、剥離容易性及び柔軟性に優れる。当該POA変性ビニルアセタール系重合体が、上記効果を奏するメカニズムの詳細は明らかになっていないが、例えば当該POA変性ビニルアセタール系重合体が上記特定構造のブロック(1)及びブロック(2)を含む単量体単位を含有することで、当該ビニルアセタール系重合体の分子間におけるPOA基同士の疎水性相互作用が高くなり、その結果、優れた内部可塑性が発揮されるためであると推測される。また、当該POA変性ビニルアセタール系重合体の粘度平均重合度及び上記単量体単位の含有率が上記特定範囲であることで、アルコール系溶媒に対する溶解性等や、加工して得られるフィルム、シート等の強度等を優れたものとすることができる。さらに、当該POA変性ビニルアセタール系重合体のアセタール化度を上記特定範囲とすることで、アルコール系溶媒への溶解性を向上させると共に、溶液粘度を低く抑えることができ、その溶液粘度の経時安定性を向上させることができる。
【0013】
上記単量体単位は、上記式(1)で表されるブロック及び上記式(2)で表されるブロックを側鎖に有することが好ましい。上記単量体単位が、上記それぞれのブロックを側鎖に有することで、上述の疎水性相互作用がより強くなると考えられ、その結果、当該POA変性ビニルアセタール系重合体の内部可塑性をより高めることができる。
【0014】
上記式(1)で表されるブロックは、上記式(2)で表されるブロックより主鎖側に位置することが好ましい。このように上記それぞれのブロックを上記特定の位置に有することで、上述の疎水性相互作用がさらに強くなると考えられ、その結果、当該POA変性ビニルアセタール系重合体の内部可塑性をさらに高めることができる。ブロック(1)がブロック(2)より主鎖側に位置することで、上記効果を奏するメカニズムの詳細は明らかになっていないが、例えば比較的親水性であるポリオキシエチレンブロック(ブロック(2))がPOA基の末端側にあることにより、当該POA変性ビニルアセタール系重合体の分子間における、POA基同士の疎水性相互作用がさらに促進されること等が挙げられる。
【0015】
上記式(1)で表されるブロックと上記式(2)で表されるブロックとは直接結合することが好ましい。これらのブロックが隣接して位置することで、当該POA変性ビニルアセタール系重合体の内部可塑性等をさらに高めることができる。
【0016】
アセタール化に用いるアルデヒドは、ブチルアルデヒド及びアセトアルデヒドからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、ブチルアルデヒドが特に好ましい。上記特定のアルデヒドを用いてアセタール化することで、当該POA変性ビニルアセタール系重合体の製造を効率的に行うことができる。
【0017】
本発明の組成物は、当該POA変性ビニルアセタール系重合体を含有する。当該組成物は、当該POA変性ビニルアセタール系重合体を含有するため、粒子の分散性、強度、剥離容易性、柔軟性等に優れ、セラミックグリーンシートや積層セラミックコンデンサの内部電極のバインダーの他、例えば、塗料、インク、接着剤、粉体塗料等コーティング材料、熱現像性感光材料、ペレット、フィルム等として広く用いることができる。
【0018】
当該組成物は、セラミック粉末及び有機溶媒をさらに含有し、セラミックグリーンシート用スラリー組成物として用いられることが好ましい。当該組成物は、当該POA変性ビニルアセタール系重合体を含有することで、無機粒子であるセラミック粉末の分散性に優れ、セラミック粉末が凝集することなく均一に分散するので、セラミックグリーンシート用スラリー組成物として好適に用いることができる。また、当該組成物はチキソトロピー性が高いため、ハンドリング性にも優れる。
【0019】
本発明のセラミックグリーンシートは、上述の当該組成物を用いて得られる。当該セラミックグリーンシートは、当該POA変性ビニルアセタール系重合体を含有する組成物を用いているので、セラミック粒子がシート内に均一に分散されると共に、強度、剥離容易性及び柔軟性にバランスよく優れる。
【0020】
本発明の積層セラミックコンデンサは、当該セラミックグリーンシートを用いて得られる。当該セラミックグリーンシートは、セラミック粉末がシート内に均一に分散しているため、セラミック誘電体として高性能を発揮する。このようなセラミックグリーンシートを積層して製造される当該積層セラミックコンデンサは、コンデンサとしての機能に優れ、信頼性も高い。
【0021】
本発明の合わせガラス用中間膜は、当該POA変性ビニルアセタール系重合体を含有する。従って、当該合わせガラス用中間膜は、高湿度下で長期間曝された際の縁部の耐白化性、耐貫通性、ガラスとの接着性に優れる。
【0022】
本発明のインクは、当該POA変性ビニルアセタール系重合体を含有する。従って、当該インクは、溶液粘度が低く抑えられ、十分なインク分散性を有する。
【0023】
本発明のコーティング剤は、当該POA変性ビニルアセタール系重合体を含有する。従って、当該コーティング剤は、十分な取扱性及び粘度安定性を有し、耐水性及び止水性能の高い皮膜を得ることができる。
【0024】
本発明の熱現像性感光材料は、当該POA変性ビニルアセタール系重合体を含有する。従って、当該熱現像性感光材料は、熱現像性及び現像後の画像安定性に優れる。
【0025】
本発明の導電ペーストは、当該POA変性ビニルアセタール系重合体を含有する。従って、当該導電ペーストは、チキソトロピー性、並びに耐糸引き性、耐にじみ性及び耐シートアタック性といった印刷適性に優れる。
【0026】
本発明のペレットは、当該POA変性ビニルアセタール系重合体を含有する。従って、当該ペレットは、見かけ比重が大きく取り扱い性が良好で、かつ製造時及び取り扱い時に臭気の発生がほとんどないという特性を備えている。
【0027】
本発明のフィルムは、当該POA変性ビニルアセタール系重合体を含有し、かつ可塑剤を含まない。当該フィルムは、当該POA変性ビニルアセタール系重合体を含有することで内部可塑性に優れ、可塑剤を含まなくてもフィルムが硬くならず十分な取り扱い性を有するとともに、液滴の発生を抑制することができる。
【0028】
本発明のポリオキシアルキレン変性ビニルアセタール系重合体の製造方法は、
下記式(3)で表される不飽和単量体とビニルエステル系単量体との共重合により、粘度平均重合度が150以上5,000以下、上記不飽和単量体単位の含有率が0.05モル%以上10モル%以下のポリオキシアルキレン変性ビニルエステル系重合体を得る工程、
上記ポリオキシアルキレン変性ビニルエステル系重合体のけん化により、けん化度が20モル%以上99.99モル%以下のポリオキシアルキレン変性ビニルアルコール系重合体を得る工程、及び
上記ポリオキシアルキレン変性ビニルアルコール系重合体のアセタール化により、アセタール化度が10モル%以上85モル%以下のポリオキシアルキレン変性ビニルアセタール系重合体を得る工程
を有する。
【0029】
【化3】
(式(3)中、R
3は、水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基である。R
4は、水素原子又はメチル基である。Xは−O−、−CH
2−O−、−CO−、−(CH
2)
k−、−COO−又は−CO−NR
5−である。R
5は、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基である。kは、1〜15の整数である。Yは、下記式(1)で表されるブロック及び下記式(2)で表されるブロックを含む基である。)
【0030】
【化4】
(式(1)中、R
1及びR
2は、いずれか一方がメチル基であり、他方が水素原子である。mは、繰り返し単位数を表し、10以上40以下の整数である。複数のR
1及びR
2は、それぞれ同一でも異なっていてもよい。)
【0031】
【化5】
(式(2)中、nは、繰り返し単位数を表し、1以上50以下の整数である。)
【0032】
本発明の製造方法によれば、十分な可塑性、アルコール系溶媒への溶解性、その溶液の低粘性及び粘度安定性を有し、他の成分と相分離を起こし難く、粒子の分散性及びチキソトロピー性に優れたスラリーや、強度、剥離性及び柔軟性に優れたシート等を得ることができるPOA変性ビニルアセタール系重合体を容易に製造することができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明のPOA変性ビニルアセタール系重合体は、ガラス転移点が低く優れた可塑性を有する。また、当該POA変性ビニルアセタール系重合体は、アルコール系溶媒への溶解度は高く、その溶液粘度は低く、溶液粘度の経時安定性も十分満足する。また、当該POA変性ビニルアセタール系重合体を各種バインダーとして使用した組成物は、相分離を起こし難く、粒子等の高い分散性、及びチキソトロピー性を示す。さらに、本発明のPOA変性ビニルアセタール系重合体は内部的に可塑化するため、可塑剤の使用量を少なくしても熱可塑的な加工が可能である。従って、当該POA変性ビニルアセタール系重合体を用いることで、多量の可塑剤添加による物性の低下等の問題を回避することができ、強度、剥離容易性及び柔軟性に優れるフィルム、シート等を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0034】
<POA変性ビニルアセタール系重合体>
本発明のPOA変性ビニルアセタール系重合体は、POA変性PVAをアセタール化して得られ、下記式(1)で表されるブロック(以下、「ブロック(1)」ともいう)及び下記式(2)で表されるブロック(以下、「ブロック(2)」ともいう)を含む単量体単位を含有し、この単量体単位の含有率(以下、「POA基変性率」ともいう)が0.05モル%以上10モル%以下であり、粘度平均重合度が150以上5,000以下、かつアセタール化度が10モル%以上85モル%以下であることを特徴とする。以下に、当該POA変性ビニルアセタール系重合体の原料であるPOA変性PVAについて説明する。
【0035】
[POA変性PVA]
上記POA変性PVAとしては、ブロック(1)及びブロック(2)を含む単量体単位を含有し、上記単量体単位の含有率が0.05モル%以上10モル%以下であり、粘度平均重合度が150以上5,000以下のものが用いられる。上記POA変性PVAがブロック(1)及びブロック(2)を含む単量体単位を含有することで、得られる当該POA変性ビニルアセタール系重合体は、優れた内部可塑性を発揮する。このときのメカニズムの詳細は明らかになっていないが、例えば当該POA変性ビニルアセタール系重合体の分子間における、POA基同士の疎水性相互作用が高まり、その結果、内部可塑性が向上すること等が挙げられる。
【0038】
(ブロック(1))
式(1)中、R
1及びR
2は、いずれか一方がメチル基であり、他方が水素原子である。mは、繰り返し単位数を表し、10以上40以下の整数である。複数のR
1及びR
2は、それぞれ同一でも異なっていてもよい。
【0039】
ブロック(1)としては、オキシプロピレンユニットの繰り返し単位数がmであるポリオキシプロピレンブロック、オキシブチレンユニットの繰り返し単位数がmであるポリオキシブチレンブロック等が挙げられる。
【0040】
ブロック(1)中のオキシアルキレンユニットの繰り返し単位数mとしては、10以上40以下の整数である必要があり、15以上38以下が好ましく、20以上35以下がより好ましい。mが10未満の場合、当該POA変性ビニルアセタール系重合体の分子間におけるPOA基同士の疎水性相互作用に起因する内部可塑性が十分に発現しない場合がある。
【0041】
式(1)において、R
1がメチル基であり、R
2が水素原子であることが上記POA変性PVAを製造し易いため好ましい。
【0042】
(ブロック(2))
式(2)中、nは、繰り返し単位数を表し、1以上50以下の整数である。
【0043】
ブロック(2)は、オキシエチレンユニットの繰り返し単位数がnである(ポリ)オキシエチレンブロックである。
【0044】
nとしては、3以上40以下の整数が好ましく、5以上10以下の整数がより好ましい。nが0の場合、POA基同士の疎水性相互作用が不十分なため、当該POA変性ビニルアセタール系重合体の内部可塑化効果、アルコール溶媒への高い溶解性等が十分に発現しない場合がある。一方、nが50を超える場合、当該POA変性ビニルアセタール系重合体のアルコール溶媒への溶解性が低下する場合がある。
【0045】
上記単量体単位は、上記ブロック(1)又はブロック(2)とは異なるブロック(a)をさらに含んでいてもよい。このブロック(a)としては、例えば、ポリオキシペンチレンブロック、ポリオキシへキシレンブロック、ポリオキシスチレンブロック、ポリアルキレンブロック、繰り返し単位数51以上70以下のポリオキシエチレンブロック等が挙げられる。
【0046】
これらのブロック(1)、ブロック(2)及びブロック(a)はそれぞれ、上記POA変性PVAの主鎖、側鎖及び末端のいずれに含まれていてもよいが、上述の相互作用を強める観点及び合成容易性の観点からは、側鎖に含まれることが好ましい。ここで「主鎖」とは、POA変性PVAを構成する複数の原子が結合されてなる鎖のうち、最も長いものをいう。「側鎖」とは、POA変性PVAにおける鎖のうち、主鎖以外のものをいう。
【0047】
また、上記単量体単位は、ブロック(1)及びブロック(2)を共に側鎖に有することが好ましい。またこの場合、側鎖において、ブロック(1)はブロック(2)に対し、主鎖側及びその反対側のいずれに位置してもよいが、主鎖側に位置することが好ましい。さらに、この場合、ブロック(1)とブロック(2)とは直接結合していることが好ましい。このようなブロック(1)とブロック(2)の位置とすることにより、上述の疎水性相互作用をさらに促進することができ、その結果、当該POA変性ビニルアセタール系重合体の諸性能をさらに向上させることができる。
【0048】
上記POA変性PVAは、POA基を含む単量体単位とビニルアルコール単位(−CH
2−CHOH−)とを含む共重合体であり、さらに他の単量体単位を有していてもよい。
【0049】
上記POA変性PVAのけん化度としては、20〜99.99モル%が好ましく、40〜99.9モル%がより好ましく、70〜99.9モル%が特に好ましく、80〜99.9モル%が最も好ましい。けん化度が20モル%未満の場合には、POA変性PVAの水溶性が低下し、上記POA変性PVAの水溶液の調製が困難であるため、変性ビニルアセタール系重合体の製造を水溶液中で行うことが困難になる。結果としてアセタール化度が低下するので、得られる当該POA変性ビニルアセタール系重合体の諸性能が低下する場合がある。けん化度が99.99モル%を超えると、上記POA変性PVAの生産が困難になるので実用的でない。なお、上記POA変性PVAのけん化度は、JIS−K6726に準じて測定し得られる値である。
【0050】
上記POA変性PVAとしては、POA基変性率が0.05モル%以上10モル%以下のものが用いられ、0.1モル%以上2モル%以下が好ましく、0.2モル%以上1モル%以下がより好ましい。POA基変性率が10モル%を超えると、POA変性PVA一分子あたりに含まれる疎水基の割合が高くなり、このPVAの水溶性が低下し、後述するアセタール化反応を水溶液中で行うことが困難になる場合がある。一方、POA基変性率が0.05モル%未満の場合、POA変性PVAの水溶性は優れているものの、このPVA中に含まれるPOA基の数が少なく、POA変性に基づく物性が発現しない場合がある。
【0051】
POA基変性率は、POA変性PVAを構成する全単量体単位のモル数に占める、上記ブロック(1)及び上記ブロック(2)を有する単量体単位のモル数の割合(モル%)である。POA基変性率は、POA変性PVAから求めてもよいし、その前駆体であるPOA変性ビニルエステル系重合体から求めてもよく、いずれもプロトンNMRで求めることができる。
【0052】
上記POA変性PVAがビニルアルコール単位、酢酸ビニル単位及び上記式(3)で表される不飽和単量体単位としてのポリオキシプロピレン(ポリ)オキシエチレンモノメタクリルアミド単位のみからなる場合は、下記方法によりPOA基変性率を算出することができる。すなわち、例えば、前駆体であるPOA変性ビニルエステル系重合体(POA変性ポリ酢酸ビニル)から求める場合、具体的には、まず、n−ヘキサン/アセトン混合溶媒を用いてPOA変性ビニルエステル系重合体の再沈精製を3回以上十分に行った後、50℃の減圧下で乾燥を2日間行い、分析用のPOA変性ビニルエステル系重合体のサンプルを作製する。次に、このサンプルをCDCl
3に溶解させ、プロトンNMRを用いて室温で測定する。そして、ビニルエステル系単量体の主鎖メチンのプロトンに由来するピークα(4.7〜5.2ppm)の面積とオキシプロピレンユニットの末端メチル基のプロトンに由来するピークβ(0.8〜1.0ppm)の面積とから下記式を用いてPOA基変性率を算出することができる。なお、下記式中のmはオキシプロピレンユニットの繰り返し単位数を表す。
POA基変性率(モル%)=[(ピークβの面積/3m)/{ピークαの面積+(ピークβの面積/3m)}]×100
【0053】
POA変性PVAが上記構造以外の構造を有する場合であっても、算出の対象とするピークや算出式を適宜変更することにより、上記POA基変性率を容易に求めることができる。
【0054】
本発明に使用されるPOA変性PVAの粘度平均重合度(以下、「重合度」と略記することがある)は、JIS K6726に準じて測定される。すなわち、上記PVAを再けん化し、精製した後、30℃の水中で測定した極限粘度[η](単位:デシリットル/g)から次式により求められる。POA変性PVAとして、2種以上のPVAを混合して用いる場合は、混合後のPVA全体の見掛け上の粘度平均重合度をその場合の粘度平均重合度Pとする。
重合度P=([η]×10
3/8.29)
(1/0.62)
【0055】
当該POA変性ビニルアセタール系重合体の原料として用いられるPOA変性PVAの重合度Pとしては、150以上5,000以下のものが用いられる。重合度Pが5,000を超えると、上記POA変性PVAの生産性が低下して実用的でない。上記POA変性PVAの重合度Pの下限としては、200が好ましく、500がより好ましく、800が特に好ましく、1,000が最も好ましい。一方、上記POA変性PVAの重合度Pの上限としては、4,500が好ましく、3,500がより好ましい。
【0056】
なお、当該POA変性ビニルアセタール系重合体の重合度Pは、当該POA変性ビニルアセタール系重合体の製造に用いられるPOA変性PVAの重合度から求められる。つまり、アセタール化により重合度が変化することはないため、POA変性PVAの重合度と、それをアセタール化して得られるPOA変性ビニルアセタール系重合体の重合度は同じである。
【0057】
[POA変性ビニルアセタール系重合体]
当該POA変性ビニルアセタール系重合体は、上述のPOA変性PVAを従来公知の方法に従ってアセタール化することにより得られる。当該POA変性ビニルアセタール系重合体において、アセタール化度は10モル%以上85モル%以下であり、35モル%以上85モル%以上が好ましく、50モル%以上85モル%以下がより好ましい。アセタール化度を上記範囲とすることで、当該POA変性ビニルアセタール系重合体のアルコール系溶媒に対する溶解性等をより向上させることができると共に、より一層強靭性に優れるアルキル変性ビニルアセタール系重合体を容易に得ることができる。アセタール化度が10モル%未満の場合、工業的に得る事が難しく、生産性の低下を招く。一方、アセタール化度が85モル%を超える場合、反応性の観点から工業的に得る事が難しくなるだけでなく、残存水酸基が少なくなり、POA変性ビニルアセタール系重合体の強靭性が損なわれる。POA変性ビニルアセタール系重合体のアセタール化度を調整するには、POA変性PVAに対するアルデヒドの添加量、アルデヒドと酸を添加した後の反応時間等を適宜調整すればよい。
【0058】
ここで、POA変性ビニルアセタール系重合体のアセタール化度とは、POA変性ビニルアセタール系重合体を構成する全単量体単位に対する、アセタール化されたビニルアルコール単位の割合を表し、このPOA変性ビニルアセタール系重合体のDMSO−d
6(ジメチルスルホキサイド)溶液を試料として
1H−NMR測定を行い、得られたスペクトルから算出することができる。
【0059】
本発明のPOA変性ビニルアセタール系重合体の粘度平均重合度Pは、150以上5,000以下である必要がある。POA変性ビニルアセタール系重合体の重合度Pが150未満であると、薄膜セラミックグリーンシート等のシート又はフィルムを作製する場合に、得られるシート又はフィルムの機械的強度が不充分となる。一方、POA変性ビニルアセタール系重合体の重合度Pが5,000を超えると、アルコール系溶媒に充分に溶解しない、溶液粘度が高くなりすぎること等により、塗工性や分散性が低下する場合がある。POA変性ビニルアセタール系重合体の重合度Pの下限としては、200が好ましく、500がより好ましく、800が特に好ましく、1,000が最も好ましい。一方、変性ビニルアセタール系重合体の重合度Pの上限としては、4,500が好ましく、3,500がより好ましい。
【0060】
なお、POA変性ビニルアセタール系重合体の粘度平均重合度PはPOA変性ビニルアセタール系重合体の製造に用いられる上記POA変性PVAの粘度平均重合度から求められる。つまり、アセタール化により重合度が変化することはないため、POA変性PVAの重合度と、それをアセタール化して得られるPOA変性ビニルアセタール系重合体の重合度とは同じである。
【0061】
当該POA変性ビニルアセタール系重合体のPOA基変性率としては、0.05モル%以上10モル%以下である必要がある。当該POA変性ビニルアセタール系重合体におけるPOA基変性率の上限としては、2モル%が好ましく、1.5モル%がより好ましい。POA基変性率が10モル%を超えると、上記POA変性PVAの水溶性が低下し、その結果、得られる当該POA変性ビニルアセタール系重合体のアセタール化度が低下するので、当該POA変性ビニルアセタール系重合体の諸性能が低下する場合がある。一方、POA基変性率が0.05モル%未満の場合、POA変性ビニルアセタール系重合体中に含まれるPOA基の数が少なく、POA変性に基づく物性が発現しない場合がある。POA基変性率の下限としては、0.1モル%が好ましく、0.2モル%がより好ましい。
【0062】
POA変性ビニルアセタール系重合体のPOA基変性率とは、POA変性ビニルアセタール系重合体を構成する全単量体単位のモル数に占める、上記ブロック(1)及びブロック(2)を有する単量体単位のモル数の割合(モル%)である。POA変性PVAをアセタール化しても、当該分子中の全単量体単位のモル数に占める、上記ブロック(1)及びブロック(2)を有する不飽和単量体由来の単位のモル数の割合(モル%)は変わらない。したがって、上述したPOA変性PVAのPOA基変性率と、それをアセタール化して得られるPOA変性ビニルアセタール系重合体のPOA基変性率は同じである。
【0063】
当該POA変性ビニルアセタール系重合体のPOA基変性率は、このPOA変性ビニルアセタール系重合体から求めてもよく、その前駆体であるPOA変性PVA又はPOA変性ビニルエステル系重合体から求めてもよく、いずれもプロトンNMRで求めることができる。POA変性ビニルエステル系重合体からPOA変性ビニルアセタール系重合体のPOA基変性率を求める場合、POA変性PVAのPOA基変性率を求める方法として上述した方法により求めることができる。
【0064】
本発明のPOA変性ビニルアセタール系重合体において、ビニルエステル系単量体単位の含有量としては、0.01モル%以上29.9モル%以下が好ましい。ビニルエステル系単量体単位の含有量が0.01モル%未満であると、POA変性ビニルアセタール系重合体中の水酸基による分子内及び分子間の水素結合が増加する。そのため、セラミックグリーンシート用スラリー組成物とした際に、粘度が高くなり過ぎたり、有機溶媒への溶解性が高くなり過ぎて、シートアタック現象を生じる場合がある。一方、ビニルエステル系単量体単位の含有量が29.9モル%を超えると、当該POA変性ビニルアセタール系重合体のガラス転移温度が低下し、柔軟になり過ぎる。そのため、当該POA変性ビニルアセタール系重合体を用いて作製したセラミックグリーンシートのハンドリング性、機械的強度及び加熱圧着時の寸法安定性が悪化する場合がある。ビニルエステル系単量体単位の含有量の下限としては、0.5モル%がより好ましい。一方、ビニルエステル系単量体単位の含有量の上限としては、23モル%がより好ましく、20モル%がさらに好ましい。なお、ビニルエステル系単量体単位の含有量が0.01〜29.9モル%である変性ビニルアセタール系重合体は、ビニルエステル系単量体単位の含有量が0.01〜29.9モル%であるPOA変性PVAをアセタール化することにより得られる。すなわち、けん化度が70.0〜99.99モル%であるPOA変性PVAをアセタール化することにより得られる。
【0065】
本発明のPOA変性ビニルアセタール系重合体において、ビニルアルコール系単量体単位の含有量としては、20モル%以上60モル%以下が好ましい。ビニルアルコール系単量体単位の含有量が20モル%未満であると、当該POA変性ビニルアセタール系重合体を用いて作製したセラミックグリーンシートの強度が低下したり、有機溶媒への溶解性が低くなり過ぎて、シートアタック現象を生じる場合がある。一方、ビニルアルコール系単量体単位の含有量が60モル%を超えると、POA変性ビニルアセタール系重合体中の水酸基による分子内及び分子間の水素結合が増加する。そのため、セラミックグリーンシート用スラリー組成物とした際に、粘度が高くなり過ぎる場合がある。
【0066】
<POA変性ビニルアセタール系重合体の製造方法>
本発明のPOA変性ビニルアセタール系重合体の製造方法は、
上記式(3)で表される不飽和単量体とビニルエステル系単量体との共重合により、粘度平均重合度Pが150以上5,000以下、上記不飽和単量体単位の含有率が0.05モル%以上10モル%以下のポリオキシアルキレン変性ビニルエステル系重合体を得る工程(以下、「工程(1)」ともいう)、
上記ポリオキシアルキレン変性ビニルエステル系重合体のけん化により、けん化度が20モル%以上99.99モル%以下のPOA変性PVAを得る工程(以下、「工程(2)」ともいう)、及び
上記POA変性PVAのアセタール化により、アセタール化度が10モル%以上85モル%以下のPOA変性ビニルアセタール系重合体を得る工程(以下、「工程(3)」ともいう)
を有する。各工程の具体的な方法について以下に詳述する。
【0067】
[工程(1)]
本工程は、上記式(3)で表される不飽和単量体とビニルエステル系単量体との共重合により、粘度平均重合度Pが150以上5,000以下、上記不飽和単量体単位の含有率が0.05モル%以上10モル%以下のポリオキシアルキレン変性ビニルエステル系重合体を得る工程である。
【0068】
式(3)中、R
3は、水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基である。R
4は、水素原子又はメチル基である。Xは−O−、−CH
2−O−、−CO−、−(CH
2)
k−、−COO−又は−CO−NR
5−である。R
5は、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基である。kは、1〜15の整数である。Yは、下記式(1)で表されるブロック及び下記式(2)で表されるブロックを含む基である。
【0069】
上記R
3で表される炭素数1〜8のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等が挙げられる。上記R
3としては、水素原子、メチル基、ブチル基が好ましく、水素原子、メチル基がより好ましい。
【0070】
上記式(3)において上記Xが非対称、すなわち−CH
2−O−、−COO−又は−CO−NR
5−の場合、Xの向きはいずれでもよい。上記Xとしては、−O−、−CH
2−O−、−CO−NR
5−が好ましく、−CO−NR
5−がより好ましく、−CO−NH−がさらに好ましい。上記R
5としては、水素原子が好ましい。
【0071】
上記Yで表される基の向き(ブロック(1)、ブロック(2)の配置等)としては、上記説明したとおりである。
【0072】
上記式(3)で表される不飽和単量体としては、下記式(3−1)又は(3−2)で表される不飽和単量体が好ましく、下記式(3−1)で表される不飽和単量体がより好ましい。
【0074】
式(3−1)及び(3−2)中、R
1、R
2及びmは上記式(1)と同様である。nは、上記式(2)と同様である。R
3、R
4及びXは上記式(3)と同様である。「b」は、両隣の単位がブロック共重合により形成されることを示す。
【0075】
上記式(3)のR
3が水素原子、R
4が水素原子又はメチル基の場合、上記式(3)で表される不飽和単量体としては、ポリオキシアルキレンモノ(メタ)アクリルアミド、ポリオキシアルキレンモノ(メタ)アリルエーテル、ポリオキシアルキレンモノビニルエーテル、ポリオキシアルキレンモノ(メタ)アクリレート等が挙げられ、具体的には、ポリオキシプロピレン(ポリ)オキシエチレンモノアクリルアミド、ポリオキシプロピレン(ポリ)オキシエチレンモノメタクリルアミド、ポリオキシプロピレン(ポリ)オキシエチレンモノアリルエーテル、ポリオキシプロピレン(ポリ)オキシエチレンモノメタアリルエーテル、ポリオキシプロピレン(ポリ)オキシエチレンモノビニルエーテル、ポリオキシプロピレン(ポリ)オキシエチレンモノアクリレート、ポリオキシプロピレン(ポリ)オキシエチレンモノメタクリレート等が挙げられる。
【0076】
これらのうち、ポリオキシプロピレン(ポリ)オキシエチレンモノアクリルアミド、ポリオキシプロピレン(ポリ)オキシエチレンモノメタクリルアミド、ポリオキシプロピレン(ポリ)オキシエチレンモノビニルエーテル、ポリオキシプロピレン(ポリ)オキシエチレンモノアリルエーテルが好ましい。
【0077】
上記式(3)のR
3が炭素数1〜8のアルキル基の場合、式(3−1)で表される不飽和単量体としては、例えば、式(3−1)のR
3が水素原子の場合に例示した上記の不飽和単量体の末端の水酸基が炭素数1〜8のアルコキシ基に置換されたもの等が挙げられる。これらのうち、ポリオキシプロピレン(ポリ)オキシエチレンモノメタクリルアミド、ポリオキシプロピレン(ポリ)オキシエチレンモノアリルエーテル、ポリオキシプロピレン(ポリ)オキシエチレンモノビニルエーテルの末端の水酸基がメトキシ基に置換された不飽和単量体が好ましい。
【0078】
上記式(3)で示される不飽和単量体とビニルエステル系単量体との共重合を行う際の温度は特に限定されないが、0℃以上200℃以下が好ましく、30℃以上140℃以下がより好ましい。共重合を行う温度が0℃より低い場合は、十分な重合速度が得られにくい。また、重合を行う温度が200℃より高い場合、本発明で規定するPOA基変性率を有するPOA変性PVAが得られにくい。共重合を行う際に採用される温度を0℃以上200℃以下に制御する方法としては、例えば、重合速度を制御することで、重合による発熱と反応器の表面からの放熱とのバランスをとる方法や、適当な熱媒を用いた外部ジャケットにより制御する方法等が挙げられる。安全性の面からは後者の方法が好ましい。
【0079】
上記式(3)で示される不飽和単量体とビニルエステル系単量体との共重合を行うのに採用される重合方式としては、回分重合、半回分重合、連続重合、半連続重合のいずれでもよい。重合方法としては、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等公知の方法の中から、任意の方法を採用することができる。その中でも、無溶媒又はアルコール系溶媒存在下で重合を行う塊状重合法や溶液重合法が好ましい。高重合度の共重合物の製造を目的とする場合は乳化重合法が採用される。塊状重合法又は溶液重合法に用いられるアルコール系溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、n−プロパノール等を用いることができる。またこれらの溶媒は2種以上を併用してもよい。
【0080】
共重合に使用される開始剤としては、重合方法に応じて従来公知のアゾ系開始剤、過酸化物系開始剤、レドックス系開始剤等を適宜選ばれる。アゾ系開始剤としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)等が挙げられ、過酸化物系開始剤としては、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジエトキシエチルパーオキシジカーボネート等のパーカーボネート化合物;t−ブチルパーオキシネオデカネート、α−クミルパーオキシネオデカネート、t−ブチルパーオキシデカネート等のパーエステル化合物;アセチルシクロヘキシルスルホニルパーオキシド;2,4,4−トリメチルペンチル−2−パーオキシフェノキシアセテート等が挙げられる。さらには、上記開始剤に過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素等を組み合わせて開始剤とすることもできる。また、レドックス系開始剤としては、上記の過酸化物と亜硫酸水素ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、酒石酸、L−アスコルビン酸、ロンガリット等の還元剤とを組み合わせたものが挙げられる。
【0081】
また、上記式(3)で示される不飽和単量体とビニルエステル系単量体との共重合を高い温度で行った場合、ビニルエステル系単量体の分解に起因するPOA変性PVAの着色等が見られることがある。その場合には着色防止の目的で重合系に酒石酸のような酸化防止剤を1ppm以上100ppm以下(ビニルエステル系単量体の質量に対して)程度添加してもよい。
【0082】
共重合に使用されるビニルエステル系単量体としては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル、ラウリン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、オレイン酸ビニル、安息香酸ビニル等が挙げられる。これらのうち、酢酸ビニルが最も好ましい。
【0083】
上記式(3)で示される不飽和単量体とビニルエステル系単量体との共重合に際して、本発明の効果を損なわない範囲で他の単量体を共重合してもよい。使用しうる単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、n−ブテン、イソブチレン等のα−オレフィン;アクリル酸及びその塩;アクリル酸エステル類;メタクリル酸及びその塩;メタクリル酸エステル類;アクリルアミド;N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミドプロパンスルホン酸及びその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミン及びその塩又はその4級塩、N−メチロールアクリルアミド及びその誘導体等のアクリルアミド誘導体;メタクリルアミド;N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド、メタクリルアミドプロパンスルホン酸及びその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミン及びその塩又はその4級塩、N−メチロールメタクリルアミド及びその誘導体等のメタクリルアミド誘導体;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、i−ブチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテル、2,3−ジアセトキシ−1−ビニルオキシプロパン等のビニルエーテル類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル類;塩化ビニル、フッ化ビニル等のハロゲン化ビニル類;塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニリデン類;酢酸アリル、2,3−ジアセトキシ−1−アリルオキシプロパン、塩化アリル等のアリル化合物;マレイン酸、イタコン酸、フマル酸等の不飽和ジカルボン酸及びその塩又はそのエステル;ビニルトリメトキシシラン等のビニルシリル化合物;酢酸イソプロペニル等が挙げられる。
【0084】
さらに、他の単量体として、本発明の効果を損なわない範囲で、α−オレフィン単位を与える単量体を共重合してもよい。上記α−オレフィン単位の含有量としては、1モル%以上20モル%以下が好ましい。
【0085】
上記式(3)で示される不飽和単量体とビニルエステル系単量体との共重合に際し、得られるPOA変性ビニルエステル系重合体の重合度を調節すること等を目的として、本発明の効果を損なわない範囲で、連鎖移動剤の存在下で共重合を行ってもよい。連鎖移動剤としては、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド等のアルデヒド類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;2−ヒドロキシエタンチオール等のメルカプタン類;トリクロロエチレン、パークロロエチレン等のハロゲン化炭化水素類;ホスフィン酸ナトリウム1水和物等のホスフィン酸塩類等が挙げられる。これらのうち、アルデヒド類及びケトン類が好ましい。連鎖移動剤の添加量は、添加する連鎖移動剤の連鎖移動定数及び目的とするPOA変性ビニルエステル系重合体の重合度に応じて決定すればよい。通常、ビニルエステル系単量体に対して0.1質量%以上10質量%以下が好ましい。
【0086】
[工程(2)]
本工程は、上記POA変性ビニルエステル系重合体のけん化により、けん化度が20モル%以上99.99モル%以下のPOA変性PVAを得る工程である。
【0087】
得られたPOA変性ビニルエステル系重合体のけん化反応には、従来公知の水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメトキシド等の塩基性触媒又はp−トルエンスルホン酸等の酸性触媒を用いた加アルコール分解反応ないし加水分解反応を適用することができる。この反応に使用しうる溶媒としては、メタノール、エタノール等のアルコール類;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素等が挙げられる。これらは単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でもメタノール又はメタノール/酢酸メチル混合溶液を溶媒とし、水酸化ナトリウムを触媒に用いてけん化反応を行うのが簡便であり好ましい。
【0088】
[工程(3)]
本工程は、上記POA変性PVAのアセタール化により、アセタール化度が10モル%以上85モル%以下のPOA変性ビニルアセタール系重合体を得る工程である。
【0089】
本発明におけるアセタール化の手法としては、一般的に一段法と二段法とがあり、いずれを採用してもよい。
【0090】
上記二段法は、POA変性ビニルエステル系重合体のけん化と生成したPOA変性PVAのアセタール化を別々の反応器で行う手法である。上記二段法はさらに、沈殿法と溶解法に大別される。沈殿法としては、POA変性PVAの水溶液を用い、水を主体とした溶媒中、低温でPOA変性PVAのアセタール化反応を行い、POA変性ビニルアセタール系重合体が析出した後、系の温度を上げて熟成反応(アセタール化反応の完結とアセタール化部分の再配列)させる方法が好ましい。溶解法においては、イソプロパノール等のアルコール系溶媒中、又はこれに水等を併用した混合溶液中、高温でPOA変性PVAのアセタール化反応を行った後、系に水等を加えてPOA変性ビニルアセタール系重合体を沈殿析出させる。一方、上記一段法においては、POA変性ビニルエステル系重合体のけん化と、生成したPOA変性PVAのアセタール化をワンポットで行う。
【0091】
上記のアセタール化の手法のうち、沈殿法をさらに具体的に説明する。3質量%以上15質量%以下のPOA変性PVAの水溶液を、80℃以上100℃以下の温度範囲に調温した後に、10分以上60分以下かけて徐々に冷却する。温度が−10℃以上40℃以下まで低下したところで、アルデヒド及び酸触媒を添加し、温度を一定に保ちながら、10分間以上300分間以下アセタール化反応を行う。このときのアルデヒドの使用量としては、POA変性PVA100質量部に対し、10質量部以上150質量部以下が好ましい。その後反応液を30分以上200分以下かけて、15℃以上80℃以下の温度まで昇温し、その温度を0分以上360分間以下保持する熟成工程を含むことが好ましい。次に、反応液を、好適には室温まで冷却し、水洗した後、アルカリ等の中和剤を添加し、洗浄、乾燥することにより、目的とするPOA変性ビニルアセタール系重合体が得られる。
【0092】
アセタール化反応に使用できるアルデヒドとしては、例えば、ホルムアルデヒド(パラホルムアルデヒドを含む)、アセトアルデヒド(パラアセトアルデヒドを含む)、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、2−エチルブチルアルデヒド、バレルアルデヒド、ピバルアルデヒド、アミルアルデヒド、ヘキシルアルデヒド、ヘプチルアルデヒド、2−エチルヘキシルアルデヒド、オクチルアルデヒド、ノニルアルデヒド、デシルアルデヒド、ドデシルアルデヒド等の脂肪族アルデヒド;シクロペンタンアルデヒド、メチルシクロペンタンアルデヒド、ジメチルシクロペンタンアルデヒド、シクロヘキサンアルデヒド、メチルシクロヘキサンアルデヒド、ジメチルシクロヘキサンアルデヒド、シクロヘキサンアセトアルデヒド等の脂環族アルデヒド;シクロペンテンアルデヒド、シクロヘキセンアルデヒド等の環式不飽和アルデヒド;ベンズアルデヒド、2−メチルベンズアルデヒド、3−メチルベンズアルデヒド、4−メチルベンズアルデヒド、ジメチルベンズアルデヒド、メトキシベンズアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、β−フェニルプロピオンアルデヒド、クミンアルデヒド、ナフチルアルデヒド、アントラアルデヒド、シンナムアルデヒド、クロトンアルデヒド、アクロレインアルデヒド、7−オクテン−1−アール等の芳香族又は不飽和結合含有アルデヒド;フルフラール、メチルフルフラール等の複素環アルデヒド等が挙げられる。
【0093】
これらの中でも、炭素数2〜8のアルデヒドが好ましく、ブチルアルデヒド及びアセトアルデヒドからなる群より選ばれる少なくとも1種がより好ましく、ブチルアルデヒドが特に好ましい。これらは単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。このような上記特定のアルデヒドを用いてアセタール化することで、当該POA変性ビニルアセタール系重合体の製造を効率的に行うことができる。なお、これらは単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0094】
また、本発明の特性を損なわない範囲で、水酸基、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基等を官能基として有するアルデヒドを使用してもよい。このようなアルデヒドとしては、例えば、ヒドロキシアセトアルデヒド、ヒドロキシプロピオンアルデヒド、ヒドロキシブチルアルデヒド、ヒドロキシペンチルアルデヒド、サリチルアルデヒド、p−ヒドロキシベンズアルデヒド、m−ヒドロキシベンズアルデヒド、ジヒドロキシベンズアルデヒド等の水酸基含有アルデヒド;グリオキシル酸、2−ホルミル酢酸、3−ホルミルプロピオン酸、5−ホルミルペンタン酸、4−ホルミルフェノキシ酢酸、2−カルボキシベンズアルデヒド、4−カルボキシベンズアルデヒド、2,4−ジカルボキシベンズアルデヒド、ベンズアルデヒド2−スルホン酸、ベンズアルデヒド−2,4−ジスルホン酸、4−ホルミルフェノキシスルホン酸、3−ホルミル−1−プロパンスルホン酸、7−ホルミル−1−ヘプタンスルホン酸、4−ホルミルフェノキシホスホン酸等の酸含有アルデヒド、その金属塩又はアンモニウム塩等が挙げられる。
【0095】
さらに、本発明の効果を損なわない範囲で、アミノ基、シアノ基、ニトロ基又は4級アンモニウム塩等を官能基として有するアルデヒドを使用してもよい。このようなアルデヒドとしては、例えば、アミノアセトアルデヒド、ジメチルアミノアセトアルデヒド、ジエチルアミノアセトアルデヒド、アミノプロピオンアルデヒド、ジメチルアミノプロピオンアルデヒド、アミノブチルアルデヒド、アミノペンチルアルデヒド、アミノベンズアルデヒド、ジメチルアミノベンズアルデヒド、エチルメチルアミノベンズアルデヒド、ジエチルアミノベンズアルデヒド、ピロリジルアセトアルデヒド、ピペリジルアセトアルデヒド、ピリジルアセトアルデヒド、シアノアセトアルデヒド、α−シアノプロピオンアルデヒド、ニトロベンズアルデヒド、トリメチル−p−ホルミルフェニルアンモニウムイオダイン、トリエチル−p−ホルミルフェニルアンモニウムイオダイン、トリメチル−2−ホルミルエチルアンモニウムイオダイン等が挙げられる。
【0096】
さらに、本発明の効果を損なわない範囲で、ハロゲンを官能基として有するアルデヒドを使用してもよい。このようなアルデヒドとしては、例えば、クロロアセトアルデヒド、ブロモアセトアルデヒド、フルオロアセトアルデヒド、クロロプロピオンアルデヒド、ブロモプロピオンアルデヒド、フルオロプロピオンアルデヒド、クロロブチルアルデヒド、ブロモブチルアルデヒド、フルオロブチルアルデヒド、クロロペンチルアルデヒド、ブロモペンチルアルデヒド、フルオロペンチルアルデヒド、クロロベンズアルデヒド、ジクロロベンズアルデヒド、トリクロロベンズアルデヒド、ブロモベンズアルデヒド、ジブロモベンズアルデヒド、トリブロモベンズアルデヒド、フルオロベンズアルデヒド、ジフルオロベンズアルデヒド、トリフルオロベンズアルデヒド、トリクロロメチルベンズアルデヒド、トリブロモメチルベンズアルデヒド、トリフルオロメチルベンズアルデヒド及びそのアルキルアセタール等が挙げられる。
【0097】
POA変性PVAのアセタール化に際して、上記のアルデヒドの他に、グリオキザール、グルタルアルデヒド等の多価アルデヒドを併用してもよい。しかしながら、POA変性PVAを多価アルデヒドでアセタール化した場合、架橋部位と未架橋部位の応力緩和力が異なるため、フィルム等の成形物とした際に反りが生じることがある。従って、使用するアルデヒドはモノアルデヒドのみであることが好ましく、多価アルデヒド基を使用する場合であっても、使用量はPOA変性PVAのビニルアルコール単位に対して、0.005モル%未満が好ましく、0.003モル%以下がより好ましい。
【0098】
なお、アセタール化に際しては、上記に例示したアルデヒドのアルキルアセタールも同様に使用することができる。
【0099】
アセタール化に用いる酸としては特に限定されず、有機酸及び無機酸のいずれも使用可能であり、例えば、酢酸、パラトルエンスルホン酸、硝酸、硫酸、塩酸等が挙げられる。これらの中でも塩酸、硫酸、硝酸が好ましく、塩酸、硝酸がより好まし。なお、これらの酸は、2種以上を併用してもよい。
【0100】
当該POA変性ビニルアセタール系重合体の用途は特に限定されないが、当該POA変性ビニルアセタール系重合体を含有する組成物は、強度及び柔軟性が高く、セラミックグリーンシートや積層セラミックコンデンサの内部電極のバインダーの他、例えば、塗料、インク、接着剤、粉体塗料等コーティング材料、熱現像性感光材料、ペレット、フィルム等として広く用いることができる。
【0101】
<組成物>
本発明の組成物は、当該POA変性ビニルアセタール系重合体を含有するが、用途に応じ、本発明の効果を損なわない範囲で、酸化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤、接着性改良剤、熱線吸収剤、着色剤、フィラー、流動性改良剤、潤滑剤、分散剤、帯電防止剤、解膠剤、湿潤剤、消泡剤等の添加剤、有機溶媒等の溶媒を含有することが好ましい。これらの添加剤及び溶媒は、POA変性ビニルアセタール系重合体の製造時に添加してもよいし、製造後、各種用途に供する前に添加してもよい。上記添加剤のうち、可塑剤が好ましい。
【0102】
上記可塑剤としては、ビニルアセタール系重合体との相溶性に優れているものであれば特に限定されないが、例えば、フタル酸ジオクチル、フタル酸ベンジルブチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジヘキシル、フタル酸ジ(2−エチルヘキシル)(以下、「DOP」と略記することがある)、フタル酸ジ(2−エチルブチル)等のフタル酸系可塑剤;アジピン酸ジヘキシル、アジピン酸ジ(2−エチルヘキシル)(以下、「DOA」と略記することがある)等のアジピン酸系可塑剤;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール等のグリコール系可塑剤;トリエチレングリコールジブチレート、トリエチレングリコールジ(2−エチルブチレート)、トリエチレングリコールジ(2−エチルヘキサノエート)等のグリコールエステル系可塑剤;リン酸トリクレジル、リン酸トリブチル、リン酸トリエチル等のリン酸系可塑剤等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0103】
上記有機溶媒としては特に限定されず、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、ジプロピルケトン、ジイソブチルケトン等のケトン類;メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール等のアルコール類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸ブチル、ブタン酸メチル、ブタン酸エチル、ブタン酸ブチル、ペンタン酸メチル、ペンタン酸エチル、ペンタン酸ブチル、ヘキサン酸メチル、ヘキサン酸エチル、ヘキサン酸ブチル、酢酸2−エチルヘキシル、酪酸2−エチルヘキシル等のエステル類;メチルセルソルブ、エチルセルソルブ、ブチルセルソルブ、α−テルピネオール、ブチルセルソルブアセテート、ブチルカルビトールアセテート等のグリコール系、テルペン系が挙げられる。これらの有機溶媒は単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0104】
当該組成物としては、当該POA変性ビニルアセタール系重合体、セラミック粉末及び有機溶媒を含有するセラミックグリーンシート用スラリー組成物が好ましい。
【0105】
<セラミックグリーンシート用スラリー組成物>
本発明のセラミックグリーンシート用スラリー組成物は、当該POA変性ビニルアセタール系重合体、セラミック粉末及び有機溶媒を含有する。当該POA変性ビニルアセタール系重合体は、セラミックグリーンシートの製造工程において、一般に用いられるエタノールとトルエンとの1:1混合溶媒又はエタノール等アルコール類に溶解した場合、溶液粘度が高くなりすぎない。そのため、セラミック粉末を凝集させることなく、組成物中に均一に分散させることができる。また、当該組成物は塗工性にも優れる。この点で上記スラリー組成物は特に有用である。
【0106】
セラミックグリーンシート用スラリー組成物として用いられる当該組成物中の当該POA変性ビニルアセタール系重合体の含有量としては、当該組成物全量に対して3質量%以上30質量%以下が好ましい。当該POA変性ビニルアセタール系重合体の含有量を上記範囲とすることで、得られるセラミックグリーンシートの成膜性能がより一層向上する。当該POA変性ビニルアセタール系重合体の含有量が3質量%未満の場合には、セラミック粉末全体に分散されるPOA変性ビニルアセタール系重合体の量が不十分となり、得られるセラミックグリーンシートの造膜性能が劣る、又はセラミックグリーンシートの柔軟性が低下するため、焼結後にクラック等が発生する場合がある。POA変性ビニルアセタール系重合体の含有量が30質量%を超えると本発明のセラミックグリーンシート用スラリー組成物の粘度が高くなり過ぎて分散性が低下する、セラミックグリーンシートから作製された積層コンデンサを脱脂・焼成後にカーボン成分が残留しやすくなる場合がある。当該POA変性ビニルアセタール系重合体の含有量としては、3質量%以上20質量%以下がより好ましい。
【0107】
また、セラミックグリーンシート用スラリー組成物として用いる当該組成物は、バインダー樹脂として当該POA変性ビニルアセタール系重合体の他に無変性ビニルアセタール系重合体、アクリル系重合体、セルロース系重合体を含有してもよい。バインダー樹脂としてアクリル系重合体、セルロース系重合体等を含有する場合、バインダー樹脂全体に占める当該POA変性ビニルアセタール系重合体の含有量の下限としては、得られるセラミックグリーンシートの機械的強度、加熱圧着性の観点から30質量%が好ましい。
【0108】
上記セラミック粉末としては特に限定されず、例えば、アルミナ、ジルコニア、ケイ酸アルミニウム、酸化チタン、酸化亜鉛、チタン酸バリウム、マグネシア、サイアロン、スピネムルライト、結晶化ガラス、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウム等の粉末が挙げられる。これらのセラミック粉末は単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。上記セラミック粉末に、MgO−SiO
2−CaO系、B
2O
3−SiO
2系、PbO−B
2O
3−SiO
2系、CaO−SiO
2−MgO−B
2O
3系又はPbO−SiO
2−B
2O
3−CaO系等のガラスフリットが添加されてもよい。
【0109】
セラミックグリーンシート用スラリー組成物として用いる当該組成物の全量に対するセラミック粉末の含有量の上限としては、80質量%が好ましく、下限としては、30質量%が好ましい。30質量%未満だと粘度が低くなり過ぎてセラミックグリーンシートを成形する際のハンドリング性が悪くなるおそれがあり、80質量%を超えると、セラミックグリーンシート用スラリー組成物の粘度が高くなり過ぎて混練性が低下する傾向にある。
【0110】
セラミックグリーンシート用スラリー組成物として用いる当該組成物に含有される有機溶媒としては、本発明の組成物に用いられる有機溶媒として上述したものが挙げられる。これらの有機溶媒は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。中でもハンドリング性が良好であることから、トルエンとエタノールの混合溶媒、又は、エタノール、α−テルピネオール、ブチルセルソルブアセテート又はブチルカルビトールアセテートが好ましい。
【0111】
セラミックグリーンシート用スラリー組成物として用いる当該組成物の全量に対する有機溶媒の含有量の上限としては、80質量%が好ましく、下限としては、20質量%が好ましい。有機溶媒の含有量を上記範囲とすることで、本発明のセラミックグリーンシート用スラリー組成物に適度な混練性を与えることができる。
【0112】
本発明のセラミックグリーンシート用スラリー組成物として用いる当該組成物に添加する可塑剤としては、揮発性が低く、シートの柔軟性を保ちやすいことから、DOP、DOA、トリエチレングリコール−2−エチルヘキシルが好ましい。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。可塑剤の使用量としては、特に限定されないが、セラミックグリーンシート用スラリー組成物として用いる当該組成物の全量に対して0.1質量%以上10質量%以下が好ましく、1質量%以上8質量%以下がより好ましい。
【0113】
<組成物の調製方法>
当該組成物は、当該POA変性ビニルアセタール系重合体、可塑剤等の添加剤を有機溶媒等の溶媒中に溶解、分散等させることにより調製することができる。具体的には、例えばセラミックグリーンシート用スラリー組成物として用いる当該組成物を調製する方法として当該POA変性ビニルアセタール系重合体を少なくとも含有するバインダー樹脂、セラミック粉末、有機溶媒及び必要に応じて添加する各種添加剤を混合機等を用いて混合する方法が挙げられる。上記混合機としては、ボールミル、ブレンダーミル、3本ロール等の各種混合機が挙げられる。
【0114】
<セラミックグリーンシート>
本発明のセラミックグリーンシートは、上記セラミックグリーンシート用スラリー組成物として用いられる当該組成物から得られる。上述のセラミックグリーンシート用スラリー組成物として用いる当該組成物は上記のような性能を有することから、十分な機械的強度、剥離容易性及び柔軟性を有する薄膜のセラミックグリーンシートを製造することができる。本発明の組成物を用いて得られるセラミックグリーンシートが本発明の好適な実施態様のひとつである。
【0115】
当該セラミックグリーンシートの製造方法としては特に限定されず、従来公知の製造方法により製造することができる。例えば、セラミックグリーンシート用スラリー組成物として用いる当該組成物を、必要に応じて脱泡処理した後、ポリエチレンテレフタレートフィルム等の剥離性の支持体上に塗膜状に塗布し、加熱等により溶媒等を留去した後、支持体から剥離する方法等が挙げられる。
【0116】
<積層セラミックコンデンサ>
本発明のセラミックグリーンシートを用いて得られる積層セラミックコンデンサもまた、本発明の好ましい実施態様のひとつである。当該積層セラミックコンデンサは、当該セラミックグリーンシートと、導電ペーストを用いて得られるものであることが好ましく、当該セラミックグリーンシートに導電ペーストを塗布したものを積層したものであることがより好ましい。
【0117】
当該積層セラミックコンデンサの製造方法としては特に限定されず、従来公知の製造方法により製造することができる。例えば、当該セラミックグリーンシートの表面に内部電極となる導電ペーストをスクリーン印刷等により塗布したものを複数枚積み重ね、加熱圧着して積層体を得、この積層体中に含まれるバインダー成分等を熱分解して除去した後(脱脂処理)、焼成して得られるセラミック焼成物の端面に外部電極を焼結する方法等が挙げられる。
【0118】
<合わせガラス用中間膜>
本発明の合わせガラス用中間膜は、当該POA変性ビニルアセタール系重合体を含有する。従って、当該合わせガラス用中間膜は、高湿度下で長期間曝された際の縁部の耐白化性、耐貫通性、ガラスとの接着性に優れる。
【0119】
<インク>
本発明のインクは、当該POA変性ビニルアセタール系重合体を含有する。従って、当該インクは、溶液粘度が低く十分なインク分散性を有する。すなわち、印刷に用いられるインクが所望の粘度において大きい顔料含有量を有しており、印刷により形成された塗膜の厚さが薄い場合でも、色の強度が大きい等の優れた特長を備え、高速で運転される印刷機に好適に用いることができる。
【0120】
<コーティング剤>
本発明のコーティング剤は、当該POA変性ビニルアセタール系重合体を含有する。従って、当該コーティング剤は、十分な取扱性及び粘度安定性を有し、耐水性及び止水性能の高い皮膜を得ることができる。
【0121】
<熱現像性感光材料>
本発明の熱現像性感光材料は、当該POA変性ビニルアセタール系重合体を含有する。従って、当該熱現像性感光材料は、熱現像性及び現像後の画像安定性に優れ、また熱現像性感光材料の製造の際に調製される塗工液は保存安定性に優れている。
【0122】
<導電ペースト>
本発明の導電ペーストは、当該POA変性ビニルアセタール系重合体を含有する。従って、当該導電ペーストは、チキソトロピー性、並びに耐糸引き性、耐にじみ性及び耐シートアタック性といった印刷適性に優れる。
【0123】
<ペレット>
本発明のペレットは、当該POA変性ビニルアセタール系重合体を含有する。従って、当該ペレットは、見かけ比重が大きく取り扱い性が良好で、かつ製造時及び取り扱い時に臭気の発生がほとんどないという特性を備えている。
【0124】
<フィルム>
本発明のフィルムは、当該POA変性ビニルアセタール系重合体を含有し、かつ可塑剤を含まない。当該フィルムは、当該POA変性ビニルアセタール系重合体を含有することで、可塑剤を含まなくてもフィルムが硬くならず十分な取り扱い性を有するとともに、液滴の発生を抑制することができる。
【実施例】
【0125】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。なお、以下の実施例及び比較例において、特に断りがない場合、部及び%はそれぞれ質量部及び質量%を示す。
【0126】
<PVAの製造方法>
[製造例1](PVA1の製造)
撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、単量体滴下口及び開始剤の添加口を備えた3Lの反応器に、酢酸ビニル900g、メタノール100g、POA基を有する不飽和単量体である単量体A(単量体Aは上記式(3)で示され、R
1〜R
4、X、m及びnは表2に示すとおりである。オキシプロピレンユニットとオキシエチレンユニットの配置はブロック状であり、オキシプロピレンユニットのブロックがオキシエチレンユニットのブロックに対して上記X側に位置する。)3.7gを仕込み、窒素バブリングをしながら30分間系内を窒素置換した。また、ディレー溶液として単量体Aをメタノールに溶解して濃度20%とした溶液を調製し、窒素ガスのバブリングにより窒素置換した。反応器の昇温を開始し、内温が60℃となったところで、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.25gを添加して重合を開始した。ディレー溶液を滴下して重合溶液中のモノマー組成(酢酸ビニルと単量体Aの比率)が一定となるようにしながら、60℃で3時間重合した後、冷却して重合を停止した。重合を停止するまでに使用した単量体の総量は17gであった。また重合停止時の固形分濃度は26.2%であった。続いて30℃、減圧下でメタノールを時々添加しながら未反応の酢酸ビニルモノマーの除去を行い、POA変性ビニルエステル系重合体(POA変性PVAc)のメタノール溶液(濃度35%)を得た。さらに、これにメタノールを加えて調製したPOA変性PVAcのメタノール溶液386g(溶液中のPOA変性PVAc100.0g)に、14.0gのアルカリ溶液(水酸化ナトリウムの10%メタノール溶液)を添加してけん化を行った(けん化溶液のPOA変性PVAc濃度25%、POA変性PVAc中の酢酸ビニル単位に対する水酸化ナトリウムのモル比0.03)。アルカリ溶液を添加後、約1分でゲル状物が生成したので、これを粉砕器にて粉砕し、40℃で1時間放置してけん化を進行させた後、酢酸メチル500gを加えて残存するアルカリを中和した。フェノールフタレイン指示薬を用いて中和が終了したことを確認した後、濾別して白色固体を得、これにメタノール2,000gを加えて室温で3時間放置する洗浄操作を行った。この洗浄操作を3回繰り返した後、遠心脱液して得られた白色固体を乾燥機中65℃で2日間放置して乾燥し、POA変性PVA(PVA1)を得た。PVA1の粘度平均重合度は、3,000、けん化度は98.5モル%、POA基変性率は0.2モル%であった。製造条件を表1に、重合度、けん化度及びPOA基変性率の測定結果を表3にそれぞれ示す。
【0127】
[製造例2〜13、16〜22、24及び25]
(PVA2〜13、16〜22、24及び25の製造)
酢酸ビニル及びメタノール(重合開始前)の仕込み量、重合時に使用するPOA基を有する不飽和単量体の種類(表2)、その使用量及び重合率、けん化時におけるPOA変性PVAcの濃度、酢酸ビニル単位に対する水酸化ナトリウムのモル比を表1に示すように変更したこと以外は、製造例1と同様の方法により各POA変性PVA(PVA2〜13、16〜22、24及び25)を製造した。製造条件を表1に、重合度、けん化度及びPOA基変性率を表3にそれぞれ示す。
【0128】
[製造例14](PVA14の製造)
撹拌機、還流冷却管、窒素導入管及び開始剤の添加口を備えた3Lの反応器に、酢酸ビニル850g、メタノール150g、POA基を有する不飽和単量体である単量体I(単量体Iは上記式(3)で表され、R
1〜R
4、X、m及びnは表2に示すとおりである。オキシプロピレンユニットとオキシエチレンユニットの配置はブロック状であり、オキシプロピレンユニットのブロックがオキシエチレンユニットのブロックに対して上記X側に位置する。)42gを仕込み、窒素バブリングをしながら30分間系内を窒素置換した。反応器の昇温を開始し、内温が60℃となったところで、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.25gを添加して重合を開始し、60℃で3時間重合した後、冷却して重合を停止した。重合停止時の固形分濃度は25.5%であった。続いて30℃、減圧下でメタノールを時々添加しながら未反応の酢酸ビニルモノマーの除去を行い、POA変性ビニルエステル系重合体(POA変性PVAc)のメタノール溶液(濃度30%)を得た。さらに、これにメタノールを加えて調製したPOA変性PVAcのメタノール溶液463.2g(溶液中のPOA変性PVAc120.0g)に、16.7gのアルカリ溶液(水酸化ナトリウムの10%メタノール溶液)を添加してけん化を行った(けん化溶液のPOA変性PVAc濃度25%、POA変性PVAc中の酢酸ビニル単位に対する水酸化ナトリウムのモル比0.03)。アルカリ溶液を添加後、約1分でゲル状物が生成したので、これを粉砕器にて粉砕し、40℃で1時間放置してけん化を進行させた後、酢酸メチル500gを加えて残存するアルカリを中和した。フェノールフタレイン指示薬を用いて中和が終了したことを確認した後、濾別して白色固体を得、これにメタノール2,000gを加えて室温で3時間放置する洗浄操作を行った。この洗浄操作を3回繰り返した後、遠心脱液して得られた白色固体を乾燥機中65℃で2日間放置して乾燥し、POA変性PVA(PVA14)を得た。PVA14の粘度平均重合度は2,400、けん化度は98.5モル%、POA基変性率は0.2モル%であった。製造条件を表1に、重合度P、けん化度及びPOA基変性率の測定結果を表3にそれぞれ示す。
【0129】
[製造例15及び23]
(PVA15及び23の製造)
重合時に使用するPOA基を有する不飽和単量体の種類(表2)及びその使用量を表1に示すように変更したこと以外は、製造例14と同様の方法により各POA変性PVA(PVA15及び23)を製造した。これらのPOA変性PVAの粘度平均重合度、けん化度、POA基変性率の測定結果を表3に示す。
【0130】
[製造例26及び27]
(PVA26及び27の製造)
重合時に使用するPOA基を有する不飽和単量体として、下記式(III)で表される不飽和単量体(化合物(III))及び下記式(IV)で表される不飽和単量体(化合物化合物(IV))をそれぞれ使用し、その使用量、酢酸ビニル及びメタノール(重合開始前)の仕込み量を表1に示すように変更したこと以外は、製造例1と同様の方法により各POA変性PVA(PVA26及び27)を製造した。これらのPOA変性PVAの粘度平均重合度、けん化度、POA基変性率の測定結果を表3に示す。
【0131】
【化9】
【0132】
上記化合物(III)における、オキシプロピレンユニットとオキシエチレンユニットはそれぞれブロック状に配置されており、ポリオキシエチレンブロックとポリオキシプロピレンブロックの位置は上記式に記載されているとおりである。
【0133】
【化10】
【0134】
上記化合物(IV)における、オキシプロピレンユニットとオキシエチレンユニットはランダムに配置されている。
【0135】
[製造例28]
(PVA28の製造)
撹拌機、還流冷却管、窒素導入管及び開始剤の添加口を備えた3Lの反応器に、酢酸ビニル750g、メタノール250gを仕込み、窒素バブリングをしながら30分間系内を窒素置換した。反応器の昇温を開始し、内温が60℃となったところで、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.25gを添加して重合を開始し、60℃で3時間重合した後冷却して重合を停止した。重合停止時の固形分濃度は31.0質量%であった。続いて30℃、減圧下でメタノールを時々添加しながら未反応の酢酸ビニルモノマーの除去を行い、無変性ポリ酢酸ビニル(無変性PVAc)のメタノール溶液(濃度35質量%)を得た。さらに、これにメタノールを加えて調製した無変性PVAcのメタノール溶液771.1g(溶液中の無変性PVAc200.0g)に、27.9gのアルカリ溶液(水酸化ナトリウムの10質量%メタノール溶液)を添加してけん化を行った(けん化溶液の無変性PVAc濃度25質量%、無変性PVAc中の酢酸ビニルユニットに対する水酸化ナトリウムのモル比0.03)。アルカリ溶液を添加後約1分でゲル状物が生成したので、これを粉砕器にて粉砕し、40℃で1時間放置してけん化を進行させた後、酢酸メチル500gを加え残存するアルカリを中和した。フェノールフタレイン指示薬を用いて中和が終了したことを確認した後、濾別して白色固体を得、これにメタノール2,000gを加えて室温で3時間放置洗浄した。上記の洗浄操作を3回繰り返した後、遠心脱液して得られた白色固体を乾燥機中65℃で2日間放置して乾燥し、無変性PVA(PVA28)を得た。PVA28の重合度は1,700、けん化度は98.5モル%であった。
この無変性PVAの製造条件を表1に、重合度、けん化度及びPOA基変性率を表3にそれぞれ示す。
【0136】
【表1】
【0137】
【表2】
【0138】
【表3】
【0139】
<POA変性ビニルアセタール系重合体の合成>
[実施例1]
表1及び表3に示すように、POA変性PVAとして、重合度3,000、けん化度98.5モル%、POA基変性率0.2モル%(上記式(3)において、R
1〜R
4、X、m及びnは表2に示すとおりである。オキシプロピレンユニットとオキシエチレンユニットの配置はブロック状であり、オキシプロピレンユニットのブロックがオキシエチレンユニットのブロックに対して上記X側に位置する。)のPVA1を用意した。還流冷却器、温度計及びイカリ型攪拌翼を備えた内容積5リットルのガラス製容器に、POA変性PVA(PVA1)205gと水2,795gとを加え、90℃以上で約2時間攪拌し、完全に溶解させた。このPOA変性PVA溶液を攪拌しながら38℃に冷却し、これにアセタール化触媒として濃度20質量%の塩酸150mLとn−ブチルアルデヒド109gとを添加し、液温を20℃以下に下げて、PVA1のアセタール化を開始した。この温度を15分間保持し、POA変性ビニルブチラール重合体を析出させた。その後、液温65℃まで昇温し、65℃にて3時間保持した後、室温まで冷却した。析出した樹脂をろ過後、樹脂に対して100倍量のイオン交換水で10回洗浄した後、中和のために0.3質量%水酸化ナトリウム溶液を加え、70℃で5時間保持した後、さらに10倍量のイオン交換水で再洗浄を10回繰り返し、脱水した後、40℃、減圧下で18時間乾燥し、POA変性ビニルブチラール重合体を得た。得られたPOA変性ビニルブチラール重合体において、ブチラール(アセタール)化度は70.1モル%、全単量体単位のモル数に対する酢酸ビニル単位量は1.0モル%、全単量体単位のモル数に対するビニルアルコール単位量は28.7モル%であった。得られたPOA変性ビニルブチラール重合体を、下記方法により測定し、ガラス転移点、ヘイズ、溶液粘度及び粘度安定性を、下記の方法によって評価した。POA変性ビニルブチラール重合体の組成、物性値及び評価結果を表4に示す。なお、ヘイズ測定用の試験片の作製に使用したPOA変性ビニルブチラール系重合体及び可塑剤は、混合溶媒に良好に溶解した。
【0140】
[実施例2〜21及び比較例1〜10]
PVA1に代えて、表1〜表3に示すPOA変性PVAを用いたこと及びアセタール化の条件を変更したこと以外は実施例1と同様にして、各POA変性ビニルブチラール重合体を合成し、下記物性値の測定及び評価を行った。結果を表4に示す。なお、各実施例において、ヘイズ測定用の試験片の作製に使用したビニルブチラール系重合体及び可塑剤は、混合溶媒に良好に溶解した。
【0141】
[比較例11]
PVA1に代えて、無変性のPVAを用いた以外は実施例1と同様にして、ビニルブチラール重合体を合成し、下記物性値の測定及び評価を行った。結果を表4に示す。
【0142】
[比較例12]
POA変性PVAに代えて、特許文献1(特開平06−263521号公報)に記載されている、下記式(V)で表される側鎖を有するPVA29(組成は表3に記載)を用いた以外は実施例1と同様にして、変性ビニルブチラール重合体を合成し、下記物性値の測定及び評価を行った。結果を表4に示す。
【0143】
【化11】
【0144】
[比較例13]
POA変性PVAに代えて、特許文献3(特開2006−104309号公報)に記載されている、下記式(VI)で表される単量体単位を有する変性PVA30(組成は表3に記載)を用いた以外は実施例1と同様にして、変性ビニルブチラール重合体を合成し、下記物性値の測定及び評価を行った。結果を表4に示す。
【0145】
【化12】
【0146】
<ビニルアセタール系重合体の物性値の測定及び評価>
上記調製した各ビニルアセタール系重合体について、下記物性値の測定及び評価を行った。上記各ビニルアセタール系重合体の組成、物性値及び評価結果を表4に示す。
【0147】
(酢酸ビニル単位量、ビニルアルコール単位量及びアセタール化度)
各ビニルアセタール系重合体の酢酸ビニル単位量、ビニルアルコール単位量及びアセタール化度は、
1H−NMRスペクトルより算出した。
【0148】
(ガラス転移点(Tg))
各ビニルアセタール系重合体のガラス転移点の測定には、セイコーインスツル製「EXTAR6000(RD220)」を用いた。具体的には、窒素中、各ビニルアセタール系重合体を、30℃から150℃まで昇温速度10℃/分で昇温させた後、30℃まで冷却し、再度150℃まで昇温速度10℃/分で昇温させた。再昇温時の測定値をガラス転移点(℃)として採用した。
【0149】
(ヘイズ)
各ビニルアセタール系重合体10質量部及び可塑剤としてのジブチルフタレート2質量部を、トルエン10質量部及びエタノール10質量部からなる混合溶媒に加え、撹拌混合して溶解させた。厚さ50μmの透明ポリエステルフィルム(東洋紡績製「エステルA−4140」)上に、乾燥後の厚みが200μmとなるように上記の溶液をキャストし、熱風乾燥機を用いて60℃〜80℃で4時間乾燥させた。20℃で1日間静置した後、25mm×50mmにカットし試験片を得た。この試験片を用いて、JIS K7105に準じてヘイズ(%)を測定した。
【0150】
(溶液粘度及び粘度安定性)
各ビニルアセタール系重合体をエタノールに5質量%になるように溶解し、完溶したことを確認した後、ブルックフィールドタイプの回転粘度計を使用して、各溶液の20℃での溶液粘度を測定した。さらに、各溶液を20℃に調整された恒温室内で1ヶ月間密閉保管し、その後の各溶液粘度を同様の条件にて測定した。初期粘度をη
1、保管後の粘度をη
2として、粘度比η
2/η
1を求め、これを粘度安定性として評価した。
【0151】
<セラミックグリーンシート用スラリー組成物の調製>
各ビニルアセタール系重合体(ビニルブチラール系重合体)10質量部を、トルエン10質量部及びエタノール10質量部からなる混合溶媒に加え、攪拌混合して溶解させた。この溶液に可塑剤としてジブチルフタレート2質量部を加え、攪拌混合した。得られた溶液にセラミック粉末としてのアルミナ粉末(平均粒子径1μm)100質量部を加え、ボールミルで48時間混合し、アルミナ粉末を分散させたセラミックグリーンシート用スラリー組成物を得た。得られた各スラリー組成物について、以下の評価を行った。評価結果を表5に示す。
【0152】
[評価]
(平均粒子径)
上記調製した各スラリー組成物から数滴を採取した後、エタノールとトルエンの1:1混合溶媒を用いて80倍に希釈し、測定サンプルを調製した。得られた測定サンプルについて、レーザー回折式粒度分布計(堀場製作所製「LA−910」)を用いて粒度分布測定を行い、平均粒子径(μm)を測定した。なお、平均粒子径が1μm以下である場合を良好、1μmを超える場合は、粒子の凝集が起こっているとして不良と評価した。
【0153】
(チキソトロピー性)
上記調製した各スラリー組成物について、レオメーター(レオロジカインスツルメンツ製:直径10mmのパラレルプレート使用)を用い、せん断速度500S
−1のプレシェアを1分間行った後、せん断速度100S
−1で粘度を測定し始め、測定開始から一分後の粘度(η’
1)を測定した。その後、すぐにせん断速度0.1S
−1で粘度を測定し始め、測定開始から1分後の粘度(η’
2)を得た。測定温度は20℃とした。このようにして測定されたη’
1とη’
2との比(η’
2/η’
1)を求め、その値をチキソトロピー性の値とした。なお、このチキソトロピー性の値が5.0以上の場合を良好、5.0未満の場合を不良と評価した。
【0154】
<セラミックグリーンシートの作製>
上記調製した各セラミックグリーンシート用スラリー組成物を、離型処理したポリエステルフィルム上に約50μm程度の厚さで塗布し、常温で30分間風乾し、さらに熱風乾燥器内にて60℃〜80℃で1時間乾燥させて有機溶媒を蒸発させ、厚さ30μmのセラミックグリーンシートを得た。得られた各セラミックグリーンシートについて、下記の評価を行った。評価結果を表5に示す。
【0155】
[評価]
(セラミックグリーンシートの分散性)
グラインドメーター(大佑機材製、溝の深さ0〜25μm)を用いてセラミックグリーンシート中のセラミック粒子の分散性を測定し、以下の3段階で評価した。
A:セラミックの凝集物が全く見られないもの
B:粒子径5μm以上のセラミックの凝集物が認められないもの
C:粒子径5μm以上のセラミックの凝集物が認められるもの
【0156】
(セラミックグリーンシートの強度)
JIS K6251に準拠した3号型ダンベル形状の試験片を用いて、引張試験機(島津製作所製、「オートグラフ」)を用い、測定温度20℃、引張速度10mm/分の測定条件で、セラミックグリーンシートの破断点強度(g/cm
2)を測定した。
【0157】
(セラミックグリーンシートの剥離性)
実施例1〜21及び比較例1〜13で得られたセラミックグリーンシートを10cm角に切断し、PETフィルム上に10枚重ね、70℃、圧力1,500N/cm
2、10分間の熱圧条件で積層したのち、セラミックグリーンシートをPETフィルムから剥離した際の剥離状態を目視で判断し、以下の3段階で評価した。
A:PETフィルムに付着したセラミックグリーンシートがなく、かつ、セラミックグリーンシートの切れやクラックが全くない
B:PETフィルムに付着したセラミックグリーンシートが一部認められ、又は、セラ
ミックグリーンシートの切れ、クラックが一部認められる
C:PETフィルムに付着したセラミックグリーンシートが多数認められ、又は、セラミックグリーンシートの切れ、クラックが多数認められる
【0158】
(セラミックグリーンシートの柔軟性)
セラミックグリーンシートを5mmφの棒に巻いた時の、ひびや割れの状態を目視で判断し、以下の4段階で評価した。
A:ひび及び割れがない
B:若干ひびあり
C:若干割れあり
D:割れあり
【0159】
<積層セラミックコンデンサの製造>
導電性粉末としてのニッケル粉末(三井金属鉱業製「2020SS」)100質量部、エチルセルロース(ダウケミカルカンパニー製「STD−100」)を5質量部、溶媒としてのテルピネオール−C(日本テルペン製)60質量部を混合した後、3本ロールで混練して導電ペーストを得た。各セラミックグリーンシートの片面に、上記導電ペーストを、スクリーン印刷法により塗工し、乾燥させて厚みが約1.0μmの導電層を形成した。この導電層を有するセラミックグリーンシートを5cm角に切断し、100枚積重ねて、温度70℃、圧力150kg/cm
2で10分間加熱及び圧着して、積層体を得た。得られた積層体を、窒素雰囲気下、昇温速度3℃/分で400℃まで昇温し、5時間保持した後、さらに、昇温速度5℃/分で1,350℃まで昇温し、10時間保持することにより、積層セラミックコンデンサを得た。
【0160】
実施例のPOA変性ビニルアセタール系重合体を用いて作成したセラミックグリーンシートを用いることで積層セラミックコンデンサを問題なく製造することができ、得られた積層セラミックコンデンサは、積層セラミックコンデンサとして問題なく作動した。
【0161】
【表4】
【0162】
【表5】
【0163】
表4及び表5に示すように、実施例のPOA変性ビニルアセタール系重合体は、ヘイズが小さく透明性に優れ、溶液粘度も十分に低く、粘度安定性にも優れていた。また、実施例のPOA変性ビニルアセタール系重合体を用いて調製したセラミックグリーンシート用スラリー組成物は、比較例と比べ、セラミック粒子の分散性、チキソトロピー性に優れていた。さらに、実施例のPOA変性ビニルアセタール系重合体を用いて得られたセラミックグリーンシートは、比較例に比べ、セラミック粒子の分散性、強度、剥離性及び柔軟性に優れていた。また、実施例1〜3、実施例5、実施例7、実施例10及び11、実施例13〜17のPOA変性ビニルアセタール系重合体を用いて調製したセラミックグリーンシート用スラリー組成物は、セラミック粒子の分散性及びチキソトロピー性に特に優れていた(平均粒子径(セラミック粒子の分散性)が0.70μm未満であり、かつチキソトロピー性が6.0以上)。さらに、実施例1〜3、実施例5、実施例7、実施例10及び11、実施例13〜17のPOA変性ビニルアセタール系重合体を用いて得られたセラミックグリーンシートは、セラミック粒子の分散性、強度、剥離性及び柔軟性に優れていた(分散性、剥離性、柔軟性が全てA評価であり、かつ、破断点強度が25g/cm
2以上)。